説明

光波長フィルタ装置

【目的】波長分割多重化された信号光から所望の複数の波長成分を同時に取出す。
【構成】制御光として用いるレーザ光を2つに分割し,さらにこれらの分割制御光ビームを,それぞれ,交叉する角度が異なる3つの制御光ビーム部分B1,B2,B3に分け,フォトリフラクティブ光導波路60に,プリズム50を介して垂直に照射する。これによって周期の異なる3つのグレーティングG1,G2,G3を光導波路60の異なる場所に同時に誘起させ,信号光Sに含まれる3つの異なる波長の信号成分を同時に回折させて取出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はフォトリフラクティブ材料で作られた光導波路を有し,この光導波路上に屈折率分布によるグレーティングを形成し,これによって入射信号光から所望の波長成分を選択的に回折させて取出す光波長フィルタ装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の光波長フィルタ装置では,フォトリフラクティブ効果を利用して光導波路に屈折率分布によるグレーティングを誘起させるために,2つの制御光ビームを,比較的小さな角度をもって交叉するように重ねて光導波路に照射してこれらの制御光ビームによる干渉縞を形成する。下記の文献には,2つの制御光ビームを光導波路の面に対して垂直に照射する形態が示されている。この形態によると,光導波路を伝搬する信号光とは異なる伝搬方向をもつ制御光を利用するので,制御光の調整がしやすいという利点がある。
【非特許文献1】Ph. Dittrich, G. Montemezzani, P. Guenter “Tunable optical filter for wavelength division multiplexing using dynamic interband photorefractive gratings”Optics Communications 214 (2002) 363-370
【0003】
しかしながら,上記文献に記載の装置では,制御光の照射範囲は一様に広く,異なる位置に周期の異なる回折格子を誘起するなど位置を制御しながら回折格子を形成することが難しい。
【0004】
他方,抽出する波長を変更したい場合には光導波路に誘起したグレーティングを消去して新たなグレーティングを書き込まなければならない。特に,一つの光導波路に周期の異なる複数のグレーティングを形成したときに,一様な光を照射して消去する方法を採用すると,すべてのグレーティングが消滅してしまうので非効率である。
【発明の開示】
【0005】
この発明は,異なる周期の複数のグレーティングを光導波路の異なる場所に同時に形成して,信号光から複数の波長成分を同時に抽出できる光波長フィルタ装置を提供するものである。
【0006】
この発明はまた,光導波路に形成したグレーティングを高速に消去できる光波長フィルタ装置を提供するものである。光導波路に複数のグレーティングが存在する場合でも,所望のグレーティングのみを選択的に消去することができる。
【0007】
この発明はさらに,光導波路に誘起するグレーティングの範囲を容易に制御できる光波長フィルタ装置を提供するものである。
【0008】
この発明は,所定の角度で入射する特定の波長の信号光を回折させるグレーティングを,上記信号光が伝搬するフォトリフラクティブ光導波路に,2つの制御光ビームの干渉によって形成する光波長フィルタ装置において,制御光を出射するレーザ光源,上記レーザ光源から出射する制御光を,上記フォトリフラクティブ光導波路を含む基準平面とほぼ平行な平面に沿って異なる方向に進行するように2つの制御光ビームに分割する制御光分割光学系,上記制御光分割光学系によって分割された2つの制御光ビームを,上記フォトリフラクティブ光導波路の位置において干渉可能な角度範囲で交叉するように,上記基準平面にほぼ平行な平面内で進行方向をそれぞれ変更させる2つの光路変更光学系,上記光路変更光学系から得られる上記制御光ビームのそれぞれを,上記基準平面にほぼ直垂な方向に複数の制御光ビーム部分に分け,かつ各制御光ビーム部分の進行方向を,互いに独立に,上記基準平面にほぼ平行な平面内において,偏向角を制御可能に,わずかに偏向させる2つの空間光変調光学系,および上記空間光変調光学系から得られる各制御光ビーム部分を上記フォトリフラクティブ光導波路に向ってほぼ垂直に偏向させて照射(投射)する偏向手段を備え,上記複数対の制御光ビーム部分の干渉によって上記フォトリフラクティブ光導波路の異なる位置に異なる周期の複数のグレーティングが誘起されることを特徴とするものである。ほぼ平行な,ほぼ垂直に等の「ほぼ」は必ずしも厳密に平行,垂直でなくてもこの光波長フィルタ装置は所期の動作を行うので,そのような場合も含む趣旨である。
【0009】
したがって,フォトリフラクティブ光導波路に波長分割多重化された光信号を入力すれば,入力光信号中に含まれる複数の異なる波長の信号成分のうちの所望の複数の異なる波長の信号成分のみを上記の複数のグレーティングによって同時に回折させて取出すことができる。
【0010】
この発明による光波長フィルタ装置は,波長分割多重化光通信において,通信経路を切り替える場合に特に有効である。たとえば,複数の異なる波長の信号成分を有する波長分割多重化光信号の中の不必要なチャネル(波長)の信号を取り除き,必要な複数の波長の信号成分のみを取り出してこれを新たな送信信号として再構築する場合に,この発明による光波長フィルタ装置を用いることができる。また,一の光通信路から送信された光信号の一部の波長成分と他の光通信路から送信された光信号の一部の波長成分を交換する,またはそれぞれの光信号から波長の重ならない範囲で,特定の波長成分を抜き出して,異なる光通信路に結合させる場合などにおいて,複数の波長成分を抽出する必要があるので,この発明による光波長フィルタ装置を利用できる。
【0011】
一実施態様では,上記空間光変調光学系が,周期の異なる複数の回折格子パターン(格子状の周期的強度パターンまたは位相パターン。以下同じ)を,上記基準平面にほぼ垂直な方向の異なる位置に表示可能な液晶を用いた透過形の空間光変調器と,遮光手段とを備え,上記制御光ビームを上記空間光変調器に表示された複数の回折格子パターンに入射させ,各回折格子パターンによる特定の主要な回折光を取出すように,他の主要な回折光および0次光を上記遮光手段によって遮光するように配置されている。
【0012】
他の実施態様では,上記制御光分割光学系が,上記レーザ光源から出射する制御光の直線偏光方向を調整する空間光変調器と,上記空間光変調器から出力する制御光を偏光方向が直交する2つの制御光ビームに分割する偏光ビーム・スプリッタとを備えている。
【0013】
上記空間光変調器によって,制御光の偏光方向を90°回転させ,2つの制御ビームのうちの1つの制御光ビームについて,上記フォトリフラクティブ光導波路にグレーティングを誘起したときとは偏光方向が反対の制御光ビームを生成すれば,空間的に位相がπずれたグレーティングをフォトリフラクティブ光導波路に上書きすることができるので,高速に先に誘起したグレーティングを消去することが可能となる。特に,上記空間光変調光学系を構成する空間光変調器の表示面において,消去すべきグレーティングに対応する回折格子パターンのみを一部に表示させ,表示面の他の部分を遮光部分または光透過部分とすれば,所望のグレーティングのみの選択的消去が可能となる。これによって,フォトリフラクティブ光導波路のグレーティング・パターンを高速に再構成することが可能となる。さらに,上記空間光変調光学系を構成する空間光変調器において表示する回折格子パターンの幅を調整することにより,フォトリフラクティブ光導波路のグレーティングの幅,すなわち信号光中の特定の波長の成分とグレーティングとの相互作用長を調整(制御)し,回折光の帯域幅を制御することができる。
【0014】
この発明はさらに,フォトリフラクティブ光導波路の所望のグレーティングを選択的に消去するのに適した光波長フィルタ装置(請求項6),およびフォトリフラクティブ光導波路に少くとも一つのグレーティングを形成して光信号との相互作用長を調整することに向けられた光波長フィルタ装置(請求項7)を提供している。
【実施例】
【0015】
図1は光波長フィルタ装置の光学系の平面からみた全体的構成を示すものである。
【0016】
この光波長フィルタ装置は,光を当てると屈折率が変化するフォトリフラクティブ材料によって構成される光導波路60に,複数(または多数)の異なる波長成分を含む信号光LS(たとえば波長分割多重化された信号光)を導入し,この信号光LSに含まれる所望の1または複数の波長成分を回折させて(複数の波長成分の場合には,同時に回折させて)取出すものである。後に明らかになるように(特に図7を参照),複数対の制御光ビーム部分の干渉によってフォトリフラクティブ導波路60の異なる位置に異なる周期の複数の屈折率分布によるグレーティング(屈折率グレーティング,または単に,グレーティングという)が誘起される。
【0017】
光導波路60は,図6に示すように,フォトリフラクティブ材料の基板60Sの表面に下部よりも屈折率が高い部分(層)を形成することによりつくられる。たとえば,KNbO3結晶の表面に鉄(Fe)やチタン(Ti)を熱拡散することにより光導波路(光導波層)60が形成される。
【0018】
この明細書の全体を通して,各光学装置,光学素子または光学要素の空間的配置関係を記述するために,光導波路(層)60を含む平面を基準平面ということにする。図1,図4,図5,図7が描かれている紙面は基準平面またはこれに平行(ほぼ平行も含む)な平面である。したがって,これらの図を参照するときには,基準平面またはこれに平行な平面内を伝搬する光について説明するものと理解されたい。
【0019】
図1において,制御光LCはレーザ装置(レーザ光源)10から発生するレーザ光である。制御光LCはビーム・エクスパンダ11によってそのビーム径が拡大される。
【0020】
ビーム径が拡大された制御光LCは次に制御光分割光学系12に入射(入力)する。制御光分割光学系12は,空間光変調器21と偏光ビーム・スプリッタ22と半波長板(1/2波長板)23とを含む。
【0021】
空間光変調器21は透過形の液晶素子を含む。液晶素子に電界を印加することにより,液晶の配向が変わり,液晶素子に入射する光の偏光方向が変化する。レーザ装置10から出射するレーザ光(制御光LC)は直線偏光であり,その制御光LCが空間光変調器21の液晶素子に入射し,液晶素子内を通過していく過程で偏光方向が変化する。偏光方向が制御(調整)された後(制御または調整については,次に説明する),制御光LCは液晶素子から出射(出力)し,偏光ビーム・スプリッタ22に入射(入力)する。
【0022】
偏光ビーム・スプリッタ22は入射する制御光LCをs偏光の制御光(以下,S波という)とp偏光の制御光(以下,P波という)とに分割する。図2に示すように,等しい光強度をもつS波とP波が得られるように,空間光変調器21によって制御光LCの直線偏光方向が調整される。
【0023】
次に,S波のみが半波長板23に入射し,半波長板23によってその偏光方向が90°変えられ,S波の偏光方向はP波と同じになる。このようにして,同じ偏光方向の直線偏光をもつ2つの分割制御光ビーム(半波長板23を通過したS波と偏光ビーム・スプリッタ22から得られるP波)が得られる。これらの分割制御光ビームをLC1,LC2で表わす。これらの分割制御光ビームLC1とLC2は偏光方向が同じ(位相が同じ)であるから,後述するようにこれらの分割制御光ビームLC1,LC2(より具体的にはさらに分割された制御光ビーム部分B1〜B3)を光導波路60上に交叉するように照射(投射)したときに互いに干渉して干渉縞を生成し,この干渉縞によってフォトリフラクティブ光導波路60の屈折率が変化して,屈折率グレーティングが形成される。このグレーティングの屈折率変化は図8に実線で示すようなものである。
【0024】
分割制御光ビームLC1,LC2はミラー(光路変更光学系)13a,13bによってそれぞれ光路が変更される(偏向される)。これは,後に示すように,これらの分割制御光ビーム(具体的にはさらに分割された制御光ビーム部分B1〜B3)が光導波路60で干渉縞を形成することができる角度範囲(数度から数十度程度)で交叉するようにするためである。
【0025】
ミラー13a,13bによって偏向された分割制御光ビームLC1,LC2は空間光変調光学系14a,14bにそれぞれ入射(入力する)。空間光変調光学系14a,14bは空間光変調器41,シリンドリカル・レンズ42,43および遮光板44をそれぞれ備えている。これらの空間光変調光学系14aと14bは同じ構成をもつものであるから,一方の空間光変調光学系14aについて説明する。
【0026】
空間光変調器41は透過形の液晶表示素子(装置)を含み,この液晶表示素子は,図3に示すように,異なる周期(周期を,図3に一つの回折格子パターンについてΛmで示す)をもつ複数の回折格子パターン(光透過部分と遮光部分とが交互に配列された模様または周期的な強度パターン(または位相パターン)P1,P2,P3)を表示できるものであり,薄い回折格子として働く。すなわち,液晶表示素子の一面に入射した光は各パターンの光透過部分を通過して他面に出射していく。このとき回折格子パターンによる回折が生じる。図3では3種類の回折格子パターンが表示されている様子が描かれている。図3は基準平面に対してほぼ垂直な面から見た図であり,複数の周期の異なる回折格子(パターンP1〜P3)が液晶表示素子の表示面上に,基準平面に垂直な方向に並んでいる。
【0027】
分割制御光ビームLC1(LC2)が空間光変調器41の液晶表示素子の表示面にほぼ垂直な方向に入射する。入射した分割制御光ビームは表示面に表示された回折格子パターンによって回折される。回折格子の周期が異なるので,回折角はそれぞれ異なり,周期がより小さい回折格子に入射した光の方がより大きい回折角で回折される。
【0028】
図4は基準平面と平行な平面から見た空間光変調光学系の構成を示すものである(すなわち,図1に示す図の拡大図)。上述したように空間光変調器41は入射する分割制御光ビームLC1を遮ぎるように配置されており,図3に示すようにパターンP1〜P3を表示可能である。各パターンP1〜P3の周期は任意に設定できる。また,格子状パターンは3つに限らず,1つ,2つ,4つ以上でもよい。後述するように,中央に格子状パターンを表示し,その両側(図3における上下方向)は光透過部分としてもよいし,遮光部分としてもよい。シリンドリカル・レンズ42,43はその軸方向(レンズ厚が変化しない方向)が基準平面に(ほぼ)垂直となるように配置されている。
【0029】
上述のように空間光変調器41に分割制御光ビームLC1が入射すると,そこに表示された格子状パターンによって入射光は回折される。図4には最も周期の小さいパターンP1によって回折される主要な回折光すなわち−1次回折光,1次回折光,および0次光が示されている。これらの回折光および0次光はシリンドリカル・レンズ42によって基準平面にほぼ垂直な線状に集光される。遮光板44はこれらの回折光および0次光のうち,−1次回折光および0次光をその焦点の位置で遮光するように配置されている。したがって,1次回折光のみが(より高次の回折光は光強度が弱いので無視できる)進行し,シリンドリカル・レンズ43によって平行光に変換される。
【0030】
空間光変調器41には3つの格子状パターンP1〜P3が表示され,これらのパターンがそれぞれ異なる周期をもつ回折格子として働くので,空間光変調光学系に入射する分割制御光ビームLC1は,それぞれ回折角の異なる3つの1次回折光に分割されて出力されることになる。これらの3つの分割された制御光ビームをそれぞれ制御光ビーム部分B1,B2,B3ということにする。最も周期の小さな格子状パターンP1によって生成れる制御光ビーム部分B1の回折角が最も大きい。回折角はパターンの周期を変えることにより任意に設定できる。図1においては制御光ビーム部分B1のみが示されている。これらの制御光ビーム部分B1〜B3は拡大した形で図5,6,7に表わされている。
【0031】
図5および図6を参照して,上述したように,空間光変調光学系14a,14bにおいて分割制御光ビームLC1,LC2から回折角の異なる3対の制御光ビーム部分B1,B2,B3が生成される。基準平面からみて,対をなす制御光ビーム部分は角度2θC(図5では制御光ビームB1についての角度θCが図示されている)で交叉する方向に進行する。角度θCを制御光の入射角という。
【0032】
光導波路60(その基板60S)の制御光ビーム部分が進行する側(基板60Sの光導波路60が形成されている側とは反対側)(図6において下側)には,プリズム(ミラーでもよい)50が配置されている。プリズム50の斜面(ミラーの場合の鏡面)は,制御光ビームB1〜B3が向ってくる方向を向き,かつ光導波路60の面(基準平面)に対して,45°の角度で傾いている。したがって,基準平面にほぼ平行な平面内を進行し,プリズム50の斜面に,入射角θCでそれぞれ入射する3つの制御光ビーム部分B1〜B3は,プリズム50の斜面で反射して光導波路60に垂直に向い,入射角θCに応じた周期の3種類の干渉縞を光導波路60の異なる場所に生成する。この干渉縞の光強度分布に応じて光導波路60に屈折率分布が生じ,光導波路60の異なる場所に,周期の異なる3つの屈折率グレーティングG1,G2,G3が誘起される。
【0033】
各グレーティングの周期Λgは,制御光の波長λcと入射角θCを用いて,次式で表わされる。
【0034】
Λg=λc/2sinθC 式(1)
【0035】
光導波路60の一方の端部には入力ポートがあり,ここに入力用光ファイバ63が結合している。光導波路60の他方の端部には,非回折光用の出力ポートと回折光用の出力ポートとがあり,これらにそれぞれ出力用光ファイバ64,65が結合している。また光導波路60には2つのレンズ61,62が形成されている。入力ポートから光導波路60に入射した信号光Sはレンズ61によって,信号光Sが平面波に近い波面をもって(すなわち平行光となって)光導波路60を伝搬するようにその波面が調整される。この信号光はグレーティングG1〜G3が存在しない場合には,光導波路60を伝搬し,レンズ62によって光ファイバ64が結合した非回折光用ポートに集光され,光ファイバ64に入射する。グレーティングG1〜G3は光導波路60上で信号光Sが伝搬する経路上に,各グレーティングG1〜G3に信号光が適切な入射角θSで入射する配置で形成される。グレーティングG1〜G3が存在するときには,信号光Sは各グレーティングG1〜G3によって入射角と同じ角度θSで回折される(偏向される)。回折さた信号光はレンズ62によって集光されて光ファイバ65に結合して外部に取出される。
【0036】
グレーティングG1,G2またはG3によって回折される信号光の波長λSは次式で与えられる。
【0037】
λS=2ΛgsinθS 式(2)
【0038】
したがって,信号光Sが波長分割多重化された信号光の場合には,3つのグレーティングG1〜G3について上式(2)を満たす3種類の波長の信号光成分がグレーティングG1〜G3によって回折されて光ファイバ65に導かれ,信号光Sに含まれる他の波長の成分は回折されずに光ファイバ64に導かれる。
【0039】
回折されることによって選択される波長の信号光成分は,光導波路上に形成されるグレーティングの周期Λgによって変えることができる。グレーティングの周期Λgは制御光の入射角θCによって変えることができ,この入射角θCは次式によって空間光変調器41に表示する格子状パターンの周期Λmに応じて決まる。
【0040】
sinθC=λC/2Λm 又は
θC=sin-1(λC/2Λm) 式(3)
【0041】
したがって,空間光変調器41に表示される格子状パターンの周期Λmによって,回折光として光ファイバ65に導かれる信号光成分の波長を任意に選択することが可能である。一例を以下に挙げる。
【0042】
空間光変調器41の液晶表示装置のピクセル・サイズの範囲は入手可能なもので約30μm〜8μm程度である。空間光変調器41のピクセル・サイズを10μmとする。制御光の波長λCを532nmとする。
【0043】
空間光変調器41に最も細い(周期Λmの最も小さな)格子状パターンを表示させる。すなわち空間光変調器41に1ピクセルごとに交互に0(透過)と1(遮光)を繰返す強度パターンを表示させるものとする。このときの制御光ビームの回折角(最大回折角)θcvmaxは,Λm=20μm(2ピクセルの距離)として,式(3)から7.62×10-1deg.となる。
【0044】
空間光変調器41に最も粗い(周期Λmの最も大きな)格子状パターンを表示させる。周期Λmとして1920ピクセル分の距離(すなわち19200μm=19.2mm)を用いると,制御光ビームの回折角(最小回折角)θcvminは,同じように式(3)から,7.938×10-4 deg.となる。
【0045】
式(1)と式(2)からΛgを消去すると,次の関係式を得る。
【0046】
λC/sinθC=λS/sinθS 式(4)
【0047】
式(4)において,制御光の入射角θCの変化分を7.62×10-1〜7.938×10-4 deg.としたときに,信号光の波長λSの変化分がどのくらいになるかを計算する。
【0048】
空間光変調器41における制御光の回折角が最も小さいとき(θcvmin=7.938×10-4 deg.)の制御光の入射角θC
θCmin=5+θcvmin
=5+7.938×10-4 deg. 式(5)
とする。制御光の波長をλC=532nm,信号光の波長をλS=1.5μmとすると,式(4)から,信号光の入射角θSは約14.228deg.となる。
【0049】
次に,空間光変調器41における制御光の回折角が最も大きいとき(θcvmax=7.62×10-1 deg.)の制御光の入射角θC
θCmax=5+θcvmax
=5+7.62×10-1 deg. 式(6)
となる。信号光の入射角θSを上で計算した14.228deg.とすると(制御光の波長λCも532nmのまま),式(4)から信号光の波長λSは1.302μmとなる。
【0050】
すなわち,フォトリフラクティブ光導波路に形成した屈折率グレーティングによって回折させることが可能な信号光の波長λCは1.5μm〜1.302μmの範囲となる。すなわち約200nmの範囲で回折できる信号光の波長を変えることができることになる。
【0051】
なお,上記の条件下において,光導波路の屈折率グレーティングの周期Λgは,3.053μm〜3.543×10-1μmの間で変化する。
【0052】
次に上記の光学的構成を用いて,フォトリフラクティブ光導波路上に誘起した屈折率分布によるグレーティングを消去する方法,すなわち新たに周期を変えたグレーティングに書き換える方法について説明する。
【0053】
空間光変調器21の液晶素子に印加する電圧を変えることにより,入射光の偏光方向を変え,たとえば図2(A) に示す偏光方向から図2(B) に示す偏光方向のように偏光方向を90°変え,偏光方向が 180°異なるP波を生じさせるようにする。S波は半波長板23によって偏光方向が90°変えられるから,分割制御光LC1(半波長板23から出力するS波)と分割制御光LC2(P波)とは偏向方向が 180°異なる(位相がπずれる)ことになる。このような分割制御光LC1とLC2との干渉によって生じる屈折率グレーティング(屈折率分布)は図8に破線で示すように,偏向方向が同じ分割制御光LC1とLC2との干渉によって誘起された先の屈折率グレーティング(屈折率分布)(図8に実線で示される)と位相がπずれることになり,これによって先の屈折率グレーティングはすみやかに消去されることになる。
【0054】
空間光変調器41を含む空間光変調光学系14a,14bによって3対の制御光ビーム部分G1〜G3を生成し,これらの干渉によって生起されたグレーティングG1〜G3のすべてを消去することもできるし,次のようにして1または2つのグレーティングのみを選択的に消去してその消去した場所に別の周期をもつグレーティングを書込むこともできる。すなわち,たとえば中央のグレーティングG2のみを消去する場合には,空間光変調器41の表示面にグレーティングG2に対応する回折格子状パターンP2のみを表示し,パターンP1とP3の箇所には回折格子状パターンを表示せずに,光透過状態にしておくか,遮光状態にすればよい。
【0055】
光導波路において信号光がグレーティングと相互作用する範囲を相互作用長という。相互作用長はグレーティングを形成する範囲(屈折率が周期的に変化する方向とは直交する方向の長さ。これを以下,グレーティングの幅という)によって定まる。グレーティングの幅は空間光変調器41に表示する回折格子状パターンの幅,すなわち制御光ビーム部分の幅によって定まる。したがってこの相互作用長も空間光変調器に表示するパターンによって制御可能である。相互作用長はグレーティングによって回折される信号光の帯域幅に影響を与える。すなわち,相互作用長を短くすると,帯域幅は広がり,相互作用長を長くすると,帯域幅は狭まる。特定の波長の信号成分のみ抽出したい場合には,その波長成分を回折させるグレーティングの幅を広くするとよい。広い範囲の波長成分を抽出したい場合は,グレーティングの幅を小さくするとよい。
【0056】
図9は空間光変調光学系の他の実施例を示している。この空間光変調光学系14aはプリズム(ミラーでもよい)45とシリンドリカル・レンズ46とから構成される。シリンドリカル・レンズ(図示略)によって横方向(図9において)の幅を縮小された断面線状の分割制御光ビームLC1はプリズム45の斜面(またはミラーの鏡面)に入射して反射し,シリンドリカル・レンズ46に向い,同レンズ46を通過するときに偏向される。プリズム45の位置を変え,プリズム45からの反射光がレンズ46に入射する位置を変えることにより,レンズ46による偏向角が変わる。
【0057】
基準平面に垂直な方向に分割された複数個のプリズムを用い,各プリズムを別個に動かすことにより,分割制御光ビーム部分B1〜B3のように複数の制御光ビーム部分をつくり,それらの偏向方向を別個に制御することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】光波長フィルタ装置の光学系の全体的構成を示す平面図である。
【図2】空間光変調器によって制御光の偏光方向を調整する様子を示すもので,(A) はグレーティングを書込む場合,(B) は消去する場合の偏光方向を示す。
【図3】空間光変調器に表示される格子状パターンの一例を示す。
【図4】空間光変調光学系の具体的一例を示す平面図である。
【図5】3対の互いに交叉する制御光ビーム部分によって3つの異なるグレーティングが異なる位置に誘起される様子を示す平面図である。
【図6】3対の制御光ビーム部分がプリズムにより偏向され,光導波路に照射される様子を示す側面図である。
【図7】光導波路上に誘起された3つのグレーティングによって入射信号光の特定の波長成分が回折される様子を示す平面図である。
【図8】光導波路に誘起されるグレーティングの屈折率分布を示すものである。
【図9】空間光変調光学系の他の実施例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0059】
10 レーザ装置
11 ビーム・エキスパンダ
12 制御光分割光学系
13a,13b ミラー(光路変更光学系)
14a,14b 空間光変調光学系
21,41 空間光変調器
22 偏光ビーム・スプリッタ
42,43 シリンドリカル・レンズ
44 遮光板
50 プリズム
60 光導波路
60S 導波路基板
C 制御光
C1,LC2 分割制御光ビーム
B1,B2,B3 分割制御光ビーム部分
G1,G2,G3 グレーティング
P1,P2,P3 格子状パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の角度で入射する特定の波長の信号光を回折させるグレーティングを,上記信号光が伝搬するフォトリフラクティブ光導波路に,2つの制御光ビームの干渉によって形成する光波長フィルタ装置において,
制御光を出射するレーザ光源,
上記レーザ光源から出射する制御光を,上記フォトリフラクティブ光導波路を含む基準平面とほぼ平行な平面に沿って異なる方向に進行するように2つの制御光ビームに分割する制御光分割光学系,
上記制御光分割光学系によって分割された2つの制御光ビームを,上記フォトリフラクティブ光導波路の位置において干渉可能な角度範囲で交叉するように,上記基準平面にほぼ平行な平面内で進行方向をそれぞれ変更させる2つの光路変更光学系,
上記光路変更光学系から得られる上記制御光ビームのそれぞれを,上記基準平面にほぼ直垂な方向に複数の制御光ビーム部分に分け,かつ各制御光ビーム部分の進行方向を,互いに独立に,上記基準平面にほぼ平行な平面内において,偏向角を制御可能に,わずかに偏向させる2つの空間光変調光学系,および
上記空間光変調光学系から得られる各制御光ビーム部分を上記フォトリフラクティブ光導波路に向ってほぼ垂直に偏向させて照射する偏向手段を備え,
上記複数対の制御光ビーム部分の干渉によって上記フォトリフラクティブ光導波路の異なる位置に異なる周期の複数のグレーティングが誘起される,
光波長フィルタ装置。
【請求項2】
上記空間光変調光学系が,周期の異なる複数の回折格子パターンを上記基準平面にほぼ垂直な方向の異なる位置に表示可能な液晶を用いた透過形の空間光変調器と,遮光手段とを備え,
上記制御光ビームを上記空間光変調器に表示された複数の回折格子パターンに入射させ,各回折格子パターンによる特定の主要な回折光を取出すように,他の主要な回折光および0次光を上記遮光手段によって遮光するように配置されている,
請求項1に記載の光波長フィルタ装置。
【請求項3】
上記制御光分割光学系が,
上記レーザ光源から出射する制御光の直線偏光方向を調整する空間光変調器と,
上記空間光変調器から出力する制御光を偏光方向が直交する2つの制御光ビームに分割する偏光ビーム・スプリッタとを備えている,
請求項1に記載の光波長フィルタ装置。
【請求項4】
上記空間光変調光学系が,回折格子パターンと遮光部分または光透過部分とを,上記基準平面にほぼ垂直な方向の異なる位置に表示可能な液晶を用いた透過形の第2の空間光変調器,および遮光手段を備え,
上記制御光ビームを上記第2の空間光変調器に入射させ,表示された回折格子パターンによる特定の主要な回折光を取出すように,他の主要な回折光および0次光を上記遮光手段によって遮光するように配置されている,
請求項3に記載の光波長フィルタ装置。
【請求項5】
上記空間光変調光学系が,回折格子パターンと遮光部分または光透過部分とを,上記基準平面にほぼ垂直な方向の異なる位置に表示可能な液晶を用いた透過形の空間光変調器,および遮光手段を備え,
上記制御光ビームを上記空間光変調器に入射させ,表示された回折格子パターンによる特定の主要な回折光を取出すように,他の主要な回折光および0次光を上記遮光手段によって遮光するように配置されている,
請求項1に記載の光波長フィルタ装置。
【請求項6】
所定の角度で入射する特定の波長の信号光を回折させるグレーティングを,上記信号光が伝搬するフォトリフラクティブ光導波路に,2つの制御光ビームの干渉によって形成する光波長フィルタ装置において,
制御光を出射するレーザ光源,
上記レーザ光源から出射する制御光の直線偏光方向を調整する第1の空間光変調器,
上記第1の空間光変調器から出力する制御光を,偏光方向が直交する2つの制御光ビームであって,上記フォトリフラクティブ光導波路を含む基準平面とほぼ平行な平面に沿って異なる方向に進行する2つの制御光ビームに分割する偏光ビーム・スプリッタ,
上記偏光ビーム・スプリッタによって分割された2つの制御光ビームを,上記フォトリフラクティブ光導波路の位置において干渉可能な角度範囲で交叉するように,上記基準平面にほぼ平行な平面内で進行方向をそれぞれ変更させる2つの光路変更光学系,
回折格子パターンと遮光部分または光透過部分とを,上記基準平面にほぼ垂直な方向の異なる位置に表示可能な液晶を用いた透過形の第2の空間光変調器と,遮光手段とを備え,上記光路変更光学系から得られる上記制御光ビームのそれぞれを上記第2の空間光変調器に入射させ,表示された回折格子パターンによる特定の主要な回折光を取出すように,他の主要な回折光および0次光を上記遮光手段によって遮光するように配置されている2つの空間光変調手段,および
上記空間光変調手段から得られる制御光ビームを上記フォトリフラクティブ光導波路に向ってほぼ垂直に偏向させて照射する偏向手段を備えている,
光波長フィルタ装置。
【請求項7】
所定の角度で入射する特定の波長の信号光を回折させるグレーティングを,上記信号光が伝搬するフォトリフラクティブ光導波路に,2つの制御光ビームの干渉によって形成する光波長フィルタ装置において,
制御光を出射するレーザ光源,
上記レーザ光源から出射する制御光を,上記フォトリフラクティブ光導波路を含む基準平面とほぼ平行な平面に沿って異なる方向に進行するように2つの制御光ビームに分割する制御光分割光学系,
上記制御光分割光学系によって分割された2つの制御光ビームを,上記フォトリフラクティブ光導波路の位置において干渉可能な角度範囲で交叉するように,上記基準平面にほぼ平行な平面内で進行方向をそれぞれ変更させる2つの光路変更光学系,
回折格子パターンと遮光部分または光透過部分とを,上記基準平面にほぼ垂直な方向の異なる位置に表示可能な液晶を用いた透過形の空間光変調器と,遮光手段とを備え,上記光路変更光学系から得られる上記制御光ビームのそれぞれを上記空間光変調器に入射させ,表示された回折格子パターンによる特定の主要な回折光を取出すように,他の主要な回折光および0次光を上記遮光手段によって遮光するように配置されている2つの空間光変調手段,および
上記空間光変調手段から得られる制御光ビームを上記フォトリフラクティブ光導波路に向ってほぼ垂直に偏向させて照射する偏向手段を備え,
上記制御光ビームの干渉によって上記フォトリフラクティブ光導波路にグレーティングが誘起される,
光波長フィルタ装置。
【請求項8】
所定の角度で入射する特定の波長の信号光を回折させるグレーティングを,上記信号光が伝搬するフォトリフラクティブ光導波路に,2つの制御光ビームの干渉によって形成する方法において,
レーザ光源から出射する制御光を,上記フォトリフラクティブ光導波路を含む基準平面とほぼ平行な平面に沿って異なる方向に進行するように2つの制御光ビームに分割し,
分割された2つの制御光ビームを,上記フォトリフラクティブ光導波路の位置において干渉可能な角度範囲で交叉するように,上記基準平面にほぼ平行な平面内で進行方向をそれぞれ変更させ,
進行方向が変更された上記制御光ビームのそれぞれを,上記基準平面にほぼ直垂な方向に複数の制御光ビーム部分に分け,かつ各制御光ビーム部分の進行方向を,互いに独立に,上記基準平面にほぼ平行な平面内において,偏向角を制御可能に,わずかに偏向させ,
偏向された各制御光ビーム部分を上記フォトリフラクティブ光導波路に向ってほぼ垂直に偏向させて照射し,
上記複数対の制御光ビーム部分の干渉によって上記フォトリフラクティブ光導波路の異なる位置に異なる周期の複数のグレーティングを誘起する方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法によって上記フォトリフラクティブ光導波路に誘起された複数のグレーティングのうちの所望のグレーティングを消去する方法であり,
消去すべきグレーティングを誘起した対をなす制御光ビーム部分の一方の偏向方向を回転させて,位相がπずれたグレーティングを上記フォトリフラクティブ光導波路に上書きする消去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−145429(P2009−145429A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320164(P2007−320164)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】