説明

光合分波器、光送受信モジュール

【課題】波長選択フィルタを介して分岐された光導波路から構成された光合分波器において、損失の低減、および損失の伝送モード依存性の軽減を図ること。
【解決手段】光合分波器は、第1〜3光導波路コア1〜3と、波長選択フィルタ4とによって構成されている。第1光導波路コア1は、波長選択フィルタ4を挟んで第2光導波路コア2と第3光導波路コア3に分岐している。第1光導波路コア1の波長選択フィルタ4におけるコア径は、第2光導波路コア2の波長選択フィルタ4におけるコア径よりも小さい。そのため、光導波路の分岐部分における放射損失が低減されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択フィルタを挟んで光導波路コアが分岐された光合分波器に関するものであり、特に放射損失が低減され、伝送モードによる損失のばらつきが低減された光合分波器に関する。また本発明は、その光合分波器を用いた光送受信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、波長選択フィルタを挟んでY字型やT字型に2分岐された光導波路から構成される光合分波器が知られている。そのような光合分波器は、たとえば特許文献1などに示されているように、自己形成光導波路の技術を用いて作製することができる。これは、液状の光硬化性樹脂に光ファイバ等を介して光をビーム状に照射し、光硬化性樹脂を自己集光的に硬化させ、軸状の光導波路コアを形成する方法である。
【0003】
また、光導波路コアの形状をアップテーパ形状やダウンテーパ形状に形成する方法が特許文献2に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−326660
【特許文献2】特開2008−83447
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、光合分波器の分岐部分では、その構造上、一部の光が導波路の外部に放射漏れして損失が発生することは避けられない。
【0006】
また、従来の自己形成自己導波路技術による光合分波器では、挿入損失が大きく、この挿入損失が光伝送モード(入射してくる光の角度分布に相当)に対して異なる特性を有している。損失は高次モード(入射角度の大きい光成分を多く含む状態)になるほど大きくなる作用があり、入射光の光伝送モードに依存して損失が変動してしまう。
【0007】
また、上記光合分波器を用いた光送受信モジュールを作製する場合、低コスト化の観点から、マルチモード面発光レーザを使用したい。しかし、マルチモード面発光レーザは発振モード(出射光の角度分布)が環境温度によって変化し、光合分波器における損失も変動してしまう。また、マルチモード面発光レーザは素子特性にもばらつきがあり、これによる損失の変動もある。
【0008】
また、光導波路コアの形状をテーパ形状として損失を低減する方法は、波長選択フィルタを挟んだY字型やT字型に2分岐された光導波路により構成される光合分波器に適用された例がない。
【0009】
そこで本発明の目的は、損失が小さく、光伝送モードの違いによる損失のばらつきが低減された、新規な構造の光合分波器を実現することである。また、その光合分波器を用いた光送受信モジュールを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、第1波長の光を透過し、第2波長の光を反射する波長選択フィルタと、波長選択フィルタの一方の面に接続され、第1波長の光を波長選択フィルタに導く第1光導波路コアと、波長選択フィルタの他方の面に接続され、第2波長の光を波長選択フィルタに導き、第1光導波路コアに入力され波長選択フィルタを透過した第1波長の光を出力側に導く第2光導波路コアと、波長選択フィルタの他方の面に接続され、波長選択フィルタによって反射された第2波長の光を出力側に導く第3光導波路コアとを備え、第1光導波路コアの波長選択フィルタにおける径が、第2光導波路コアの波長選択フィルタにおける径よりも小さいことを特徴とする光合分波器である。
【0011】
第1〜3光導波路コアは、たとえば光硬化性樹脂の硬化物で構成することができる。
【0012】
第2光導波路コアは、波長選択フィルタから遠ざかるにつれて次第にコア径が小さくなるようなテーパー形状に形成されていることが望ましい。第2光導波路コアの入出力端におけるコア径を大きくできない場合に、このようなテーパー形状とすることで放射損失をより低減することができるからである。また、第2光導波路コアを上記のようなテーパー形状とする場合であって、第3光導波路コアの出力端におけるコア径を大きくできない場合には、第3光導波路コアは、波長選択フィルタから遠ざかるにつれて次第に径が小さくなるようなテーパー形状に形成されていることが望ましい。第2光導波路コアを上記のようなテーパー形状とすることによる、第3光導波路コアの出力端側への挿入損失の悪化を防止することができるからである。また、第1光導波路コアについても、波長選択フィルタから遠ざかるにつれて次第にコア径が小さくなるようなテーパー形状に形成されていることが望ましい。これは、波長選択フィルタに入射する光の伝送モードの拡がりがコアを直線状とする場合に比べて狭くなり、高次モードになるにつれて大きくなる挿入損失の伝送モード依存性を緩和することができるからである。
【0013】
第1光導波路コアの光軸は、第2光導波路コアの光軸に対して、第3光導波路コアから遠ざかる方向にずれていることが望ましい。放射損失をより低減することができるからである。
【0014】
波長選択フィルタや第1〜3光導波路コアは、クラッドにより封止されていてもよい。クラッド材もまた、光硬化性樹脂を硬化させた硬化物であってもよい。
【0015】
また、本発明の光合分波器は、Y字型、T字型などの3つの光導波路コアを有する構造だけでなく、第3光導波路コアの延長上であって波長選択フィルタの第1光導波路コア接続側の面に接続する第4の光導波路コアをさらに有したX字型あるいは十字型の4つの光導波路コアを有する構造であってもよい。
【0016】
第2の発明は、第1の発明において、第2光導波路コアは、そのコア径が波長選択フィルタから遠ざかるにつれて次第に小さくなる形状であることを特徴とする光合分波器である。
【0017】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、第3光導波路コアは、そのコア径が波長選択フィルタから遠ざかるにつれて次第に小さくなる形状であることを特徴とする光合分波器である。
【0018】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、第1光導波路コアは、そのコア径が波長選択フィルタから遠ざかるにつれて次第に小さくなる形状であることを特徴とする光合分波器である。
【0019】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明において、第2光導波路コアの光軸に対して、第1光導波路コアの光軸は、第3光導波路コアから遠ざかる方向にずれていることを特徴とする光合分波器である。
【0020】
第6の発明は、第1の発明から第5の発明において、第1光導波路コア、第2光導波路コア、および第3光導波路コアは、光硬化性樹脂の硬化物であることを特徴とする光合分波器である。
【0021】
第7の発明は、第1の発明から第6の発明の光合分波器と、第1光導波路コアに接続され、第1波長の光を発光する発光素子と、第3光導波路コアに接続され、第2波長の光を受光する受光素子と、を備えることを特徴とする光送受信モジュールである。
【0022】
第8の発明は、第7の発明において、発光素子は、マルチモード面発光レーザであることを特徴とする光送受信モジュールである。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明によると、第1光導波路コアから波長選択フィルタを透過して第2光導波路コアへ入射する第1の波長の光のスポットが、相対的に小さくなる。そのため、光導波路の分岐部分において、入射角度の大きな光成分が外部に放射されてしまう割合が減少し、放射損失を低減することができる。その結果、放射損失の伝送モード依存性を効果的に低減することができる。また、光導波路がこのような構造であっても、第2の波長の光が第2光導波路コアに入射されて波長選択フィルタにより反射され、第3光導波路コアから放射される場合の光損失が悪化してしまうことはない。
【0024】
また、第2の発明によると、第2光導波路コアの入出力端におけるコア径を大きくできない場合でも、第2光導波路コアの形状を、第2光導波路コアのコア径が波長選択フィルタから遠ざかるにつれて次第に小さくなるようなテーパー形状とすることで、放射損失の低減を図ることができる。また、第3の発明によると、第3光導波路コアの出力端におけるコア径を大きくできない場合であっても、第3光導波路コアの形状を、第3光導波路コアのコア径が波長選択フィルタから遠ざかるにつれて次第に小さくなるようなテーパー形状とすることで、放射損失の低減を図ることができる。
【0025】
また、第4の発明によると、入射角度の大きい光成分の挿入損失が低減され、損失の伝送モード依存性を緩和することができる。
【0026】
また、第5の発明によれば、光導波路の分岐部分での放射損失をさらに低減することができる。
【0027】
また、第6の発明のように、本発明の第1〜3光導波路コアは光硬化性樹脂の硬化物で構成することができ、容易かつ安価に製造することができる。
【0028】
また、第7の発明の光送受信モジュールは、光合分波器として第1〜6の発明を用いているため、発光素子の発振モードが温度変化などによって変動し、光伝送モードが変動したとしても、損失の伝送モード依存性は軽減されており、通信特性に優れている。特に第8の発明のように、発光素子として発振モードの温度依存性が大きなマルチモード面発光レーザを用いることができ、光送受信モジュールの低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1の光合分波器の構成を示した図。
【図2】コア径に対する挿入損失の依存性を示したグラフ。
【図3】光軸のずれに対する挿入損失の依存性を示したグラフ。
【図4】入射角度に対する挿入損失の依存性を示したグラフ。
【図5】入射角度に対する挿入損失の依存性を示したグラフ。
【図6】第1光導波路コア1の長さに対する挿入損失の依存性を示したグラフ。
【図7】実施例2の光送受信モジュールの構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
図1は、実施例1の光合分波器の構成を示した図である。光合分波器は、第1〜3光導波路コア1〜3と、波長選択フィルタ4と、により構成されている。第1光導波路コア1が、波長選択フィルタ4を介して第2光導波路コア2と第3光導波路コア3に分岐したY字型の分岐構造である。
【0032】
第1光導波路コア1は、波長選択フィルタ4の一方の面4aに接続しており、波長選択フィルタ4の面4aに対して第1光導波路コア1の光軸L1が60°を成している。第1光導波路コア1には、波長λ1の光が入力端1aに入射され、波長選択フィルタ4にその光を導く。なお、第1光導波路コア1の直径Dbはその光軸L1方向に一定の直線状であってもよいが、波長選択フィルタ4に向かうにつれて第1光導波路コア1の直径が次第に大きくなるようなテーパー形状(すなわち、波長選択フィルタ4における第1光導波路コア1の直径をDb’として、Db’>Dbとなるテーパー形状)とすることが望ましい。このようなテーパー形状とすれば、波長選択フィルタ4へ入射する光の伝送モードの拡がりが、直線状とする場合に比べて狭くなり、高次モードになるにつれて大きくなる挿入損失の伝送モード依存性が緩和されることで、高次モードでの挿入損失を低減することができるからである。
【0033】
波長選択フィルタ4は、波長λ1の光を透過し、波長λ2の光を反射する特性を有している。第1光導波路コア1を介して波長選択フィルタ4の一方の面4aから入射した波長λ1の光は透過し、第2光導波路コア2を介して波長選択フィルタ4の他方の面4bから入射した波長λ2の光は、反射される。
【0034】
第1光導波路コア1は、波長選択フィルタ4を挟んで、第2光導波路コア2と第3光導波路コア3に分岐しており、第2、3光導波路コア2、3は波長選択フィルタ4の他方の面4bに接続している。第2光導波路コア2の光軸L2は、第1光導波路コア1の光軸L1に平行であり、第1光導波路コア1の光軸L1と同様に波長選択フィルタ4の面4bに対して60°を成している。また、第3光導波路コア3の光軸L3は、第2光導波路コア2の光軸L2に対して60°を成している。これら第1〜3光導波路コア1〜3の光軸L1〜3は、いずれも1平面内に含まれている。
【0035】
第2光導波路コア2および第3光導波路コア3の波長選択フィルタ4における直径Da’、Dc’(Da’=Dc’)は、第1光導波路コア1の波長選択フィルタ4における直径Db’よりも大きい。
【0036】
また、第2光導波路コア2と第3光導波路コア3の直径は、波長選択フィルタ4から遠ざかるにつれて次第に小さくなっており、第2光導波路コア2と第3光導波路コア3はテーパー形状を有している。第2光導波路コア2をこのようなテーパー形状とすることで、波長選択フィルタ4側から第2光導波路コア2の入出力端2a側へ向かう波長λ1の光の挿入損失の悪化を防止している。また、第2光導波路コア2をテーパー形状としたことによる第3光導波路コア3の出力端3a側への挿入損失の悪化は、第3光導波路コア3をテーパー形状とすることによって防止している。
【0037】
また、第1光導波路コア1の光軸L1は、第2光導波路コア2の光軸L2に対して、第3光導波路コア3から遠ざかる方向にずれている。このように第1光導波路コア1の光軸L1を第2光導波路コア2の光軸L2に対してずらすことで、分岐部分における放射損失を低減することができる。
【0038】
第1光導波路コア1、第2光導波路コア2、第3光導波路コア3はいずれも光硬化性樹脂の硬化物である。光硬化性樹脂を用いた自己形成光導波路の技術により、第1光導波路コア1、第2光導波路コア2、第3光導波路コア3を容易に形成することができる。任意のテーパー角を有した光導波路コアを自己形成光導波路の技術により形成するには、たとえば光ファイバを介して液状の光硬化性樹脂に硬化波長の光を照射する際に、光ファイバの入力端における光のモード分布を制御することにより可能である。このような自己形成光導波路の技術によれば、実施例1の光合分波器を容易かつ低コストに製造することができる。また、第1〜3光導波路コア1〜3は、光硬化性樹脂の硬化物からなるクラッド(図示しない)に覆われている。第1〜3光導波路コア1〜3の屈折率は1.55、クラッドの屈折率は1.46であり、導波路内での光の最大伝搬角は20.2度である。
【0039】
なお、自己形成光導波路の技術により実施例1の光合分波器を作製する場合、その製造工程の都合によりY字型ではなくX字型の分岐路となってしまう場合もある。たとえば第1光導波路コア1に入射した光が波長選択フィルタ4において反射されることで、または第3光導波路コア3から入射した光が波長選択フィルタ4を透過することで、自己形成光導波路コアが形成された場合には、X字型あるいは十字型に分岐することとなる。しかし、そのようなX字型、十字型の光合分波器においても、本発明の損失低減、伝送モード依存性の低減、の効果を得ることができる。
【0040】
この実施例1の光合分波器は、第1光導波路コア1の入力端1aに入射された波長λ1の光を、波長選択フィルタ4を透過させて第2光導波路コア2内を伝送させ、第2光導波路コア2の入出力端2aから外部に出力させる動作と、第2光導波路コア2の入出力端2aに入射された波長λ2の光を、波長選択フィルタ4によって反射させて第3光導波路コア3内を伝送させ、第3光導波路コア3の出力端3aから外部に出力させる動作とを目的とするY字型分岐の光合分波器である。
【0041】
この実施例1の光合分波器では、第1光導波路コア1の波長選択フィルタ4における直径Db’を、第2光導波路コア2の直径Da’よりも小さくしているため、第1光導波路コア1を伝送して波長選択フィルタ4を透過した波長λ1の光の、第2光導波路コア2に入射する際のスポット径を小さくすることができる。そのため、入射角の大きい光成分が光導波路の分岐部分において外部へと放射される割合が減少し、第2光導波路コア2へと入射する光成分が増加するので、放射損失が低減される。その結果、第1光導波路コア1に入射される波長λ1の光の伝送モードが高次であっても、放射損失が低減され、放射損失の入射角依存性が低減される。
【0042】
また、この実施例1の光合分波器の構造であっても、波長λ2の光が第2光導波路コア2の入出力端2aに入射されて波長選択フィルタ4により反射され、第3光導波路コア3を伝送して出力端3aから放射される場合の光損失が悪化してしまうことはない。
【0043】
図2は、コア径に対する挿入損失の依存性をシミュレーションにより計算して求めた結果である。第1光導波路コア1の開口数(対空気)を0.52とし、この開口数と一致するように最大伝搬角31.4°(空気中から第1光導波路コア1へ入射した条件において)とする一様の角度分布の入射光(波長λ1)を第1光導波路コア1に入射させた場合を仮定した。第1〜3光導波路コア1〜3の屈折率は1.55、クラッドの屈折率は1.46であり、コア内での光の最大伝搬角は20.2度である。また、第1光導波路コア1の直径Dbは一定とした。また、第1光導波路コア1の長さは1.7mm、第2光導波路コア2の長さは2.7mm、第3光導波路コアの長さは2.3mmとし、Da=Db=0.2mmとした。図2のグラフにおいて、横軸は、第1光導波路コア1の入力端1aにおける直径Dbと、第2光導波路コア2の光入出力端2aでの直径Daとの比Db/Daである。また、縦軸は挿入損失である。また、菱形でプロットされた曲線は、第2光導波路コア2の波長選択フィルタ4での直径Da’とDaとの比Da’/Daが1の場合、すなわち、第2光導波路コア2の直径が一定の場合である。また、正方形でプロットされた曲線は、比Da’/Daが1.4の場合、正三角形でプロットされた曲線は、比Da’/Daが1.25の場合である。
【0044】
この図2から、比Da’/Daの値によらず、比Db/Daが0.5までは、比Db/Daの減少に伴い挿入損失も単調に減少し、比Db/Daが0.5よりも小さくなると、比Db/Daが減少しても挿入損失はほぼ一定である。したがって、比Db/Daが1である従来の光合分波器に比べて、比Db/Daが1よりも小さい実施例1の光合分波器の方が挿入損失を低減できていることがわかる。また、比Da’/Daを1とした場合よりも、比Da’/Daを1.25または1.4とした場合の方が、挿入損失を低減できることがわかる。
【0045】
図3は、第1光導波路コア1の光軸L1を、第2光導波路コア2の光軸L2からずらした場合の挿入損失の依存性をシミュレーションにより計算して求めた結果である。シミュレーションの条件は、図2のグラフの場合と同様の条件である。図3のグラフにおいて、横軸は、第1光導波路コア1の入力端1aにおける直径Dbに対するΔyの比(以下、ずれ量とする)Δy/Dbを示している。ここでΔyは、第2光導波路コア2の光軸L2および第3光導波路コア3の光軸L3が成す平面内において、第2光導波路コア2の光軸L2に垂直な方向での、第1光導波路コア1の光軸L1と第2光導波路コア2の光軸L2との距離の差を示し、第3光導波路コア3から遠ざかる方向をΔyの正方向とする。また、縦軸は挿入損失である。図3において、菱形でプロットされた曲線は、比Da’/Daが1の場合であり、正三角形でプロットされた曲線は、1.25の場合である。
【0046】
この図3から、ずれ量Δy/Dbが大きいほど挿入損失を低減することができ、特にずれ量Δy/Dbが正の値となるように光軸をずらすことで、挿入損失を大きく低減できることがわかる。
【0047】
図4は、入射光の角度による挿入損失の依存性を、シミュレーションにより計算して求めた結果である。横軸は、第1光導波路コア1に入射する入射光の角度を示しており、縦軸は挿入損失である。比Da’/Daは、それぞれ1、1.25、1.4、とし、比Db’/Dbは、比Da’/Daが1.25の場合のみ0.5、または1とし、それ以外では1とした。また、ずれ量Δy/Dbは0である。その他のシミュレーション条件は、図2の場合と同様であり、コア内での光の最大伝搬角は20.2度である。
【0048】
この図4の結果から、比Da’/Daを調整することで、挿入損失の角度依存性を調整できることがわかる。これは、言い換えれば、テーパー形状である第2光導波路コア2のテーパー角を調整することで、挿入損失の角度依存性を調整することができるということである。特に低次モード側の挿入損失に注目すると、比Da’/Daおよび比Db’/Dbを1とする従来の構造では、入射角度が4°前後の光に対して約2dBの挿入損失ピークがあるのに対して、比Da’/Daが1.25で比Db’/Dbを1とする場合には、挿入損失は約0.3dB、比Da’/Daが1.4で比Db’/Dbを1とする場合には挿入損失はほとんどない。このように、第2光導波路コア2のテーパー形状によって、低次側の伝送モードの挿入損失を効果的に低減できることがわかる。一方、比Da’/Daが1.25で比Db’/Dbを1.25とする場合、つまり第2光導波路コア2だけでなく第1光導波路コア1もテーパー形状とした場合には、入射角度が4°前後の光に対する挿入損失ピークは角度シフトしている程度で損失の大きな改善は見られないが、入射角度13〜18°付近の高次モード側の挿入損失がほとんど見られないことがわかる。これは、第1光導波路コア1を波長選択フィルタ4に向かうにつれて直径が次第に大きくなるようなテーパー形状とすることによって、波長選択フィルタ4へ入射する光の伝送モードの拡がりが、直線状とする場合に比べて狭くなり、高次モードになるにつれて大きくなっていた挿入損失の伝送モード依存性が緩和された、と理解できる。
【0049】
以上、図4から、第1光導波路コア1および第2光導波路コア2のテーパー形状を調整することで、任意の伝送モード分布を有する入射光に対して挿入損失が低くなるよう伝送モード依存性を調整することができることがわかる。
【0050】
図5もまた、図4と同様のシミュレーションにより、入射光の角度による挿入損失の依存性を求めた結果である。ただし、Da’/Daを1.25、ずれ量Δy/Dbを0.5、Db’/Dbを1または1.5、Da=0.2mm、Db=0.1mmとし、それ以外は図4と同様のシミュレーション条件としている。
【0051】
この図5の結果から、上記のように比Da’/Da、ずれ量Δy/Db、比Db’/Dbを設定することで、0〜15°までの範囲において挿入損失をほとんど0とすることができ、伝送モード依存性を解消することができることがわかる。この図5の結果と、挿入損失のずれ量Δy/Dbに対する依存性を示した図3とを比較すると、ずれ量Δy/Dbを大きくすることによる挿入損失の低減は、主として低次モード側の挿入損失の低減によるものであることが分かる。また、ずれ量Δy/Dbを0とした図4の結果と比較すると、広範囲に損失を低減できたのは、ずれ量Δy/Db>0となるよう光軸をずらした効果であることがわかる。さらに、Db’/Dbを1.5として第1光導波路コア1をテーパー形状とする効果を加えることによって、0〜20°の非常に広い範囲において挿入損失はほとんど0とし、伝送モード依存性を解消することができている。これは前述のように、伝送モードの拡がりが狭くなり、高次モードの挿入損失が低減されたためである。
【0052】
これら図2〜5に示された結果から、波長選択フィルタ4での第1光導波路コア1に対する第2光導波路コア2の直径の比Db’/Da’、第1光導波路コア1および第2光導波路コア2のテーパー形状、第1光導波路コア1と第2光導波路コア2の光軸のずれ量Δy/Dbを調整することで、挿入損失値、および伝送モード依存性を効果的に低減することができることがわかる。そのため、温度変化に伴う発光モード変化の大きいマルチモード型面発光レーザと組み合わせて用いる場合に、実施例1の光合分波器は特に有効である。
【0053】
図6は、挿入損失の第1光導波路コア1の長さに対する依存性を、シミュレーションにより求めた結果である。第1光導波路コア1の直径Dbは一定(Db=Db’)とした。また、第2光導波路コア2の長さは2.7mm、第3光導波路コア3の長さは2.3mm、ずれ量Δy/Dbは0、Db/Daは1または0.5、Da’/Daは1、1.25、1.4のいずれかとし、それ以外の条件は図2と同様のシミュレーション条件とした。
【0054】
図6の結果から、第1光導波路コア1の長さが実用的な範囲(1mm以上)において、Da’>Db’とすることで挿入損失を低減することができていることがわかる。第1光導波路コア1が長くなるほど、第2光導波路コア2へ入射する光の伝送モードが一様化し、挿入損失の低減効果に対する第1光導波路コア1の長さの依存性が低くなることがわかる。
【0055】
なお、実施例1の光合分波器では、第2光導波路コア2と第3光導波路コア3が60°を成したY字型の分岐であるが、必ずしも60°である必要はなく、任意の角度であってよい。たとえば、90°を成したT字型の分岐であってもよい。
【0056】
また、実施例1の光合分波器では、第2光導波路コア2および第3光導波路コア3を、波長選択フィルタ4から遠ざかるにつれて細くなるテーパー形状としたが、必ずしもそのようなテーパー形状とする必要はなく、第1光導波路コア1と同様に一様な太さとしてもよい。ただし、第2光導波路コア2の入出力端2aにおける直径Daや、第3光導波路コア3の出力端3aにおける直径Dcを大きくできない場合には、第2光導波路コア2および第3光導波路コア3の波長選択フィルタ4における直径Da’、Dc’を大きくしてテーパー形状とすることにより、損失の悪化を防止することができる。
【0057】
また、実施例1の光合分波器では、第1光導波路コア1の光軸L1を、第2光導波路コア2の光軸L2に対して、第3光導波路コア3から遠ざかる方向にずらしているが、必ずしもずらす必要はなく、光軸L1と光軸L2を一致させてもよい。ただし、上記のように光軸L1をずらす方が、損失をより低減することができるため望ましい。
【実施例2】
【0058】
図7は、実施例2の光送受信モジュールの構成を示した図である。光送受信モジュールは、光合分波器10と、受発光素子11、12と、筐体13と、によって構成されている。
【0059】
光合分波器10は、第1〜3光導波路コア1〜3と、波長選択フィルタ4と、を有した実施例1の光合分波器を、クラッド5で封止した構造である。受発光素子11は、波長λ1の光を放射するマルチモード面発光レーザと、波長λ1の光を受光するフォトダイオードとを一体化したパッケージである。受発光素子12は、波長λ2の光を放射するLEDと、波長λ2の光を受光するフォトダイオードとを一体化したパッケージである。受発光素子11は、光合分波器10の第1光導波路コア1の入力端1aに接続されており、受発光素子12は、光合分波器10の第3光導波路コア3の出力端3aに接続されている。
【0060】
光合分波器10の第2光導波路コア2の入出力端2aには、光ファイバ14が接続されており、光ファイバ14を介して第2光導波路コア2に波長λ2の光が入射され、第2光導波路コア2から波長λ1の光が光ファイバ14に入射される。
【0061】
光合分波器10、受発光素子11、12は、筐体13の内部に納められ、固定されている。
【0062】
この実施例2の光送受信モジュールでは、1芯の光ファイバ14によって、波長λ1の光信号の送信と、波長λ2の光信号の受信とを行うことができる。ここで、光合分波器10として、実施例1と同一構造のものを用いているため、受発光素子11から放射される波長λ1の光の光合分波器10における分岐部分での放射損失が低減されている。また、受発光素子11の発振モードが動作温度の変化によって高次モードに移行し、伝搬モードが変化したとしても、光合分波器10は放射損失の伝送モード依存性が軽減されているため、放射損失がばらつくことがない。したがって、実施例2の光送受信モジュールを用いれば、通信特性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の光合分波器および光送受信モジュールは、一芯双方向の光通信システムに用いることができ、特にホームネットワークや車載LANなどに応用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1:第1光導波路コア
2:第2光導波路コア
3:第3光導波路コア
4:波長選択フィルタ
10:光合分波器
11:発光素子
12:受光素子
13:筐体
14:光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波長の光を透過し、第2波長の光を反射する波長選択フィルタと、
前記波長選択フィルタの一方の面に接続され、第1波長の光を前記波長選択フィルタに導く第1光導波路コアと、
前記波長選択フィルタの他方の面に接続され、第2波長の光を前記波長選択フィルタに導き、前記第1光導波路コアに入力され前記波長選択フィルタを透過した第1波長の光を出力側に導く第2光導波路コアと、
前記波長選択フィルタの他方の面に接続され、前記波長選択フィルタによって反射された第2波長の光を出力側に導く第3光導波路コアと、
を備え、
前記第1光導波路コアの前記波長選択フィルタにおける径が、前記第2光導波路コアの前記波長選択フィルタにおける径よりも小さいことを特徴とする光合分波器。
【請求項2】
前記第2光導波路コアは、そのコア径が前記波長選択フィルタから遠ざかるにつれて次第に小さくなる形状であることを特徴とする請求項1に記載の光合分波器。
【請求項3】
前記第3光導波路コアは、そのコア径が前記波長選択フィルタから遠ざかるにつれて次第に小さくなる形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光合分波器。
【請求項4】
前記第1光導波路コアは、そのコア径が前記波長選択フィルタから遠ざかるにつれて次第に小さくなる形状であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の光合分波器。
【請求項5】
前記第2光導波路コアの光軸に対して、前記第1光導波路コアの光軸は、前記第3光導波路コアから遠ざかる方向にずれていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の光合分波器。
【請求項6】
前記第1光導波路コア、前記第2光導波路コア、および前記第3光導波路コアは、光硬化性樹脂の硬化物であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の光合分波器。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の光合分波器と、
前記光合分波器の前記第1光導波路コアに接続され、第1波長の光を発光する発光素子と、
前記光合分波器の前記第3光導波路コアに接続され、第2波長の光を受光する受光素子と、
を備えることを特徴とする光送受信モジュール。
【請求項8】
前記発光素子は、マルチモード面発光レーザであることを特徴とする請求項7に記載の光送受信モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−203599(P2011−203599A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72164(P2010−72164)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】