説明

光学用部品およびその製造方法

【課題】反射光の干渉、および、発光効率を改善した有機EL表示体に用いる光学用部品であって、剥離分解し難い光学用部品を提供すること。
【解決手段】電離放射線硬化型樹脂(ハードコート層)上に無機化合物(反射防止層)を蒸着した積層体に紫外線を照射することにより、電離放射線硬化型樹脂と無機化合物の密着強度を向上させること。
反射防止層を、ハードコート層よりも屈折率が小さい無機化合物とすること。
無機化合物(反射防止層)として、MgF、CaFまたはSiOを用いること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーを光に変換して発光する有機EL表示体に用いる、画面輝度向上を目的とした光学用部品、更には、画面視認性向上のために反射防止層が設けられている光学用部品に関する。
【0002】
本明細書に記載されている「ストラクチャー」とは、電子顕微鏡で輪郭の確認できる「微細凹凸」の業界用語であり、「EL」は「エレクトロルミネッセンス」の略語である。
また、本明細書では、屈折率の測定方法はJIS K7142に準拠し、また、配合を示す「部」は、質量基準とする。
【背景技術】
【0003】
有機EL素子は、蛍光性有機化合物に正孔および電子を注入し再結合させることにより励起子を生成させ、励起子が失活する際の光の放出を利用する自発光素子である。
【0004】
有機EL素子は、低電圧で高輝度の発光を得ることができるため、有望な素子として注目されている。
【0005】
しかし、有機EL素子は、無機LED素子に比べると発光効率(放電によって消費した電力に対する輝度の割合)が低く、発光効率の改良が求められている。
【0006】
有機EL素子の発光効率は、素子の内部エネルギー効率と、光取り出し効率との積で示される。
【0007】
有機EL素子の発光効率を向上させるためには、内部エネルギー効率を向上させる他に、光取り出し効率を向上させる必要がある。
【0008】
光取り出し効率とは、発光素子から大気中に放出される発光エネルギーに対する、素子の発光エネルギーの割合である。
【0009】
素子から発せられた光が大気中に放出されるには、幾つかの屈折率の異なる媒質を通過する必要がある。
【0010】
屈折率の異なる媒質界面に臨界角以上の角度で入射した光は、界面で全反射されて層中を導波し消失するか、層側面より放出され、素子の光取り出し面からの光放出が減少し、その結果、輝度が低くなる。
【0011】
界面での全反射を改善する方法として、界面にドットや溝などからなるストラクチャーを形成し、光を回折させる方法が提案されている。(特許文献1参照)
【0012】
しかし、この方法を用いると、反射光の干渉により、虹色が発生し、有機EL表示体に用いることができない。
【0013】
そのため、反射防止層を有機EL表示体の表面に配置し、反射光の干渉を改善する試みが為されている。(特許文献2参照)
【0014】
反射防止層を形成する方法としては、基材表面に電離放射線硬化型樹脂からなるハードコート層を形成し、該ハードコート層上に無機化合物蒸着膜を設ける方法が提案されている。(特許文献3参照)
【0015】
【特許文献1】特許第2991183号公報
【特許文献2】特許第3545319号公報
【特許文献3】特許第3329924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、電離放射線硬化型樹脂からなるハードコート層表面に無機化合物と反応する反応基が殆ど無いので、ハードコート層と無機化合物との密着力が弱く、そのため、光学用部品が剥離分解し易いことが問題となっている。
【0017】
本発明の課題は、反射光の干渉、および、発光効率を改善した有機EL表示体に用いる光学用部品であって、剥離分解し難い光学用部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に記載の発明は、前記基材の両面に前記電離放射線硬化型樹脂をコーティングし、その後、前記基材の一方の面上に形成された前記電離放射線硬化型樹脂上に前記無機化合物を蒸着し、その後、前記基材のもう一方の面上に形成された前記電離放射線硬化型樹脂上に、ストラクチャー形成用スタンパを押圧し、その後、前記無機化合物側から電離放射線を照射することを特徴とする光学用部品の製造方法である。
【0019】
蒸着としては、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等のPVD(物理気相成長)、及び、常圧CVD、減圧CVD、プラズマCVD、有機金属CVD等のCVD(化学気相成長)を用いることができる。
【0020】
真空蒸着としては、抵抗加熱式、電子ビーム加熱式、高周波誘導加熱式、レーザー加熱式のいずれを用いても良い。
【0021】
スパッタリングとしては、イオンビーム式、高周波スパッタ式、直流式、ECR式、マグネトロン式のいずれを用いても良い。
【0022】
イオンプレーティングとしては、直流励起式、高周波励起式のいずれを用いても良い。
【0023】
電離放射線としては、100〜380nmの波長領域の紫外線、または、100nm以下の波長領域の電子線を用いることができる。
【0024】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の製造方法により製造された、反射防止層、ハードコート層、基材、ストラクチャー層が順次積層された光学用部品である。
【0025】
反射防止層の材料としては、ハードコート層よりも屈折率が小さい無機化合物であれば良く、反射防止層の厚さ方向で屈折率が変化していても構わないが、反射防止層のハードコート層接触面側よりも大気接触面側の方が、屈折率が小さい事が好ましい。
【0026】
反射防止層の厚さは、特に限定されないが、20〜900nmの範囲であることが好ましく、特に、50〜150nmの範囲が好ましい。
【0027】
上記範囲より厚さが薄い場合には、反射防止効果を奏しない場合があり、また上記範囲より厚さが厚い場合には、反射防止層が脆くなる。
【0028】
ハードコート層の材料としては、電離放射線硬化型のウレタン樹脂、電離放射線硬化型のアクリル樹脂を用いることができ、中でも、耐久性や作業性の観点から、電離放射線硬化型のアクリル樹脂を用いる事が好ましい。
【0029】
基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)や不飽和ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレートやメチルメタクリレート共重合体等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)やジエチレングリコールビスアリルカーボネート等のポリカーボネート系樹脂、トリアセチルセルロース等のアセテート系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、スチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。
【0030】
ストラクチャー層の材料としては、電離放射線硬化型のウレタン樹脂、電離放射線硬化型のアクリル樹脂を用いることができ、中でも、低熱膨張性の観点から、電離放射線硬化型のアクリル樹脂を用いる事が好ましい。
【0031】
請求項3に記載の発明は、前記反射防止層が、前記ハードコート層よりも屈折率が小さい無機化合物からなることを特徴とする請求項2に記載の光学用部品である。
【0032】
無機化合物(反射防止層)としては、ハードコート層(電離放射線硬化型樹脂)よりも屈折率が小さければ特に限定されるものではないが、例えば、NaAlF(屈折率n=1.36)、MgF(屈折率n=1.37)、SiOF(屈折率n=1.38)、CaF(屈折率n=1.43)またはSiO(屈折率n=1.45)等を用いることができる。
【0033】
請求項4に記載の発明は、前記無機化合物がMgF、CaFまたはSiOであることを特徴とする請求項3に記載の光学用部品である。
【0034】
反射防止層の材料としては、NaAlF、MgF、SiOF、CaFまたはSiO等を用いることができるが、中でも、低屈折率性の観点から、MgF、CaFまたはSiOを用いることが好ましい。
【0035】
請求項5に記載の発明は、前記ストラクチャー層上に平坦化層が形成されたことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の光学用部品である。
【0036】
平坦化層の材料としては、有機EL素子(屈折率1.6〜1.8)よりも屈折率が大きく、または/或いは、同等の材料をストラクチャー層に塗工した際に、平滑性を発現できる材料を用いることが好ましく、例えば、アルキルチタン酸塩(屈折率1.91)を用いることができる。
【0037】
請求項6に記載の発明は、前記平坦化層上にガスバリア層が形成されたことを特徴とする請求項5に記載の光学用部品である。
【0038】
ガスバリア層は、単層でも多層でも良い。
ガスバリア層が多層である場合は、各層にそれぞれ異なる材料を用いても良い。
【0039】
ガスバリア層の材料としては、有機EL素子(屈折率1.6〜1.8)よりも屈折率が大きく、平坦化層よりも屈折率が小さい、または/或いは、同等の無機材料を用いることが好ましく、例えば、SiN(屈折率n=1.90)を用いることができる。
【0040】
ガスバリア層の厚さとしては、ガスバリア層全体で50nm〜2μm程度が好ましい。
ガスバリア層の厚さが50nmに満たない場合、ガスバリア層のガスバリア性が不安定となり、また、ガスバリア層の厚さが2μmを超える場合、ガスバリア層の柔軟性が失われ、ガスバリア層にクラックが生じる事が懸念される。
【0041】
請求項7に記載の発明は、前記ガスバリア層上に透明電極が形成されたことを特徴とする請求項6に記載の光学用部品である。
【0042】
透明電極の材料としては、有機EL素子(屈折率1.6〜1.8)よりも屈折率が大きく、前記バリア層よりも屈折率が小さい、または/或いは、同等の材料を用いることが好ましく、例えば、ZnO(屈折率n=1.90)を用いることができる。
【0043】
請求項8に記載の発明は、前記反射防止層上に撥水層が形成されたことを特徴とする請求項2乃至請求項7のいずれか1項に記載の光学用部品である。
【0044】
撥水層は、反射防止層を保護し、かつ、防汚染性能を高めるものであり、要求性能を満たすものであればいかなる材料であっても構わない。
【0045】
撥水層の材料としては、疎水基を有する化合物が良く、パーフルオロシラン、フルオロカーボン等を用いることができる。
【0046】
撥水層の厚さは、反射防止層の機能を阻害しないように設定しなければならず、好ましくは10nm〜1000nmである。
【0047】
撥水層が10nmより薄い場合は十分な撥水性を得ることができず、撥水層を1000nmより厚くしても撥水性は向上せず、逆に、コスト面でデメリットが生じるからである。
【発明の効果】
【0048】
請求項1に記載の発明は、前記基材の両面に前記電離放射線硬化型樹脂をコーティングし、その後、前記基材の一方の面上に形成された前記電離放射線硬化型樹脂上に前記無機化合物を蒸着し、その後、前記基材のもう一方の面上に形成された前記電離放射線硬化型樹脂上に、ストラクチャー形成用スタンパを押圧し、その後、前記無機化合物側から電離放射線を照射することを特徴とする光学用部品の製造方法である。
【0049】
電離放射線硬化型樹脂(ハードコート層)上に無機化合物(反射防止層)を蒸着した積層体に紫外線を照射することにより、電離放射線硬化型樹脂と無機化合物の密着強度を向上させることができる。
【0050】
また、一度の紫外線照射にて、ハードコート層およびストラクチャー層の両層の電離放射線硬化型樹脂を硬化することができる。
【0051】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の製造方法により製造された、反射防止層、ハードコート層、基材、ストラクチャー層が順次積層された光学用部品である。
【0052】
請求項1に記載の製造方法により製造することにより、(ハードコート層と反射防止層が)剥離分解し難い光学用部品を提供することができる。
【0053】
請求項3に記載の発明は、前記反射防止層が、前記ハードコート層よりも屈折率が小さい無機化合物からなることを特徴とする請求項2に記載の光学用部品である。
【0054】
この様にすることにより、優れた反射防止性能を有する光学用部品を提供することができる。
【0055】
請求項4に記載の発明は、前記無機化合物がMgF、CaFまたはSiOであることを特徴とする請求項3に記載の光学用部品である。
【0056】
無機化合物(反射防止層)として、MgF、CaFまたはSiOを用いることにより、耐湿熱性および屈折率安定性の優れた反射防止層を得ることができる。
【0057】
また、MgF、CaFまたはSiOを材料とする事により、反射防止層形成に際して、蒸着速度の速いプラズマCVD法を用いることができる。
【0058】
請求項5に記載の発明は、前記ストラクチャー層上に平坦化層が形成されたことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の光学用部品である。
【0059】
平坦化層を設けることにより、水蒸気および酸素の遮断性に優れたガスバリア層を形成することができる。
【0060】
また、平坦化層を設けることにより、本発明の光学用部品を用いて有機EL表示体を作製した場合(後述の参考例参照)、ストラクチャー層の表面形状が有機EL発光層に反映することを抑制し、有機EL発光層の厚みムラを抑制することが可能となり、その結果、電界集中による有機EL表示体の破壊を抑制することができる。
【0061】
請求項6に記載の発明は、前記平坦化層上にガスバリア層が形成されたことを特徴とする請求項5に記載の光学用部品である。
【0062】
ガスバリア層を設けることにより、本発明の光学用部品を用いて有機EL表示体を作製した場合、有機EL表示体の水蒸気および酸素起因のダークスポットの発生や成長を抑制することができる。
【0063】
請求項7に記載の発明は、前記ガスバリア層上に透明電極が形成されたことを特徴とする請求項6に記載の光学用部品である。
【0064】
透明電極を形成することにより、有機EL表示体の構成部品として用いることができる。
【0065】
請求項8に記載の発明は、前記反射防止層上に撥水層が形成されたことを特徴とする請求項2乃至請求項7のいずれか1項に記載の光学用部品である。
【0066】
撥水層を形成することにより、光学用部品に防汚性を付与することができる。
また、本発明の光学用部品を用いて有機EL表示体を作製した場合、有機EL表示体の発光効率を長期間に渡り高い水準で維持する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
本発明の、光学用部品の製造方法を、図1、図2、図3および図4を基に説明する。
【0068】
まず、スタンパ用基板100としてガラス板を用い、該ガラス板表面にポジ型のフォトレジスト200を塗布する。(図1(a)参照)
【0069】
ポジ型レジストはネガ型レジストよりも解像度が高く、本発明の様に高精細が要求されるスタンパに用いる材料として相応しい。
【0070】
フォトレジスト200とガラス板(スタンパ用基板100)との密着性を向上させるため、ガラス板(スタンパ用基板100)表面にHMDS(ヘキサメチルジシラザン)によりベーパー処理を施しても良い。
【0071】
次に、レーザー(例えば、HeCdレーザー(波長442nm)等)および光学系マスク(NA(開口数)が0.89〜0.91)を用いて、回折限界にてフォトレジスト200を露光することにより、ポジ型のフォトレジスト200を可溶化処理する。(図1(b)参照)
【0072】
次に、アルカリ溶液を用いて、可溶化処理したフォトレジスト200´を除去(現像)する。(図1(c)参照)
【0073】
次に、スパッタ法を用いて、フォトレジスト200´´上にNi導電化層300形成する。(図1(d)参照)
【0074】
次に、Ni導電化層300を電極にして、鍍金法を用いて、Ni導電化層300上にNiめっき層400を形成する。(図1(e)参照)
【0075】
次に、スタンパ用基板100およびフォトレジスト200´´を剥離することにより、スタンパ500を得る。(図1(f)参照)
【0076】
次に、電離放射線硬化型アクリル樹脂2、3を、メタアクリル樹脂フィルムからなる基材1の両面に積層する。(図2(a)参照)
【0077】
積層方法としては、メチルエチルケトン(MEK)などの溶剤を用いて、紫外線硬化型アクリル樹脂や電子線硬化型アクリル樹脂を固形分40〜50%に希釈したペーストを生成し、該ペーストを公知のダイコート法、スピンコート法、スクリーン印刷法、バーコート法、グラビアコート法、ディップコート法などを用いて基材1上に塗工し、その後、乾燥する方法を用いることがきる。
【0078】
本発明の場合、一度に基材1の両面にペーストを塗工できるという観点から、ディップコート法が好ましい。
【0079】
ディップコート法は、塗布したい溶液に基材を浸漬し、一定速度で基材を引き上げることにより、基材上に均一に反応溶液を塗布する方法である。
塗布量(塗布膜厚)は、引上速度で制御が可能であり、引上速度を速くすれば塗布量が多く(塗布膜厚が厚く)、引上速度を遅くすれば塗布量が少なく(塗布膜厚が薄く)なる。
【0080】
次に、電離放射線硬化型アクリル樹脂2(ハードコート層)上に、反射防止層4を形成する。(図2(b)参照)
【0081】
反射防止層4の形成方法としては、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等のPVD(物理気相成長)、及び、常圧CVD、減圧CVD、プラズマCVD、有機金属CVD等のCVD(物理気相成長)を用いることができるが、蒸着速度の速いプラズマCVD法を用いることが好ましい。
【0082】
次に、電離放射線硬化型アクリル樹脂3にスタンパ500を押圧し、ストラクチャーパターン3´を形成する。(図2(c)参照)
【0083】
次に、ストラクチャーパターン3´に電離放射線を照射することにより、ストラクチャー層3´´を形成し、同時に、ハードコート層2´を形成する。(図3(d)参照)
【0084】
電離放射線として、100〜380nmの波長領域の紫外線、または、100nm以下の波長領域の電子線を用いることができる。
当該波長範囲の紫外線および当該波長範囲の電子線を用いることにより、1μm以下の微細パターンを有するストラクチャー層を短時間に安価に製造することができる。
【0085】
紫外線を照射する場合、カーボンアーク、メタルハライドランプ、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯などを用い、100〜380nm、好ましくは200〜300nmの波長領域で紫外線を照射する。
【0086】
電子線を照射する場合、ダイナミトロン型、直線型、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、高周波型などの各種電子線加速器等を用い、100nm以下、好ましくは50nm以下の波長領域で電子線を照射する。
【0087】
次に、スタンパ500を除去する。(図3(e)参照)
【0088】
次に、ストラクチャー層3´´上に平坦化層5を形成する。(図3(f)参照)
【0089】
平坦化層5の形成方法としては、トリメチルアミンとエタノールおよびフルオロアルキルチタンメトキシドの混合液に、エタノールと二酸化硫黄およびフルオロアルキルチタンメトキシドの混合液を加え、その後、チタンエトキシドとエタノールの混合液を加え、その後、水と塩酸およびエタノールの混合液を加えた混合溶液をストラクチャー層3´´上に塗布し、その後、大気中で130〜150℃下にて焼成する方法を用いることができる。
【0090】
平坦化層5の厚みは、2〜6μmとすることができる。
【0091】
平坦化層5上に、ガスバリア層6を積層する。(図4(g)参照)
【0092】
積層方法としては、ガスバリア層6が透明無機物(窒化珪素、または、酸化珪素)である場合、例えば、化学気相成長(CVD)法、プラズマCVD(PECVD)法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子ビーム蒸着法および抵抗加熱法などの真空蒸着法や、レーザーアブレーション法等を用いることができ、中でも、生産性および品質安定性に優れたガスバリア層を形成できるという観点から、プラズマCVD(PECVD)法が好ましい。
【0093】
次に、ガスバリア層6上に、透明電極7を形成する。(図4(h)参照)
【0094】
透明電極7の厚みは、100〜200nmが好ましい。
【0095】
透明電極7の形成方法としては、例えば、透明電極7がZnOの場合、ガスバリア層6上にパターニング用マスクを載置してのイオンプレーティング法を用いることができる。
【0096】
次に、反射防止層4上に撥水層8を形成する。(図4(i)参照)
【0097】
撥水層8の材料としては、パーフルオロシラン、フルオロカーボンを用いることができるが、中でも、撥水性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、または、これらの混合物を使用することが好ましい。
【0098】
撥水層8の形成方法としては、スパッタリング等の物理的気相析出法、プラズマCVD等の化学的気相析出法を用いることができるが、中でも、蒸着速度の速いプラズマCVD法を用いることが好ましい。
【実施例】
【0099】
以下に実施例、比較例および参考例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0100】
また、下記実施例および比較例にて作製された光学用部品の反射防止層とハードコート層の密着、および、光学用部品の(撥水層側から透明電極側への)水蒸気透過率と酸素透過率の評価方法は以下のとおりである。
【0101】
(光学用部品の反射防止層とハードコート層の密着評価(JIS K5600−5−6)(クロスカット法))
光学用部品の反射防止層側に、100個の碁盤目状の切り込みを、隙間間隔1mmのカッターガイドを用いて付け、その上に粘着テープ(ニチバン社製、CT24)を升目状の切り傷面に張り付け、指の腹で圧し、密着させた後、表面から90°の方向に一気に引き剥がして、目視により反射防止層のハードコート層からの剥離状況を確認し、反射防止層が剥離しなかったものを合格(○)、反射防止層が剥離したものを不合格(×)とした。
【0102】
(水蒸気透過率)
JIS K7129 B法を用いて、光学用部品の撥水層側から透明電極側への水蒸気透過率を測定した。
【0103】
(酸素透過率)
JIS K7126 B法を用いて、光学用部品の撥水層側から透明電極側への酸素透過率を測定した。
【0104】
また、下記参考例にて作製された、本発明の光学用部品を内蔵した有機EL表示体の発光効率の測定方法は以下のとおりである。
【0105】
即ち、有機EL表示体に印加される放電維持電圧Vm、その時に有機EL表示体に流れる電流Iを測定し、次に輝度Lを輝度計で測定し、次式により発光効率ηを求めた。(但し、πは円周率であり、Sは輝度の測定面積である)
η=π・S・L/Vm・I
【0106】
<実施例1〜3>
(スタンパの作製)
まず、ガラス板(コーニング社製、1737(商品名))表面を島田理化社製の自動洗浄装置で洗浄し、その後、このガラス板をベーパーオーブン内にて、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)(東京応化工業社製、OAP(商品名))蒸気を用いて、90℃下において2分間ベーパー処理を行った。
【0107】
次に、フォトレジスト(ポジ型フォトレジスト)(東京応化工業社製、OFPR−800(商品名))を、湯浅社製のスピンコーターを用いて、前記ガラス板のベーパー処理面上に、4000rpm30秒間のスピンコート条件にて、膜厚が3±1μmの範囲になるように塗布し、その後、DAITORON社製のクリーンオーブン内で90℃下において50分間プリベークした。
【0108】
次に、レーザー干渉露光装置を用いて、ストラクチャー層を形成する為のパターンを有する光学系マスク(NA(開口数)0.90)を介して、前記プリベークしたフォトレジストに、三方向より入射角度40度にて波長442nmのHeCdレーザーを照射することにより、露光した。
【0109】
次に、0.3%のテトラメチルアンモニウム水溶液を用いて、25℃下において60秒間現像処理を行い、その後、超純水でリンス処理を25秒間行い、その後、乾燥した。
【0110】
次に、DC平行平板型マグネトロンスパッタリング装置(Va−rian社製、XM−8(商品名))内において、スパッタリングターゲットとしてNiターゲット、スパッタガスとして圧力0.3PaのArガスを用いて、初期真空度5×10−3Paにて、RFパワー300Wの条件で、Niをスパッタすることにより、フォトレジスト上に厚さが600ÅのNi導電化層を形成した。
【0111】
次に、以下の様なNi鍍金液を生成した。
スルファルミ酸ニッケル・4水塩・・・500g/L
硼酸・・・・・・・・・・・・・・・・37g/L
pH・・・・・・・・・・・・・・・・3.8
【0112】
次に、40℃に保温した上記Ni鍍金液に、前記Ni導電化層を浸漬し、通電電流時間積分値300AHの条件にて鍍金を行うことにより、前記Ni導電化層上に厚さ300μmのニッケル鍍金膜を形成した。
【0113】
最後に、ガラス板(ストラクチャー形成用スタンパ用基板)およびフォトレジストを剥離することにより、ストラクチャー形成用スタンパを得た。
【0114】
(光学用部品の作製)
まず、メチルエチルケトン(MEK)を用いて、紫外線硬化型アクリルモノマーR128H(商品名)(日本化薬社製)を固形分45質量%に希釈したペーストを、ディップコート法を用いて、厚さ60μmのメタアクリル樹脂フィルム(住友化学社製、テクノロイSN101(商品名))の両面に、膜厚3±1μmになるように塗布し、その後、60℃にて予備乾燥した。
【0115】
次に、前記紫外線硬化型アクリル樹脂R128H(商品名)(日本化薬社製)コーティング面の一方に、MgF(実施例1)、CaF(実施例2)SiO(実施例3)を公知のプラズマCVD法を用いて積層することにより、厚さ103±10nmの反射防止層を形成した。
【0116】
次に、前記紫外線硬化型アクリル樹脂R128H(商品名)(日本化薬社製)コーティング面の他方に、1MPaの圧力をかけて1分間前記ストラクチャー形成用スタンパを圧接した後、前記反射防止層側から750mJ/cmのエネルギーで波長250nmの紫外線を照射して前記紫外線硬化型アクリル樹脂を硬化することによりストラクチャー層を形成し、その後、ストラクチャー形成用スタンパを除去した。
【0117】
ここで、光学用部品の反射防止層とハードコート層の密着評価を行った。
評価結果を表1に示した。
【0118】
【表1】

【0119】
次に、エタノール200部とトリメチルアミン1部およびフルオロアルキルチタンメトキシド10部からなる混合溶液Aを生成した。
【0120】
次に、エタノール200部と二酸化硫黄1部およびフルオロアルキルチタンメトキシド10部からなる混合溶液Bを生成した。
【0121】
次に、チタンエトキシド380部とエタノール3800部からなる混合溶液Cを生成した。
【0122】
次に、水4800部と塩酸4部およびエタノール380部からなる混合溶液Dを生成した。
【0123】
次に、混合溶液Aに混合溶液Bを加え、その後、混合溶液Cを加え、その後、混合溶液Dを加えることにより混合溶液Eを生成し、その後、グラビアコーターを用いて、混合溶液Eをストラクチャー層上に塗布し、その後、140℃下において大気中で焼成することにより、厚さ4±1μmの平坦化層を形成した。
【0124】
次に、プラズマCVD装置(アネルバ社製、平行平板型プラズマCVD装置、PED−401)内に装着し、70℃に加熱した。
【0125】
次に、CVD装置内を、油回転ポンプおよびターボモレキュラーポンプを用いて、到達真空度3.0×10−3Paまで減圧した。
【0126】
次に、プラズマCVD装置のガス導入口から、モノシランガス(SiH)10sccm、アンモニアガス(NH)20sccm、水素ガス(H)400sccmを導入し、プラズマCVD装置の成膜チャンバー内圧力を9.9〜10.1Paに保ち、13.56MHzの周波数を有する電力(投入電力300W)を印加することにより、前記平坦化層上に膜厚が150nm±10nmのSiNを積層することにより、ガスバリア層を形成した。
【0127】
次に、ガスバリア層上にパターニング用マスクを載置して、公知のイオンプレーティング法を用いて、膜厚150nm±12nmのZnOを積層し、透明電極を形成した。
【0128】
次に、前記透明電極を形成した基板を、プラズマCVD装置のチャンバー内に装着し、その後、油回転ポンプおよびターボモレキュラーポンプを用いて、到達真空度3.0×10−3Paまで減圧した。
【0129】
最後に、90kHzの周波数を有する電力(投入電力150W)を印加しながら、前記プラズマCVD装置のガス導入口から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ガスを、10sccm導入し、成膜チャンバー内圧力が33〜34PaになるようにプラズマCVD装置付属の真空ポンプとチャンバーとの間に設けられたバルブの開閉度を制御することにより、反射防止層上に厚さ31±9nmの撥水層を形成し、光学用部品を得た。
【0130】
(光学用部品の評価)
光学用部品の(撥水層側から透明電極側への)水蒸気透過率と酸素透過率の評価結果を表1に示した。
【0131】
<実施例4>
平坦化層を形成しなかった以外は、実施例1と同様の方法を用いて、光学用部品の反射防止層とハードコート層の密着評価、光学用部品の作製および評価を行った。
評価結果を表1に示した。
【0132】
<実施例5>
平坦化層を形成しなかった以外は、実施例2と同様の方法を用いて、光学用部品の反射防止層とハードコート層の密着評価、光学用部品の作製および評価を行った。
評価結果を表1に示した。
【0133】
<実施例6>
平坦化層を形成しなかった以外は、実施例3と同様の方法を用いて、光学用部品の反射防止層とハードコート層の密着評価、光学用部品の作製および評価を行った。
評価結果を表1に示した。
【0134】
<比較例1〜3>
まず、メチルエチルケトン(MEK)を用いて、紫外線硬化型アクリルモノマーR128H(商品名)(日本化薬社製)を固形分45質量%に希釈したペーストを、ディップコート法を用いて、厚さ60μmのメタアクリル樹脂フィルム(住友化学社製、テクノロイSN101(商品名))の両面に、膜厚3±1μmになるように塗布し、その後、60℃にて予備乾燥した。
【0135】
次に、前記紫外線硬化型アクリル樹脂R128H(商品名)(日本化薬社製)コーティング面の一方に、1MPaの圧力をかけて1分間、実施例1で用いたストラクチャー形成用スタンパを圧接した後、前記反射防止層側から750mJ/cmのエネルギーで波長250nmの紫外線を照射して前記紫外線硬化型アクリル樹脂を硬化することによりストラクチャー層を形成し、その後、前記ストラクチャー形成用スタンパを除去した。
【0136】
次に、前記紫外線硬化型アクリル樹脂R128H(商品名)(日本化薬社製)コーティング面の他方に、MgF(比較例1)、CaF(比較例2)SiO(比較例3)を公知のプラズマCVD法を用いて積層することにより、厚さ103±10nmの反射防止層を形成した。
【0137】
ここで、光学用部品の反射防止層とハードコート層の密着評価を行った。
評価結果を表1に示した。
【0138】
次に、平坦化層、ガスバリア層、透明電極、撥水層を実施例1と同様に形成し、その後、実施例1と同様に評価した。
【0139】
評価結果を表1に示した。
【0140】
<参考例1>
(光学用部品を内蔵した有機EL表示体の作製)
まず、3×10−4Pa下において、m−MTDATXAを蒸着速度0.2nm/secにて、実施例1で作製した光学用部品の透明電極(表面温度25±1℃)上に真空蒸着することにより、膜厚50±11nmの正孔輸送層を形成した。
【0141】
次に、3×10−4Pa下において、ATCBPとIr−12を、各々、蒸着速度0.3nm/sec、0.013nm/secにて正孔輸送層(表面温度25±1℃)上に共蒸着することにより、膜厚30±10nmの発光層を形成した。
【0142】
次に、3×10−4Pa下において、バソキュプロインを、蒸着速度0.2nm/secにて発光層(表面温度25±1℃)上に真空蒸着することにより、膜厚10±5nmの正孔阻止層を形成した。
【0143】
次に、3×10−4Pa下において、Alq3(tris(8−hydroxyquinoline)aluminum)を、蒸着速度0.2nm/secにて正孔阻止層(表面温度25±1℃)上に真空蒸着することにより、膜厚40±11nmの電子輸送層を形成した。
【0144】
次に、3×10−4Pa下において、フッ化リチウムを、蒸着速度0.2nm/secにて電子輸送層(表面温度25±1℃)上に真空蒸着することにより、膜厚1±0.5nmの裏面電極バッファー層を形成した。
【0145】
最後に、3×10−4Pa下において、アルミニウムを、蒸着速度1nm/secにて裏面電極バッファー層(表面温度25±1℃)上に真空蒸着することにより、膜厚110±10nmの裏面電極層を形成し、有機EL表示体を得た。
【0146】
有機EL表示体の発光効率の測定結果を図5に示した。
【0147】
<参考例2>
実施例1で作製した光学用部品でなく、実施例2で作製した光学用部品を用いて、参考例1と同様に有機EL表示体を作製し、その後、有機EL表示体の発光効率を測定し、該測定結果を図5に示した。
【0148】
<参考例3>
実施例1で作製した光学用部品でなく、実施例3で作製した光学用部品を用いて、参考例1と同様に有機EL表示体を作製し、その後、有機EL表示体の発光効率を測定し、該測定結果を図5に示した。
【0149】
また、参考例1〜3の有機EL表示体において、反射光の干渉は確認されなかった。
【0150】
本発明の光学用部品は、反射防止層とハードコート層の間の密着、水蒸気バリア性、および、酸素バリア性が優れていることが確認された。
【0151】
また、本発明の光学用部品を内蔵した有機EL表示体は、印加電圧200[V]においても、1.2[lm/W]を超える優れた発光効率を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明の光学用部品およびその製造方法は、各種表示装置、及び、それらを用いた、看板、ネオン等の商業ディスプレイに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明の光学用部品の作製に用いるスタンパの製造方法を説明するための断面図である。
【図2】本発明の光学用部品の製造方法を説明するための断面図である。
【図3】本発明の光学用部品の製造方法を説明するための断面図である。
【図4】本発明の光学用部品の製造方法を説明するための断面図である。
【図5】本発明の光学用部品を内蔵した有機EL表示体の発光効率を説明するための図である。
【符号の説明】
【0154】
1・・・・・・・基材
2・・・・・・・電離放射線硬化型アクリル樹脂(電離放射線未照射)
2´・・・・・・ハードコート層
3・・・・・・・電離放射線硬化型アクリル樹脂
3´・・・・・・ストラクチャーパターン
3´´・・・・・ストラクチャー層
4・・・・・・・反射防止層
5・・・・・・・平坦化層
6・・・・・・・ガスバリア層
7・・・・・・・透明電極
8・・・・・・・撥水層
100・・・・・スタンパ用基板
200・・・・・フォトレジスト
200´・・・・可溶化処理したフォトレジスト
200´´・・・フォトレジスト
300・・・・・Ni導電化層
400・・・・・Niめっき層
500・・・・・スタンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前記基材の両面に前記電離放射線硬化型樹脂をコーティングし、その後、前記基材の一方の面上に形成された前記電離放射線硬化型樹脂上に前記無機化合物を蒸着し、その後、前記基材のもう一方の面上に形成された前記電離放射線硬化型樹脂上に、ストラクチャー形成用スタンパを押圧し、その後、前記無機化合物側から電離放射線を照射することを特徴とする光学用部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造された、反射防止層、ハードコート層、基材、ストラクチャー層が順次積層された光学用部品。
【請求項3】
前記反射防止層が、前記ハードコート層よりも屈折率が小さい無機化合物からなることを特徴とする請求項2に記載の光学用部品。
【請求項4】
前記無機化合物がMgF、CaFまたはSiOであることを特徴とする請求項3に記載の光学用部品。
【請求項5】
前記ストラクチャー層上に平坦化層が形成されたことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の光学用部品。
【請求項6】
前記平坦化層上にガスバリア層が形成されたことを特徴とする請求項5に記載の光学用部品。
【請求項7】
前記ガスバリア層上に透明電極が形成されたことを特徴とする請求項6に記載の光学用部品。
【請求項8】
前記反射防止層上に撥水層が形成されたことを特徴とする請求項2乃至請求項7のいずれか1項に記載の光学用部品。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−98084(P2008−98084A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281193(P2006−281193)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】