説明

内燃機関の始動制御装置

【課題】燃料消費量及び排気エミッションを増大させることなく、機関回転数を確実に目標回転数に一致させる。
【解決手段】機関始動時に機関回転数があらかじめ定められた目標回転数よりも低いときには、機関回転数を上昇させ又は出力トルクを増大させるために点火時期が進角補正される。点火時期を進角側限界値を越えて進角補正すべきときには、点火時期が進角側限界値に維持される。点火時期があらかじめ定められた時間にわたり進角側限界値に保持されたときには、吸気通路内負圧又は吸気流速を増大させるためにスロットル開度が減少される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機関始動時に機関回転数があらかじめ定められた目標回転数よりも低いときには、スロットル開度を増大補正して吸入空気量を増量補正するようにした内燃機関が公知である(特許文献1参照)。吸入空気量を増量補正すると、それに伴って燃料噴射量も増量補正され、したがって機関回転数が上昇する。そこで上述の内燃機関では、機関回転数が目標回転数よりも低いときにスロットル開度を増大補正するようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−328833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に、機関始動直前には、スロットル弁と燃焼室との間の吸気通路内に多量の空気が存在しており、大まかに言えば、この多量の空気が燃焼室内に吸入されると空気がスロットル弁を通過し始める。すなわち、機関が始動されても、ただちに空気がスロットル弁を通過するわけではない。したがって、機関始動直後にスロットル開度を増大補正しても吸入空気量を増量補正することは困難である。吸入空気量を増量補正できたとしても、それに伴い燃料噴射量を増大補正すると、燃料消費量が増大し、排気エミッションが増大するというだけでなく、吸気通路内に燃料溜りが形成されるおそれもある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、機関始動時に機関回転数を上昇させ又は出力トルクを増大させるために点火時期を進角補正する補正手段と、点火時期を進角側限界値を越えて進角補正すべきときに点火時期を進角側限界値に維持するガード手段と、点火時期があらかじめ定められた時間にわたり進角側限界値に保持されたときには、吸気通路内負圧又は吸気流速を増大させる吸気制御手段と、を具備した内燃機関の始動制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
燃料消費量及び排気エミッションを増大させることなく、機関回転数を確実に目標回転数に一致させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1を参照すると、1は機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は吸気弁、7は吸気ポート、8は排気弁、9は排気ポート、10は点火栓をそれぞれ示す。各気筒の吸気ポート7は対応する吸気枝管11を介してサージタンク12に連結される。サージタンク12は吸気ダクト13を介してエアクリーナ14に連結される。吸気ダクト13内にはエアフロメータ15と、ステップモータ16によって駆動されるスロットル弁17とが配置される。また、各吸気ポート7には燃料噴射弁18が取り付けられる。各燃料噴射弁18はコモンレール19に連結され、コモンレール19は吐出量を制御可能な燃料ポンプ20を介して燃料タンク21に連結される。コモンレール19には燃料圧センサ22が取り付けられており、コモンレール19内の燃料圧が目標圧に一致するように燃料ポンプ20の吐出量が制御される。一方、各気筒の排気ポート9は対応する排気マニホルド23及び排気管24を介して触媒25に連結され、触媒25は排気管26に連結される。排気管24内には空燃比センサ27が取り付けられる。
【0008】
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31を介して相互に接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35及び出力ポート36を具備する。機関本体1には機関冷却水温に比例した出力電圧を発生する水温センサ28が取り付けられる。また、アクセルペダル39にはアクセルペダル39の踏込量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ40が接続される。エアフロメータ15、燃料圧センサ22、空燃比センサ27、水温センサ28及び負荷センサ40の出力電圧は対応するAD変換器38を介して入力ポート36にそれぞれ入力される。さらに、クランク角センサ41はクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスは入力ポート36に入力される。CPU34ではこの出力パルスに基づいて機関回転数Neが算出される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火栓10、ステップモータ16、燃料噴射弁17、及び燃料ポンプ20に接続される。
【0009】
本発明による実施例では、機関始動時に機関回転数Neがあらかじめ定められた目標回転数NeTにほぼ一致するように出力トルクが制御され、出力トルクを制御するために点火時期が制御される。この場合の目標回転数NeTの一例が図2に示されている。図2からわかるように、機関回転数Ne又は目標回転数NeTはまず上昇して回転数ピーク値NePに到達し、その後下降して或る一定のアイドリング回転数Nestに落ち着く。ここで、機関始動が開始されてから機関回転数Neが落ち着くまでの期間tNを回転数過渡期間と称すると、本発明による実施例では、回転数過渡期間tN中に機関回転数Neが目標回転数NeTに一致するように点火時期が制御されるということになる。
【0010】
次に、本発明による実施例の点火時期制御について簡単に説明する。本発明による実施例では、機関始動を開始すべきときに点火時期SAが基本点火時期SABに設定される。この基本点火時期SABは、使用されている燃料が基準燃料のときに機関回転数Neを目標回転数NeTに一致させるのに必要な点火時期であり、あらかじめ実験により求められてROM32内に記憶されている。
【0011】
続く回転数過渡期間中において、機関回転数Neが目標回転数NeTよりも低いときには点火時期SAが例えば一定値sだけ進角され(SA=SA−s)、それによって出力トルクが増大される。例えば、使用されている燃料が基準燃料よりも重質であると機関回転数Neが目標回転数NeTよりも低くなり、したがって点火時期SAが進角補正される。
【0012】
一方、機関回転数Neが目標回転数NeTよりも高いときには点火時期SAが一定値sだけ遅角され(SA=SA+s)、それによって出力トルクが減少される。例えば、使用されている燃料が基準燃料よりも軽質であると機関回転数Neが目標回転数NeTよりも高くなり、したがって点火時期SAが遅角補正される。
【0013】
この場合、点火時期を過度に進角補正するとノッキングが生じ、過度に遅角補正すると発生エネルギを機関駆動のために有効に利用できなくなる。そこで本発明による実施例では、点火時期SAが進角側限界値ADVを越えて進角補正されるときには点火時期SAを進角側限界値ADVに維持し、点火時期SAが遅角側限界値RTDを越えて遅角補正されるときには点火時期SAを遅角側限界値RTDに維持するガード処理を行うようにしている。言い換えると、点火時期SAは進角側限界値ADVを越えて進角されず、遅角側限界値RTDを越えて遅角されない。
【0014】
図3は回転数過渡期間中における点火時期SAの変化の一例を示している。図3に示される例では、点火時期SAが進角補正され、次いで進角側限界値ADVに達した後は進角側限界値ADVに維持されている。
【0015】
ところが、このように点火時期SAが進角側限界値ADVまでに制限されると、出力トルクの増大が制限されることになる。その結果、図4に示されるように、実際の機関回転数NeA’は目標回転数NeTまで上昇せずあるいは低下するおそれがある。この場合、機関回転数Neが目標回転数NeTにほぼ一致しているときの吸気圧(スロットル弁下流の吸気通路内の圧力)Pmを目標吸気圧PmTと称すると、実際の吸気圧PmA’は目標吸気圧PmTよりも高く、ほぼ大気圧に維持されることになる。
【0016】
そこで本発明による実施例では、図5に示されるように、点火時期SAがあらかじめ定められた設定時間t1にわたり進角側限界値ADVに維持されたときには、スロットル開度TAを例えば補正値tだけ減少させるようにしている。このようにすると、実際の吸気圧PmAが低下されすなわち吸気管負圧が大きくなるので、燃料の気化が促進される。また、スロットル弁17を通過する空気流の流速が高められるので混合気の乱れが促進される。その結果、良好な燃焼が確保されるので出力トルクが増大し、したがって実際の機関回転数NeAを高めることができる。また、燃料噴射量を増大させることなく出力トルクが増大されるので、燃料消費量及び排気エミッションが増大するのを阻止することができる。
【0017】
次いで、回転数過渡期間tNが終了すると、図5に示されるようにスロットル開度TAが補正値tだけ増大され、すなわち補正前の値に戻される。
【0018】
この場合、スロットル開度TAの補正値tは一定値にすることができる。しかしながら、例えば目標回転数NeTからの機関回転数Neの偏差、又は機関運転状態に応じて補正値tを変更するようにしてもよい。また、スロットル開度TAを繰り返し補正するようにしてもよい。
【0019】
図6は本発明による実施例の点火時期制御ルーチンを示しており、このルーチンはあらかじめ定められた設定時間ごとの割り込みによって実行される。
【0020】
図6を参照すると、まずステップ100では現在、回転数過渡期間中であるか否かが判別される。現在、回転数過渡期間中でないと判別されたときには処理サイクルを終了する。現在、回転数過渡期間中であると判別されたときには次いでステップ101に進み、機関回転数Neが目標回転数NeTよりも低いか否かが判別される。Ne<NeTのときには次いでステップ102に進み、点火時期SAが例えば一定値sだけ進角される。次いでステップ104に進む。これに対し、Ne≧NeTのときにはステップ101からステップ103に進み、点火時期SAが一定値sだけ遅角される。次いでステップ104に進む。ステップ104ではガード処理が行われる。次いで処理サイクルを終了する。
【0021】
図7は本発明による実施例のスロットル開度制御ルーチンを示しており、このルーチンはあらかじめ定められた設定時間ごとの割り込みによって実行される。
【0022】
図7を参照すると、まずステップ200では現在、回転数過渡期間中であるか否かが判別される。現在、回転数過渡期間中であると判別されたときには次いでステップ201に進み、点火時期SAが設定時間t1にわたり進角側限界値ADVに維持されているか否かが判別される。点火時期SAが設定時間t1にわたり進角側限界値ADVに維持されていると判別されたときには次いでステップ202に進み、機関回転数Neが目標回転数NeTよりも低いか否かが判別される。Ne<NeTであると判別されたときには次いでステップ203に進み、フラグXTAがリセットされているか否かが判別される。このフラグXTAはスロットル開度TAの減少補正が行われたときにセットされ(XTA=1)、それ以外はリセットされる(XTA=0)ものである。フラグXTAがリセットされているとき、すなわちスロットル開度TAの減少補正がいまだ行われていないときには次いでステップ204に進み、スロットル開度TAを一定値tだけ減少させる減少補正が行われる(TA=TA−t)。続くステップ205ではフラグXTAがセットされる。次いで処理サイクルを終了する。これに対し、フラグXTAがセットされているとき、すなわちスロットル開度TAの減少補正がすでに行われているときにはステップ203から処理サイクルを終了する。
【0023】
一方、現在、回転数過渡期間中でないと判別されたときにはステップ200から、点火時期SAが設定時間t1にわたり進角側限界値ADVに維持されていないと判別されたときにはステップ201から、Ne≧NeTであると判別されたときにはステップ202から、それぞれステップ206に進み、フラグXTAがセットされているか否かが判別される。フラグXTAがリセットされていると判別されたときには処理サイクルを終了する。フラグXTAがセットされていると判別されたときには次いでステップ207に進み、スロットル開度TAが減少補正前の値に戻される(TA=TA+t)。続くステップ208ではフラグTAがリセットされる。次いで処理サイクルを終了する。
【0024】
上述の実施例では、機関回転数Neが目標回転数NeTよりも低いときにスロットル開度TAの減少補正が行われる。しかしながら、例えば出力トルクを求め、出力トルクが目標となる出力トルクよりも低いときにスロットル開度TAの減少補正を行うようにしてもよい。
【0025】
また、上述の実施例では吸気管負圧又は吸気流速を増大させるために、スロットル開度TAを減少補正するようにしている。しかしながら、例えば吸気弁6の開閉弁時期を制御したり、スロットル弁17を迂回して流れる空気量を調節するためのアイドルスピード制御弁の開度を制御したり、スロットル弁17下流の吸気通路内に配置された吸気制御弁の開度を制御するようにしてもよい。この場合、吸気制御弁は燃焼室内に形成されるタンブル又は縦旋回流を制御するタンブル制御弁や、燃焼室内に形成されるスワール又は横旋回流を制御するスワール制御弁から構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】内燃機関の全体図である。
【図2】目標回転数NeTを示す線図である。
【図3】点火時期の変化の一例を示すタイムチャートである。
【図4】好ましくない例を示すタイムチャートである。
【図5】本発明による実施例を説明するためのタイムチャートである。
【図6】点火時期制御ルーチンを実行するためのフローチャートである。
【図7】スロットル開度制御ルーチンを実行するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0027】
1 機関本体
10 点火栓
13 吸気ダクト
17 スロットル弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関始動時に機関回転数を上昇させ又は出力トルクを増大させるために点火時期を進角補正する補正手段と、点火時期を進角側限界値を越えて進角補正すべきときに点火時期を進角側限界値に維持するガード手段と、点火時期があらかじめ定められた時間にわたり進角側限界値に保持されたときには、吸気通路内負圧又は吸気流速を増大させる吸気制御手段と、を具備した内燃機関の始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−7993(P2009−7993A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169298(P2007−169298)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】