光素子及びその製造方法
【課題】3%を越える高い比屈折率差Δにおいても吸収損失の小さくかつ屈折率制御性が高く緻密な高品質のSiON膜をコアとする、光導波路型の光素子が提供できるようにする。
【解決手段】基板101の表面を熱酸化することで膜厚10μm程度の酸化シリコン膜を形成することで、基板101の上に下部クラッド層102が形成された状態とする。次に、下部クラッド層102の上にECRプラズマCVD法により膜厚3μmのSiON膜を堆積する。ついで、堆積形成したSiON膜を公知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とにより微細加工することで、下部クラッド層102の上にコア103が形成された状態とする。
【解決手段】基板101の表面を熱酸化することで膜厚10μm程度の酸化シリコン膜を形成することで、基板101の上に下部クラッド層102が形成された状態とする。次に、下部クラッド層102の上にECRプラズマCVD法により膜厚3μmのSiON膜を堆積する。ついで、堆積形成したSiON膜を公知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とにより微細加工することで、下部クラッド層102の上にコア103が形成された状態とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸窒化シリコンを材料として用いた導波路構造の光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信用光デバイスに広く利用されている光導波路では、光の吸収が少ない導波路材料が求められている。また、導波路材料には、高い設計の自由度が得られるために、屈折率が所定の範囲で制御可能であることも求められている。
これまで、光導波路のコアの材料としてGeO2ドープのSiO2やTiO2ドープのSiO2が用いられ、クラッドにはSiO2が主に用いられてきた。
【0003】
GeO2やTiO2のドープにより屈折率を高くすることができるが、GeO2及びTiO2は、SiO2に対するドープ量に限界があり、比屈折率差Δで示せば2%以下であった。比屈折率差Δは、コアの屈折率をncore、クラッドの屈折率をncladとしたとき、Δ=(ncore−nclad)/ncore×100、で表されコアとクラッドの屈折率差を示す1つの指標である。
【0004】
近年、光デバイスの小型化、高集積化の要求が高まってきたことから、比屈折率差Δの高い光導波路の実現が求められてきている。比屈折率差Δを大きくすれば、シングルモード条件を満たすコア寸法が小さくなり、かつ小さな曲げ半径の光導波路が得られ、結果として光デバイスの小型化が可能になるからである。この目的のため、SiO2にNをドープしたSiONの導波路が検討され始めている。SiO2にNをドープすることでSiONとなるが、SiONを用いた導波路はNのドープ量により、酸化膜の屈折率1.45から窒化膜の屈折率2.02の間の屈折率が得られると考えられ、比屈折率差Δが2%以上の導波路の作製も可能となる。
【0005】
SiONの膜を形成する方法としては、屈折率制御性,成膜速度,成膜面積の観点から工業的生産における要求を満たすものとして、平行平板型電極を用いて高周波放電を行うプラズマ励起化学的気相成長法(PECVD法)が広く使われている。
図13は、従来より用いられている平行平板型電極を用いたプラズマCVD装置である。この装置は、処理室1301内に、シャワー電極1302と下部電極1303とを備える。シャワー電極1302と下部電極1303とには、高周波電源1304により高周波が印加可能とされ、これらで平行平板電極が構成されている。
【0006】
シャワー電極1302には、下部電極1303との対向面に複数のガス突出孔を備え、原料ガスを均一に供給可能としている。また、シャワー電極1302は、絶縁部材1305を介して処理室1301の上面に固定され、ガス供給管1306に連通し、処理室1301の外部より原料ガスの導入を可能としている。
また、処理室1301の内部は、排気装置1307により所定の圧力にまで真空排気される。
【0007】
図13に示す装置によれば、ガス供給管1305→シャワー電極1302の経路により、シャワー電極1302と下部電極1303との間に原料ガスを導入し、高周波電源1304からの高周波を印加することにより、平行平板電極間にプラズマ1310を発生させる。このように発生したプラズマにより、導入している原料ガスを分解,励起し、下部電極1303の上に配置されている基板WにSiONの膜を形成可能としている。
【0008】
図13に示す装置を用いたSiONの膜を形成において、原料ガスとしてはSiH4/O2/NH3の混合ガス、またはSiH4/N2O/NH3の混合ガスが用いられ、膜の形成中(成膜中)の処理室1301内の圧力は数10Pa〜100Pa程度である。
上述した方法によるSiONの膜を形成では、SiH4とN2Oの流量比とNH3の添加流量で膜中のNのドープ量が変わるため、屈折率をある程度の範囲で制御することができる。
【0009】
図14は、SiH4とN2Oの流量比と屈折率との関係を、NH3の添加流量毎に示した相関図である(非特許文献1参照)
図14からわかるように、SiH4とN2Oの流量比の変化により、SiONの屈折率が変化するが、SiH4とN2Oの流量比が小さいほど、言い換えると、SiH4の割合が小さいほど高い屈折率が得られている。この場合、高い屈折率を得るためには、成膜の速度が大幅に低下する条件となる。一方、これらの中で、NH3の添加流量が多いほど、より高い屈折率が得られている。従って、成膜の速度をあまり遅くせずに高い屈折率を得るためには、NH3の添加すればよい。
【0010】
なお、出願人は、本明細書に記載した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を出願時までに発見するには至らなかった。
【非特許文献1】R.Germann, et.al.,"Silicon Oxynitride Layers for Optical Waveguide Applications" Journal of The Electrochemical Society, 147 (6), pp.2237-2241 (2000).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の平行平板電極を用いたプラズマCVD法で形成されたSiONを比屈折率差Δ3%以上の高屈折率差導波路に適用しようとした場合、次のような問題が生じた。
(1)プラズマCVD法で形成されたSiON膜中に、SiH4とNH3から発生する水素を多量に含むため、上記膜中にO−H基やN−H基やSi−H基が存在し、これらが光を吸収するため損失が大きいという問題があった。特に、NHはこの倍音にあたる吸収が通信波長帯の1510nm付近に存在し、このままでは導波路には使えないという問題があった。さらに、Nのドープ量を増やし比屈折率差Δを大きくすると、NHの吸収がますます強くなってしまうことも問題であった。
【0012】
(2)O−HやN−HやSi−Hの吸収を減らし損失を下げるために、1100℃以上の高温で数時間のアニールの処理を行い膜中の水素量を減らしていたが、従来のプラズマCVD法で作製される膜は緻密な膜でないため、アニールすると膜厚が1割以上も薄くなり、また、屈折率が変化し、精度の高い導波路の量産をする上で問題となっていた。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、3%を越える高い比屈折率差Δにおいても吸収損失の小さくかつ屈折率制御性が高く緻密な高品質のSiON膜をコアとする、光導波路型の光素子が提供できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る光素子は、基板の上に形成された酸化シリコンからなる下部クラッド層と、この下部クラッド層の上に形成されたSiONからなるコアと、このコアを覆うように形成された酸化シリコンからなる上部クラッド層とから構成された光導波路を備え、コアは、ECRプラズマCVD法により形成されたSiONより構成されているようにしたものである。
従って、コアは、NHが低減された状態で形成されている。
【0014】
上記光素子において、コアは、シランと酸素と窒素とからなる原料ガス、四塩化シリコンと酸素と窒素とからなる原料ガスの少なくとも1つを用いたECRプラズマCVD法により形成されたSiONより構成されていればよい。
また、上記光素子において、下部クラッド層の上に形成された組成遷移層を備え、コアは組成遷移層を介して下部クラッド層の上に形成されているようにしてもよく、組成遷移層は、コアの側に近づくほど窒素の添加量が徐々に増加する酸化シリコンから構成すればよい。
【0015】
また、上記光素子において、光導波路の端部に連続して配置されたモードフィールド変換部を備えるようにしてもよく、モードフィールド変換部は、コアと同一材料から構成されて先端にいくほど幅が狭くなる形状のテーパ部コアと、このテーパ部コアを覆うコアより屈折率の低いSiONから構成されたSiONコアとから構成すればよい。
【0016】
また、本発明に係る光素子の製造方法は、基板の上に形成された酸化シリコンからなる下部クラッド層が形成された状態とする第1工程と、下部クラッド層の上に、シランと酸素と窒素とからなる原料ガス,四塩化シリコンと酸素と窒素とからなる原料ガスの少なくとも1つを用いたECRプラズマCVD法により、SiONの膜が形成された状態とする第2工程と、SiONの膜の上にフォトリソグラフィ技術によりマスクパターンが形成された状態とする第3工程と、カーボンとフッ素とを含むガスを用いたドライエッチングによりSiONの膜を選択的にエッチングし、断面矩形のSiONからなるコアが形成された状態とする第4工程と、コアを覆うように酸化シリコンからなる上部クラッド層が形成された状態とする第5工程とを備え、コアから構成された光導波路を形成するようにしたものである。なお、SiONの膜を800℃以下で熱処理するようにしてもよい。
【0017】
上記光素子の製造方法において、下部クラッド層の上に、コアの側に近づくほど窒素の添加量が徐々に増加する酸化シリコンから構成された組成遷移層を形成した後、コアを形成するようにしてもよい。
また、上記光素子の製造方法において、第4工程では、コアとともにこのコアに連続して先端にいくほど幅が狭くなる形状のテーパ部コアが形成された状態とし、テーパ部コアを覆うコアより屈折率の低いSiONから構成されたSiONコアが形成された状態とした後、上部クラッド層が形成された状態とし、光導波路の端部に連続して配置されたモードフィールド変換部が形成された状態としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、コアが、ECRプラズマCVD法により形成されたSiONより構成されているようにしたので、NHが低減された状態にできるなど、3%を越える高い比屈折率差Δにおいても吸収損失の小さくかつ屈折率制御性が高く緻密な高品質のSiONをコアとする、光導波路型の光素子が提供できるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態における光素子の構成例を示す模式的な断面図である。本素子の構成について説明すると、単結晶シリコンからなる基板101の上に酸化シリコンからなる膜厚10μm程度の下部クラッド層102を備え、下部クラッド層102の上に酸窒化シリコン(SiON)からなるコア103を備える。下部クラッド層102は、例えば基板101の表面を熱酸化することで形成できる。
【0020】
また、本素子は、コア103を覆うように形成された、酸化シリコンからなる膜厚10μm程度の上部クラッド層104を備える。コア103は、比屈折率差が3%とされ、断面の寸法が3×3μmである。コア103の断面サイズや各クラッドの厚さは、比屈折率差3%とした場合の値であり、目的のデバイスによって比屈折率差を変えた場合は、各寸法を適宜設定する。
【0021】
次に、図1に示す光素子の製造方法について説明する。
まず、基板101の表面を熱酸化することで膜厚10μm程度の酸化シリコン膜を形成することで、基板101の上に下部クラッド層102が形成された状態とする。次に、下部クラッド層102の上にECRプラズマCVD法により膜厚3μmのSiON膜を堆積する。
【0022】
ついで、堆積形成したSiON膜を公知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とにより微細加工することで、下部クラッド層102の上にコア103が形成された状態とする。例えば、カーボンとフッ素とを含むガスを用いたリアクティブイオンエッチングによりSiON膜を選択的にエッチングすることで、コア103の微細加工が実現できる。この後、コア103を含む下部クラッド層102の上に酸化シリコン膜を形成することで、上部クラッド層104が形成された状態とする。
【0023】
ここで、上述したECRプラズマCVD法によるSiON膜の形成について説明する。ECRプラズマCVD法では、まず、図2に示すECRプラズマCVD装置を用いる。本装置は、プラズマ生成室201の周囲に磁気コイル204を備え、プラズマ生成室201内部の適当な領域にECR条件を満たす磁界(875ガウス)を発生させ、成膜室202内においてはプラズマ流210の形でイオンを引き出すための発散磁界を形成させる。
【0024】
酸素、窒素ガスをガス導入管209を通してプラズマ生成室201に導入し、2.45GHzのマイクロ波を導波管205より石英窓206を介してプラズマ生成室201に導入してプラズマを生成する。SiH4ガスはガス導入管208により成膜室202の基板台203近傍に供給され、基板209の近傍で酸素、窒素プラズマと反応し基板209の表面にSiON膜を形成する。このときプラズマ流210中に発生する電界により加速されたイオンが、基板209の表面に入射し衝撃を与えこのエネルギーにより、膜形成反応が促進され、緻密な高品質膜が形成される。
【0025】
基板台203には、図示していないがヒーターが埋め込まれ、成膜中の基板209の温度を、例えば200℃程度に維持可能としている。基板209の上に形成される膜の均一性を高めるため、基板台203を傾けて回転させる機構を備えるようにしてもよい。
【0026】
図2に示すようなECRプラズマCVD装置は、プラズマ生成にECR条件を用いているため、0.01〜1Paの低ガス圧で安定にプラズマを生成でき、膜の形成では、0.1〜0.5Pa程度のガス圧を用いればよい。このように、ECRプラズマは、低ガス圧,高エネルギー電子の特徴から、従来のプラズマCVD法に比較して、導入ガス分子の分解、励起、イオン化が著しく向上する。さらに、本装置構成では、イオンは発散磁場の効果によって成膜室202内の基板台203にまで引き出され、低エネルギーのイオン衝撃によって基板表面での膜形成反応を促進する。
【0027】
図3は、図2に例示したECRプラズマCVD装置により形成したSiON膜の屈折率の制御性を調べた結果である。SiH4ガスの流量を20sccm一定とし、酸素と窒素の総流量を45sccmに一定とし、窒素流量を0から45sccmまで変化させて膜厚150nm程度に成膜し、エリプソメータで波長632.8nmでの屈折率を測定した結果である。なお、成膜中のガス圧は0.23Pa、マイクロ波パワーは500Wである。
【0028】
酸素・窒素の混合比を変えると、屈折率が1.47から1.96まで変化していることが分かる。従って、供給する酸素・窒素の混合比を聖書具することで、形成するSiON膜の屈折率を安定に制御できる。また、成膜速度も、0.1μm/min以上と実用的な値である。ECRプラズマを用いると、酸素及び窒素ガスの混合比により屈折率が広く制御できる理由は、次のように考えられる。
【0029】
プラズマを用いて成膜反応を誘起するには、分子を分解するため結合エネルギー以上のエネルギーを、外から与える必要がある。熱によりエネルギーを供給する場合、結合エネルギーを越える熱エネルギーを与えて分子の振動を励起させれば、分子は分解する。しかしプラズマのように電子衝突により分子を励起することで起こる分解は、分子の中の電子が、解離ポテンシャル曲線を持つ状態に励起することで解離する直接解離反応か、一度、束縛ポテンシャル曲線を持つ励起状態に励起し、この後、解離ポテンシャルに乗り移って解離する解離反応によるかのどちらかの反応をたどる。
【0030】
このため、電子衝突により分解するエネルギーは、結合エネルギーより高いエネルギーを必要とする。また、このエネルギーは、分子の励起状態のポテンシャル曲線の形に大きく依存するため、各々の分子で異なっている。例えば、酸素(O2)分子は、熱解離エネルギーは5.08eV、電子衝突による解離エネルギーは7eVである。また、窒素(N2)は、熱解離エネルギーが9.76eVに対し、電子衝突による解離エネルギーは24.3eVである(小沼光晴:プラズマと成膜の基礎、日刊工業新聞社)。
【0031】
このように、窒素は、プラズマ中で解離させるには高いエネルギーを持った電子が必要で、従来のプラズマでは10eV以下の電子が主であるため、解離が起こりにくく、窒素の分圧によっては、形成するSiON膜の屈折率を制御できない。一方、従来プラズマより2,3桁低い圧力で動作するECRプラズマは、20〜30eVの高エネルギー電子が多く存在するため、N2も効率よく分解でき、膜中に効率よくN原子をドープできる。
【0032】
従って、ECRプラズマCVD法によれば、N2の分圧を変えるだけで屈折率を広い範囲で制御できることになる。このように、ECRプラズマCVD法によるSiONをコアに用いれば、シリコン酸化膜をクラッドとすることで比屈折率差20%の導波路も同じガスで作製できる。なお、SiH4(シラン)の代わりに四塩化シリコン(SiCl4)を用いても同様である。
【0033】
次に、ECRプラズマCVD法で形成したSiONによるコア103を備えた図1に示す光導波路型の素子と、従来のプラズマCVD法で形成したSiONのコアを用いた導波路型の素子との差について説明する。
図4に示すように、OH,NHの吸収ピークは、ECRプラズマCVD法で形成したコア103では大幅に低減されている。これは、低ガス圧下で、適度のイオン衝撃を与えて成膜反応させるECRプラズマの特徴が、水素の脱離に有効であるためである。
【0034】
水素の完全除去にはアニールが有効であるが、以降に説明するように、図1に示す素子によれば、より低温のアニールで水素の除去が容易に行えるようになる。図5は、SiON膜中のNHの含有量のアニール温度依存性を従来よりある素子と図1に示す素子とで比較した結果を示す特性図である。SiONの屈折率は、1.50のものを用い含有量は赤外分光法で得られた吸収スペクトル強度より見積もった。
【0035】
ECRプラズマを用いた図1に示す素子では、800℃の加熱処理によりNHは無くなっている。このように、図1に示す素子によれば、より低温でのアニールでNHが低減できるので、光デバイスなどの作製に適用するとき有利である。言い換えると、本実施の形態によれば、800℃以下の熱処理で、形成したSiON膜よりNHが低減できる。
【0036】
ここで、プラズマCVD法について説明する。
プラズマCVD法による膜の形成反応は、(1)ガス分子の分解、(2)基板の表面への付着、(3)結合反応、の3つの段階に分けられる。(3)の反応は膜の最終的性質を決めるため重要である。しかし、従来のプラズマCVD法では、(1),(2)の反応を引き起こすには有効であるが、(3)の反応は基板の加熱によって促進させようとしているため、必ずしも十分ではなく、この結果、水素を多量に含み緻密性の低い膜となっていた。
【0037】
この膜質の問題は、低いガス圧力下で、プラズマの高活性化とともに適度のエネルギーのイオン衝撃で基板上の膜形成反応を促進させることができるECRプラズマを利用したCVD法によって解決できる。
ECRプラズマCVD法は、0.1Pa程度の低ガス圧で安定にプラズマを生成でき、電子のエネルギーも高いため、イオン化率が従来のプラズマCVD法より2〜3桁高い。また、成膜室の内部に形成される発散磁場によりプラズマ流中のイオンを基板の方向に加速する電界が発生する。この結果、適度なエネルギーを持ったイオンが基板に衝突しイオン衝撃を与える。
【0038】
このエネルギーは10〜20eVであり、基板に損傷を与えることなく膜形成反応を促進する効果を持つ。イオンの割合を高くし、適度なエネルギーで基板の表面を衝撃することにより、ECRプラズマCVDによる成膜中に、高温熱反応と同様の水素放出効果、結合促進効果、アニール効果が低温下で実現できる.さらにECRプラズマCVD法は、低ガス圧力下での成膜反応であるため水素の放出に有利となる。これらの効果の結果、ECRプラズマCVD法によるSiON膜は水素の含有量が小さくかつ緻密で高品質な膜となる。
【0039】
また、従来のプラズマでは上記(1)のガス分子の分解もプラズマ中の電子エネルギーが低いため、分解の効率がよくなかったが、ECRプラズマは低ガス圧で作動し、かつ高エネルギー電子(20〜30eV)が多量に存在するため、解離エネルギー、イオン化エネルギーが高く従来のプラズマでは分解、イオン化されにくいN2も効率よく分解し、イオン化できる。
【0040】
この結果、ECRプラズマCVD法では、ドープする窒素の供給源として従来のN2OやNH3ではなくN2ガスを使えるため、効率よくNをドープでき、またNのドープ量を精度よく制御性でき、SiONの屈折率をO2ガスとN2ガスの割合だけで1.45〜2.0の広い範囲で容易に制御できる。このため、従来法では屈折率制御に欠かせないNH3を使う必要がないため、ECRプラズマCVD法によれば水素の含有量が小さいSiON膜を形成できる。
【0041】
また、ECRプラズマCVD法では、単純にO2ガスとN2ガスだけでSiONにおけるOとNの割合を変えて屈折率を制御できるため、作製される膜の屈折率の安定性、再現性が高い。屈折率を大きく変える場合も、別のガスを加える必要はなく同じガス構成で成膜できるため、装置を安定に運用できる。
【0042】
次に、図1に示した導波路型の素子の適用例について説明する。図6は、アレイ導波路(AWG)の基本的な構成を示す平面図であり、多重化された信号光は入射導波路601より入射し、分波されて出射導波路602より出射する。入射した信号光は、入射側スラブ導波路603を通り、アレイ導波路605及び出射側スラブ導波路604を通過することで、分波される。
【0043】
ここで、入射側スラブ導波路603,出射側スラブ導波路604,及びアレイ導波路605は、図7に示す導波路となっている。まず、単結晶シリコンからなる基板101の上に、基板101を熱酸化することで形成した下部クラッド層102を備える。下部クラッド層102の屈折率は、1.464である。下部クラッド層102の上には、組成遷移層701を介してコア103が形成されている。コア103の屈折率は、例えば1.51であり、断面の寸法は、3×3μmである。また、コア103は、屈折率1.464の酸化シリコンからなる上部クラッド層104に覆われている。組成遷移層701以外は、図1に示した素子と同様である。
【0044】
このように構成した導波路では、比屈折率差が3%と閉じこめが強いため、入射導波路601、出射導波路602、アレイ導波路605は半径0.5mmで曲げることができ、この結果1cm角内にAWGを作り込むことができる。
【0045】
このAWGは次のように作製される。まず、単結晶シリコンからなる基板を熱酸化炉に入れドライ酸化により下部クラッド層となるシリコン熱酸化膜を膜厚10μm程度に形成する。次に、上記基板をECRプラズマCVD装置に搬入して固定し、まずO2プラズマにより基板の表面をクリーニングする。この後、SiH4ガスを導入し、下部クラッド層の上にシリコン酸化膜を数nm程度堆積する。このとき、ガス圧力を0.1Pa程度の低圧条件を用いることで、比較的高いエネルギーを持つイオンを基板(下部クラッド層)に照射することで、密着性の高い酸化膜が堆積できる。
【0046】
次に、窒素ガスの導入を開始し、所定の屈折率(1.51)のSiONが形成できる条件までSiH4ガス、O2ガス、窒素ガスの流量を徐々に増加させる。この過程で、上記シリコン酸化膜の上に窒素濃度が徐々に増加する酸化膜から目的のSiON膜への組成遷移層が数nmから10nm形成される。組成遷移層は、必要ではないが、これにより物質構造の急激な変化を防止でき膜の密着性が高まる。組成遷移層の上に屈折率1.51のSiON膜を時間で制御して3μm堆積する。
【0047】
次にフォトレジストを基板の上にスピンコートし、光露光法によりAWG導波路用のレジストパターンを形成する。この後、レジストをマスクにカーボンフロライド系のガスを用いたリアクティブイオンエッチング(RIE)によりSiONを加工し、導波路の形状となるSiONコアが形成された状態とする。
【0048】
エッチングマスクに用いたレジストをアッシングなどの方法で除去した後、SiONコアを覆う上部クラッド層として屈折率1.46のシリコン酸化膜を、例えばECRプラズマCVD法で7μm程度堆積する。この後、窒素雰囲気中で熱処理してSiON膜中の水素原子を脱離させれば、図6に示すAWGが得られる。このように作製されたAWGは、小型で良好な特性を示している。
【0049】
次に、本発明の実施の形態における他の光素子について説明する。
比屈折率差を大きくすると導波路コアの断面サイズは小さくなり、急峻な曲げが可能になるため、形成できるデバイスの大きさをさらに小さくできる。しかし、小型なデバイスは、光ファイバーなどの外部回路と接続するとき、モードフィールドサイズが大きく違うため結合損失が大きい。従って、比屈折率差をさらに高くしたSiON導波路においては、光ファイバーとの結合損失を低減するために、モードフィールドサイズを大きくする必要がある。
【0050】
図8,9は、モードフィールドサイズを変換可能な素子の構成例を示す平面図と断面図である。本素子は、図8の平面図に示すように、導波路領域811とこの両端に接続するモードフィールドサイズ変換領域(モードフィールド変換部)812とから構成されている。全ての領域において、単結晶シリコンからなる基板801の上に酸化シリコンからなる膜厚10μm程度の下部クラッド層802を備え、下部クラッド層802の上には、組成遷移層701を備える。
【0051】
導波路領域811においては、組成遷移層701の上にSiONからなるコア803を備える。コア803は、例えば屈折率1.64とした高屈折率コアであり、断面の寸法が1.2×1.2μmである。
また、モードフィールドサイズ変換領域812においては、組成遷移層701の上にSiONからなるテーパ部コア803aを備える。テーパ部コア803aは、コア803に連続して形成されている。テーパ部コア803は、先端にいくほど幅が狭くなる形状で、コア803より漸次断面積が小さくなっている。
【0052】
また、導波路領域811においては、コア803を含む組成遷移層701の上にSiONコア805を備え、モードフィールドサイズ変換領域812においては、テーパ部コア803aを含む一部の組成遷移層701の上にSiONコア804を備える。SiONコア804,805は、屈折率が1.50とされ、膜厚3μm程度に形成されている。
これらSiONコア804,805の最上層には、屈折率1.465の酸化シリコンからなる上部クラッド層806が形成されている。
【0053】
図8,9に示す素子の製造方法について簡単に説明すると、まず、基板801の表面を熱酸化することで、厚さ10μm程度の下部クラッド層802が形成された状態とした後、この上に、前述したECRプラズマCVD法により、組成遷移層701を形成し、引き続き、ECRプラズマCVD法により、屈折率1.64のSiON膜を形成し、公知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とにより加工し、コア803及びテーパ部コア803aが形成された状態とする。
【0054】
ついで、同様のECRプラズマCVD法により、屈折率1.50のSiON膜を3μm程度に形成した後、公知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とにより、モードフィールドサイズ変換領域812におけるSiONコア804が形成された状態とする。ついで、窒素雰囲気中で熱処理してSiON膜中の水素原子を脱離させた後、屈折率1.465の上部クラッド層806を10μm程度に形成して完成させる。
【0055】
ところで、図10,11に示すように、部分的に屈折率1.5程度のSiONのパターンを設けることで、モードフィールドサイズ変換領域812を形成するようにしてもよい。本例では、モードフィールドサイズ変換領域812においては、テーパ部コア803aを覆うように、屈折率1.50のSiONからなるSiONコア904を備え、導波路領域811においては、コア803が上部クラッド層806に直接覆われているようにした。この構成では、導波路領域811においては、コア803の上部、下部とも、酸化し遺恨から構成されている状態となり、屈折率は上下対象となる。この結果、導波路は偏波依存性を抑制することができる。
【0056】
図12は図10,11に示したモードフィールド変換部の付いた光導波路型の光素子の製造過程を示す工程図である。まず、図12(a)に示すように、単結晶シリコンからなる基板801を熱酸化し、基板801の上に膜厚5〜10μm程度の下部クラッド層802が形成された状態とする。ついで、前述したECRプラズマCVD法により、組成遷移層701及び屈折率が1.64程度のSiON膜823が形成された状態とする。
【0057】
ここで、組成遷移層701の形成について説明すると、まずO2のECRプラズマにより下部クラッド層802の表面をクリーニングした後、ここにSiH4ガスを導入し、下部クラッド層802の上に酸化シリコン膜が数nm程度堆積した状態とする。次に、O2,SiH4ガスに加えて窒素ガスを導入し、所定の屈折率(1.51)のSiONが形成できる条件までO2ガス、SiH4ガス、窒素ガスの流量を徐々に増加させる。この過程で、初期に形成した酸化シリコン膜の上に窒素濃度が徐々に増加して目的のSiON膜へ組成が遷移する組成遷移層701が形成できる。
【0058】
次に、図12(b)に示すように、公知のフォトリソグラフィ技術により所望のレジストパターン122がSiON膜823の上に形成された状態とする。
次に、レジストパターン122をマスクにSiON膜823を選択的にエッチングすることで、図12(c)に示すように、下部クラッド層802の上に、組成遷移層701を介してコア803及びテーパ部コア803aが形成された状態とする。
【0059】
次に、ステンシルマスクを用いたECRプラズマCVD法による選択的な堆積で、図10に示したモードフィールドサイズ変換領域812に、屈折率が下部クラッド層802より高くコア803より低い膜厚3〜7μm程度のSiON膜を形成する。ついで、公知のフォトリソグラフィ技術により、図10に示したSiONコア904となる領域にレジストパターンを形成する。
【0060】
この後、形成したレジストパターンをマスクとして上記SiON膜をドライエッチングすることで、図12(d)に示すように、所定の領域でコア803及びテーパ部コア803aを覆うSiONコア904が形成された状態とする。図12(d)では、レジストパターンを除去した後の状態を示している。
最後に、膜厚7〜15μm程度の酸化シリコン膜を堆積することで、図12(e)に示すように、上部クラッド層806が形成された状態とすれば、図10,11に示した光素子が製造された状態となる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態における光素子の構成例を示す模式的な断面図である。
【図2】ECRプラズマCVD装置の構成例を示す模式的な断面図である。
【図3】図2に例示したECRプラズマCVD装置により形成したSiON膜の屈折率の制御性を調べた結果を示す特性図である。
【図4】ECRプラズマCVD法で形成したコア103におけるOH,NHの吸収ピークを示す特性図である。
【図5】SiON膜中のNHの含有量のアニール温度依存性を従来よりある素子と図1に示す素子とで比較した結果を示す特性図である。
【図6】アレイ導波路(AWG)の基本的な構成を示す平面図である。
【図7】入射側スラブ導波路603,出射側スラブ導波路604,及びアレイ導波路605の構成を示す模式的な断面図である。
【図8】モードフィールドサイズを変換可能な素子の構成例を示す平面図である。
【図9】モードフィールドサイズを変換可能な素子の構成例を示す断面図である。
【図10】モードフィールドサイズを変換可能な素子の構成例を示す平面図である。
【図11】モードフィールドサイズを変換可能な素子の構成例を示す断面図である。
【図12】図10,11に示したモードフィールド変換部の付いた光導波路型の光素子の製造過程を示す工程図である。
【図13】従来より用いられている平行平板型電極を用いたプラズマCVD装置の構成図である。
【図14】SiH4とN2Oの流量比と屈折率との関係を、NH3の添加流量毎に示した相関図である。
【符号の説明】
【0062】
101…基板、102…下部クラッド層、103…コア、104…上部クラッド層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸窒化シリコンを材料として用いた導波路構造の光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信用光デバイスに広く利用されている光導波路では、光の吸収が少ない導波路材料が求められている。また、導波路材料には、高い設計の自由度が得られるために、屈折率が所定の範囲で制御可能であることも求められている。
これまで、光導波路のコアの材料としてGeO2ドープのSiO2やTiO2ドープのSiO2が用いられ、クラッドにはSiO2が主に用いられてきた。
【0003】
GeO2やTiO2のドープにより屈折率を高くすることができるが、GeO2及びTiO2は、SiO2に対するドープ量に限界があり、比屈折率差Δで示せば2%以下であった。比屈折率差Δは、コアの屈折率をncore、クラッドの屈折率をncladとしたとき、Δ=(ncore−nclad)/ncore×100、で表されコアとクラッドの屈折率差を示す1つの指標である。
【0004】
近年、光デバイスの小型化、高集積化の要求が高まってきたことから、比屈折率差Δの高い光導波路の実現が求められてきている。比屈折率差Δを大きくすれば、シングルモード条件を満たすコア寸法が小さくなり、かつ小さな曲げ半径の光導波路が得られ、結果として光デバイスの小型化が可能になるからである。この目的のため、SiO2にNをドープしたSiONの導波路が検討され始めている。SiO2にNをドープすることでSiONとなるが、SiONを用いた導波路はNのドープ量により、酸化膜の屈折率1.45から窒化膜の屈折率2.02の間の屈折率が得られると考えられ、比屈折率差Δが2%以上の導波路の作製も可能となる。
【0005】
SiONの膜を形成する方法としては、屈折率制御性,成膜速度,成膜面積の観点から工業的生産における要求を満たすものとして、平行平板型電極を用いて高周波放電を行うプラズマ励起化学的気相成長法(PECVD法)が広く使われている。
図13は、従来より用いられている平行平板型電極を用いたプラズマCVD装置である。この装置は、処理室1301内に、シャワー電極1302と下部電極1303とを備える。シャワー電極1302と下部電極1303とには、高周波電源1304により高周波が印加可能とされ、これらで平行平板電極が構成されている。
【0006】
シャワー電極1302には、下部電極1303との対向面に複数のガス突出孔を備え、原料ガスを均一に供給可能としている。また、シャワー電極1302は、絶縁部材1305を介して処理室1301の上面に固定され、ガス供給管1306に連通し、処理室1301の外部より原料ガスの導入を可能としている。
また、処理室1301の内部は、排気装置1307により所定の圧力にまで真空排気される。
【0007】
図13に示す装置によれば、ガス供給管1305→シャワー電極1302の経路により、シャワー電極1302と下部電極1303との間に原料ガスを導入し、高周波電源1304からの高周波を印加することにより、平行平板電極間にプラズマ1310を発生させる。このように発生したプラズマにより、導入している原料ガスを分解,励起し、下部電極1303の上に配置されている基板WにSiONの膜を形成可能としている。
【0008】
図13に示す装置を用いたSiONの膜を形成において、原料ガスとしてはSiH4/O2/NH3の混合ガス、またはSiH4/N2O/NH3の混合ガスが用いられ、膜の形成中(成膜中)の処理室1301内の圧力は数10Pa〜100Pa程度である。
上述した方法によるSiONの膜を形成では、SiH4とN2Oの流量比とNH3の添加流量で膜中のNのドープ量が変わるため、屈折率をある程度の範囲で制御することができる。
【0009】
図14は、SiH4とN2Oの流量比と屈折率との関係を、NH3の添加流量毎に示した相関図である(非特許文献1参照)
図14からわかるように、SiH4とN2Oの流量比の変化により、SiONの屈折率が変化するが、SiH4とN2Oの流量比が小さいほど、言い換えると、SiH4の割合が小さいほど高い屈折率が得られている。この場合、高い屈折率を得るためには、成膜の速度が大幅に低下する条件となる。一方、これらの中で、NH3の添加流量が多いほど、より高い屈折率が得られている。従って、成膜の速度をあまり遅くせずに高い屈折率を得るためには、NH3の添加すればよい。
【0010】
なお、出願人は、本明細書に記載した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を出願時までに発見するには至らなかった。
【非特許文献1】R.Germann, et.al.,"Silicon Oxynitride Layers for Optical Waveguide Applications" Journal of The Electrochemical Society, 147 (6), pp.2237-2241 (2000).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の平行平板電極を用いたプラズマCVD法で形成されたSiONを比屈折率差Δ3%以上の高屈折率差導波路に適用しようとした場合、次のような問題が生じた。
(1)プラズマCVD法で形成されたSiON膜中に、SiH4とNH3から発生する水素を多量に含むため、上記膜中にO−H基やN−H基やSi−H基が存在し、これらが光を吸収するため損失が大きいという問題があった。特に、NHはこの倍音にあたる吸収が通信波長帯の1510nm付近に存在し、このままでは導波路には使えないという問題があった。さらに、Nのドープ量を増やし比屈折率差Δを大きくすると、NHの吸収がますます強くなってしまうことも問題であった。
【0012】
(2)O−HやN−HやSi−Hの吸収を減らし損失を下げるために、1100℃以上の高温で数時間のアニールの処理を行い膜中の水素量を減らしていたが、従来のプラズマCVD法で作製される膜は緻密な膜でないため、アニールすると膜厚が1割以上も薄くなり、また、屈折率が変化し、精度の高い導波路の量産をする上で問題となっていた。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、3%を越える高い比屈折率差Δにおいても吸収損失の小さくかつ屈折率制御性が高く緻密な高品質のSiON膜をコアとする、光導波路型の光素子が提供できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る光素子は、基板の上に形成された酸化シリコンからなる下部クラッド層と、この下部クラッド層の上に形成されたSiONからなるコアと、このコアを覆うように形成された酸化シリコンからなる上部クラッド層とから構成された光導波路を備え、コアは、ECRプラズマCVD法により形成されたSiONより構成されているようにしたものである。
従って、コアは、NHが低減された状態で形成されている。
【0014】
上記光素子において、コアは、シランと酸素と窒素とからなる原料ガス、四塩化シリコンと酸素と窒素とからなる原料ガスの少なくとも1つを用いたECRプラズマCVD法により形成されたSiONより構成されていればよい。
また、上記光素子において、下部クラッド層の上に形成された組成遷移層を備え、コアは組成遷移層を介して下部クラッド層の上に形成されているようにしてもよく、組成遷移層は、コアの側に近づくほど窒素の添加量が徐々に増加する酸化シリコンから構成すればよい。
【0015】
また、上記光素子において、光導波路の端部に連続して配置されたモードフィールド変換部を備えるようにしてもよく、モードフィールド変換部は、コアと同一材料から構成されて先端にいくほど幅が狭くなる形状のテーパ部コアと、このテーパ部コアを覆うコアより屈折率の低いSiONから構成されたSiONコアとから構成すればよい。
【0016】
また、本発明に係る光素子の製造方法は、基板の上に形成された酸化シリコンからなる下部クラッド層が形成された状態とする第1工程と、下部クラッド層の上に、シランと酸素と窒素とからなる原料ガス,四塩化シリコンと酸素と窒素とからなる原料ガスの少なくとも1つを用いたECRプラズマCVD法により、SiONの膜が形成された状態とする第2工程と、SiONの膜の上にフォトリソグラフィ技術によりマスクパターンが形成された状態とする第3工程と、カーボンとフッ素とを含むガスを用いたドライエッチングによりSiONの膜を選択的にエッチングし、断面矩形のSiONからなるコアが形成された状態とする第4工程と、コアを覆うように酸化シリコンからなる上部クラッド層が形成された状態とする第5工程とを備え、コアから構成された光導波路を形成するようにしたものである。なお、SiONの膜を800℃以下で熱処理するようにしてもよい。
【0017】
上記光素子の製造方法において、下部クラッド層の上に、コアの側に近づくほど窒素の添加量が徐々に増加する酸化シリコンから構成された組成遷移層を形成した後、コアを形成するようにしてもよい。
また、上記光素子の製造方法において、第4工程では、コアとともにこのコアに連続して先端にいくほど幅が狭くなる形状のテーパ部コアが形成された状態とし、テーパ部コアを覆うコアより屈折率の低いSiONから構成されたSiONコアが形成された状態とした後、上部クラッド層が形成された状態とし、光導波路の端部に連続して配置されたモードフィールド変換部が形成された状態としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、コアが、ECRプラズマCVD法により形成されたSiONより構成されているようにしたので、NHが低減された状態にできるなど、3%を越える高い比屈折率差Δにおいても吸収損失の小さくかつ屈折率制御性が高く緻密な高品質のSiONをコアとする、光導波路型の光素子が提供できるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態における光素子の構成例を示す模式的な断面図である。本素子の構成について説明すると、単結晶シリコンからなる基板101の上に酸化シリコンからなる膜厚10μm程度の下部クラッド層102を備え、下部クラッド層102の上に酸窒化シリコン(SiON)からなるコア103を備える。下部クラッド層102は、例えば基板101の表面を熱酸化することで形成できる。
【0020】
また、本素子は、コア103を覆うように形成された、酸化シリコンからなる膜厚10μm程度の上部クラッド層104を備える。コア103は、比屈折率差が3%とされ、断面の寸法が3×3μmである。コア103の断面サイズや各クラッドの厚さは、比屈折率差3%とした場合の値であり、目的のデバイスによって比屈折率差を変えた場合は、各寸法を適宜設定する。
【0021】
次に、図1に示す光素子の製造方法について説明する。
まず、基板101の表面を熱酸化することで膜厚10μm程度の酸化シリコン膜を形成することで、基板101の上に下部クラッド層102が形成された状態とする。次に、下部クラッド層102の上にECRプラズマCVD法により膜厚3μmのSiON膜を堆積する。
【0022】
ついで、堆積形成したSiON膜を公知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とにより微細加工することで、下部クラッド層102の上にコア103が形成された状態とする。例えば、カーボンとフッ素とを含むガスを用いたリアクティブイオンエッチングによりSiON膜を選択的にエッチングすることで、コア103の微細加工が実現できる。この後、コア103を含む下部クラッド層102の上に酸化シリコン膜を形成することで、上部クラッド層104が形成された状態とする。
【0023】
ここで、上述したECRプラズマCVD法によるSiON膜の形成について説明する。ECRプラズマCVD法では、まず、図2に示すECRプラズマCVD装置を用いる。本装置は、プラズマ生成室201の周囲に磁気コイル204を備え、プラズマ生成室201内部の適当な領域にECR条件を満たす磁界(875ガウス)を発生させ、成膜室202内においてはプラズマ流210の形でイオンを引き出すための発散磁界を形成させる。
【0024】
酸素、窒素ガスをガス導入管209を通してプラズマ生成室201に導入し、2.45GHzのマイクロ波を導波管205より石英窓206を介してプラズマ生成室201に導入してプラズマを生成する。SiH4ガスはガス導入管208により成膜室202の基板台203近傍に供給され、基板209の近傍で酸素、窒素プラズマと反応し基板209の表面にSiON膜を形成する。このときプラズマ流210中に発生する電界により加速されたイオンが、基板209の表面に入射し衝撃を与えこのエネルギーにより、膜形成反応が促進され、緻密な高品質膜が形成される。
【0025】
基板台203には、図示していないがヒーターが埋め込まれ、成膜中の基板209の温度を、例えば200℃程度に維持可能としている。基板209の上に形成される膜の均一性を高めるため、基板台203を傾けて回転させる機構を備えるようにしてもよい。
【0026】
図2に示すようなECRプラズマCVD装置は、プラズマ生成にECR条件を用いているため、0.01〜1Paの低ガス圧で安定にプラズマを生成でき、膜の形成では、0.1〜0.5Pa程度のガス圧を用いればよい。このように、ECRプラズマは、低ガス圧,高エネルギー電子の特徴から、従来のプラズマCVD法に比較して、導入ガス分子の分解、励起、イオン化が著しく向上する。さらに、本装置構成では、イオンは発散磁場の効果によって成膜室202内の基板台203にまで引き出され、低エネルギーのイオン衝撃によって基板表面での膜形成反応を促進する。
【0027】
図3は、図2に例示したECRプラズマCVD装置により形成したSiON膜の屈折率の制御性を調べた結果である。SiH4ガスの流量を20sccm一定とし、酸素と窒素の総流量を45sccmに一定とし、窒素流量を0から45sccmまで変化させて膜厚150nm程度に成膜し、エリプソメータで波長632.8nmでの屈折率を測定した結果である。なお、成膜中のガス圧は0.23Pa、マイクロ波パワーは500Wである。
【0028】
酸素・窒素の混合比を変えると、屈折率が1.47から1.96まで変化していることが分かる。従って、供給する酸素・窒素の混合比を聖書具することで、形成するSiON膜の屈折率を安定に制御できる。また、成膜速度も、0.1μm/min以上と実用的な値である。ECRプラズマを用いると、酸素及び窒素ガスの混合比により屈折率が広く制御できる理由は、次のように考えられる。
【0029】
プラズマを用いて成膜反応を誘起するには、分子を分解するため結合エネルギー以上のエネルギーを、外から与える必要がある。熱によりエネルギーを供給する場合、結合エネルギーを越える熱エネルギーを与えて分子の振動を励起させれば、分子は分解する。しかしプラズマのように電子衝突により分子を励起することで起こる分解は、分子の中の電子が、解離ポテンシャル曲線を持つ状態に励起することで解離する直接解離反応か、一度、束縛ポテンシャル曲線を持つ励起状態に励起し、この後、解離ポテンシャルに乗り移って解離する解離反応によるかのどちらかの反応をたどる。
【0030】
このため、電子衝突により分解するエネルギーは、結合エネルギーより高いエネルギーを必要とする。また、このエネルギーは、分子の励起状態のポテンシャル曲線の形に大きく依存するため、各々の分子で異なっている。例えば、酸素(O2)分子は、熱解離エネルギーは5.08eV、電子衝突による解離エネルギーは7eVである。また、窒素(N2)は、熱解離エネルギーが9.76eVに対し、電子衝突による解離エネルギーは24.3eVである(小沼光晴:プラズマと成膜の基礎、日刊工業新聞社)。
【0031】
このように、窒素は、プラズマ中で解離させるには高いエネルギーを持った電子が必要で、従来のプラズマでは10eV以下の電子が主であるため、解離が起こりにくく、窒素の分圧によっては、形成するSiON膜の屈折率を制御できない。一方、従来プラズマより2,3桁低い圧力で動作するECRプラズマは、20〜30eVの高エネルギー電子が多く存在するため、N2も効率よく分解でき、膜中に効率よくN原子をドープできる。
【0032】
従って、ECRプラズマCVD法によれば、N2の分圧を変えるだけで屈折率を広い範囲で制御できることになる。このように、ECRプラズマCVD法によるSiONをコアに用いれば、シリコン酸化膜をクラッドとすることで比屈折率差20%の導波路も同じガスで作製できる。なお、SiH4(シラン)の代わりに四塩化シリコン(SiCl4)を用いても同様である。
【0033】
次に、ECRプラズマCVD法で形成したSiONによるコア103を備えた図1に示す光導波路型の素子と、従来のプラズマCVD法で形成したSiONのコアを用いた導波路型の素子との差について説明する。
図4に示すように、OH,NHの吸収ピークは、ECRプラズマCVD法で形成したコア103では大幅に低減されている。これは、低ガス圧下で、適度のイオン衝撃を与えて成膜反応させるECRプラズマの特徴が、水素の脱離に有効であるためである。
【0034】
水素の完全除去にはアニールが有効であるが、以降に説明するように、図1に示す素子によれば、より低温のアニールで水素の除去が容易に行えるようになる。図5は、SiON膜中のNHの含有量のアニール温度依存性を従来よりある素子と図1に示す素子とで比較した結果を示す特性図である。SiONの屈折率は、1.50のものを用い含有量は赤外分光法で得られた吸収スペクトル強度より見積もった。
【0035】
ECRプラズマを用いた図1に示す素子では、800℃の加熱処理によりNHは無くなっている。このように、図1に示す素子によれば、より低温でのアニールでNHが低減できるので、光デバイスなどの作製に適用するとき有利である。言い換えると、本実施の形態によれば、800℃以下の熱処理で、形成したSiON膜よりNHが低減できる。
【0036】
ここで、プラズマCVD法について説明する。
プラズマCVD法による膜の形成反応は、(1)ガス分子の分解、(2)基板の表面への付着、(3)結合反応、の3つの段階に分けられる。(3)の反応は膜の最終的性質を決めるため重要である。しかし、従来のプラズマCVD法では、(1),(2)の反応を引き起こすには有効であるが、(3)の反応は基板の加熱によって促進させようとしているため、必ずしも十分ではなく、この結果、水素を多量に含み緻密性の低い膜となっていた。
【0037】
この膜質の問題は、低いガス圧力下で、プラズマの高活性化とともに適度のエネルギーのイオン衝撃で基板上の膜形成反応を促進させることができるECRプラズマを利用したCVD法によって解決できる。
ECRプラズマCVD法は、0.1Pa程度の低ガス圧で安定にプラズマを生成でき、電子のエネルギーも高いため、イオン化率が従来のプラズマCVD法より2〜3桁高い。また、成膜室の内部に形成される発散磁場によりプラズマ流中のイオンを基板の方向に加速する電界が発生する。この結果、適度なエネルギーを持ったイオンが基板に衝突しイオン衝撃を与える。
【0038】
このエネルギーは10〜20eVであり、基板に損傷を与えることなく膜形成反応を促進する効果を持つ。イオンの割合を高くし、適度なエネルギーで基板の表面を衝撃することにより、ECRプラズマCVDによる成膜中に、高温熱反応と同様の水素放出効果、結合促進効果、アニール効果が低温下で実現できる.さらにECRプラズマCVD法は、低ガス圧力下での成膜反応であるため水素の放出に有利となる。これらの効果の結果、ECRプラズマCVD法によるSiON膜は水素の含有量が小さくかつ緻密で高品質な膜となる。
【0039】
また、従来のプラズマでは上記(1)のガス分子の分解もプラズマ中の電子エネルギーが低いため、分解の効率がよくなかったが、ECRプラズマは低ガス圧で作動し、かつ高エネルギー電子(20〜30eV)が多量に存在するため、解離エネルギー、イオン化エネルギーが高く従来のプラズマでは分解、イオン化されにくいN2も効率よく分解し、イオン化できる。
【0040】
この結果、ECRプラズマCVD法では、ドープする窒素の供給源として従来のN2OやNH3ではなくN2ガスを使えるため、効率よくNをドープでき、またNのドープ量を精度よく制御性でき、SiONの屈折率をO2ガスとN2ガスの割合だけで1.45〜2.0の広い範囲で容易に制御できる。このため、従来法では屈折率制御に欠かせないNH3を使う必要がないため、ECRプラズマCVD法によれば水素の含有量が小さいSiON膜を形成できる。
【0041】
また、ECRプラズマCVD法では、単純にO2ガスとN2ガスだけでSiONにおけるOとNの割合を変えて屈折率を制御できるため、作製される膜の屈折率の安定性、再現性が高い。屈折率を大きく変える場合も、別のガスを加える必要はなく同じガス構成で成膜できるため、装置を安定に運用できる。
【0042】
次に、図1に示した導波路型の素子の適用例について説明する。図6は、アレイ導波路(AWG)の基本的な構成を示す平面図であり、多重化された信号光は入射導波路601より入射し、分波されて出射導波路602より出射する。入射した信号光は、入射側スラブ導波路603を通り、アレイ導波路605及び出射側スラブ導波路604を通過することで、分波される。
【0043】
ここで、入射側スラブ導波路603,出射側スラブ導波路604,及びアレイ導波路605は、図7に示す導波路となっている。まず、単結晶シリコンからなる基板101の上に、基板101を熱酸化することで形成した下部クラッド層102を備える。下部クラッド層102の屈折率は、1.464である。下部クラッド層102の上には、組成遷移層701を介してコア103が形成されている。コア103の屈折率は、例えば1.51であり、断面の寸法は、3×3μmである。また、コア103は、屈折率1.464の酸化シリコンからなる上部クラッド層104に覆われている。組成遷移層701以外は、図1に示した素子と同様である。
【0044】
このように構成した導波路では、比屈折率差が3%と閉じこめが強いため、入射導波路601、出射導波路602、アレイ導波路605は半径0.5mmで曲げることができ、この結果1cm角内にAWGを作り込むことができる。
【0045】
このAWGは次のように作製される。まず、単結晶シリコンからなる基板を熱酸化炉に入れドライ酸化により下部クラッド層となるシリコン熱酸化膜を膜厚10μm程度に形成する。次に、上記基板をECRプラズマCVD装置に搬入して固定し、まずO2プラズマにより基板の表面をクリーニングする。この後、SiH4ガスを導入し、下部クラッド層の上にシリコン酸化膜を数nm程度堆積する。このとき、ガス圧力を0.1Pa程度の低圧条件を用いることで、比較的高いエネルギーを持つイオンを基板(下部クラッド層)に照射することで、密着性の高い酸化膜が堆積できる。
【0046】
次に、窒素ガスの導入を開始し、所定の屈折率(1.51)のSiONが形成できる条件までSiH4ガス、O2ガス、窒素ガスの流量を徐々に増加させる。この過程で、上記シリコン酸化膜の上に窒素濃度が徐々に増加する酸化膜から目的のSiON膜への組成遷移層が数nmから10nm形成される。組成遷移層は、必要ではないが、これにより物質構造の急激な変化を防止でき膜の密着性が高まる。組成遷移層の上に屈折率1.51のSiON膜を時間で制御して3μm堆積する。
【0047】
次にフォトレジストを基板の上にスピンコートし、光露光法によりAWG導波路用のレジストパターンを形成する。この後、レジストをマスクにカーボンフロライド系のガスを用いたリアクティブイオンエッチング(RIE)によりSiONを加工し、導波路の形状となるSiONコアが形成された状態とする。
【0048】
エッチングマスクに用いたレジストをアッシングなどの方法で除去した後、SiONコアを覆う上部クラッド層として屈折率1.46のシリコン酸化膜を、例えばECRプラズマCVD法で7μm程度堆積する。この後、窒素雰囲気中で熱処理してSiON膜中の水素原子を脱離させれば、図6に示すAWGが得られる。このように作製されたAWGは、小型で良好な特性を示している。
【0049】
次に、本発明の実施の形態における他の光素子について説明する。
比屈折率差を大きくすると導波路コアの断面サイズは小さくなり、急峻な曲げが可能になるため、形成できるデバイスの大きさをさらに小さくできる。しかし、小型なデバイスは、光ファイバーなどの外部回路と接続するとき、モードフィールドサイズが大きく違うため結合損失が大きい。従って、比屈折率差をさらに高くしたSiON導波路においては、光ファイバーとの結合損失を低減するために、モードフィールドサイズを大きくする必要がある。
【0050】
図8,9は、モードフィールドサイズを変換可能な素子の構成例を示す平面図と断面図である。本素子は、図8の平面図に示すように、導波路領域811とこの両端に接続するモードフィールドサイズ変換領域(モードフィールド変換部)812とから構成されている。全ての領域において、単結晶シリコンからなる基板801の上に酸化シリコンからなる膜厚10μm程度の下部クラッド層802を備え、下部クラッド層802の上には、組成遷移層701を備える。
【0051】
導波路領域811においては、組成遷移層701の上にSiONからなるコア803を備える。コア803は、例えば屈折率1.64とした高屈折率コアであり、断面の寸法が1.2×1.2μmである。
また、モードフィールドサイズ変換領域812においては、組成遷移層701の上にSiONからなるテーパ部コア803aを備える。テーパ部コア803aは、コア803に連続して形成されている。テーパ部コア803は、先端にいくほど幅が狭くなる形状で、コア803より漸次断面積が小さくなっている。
【0052】
また、導波路領域811においては、コア803を含む組成遷移層701の上にSiONコア805を備え、モードフィールドサイズ変換領域812においては、テーパ部コア803aを含む一部の組成遷移層701の上にSiONコア804を備える。SiONコア804,805は、屈折率が1.50とされ、膜厚3μm程度に形成されている。
これらSiONコア804,805の最上層には、屈折率1.465の酸化シリコンからなる上部クラッド層806が形成されている。
【0053】
図8,9に示す素子の製造方法について簡単に説明すると、まず、基板801の表面を熱酸化することで、厚さ10μm程度の下部クラッド層802が形成された状態とした後、この上に、前述したECRプラズマCVD法により、組成遷移層701を形成し、引き続き、ECRプラズマCVD法により、屈折率1.64のSiON膜を形成し、公知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とにより加工し、コア803及びテーパ部コア803aが形成された状態とする。
【0054】
ついで、同様のECRプラズマCVD法により、屈折率1.50のSiON膜を3μm程度に形成した後、公知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とにより、モードフィールドサイズ変換領域812におけるSiONコア804が形成された状態とする。ついで、窒素雰囲気中で熱処理してSiON膜中の水素原子を脱離させた後、屈折率1.465の上部クラッド層806を10μm程度に形成して完成させる。
【0055】
ところで、図10,11に示すように、部分的に屈折率1.5程度のSiONのパターンを設けることで、モードフィールドサイズ変換領域812を形成するようにしてもよい。本例では、モードフィールドサイズ変換領域812においては、テーパ部コア803aを覆うように、屈折率1.50のSiONからなるSiONコア904を備え、導波路領域811においては、コア803が上部クラッド層806に直接覆われているようにした。この構成では、導波路領域811においては、コア803の上部、下部とも、酸化し遺恨から構成されている状態となり、屈折率は上下対象となる。この結果、導波路は偏波依存性を抑制することができる。
【0056】
図12は図10,11に示したモードフィールド変換部の付いた光導波路型の光素子の製造過程を示す工程図である。まず、図12(a)に示すように、単結晶シリコンからなる基板801を熱酸化し、基板801の上に膜厚5〜10μm程度の下部クラッド層802が形成された状態とする。ついで、前述したECRプラズマCVD法により、組成遷移層701及び屈折率が1.64程度のSiON膜823が形成された状態とする。
【0057】
ここで、組成遷移層701の形成について説明すると、まずO2のECRプラズマにより下部クラッド層802の表面をクリーニングした後、ここにSiH4ガスを導入し、下部クラッド層802の上に酸化シリコン膜が数nm程度堆積した状態とする。次に、O2,SiH4ガスに加えて窒素ガスを導入し、所定の屈折率(1.51)のSiONが形成できる条件までO2ガス、SiH4ガス、窒素ガスの流量を徐々に増加させる。この過程で、初期に形成した酸化シリコン膜の上に窒素濃度が徐々に増加して目的のSiON膜へ組成が遷移する組成遷移層701が形成できる。
【0058】
次に、図12(b)に示すように、公知のフォトリソグラフィ技術により所望のレジストパターン122がSiON膜823の上に形成された状態とする。
次に、レジストパターン122をマスクにSiON膜823を選択的にエッチングすることで、図12(c)に示すように、下部クラッド層802の上に、組成遷移層701を介してコア803及びテーパ部コア803aが形成された状態とする。
【0059】
次に、ステンシルマスクを用いたECRプラズマCVD法による選択的な堆積で、図10に示したモードフィールドサイズ変換領域812に、屈折率が下部クラッド層802より高くコア803より低い膜厚3〜7μm程度のSiON膜を形成する。ついで、公知のフォトリソグラフィ技術により、図10に示したSiONコア904となる領域にレジストパターンを形成する。
【0060】
この後、形成したレジストパターンをマスクとして上記SiON膜をドライエッチングすることで、図12(d)に示すように、所定の領域でコア803及びテーパ部コア803aを覆うSiONコア904が形成された状態とする。図12(d)では、レジストパターンを除去した後の状態を示している。
最後に、膜厚7〜15μm程度の酸化シリコン膜を堆積することで、図12(e)に示すように、上部クラッド層806が形成された状態とすれば、図10,11に示した光素子が製造された状態となる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態における光素子の構成例を示す模式的な断面図である。
【図2】ECRプラズマCVD装置の構成例を示す模式的な断面図である。
【図3】図2に例示したECRプラズマCVD装置により形成したSiON膜の屈折率の制御性を調べた結果を示す特性図である。
【図4】ECRプラズマCVD法で形成したコア103におけるOH,NHの吸収ピークを示す特性図である。
【図5】SiON膜中のNHの含有量のアニール温度依存性を従来よりある素子と図1に示す素子とで比較した結果を示す特性図である。
【図6】アレイ導波路(AWG)の基本的な構成を示す平面図である。
【図7】入射側スラブ導波路603,出射側スラブ導波路604,及びアレイ導波路605の構成を示す模式的な断面図である。
【図8】モードフィールドサイズを変換可能な素子の構成例を示す平面図である。
【図9】モードフィールドサイズを変換可能な素子の構成例を示す断面図である。
【図10】モードフィールドサイズを変換可能な素子の構成例を示す平面図である。
【図11】モードフィールドサイズを変換可能な素子の構成例を示す断面図である。
【図12】図10,11に示したモードフィールド変換部の付いた光導波路型の光素子の製造過程を示す工程図である。
【図13】従来より用いられている平行平板型電極を用いたプラズマCVD装置の構成図である。
【図14】SiH4とN2Oの流量比と屈折率との関係を、NH3の添加流量毎に示した相関図である。
【符号の説明】
【0062】
101…基板、102…下部クラッド層、103…コア、104…上部クラッド層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成された酸化シリコンからなる下部クラッド層と、
この下部クラッド層の上に形成されたSiONからなるコアと、
このコアを覆うように形成された酸化シリコンからなる上部クラッド層と
から構成された光導波路を備え、
前記コアは、ECRプラズマCVD法により形成されたSiONより構成されている
ことを特徴とする光素子。
【請求項2】
請求項1記載の光素子において、
前記コアは、シランと酸素と窒素とからなる原料ガス、四塩化シリコンと酸素と窒素とからなる原料ガスの少なくとも1つを用いたECRプラズマCVD法により形成されたSiONより構成されている
ことを特徴とする光素子。
【請求項3】
請求項1記載の光素子において、
前記下部クラッド層の上に形成された組成遷移層を備え、
前記コアは前記組成遷移層を介して前記下部クラッド層の上に形成され、
前記組成遷移層は、前記コアの側に近づくほど窒素の添加量が徐々に増加する酸化シリコンから構成されている
ことを特徴とする光素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光素子において、
前記光導波路の端部に連続して配置されたモードフィールド変換部を備え、
前記モードフィールド変換部は、
前記コアと同一材料から構成されて先端にいくほど幅が狭くなる形状のテーパ部コアと、
このテーパ部コアを覆う前記コアより屈折率の低いSiONから構成されたSiONコアと
から構成されていることを特徴とする光素子。
【請求項5】
基板の上に形成された酸化シリコンからなる下部クラッド層が形成された状態とする第1工程と、
前記下部クラッド層の上に、シランと酸素と窒素とからなる原料ガス,四塩化シリコンと酸素と窒素とからなる原料ガスの少なくとも1つを用いたECRプラズマCVD法により、SiONの膜が形成された状態とする第2工程と、
前記SiONの膜の上にフォトリソグラフィ技術によりマスクパターンが形成された状態とする第3工程と、
カーボンとフッ素とを含むガスを用いたドライエッチングにより前記SiONの膜を選択的にエッチングし、断面矩形のSiONからなるコアが形成された状態とする第4工程と、
前記コアを覆うように酸化シリコンからなる上部クラッド層が形成された状態とする第5工程と
を備え、
前記コアから構成された光導波路を形成する
ことを特徴とする光素子の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の光素子の製造方法において、
前記下部クラッド層の上に、前記コアの側に近づくほど窒素の添加量が徐々に増加する酸化シリコンから構成された組成遷移層を形成した後、前記コアを形成する
ことを特徴とする光素子の製造方法。
【請求項7】
請求項5記載の光素子の製造方法において、
前記第4工程では、前記コアとともにこのコアに連続して先端にいくほど幅が狭くなる形状のテーパ部コアが形成された状態とし、
前記テーパ部コアを覆う前記コアより屈折率の低いSiONから構成されたSiONコアが形成された状態とした後、前記上部クラッド層が形成された状態とし、
前記光導波路の端部に連続して配置されたモードフィールド変換部が形成された状態とする
ことを特徴とする光素子の製造方法。
【請求項1】
基板の上に形成された酸化シリコンからなる下部クラッド層と、
この下部クラッド層の上に形成されたSiONからなるコアと、
このコアを覆うように形成された酸化シリコンからなる上部クラッド層と
から構成された光導波路を備え、
前記コアは、ECRプラズマCVD法により形成されたSiONより構成されている
ことを特徴とする光素子。
【請求項2】
請求項1記載の光素子において、
前記コアは、シランと酸素と窒素とからなる原料ガス、四塩化シリコンと酸素と窒素とからなる原料ガスの少なくとも1つを用いたECRプラズマCVD法により形成されたSiONより構成されている
ことを特徴とする光素子。
【請求項3】
請求項1記載の光素子において、
前記下部クラッド層の上に形成された組成遷移層を備え、
前記コアは前記組成遷移層を介して前記下部クラッド層の上に形成され、
前記組成遷移層は、前記コアの側に近づくほど窒素の添加量が徐々に増加する酸化シリコンから構成されている
ことを特徴とする光素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光素子において、
前記光導波路の端部に連続して配置されたモードフィールド変換部を備え、
前記モードフィールド変換部は、
前記コアと同一材料から構成されて先端にいくほど幅が狭くなる形状のテーパ部コアと、
このテーパ部コアを覆う前記コアより屈折率の低いSiONから構成されたSiONコアと
から構成されていることを特徴とする光素子。
【請求項5】
基板の上に形成された酸化シリコンからなる下部クラッド層が形成された状態とする第1工程と、
前記下部クラッド層の上に、シランと酸素と窒素とからなる原料ガス,四塩化シリコンと酸素と窒素とからなる原料ガスの少なくとも1つを用いたECRプラズマCVD法により、SiONの膜が形成された状態とする第2工程と、
前記SiONの膜の上にフォトリソグラフィ技術によりマスクパターンが形成された状態とする第3工程と、
カーボンとフッ素とを含むガスを用いたドライエッチングにより前記SiONの膜を選択的にエッチングし、断面矩形のSiONからなるコアが形成された状態とする第4工程と、
前記コアを覆うように酸化シリコンからなる上部クラッド層が形成された状態とする第5工程と
を備え、
前記コアから構成された光導波路を形成する
ことを特徴とする光素子の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の光素子の製造方法において、
前記下部クラッド層の上に、前記コアの側に近づくほど窒素の添加量が徐々に増加する酸化シリコンから構成された組成遷移層を形成した後、前記コアを形成する
ことを特徴とする光素子の製造方法。
【請求項7】
請求項5記載の光素子の製造方法において、
前記第4工程では、前記コアとともにこのコアに連続して先端にいくほど幅が狭くなる形状のテーパ部コアが形成された状態とし、
前記テーパ部コアを覆う前記コアより屈折率の低いSiONから構成されたSiONコアが形成された状態とした後、前記上部クラッド層が形成された状態とし、
前記光導波路の端部に連続して配置されたモードフィールド変換部が形成された状態とする
ことを特徴とする光素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−47462(P2006−47462A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225319(P2004−225319)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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