説明

光散乱測定装置

【課題】 試料からの微弱な散乱光を、超小角領域まで精度よく検出できる光散乱測定装置を提供する。
【解決手段】 レーザー光源11と、レーザー光源11からの光を集光する第1のレンズ12と、ピンホールdを有するピンホール板13と、第1のレンズ12からピンホールdを介して入射した光を平行光にする第2のレンズ14と、第2のレンズ14から入射した平行光を検出器17の検出面に備えられたビームストッパー16で焦点を結ぶように集光する第3のレンズ15とを設ける。また、ピンホールdとビームストッパー16とを光学的に共役な位置に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源から照射した光を試料に入射させたときに生じる当該試料からの散乱光を測定する光散乱測定装置に関するものであり、より詳細には、超小角領域の散乱光を精度よく測定可能な光散乱測定装置(USALS;Ultra Small Angle Light Scattering)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高分子物質やコロイド溶液、生物等のいわゆるソフトマテリアルにおける微小領域(サブミクロン領域〜サブミリ領域)の構造解析のために、レーザー光散乱装置(LS;Light Scattering、レーザー光散乱測定装置)が用いられている。
【0003】
特に、近年では、レーザー光の指向性の良さとビーム径の細さとを利用して、特別なデバイスを用いることなく、照射光の光軸に対して微小な角度領域(小角領域)の散乱測定を行う小角レーザー光散乱測定装置(SALS;Small Angle Light Scattering、小角レーザー光散乱装置)が用いられるようになっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、光透過性の試料に照射した光の前方散乱光の光量を測定する光学ユニットであって、試料中を直進した透過光を遮蔽する遮蔽部材と、当該遮蔽部材の略全外周囲に亘って配置され且つ試料中で散乱した前方散乱光を検出する散乱光受光手段とから構成され、上記散乱光受光手段によって、透過光の光軸に対して所定の角度範囲(θ〜θ)の前方散乱光を捕捉する光学ユニットを備えたレーザー散乱光測定装置が記載されている。
【特許文献1】特開2000−230901号公報(公開日:2000年8月22日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、透過光の光軸方向に対して微小な角度範囲(例えば実散乱角が1.2度以下の超小角領域)の散乱光を適切に補足できないという問題がある。
【0006】
つまり、特許文献1の技術は、当該文献にも記載されているように、散乱光を補足可能な角度範囲の下限値である最小角度θが5°〜30°程度の場合を前提としている。このため、最小角度θよりもさらに小角な領域の散乱光を適切に補足することができない。
【0007】
また、特許文献1には、最小角度θを5°〜30°に設定することが記載されているだけで、最小角度θと、光源と試料との間に備えられる小孔板との関係は記載されていない。このため、光源と試料との間に備えられる小孔板からの寄生散乱が、試料中で散乱した前方散乱光と一緒に検出されてしまい、試料からの前方散乱光の検出精度が低下するという問題がある。
【0008】
図7は、特許文献1に記載されている光学ユニットと略同様の構成からなる光学ユニットを備えたレーザー光散乱測定装置100の概略構成を示す断面図である。また、図8は、レーザー光散乱測定装置100における、光源101から出射される平行光、光源101からの寄生散乱光、小孔板104を通過する二次的寄生散乱光を示した断面図である。
【0009】
図7に示すように、レーザー光散乱測定装置100は、レーザー光源101とレンズ102と絞り(小孔板)103とからなる光源ユニット110と、環状集光レンズ104とビームストッパー(遮光ブロック)105と集光レンズ106と検出器(受光素子)107とからなる光学ユニット111とを備えている。
【0010】
図8に示すように、レンズ102は、レーザー光源101からの光を環状集光レンズ104およびビームストッパー105の位置に集光する。また、絞り103は、光源101から出射される光の寄生散乱等による非平行成分を取り除くために挿入されている。
【0011】
この図に示すように、絞り103によって光源101からの寄生散乱光の一部を遮蔽できるものの、元の寄生散乱光の二次的寄生散乱光を取り除くことはできない。このため、二次的寄生散乱光が環状集光レンズ104およびビームストッパー105の位置に到達してしまう。
【0012】
図9は、環状集光レンズ104およびビームストッパー105に入射される、試料Sを透過した直接光の光軸に対する角度θと、環状集光レンズ104およびビームストッパー105の位置に到達する二次的寄生散乱光のビーム強度I(θ)との関係を示すグラフである。
【0013】
通常、検出器107に到達する直接光(本影)の大きさは1mmにも満たない点状である。また、試料(検体)Sからの散乱光の強度は試料Sの種類や厚さにもよるが、一般に入射光(直接光)に比べて、百分の1〜10億分の1と非常に微弱である。問題となるのは、入射光(直接光)よりもむしろ入射光のにじみ(寄生散乱)であり、このにじみの範囲を如何に無くすかが散乱装置の小角領域での検出性能に直接関わる部分である。つまり、入射光のにじみ(二次的寄生散乱光)が試料からの散乱光よりも強い場合や試料からの散乱光と同程度の強さの場合には、二次的寄生散乱光が試料からの散乱光の検出精度に大きく影響する。
【0014】
すなわち、このような二次的寄生散乱光が検出器107に到達してしまうと、小角領域において二次的寄生散乱光(入射光のにじみ)と試料Sの散乱光とが一緒に検出されてしまうことになる。このため、二次的寄生散乱光が到達する範囲では、試料Sの散乱光を検出すること、あるいは試料Sの散乱光を精度よく検出することができない。したがって、検出器107において二次的寄生散乱光が検出されないように、二次的寄生散乱光をビームストッパー105で遮光する必要がある。
【0015】
このように、従来のレーザー光散乱測定装置では、光源からの寄生散乱光を完全に除去できないために、試料Sを透過した光源からの直接光の光軸に対する角度が小さい領域(小角領域)において、試料Sによる散乱光を検出することができなかった。したがって、例えば、温度などの外場の変化によりミクロン領域からサブミリ領域まで構造が変化する場合などには、散乱光が超小角領域に隠れてしまうので、従来の技術では測定が不可能であった。
【0016】
また、従来の技術で検出できる小角領域の散乱であっても、散乱光が微弱な場合には、事実上、上記二次的寄生散乱光やバックグラウンドノイズと見比べがつかず、検出結果の定量性に問題があった。このため、ソフトマテリアルの構造解析を適切に行える範囲は、ミクロン領域までに限られていた。
【0017】
光散乱測定においては、可能な限り広い散乱角の範囲で、かつ、高いS/N比(例えばS/N>1)で散乱光を測定することが求められる。ここで、シグナル(S)は散乱光であり、ノイズ(N)となるのは、入射光(直接光、本影)やそのにじみ(寄生散乱光)である。
【0018】
図9は、図8における環状集光レンズ104およびビームストッパー105に到達する光の強度分布を示している。この図に示したように、散乱角が小さく、入射光の光軸方向に近い領域ほど、二次的寄生散乱光(入射光のにじみ)の強度が強くなる。このため、試料からの散乱光と入射光のにじみとの区別がつき難くなり、S/N比が悪くなる(例えばS/N<1となる)。したがって、試料Sの物理的情報を正しく引き出すことができるS/N比を満足する測定が可能な小角側の散乱角には、おのずと制限がある。そして、S/N比が基準(例えばS/N≒1)に満たない小角部分は、ビームストッパーで覆うことになる。なお、ビームストッパーで覆う範囲を設定するための基準(S/N比)は、ノイズの質や統計の特性に応じて設定される。
【0019】
ここで、超小角領域でのバックグラウンドノイズを低減するために、例えば、レーザー光源101とレンズ102との間、あるいはレンズ102と試料Sとの間に、絞り(小孔板)を多重に備えることが考えられるが、この場合にもレーザー光源101からの寄生散乱光を完全に除去することはできないので、小角領域における試料Sからの散乱光の検出性能を十分に向上させることはできない。
【0020】
また、上記したような問題はレーザー光散乱測定装置に限らず、例えばX線散乱測定装置や中性子散乱測定装置などの他の光散乱測定装置においても、同様である。なお、本明細書において、光とは、波動が媒質中(例えば空気中)あるいは真空中を伝搬する現象を生じるもの全般を指すものとし、例えばX線や中性子もこれに含まれるものとする。
【0021】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、試料からの微弱な散乱光を、超小角領域まで精度よく検出できる光散乱測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の光散乱測定装置は、上記の課題を解決するために、光源から照射した光を試料に入射させたときに生じる当該試料からの散乱光を測定する光散乱測定装置であって、上記光源から照射される光を集光する第1の集光手段と、上記光源から照射される光の平行成分を通過させる微小開口を有し、上記光源から照射される光の非平行成分を遮光する収束手段と、上記収束手段を通過した光を集光する第2の集光手段と、上記第2の集光手段によって集光される光を試料に入射させたときに生じる当該試料からの散乱光を検出する検出手段と、を備え、上記収束手段と上記検出器の検出面とが光学的に共役な位置に配置されていることを特徴としている。
【0023】
上記の構成によれば、上記収束手段によって光源から照射される光の非平行成分、すなわち寄生散乱光を効果的に遮光できるので、上記検出手段に対する寄生散乱光の入射面積を極めて小さくできる(原理的には光源から出射された光の平行成分が試料を透過して上記検出手段の検出面に形成する像の面積内に限定できる。)。
【0024】
したがって、従来は超小角領域に隠れて検出できなかった試料からの散乱光、あるいは二次的寄生散乱光によるバックグラウンドノイズと区別できなかった試料からの散乱光を精度よく測定することができる。すなわち、上記検出手段における検出面の位置と光学的に共役となる位置に微小開口を有する収束手段を備えることにより、光源から出射される光の広がり(寄生散乱)によるバックグラウンドノイズを非常に小さく(原理的にゼロに)することができるので、試料からの微弱な散乱光を、超小角領域まで非常に低いノイズレベルで精度よく測定することができる。
【0025】
また、上記のような収束手段を、上記検出手段の検出面と光学的に共役な位置に設けるだけでこのような効果を得られるので、試料からの散乱光を超小角領域まで精度よく検出できる光散乱測定装置を、製造コストを増大させることなく、容易に実現することができる。
【0026】
また、本発明の他の光散乱測定装置は、上記の課題を解決するために、光源から照射した光を試料に入射させたときに生じる当該試料からの散乱光を測定する光散乱測定装置であって、上記光源から照射される光を集光する第1の集光手段と、上記光源から照射される光の平行成分を通過させる微小開口を有し、上記光源から照射される光の非平行成分を遮光する収束手段と、上記収束手段を通過した光を集光する第2の集光手段と、上記第2の集光手段によって集光される光を試料に入射させたときに生じる当該試料からの散乱光を検出する検出手段と、上記第2の集光手段によって集光されて上記試料を透過した光を遮光する遮光手段と、を備え、上記収束手段と上記遮光手段とが光学的に共役な位置に配置されている構成としてもよい。
【0027】
上記の構成によれば、上記収束手段によって光源から照射される光の非平行成分、すなわち寄生散乱光を効果的に遮光できるので、上記遮光手段に対する寄生散乱光の入射面積を極めて小さくできる(原理的には光源から出射された光の平行成分が試料を透過して上記遮光手段に形成する像の面積内に限定できる。)。これにより、上記検出手段に対する寄生散乱光の入射面積を極めて小さくできる。
【0028】
したがって、従来は超小角領域に隠れて検出できなかった試料からの散乱光、あるいは二次的寄生散乱光によるバックグラウンドノイズと区別できなかった試料からの散乱光を精度よく測定することができる。すなわち、上記遮光手段の位置と光学的に共役となる位置に微小開口を有する収束手段を備えることにより、光源から出射される光の広がり(寄生散乱)によるバックグラウンドノイズを非常に小さく(原理的にゼロに)することができるので、試料からの微弱な散乱光を、超小角領域まで非常に低いノイズレベルで精度よく測定することができる。
【0029】
また、上記のような収束手段を、上記遮光手段と光学的に共役な位置に設けるだけでこのような効果を得られるので、試料からの散乱光を超小角領域まで精度よく検出できる光散乱測定装置を、製造コストを増大させることなく、容易に実現することができる。
【0030】
また、上記光源から照射された光の平行成分が、この光の径路に試料を挿入しないときに上記検出手段の検出面に形成する像の半径をa、測定時に上記試料を挿入する位置と上記検出手段における検出面との距離をbとしたときに、tan−1(a/b)が1.2度以下であってもよい。
【0031】
上記検出手段の検出面または上記遮光手段と光学的に共役な位置に上記収束手段を備えない従来の光散乱測定装置では、試料からの散乱光を測定可能な小角側の限界角度は約1.2度であった。これに対して、上記の構成によれば、従来の光散乱測定装置よりも小角な領域(超小角領域)における試料からの散乱光の測定を精度よく行うことができる。
【0032】
また、上記微小開口の直径が上記光源から照射される光の波長以上1mm以下であってもよい。
【0033】
上記の構成によれば、上記微小開口の直径を1mmとすることにより、上記検出手段の検出面または上記遮光手段と光学的に共役な位置に上記収束手段を備えない従来の光散乱測定装置よりも、試料からの散乱光を測定可能な小角側の限界角度を小さくすることができる。
【0034】
また、上記微小開口の直径は、原理的には、光学回析が顕著になる光源から照射される光の波長まで小さくすることが可能である。そして、上記微小開口の直径を小さく絞ることにより、試料からの散乱光の検出に有効な最小の実散乱角をさらに小さくすることができる。すなわち、上記微小開口の直径を適切に設定することにより、試料からの散乱光の検出に有効な小角側の限界角度を、原理的には1/1000程度にまで小さくすることができる。
【0035】
したがって、上記微小開口の直径を上記光源から照射される光の波長以上0.1mm以下とすることにより、試料からの散乱光の検出に有効な小角側の限界角度をより小さくすることができる。
【0036】
また、上記第1の集光手段によって集光された光が、上記微小開口における当該光の光軸に垂直な面の中心で焦点を結ぶことが好ましい。
【0037】
上記第1の集光手段によって集光される光の焦点を上記微小開口における当該光の光軸に垂直な面の中心とすることにより、上記光源から照射される光の平行成分を適切に通過させるとともに、非平行成分を適切に遮光することができる。したがって、上記検出手段に到達する上記光源から照射された光の非平行成分を適切に遮光できるので、試料からの微弱な散乱光を、超小角領域まで非常に低いノイズレベルで精度よく測定することができる。
【0038】
また、上記遮光手段は、上記試料を透過した光の入射面に、当該光の進行方向に凹んだ凹部を備えていてもよい。
【0039】
上記の構成によれば、上記遮光手段に入射した光が外部に漏れて迷光を生じることを防止できる。したがって、上記のような迷光によって散乱光の測定精度が低下することを防止できる。
【0040】
また、上記遮光手段は、上記試料を透過した光の光量を減少させる半透過部材からなるものであってもよい。
【0041】
上記の構成によれば、上記試料を透過した光の光量を減じて上記検出手段に入射させることができる。これにより、上記検出手段が上記試料を透過した光によって損傷を受けることを防止するとともに、当該検出手段によって上記試料を透過した光の測定(透過率測定)を行うことができる。
【0042】
また、上記光源と第1の集光手段との間に、上記光源から照射される光の一部を遮光する第2の収束手段を備えてもよい。上記の構成によれば、バックグラウンドノイズをより効果的に低減できるので、試料からの散乱光の検出精度をさらに向上させることができる。
【0043】
また、上記第2の集光手段と試料との間に、上記光源から照射される光の一部を遮光する第3の収束手段を備えてもよい。上記の構成によれば、上記収束手段のエッジ、あるいは各レンズの表面の微細な埃や傷などから生じる微弱な乱反射等をカットすることができる。したがって、試料からの散乱光の検出精度をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0044】
以上のように、本発明の光散乱測定装置は、上記収束手段と上記検出器の検出面とが光学的に共役な位置に配置されている。
【0045】
それゆえ、上記収束手段によって光源から照射される光の非平行成分(寄生散乱光)を効果的に遮光できるので、上記検出手段に対する寄生散乱光の入射面積を極めて小さくできる。したがって、試料からの微弱な散乱光を、超小角領域まで非常に低いノイズレベルで精度よく測定することができる。
【0046】
また、上記収束手段を、上記検出手段の検出面と光学的に共役な位置に設けるだけでこのような効果を得られるので、試料からの散乱光を超小角領域まで精度よく検出できる光散乱測定装置を、製造コストを増大させることなく、容易に実現することができる。
【0047】
また、本発明の他の光散乱測定装置は、上記収束手段と上記遮光手段とが光学的に共役な位置に配置されている。
【0048】
それゆえ、上記収束手段によって光源から照射される光の非平行成分(寄生散乱光)を効果的に遮光できる。これにより、上記遮光手段に対する寄生散乱光の入射面積を極めて小さくでき、その結果、上記検出手段に対する寄生散乱光の入射面積を極めて小さくできる。したがって、試料からの微弱な散乱光を、超小角領域まで非常に低いノイズレベルで精度よく測定することができる。
【0049】
また、上記収束手段を、上記遮光手段と光学的に共役な位置に設けるだけでこのような効果を得られるので、試料からの散乱光を超小角領域まで精度よく検出できる光散乱測定装置を、製造コストを増大させることなく、容易に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
本発明の一実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかる光散乱測定装置であるレーザー光散乱測定装置1の概略構成を示す断面図である。
【0051】
図1に示すように、レーザー光散乱測定装置1は、レーザー光源(光源)11、第1のレンズ12、ピンホール板(収束手段、寄生散乱除去手段)13、第2のレンズ14、第3のレンズ15、ビームストッパー(遮光手段)16、検知器(散乱光検出手段)17を備えている。
【0052】
レーザー光源11は、試料Sに照射する光を生成するものである。より詳細には、レーザー光源11は、第1のレンズ12に平行光を照射する。なお、レーザー光源11の構成は特に限定されるものではなく、例えば固体レーザー、液体レーザー、気体レーザー、半導体レーザーなどを用いることができる。
【0053】
ピンホール板13は、直径0.1mmのピンホールdを有している。ピンホール板13の材質は、ピンホールd以外の位置でレーザー光源11からの光を遮光できるものであればよい。
【0054】
第1のレンズ12は、レーザー光源11から出射された平行光(レーザー光源11から照射される光の平行成分)を、ピンホール板13に設けられたピンホールdの位置に集光するように備えられている。すなわち、レーザー光源11から出射された平行光は、第1のレンズ12によって集光され、ピンホール板13に設けられたピンホールdの中心(上記平行光の光軸方向に垂直な面における中心)で焦点を結んでピンホールdを通過するようになっている。
【0055】
第2のレンズ14は、ピンホール板13に設けられたピンホールdを通過したレーザー光源11からの光を、平行光にして第3のレンズ15に入射させるものである。
【0056】
第3のレンズ15は、第2のレンズ14によって平行光にされたレーザー光源11からの光を、試料Sに照射し、試料Sを介して検出器17の直前に配置されたビームストッパー16に集光するものである。すなわち、第3のレンズ15を通過したレーザー光源11からの光は、試料Sに照射される。そして、この試料Sを透過した光である直接光は、ビームストッパー16の中心(直接光の光軸方向に垂直な面における中心)で焦点を結ぶ。
【0057】
図2は、ビームストッパー16に入射される直接光の光軸方向に対する角度θと、ビーム強度I(θ)との関係を示すグラフである。この図に示すように、ビームストッパー16に入射する光の面積は、レーザー光源11から出射された平行光(本影)の入射面積部分だけである。なお、試料Sで散乱した散乱光は、検出器17におけるビームストッパー16で覆われていない領域に入射し、この散乱光が検出器17によって測定される。
【0058】
ビームストッパー16は、レーザー光源11からの直接光、すなわち試料Sを透過したレーザー光源11からの光が検出器17に入射しないように遮光するものである。
【0059】
図3はビームストッパー16の断面図である。この図に示すように、ビームストッパー16は、検出器17の検出面に近接する位置に備えられている。また、ビームストッパー16の形状は、直接光の光軸に対して垂直な方向の断面が直径2.5mmの略円形であり、直接光の光軸に対して平行な方向の長さ(高さ)が2mmとなっている。
【0060】
また、ビームストッパー16における直接光の入射面には、中心に向かうほど深く掘り込まれた擂り鉢状の凹部16aが形成されている。この凹部16により、ビームストッパー16に入射した直接光が外部に漏れて迷光を生じないようになっている。
【0061】
また、ビームストッパー16における直接光の入射面は、乱反射を生じないように艶消しの黒色に着色されている。なお、ビームストッパー16の材質は、試料Sを透過した光を遮光でき、かつ、乱反射を生じないものであれば特に限定されるものではなく、例えば真鍮やアルミニウムなどの加工が容易な材料を用いてもよい。
【0062】
検出器(二次元検出器)17は、直接光の光軸に垂直な面内に配された多数の受光素子(光電変換素子)を備えている。これにより、各受光素子に入射された試料Sからの散乱光の光量に応じた電気信号を生成し、試料Sからの散乱光の2次元分布および光量を検出するものである。
【0063】
なお、ピンホール板13に設けたピンホールdの直径は0.1mm、ピンホール板13と第2のレンズ14との間隔は2.5cm、第2のレンズ14と検出器17との間隔は50cm、試料Sと検出器17との間隔(カメラ距離)は46cmである。
【0064】
以上のように、本実施形態にかかるレーザー光散乱測定装置1では、レーザー光源11から出射される平行光が、ピンホール板13におけるピンホールdの位置、および、ビームストッパー16の位置で焦点を結ぶ。すなわち、ピンホール板13とビームストッパー16とは互いに共役となる位置に備えられている。
【0065】
これにより、レーザー光源11からの寄生散乱光を効果的に遮光できるので、検出器17における寄生散乱光の入射面積を極めて小さく、原理的にはレーザー光源11から出射された平行光(本影)が試料Sを透過してビームストッパー16に投影されてなる像の面積内に限定できる。
【0066】
この点について、さらに詳しく説明する。一般に、光束の径に制限を加える場合には、目的とする本影以外に目的としない寄生散乱光が必ず発生する。このため、例えば上記した従来技術の構成を示す図8では、光源101出口での寄生散乱等による非平行成分を除く目的で絞り103が設けられているが、元の寄生散乱の二次的寄生散乱を防ぐことができない。したがって、従来は、検出器に到達する二次的寄生散乱光により、超小角領域における試料からの散乱光を検出できなかった。あるいは、試料からの微弱な散乱光を、二次的寄生散乱によるバックグラウンドノイズと区別することが困難であり、測定結果の定量性に問題があった。
【0067】
一方、本実施形態にかかるレーザー光散乱測定装置1におけるピンホール板13(ピンホールd)でも二次的寄生散乱は生じるものの、ピンホールdの径を十分に小さくすれば、二次的寄生散乱の発生源はピンホールdの中心に近似できる。この場合、ピンホールdの中心を通過する光は、本影と寄生散乱の区別無く、第2のレンズ14の下流において平行光となる。そして、発散する成分を取り除かれた平行光は、第3のレンズ15により、検出器17の検出面に配置されたビームストッパー16で原理的に一点に焦点を結ぶ。したがって、この焦点以外での二次的寄生散乱によるバックグラウンドノイズは原理的にゼロとなる。
【0068】
すなわち、第1のレンズ12によって集光される光の焦点をピンホール13の中心とすることにより、レーザー光源11から照射される光の平行成分を適切に通過させるとともに、非平行成分を適切に遮光することができる。したがって、検出器17に到達するレーザー光源11から照射された光の非平行成分(寄生散乱光)を適切に遮光できるので、試料Sからの微弱な散乱光を、超小角領域まで非常に低いノイズレベルで精度よく測定することができる。
【0069】
また、本影のみを遮光するサイズのビームストッパーを設けることで、本影以外の領域では寄生散乱光が検出器に入射せず、試料からの散乱光だけを検出することができる。それゆえ、従来は超小角領域に隠れて検出できなかった試料からの散乱光、あるいは二次的寄生散乱光によるバックグラウンドノイズと区別できなかった試料からの散乱光を精度よく測定することが可能である。すなわち、ビームストッパー位置と光学的に共役となる位置にピンホールを設けたピンホール板(収束光学系)を用いることにより、入射レーザー光の広がり(寄生散乱)によるバックグラウンドノイズを原理的にゼロにすることができるので、試料からの微弱な散乱光を、超小角領域まで非常に低いノイズレベルで有効に測定することが可能である。
【0070】
また、ピンホール板13を、ビームストッパー16と光学的に共役な位置に設けるだけでこのような効果を得られるので、製造コストを増大させることなく、容易に超小角領域における散乱測定の精度を向上させることができる。
【0071】
なお、上記したように、本実施形態におけるレーザー光散乱装置1では、ピンホール板13に設けたピンホールdの直径は0.1mm、ピンホール板13と第2のレンズ14との間隔を2.5cm、第2のレンズ14と検出器17との間隔を50cm、試料Sと検出器17との間隔(カメラ距離)を46cmとしている。
【0072】
この場合、直径0.1mmのピンホールdを通過した光は、(50cm/2.5cm)×0.1mm=2mmより、検出器17では直径2mmの直接光として投影される。
【0073】
レーザー光散乱測定装置1では、この直接光を、余裕を持って覆うことができるように、ビームストッパー16の直接光の光軸に垂直な面の直径を2.5mm(半径0.125cm)としている。したがって、散乱光の検出に有効な最小の実散乱角は、tan−1(0.125/46)=0.156度となっている。なお、鏡面反射角や結晶学でいう散乱角は、この実散乱角の半分である。
【0074】
一方、ビームストッパー16と共役となる位置にピンホール(絞り)dを設けない従来の構成では、カメラ距離(試料(検体)Sと検出器17との距離)が46cmの場合、直径20mm(半径1cm)程度のビームストッパーが必要であった。これを実散乱角になおすと、tan−1(1/46)=1.2度ということになる。したがって、この場合、実散乱角が1.2度未満の測定は不可能である。
【0075】
なお、レーザー光散乱測定1において、散乱光の検出に有効な最小の実散乱角が1.2度となる場合(直径20mmのビームストッパー16が必要となる場合)のピンホールdの直径d1は、(50cm/2.5cm)×d1=20mmより、1mmである。したがって、レーザー光散乱測定装置1において、直径1mm以下のピンホールdを有するピンホール板13を用いることにより、従来の光散乱測定装置よりも、散乱光の検出に有効な最小の実散乱角を小さくすることができる。
【0076】
したがって、本実施形態にかかるレーザー光散乱装置1では、ビームストッパー16と光学的に共役な位置にピンホールdを設けない従来の構成に比べて、約1桁小さい散乱角まで測定することが可能である。
【0077】
なお、第1のレンズ12とピンホール板13との間隔は特に限定されるものではない。第1のレンズ12とピンホール板13との間隔が5cm〜10cmであれば試料Sの散乱光測定に悪影響を与えないことを実際に確認した。また、上記した以外の各部材間の間隔は任意に設定すればよい。
【0078】
また、本実施形態では、ピンホール板13に設けるピンホールdの直径を0.1mmとしているが、これに限るものではない。ピンホールdの直径は、原理的には、光学回析が顕著になるレーザー光源11から照射される光の波長(数百nm)まで小さくすることが可能である。したがって、ピンホールdの直径を小さく絞ることにより、散乱光の検出に有効な最小の実散乱角をさらに小さくすることができる。すなわち、レーザー光散乱測定装置1において、ピンホールdの直径を適切に設定することにより、光散乱実験(散乱光測定)で測定可能な小角側の限界角度(散乱光の検出に有効な最小の実散乱角)を、少なくとも従来の1/10以下、原理的には1/1000程度にまで小さくすることができる。
【0079】
言い換えれば、入射光のにじみ(寄生散乱)を切ることこそが、散乱光の検出に有効な最小の実散乱角を小さくするため、あるいは小角領域における微弱光の測定精度を向上させるためのカギであり、本発明によって入射光のにじみ(寄生散乱)が抑制できるからこそ、ビームストッパー16の直径を小さくできるといえる。
【0080】
また、レーザー光散乱測定装置1における各部材の寸法および各部材間の間隔(距離)は、上記した数値に限るものではない。また、第1のレンズ12、第2のレンズ14、第3のレンズ15の屈折率についても適宜設定すればよい。ただし、上記したように、試料Sに照射する直接光の面積が小さくなると、試料Sの散乱光の検出において、顕微性が増す代わりに統計的平均性は低下する。逆に、試料Sに照射する直接光の面積が大きくなると、試料Sの散乱光の検出において、顕微性が低下する代わりに統計的平均性は増す。
【0081】
したがって、第3のレンズ15の屈折率、および、第3のレンズ15と試料Sとの距離は、測定したいデータの特性に応じて、ピンホールdの直径を設定することが好ましい。なお、より小角な領域まで測定したい場合には、第3のレンズ15の屈折率を小さくし、第3のレンズ15と試料Sとの間隔を狭く(試料Sと検出器17の検出面との間隔(カメラ距離)を広く)設定すればよい。逆に、広角領域の測定が必要な場合には、第3のレンズ15の屈折率を大きくし、第3のレンズ15と試料Sとの間隔を広く(試料Sと検出器17の検出面との間隔を狭く)設定すればよい。
【0082】
また、レーザー光散乱装置1では、第1のレンズ12の焦点を精度よくピンホールdの中心(第1のレンズ12によって集光される光の光軸方向に垂直な面における中心)に設定し、かつ、第3のレンズ15の焦点を精度よく検出器17の検出面に配置されたビームストッパー16の中心(ビームストッパー16に入射する直接光の光軸方向に垂直な面の中心)に設定することが好ましい。第1のレンズ12および第3のレンズ15をこのように設定することにより、レーザー光源11からの寄生散乱光を適切に遮光できるので、ビームストッパー16によって二次的寄生散乱光が検出器17における検出面に到達することを確実に防止でき、散乱光の検出に有効な最小の実散乱角を小さくすることができる。
【0083】
また、本実施形態では、第1のレンズ12、第2のレンズ14、第3のレンズ15を備えた構成について説明しているが、これに限るものではなく、ピンホールdとビームストッパー16または検出器17の検出面とが互いに光学的に共役な位置に設けられていればよい。また、第1のレンズ12、第2のレンズ13、第3のレンズ14は、それぞれ、複数のレンズからなるレンズ群であってもよい。
【0084】
また、ビームストッパー16の形状は、図3に示した形状に限るものではなく、少なくとも試料Sを透過した直接光を遮光できる形状であればよい。すなわち、レーザー光散乱測定装置1では、上記したように、レーザー光源11からの寄生散乱光をピンホール板13で適切に遮光しているので、レーザー光源11からの直接光を遮光することにより、原理的には試料Sからの散乱光以外のレーザー光源11から出射された光を全て遮光できることになる。
【0085】
なお、ビームストッパー16の光軸方向に垂直な面の面積が大きいほど、検出器17において試料Sからの散乱光を検出できる面積が小さくなる(測定可能な角度範囲の下限値が狭くなる)ので、ビームストッパー16における光軸方向に垂直な面の面積は、レーザー光源11からの直接光を遮光できる範囲内で、できるだけ小さくすることが好ましい。ただし、ピンホールdの位置がビームストッパー16または検出器17の検出面に対してわずかにずれている場合など、寄生散乱光を適切に遮光できない場合には、ビームストッパー16のサイズを、寄生散乱光を遮光できるサイズにすることが好ましい。
【0086】
また、本実施形態では、ビームストッパー16を検出器17の検出面上に配置しているが、これに限るものではない。例えば、検出面よりもレーザー光源11側に配置してもよい。また、ビームストッパー16の一部または全部が検出器17の検出面内に入り込んだ構成としてもよい。
【0087】
ただし、ビームストッパー16が検出器17の検出面から試料S側に離れた位置にあるほど、上記検出手段の検出面において、試料からの散乱光に対して当該遮光手段の影となる部分の面積が大きくなる。また、検出面に対して試料Sと反対側に離れた位置にある場合には、検出面に投影される直接光の面積が大きくなる。したがって、ビームストッパー16は、検出器17の検出面に近接する位置に設けることが好ましい。これにより、検出器17における、試料Sからの散乱光を測定可能な面積を大きくすることができる。すなわち、より小角な領域まで測定することができる。
【0088】
なお、ビームストッパー16を検出器17の検出面に対して試料Sと反対側に配置する場合、ピンホール13と検出器17の検出面とが光学的に共役な位置となるように配置してもよい。
【0089】
また、例えば、検出器17が直接光のビーム強度に対して十分な耐久性を有する場合には、ビームストッパー16を設けず、試料Sを透過した直接光がそのまま検出器17に入射する構成としてもよい。この場合、検出器17における検出面と光学的に共役な位置にピンホールdが位置するようにすればよい。
【0090】
また、例えば、図3に示したビームストッパー16に代えて、図4に示すビームストッパー18を用いてもよい。
【0091】
ビームストッパー18は、この図に示すように、直接光の入射面が、その中心に向かうほど深く掘り込まれた擂り鉢状の凹部18aを有し、その中心部分に検出器17側まで貫通した貫通孔18bを備え、この貫通孔18b内にND(ニュートラル デンシティ フィルタ)フィルター19を備えている。ここで、NDフィルター19は、半透過性の部材であり、試料Sを透過した光の光量を、検出器17が耐えうる程度の光量にまで減じるためのものである。なお、貫通孔18bのサイズは特に限定されるものではないが、例えば0.5mm〜1mm程度とすればよい。また、ビームストッパー18の色、材質については、ビームストッパー16と同様に選択すればよい。
【0092】
このように、貫通孔18bおよびNDフィルター19を備えた半透過型のビームストッパー18を用いることにより、検出器17におけるビームストッパー18の背後に位置する領域を、透過光(直接光)モニターとして用いることができる。すなわち、直接光の光量を減じて検出器17に入射させることにより、検出器17が直接光によって損傷を受けることを防止するとともに、検出器17によって直接光の測定を行うことができる。また、NDフィルター等の半透過部材のみからなるビームストッパーを用いてもよく、この場合にもビームストッパー18を備える場合と略同様の効果を奏する。
【0093】
また、レーザー光源11から試料Sまでの光路中に、ピンホール板13に加えて、さらに他のピンホール板(絞り)を設けてもよい。例えば、図11に示すように、光源11とレンズ12との間にピンホール板(絞り)21を挿入してもよい。このピンホール板21に設けるピンホールの直径は、特に限定されるものではないが、例えば2mmとしてもよい。この場合、レンズ12とレンズ14の作用により、レンズ14の下流における光束の直径を1mm以下とすることができる。したがって、バックグラウンドノイズをより効果的に低減できるので、試料Sからの散乱光の検出精度をさらに向上させることができる。
【0094】
また、図11に示すように、レンズ15とサンプルSとの間にピンホール板(絞り)22を挿入してもよい。このピンホール板22に設けるピンホールの直径は、特に限定されるものではないが、例えば1mmとしてもよい。ピンホール板22を設けることにより、ピンホール板21および13のエッジ、あるいは各レンズの表面の微細な埃や傷から生じる微弱な乱反射等をカットすることができるので、試料Sからの散乱光の検出精度をさらに向上させることができる。なお、各ピンホール板のピンホールの中心と、光束の中心とを一致させることが好ましい。
【0095】
また、本実施形態では、ピンホールdとビームストッパー16または検出器17の検出面を光学的に共役な位置に配置するとしている。ここで、光学的に共役な位置とは、必ずしも厳密に共役でなくても、実質的に共役とみなせる位置であればよい。例えば、各部材の公差や組み立て誤差程度のずれであれば、十分に本発明の効果を得ることができる。なお、ビームストッパー16または検出器17と光学的共役となる位置からずれが生じる可能性がある場合には、ビームストッパー16における直接光の光軸に垂直な面の面積を、直接光の入射面積よりもやや大きくしておくことが好ましい。
【0096】
また、本実施形態では、光源としてレーザー光源を用いた光散乱測定装置について説明したが、本発明を適用できる対象はこれに限るものではない。例えば、本発明の概念を、レーザー光以外の光を用いた光散乱測定装置に適用することも可能である。なお、本明細書における光とは、電場と磁場の振動が媒質中(例えば空気中)あるいは真空中を伝搬する現象を生じるもの全般を指す。
【0097】
例えば、X線や中性子なども本明細書における光に含まれる。すなわち、本発明の概念は、X線散乱測定装置(光散乱測定装置)や中性子散乱測定装置(光散乱測定装置)に適用することもでき、検出器の検出面またはビームストッパーと共役となる位置に絞り(収束手段)を設けることにより、レーザー光散乱測定装置に適用する場合と略同様の効果を得ることができる。
【0098】
なお、本発明を小角X線散乱測定装置に適用する場合、本実施形態に記載したレーザー光散乱測定装置1における各部材に代えて、あるいはレーザー光散乱測定装置1における各部材に加えて、X線散乱測定装置の分野で従来から公知の種々の部材を用いることができる。例えば、レーザー光散乱測定装置における光学レンズと同様の機能を担う部材(集光手段)として、M. Awaji, Y. Suzuki, A. Takeuch, H. Takano, N. Kamijo, S. Tamura, M. Yasumoto, 「X-ray imaging microscopy at 25keV with Fresnel zone plate optics」, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A, (Netherland(オランダ)), Elsevier(エルゼビア), 2001年7月21日, vol 467-468, 第2号, p.845-847 に記載されているフレネル・ゾーンプレート(Fresnel zone plate)などを用いることができる。また、X線源(光源)として、X線管球や回転対陰型X線発生装置、シンクロトロン放射光発生装置などを用いることができる。
【0099】
同様に、本発明を小角中性子散乱測定装置に適用する場合にも、本実施形態に記載したレーザー光散乱測定装置1における各部材に代えて、あるいはレーザー光散乱測定装置1における各部材に加えて、中性子散乱測定装置の分野で従来から公知の種々の部材を用いることができる。例えば、集光手段として、H. M. Shimizu, T. Adach, M. Furusaka, Y. Kiyanagi, T. Oku, H. Sasao, T. Shinohara, J. Suzuki, 「Neutron optics and a superconducting magnetic lens for small-angle neutron scattering with focusing geometry」, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A, (Netherland(オランダ)), Elsevier(エルゼビア), 2004年8月21日, vol 529, 第1-3号, p.5-9に記載されている磁気レンズ(magnetic lens)や、物質レンズ(中性子線に対する密度に勾配を持たせた部材)を用いることができる。また、中性子源(光源)として、原子炉を用いてもよく電子加速器や陽子加速器を用いてもよい。
【0100】
〔測定例1〕
本実施形態にかかるレーザー光散乱装置1を用いて行った散乱測定結果の一例について説明する。
【0101】
なお、この測定では、レーザー光散乱測定装置1における検出器17として、アド・サイエンス社のShad-o-Box 2048を用いた。なお、このShad-o-Box 2048は、直径48μmのフォトダイオードからなるピクセルを1024×2048ピクセル備えた2次元配列のフォトダイオードアレイからなるX線および光用の2次元検出器である。
【0102】
また、試料Sとして、電子顕微鏡用の格子間隔0.127mmの試料メッシュ(応研商事株式会社から購入。カタログ番号:DN200メッシュ)を用いた。
【0103】
図5(a)は、上記検出器17による二次元の回折パターンであり、図5(b)は、その一次元の強度分布を示すグラフである。
【0104】
図5(b)に示すように、レーザー光散乱測定装置1によれば、肉眼でも見える程の格子からの一次の回折ピーク(一次ピーク)を僅か46cmのカメラ距離(試料Sと検出器17との距離)で完全に分解(測定)することができた。しかも、一次ピークとビームストッパーの影(0〜26ピクセル、図中a参照)との間の極小角領域(図中b参照)でのバックグラウンドノイズも広角領域のバックグラウンドノイズ(図中c参照)と同程度に低かった。
【0105】
〔測定例2〕
本実施形態にかかるレーザー光散乱装置1を用いて行った散乱測定結果の他の例について説明する。なお、測定に用いた検出器17は、測定例1と同じものである。
【0106】
試料Sとして、厚さ100nmのポリスチレンとポリビニルメチルエーテルとをブレンドした高分子薄膜を用意し、この試料Sの加熱による相分離過程を観察した。
【0107】
また、比較のために、ビームストッパー16と共役となる位置にピンホールを備えない従来の構成からなるレーザー光散乱装置を用いて同一試料を観察した。なお、この比較用のレーザー光散乱装置は、図8に示した絞り103のような絞りを多重に挿入することにより、小角領域でのノイズレベルの低減を図ったものを用いた。
【0108】
図6(a)は、上記した比較用のレーザー光散乱装置による想定結果を示すグラフであり、図6(b)は、本実施形態にかかるレーザー光散乱測定装置1による測定結果を示すグラフである。なお、図6(a)および図6(b)において、横軸は散乱ベクトルと呼ばれる散乱角の関数(q=4πsinθ/λ、λは光の波長であり、この測定ではλ=0.633μm)であり、縦軸は検出器17によって検出した光の強度I(q)である。
【0109】
図6(a)および図6(b)に示すように、ビームストッパー近傍の無効データ(各図における点線部)のノイズレベルは、図6(b)の方が1桁以上低くなっている。これにより、本実施形態にかかるレーザー光散乱測定装置1では、比較用のレーザー光散乱測定装置に比べて、ビームストッパー近傍の超小角領域における散乱光を測定可能になっていることがわかる。
【0110】
また、各図における点線の右側に示した有効データにおいても、ビームストッパーに近い小角領域におけるノイズレベルが大幅に低減されていることがわかる。これにより、ピーク強度が小さい散乱光についても構造を反映した極大の位置を同定することが可能となっている。したがって、薄膜などの微弱な散乱しか得られない試料に対しても超小角領域での定量的解析が可能である。
【0111】
〔測定例3〕
本実施形態にかかるレーザー光散乱装置1を用いて行った散乱測定結果のさらに他の例について説明する。この測定例は、レーザー光散乱装置1を用いて、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムとポリビニルアルコールとの混合水溶液(モル比4:6、合計濃度1.2mol/l)を室温から59度へ昇温させた際に形成される凝集構造の形成過程を時分割測定したものである。
【0112】
本測定例では、レーザー光散乱装置1の構成を図11に示すように変更して測定を行った。
【0113】
つまり、サンプルSに入射する光束の直径を1mm以下とする目的のため、光源11とレンズ12との間に直径2mmのピンホールを有するピンホール板(絞り;第2の収束手段)21を挿入した。なお、この場合、レンズ12とレンズ14の作用によりレンズ14の下流では光束の直径が1mm以下となる。
【0114】
また、レンズ15とサンプルSとの間に直径1mmの補助的なピンホールを有するピンホール板(絞り;第3の収束手段)22を挿入した。このピンホール板22を設けることにより、ピンホール板21および13のエッジ、あるいは各レンズの表面の微細な埃や傷から生じる微弱な乱反射等をカットすることができる。
【0115】
また、この測定例では、レーザー光散乱装置1における各部の寸法を、下記のように設定して測定を行った。なお、検出器17については、測定例1および2と同じものを用いた。
【0116】
光源11とレンズ12との間隔を1mとした。なお、この値は特に限定されるものではなく、任意に設定してもよい。
【0117】
レンズ12とピンホール13との間隔を10cm+α(α=数ミリ〜1cm程度)とした。これは、レンズ12として焦点距離10cmのレンズを用いていたが、レーザー光の僅かな発散角により、ピンホール13で焦点を結ばせるには、原理的焦点距離10cmより僅かに長く設定する必要があったためである。つまり、本測定例では、レンズ12とピンホール13との間隔を、光源から出射されてレンズ12を通過した光がピンホール13(ピンホール13の中心)で焦点を結ぶように設定した。
【0118】
ピンホール13とレンズ14との間隔を5cmとした。なお、レンズ14として焦点距離5cmのレンズを用いた。
【0119】
レンズ14とレンズ15との間隔を20cmとした。なお、この値は特に限定されるものではなく、任意に設定してもよい。
【0120】
レンズ15と検出器17との間隔を40cmとした。なお、レンズ15として焦点距離40cmのレンズを用いた。
【0121】
サンプルSと検出器17との間隔(カメラ距離)を14cmとした。なお、この測定例では、比較的広角(q値の大きい領域)までデータが必要であったので、限られた検出器17の検出面積を有効に利用するため、カメラ距離を比較的短く(14cm)設定した。
【0122】
ピンホール13の直径を0.3mmとした。また、ビームストッパー16の直径を4mmとした。なお、本測定例では、汎用性を考えてピンホール13およびビームストッパー16の直径を製造限界に対して余裕のある値を用いているが、これに限るものではない。より小角な領域の測定を必要とする場合には、ピンホール13およびビームストッパー16の直径をさらに小さくすることが好ましい。なお、ピンホール13およびビームストッパー17の直径は、上記各値の1/3程度であれば、装置の微調整によって容易に実現できる。
【0123】
図10(a)は測定結果の生データを示すグラフであり、図10(b)は、図10(a)に示した生データからバックグラウンドノイズ(B.G.)を含む時刻0での散乱スペクトルを差し引いた結果を示すグラフであり、上記混合水溶液の構造の変化部分だけを示すものである。なお、これらの図において、横軸は散乱ベクトルq(q=4πsinθ/λ、λは光の波長であり、この測定ではλ=0.633μm)であり、縦軸は検出器17によって検出した光の強度I(q)である。
【0124】
図10(a)に示したように、バックグラウンドノイズを含む時刻0での散乱スペクトル(いちばん下の点線;図中のk)は、光の強度Iの値が小さく、かつ、ビームストッパーの近傍まで(qの値が非常に小さな超小角領域まで)平らで良質なものである。このことは、レーザー光散乱装置1を用いることにより、超小角領域までバックグラウンドノイズの非常に小さい測定を行うことができ、光の強度Iの値が非常に小さい場合であっても散乱スペクトルを正確に測定できることを意味する。
【0125】
また、図10(a)と図10(b)とを見比べると、散乱スペクトルが極大値を示す位置などの重要な情報は、図10(a)に示した生データでも凝集構造の形成過程に関する議論に用いることができるほど非常に良質であることがわかる。
【0126】
従来、例えば上記のような混合水溶液における構造の変化を時間の経過に沿って追跡する場合、構造の変化部分を明瞭にする目的で基準となるものを差し引いた散乱スペクトルが科学的議論の対象とされていた。ここで、上記の基準としては、通常、バックグラウンドノイズや時刻0での散乱スペクトルが用いられる。
【0127】
これに対して、レーザー光散乱装置1によれば、上記のように、バックグラウンドノイズが非常に小さく、時刻0における非常に小さな値の散乱スペクトルまで正確に測定できる(平らで良質な散乱スペクトルを測定できる)。したがって、従来よりも信頼性の高い測定結果を得ることができる。また、従来のように生データからバックグラウンドノイズや時刻0での散乱スペクトルをわざわざ差し引くことなく、構造の経時的変化に関する科学的議論を行うことができる。
【0128】
このように、上記した測定例1〜3は、本発明の効果を実証するための試作機を用いて行った予備実験のデータであるが、この時点ですでに国内外の市販装置や学術論文等に見られる小角性能を遥かに上回っている。すなわち、既存の装置においてバックグラウンドノイズの影響を受けずに測定可能な最小角度は、約1.2度であるのに対して、この試作機では、約0.1度であった。したがって、この試作機は現状においても十分に実用化可能な性能を備えているといえる。なお、この試作機に用いた各部材よりも良質の光学部品を用いるとともに、各レンズの焦点距離やピンホールのサイズ、ビームストッパーのサイズなどを最適化することにより、小角領域における測定性能をさらに向上させることができる。
【0129】
なお、偏光板と検光板とを用いたいわゆる偏光解消光散乱法では、0度から測定可能であることをうたった小角散乱装置もあるが、これは、試料の配向情報を得るための装置であり、本発明とは測定対象が異なっている。
【0130】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の光散乱測定装置は、試料に照射した光(例えば、レーザー光、X線、中性子等)の散乱光を測定する光散乱測定装置全般に適用することができる。また、超小角領域における試料からの散乱光測定を精度よく行うことができるので、高分子物質、コロイド溶液、生物等のソフトマテリアルを対象とした超小角領域におけるサブミクロン領域あるいはサブミリ領域における構造解析のための散乱測定に特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明の一実施形態にかかる散乱測定装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示した散乱測定装置においてビームストッパーに入射される光の光軸方向に対する角度とビーム強度との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態にかかる光散乱測定装置に備えられるビームストッパーの一例を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる光散乱測定装置に備えられるビームストッパーの他の例を示す断面図である。
【図5】図5(a)は、本発明の一実施形態にかかる光散乱測定装置による測定結果から得られた二次元の回折パターンであり、図5(b)は、その一次元の強度分布を示すグラフである。
【図6】図6(a)は、従来のレーザー光散乱装置によって高分子薄膜の加熱による相分離過程を観察した結果を示すグラフであり、図6(b)は、本発明の一実施形態にかかる光散乱測定装置によって上記高分子薄膜の加熱による相分離過程を観察した結果を示すグラフである。
【図7】従来の構成からなるレーザー光散乱測定装置の概略構成を示す断面図である。
【図8】図7のレーザー光散乱測定装置における、光源から出射される平行光、および寄生散乱光を示した断面図である。
【図9】図7のレーザー光散乱測定装置における、環状集光レンズおよびビームストッパーに入射される光の、光軸に対する角度とビーム強度との関係を示すグラフである。
【図10】(a)は本発明のレーザー光散乱測定装置を用いて行った測定結果を示すグラフである。(b)は、(a)に示した生データからバックグラウンドノイズを含む時刻0での散乱スペクトルを差し引いた結果を示すグラフである。
【図11】図10(a)の測定に用いた散乱測定装置の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0133】
1 ビーム光散乱測定装置(光散乱測定装置)
11 レーザー光源(光源)
12 第1のレンズ(第1の集光手段)
13 ピンホール板(収束手段)
14 第2のレンズ(第2の集光手段)
15 第3のレンズ(第2の集光手段)
16 ビームストッパー(遮光手段)
16 凹部
17 検出器(検出手段)
18 ビームストッパー(遮光手段)
18a 凹部
18b 貫通孔
19 NDフィルター(半透過部材)
21 ピンホール板(第2の収束手段)
22 ピンホール板(第3の収束手段)
d ピンホール(微小開口)
θ 直接光の光軸に対する角度
I(θ) ビーム強度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から照射した光を試料に入射させたときに生じる当該試料からの散乱光を測定する光散乱測定装置であって、
上記光源から照射される光を集光する第1の集光手段と、
上記光源から照射される光の平行成分を通過させる微小開口を有し、上記光源から照射される光の非平行成分を遮光する収束手段と、
上記収束手段を通過した光を集光する第2の集光手段と、
上記第2の集光手段によって集光される光を試料に入射させたときに生じる当該試料からの散乱光を検出する検出手段と、を備え、
上記収束手段と上記検出器の検出面とが光学的に共役な位置に配置されていることを特徴とする光散乱測定装置。
【請求項2】
光源から照射した光を試料に入射させたときに生じる当該試料からの散乱光を測定する光散乱測定装置であって、
上記光源から照射される光を集光する第1の集光手段と、
上記光源から照射される光の平行成分を通過させる微小開口を有し、上記光源から照射される光の非平行成分を遮光する収束手段と、
上記収束手段を通過した光を集光する第2の集光手段と、
上記第2の集光手段によって集光される光を試料に入射させたときに生じる当該試料からの散乱光を検出する検出手段と、
上記第2の集光手段によって集光されて上記試料を透過した光を遮光する遮光手段と、を備え、
上記収束手段と上記遮光手段とが光学的に共役な位置に配置されていることを特徴とする光散乱測定装置。
【請求項3】
上記光源から照射された光の平行成分が、この光の径路に試料を挿入しないときに上記検出手段の検出面に形成する像の半径をa、測定時に上記試料を挿入する位置と上記検出手段における検出面との距離をbとしたときに、tan−1(a/b)が1.2度以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光散乱測定装置。
【請求項4】
上記微小開口の直径が上記光源から照射される光の波長以上1mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光散乱測定装置。
【請求項5】
上記第1の集光手段によって集光された光が、上記微小開口における当該光の光軸に垂直な面の中心で焦点を結ぶことを特徴とする請求項1または2に記載の光散乱測定装置。
【請求項6】
上記遮光手段は、上記試料を透過した光の入射面に、当該光の進行方向に凹んだ凹部を備えていることを特徴とする請求項2に記載の光散乱測定装置。
【請求項7】
上記遮光手段は、上記試料を透過した光の光量を減少させる半透過部材からなることを特徴とする請求項2に記載の光散乱測定装置。
【請求項8】
上記光源と第1の集光手段との間に、
上記光源から照射される光の一部を遮光する第2の収束手段を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の光散乱測定装置。
【請求項9】
上記第2の集光手段と試料との間に、
上記光源から照射される光の一部を遮光する第3の収束手段を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の光散乱測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−275998(P2006−275998A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253791(P2005−253791)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】