説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】本発明は、可変動弁機構を採用した内燃機関において燃料カットからの復帰時に運転性が悪化することのない内燃機関の燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンが燃料カット中であり、位相差が所定偏差Dより大きければ(S130)、位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVTを算出し(S140)、更にエンジン回転数Neが位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVTより低ければ、燃料復帰回転数Nfcより早期に燃料カットから復帰(S160)する。また、位相差が所定偏差D以下であり(S130)、エンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfcより低ければ(S260)、燃料カットから復帰する(S160)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に係り、アクセル全閉時における燃料カットの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車(車両)に搭載される内燃機関(エンジン)は、部分負荷において吸気バルブ又は排気バルブの開弁時期をずらし或いは開弁期間を長くして、吸気バルブと排気バルブとが同時に開弁している期間であるバルブオーバラップを大きくし、内部での排気の再循環(内部EGR)を増やすことによりポンプ損失及び熱損失を低減し燃費を低減する可変動弁機構を備えている。
【0003】
また、可変動弁機構の異常処理としてカムシャフトと機関出力軸(クランクシャフト)との目標相対回転位相角と実際に検出された実相対回転位相角により可変動弁機構の状態の診断を行い、診断結果より可変動弁機構が故障と診断されれば故障に対する安全装置(フェールセーフ)として、燃料カットの復帰回転速度を上方にシフトする処理が行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3945117号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の如く、上記特許文献1の内燃機関のバルブ特性制御装置では、車両の減速時にはスロットルバルブを全閉とし、燃料噴射を停止、即ち燃料カットを行い、燃費の低減を行っている。そして、可変動弁機構の異常処理としてカムシャフトとクランクシャフトとの目標相対回転位相角と実相対回転位相角により可変動弁機構の状態を診断し、可変動弁機構が故障と診断されればフェールセーフとして燃料カットの復帰回転速度を上方にシフトするようにしている。
【0006】
しかしながら、可変動弁機構の状態は正常と故障の2様態に限らず、正常動作の範囲であっても運転条件等による作動遅れにより開弁時期や開弁期間が必ずしも目標値と一致しないことがある。上記特許文献1の技術を採用したエンジンに於いても、車両の減速時にスロットルバルブを全閉として、燃料カットを行っているので燃料カットからの復帰時に可変動弁機構が作動遅れを起こすとバルブオーバラップが大きくなり、作動遅れを考慮に入れなければ内部EGRが過多となり燃焼が悪化し、エンジンの回転速度が低下する。
【0007】
このような車両の運転中におけるエンジン回転速度の低下は、運転性を悪化し好ましいことではない。
本発明は、この様な問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、可変動弁機構を採用した内燃機関において燃料カットからの復帰時に運転性が悪化することのない内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の内燃機関の燃料噴射制御装置は、車両に搭載され、内燃機関の回転速度である機関回転速度を検出する回転速度検出手段と燃焼室に燃料を供給する燃料噴射手段を有し、前記車両のアクセル全閉での走行時に前記燃料噴射手段での燃料供給を停止する内燃機関の燃料噴射制御装置であって、少なくとも吸気弁の位相角を前記内燃機関の運転状態に応じて可変する可変動弁手段と、前記可変動弁手段の前記吸気弁の目標値である目標位相角と実際に検出される前記吸気弁の実位相角との偏差である応答遅れ偏差を算出する応答遅れ偏差算出手段と、前記応答遅れ偏差が所定偏差を超えたとき前記可変動弁手段の応答遅れを判定する応答遅れ判定手段と、前記車両のアクセル全閉での走行時、前記機関回転速度が前記燃料噴射手段からの燃料供給が停止状態から復帰する第1の復帰回転速度以上であるときに該燃料噴射手段による燃料供給を停止し、該燃料噴射手段による燃料供給停止後の該機関回転速度が前記第1の復帰回転速度より低下した時に燃料供給を再開させる第1の燃料カット復帰制御手段と、前記燃料噴射手段からの燃料供給が停止状態であり、更に前記可変動弁手段の作動が応答遅れと判定された時に、前記第1の燃料カット制御手段の前記第1の復帰回転速度より高い回転速度を第2の復帰回転速度として設定し、前記機関回転速度が該第2の復帰回転速度より低下した時に該燃料噴射手段による燃料供給を再開させる第2の燃料カット復帰制御手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2の内燃機関の燃料噴射制御装置では、請求項1において、前記所定偏差は、前記回転速度検出手段にて検出された前記機関回転速度に応じて設定され、該機関回転速度が高いほど小さくなることを特徴とする。
また、請求項3の内燃機関の燃料噴射制御装置では、請求項1或いは2において、前記第2の復帰回転速度は、前記応答遅れ偏差算出手段にて算出された前記応答遅れ偏差が大きいほど高くなることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4の内燃機関の燃料噴射制御装置では、請求項1乃至3のいずれかにおいて、更に前記内燃機関の冷却水温を検出する水温検出手段を備え、前記第2の燃料カット復帰制御手段は、前記冷却水温が低くなるにつれて前記第2の復帰回転速度を高くすることを特徴とする。
また、請求項5の内燃機関の燃料噴射制御装置では、請求項1乃至4のいずれかにおいて、更に前記燃料が重質燃料か軽質燃料かを検出する燃料性状検出手段を備え、前記第2の燃料カット復帰制御手段は、前記燃料性状検出手段の検出結果が前記重質燃料である場合には、検出結果が前記軽質燃料である場合と比べて前記第2の復帰回転速度を高くすることを特徴とする。
【0011】
また、請求項6の内燃機関の燃料噴射制御装置では、請求項1乃至5のいずれかにおいて、前記応答遅れ判定手段は、予め複数の判定機関回転速度を設定され、前記機関回転速度が該複数の所定判定回転速度の内のいずれかの所定判定回転速度であれば応答遅れ判定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、アクセルの全閉が検出され、機関回転速度が燃料噴射手段からの燃料供給が停止状態から復帰する第1の復帰回転速度以上であるときには燃料供給を停止し、燃料供給停止後の機関回転速度が第1の復帰回転速度より低下した時には燃料供給を再開させ、また、燃料噴射手段からの燃料供給が停止状態にあり、更に可変動弁手段の作動が応答遅れと判定された時には、第1の復帰回転速度に対して所定回転速度増加させた第2の復帰回転速度を設定し、機関回転速度が第2の復帰回転速度より低下した時に燃料供給を再開するように燃料噴射手段を制御している。
【0013】
このように、可変動弁手段の作動が応答遅れである時に、第1の復帰回転速度に対して所定回転速度増加させた第2の復帰回転速度よりも機関回転速度が低下した場合には燃料カットから復帰するようにしているので、可変動弁手段の応答性が悪い場合には、燃料カットからの復帰を早くすることができる。
従って、可変動弁手段の応答性が悪い場合に第1の復帰回転速度で燃料カットから復帰すると、バルブオーバラップが大きく内部EGRが過多となり、燃焼が悪化し内燃機関の回転速度が低下するが、第1の復帰回転速度より所定回転速度増加させた第2の復帰回転速度で燃料カットからの復帰を早くさせることにより内部EGRの過多による内燃機関の回転速度の低下を抑制できるので運転性を良好にすることができる。また、可変動弁手段の応答性が良い場合には、第1の復帰回転まで燃料カットを行うことができるので燃費を低減することができる。
【0014】
また、請求項2の発明によれば、所定偏差は、機関回転速度が高くなるほど小さくなるようにしているので、可変動弁手段の応答性が悪い場合には、早期に燃料カットから復帰させることができる。
従って、早期に燃料カットから復帰することができるので、内部EGRの過多により燃焼が悪化し内燃機関の回転速度が低下することを抑制できるので運転性を更に良好にすることができる。
【0015】
また、請求項3の発明によれば、応答遅れ偏差が大きいほど第2の復帰回転速度を高くしているので、可変動弁手段の応答性が悪い場合には、早期に燃料カットから復帰させることができる。
従って、早期に燃料カットから復帰することができるので、内部EGRの過多により燃焼が悪化し内燃機関の回転速度が低下することを抑制できるので運転性を更に良好にすることができる。
【0016】
また、請求項4の発明によれば、内燃機関の冷却水温が低くなるにつれて第2の復帰回転速度を高くするようにしているので、冷却水温が低く燃焼の悪い状態であっても早期に燃料カットから復帰させることができる。
従って、早期に燃料カットから復帰することができるので、内燃機関が低回転速度にある時の燃焼悪化による失火を防止することができるので運転性を良好にすることができる。
【0017】
また、請求項5の発明によれば、燃料が重質燃料であれば、軽質燃料である場合と比べて第2の復帰回転速度を高くしているので、早期に燃料カットから復帰させることができる。
従って、燃料が重質燃料で揮発性が悪く空燃比が薄くなり燃焼が悪い状態あっても、早期に燃料カットから復帰することができるので、燃焼悪化による失火を防止することができるので運転性を良好にすることができる。
【0018】
また、請求項6の発明によれば、応答遅れ判定手段による応答遅れの判定を予め決められた複数の所定判定回転速度の内のいずれかの所定判定回転速度であれば判定を行うようにしているので、機関回転速度が複数の判定機関回転速度の内のいずれにも該当しなければ、可変動弁機構の応答遅れによる燃料カット復帰判定を行わないので燃料カット復帰処理を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置におけるECUの内部構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1実施例に係る燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施例に係る燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1実施例に係る燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1実施例に係るエンジン回転数における所定偏差の特性図である。
【図7】本発明の第1実施例に係る所定偏差における偏差増加回転数の特性図である。
【図8】本発明の第1実施例に係る燃料カット復帰処理を時系列で示す図である。
【図9】本発明の第2実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置におけるECUの内部構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第2実施例に係る燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2実施例に係る燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図12】本発明の第2実施例に係る燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図13】本発明の第2実施例に係る冷却水温度における水温増加回転数の特性図である。
【図14】本発明の第2実施例に係る燃料カット復帰処理を時系列で示す図である。
【図15】本発明の第3実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置におけるECUの内部構成を示すブロック図である。
【図16】本発明の第3実施例に係る燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図17】本発明の第3実施例に係る燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図18】本発明の第3実施例に係る燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図19】本発明の第3実施例に係る燃料カット復帰処理を時系列で示す図である。
【図20】本発明の第4実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置におけるECUの内部構成を示すブロック図である。
【図21】本発明の第4実施例に係る燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図22】本発明の第4実施例に係る燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図23】本発明の第4実施例に係る燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図24】本発明の第4実施例に係る燃料カット復帰処理を時系列で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置の概略構成図を示す。
以下、本発明の内燃機関の燃料噴射制御装置の構成を説明する。
図1に示すように、エンジン1(内燃機関)は、吸気管噴射型(Multi Point Injection:MPI)の4サイクル直列4気筒型ガソリンエンジンであり、図1にはそのうちの1つの気筒についての縦断面が示されている。なお、他の気筒についても同様の構成をしているものとして図示及び説明を省略する。
【0021】
図1に示すように、エンジン1はシリンダブロック2にシリンダヘッド3が載置されて構成されている。
シリンダブロック2には、エンジン1を冷却する冷却水の温度を検出する水温センサ(水温検出手段)4が設けられている。
また、シリンダブロック2に形成されているシリンダ5内には上下摺動可能にピストン6が設けられている。当該ピストン6はコンロッド7を介してクランクシャフト8に連結されている。
【0022】
また、エンジン1には、当該エンジン1の回転速度(機関回転速度、以下、エンジン回転数ともいう)を検出するクランク角センサ(回転速度検出手段、応答遅れ偏差算出手段)9が設けられている。
また、シリンダヘッド3とシリンダ5とピストン6で燃焼室10が形成されている。
また、シリンダヘッド3には、燃焼室10に臨むようにして点火プラグ11が設けられている。
【0023】
また、シリンダヘッド3には、燃焼室10からシリンダヘッド3の一側面に向かって吸気ポート12が形成されており、燃焼室10からシリンダヘッド3の他側面に向かって排気ポート13が形成されている。
また、シリンダヘッド3には、燃焼室10と吸気ポート12との連通及び遮断を行う吸気バルブ(吸気弁)14と、燃焼室10と排気ポート13との連通及び遮断を行う排気バルブ15がそれぞれ設けられている。
【0024】
また、シリンダヘッド3上部には吸気バルブ14及び排気バルブ15を駆動するカム16,17を有したカムシャフト18,19がそれぞれ設けられている。
そして、シリンダヘッド3の上部には、カムシャフト18の位相を検出するカム角センサ(応答遅れ偏差算出手段)20が設けられている。
カムシャフト18の一端には可変バルブタイミング機構(可変動弁手段)22が設けられている。
【0025】
可変バルブタイミング機構22は、例えば、カムシャフト18を駆動する図示しないカムスプロケットに図示しない油圧式アクチュエータを内蔵して構成されており、この油圧式アクチュエータへの作動油圧の給排により、カム回転位相角を自在に進角及び遅角させることが可能である。油圧式アクチュエータへの作動油圧の給排は、例えば可変バルブタイミング機構22に設けられたオイルコントロールバルブ(OCV)(可変動弁手段)24により行うことができ、OCV24の開度またはデューティ率を変えることで作動油圧の給排量を調節可能である。
【0026】
また、シリンダヘッド3の一側面には吸気ポート12と連通するように吸気マニホールド27が接続されている。
吸気マニホールド27には吸気ポート12内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射手段)26が設けられている。
また、吸気マニホールド27には吸気圧を検出する吸気圧センサ28が設けられており、吸気上流端には吸気管29が接続されている。
【0027】
吸気管29には、吸入空気流量を調節する電子スロットルバルブ(ETV)30が設けられている。ETV30には、スロットルバルブの開き度合を検出するスロットルポジションセンサ(TPS)31が備えられている。
また、吸気管29の上流側には吸入空気流量を検出するエアフローセンサ(AFS)32が設けられ、吸気管29の吸気上流端にはエアクリーナ33が設けられている。
【0028】
一方、シリンダヘッド3の他側面には排気ポート13と連通するように排気マニホールド34が接続されている。排気マニホールド34の排気下流端に図示しない排気管が接続されている。
そして、上記水温センサ4、クランク角センサ9、カム角センサ20、吸気圧センサ28、TPS31、AFS32、エンジン1の加減速操作を行うアクセルペダル40の開き度合であるアクセル開度を検出するアクセルポジションセンサ(APS)41及び車両の車速を検出する車速センサ42等の各種センサ類は、車両に搭載されている電子コントロールユニット(ECU)50,51,52,53の入力側に電気的に接続されており、これらセンサ類からの検出情報がECU50,51,52,53に入力される。
【0029】
一方、ECU50,51,52,53の出力側には、上記点火プラグ10、OCV21、インジェクタ26、ETV30等の各種装置が電気的に接続されており、これら各種装置には各種センサ類からの検出情報に基づき演算された点火時期、吸気バルブ14のバルブタイミング指令、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等がそれぞれ出力される。
[第1実施例]
図2は、本発明の第1実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置におけるECU50の内部構成がブロック図で示されており、以下同図に基づきECU50の入出力関係について説明する。
【0030】
ECU50は、クランク角センサ9、AFS32の検出値に基づいて目標位相角算出部(応答遅れ偏差算出手段)50aにてクランク角センサ9の検出値よりエンジン回転数を算出し、算出したエンジン回転数とAFS32にて検出された空気流量に基づいて吸気カムシャフト18の目標となる位相角、即ち可変バルブタイミング機構22の作動の目標となる位相角である目標位相角を算出する。
【0031】
また、クランク角センサ9、カム角センサ20の検出値に基づいて実位相角算出部(応答遅れ偏差算出手段)50bにて吸気カム16の現在の位相角である実位相角、即ち可変バルブタイミング機構22の現在の位相角である実位相角を算出する。
また、目標位相角算出部50aにて算出された可変バルブタイミング機構22の目標位相角と実位相角算出部50bにて算出された可変バルブタイミング機構22の実位相角に基づいて、位相差算出部(応答遅れ偏差算出手段)50cにて、目標位相角と実位相角との偏差である位相差(応答遅れ偏差)を算出する。
【0032】
また、応答遅れ判定部(応答遅れ判定手段)50dにて、位相差算出部50cにて算出された位相差が所定偏差より大きいか否かを判定する。
そして、燃料カット制御部(第1の燃料カット復帰制御手段、第2の燃料カット復帰制御手段)50hにて、APS41及び車速センサ42の検出値に基づいて車両の走行状態を判定し、該判定結果とTPS31の検出値及び応答遅れ判定部50dの判定結果に基づいて、燃料カットからの復帰回転数を算出し、該算出結果とクランク角センサ9の検出値に基づいて燃料カットの作動及び燃料カットからの復帰を判定し、燃料噴射を制御するべくインジェクタ26へ制御信号を供給する。
【0033】
以下、このように構成された本発明の第1実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置の作用及び効果について詳細に説明する。
図3、4及び5は、ECU50の実行する燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートを示し、図6は、エンジン回転数における所定偏差の特性図を示し、図7は、所定偏差における偏差増加回転数の特性図を示し、図8は、燃料カット復帰処理を時系列で示す。
【0034】
図3、4及び5に示すように、ステップS10では、目標位相角算出部50aにて、クランク角センサ9の検出値よりエンジン回転数Neを取得する。
ステップS20では、目標位相角算出部50aにて、AFS32の検出値及びエンジン回転数Neに基づいて、体積効率Evを算出する。
ステップS30では、目標位相角算出部50aにて、算出した体積効率Evより、可変バルブタイミング機構22の目標とする位相角である目標位相角を算出する。
【0035】
ステップS40では、実位相角算出部50bにて、クランク角センサ9とカム角センサ20の検出値より可変バルブタイミング機構22の実際の位相角である実位相角を検出する。
ステップS50では、APS41によりアクセルペダル40の開き度合であるアクセル開度を検出する。
【0036】
ステップS60では、燃料カット制御部50hにて、APS41の検出結果に基づきアクセル開度が全閉か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でアクセル開度が全閉であれば、ステップS70に進み、判別結果が偽(No)でアクセル開度が全閉でなければ、ステップS170に進み、燃料カット中か、否かを判別し、判別結果が真(Yes)で燃料カット中であればステップS160に進み、判別結果が偽(No)であれば、当該ルーチンを抜ける。
【0037】
ステップS70では、燃料カット制御部50hにて燃料カット中か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で燃料カット中であればステップS80に進み、判別結果が偽(No)で燃料カット中でなければ、ステップS180に進む。
ステップS180では、燃料カット制御部50hにて、エンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数(第1の復帰回転数)Nfc以上か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc以上あれば、ステップS190に進み、インジェクタ26への燃料噴射信号の供給を停止、即ち燃料カットを実施し(図8a)当該ルーチンを抜ける、判別結果が偽(No)でエンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfcより低ければ、何も処理をせずに当該ルーチンを抜ける。
【0038】
ステップS80では、燃料カット制御部50hにて、エンジン回転数Neが第1の所定回転数N1より高いか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが第1の所定回転数N1より高ければ、ステップS90に進み、図6に示すように下限偏差DLを所定偏差DとしステップS100に進み、判別結果が偽(No)でエンジン回転数Neが第1の所定回転数N1以下であれば、ステップS200に進む。
【0039】
ステップS200では、燃料カット制御部50hにて、エンジン回転数Neが第2の所定回転数N2以下であるか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが第2の所定回転数N2以下であれば、ステップS210に進み、図6に示すように上限偏差DUを所定偏差DとしステップS100に進み、判別結果が偽(No)でエンジン回転数Neが第2の所定回転数N2より高ければ、ステップS220に進み、下記式(1)より所定偏差Dを算出しステップS100に進む。
【0040】
所定偏差D
=(1−(N1−Ne)/(N1−N2))×DL
+(N1−Ne)/(N1−N2)×DU・・・(1)
ステップS100では、燃料カット制御部50hにて、所定偏差Dが上限偏差DUより大きいか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で所定偏差Dが上限偏差DUより大きければ、ステップS110に進み、図7に示すように偏差上限偏差idUを偏差増加回転数idとしステップS120に進み、判別結果が偽(No)で所定偏差Dが上限偏差DU以下であれば、ステップS230に進む。
【0041】
ステップS230では、燃料カット制御部50hにて、所定偏差Dが下限偏差DL以下であるか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で所定偏差Dが下限偏差DL以下であれば、ステップS240に進み、図7に示すように偏差下限回転数idLを偏差増加回転数idとしステップS120に進み、判別結果が偽(No)で所定偏差Dが下限偏差DLより大きければ、ステップS250に進み、下記式(2)より偏差増加回転数idを算出しステップS120に進む。
【0042】
偏差増加回転数id
=(1−(DU−D)/(DU−DL))×idU
+(DU−D)/(DU−DL)×idL・・・(2)
ステップS120では、位相差算出部50cにて、算出された目標位相角から検出された実位相角を減算し、偏差である位相差を算出する。
【0043】
ステップS130では、応答遅れ判定部50dにて、算出された位相差が所定偏差Dより大きいか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で位相差が所定偏差Dより大きければ、ステップS140に進み、判別結果が偽(No)で位相差が所定偏差D以下であれば、ステップS260に進み、燃料カット制御部50hにて、エンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfcより低いか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfcより低ければ、ステップS160に進み(図8c)、エンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc以上であれば、当該ルーチンを抜ける。
【0044】
ステップS140では、燃料カット制御部50hにて、燃料カット復帰回転数Nfcに偏差増加回転数idを加算し、位相差燃料カット復帰回転数(第2の復帰回転数)Nfc_VVTを算出する。
ステップS150では、燃料カット制御部50hにて、エンジン回転数Neが位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVTより低いか、否か判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVTより低ければ、ステップS160に進み(図8b)、判別結果が偽(No)でエンジン回転数Neが位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT以上であれば、当該ルーチンを抜ける。
【0045】
ステップS160では、燃料カット制御部50hにて、インジェクタ26に燃料噴射信号を供給し燃料カットから復帰する。
このように、本発明の第1実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置によれば、目標位相角と実位相角より位相差を算出し、エンジン1が燃料カット中で位相差が所定偏差Dより大きい場合には、位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVTにてインジェクタ26に燃料噴射信号を供給し燃料カットから復帰するようにし、エンジン1が燃料カット中で位相差が所定偏差D以下である場合には燃料カット復帰回転数Nfcにてインジェクタ26に燃料噴射信号を供給し燃料カットから復帰するようにしている。
【0046】
これにより、可変バルブタイミング機構22の応答性が悪い場合には、燃料カット復帰回転数Nfcより早い時期に燃料カットから復帰する位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVTにて燃料カットから早期に復帰させることができる。また、可変バルブタイミング機構22の応答性が良い場合には、燃料カットを燃料カット復帰回転数Nfcで燃料カットから復帰させることができる。
【0047】
従って、本発明の第1実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置によれば、
(1)可変バルブタイミング機構22の応答性が悪い場合には、早期に燃料カットから復帰することができ、内部EGRの過多により燃焼が悪化しエンジンの回転数が低下することを抑制することができるので、運転性を良好にすることができる。
(2)可変バルブタイミング機構22の応答性が良い場合には、燃料カット復帰回転数まで燃料カットを行うことができるので燃費を低減することができる。
[第2実施例]
次に、第2実施例について説明する。
【0048】
図9は、本発明の第2実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置におけるECU51の内部構成を示すブロック図を示している。
図9に示すように第2実施例では、上記第1実施例に対して、エンジン1の冷却水温度を判定する冷却水温度判定部(水温検出手段)51eを追加しており、以下に上記第1実施例と異なる点に付いて説明する。
【0049】
ECU51は、水温センサ4の検出値に基づいて、冷却水温度判定部51eにてエンジン1の冷却水温度Twを判定し、判定結果を燃料カット制御部51hに供給する。
そして、燃料カット制御部(第1の燃料カット復帰制御手段、第2の燃料カット復帰制御手段)51hにて、APS41及び車速センサ42の検出値に基づいて車両の走行状態を判定し、該判定結果とTPS31の検出値と応答遅れ判定部51d及び冷却水温度判定部51eの判定結果に基づいて、燃料カットからの復帰回転数を算出し、該算出結果とクランク角センサ9の検出値に基づいて燃料カットの作動及び燃料カットからの復帰を判定し、燃料噴射を制御するべくインジェクタ26へ制御信号を供給する。
【0050】
以下、このように構成された本発明の第2実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置の作用及び効果について説明する。
図10、11及び12は、ECU51の実行する燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートを示し、図13は、冷却水温度における水温増加回転数の特性図を示し、図14は、燃料カット復帰処理を時系列で示す。
【0051】
図10、11及び12に示すように、ステップS45では、水温センサ4によりエンジン1の冷却水温度Twを検出する。
ステップS51では、冷却水温度判定部51eにて、水温センサ4の検出値よりエンジン1の冷却水温度Twが第1の所定水温T1より高いか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン1の冷却水温度Twが第1の所定水温T1より高ければ、ステップS59に進み、判別結果が偽(No)でエンジン1の冷却水温度Twが第1の所定水温T1以下であれば、ステップS52に進む。
【0052】
ステップS52では、冷却水温度判定部51eにて、水温センサ4の検出値よりエンジン1の冷却水温度Twが第2の所定水温T2以下か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン1の冷却水温度Twが第2の所定水温T2以下であれば、ステップS53に進み、図13に示すように水温上限増加回転数iwUを水温増加回転数iwとし、ステップS59に進む、判別結果が偽(No)でエンジン1の冷却水温度が第2の所定水温T2より高ければ、ステップS54に進み、式(3)より水温増加回転数iwを算出しステップS59に進む。
【0053】
水温増加回転数iw
=(T1−Tw)/(T1−T2)×iwU・・・(3)
ステップS59では、燃料カット制御部51hにて、燃料カット復帰回転数Nfcに水温増加回転数iwを加算し、燃料カット復帰回転数(第1の復帰回転数)Nfc’を算出し、ステップS60に進む。
【0054】
ステップS180’では、ステップS70で燃料カット中でないと判別されると燃料カット制御部51hにて、エンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc’以上か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc’以上あれば、ステップS190に進み、インジェクタ26への燃料噴射信号の供給を停止、即ち燃料カットを実施し当該ルーチンを抜ける(図14a)、判別結果が偽(No)でエンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc’より低ければ、何も処理をせずに当該ルーチンを抜ける。
【0055】
ステップS140’では、ステップS130で位相差が所定偏差Dより大きいと判別されると、燃料カット制御部51hにて、燃料カット復帰回転数Nfc’に偏差増加回転数idを加算し、位相差燃料カット復帰回転数(第2の復帰回転数)Nfc_VVT’を算出する。
ステップS150’では、燃料カット制御部51hにて、エンジン回転数Neが位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT’より小さいか、否か判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT’より低ければ、ステップS160に進み(図14b)、判別結果が偽(No)でエンジン回転数Neが位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT’以上であれば、当該ルーチンを抜ける。
【0056】
ステップS260’では、ステップS130で位相差が所定偏差D以下と判別されると、燃料カット制御部51hにて、エンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc’より低いか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc’より低ければ、ステップS160に進み(図14c)、エンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc’以上であれば、当該ルーチンを抜ける。
【0057】
このように、本発明の第2実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置によれば、目標位相角と実位相角より位相差を算出し、冷却水温度Twによって燃料カット復帰回転数Nfc’及び位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT’を補正し、エンジン1が燃料カット中で位相差が所定偏差Dより大きい場合には、位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT’にてインジェクタ26に燃料噴射信号を供給し燃料カットから復帰するようにし、エンジン1が燃料カット中で位相差が所定偏差D以下である場合には燃料カット復帰回転数Nfc’にてインジェクタ26に燃料噴射信号を供給し燃料カットから復帰するようにしている。
【0058】
このように、冷却水温度Twにより燃料カット復帰回転数Nfc’及び位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT’を補正するようにしているので、早期に燃料カットから復帰させることができる。
従って、早期に燃料カットから復帰させることができるので、冷却水温度Twが低く燃焼が悪い状態であっても、エンジン1が低回転数である時の燃焼悪化による失火を防止することができ、運転性を良好にすることができる。
[第3実施例]
次に、第3実施例について説明する。
【0059】
図15は、本発明の第3実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置におけるECU52の内部構成を示すブロック図を示している。
図15に示すように第3実施例では、上記第2実施例に対して、燃料性状を検出する燃料性状検出部(燃料性状検出手段)52fを追加しており、以下に上記第2実施例と異なる点に付いて説明する。
【0060】
ECU52は、クランク角センサ9の検出値及びETV30の作動に基づいて、燃料性状検出部52fにて燃料性状を検出し、検出結果を燃料カット制御部52hに供給する。
そして、APS41及び車速センサ42の検出値に基づいて車両の走行状態を判定し、該判定結果とTPS31の検出値と応答遅れ判定部52d及び冷却水温度判定部52eの判定結果と、燃料性状検出部52fでの検出結果に基づいて、燃料カット制御部(第1の燃料カット復帰制御手段、第2の燃料カット復帰制御手段)52hにて、燃料カットからの復帰回転数を算出し、該算出結果とクランク角センサ9の検出値に基づいて燃料カットの作動及び燃料カットからの復帰を判定し、燃料噴射を制御するべくインジェクタ26へ制御信号を供給する。
【0061】
以下、このように構成された本発明の第3実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置の作用及び効果について説明する。
図16、17及び18は、ECU52の実行する燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートを示し、図19は、燃料カット復帰処理を時系列で示す。
図16、17及び18に示すように、ステップS55では、燃料カット制御部52hにて、予めエンジン1の始動直後のクランク角センサ9の検出値及びETV30を作動に基づいて燃料性状検出部52fにより検出された燃料性状が重質燃料か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で燃料性状が重質燃料であれば、ステップS56に進み、判別結果が偽(No)で燃料性状が重質燃料でなければ、ステップS59”に進み、燃料カット復帰回転数Nfcに水温増加回転数iwを加算して、燃料カット復帰回転数(第1の復帰回転数)Nfc”を算出し、ステップS60に進む。
【0062】
ステップS56では、燃料カット制御部52hにて、燃料カット復帰時の燃料噴射量をリッチ化する処理を行う。
ステップS57では、燃料カット制御部52hにて、燃料カット復帰回転数Nfcに水温増加回転数iw及び燃料増加回転数ifを加算して、燃料カット復帰回転数(第1の復帰回転数)Nfc”を算出し、ステップS60に進む。
【0063】
なお、燃料性状検出部50fでは、エンジン1の始動直後にクランク角センサ9の検出値よりエンジン回転数の落ち込みが検出されると、一次判定処理で揮発性が悪い重質燃料によるリーン化の可能性ありと判定し、この後、二次判定処理でETV30のスロットル弁を開け吸入空気量を一時的に増加させると、リーン化された空燃比が更にリーン化され、エンジン回転数の落ち込みが抑えられず、エンジン回転数が再上昇しない場合は、二次判定処理で重質燃料によるリーン化に伴うエンジン回転数の落ち込みと判断して最終的に燃料を重質燃料と判定する。一方、リッチ化によるエンジン回転数の落ち込みが発生した場合でも、一次判定処理で重質燃料の可能性ありと判定されるが、二次判定処理でETV30のスロットル弁を開け吸入空気量を一時的に増加させると、リッチ化された空燃比がストイキ方向(又はリーン空燃比方向)に修正されるため、エンジン回転数の落ち込みが抑えられて回転が再上昇するようになり、二次判定処理でリッチ化によるエンジン回転数の落ち込みと判断して最終的に重質燃料ではない、即ち軽質燃料と判定する。
【0064】
ステップS180”では、ステップS70で燃料カット中でないと判別されると燃料カット制御部52hにて、エンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc”以上か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc”以上あれば、ステップS190に進み、インジェクタ26への燃料噴射信号の供給を停止、即ち燃料カットを実施し当該ルーチンを抜ける(図19a)、判別結果が偽(No)でエンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc”より低ければ、何も処理をせずに当該ルーチンを抜ける。
【0065】
ステップS140”では、ステップS130で位相差が所定偏差Dより大きいと判別されると、燃料カット復帰回転数Nfc”に偏差増加回転数idを加算して、位相差燃料カット復帰回転数(第2の復帰回転数)Nfc_VVT”を算出し、ステップS150”に進む。
ステップS150”では、燃料カット制御部52hにて、エンジン回転数Neが位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT”より低いか、否か判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT”より低ければ、ステップS160に進み(図19b)、判別結果が偽(No)でエンジン回転数Neが位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT”以上であれば、当該ルーチンを抜ける。
【0066】
ステップS260”では、ステップS130で位相差が所定偏差D以下と判別されると、燃料カット制御部52hにて、エンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc”より低いか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc”より低ければ、ステップS160に進み(図19c)、エンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc’以上であれば、当該ルーチンを抜ける。
【0067】
このように、本発明の第3実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置によれば、目標位相角と実位相角より位相差を算出し、冷却水温度及び燃料性状によって燃料カット復帰回転数Nfc”及び位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT”を補正し、エンジン1が燃料カット中で位相差が所定偏差Dより大きい場合には、位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT”にてインジェクタ26に燃料噴射信号を供給し燃料カットから復帰するようにし、エンジン1が燃料カット中で位相差が所定偏差D以下である場合には燃料カット復帰回転数Nfc”にてインジェクタ26に燃料噴射信号を供給し燃料カットから復帰するようにしている。
【0068】
このように、燃料性状により燃料カット復帰回転数Nfc”及び位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT”を補正するようにしているので、早期に燃料カットから復帰させることができる。
従って、燃料が重質燃料で揮発性が悪く空燃比が薄くなることによる燃焼が悪い状態であっても、早期に燃料カットから復帰させることができるので、燃焼悪化による失火を防止することができるので運転性を更に良好にすることができる。
[第4実施例]
次に、第4実施例について説明する。
【0069】
図20は、本発明の第4実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置におけるECU53の内部構成を示すブロック図を示している。
図20に示すように第4実施例では、上記第3実施例に対して、応答遅れ判定部53dにて、エンジン1の回転数を予め設定された複数の所定判定回転数の内のいずれかの所定判定回転数であるかを判別するようにしており、以下に上記第3実施例と異なる点に付いて説明する。
【0070】
ECU53は、クランク角センサ9の検出値に基づいて、応答遅れ判定部53dにてエンジン回転数が予め設定された複数の所定判定回転数の内のいずれかの所定判定回転数であるか判定し、判定結果を燃料カット制御部53hに供給する。
そして、APS41及び車速センサ42の検出値に基づいて車両の走行状態を判定し、該判定結果とTPS31の検出値と応答遅れ判定部53d及び冷却水温度判定部53eの判定結果と、燃料性状検出部53fでの検出結果に基づいて、燃料カット制御部(第1の燃料カット復帰制御手段、第2の燃料カット復帰制御手段)53hにて、燃料カットからの復帰回転数を算出し、該算出結果とクランク角センサ9の検出値に基づいて燃料カットの作動及び燃料カットからの復帰を判定し、燃料噴射を制御するべくインジェクタ26へ制御信号を供給する。
【0071】
以下、このように構成された本発明の第4実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置の作用及び効果について説明する。
図21、22及び23は、ECU53の実行する燃料カット復帰制御の制御ルーチンを示すフローチャートを示し、図24は、燃料カット復帰処理を時系列で示す。
図21、22及び23に示すように、ステップS95では、クランク角センサ9の検出値に基づいて、応答遅れ判定部53dにて、エンジン回転数Neが予め設定された複数の所定判定回転数の内のいずれかの所定判定回転数であるか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが予め設定された複数の所定判定回転数の内のいずれかの所定判定回転数であれば、ステップS130に進み、判別結果が偽(No)でエンジン回転数Neが予め設定された複数の所定判定回転数の内のいずれかの所定判定回転数でなければ、ステップS260”に進む。
【0072】
ステップS140”では、燃料カット復帰回転数Nfc”に偏差増加回転数idを加算して、位相差燃料カット復帰回転数(第2の復帰回転数)Nfc_VVT”を算出し、ステップS150”に進む。
ステップS150”では、燃料カット制御部53hにて、エンジン回転数Neが位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT”より低いか、否か判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT”より低ければ、ステップS160に進み(図24c)、判別結果が偽(No)でエンジン回転数Neが位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT”以上であれば、当該ルーチンを抜ける。
【0073】
ステップS260”では、ステップS130で位相差が所定偏差D以下と判別されると、燃料カット制御部53hにて、エンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc”より低いか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc”より低ければ、ステップS160に進み(図24c)、エンジン回転数Neが燃料カット復帰回転数Nfc’以上であれば、当該ルーチンを抜ける(図24b)。
【0074】
このように、本発明の第4実施例に係る内燃機関の燃料噴射制御装置によれば、目標位相角と実位相角より位相差を算出し、冷却水温度及び燃料性状によって燃料カット復帰回転数Nfc”及び位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT”を補正し、エンジン1が燃料カット中でエンジン回転数Neが予め設定された複数の所定判定回転数の内のいずれかの所定判定回転数であれば、位相差と所定偏差Dに基づいて判別し位相差燃料カット復帰回転数Nfc_VVT”或いは燃料カット復帰回転数Nfc”にてインジェクタ26に燃料噴射信号を供給し燃料カットから復帰するようにし、エンジン1が燃料カット中でエンジン回転数Neが予め設定された複数の所定回転数の内のいずれかでなければ、燃料カット復帰回転数Nfc”にてインジェクタ26に燃料噴射信号を供給し燃料カットから復帰するようにしている。
【0075】
このように、エンジン回転数Neが予め設定された複数の所定判定回転数の内のいずれかの所定判定回転数でなければ、位相差と所定偏差Dとの判別を行わず、燃料カット復帰回転数Nfc”にて燃料カットからの復帰を行うようにしているので、燃料カット復帰処理を簡略化することができる。
以上で発明の実施形態の説明を終えるが、本発明の形態は上記実施形態に限定されるものではない。
【0076】
例えば、上記実施形態では、可変動弁機構として採用した可変バルブタイミング機構22としているが、これに限定されるものではなく、吸気バルブ14或いは排気バルブ15の開閉タイミングを可変とし、吸気バルブ14と排気バルブ15が同時に開弁しているオーバラップ期間を可変とすることができれば良い。
また、水温増加回転数iwをマップより算出するようにしているが、これに限定されるものではなく、所定の冷却水温度を閾値とし、該閾値以下或いは閾値より低い場合に水温増加回転数を設定するようにしても良い。
【0077】
また、エンジンを吸気管噴射型の4サイクル直列4気筒型ガソリンエンジンとしているが、これに限定されるものではなく、筒内噴射型のガソリンエンジンであっても、ディーゼルエンジンであっても良く、気筒数及び気筒配列はこれに限定されるものではない。
また、APS41の検出値に基づいて車両が減速中か、否かの判別を行っているが、これに限定されるものではなく、車速センサ42の検出値に基づいて車両が減速中か、否かの判別を行っても良い。
【符号の説明】
【0078】
1 エンジン(内燃機関)
4 水温センサ(水温検出手段)
9 クランク角センサ(回転速度検出手段、応答遅れ偏差算出手段)
20 カム角センサ(応答遅れ偏差算出手段)
22 可変バルブタイミング機構(可変動弁手段)
24 OCV(可変動弁手段)
26 燃焼噴射弁(燃料噴射手段)
41 APS
42 車速センサ
50,51,52,53 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、内燃機関の回転速度である機関回転速度を検出する回転速度検出手段と燃焼室に燃料を供給する燃料噴射手段を有し、前記車両のアクセル全閉での走行時に前記燃料噴射手段での燃料供給を停止する内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
少なくとも吸気弁の位相角を前記内燃機関の運転状態に応じて可変する可変動弁手段と、
前記可変動弁手段の前記吸気弁の目標値である目標位相角と実際に検出される前記吸気弁の実位相角との偏差である応答遅れ偏差を算出する応答遅れ偏差算出手段と、
前記応答遅れ偏差が所定偏差を超えたとき前記可変動弁手段の応答遅れを判定する応答遅れ判定手段と、
前記車両のアクセル全閉での走行時、前記機関回転速度が前記燃料噴射手段からの燃料供給が停止状態から復帰する第1の復帰回転速度以上であるときに該燃料噴射手段による燃料供給を停止し、該燃料噴射手段による燃料供給停止後の該機関回転速度が前記第1の復帰回転速度より低下した時に燃料供給を再開させる第1の燃料カット復帰制御手段と、
前記燃料噴射手段からの燃料供給が停止状態であり、更に前記可変動弁手段の作動が応答遅れと判定された時に、前記第1の燃料カット制御手段の前記第1の復帰回転速度より高い回転速度を第2の復帰回転速度として設定し、前記機関回転速度が該第2の復帰回転速度より低下した時に該燃料噴射手段による燃料供給を再開させる第2の燃料カット復帰制御手段とを備えることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記所定偏差は、前記回転速度検出手段にて検出された前記機関回転速度に応じて設定され、該機関回転速度が高いほど小さくなることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記第2の復帰回転速度は、前記応答遅れ偏差算出手段にて算出された前記応答遅れ偏差が大きいほど高くなることを特徴とする、請求項1或いは2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
更に前記内燃機関の冷却水温を検出する水温検出手段を備え、
前記第2の燃料カット復帰制御手段は、前記冷却水温が低くなるにつれて前記第2の復帰回転速度を高くすることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
更に前記燃料が重質燃料か軽質燃料かを検出する燃料性状検出手段を備え、
前記第2の燃料カット復帰制御手段は、前記燃料性状検出手段の検出結果が前記重質燃料である場合には、検出結果が前記軽質燃料である場合と比べて前記第2の復帰回転速度を高くすることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記応答遅れ判定手段は、予め複数の判定機関回転速度を設定され、前記機関回転速度が該複数の所定判定回転速度の内のいずれかの所定判定回転速度であれば応答遅れ判定を行うことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−220298(P2011−220298A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93131(P2010−93131)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】