説明

光透過性電磁波シールド材の製造方法

【課題】製造効率が向上された光透過性電磁波シールド材の製造方法を提供すること。
【解決手段】シランカップリング剤とアゾール系化合物との混合物または反応生成物、および、貴金属化合物を含む無電解めっき前処理剤を、透明基板11上に塗布、乾燥させ、前記透明基板11上に前処理層12を形成する工程(A1)、前記前処理層12上にドット状のめっき保護層13を形成する工程(A2)、前記前処理層12を、還元処理する工程(A3)、及び前記めっき保護層13が形成されずに露出した前記前処理層12上に、無電解めっきすることによりメッシュ状の金属導電層14を形成する工程(A4)、を含む光透過性電磁波シールド材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(PDP)の前面フィルタや、病院などの電磁波シールドを必要とする建築物の窓に用いられ得る貼着用シート等として有用な光透過性電磁波シールド材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、OA機器や通信機器等の普及にともない、これらの機器から発生する電磁波によりもたらされる人体への影響が懸念されている。また、携帯電話等の電磁波により精密機器の誤作動などを起こす場合もあり、電磁波は問題視されている。
【0003】
そこで、OA機器のPDPの前面フィルタとして、電磁波シールド性および光透過性を有する光透過性電磁波シールド材が開発され、実用に供されている。このような光透過性電磁波シールド材はまた、電磁波から精密機器を保護するために、病院や研究室等の精密機器設置場所の窓材としても利用されている。
【0004】
この光透過性電磁波シールド材では、光透過性と電磁波シールド性を両立することが必要である。そのために、光透過性電磁波シールド材には、例えば、微細なメッシュ構造を有する導電性の層が使用される。この導電性のメッシュの部分によって電磁波がシールドされ、開口部によって光の透過が確保される。
【0005】
光透過性電磁波シールド層は、種々の方法により製造されるが、好ましい製造方法として例えば、以下の図2に示すような方法がある。まず、透明基板21に、水溶性インキ22でメッシュのネガパターンを印刷する(印刷工程;図2の矢印(B1))。これに銅を薄く蒸着して、メッシュパターンの銅の薄膜23を形成する(蒸着工程;図2の矢印(B2))。さらに水溶性インキ22を洗浄除去し、メッシュ状の金属導電層24を得る(洗浄工程;図2の矢印(B3))。特許文献1では、このような製造方法を開示している。
【0006】
この方法によれば、光透過性電磁波シールド材のメッシュ状金属において、メッシュの線幅を十分に小さく、開口率を高くすることができる。しかし、金属導電層の膜厚が小さいものとなる。そのため、これを上述の光透過性電磁波シールド層に好適な導電性を付与するためには、この金属導電層24の上にさらに銅の薄膜25を電気メッキし、銅の膜厚を増加させ、十分な厚みの銅の層を形成する(メッキ工程;図2の矢印(B4))ことが望ましい。
【0007】
このようにして得られる光透過性電磁波シールド材は、銅層の表面に金属光沢を残したままであるために、PDP用前面フィルタ等に使用すると外部光を反射して眩しさを感じさせる原因となる。そのため、PDP用前面フィルタの光透過性電磁波シールド層とするために、防眩性付与のための黒化処理が通常、行われる。すなわち、上記の金属銅の表面に酸化又は硫化等の処理を行って、防眩性の黒化処理層を形成する(黒化処理工程)。
【0008】
【特許文献1】特開2001−332889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の通り、従来の製造方法では、印刷工程、蒸着工程、洗浄工程、メッキ工程、および必要であれば黒化処理工程などの複数の工程を経て光透過性電磁波シールド材を作製する。しかしながら、蒸着工程は、薄膜の被覆に高温をともなう工程や真空にする工程など行うため、高価な蒸着設備を必要とする。光透過性電磁波シールド材は生産性の向上が望まれており、そのためには蒸着工程の省略などにより製造効率を向上させる必要がある。
【0010】
そこで、本発明が目的とするところは、蒸着工程の省略により製造効率が向上した光透過性電磁波シールド材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、シランカップリング剤とアゾール系化合物との混合物または反応生成物、及び貴金属化合物を含む無電解めっき前処理剤を用いた無電解めっきにより透明基板上に金属導電層を形成することで上記課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、シランカップリング剤とアゾール系化合物との混合物または反応生成物、及び貴金属化合物を含む無電解めっき前処理剤を、透明基板上に塗布、乾燥させ、前記透明基板上に前処理層を形成する工程、
前記前処理層上にドット状のめっき保護層を形成する工程、
前記前処理層を還元処理する工程、及び
前記めっき保護層が形成されずに露出した前記前処理層上に、無電解めっきすることによりメッシュ状の金属導電層を形成する工程、
を含む光透過性電磁波シールド材の製造方法により上記課題を解決する。
【0013】
以下に、本発明の光透過性電磁波シールド材の製造方法の好ましい態様を列記する。
【0014】
(1)前記シランカップリング剤としては、高い触媒活性および密着性が得られることから、エポキシ基含有シラン化合物、特にγ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシランが好ましく用いられる。
【0015】
(2)前記アゾール系化合物としては、シランカップリング剤が有するエポキシ基などの官能基および貴金属化合物との反応性に優れることから、イミダゾールが好ましく用いられる。
【0016】
(3)前記貴金属化合物としては、パラジウム、銀、白金、および金などの金属原子を含む化合物を用いるのが好ましい。これらの貴金属化合物であれば、高い触媒活性が得られる。
【0017】
(4)前記透明基板上に前記前処理層を形成する工程において、前記乾燥は80〜160℃で行われる。これにより、均一な厚さを有し、密着性および触媒活性に優れる前処理層を得ることができる。
【0018】
(5)前記還元処理は、前記前処理層及びめっき保護層が形成された透明基板を、還元剤を含む溶液に浸漬させることにより行われる。
【0019】
(6)前記還元剤としては、アミノボラン、ジメチルアミンボラン、次亜リン酸ナトリウム、硫酸ヒドロキシルアミン、ハイドロサルファイト、及びホルマリンよりなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0020】
(7)前記還元剤を含む溶液における前記還元剤の濃度が、0.01〜200g/Lである。
【0021】
(8)前記めっき保護層は高い光透過性を有することが望ましいことから、前記めっき保護層は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、およびポリスチレン樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種を含むのがよい。
【0022】
(9)前記無電解めっきによるめっき金属は、前処理層およびめっき保護層との密着性、および、電磁波シールド性を向上させることができることから、銀、銅、またはアルミニウムを含むのが好ましい。
【0023】
(10)本発明の方法は、前記金属導電層に防眩性を付与するために、前記金属導電層を黒化処理し、前記金属導電層の表面の少なくとも一部に黒化処理層を形成する工程をさらに有していてもよい。前記黒化処理は、前記金属導電層を酸化処理または硫化処理することによって行われるのがよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の方法によれば、蒸着ではなく無電解めっきにより十分な厚さを有するメッシュ状金属導電層を形成することが可能となり、製造効率が向上した光透過性電磁波シールド材の製造方法を提供することが可能となる。これにより、製造コストが低減された光透過性電磁波シールド材、及びこれを用いたディスプレイ用フィルタを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の方法は、基本的に下記の工程、すなわち、
所定の無電解めっき前処理剤を用いて透明基板上に前処理層を形成する工程、
前記前処理層上にドット状のめっき保護層を形成する工程、
前記前処理層を還元処理する工程、及び
露出している前記前処理層上に、無電解めっきすることにより金属導電層を形成する工程、を含む。
【0026】
本発明の製造方法の各工程を説明するための概略断面図の一例を図1に示す。本発明の方法では、まず、シランカップリング剤とアゾール系化合物との混合物または反応生成物、及び貴金属化合物を含む無電解めっき前処理剤を、透明基板11上に塗布、乾燥させ、前記透明基板11上に前処理層12を形成する(図1の矢印(A1))。前記無電解めっき前処理剤において、シランカップリング剤、アゾール系化合物、および貴金属化合物を用いることで、前記シランカップリング剤および前記アゾール系化合物が透明基板と無電解めっきにより形成される金属導電層との密着性を向上させるとともに、無電解めっき触媒である貴金属化合物を前処理層中に原子レベルで分散させることができる。これにより、無電解めっき触媒として貴金属粒子を用いた場合よりも、透明な前処理層を得ることが可能となる。また、従来の一般的な無電解めっき法では、クロム酸などで粗化させた面に物理的に無電解めっき触媒を吸着させる手段が用いられている。そのため、このような手段を用いた場合、透明基板が粗化され易いものに限定されるだけでなく、無電解めっき触媒が粒子状態となるため基板が不透明になる恐れがあった。また、従来の無電解めっき法において使用されていた無電解めっき触媒を含む触媒塗料でも同様に、触媒となる金属またはその化合物が粒子状態で配合されていたため触媒塗料が不透明であり、触媒塗料を塗布した基板が不透明となり、本願発明における方法に活用することができなかった。しかしながら、本願発明において用いられる前処理剤によれば、高い透明性を有する他、カップリング剤により基材表面などを粗化させなくとも高い触媒活性を得るとともに密着性が確保された前処理層を形成することができ、さらには、透明基板が粗化され易いなどの制限を受けることがない。
【0027】
次に、本発明の方法では、前記前処理層12上にドット状のめっき保護層13を形成する(図1の矢印(A2))。前記めっき保護層13は、後の工程で無電解めっきを行って金属導電層14を形成する際に、前記前処理層12上の所定の部位に無電解めっきが行われるのを抑制するためのものである。ドット状のめっき保護層13が、前記前処理層12上に多数設けられることで、めっき保護層13の間隙に金属導電層14を形成するとともにめっき保護層13が金属導電層14における開口部を形成し、メッシュ状の前記金属導電層14が得られる。
【0028】
次に、本発明の方法では、前記前処理層12に還元処理を行う(図1の矢印(A3))。還元処理することで、前記前処理層12に含まれる無電解めっき触媒である貴金属化合物に含まれる貴金属種を還元し、活性成分である貴金属種のみを超微粒子状で均一に析出させることができる。このように還元析出した貴金属種は、高い触媒活性を有し且つ安定であることから、透明性に優れるだけでなく、前記透明基板11及び金属導電層14との密着性及び無電解めっきの析出速度が向上し、さらには貴金属化合物の使用量を少なくすることができる前記前処理層12を形成することが可能となる。
【0029】
次に、本発明の方法では、前記めっき保護層13が形成されずに露出した前記前処理層11上に、無電解めっきすることによりメッシュ状の金属導電層14を形成する(図1の矢印(A4))。これにより、多数のめっき保護層13の間および周縁部に露出した前処理層上に微細な金属粒子が濃密で実質的な連続皮膜として沈積形成され、前記前処理層と密着した金属導電層を得ることが可能となる。また、金属導電層の形成に、無電解めっきを用いることで、十分な厚さを有する金属導電層を容易に形成することができ、製造効率を向上させることが可能となる。
【0030】
したがって、本発明によれば、透明基板が粗化され易いものに制限されず、光透過性、電磁波シールド性、および製造効率に優れる光透過性電磁波シールド材の製造方法を提供することが可能となる。
【0031】
以下に、本発明の光透過性電磁波シールド材の製造方法について、順を追ってより詳細に説明する。
【0032】
まず、本発明の方法では、シランカップリング剤とアゾール系化合物との混合物または反応生成物、及び貴金属化合物を含む無電解めっき前処理剤を、透明基板上に塗布、乾燥させ、前記透明基板上に前処理層を形成する工程を実施する。
【0033】
前記前処理層は、前記透明基板上において金属導電層が形成され得る部位に少なくとも形成されればよいが、形成を容易にして製造効率を向上させるために、前記透明基板において金属導電層が形成される面の全面に前記前処理層が形成されるのが望ましい。
【0034】
前記無電解めっき前処理剤において、前記シランカップリング剤および前記アゾール系化合物は単に混合されているだけでもよいが、これらを予め反応させて反応生成物を形成してもよい。これにより、貴金属化合物を前処理層中に原子レベルでより高分散できるとともに、得られる前処理層の光透過性を向上させることができる。
【0035】
前記シランカップリング剤と前記アゾール系化合物とを反応させるには、例えば、80〜200℃でアゾール系化合物1モルに対して0.1〜10モルのシランカップリング剤を混合して5分〜2時間反応させるのが好ましい。その際、溶媒は特に不要であるが、水の他、クロロホルム、ジオキサンメタノール、エタノール等の有機溶媒を用いてもよい。このようにして得られた前記シランカップリング剤と前記アゾール系化合物との反応生成物に、貴金属化合物を混合することで、前記無電解めっき前処理剤が得られる。
【0036】
前記無電解めっき前処理剤に用いられる前記シランカップリング剤は、一分子中に金属補足能を持つ官能基を有するものを用いるのが好ましい。これにより、無電解めっき触媒である貴金属化合物の活性を効果的に発現する電子状態、配向とすることが可能となり、被めっき材との高い密着性が得られる。
【0037】
前記シランカップリング剤として、エポキシ基含有シラン化合物を挙げることができる。前記エポキシ基含有シラン化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、得られる前処理層が高い光透過性を有することから、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシランが好ましく挙げられる。
【0038】
次に、前記無電解めっき前処理剤に用いられる前記アゾール系化合物としては、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、トリアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、オキサトリアゾール、チアトリアゾール、ベンダゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、インダゾールなどが挙げられる。これらに制限されるものではないが、シランカップリング剤が有するエポキシ基などの官能基および貴金属化合物との反応性に優れることから、イミダゾールが特に好ましい。
【0039】
次に、前記無電解めっき前処理剤に用いられる前記貴金属化合物は、無電解めっき液から銅やアルミニウムなどの金属を選択的に析出・成長させることができる触媒効果を示すものである。具体的には、高い触媒活性が得られることから、パラジウム、銀、白金、および金などの金属原子を含む化合物を用いるのが好ましい。前記化合物としては、前記金属原子の塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、アンモニウム塩などのアンミン錯体などが用いられるが、特にパラジウム化合物、中でも塩化パラジウムが好ましい。
【0040】
前記無電解めっき前処理剤は、前記アゾール系化合物および前記シランカップリング剤に対し、前記貴金属化合物を、好ましくは0.001〜50mol%、より好ましくは0.1〜20mol%含むのがよい。前記貴金属化合物の濃度が、0.001mol%未満では十分な触媒活性が得られずに所望する厚さを有する金属導電層を形成できない恐れがあり、50mol%を超えると添加量の増加に見合った貴金属化合物による触媒効果が得られない恐れがある。
【0041】
また、前記無電解めっき前処理剤は、適当な溶媒を含んでいてもよい。前記溶媒としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、2−プロパノール、アセトン、トルエン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサンなどが挙げられる。これらは、1種単独で用いられてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
前記無電解めっき前処理剤には、必要に応じて体質顔料、界面活性剤、着色剤などの各種添加剤をさらに含有させてもよい。
【0043】
本発明の方法において、前記前処理剤を塗布する透明基板としては、透明性および可とう性を備え、その後の処理に耐えるものであれば特に制限はない。透明基板の材質としては、例えば、ガラス、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、(PET)、ポリブチレンテレフタレート)、アクリル樹脂(例、ポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、セルローストリアセテート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、金属イオン架橋エチレン−メタクリル酸共重合体、ポリウレタン、セロファン等を挙げることができる、これらの中で、加工処理(加熱、溶剤、折り曲げ)による劣化が少なく、透明性の高い材料であるPET、PC、PMMAが好ましい。また、透明基板は、これらの材質からなるシート、フィルム、または板として用いられる。
【0044】
透明基板の厚みは特に限定されないが、光透過性電磁波シールド材の光透過性を維持するという観点からすると薄いほど好ましく、通常は、使用時の形態や必要とされる機械的強度に応じて0.05〜5mmの範囲で適宜、厚みが設定される。
【0045】
前記前処理剤を透明基板上に塗布するには、グラビアリバース、グラビアコート、マイクログラビアコート、リップコート、ロールリバースコート、ワイヤーバーコート、キスコート、ダイコート、ロールコート、スピンコート、エアスプレー、エアレススプレー、浸漬、刷毛塗りなどの方法が一般的であるが、これに限定されるものではない。
【0046】
皮膜の硬化性を高めるために、塗布した無電解めっき前処理剤の乾燥は、好ましくは80〜160℃、より好ましくは120〜140℃に加熱して行うのが好ましい。加熱温度が80℃未満では、水分の蒸発速度が遅く十分な成膜性が得られないため、前処理層と金属導電層との密着性などが低下する恐れがある。一方、160℃を超えると前処理層形成材料の熱分解が生じて密着性が低下し、また変色して光透過性が低下する恐れがある。また、乾燥時間は1秒〜5分が好ましい。
【0047】
次に、本発明の方法では、前記前処理層上にドット状のめっき保護層を形成する工程を実施する。前記めっき保護層によれば、後工程で無電解めっきを行って金属導電層を形成する際に、前記前処理層上の所定の部位に無電解めっきが行われるのを抑制して、前記前処理層上の前記めっき保護層が形成された部分以外に金属導電層を形成することが可能となり、メッシュ状の金属導電層が得られる。
【0048】
前記前処理層上に形成するドット状のめっき保護層は、印刷により形成されるのが好ましい。これにより、簡易な方法で所望するパターンを有するドット状のめっき保護層を複数、形成することができる。
【0049】
前記前処理層上に前記めっき保護層を形成するには、無電解めっき液に耐性のある樹脂を溶剤に溶解させたレジストインクを印刷することにより行われるのが好ましい。
【0050】
前記レジストインクにおいて、前記無電解めっき液に耐性のある樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、およびポリスチレン樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく挙げられる。これらは、1種単独で用いられてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
前記アクリル樹脂としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル等のメタアクリル酸アルキルエステル類のホモポリマーが使用できるが、特にポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレートまたはポリブチルメタクリレートが好ましい。
【0052】
前記ポリエステル樹脂として、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、2,6−ポリエチレンナフタレートなどを用いることができる。
【0053】
塩化ビニル樹脂は、従来公知の塩化ビニルの単独重合物であるホモポリマー樹脂、または従来公知の各種のコポリマー樹脂であり、特に限定されるものではない。該コポリマー樹脂としては、従来公知のコポリマー樹脂を使用でき、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー樹脂、塩化ビニル−プロピオン酸ビニルコポリマー樹脂などの塩化ビニルとビニルエステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル−アクリル酸ブチルコポリマー樹脂、塩化ビニル−アクリル酸2エチルヘキシルコポリマー樹脂などの塩化ビニルとアクリル酸エステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル−エチレンコポリマー樹脂、塩化ビニル−プロピレンコポリマー樹脂などの塩化ビニルとオレフィン類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル−アクリロニトルコポリマー樹脂などが代表的に例示される。特に好ましくは、塩化ビニル単独樹脂、エチレン−塩化ビニルコポリマー樹脂、酢酸ビニル−塩化ビニルコポリマー樹脂などを使用するのが良い。
【0054】
ポリスチレン樹脂としては、スチレン系単量体(炭素原子数8〜20、たとえばスチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなど)の単独または共重合体;スチレン系単量体とビニル系単量体(炭素原子数2〜20、たとえば無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイミドなど)との共重合体などが挙げられる。
【0055】
上述した樹脂、特にアクリル樹脂であれば、得られるめっき保護層が、前記前処理層および後工程で作製するメッシュ状の金属導電層との高い密着性が得られるとともに、高い光透過性を有する。したがって、後工程で前記めっき保護層を除去することなく、そのまま光透過性電磁波シールド材に用いることができ、さらなる製造工程の高効率化が図れる。
【0056】
前記レジストインクは、前記樹脂を、5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%含んでいるのがよい。前記樹脂の濃度が、5質量%未満では所望する厚さを有するめっき保護層を形成できない恐れがあり、50質量%を超えると得られるめっき保護層の光透過性が低下する恐れがある。
【0057】
さらに、めっき保護層は、上述した樹脂、特にアクリル樹脂の他に、繊維素系樹脂を含んでいてもよい。これにより、めっき保護層を形成するためのレジストインクの塗工時のレベリング性や得られるめっき保護層の密着性、可撓性などを向上させることができる。
【0058】
前記繊維素系樹脂は、セルロースの単体或いはセルロース中に存在する水酸基をエーテル化或いはエステル化等によって得られるセルロース誘導体であり、公知の各種のものが適用できる。具体的には、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、三酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、エチルセルロース、エチル−2−ヒドロキシエチルセルロース、2−シアノエチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース誘導体などが挙げられる。
【0059】
前記レジストインクに用いられる溶剤としては、前記樹脂を溶解でき、成膜性に優れるものであればよい。具体的には、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸2−エトキシエチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、2−ヘプタノン、1,4−ジオキサン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0060】
前記レジストインクには、印刷仕上がりなどを向上させるため、透明なフィラーや高分子系増粘剤をさらに含ませてもよい。
【0061】
前記レジストインクの粘度は、25℃において、好ましくは1000〜5000cps、より好ましくは2500〜4000cpsとするのがよい。これにより、より一層良好な形状及び寸法精度を有するめっき保護層が得られる。
【0062】
前記レジストインクを前記前処理層に印刷するには、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、静電印刷、フレキソ印刷などの印刷方法を用いることができる。特に、細線化のためにはグラビア印刷が好適である。グラビア印刷を用いる場合、印刷速度は5〜50m/分とするのがよい。
【0063】
また、前記めっき保護層は、転写方式によって印刷されてもよい。転写方式の場合は、例えば、前記前処理層とは別の任意の転写用基材シートに、レジストインクを上記と同様の印刷方法等によって印刷し、熱ラミネート法、ドライラミネート法、またはウエットラミネート法、押出ラミネート法等により、前記前処理層と貼り合わせた後に、前記転写用基材シートのみを剥離して、レジストインクを前記前処理層に転写する方法などを用いることができる。
【0064】
前記めっき保護層は前記前処理層上に多数形成され、前記めっき保護層間に形成された凹部の前記前処理層が露出している領域が、上面から見た場合に、好ましくは格子状、網目状などのメッシュ状となるように印刷される。前記めっき保護層の形状は、上面から見た場合に、円状、楕円状、角形状、直線状など任意であるが、好ましくは角形状であり、特に正方形であることが好ましい。これにより、高い光透過性および電磁波シールド性を有する金属導電層が得られる。
【0065】
前記めっき保護層は、後の工程でメッシュ状の金属導電層における開口部を形成するためのものである。前記金属導電層が高い光透過性を有するには、前記金属導電層において、開口率が高く、開口部の大きさが微小であるのが望ましい。したがって、前記めっき保護層の大きさは、微小であるのが好ましく、得られる金属導電層における開口部の大きさに合わせて適宜決定すればよい。例えば、角形状、特に正方形を有する前記めっき保護層の大きさとしては、一辺の長さを好ましくは100〜400μm、より好ましくは200〜300μmとするのがよい。
【0066】
また、金属導電層に高い光透過性および電磁波シールド性を付与する観点からは、ドット状のめっき保護層は、等間隔で規則的に配列されているのが望ましい。前記めっき保護層の厚さは、特に制限されないが、0.1〜5μm程度とするのがよい。
【0067】
また、金属導電層として、前処理層上の中央部にメッシュパターン状の金属導電層が形成され、前処理層上の中央部を除く周縁部に額縁状の金属導電層が形成された構成を有するものを後工程で形成するために、前記めっき保護層は前記前処理層上の周縁部を除く中央部のみに形成してもよい。
【0068】
このように前記レジストインクを印刷した後に乾燥させることで微小多数からなるドット状のめっき保護層を得る。前記乾燥は、塗布した前記レジストインクを、好ましくは70〜120℃、より好ましくは90〜110℃で加熱することにより行われるのがよい。加熱温度が70℃未満では、溶剤の蒸発速度が遅く十分な成膜性が得られない恐れがあり、120℃を超えると樹脂の熱分解が生じる恐れがある。塗布後に熱乾燥させる場合の乾燥時間は5秒〜5分が好ましい。
【0069】
前記めっき保護層の全光線透過率は、85%以上、特に90%以上とするのがよい。これにより、高い光透過性を有する電磁波シールド材が得られる。
【0070】
次に、本発明の方法では、前記前処理層を還元処理する工程を実施する。これにより、活性成分である貴金属種を還元析出させ、めっき金属析出能力を向上させることができる。
【0071】
前記還元処理は、前記前処理層においてめっき保護層が形成されずに露出している部分に少なくとも行われればよい。前記還元処理は、前処理層に含まれる貴金属化合物を還元して金属化できる方法であれば特に制限されない。具体的には、(i)前記前処理層及びめっき保護層が形成された透明基板を、還元剤を含む溶液を用いて処理する液相還元法、(ii)前記前処理層及びめっき保護層が形成された透明基板を、還元性ガスと接触させる気相還元法などが好ましく用いられる。
【0072】
前記液相還元法において還元剤を含む溶液を用いて処理する方法として、具体的には、前記前処理層及びめっき保護層が形成された透明基板を還元剤を含む溶液中に浸漬させる方法、前記透明基板の前記前処理層及びめっき保護層が形成された面に還元剤を含む溶液をスプレーする方法などが用いられる。
【0073】
前記還元剤を含む溶液は、所定の還元剤を水などの溶媒に分散又は溶解させて調製されるものである。前記還元剤としては、特に制限されないが、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルアクリルアミド、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ブドウ糖、アミノボラン、ジメチルアミンボラン(DMAB)、トリメチルアミンボラン(TMAB)、ヒドラジン、ジエチルアミンボラン、ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、イミダゾール、アスコルビン酸、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウムなどの次亜リン酸塩、硫酸ヒドロキシルアミン、亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩、ハイドロサルファイト(Na224:亜二チオン酸ナトリウムともいう)等が挙げられる。前記還元剤は、後工程で用いる無電解めっき浴中に含まれる還元剤と同一のものを用いると、還元処理後の前記透明基板を水洗処理することなく無電解めっきを行うことができ、また無電解めっき浴の組成を変化させる恐れも少ない。
【0074】
前記還元剤としては、貴金属化合物の高い還元性が得られることから、アミノボラン、ジメチルアミンボラン、次亜リン酸ナトリウム、硫酸ヒドロキシルアミン、ハイドロサルファイト、及びホルマリンを用いるのが好ましい。
【0075】
前記還元剤を含む溶液における還元剤の含有量は、0.01〜200g/L、特に0.1〜100g/Lとするのが好ましい。還元剤の濃度が低すぎる場合には十分に還元処理を行うのに所要時間が長くなる恐れがあり、還元剤の濃度が高すぎる場合には析出させた貴金属が脱落する恐れがある。
【0076】
前記液相還元法において還元剤を含む溶液を用いて処理する方法としては、前処理層に含まれる貴金属化合物の高い還元性が得られることから、前記前処理層及びめっき保護層が形成された透明基板を還元剤を含む溶液中に浸漬させる方法を用いるのが好ましい。
【0077】
前記透明基板を浸漬させる場合、前記還元剤を含む溶液の温度は、20〜90℃、特に50〜80℃とするのが好ましい。また、浸漬時間は、少なくとも1分以上、好ましくは1〜10分程度とすればよい。
【0078】
一方、前記気相還元法を用いて還元処理を行う場合、前記還元性ガスとしては、水素ガス、ジボランガスなど、還元性を有する気体であれば特に制限されない。還元ガスを用いた還元処理時の反応温度および反応時間は、使用する還元ガスの種類などに応じて適宜決定すればよい。
【0079】
次に、本発明の方法では、前記めっき保護層が形成されずに露出した前記前処理層上に、無電解めっきすることによりメッシュ状の金属導電層を形成する工程を実施する。無電解めっきを行うことにより、前処理層上の前記めっき保護層の間および周縁部に微細な金属粒子が濃密で実質的な連続皮膜として沈積形成されて金属導電層を得ることが可能となる。
【0080】
前記無電解めっきは、無電解めっき浴を用いて常法に従って行うことができる。即ち、めっき金属塩、キレート剤、pH調整剤、還元剤などを基本組成として含むめっき液を建浴したものにめっき基材を浸漬して行うか、構成めっき液を2液以上と分けて添加方式でめっき処理を施すなど適宜選択すれば良い。
【0081】
めっき金属は、導電性を有してメッキ可能である金属であれば使用することができ、金属単体、合金、導電性金属酸化物等であってもよく、均一な金属薄膜又は一様に塗布された微細な微粒子等からなるものであってもよい。
【0082】
無電解めっきにおけるめっき金属としては、アルミニウム、ニッケル、インジウム、クロム、金、バナジウム、スズ、カドミウム、銀、白金、銅、チタン、コバルト、鉛等を用いることができる。特に、高い電磁波シールド性が得られる金属導電層が得られることから、好ましくは、銀、銅又はアルミニウムが好ましく用いられる。これらのめっき金属を用いて形成される金属導電層は、前処理層との密着性に優れる他、光透過性と電磁波シールド性の両立に好適である。
【0083】
無電解めっきは公知であり、適宜薬品を選定調液して常法に従い、常温または加温下で行えばよい。無電解めっきとして一例を挙げると、Cuからなる金属導電層を形成する場合、硫酸銅等の水溶性銅塩1〜100g/L、特に5〜50g/L、ホルムアルデヒド等の還元剤0.5〜10g/L、特に1〜5g/L、EDTA等の錯化剤20〜100g/L、特に30〜70g/Lを含み、pH12〜13.5、特に12.5〜13に調整した溶液に、前処理層が形成された透明基板を50〜90℃、30秒〜60分浸漬する方法を採用することができる。
【0084】
また、無電解めっきをする際に、めっきされる基板を揺動、回転させたり、その近傍を空気撹拌させたりしてもよい。
【0085】
金属導電層は、線幅が好ましくは50μm以下、特に好ましくは40μm以下、とりわけ10〜30μmとするのがよい。また、金属導電層は、開口率が75%以上のメッシュパターンとするのが好ましい。なお、ここで言う開口率とは、金属導電層の使用有効面積に対する孔の総面積を言う。
【0086】
金属導電層のメッシュパターンは幾何学模様であることが好ましく、この孔の形状は、正方形、長方形等の平行四辺形、円形または正六角形(ハニカム形状)等から適宜に選択される。また、どの部分においても一定の特性(主に光透過性および電磁波遮蔽性等)を有することが肝要であるから、規則的に配列されていることが好ましい。
【0087】
また、金属導電層は、前処理層上の中央部にメッシュパターン状の金属導電層が形成され、前処理層上の中央部を除く周縁部に額縁状の金属導電層が形成される構成であってもよい。このような構成は、メッシュパターン状の金属導電層の保護のために望ましい。
【0088】
本発明の方法では、前記金属導電層が所望の厚さ、線幅を有するように、前処理層が形成された透明基板に、無電解めっきを行った後、さらに、電解めっきを行ってもよい。
【0089】
電解めっきにおけるめっき金属としては、無電解めっきにおいて上述したものと同様のものが用いられる。
【0090】
電解めっきは、特に制限されず、常法に従って行えばよい。例えば、前処理層、めっき保護層及び金属導電層が形成された透明基板をめっき液に浸漬させ、前記透明基板を陰極とし、単体のめっき金属を陽極とし、めっき液に電流をかけて行えばよい。めっき液の組成は、特に制限されない。例えば、Cuからなる金属導電層を形成する場合には、硫酸銅水溶液などが用いられる。
【0091】
本発明の方法では、図1に示すように、前記金属導電層14を黒化処理し、前記金属導電層14の表面の少なくとも一部に黒化処理層15を形成する工程(図1の矢印(A4))をさらに実施してもよい。
【0092】
黒化処理は、前記金属導電層の金属の酸化処理又は硫化処理によって行うことが好ましい。特に酸化処理は、より優れた防眩効果を得ることができ、さらに廃液処理の簡易性及び環境安全性の点からも好ましい。
【0093】
前記黒化処理として酸化処理を行う場合には、黒化処理液として、一般には次亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液、亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液、ペルオキソ二硫酸と水酸化ナトリウムの混合水溶液等を使用することが可能であり、特に経済性の点から、次亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液、又は亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液を使用することが好ましい。
【0094】
前記黒化処理として硫化処理を行う場合には、黒化処理液として、一般には硫化カリウム、硫化バリウム及び硫化アンモニウム等の水溶液を使用することが可能であり、好ましくは、硫化カリウム及び硫化アンモニウムであり、特に低温で使用可能である点から、硫化アンモニウムを使用することが好ましい。
【0095】
本発明の方法によれば、上述した通り、所定の無電解めっきを行うことによって十分な厚さを有する金属導電層を容易に形成し、好ましくは全光線透過率の高いめっき保護層を形成することで、蒸着工程の省略により製造効率を向上でき、製造コストが低減された光透過性電磁波シールド材を提供することが可能である。また、基材を粗化する必要がないため、透明基板および前処理層が高い光透過性を有する光透過性電磁波シールド材を提供することが可能である。
【0096】
前記光透過性電磁波シールド材は、透明基板、前記透明基板上に設けられた前処理層、前記前処理層上に設けられたドット状のめっき保護層、および前記めっき保護層が設けられずに露出した前記前処理層上に設けられたメッシュ状の金属導電層を有し、前記前処理層が、シランカップリング剤とアゾール系化合物との混合物または反応性生物、および、貴金属化合物を含む無電解めっき前処理剤の塗布層である構成を有する。前記構成を有する光透過性電磁波シールド材は、上述した本発明の方法により簡易かつ低コストで製造することができる。
【0097】
前記光透過性電磁波シールド材は、所定の成分を含む無電解めっき前処理剤を用いることで前処理層および透明基板が高い光透過性を有する。したがって、前記光透過性電磁波シールド材の全光線透過率を、75%以上、特に80〜90%とすることができる。
【0098】
なお、前記光透過性電磁波シールド材の全光線透過率の測定は、全自動直読ヘイズコンピューターHGM−2DP(スガ試験機株式会社製)等を用いて、光透過性電磁波シールド材の厚み方向の全光線透過率を測定することにより行われる。
【0099】
前記光透過性電磁波シールド材は、前記金属導電層に防眩性を付与するため、前記金属導電層の表面の少なくとも一部に黒化処理層を有していてもよい。
【0100】
なお、前記光透過性電磁波シールド材の各層についての詳細な説明は、本発明の製造方法において上述した通りであるため、ここでは省略する。
【0101】
本発明による光透過性電磁波シールド材は、光透過性が要求される用途、例えば電磁波を発生する各種電気機器のLCD、PDP、CRT等のディスプレイ装置のディスプレイ面、又は、施設や家屋の透明ガラス面や透明パネル面に好適に適用される。前記光透過性電磁波シールド材は、高い光透過性および電磁波シールド性を有しているので、前述したディスプレイ装置のディスプレイ用フィルタに好適に用いられる。
【0102】
本発明のディスプレイ用フィルタは、特に制限されないが、上記方法によって製造された光透過性電磁波シールド材を、ガラス板等の透明基板に積層するなどにより得られる。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例により説明する。本発明は、以下の実施例により制限されるものではない。
【0104】
(実施例1)
1.前処理層の形成
イミダゾールに、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを、モル比で1:1となるように混合し、1時間、100℃で、反応させることにより得られた反応生成物を5wt%含む水溶液に、25℃で撹拌しながら塩化パラジウムを添加し、塩化パラジウム濃度が10g/Lの溶液を調製した。これをn−ブタノールで100体積倍に希釈し、塩化パラジウム濃度が100mg/Lの前処理剤を調製した。これにより得られた溶液を、ガラス板(厚さ5mm)上に、塗布量が2g/m2となるように塗布し、160℃、5分間で乾燥させた。これにより、ガラス板上に前処理層(厚さ0.1μm)を形成した。
【0105】
2.めっき保護層の形成
次に、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、およびシクロヘキサノンを、質量比で20:60:20で含む溶剤に、ポリメチルメタクリレート樹脂を30wt%含むレジストインクを、グラビアオフセット印刷により、前記前処理層上にドット状に印刷し、前記前処理層上に多数の微小凸部からなるめっき保護層を形成した。ドット一個の大きさは一辺が234μmの正方形であり、ドット同士の間隔は20μmであり、ドット配列は正方格子状である。印刷厚さは、乾燥後で3μmとした。
【0106】
3.前処理層の還元処理
次に、上記で得られためっき保護層および前処理層が形成されたガラス板を、60℃の次亜リン酸ナトリウム溶液(NaH2PO2濃度:30g/L)に、3分間浸漬させ、前処理層の還元処理を行った。
【0107】
4.金属導電層の形成
上記で得られためっき保護層および還元処理された前処理層が形成されたガラス板を、無電解銅めっき液(メルテックス株式会社製 メルプレートCU−5100)に浸漬し、50℃、20分間で、無電解銅めっき処理して、メッシュ状の金属導電層を得た。前記金属導電層は、厚さは2.0μm、線幅は20μm、開口率は85%、線間隔は234μmであった。
【0108】
5.黒化処理
さらに、上記で得られた金属導電層が形成されたガラス板に対して、下記組成の黒化処理を行った。
【0109】
黒化処理液組成(水溶液)
亜塩素酸ナトリウム: 10質量%
水酸化ナトリウム: 4質量%
黒化処理条件
浴温: 約60℃
時間: 5分間
【0110】
この黒化処理により、金属導電層の表面が黒化処理された光透過性電磁波シールド材1を得た。得られた光透過性電磁波シールド材1の表面の黒化処理された厚みは、平均0.5μmであった。
【0111】
(実施例2)
1.前処理層の形成
ガラス板の代わりに、ポリエステルフィルム(厚さ150μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリエステルフィルム上に前処理層(厚さ0.1μm)を形成した。
【0112】
2.めっき保護層の形成
次に、キシレン、酢酸ブチル及びメチルエチルケトンを、質量比で5:3:5で含む溶剤に、アクリル樹脂及び繊維素系樹脂を25wt%含むレジストインク(藤倉化成株式会社製 SM−1798JR−1)を、グラビア印刷により、前記前処理層上にドット状に印刷し、前記前処理層上に多数の微小凸部からなるめっき保護層を形成した。ドット一個の大きさは一辺が234μmの正方形であり、ドット同士の間隔は20μmであり、ドット配列は正方格子状である。印刷厚さは、乾燥後で3μmとした。
【0113】
3.還元処理
次に、上記で得られためっき保護層および前処理層が形成されたポリエステルフィルムを、70℃のジメチルアミンボラン溶液((CH32NH・BH3濃度:10g/L)に、3分間浸漬させ、前処理層の還元処理を行った。
【0114】
4.金属導電層の形成
上記で得られためっき保護層および還元処理された前処理層が形成されたポリエステルフィルムを、無電解銅めっき液(メルテックス株式会社製 メルプレートCU−5100)に浸漬し、50℃、5分間で、無電解銅めっき処理した後、さらに電解めっき用の硫酸銅水溶液に浸漬させ、整流器により発生させた2A/dm2の電流を5分間かけることによりメッシュ状の金属導電層を得た。前記金属導電層は、厚さは3μm、線幅は20μm、開口率は85%、線間隔は234μmであった。
【0115】
5.黒化処理
さらに、上記で得られた金属導電層が形成されたポリエステルフィルムに対して、実施例1と同様にして黒化処理を行った。この黒化処理により、金属導電層の表面が黒化処理された光透過性電磁波シールド材2を得た。得られた光透過性電磁波シールド材の表面の黒化処理された厚みは、平均0.5μmであった。
【0116】
(評価)
上記で作製した光透過性電磁波シールド材について金属導電層について、表面抵抗値を測定したところ、光透過性電磁波シールド材1および2とも均一な厚さのめっき皮膜が形成されていた。
【0117】
また、光透過性電磁波シールド材の金属導電層が形成された面にセロファンテープを貼り付け、剥がすことにより、透明基板、前処理層、および金属導電層の密着性を評価したが、光透過性電磁波シールド材1および2のいずれもこれらの層が剥離せず、密着性に優れていた。
【0118】
以上の通り、本発明では、従来と比較してより簡便な方法で、かつ、光透過性および電磁波シールド性に優れる光透過性電磁波シールド材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本願発明による光透過性電磁波シールド材の製造方法の各工程を、断面図を用いて説明した図である。
【図2】従来の光透過性電磁波シールド材の製造方法の各工程を、断面図を用いて説明した図である。
【符号の説明】
【0120】
11 透明基板、
12 前処理層、
13 めっき保護層、
14 金属導電層、
15 黒化処理層、
21 透明基板、
22 水溶性インキ、
23 銅の薄膜、
24 金属導電層、
25 銅の薄膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランカップリング剤とアゾール系化合物との混合物または反応生成物、及び貴金属化合物を含む無電解めっき前処理剤を、透明基板上に塗布、乾燥させ、前記透明基板上に前処理層を形成する工程、
前記前処理層上にドット状のめっき保護層を形成する工程、
前記前処理層を還元処理する工程、及び
前記めっき保護層が形成されずに露出した前記前処理層上に、無電解めっきすることによりメッシュ状の金属導電層を形成する工程、
を含む光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項2】
前記シランカップリング剤が、エポキシ基含有シラン化合物である請求項1に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシランである請求項1または2に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項4】
前記アゾール系化合物が、イミダゾールである請求項1〜3のいずれか1項に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項5】
前記貴金属化合物が、パラジウム、銀、白金、および金よりなる群から選択される少なくとも一種の金属原子を含む化合物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項6】
前記透明基板上に前記前処理層を形成する工程において、前記乾燥を80〜160℃の温度で行う請求項1〜5のいずれか1項に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項7】
前記めっき保護層が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、およびポリスチレン樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項8】
前記還元処理を、前記前処理層及びめっき保護層が形成された透明基板を、還元剤を含む溶液に浸漬させることにより行う請求項1〜7のいずれか1項に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項9】
前記還元剤が、アミノボラン、ジメチルアミンボラン、次亜リン酸ナトリウム、硫酸ヒドロキシルアミン、ハイドロサルファイト、及びホルマリンよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項8に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項10】
前記還元剤を含む溶液における前記還元剤の濃度が、0.01〜200g/Lである請求項8または9のいずれか1項に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項11】
前記無電解めっきによるめっき金属が、銀、銅、またはアルミニウムである請求項1〜10のいずれか1項に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項12】
前記無電解めっきを行った後、さらに電解めっきを行う請求項1〜11のいずれか1項に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項13】
前記金属導電層を黒化処理し、前記金属導電層の表面の少なくとも一部に黒化処理層を形成する工程をさらに有する請求項1〜12のいずれか1項に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。
【請求項14】
前記黒化処理が、前記金属導電層を酸化処理または硫化処理することによって行われる請求項13に記載の光透過性電磁波シールド材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−60350(P2008−60350A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235846(P2006−235846)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】