説明

光半導体装置

【課題】光の波長変動に対する利得の変動を抑制した光半導体装置を提供する。
【解決手段】基板1の上に形成される下部クラッド層3と、前記下部クラッド層3の上に形成される量子井戸層及びバリア層からなる多重量子井戸構造を含む活性層2と、前記活性層2の上に形成される上部クラッド層4とを備え、前記多重量子井戸構造において、少なくとも1つの量子井戸層が他の量子井戸層とは異なる井戸幅を有することにより、前記量子井戸構造における利得スペクトルの幅が広がるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のインターネットの爆発的な普及により、通信速度の大幅な向上が求められ、それに対応する技術として波長多重伝送技術(WDM:Wavelength Division Multiplexing)が開発されてきた。WDM伝送では、統一規格で定められた光の波長ごとに情報を伝送する。
【0003】
特に、光ファイバの損失が最小となる光の波長1.55μm付近では、最小0.8nm間隔で波長を使用するため、その光源には厳しい波長制御性が求められる。これらの光源には、低消費電力で動作し、波長安定性の良い半導体レーザが用いられている。しかし、用いる波長ごとに半導体レーザを用意するとコストが大きくなるので、1台で複数の波長をカバーできる波長可変半導体レーザがこれまで開発されてきた。
【0004】
このような波長可変半導体レーザ等の光半導体装置は、半導体混晶基板を用いて形成され、その基板上に結晶を成長する工程などを経て完成される。その結晶成長の際には、基板材料と格子定数が整合する材料を選択することが多いが、格子定数が異なった材料からなる歪量子井戸層も使用されている。
【0005】
歪量子井戸層は、多元系材料の組成をバリア層や基板と格子整合しない条件にするとともに、その膜厚を薄くして、強制的に基板と同じ格子定数になるようにしたものである。このような歪量子井戸層は、例えば半導体レーザの活性層に適用されており、歪を加えることによってエネルギーバンド構造の状態密度が変化し、半導体レーザの特性が向上する。また、光出力の向上のために、複数の歪量子井戸層を、バリア層を隔てて成長する多重量子井戸構造が多くの半導体レーザで採用されている(下記非特許文献1参照)。
【0006】
このような多重量子井戸構造を含む活性層付近に、所望の波長に対してブラッグの回折条件を満足する回折格子を形成することで、電流を注入した際に、その波長で発振する半導体レーザとなる。波長可変レーザでは、一般に、この回折格子部や、外部に付加した位相調整領域に、電流や電圧を印加することで、回折格子のブラッグ波長を変化させ、発振する波長を変化させる。
【0007】
【非特許文献1】Joachim Piprek、J. Kenton White、Anthony J. SpringThorpe、“What Limits the Maximum Output Power of Long‐Wavelength AlGaInAs/InP Laser Diodes?”、IEEE JOUMAL OF QUANTUM ELECTRONICS、SEPTEMBER 2002、VOL.38、NO.9、p.1253−1259
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、後述するように、ある多重量子井戸構造に対する利得は、利得がピークとなる波長からずれると、その利得が急激に減少する。そのため、波長可変レーザでは、駆動波長が利得のピーク波長から離れるに従い、光出力が急激に減少し、外部に半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)などを接続して出力の均一化を図る必要がある。また、SOA自体も増幅性能に波長依存性をもつため、波長の可変幅が広くなるほど、複雑な制御回路が必要となる。
【0009】
以上のことから、本発明は、光の波長変動に対する利得の変動を抑制した光半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための第1の発明に係る光半導体装置は、
基板の上に形成される下部クラッド層と、
前記下部クラッド層の上に形成される量子井戸層及びバリア層からなる多重量子井戸構造を含む活性層と、
前記活性層の上に形成される上部クラッド層と
を備え、
前記多重量子井戸構造において、少なくとも1つの量子井戸層が他の量子井戸層とは異なる井戸幅を有することにより、前記量子井戸構造における利得スペクトルの幅が広がる
ことを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決するための第2の発明に係る光半導体装置は、第1の発明に係る光半導体装置において、
前記多重量子井戸構造中で最大及び最小井戸幅をもつ量子井戸層の井戸幅の差が2〜6nmである
ことを特徴とする。
【0012】
上記の課題を解決するための第3の発明に係る光半導体装置は、第1の発明又は第2の発明に係る光半導体装置において、
前記活性層の量子井戸層数が2〜20層である
ことを特徴とする。
【0013】
上記の課題を解決するための第4の発明に係る光半導体装置は、第1の発明から第3の発明のいずれかひとつに係る光半導体装置において、
前記多重量子井戸構造中の量子井戸層には、利得が最大となる波長を1.5〜1.6μmとする材料が選択され、その波長を達成する厚み及び歪を有している
ことを特徴とする。
【0014】
上記の課題を解決するための第5の発明に係る光半導体装置は、第1の発明から第4の発明のいずれかひとつに係る光半導体装置において、
前記多重量子井戸構造の両側に絶縁体で埋め込む場合、ルテニウムをドーピングした埋め込み層を用いる
ことを特徴とする。
【0015】
上記の課題を解決するための第6の発明に係る光半導体装置は、
第1の発明から第5の発明のいずれかひとつに記載の光半導体装置が波長可変レーザである
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光の波長変動に対する利得の変動を抑制した光半導体装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る光半導体装置の種々の実施例について図を用いて説明する。ここで、本発明に係る光半導体装置の半導体層構造について説明する。図1は、本発明に係る光半導体装置の半導体層構造を示した図である。図1に示すように、本発明に係る光半導体装置の半導体層構造は、InP基板1、バリア層及び量子井戸層からなる多重量子井戸構造を含む活性層2、下部クラッド層3及び上部クラッド層4からなっている。
【実施例1】
【0018】
次に、本発明に係る光半導体装置の第1の実施例について説明する。
図2は、本発明に係る半導体レーザの構造を示した縦方向断面図である。図2に示すように、本実施例に係る半導体レーザは、n型のInP基板1の上に形成した厚さ1.5μmのn−InP下部クラッド層3、下部クラッド層3の上に形成したInGaAsP量子井戸層及びInGaAsPバリア層からなる3層の多重量子井戸構造を含む活性層2、活性層2の上に形成したブラッグ波長1.55μmのInGaAsP回折格子層5、回折格子層5の上に形成した厚さ1.5μmのp−InP上部クラッド層4からなっている。なお、活性層2の量子井戸層数は、本実施例では3層としたが、2〜20層の間で適宜選択することが可能である。
【0019】
本実施例では、下部クラッド層3、上部クラッド層4及びInGaAsPバリア層に対しては、基板1との歪が0となるような組成とし、バリア層厚は10nmとしている。また、InGaAsP量子井戸層に対しては1%の圧縮歪が加えられる。なお、活性層2、下部クラッド層3及び上部クラッド層4は、In1-xGaxAsy1-y(ここで、0≦x≦1、0≦y≦1)により種々の組成比で組成することが可能である。
【0020】
また、図3は、本発明に係る半導体レーザの構造を示した横方向断面図である。図3に示すように、本実施例に係る半導体レーザは、上述した下部クラッド層3、活性層2、回折格子層5及び上部クラッド層4からなる積層構造の両側に、ルテニウムなどをドープした半絶縁性結晶を用いた埋め込み層6を備えている。ここで、縦方向及び横方向はそれぞれ、光の進行方向に平行及び垂直な方向を表す。なお、本発明に係る量子井戸層の特性は、半導体量子井戸層の特性を極めて良く予測するk・p摂動理論を用いて算出している。
【0021】
図14は、従来のIn0.77Ga0.23As0.80.2量子井戸層(8nm)及びIn0.79Ga0.21As0.460.54バリア層をもつ3層均一多重量子井戸構造のポテンシャルエネルギー分布を示した図である。これらの組成に対して、図14に示す量子井戸層のバンドギャップ波長はλw=1.705μm、バリア層のバンドギャップ波長は1.2μmとなっている。以後、半導体混晶の組成比は歪とバンドギャップ波長によって特定することとし、組成比を直接には述べない。なお、組成比は設定する歪とバンドギャップ波長に応じて適宜数値を設定するものとする。
【0022】
図15は従来の多重量子井戸構造に対する、ピーク利得が半導体レーザの典型的なしきい値である1000cm-1となるキャリア密度(1.85×1018cm-3)の場合の利得スペクトルを示した図である。図15に示すように、波長1.55μmをピークとして、そこから外れると利得が急激に減少している。ピーク利得から10%減少した場合の波長幅をΔλcと定義すると、この場合Δλcは32nm程度である。
【0023】
図16は、従来の半導体レーザにおいてしきい値利得を典型的な値である1000cm-1とした場合の、半導体レーザのしきい値電流の発振波長依存性を示した図である。ここで、縦軸は発振波長1.55μmのときの値で規格化している。図16からわかるように、発振波長が中心波長からずれると、20nm長波側では、しきい値電流が15%増しとなり、大幅に増加するという問題がある。
【0024】
図4は、本発明に係る多重量子井戸構造のポテンシャルエネルギー分布を示した図である。図4に示すように、上述した問題を解決するために、本発明では、多重量子井戸構造中の各量子井戸層の井戸幅を不均一にする。量子井戸層がN個ある場合、各量子井戸層の井戸幅を基板1(図2参照)側から順番にLw1、Lw2・・・LwNとし、その中で最大及び最小の井戸幅の差をΔLwとする。
【0025】
図5は、本発明の第1の実施例に係る多重量子井戸構造におけるN=3、ΔLw=0(均一)、4、5、6nmの場合のピーク利得が1000cm-1となるキャリア密度での利得スペクトルを示した図である。ここで、ΔLw=0の構造では井戸幅は全て8nm、バンドギャップ波長は1.705μm、ΔLw=4nmの構造では、Lw1=6nm、Lw1=8nm、Lw1=10nm、バンドギャップ波長は1.74μm、ΔLw=5nmの構造では、Lw1=5.5nm、Lw1=8nm、Lw1=10.5nm、バンドギャップ波長は1.725μm、ΔLw=6nmの構造では、Lw1=5nm、Lw1=8nm、Lw1=11nm、バンドギャップ波長は1.7μmである。
【0026】
図5より、ΔLwが大きくなるほど、利得スペクトルが広がっていくのがわかる。これは、井戸幅の異なるそれぞれの量子井戸層のピーク利得における波長が異なるためである。なお、ここでは、各量子井戸層の井戸幅を基板1(図2参照)側から線形に増大させているが、各量子井戸層への井戸幅の重み付けの形は他のそのようなものであっても良い。
【0027】
図6は、本発明に係る多重量子井戸構造における量子井戸層の井戸層波長の重み付けの仕方の例を示した図である。図6に示すように、例えば、基板1(図2参照)とは反対側の量子井戸層から線形に増大させても、線形ではなく放物線状であっても、最大あるいは最小井戸幅をもつ量子井戸層が両端の量子井戸層でなくてもかまわない。
【0028】
図7は、本発明の第1の実施例に係る多重量子井戸構造におけるΔλcのΔLw依存性を示した図である。図7に示すように、ΔLwを増加させると、利得スペクトルの幅は最初放物線状に増加し、ΔLwが2nm程度から単調に増加していくが、6nmを超えると不安定になる。これはあまりΔLwを大きくしすぎると、各量子井戸層間でのピーク利得の波長の差が大きくなりすぎて、全体でのピーク利得波長が不安定になるためである。なお、ここでは、中心波長を1.55μmとなるような井戸層厚としているが、他の井戸層厚でもまったく同様の効果を得ることができる。
【0029】
図8は、本発明の第1の実施例に係る多重量子井戸構造におけるN=3、ΔLw=0(均一)、4、5、6nmの場合の半導体レーザのしきい値利得を典型的な値である1000cm-1としたときの、しきい値電流の波長依存性を示した図である。なお、井戸層厚、バンドギャップ波長は図5の場合と同じである。ΔLwを大きくすることで、波長変化に対するしきい値の変動を大幅に抑えることが可能なことがわかる。ここで、図8に示す波長1.55μmを中心とした±20nmの範囲で、最大のしきい値電流と最小のしきい値電流との差をΔIとする。
【0030】
図9は、本発明の第1の実施例に係る多重量子井戸構造におけるΔIのΔLw依存性を示した図である。図9から、ΔIはΔλ=5nm付近で最小値をもつことがわかり、ΔLw=2〜6nmの範囲で、しきい値電流の波長無依存化に大きな効果がある。しきい値電流の変動は、従来の構造に対して約15%であるのに対し、本発明ではΔLw=4、5、6nmに対して、5.9%、1.5%、10%と大幅に減少可能である。
【0031】
以上のように、多重量子井戸構造中のそれぞれの量子井戸層の井戸幅を不均一とし、その変動量を2〜6nmとすることで、出力波長を安定させつつ、波長可変レーザで問題となる光出力の変動を1.53μm〜1.57μmの間で従来の10分の1に低減することが可能となる。
【0032】
言い換えれば、中心発振波長におけるしきい値電流が10mAである従来の波長可変レーザでは、しきい値電流の変動が発振波長1.53μm〜1.57μmの間で10〜11.5mAであるのに対し、本発明では10〜10.15mAまで低減することが可能となる。なお、しきい値電流の変動は、発振波長1.5μm〜1.6μm程度であれば許容の範囲内である。
【実施例2】
【0033】
次に、本発明に係る光半導体装置の第2の実施例について説明する。
本発明の第2の実施例で示すSOAの構造は第1の実施例の構造から、回折格子の層を除いたものである。図8より、多重量子井戸構造中のそれぞれの量子井戸層の井戸幅を不均一とし、その変動量を2〜6nmとすることで、SOAで問題となる利得の波長依存性を発振波長1.53μm〜1.57μmの間で従来の10分の1に低減することが可能となる。なお、発振波長は1.5μm〜1.6μm程度であれば許容の範囲内である。
【実施例3】
【0034】
次に、本発明に係る光半導体装置の第3の実施例について説明する。
図2は、本発明に係る半導体レーザの構造を示した縦方向断面図である。図2に示すように、本実施例に係る半導体レーザは、n型のInP基板1の上に形成した厚さ1.5μmのn−InP下部クラッド層3、下部クラッド層3の上に形成したInAlGaAs量子井戸層及びInAlGaAsバリア層からなる3層の多重量子井戸構造を含む活性層2、活性層2の上に形成したブラッグ波長1.55μmのInAlGaAs回折格子層5、回折格子層5の上に形成した厚さ1.5μmのp−InP上部クラッド層4からなっている。なお、活性層2の量子井戸層数は、本実施例では3層としたが、2〜20層の間で適宜選択することが可能である。
【0035】
本実施例では、下部クラッド層3、上部クラッド層4及びInAlGaAsバリア層に対しては、基板1との歪が0となるような組成とし、バリア層厚は10nmとしている。また、InAlGaAs量子井戸層に対しては1%の圧縮歪が加えられる。なお、活性層2、下部クラッド層3及び上部クラッド層4は、In1-x-yAlxGayAs(ここで、0≦x≦1、0≦y≦1)により種々の組成比で組成することが可能である。
【0036】
また、図3は、本発明に係る半導体レーザを示した横方向断面図である。図3に示すように、本実施例に係る半導体レーザは、上述した下部クラッド層3、活性層2、回折格子層5及び上部クラッド層4からなる積層構造の両側に、ルテニウムなどをドープした半絶縁性結晶を用いた埋め込み層6を備えている。ここで、縦方向及び横方向はそれぞれ、光の進行方向に平行及び垂直な方向を表す。
【0037】
図10は、本発明の第3の実施例に係る多重量子井戸構造におけるN=3、ΔLw=0(均一)、3、4、5nmの場合のピーク利得が1000cm-1となるキャリア密度での利得スペクトルを示した図である。ここで、ΔLw=0の構造では井戸幅は全て8nm、バンドギャップ波長は1.72μm、ΔLw=3nmの構造では、ΔLw=6nm、Lw1=10nm、Lw1=8nm、バンドギャップ波長は1.755μm、ΔLw=4nmの構造では、Lw1=5.5nm、Lw1=10.5nm、Lw1=8nm、バンドギャップ波長は1.775μm、ΔLw=5nmの構造では、Lw1=5nm、Lw1=11nm、Lw1=8nm、バンドギャップ波長は1.72μmである。
【0038】
図10に示すように、本実施例では第1の実施例の場合と同様に、ΔLwが大きくなるほど、利得スペクトルが広がっていくのがわかる。なお、ここでは、第1の実施例の場合とは異なり、各量子井戸層の井戸幅の重み付けの仕方を、中心の量子井戸層の井戸幅が最も広くなるように変更している(図6(c)参照)。
【0039】
図11は、本発明の第3の実施例に係る多重量子井戸構造におけるΔλcのΔLw依存性を示した図である。図11に示すように、ΔLwを増加させると、第1の実施例と同様に利得スペクトルの幅は最初放物線的に増加し、ΔLwが2nm程度から単調に増加していくが、6nmを超えると不安定になる。
【0040】
図12は、本発明の第3の実施例に係る多重量子井戸構造におけるN=3、ΔLw=0(均一)、3、4、5nmの場合の半導体レーザのしきい値利得を典型的な値である1000cm-1としたときの、しきい値電流の波長依存性を示した図である。井戸層厚、バンドギャップ波長は図10の場合と同じである。
【0041】
図13は、本発明の第3の実施例に係る多重量子井戸構造におけるΔIのΔLw依存性を示した図である。図13から、ΔIはΔLw=4nm付近で最小値をもつことがわかり、ΔLw=2〜6nmの範囲で、しきい値電流の波長無依存化に大きな効果がある。しきい値電流の変動は、従来の構造に対して19%であるのに対し、本発明ではΔLw=3、4、5nmに対して、6%、4.7%、12%と大幅に減少可能である。
【0042】
言い換えれば、中心発振波長におけるしきい値電流が10mAである従来の波長可変レーザでは、しきい値電流の変動が発振波長1.53μm〜1.57μmの間で10〜11.9mAであるのに対し、本発明では10〜10.47mAまで低減することが可能となる。なお、しきい値電流の変動は、発振波長1.5μm〜1.6μm程度であれば許容の範囲内である。
【実施例4】
【0043】
次に、本発明に係る光半導体装置の第4の実施例について説明する。
本発明の第4の実施例で示すSOAの構造は第3の実施例の構造から、回折格子の層を除いたものである。図12より、多重量子井戸構造中のそれぞれの量子井戸層のバンドギャップ波長を不均一とし、その変動量を2〜6nmとすることで、SOAで問題となる利得の波長依存性を発振波長1.53μm〜1.57μmの間で従来の4分の1に低減することが可能となる。なお、発振波長は1.5μm〜1.6μm程度であれば許容の範囲内である。
【実施例5】
【0044】
次に、本発明に係る光半導体装置の第5の実施例について説明する。
図2は、本発明に係る半導体レーザを示した縦方向断面図である。図2に示すように、本実施例に係る半導体レーザは、n型のInP基板1の上に形成した厚さ1.5μmのn−InP下部クラッド層3、下部クラッド層3の上に形成したGaInNAs量子井戸層及びInAlGaAsバリア層からなる3層の多重量子井戸構造を含む活性層2、活性層2の上に形成したInAlGaAs回折格子層5、回折格子層5の上に形成した厚さ1.5μmのp−InP上部クラッド層4からなっている。なお、活性層2の量子井戸層数は、本実施例では3層としたが、2〜20層の間で適宜選択することが可能である。
【0045】
本実施例では、下部クラッド層3、上部クラッド層4及びInAlGaAsバリア層に対しては、基板1との歪が0となるような組成とし、バリア層厚は10nmとしている。また、GaInNAs量子井戸層に対しては1%の引張歪が加えられ、バンドギャップ波長を1.7μm(Ga0.58In0.420.01As0.99)としている。また、井戸層厚に関しては、下部クラッド層3側から順に井戸層厚を6、8、10nmとしている。なお、活性層2は、GaxIn1-xyAs1-y(ここで、0≦x≦1、0≦y≦1)とし、下部クラッド層3及び上部クラッド層4は、GaxIn1-xyAs1-y、In1-xGaxAsy1-y又はIn1-x-yAlxGayAs(ここで、0≦x≦1、0≦y≦1)により種々の組成比で組成することが可能である。
【0046】
また、図3は本発明に係る半導体レーザを示した横方向断面図である。図3に示すように、本実施例に係る半導体レーザは、上述した下部クラッド層3、活性層2、回折格子層5、上部クラッド層4からなる積層構造の両側に、ルテニウムなどをドープした半絶縁性結晶を用いた埋め込み層6を備えている。ここで、縦方向及び横方向はそれぞれ、光の進行方向に平行及び垂直な方向を表す。本実施例で得られる効果は第1及び第3の実施例と同様である。
【実施例6】
【0047】
次に、本発明に係る光半導体装置の第6の実施例について説明する。
本発明の第6の実施例で示すSOAの構造は第5の実施例の構造から、回折格子の層を除いたものである。本実施例で得られる効果は第2及び第4の実施例と同様である。
【0048】
以上のように、本発明によれば、多重量子井戸構造中のそれぞれの量子井戸層の井戸幅を不均一とし、その変動量を2〜6nmとすることで、波長可変レーザに対しては、出力波長を安定させつつ、波長可変レーザで問題となる光出力の変動を1.53μm〜1.57μmの間で従来の10分の1に低減することが可能となる。また、SOAに対しては、SOAで問題となる利得の波長依存性を発振波長1.53μm〜1.57μmの間で従来の10分の1に低減することが可能となる。なお、発振波長は1.5μm〜1.6μm程度であれば許容の範囲内である。
【0049】
なお、以上では、光の波長1.55μm付近のレーザをターゲットとしたが、他の波長帯(1.3μm帯、2〜3μm帯など)のレーザに対しても、まったく同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、例えば、光半導体装置、特に歪量子井戸層を有する半導体レーザや半導体光増幅器のような光半導体装置に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る光半導体装置の半導体層構造を示した図である。
【図2】本発明に係る半導体レーザの構造を示した縦方向断面図である。
【図3】本発明に係る半導体レーザの構造を示した横方向断面図である。
【図4】本発明に係る多重量子井戸構造のポテンシャルエネルギー分布を示した図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係る多重量子井戸構造におけるN=3、ΔLw=0(均一)、4、5、6nmの場合のピーク利得が1000cm-1となるキャリア密度での利得スペクトルを示した図である。
【図6】本発明に係る多重量子井戸構造における量子井戸層の井戸層波長の重み付けの仕方の例を示した図である。
【図7】本発明の第1の実施例に係る多重量子井戸構造におけるΔλcのΔLw依存性を示した図である。
【図8】本発明の第1の実施例に係る多重量子井戸構造におけるN=3、ΔLw=0(均一)、4、5、6nmの場合の半導体レーザのしきい値利得を典型的な値である1000cm-1としたときの、しきい値電流の波長依存性を示した図である。
【図9】本発明の第1の実施例に係る多重量子井戸構造におけるΔIのΔLw依存性を示した図である。
【図10】本発明の第3の実施例に係る多重量子井戸構造におけるN=3、ΔLw=0(均一)、3、4、5nmの場合のピーク利得が1000cm-1となるキャリア密度での利得スペクトルを示した図である。
【図11】本発明の第3の実施例に係る多重量子井戸構造におけるΔIのΔLw依存性を示した図である。
【図12】本発明の第3の実施例に係る多重量子井戸構造におけるN=3、ΔLw=0(均一)、3、4、5nmの場合の半導体レーザのしきい値利得を典型的な値である1000cm-1としたときの、しきい値電流の波長依存性を示した図である。
【図13】本発明の第3の実施例に係る多重量子井戸構造におけるΔIのΔLw依存性を示した図である。
【図14】従来のIn0.77Ga0.23As0.80.2量子井戸層(8nm)及びIn0.79Ga0.21As0.460.54バリア層をもつ3層均一多重量子井戸構造のポテンシャルエネルギー分布を示した図である。
【図15】従来の多重量子井戸構造に対する、ピーク利得が半導体レーザの典型的なしきい値である1000cm-1となるキャリア密度(1.85×1018cm-3)の場合の利得スペクトルを示した図である。
【図16】従来の半導体レーザにおいてしきい値利得を典型的な値である1000cm-1とした場合の、半導体レーザのしきい値電流の発振波長依存性を示した図である。
【符号の説明】
【0052】
1 基板
2 活性層
3 下部クラッド層
4 上部クラッド層
5 回折格子層
6 埋め込み層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成される下部クラッド層と、
前記下部クラッド層の上に形成される量子井戸層及びバリア層からなる多重量子井戸構造を含む活性層と、
前記活性層の上に形成される上部クラッド層と
を備え、
前記多重量子井戸構造において、少なくとも1つの量子井戸層が他の量子井戸層とは異なる井戸幅を有することにより、前記量子井戸構造における利得スペクトルの幅が広がる
ことを特徴とする光半導体装置。
【請求項2】
前記多重量子井戸構造中で最大及び最小井戸幅をもつ量子井戸層の井戸幅の差が2〜6nmである
ことを特徴とする請求項1に記載の光半導体装置。
【請求項3】
前記活性層の量子井戸層数が2〜20層である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光半導体装置。
【請求項4】
前記多重量子井戸構造中の量子井戸層には、利得が最大となる波長を1.5〜1.6μmとする材料が選択され、その波長を達成する厚み及び歪を有している
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光半導体装置。
【請求項5】
前記多重量子井戸構造の両側に絶縁体で埋め込む場合、ルテニウムをドーピングした埋め込み層を用いる
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光半導体装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光半導体装置が波長可変レーザである
ことを特徴とする光半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−152261(P2009−152261A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326736(P2007−326736)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】