説明

光電変換素子及びその製造方法

【課題】アノードになる電極とカソードになる電極を確定できる光電変換素子を提供する。
【解決手段】光電変換素子1の半導体層10に凸層11を形成する。導電層40を凸層11の一側面に接触するようにして半導体層10の表面に積層する。第1電極21を凸層11の反対側の面に接触するようにして半導体層10の表面に設ける。第2電極22を導電層40に設ける。更に、凸層11又は導電層40に多数の周期構造33を含む金属ナノ構造30を積層する。各周期構造33は複数の第1凸部31からなり、第1凸部31の配置間隔が周期構造33に応じて異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフォトダイオードや太陽電池等に適用される光電変換素子及びそれを製造する方法に関し、特にショットキー効果と表面プラズモン効果とを相乗的に利用した光電変換素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、表面プラズモン共鳴を利用した光電変換素子が記載されている。素子の金属層の表面に一様な周期の凹凸構造が形成されている。凹凸構造上に半導体層が積層され、更にその上に透明電極が積層されている。金属層の裏面には他の電極が積層されている。素子に光が入射すると、金属層の凹凸構造側の表面の電子が入射光と共鳴して振動し、電流が発生する。
特許文献2に記載の光電変換素子では、表面に2種以上の微粒子を設け、少なくとも2つの波長帯域で表面プラズモン共鳴を起こすようにしている。
【0003】
また、n型Siに厚さ数μm以上のAuを積層したショットキー型の光センサーによって可視光を検出できることが1960年代から知られている。
非特許文献1には、n型SiにCoSiを積層した光センサーによって1μm〜2μmの近赤外光を検出できることが記載されている。
非特許文献2には、p型SiGeにCoSiを積層した光センサーによって1μm〜5μmの赤外光を検出できることが記載されている。
非特許文献3には、p型SiにPtを積層した光センサーによって1μm〜6μmの赤外光を検出できることが記載されている。
非特許文献4には、SiにIrを積層した光センサーによって10μm以下の光を検出できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−073794号公報
【特許文献2】特開2010−021189号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Roca,Elisenda,et al.,Proceedings of SPIE−The International Society for Optical Engineering 2525(2),456(1995)
【非特許文献2】S.Kolondinski,et al.,Proceedings of SPIE−The International Society for Optical Engineering2554,175(1995)
【非特許文献3】J.M.Mooney and J.Silverman,IEEE Trans.Electron DevicesED−32,33−39(1985)
【非特許文献4】B−Y.Tsaur,M.M.Weeks,R.Trubiano and P.W.Pellegrini,IEEE Electron Device Left.9,650−653(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、可視光から赤外光まで及ぶ広帯域に感応する光電変換素子は知られていない。また、何れの光電変換素子においても、キャリアが素子の積層方向(厚さ方向)に流れるものであるため薄型化が容易でない。
【0007】
そこで、半導体層に導電層を積層し、この導電層上に一対の電極を互いに離して配置し、かつ電極間の導電層表面にプラズモン共鳴構造を配置することが考えられる。しかし、一対の電極のうち、どれがアノードになりどれがカソードになるかが不確定であり、電流の向きが定まらない。製造工程で偶発的又は不可避的に混入した汚染物や外乱によって、各電極がアノードにもカソードにもなり得、電流−電圧特性が正側と負側で非対称になる保証がない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、本発明に係る光電変換素子は、
表面に凸層が突出するよう形成されたn型又はp型の半導体層と、
前記表面に積層され、かつ前記凸層の一側面と接触する導電層と、
前記表面における前記凸層を挟んで前記導電層とは反対側に設けられ、かつ前記凸層の前記反対側の側面に接触する第1電極と、
前記導電層に設けられた第2電極と、
前記凸層又は前記導電層に積層された複数の周期構造を含む金属ナノ構造と、
を備え、前記各周期構造が複数の第1凸部からなり、前記第1凸部の配置間隔が前記周期構造に応じて異なることを特徴とする。
【0008】
上記光電変換素子によれば、半導体層の表面と導電層との間に第1のショットキー接合部が形成される。かつ、凸層の一側面と導電層の凸層側の端面との間に第2のショットキー接合部が形成される。
上記光電変換素子に光が入射すると、第1、第2のショットキー接合部において光電変換によりフォトキャリア(電子−正孔対)が生成される。
半導体層がn型半導体である場合、第1のショットキー接合部においては、上記フォトキャリアの電子が空乏層の電界によって半導体層の側へ移動する。これに伴って、第2電極から導電層に電子が流れ込む。第2のショットキー接合部においては、キャリアの電子が凸層の側ひいては第1電極の側へ移動する。これにより、導電層に沿って電子が前記第1電極の側へ流れる。よって、第1電極がカソードになり、第2電極がアノードになる。
半導体層がp型半導体である場合、第1のショットキー接合部においては、フォトキャリアの正孔が空乏層の電界によって半導体層の側へ移動する。これに伴って、第2電極から導電層に正孔が流れ込む。第2のショットキー接合部においては、キャリアの正孔が凸層の側ひいては第1電極の側へ移動する。これにより、導電層に沿って正孔が前記第1電極側へ流れる。よって、第1電極がアノードになり、第2電極がカソードになる。
このようにして、アノードになる電極とカソードになる電極を確定でき、光誘起電流の向きを制御できる。したがって、電流−電圧特性が正側と負側で確実に非対称になり、障壁電圧が向上したダイオード特性が得られる。更に、金属ナノ構造によって光電変換の感度を高めることができる。
【0009】
凸層の一側面及び反対側面は、半導体層の表面に対し略直交していてもよく、半導体層の表面に対し斜めになっていてもよい。凸層の一側面及び反対側面が、凸層の突出端に向かうにしたがって近づいていてもよく、凸層の断面が台形又は三角形状になっていてもよい。凸層の突出高さは、例えば1〜10nm程度であり、好ましくは数nm(2nm〜3nm)程度である。凸層の一側面と反対側面との間の幅は、例えば0.数mm〜数mmである。好ましくは凸層が台形の断面を有し、その上底面の幅が1mm程度である。
【0010】
第1電極が、半導体層とオーミック接触していることが好ましい。更に、第1電極が、凸層の前記一側面とオーミック接触していることがより好ましい。
第2電極が、導電層とオーミック接触していることが好ましい。第2電極は、半導体層とは縁切りされていることが好ましい。
【0011】
前記導電層を構成する金属成分として例えばn型Si基板の場合(第1実施形態)では、Au、Fe、Co、Pt、W、Ni、Ag、Alが、p型Si基板の場合(第2実施形態)では、Ti、In、Zn、Mg、Li、Cuが挙げられる。前記導電層は、金属でもよく、金属と半導体の混合物ないしは合金でもよい。金属と半導体の混合物ないしは合金として、例えば金属シリサイドが挙げられる。前記半導体層がシリコンからなる場合、前記導電層が、前記金属成分と前記半導体層の表層部分とが相互に拡散してなる金属シリサイドであってもよい。上記拡散ひいてはシリサイド化は、例えばアニール処理によって行なうことができる。上記列記の金属の内、特に(Fe、Co、W、Ni、Ti、Mg)はシリサイド化に適している。
【0012】
前記金属ナノ構造は、ナノサイズの金属微粒子の集合体であることが好ましい。
前記金属ナノ構造に光が入射すると、プラズモン共鳴が起き、光誘起電場の増大に寄与する。
前記金属ナノ構造を構成する金属としては、Au、Ag、Pt、Cu、又はPdを用いることが好ましい。これら列記の金属元素は、化学的安定性が比較的高く、合金化しにくく、Si等の半導体と化合しにくい。そのため、表面プラズモンを確実に形成できる。
【0013】
前記金属ナノ構造は、凸層上又は導電層上に設けられる。前記金属ナノ構造は、主に凸層上に設けられていてもよく、主に導電層上に設けられていてもよく、凸層と導電層との間に跨って設けられていてもよい。前記金属ナノ構造は、凸層上又は導電層上に広く分布していることがより好ましい。金属ナノ構造を凸層上に設けると、第2ショットキー接合部においてキャリアが凸層の側ひいては第1電極の側へ移動するのを促進できる。よって、第2ショットキー接合部の整流作用を高めることができる。金属ナノ構造を導電層上に設けると、第1ショットキー接合部においてキャリアが半導体層の側へ移動するのを促進できる。よって、光誘起電流を確実に増大できる。
【0014】
前記金属ナノ構造において、前記周期構造がランダムな周期を有していることが好ましい。前記周期構造の周期が変化していることが好ましい。すなわち、前記第1凸部の配置間隔が周期構造に応じて異なっていることが好ましい。これにより、周期構造に応じて異なる波長の光に感応するようにできる。したがって、全体として金属ナノ構造が感応可能な波長域を広くすることができる。よって、可視光領域から赤外光領域に及ぶ広帯域に対応可能な光電変換素子を提供できる。
【0015】
第1凸部の配置間隔(周期)は、入射光の波長λの約0.1倍〜1倍程度であることが好ましく、波長λの0.1倍程度がより好ましい。又は第1凸部の配置間隔(周期)は、半導体層(凸層を含む)と導電層とで作るショットキー素子の感応波長の約0.1倍〜1倍程度であることが好ましい。前記周期構造は、当該周期構造を構成する第1凸部の周期の約1倍〜10倍程度(特に上記周期の10倍程度)の波長λを有する入射光に対し敏感に感応してプラズモン共鳴を起こし、光誘起電場の増幅に寄与する。非特許文献1〜3によれば、半導体層がn型の素子の周期構造の周期(第1凸部の配置間隔)は、半導体層がp型の素子の周期構造の周期(第1凸部の配置間隔)より小さいことが好ましい。半導体層がn型の素子においては、第1凸部の配置間隔(周期)は、約100nm以下であることがより好ましい。これにより、波長が約1μm以下の赤外光域〜可視光域の光に対し良好な感度持つことができる。例えば図16に示すような、CoSi2/n−SiのSchottkyセンサーの感度曲線が得られる。半導体層がp型の素子においては、第1凸部の配置間隔(周期)は、約150nm以下であることがより好ましい。これにより、波長が約1μm〜4μmの赤外光に対し良好な感度を持つことができる。
第1凸部の突出高さは、約10nm〜20nm程度であることが好ましい。
【0016】
前記周期構造の少なくとも1つが、ある波長範囲内(好ましくは可視光域から赤外光域)の任意の波長の約0.1倍〜1倍の大きさ(特に0.1倍程度の大きさ)の配置間隔を有することが好ましい。これによって、入射光が上記波長範囲内に含まれていれば、金属ナノ構造の少なくとも1つの周期構造がその入射光に対し感度を持つようにできる。
【0017】
前記金属ナノ構造が、前記第1凸部より大きく突出する複数の第2凸部を更に含み、これら第2凸部が互いに分散し、かつ各第2凸部が、前記周期構造の何れか1つと重なって又は近接して配置されていることが好ましい。
前記金属ナノ構造に光が入射すると、前記第2凸部の周囲に近接場光が発生する。この近接場光と上記周期構造によるプラズモン共鳴との相乗効果によって、光誘起電場を感度良く増幅させて出力できる(K.Kobayashi,et.al.,Progress in Nano−Electro−Optecs I.ed.M.Ohtsu,p.119(Sptinger−Verlag,Berlin,2003)参照)。入射光が微弱であっても、光起電力を高感度に発生させることができる。
【0018】
前記第2凸部の突出高さは、約50nm〜200nm程度であることが好ましい。
前記第2凸部の分散間隔(隣り合う第2凸部どうしの離間距離)は、入射光の波長より大きいことが好ましく、半導体層と導電層とで作るショットキー素子の感応波長より大きいことが好ましい。
半導体層がn型である素子の第2凸部の分散間隔が、半導体層がp型である素子の第2凸部の分散間隔より小さいことが好ましい。例えば、半導体層がn型の場合、前記第2凸部の分散間隔は、1μm以上であることが好ましく、約2μm〜3μm程度であることがより好ましい。半導体層がp型の場合、前記第2凸部の分散間隔は、約3μm〜5μm程度であることが好ましい。これにより、隣り合う第2凸部どうしが干渉して電場を弱めてしまうのを回避できる。
前記第2凸部の分散間隔の上限は、n型の場合、3μm〜5μm程度であることが好ましく、p型の場合、5μm〜6μm程度であることが好ましい。これによって、第2凸部の存在密度を確保でき、第2凸部との相互作用を生じ得る周期構造の数を確保でき、感応帯域を確実に広くできる。
【0019】
前記金属ナノ構造に炭素化合物等の絶縁体が混在し、金属−絶縁体−金属(M−I−M:metal−insulator−metal)構造が形成されていてもよい。
【0020】
本発明に係る光電変換素子の製造方法は、
半導体層の表面をエッチングすることにより、前記表面に凸層を形成する凸層形成工程と、
導電層を前記凸層の一側面と接触するようにして前記表面に積層する導電層形成工程と、
第1電極を前記凸層の前記一側面とは反対側の側面に接触するようにして前記表面に設け、第2電極を前記導電層に設ける電極形成工程と、
金属を前記凸層又は前記導電層上に積層し、熱処理することにより、複数の周期構造を含み、前記各周期構造が複数の第1凸部からなり、前記第1凸部の配置間隔が前記周期構造に応じて異なる金属ナノ構造を形成するナノ構造形成工程と、
を含むことを特徴とする。
【0021】
前記第1電極を前記表面に被膜した後、第1温度にて熱処理し、その後、前記導電層の金属成分を前記表面に被膜した後、前記第1温度より低い温度にて熱処理することが好ましい。これにより、前記電極形成工程の熱処理で導電層と半導体層の接合部が合金化するのを防止でき、良好なショットキー接合部を得ることができる。
前記電極形成工程では、第1電極の形成と第2電極の形成を同時に行なう必要はない。第1電極を形成した後、他の工程(導電層形成工程やナノ構造形成工程等)を行ない、その後、第2電極を形成してもよい。
前記第1電極を前記表面に被膜した後、熱処理することが好ましい。熱処理によって第1電極と半導体層をオーミック接触できる。
前記導電層形成工程では、前記導電層の金属成分を前記表面に被膜した後、熱処理してもよい。これにより、前記金属成分と半導体層の表面成分とが相互に拡散してなる導電層を形成でき、導電層と半導体層をショットキー接触できる。
【0022】
前記ナノ構造形成工程では、前記金属ナノ構造の原体を前記凸層上又は前記導電層上に配置した後、熱処理により前記原体を前記凸層の表面又は前記導電層の表面に沿って拡散させて前記金属ナノ構造を自然形成することが好ましい。前記熱処理としては、アニール処理を適用するのが好ましい。前記原体の形状ないし性状は、特に限定が無く、薄膜状、小片状、小塊状、粒状、粉体状、コロイド状、ファイバー状、ワイヤー状、ドット状の何れでもよく、その他の形状ないし性状でもよい。前記熱処理によって前記原体が多段ないしは多重に枝分かれするよう拡散し、フラクタル構造の集合体になる。これによって、前記金属ナノ構造を自然形成できる。前記金属ナノ構造の表面には、サブミクロンないしはナノオーダーの凹凸が形成されている。前記金属ナノ構造の表面は、前記積層方向に突出する多数の凸部を含み、クラスター状になる。前記多数の凸部が、前記第1凸部と前記第2凸部を含む。前記各周期構造は、前記多数の凸部のうち略等間隔で並んだ複数の凸部によって構成される。
【0023】
前記各工程における熱処理として、アニール処理を適用することが好ましい。前記電極形成工程でのアニール処理の温度条件は、例えば600℃〜1000℃程度が好ましく、800℃程度がより好ましい。前記導電層形成工程でのアニール処理の温度条件は、例えば400℃〜800℃程度であり、図17に示すように、600℃程度がより好ましい。
【0024】
前記ナノ構造形成工程の熱処理を、前記電極形成工程の熱処理より低い温度下にて行なうことが好ましい。前記ナノ構造形成工程における熱処理として、アニール処理を適用することが好ましい。前記ナノ構造形成工程でのアニール処理の温度条件は、例えば400℃〜800℃程度であり、図17に示すように、600℃程度が好ましい。
【0025】
電極形成工程の熱処理、導電層形成工程の熱処理、ナノ構造形成工程の熱処理を同時に、互いに共通の単一の熱処理操作にて行なってもよい。
電極形成工程の熱処理及び導電層形成工程の熱処理を同時に、互いに共通の単一の熱処理操作にて行なってもよい。
導電層形成工程の熱処理及びナノ構造形成工程の熱処理を同時に、互いに共通の単一の熱処理操作にて行なってもよい。
電極形成工程の熱処理及びナノ構造形成工程の熱処理を同時に、互いに共通の単一の熱処理操作にて行なってもよい。
【0026】
前記一対の電極のうち何れか又は両方を前記金属ナノ構造の金属原料として兼用してもよい。前記電極を構成する金属をアニール処理によって前記電極の周辺にクラスター状又はフラクタル状になるよう拡散させてもよい。そうすると、前記電極の近傍に前記金属ナノ構造を形成できる。この場合、前記電極と前記金属ナノ構造とは、互いに同一の金属成分を含む。
【0027】
前記光電変換素子の表面に紫外域又は赤外域に感度を持つ半導体からなるナノ構造体を更に設けてもよい。特に、前記半導体層がn型半導体である場合、前記光電変換素子の表面に、紫外域に感度を持つ半導体からなるナノ構造体を設けることが好ましい。紫外域に感度を持つ半導体とは、波長が例えば0.4μm以下の紫外光が照射されるとキャリアが励起される性質を有する半導体を言い、例えばn型半導体である酸化亜鉛(ZnO)が挙げられ、その他、n型の窒化ガリウム(n−GaN)等が挙げられる。前記半導体層がp型半導体である場合、前記光電変換素子の表面に、赤外域に感度を持つ半導体からなるナノ構造体を設けることが好ましい。赤外域に感度を持つ半導体とは、波長が例えば0.7μm以上の赤外光が照射されるとキャリアが励起される性質を有する半導体を言い、例えばp型の窒化ガリウム(p−GaN)や炭素等が挙げられる。ナノ構造体として、例えばナノワイヤ、ナノチューブ、ナノニードル、ナノロッド等が挙げられる。前記ナノ構造体によって、光電変換の感度を高めることができる。前記ナノ構造体が紫外域に感度を持つ半導体からなる場合、紫外域の入射光に対する光電変換感度を高めることができる。前記ナノ構造体が赤外域に感度を持つ半導体からなる場合、赤外域の入射光に対する光電変換感度を高めることができる。ナノ構造体をナノワイヤ、ナノチューブ等にて構成することにより、量子効率を高めることができ、ひいては光電変換素子の感度を確実に高めることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、光電変換素子の正極になる電極と負極になる電極を確実に決定でき、非対称のダイオード特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態(n型Siとの組み合わせ)に係る光電変換素子の概略構造を示す断面図である。
【図2】上記光電変換素子の製造方法における凸層形成工程を示す断面図である。
【図3】上記光電変換素子の製造方法における第1電極のオーミック接触促進層を形成する工程を示す断面図である。
【図4】上記光電変換素子の製造方法における第1電極及び金属ナノ構造の原料を被膜する工程を示す断面図である。
【図5】上記光電変換素子の製造方法における導電層の金属成分を被膜する工程を示す断面図である。
【図6】上記光電変換素子の製造方法における第2電極を形成する工程を示す断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態(p型Siとの組み合わせ)に係る光電変換素子の概略構成を示す断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る光電変換素子の概略構成を示す断面図である。
【図9】上記第3実施形態に係る光電変換素子の製造方法における凸層形成工程を示す断面図である。
【図10】上記第3実施形態に係る光電変換素子の製造方法における第1電極原料を被膜する工程を示す断面図である。
【図11】上記第3実施形態に係る光電変換素子の製造方法における導電層の金属成分を被膜する工程を示す断面図である。
【図12】上記第3実施形態に係る光電変換素子の製造方法における金属ナノ構造の原体及び第2電極を配置する工程を示す断面図である。
【図13(a)】実施例1における金属ナノ構造の表面の一箇所をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した画像である。
【図13(b)】実施例1における金属ナノ構造の表面の、図13(a)とは異なる箇所をSEMで観察した画像である。
【図14】実施例1における金属ナノ構造の表面のある場所をAFM(原子間力顕微鏡)にて観察した立体画像である。
【図15】図14の立体画像の解説図である。
【図16】波長感度特性グラフ(兵庫県立大理学部 高木 芳弘 教授の協力)である。
【図17】アニーリング温度特性グラフである。
【図18】波長−太陽放射スペクトルのグラフである。
【図19】表面周期構造のフーリエ分解スペクトル(模式図)
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る光電変換素子1を示したものである。光電変換素子1は、半導体層10と、一対の電極21,22と、金属ナノ構造30と、導電層40を備えている。
【0031】
図1に示すように、半導体層10は、シリコン(Si)にて構成されているが、これに限られず、Ge、GaAs等の他の半導体にて構成されていてもよい。半導体層10には、P(リン)等のn型不純物がドープされている。半導体層10は、n型半導体を構成している。
【0032】
図1に示すように、半導体層10は、光電変換素子1の基板を兼ねている。半導体層10は、シリコン基板にて構成されている。シリコン基板にn型不純物がドープされている。シリコン基板として、シリコンウェハ等を用いることができる。シリコン基板によって、光電変換素子1の保形性及び機械的剛性が確保されている。基板が半導体層10とは別途に設けられていてもよい。例えば、ガラスや樹脂フィルムからなる基板にn型半導体層10が被膜されていてもよい。上記別途の基板の表面にCVD等によってn型半導体層10を成膜してもよい。
【0033】
半導体層10の表面に凸層11が形成されている。凸層11は、半導体層10の厚さ方向(素子1の積層方向)に沿って突出されている。凸層11は、半導体層10の一部分にて構成され、半導体層10と一体をなしている。凸層11の幅方向(図1において左右)の両側面は、半導体層10の表面に対し斜めになっているが、略垂直になっていてもよい。
【0034】
凸層11の突出高さは、例えば約1nm〜10nm程度であり、好ましくは数nm程度である。凸層11の幅寸法(図1において左右の寸法)は、例えば0.数mm〜数mmである。好ましくは、凸層11の上面(突出端面)の幅が約1mm程度である。図において、凸層11の突出高さ(上下寸法)は、幅(左右寸法)に対して誇張されている。
【0035】
導電層40は、半導体層10の凸層11より一側(図1において左側)の表面部分に積層されている。導電層40の底面(下面)と半導体層10とがショットキー接触している。導電層40と半導体層10との間に第1のショットキー接合部41が形成されている。更に、導電層40の右端面(凸層側端面)が、凸層11の左側面(一側面)に接合し、ショットキー接触している。導電層40と凸層11との間に第2のショットキー接合部42が形成されている。
【0036】
導電層40は、金属シリサイドにて構成され、導電性を有している。半導体層10の表層のシリコンが自己組織化し、導電層40のシリコン成分を構成している。導電層40を構成する金属成分としては、Co、Fe、W、Ni、Al、Ti等が挙げられるが、これに限定されるものではない。ここでは、導電層40の金属成分として、Coが用いられている。導電層40がCoSixにて構成され、好ましくはCoSiにて構成されている。これにより、導電層40と半導体層10との間、及び導電層40と凸層11との間に良好なショットキー界面が形成されている。導電層40が、金属成分のみにて構成されていてもよい。導電層40の厚さは、凸層11の突出高さと同程度になっている。導電層40の上面(表側面)は、凸層11の上面(突出端面)とほぼ面一になっているが、凸層11より突出していてもよく、引っ込んでいてもよい。例えば、導電層40の厚さは、約1nm〜10nm程度であり、好ましくは数nm程度である。導電層40の幅寸法(左右方向の寸法)は、例えば3mm〜5mm程度であるが、これに限られず、3mm以下でもよく、5mm以上でもよい。
図面において、導電層40の厚さ及び凸層11の突出量は、半導体層10、電極21,22、金属ナノ構造30等の厚さに対して誇張されている。
【0037】
第1電極21は、半導体層10の表面における凸層11より右側すなわち導電層40とは凸層11を挟んで反対側に配置されている。第1電極21は、半導体層10の表面と接触するとともに、凸層11の右側面(反対側面)とも接触している。
【0038】
半導体層10の表面における電極21が配置される表面部分は、導電層40が配置される部分より僅かに(例えば1nm以下程度)下方へ凹んでいる。この凹み部分が、凸層11の右側面(反対側面)と連続している。第1電極21の底部が半導体層10の上記凹み部分とオーミック接触している。更に、第1電極21は、凸層11の右側面(反対側面)ともオーミック接触している。
【0039】
第2電極22は、凸層11より左側(一側)に離れて導電層40上に配置されている。
【0040】
各電極21,22は、Au、Ag、Pt、Cu、Pd等の金属にて構成されている。ここでは、電極21,22を構成する金属として、Auが用いられている。2つの電極21,22が互いに異なる金属成分にて構成されていてもよい。
【0041】
第1電極21と半導体層10(凸層11を含む)とのオーミック接合部は、AuとCoとSiの合金にて構成され、好ましくはAuリッチの合金にて構成されている。
【0042】
凸層11の上面に金属ナノ構造30が積層されている。金属ナノ構造30は、第1電極21の近傍に設けられている。
【0043】
金属ナノ構造30は、Au、Ag、Pt、Cu、Pd等の金属を主成分として構成されている。ここでは、金属ナノ構造30を構成する金属として、Auが用いられている。金属ナノ構造30は、Auリッチの構造物である。したがって、金属ナノ構造30は、電極21と同じ金属成分にて構成されている。金属ナノ構造30は、第1電極21に一体に連なっている。
【0044】
金属ナノ構造30を構成する金属成分と電極21,22を構成する金属成分とが、互いに異なっていてもよい。金属ナノ構造30を構成する金属に炭素化合物等の絶縁体が混在していてもよく、金属ナノ構造30が前述のM−I−M構造になっていてもよい。
【0045】
金属ナノ構造30の表面には、サブミクロンないしはナノオーダーの凹凸が形成されている。詳述すると、金属ナノ構造30は、金属(Au)がクラスター状又はフラクタル状に集合した構造になっている(図13及び図14参照)。金属ナノ構造30の集合体は、素子1の厚さ方向(上方)に突出する多数ないしは無数の凸部を含む。これら凸部がクラスター状に集合している。或いは、Auナノ粒子の集合体が多重に枝分かれするよう拡散したフラクタル構造になっている。金属ナノ構造30は、多数の第1凸部31と、第2凸部32を含む。上記多数の凸部の一部が第1凸部31を構成し、他の一部が第2凸部32を構成している。
【0046】
金属ナノ構造30は、少なくとも1つの周期構造30を有し、好ましくは多数ないしは無数(複数)の周期構造33を有している。各周期構造33は、金属ナノ構造30の上記多数の凸部における隣り合う幾つか(複数)の凸部31,31…によって構成されている。各周期構造33を構成する第1凸部31,31…どうしは、素子1の面方向(積層方向と直交する方向)に沿ってある間隔(周期)で配列されている。周期構造33に応じて第1凸部31の配置間隔(周期)が異なっている。これら周期構造33における第1凸部31の配置間隔(周期)は、数十nmから数μm程度が好ましく、約40nm〜100nm程度がより好ましい。この配置間隔(周期)は、入射光Lの波長の約0.1倍〜1倍程度であることが好ましく、約0.1倍程度がより好ましい。更に、上記配置間隔(周期)は、n型半導体層10と導電層40とからなるショットキー素子の感応波長(可視光域から赤外光域)の約0.1倍〜1倍程度であることが好ましい。金属ナノ構造30は、上記ショットキー素子の感応域内の任意の波長の約0.1倍〜1倍の大きさの配置間隔を有する周期構造を少なくとも1つ含むことが好ましい。
【0047】
更に、金属ナノ構造30には、複数の第2凸部32が分散して配置されている。各第2凸部32は、何れかの周期構造33と重なるように配置されている。又は、各第2凸部32は、何れかの周期構造33に近接して配置されている。第2凸部32は、第1凸部31より突出高さが大きく、第1凸部31より尖り度(突出高さと底部の幅の比)が大きい。第2凸部32の突出高さは、約50nm〜200nm程度であることが好ましい。第2凸部32どうしの分散間隔は、入射光の波長より大きいことが好ましく、例えば1μm以上であることが好ましく、約2μm〜3μm程度であることが好ましい。第2凸部32どうしの分散間隔の上限は、3μm〜5μm程度であることが好ましい。
【0048】
光電変換素子1の製造方法を説明する。
半導体層10として、P(リン)ドープのn型シリコン基板を用意する。図2に示すように、半導体層10の表面をエッチングし、凸層11を形成する(凸層形成工程)。更に、半導体層10の表面の電極21を配置すべき右側部分を凸層11より左側の部分より僅かに(1nm以下程度)凹むようにエッチングする。エッチングは、ウェットエッチングにて行なってもよく、ドライエッチングにて行なってもよい。
【0049】
図3に示すように、半導体層10の右側の上記凹ませた部分にCoからなる膜25を被膜する。Co膜25は、凸層11の右側面(一側面)にも被膜する。Co膜25の被膜は、スパッタリング、蒸着等の種々の成膜方法にて行なうことができる。Co膜25の厚さは、1nm以下が好ましい。Co膜25の上面が、半導体層の表面の中央部分と略面一になるようにするのが好ましい。
【0050】
次に、図4に示すように、第1電極及び金属ナノ構造となるAuからなる膜26をCo膜25上に積層する。Au膜26は、凸層11の右側面(一側面)に接触するようにし、更には凸層11の上面の少なくとも一部にも被覆する。Au膜26の被膜は、スパッタリング、蒸着等の種々の成膜方法にて行なうことができる。
【0051】
次に、図5に示すように、半導体層10の凸層11より左側の表面部分に、Coからなる膜43を形成する。Co膜43の被膜は、スパッタリング、蒸着等の種々の成膜方法にて行なうことができる。
【0052】
次に、図6に示すように、Co膜43の表面の左側部にAuからなる第2電極22を積層する(第2電極形成工程)。第2電極22の被膜は、スパッタリング、蒸着等の種々の成膜方法にて行なうことができる。なお、第2電極の形成工程は、次のアニール処理の後に行ってもよい。
【0053】
次に、基板10をアニール処理槽に入れ、アニール処理(熱処理)を行なう。アニール処理の温度条件は、 図17に示されるように、400℃〜800℃程度が好ましく、600℃程度がより好ましい。アニール処理は、可及的に100%の不活性ガス雰囲気にて行なう。アニール処理用の不活性ガスとして、He、Ar、Ne等の希ガスを用いることができ、その他、Nを用いてもよい。アニール処理の圧力条件は、大気圧近傍であり、例えば大気圧より数Pa程度低圧である。
【0054】
上記アニール処理によって、Au膜26が、薄いCo膜25を介して半導体層10(凸層11を含む)とオーミック接触して第1電極21となる(第1電極形成工程)。第1電極21と半導体層10の接合部では、Coを挟んでAuとSiが相互に拡散して合金化する。これによって、第1電極21と半導体層10とを確実にオーミック接触させることができる。
【0055】
さらに、上記アニール処理によって、Co膜43に半導体層10のSiが拡散する。これにより、CoSix好ましくはCoSiからなる導電層40を形成できる(導電層形成工程)。この導電層40の底面と半導体層10とがショットキー接合し、ショットキー接合部41を形成できる。かつ、導電層40の右端面(凸層側端面)と凸層11の左側面(他側面)とがショットキー接合し、ショットキー接合部42を形成できる。アニール温度を600℃程度に設定することで、導電層40の成分をCoSiにすることができる。したがって、半導体層10と導電層40を確実にショットキー接合させることができ、良好なショットキー接合部41,42を得ることができる。
【0056】
更に、図1に示すように、上記アニール処理によって、Au膜26の微粒子が凸層11の上面に沿ってクラスター又はフラクタルを形成するよう拡散する。すなわち、Au微粒子が多重に枝分かれするよう拡散し、フラクタル構造の集合体になる。集合体の表面は、サブミクロンないしはナノオーダーの凹凸を有し、クラスター状になる。これにより、金属ナノ構造30を自然形成できる(ナノ構造形成工程)。
【0057】
上記光電変換素子1の動作を説明する。
上記の光電変換素子1に可視領域〜赤外領域の波長(具体的には約0.4μm〜2μm程度)の光が入射すると、導電層40の底面と半導体層10との第1ショットキー接合部41において光電変換によりフォトキャリアが発生する。加えて、導電層40の右端面と凸層11との第2ショットキー接合部42においても光電変換によりフォトキャリア(電子−正孔対)が発生する。
【0058】
第1ショットキー接合部41においては、上記フォトキャリアの電子が空乏層の電界によって半導体層10の側へ移動する。これに伴って、第2電極22から導電層40に電子が流れ込む。第2のショットキー接合部42においては、キャリアの電子が凸層11の側ひいては第1電極21の側へ移動する。これにより、導電層40に沿って電子が第1電極21の側へ流れる。よって、第1電極21がカソードになり、第2電極22がアノードになる。このようにして、アノードになる電極22とカソードになる電極21を確定でき、光誘起電流の向きを制御できる。よって、電流−電圧特性を正側と負側で確実に非対称にでき、障壁電圧が向上したダイオード特性を得ることができる。
【0059】
さらに、素子1の表面の金属ナノ構造30によって、光電変換の感度を高めることができる。かつ、金属ナノ構造30によって、光電変換可能な光の波長域を拡大できる。
【0060】
金属ナノ構造30の作用を詳述する。金属ナノ構造30を構成するAuナノ微粒子の表面にはプラズモンが局在する。この表面プラズモンと入射光が共鳴し、大きな電場が発生する。金属ナノ構造30の周期構造33は、その周期(第1凸部31の配置間隔)に応じた波長の入射光に対する光電変換の感度を高める。すなわち、周期構造33は、その周期の約1倍〜10倍程度、特に約10倍の波長の入射光に対し敏感に感応してプラズモン共鳴を起こす。第1凸部31の周期は周期構造33に応じて異なるから、金属ナノ構造30が感応可能な波長域を広くすることができる。更に、第2凸部32の周囲に近接場光が発生する。この近接場光と上記周期構造33によるプラズモン共鳴との相乗効果によって、大きな光誘起電場を発生させることができる。これによって、可視光領域から赤外光領域に及ぶ広帯域の光感応する光電変換素子1を提供できる。入射光が微弱であっても、光起電力を高感度に発生させることができる。第2凸部32の分散間隔を入射光の波長(可視光域〜赤外光域)より大きくし、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm〜3μmとすることによって、隣接する第2凸部32,32どうしが干渉して電場を弱めるのを回避できる。第2凸部32の分散間隔の上限を3μm〜5μmとすることによって、第2凸部32の存在密度を高く維持でき、第2凸部32との相互作用を生じ得る周期構造33の数を確保でき、感応帯域を確実に広くできる。
【0061】
光電変換素子1を光検出センサーとして用いる場合、優れた感度特性を有し、かつ広帯域の光を検出できる。
光電変換素子1を太陽電池として用いる場合、幅広い帯域の太陽光を光電変換して電力に利用できる。図18に示される様に、晴天時はもちろん、曇天時においても十分に大きな電力を得ることができる。更に、日没後においても、大気中に散乱する赤外光を光電変換して電力を得ることができる。赤外光を吸収することにより赤外光の熱変換を防止でき、地球温暖化対策の手段としても期待できる。
【0062】
一対の電極21,22が素子1の同じ面(上面)に配置されているため、光電変換素子1を薄型化できる。
光誘起電場が素子1の表面に沿って形成されるため、キャリアが素子1の表面に沿って加速され、化合物半導体レベルの高速で移動できる。したがって、超高速イメージングセンサーや、GHz〜THz帯の光変調波に対応可能な光検出センサーを実現できる。光電変換素子1は、薄膜型であるため、CCDセンサアレーとして用いることもできる。
【0063】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において、既述の形態と重複する内容に関しては図面に同一符号を付して説明を省略する。
図7は、本発明の第2実施形態を示したものである。第2実施形態に係る光電変換素子1Aは、第1実施形態のn型半導体層10に代えて、p型半導体層10Aを備えている。p型半導体層10Aは、例えばB(ボロン)等のp型不純物がドープされたp型シリコンにて構成されている。p型半導体層10Aが基板を兼ねている点は、第1実施形態と同様であるが、導電層を構成する金属成分は、Schottky接合部41及び42を形成するために、異なる金属(Ti、In、Zn、Mg、Li、Cuなど)を用いる。
【0064】
p型素子1Aの周期構造33における第1凸部31の配置間隔(周期)は、n型素子1のそれよりもやや大きいことが好ましく、例えば約60nm〜150nm程度がより好ましい。p型素子1Aの周期構造33における第2凸部32の分散間隔は、n型素子1のそれよりもやや大きいことが好ましく、例えば約3μm〜5μm程度であることが好ましく、上限は5μm〜6μm程度であることが好ましい。
【0065】
p型の光電変換素子1Aの感応領域は、n型の光電変換素子1の感応領域より長波長側にずれており、赤外域(具体的には波長約1μm〜4μm程度)の光に感応する。光電変換素子1Aに赤外域の光が入射すると、導電層40の底面と半導体層10Aとの第1ショットキー接合部41において光電変換によりフォトキャリアが発生する。加えて、導電層40の右端面(凸層側端面)と凸層11の左側面(一側面)との第2ショットキー接合部42においても光電変換によりフォトキャリア(電子−正孔対)が発生する。
【0066】
第1ショットキー接合部41においては、上記フォトキャリアの正孔が空乏層の電界によって半導体層10の側へ移動する。これに伴って、第2電極22から導電層40に正孔が流れ込む。第2のショットキー接合部42においては、キャリアの正孔が凸層11の側ひいては第1電極21の側へ移動する。これにより、導電層40に沿って正孔が第1電極21の側へ流れる。よって、第1電極21がアノードになり、第2電極22がカソードなる。このようにして、アノードになる電極21とカソードになる電極22を確定でき、光誘起電流の向きを制御できる。よって、電流−電圧特性を正側と負側で確実に非対称にでき、障壁電圧が向上したダイオード特性を得ることができる。
【0067】
図8は、本発明の第3実施形態に係る光電変換素子1Bを示したものである。第3実施形態では、金属ナノ構造30が、凸層11から導電層40に跨っており、凸層11の上面だけでなく導電層40の表面上にも広く分布している。半導体層10の表面の右側の電極21配置部分は、導電層40配置部分と面一(同一高さ)になっているが、第1実施形態と同様に、若干(1nm程度)凹んでいてもよい。
【0068】
第3実施形態の光電変換素子1Bの製造方法を説明する。
[凸層形成工程]
図9に示すように、半導体層10の表面をエッチングし、凸層11を形成する。第3実施形態では、半導体層10の表面の凸層11より右側部分を更にエッチングする必要はない。
【0069】
[第1電極形成工程]
第3実施形態では、半導体層10の表面の凸層11より左側部分へのCo膜25(図3参照)の被膜を省略できる。図10に示すように、半導体層10の上記右側部分には、Au膜26をスパッタリング、蒸着等にて直接積層する。Au膜26は、半導体層10の表面の右側部分及び凸層11の右側面に接触するように被膜すればよく、凸層11の上面にまで被覆しなくてもよい。
【0070】
次に、基板10をアニール処理槽に入れ、アニール処理(熱処理)を行なう。アニール処理の温度条件(第1温度)は、800℃程度とする。アニール処理のその他の条件は、第1実施形態と同様とする。これによって、Au膜26が、半導体層10(凸層11を含む)とオーミック接触して、第1電極21となる。第1電極21と半導体層10(凸層11を含む)の接合部では、AuとSiを相互に拡散させて合金化でき、電極21と半導体層10(凸層11を含む)とを確実にオーミック接触させることができる。
【0071】
[導電層形成工程]
次に、図11に示すように、半導体層10の表面の凸層11より左側の部分に導電層40の金属成分となるCo膜43をスパッタリング、蒸着等にて被膜する。
【0072】
[第2電極形成工程]
次に、図12に示すように、Co膜43の表面の左側部にAuからなる第2電極22を積層する。第2電極22の被膜は、スパッタリング、蒸着等の種々の成膜方法にて行なうことができる。
【0073】
[ナノ構造形成工程]
また、金属ナノ構造30となる原体34(Au)を凸層11及びCo膜43上に配置する。原体34(Au)の形状ないし性状は、特に限定が無く、薄膜状、小片状、小塊状、粒状、粉体状、コロイド状、ファイバー状、ワイヤー状、ドット状の何れでもよく、その他の形状ないし性状でもよい。原体34は、凸層11及びCo膜43の上面の第1電極21と第2電極22との間の部分に分散させて点在させるように配置することが好ましい。各原体24の幅Wは、数100nm〜1mm程度であることが好ましい。各原体24の高さHは、数100nm〜1mm程度であることが好ましい。隣り合う原体34どうし間の隙間の幅Dは、数100nm〜1mm程度であることが好ましい。原体34の被膜は、スパッタリング、蒸着等の種々の成膜方法にて行なうことができる。第2電極22と原体34を同時に成膜してもよい。
【0074】
次に、基板10を再度アニール処理槽に入れ、アニール処理(熱処理)を行なう。アニール処理の温度条件は、電極形成工程でのアニール温度(800℃)より低温であることが好ましく、より好ましくは600℃程度とする。アニール処理のその他の条件は、第1実施形態と同様とする。これによって、CoSix好ましくはCoSiからなる導電層40を確実に形成でき、第1、第2ショットキー接合部41,42を形成できる。かつ、上記原体(Au)の微粒子がクラスター又はフラクタルを形成するよう拡散し、金属ナノ構造30を自然形成できる。
【0075】
第3実施形態では、アニール処理を2回に分けて行なうことで、1回目のアニール処理では、第1電極21と半導体層10(凸層11を含む)をオーミック接触するのに適した温度に設定でき、2回目のアニール処理では、導電層40と半導体層10をショットキー接触するのに適した温度、及びクラスター状又はフラクタル状の金属ナノ構造30を得るのに適した温度に設定できる。第1電極21の形成後に、導電層40を被膜することで、第1電極形成工程のアニール処理で導電層40と半導体層10の接合部が合金化するのを防止でき、ショットキー界面を確実に形成できる。
【0076】
本発明は、上記実施形態に限定されず、発明の要旨を変更しない限りにおいて種々の改変をなすことができる。
例えば、金属ナノ構造30が、導電層40の表面上だけに設けられていてもよい。金属ナノ構造30が、導電層40の一部分にだけ積層されていてもよい。
金属ナノ構造30上に半導体ナノ構造体を設けてもよい。素子1の半導体層10がn型である場合、半導体ナノ構造体はn型であることが好ましく、紫外領域に感度を持つ半導体ナノ構造体であることがより好ましい。かかる半導体ナノ構造体の成分として、ZnOが挙げられ、その他、n型のGaN等が挙げられる。素子1Aの半導体層10Aがp型である場合、半導体ナノ構造体はp型であることが好ましく、赤外領域に感度を持つ半導体ナノ構造体であることがより好ましい。かかる半導体ナノ構造体の成分として、p型のGaN、C等が挙げられる。1つの光電変換素子1,1Aにn型半導体ナノ構造体及びp型半導体ナノ構造体の両方が混在して設けられていてもよい。半導体ナノ構造体は、ナノワイヤー、ナノニードル、ナノチューブ、ナノロッド等の形態を有し、金属ナノ構造30の表面に突き立てられていることが好ましい。かかる半導体ナノ構造体は、CVD、PVD、ゾルゲル法等によって形成できる。
金属ナノ構造30を構成する金属成分は、Auに限られず、Ag、Pt、Cu、Pd等であってもよい。
導電層40を構成する金属成分は、Coに限られず、Au、Fe、Co、Pt、W、Ni、Ag、Al等であってもよい。
複数の実施形態を互いに組み合わせてもよい。例えば、第3実施形態において、n型の半導体層10に代えて、第2実施形態と同様のp型半導体層10Aを用いてもよい。この場合は、導電層43の金属も(Ti、In、Zn、Mg、Li、Cuなどに)変更する。
第3実施形態の製造工程において、第1実施形態と同様に、電極21,22と半導体層10との接合部にオーミック接合を促進するCo層43を介在させてもよい。
光電変換素子1,1Aの製造工程は、適宜、順序の入れ替え、ないしは変更を行なってもよい。
【実施例1】
【0077】
実施例を説明する。本発明が以下の実施例に限定されないことは言うまでもない。
実施例1では、金属ナノ構造の作製及び観察を行った。金属ナノ構造は、次のようにして作製した。
ほぼ正方形のn型Si基板の表面全体にCo膜をスパッタリングにて成膜した。Co膜の厚さは8nmとした。
次に、5分間有機洗浄した後、マスク印刷を行ってCo膜の表面の四隅と中央に厚さAu膜をスパッタリングで成膜した。Au膜の厚さは、約10nmであった、
次に、アニール処理を行った。アニール処理の雰囲気ガスは、He100%とした。アニール温度は600℃(図17に示す最適温度条件)であった。アニール処理時間は3分とした。アニール処理によって、n型Si基板の表層部分にCoが拡散してCoSixが形成された。
【0078】
上記Au膜の近傍の2つの場所をSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察した。図13(a)及び(b)が、その画像である。Au膜の微粒子がCoSix膜の表面に沿って拡散し、Au膜の周囲に金属ナノ構造が自然形成されたことが確認された。金属ナノ構造の形態は、場所に応じて異なっていた。同図(b)に示すように、金属ナノ構造には、場所によってフラクタル構造が形成されていた。
【0079】
さらに、構造の幾つかの地点にレーザー光(波長635nm)を照射し、ゼロバイアスでの光誘起電流が最大になった地点の表面構造をAFM(原子間力顕微鏡)にて立体的に観察した。
図14がその画像である。図15は、図14の画像を模写し、解説したものである。
金属ナノ構造の表面にはサブオーダーないしはナノオーダーの凹凸が形成されており、クラスター構造ないしはフラクタル構造が確認された。更に、上記凹凸形状の中に、多数の周期構造33と、多数の第2凸部32が確認された。各周期構造33は、複数の第1凸部31を含み、これら第1凸部31が周期構造33に応じた周期(配置間隔)で配列されていた。周期構造33の周期は、おおよそ100nm以下であった。各第1凸部31の突出高さは約10nm〜20nm程度であった。各第2凸部32は、ある周期構造33と重なって配置されているか、又は周期構造33の近傍に配置されていた。第2凸部32の突出高さは、第1凸部31より突出高さより大きく、約50nm〜200nm程度であった。第2凸部32の分散間隔は、おおよそ2μm〜3μm程度であった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、例えば光センサーや太陽電池に適用可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 光電変換素子
10 半導体層
11 凸層
21 第1電極
22 第2電極
25 Co層(オーミック接触促進層)
26 Au膜(第1電極原料)
30 金属ナノ構造
31 第1凸部
32 第2凸部
33 周期構造
34 原体
40 導電層
41 第1のショットキー接合部
42 第2のショットキー接合部
43 Co膜(導電層金属成分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凸層が突出するよう形成されたn型又はp型の半導体層と、
前記表面に積層され、かつ前記凸層の一側面と接触する導電層と、
前記表面における前記凸層を挟んで前記導電層とは反対側に設けられ、かつ前記凸層の前記反対側の側面に接触する第1電極と、
前記導電層に設けられた第2電極と、
前記凸層又は前記導電層に積層された複数の周期構造を含む金属ナノ構造と、
を備え、前記各周期構造が複数の第1凸部からなり、前記第1凸部の配置間隔が前記周期構造に応じて異なることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
図19に示す様に、前記周期構造の少なくとも1つが、可視光域から赤外光域のある波長範囲内の任意の波長の0.1倍〜1倍の大きさの配置間隔を有することを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記金属ナノ構造が、前記第1凸部より大きく突出する複数の第2凸部を更に含み、これら第2凸部が互いに分散し、かつ各第2凸部が何れかの周期構造と重なって又は近接して配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光電変換素子。(図19参照)
【請求項4】
半導体層の表面をエッチングすることにより、前記表面に凸層を形成する凸層形成工程と、
導電層を前記凸層の一側面と接触するようにして前記表面に積層する導電層形成工程と、
第1電極を前記凸層の前記一側面とは反対側の側面に接触するようにして前記表面に設け、第2電極を前記導電層に設ける電極形成工程と、
金属を前記凸層又は前記導電層上に積層し、熱処理することにより、複数の周期構造を含み、前記各周期構造が複数の第1凸部からなり、前記第1凸部の配置間隔が前記周期構造に応じて異なる金属ナノ構造を形成するナノ構造形成工程と、
を含むことを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1電極を前記表面に被膜した後、第1温度にて熱処理し、その後、前記導電層の金属成分を前記表面に被膜した後、前記第1温度より低い温度にて熱処理することを特徴とする請求項4に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記ナノ構造形成工程では、前記金属ナノ構造の原体を前記凸層上又は前記導電層上に配置した後、熱処理により前記原体を前記凸層の表面又は前記導電層の表面に沿って拡散させて前記金属ナノ構造を自然形成することを特徴とする請求項4又は5に記載の光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13(a)】
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【図13(b)】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−115417(P2013−115417A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−271707(P2011−271707)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(513023000)株式会社リン ソレーション (3)
【Fターム(参考)】