説明

光発電素子の製造方法

【課題】シリコン多結晶系太陽電池等の光発電素子において、シリコン多結晶層を構成する微結晶の密度を高める。
【解決手段】基板50と基板50上に設けた金属電極層51を有する光発電素子の製造方法であって、ハロゲン化ケイ素化合物の超臨界流体状態を形成する超臨界流体状態形成工程と、形成されたハロゲン化ケイ素化合物の超臨界流体状態においてプラズマ放電を行い、基板50上に設けた金属電極層51上にシリコン多結晶層を形成するシリコン多結晶層形成工程と、を有することを特徴とする光発電素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光発電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池としては、半導体材料としてシリコン結晶を用いたシリコン系太陽電池が知られている。シリコン系太陽電池は、「結晶シリコン系太陽電池」と「アモルファスシリコン系太陽電池」とに分類される。また、「結晶シリコン系太陽電池」は、「シリコン単結晶系太陽電池」と「シリコン多結晶系太陽電池」とに分類される。
例えば、特許文献1には、結晶シリコン系太陽電池に用いられるシリコン結晶ウェーハの製造方法が記載されている。特許文献2には、基板上に形成されたシリコン多結晶薄膜を有する太陽電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−104898号公報
【特許文献2】特開2000−216416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコン系太陽電池に用いられるシリコンウェーハは、チョクラルスキー(CZ)法又は浮遊帯域溶融(FZ)法により、円柱状のシリコン単結晶のインゴットを作成し、これを厚さ300μm程度にスライスして加工される。一方、シリコン多結晶薄膜を有する太陽電池の場合は、例えば、プラズマCVD法等によりシリコン多結晶薄膜が形成される。このように形成されたシリコン多結晶薄膜は、微結晶が凝集した複数の結晶粒が粒界を形成し、前述したシリコン単結晶から得られるシリコンウェーハと比べると結晶粒密度が低い。そのため、太陽電池としての発電効率を高めることは、シリコン単結晶から得られるシリコンウェーハを使用する場合と比べて低いのが現状である。
本発明の目的は、シリコン多結晶系太陽電池等の光発電素子において、シリコン多結晶層を構成する微結晶の密度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、下記請求項1乃至7に係る光発電素子の製造方法が提供される。
請求項1に係る発明は、基板と当該基板上に設けた金属電極層を有する光発電素子の製造方法であって、ハロゲン化ケイ素化合物の超臨界流体状態を形成する超臨界流体状態形成工程と、形成されたハロゲン化ケイ素化合物の超臨界流体状態においてプラズマ放電を行い、基板上に設けた金属電極層上にシリコン多結晶層を形成するシリコン多結晶層形成工程と、を有することを特徴とする光発電素子の製造方法である。
【0006】
請求項2に係る発明は、形成された前記シリコン多結晶層の表面の表面粗さ(Ra)が50nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光発電素子の製造方法である。
請求項3に係る発明は、前記超臨界流体状態形成工程により形成されたハロゲン化ケイ素化合物の超臨界流体状態は、圧力が3MPa以上、温度が80K以上に保持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の光発電素子の製造方法である。
請求項4に係る発明は、前記超臨界流体状態形成工程は、ハロゲン化ケイ素化合物と不活性ガスとの混合系の超臨界流体状態を形成することを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光発電素子の製造方法である。
【0007】
請求項5に係る発明は、前記シリコン多結晶層形成工程は、III族化合物を添加したハロゲン化ケイ素化合物と不活性ガスとの混合系の超臨界流体状態において行われるプラズマ放電によりp型シリコン多結晶層を形成するp型シリコン多結晶層形成工程と、V族化合物を添加したハロゲン化ケイ素化合物と不活性ガスとの混合系の超臨界流体状態において行われるプラズマ放電によりn型シリコン多結晶層を形成するn型シリコン多結晶層形成工程と、を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光発電素子の製造方法である。
【0008】
請求項6に係る発明は、ハロゲン化ケイ素化合物が、ケイ素化合物の塩化物又はケイ素化合物の臭化物であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光発電素子の製造方法である。
請求項7に係る発明は、ハロゲン化ケイ素化合物が、四塩化ケイ素であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光発電素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、本発明を採用しない場合に比べて、シリコン多結晶系太陽電池において、シリコン多結晶層を構成する微結晶の密度を高めることができる。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、本発明を採用しない場合に比べて、シリコン多結晶系太陽電池の発電効率を高めることができる。
【0011】
請求項3に係る発明によれば、本発明を採用しない場合に比べて、ハロゲン化ケイ素化合物のプラズマ放電による分解時間が短縮される。
【0012】
請求項4に係る発明によれば、本発明を採用しない場合に比べて、プラズマ放電が容易である。
【0013】
請求項5に係る発明によれば、本発明を採用しない場合に比べて、pn接合構造を形成する時間が短縮される。
【0014】
請求項6に係る発明によれば、本発明を採用しない場合に比べて、シリコン多結晶系太陽電池の製造方法において、操作性が容易な原料を用いることができる。
【0015】
請求項7に係る発明によれば、本発明を採用しない場合に比べて、短時間にシリコン微結晶の密度が高められたシリコン多結晶層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態が適用される光発電素子の一例であるシリコン多結晶系太陽電池の製造方法を実施するための製造装置の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0018】
<製造装置>
図1は、本実施の形態が適用される光発電素子の一例であるシリコン多結晶系太陽電池の製造方法を実施するための製造装置の一例を説明する図である。
図1に示すように、製造装置Iは、ハロゲン化ケイ素化合物の超臨界流体状態を保つことが可能な耐圧を有する反応容器(反応容器本体)11と、反応容器11内で形成される超臨界流体状態においてプラズマ放電を発生させるための放電発生部10と、反応容器11内にハロゲン化ケイ素化合物を供給する原料供給部20と、反応容器11内にキャリアガス(不活性ガス)を供給するキャリアガス供給部30と、反応容器11内の圧力を調整する圧力調整部40を備えている。
【0019】
放電発生部10は、反応容器11内で形成される超臨界流体状態においてプラズマ放電を発生させるために平行に配置された1対の電極12,13と、電極12,13に整合器14を介してプラズマ放電のための電力を供給する高周波電源15とを有している。
原料供給部20は、p型シリコン多結晶層を形成するためのp型価電子制御剤が添加されたハロゲン化ケイ素化合物を貯蔵する原料貯槽21及び原料供給弁21aと、n型価電子制御剤が添加されたハロゲン化ケイ素化合物を貯蔵する原料貯槽22及び原料供給弁22aと、を有している。また、反応容器11内に原料を供給するための原料供給弁23と原料供給管21Lとを、備えている。さらに、原料を加熱する加熱器24と、例えばポンプ等の供給機25と、を有している。
キャリアガス供給部30は、キャリアガス(不活性ガス)を貯蔵するキャリアガス貯槽31と、圧力調整弁32と、反応容器11にキャリアガス(不活性ガス)を供給するためのガス供給管33とを有している。
圧力調整部40は、排圧調整弁41と、排圧調整弁41と反応容器11内とを結合する排圧調整管42とを有している。
【0020】
図1に示すように、電極12,13には、プラズマ放電のための電力を供給する高周波電源15が整合器14を介して接続されている。本実施の形態では、例えば、原料貯槽21内に貯蔵されたハロゲン化ケイ素化合物とp型価電子制御剤は、原料供給弁21aと原料供給弁23を開き、加熱器24により加熱され、供給機25により原料供給管21Lを介して反応容器11に設けられた電極12,13の略中間部分に供給される。また、同様に、原料貯槽22内に貯蔵されたハロゲン化ケイ素化合物とn型価電子制御剤は、原料供給弁22aと原料供給弁23を開き、加熱器24により加熱され、供給機25により原料供給管21Lを介して反応容器11に設けられた電極12,13の略中間部分に供給される。
【0021】
キャリアガス貯槽31内に貯蔵されたキャリアガスは、圧力調整弁32を開きガス供給管33を介して反応容器11に供給される。反応容器11内の圧力は、排圧調整弁41により調整している。
【0022】
本実施の形態では、反応容器11内の電極12,13の近傍(図1では、反応容器11の底部)に、シリコン多結晶系太陽電池の構成部品としての金属電極層51を設けた基板50を配置している。後述するように、金属電極層51上に、p型シリコン多結晶層とn型シリコン多結晶層とが交互に積層され、シリコン多結晶系太陽電池が形成される。
ここで、基板50を構成する材料としては、例えば、ステンレス等の金属フィルム、有機フィルム、ガラス等が挙げられる。金属電極層51としては、例えば、Mo、Ti、Cr、Al、Ag、Au、CuおよびPtから選択された少なくとも1つの金属またはこれらの合金が挙げられる。また、光透過性材料としては、酸化インジウム、酸化インジウム・錫合金、酸化亜鉛等が挙げられる。
尚、図示しないが、反応容器11を反応温度に加熱するための加熱装置が設けられている。加熱装置としては、所定の熱媒を使用するジャケット式加熱器、カートリッジ式ヒータ等が挙げられる。また、反応容器11を恒温槽内に設置してもよい。
【0023】
電極12,13を構成する材料は、プラズマ放電が可能な材料であれば特に限定されない。例えば、純金属電極を構成する材料としては、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、スズ、アルミニウム、タングステン、白金、金等が挙げられる。被めっき電極を構成する材料としては、銀めっき鉄、亜鉛めっき鉄、スズめっき鉄等が挙げられる。合金電極を構成する材料としては、真鍮、鉄ニッケル合金、鉄コバルト合金、マグネシウム合金等が挙げられる。これらの中でも、マンガン、銅、亜鉛、白金、金、亜鉛めっき鉄、真鍮、が好ましい。
また、電極12,13の電極間距離は、反応容器11内の温度、圧力又は放電条件によって適宜選択され、特に限定されないが、本実施の形態では、0.002mm〜5mmの範囲内で設定される。
【0024】
反応容器11を構成する材料は、ハロゲン化ケイ素化合物の超臨界流体状態を保つことが可能な材料であれば特に限定されない。例えば、ステンレス等が挙げられる。本実施の形態では、塩素ガスによる腐食を考慮し、ハステロイC(登録商標)を使用している。
【0025】
キャリアガスは、原料として使用するハロゲン化ケイ素化合物に対し不活性であるものが好ましく、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられる。本実施の形態では、キャリアガスとしてアルゴンを使用している。
【0026】
(ハロゲン化ケイ素化合物)
次に、本実施の形態において原料として使用するハロゲン化ケイ素化合物について説明する。ハロゲン化ケイ素化合物としては、フッ化ケイ素、塩化ケイ素、臭化ケイ素、ヨウ化ケイ素が挙げられる。これらの中でも、塩化ケイ素、臭化ケイ素が好ましい。
塩化ケイ素としては、例えば、四塩化ケイ素(SiCl)、ヘキサクロルジシラン、オクタクロルトリシラン、デカクロルトリシラン、ドデカクロルペンタシラン等が挙げられる。また、クロルシラン(SiHCl)、ジクロルシラン(SiHCl)、トリクロルシラン(SiHCl)等のシラン誘導体が挙げられる。
臭化ケイ素としては、四臭化ケイ素(SiBr)、六臭化二ケイ素、八臭化三ケイ素、十臭化四ケイ素等が挙げられる。
さらに、臭化三塩化ケイ素、二臭化二塩化ケイ素、三臭化塩化ケイ素、ヨウ化三塩化ケイ素、塩化硫化水素ケイ素、ヘキサクロルジシロキサン等も挙げられる。
これらのなかでも、四塩化ケイ素(SiCl)が特に好ましい。
【0027】
(p型価電子制御剤、n型価電子制御剤)
本実施の形態において、p型シリコン多結晶層を形成するためにハロゲン化ケイ素化合物に添加されるp型価電子制御剤としては、B、Al、Ga、In、Tlの周期率表第III族原子が挙げられる。具体的には、第III族原子導入用の出発物質として有効に使用されるものとしては、ホウ素原子導入用として、B、B10、B、B11、B10、B12、B14等の水素化ホウ素;BF、BCl等のハロゲン化ホウ素等を挙げることができる。このほかに、AlCl、GaCl、InCl、TlCl等も挙げられる。これらの中でも、特に、B、BFが好ましい。
次に、n型シリコン多結晶層を形成するためにハロゲン化ケイ素化合物に添加されるn型価電子制御剤としては、P、As、Sb、Biの第V族原子が挙げられる。具体的には、第V族原子導入用の出発物質としては、燐原子導入用として、PH、P等の水素化燐;PHI、PF、PF、PCl、PCl、PBr、PBr、PI等のハロゲン化燐が挙げられる。このほかに、AsH、AsF、AsCl、AsBr、AsF、SbH、SbF、SbF、SbCl、SbCl、BiH、BiCl、BiBr等が挙げられる。これらの中でも、特に、PH、PFが好ましい。
【0028】
上述したp型シリコン多結晶層への周期率表第III族原子の添加量、n型シリコン多結晶層への周期率表第V族原子の添加量は、0.1at%〜50at%の範囲である。
また、p型価電子制御剤又はn型価電子制御剤の添加量は、形成されたp型シリコン多結晶層とn型シリコン多結晶層の比抵抗が100Ωcm以下、好ましくは、0.7Ωcm〜2.5Ωcmの範囲になるように選択される。
【0029】
尚、本実施の形態において、原料として使用するハロゲン化ケイ素化合物が固体の場合、予め原料を所定の溶媒に溶解させた溶液を調製し、この溶液を反応容器11に供給することもできる。使用可能な溶媒は、ハロゲン化ケイ素化合物を溶解するものであれば特に限定されない。好ましくは、後述する超臨界流体状態におけるその溶媒に固有の臨界温度、臨界圧力を考慮し、公知の物質の中から選択する。具体例として、二酸化炭素、3フッ化メタン(フルオロホルム)、エタン、プロパン、ブタン、ベンゼン、メチルエーテル、クロロホルム等が挙げられる。
【0030】
<シリコン多結晶系太陽電池の製造方法>
次に、上述した製造装置Iを用いてシリコン多結晶系太陽電池を製造する方法について説明する。本実施の形態では、ハロゲン化ケイ素化合物として四塩化ケイ素(SiCl)を使用し、キャリアガスとしてアルゴンを使用している。
【0031】
(超臨界流体状態形成工程)
初めに、製造装置Iに金属電極層51を設けた基板50を配置する。金属電極層51は、例えば、蒸着法、スパッタ法、CVD法(化学気相成長法:Chemical Vapor Deposition)等によって基板50上に成膜される。本実施の形態では、金属電極層51の厚さは、0.3μm程度である。
次に、圧力調整弁32を開き、キャリアガス貯槽31に貯蔵されているアルゴンを、ガス供給管33を介して反応容器11に供給する。
続いて、p型シリコン多結晶層を形成するために、原料供給弁21aと原料供給弁23を開き、原料貯槽21に貯蔵されているp型価電子制御剤が添加された四塩化ケイ素を、供給機25により原料供給管26を介して反応容器11に供給する。本実施の形態では、供給機25として送液ポンプを使用している。
四塩化ケイ素は、反応容器11に供給される前に、加熱器24により加熱される。これにより、目的とする圧力まで速やかに加圧し、圧力を安定させることができる。加熱器24により加熱される四塩化ケイ素の温度は特に限定されないが、本実施の形態では、300K(27℃)〜570K(297℃)、好ましくは、330(57℃)〜520K(247℃)の範囲である。
【0032】
反応容器11に供給する四塩化ケイ素とアルゴンとの割合は特に限定されないが、本実施の形態では、アルゴン50mlに対し、四塩化ケイ素0.1ml〜100,000ml、好ましくは、10ml〜5,000ml、より好ましくは、10ml〜200mlである。アルゴンに対する四塩化ケイ素の割合が過度に小さいと、シリコン多結晶の生成速度が遅くなる傾向がある。アルゴンに対する四塩化ケイ素の割合が過度に大きいと、プラズマ放電が不安定となる傾向がある。
【0033】
尚、p型価電子制御剤が添加された四塩化ケイ素及びアルゴンが供給された反応容器11内の圧力は、圧力調整弁32及び排圧調整弁41を用いて調整する。反応容器11内の圧力は特に限定されないが、本実施の形態では、通常、3MPa〜20MPa、好ましくは、5MPa〜10MPaの範囲で調整する。
【0034】
次に、加熱器(図示せず)を用いて反応容器11を加熱し、反応容器11に供給されたp型価電子制御剤が添加された四塩化ケイ素及びアルゴンとの混合物の超臨界流体状態を形成する。
ここで超臨界流体状態とは、物質固有の気液の臨界温度を超えた非凝縮性流体と定義される。即ち、密閉容器内に気体と液体とが存在すると、温度上昇とともに液体は熱膨張しその密度は低下する。一方、気体は、蒸気圧の増加によりその密度が増大する。そして最後に、両者の密度が等しくなり、気体とも液体とも区別の付かない均一な状態になる。物質の温度−圧力線図(図示せず)では、このような状態になる点を臨界点といい、臨界点の温度を臨界温度(Tc)、臨界点の圧力を臨界圧力(Pc)という。超臨界流体状態とは、物質の温度及び圧力が臨界点を超えた状態にあることをいう。
【0035】
本実施の形態では、四塩化ケイ素の臨界温度(Tc)は506.75K(233.6℃)、臨界圧力(Pc)は3.73MPaである。また、アルゴンの臨界温度(Tc)は87.45K(−185.7℃)、臨界圧力(Pc)は4.86MPaである。
四塩化ケイ素とアルゴンとの混合物の場合、混合物の臨界温度(Tc)と臨界圧力(Pc)とは、四塩化ケイ素とアルゴンの組成により、それぞれの物質の臨界温度(Tc)と臨界圧力(Pc)との間で調整することができる。
【0036】
本実施の形態では、反応容器11の温度は、80K以上、好ましくは、300K〜600K、より好ましくは、313K〜510Kの範囲になるように加熱される。また、反応容器11内の圧力は、3MPa以上、好ましくは4.86MPa〜40MPa、より好ましくは4MPa〜10MPaの範囲で保持される。このような条件下、反応容器11内で、四塩化ケイ素とアルゴンとの混合物の超臨界流体状態が形成される。
【0037】
続いて、高周波電源15により電極12,13間に電力を印加し、プラズマ放電を発生させる。プラズマ放電を発生させる放電条件は、電極12,13間の距離や反応容器11内の圧力により適宜選択され特に限定されない。本実施の形態では、例えば、電源の周波数を13.56MHz、電力を100W〜200W程度に設定した場合、プラズマ放電時間は、数秒間〜数時間程度とすることが適当である。
【0038】
(シリコン多結晶層形成工程)
上述したように、p型価電子制御剤が添加された四塩化ケイ素及びアルゴンとの混合物の超臨界流体状態において電極12,13間に電力を印加し、プラズマ放電を発生させることにより、四塩化ケイ素は分解・反応する。そして、分解後に反応容器11内に設けた基板50上に形成した金属電極層51に到達したケイ素ラジカルは、金属電極層51の表面上で析出し、p型価電子制御剤が導入されたp型シリコン多結晶層が形成される(p型シリコン多結晶層形成工程)。
本実施の形態では、p型価電子制御剤を添加したp型シリコン多結晶層の層厚は、1nm〜50nmの範囲であり、好ましくは、3nm〜10nmの範囲である。
【0039】
本実施の形態では、p型価電子制御剤が添加された四塩化ケイ素の超臨界流体状態においてプラズマ放電を行うことにより、金属電極層51上に、表面粗さ(Ra)が50nm以下であるp型シリコン多結晶層が形成される。さらに、我々の検討によれば、表面粗さ(Ra)が30nm以下であるp型シリコン多結晶層が得られている。ここで、本実施の形態では、後述するn型シリコン多結晶層を含め、シリコン多結晶層の表面の表面粗さ(Ra)を、シリコン多結晶層を構成する微結晶の密度を評価する基準として採用している。
これに対し、我々の検討によれば、シリコン単結晶のインゴットをスライスして加工されたシリコン単結晶層の表面粗さ(Ra)は、150nm〜250nmであることが判明している。このようなシリコン単結晶層の表面と比べると、本実施の形態における製造方法によって形成されたp型シリコン多結晶層の表面が平坦であることが分かる。これにより、本実施の形態におけるp型シリコン多結晶層は、シリコン多結晶を構成する微結晶の密度が高められ、例えば、プラズマCVD法により半導体層を形成した場合と比べて、シリコン多結晶系太陽電池としての発電効率が高められることが期待される。
【0040】
(n型シリコン多結晶層の形成)
次に、原料供給弁21aと原料供給弁23、圧力調整弁32を閉じ、排圧調整弁41を開けて、反応容器11内を排気する。続いて、圧力調整弁32を開き、キャリアガス貯槽31に貯蔵されているアルゴンを、ガス供給管33を介して反応容器11に供給する。
続いて、n型シリコン多結晶層を形成するために、原料供給弁22aと原料供給弁23を開き、原料貯槽22に貯蔵されているn型価電子制御剤が添加された四塩化ケイ素を、供給機25により原料供給管26を介して反応容器11に供給する。そして、前述したp型シリコン多結晶層を形成したのと同様な操作を行い、n型価電子制御剤が添加された四塩化ケイ素の超臨界流体状態においてプラズマ放電を行うことにより、p型シリコン多結晶層上にn型シリコン多結晶層を積層する(n型シリコン多結晶層形成工程)。
本実施の形態では、n型価電子制御剤を添加したn型シリコン多結晶層の層厚は、1nm〜50nmの範囲であり、好ましくは、3nm〜10nmの範囲である。
前述したp型シリコン多結晶層と同様に、n型価電子制御剤が添加された四塩化ケイ素の超臨界流体状態においてプラズマ放電を行うことにより、表面粗さ(Ra)が50nm以下であるn型シリコン多結晶層が形成される。これにより、シリコン多結晶を構成する微結晶の密度が高められ、シリコン多結晶系太陽電池としての発電効率が高められることが期待される。
【0041】
上述したp型シリコン多結晶層形成工程とn型シリコン多結晶層形成工程とを繰り返し行うことにより、複数の光電変換層が積層された構造(例えば、pn−pnタンデム構造、pn−pn−pnトリプル構造等)を有するシリコン多結晶系太陽電池を形成することができる。
p型シリコン多結晶層とn型シリコン多結晶層とを形成した後、原料供給弁22aと原料供給弁23、圧力調整弁32を閉じ、排圧調整弁41を開けて、反応容器11内を排気する。続いて、反応容器11内から基板50を取り出し、例えば、透明電極堆積用の蒸着器(図示せず)により、透明電極をn型シリコン多結晶層上に堆積する。
【0042】
本実施の形態では、超臨界流体状態の四塩化ケイ素にプラズマ放電を行うことにより、高濃度のケイ素ラジカルが発生し、高密度のシリコン多結晶層の形成が可能となる。
また、超臨界流体状態の四塩化ケイ素は、高い拡散性を有するため、金属電極層51の表面にケイ素ラジカルを効率よく供給することが可能となる。さらに、四塩化ケイ素とアルゴンとの混合物の超臨界流体状態を形成することにより、反応系内が均一濃度に保たれ、生成するシリコン多結晶層の緻密性が向上する。
【0043】
尚、本実施の形態では、プラズマ放電を行う際に高周波電源15を用いる場合について説明したが、これに代えて直流電源を用いることもできる。
また、超臨界流体状態におけるプラズマ放電により分解した塩素は、塩素ガス回収装置(図示せず)により回収される。さらに、未反応の四塩化ケイ素回収装置(図示せず)により回収され、原料貯槽21,22へリサイクルされる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づき本実施の形態についてさらに詳述する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例)
図1に示す製造装置Iを使用し、以下の操作によりシリコン多結晶系太陽電池を製造する。
反応容器11として、通電可能なハステロイC製の耐圧セル(内容量:50ml)を使用する。供給機25として送液ポンプ(日本分光株式会社製)、圧力調整弁32として全自動圧力調整弁(日本分光株式会社製)、排圧調整弁41として全自動排圧調整弁(日本分光株式会社製)を用いる。
【0046】
電極12,13として、幅10mm×長さ20mmである平行平板電極を反応容器11に取付ける。電極12,13の材質として、SUSを使用する。電極12,13の間隔を、0.01mmに設定する。原料貯槽21,22には純度99.9%の四塩化ケイ素を充填する。また、原料貯槽21には、p型価電子制御剤としてBを添加する。原料貯槽22には、n型価電子制御剤としPHを添加する。キャリアガス貯槽31に、純度99.9%のアルゴンガスを充填する。
尚、高周波電源15として、交流発生器(東京ハイパワー株式会社製PSG−1301)、高周波発生器(東京ハイパワー株式会社製PA−150)及び直流変換器(東京ハイパワー株式会社製PS−330)を用い、整合器14として東京ハイパワー株式会社製HC−2000を用いる。
【0047】
初めに、反応容器11中にAgにより金属電極層51が形成されたガラス製の基板50を配置する。次に、反応容器11中にキャリアガス貯槽31からアルゴンガスを供給し、続いて、原料貯槽21から反応容器11中にBを添加した四塩化ケイ素を供給する。次に、反応容器11中の圧力が5MPaになるように加圧し、温度を308Kに昇温し、四塩化ケイ素とアルゴンガスとの混合物の超臨界流体状態を形成し、約20分間放置する。
続いて、四塩化ケイ素とアルゴンガスとの混合物の超臨界流体状態において、高周波電源15(13.56MHz)により、電極12,13に100Wの電力を約3分間印加し、プラズマ放電を発生させ、金属電極層51上にp型シリコン多結晶層を形成する。
【0048】
次に、反応容器11を冷却し、反応容器11中の圧力を、0.1MPa/分の速度で減圧する。続いて、反応容器11中にキャリアガス貯槽31からアルゴンガスを供給する。続いて、原料貯槽22から反応容器11中にPHを添加した四塩化ケイ素を供給し、上述したp型シリコン多結晶層を形成した場合と同様な操作により、p型シリコン多結晶層上にn型シリコン多結晶層を形成する。その後、反応容器11を冷却し、反応容器11中の圧力を、0.1MPa/分の速度で減圧する。次いで、反応容器11内から基板50を取り出し、透明電極堆積用の蒸着器(図示せず)により、透明電極をn型シリコン多結晶層上に堆積し、pn構造を有するシリコン多結晶系太陽電池を形成する。
上述したp型シリコン多結晶層を形成した後の測定したp型シリコン多結晶層の表面の表面粗さ(Ra)は、28.2nmである。
【0049】
以上説明したように、本発明では、ハロゲン化ケイ素化合物の超臨界流体状態においてプラズマ放電を行い、基板上に設けた金属電極層上に、結晶粒の密度が高められたシリコン多結晶層を形成することができる。形成されたシリコン多結晶層は、結晶粒の粒界が観察されない程度に、シリコン多結晶層を構成する微結晶の密度を高められ、これにより、光発電素子の一例である太陽電池の発電効率を高めることができる。
また、p型価電子制御剤を添加したハロゲン化ケイ素化合物とn型価電子制御剤を添加したハロゲン化ケイ素化合物を用いて、超臨界流体状態におけるプラズマ放電を交互に行うことにより、結晶粒が高密度で且つ薄膜のpn積層構造を容易に形成することができる。
【符号の説明】
【0050】
11…反応容器、12,13…電極、21,22…原料貯槽、31…キャリアガス貯槽、15…高周波電源、50…基板、51…金属電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と当該基板上に設けた金属電極層を有する光発電素子の製造方法であって、
ハロゲン化ケイ素化合物の超臨界流体状態を形成する超臨界流体状態形成工程と、
形成されたハロゲン化ケイ素化合物の超臨界流体状態においてプラズマ放電を行い、基板上に設けた金属電極層上にシリコン多結晶層を形成するシリコン多結晶層形成工程と、
を有することを特徴とする光発電素子の製造方法。
【請求項2】
形成された前記シリコン多結晶層の表面の表面粗さ(Ra)が50nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光発電素子の製造方法。
【請求項3】
前記超臨界流体状態形成工程により形成されたハロゲン化ケイ素化合物の超臨界流体状態は、圧力が3MPa以上、温度が80K以上に保持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の光発電素子の製造方法。
【請求項4】
前記超臨界流体状態形成工程は、ハロゲン化ケイ素化合物と不活性ガスとの混合系の超臨界流体状態を形成することを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光発電素子の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン多結晶層形成工程は、
III族化合物を添加したハロゲン化ケイ素化合物と不活性ガスとの混合系の超臨界流体状態において行われるプラズマ放電によりp型シリコン多結晶層を形成するp型シリコン多結晶層形成工程と、
V族化合物を添加したハロゲン化ケイ素化合物と不活性ガスとの混合系の超臨界流体状態において行われるプラズマ放電によりn型シリコン多結晶層を形成するn型シリコン多結晶層形成工程と、
を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光発電素子の製造方法。
【請求項6】
ハロゲン化ケイ素化合物が、ケイ素化合物の塩化物又はケイ素化合物の臭化物であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光発電素子の製造方法。
【請求項7】
ハロゲン化ケイ素化合物が、四塩化ケイ素であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光発電素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−40439(P2011−40439A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183743(P2009−183743)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(508179615)株式会社 シリコンプラス (10)
【Fターム(参考)】