説明

内燃機関の燃料供給制御装置

【課題】内燃機関の停止時に発生した吸気弁と排気弁とのバルブオーバーラップによって、排ガスが吸気通路内に逆流した場合でも、再始動時の燃焼不良を回避できる内燃機関の燃料供給制御装置を提供する。
【解決手段】気筒3aに供給される燃料量を制御する内燃機関3の燃料供給制御装置であって、内燃機関3の停止時にバルブオーバーラップが発生しているか否かを判定するバルブオーバーラップ判定手段2と、バルブオーバーラップが発生していると判定されたときに検出された吸気温Tinおよび排気温Texに応じて、吸気通路4に逆流する排ガス逆流量QEXを算出する排ガス逆流量算出手段2と、排ガス逆流量QEXに応じて吸気通路4内の第1酸素濃度ODI1を推定する酸素濃度推定手段2と、内燃機関3の始動時に第1酸素濃度ODI1に応じて、基本燃料噴射量QBASEを補正する燃料供給量補正手段2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気弁と排気弁とのバルブオーバーラップ状態に応じて、気筒に供給される燃料量を制御する内燃機関の燃料供給制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関の燃料供給制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この内燃機関は、気筒からの排ガスを排出する排気通路を備え、排気通路には、触媒が設けられている。
【0003】
この燃料供給制御装置では、内燃機関の停止時に、触媒の上流側の酸素濃度および下流側の酸素濃度を検出するとともに、検出された上流側および下流側の酸素濃度に応じて、排ガスが排気通路内を逆流しているか否かを判定する。そして、排ガスが排気通路内を逆流していると判定されたときには、次回の内燃機関の始動時に、クランキングの開始時から所定時間の間、燃料噴射を禁止する燃料カットモード、または燃料噴射量を低減する燃料噴射量低減モードを実行する。これにより、排気通路からさらに気筒内に逆流した排ガスを掃気することによって、プラグかぶりを回避し、内燃機関の始動性を向上させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−239570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、この従来の内燃機関の燃料供給制御装置では、排気通路に設けられた触媒の上流側および下流側の酸素濃度を用いて、排ガスが排気通路を逆流しているか否かを判定するにすぎないため、排ガスが吸気通路内に実際に逆流しているか否かを判定できない。このような吸気通路への排ガスの逆流は、例えば、吸気弁と排気弁とのバルブオーバーラップが発生したときに生じやすい。このため、内燃機関の再始動時に、排ガスが吸気通路内に実際には逆流していないにもかかわらず、燃料カットモードまたは燃料噴射量低減モードが実行されることがあり、その場合には始動が遅れ、始動性が悪化する。逆に、排ガスが吸気通路内に実際に逆流しているにもかかわらず、燃料カットモードまたは燃料噴射量低減モードが実行されず、通常の始動モードが実行されることがある。その場合には、逆流した排ガスによって吸気通路内の酸素濃度が低下するため、気筒内で燃焼する混合気の空燃比がリッチ化し、それにより、燃焼不良が生じ、それに起因する始動性の低下や排ガス特性の悪化を招く。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、内燃機関の停止時に発生した吸気弁と排気弁とのバルブオーバーラップによって、排ガスが吸気通路内に逆流した場合でも、再始動時の燃焼不良を回避でき、それにより、始動性や排ガス特性を向上させることができる内燃機関の燃料供給制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、吸気通路4から気筒3a内に吸気弁8を介して空気を吸入し、気筒3a内で生成された排ガスを排気弁9を介して排気通路5に排出するとともに、気筒3aに供給される燃料量を制御する内燃機関3の燃料供給制御装置であって、内燃機関3の停止時に、吸気弁8と排気弁9とのバルブオーバーラップが発生しているか否かを判定するバルブオーバーラップ判定手段(実施形態における(以下、本項において同じ)ECU2、図4のステップ2)と、吸気通路4内の温度を表す吸気通路温度パラメータ(吸気温Tin)を検出する吸気通路温度パラメータ検出手段(吸気温センサ25)と、排気通路5内の温度を表す排気通路温度パラメータ(排気温Tex)を検出する排気通路温度パラメータ検出手段(排気温センサ26)と、バルブオーバーラップ判定手段により、バルブオーバーラップが発生していると判定されたときに、検出された吸気通路温度パラメータおよび排気通路温度パラメータに応じて、排気通路5から気筒3aを介して吸気通路4に逆流する排ガスの量を、排ガス逆流量QEXとして算出する排ガス逆流量算出手段(ECU2、図4のステップ5)と、算出された排ガス逆流量に応じて、吸気通路4内の酸素濃度(第1酸素濃度ODI1)を推定する酸素濃度推定手段(ECU2、図4のステップ6)と、内燃機関3の始動時に、燃料供給量(基本燃料噴射量QBASE)を設定する燃料供給量設定手段(ECU2、図7のステップ40)と、推定された酸素濃度に応じて、設定された燃料供給量を補正する燃料供給量補正手段(ECU2、図7のステップ45)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この内燃機関の燃料供給制御装置によれば、内燃機関の停止時に、バルブオーバーラップ判定手段によって、吸気弁と排気弁とのバルブオーバーラップが発生しているか否かが判定される。バルブオーバーラップが発生していると判定されたときには、排ガス逆流量算出手段によって、検出された吸気通路内の温度を表す吸気通路温度パラメータおよび検出された排気通路内の温度を表す排気通路温度パラメータに応じて、排気通路から気筒を介して吸気通路に逆流する排ガスの量を排ガス逆流量として算出する。また、酸素濃度推定手段により、算出された排ガス逆流量に応じて、吸気通路内の酸素濃度を推定する。そして、内燃機関の始動時に、燃料供給量補正手段は、この推定された酸素濃度に応じて、設定された燃料供給量を補正する。
【0009】
内燃機関の停止時に、吸気弁と排気弁とのバルブオーバーラップが発生すると、吸気通路と排気通路との温度差による熱対流などによって、排ガスは排気通路から気筒を介して吸気通路内に逆流する。したがって、吸気通路の温度を表す吸気通路温度パラメータおよび排気通路の温度を表す排気通路温度パラメータに応じて、排気通路から気筒を介して吸気通路内に実際に逆流した排ガス逆流量を適切に算出することができる。
【0010】
そして、そのように算出された排ガス逆流量に応じて、吸気通路内の酸素濃度を推定し、推定された酸素濃度に応じて、設定された燃料供給量を補正することにより、吸気通路内の実際の酸素濃度に見合った量の燃料を供給することができる。その結果、混合気の空燃比が適正に制御され、内燃機関の再始動時の燃焼不良を回避でき、それにより、始動性や排ガス特性を向上させることができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関3の燃料供給制御装置において、燃料供給量補正手段は、所定の基準値(空気の酸素濃度OATM)と推定された酸素濃度との差(酸素濃度減少量ΔODI)が大きいほど、燃料供給量をより大きく減量するように補正することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、燃料供給量補正手段は、所定の基準値と推定された酸素濃度との差が大きいほど、燃料供給量をより大きく減量するように補正する。このため、吸気通路内の酸素濃度の減少度合に見合った量の燃料を供給することができ、混合気の空燃比を適正に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態による燃料供給制御装置を適用した内燃機関を概略的に示す図である。
【図2】燃料供給制御装置のブロック図である。
【図3】吸気弁および排気弁とそれらを駆動する機構の概略構成を示す断面図である。
【図4】酸素濃度算出処理のメインフローを示すフローチャートである。
【図5】排ガス逆流量算出処理を示すサブルーチンである。
【図6】酸素流入量算出処理を示すサブルーチンである。
【図7】始動時燃料制御処理を示すフローチャートである。
【図8】始動時補正量ΔQINJを設定するためのマップである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本実施形態による燃料供給制御装置1(図2参照)を適用した内燃機関3を概略的に示している。この内燃機関(以下「エンジン」という)3は、車両(図示せず)に搭載された、例えば直列4気筒タイプのガソリンエンジンである。
【0015】
エンジン3のシリンダヘッド3cの各気筒3aには、吸気通路4が吸気マニホルド4aを介して、排気通路5が排気マニホルド5aを介して、それぞれ接続されるとともに、燃料噴射弁6(図2参照)が、燃焼室3dに臨むように取り付けられている(いずれも1つのみ図示)。すなわち、このエンジン3は、燃料噴射弁6から燃焼室3d内の点火プラグ(図示せず)の近傍に、燃料を直接、噴射する直噴タイプのものである。燃料噴射弁6から噴射される燃料噴射量QINJは、その開弁時間をECU2(図2参照)で制御することによって、制御される。
【0016】
また、各気筒3aには、一対の吸気弁8、8(1つのみ図示)および一対の排気弁9、9(1つのみ図示)が設けられている。
【0017】
図3に示すように、シリンダヘッド3c内には、回転自在の吸気カムシャフト41と、吸気カムシャフト41に一体に設けられた吸気カム42と、ロッカアームシャフト43と、ロッカアームシャフト43に回動自在に支持されるとともに、吸気弁8、8の上端にそれぞれ当接する2つのロッカアーム44、44(1つのみ図示)などが設けられている。
【0018】
吸気カムシャフト41は、吸気スプロケットおよびタイミングチェーン(いずれも図示せず)を介して、クランクシャフト3e(図1参照)に連結されており、クランクシャフト3eが2回転するごとに1回転する。吸気カムシャフト41が回転すると、ロッカアーム44、44が吸気カム42で押圧され、ロッカアームシャフト43を中心として回動することにより、吸気弁8、8が開閉される。
【0019】
また、シリンダヘッド3c内には、回転自在の排気カムシャフト61と、排気カムシャフト61に一体に設けられた排気カム62と、ロッカアームシャフト63と、ロッカアームシャフト63に回動自在に支持されるとともに、排気弁9、9の上端にそれぞれ当接する2つのロッカアーム64、64(1つのみ図示)などが設けられている。
【0020】
排気カムシャフト61は、排気スプロケットおよびタイミングチェーン(いずれも図示せず)を介して、クランクシャフト3eに連結されており、クランクシャフト3eが2回転するごとに1回転する。排気カムシャフト61が回転すると、ロッカアーム64、64が排気カム62で押圧され、ロッカアームシャフト63を中心として回動することにより、排気弁9、9が開閉される。
【0021】
エンジン3には、クランク角センサ24が設けられている。クランク角センサ24は、マグネットロータおよびMREピックアップ(いずれも図示せず)で構成されており、クランクシャフト3eの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号を、ECU2に出力する。
【0022】
CRK信号は、所定のクランク角(例えば6°)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。TDC信号は、気筒3aのピストン3bが吸気行程開始時のTDC(上死点)付近の所定のクランク角度位置にあることを表す信号であり、本実施形態のような4気筒タイプの場合には、クランク角180°ごとに出力される。
【0023】
また、吸気通路4には、吸気マニホルド4aの入口のすぐ上流側に、スロットル弁機構13が設けられている。スロットル弁機構13は、吸気通路4内に回動自在に設けられたスロットル弁13aと、これを駆動するTHアクチュエータ13bを有している。THアクチュエータ13bは、モータとギヤ機構(いずれも図示せず)を組み合わせたものであり、ECU2からの駆動信号で駆動される。それにより、スロットル弁13aの開度が変化することによって、気筒3aに吸入される新気の量が制御される。
【0024】
また、吸気マニホルド4aには、吸気温センサ25が設けられている。吸気温センサ25は、吸気通路4内の温度(以下「吸気温」という)Tinを検出し、その検出信号はECU2に出力される。
【0025】
排気通路5には、気筒3aから排出された排ガスを浄化するための三元触媒などから成る触媒7が設けられている。また、排気通路5には、排気温センサ26が設けられている。排気温センサ26は、気筒3aから排気通路5に排出された排ガスの温度(以下「排気温」という)Texを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0026】
また、ECU2には、アクセル開度センサ27(図2参照)から、図示しないアクセルペダルの操作量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が出力される。
【0027】
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されている。前述した各種のセンサ24〜27からの検出信号は、I/OインターフェースでA/D変換や整形がなされた後、CPUに入力される。ECU2は、これらの入力信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、エンジン3の運転状態を判別するとともに、判別した運転状態に応じて、燃料供給制御を含むエンジン3の制御を実行する。
【0028】
なお、本実施形態では、ECU2は、バルブオーバーラップ判定手段、排ガス逆流量算出手段、酸素濃度推定手段、燃料供給量設定手段および燃料供給量補正手段に相当する。以下、ECU2で実行される各種の処理について、図面を参照しながら説明する。
【0029】
図4は、酸素濃度算出処理を示している。本処理は、エンジン3の停止中、所定の周期で実行される。まず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、イグニッション・スイッチがオフされた直後か否かを判別する。
【0030】
この判別結果がYESで、イグニッション・スイッチがオフされた直後のときには、吸気弁8と排気弁9とのバルブオーバーラップが発生しているか否かを判別する(ステップ2)。この判別は、TDC信号およびCRK信号に基づき、ピストン3bの停止位置が所定のバルブオーバーラップ区間に含まれるか否かに基づいて行われる。この判別結果がNOで、バルブオーバーラップが発生していないときには、バルブオーバーラップ発生フラグF_O/Lを「0」にセットし(ステップ14)、本処理を終了する。
【0031】
一方、前記ステップ2の判別結果がYESで、バルブオーバーラップが発生しているときには、バルブオーバーラップ発生フラグF_O/Lを「1」にセットする(ステップ3)。
【0032】
次に、ステップ4において、検出された吸気温Tinと排気温Texが互いにほぼ等しいか否かを判別する。この判別結果がNOのときには、吸気温Tinと排気温Texとの温度差による熱対流によって、排ガスが排気通路5からバルブオーバーラップ状態の気筒3aを介して吸気通路4へ逆流している状態にあるとして、ステップ5において、排ガス逆流量QEXを算出する。図5は、そのサブルーチンを示す。まず、ステップ20において、吸気通路4の圧力(以下「吸気圧」という)Pinと排気通路5の圧力(以下「排気圧」という)Pexとの圧力差ΔPを算出する。この圧力差ΔPの算出は、次のようにして行われる。
【0033】
まず、次式(1)および(2)に従って、吸気圧Pinおよび排気圧Pexをそれぞれ算出する。
【数1】

【数2】

ここで、Pは気筒3a内の基準圧力、γinは空気の比重、γexは排ガスの比重である。Linは、吸気マニホルド4aの入口(スロットル弁13a)から吸気弁8までの距離(以下「算出対象通路部」という)を表す。また、Lexは、排気弁9からの排気通路長さを表し、算出対象通路部の長さLinとほぼ等しい。
【0034】
また、気体の状態方程式に基づき、排ガス比重γexは、次式(3)のように表される。
【数3】

【0035】
そして、前記式(1)〜(3)の関係を用い、次式(4)に従って、圧力差ΔPを算出する。
【数4】

【0036】
次に、排気通路5から吸気通路4へ逆流する排ガスの流速Vを、次式(5)に従って算出する(ステップ21)。
【数5】

この式(5)は、ベルヌーイの式から導かれるものであり、gは重力加速度を表す。
【0037】
次に、次式(6)に従って、排ガス逆流量QEXを算出し(ステップ22)、本処理を終了する。
【数6】

ここで、Aは、吸・排気弁8、9によって開放された状態での吸気ポートおよび排気ポートの開口面積の平均値である。
【0038】
図4に戻り、前記ステップ5に続くステップ6では、次式(7)に従って、吸気通路4の算出対象通路部内の第1酸素濃度ODI1(N)を算出する。
【数7】

ここで、Vinは、算出対象通路部の容積であり、ODI1(N−1)は、第1酸素濃度ODI1の前回値である。したがって、右辺第1式のVin×ODI1(N−1)は、前回の処理サイクルにおける算出対象通路部内の酸素量を表す。なお、第1酸素濃度の前回値ODI1(N−1)の初期値は、空気の酸素濃度OATMに設定される。
【0039】
また、式(7)の右辺第1式のQEX×ODI1(N−1)は、排ガスが算出対象通路部に逆流することによって算出対象通路部から押し出された酸素量を表す。
【0040】
したがって、Vin×ODI1(N−1)とQEX×ODI1(N−1)との差は、今回の算出対象通路部内の酸素量に相当し、さらに、この酸素量を容積Vinで除算することによって、算出対象通路部内の第1酸素濃度ODI1(N)が算出される。
【0041】
さらに、排ガス逆流量QEXとして、前記式(6)の右辺を代入することによって、式(7)の右辺第2式が得られる。
【0042】
次に、算出した第1酸素濃度ODI1(N)を、酸素濃度ODIとして設定する(ステップ7)とともに、前回値ODI1(N−1)にシフトし(ステップ8)、本処理を終了する。
【0043】
一方、前記ステップ4の判別結果がYESのときには、吸気温Tinと排気温Texとの温度差がほとんど無くなり、排気通路5から吸気通路4への温度差による排ガスの熱対流と、それによる排ガスの逆流が終了したと判定する。
【0044】
また、この状態では、吸気通路4と外部との間で、酸素濃度の勾配が生じるため、この濃度勾配による拡散が生じる。このため、ステップ9以降において、この拡散によって変化する算出対象通路部内の第2酸素濃度ODI2(N)を算出する。まず、ステップ9において、酸素流入量QO2を算出する。図6は、そのサブルーチンを示しており、最初のステップ30では、吸気通路4に流入する単位面積あたりの酸素量Jを算出する。
【数8】

この式(8)は、フィックの法則に基づくものであり、Dは拡散定数、Lは、吸気通路4の上流端から吸気マニホルド4aの入口(スロットル弁13a)までの距離である。また、ODI2(N−1)は、算出対象通路部内の第2酸素濃度ODI2の前回値、OATMは、空気の酸素濃度である。したがって、−(ODI2(N−1)−OATM)/Lは、前回の処理サイクルにおける外部と算出対象通路部との間の酸素濃度の勾配を表し、この勾配に拡散定数Dを乗算することによって、単位面積あたりの酸素量Jが算出される。なお、第2酸素濃度ODI2の初期値は、第1酸素濃度ODI1の最終値に設定される。
【0045】
次に、次式(9)に従って、酸素流入量QO2を算出する(ステップ31)。
【数9】

ここで、A2は吸気マニホルド4aの入口面積である。したがって、式(9)によって求められる酸素流入量QO2は、前回と今回との処理サイクル間で、外部からの拡散により吸気マニホルド4aを介して算出対象通路部に流入する酸素量に相当する。
【0046】
図4に戻り、前記ステップ9に続くステップ10では、次式(10)に従って、第2酸素濃度ODI2(N)を算出する。
【数10】

ここで、右辺第1式のVin×ODI2(N−1)は、前回の処理サイクルにおける算出対象通路部内の酸素量を表し、したがって、この値と、前記式(9)によって算出された酸素流入量QO2との和は、今回の算出対象通路部内の酸素量に相当する。また、この酸素量を容積Vinで除算することによって、算出対象通路部内の第2酸素濃度ODI2(N)が得られる。
【0047】
次に、算出された第2酸素濃度ODI2(N)を、酸素濃度ODIとして設定する(ステップ11)とともに、前回値ODI2(N−1)にシフトし(ステップ12)、本処理を終了する。
【0048】
一方、イグニッション・スイッチがオフされた2回目以降の処理サイクルでは、前記ステップ1の判別結果がNOになるので、そのときには、バルブオーバーラップ発生フラグF_O/Lが「1」であるか否かを判別する(ステップ13)。
【0049】
この判別結果がYESのときには、バルブオーバーラップが発生しているため、前記ステップ4以降に進み、本処理を終了する。
【0050】
一方、ステップ13の判別結果がNOのときには、バルブオーバーラップは発生していないことから、排気通路5から吸気通路4へ排ガスが逆流していないため、そのまま本処理を終了する。
【0051】
図7は、始動時燃料制御処理を示している。まず、ステップ40において、基本燃料噴射量QBASEを算出する。この基本燃料噴射量QBASEは、エンジン回転数NEにおよび要求トルクPMCMDに基づいて、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。また、この要求トルクPMCMDは、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに基づいて算出される。
【0052】
次に、バルブオーバーラップ発生フラグF_O/Lが「1」であるか否かを判別する(ステップ41)。
【0053】
この判別結果がNOのときには、エンジン3の停止中にバルブオーバーラップが生じていないため、始動時補正量ΔQINJを0に設定する(ステップ42)。
【0054】
一方、前記ステップ41の判別結果がYESのときには、空気の酸素濃度OATMと前記ステップ7または11で算出された酸素濃度ODIとの差(OATM−ODI)を酸素濃度減少量ΔODIとして算出する(ステップ43)。
【0055】
次に、ステップ44において、酸素濃度減少量ΔODIに応じ、図8に示すマップを検索することによって、始動時補正量ΔQINJを算出する。このマップでは、酸素濃度減少量ΔODIが大きいほど、始動時補正量ΔQINJはより大きな値に設定されている。
【0056】
次に、ステップ45において、前記ステップ40で算出された基本燃料噴射量QBASEから、前記ステップ42または44で算出された始動時補正量ΔQINJを減算することにより、燃料噴射量QINJを算出し、本処理を終了する。
【0057】
以上のように、本実施形態によれば、エンジン3の停止時に、吸気弁8と排気弁9とのバルブオーバーラップが発生したときに、吸気温Tinおよび排気温Texに応じて、排気通路5から気筒3aを介して吸気通路4の算出対象通路部に逆流する排ガス逆流量QEXを算出するとともに、算出した排ガス逆流量QEXに応じて算出対象通路部内の第1酸素濃度ODI1を算出する。
【0058】
また、吸気温Tinと排気温Texとの温度差がほとんど無くなったときには、外部と吸気通路4の算出対象通路部との間に生じる酸素濃度の勾配に応じて、外部から算出対象通路部に流入する酸素流入量QO2を算出するとともに、算出した酸素流入量QO2に応じて、算出対象通路部内の第2酸素濃度ODI2を算出する。
【0059】
そして、空気の酸素濃度OATMと第1酸素濃度ODI1または第2酸素濃度ODI2との差である酸素減少量ΔODIに応じて、始動時補正量ΔQINJを算出するとともに、この始動時補正量ΔQINJを基本燃料噴射量QBASEから減算することによって、燃料噴射量QINJを算出する。これにより、吸気通路4内の実際の酸素濃度に見合った量の燃料を供給することができる。その結果、混合気の空燃比が適正に制御され、内燃機関の再始動時の燃焼不良を回避でき、それにより、始動性や排ガス特性の向上を図ることができる。
【0060】
また、酸素濃度減少量ΔODIが大きいほど、始動時補正量ΔQINJをより大きな値に設定するので、基本燃料噴射量QBASEは、より大きく減量するように補正される。これにより、吸気通路4の算出対象通路部の酸素濃度の減少量に見合った量の燃料を供給することができる。
【0061】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、排気通路温度パラメータとして、排気温Texを用いているが、排気通路5に設けられた触媒7の温度を用いてもよい。また、エンジン3の停止直前のエンジン回転数NEと吸気負圧から推定した排気温を用いてもよい。
【0062】
また、実施形態では、圧力差ΔPを、吸気温Tinおよび排気温Texに応じて推定したが、実際に検出された吸気通路4および排気通路5の圧力を用いて算出してもよい。
【0063】
また、実施形態は、本発明を車両に搭載された直列4気筒の直噴ガソリンエンジンに適用した例であるが、本発明は、これに限らず、4気筒以外のエンジンやV型気筒を有するエンジン、ポート噴射型のエンジンに適用してもよい。また、ガソリンエンジン以外の各種のエンジン、例えば、ディーゼルエンジン、さらには、フレキシブル・フューエル・ヴィークル(FFV)のエンジンに適用してもよく、また、車両用以外のエンジン、例えば、クランク軸を鉛直に配置した船外機などのような船舶推進機用エンジンにも適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 燃料供給制御装置
2 ECU(バルブオーバーラップ判定手段、排ガス逆流量算出手段、酸素濃度推 定手段、燃料供給量設定手段、燃料供給量補正手段)
3 エンジン(内燃機関)
4 吸気通路
5 排気通路
8 吸気弁
9 排気弁
25 吸気温センサ(吸気通路温度パラメータ検出手段)
26 排気温センサ(排気通路温度パラメータ検出手段)
Tin 吸気温(吸気通路温度パラメータ)
Tex 排気温(排気通路温度パラメータ)
QEX 排ガス逆流量
ODI1 第1酸素濃度(酸素濃度)
OATM 空気の酸素濃度(基準値)
ΔODI 酸素濃度減少量(基準値と酸素濃度との差)
QBASE 基本燃料噴射量(燃料供給量)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路から気筒内に吸気弁を介して空気を吸入し、当該気筒内で生成された排ガスを排気弁を介して排気通路に排出するとともに、前記気筒に供給される燃料量を制御する内燃機関の燃料供給制御装置であって、
前記内燃機関の停止時に、前記吸気弁と前記排気弁とのバルブオーバーラップが発生しているか否かを判定するバルブオーバーラップ判定手段と、
前記吸気通路内の温度を表す吸気通路温度パラメータを検出する吸気通路温度パラメータ検出手段と、
前記排気通路内の温度を表す排気通路温度パラメータを検出する排気通路温度パラメータ検出手段と、
前記バルブオーバーラップ判定手段により、前記バルブオーバーラップが発生していると判定されたときに、前記検出された吸気通路温度パラメータおよび前記排気通路温度パラメータに応じて、前記排気通路から前記気筒を介して前記吸気通路に逆流する排ガスの量を、排ガス逆流量として算出する排ガス逆流量算出手段と、
当該算出された排ガス逆流量に応じて、前記吸気通路内の酸素濃度を推定する酸素濃度推定手段と、
前記内燃機関の始動時に、前記燃料供給量を設定する燃料供給量設定手段と、
前記推定された酸素濃度に応じて、前記設定された燃料供給量を補正する燃料供給量補正手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の燃料供給制御装置。
【請求項2】
前記燃料供給量補正手段は、所定の基準値と前記推定された酸素濃度との差が大きいほど、前記燃料供給量をより大きく減量するように補正することを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の燃料供給制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−164010(P2010−164010A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8225(P2009−8225)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】