説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】車両停止時に燃料噴射を停止して内燃機関を自動停止した後、あるいは、完暖機状態での始動要求発生に伴い機関を始動させる燃料噴射制御装置において、始動時のプレイグニッションを抑制しつつ始動性を向上する。
【解決手段】内燃機関の自動停止時に吸気行程にある気筒を判定して記憶しておき、該吸気行程で停止した気筒に対し、再始動要求直後に機関回転前の1回目の燃料噴射を行い、所定の噴射間隔Dsplを置いて、機関回転後に2回目の燃料噴射を行うことにより、1回目に噴射された燃料で冷却された混合気を筒内に吸入して筒内を冷却し、2回目に噴射された燃料で筒内の混合気を均一化してプレイグニッションの発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関し、特に、自動停止された内燃機関の再始動時または暖機完了状態での始動時の燃料噴射制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、完暖後の再始動時(例えば、アイドルストップ状態からの再始動時)に始動前燃料噴射を実施するとともに、機関回転後の始動中の燃料噴射量を減少補正することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−215192号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、始動時要求噴射量を始動前(機関回転前)の機関が停止している状態で一度に噴射する構成であるため、燃料噴霧の貫徹力(ペネトレーション)が強く、かつ、筒内に向かう吸入空気の流れがない状態で噴射されるので、吸気通路壁面に付着する付着量が多くなって吸気通路内での気化率が低下する。
【0005】
このため、燃料噴霧の気化潜熱によって吸気通路内を冷却させる効果が低下し、機関再始動時に比較的温度の高い吸入空気が筒内導入されることで自己着火する、所謂、プレイグニッションが発生してしまう惧れがあった。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、自動停止された内燃機関の再始動時または暖機完了状態での始動時におけるプレイグニッションを抑制して始動性を向上できる燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため本発明は、
各気筒の吸気ポートに燃料噴射弁から燃料噴射する車両用内燃機関の燃料噴射制御装置であって、以下の各手段を含んで構成される。
【0008】
A.前記内燃機関の停止時(自動停止手段による停止を含む)に、吸気行程で停止された気筒を判定する吸気行程停止気筒判定手段
B.前記内燃機関の始動要求を検出する始動要求検出手段
C.自動停止手段による自動停止後、又は機関温度検出手段で検出された機関温度が完全暖状態で、前記始動要求に基づいて機関を始動するときに、前記吸気行程で停止された気筒に対する初サイクルの燃料噴射を、少なくとも機関回転前の噴射を含んで複数回に分割して噴射する始動開始気筒噴射制御手段
【発明の効果】
【0009】
前記自動停止後又は完暖状態を検出したときの始動時に、吸気行程で停止した気筒に対し、機関回転前の噴射を含む複数回に分割して燃料噴射することにより、プレイグニッションを抑制して始動性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用する車両用内燃機関の構成図。
【図2】(A)は、第1実施形態のタイムチャート、(B)は、第2実施形態のタイムチャート。
【図3】(A)は、第3実施形態のタイムチャート、(B)は、第4実施形態のタイムチャート。
【図4】(A)は、第5実施形態のタイムチャート、(B)は、第6実施形態のタイムチャート。
【図5A】第1実施形態のフローチャート。
【図5B】第2,第4実施形態のフローチャート。
【図5C】第3,5実施形態のフローチャート。
【図5D】第6実施形態のフローチャート。
【図5E】第7実施形態のフローチャート。
【図6】第2実施形態の一例のタイムチャート。
【図7】第2実施形態の別の例のタイムチャート。
【図8】内燃機関自動停止時における吸気弁の閉弁時期制御のフローチャート。
【図9】同上吸気弁の閉弁時期制御のタイムチャート。
【図10】(A)は、噴霧衝突型燃料噴射弁の噴孔周辺部を拡大した示した図、(B)は、(A)中のノズルプレートを単体で示す断面図、(C)は、同上ノズルプレートを単体で示す平面図、(D)は、(C)中の各ノズル孔組を燃料の噴射動作と一緒に拡大して示す要部拡大図、(E)は、ノズル孔組を構成する各ノズル孔を(D)中の矢示VI−VI方向からみた拡大断面図。
【図11】再始動時の燃圧上昇制御の要部を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明を適用する車両用内燃機関の構成図であり、内燃機関101の吸気管102には、スロットルモータ103aでスロットルバルブ103bを開閉駆動する電子制御スロットル104が介装され、該電子制御スロットル104及び吸気バルブ105を介して、燃焼室106内に空気が吸入される。
【0013】
燃焼排気は燃焼室106から排気バルブ107を介して排出され、フロント触媒108及びリア触媒109で浄化された後、大気中に放出される。
【0014】
前記排気バルブ107は、排気側カム軸110に軸支されたカム111によって一定のリフト量及び作用角(開から閉までのクランク角)を保って開閉駆動されるが、吸気バルブ105は、可変バルブリフト機構112によってリフト量及び作用角、すなわちバルブの開度が連続的に変えられるようになっている。なお、リフト量と作用角とは、一方の特性が決まれば他方の特性も決まるように同時に変えられる。
【0015】
同じく吸気側には、前記クランク軸と吸気側カム軸との回転位相差を連続的に可変制御して、吸気バルブ105のバルブタイミング(弁開閉タイミング)を進遅角する機構で構成される可変バルブタイミング機構201及び該吸気側カム軸の回転位置を検出するための吸気側カム角センサ202が吸気側カム軸の両端部に設けられる。
【0016】
エンジン制御用電子コントロールユニット(EECU)114は、スロットルバルブ103bの開度及び吸気バルブ105の開特性によってアクセル開度ACCに対応する目標吸入空気量が得られるように、アクセル開度センサAPS116で検出されるアクセルペダルの開度等に応じて前記電子制御スロットル104、可変バルブリフト機構112を制御する。なお、アクセル開度センサAPS116は、所定のアクセル開度以下をアイドル状態として検出する(ONとなる)アイドルスイッチ116aを内蔵している。
【0017】
前記EECU114には、前記アクセル開度センサAPS116、吸気弁のリフト量及び作用角に相当し、前記可変バルブリフト機構112アクチュエータである電動モータによって駆動される制御軸の回転角を検出する回転角センサ127、前記吸気側カム角センサ202の他、機関101の吸入空気量Qを検出するエアフローメータ115、クランク軸から回転信号(単位角毎に出力される信号及び行程位相差毎に出力される気筒判別信号等)を取り出すクランク角センサ117、スロットルバルブ103bの開度TVOを検出するスロットルセンサ118,機関101の冷却水温度Twを検出する水温センサ119,車速センサ125,ブレーキセンサ126等からの検出信号が入力される。
【0018】
また、各気筒の吸気バルブ105上流側の吸気ポート130には、電磁式の燃料噴射弁131が設けられ、該燃料噴射弁131は、前記EECU114からの噴射パルス信号によって開弁駆動されると、所定圧力に調整された燃料を吸気バルブ105に向けて噴射する。
【0019】
一方、アイドルストップ制御用電子コントロールユニット(ISECU)120は、アイドル状態(アクセル開放状態)での車両停止時に内燃機関の燃料噴射を停止して運転を自動停止させるアイドルストップ制御(自動停止手段)と、該自動停止された後、再始動要求の発生を検出(始動要求検出手段)したときに、内燃機関を再始動させる制御を行う。
【0020】
また、車両用電源として、鉛電池121と、リチウムイオン電池122とを備え、前記内燃機関の自動停止時における停止前及び再始動時には、高電圧のリチウムイオン電池122を使用してスタータ123を起動し、スタータスイッチの手動操作による機関始動時には、低電圧の鉛電池121を使用してスタータ123を起動するように、前記ISECU120によって切換えリレー124を切換制御する。ISECU120は、リチウムイオン電池122の充電量(SOC),電圧等を目標値に維持するための制御も行う。そして、これら制御を行うために必要なセンサ類、例えば、アイドルスイッチ116a、車速センサ125、ブレーキセンサ126等からの信号をEECU114から受け取り、機関を自動停止させ、及び再始動させる指令信号をEECU114に送って、これら制御を行わせる。
【0021】
EECU114は、上記、内燃機関が自動停止されたときに吸気行程にある気筒(ピストンが吸気行程の位置で停止されている気筒。以下、吸気行程停止気筒という)及び該吸気行程停止気筒のクランク角位置を判定して記憶し(吸気行程停止気筒判定手段)、前記始動要求に基づいて機関を始動するときに、前記吸気行程停止気筒に対する初サイクルの燃料噴射を、少なくとも機関回転前の噴射を含んで複数回に分割して噴射する(始動開始気筒噴射制御手段)。
【0022】
なお、本実施形態では、EECU114と、ISECU120との2つのECUを設けて制御機能を分担させ、個々のECUをコンパクト化してレイアウトの自由度を向上できるが、1つのECUで両方の制御を行う構成としてもよいことは勿論である。
【0023】
次に、本発明に係る自動停止後、始動要求に基づく再始動時の燃料噴射制御の各実施形態を示す。尚、各実施形態では、自動停止後の始動要求に加え、暖機完了後の再始動要求(運転者によるイグニッションスイッチやスタートスイッチ等の始動スイッチ操作)を判断し、再始動時の燃料噴射制御を各実施形態のように実行させてもよい。
【0024】
所定のアイドルストップ条件(自動停止条件)が成立したとき、内燃機関の燃料噴射を停止して運転を自動停止させる。所定のアイドルストップ条件は、例えば、車両が停止状態でブレーキペダルの踏み込みを検出した時とする。
【0025】
車両の停止状態は車速センサ125による検出値VSPが0又は車両停止すると判定するための所定値以下であることをもって判定することができる。
【0026】
また、ブレーキペダルの踏み込みの検出は、ブレーキセンサ126の検出値が所定値以上であることをもって、ブレーキペダルが踏み込まれている状態であると判定することができる。
【0027】
尚、ブレーキセンサはブレーキペダルの踏み込み量を検出できる構成であるが、ブレーキペダルの踏み込みをON,OFFで検出するブレーキスイッチを適応することも可能であり、ブレーキスイッチがONした時にブレーキペダルが踏み込まれたと判定する。
【0028】
また、上記アイドルストップ条件の他、機関冷却水温度が所定値以上の完暖状態であることや、アイドルスイッチ116aがONであり、機関がアイドル運転状態であることを判定した時や、機関回転速度Neがアイドル状態での設定回転速度範囲にあること、または、電池の充電量が再始動可能な所定値以上であることなどの条件を追加ないし、組み合わせてアイドルストップ条件を設定することができる。
【0029】
上記の内燃機関の自動停止を行った後、運転者によるブレーキ開放、または、アクセル踏み込み等による再始動要求を検出したとき、即ち、ブレーキセンサの検出値が前記所定値以下である時、または、ブレーキスイッチがOFFであることを検出した時やアクセル開度センサAPS116によって、アクセル開度がアイドル運転範囲外となる所定値以上であることを検出したときに、各気筒の燃料噴射量が以下のように設定される。
【0030】
まず、自動停止時に、吸気行程停止気筒が判定されて記憶されており、この気筒に対し、再始動時の燃料噴射量(以下、再始動時噴射量という)を複数回に分割して噴射する。ここで、再始動時噴射量を複数回に分割する分割噴射は、吸気弁の開時期から吸気弁の閉時期までの期間に行うことができる。
【0031】
また、可変バルブタイミング機構201や可変バルブリフト機構112の作動などによって吸気弁閉時期がピストンの下死点後に制御されて機関が停止している時は、ピストン下死点後では、始動時に吸気弁が開かれていても機関回転後はピストンが上昇するので噴射燃料が筒内に吸入されにくく、再始動時噴射量を筒内に導入し難くなる。
【0032】
そこで、前記吸気弁閉時期より進角側となるピストンの下死点前までに分割噴射を完了させることが好ましい。
【0033】
ピストンの下死点乃至、下死点前までに分割噴射を完了させることで、ピストンが下降している状態、即ち、ピストンによって筒内への吸入速度が比較的高い状態で分割噴射が完了するので、噴射した燃料分を筒内に導入し易くなり、良好な燃焼を行うことで始動性を向上させることができる。
【0034】
さらに好ましくは、下死点前30°付近までに分割噴射を完了させることが好ましい。即ち、燃料噴射弁から燃料を噴射した後、筒内に導入されるまでに遅れが生じるため、遅れを考慮して燃料噴射弁から噴射した燃料が筒内に導入されるタイミングを分割噴射完了タイミングの限界タイミングとして設定し、限界タイミングまでに分割噴射を完了させることが好ましい。
【0035】
下死点前30°付近であれば、再始動時噴射量を分割噴射によって筒内に導入させることができる。
【0036】
また、可変バルブタイミング機構201や可変バルブリフト機構112の作動によって吸気弁閉時期がピストンの下死点以前に制御されている時は、閉時期までに分割噴射を完了させることが好ましい。
【0037】
また、この場合にも閉弁時期までに噴射燃料が筒内に導入されるよう、燃料噴射弁から噴射されてから筒内に導入されるまでの遅れを考慮して吸気閉時期前に設定される限界タイミングまでに分割噴射を完了させることが好ましい。これにより、噴射した燃料分を筒内に導入し易くなり、良好な燃焼を行うことで始動性を向上させることができる。
【0038】
図2(A)は、第1実施形態のタイムチャート(横軸tは時間)を示す。
【0039】
本実施形態では、機関回転前に2回の分割噴射を行うものを示し、噴射タイミングは、前記再始動要求を検出後直ちに初回噴射の噴射タイミングを設定し、該初回の噴射終了後、所定のディレイ時間Dspl経過後に2回目噴射の噴射タイミングを設定する。
前記2回目の噴射タイミングは、該2回目の噴射が機関回転開始前に終了するように、以下の関係を満たして設定される。
【0040】
Dspl<tw−tp1−tp2=tw−tp・・・(1)
ただし、twは再始動要求があってから、スタータを起動して再始動(クランキング)を開始させるまでの設定時間、tp1は初回の噴射量(噴射時間),tp2は2回目の噴射量(噴射時間)で、始動時噴射量tp=tp1+tp2
tp1とtp2を等しくした場合は、tp1=tp2=tp/2
これにより、再始動要求直後から吸気行程にある気筒で、以下のように良好な燃焼を開始できる。
【0041】
再始動後の初サイクルで始動時噴射量を、機関回転前噴射を含めて複数回に分割して噴射することにより、機関回転前に、分割された1回当りの噴射時間が短い噴射が行われ、かつ、停止状態で流れの無い空気の抵抗が大きいことから燃料噴射弁から噴射される燃料噴霧の貫徹力が弱くなり、吸気通路壁面に付着する燃料分が低下する一方、吸気通路内に漂う燃料噴霧が増える。
【0042】
ここで、吸気行程停止気筒は、吸気弁が開いているため、残留ガスなど高温な筒内ガスの熱が吸気通路側に伝達されて吸気通路中の空気が過熱され、吸気通路壁に比較して高温状態となっている。このため、増大した吸気通路に漂う燃料噴霧が吸気通路内で高温の空気に晒されて気化することによって気化潜熱による空気冷却効果が高まり、冷却された吸気が機関回転開始と共に筒内に導入されるので圧縮行程での筒内温度の上昇を抑制でき、プレイグニッションの発生を抑制することができる。
【0043】
因みに、上記特許文献1に示した従来技術と比較すると、該従来技術では機関回転前に、始動要求燃料噴射量の全量を一回で噴射するため、噴霧の貫徹力が大きく、かつ、筒内へ向かう吸入空気の流れが無いため、吸気通路壁面に付着する燃料分が増大する一方、吸気通路中に漂う燃料噴霧は減少するので、空気冷却効果が低く、プレイグニッション発生を抑制しにくいことが明らかである。
【0044】
なお、機関回転前の初回の噴射タイミングは、始動要求発生直後とすることが好ましく、点火タイミング乃至、回転開始までの時間を長く取ることにより気化時間を稼ぎ、筒内冷却を促進することが可能となる。
【0045】
一方、2回目の噴射タイミングは、図では機関回転開始直前に噴射終了するものを示してあるが、このタイミングに限るものではなく、実験、シミュレーション等で最も冷却効率が高くなるタイミングに設定することが望ましい。1回目と2回目の噴射量の割合(分割比)についても同様である。
【0046】
また、機関回転前に、3回以上に分割した噴射を行う構成としてもよく、1回当りの噴射量が低減して貫徹力をより弱められるので、気化しやすくなり、吸気ポート壁への付着抑制効果も高められて、吸気ポート内の空気の冷却効果を高めることができる。
【0047】
次に、再始動時に、吸気行程停止気筒の初サイクルの機関回転前と共に、機関回転開始後にも噴射を行う実施形態について説明する。
【0048】
図2(B)に示す第2実施形態では、機関回転前と機関回転後とで2分割して設定した噴射量(再始動時噴射量の1/2)ずつ噴射する。噴射タイミングとしては、機関停止時の噴射開始タイミングは、前記再始動要求を検出後直ちに初回噴射の噴射開始タイミングを設定し、機関停止時の噴射終了後、所定のディレイ時間Dspl経過後に機関回転後の噴射のための噴射開始タイミングを設定して2回目の噴射を開始する。
【0049】
(1)式における各値を用いると、下記の条件を満たすように設定する。
【0050】
Dspl>tw−tp1・・・(2)
次に第2実施形態の作用効果を説明する。
1)吸気行程停止気筒は、吸気弁が開いているため、残留ガスなど高温な筒内ガスの熱が吸気通路内に伝達されて吸気通路内の空気が過熱され、吸気温度壁に比較して高温状態となっている。
【0051】
そこで、再始動要求直後から吸気行程にある気筒で再始動時噴射量を分割し、1回目の分割噴射を機関回転前の流れの無い、空気抵抗が大きい状態で実行するから、燃料噴射弁で噴射された燃料噴霧の貫徹力が弱まり、吸気通路壁面に付着する燃料分が低下する一方、吸気通路内に漂う燃料噴霧が増大する。そして、増大した機関回転前の貫徹力の弱い噴射によって形成される燃料噴霧が吸気通路内で高温の空気に晒されて気化するから気化潜熱による空気冷却効果が高まり、冷却された吸気が機関回転開始と共に筒内に導入されるので圧縮行程での筒内温度の上昇を抑制でき、プレイグニッションの発生を抑制することが出来る。
【0052】
2)機関回転後に噴射された燃料噴霧は、吸気流に乗って筒内に導入され、混合気が分散して筒内に導入されつつ拡散されるので筒内混合気(濃度)が均一化され、プレイグニッション発生の抑制効果がより高められる。
【0053】
図3(A)は、分割回数を3回以上の複数回とした第3実施形態を示す。
【0054】
まず、自動停止時に、吸気行程停止気筒のピストン位置に基づいて、該気筒の再始動(クランキング)開始後、吸気弁が閉じるまでの時間tcを予測する。この予測は、実験やシミュレーション等で行うことができ、前記ピストン位置毎に対応した予測時間tc(又は、後述するtwとの合計時間ts)としてマップ等に設定することもできる。また、クランキング速度は、バッテリ電圧、充電量や冷却水温度等のパラメータによって変化するので、これらパラメータの検出値に基づいて予測時間tcを補正することもできる。
【0055】
尚、アイドルストップ時の機関運転状態に応じて可変バルブタイミング機構201や可変バルブリフト機構112の作動によって吸気弁閉時期が変化する内燃機関においては、可変バルブタイミング機構201や可変バルブリフト機構112の作動状態から再始動時の吸気弁閉時期を求めて予測時間tcを算出する。
【0056】
また、既述したように、可変バルブタイミング機構201や可変バルブリフト機構112の作動などによって吸気弁閉時期がピストンの下死点後に制御されて機関が停止している時は、吸気下死点前、好ましくは下死点前30°付近までに分割噴射を完了させるように、燃料噴射弁から燃料を噴射した後、筒内に導入されるまでの遅れを考慮して燃料噴射弁から噴射した燃料が筒内に導入されるタイミングを分割噴射完了タイミングの限界タイミングとして設定し、該限界タイミング以前に分割噴射を完了させることが好ましい。したがって、この場合は、前記予測時間tcを、再始動(クランキング)開始後、前記限界タイミングに達するまでの時間tcを予測するようにしてもよい。
【0057】
そして、再始動要求を検出してから、吸気弁が閉じるまで、または、前記限界タイミングに達するまでの時間内に分割噴射を完了させるようにする。即ち、前記再始動要求があってから、スタータを起動して再始動(クランキング)を開始させるまでの設定時間twに、再始動(クランキング)開始後吸気弁が閉じるまで、または、前記限界タイミングに達するまでの予測時間tcを加算した合計時間tsの間に、分割噴射を完了させるようにする。
【0058】
即ち、再始動時噴射量tpを分割回数nで除算して1回当りの分割噴射量を設定し、合計時間ts内に分割噴射が完了するように、分割噴射間隔となるディレイ時間Dsplを設定することができる。
【0059】
まず、分割回数nは、予め決めた値(例えば、3〜5回)としてもよいが、上記合計時間tsに基づいて可変に設定してもよい。例えば、分割回数nを多く(少なく)すると1回当りの分割噴射量は少なく(多く)なって、その1回分当り噴射量に必要な気化時間は減少(増大)するが、ディレイ時間Dsplも減少(増大)するので、ディレイ時間Dsplが必要気化時間より大きくなるようにして、再始動時噴射量全体の気化効率が最も高くなる分割回数nに設定するのが好ましい。
【0060】
そして、前記再始動要求を検出後直ちに初回噴射の噴射開始タイミングを設定して燃料噴射を実行し、噴射終了後、ディレイ時間Dspl経過毎に決められた分割回数分の分割噴射を実行する。
【0061】
次に第3実施形態の作用効果を説明する。
【0062】
第3実施形態は、以下の少なくとも1つの効果を奏する。
【0063】
1)3回以上の分割噴射において、機関回転開始前の噴射回数を増大すると、1回当りの噴射量がより低減して貫徹力をより弱められるので、気化しやすくなり、吸気ポート壁への付着抑制効果も高められて、吸気通路内に漂う燃料噴霧が増大するため、気化潜熱による吸気ポート内の空気の冷却効果を高めることができる。
【0064】
2)機関回転後の噴射回数を増大すると吸気行程で間欠して噴射を継続できるので、吸気行程での噴射量の偏りをより低減でき、筒内での混合気の均一化をより向上することができる。
【0065】
3)吸気行程終了付近での噴射量を低下させることで、ガス流動の低下に応じた噴射量となり、さらに筒内での混合気の均一化を向上させることができる。
【0066】
尚、第3実施形態でも、上記第2実施形態で記載した作用効果である1)機関回転前の貫徹力の弱い噴射による吸気ポート内空気の冷却効果と、2)機関回転後の噴射による筒内混合気均一化と、によって、プレイグニッション発生の抑制効果を高められる作用効果を生ずることができる。
【0067】
図3(B)は、機関回転前と回転後とで1回ずつ計2回噴射を行うものにおいて、機関回転前の1回目の噴射量を機関回転後の2回目の噴射量より多くした第4実施形態を示す。
【0068】
噴射タイミングとしては、機関停止時の噴射開始タイミングは、前記再始動要求を検出後直ちに初回噴射の噴射開始タイミングを設定し、機関停止時の噴射終了後、所定のディレイ時間Dspl経過後に機関回転後の噴射のための噴射開始タイミングを設定して2回目の噴射を開始する。
【0069】
(1)式における各値を用いると、下記の条件を満たすように設定する。
【0070】
Dspl>tw−tp1・・・(2)
初回の燃料噴射量はディレイ時間Dsplで気化できる範囲内で設定することが好ましい。これにより、初回の燃料噴射分が気化した状態で、機関回転開始後の燃料噴射を実行することで、初回燃料噴射時の燃料噴霧が機関回転開始後に噴射された燃料噴霧と衝突して粒径が増大することで気化しにくくなり、気化潜熱による気化促進が低下するのを抑制することができる。
【0071】
また、吸気通路内温度(吸気温度)を検出する検出手段を備え、初回の燃料噴射量を吸気通路内温度に応じて可変設定することができる。
【0072】
この場合、吸気通路内温度が高いほど、ディレイ時間Dspl内で気化できる燃料量を多くできるため、初回燃料噴射量をより大きく設定する。
【0073】
これにより、吸気温度が比較的高い時にはより多くの燃料を初回燃料噴射量に設定することができるので、気化潜熱による冷却効果を高め、吸気通路内の吸気温度を低下させることができる。
【0074】
吸気通路内温度検出は、吸気通路内に温度センサを備える構成としたり、筒内温度を直接的または間接的(冷却水温度などから推定)に検出し、筒内温度から吸気通路内温度を推定したりすることができる。
【0075】
次に、第4実施形態の作用効果を説明する。
【0076】
本実施形態では、筒内導入までに気化時間を長く取れる機関回転前の1回目の噴射量を、気化時間が短い機関回転後の2回目の噴射量より多くしたことで、気化効率を向上できる。
【0077】
尚、本実施形態でも、上記第2実施形態で記載した作用効果である1)機関回転前の貫徹力の弱い噴射による吸気ポート内空気の冷却効果と、2)機関回転後の噴射による筒内混合気均一化と、によって、プレイグニッション発生の抑制効果を高められる作用効果を生ずることができる。
【0078】
図4(A)は、3回以上に分割して噴射するものにおいて、早く噴射されるほど噴射量を多く、遅く噴射されるほど噴射量を少なくなるようにした第5実施形態を示す。
【0079】
自動停止時に、吸気行程停止気筒のピストン位置に基づいて、該気筒の再始動(クランキング)開始後、吸気弁が閉じるまでの時間tc、または、第3実施形態で用いた限界タイミングに達するまでの時間tcを予測し、再始動要求を検出してから、吸気弁が閉じるまで、または、前記限界タイミングに達するまでの時間、即ち、前記再始動要求があってから、スタータを起動して機関回転を開始させるまでの設定時間twに前記予測時間tcを加算した合計時間tsの間に、分割噴射を完了させるようにすることは、第3実施形態と同様である。
【0080】
一方、本実施形態では、個々の分割噴射量は、始動時噴射量を100%とした時の分担率(%)を予め設定し、始動時噴射量に分担率を乗算して個々の分割噴射量を設定している。そして、分担率は噴射順序が早いほど大きく設定し、より多くの噴射量を噴射するように分担率が設定される。
【0081】
分割回数nについては、予め決めた値(例えば、3〜5回)としてもよいが、上記合計時間tsに基づいて可変に設定してもよい。
【0082】
分割噴射間隔となるディレイ時間Dsplは、再始動時噴射量tp、合計時間ts,分割回数nに基づいて、合計時間tsの間に分割噴射を完了させるように設定することができる。
【0083】
そして、前記再始動要求を検出後直ちに初回噴射の噴射開始タイミングを設定して燃料噴射を実行し、その後、ディレイ時間Dspl毎に決められた分割回数分の分割噴射を実行する。
【0084】
また、ディレイ時間Dsplは、簡易的には、各分割噴射間の間隔が等しい1つの値として設定できるが、別の設定手段として、噴射順序が早いほど、ディレイ時間Dsplを長く取ることで、気化時間をより長く確保し、次の分割噴射による燃料噴霧との衝突を抑制することができる。
【0085】
これにより、個々の分割噴射間での燃料噴霧同士の衝突を抑制し、衝突による燃料噴霧粒径の増大により気化効率が低下するのを抑制することができる。
【0086】
次に第5実施形態の作用効果を説明する。
【0087】
本実施形態では、筒内導入までに気化時間を稼げる早い噴射ほど噴射量を多く、気化時間が短い遅い噴射ほど噴射量を少なくしたことで、気化効率を向上できる。
【0088】
尚、第5実施形態でも、上記第2実施形態で記載した作用効果である1)機関回転前の貫徹力の弱い噴射による吸気ポート内空気の冷却効果と、2)機関回転後の噴射による筒内混合気均一化と、によって、プレイグニッション発生の抑制効果を高められる作用効果を生ずることができる。
【0089】
図4(B)に示す第6実施形態は、機関回転開始後の機関回転速度(クランキング速度)を検出し、該回転速度が所定値に達したときに、機関回転後の噴射を開始するようにしたものである。
【0090】
本実施形態では、機関回転前と機関回転後とで2分割して設定した噴射量(再始動時噴射量の1/2)ずつ噴射する。噴射タイミングとしては、機関停止時の噴射開始タイミングは、前記再始動要求を検出後直ちに初回噴射の噴射開始タイミングを設定し、機関停止時の噴射終了後、機関回転速度Neが所定値以上であることを判定した時に機関回転後の分割噴射を実行する。
【0091】
前記所定値は例えばクランキングの開始等によって実際に機関が回転を開始したことを検出するために設定されるものであり、アイドル運転時の回転速度以下の値に設定される。機関回転速度は、例えばクランク角センサ117のパルス発生角度(例えば10°)とパルス発生時のパルス間隔時間から算出することができる。
【0092】
なお、機関回転前の分割噴射回数を複数回としてもよい。機関回転後の分割噴射回数も可能であれば複数回とすることもでき、最終噴射の噴射終了タイミングが機関回転後に有効な噴射を行える限界クランク角度θerst以下となるように噴射間隔のディレイ時間Dsplを設定すればよい。
【0093】
また、早い分割噴射ほど遅い分割噴射より噴射量を大きくしてもよい。
【0094】
次に第6実施形態の作用効果を説明する。
【0095】
本実施形態では、実際の機関回転速度を検出し、機関回転速度が増大して吸入空気の筒内への流速が大きくなってから噴射を開始することにより、燃料噴霧の気化、筒内での均一化が促進される効果を奏する。
【0096】
ところで、機関回転後の噴射(3回以上の分割噴射では最後の噴射)における噴射終了タイミングは、吸気行程終了までに終了させる必要がある。この場合も、自動停止されたときに吸気行程にある気筒を検出する場合と同様、例えば、後述するように可変動弁機構によって吸気弁閉時期はピストンの下死点後に設定されていても、機関回転後の最終噴射における噴射終了タイミングは、吸気下死点以前に設定することが好ましい。但し、クランキングにおいても過給機による過給等によって、吸気下死点後も筒内に混合気が吸入される状態であれば、該吸入の終了タイミング(混合気の吸入効果が不十分となるタイミング)を、機関回転後の最終噴射における噴射終了タイミングとして設定することができる。
【0097】
以下、上記機関回転後の最終噴射における噴射終了タイミングを、吸気行程終了までに終了させる制御を含んだ実施形態を、図5A〜5Dのフローチャートに従って説明する。
【0098】
図5Aは、機関回転前のみに分割噴射を行う図2(A)に示した第1実施形態に対応する。
【0099】
ステップS1では、上述したような所定のアイドルストップ条件が成立したかを判定し、成立したときは、ステップS2へ進み、内燃機関の自動停止のため、燃料噴射を停止する。
【0100】
ステップS3では、機関停止位置を安定化させる処置を実行する。具体的には、スロットル開度を全開にするなど、機関負荷(回転抵抗)を増大させることにより、機関が停止するときの各気筒のピストン位置を所定のクランク角度範囲内に停止させ、停止位置のバラツキを抑制する。これにより、安定した始動性を確保することができる。機関負荷の増大は、上記の他、吸気弁のリフト量や作用角、バルブタイミング、オルタネータの発電制御、ハイブリッド車では走行用電動モータの制御等によっても可能である。
【0101】
ステップS4で機関回転停止後、ステップS5で、前記クランク角センサ117からの信号に基づいて該停止状態で吸気行程にある気筒を判定すると共に、該吸気行程停止気筒のピストン位置(クランク角位置)を検出して、バックアップメモリに記憶する。
【0102】
ステップS5では、前記記憶された吸気行程停止気筒のクランク角度θ(吸気上死点からの角度)が、アイドルストップ停止後機関回転前に、吸気行程停止気筒に分割噴射したときに、該分割噴射された吸気通路内の燃料の噴霧が、機関回転後に吸気行程終了までに筒内に十分に吸入することができる限界クランク角度θerst’以下(進角側)であるかを判定する。即ち、吸気行程停止気筒であっても、機関回転後に残されている吸気行程が短か過ぎる場合は、機関回転前に吸気通路内に噴射された噴霧が筒内に十分に吸入されず、当該気筒で良好な再始動を開始させることが難しいので、この場合には、機関回転前の分割噴射を禁止するため上記判定を行う。
【0103】
ステップS5で、吸気行程停止気筒のクランク角度θが限界クランク角度θerst’以下と判定されたときは、機関回転前の分割噴射による吸気通路内の噴霧が機関回転後に十分に吸入されると判断されるので、ステップS6へ進んで、再始動時噴射量tpを、水温等に基づいて設定すると共に、該再始動時噴射量tpを分割回数nで除算して各回の噴射量tpnを算出する。同時に、各分割噴射間の間隔であるディレイ時間Dsplを算出する。
【0104】
次いでステップS7では、アクセルペダル踏み込み操作等、再始動要求が発生したかを判定する。
【0105】
ステップS7で再始動要求が発生したと判定されたときは、ステップS8へ進み、機関回転停止前の燃料噴射(1回目の噴射)を開始する。
【0106】
次いでステップS9では、ステップS8での噴射終了後、前記ディレイ時間Dsplを経過後に2回目の分割噴射を行う。なお、3回以上分割噴射を行う場合は、分割噴射終了毎にディレイ時間Dsplを経過後に次の分割噴射を行って、機関回転前の分割噴射を完了させる。
【0107】
ステップS10では、再始動要求発生後、所定のディレイ時間twを経過後にスタータを起動させて、機関始動(クランキング)を開始する。
【0108】
一方、ステップS5で吸気行程停止気筒のクランク角度θが限界クランク角度θerst’より大きい(遅角側)と判定されたときは、該気筒での分割噴射は行えないと判断して、ステップS11へ進み、再始動時噴射量を設定し、ステップS12で再始動要求成立判定後、ステップS13で、排気行程で停止された気筒に対して、設定された再始動時噴射量の燃料を噴射する。
【0109】
図5Bは、機関回転前と機関回転後とで1回ずつの分割噴射を行う実施形態のフローを示す。
【0110】
ステップS1〜ステップS4は、図5Aと同様であり、所定のアイドルストップ条件成立時に、内燃機関の自動停止のため、燃料噴射を停止し、機関停止位置を安定化させる処置を実行した後、吸気行程停止気筒を判定し、そのピストン位置(クランク角位置)を検出して記憶する。
【0111】
ステップS21では、前記記憶された吸気行程停止気筒のクランク角度θが、再始動時において分割噴射、特に機関回転後に有効な噴射を行える限界クランク角度θerst以下であるかを判定する。
【0112】
ステップS21で吸気行程停止気筒のクランク角度θが限界クランク角度θerst以下であると判定されたときは、ステップS22で再始動時の燃料噴射量(以下、再始動時噴射量という)を、水温等に基づいて設定すると共に、分割噴射方式とすることを決定し、再始動時噴射量tpを分割回数(2回)で除算して各回の分割噴射量tpnを算出する。上述したように、図2(B)に示した第2実施形態では2回の分割噴射量tpnを等しく設定し(tp1=tp2=tp/2)、図3(B)に示した第4の実施例では1回目(機関回転前)の分割噴射量tp1を、2回目(機関回転後)の分割噴射量tp2より大きく設定する。例えば、2回目の分割噴射の噴射開始タイミングを再始動(クランキング)の開始直後に設定した場合、該設定に合わせて1回目噴射終了から2回目の噴射開始タイミングまでの噴射間隔であるディレイ時間Dsplを次式のように初期設定する。
【0113】
Dspl=tw−tp1・・・(3)
次いで、ステップS23では、上記分割噴射において、上記各回の分割噴射量tp1,tp2と噴射間隔の初期値(ディレイ時間Dspl)とから求めた機関回転後の2回目の噴射における噴射終了タイミングθendを、混合気の吸入効果が良好に維持される限界のクランク角度(混合気吸入限界クランク角度)θitendと比較する。
【0114】
混合気吸入限界クランク角度は、上述したように、通常は吸気下死点でよいが、過給機で過給する場合で吸気弁閉時期が吸気下死点後にあるときは吸気弁閉時期としてもよい。
【0115】
また、機関の自動停止中の可変バルブタイミング機構201や可変バルブリフト機構112の作動状態、即ち吸気弁の閉時期から限界のクランク角度(限界タイミング)θitendを設定することもできる。
【0116】
また、これらから設定される限界のクランク角度(混合気吸入限界クランク角度)θitendは、燃料噴射から筒内に導入されるまでの遅れを考慮して上述した吸気下死点や吸気弁閉時期よりも進角側のクランク角度として設定することができる。
【0117】
そして、ステップS23でθend>θitendと判定されたときは、ステップS24でθend≦θitendとなるように分割噴射のディレイ時間Dsplを減少補正した後、ステップS25へ進み、前記自動停止から機関の再始動の要求が発生したかを判定する。
【0118】
このように自動停止中に再始動時の燃料噴射量を設定しておくことで、再始動要求検出後に燃料噴射量演算する場合に比較して、演算遅れを抑制でき再始動要求に対する燃料噴射遅れが減少し、始動時間を短縮して始動性を向上することができる。
【0119】
ステップS25で再始動要求が発生したと判定されたときは、ステップS26へ進み、機関回転停止前の燃料噴射(1回目の噴射)を開始する。
【0120】
ステップS26では、再始動要求発生後、所定のディレイ時間twを経過後にスタータを起動させて、機関始動(クランキング)を開始する。
【0121】
ステップS27では、機関回転前の1回目の噴射終了後、前記ディレイ時間Dsplを経過後に、機関回転後の2回目の燃料噴射を行って本ルーチンを終了する。
【0122】
ここで、ステップS23で初めからθend≦θitendと判定されて、ディレイ時間Dsplが初期設定のときは、スタータの起動による機関回転(クランキング)開始後に、機関回転後の燃料噴射が開始されるが、初めは図6(A)に示すようにθend>θitendと判定されてディレイ時間Dsplを減少補正された場合は、図6(B)に示すように2回目の噴射開始時期が早められる。したがって、減少補正量が大きいと、機関回転前から燃料噴射を開始して機関回転後で噴射終了する場合もある。
【0123】
このように噴射間隔を小さくすることにより、できる限り吸気行程停止気筒による分割噴射を実行して、速やかな燃焼を開始して始動完了時間を短縮でき、始動性が向上する。
【0124】
また、ステップS21で図7(A)に示すように、吸気行程停止気筒のクランク角度θが限界クランク角度θerstより大きいと判定されたときは、該気筒での分割噴射は行えないと判断して、ステップS11へ進み、再始動時噴射量を設定し、ステップS12で再始動要求成立判定後、ステップS13で、排気行程で停止された気筒に対して、図7(B)に示すように、設定された再始動時噴射量の燃料を噴射する。
【0125】
吸気行程停止気筒へ燃料を噴射しても該吸気行程で噴射燃料が殆ど吸入できず、燃焼を行えない場合にも燃料噴射すると、次回の吸気行程では、直前の排気行程で再度噴射された燃料と重なって濃い混合気が吸入されて失火を生じたり、出力不足による回転低下を生じたりすることがある。
【0126】
本実施形態のように、吸気行程で噴射燃料が殆ど吸入できない場合は、該気筒への燃料噴射を停止(禁止)することにより、上記のような失火や回転低下等を抑制でき始動性を安定化できる。
【0127】
図5Cは、機関回転前と機関回転後とで分割噴射を行い、かつ、分割回数nを3回以上とした実施形態のフローを示す。
【0128】
ステップS1〜ステップS4、ステップS21は、図5Bと同様であり、所定のアイドルストップ条件成立時に、内燃機関の自動停止のため、燃料噴射を停止し、機関停止位置を安定化させる処置を実行した後、吸気行程停止気筒の判定と、そのピストン位置(クランク角位置)の検出,記憶を行い、吸気行程停止気筒のクランク角度θが、再始動時において機関回転後に有効な分割噴射を行える限界クランク角度θerst以下であるかを判定する。
【0129】
ステップS21で吸気行程停止気筒のクランク角度θが限界クランク角度θerst以下であると判定されたときは、分割噴射方式とすることを決定し、ステップS22で再始動時噴射量tpを水温等に基づいて設定すると共に、吸気行程停止気筒のクランク角度θ等に基づいて、分割回数n,各回の分割噴射量tpn,分割噴射の噴射間隔であるディレイ時間Dsplを算出する。
【0130】
具体的には、上述したように吸気行程停止気筒のピストン位置(クランク角位置)に基づいて、再始動要求を検出してから混合気吸入限界クランク角度θitendに達するのに要する時間を予測し、該予測した時間内に分割噴射が完了するように上記各値を設定する。
【0131】
なお、図3(A)に示した第3実施形態では、各回の分割噴射量tpnを等しく設定し(tpn=tp/n)、各分割噴射間のディレイ時間Dsplも等しく設定する。一方、図4(A)に示した第5実施形態では、早い噴射ほど分割噴射量tpnを大きく設定し、また、ディレイ時間Dsplは、早期の噴射間隔のディレイ時間Dsplほど大きくするのが好ましい。
【0132】
次いで、ステップS32へ進み、前記自動停止から機関の再始動の要求が発生したかを判定する。
【0133】
ステップS32で再始動要求が発生したと判定されたときは、ステップS33へ進み、機関回転停止前の燃料噴射(1回目の噴射)を開始する。
【0134】
ステップS33では、機関回転前の1回目の噴射終了後、前記ディレイ時間Dsplを経過後に、機関回転後の2回目の燃料噴射を行い、以下、各回の噴射後、ディレイ時間Dsplを経過後に次に分割噴射を開始する制御を繰り返す。
【0135】
ステップS34では、再始動要求発生後、所定のディレイ時間twを経過後にスタータを起動させて、機関始動(クランキング)を開始する。
【0136】
ステップS35では、前記再始動後も上記ディレイ時間Dsplの間隔での分割噴射制御を、前記混合気吸入限界クランク角度θitend内で噴射終了となるまで継続する。
【0137】
また、ステップS21で吸気行程停止気筒のクランク角度θが限界クランク角度θerstより大きいと判定されたときは、図5Bと同様、該気筒での分割噴射は行えないと判断して、ステップS11で再始動時噴射量を設定し、ステップS12で再始動要求成立判定後、ステップS13で、排気行程で停止された気筒に対して、設定された再始動時噴射量の燃料を噴射する。
【0138】
なお、図5Cは、機関回転前と機関回転後とに1回ずつ計2回の分割噴射を行うものにも適用できる。
【0139】
図5Dは、機関回転後の2回目の分割噴射の開始タイミングを、機関回転速度が所定値に達したときとする実施形態(図4(A)に示す第5実施形態)のフローを示す。
【0140】
ステップS1〜ステップS4は、図5A〜5Cと同様であり、所定のアイドルストップ条件成立時に、内燃機関の自動停止のため、燃料噴射を停止し、機関停止位置を安定化させる処置を実行した後、吸気行程停止気筒を判定し、そのピストン位置(クランク角位置)を検出して記憶する。
【0141】
ステップS41では、吸気行程停止気筒のクランク角度θが、再始動後、機関回転速度Neが所定値Ne0以上に達したときに2回目の分割噴射を開始させた場合、該分割噴射が前記混合気吸入限界クランク角度θitend内で噴射終了できるかを判定し、噴射終了できると判定されたときはステップS42以降へ進んで分割噴射を行う。
【0142】
ステップS42で再始動要求が発生したと判定されたときは、ステップS43へ進み、機関回転停止前の燃料噴射(1回目の噴射)を開始する。
【0143】
ステップS43では、再始動要求発生後、所定のディレイ時間twを経過後にスタータを起動させて、機関始動(クランキング)を開始する。
【0144】
ステップS44では、機関再始動後、機関回転速度Neが所定値Ne0以上に達したかを判定する。前記所定値Ne0は、機関回転速度Neの増大によって筒内の吸気流速が増大して噴射した噴霧の筒内での拡散効果が高い値に設定されている。
【0145】
ステップS44で、機関回転速度Neが所定値Ne0以上に達したと判定されたとき、ステップS45へ進み、2回目の分割噴射を開始する。
【0146】
一方、ステップS41で、機関回転速度Neの所定値Ne0以上で2回目の分割噴射を開始した場合には、該噴射を混合気吸入限界クランク角度θitend内で終了できないと判定された場合は、ステップS11で再始動時噴射量を設定し、ステップS12で再始動要求成立判定後、ステップS13で、排気行程で停止された気筒に対して、設定された再始動時噴射量の燃料を噴射する。
【0147】
また、ステップS41で、機関回転速度Neの所定値Ne0以上で2回目の分割噴射を開始した場合に、図5BのステップS21以降に進むようにしてもよく、このようにすれば、吸気行程停止気筒のクランク角度θが限界クランク角度θerst以下であれば、分割噴射を実行できる。
【0148】
図5Eは、暖機完了後の再始動要求を判断し、再始動時の燃料噴射制御を図5A〜5Dの各実施形態のように実行させる第7の実施形態のフローを示す。
【0149】
ステップS51では、機関始動スイッチ(イグニッションスイッチ又はプッシュ式スタートボタン等)により始動開始操作が行われたかを判定する。
【0150】
始動開始操作が行わなかったときは、ステップS57へ進んで、機関始動スイッチのOFF操作によって機関停止されたかを判定し、YESの場合はステップS58へ進み、機関停止状態でクランク角センサ117からの信号に基づいて吸気行程にある気筒を判定すると共に、該吸気行程停止気筒のピストン位置(クランク角位置)を検出して、バックアップメモリに記憶する。ステップS57の判定がNOの場合は、このフローを終了する。
【0151】
一方、ステップS51で機関始動スイッチによって始動開始操作が行われたと判定されたときは、ステップS52へ進んで、機関温度(機関冷却水温度、潤滑油温度等)の検出値を読み込む。
【0152】
ステップS53では、機関温度が暖機完了温度未満であるかを判定する。
【0153】
暖機完了未満の低温始動時と判定されたときは、ステップS54へ進み、スタータを起動してクランキングを開始し、クランク角センサ117からの信号に基づいて、気筒判別を行う。なお、この気筒判別は、ステップS58で記憶された結果をクリアして再判別される。
【0154】
ステップS55では、機関温度が低いときほど、燃料の気化性が低く吸気通路壁等に付着する燃料量が増大するので、燃料噴射量を増量補正して排気行程での燃料噴射を実行する(通常の低温始動時噴射量制御)。
【0155】
一方、ステップS54で機関温度が暖機完了温度以上と判定されたときは、アイドルストップ後の再始動時と同様の条件での暖機始動となるので、これらの各実施形態図5A〜図5Dのいずれかと同様の制御(図5Aでは、ステップS5以降、図5B,5CではステップS21以降、図5DではステップS41以降)を行う。
【0156】
かかる第7の実施形態によれば、運転者の機関始動スイッチ操作による暖機始動時にも、上述した第1〜第6の実施形態のうちの対応する実施形態の作用・効果が得られる。
【0157】
また、第7の実施形態は、上述したように、自動停止後の始動要求時における第1〜第6の実施形態と併用して行えるが、アイドルストップ等の自動停止を行わない車両において、単独で第7の実施形態を行えることは勿論である。
【0158】
以上示した実施形態において、機関回転前に複数回の分割噴射を行うことも、機関回転前の噴射量分に対し、機関回転前の分割回数n1、各分割噴射量tpn1、ディレイ時間Dspl1を設定して容易に行える。機関回転後の分割噴射を複数回とすることもでき、同様に機関回転後の噴射量分に対し、機関回転後の分割回数n2、各分割噴射量tpn2、ディレイ時間Dspl2を設定し、ステップS41で機関回転速度Neが所定値Ne0に達して噴射を開始したときに、最終の噴射が混合気吸入限界クランク角度θitend内で噴射終了できるかを判定し、噴射終了できる場合に実行すればよい。
【0159】
また、以上の実施形態において、吸気行程停止気筒に対して初サイクルで分割噴射を行うと同時に、排気行程で停止した気筒に対して再始動要求直後に再始動時噴射量分の燃料を噴射し、それ以降は、排気行程にある気筒に対し、所定の噴射開始タイミングで噴射を開始するが、2サイクル目あるいは、完爆後等機関回転が安定してからは、噴射終了タイミングを一定とするように制御を切換える。
【0160】
また、既述したように、機関回転前の噴射は、吸気ポート内空気に冷却に寄与し、機関回転後の噴射は筒内混合気の均一化に寄与して、それぞれプレイグニッション抑制効果を有する。そこで、ロングストロークエンジンや、タンブルコントロールバルブが付加されている等、比較的ガス流動が強く筒内混合気の均一性が高いエンジンであれば、第1実施形態のように、機関回転前のみで噴射量全量を分割噴射するか、または、相対的に機関回転前の噴射量を多くして冷却性強化を図り、筒内混合気の均一性が低いエンジンであれば、相対的に機関回転後の噴射量を多くして均一化強化を図るようにしてもよい。
【0161】
始動性をより向上するため、アイドルストップ時に前記可変バルブタイミング機構201を用いて、吸気弁の閉弁時期(IVC)を最遅角位置まで制御して圧縮圧力を低減する制御を併用することもできる。
【0162】
図8は、上記吸気弁の閉弁時期制御のフローチャートを示す。
【0163】
ステップS101で、アイドルストップ条件が成立したかを判定し、成立したときは、ステップS102へ進み、可変バルブタイミング機構(VTC)201により、吸気弁のバルブタイミングを最遅角させ、もって、吸気弁閉弁時期(IVC)を最大限遅角させる制御を実行する。
【0164】
また、可変バルブタイミング機構201の制御アクチュエータへの通電を停止することで機械的に最遅角に駆動する場合には、制御アクチュエータへの通電を停止して吸気弁のバルブタイミングを最遅角まで移行させてもよい。
【0165】
また、可変バルブリフト機構112は吸気弁のリフト量及び作用角が大きい側(例えば最大のリフト量)となるように制御を実行することが好ましい。
【0166】
ここで、上記可変バルブタイミング機構201によるバルブタイミングの最遅角制御と共に、可変バルブリフト機構112による吸気弁の作用角制御を併用することで、IVCをさらに遅角することが可能となり、プレイグニッションを抑制するために要求されるIVCの制御範囲を拡大することが可能となる。
【0167】
この場合、少なくとも機関が停止するまで可変バルブリフト機構112の制御アクチュエータを駆動して吸気弁のリフト量が大きい側を保持させるようにする。
【0168】
また、機関停止中も可変バルブリフト機構112の制御アクチュエータの駆動を継続するべく通電させてもよく、また、機関停止後に通電を停止して自動始動要求時に再通電させてもよい。
【0169】
ステップS103で、可変バルブタイミング機構201によって吸気弁のバルブタイミングが最遅角位置まで移行したかを判定し、移行したと判定されるまで、同制御を継続する。
【0170】
尚、吸気弁のバルブタイミングが最遅角位置まで移行したかの判定は、可変バルブタイミング機構201の実際の進角変位量が最遅角位置を示す値となったことで判定でき、該実際の進角変位量は、吸気カム軸とクランク軸の回転位相差から算出することができる。
【0171】
ステップS104で機関が停止した後、ステップS105の判定で再始動要求が発生して上述した再始動制御が行われ、ステップS106で始動完了(例えば、スタートスイッチがOFFとされ、かつ、機関回転速度が完爆相当値に達したとき)と判定されると、前記吸気弁のバルブタイミングを最遅角位置とする制御を解除し、機関運転状態に基づいて設定された吸気弁の目標バルブタイミングとする制御に切換えられる。
【0172】
図9は、上記IVC制御のタイムチャートを示す。
【0173】
アクセル開度が減少してアイドルスイッチ116aがONとなる減速アイドル状態になると、可変バルブタイミング機構(VTC)201による吸気弁のバルブタイミング制御の目標値が、減速アイドル状態に応じた遅角された値に設定され、バルブタイミングが該目標値に近づくように遅角制御される。
【0174】
また、可変バルブリフト機構(VEL)112による吸気弁のリフト量及び作用角制御の目標値も、減速アイドル状態に応じて作用角を減少した値に設定され、リフト量及び作用角が該目標値に近づくように減少制御される。
【0175】
これら吸気弁の遅角制御とリフト量及び作用角の減少制御とにより、吸気弁開時期が早められ、排気弁とのバルブオーバラップ量が減少すること等により、減速アイドル状態での燃焼性を良好に維持できる。
【0176】
減速アイドル状態によって車速が減速され、アイドルストップ判定車速を下回って、アイドルストップ条件が成立すると、上述したようにプレイグニッション回避制御が開始され、可変バルブタイミング機構(VTC)201による吸気弁のバルブタイミング制御の目標値が、最遅角位置に設定され、バルブタイミングが最遅角位置に近づくように制御される。
【0177】
一方、上述したように可変バルブリフト機構112によるプレイグニッション回避制御を併用する場合には、吸気弁のリフト量及び作用角が大きい側(例えば最大のリフト量)となるように目標値が設定され、該リフト量及び作用角が該目標値に近づくように増大制御される。
【0178】
上記可変バルブタイミング機構201による吸気弁バルブタイミングの最遅角制御は、目標値である最遅角に達したと判定されるまで継続される。また、可変バルブリフト機構112によるプレイグニッション回避制御を併用する場合は、吸気弁のリフト量及び作用角が目標値に達したと判定されるまで継続されるが、上述したように機関停止中も制御アクチュエータの駆動を継続するべく通電させてもよく(図示状態)、また、機関停止後に通電を停止して自動始動要求時に再通電させてもよい。
【0179】
上記のようにして機関が停止された後、アクセルペダルの踏み込み操作によるアクセル開度の増大を検出して再始動要求発生が検出されると、スタートスイッチがONとされて再始動(クランキング)が開始される。これにより、機関回転速度が所定値以上となってスタータスイッチがOFFとされ、かつ、機関回転速度が完爆相当値に達して始動完了と判定されると、前記可変動弁機構201による吸気弁バルブタイミングの最遅角制御が解除され、可変バルブリフト機構112による吸気弁のリフト量及び作用角増大制御を併用した場合は、該制御も解除され、それぞれ機関運転状態に基づいて設定された新たな目標値とする制御に切換えられる。
【0180】
かかる可変バルブタイミング機構201による吸気弁バルブタイミングの最遅角制御、あるいはこれに可変バルブリフト機構112による吸気弁のリフト量及び作用角増大制御を併用した制御を行えば、アイドルストップ解除後の再始動時に、吸気弁の閉時期(IVC)が最大限遅角させた位置とされていることにより、圧縮圧力が減少して機関の始動性をより向上できる。
【0181】
さらに、燃料噴射弁として複数の噴孔からの噴霧同士を衝突させて、燃料の微粒化を促進するようにしたものがある(特許4099075号参照)。
【0182】
上記燃料噴霧衝突型の燃料噴射弁の要部構造及び作用を、図に基づいて説明する。
【0183】
弁座部材8の噴射口8Cを外側から覆って設けられたノズルプレート18は、図10(A)〜図10(C)に示す如く、例えば金属板にプレス加工を施すことにより、円板状に形成された平板部18Aと、該平板部18Aの外周側に略L字状に屈曲して形成された筒部18Bとによって構成されている。
【0184】
そして、平板部18Aは、溶接部19により弁座部材8の先端面に接合され、筒部18Bは、溶接部20により弁ケーシング2の小径筒部2Bの内周面に接合されている。
【0185】
ノズルプレート18の平板部18Aに設けられた複数のノズル孔21は、例えば図10(C)及び図10(D)に示す如く、平板部18Aの中央に合計12個穿設され、弁体9の開弁時にケーシング1内の燃料を外部に噴射するものである。
【0186】
ここで、各ノズル孔21は、隣接する2個のノズル孔21A,21Bを1組とする6組のノズル孔組22,23,24,25,26,27を構成し、ノズル孔組22,23,24とノズル孔組25,26,27とは、ノズルプレート18の中心を通る軸線X−Xを挟んで互いに線対称となるように配置されている。これらのノズル孔組22,23,24,25,26,27のうち、第1のノズル孔組22,25は、図10(C)、図10(D)に示すように軸線X−Xに沿って該軸線X−Xの近傍に配置され、第2のノズル孔組23,24,26,27は、軸線X−Xに対し第1のノズル孔組22,25よりもノズルプレート18の外周側に離間し該ノズルプレート18の周方向で第1のノズル孔組22,25とは異なる位置に配置されている。
【0187】
そして、各ノズル孔組22〜27を構成するノズル孔21A,21Bは、図10(E)に示す如く、その孔中心A−A,B−Bが、ノズルプレート18の平板部18Aと直交する軸線Y−Yに対して角度θだけ傾斜し、該軸線Y−Yを挟んでV字状に交差する構成となっている。
【0188】
これにより、各ノズル孔組22〜27は、それぞれのノズル孔21A,21Bから矢示F方向に噴射された燃料の噴射流が、その噴射方向の前方で互いに衝突する衝突型のノズル孔組として構成されている。そして、第1のノズル孔組22,25による衝突後の燃料の噴霧は、図10(D)に示す噴霧パターン28,31を形成している。また、第2のノズル孔組23,24,26,27による衝突後の燃料の噴霧は、第1のノズル孔組22,25による噴霧パターン28,31とはそれぞれの噴霧方向が互いに異なる他の噴霧パターン29,30,32,33を形成するものである。
【0189】
そして、ノズル孔組22〜27は、ノズル孔21A,21Bから噴射された燃料の噴射流を互いに衝突させることにより燃料を微粒化し、この燃料を図10(D)中の噴霧パターン28,29,30,31,32,33をもって外部に噴射する。このとき、噴霧パターン28,29,30,31,32,33は、図10(D)に示すように、軸線X−Xを挟んで互いに線対称となるようにそれぞれの噴霧方向が異なるものである。
【0190】
ここで、本実施形態においては、図10(E)に示す如く、ノズルプレート18(平板部18A)の板厚tと、ノズル孔21A,21Bの孔径dとの寸法比t/dは、t/d≧1.0の関係を満たすように設定されている。
【0191】
これにより、ノズルプレート18に穿設されるノズル孔21A,21Bの長さ寸法Lを大きくすることができ、各ノズル孔21A,21Bから矢示F方向に燃料を噴射するときに、この噴射流の直進性を確保することができる。
【0192】
このため、各ノズル孔組22〜27のノズル孔21A,21Bから噴射した噴射流を適正に衝突させることにより、燃料の微粒化を促進し、ノズル孔組22〜27からの噴霧パターン28〜33を広範囲に拡張することができる構成となっている。
【0193】
かかる噴霧衝突型の燃料噴射弁を用いると、噴霧同士の衝突によって微粒化が促進されると共に噴霧パターンが広範囲に拡張して貫徹力(ペネトレーション)が減少する。このため、微粒化された燃料噴霧、特に、吸気行程停止気筒で機関回転前に噴射された燃料噴霧が吸気弁への噴霧の付着を抑制されつつ吸気ポート壁及び吸気ポート内の混合気を効率よく冷却し、筒内へ吸入されたときの筒内冷却効果が高められ、プレイグニッション発生の抑制効果を高められる。
【0194】
また、再始動時に燃料噴射弁へ供給される燃圧を高めることで燃料の微粒化をより促進できる。
【0195】
図11は、上記再始動時の燃圧上昇制御の要部フローを示す。図5AのフローチャートにおけるステップS9で再始動要求発生があったと判定された後、ステップS21へ進んで燃圧上昇制御を実行する。例えば、電動式燃料ポンプ(図示せず)へ電力を供給する電池を通常の鉛電池121からリチウムイオン電池122へ切換えるなどしてポンプ回転速度を、アイドル運転時より増大させることで燃料噴射弁へ供給される燃料圧力(燃圧)を上昇できる。
【0196】
次いで、ステップS22で、燃圧センサ(図示せず)によって検出される実燃圧が目標燃圧に達したかを判定し、達した後、ステップS10へ進んで、吸気行程停止気筒での機関回転前1回目の燃料噴射を実行する。その他は、図5Aと同様である。
【0197】
また、内燃機関を自動停止させる際、停止前に燃圧上昇制御を行って燃料配管内の燃圧を高めておけば、再始動時に燃圧上昇制御を行う際に目標燃圧に達する時間が短縮され、機関回転前1回目の噴射開始を早めて気化時間を稼ぐこともできる。
【0198】
なお、図示しないが、始動完了(完爆)後に燃料ポンプへの電源を鉛電池に切換えて通常燃圧に減少させて燃費を節約すればよい。
【0199】
かかる再始動時の燃圧上昇制御を、前記噴霧衝突型の燃料噴射弁と併用すれば、微粒化向上により、筒内冷却効果がより高められ、プレイグニッション発生の抑制効果をより高めることができるが、通常の燃料噴射弁(非噴霧衝突型)を使用するシステムに適用してもプレイグニッション発生の抑制効果を高められることは勿論である。
【0200】
更に、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
【0201】
(イ)
車両用内燃機関の各気筒の吸気ポートに燃料噴射する燃料噴射弁を駆動制御する燃料制御ユニットと、車両停止時に前記燃料噴射弁の駆動を停止して前記内燃機関の運転を自動停止させる自動停止要求と、前記自動停止された内燃機関の始動要求とを、燃料制御ユニットに出力する自動停止制御ユニットと、を含む車両用内燃機関の燃料噴射制御装置であって、前記燃料制御ユニットは、
前記自動停止制御ユニットからの始動要求信号に基づいて燃料噴射を停止して内燃機関の運転を停止する燃料噴射弁駆動停止手段と、
前記内燃機関の自動停止時に、吸気行程で停止された気筒を判定する吸気行程気筒判定手段と、
前記始動要求に基づいて機関を始動するときに、前記吸気行程で停止された気筒に対する初サイクルの燃料噴射を、少なくとも機関回転前の噴射を含んで複数回に分割して噴射する始動開始気筒噴射制御手段と、
を含んで構成される。
【0202】
かかる構成とすれば、自動停止制御ユニットと、燃料制御ユニットとの2つの制御ユニットを設けて制御機能を分担させ、個々の制御ユニットをコンパクト化してレイアウトの自由度を向上できる。
【0203】
(ロ)
請求項5に記載の車両用内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
前記始動開始気筒噴射制御手段は、前記吸気行程で停止された気筒における該吸気行程の残余期間に基づいて、前記複数回の燃料噴射の噴射間隔を制御する。
【0204】
このようにすれば、前記複数回の燃料噴射の噴射間隔を吸気行程の残余期間に基づいて設定することにより、機関回転後の燃料噴射を、前記吸気行程において混合気の筒内への吸入作用が終了する時期までに噴射を終了させるように制御することができる。
【0205】
(ハ)
請求項4,請求項5又は(ロ)に記載の車両用内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
前記内燃機関は、吸気弁の少なくとも閉弁時期を変更可能な可変動弁機構を備えており、該可変動弁機構によって前記吸気行程で停止された気筒の吸気弁の閉弁時期が吸気下死点より遅角側に設定されているときに、前記始動開始気筒噴射制御手段は、機関回転後における最終噴射の噴射終了タイミングを、前記吸気下死点以前のタイミングに設定する。
【0206】
このようにすれば、ピストンの下死点乃至、下死点前までに分割噴射を完了させることで、ピストンが下降している状態、即ち、ピストンによって筒内への吸入速度が比較的高い状態で分割噴射が完了するので、噴射した燃料分を筒内に導入し易くなり、良好な燃焼を行うことで始動性を向上させることができる。
【0207】
(ニ)
請求項1〜請求項6、(イ)〜(ハ)のいずれかに記載の車両用内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
前記始動開始気筒噴射制御手段は、早い燃料噴射の噴射期間を、遅い燃料噴射の噴射期間より長く制御する。
【0208】
このようにすれば、筒内導入までに気化時間を稼げる早い噴射ほど噴射量を多く、気化時間が短い遅い噴射ほど噴射量を少なくしたことで、気化効率を向上できる。
【0209】
(ホ)
請求項1〜請求項6、(イ)〜(ニ)のいずれかに記載の車両用内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
前記始動開始気筒噴射制御手段は、機関回転後の燃料噴射の噴射開始タイミングを機関回転速度に基づいて制御する。
【0210】
このようにすれば、機関回転速度が増大して吸入空気の筒内への流速が大きくなってから噴射を開始することにより、燃料噴霧の気化、筒内での均一化が促進される。
【符号の説明】
【0211】
101 内燃機関
114 エンジン制御用電子コントロールユニット(EECU)
115 エアフローメータ
116 アクセル開度センサ
116a アイドルスイッチ
117 クランク角センサ
120 アイドルストップ用電子コントロールユニット(ISECU)
123 スタータ
201 可変バルブタイミング機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各気筒の吸気ポートに燃料噴射弁から燃料噴射する車両用内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
前記内燃機関の停止時に、吸気行程で停止された気筒を判定する吸気行程停止気筒判定手段と、
機関温度を検出する機関温度検出手段
前記内燃機関の始動要求を検出する始動要求検出手段と、
前記機関温度が所定温度以上である完暖状態で始動要求が検出されて機関を始動するとき、前記吸気行程で停止された気筒に対する初サイクルの燃料噴射を、少なくとも機関回転前の噴射を含んで複数回に分割して噴射する始動開始気筒噴射制御手段と、
を含んで構成される車両用内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
各気筒の吸気ポートに燃料噴射弁から燃料噴射する車両用内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
車両停止時に燃料噴射を停止して前記内燃機関の運転を自動停止する自動機関停止手段と、
前記内燃機関の自動停止時に、吸気行程で停止された気筒を判定する吸気行程停止気筒判定手段と、
前記自動停止された内燃機関の始動要求を検出する始動要求検出手段と、
前記始動要求が検出されて機関を始動するときに、前記吸気行程で停止された気筒に対する初サイクルの燃料噴射を、少なくとも機関回転前の噴射を含んで複数回に分割して噴射する始動開始気筒噴射制御手段と、
を含んで構成される車両用内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記始動開始気筒噴射制御手段は、前記初サイクルの燃料噴射を、機関回転前に燃料噴射量の全量を複数回に分割して噴射するよう制御する請求項1または請求項2に記載の車両用内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記始動開始気筒噴射制御手段は、前記初サイクルの燃料噴射を、少なくとも機関回転前と機関回転後とでそれぞれ燃料噴射されるように複数回に分割して噴射するよう制御する請求項1または請求項2に記載の車両用内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記始動開始気筒噴射制御手段は、前記機関回転後の燃料噴射を、前記吸気行程において混合気の筒内への吸入作用が終了する時期までに噴射を終了させるよう制御する請求項4に記載の車両用内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記始動開始気筒噴射制御手段は、前記吸気行程で停止された気筒における該吸気行程の残余期間が所定期間以内と判定したときは、該気筒の初サイクルの燃料噴射に代えて、該気筒の次に吸気行程を迎える気筒に対し、前記初サイクルの燃料噴射量を機関回転前に噴射するよう制御する請求項4または請求項5に記載の車両用内燃機関の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−122558(P2011−122558A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282946(P2009−282946)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】