説明

内燃機関の制御装置

【課題】圧縮自着火燃焼の安定化を図った内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】HCCI燃焼(圧縮自着火燃焼)の燃焼度合いを検出する燃焼度合い検出手段と、検出した燃焼度合いが上限値を超えた過剰燃焼となっている場合(S10:YES)には、その過剰燃焼となった直後のNVO期間(封鎖期間)において、NVO噴射量を増加させて筒内温度上昇を促進させる昇温促進手段S40と、を備える。これによれば、メイン燃焼が過剰燃焼した直後のNVO期間では筒内温度上昇が促進されるので、過剰燃焼した直後のNVO燃焼が未燃HC不足により燃焼悪化して温度低下するといった事態を回避できる。よって、メイン燃焼が過剰燃焼した直後のメイン燃焼が一時的に過剰抑制されて失火することを回避でき、メイン燃焼の安定化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火花着火燃焼と圧縮自着火燃焼とが切り替え可能に構成された内燃機関に適用され、圧縮自着火燃焼の燃焼度合いを制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜4等には、排気行程から吸気行程にかけて吸排気弁をともに閉じて排ガス(内部EGRガス)を燃焼室に封鎖させるNVO期間(封鎖期間)を設ける旨が記載されている。これによれば、内部EGRガスにより燃焼室内の温度(筒内温度)が高温になるので、圧縮行程後半から膨張行程にかけてのメイン燃焼(圧縮自着火燃焼)の失火回避を図ることができる。
【0003】
ちなみに、過剰に高温にするとメイン燃焼時のノッキングが大きくなるので、特許文献1記載の発明では、筒内圧力が大きく低下するよう変動したことを条件として、失火回避を目的とした内部EGR量の増加を許可している。
【0004】
また、特許文献3,4には、NVO期間に燃料を噴射(NVO噴射)する旨が記載されている。NVO噴射による燃料は高圧高温の環境下に晒されるので直ぐに燃焼(NVO燃焼)する。そのため、メイン燃焼に先立ち筒内温度を上昇させておくことを促進でき、メイン燃焼の失火回避を促進できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−223039号公報
【特許文献2】特開2010−203417号公報
【特許文献3】特開2010−281235号公報
【特許文献4】特開2010−236497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、メイン燃焼の燃焼状態が悪かった時の排ガス中には、未燃焼燃料(未燃HC)が多く含まれている。よって、悪かったメイン燃焼の次のNVO燃焼では、内部EGRガスに含まれている多くの未燃HCが燃焼して筒内温度上昇が促進されるため、次回のメイン燃焼が一時的に改善される。そのため、メイン燃焼が悪かった直後のNVO期間においては、失火回避のための内部EGR量増加を実行すると未燃HCが著しく増加して、NVO燃焼による温度上昇が過剰になる。その結果、一時的にメイン燃焼が過剰に改善され、大きな燃焼音の発生やエンジン構成部品の損傷が懸念されるようになる。特に、内燃機関を高負荷で運転している時には前記懸念が顕著となる。
【0007】
また、燃焼状態が良かった時の排ガス中には、未燃HCが殆ど含まれていない。よって、良かったメイン燃焼の次のNVO燃焼では、内部EGRガス中の未燃HCが少ないため、次回のメイン燃焼は一時的に燃焼が悪化する。そのため、メイン燃焼が良かった直後のNVO期間においては、ノッキング抑制のための内部EGR量減少を実行すると、未燃HCが不足して、NVO燃焼による温度上昇が不足気味になる。その結果、メイン燃焼が過剰に抑制されてしまい、失火が懸念されるようになる。
【0008】
要するに、メイン燃焼が悪かった(良かった)場合に内部EGR量を増加(減少)させる制御を実行すると、メイン燃焼が一時的に過剰促進(過剰抑制)され、燃焼が不安定となる。また、このように燃焼が不安定になると、エンジン回転速度の変動が大きくなりドライバビリティーが悪化する。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、圧縮自着火燃焼の安定化を図った内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0011】
請求項1記載の発明では、火花着火燃焼と圧縮自着火燃焼とが切り替え可能に構成されるとともに、排気行程から吸気行程にかけて吸排気弁をともに閉じて排ガスを燃焼室に封鎖させる封鎖期間(NVO期間)を設け、その封鎖期間に燃焼室へ燃料を噴射する封鎖時噴射(NVO噴射)を実行し、前記封鎖時噴射された燃料の燃焼により燃焼室温度を上昇させた後に前記圧縮自着火燃焼を実行する内燃機関に適用されることを前提とする。
【0012】
そして、前記圧縮自着火燃焼の燃焼度合いを検出する燃焼度合い検出手段と、検出した前記燃焼度合いが上限値を超えた過剰燃焼となっている場合には、その過剰燃焼となった直後の前記封鎖期間に燃焼室温度の上昇を促進させる昇温促進手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
なお、上記「昇温促進手段」の具体例として、以下の制御の少なくとも1つを実行することで燃焼室温度の上昇を促進させることが挙げられる。すなわち、封鎖時噴射での噴射量を増大させる制御、封鎖時噴射時期を進角させる制御、および封鎖期間を長くする等により封鎖させる未燃焼ガスを増大させる制御である。また、以下の説明では、圧縮自着火燃焼を「メイン燃焼」と呼び、封鎖時噴射にかかる燃焼を「NVO燃焼」と呼ぶ。
【0014】
上記発明によれば、メイン燃焼が過剰燃焼した直後の封鎖期間では燃焼室温度の上昇を促進させるので、過剰燃焼した直後のNVO燃焼が未燃HC不足により燃焼悪化して温度低下する、といった事態を回避できる。よって、メイン燃焼が過剰燃焼した直後のメイン燃焼が一時的に過剰抑制されて失火することを回避でき、メイン燃焼の安定化を図ることができる。
【0015】
請求項2記載の発明では、前記昇温促進手段は、前記封鎖時噴射の噴射量を増大させることで昇温を促進させる手段であり、当該昇温促進手段により噴射量を増大させた場合には、その直後における前記圧縮自着火燃焼に用いる燃料の噴射量を減少させることを特徴とする。
【0016】
封鎖時噴射の噴射量を増大させることで昇温を促進させる場合には、その昇温促進により直後のメイン燃焼の自着火時期が進角されて失火が回避されることとなるが、このようなメイン燃焼の進角とともに、メイン燃焼による仕事量も増大することが懸念される。この点を鑑みた上記発明では、昇温促進手段によりNVO噴射量を増大させた場合には、その直後におけるメイン燃焼の噴射量を減少させるので、失火を回避させつつメイン燃焼の仕事量増大を回避でき、メイン燃焼の安定化を図ることができる。
【0017】
請求項3記載の発明では、前記昇温促進手段による噴射量の増大分だけ、その直後における前記圧縮自着火燃焼に用いる燃料の噴射量を減少させることを特徴とする。
【0018】
これによれば、失火を回避させつつ、昇温促進手段による噴射量増大を実施しない場合と同程度となるようにメイン燃焼の仕事量を制御することができ、メイン燃焼の安定化を促進できる。
【0019】
請求項4記載の発明では、前記過剰燃焼となっている場合であっても、その過剰燃焼の直前における前記封鎖時噴射による燃焼度合いが所定未満であれば、前記昇温促進手段による昇温促進を禁止させることを特徴とする。
【0020】
ここで、NVO燃焼の燃焼度合いが低ければ、そのNVO燃焼による昇温は不十分であると言えるが、長期に亘って慢性的に燃焼室温度が高くなっている場合には、NVO燃焼度合いが一時的に低くなっていたとしても、その直後のメイン燃焼が過剰燃焼することが懸念される。この点を鑑みた上記発明では、メイン燃焼が過剰燃焼となっている場合であっても、その過剰燃焼の直前におけるNVO燃焼の燃焼度合いが所定未満であれば、昇温促進手段による昇温促進を禁止させるので、前記懸念を解消できる。
【0021】
請求項5記載の発明では、膨張行程から排気行程にかけて燃焼室へ酸素を供給可能な酸素供給手段と、前記封鎖時噴射にかかる燃料の量に対する酸素量が不足しているか否かを判定する酸素不足判定手段と、を備え、前記酸素不足判定手段により酸素量が不足していると判定された場合には、前記酸素供給手段による酸素供給を実施することを特徴とする。
【0022】
なお、上記「酸素供給手段」の具体例として、封鎖期間に封鎖する排ガス(内部EGR)の量を増大することで、排ガスに含まれる酸素を供給する手段が挙げられる。また、過給装置等により送風される空気を吸気ポートへ導く酸素供給配管を吸気管とは別に設けて酸素を供給する手段が挙げられる。
【0023】
ここで、昇温促進手段によりNVO燃焼を促進させようとしても、NVO期間に封鎖される排ガス中の酸素量がNVO噴射される燃料の量に比べて不足していれば、NVO燃焼を十分に促進できなくなる。この点を鑑みた上記発明では、酸素量が不足していると判定された場合には、酸素供給手段による酸素供給を実施するので、酸素量不足によりNVO燃焼を促進できないといった事態を回避できる。
【0024】
請求項6記載の発明では、前記封鎖期間における燃焼室内のHC濃度を検出するHC濃度検出手段を備え、検出したHC濃度の値に応じて、前記昇温促進手段による昇温の促進度合いを調整することを特徴とする。
【0025】
これによれば、封鎖期間における燃焼室内のHC濃度(未燃HCの濃度)を実際に検出し、その検出結果に応じて昇温促進手段による昇温の促進度合いを調整するので、昇温の促進度合いを過不足なく調整できるようになる。
【0026】
請求項7および請求項8記載の発明では、火花着火燃焼と圧縮自着火燃焼とが切り替え可能に構成されるとともに、排気行程から吸気行程にかけて吸排気弁をともに閉じて排ガスを燃焼室に封鎖させる封鎖期間(NVO期間)を設け、その封鎖期間に燃焼室へ燃料を噴射する封鎖時噴射(NVO噴射)を実行し、前記封鎖時噴射された燃料の燃焼により燃焼室温度を上昇させた後に前記圧縮自着火燃焼を実行する内燃機関に適用されることを前提とする。
【0027】
そして、前記圧縮自着火燃焼の燃焼度合いを検出する燃焼度合い検出手段と、検出した前記燃焼度合いが下限値を超えた燃焼不足となっている場合には、その燃焼不足となった直後の前記封鎖期間における燃焼室温度の上昇を抑制させる昇温抑制手段と、を備えることを特徴とする。
【0028】
上記発明によれば、メイン燃焼が燃焼不足となった直後の封鎖期間では燃焼室温度の上昇を抑制させるので、燃焼不足となった直後のNVO燃焼が多量の未燃HCにより燃焼促進されて温度上昇する、といった事態を回避できる。よって、メイン燃焼が燃焼不足となった直後のメイン燃焼が一時的に過剰促進されることに起因して大きな燃焼音が発生したりエンジン構成部品が損傷したりすることを回避でき、メイン燃焼の安定化を図ることができる。
【0029】
なお、上記「昇温抑制手段」の具体例として、以下の制御の少なくとも1つを実行することで燃焼室温度の上昇を抑制させることが挙げられる。すなわち、封鎖時噴射での噴射量を減少させる制御、封鎖時噴射時期を遅角させる制御、および封鎖期間を短くする等により封鎖させる未燃焼ガスを減少させる制御である。
【0030】
請求項9記載の発明では、前記昇温抑制手段は、前記封鎖時噴射の噴射量を減少させることで昇温を抑制させる手段であり、当該昇温抑制手段により噴射量を減少させた場合には、その直後における前記圧縮自着火燃焼に用いる燃料の噴射量を増加させることを特徴とする。
【0031】
封鎖時噴射の噴射量を減少させることで昇温を抑制させる場合には、その昇温抑制により直後のメイン燃焼の自着火時期が遅角されてノッキングが回避されることとなるが、このようなメイン燃焼の遅角とともに、メイン燃焼による仕事量も減少することが懸念される。この点を鑑みた上記発明では、昇温抑制手段によりNVO噴射量を減少させた場合には、その直後におけるメイン燃焼の噴射量を増加させるので、ノッキングを回避させつつメイン燃焼の仕事量減少を回避でき、メイン燃焼の安定化を図ることができる。
【0032】
請求項10記載の発明では、前記昇温抑制手段による噴射量の減少分だけ、その直後における前記圧縮自着火燃焼に用いる燃料の噴射量を増大させることを特徴とする。
【0033】
これによれば、ノッキングを回避させつつ、昇温抑制手段による噴射量減少を実施しない場合と同程度となるようにメイン燃焼の仕事量を制御することができ、メイン燃焼の安定化を促進できる。
【0034】
請求項11記載の発明では、前記燃焼不足となっている場合であっても、その燃焼不足の直前における前記封鎖時噴射による燃焼度合いが所定以上であれば、前記昇温抑制手段による昇温抑制を禁止させることを特徴とする。
【0035】
ここで、NVO燃焼の燃焼度合いが高ければ、そのNVO燃焼による昇温は過剰であると言えるが、長期に亘って慢性的に燃焼室温度が低くなっている場合には、NVO燃焼度合いが一時的に高くなっていたとしても、その直後のメイン燃焼が燃焼不足になることが懸念される。この点を鑑みた上記発明では、メイン燃焼が燃焼不足となっている場合であっても、その燃焼不足の直前におけるNVO燃焼の燃焼度合いが所定以上であれば、昇温抑制手段による昇温抑制を禁止させるので、前記懸念を解消できる。
【0036】
請求項12記載の発明では、前記封鎖期間における燃焼室内のHC濃度を検出するHC濃度検出手段を備え、検出したHC濃度の値に応じて、前記昇温抑制手段による昇温の抑制度合いを調整することを特徴とする。
【0037】
これによれば、封鎖期間における燃焼室内のHC濃度(未燃HCの濃度)を実際に検出し、その検出結果に応じて昇温抑制手段による昇温の抑制度合いを調整するので、昇温の抑制度合いを過不足なく調整できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる制御装置と、当該制御装置が適用されるエンジンシステムを示す模式図。
【図2】第1実施形態におけるHCCIモード時のタイムチャート。
【図3】1燃焼サイクル毎の燃焼度合いの変化を示すグラフ。
【図4】第1実施形態により効果が発揮されることの裏付けとなる試験結果のグラフ。
【図5】第1実施形態において、NVO噴射量の増加制御および減少制御を実行する処理手順を示すフローチャート。
【図6】本発明の第2実施形態において、NVO噴射量の増加制御および減少制御を実行する処理手順を示すフローチャート。
【図7】本発明の第3実施形態において、NVO噴射量の増加制御および減少制御を実行する処理手順を示すフローチャート。
【図8】本発明の第4実施形態において、NVO燃焼量に応じたエンジン制御の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0040】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態にかかる制御装置(ECU10)が適用される内燃機関(エンジン20)のシステムを示す模式図である。当該エンジン20は、排気行程、吸気行程、圧縮行程、膨張行程を順に繰り返す4サイクルエンジンであり、複数気筒を有する多気筒エンジンである。また、エンジン20のシリンダヘッドには燃料噴射弁21が取り付けられており、燃料ポンプ22から供給される燃料(ガソリン)を燃焼室20aへ直接噴射する直噴式のエンジンである。なお、1つの気筒に取り付けられる燃料噴射弁21の数は1つに限られるものではなく、複数であってもよい。
【0041】
また、当該エンジン20は、吸気バルブ23により流量調整された吸気と噴射燃料との混合気を、点火プラグ23sにより点火して着火させる点火式のエンジンである。但し、吸排気弁可変機構(VVT26)により吸気弁24と排気弁25の開閉弁タイミングを調節することで、燃焼室20a内に噴射燃料と吸気を予め混合しておき、その混合気を圧縮自着火させる予混合圧縮自着火燃焼(HCCI燃焼)が可能である。つまり、火花着火燃焼による点火モードとHCCI燃焼によるHCCIモードとが切り替え可能に構成されている。
【0042】
吸気管27と排気管28にはEGR配管29が接続されており、EGR配管29を通じて排気(外部EGRガス)を吸気管27へ循環させることが可能である。なお、EGR配管29に取り付けられているEGRバルブ30の開度をECU10が制御することで、外部EGRガスの量が調節される。また、外部EGRガスは、図示しない冷却装置(EGRクーラー)により冷却される。
【0043】
また、排気行程から吸気行程にかけてのNVO期間(封鎖期間)に吸気弁24および排気弁25をともに閉じるようVVT26を制御することで、排ガス(内部EGRガス)を燃焼室20aに封鎖させることが可能である。なお、VVT26によりNVO期間を調整することで、内部EGRガスの量が調節される。
【0044】
酸素を燃焼室20aへ供給する酸素供給配管31(酸素供給手段)が、吸気管27とは別に設けられている。酸素供給配管31の吐出口は、排気管28のうち排気ポートの近傍部分に位置しており、排気弁25の開弁期間中に前記吐出口から酸素を吐出させることで、燃焼室20aへ酸素を供給する。なお、過給器により加圧された空気の一部が酸素供給配管31へ分配されるように構成されており、酸素供給バルブ32(酸素供給手段)をECU10が開閉制御することで、酸素供給のオンオフが切り替えられる。
【0045】
ECU10には、以下に説明する各種センサの検出信号が入力される。すなわち、エンジン20のクランク軸33の回転角を検出するクランク角センサ34、吸気管27の内部圧力(吸気圧)を検出する吸気圧センサ35、アクセルペダル36の踏込量を検出するアクセルセンサ37、排気中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ38、排気中のHC濃度を検出するHC濃度センサ39(HC濃度検出手段)、燃焼室20a内の圧力(筒内圧)を検出する筒内圧センサ40、燃料噴射弁21へ供給される燃料の圧力を検出する燃圧センサ41である。
【0046】
ECU10は、これらの検出信号に基づき、吸気バルブ23の開度を制御して吸気量を制御するとともに、燃料噴射弁21の作動を制御して燃料噴射時期及び燃料噴射時間(噴射量に相当)を制御する。また、点火プラグ23sによる点火着火時期の制御や、VVT26の作動を制御することによるNVO期間の制御(内部EGR量の制御)、EGRバルブ30を制御することによる外部EGR量の制御、酸素供給バルブ32を制御することによる酸素供給量の制御、等を実施する。
【0047】
先述したHCCI燃焼は、エンジン回転速度NEおよびエンジン負荷が所定の領域である場合に実行する。HCCI燃焼によれば、火花着火燃焼の場合に比べてNOxやCO2の排出量を低減できる。但し、前記所定の領域以外の領域では、ノッキングや失火の発生が著しくなる等、燃焼が不安定になる。そのため、所定の領域以外では火花着火燃焼を実行する。
【0048】
図2は、HCCIモード時のタイムチャートであり、図中の(a)は燃焼サイクルに対する筒内圧の変化を示し、(b)は以下に説明するNVO噴射(封鎖時噴射)およびメイン噴射による噴射期間を示す。
【0049】
図示されるように、HCCIモード時には、排気行程から吸気行程にかけてのNVO期間を設定して内部EGRを導入するとともに、NVO期間中に、燃料噴射弁21から燃料を噴射(NVO噴射)する。そして、NVO噴射の後、吸気行程から圧縮行程にかけての所定期間に、NVO噴射よりも多い量の燃料を燃料噴射弁21から噴射(メイン噴射)する。NVO噴射による燃料は高圧高温の環境下に晒されるので直ぐに燃焼(NVO燃焼)する。そのため、メイン噴射による燃料が燃焼(メイン燃焼)することに先立ち、筒内温度を上昇させておくことを促進でき、メイン燃焼の失火を回避できる。
【0050】
図3は、1燃焼サイクル毎の燃焼度合いの変化を示すグラフであり、燃焼度合いは、メイン燃焼時における筒内圧のピーク値に基づき算出している。筒内温度が高いほどメイン燃焼が促進されて筒内圧ピーク値(燃焼度合い)が高くなる。そして、図3(a)中の一点鎖線に示すように、メイン燃焼が過剰に促進されて燃焼度合いが徐々に上昇していく傾向にある場合には、メイン燃焼を抑制させるようにエンジン制御内容を変更する必要がある。例えば、EGRクーラーにより冷却されている外部EGR量を増やしたり、内部EGR量を減らしたりして筒内温度を低下させたり、NVO噴射量を低下させたりすればよい。
【0051】
但し、図中の一点鎖線に示すように、燃焼度合いが徐々に上昇していく場合であっても、1燃焼サイクル毎に燃焼度合いは上下して変動する(図中の実線参照)。つまり、燃焼度合いが高かった場合には次回燃焼時には燃焼度合いは低くなり、低かった場合の次回燃焼時には燃焼度合いは高くなる。
【0052】
この現象は、燃焼度合いが低かった時には排ガス中の未燃HCが多いため、次回のNVO燃焼時にその未燃HCが燃焼することで筒内温度が高くなり、その結果、次回のメイン燃焼の燃焼度合いが高くなることに起因する。一方、燃焼度合いが高かった時には排ガス中の未燃HCが少ないため、次回のNVO燃焼時に燃焼する未燃HCの量が少なくなることで筒内温度の上昇が抑制され、その結果、次回のメイン燃焼の燃焼度合いが低くなる。
【0053】
したがって、長期間的には燃焼度合いが徐々に上昇していく傾向にあっても、一時的には燃焼度合いが著しく低下する場合がある。例えば、N回目のメイン燃焼の度合いが所定範囲を超えて高くなっている場合には、N+1回目のNVO燃焼時における未燃HCが大きく減少することに起因して、N+1回目のメイン燃焼の度合いが著しく低下することとなる。
【0054】
図3(b)は、メイン燃焼の燃焼度合いが徐々に低下していく傾向にある場合を示しており、この場合にはメイン燃焼を促進させるようにエンジン制御内容を変更する必要がある。例えば、EGRクーラーにより冷却されている外部EGR量を減らしたり、内部EGR量を増やしたりして筒内温度を上昇させたり、NVO噴射量を増加させたりすればよい。
【0055】
但し、図中の一点鎖線に示すように、燃焼度合いが徐々に低下していく場合であっても、1燃焼サイクル毎に燃焼度合いは上下して変動する(図中の実線参照)。例えば、M回目のメイン燃焼の度合いが所定範囲を超えて低くなっている場合には、M+1回目のNVO燃焼時における未燃HCが大きく増加することに起因して、M+1回目のメイン燃焼の度合いが著しく上昇することとなる。
【0056】
これらの点を鑑み、本実施形態では、燃焼度合いが上限値を超えた過剰燃焼となっている場合(図3(a)中のN回目の場合)には、長期的には燃焼度合いが徐々に上昇する傾向にある場合であっても、その過剰燃焼となった直後のNVO期間においては、NVO噴射による筒内温度の上昇を促進させるように制御内容を変更させる。具体的には、N+1回目のNVO噴射量を増加させる。この時のECU10は「昇温促進手段」に相当する。
【0057】
また、燃焼度合いが下限値を超えた燃焼不足となっている場合(図3(b)中のN回目の場合)には、長期的には燃焼度合いが徐々に下降する傾向にある場合であっても、その燃焼不足となった直後のNVO期間においては、NVO噴射による筒内温度の上昇を抑制させるように制御内容を変更させる。具体的には、M+1回目のNVO噴射量を減少させる。この時のECU10は「昇温抑制手段」に相当する。
【0058】
図4(a)は、先述した昇温促進手段によるNVO噴射量の増加を実施しない場合において、N回目の燃焼サイクルにおけるメイン燃焼の着火時期と、N+1回目の燃焼サイクルにおけるNVO燃焼量との関係を示す試験結果である。メイン燃焼の着火時期が進角しているほど、燃焼度合いが高いことを意味する。また、NVO燃焼量はNVO期間における筒内圧ピーク値や平均有効圧に基づき検出すればよい。この試験結果は、NVO噴射量および噴射開始時期が同じであっても、前回のメイン燃焼の度合いが高ければ次回のNVO燃焼量は小さく、前回のメイン燃焼の度合いが低ければ次回のNVO燃焼量は大きくなることを表している。
【0059】
図4(b)は、先述した昇温促進手段によるNVO噴射量の増加を実施しない場合において、NVO燃焼量が大きいほど、その直後のメイン燃焼の着火時期が進角することを表す試験結果である。これらの試験結果から、メイン燃焼の燃焼度合いが高いほど、その直後のNVO燃焼量が小さくなり、その結果、その直後のメイン燃焼の燃焼度合いが低くなることを表している。
【0060】
図4(c)は、N回目の筒内圧ピーク値とN+1回目の筒内圧ピーク値との関係を示すグラフであり、先述した昇温促進手段によるNVO噴射量の増加を実施した場合と、実施しない場合とを比較した試験結果である。なお、図中の一点鎖線は、燃焼サイクル200回分の平均値を示す。N回目の筒内圧ピーク値が平均値を超えて高くなっている場合において、上述のNVO噴射量の増加を実施しなければ、N+1回目の筒内圧ピーク値が平均値を大きく下回った値になり、NVO噴射量の増加を実施すれば、N+1回目の筒内圧ピーク値が平均値に近づくことを、図4(c)の試験結果は表している。
【0061】
なお、図4(d)は、メイン噴射による仕事量と、そのメイン噴射による燃焼時の排ガスにおける未燃HC濃度との関係を示す試験結果である。図4(d)の試験結果は、メイン噴射による仕事量(メイン燃焼の度合い)が大きいほど、未燃HC量が少なくなることを表しており、図4(a)の試験結果を裏付けていると言える。
【0062】
図5は、上述した昇温促進手段によりNVO噴射量を増加させる制御、および昇温抑制手段によりNVO噴射量を減少させる制御を実行する処理手順を示すフローチャートであり、ECU10が有するマイクロコンピュータにより所定周期で繰り返し実行される。また、当該図5の処理は、HCCIモードの運転時に実行される。
【0063】
先ず、図5に示すステップS10において、メイン燃焼が過剰に進角したか否かを判定する。具体的には、前回のメイン燃焼着火時期、または所定期間のメイン燃焼着火時期の平均値に対して、今回のメイン燃焼着火時期が所定量以上進角したか否かを判定する。例えば、筒内圧センサ40や図示しないイオン検出センサの検出値に基づきメイン燃焼着火時期を算出すればよい。この算出を実行している時のECU10は「燃焼度合い検出手段」に相当する。
【0064】
進角判定された場合には(S10:YES)、先述した「過剰燃焼」と見なして次のステップS20(酸素不足判定手段)に進み、酸素濃度センサ38の検出値に基づき、排ガス中の酸素濃度が所定値B未満であるか否かを判定する。なお、酸素濃度センサ38には酸素濃度の絶対値が検出可能なセンサ、例えば、固体電解質ジルコニア素子による酸素イオン検出の原理を利用したセンサを用いることが望ましい。
【0065】
所定値未満である場合(S20:YES)には、次のステップS30に進み、NVO燃焼に寄与する酸素量を増大させるべく、酸素供給バルブ32を開弁作動させて酸素供給配管31から酸素を供給する。一方、所定値以上である場合(S20:NO)には、ステップS30による酸素供給を実施しない。
【0066】
続くステップS40(昇温促進手段)では、次回の燃焼サイクルにおけるNVO噴射量を、前回のNVO噴射量に比べて所定量だけ増大させる。また、その増大させたNVO噴射の直後におけるメイン噴射量は、NVO噴射量を増大させた分だけ減少させる。要するに、NVO噴射量とメイン噴射量とのトータル量が変化しないように制御する。
【0067】
ステップS10の説明に戻り、進角判定されなかった場合には(S10:NO)、続くステップS50において、メイン燃焼が過剰に遅角したか否かを判定する。具体的には、前回のメイン燃焼着火時期、または所定期間のメイン燃焼着火時期の平均値に対して、今回のメイン燃焼着火時期が所定量以上遅角したか否かを判定する。
【0068】
遅角判定された場合には(S50:YES)、先述した「燃焼不足」と見なして次のステップS60(昇温抑制手段)に進み、次回の燃焼サイクルにおけるNVO噴射量を、前回のNVO噴射量に比べて所定量だけ減少させる。また、その減少させたNVO噴射の直後におけるメイン噴射量は、NVO噴射量を減少させた分だけ増大させる。要するに、NVO噴射量とメイン噴射量とのトータル量が変化しないように制御する。なお、進角判定および遅角判定のいずれも為されなかった場合(S50:NO)には、NVO噴射量を前回と同じにする。
【0069】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0070】
(1)図3(a)中のN回目の如くメイン燃焼が過剰燃焼となった場合、直後におけるNVO噴射量を増大させるので、N+1回目のメイン燃焼に先立ち筒内温度の上昇が促進される。よって、N+1回目のメイン燃焼が失火することを回避できる。また、図3(b)中のM回目の如くメイン燃焼が燃焼不足となった場合、直後におけるNVO噴射量を減少させるので、M+1回目のメイン燃焼に先立ち筒内温度の上昇が抑制される。よって、M+1回目のメイン燃焼が過剰に促進されて大きなノッキングが生じや大きな燃焼音が生じることを回避できる。
【0071】
したがって、図3に示す燃焼度合いの都度の変動を抑制して、メイン燃焼の安定化を図ることができる。そして、このような燃焼の安定化により、エンジン回転速度NEおよびエンジン負荷のうちHCCI燃焼の実行可能領域を拡大でき、また、ドライバビリティーの向上を図ることができる。
【0072】
(2)ここで、N回目のメイン燃焼が過剰燃焼であることに伴いNVO噴射量を増大させると、N+1回目のメイン燃焼の着火時期が進角して失火を回避できる。しかし、NVO噴射量を増大させた分、N+1回目のメイン燃焼による仕事量(筒内圧ピーク値)が高くなりトルク変動することが懸念される。これに対し本実施形態では、NVO噴射量を増大させた分、その直後におけるN+1回目のメイン噴射量を減少させるので、上記懸念を解消できる。
【0073】
また、M回目のメイン燃焼が燃焼不足であることに伴いNVO噴射量を減少させると、M+1回目のメイン燃焼の着火時期が遅角してノッキングを回避できる。しかし、NVO噴射量を減少させた分、M+1回目のメイン燃焼による仕事量(筒内圧ピーク値)が低くなりトルク変動することが懸念される。これに対し本実施形態では、NVO噴射量を減少させた分、その直後におけるM+1回目のメイン噴射量を増大させるので、上記懸念を解消できる。
【0074】
したがって、図3に示す燃焼度合いの都度の変動を抑制する効果を向上でき、メイン燃焼の安定化を促進できる。よって、HCCI燃焼の実行可能領域をより一層拡大でき、また、ドライバビリティーの向上を促進できる。なお、本実施形態では、NVO噴射量とメイン噴射量とのトータル量が変化しないように、NVO噴射量の増大分とその直後におけるN+1回目のメイン噴射量の減少分とを一致させているが、上記トルク変動を所定の許容範囲内に抑えることができていれば、前記増大分と前記減少分を一致させる必要はなく、前記トータル量が変化することを許容させてもよい。
【0075】
(3)排ガス中の酸素濃度が所定値B未満であり内部EGRにより燃焼室20aへ供給される酸素量が不足していると判定された場合には、酸素供給バルブ32を開弁作動させて酸素供給配管31から酸素を供給する。よって、N回目のメイン燃焼が過剰燃焼であることに伴いNVO噴射量を増大させたにも拘わらず、NVO噴射燃料の燃焼に必要な酸素が不足してNVO燃焼が不十分になる、といった事態を回避できる。
【0076】
(第2実施形態)
図6は、NVO噴射量の増加制御および減少制御を実行する処理手順を示すフローチャートであり、以下、図5の処理との違いを中心に説明する。なお、図6中、図5と同一符号部分についてはその説明を援用する。また、本実施形態におけるエンジン制御システムのハード構成は、図1に示す上記第1実施形態と同じである。
【0077】
先ず、図6のステップS50においてメイン燃焼が過剰に遅角したと判定された場合(S50:YES)には、ステップS50aに進み、HC濃度センサ39の検出値に基づき、排気中のHC濃度が通常値よりも所定以上増加しているか否かを判定する。HC濃度が増加していると判定(S50a:YES)されれば、図5の場合と同様にして、ステップS60にてNVO噴射量の減少制御およびメイン噴射量の増大制御を実施する。
【0078】
一方、HC濃度が増加していないと判定(S50a:NO)されれば、次のステップS51aに進み、次回の燃焼サイクルにおけるNVO噴射量を、前回のNVO噴射量に比べて所定量だけ増大させる。また、その増大させたNVO噴射の直後におけるメイン噴射量は、NVO噴射量を増大させた分だけ減少させて、NVO噴射量とメイン噴射量とのトータル量が変化しないように制御する。要するに、ステップS51aではステップS40と同様の制御を実施する。
【0079】
ここで、ステップS50にてメイン燃焼が過剰に遅角したと判定された場合であっても、メイン噴射燃料の燃焼状態が良好であり未燃HC発生量が少ない場合がある。この場合、ステップS60によるNVO噴射量の減少制御を実施すると、NVO燃焼の度合いが極端に低くなるので、筒内温度の上昇が不十分になり次回のメイン燃焼が失火することが懸念される。
【0080】
これに対し本実施形態では、実際の排気中HC濃度をHC濃度センサ39で検出し、未燃HC発生量が少ないとの検出結果である場合には、メイン燃焼が過剰に遅角した場合であってもNVO噴射量の減少制御(S60)を実施せず、NVO噴射量の増大制御(S51a)を実施するので、前記失火の懸念を解消できる。要するに本実施形態では、NVO期間における燃焼室20a内のHC濃度(未燃HC濃度)を実際に検出し、その検出結果に応じてNVO燃焼による筒内温度上昇の度合いを調整するので、NVO燃焼による昇温度合いを適正に調整できる。
【0081】
(第3実施形態)
図7は、NVO噴射量の増加制御および減少制御を実行する処理手順を示すフローチャートであり、以下、図5の処理との違いを中心に説明する。なお、図7中、図5と同一符号部分についてはその説明を援用する。また、本実施形態におけるエンジン制御システムのハード構成は、図1に示す上記第1実施形態と同じである。
【0082】
先ず、図7のステップS10においてメイン燃焼が過剰に進角したと判定された場合(S10:YES)には、ステップS10bに進み、前回のNVO燃焼が通常値よりも所定以上大きいか否かを判定する。NVO燃焼の燃焼度合いが小さいと判定された場合(S10b:NO)には、次のステップS11bにて、前記判定(NVO燃焼小判定)が連続して為された回数をカウントする。
【0083】
ステップS11bによるカウント数が所定回数以上と判定された場合(S12b:YES)には、続くステップS13bにおいて、次回の燃焼サイクルにおける内部EGR量を、前回の内部EGR量に比べて所定量だけ減少させる。具体的には、排気弁25の閉弁開始時期を遅角させてNVO期間の開始時期を遅くすることで、内部EGR量を減少させる。
【0084】
また、図7のステップS50においてメイン燃焼が過剰に遅角したと判定された場合(S50:YES)には、ステップS50bに進み、前回のNVO燃焼が通常値よりも所定以上小さいか否かを判定する。NVO燃焼の燃焼度合いが大きいと判定された場合(S50b:NO)には、次のステップS51bにて、前記判定(NVO燃焼大判定)が連続して為された回数をカウントする。
【0085】
ステップS51bによるカウント数が所定回数以上と判定された場合(S52b:YES)には、続くステップS53bにおいて、次回の燃焼サイクルにおける内部EGR量を、前回の内部EGR量に比べて所定量だけ増大させる。具体的には、排気弁25の閉弁開始時期を進角させてNVO期間の開始時期を早くすることで、内部EGR量を増大させる。
【0086】
ここで、NVO燃焼が小さければ筒内昇温が不十分であると言えるが、長期に亘って慢性的に筒内温度が高くなっている場合には、NVO燃焼が一時的に小さくなっていても、その直後のメイン燃焼が過剰燃焼することが懸念される。これに対し本実施形態では、ステップS10にてメイン燃焼が過剰に進角したと判定された場合であっても、その過剰進角の直前におけるNVO燃焼が小さく、その状態が所定回数以上連続して継続された場合には、NVO噴射量の増大制御(S40)を実施せず、内部EGR量の減少制御(S51b)を実施するので、長期的に筒内温度を低下させることができる。つまり、図3(a)中の全ての燃焼度合いを全体的に抑制させて、図3(a)中の一点鎖線に示す燃焼度合い上昇を抑制できる。よって、上述した過剰燃焼の懸念を解消できる。
【0087】
また、ステップS50にてメイン燃焼が過剰に遅角したと判定された場合であっても、その過剰遅角の直前におけるNVO燃焼が大きく、その状態が所定回数以上連続して継続された場合には、NVO噴射量の減少制御(S60)を実施せず、内部EGR量の増大制御(S53b)を実施するので、長期的に筒内温度を上昇させることができる。つまり、図3(b)中の全ての燃焼度合いを全体的に上昇させて、図3(b)中の一点鎖線に示す燃焼度合い低下を抑制できる。よって、失火の懸念を解消できる。
【0088】
(第4実施形態)
図8は、本実施形態により実施される処理手順を示すフローチャートであり、図5〜図7に示すNVO噴射量の制御とは別に実行される処理である。また、当該図8の処理は、HCCIモードの運転時に実行される。
【0089】
先ず、図8に示すステップS70において、NVO噴射による燃焼度合いが下限値以下(つまり、NVO燃焼量小の状態)であるか否かを判定する。NVO燃焼量小と判定(S70:YES)されれば、続くステップS71において、そのNVO燃焼の直後におけるメイン噴射燃料に対して、点火プラグ23sを作動させて点火着火させる。
【0090】
要するに、図5〜図7に示すNVO噴射量の制御を実施しているにも拘わらず、NVO燃焼量小になった場合には、図3(b)中の一点鎖線に示す如く筒内温度が継続して低下傾向にあるとみなし、ステップS71による点火着火を実施して失火を防ぐ。
【0091】
さらにステップS71において、前記NVO燃焼の直後におけるメイン噴射では点火モードに切り替えて、メイン噴射の噴射開始時期をHCCIモード時に比べて遅角させてもよい。これによれば、失火防止の効果を向上できる。
【0092】
一方、NVO燃焼量小と判定されなかった場合(S70:NO)には、続くステップS72において、NVO噴射による燃焼度合いが上限値以上(つまり、NVO燃焼量大の状態)であるか否かを判定する。NVO燃焼量大と判定(S72:YES)されれば、続くステップS73において、そのNVO燃焼の直後におけるメイン噴射燃料に対して、吸気量(新気量)を増大させる。
【0093】
具体的には、そのNVO燃焼にかかる吸気行程の期間を拡大させるよう、吸気弁24の閉弁時期を遅角させる。或いは、吸気弁24の開弁時期を進角させることにより、NVO期間を短くした分だけ吸気期間を長くする。これにより、内部EGR量を減らして新気量を増やすこととなる。内部EGRガスに比べて新気は低温であるため、このように新気量を増やすことで、筒内温度の上昇が抑制される。
【0094】
要するに、図5〜図7に示すNVO噴射量の制御を実施しているにも拘わらず、NVO燃焼量大になった場合には、図3(a)中の一点鎖線に示す如く筒内温度が継続して上昇傾向にあるとみなし、ステップS73による新気量増大制御を実施することで筒内温度上昇を抑制して、ノッキングや燃焼音の増大抑制およびエンジン構成部品の損傷回避を図る。
【0095】
(第5実施形態)
上述した図5〜図7のステップS40にかかるNVO噴射量増大制御、およびステップS60にかかるNVO噴射量減少制御では、NVO噴射量を所定量だけ増大/減少させている。これに対し、HC濃度センサ39等を用いて実際の排気中HC濃度を検出し、そのHC濃度(未燃HC発生量)に応じて増大/減少の量を変化させてもよい。
【0096】
具体的には、検出HC濃度が低いほど、ステップS40での増大量を多く設定する。或いはステップS60での減少量を少なく設定する。また、検出HC濃度が高いほど、ステップS40での増大量を少なく設定する。或いはステップS60での減少量を多く設定する。これによれば、NVO燃焼による筒内昇温の促進度合いをきめ細かく調整できる。
【0097】
(第6実施形態)
上述した図5〜図7のステップS40において、NVO噴射量の増大制御を実施するにあたり、本実施形態ではNVO噴射の増大量を次のように設定している。なお、以下の説明では、内部EGRに含まれる残留HC(未燃HC)の量をQhc、NVO噴射量をQnvoとする。したがって、NVO燃焼に寄与する燃料の量(NVOトータル量)は、Qhc+Qnvoと表される。
【0098】
ここで、残留HCはすでに気化しており温度も高い状態にある。一方、NVO噴射により新たに噴射されるHCは液滴の状態であり、気化潜熱の分だけ筒内温度上昇が抑制される。そして、NVO噴射量の増大制御を実施する時のQhcは実施していない通常時のQhcに比べて少なくなるが、上記気化潜熱を考慮した本実施形態では、前記増大制御によりQnvoを増大させる量を、Qhcが少なくなった分よりも多い量に設定する。つまり、前記NVOトータル量(Qhc+Qnvo)を通常時よりも増大させる。これによれば、NVO噴射量の増大制御により筒内温度を上昇させることを、確実に実現できる。
【0099】
なお、当該NVOトータル量を増大させた結果、NVO噴射量Qnvoが所定値を超えて多くなった場合には、その直後におけるメイン噴射量を減少させることが望ましい。例えば、NVOトータル量を増大させた分だけ、メイン噴射量を減少させることが具体例として挙げられる。
【0100】
また、上述した図5〜図7のステップS60において、NVO噴射量の減少制御を実施するにあたり、本実施形態ではNVO噴射の減少量を、上記気化潜熱を考慮して、前記減少制御によりQnvoを減少させる量を、Qhcが多くなった分よりも少ない量に設定する。つまり、前記NVOトータル量(Qhc+Qnvo)を通常時よりも減少させる。これによれば、NVO噴射量の減少制御により筒内温度上昇を抑制させることを、確実に実現できる。
【0101】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0102】
・図5〜図7のステップS30にかかる酸素増量制御では、酸素供給配管31からの酸素供給を実施している。ここで、排ガス中には未燃酸素が存在するため、内部EGR量を増大させれば、NVO期間における燃焼室20a内の酸素量を増大できる。この点を鑑み、酸素供給配管31からの酸素供給に替えて、内部EGR量を増大させることにより酸素増量を図ってもよい。
【0103】
・図5〜図7のステップS40(昇温促進手段)では、NVO噴射量を増大させることにより昇温を促進させているが、NVO噴射開始時期を進角させることにより昇温を促進させてもよい。また、内部EGR量を増大させることにより昇温を促進させてもよい。
【0104】
・図5〜図7のステップS60(昇温抑制手段)では、NVO噴射量を減少させることにより昇温を抑制させているが、NVO噴射開始時期を遅角させることにより昇温を抑制させてもよい。また、内部EGR量を減少させることにより昇温を抑制させてもよい。
【0105】
・図5〜図7のステップS10では、メイン燃焼の着火時期に基づき燃焼度合いを判定しているが、筒内圧センサ40により検出される筒内圧に基づき燃焼度合い判定してもよい。例えば、筒内圧のピーク値や平均有効圧の計算値、筒内圧積算値に基づき燃焼度合い判定すればよい。また、燃焼に伴い生じるイオン発生量をイオン検出センサ(図示せず)により検出し、当該検出値に基づき燃焼度合い判定してもよい。
【0106】
・本発明が解決する課題である「メイン燃焼の安定化」は、エンジン20が高負荷にてNVO噴射量が少ない時や、外部EGRを導入している時に顕著となる。そこで、所定の高負荷領域で運転していることを条件として、図5〜図8の制御を実施するようにしてもよい。
【0107】
・上記各実施形態では、昇温促進手段(S40)および昇温抑制手段(S60)の両手段を備えているが、いずれか一方の手段を廃止してもよい。
【符号の説明】
【0108】
10…ECU(燃焼度合い検出手段)、31…酸素供給配管(酸素供給手段)、32…酸素供給バルブ(酸素供給手段)、39…HC濃度センサ(HC濃度検出手段)、S20…酸素不足判定手段、S40…昇温促進手段、S60…昇温抑制手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火花着火燃焼と圧縮自着火燃焼とが切り替え可能に構成されるとともに、
排気行程から吸気行程にかけて吸排気弁をともに閉じて排ガスを燃焼室に封鎖させる封鎖期間を設け、その封鎖期間に燃焼室へ燃料を噴射する封鎖時噴射を実行し、前記封鎖時噴射された燃料の燃焼により燃焼室温度を上昇させた後に前記圧縮自着火燃焼を実行する内燃機関に適用され、
前記圧縮自着火燃焼の燃焼度合いを検出する燃焼度合い検出手段と、
検出した前記燃焼度合いが上限値を超えた過剰燃焼となっている場合には、その過剰燃焼となった直後の前記封鎖期間に燃焼室温度の上昇を促進させる昇温促進手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記昇温促進手段は、前記封鎖時噴射の噴射量を増大させることで昇温を促進させる手段であり、
当該昇温促進手段により噴射量を増大させた場合には、その直後における前記圧縮自着火燃焼に用いる燃料の噴射量を減少させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記昇温促進手段による噴射量の増大分だけ、その直後における前記圧縮自着火燃焼に用いる燃料の噴射量を減少させることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記過剰燃焼となっている場合であっても、その過剰燃焼の直前における前記封鎖時噴射による燃焼度合いが所定未満であれば、前記昇温促進手段による昇温促進を禁止させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
膨張行程から排気行程にかけて燃焼室へ酸素を供給可能な酸素供給手段と、
前記封鎖時噴射にかかる燃料の量に対する酸素量が不足しているか否かを判定する酸素不足判定手段と、
を備え、
前記酸素不足判定手段により酸素量が不足していると判定された場合には、前記酸素供給手段による酸素供給を実施することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記封鎖期間における燃焼室内のHC濃度を検出するHC濃度検出手段を備え、
検出したHC濃度の値に応じて、前記昇温促進手段による昇温の促進度合いを調整することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
検出した前記燃焼度合いが下限値を超えた燃焼不足となっている場合には、その燃焼不足となった直後の前記封鎖期間における燃焼室温度の上昇を抑制させる昇温抑制手段を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
火花着火燃焼と圧縮自着火燃焼とが切り替え可能に構成されるとともに、
排気行程から吸気行程にかけて、吸排気弁をともに閉じて排ガスを燃焼室に封鎖させる封鎖期間を設け、その封鎖期間に燃焼室へ燃料を噴射する封鎖時噴射を実行し、前記封鎖時噴射された燃料の燃焼により燃焼室温度を上昇させた後に前記圧縮自着火燃焼を実行する内燃機関に適用され、
前記圧縮自着火燃焼の燃焼度合いを検出する燃焼度合い検出手段と、
検出した前記燃焼度合いが下限値を超えた燃焼不足となっている場合には、その燃焼不足となった直後の前記封鎖期間における燃焼室温度の上昇を抑制させる昇温抑制手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記昇温抑制手段は、前記封鎖時噴射の噴射量を減少させることで昇温を抑制させる手段であり、
当該昇温抑制手段により噴射量を減少させた場合には、その直後における前記圧縮自着火燃焼に用いる燃料の噴射量を増加させることを特徴とする請求項7または8に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記昇温抑制手段による噴射量の減少分だけ、その直後における前記圧縮自着火燃焼に用いる燃料の噴射量を増大させることを特徴とする請求項9に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項11】
前記燃焼不足となっている場合であっても、その燃焼不足の直前における前記封鎖時噴射による燃焼度合いが所定以上であれば、前記昇温抑制手段による昇温抑制を禁止させることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1つに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項12】
前記封鎖期間における燃焼室内のHC濃度を検出するHC濃度検出手段を備え、
検出したHC濃度の値に応じて、前記昇温抑制手段による昇温の抑制度合いを調整することを特徴とする請求項7〜11のいずれか1つに記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−19345(P2013−19345A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153909(P2011−153909)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】