説明

光走査素子及び画像表示装置

【課題】消費電力、製造コスト、面積が小さく、光ビームを大きな角度に2軸方向に走査可能な光走査素子を提供する。
【解決手段】アーム部23は、ミラー部21がX軸方向の揺動可能なように、ミラー部21を支持する。上層可動フレーム部25は、アーム部23を支持する。下層可動フレーム部35は、上面に複数の凸部32を有し、上面と上層可動フレーム部25の下面との間に間隙を有するように、複数の凸部32により上層可動フレーム部25の下面に接合される。固定フレーム部(20,30)上層可動フレーム部25及び前記下層可動フレーム部35が、X軸方向と直交するY軸方向の揺動可能なように、上層可動フレーム部25を支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームを反射して2軸方向の走査を行う光走査素子及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造技術を発展させた微小電気機械システム(MEMS)技術により、小型に製造され、光ビームを反射して光を二次元的に走査する光走査素子(マイクロスキャナ)が知られている。光走査素子は、画像の情報により輝度調整された光ビームを反射し、画像をスクリーンに投射する画像表示装置等に用いられる。このような画像表示装置は、1軸方向の走査を行う2つの光走査素子、或いは2軸方向の走査を行う1つの光走査素子により、水平方向及び垂直方向の走査を行う。
【0003】
光走査素子の駆動方式として、コイルと磁石との間のローレンツ力を利用したムービングコイル(MC)方式(特許文献1参照)や、ムービングマグネット(MM)方式(特許文献2参照)等の電磁駆動方式、圧電膜の圧電効果を利用した圧電駆動方式(特許文献3参照)、電極間の静電気力を利用した静電駆動方式(非特許文献1参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−110005号公報
【特許文献2】特開2009−258645号公報
【特許文献3】特開2005−148459号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】河野清彦 他、「静電2軸MEMS光スキャナの絶縁構造」、パナソニック電工技報、Vol.56 No.3、2008年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電磁駆動方式では、光走査素子に設けられたコイルに通電することにより、光ビームを反射するミラー部を駆動するが、MEMS技術により微小に形成された光走査素子において、更なる小型化を図る場合にコイルの巻数が制限されてしまう。よって、より大きな角度に光ビームを走査するための駆動力を確保しようとすると、コイルの巻数の制限のため、電流値を上げる必要があり、消費電力が大きくなるという問題がある。特に携帯型のシステムを想定した場合にはバッテリー駆動が必須であり、連続稼働時間が限られてしまうことになる。
【0007】
また、圧電駆動方式では、より大きな角度に光ビームを走査するために、圧電膜の面積を大きくして駆動力を確保する必要がある。特に1つの光走査素子で2軸方向の走査を行う場合、ミラー部を駆動可能に支持するフレーム自体を駆動させるための、第2のフレームが必要となり、光走査素子の面積が大きくなってしまい、光走査素子が大型化してしまう。1軸方向の走査を行う光走査素子を2つ用いて2軸方向に光ビームを走査する方法も一般的に行われているが、光軸を正確に合わせる必要があるなど、光学系が複雑になり、装置の大型化と装置の価格アップを招いてしまうという問題がある。
【0008】
また、静電駆動方式では、光走査素子の駆動力となる櫛歯状の電極間の静電気力が小さいという問題がある。
【0009】
上記問題点を鑑み、本発明は、消費電力、製造コスト、面積が小さく、光ビームを大きな角度に2軸方向に走査可能な光走査素子及び画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、光を反射するミラー部(21)と、前記ミラー部(21)が第1の方向の揺動可能なように、前記ミラー部(21)を支持するアーム部(23)と、前記アーム部(23)を支持する上層可動フレーム部(25)と、上面に複数の凸部(32)を有し、上面と前記上層可動フレーム部(25)の下面との間に間隙を有するように、前記複数の凸部(32)により前記上層可動フレーム部(25)の下面に接合された下層可動フレーム部(35)と、前記上層可動フレーム部(25)及び前記下層可動フレーム部(35)が、前記第1の方向と直交する第2の方向の揺動可能なように、前記上層可動フレーム部(25)を支持する固定フレーム部(20,30)と、前記アーム部(23)に設けられ、変位することにより前記アーム部(23)を駆動して、前記ミラー部(21)を前記第1の方向に揺動させる上層圧電膜(24)と、前記下層可動フレーム部(35)に設けられ、変位することにより前記上層可動フレーム部(25)及び前記下層可動フレーム(35)部を駆動して、前記ミラー部(21)を前記第2の方向に揺動させる下層圧電膜(33)とを備える光走査素子であることを要旨とする。
【0011】
また、本発明の第1の態様に係る光走査素子においては、前記上層圧電膜(24)と前記下層圧電膜(33)とが、平面視、重畳する領域を含むようにそれぞれ設けられている。
【0012】
また、本発明の第1の態様に係る光走査素子においては、前記上層可動フレーム部(25)及び前記下層可動フレーム部(35)が、平面視、枠型形状であり、平面視、互いに同一の寸法とすることができる。
【0013】
また、本発明の第1の態様に係る光走査素子においては、前記複数の凸部(32)は、前記下層可動フレーム部(35)の4辺のそれぞれ中点近傍に位置することができる。
【0014】
また、本発明の第1の態様に係る光走査素子においては、前記下層可動フレーム部(351)が、平面視、互い違いにコの字型に屈曲したパターンを有することができる。
【0015】
また、本発明の第1の態様に係る光走査素子においては、前記下層圧電膜(33)が、前記下層可動フレーム部(35)の下面に形成されることができる。
【0016】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る光走査素子(1)と、前記ミラー部(21)に光を出射する光源(55)と、前記光源(55)が出射する光の輝度を、画像情報に応じて変調するように制御する制御部(50)とを備える画像表示装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、他の駆動方式に比して消費電力が小さな圧電駆動方式であり、電磁駆動方式のように製造工程が複雑になることなく、静電駆動方式のように駆動力が不足することなく、同時に素子の面積を小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は、本発明の実施の形態に係る光走査素子の基本的な構成を説明する模式的な上面図である。(b)は、図1(a)のI−I方向から見た断面図である。(c)は、本発明の実施の形態に係る光走査素子の下層部の基本的な構成を説明する模式的な上面図である。
【図2】(a)は、本発明の実施の形態に係る光走査素子の製造方法を説明する、模式的な上面図である。(b)は、図2(a)のII−II方向から見た断面図である。
【図3】(c)は、本発明の実施の形態に係る光走査素子の製造方法を説明する、模式的な上面図である。(d)は、図3(c)のIII−III方向から見た断面図である。
【図4】(e)は、本発明の実施の形態に係る光走査素子の製造方法を説明する、模式的な上面図である。(f)は、図4(e)のIV−IV方向から見た断面図である。
【図5】(g)は、本発明の実施の形態に係る光走査素子の製造方法を説明する、模式的な上面図である。(h)は、図5(g)のV−V方向から見た断面図である。
【図6】(i)は、本発明の実施の形態に係る光走査素子の製造方法を説明する、模式的な上面図である。(j)は、図6(i)のVI−VI方向から見た断面図である。
【図7】(k)は、本発明の実施の形態に係る光走査素子の製造方法を説明する、模式的な上面図である。(l)は、図7(k)のVII−VII方向から見た断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る画像表示装置の基本的な構成を説明する模式的な図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る画像表示装置の基本的な構成を説明する模式的なブロック図である。
【図10】本発明の他の実施の形態に係る光走査素子を説明する模式的な上面図である。
【図11】本発明の他の実施の形態に係る光走査素子を説明する模式的な断面図であるである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法の関係、各層の厚みの比率等は、現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0020】
また、以下に示す実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための素子や装置を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでなく、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0021】
(光走査素子)
本発明の実施の形態に係る光走査素子1は、図1に示すように、光を反射するミラー部21と、ミラー部21がX軸方向の揺動可能なように、ミラー部21を支持する一対のアーム部23a,23bと、アーム部23a,23bを支持する上層可動フレーム部25と、上面に複数の凸部32a,32b,32e,32fを有し、上面と上層可動フレーム部25の下面との間に所定の間隙を有するように、凸部32a,32b,32e,32fにより上層可動フレーム部25の下面に接合された下層可動フレーム部35と、上層可動フレーム部25及び下層可動フレーム部35が、X軸方向と直交するY軸方向の揺動可能なように、上層可動フレーム部25を支持する固定フレーム部(20,30)と、アーム部23a,23bの上面に設けられ、変位することによりアーム部23a,23bを駆動して、ミラー部21をX軸方向に揺動させる上層圧電膜24a,24b,24c,24dと、下層可動フレーム部35の上面に設けられ、変位することにより上層可動フレーム部25及び下層可動フレーム部35を駆動して、ミラー部21をY軸方向に揺動させる下層圧電膜33a,33b,33c,33dとを備える。
【0022】
上層可動フレーム部25は、例えば、概略として矩形平板状であり、上面から下面に貫通する矩形の窓部28を有する枠型形状である。2本のアーム部23a,23bは、上層可動フレーム部25のY軸方向と平行な2辺からそれぞれX軸方向に対向して延伸する平面視帯状の部位であり、窓部28内に位置する。
【0023】
ミラー部21は、アーム部23a,23bのそれぞれ中央部からY軸方向に対向して延伸する一対の梁部22a,22bを介して、それぞれアーム部23a,23bに連結、支持される。
【0024】
上層可動フレーム部25、アーム部23a,23b、梁部22a,22b、ミラー部21の厚さは、例えば、約20〜60μm程度とすることができる。例えば、要求される仕様により、ミラー部21の厚さを約50μm程度、梁部22a,22bの厚さを約20〜30μm程度としても良い。
【0025】
例えば、上層圧電膜24a,24b,24c,24d(以下、総称する場合において単に「上層圧電膜24」という。)は、それぞれ平面視帯状である。上層圧電膜24a,24bは、アーム部23a,23bの、それぞれ梁部22a,22bとの接合部より一方側(図1(a)における上側)の上面から、上層可動フレーム部25の一方側の上面にかけて設けられる。上層圧電膜24c,24dは、アーム部23a,23bの、それぞれ梁部22a,22bとの接合部より他方側(図1(a)における下側)の上面から、上層可動フレーム部25の他方側の上面にかけて設けられる。
【0026】
固定フレーム部(20,30)は、概略として矩形平板状であり、上面から下面に貫通する矩形の窓部(29,39)を有する枠型形状である。上層可動フレーム部25及び下層可動フレーム部35は、固定フレーム部(20,30)の窓部(29,39)内に位置する。
【0027】
上層可動フレーム部25は、固定フレーム部(20,30)のY軸方向と平行な2辺のそれぞれ中央部からX軸方向に対向して延伸する一対の梁部26e,26fを介して、固定フレーム部(20,30)に連結、支持される。上層可動フレーム部25は、例えば、2層構造の固定フレーム部(20,30)の上層部である上層固定フレーム部20に連結、支持される。
【0028】
下層可動フレーム部35は、例えば、概略として矩形平板状であり、上面から下面に貫通する矩形の窓部38を有する枠型形状である。本発明の実施の形態において、下層可動フレーム部35の4辺の寸法は、それぞれ上層可動フレーム部25の4辺の寸法と同一であり、上層可動フレーム部25及び下層可動フレーム部35は、平面視同一の寸法となっている。
【0029】
下層可動フレーム部35の厚さは、例えば、揺動のための反り安さや、強度を考慮して決定されれば良く、例えば、約30〜60μm程度とすることができる。
【0030】
下層可動フレーム部35の上面に設けられた凸部32a,32bは、下層可動フレーム部35のX軸方向に平行な2辺のそれぞれ中点近傍に位置し、凸部32e,32fは、下層可動フレーム部35のY軸方向に平行な2辺のそれぞれ中点近傍に位置する。
【0031】
4つの凸部32a,32b,32e,32fの高さは、上層可動フレーム部25の下面と下層可動フレーム部35の上面との間の距離(ギャップ)に相当し、例えば、約1〜10μm程度とすることができる。
【0032】
上層可動フレーム部25及び下層可動フレーム部35は、下層可動フレーム部35に設けられた下層圧電膜33a,33b,33c,33d(以下、総称する場合において単に「下層圧電膜33」という。)により、梁部26e,26fを互いに結ぶ直線と平行な方向(X軸方向)を回転軸としてY軸方向に揺動する。
【0033】
例えば、下層圧電膜33は、下層可動フレーム部35の上面の、凸部32a,32b,32e,32fが設けられていない、4つの角部をそれぞれ含む4つの領域に、それぞれ平面視L字型に設けられる。下層圧電膜33a,33cは、下層可動フレーム部35の凸部32e,32fよりも一方側(図1(c)における左側)に位置し、下層圧電膜33b,33dは他方側(図1(c)における右側)に位置する。
【0034】
上層圧電膜24と下層圧電膜33とは、平面視、互いに重畳する領域を含むようにそれぞれ設けられているので、駆動力を低下させることなく、素子の面積を削減することができる。
【0035】
ミラー部21、梁部22a,22b、アーム部23a,23b、上層可動フレーム部25、及び上層固定フレーム部20は、それぞれシリコン(Si)等からなる同一の上層基板2からMEMS技術により形成可能である。同様に、凸部32a,32b,32e,32fを有する下層可動フレーム部35、及び固定フレーム部(20,30)の下層部である下層固定フレーム部30は、それぞれSi等からなる同一の下層基板3から形成可能である。
【0036】
上層可動フレーム部25、アーム部23a,23b、下層可動フレーム部35の上面をなす上部には、それぞれ上層圧電膜24、下層圧電膜33(以下、総称する場合において単に「圧電膜24,33」という。)と絶縁するシリコン酸化膜(SiO)等の絶縁膜(図示省略)が形成されている。
【0037】
図示を省略しているが、圧電膜24,33は、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系の圧電セラミック、ニッケル酸ランタン(LaNiO)等、高い圧電特性を示す圧電材料膜と、圧電材料膜の上面に形成された上側電極膜と、圧電材料膜の下面に形成された下側電極膜とをそれぞれ備える。
【0038】
圧電膜24,33の圧電材料膜は、その他、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、ビスマスゲルマニウムオキサイド(Bi12GeO20)、ランガサイト(La3Ga5SiO14)等を使用可能である。
【0039】
圧電膜24,33の上側電極膜は、圧電材料膜の上面に密着する密着層と、密着層の上面に設けられる上部電極層とから構成される。上側電極膜の密着層は、例えばチタン(Ti)等からなる。上側電極膜の上部電極層は、例えば白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等からなる。
【0040】
圧電膜24,33の下側電極膜は、圧電膜24,33を、上層可動フレーム部25、アーム部23a,23b、下層可動フレーム部35それぞれの上面に対して垂直方向(上下方向)に変位するように優先的に配向する配向層と、上層可動フレーム部25、アーム部23a,23b、下層可動フレーム部35の上面と密着し、配向膜の配向性を助長する密着層とから構成される。圧電膜24,33の下側電極膜の配向層は、例えば白金(Pt)等からなる。圧電膜24,33の下側電極膜の密着層は、例えばチタン(Ti)等からなる。
【0041】
圧電膜24,33の上側電極膜及び下側電極膜は、圧電膜24,33にそれぞれ駆動信号を印加することにより圧電膜24,33をそれぞれ変位させる。圧電膜24,33は、それぞれ所定の駆動信号が印加されると、圧電膜24,33の結晶格子が上下方向に引き延ばされると共に、上下方向と直交する方向に圧縮される。この応力により、圧電膜24,33は、上下方向に撓み、変位する。
【0042】
上層圧電膜24a,24bと、上層圧電膜24c,24dとは、例えば、互いに逆位相となる正弦波電圧が印加されることにより、アーム部23a,23bの対応する領域に、交互に反りを生じさせる。ミラー部21は、上層圧電膜24により、梁部22a,22bを互いに結ぶ直線と平行な方向(Y軸方向)を回転軸としてX軸方向に揺動し、入射されたビーム光を反射してX軸方向の走査をする。
【0043】
下層圧電膜33a,33cと、下層圧電膜33b,33dとは、例えば、互いに逆位相となる正弦波電圧が印加されることにより、下層可動フレーム部35の対応する領域に、交互に反りを生じさせる。上層可動フレーム部25及び下層可動フレーム部35は、下層圧電膜33により、梁部26e,26fを互いに結びX軸方向と平行な直線を回転軸としてY軸方向に揺動し、ミラー部21が入射されたビーム光を反射してY軸方向の走査をする。
【0044】
本発明の実施の形態に係る光走査素子1は、他の駆動方式に比して消費電力が小さな圧電駆動方式であり、電磁駆動方式のように製造工程が複雑になることなく、静電駆動方式のように駆動力が不足することなく、同時に素子の面積を小さくすることができる。
【0045】
本発明の実施の形態に係る光走査素子1は、上層可動フレーム部25及び下層可動フレーム部の4辺の寸法が平面視同一となっていることにより、面積を小さくすることができる。
【0046】
(光走査素子の製造方法)
図2〜図7を参照して、本発明の実施の形態に係る光走査素子1の製造方法を説明する。なお、以下に述べる光走査素子1の製造方法は、一例であり、これ以外の種々の方法により光走査素子1を製造可能であることは勿論である。
【0047】
先ず、図2に示すように、フォトリソグラフィ法によりパターン形成された、4つの凸部32a,32b,32e,32fを有する下層可動フレーム部35を形成するためのフォトレジスト膜をマスクにして、シリコン(Si)等からなる下層基板3をドライエッチングする。エッチング深さは、上層可動フレーム部25と下層可動フレーム部35との間のギャップに相当し、例えば、約1〜10μm程度とすることができる。マスクを除去、洗浄した後、再度、フォトリソグラフィ法によりパターン形成された、後工程において窓部38、窓部39となる窓部予定領域38p、窓部予定領域39pを形成するためのフォトレジスト膜をマスクにして、下層基板3にドライエッチングを行う。エッチング深さは、凸部32a,32b,32e,32fを含む下層可動フレーム部35の高さに相当し、例えば、約30〜60μm程度とすることができる。
【0048】
次に、図3に示すように、下層基板3の、下層可動フレーム部35の上面となる領域に、下層圧電膜33a,33b,33c,33dを形成する。下層可動フレーム部35の上面は、予め、下層圧電膜33a,33b,33c,33dと絶縁するための絶縁層(図示省略)が設けられている。絶縁層は、例えばシリコン酸化膜(SiO)からなり、化学気相成長(CVD)法、スパッタ法、熱酸化法等により形成される。下層圧電膜33a,33b,33c,33dは、それぞれ、密着層、配向層が順に積層されて下側電極膜が成膜され、続いて、圧電材料膜、上側電極膜が順に成膜された後に、フォトリソグラフィ法によりパターン形成されたフォトレジスト膜をマスクにエッチングされることにより形成される。
【0049】
次に、図4に示すように、エッチングによりパターン形成された下層基板3の上面に、Si等からなる上層基板2を張り合わせて接合する。上層基板2の厚さは、上層可動フレーム部25の厚さに相当し、例えば、約20〜60μm程度とすることができる。上層基板2は、予定の厚さよりも厚い基板を張り合わせた後、研磨、エッチング等により厚さを調節するようにしても良く、後工程において、上層固定フレーム部20、梁部26e,26f、上層可動フレーム部25、アーム部23a,23b、梁部22a,22b、ミラー部21となる領域の厚さをそれぞれ調節するようにしても良い。
【0050】
なお、図示を省略しているが、上層基板2の、凸部32a,32b,32e,32fそれぞれに対応する領域に、上面から下面へ導通する貫通電極を設けても良い。下層圧電膜33a,33b,33c,33dの各電極膜から凸部32a,32b,32e,32fまで、配線をそれぞれ引き出して、上層基板2と凸部32a,32b,32e,32fとの位置合わせを行うことにより、下層圧電膜33a,33b,33c,33dの各電極膜は、貫通電極を介して上層基板2の上面に配線を引き出すことができる。
【0051】
次に、図5に示すように、上層基板2の上面の、アーム部23a,23bとなる領域に、上層圧電膜24a,24b,24c,24dを形成する。上層基板2の上面は、予め、上層圧電膜24a,24b,24c,24dと絶縁するための絶縁層(図示省略)が設けられている。絶縁層は、例えばシリコン酸化膜(SiO)からなり、化学気相成長(CVD)法、スパッタ法、熱酸化法等により形成される。上層圧電膜24a,24b,24c,24dは、それぞれ、密着層、配向層が順に積層されて下側電極膜が成膜され、続いて、圧電材料膜、上側電極膜が順に成膜された後に、フォトリソグラフィ法によりパターン形成されたフォトレジスト膜をマスクにエッチングされることにより形成される。
【0052】
次に、図6に示すように、フォトリソグラフィ法によりパターン形成された、上層固定フレーム部20、梁部26e,26f、上層可動フレーム部25、アーム部23a,23b、梁部22a,22b、ミラー部21を形成するためのフォトレジスト膜をマスクにして、上層基板2をエッチングする。このエッチングにより、上層固定フレーム部20の窓部29、上層可動フレーム部25の窓部28が形成される。
【0053】
次に、図7に示すように、下層基板3の下面からエッチングすることにより、下層可動フレーム部35の下方に位置する空洞部であるキャビティ37を形成する。エッチング深さは、窓部予定領域38p、窓部予定領域39pに達するまでとし、例えば数百μmである。キャビティ37が形成されることにより、窓部予定領域38p、窓部予定領域39pは貫通し、それぞれ窓部38、窓部39となる。エッチング方法は、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化カリウム(KOH)等を用いた異方性ウェットエッチングや、誘導結合型プラズマエッチング等のドライエッチングを採用可能である。
【0054】
異方性ウェットエッチングを行う場合、Si結晶の<100>面に沿ってエッチング深さが深くなるにつれてパターンが小さくなることを考慮して、予めパターンを大きくとる必要がある。また、通常のフォトレジスト膜は、TMAH、KOHに対する耐性が弱いため、基板両面側をシリコン酸化膜等で被膜して、下層基板3の下面にフォトリソグラフィ法によりパターン形成した後にウェットエッチング行う方法や、TMAH、KOHに対する耐性が強い感光性樹脂を塗布、被膜して、下層基板3の下面にフォトリソグラフィ法によりパターン形成した後にウェットエッチング行う方法を採用可能である。下層基板3の下面に感光性樹脂を塗布する場合、基板の上面側を保護するために同様の感光性樹脂膜を上面側被膜する方法や、エッチング溶液に触れないように基板の上面側を保護する保護装置を用いる方法を採用可能である。
【0055】
ドライエッチングを行う場合、下層基板3の下面にフォトリソグラフィ法によりパターン形成されたフォトレジスト膜をマスクして、下層基板3の下面をエッチングすれば良い。
【0056】
以上のように、凸部32a,32b,32e,32fにより下層可動フレーム部35が接合された上層可動フレーム部25が、2つの梁部26e,26fを介して、固定フレーム部(20,30)に連結、支持された光走査素子1が完成する。
【0057】
(画像表示装置)
以下、本発明の実施の形態に係る光走査素子1を用いて、スクリーンに画像を表示できる画像表示装置5について説明する。画像表示装置5は、図8に示すように、画像Qの情報である画像情報を示す画像信号に応じて輝度が変調され、光源55から出射されたレーザ光Lを、光走査素子1が反射してスクリーンPを走査し、スクリーンP上に画像Qを表示する。
【0058】
図9に示すように、画像表示装置5の制御部50は、画像信号52を入力し、画像信号に含まれる色情報に応じて、光源ドライバ回路54を介して、光源55を駆動する。光源ドライバ回路54は、R光源ドライバ回路54Rと、G光源ドライバ回路54Gと、B光源ドライバ回路54Bとから構成され、それぞれを制御する制御信号を、制御部50からそれぞれ入力する。光源55は、赤色レーザ光を出射するR光源55Rと、緑色レーザ光を出射するG光源55Gと、青色レーザ光を出射するB光源55Bとから構成される。R光源55R、G光源55G、B光源55Bは、R光源ドライバ回路54R、G光源ドライバ回路54G、B光源ドライバ回路54Bがそれぞれ制御部50から入力した制御信号に応じてそれぞれ出力する駆動信号を、それぞれ入力し、駆動信号に応じてそれぞれ変調されたレーザ光を出射する。
【0059】
R光源55R、G光源55G、B光源55Bがそれぞれ出射したレーザ光は、ダイクロイックミラー、ダイクロイックプリズム等の光学素子56を介して、ミラー57において反射し、レンズ58を通過して光走査素子1のミラー部21に入射する。
【0060】
制御部50は、圧電膜24,33にスキャン同期信号53を印加して、ミラー部21がX軸方向(水平方向)及びY軸(垂直方向)の2軸方向の走査を行うように、ミラー部21を駆動する。
【0061】
例えば、アーム部23a,23bのそれぞれ一端側に設けられた上層圧電膜24a,24bは、制御部50からX軸スキャン同期信号53Xを印加され、アーム部23a,23bを駆動する。アーム部23a,23bのそれぞれ他端側に設けられた上層圧電膜24c,24dは、アーム部23a,23bの駆動による応力歪みが生じ、この応力歪みに生じた電圧を発生する。
【0062】
同様に、下層可動フレーム部35の、平面視、梁部26e,26fを結ぶ直線を隔てて一端側に設けられた下層圧電膜33a,33cは、制御部50からY軸スキャン同期信号53Yを印加され、下層可動フレーム部35を駆動する。下層可動フレーム部35の他端側に設けられた下層圧電膜33b,33dは、下層可動フレーム部35の駆動による応力歪みが生じ、この応力歪みに生じた電圧を発生する。
【0063】
上層圧電膜24c,24d、下層圧電膜33b,33dにそれぞれ生じた電圧は、駆動検出部6によりそれぞれ検出され、圧電膜駆動信号51として制御部50に入力される。制御部50は、圧電膜駆動信号51に応じて、上層圧電膜24c,24d、下層圧電膜33b,33dにそれぞれ生じた電圧の、それぞれ180°反転した逆位相となるようなX軸スキャン同期信号53X及びY軸スキャン同期信号53Yをそれぞれ出力する。制御部50は、このようなフィードバック制御を行うことにより、光走査素子1を、常に2軸方向それぞれの共振周波数で駆動することができる。
【0064】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0065】
既に述べた実施の形態において、上層可動フレーム部25及び下層可動フレーム部35を平面視同一寸法として説明したが、例示であり、上層可動フレーム部25及び下層可動フレーム部35が、互いに異なる寸法であっても良い。例えば、下層可動フレーム部351の平面パターンは、図10に示すように、Y軸方向に蛇行するような、互い違いにコの字型に屈曲したパターンとしても良い。この場合、下層圧電膜は、例えば下層可動フレーム部351の上面の、それぞれX軸方向に延伸する領域に設けることができる。下層可動フレーム部351も、下層可動フレーム部35と同様に、上面に設けられた4つの凸部により、上層可動フレーム部に接合されている。下層可動フレーム部351は、下層可動フレーム部35に比べて、4つの凸部それぞれの間のフレーム部の距離が長くなっている。ミラー部21の2軸方向の動作を妨げない領域であれば、下層可動フレーム部のパターンは自由に決定することができる。
【0066】
また、既に述べた実施の形態において、下層可動フレーム部35の上面に下層圧電膜33a,33b,33c,33dを設けたが、図11に示すように、下層可動フレーム部35の下面に設けるようにしても良い。この場合の下層圧電膜33a,33b,33c,33dの平面パターンは、図1に示すパターンと同様である。
【0067】
また、既に述べた実施の形態において、上層及び下層可動フレーム部としたのは説明上の便宜であり、例えば、下層可動フレーム部の下面に複数の凸部を設け、下層可動フレーム部の下面と上層可動フレーム部の上面との間に所定の間隙を有するように、複数の凸部により上層可動フレーム部の上面に接合するようにしても良い。
【0068】
上記の他、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0069】
1…光走査素子
2…上層基板
3…下層基板
5…画像表示装置
6…駆動検出部
20…上層固定フレーム部
21…ミラー部
22a,22b,26e,26f…梁部
23a,23b…アーム部
24,24a,24b,24c,24d…上層圧電膜
25…上層可動フレーム部
28,29…窓部
30…下層固定フレーム部
32a,32b,32e,32f…凸部
33,33a,33b,33c,33d…下層圧電膜
35,351…下層可動フレーム部
37…キャビティ
38,39…窓部
38p,39p…窓部予定領域
50…制御部
51…圧電膜駆動信号
52…画像信号
53…スキャン同期信号
54…光源ドライバ回路
56…光学素子
55…光源
57…ミラー
58…レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を反射するミラー部と、
前記ミラー部が第1の方向の揺動可能なように、前記ミラー部を支持するアーム部と、
前記アーム部を支持する上層可動フレーム部と、
上面に複数の凸部を有し、上面と前記上層可動フレーム部の下面との間に間隙を有するように、前記複数の凸部により前記上層可動フレーム部の下面に接合された下層可動フレーム部と、
前記上層可動フレーム部及び前記下層可動フレーム部が、前記第1の方向と直交する第2の方向の揺動可能なように、前記上層可動フレーム部を支持する固定フレーム部と、
前記アーム部に設けられ、変位することにより前記アーム部を駆動して、前記ミラー部を前記第1の方向に揺動させる上層圧電膜と、
前記下層可動フレーム部に設けられ、変位することにより前記上層可動フレーム部及び前記下層可動フレーム部を駆動して、前記ミラー部を前記第2の方向に揺動させる下層圧電膜と
を備えることを特徴とする光走査素子。
【請求項2】
前記上層圧電膜と前記下層圧電膜とが、平面視、重畳する領域を含むようにそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の光走査素子。
【請求項3】
前記上層可動フレーム部及び前記下層可動フレーム部が、平面視、枠型形状であり、平面視、互いに同一の寸法であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光走査素子。
【請求項4】
前記複数の凸部は、前記下層可動フレーム部の4辺のそれぞれ中点近傍に位置することを特徴とする請求項3に記載の光走査素子。
【請求項5】
前記下層可動フレーム部が、平面視、互い違いにコの字型に屈曲したパターンを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光走査素子。
【請求項6】
前記下層圧電膜が、前記下層可動フレームの下面に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光走査素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の光走査素子と、
前記ミラー部に光を出射する光源と、
前記光源が出射する光の輝度を、画像情報に応じて変調するように制御する制御部と
を備えることを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−159718(P2012−159718A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19695(P2011−19695)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】