説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】NSR触媒とSCRとを備える内燃機関において、リッチスパイク時の燃費悪化を抑制するとともに、NSR触媒とSCRとの組み合わせによって高いNOx浄化率を実現することのできる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】リーン運転が可能な内燃機関10の排気浄化装置であって、内燃機関10の排気通路12に配置されたNOx吸蔵還元触媒(NSR触媒)16と、NSR触媒16の下流に配置されたNOx選択還元触媒(SCR)18と、NSR触媒16に吸蔵されているNOx吸蔵量を推定するNOx吸蔵量推定手段と、リーン運転中の所定のタイミングでリッチスパイクを実行するリッチスパイク手段と、を備え、リッチスパイク手段は、NOx吸蔵量が所定の吸蔵限界量未満である場合に、リッチスパイク時の目標A/Fを所定のスライトリッチ空燃比(A/F=13)に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の排気浄化装置に係り、特に、NOx吸蔵還元触媒とNOx選択還元触媒とを備える内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特開2008−303759号公報に開示されるように、三元触媒、NOx吸蔵還元触媒(以下、「NSR触媒」と称する)、およびNOx選択還元触媒(以下、「SCR」と称する)が、内燃機関の排気通路の上流側からこの順序で配置されたシステムが知られている。NSR触媒は、内燃機関から排出される燃焼ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を触媒内部に吸蔵する吸蔵機能と、NOxおよび炭化水素(HC)等を浄化処理する触媒機能と、を備えた触媒である。内燃機関がリーン空燃比で運転(リーン運転)されると、NOxを多量に含む排気ガスが排出される。NSR触媒は、このNOxをその内部に吸蔵保持して、該NOxが触媒下流へ放出される事態を抑制する。
【0003】
リーン運転中は、時間の経過に伴ってNSR触媒内のNOx吸蔵保持量が増加する。そこで、上記従来のシステムでは、該NSR触媒内のNOx吸蔵保持量が所定の吸蔵容量に近づいた地点で、内燃機関の排気空燃比を一時的にリッチにするリッチスパイク制御が実行される。これにより、該NSR触媒内に吸蔵保持されていたNOxが浄化される。
【0004】
また、リッチスパイク制御が実行されると、三元触媒およびNSR触媒では、アンモニア(NH)が生成される。SCRは、アンモニア(NH)を吸着する機能を有しており、三元触媒およびNSR触媒で生成されたNHをその内部に吸蔵する。吸蔵されたNHは、該SCRに流入するNOxを選択的に還元する際に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−303759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、リッチスパイク制御は、上記従来の装置において実行されるタイミングの他に、加速要求等を受けて走行モードがリーン運転からストイキ運転へ移行するタイミングにおいても実行される。この走行モード移行時のリッチスパイクは、NSR触媒に吸蔵されているNOx吸蔵量の多少によらず実行されることとなるため、その実行タイミングによっては、NSR触媒にNOxが殆ど吸蔵されていない状態で実行されることも想定される。この場合、常に同じリッチ空燃比でリッチスパイク制御を実行する上記従来の技術においては、リッチガスの過剰供給による燃費の悪化を招く事態が想定される。
【0007】
また、リッチスパイク時の排気空燃比は、NSR触媒内の吸蔵NOxの浄化度合およびNHの生成度合に多大な影響を及ぼす。このため、常に同じリッチ空燃比でリッチスパイク制御を実行する上記従来の技術においては、NSR触媒とSCRとの組み合わせによって高いNOx浄化率を実現しようとした場合に、最善のリッチスパイクが実行されているとは言い難い。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、NSR触媒とSCRとを備える内燃機関において、リッチスパイク時の燃費悪化を抑制するとともに、NSR触媒とSCRとの組み合わせによって高いNOx浄化率を実現することのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、リーン運転が可能な内燃機関の排気浄化装置であって、
前記内燃機関の排気通路に配置されたNOx吸蔵還元触媒(以下、NSR触媒)と、
前記NSR触媒の下流に配置されたNOx選択還元触媒(以下、SCR)と、
前記NSR触媒に吸蔵されているNOx吸蔵量を推定するNOx吸蔵量推定手段と、
リーン運転中の所定のタイミングでリッチスパイクを実行するリッチスパイク手段と、を備え、
前記リッチスパイク手段は、前記NOx吸蔵量が所定の吸蔵限界量未満である場合に、前記リッチスパイク時の排気空燃比を所定のスライトリッチ空燃比に制御することを特徴としている。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、
前記リッチスパイク手段は、前記リーン運転からストイキ運転に切り替わるタイミングで前記リッチスパイクを実行することを特徴としている。
【0011】
第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記リッチスパイク手段は、前記NOx吸蔵量が前記吸蔵限界量に達している場合に、前記リッチスパイク時の排気空燃比を前記所定のスライトリッチ空燃比よりもリッチな所定のリッチ空燃比に制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
リッチスパイクが実行されると、NSR触媒(NOx吸蔵還元触媒)に吸蔵されていたNOxが脱離・浄化されるとともに、該NSR触媒においてNHが生成される。生成されたNHは、排気通路を流通して下流側に配置されたSCR(NOx選択還元触媒)内に吸蔵される。該SCRでは、吸蔵されたNHを用いて、NSR触媒の下流に吹き抜けたNOxを選択的に還元する。
【0013】
第1の発明によれば、リッチスパイクを実行する場合に、NSR触媒のNOx吸蔵量が所定の吸蔵限界量未満である場合には、リッチスパイク時の排気空燃比が所定のスライトリッチ空燃比に制御される。NSR触媒のNOx吸蔵量が所定の吸蔵限界量未満である場合には、リッチスパイク時の排気空燃比がスライトリッチ空燃比であっても、その浄化性能をある程度以上回復させることができる。また、リッチスパイク時の排気空燃比がスライトリッチ空燃比である場合には、NHの生成効率の向上によるSCRのNOx浄化性能向上を図ることができる。このため、本発明によれば、リッチスパイク時の燃費悪化を抑制しつつ、NSR触媒とSCRとの組み合わせによって高いNOx浄化率を実現することができる。
【0014】
第2の発明によれば、内燃機関の走行モードがリーン運転からストイキ運転に切り替わるタイミングでリッチスパイクが実行される。このため、本発明によれば、ストイキ運転が開始される前にNSR触媒およびSCRのNOx浄化性能を向上させることができるので、ストイキ運転時における空燃比のリーンずれが発生した場合であっても、NOxエミッションの悪化を有効に抑止することができる。
【0015】
第3の発明によれば、リッチスパイクを実行する場合に、NSR触媒のNOx吸蔵量が所定の吸蔵限界量に達している場合には、リッチスパイク時の排気空燃比が所定のスライトリッチ空燃比よりもリッチな所定のリッチ空燃比に制御される。このため、本発明によれば、NSR触媒におけるNOx浄化を優先的に実行することができるので、NSR触媒を用いたNOx浄化を主とした高いNOx浄化率の実現を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1のシステムにおいて実行されるリッチスパイクの基本動作について説明するための図である。
【図3】内燃機関10の走行パターンの一例を示す図である。
【図4】リーン運転中のリッチスパイクの実行タイミングを説明するための図である。
【図5】リーン運転中のリッチスパイクの実行タイミングの他の例を説明するための図である。
【図6】排気空燃比に対するNH生成濃度および生成時間の関係を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態の構成を説明するための図である。図1に示すように、本実施の形態のシステムは、内燃機関10を備えている。内燃機関10は、右バンク101および左バンク102を備えたV型のガソリンエンジンとして構成されている。右バンク101に属する気筒群は、排気通路121に連通している。また、左バンク102に属する気筒群は、排気通路122に連通している。排気通路121および122は、下流で合流した後に排気通路123の一端に連通している。以下、排気通路121、122、および123を特に区別しない場合には、これらを単に「排気通路12」と称することとする。
【0019】
排気通路121および122には、三元触媒であるスタート触媒(以下、「SC」と称する)141および142がそれぞれ配置されている。また、排気通路123には、NOx吸蔵還元触媒(NSR触媒)16が配置されている。更に、排気通路123におけるNSR触媒16の下流側には、NOx選択還元触媒(SCR)18が配置されている。以下、SC141および142を特に区別しない場合には、これらを単に「SC14」と称することとする。
【0020】
内燃機関10は、空燃比がリッチである場合に、HCおよびCOを排出し易い。また、空燃比がリーンである場合にNOxを排出しやすい。SC14は、リーン雰囲気では酸素(O)を吸着しながらNOxを還元(Nに浄化)する。他方、リッチ雰囲気では、酸素を放出しながらHCおよびCOを酸化(HO、COに浄化)する。また、リッチ雰囲気下では、排気ガス中に含まれる窒素と水素、或いはHCとNOxが反応することにより、アンモニア(NH)が生成される。
【0021】
NSR触媒16は、リーン雰囲気下では、排気ガス中に含まれるNOxを吸蔵する。また、NSR触媒16は、リッチ雰囲気下で吸蔵しているNOxを放出する。リッチ雰囲気下で放出されたNOxは、HCやCOにより還元される。この際、SC14の場合と同様に、NSR16においてもNHが生成される。
【0022】
SCR18は、Fe系ゼオライト触媒として構成され、SC14およびNSR触媒16が、リッチ雰囲気下で生成するNHを吸蔵し、リーン雰囲気下では、NHを還元剤として、排気ガス中のNOxを選択的に還元する機能を有している。SCR18によれば、NSR触媒16の下流に吹き抜けてきたNHおよびNOxが大気中に放出される事態を有効に阻止することができる。
【0023】
本実施の形態のシステムは、図1に示すとおり、ECU(Electronic Control Unit)30を備えている。ECU30の出力部には、燃料噴射装置(図示せず)等の種々のアクチュエータが接続されている。ECU30の入力部には、機関回転数NEを検出するためのクランク角センサやスロットル開度TAを検出するためのスロットル開度センサ(何れも図示せず)の他、内燃機関10の運転条件および運転状態を検出するための種々のセンサ類が接続されている。ECU30は、入力された各種の情報に基づいて、図1に示すシステムの状態を制御することができる。
【0024】
[実施の形態1の動作]
(リッチスパイク制御について)
先ず、図2を参照して、本実施の形態のシステムにおいて実行されるリッチスパイク制御について説明する。図2は、本実施の形態1のシステムにおいて実行されるリッチスパイクの基本動作について説明するための図である。
【0025】
ECU30は、通常、内燃機関10をリーン空燃比で運転(リーン運転)させる。リーン運転中は、NOx等の酸化剤がHC、CO等の還元剤よりも多量に排出される。このため、三元触媒を用いて当該排気ガスを浄化しようとしても、還元剤の不足によって全てのNOxを浄化することができない。そこで、本実施の形態1のシステムは、排気通路123にNSR触媒16を備えることとしている。NSR触媒16は、NOxをBa(NO等の硝酸塩として吸蔵する機能を有している。このため、本実施の形態1のシステムによれば、リーン運転中であっても、該NOxが大気中に放出されてしまう事態を効果的に抑制することができる。
【0026】
但し、NSR触媒16のNOx吸蔵性能は、吸蔵量が増加するにつれて低下してしまう。このため、リーン運転が長時間継続されると、吸蔵されなかったNOxが該触媒下流に吹き抜けてしまう。そこで、本実施の形態1のシステムでは、NSR触媒16に吸蔵されたNOxを定期的に脱離させて処理するリッチスパイク制御が実行される。より具体的には、図2に示すとおり、NSR触媒16に吸蔵されているNOx量が所定の吸蔵限界量(例えば、最大吸蔵量の8割に相当する量)に達したタイミングで、内燃機関10の排気空燃比が一時的にリッチ空燃比(例えば、A/F=12)に制御される。リッチスパイク実行中の排気ガスには、HC、CO、H等の還元剤が多量に含まれている。このため、これらの還元剤がNSR触媒16内へ導入されると、硝酸塩として吸蔵されていたNOxは、NOまで還元されて塩基から脱離される。脱離したNOxは、NSR触媒16内の触媒上でN等に浄化されて処理される。このように、リーン運転中にリッチスパイクを実行することにより、NSR触媒16に吸蔵されていたNOxを脱離処理することができるので、NOx吸蔵性能を有効に回復させることができる。
【0027】
尚、NSR触媒16のNOx吸蔵量は、例えば、ECU30に組み込まれている公知のNOxカウンタを用いて算出する。具体的には、NOxカウンタは、内燃機関10の運転状態を表すパラメータ(例えば、機関回転数、負荷、触媒入ガスの空燃比等)の検出値に基づいて、予め実験的に求められたマップに従って、内燃機関10から排出されるNOx量を推定する。そして、このNOx量を時間経過分積算した値をNSR触媒16のNOx吸蔵量として出力する。
【0028】
(SCRによるNOx浄化動作)
次に、SCR18の機能について説明する。上述したとおり、リッチスパイクの実行によって、NSR触媒16のNOx吸蔵性能を有効に回復させることができる。しかしながら、リッチスパイクが実行されると、該NSR触媒16から脱離したNOxの一部が浄化されずにそのまま下流に吹き抜けてしまう。また、上述したとおり、リーン運転中にNSR触媒16に吸蔵されずに下流に吹き抜けたNOxも存在する。これらの吹き抜けNOxがそのまま大気中に放出されてしまうとエミッションの悪化を招いてしまう。
【0029】
そこで、本実施の形態1のシステムは、NSR触媒16の下流側に吹き抜けたNOxを処理するためのSCR18を備えることとしている。上述したとおり、SCR18は、SC14およびNSR触媒16が、リッチ雰囲気下で生成するNHをその内部に吸蔵している。このため、SCR18によれば、NSR触媒16の下流に吹き抜けてきたNOxをNHで選択的に還元して浄化することができる。これにより、NOxが大気中に放出されてエミッションが悪化する事態を有効に阻止することができる。
【0030】
尚、本出願の発明者の見解によれば、SCR18の床温を470℃以下、好ましくは200〜350℃とすることによって、該SCR18における還元反応を活発に行わせることができる。このため、本実施の形態1のシステムでは、SCR18の床温が200〜350℃となるように、その配置が調整されている。これにより、SCR18の下流にNOxが放出される事態を効果的に抑止することができる。
【0031】
[本実施の形態1の特徴的動作]
次に、図3乃至図6を参照して、本実施の形態の特徴的動作について説明する。図3は、内燃機関10の走行パターンの一例を示す図である。尚、この図では、内燃機関10の速度と運転空燃比(運転モード)との関係を時系列で示している。この図に示す走行パターンでは、ECU30は、内燃機関10が高速定常運転をしている期間(図3中の期間Aおよび期間Cに相当)に、内燃機関10をリーン空燃比で運転(リーン運転)させる。これにより、燃費向上を図ることができる。また、ECU30は、リーン運転中に急激な加速要求が出された場合(図3中の期間Bに相当)に、内燃機関10をストイキ空燃比で運転(ストイキ運転)させる。これにより、必要なトルクを確保することができる。
【0032】
ここで、上述したとおり、リーン運転中は、NSR触媒16に吸蔵されているNOxの浄化を目的としたリッチスパイクが実行される。図4は、リーン運転中のリッチスパイクの実行タイミングを説明するための図である。この図に示すとおり、ECU30は、実行タイミングの異なる第1、第2のリッチスパイク制御を実行する。具体的には、第1のリッチスパイク制御は、上述した通常のリッチスパイクであり、NOx吸蔵量が所定の吸蔵限界量に達したタイミングで実行されるものである。一方、第2のリッチスパイク制御は、リーン運転からストイキ運転へ移行するタイミングで実行されるものである。この第2のリッチスパイクによれば、ストイキ運転の開始に先立ってNSR触媒16内のNOxを浄化することができるので、その後のストイキ運転中にリーンずれが起きた場合であっても、NOxがNSR触媒16の下流に吹き抜ける事態を有効に抑止することができる。
【0033】
しかしながら、図4に示すとおり、第1のリッチスパイク制御が常にNSR触媒16のNOx吸蔵量が吸蔵限界量に達しているときに実行されるのに対して、第2のリッチスパイク制御はNOx吸蔵量の多少によらず実行される。このため、この図に示すように、例えば第1のリッチスパイク制御の実行直後に加速要求(ストイキ運転への移行要求)が出されて第2のリッチスパイク制御を実行する場合等においては、NSR触媒16内に殆どNOxが吸蔵されていない状態でリッチスパイクが実行されてしまう。
【0034】
また、図5は、リーン運転中のリッチスパイクの実行タイミングの他の例を説明するための図である。この走行パターンは、上述した図4に示す走行パターンに比して、リーン運転の期間(期間A)が極端に短い場合を想定している。この走行パターンの場合、NOxを吸蔵するリーン運転期間が短いため、上記図4の走行パターンと同様に、NSR触媒16内に殆どNOxが吸蔵されていない状態でリッチスパイクが実行されてしまう。
【0035】
このように、NSR触媒16のNOx吸蔵量が吸蔵限界量に達していない状態であるにもかかわらず、第1のリッチスパイク制御と同様のリッチ空燃比(例えば、A/F=12)で第2のリッチスパイク制御を実行すると、過剰なリッチスパイクを実行することとなり、エミッションおよび燃費の観点から好ましくない。
【0036】
そこで、本実施の形態のシステムでは、第2のリッチスパイク制御の目標A/Fを、NSR触媒16のNOx吸蔵量に応じて可変に設定することとする。より具体的には、ECU30は、NSR触媒16のNOx吸蔵量が所定の吸蔵限界量に達しているときには、第2のリッチスパイク制御の目標A/Fを所定のリッチ空燃比(例えば、目標A/F=12)に制御することとする。これにより、NSR触媒16におけるNOx浄化を優先的に実行することができるので、NSR触媒16によるNOx浄化を主とした高いNOx浄化率の実現を図ることができる。
【0037】
一方、NSR触媒16のNOx吸蔵量が吸蔵限界量未満である場合には、リッチスパイク時の排気空燃比が多少薄いスライトリッチ空燃比であっても、NSR触媒16におけるNOx浄化をある程度以上期待することができる。更に、本出願の発明者の見解によれば、SC14およびNSR触媒16(特にNSR触媒16)において生成されるNH量は、リッチスパイク時の排気空燃比によって変動する。図6は、排気空燃比に対するNH生成濃度および生成時間の関係を示す図である。この図に示すとおり、排気空燃比がA/F=13の近傍となるスライトリッチ空燃比である場合に、NH濃度が最も高くなっている。
【0038】
そこで、ECU30は、NOx吸蔵量が所定の吸蔵限界量未満であるときには、第2のリッチスパイク制御の目標A/Fを所定のスライトリッチ空燃比(目標A/F=13近傍)に制御する。これにより、SCR18のNOx浄化性能を有効に高めることができるので、リッチスパイク時の燃費悪化を抑制しつつ、NSR触媒16とSCR18との組み合わせによって高いNOx浄化率を実現することができる。
【0039】
但し、図6に示すとおり、排気空燃比がリッチからストイキへ近づくほどNHが発生するまでの時間が長くなる傾向にある。このため、SCR18のNOx浄化性能を向上させる観点からは、NHの生成濃度だけでなくNHの生成時間も考慮して、SCR18に流入するNH量が最大となる目標A/Fを適宜設定することが好ましい。
【0040】
[実施の形態1における具体的処理]
次に、図7を参照して、本実施の形態において実行する処理の具体的内容について説明する。図7は、ECU30が、第2のリッチスパイク制御を実行するルーチンのフローチャートである。尚、図7に示すルーチンは、内燃機関10のリーン運転中に繰り返し実行されるものとする。
【0041】
図7に示すルーチンでは、先ず、NSR触媒16中に吸蔵されている現在の吸蔵NOx量が推定される(ステップ100)。ここでは、具体的には、上述したNOxカウンタの積算値が読み込まれる。次に、リーン運転からストイキ運転への走行モードの変化要求があるか否かが判定される(ステップ102)。その結果、走行モードの変化要求がないと判定された場合には、本ルーチンは速やかに終了される。
【0042】
一方、上記ステップ102において、走行モードの変化要求があると判定された場合には、リッチスパイクの実行条件が成立したと判断されて、次のステップに移行し、NSR触媒16のNOx吸蔵量が所定の吸蔵限界量に達しているか否かが判定される(ステップ104)。ここでは、具体的には、上記ステップ100において読み込まれたNOx吸蔵量と所定の吸蔵限界量との大小が比較される。その結果、NOx吸蔵量≧吸蔵限界量の成立が認められた場合には、次のステップに移行し、通常のリッチ空燃比(A/F=12)を目標A/Fとしたリッチスパイクが実行される(ステップ106)。次いで、走行モードがリーン運転からストイキ運転へ切り替えられる(ステップ108)。
【0043】
一方、上記ステップ104において、NOx吸蔵量≧吸蔵限界量の成立が認められない場合には、次のステップに移行し、所定のスライトリッチ空燃比(A/F=13)を目標A/Fとしたリッチスパイクが実行される(ステップ110)。次に、上記ステップ108に移行して、走行モードがリーン運転からストイキ運転へ切り替えられる。
【0044】
以上説明したとおり、本実施の形態のシステムによれば、走行モードがリーン運転からストイキ運転に切り替えられるタイミングで実行される第2のリッチスパイク制御において、NSR触媒16のNOx吸蔵量が所定の吸蔵限界量未満であるときには、リッチスパイク時の目標A/Fがスライトリッチ空燃比に制御される。これにより、無駄な燃料消費を有効に抑制することができるので、燃費を向上させることができる。また、リッチスパイクをA/F=13の近傍となるスライトリッチ空燃比で実行すると、NHの生成量が多量となる。これによりSCR18のNOx選択還元性能を向上させることができるので、NSR触媒16とSCR18との組み合わせによって高いNOx浄化率を実現することができる。
【0045】
また、本実施の形態のシステムによれば、第2のリッチスパイク制御において、NSR触媒16のNOx吸蔵量が所定の吸蔵限界量に達しているときには、リッチスパイク時の目標A/Fが通常のリッチ空燃比(A/F=12)に制御される。これにより、NSR触媒16におけるNOx浄化を優先的に実行することができるので、NSR触媒16によるNOx浄化を主とした高いNOx浄化率の実現を図ることができる。
【0046】
ところで、上述した実施の形態1においては、第2のリッチスパイク制御において、NSR触媒16のNOx吸蔵量が所定の吸蔵限界量を超えていないときには、リッチスパイク時の目標A/Fをスライトリッチ空燃比(A/F=13)に制御することとしているが、かかるリッチスパイクを2段階のリッチスパイクとして、1段目をリッチ空燃比(例えば、目標A/F=12)に制御し、2段目をスライトリッチ空燃比(目標A/F=13)に制御することとしてもよい。リッチスパイク初期のリッチ成分は、触媒に含まれるOSC材での酸素吸蔵反応に使用される。このため、上記2段階のリッチスパイクを実行することで、リッチスパイク期間の全域にわたり所望のスライトリッチ空燃比を実現することができる。
【0047】
また、上述した実施の形態1においては、NSR触媒16の吸蔵限界量を該NSR触媒16の最大吸蔵量の8割に相当する量に設定しているが、使用する触媒の容量や材質等を考慮して、高いNOx浄化率を実現できる量を適宜設定することとしてもよい。
【0048】
尚、上述した実施の形態1においては、NSR触媒16が前記第1の発明における「NSR触媒」に、SCR18が前記第1の発明における「SCR」に、それぞれ相当している。また、上述した実施の形態1においては、ECU30が、上記ステップ100の処理を実行することにより、前記第1の発明における「NOx吸蔵量推定手段」が、上記ステップ110の処理を実行することにより、前記第1の発明における「リッチスパイク手段」が、それぞれ実現されている。
【0049】
また、上述した実施の形態1においては、ECU30が、上記ステップ106の処理を実行することにより、前記第3の発明における「リッチスパイク手段」が実現されている。
【符号の説明】
【0050】
10 内燃機関(エンジン)
12 排気通路
14 スタート触媒(SC)
16 NOx吸蔵還元触媒(NSR触媒)
18 NOx選択還元触媒(SCR)
30 ECU(Electronic Control Unit)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リーン運転が可能な内燃機関の排気浄化装置であって、
前記内燃機関の排気通路に配置されたNOx吸蔵還元触媒(以下、NSR触媒)と、
前記NSR触媒の下流に配置されたNOx選択還元触媒(以下、SCR)と、
前記NSR触媒に吸蔵されているNOx吸蔵量を推定するNOx吸蔵量推定手段と、
リーン運転中の所定のタイミングでリッチスパイクを実行するリッチスパイク手段と、を備え、
前記リッチスパイク手段は、前記NOx吸蔵量が所定の吸蔵限界量未満である場合に、前記リッチスパイク時の排気空燃比を所定のスライトリッチ空燃比に制御することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記リッチスパイク手段は、前記リーン運転からストイキ運転に切り替わるタイミングで前記リッチスパイクを実行することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記リッチスパイク手段は、前記NOx吸蔵量が前記吸蔵限界量に達している場合に、前記リッチスパイク時の排気空燃比を前記所定のスライトリッチ空燃比よりもリッチな所定のリッチ空燃比に制御することを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−57571(P2012−57571A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203053(P2010−203053)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】