説明

内燃機関のスロットル制御装置

【課題】内燃機関の始動性が悪化するのを回避する。
【解決手段】ECU40は、スロットル開度センサ23により検出される開度を、目標とする開度に一致させるべくスロットルアクチュエータ20を操作するとともに、エンジン始動前にスロットルアクチュエータ20を操作してスロットルバルブ21を全閉位置に保持することにより全閉位置学習を実行する。このECU40においては、全閉位置学習の実行中にスタータモータ39によりエンジン10の始動が開始される場合には、スロットルバルブ21の全閉位置保持を解除して全閉位置学習を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のスロットル制御装置に関し、特に、内燃機関の始動前にスロットルアクチュエータを操作してスロットルバルブを基準位置に保持することにより基準位置学習を行う内燃機関のスロットル制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関において、スロットルバルブの全閉位置又は全開位置を基準位置として学習し、その学習した基準位置によりスロットルバルブの開度(スロットル開度)の実測値を補正するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、内燃機関の制御システムにおいて、スロットルアクチュエータを操作してスロットルバルブを全閉位置又は全開位置に保持し、その保持された位置におけるスロットル開度センサの出力値を基準値として取得する。そして、スロットル開度センサの検出値に対し、その基準値に応じた補正を行うことにより、スロットルアクチュエータの経時変化やスロットル開度センサの検出誤差を考慮したスロットルバルブ開閉制御を実現する。
【特許文献1】特開2003−328838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、例えば自動二輪車において、内燃機関の始動時には、まず、イグニッションキーの操作により電子制御ユニット(ECU)への電源投入が行われ、その後、スタータスイッチのオン操作によりスタータモータが回転駆動される。このスタータモータの回転駆動により、内燃機関が回転始動される。このとき、ECUへの電源投入直後には、スロットルバルブの基準位置学習が行われるが、その学習開始からスタータオンまでの期間が非常に短時間であると、スロットルバルブの全閉又は全開の状態が保持されたままクランキングが行われることとなる。その場合、吸入空気が不足するか、又は過剰となるために、内燃機関の始動性が悪化するおそれがある。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、内燃機関の始動性が悪化するのを回避することができる内燃機関のスロットル制御装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0006】
本発明の内燃機関のスロットル制御装置は、スロットルバルブを開閉させるスロットルアクチュエータと、前記スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサとを備えた内燃機関に適用され、前記スロットル開度センサにより検出される開度を、目標とする開度に一致させるべく前記スロットルアクチュエータを操作する内燃機関のスロットル制御装置であって、前記内燃機関の始動前に、前記スロットルアクチュエータを操作して前記スロットルバルブを基準位置に保持することにより基準位置学習を行う始動前学習手段と、前記始動前学習手段による前記基準位置学習の実行中に前記内燃機関の始動装置により前記内燃機関が始動される場合に、前記スロットルバルブの基準位置保持を解除して前記基準位置学習を終了する学習終了手段と、を備える。
【0007】
要するに、スロットルバルブを基準位置に保持している最中に内燃機関の始動が開始される場合、吸入空気量が適切でないことに起因して内燃機関の始動性が悪化するおそれがある。この点に鑑み、本発明では、基準位置学習の実行中に内燃機関の始動が開始される場合には、基準位置学習の途中であっても、スロットルバルブの基準位置保持を解除して基準位置学習を終了する。これにより、スロットルバルブにおいて吸入空気量の調整が可能となり、吸入空気量を適切なものとすることが可能になる。その結果、内燃機関の始動性が悪化するのを回避することができる。
【0008】
特に、制御装置への電源遮断後においても学習値を記憶しておくことが可能なバックアップ用デバイスを備えていない制御装置(例えば自動二輪車用の制御装置)では、次回の起動時まで学習値を記憶しておくことができない。かかる制御装置においては、内燃機関の始動前に基準位置学習を実行する必要性が高く、上記のように基準位置学習の実行中に内燃機関の始動が開始されやすいことから、本発明を好ましく適用することができる。
【0009】
ここで、基準位置学習とは、具体的には、スロットルバルブの全閉位置を学習する全閉位置学習又は全開位置を学習する全開位置学習のことをいう。好ましくは、全閉位置学習である。
【0010】
上記発明において、基準位置学習による学習値が取得されないまま車両の走行が継続されると、スロットル開度センサの出力値に対し、スロットルアクチュエータの経時変化やスロットル開度センサの検出誤差を考慮した補正が行われていないため、スロットル制御を精度よく実行できないおそれがある。この点に鑑み、請求項2に記載の発明では、前記内燃機関の始動前の基準位置学習が未完であって、前記内燃機関の始動後における所定の学習実行条件が成立している場合に、前記基準位置学習を実施する。こうすれば、内燃機関の始動後に基準位置学習が実行されることにより学習値が設定されるため、その学習値に基づいてスロットル制御を精度よく行うことができる。
【0011】
ここで、所定の学習実行条件として具体的には、内燃機関のアイドル運転時であること、車両走行中での燃料カット時であること、車速が所定値以上かつアクセル操作量が所定値以下であることなどのうち1以上とすることが望ましい。
【0012】
また、基準位置学習が終盤に差し掛かったときに内燃機関の始動が開始される場合には、基準位置学習をそのまま継続したとしても、吸入空気量の調整不能な時間は僅かである。このため、スロットルバルブの基準位置保持を継続して行うことに起因する不具合はさほど大きくないものと考えられる。この点に鑑み、請求項3に記載の発明では、前記基準位置学習の実行中に前記始動装置により前記内燃機関が始動される場合に、その時点での前記基準位置学習の学習進行程度に基づいて前記基準位置学習の学習終了を実行する。これにより、基準位置学習の実行によるスロットルバルブの全閉保持に起因して内燃機関の始動性が悪化するのを抑制しつつ、その一方で、内燃機関の始動性の悪化を最小限に抑えながら基準位置学習の実行完了に伴う学習値の設定も行うことができる。
【0013】
ここで、基準位置学習の学習進行程度は、基準位置学習開始からの経過時間又はスロットルバルブの基準位置保持からの経過時間に基づいて判断することが望ましい。例えば、予め定めた学習期間の半分以上が経過していれば、基準位置学習を継続して実行することにより学習値の設定を完了させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施の形態は、自動二輪車用の多気筒ガソリンエンジンを対象にエンジン制御システムを構築するものである。当該制御システムにおいては、電子制御ユニット(以下、ECUという)を中枢として燃料噴射量の制御や点火時期の制御等を実施するものとしている。
【0015】
図1は、本実施形態におけるエンジン制御システムの全体概略構成図である。図1において、エンジン10には、吸気管11(吸気通路)の最上流部にエアクリーナ12が設けられている。エアクリーナ12の下流側には、スロットルアクチュエータ20が設けられている。スロットルアクチュエータ20には、回転角度を変化させて吸入空気量を調節するバタフライ式のスロットルバルブ21や、スロットルバルブ21の開度(スロットル開度)を調節するDCモータ22、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ23等が内蔵されている。
【0016】
スロットルバルブ21の開閉は、DCモータ22の回転がギアユニット24を介してスロットルバルブ21の回転軸25に伝達されることによって行われる。スロットルバルブ21の回転軸25には、リターンスプリング26によって閉側への付勢力が加えられている。例えばDCモータ22の非通電時には、リターンスプリング26の付勢力によってスロットルバルブ21が閉側に回転移動されることで、回転軸25に設けられた突出部が全閉ストッパ27に突き当たる。スロットルバルブ21においては、このように回転軸25が全閉ストッパ27に突き当たった位置を全閉位置としている。
【0017】
スロットルバルブ21の下流側には、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ14が設けられるとともに、その下流側において、各気筒の吸気ポート近傍には、燃料を噴射供給する電磁駆動式の燃料噴射弁15が取り付けられている。
【0018】
エンジン10の吸気ポート及び排気ポートにはそれぞれ吸気バルブ31及び排気バルブ32が設けられている。そして、吸気バルブ31の開動作により空気と燃料との混合気が燃焼室33内に導入され、排気バルブ32の開動作により燃焼後の排ガスが排気管34(排気通路)に排出される。
【0019】
エンジン10のシリンダヘッドには点火プラグ35が取り付けられている。点火プラグ35には、点火コイル等よりなる点火装置36を通じて、所望とする点火時期において高電圧が印加される。この高電圧の印加により、各点火プラグ35の対向電極間に火花放電が発生し、燃焼室33内に導入した混合気が着火され燃焼に供される。
【0020】
また、エンジン10のシリンダブロックには、エンジン内を循環する冷却水の温度を検出する冷却水温センサ37や、エンジンの所定クランク角毎に(例えば30°CA周期で)矩形状のクランク角信号を出力するクランク角度センサ38が取り付けられている。その他、本システムには、バッテリ(図示略)からの電力供給により駆動してエンジン10の初期回転を行うスタータモータ39等が設けられている。
【0021】
ECU40は、周知の通りCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)41を主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、その都度のエンジン運転状態に応じてエンジン10の各種制御を実施する。具体的には、ECU40のマイコン41は、前述した各種センサのほか、アクセル操作量を検出するアクセルセンサ51等からの各種検出信号や、スタータモータ39に対する駆動要求を検出するスタータスイッチ52からのスタータ信号、イグニッションスイッチ53からのオン信号などの各種駆動信号を入力する。また、マイコン41は、随時入力される各種の検出信号等に基づいて燃料噴射量や点火時期等を演算して燃料噴射弁15や点火装置36、スロットルアクチュエータ20等の駆動を制御する。
【0022】
スロットルアクチュエータ20の駆動制御(通常開閉制御)として、具体的には、ECU40は、アクセルセンサ51により検出されるアクセル操作量に基づいて目標スロットル開度THtを決定する。そして、実際のスロットル開度THaが目標スロットル開度THtとなるよう、スロットル開度センサ23の出力値(実際のスロットル開度THa)に基づいてDCモータ22を駆動制御する。
【0023】
ここで、スロットルバルブ21では、スロットルアクチュエータ20における異物の付着又は磨耗等による経時変化や、スロットル開度センサ23における機差又は取り付けずれなどによる検出誤差が原因で、開閉制御の基準となる全閉位置が真値からずれてしまうことがある。そこで、ECU40は、その真値からのずれを解消するために、全閉位置学習を実行する。具体的には、ECU40は、電源投入に伴う起動時(すなわちイグニッションスイッチ53のオン時)にDCモータ22を駆動することにより、回転軸25の突出部を全閉ストッパ27に突き当て、スロットルバルブ21を全閉位置に所定時間(例えば1sec)保持する。そして、所定時間経過した後におけるスロットル開度センサ23の出力値を全閉学習値としてRAMに記憶する。本実施形態においては、ECU40が起動される毎に全閉位置学習が実行され、全閉学習値が都度設定されてRAMに記憶される。
【0024】
ところで、ECU40による全閉位置学習に際し、スロットルバルブ21の全閉位置保持(以下、スロットルバルブ21の全閉突き当てともいう)の実行中にエンジン10が始動されることがある。具体的には、ECU40の起動後直ちにスタータスイッチ52がオン操作されてスタータモータ39が駆動開始した場合である。このような場合、スロットルバルブ21が全閉の状態であるためにスロットルバルブ21を通過する空気量が不足し、エンジン10の始動性が悪化するおそれがある。
【0025】
特に、本実施形態では、書き換え可能な不揮発メモリなどといった、イグニッションオフ後においても学習値を記憶しておくためのデバイスを有していない。かかるシステムでは、イグニッションスイッチ53がオンされる都度に全閉学習値を設定する必要がある。また、できるだけ早期の段階で全閉学習値を記憶させるには、イグニッションオン直後に全閉位置学習を実行するのが望ましい。その一方で、このようなシステムにおいては、全閉位置学習の実行中にスタータモータ39がオン操作される頻度が高くなり、上記事象が生じやすい。
【0026】
また、上記エンジン制御システムは、不揮発メモリを有するものであってもよい。かかる場合であっても、エンジン停止から次回のエンジン始動までの期間が長期(例えば数日や数週間)となると、その間にスロットルアクチュエータ20に異物等が付着することにより、次回のエンジン始動の時点で、記憶済みの全閉学習値が真値からずれていることも考えられる。このため、全閉学習値をできるだけ真値に近付けるとともに、より早期の段階で全閉学習値を設定するには、イグニッションオン直後に全閉位置学習が実行されるのが好ましいが、このような場合においては、上記と同様に全閉突き当て中にスタータスイッチ52がオン操作されることがあり、上記事象が生じやすくなる。
【0027】
そこで、本実施形態では、全閉位置学習において、スロットルバルブ21の全閉突き当ての実行中にスタータスイッチ52がオンされた場合には、全閉位置学習が未完了であっても、全閉突き当てを終了して全閉位置学習を終了する。また、エンジン始動前における全閉位置学習が未完であって、エンジン始動後に所定の学習実行条件が成立した場合には、全閉位置学習を再度実施することにより、全閉学習値を設定する。この処理として、ECU40は、以下に示す処理を実行する。
【0028】
図2は、スロットルバルブ21における開閉制御に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。この処理は、イグニッションスイッチがオンされたことに伴いECU40へ電力供給された後に所定周期で(例えば4msec毎に)繰り返し実行される。
【0029】
まず、図2のステップS101では、全閉位置学習が未完了か否かを判定する。全閉位置学習が未完了であればステップS102へ移行する。ステップS102では、スタータモータ39がオフ状態か否かを判定する。スタータモータ39がオフ状態の場合には、ステップS102で肯定判定がなされ、ステップS103へ進み、エンジン10の始動前か否かを判定する。ここでは、エンジン回転速度が所定回転速度(例えば、始動完了を示すエンジン回転速度として700rpm)に到達したか否かを判断し、所定回転速度に到達していなければエンジン始動前と判断する。
【0030】
エンジン10の始動前であれば、ステップS103で肯定判定がなされ、ステップS104へ進み、全閉位置学習を実行する。全閉位置学習では、目標スロットル開度THtを全閉位置よりも十分に小さい位置に設定してその目標スロットル開度THtになるようスロットルバルブ21を駆動するか、又は目標スロットル開度THtに関係なくスロットルバルブ21を閉方向へ駆動し続けることで、スロットルバルブ21を全閉位置に確実に保持する。そして、保持状態でのスロットル開度センサ23の出力値を入力し、その値を全閉学習値としてRAMに記憶する。
【0031】
一方、ステップS102でスタータモータ39が駆動中と判定された場合には、ステップS106へ進み、スロットルバルブ21の開閉制御として通常開閉制御を実行する。このとき、スロットルバルブ21の全閉突き当て実行中の場合には、その突き当てが直ちに終了されて通常開閉制御に移行されることとなる。具体的には、目標スロットル開度THtを、全閉位置よりも十分に小さい位置から、アクセル操作量に基づいて算出される位置へと設定変更し、スロットル開度がその変更後の位置になるようDCモータ22を駆動制御する。
【0032】
また、ステップS103で、エンジン10の始動前でないものと判定された場合(例えば、車両走行中やアイドル制御中)には、ステップS105へ移行する。ステップS105では、全閉位置学習を実行するための学習実行条件が成立しているか否かを判定する。本実施形態では、アイドル制御時であることを学習実行条件とする。そして、ステップS105で学習実行条件が成立したものと判定されたことを条件として、ステップS104へ進み、全閉位置学習を実行する。
【0033】
なお、学習実行条件は、アイドル制御時であること以外に、例えば車両走行中における燃料カット時であることや、車両の安定走行時(例えば、アクセル操作量が所定量以下であって所定車速以上の場合)などとしてもよい。また、これらの条件を複数組み合わせてもよい。
【0034】
図3は、図2のスロットルバルブ開閉制御における全閉位置学習の推移を示すタイムチャートである。図3のうち(a)はスタータスイッチ52のオン前に全閉位置学習が完了した場合を示し、(b)は全閉位置学習の実行中にスタータスイッチ52がオンされた場合を示す。
【0035】
まず、図3(a)では、タイミングt10においてイグニッションスイッチ53がオンされてECU40が起動されると、その直後のタイミングt11において全閉位置学習が実行開始され、スロットルバルブ21の全閉突き当てが開始される。そして、タイミングt11から所定の突き当て時間TA(例えば1sec)が経過したタイミングt12で、スロットルバルブ21の全閉突き当てが終了される。そのタイミングt12でのスロットル開度センサ23の出力値が全閉学習値としてRAMに記憶され、全閉位置学習が完了される。その後、タイミングt13でスタータスイッチ52がオンされると、スロットル開度が目標スロットル開度THtになるよう、RAMに記憶された全閉学習値を用いてスロットルバルブ21の開閉制御が実行される。
【0036】
一方、図3(b)において、タイミングt20でイグニッションオンされ、タイミングt21でスロットルバルブ21の全閉突き当てが開始された後、その突き当て実行中のタイミングt22においてスタータスイッチ52がオンされると、学習途中であっても、スロットルバルブ21の全閉突き当てが終了される。これにより、スロットルバルブ21の開閉制御が可能となるため、エンジン10の始動性悪化を回避できる。
【0037】
以上説明した実施の形態によれば、次の優れた効果が得られる。
【0038】
全閉位置学習の実行中にスタータスイッチ52がオンされた場合には、全閉位置学習が未完了であってもスロットルバルブ21の全閉突き当てを終了する構成としたため、スロットルバルブ21において通常開閉制御の実行が可能となる。その結果、燃焼室33内へ吸入空気を十分に導入させることができ、ひいてはエンジン10の始動性が悪化するのを回避することができる。
【0039】
エンジン始動前における全閉位置学習においてその学習が未完了のまま終了された場合には、エンジン始動後に全閉位置学習を実施することにより全閉学習値が記憶されるため、全閉学習値を用いたスロットル制御が可能となる。これにより、スロットル制御を精度よく行うことができる。
【0040】
上記制御システムにおいては、イグニッションオフ後においても学習値を記憶しておくためのデバイスを有していないため、全閉位置学習の実行頻度が高い。このため、スロットルバルブ21の全閉突き当て実行中にスタータスイッチ52がオンされる頻度も高く、上記効果が顕著となる。
【0041】
全閉位置学習を行う際、スロットル全閉状態を所定時間(例えば1sec)保持した後に全閉学習値を取得する構成としたため、スロットル開度を安定させた状態で全閉学習値を求めることができ、全閉位置学習の精度を高めることができる。
【0042】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。本実施形態では、スタータモータ39がオンされた時点での、全閉位置学習の実行開始からの経過時間に基づいて、スロットルバルブ21の全閉突き当てを終了するか、又はそのまま継続するかを判断する。
【0043】
図4は、本実施形態におけるスロットルバルブ21の開閉制御に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。この処理は、イグニッションスイッチがオンされたことに伴いECU40へ電力供給された後に所定周期で(例えば4msec毎に)繰り返し実行される。
【0044】
まず、図4のステップS201で、全閉位置学習が未完了か否かを判定し、全閉位置学習が未完了であればステップS202へ移行する。ステップS202では、スタータモータ39がオフ状態か否かを判定し、スタータモータ39がオフ状態であれば、エンジン始動前であることを条件として全閉位置学習を実行する(ステップS203及びS204)。
【0045】
一方、スタータモータ39が駆動中の場合には、ステップS202で否定判定がなされ、ステップS205へ移行する。ステップS205では、全閉位置学習が実行中か否かを判定する。全閉位置学習が実行中であって、かつ全閉位置学習が開始されてから所定時間TB内(例えば700msec以内)であるか否かを判定する。ここで、所定時間TBは、学習値の取得に要するスロットルバルブ21の突き当て時間の長さに応じて設定されるものであり、例えば突き当て時間の50%以上の時間として設定され、望ましくは70%や80%の時間として設定される。
【0046】
そして、ステップS205で学習開始から所定時間TBが未だ経過していないものと判定された場合には、仮にスロットルバルブ21の全閉突き当てを継続するものとすると、吸入空気が不足する事態が長いために始動性に影響を及ぼすおそれがある。このため、全閉位置学習を途中で終了し、スロットルバルブ21の通常開閉制御を実行する(ステップS207)。
【0047】
これに対し、学習開始から所定時間TBが経過している場合には、スロットルバルブ21の全閉突き当てを継続したとしても、吸入空気が不足する事態は短時間であるため、エンジン10の始動性に大きな影響を及ぼすことはないものと考えられる。したがって、ステップS204へ進み、全閉位置学習を継続して実行することにより、エンジン始動前に学習を完了させる。これにより、全閉学習値が設定され記憶されることとなる。
【0048】
図5は、図4のスロットルバルブ開閉制御における全閉位置学習の推移を示すタイムチャートである。図5のうち(a)は全閉位置学習の開始直後にスタータスイッチ52がオンされた場合を示し、(b)は全閉位置学習の終了間際でスタータスイッチ52がオンされた場合を示す。
【0049】
まず、図5(a)では、タイミングt31において全閉位置学習が開始され、スロットルバルブ21の全閉突き当てが実行される。その後、タイミングt31から所定時間TBが経過する前のタイミングt32でスタータスイッチ52がオンされると、学習途中であっても、スロットルバルブ21の全閉突き当てが終了され、全閉位置学習が終了される。
【0050】
一方、図5(b)において、タイミングt41で全閉位置学習が開始された後、タイミングt41から所定時間TBよりも長い時間が経過した後のタイミングt42でスタータスイッチ52がオンされた場合には、スロットルバルブ21の全閉突き当てが終了されることなく、そのまま学習が継続される。これにより、エンジン始動前に全閉学習値が設定されて記憶される。このように、スタータスイッチ52のオン時点において、全閉位置学習が終盤に差し掛かっている場合には、全閉位置学習を完了させるのを優先する。
【0051】
以上説明した実施の形態によれば、次の優れた効果が得られる。
【0052】
全閉位置学習の実行中にスタータスイッチ52がオンされた場合、学習開始からの時間が所定時間TB以内であれば学習を直ちに終了し、所定時間TBを超えていれば学習を継続する構成としたため、学習実行によるスロットルバルブ21の全閉保持に起因してエンジン10の始動性が悪化するのを抑制しつつ、その一方で、エンジン10の始動性の悪化を最小限に抑えながら、学習の実行完了に伴う学習値の設定も行うことができる。
【0053】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。
【0054】
上記第1及び第2の実施形態では、全閉位置学習として、スロットルバルブ21を全閉位置に所定時間(例えば1sec)保持し、所定時間が経過した時点におけるスロットル開度センサ23の出力値を学習値としたが、これに限定しない。例えば、スロットルバルブ21の全閉操作後、スロットル開度センサ23の出力が変化しなくなってから所定時間(例えば500msec)が経過した時点でのスロットル開度センサ23の出力値を学習値としてもよい。あるいは、全閉操作後にスロットル開度センサ23の出力が変化しなくなった時点でのスロットル開度センサ23の出力値を学習値としてもよい。
【0055】
上記実施形態では、スロットルバルブ21の基準位置学習として全閉位置学習を実施したが、全開位置学習を実施してもよい。イグニッションスイッチ53のオン直後に全開位置学習を実施する場合、スロットルバルブ21を全開位置に保持している最中にスタータスイッチ52がオンされるケースがあり得る。この場合、スロットルバルブ21が全開の状態であることから、吸入空気が過剰量となることで超リーンとなり、これによりエンジン10の始動性が悪化するおそれがある。したがって、スロットルバルブ21を全開位置に保持している最中にスタータスイッチ52がオンされた場合には、その全開位置保持を終了する。これにより、スロットルバルブ21の開閉制御が可能となるため、エンジン10の始動性が悪化するのを回避することができる。
【0056】
上記実施形態では、ECU40の起動時に全閉位置学習が完了しなかった場合にはエンジン始動後に学習実行条件が成立したことを条件として全閉位置学習を再度実施するものとしたが、これを実施しないものとしてもよい。
【0057】
上記実施形態では、自動二輪車のエンジン制御システムについて説明したが、自動四輪車に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】エンジン制御システムの全体概略構成図。
【図2】第1の実施形態におけるスロットルバルブ開閉制御の処理の一例を示すフローチャート。
【図3】第1の実施形態における全閉位置学習の実行の推移を表すタイムチャート。
【図4】第2の実施形態におけるスロットルバルブ開閉制御の処理の一例を示すフローチャート。
【図5】第2の実施形態における全閉位置学習の実行の推移を表すタイムチャート。
【符号の説明】
【0059】
10…エンジン、20…スロットルアクチュエータ、21…スロットルバルブ、23…スロットル開度センサ、27…全閉ストッパ、39…スタータモータ、40…エンジン制御ユニット(ECU)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットルバルブを開閉させるスロットルアクチュエータと、前記スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサとを備えた内燃機関に適用され、
前記スロットル開度センサにより検出される開度を、目標とする開度に一致させるべく前記スロットルアクチュエータを操作する内燃機関のスロットル制御装置であって、
前記内燃機関の始動前に、前記スロットルアクチュエータを操作して前記スロットルバルブを基準位置に保持することにより基準位置学習を行う始動前学習手段と、
前記始動前学習手段による前記基準位置学習の実行中に前記内燃機関の始動装置により前記内燃機関が始動される場合に、前記スロットルバルブの基準位置保持を解除して前記基準位置学習を終了する学習終了手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関のスロットル制御装置。
【請求項2】
前記始動前学習手段による前記内燃機関の始動前の基準位置学習が未完であって、前記内燃機関の始動後における所定の学習実行条件が成立している場合に、前記基準位置学習を実施する始動後学習手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のスロットル制御装置。
【請求項3】
前記学習終了手段は、前記始動前学習手段による前記基準位置学習の実行中に前記始動装置により前記内燃機関が始動される場合に、その時点での前記基準位置学習の学習進行程度に基づいて前記基準位置学習の学習終了を実行することを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載の内燃機関のスロットル制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−174428(P2009−174428A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13878(P2008−13878)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】