説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】アフタ噴射による黒煙の発生を防止する。
【解決手段】ディーゼルエンジン1の燃料噴射制御装置(ECU100)は、光量検出センサ91、92を介して、燃焼室3内の火炎の光量を検出する光量検出部101と、光量検出部101によって検出されたアフタ噴射による火炎の光量が、予め設定された閾値光量以上であるか否かを判定する光量判定部103と、光量検出部101によって検出された火炎の光量に基づき、燃焼室3内の火炎が、燃焼室3中央から外周方向へ拡散しているか否かを判定する拡散方向判定部104と、光量判定部103によってアフタ噴射による火炎の光量が前記閾値光量以上であると判定され、且つ、拡散方向判定部104によって燃焼室3内の火炎が燃焼室3中央部から側壁方向へ拡散していると判定された場合に、次回のアフタ噴射の噴射時期を遅角する噴射制御部105と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(主に、ディーゼルエンジン)の1サイクル中に、燃料噴射弁から、トルクを発生する燃料噴射である主噴射と、当該主噴射の後に行われる燃料噴射であるアフタ噴射とを実行する圧縮自着火式の内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トルクを発生する燃料噴射である主噴射(「メイン噴射」ともいう)の後に行われる燃料噴射であるアフタ噴射を活用によって、エンジン燃焼を改善し、黒煙(すす)及びNOxを低減する技術が提案されている。
【0003】
例えば、第一噴孔群及び第二噴孔群を開閉する1つ以上の開閉弁を備え、高負荷領域においてメイン噴射の後に連続してアフタ噴射を実行し、メイン噴射時には、第一噴孔群及び第二噴孔群から燃料が噴射され、アフタ噴射時には、第一噴孔群から燃料が噴射されて、アフタ噴射期間中の第一噴孔近傍の実噴射圧力が、メイン噴射期間中の第一噴孔近傍の実噴射圧力よりも高く、開閉弁が第一噴孔群を開いて噴射を開始した後、開閉弁が同時又は短時間で第二噴孔群をも開いてメイン噴射を実行し、開閉弁が第二噴孔群を閉じた後アフタ噴射を実行し、アフタ噴射開始後から同時又は短時間よりも長い時間の経過後に、開閉弁が第一噴孔群をも閉じて噴射を終了する燃料噴射装置が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−274841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の燃料噴射装置では、アフタ噴射の噴射タイミングが適当ではない場合には、アフタ噴射によって燃料と空気との混合状態が悪化して黒煙が発生することがある。
【0006】
すなわち、筒内の平均温度が高い状態で、アフタ噴射によって燃料が噴射される場合には、メイン噴射後の着火の遅れ時間が短く、噴射された燃料の拡散が充分ではないため、局所的にリッチな状態となって黒煙が発生することになるのである。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、アフタ噴射による黒煙の発生を防止することの可能な内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置は、以下のように構成されている。
【0009】
すなわち、本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置は、内燃機関の1サイクル中に、燃料噴射弁から、トルクを発生する燃料噴射である主噴射と、当該主噴射の後に行われる燃料噴射であるアフタ噴射とを実行する圧縮自着火式の内燃機関の燃料噴射制御装置であって、燃焼室内の火炎の光量を検出する光量検出手段と、前記光量検出手段によって検出された前記アフタ噴射による火炎の光量が、予め設定された閾値光量以上であるか否かを判定する光量判定手段と、前記光量検出手段によって検出された火炎の光量に基づき、前記燃焼室内の火炎が、前記燃焼室中央から外周方向へ拡散しているか否かを判定する拡散方向判定手段と、前記光量判定手段によって前記アフタ噴射による火炎の光量が前記閾値光量以上であると判定され、且つ、前記拡散方向判定手段によって前記燃焼室内の火炎が前記燃焼室中央部から側壁方向へ拡散していると判定された場合に、次回の前記アフタ噴射の噴射時期を遅角する噴射制御手段と、を備えることを特徴としている。
【0010】
かかる構成を備える内燃機関の燃料噴射制御装置によれば、燃焼室内の火炎の光量が検出され、検出された前記アフタ噴射による火炎の光量が、予め設定された閾値光量以上であるか否かが判定される。また、検出された火炎の光量に基づき、前記燃焼室内の火炎が、前記燃焼室中央から外周方向へ拡散しているか否かが判定される。そして、前記アフタ噴射による火炎の光量が前記閾値光量以上であると判定され、且つ、前記燃焼室内の火炎が前記燃焼室中央部から側壁方向へ拡散していると判定された場合に、次回の前記アフタ噴射の噴射時期が遅角されるため、アフタ噴射による黒煙の発生を防止することができる(図7参照)。
【0011】
すなわち、アフタ噴射の開始時期を遅角する程、下記2つの理由によって排気中の黒煙量は減少すると推定されるのである。
理由1:アフタ噴射の開始時期を遅角する程、アフタ噴射時の筒内温度が低くなるために、燃料の空気導入時間(燃焼に至るまでの時間)が長くなって、燃料と空気との混合状態が改善される。
理由2:アフタ噴射の開始時期を遅角する程、燃焼室内におけるメイン噴射による既燃ガスの拡散が進むため、既燃ガスの中へのアフタ噴射の燃料噴射による局所的な空気利用の悪化も改善される。
【0012】
また、本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置は、前記光量検出手段が、前記燃焼室の中央部近傍における火炎の光量を検出する第1センサと、前記燃焼室の側壁近傍における火炎の光量を検出する第2センサと、を備えることが好ましい。
【0013】
かかる構成を備える内燃機関の燃料噴射制御装置によれば、前記第1センサによって前記燃焼室の中央部近傍における火炎の光量が検出され、前記第2センサによって前記燃焼室の側壁近傍における火炎の光量が検出されるため、前記燃焼室内の火炎が前記燃焼室中央部から側壁方向へ拡散しているか否かを容易に判定することができる。
【0014】
また、本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置は、前記第2センサが、シリンダボアに配設された光量検出センサであって、上死点におけるピストンのトップリングの位置よりも下側に配設されることが好ましい。
【0015】
かかる構成を備える内燃機関の燃料噴射制御装置によれば、前記第2センサが、シリンダボアに配設された光量検出センサであって、上死点におけるピストンのトップリングの位置よりも下側に配設されるため、前記第2センサの検出感度の低下を抑制することができる。
【0016】
すなわち、光量検出センサを燃焼ガスから保護するために、光量検出センサと燃焼室との間には光を透過する透過窓が形成されている(図3参照)ところ、前記第2センサが、シリンダボアに配設された光量検出センサであって、上死点におけるピストンのトップリングの位置よりも下側に配設されるため、ピストンのトップリングによって上記透過窓に付着した汚れが除去されるので、前記第2センサの検出感度の低下を抑制することができるのである。
【0017】
また、本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置は、筒内温度の平均値を推定する温度推定手段を更に備え、前記光量検出手段が、前記アフタ噴射の開始時点から前記温度推定手段によって推定された筒内温度の平均値が自然着火温度に低下するまでの期間において、前記燃焼室内の火炎の光量を検出することが好ましい。
【0018】
かかる構成を備える内燃機関の燃料噴射制御装置によれば、筒内温度の平均値が推定され、前記アフタ噴射の開始時点から、推定された筒内温度の平均値が自然着火温度に低下するまでの期間において、前記燃焼室内の火炎の光量が検出されるため、適正な期間において前記燃焼室内の火炎の光量を検出することができる。
【0019】
すなわち、筒内温度の平均値が燃料の自然着火温度以下である場合には、前記アフタ噴射によって噴射された燃料が燃焼に至らないため、前記アフタ噴射の開始時点から、筒内温度の平均値が自然着火温度に低下するまでの期間において、前記燃焼室内の火炎の光量を検出することによって、適正な期間において前記燃焼室内の火炎の光量を検出することができるのである。
【0020】
また、本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置は、前記噴射制御手段が、前記光量判定手段によって前記アフタ噴射による火炎の光量が前記閾値光量以上であると判定され、且つ、前記拡散方向判定手段によって前記燃焼室内の火炎が前記燃焼室中央部から側壁方向へ拡散していると判定された場合に、次回の前記アフタ噴射の噴射時期を予め設定された所定角度だけ遅角することが好ましい。
【0021】
かかる構成を備える内燃機関の燃料噴射制御装置によれば、前記アフタ噴射による火炎の光量が前記閾値光量以上であると判定され、且つ、前記拡散方向判定手段によって前記燃焼室内の火炎が前記燃焼室中央部から側壁方向へ拡散していると判定された場合に、次回の前記アフタ噴射の噴射時期が予め設定された所定角度だけ遅角されるため、簡素な構成でアフタ噴射による黒煙の発生を防止することができる。
【0022】
すなわち、前記アフタ噴射による火炎の光量が前記閾値光量以上であると判定され、且つ、前記燃焼室内の火炎が前記燃焼室中央部から側壁方向へ拡散していると判定された場合に、前記アフタ噴射の噴射時期を遅角すればアフタ噴射による黒煙の発生を減少することができるのである(図7参照)が、前記アフタ噴射の噴射時期をどの程度遅角すればよいかを求めることは困難である。よって、次回の前記アフタ噴射の噴射時期を予め設定された所定角度だけ遅角することによって、簡素な構成でアフタ噴射による黒煙の発生を防止することができるのである。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置によれば、燃焼室内の火炎の光量が検出され、検出された前記アフタ噴射による火炎の光量が、予め設定された閾値光量以上であるか否かが判定される。また、検出された火炎の光量に基づき、前記燃焼室内の火炎が、前記燃焼室中央から外周方向へ拡散しているか否かが判定される。そして、前記アフタ噴射による火炎の光量が前記閾値光量以上であると判定され、且つ、前記燃焼室内の火炎が前記燃焼室中央部から側壁方向へ拡散していると判定された場合に、次回の前記アフタ噴射の噴射時期が遅角されるため、アフタ噴射による黒煙の発生を防止することができる(図7参照)。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係るエンジン及びその吸排気系統の一例を示す概略構成図である。
【図2】図1に示すエンジンの燃焼室及びその周辺部の一例を示す断面図である。
【図3】図2に示す光量検出センサの一例を示す斜視図である。
【図4】図1に示すエンジンの燃料噴射制御装置の一例を示す機能構成図である。
【図5】図4に示す光量検出部の検出タイミングの一例を示すタイミングチャートである。
【図6】メイン噴射及びアフタ噴射における火炎の発生状況の一例を示す概念図である。
【図7】図4に示すECUの効果の一例を示すグラフである。
【図8】図4に示すECUの動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照して説明する。本実施形態は、車両に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば、直列4気筒)ディーゼルエンジン(圧縮自着火式内燃機関)に、本発明に係る燃料噴射制御装置を適用した場合について説明する。
【0026】
−エンジンの構成−
まず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンともいう)の概略構成について説明する。図1は、本実施形態に係るエンジン1及びその吸排気系統の一例を示す概略構成図である。また、図2は、図1に示すエンジンの燃焼室及びその周辺部の一例を示す断面図である。なお、エンジン1は、特許請求の範囲に記載の「内燃機関」に相当する。図1に示すように、エンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系6、排気系7等を備えるディーゼルエンジンシステムとして構成されている。
【0027】
燃料供給系2は、サプライポンプ21、コモンレール22、インジェクタ(燃料噴射弁)23、機関燃料通路27等を備えている。
【0028】
サプライポンプ21は、燃料タンクから燃料を汲み上げ、この汲み上げた燃料を高圧にした後、機関燃料通路27を介して、コモンレール22に供給するポンプである。コモンレール22は、サプライポンプ21から供給された高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各インジェクタ23に分配するものである。インジェクタ23は、その内部に圧電素子(ピエゾ素子)を備え、適宜開弁して燃焼室3内に燃料を噴射供給するピエゾインジェクタによって構成されている。
【0029】
吸気系6は、シリンダヘッド15(図2参照)に形成された吸気ポート15aに接続される吸気マニホールド63を備え、この吸気マニホールド63に、吸気通路を構成する吸気管64が接続されている。また、この吸気通路には、吸気の流れの上流側から下流側に向けて順に、エアクリーナ65、エアフローメータ43、及び、スロットルバルブ62が配設されている。エアフローメータ43は、エアクリーナ65を介して、吸気通路に流入される空気量を検出するセンサである。
【0030】
排気系7は、シリンダヘッド15に形成された排気ポート71に接続される排気マニホールド72を備え、この排気マニホールド72に対して、排気通路を構成する排気管73、74が接続されている。また、この排気通路には、NSR触媒75及びDPNR触媒76を備えた排気浄化装置77が配設されている。
【0031】
NSR触媒75(NOx Storage Reduction触媒:NOx吸蔵触媒)は、排気中に多量の酸素が存在している状態においては、NOxを吸蔵し、排気中の酸素濃度が低く、且つ、還元成分(例えば、燃料の未燃成分(HC))が多量に存在している状態においては、NOxを還元して放出する。放出されたNOx(例えば、NO2又はNO)は、排気中のHC又はCOと速やかに反応することによって更に還元されてN2となる。また、HC及びCOは、NOx(例えば、NO2又はNO)を還元することで、自身は酸化されて、それぞれ、H2O及びCO2となる。すなわち、NSR触媒75に導入される排気中の酸素濃度及びHC成分を適宜調整することによって、排気中のHC、CO、NOxを浄化することが可能に構成されている。
【0032】
DPNR触媒(Diesel Paticulate−NOx Reduction触媒)76は、排気ガス中の粒子状物質(Paticulate Matter:以下、「PM」という)を捕集するものである。また、排気ガスの空燃比がリーンの場合、排気ガス中のNOxはNOx吸蔵還元型触媒に吸蔵され、空燃比がリッチになると、吸蔵したNOxは還元されて放出される。更に、DPNR触媒76には、捕集したPMを酸化及び燃焼する触媒が担持されている。
【0033】
次に、エンジン1の燃焼室3及びその周辺部の構成について、図2を参照して説明する。図2に示すように、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック11には、4つの気筒毎に、それぞれ、円筒状のシリンダボア12が形成されており、各シリンダボア12の内部には、それぞれ、ピストン13が上下方向に摺動可能に収容されている。
【0034】
ピストン13の頂面13aの上側には、燃焼室3が形成されている。つまり、この燃焼室3は、シリンダブロック11の上部にガスケット14を介して取り付けられたシリンダヘッド15の下面と、シリンダボア12の内壁面と、ピストン13の頂面13aとによって区画形成されている。そして、ピストン13の頂面13aの略中央部には、キャビティ(凹陥部)13bが凹設されており、キャビティ13bも燃焼室3の一部を構成している。
【0035】
ピストン13の側面には、上側から下側に向けて順に、トップリング131、セカンドリング132、及び、オイルリング133が、ピストン13の側面に形成されたピストンリング溝に、それぞれ、嵌合されている。トップリング131及びセカンドリング132は、ピストン13の側面と、シリンダボア12の内周面との間のシールをするリングである。オイルリング133は、ピストン13の側面と、シリンダボア12の内周面との間の潤滑を行うリングである。
【0036】
ピストン13は、コネクティングロッド18の小端部18aがピストンピン13cによって連結されており、コネクティングロッド18の大端部は、エンジン出力軸であるクランクシャフトに連結されている。これによって、シリンダボア12内でのピストン13の往復移動が、コネクティングロッド18を介してクランクシャフトに伝達され、クランクシャフトが回転することで、エンジン出力が得られるべく構成されている。また、燃焼室3に向けてグロープラグ19が配設されている。グロープラグ19は、エンジン1の始動直前に電流が流されることによって赤熱し、これに燃料噴霧の一部が吹きつけられることで着火及び燃焼を促進する始動補助装置として機能する。
【0037】
シリンダヘッド15には、燃焼室3へ空気を導入する吸気ポート15aと、燃焼室3から排気ガスを排出する排気ポート71とが形成されていると共に、吸気ポート15aを開閉する吸気バルブ16と排気ポート71を開閉する排気バルブ17とが配設されている。吸気バルブ16及び排気バルブ17は、シリンダ中心線Pを挟んで対向配置されている。つまり、エンジン1は、クロスフロータイプとして構成されている。また、シリンダヘッド15には、燃焼室3の内部へ直接的に燃料を噴射するインジェクタ23が配設されている。インジェクタ23は、シリンダ中心線Pに沿う起立姿勢で燃焼室3の略中央上部に配設されており、コモンレール22から導入される燃料を燃焼室3に向けて所定のタイミングで噴射するものである。
【0038】
また、シリンダヘッド15には、燃焼室3の径方向の略中央位置に臨んで配設され、燃焼室3における径方向中央部近傍の火炎の光量(輝度)を検出する光量検出センサ91(91A)が配設されている。また、シリンダブロック11には、燃焼室3の側壁(シリンダボア12の内壁面)近傍における火炎の光量を検出する光量検出センサ92(92A)が配設されている。光量検出センサ92(92A)は、シリンダボア12に配設され、上死点におけるピストン13のトップリング131の位置よりも下側に配設されている。なお、光量検出センサ91(91A)及び光量検出センサ92(92A)は、それぞれ、特許請求の範囲に記載の「第1センサ」及び「第2センサ」に相当する。
【0039】
更に、図1に示すように、エンジン1には、過給機(ターボチャージャ)5が設けられている。ターボチャージャ5は、タービンシャフト51を介して連結されたタービンホイール52及びコンプレッサホイール53を備えている。コンプレッサホイール53は、吸気管64内部に臨んで配置され、タービンホイール52は排気管73内部に臨んで配置されている。また、ターボチャージャ5は、タービンホイール52が受ける排気流(排気圧)によってコンプレッサホイール53を回転させ、吸気圧を高めるといった、いわゆる「過給動作」を行うものである。本実施形態におけるターボチャージャ5は、可変ノズル式ターボチャージャであって、タービンホイール52側に可変ノズルベーン機構(図示省略)が設けられており、この可変ノズルベーン機構の開度を調整することにより、エンジン1の過給圧を調整することができる。
【0040】
吸気系6の吸気管64には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するインタークーラ61が配設されている。インタークーラ61よりも更に下流側に設けられたスロットルバルブ62は、その開度を無段階に調整することができる電子制御式の開閉弁であって、所定の条件下において吸入空気の流路面積を絞り、吸入空気の供給量を調整(低減)する機能を有している。
【0041】
また、エンジン1には、吸気系6と排気系7とを接続する排気還流通路(EGR通路)8が設けられている。このEGR通路8は、排気の一部を吸気系6に還流させて、燃焼室3へ再度供給することによって燃焼温度を低下させ、これによってNOx発生量を低減させるものである。また、EGR通路8には、電子制御によって無段階に開閉され、同通路を流れる排気流量を調整するEGRバルブ81と、EGR通路8を通過(還流)する排気を冷却するEGRクーラ82とが設けられている。
【0042】
−センサ類−
エンジン1の各部位には、図1に示すように、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件、又は、エンジン1の運転状態を検出して、検出結果を示す検出信号をECU100に対して出力する(図4参照)。また、図2に示す光量検出センサ91(91A)及び光量検出センサ92(92A)は、火炎の光量(輝度)を検出し、検出された火炎の光量(輝度)を示す信号をECU100に対して出力する(図4参照)。
【0043】
例えば、スロットル開度センサ42は、スロットルバルブ62の開度を検出し、検出されたスロットルバルブ62の開度を示す検出信号を出力する。エアフローメータ43は、吸気系6内のスロットルバルブ62上流において吸入空気の流量(吸入空気量)を検出し、検出された吸入空気量を示す検出信号を出力する。
【0044】
また、空燃比センサ44は、排気系7の排気浄化装置77の下流において、排気中の酸素濃度に応じて連続的に変化する空燃比を検出し、検出された空燃比を示す検出信号を出力する。排気温センサ45は、排気系7の排気浄化装置77の下流において、排気ガスの温度(排気温度)を検出し、検出された排気温度を示す検出信号を出力する。レール圧センサ41は、コモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力を検出し、検出された燃料の圧力を示す検出信号を出力する。吸気温センサ49は、吸気マニホールド63に配設され、吸入空気の温度を検出し、検出された吸入空気の温度を示す検出信号を出力する。吸気圧センサ48は、吸気マニホールド63に配設され、吸入空気圧力を検出し、検出された吸入空気圧力を示す検出信号を出力する。
【0045】
−光量検出センサ−
次に図3を参照して、光量検出センサ91(91A)及び光量検出センサ92(92A)の構造について説明する。図3は、図2に示す光量検出センサ91(91A)、92(92A)の一例を示す斜視図である。
【0046】
図3(a)は、燃焼室3の火炎からの輻射による温度上昇を検出するタイプの光量検出センサ91、92の一例を示す一部破断斜視図である。なお、図3(a)に示す輻射による温度上昇を検出するタイプの光量検出センサ91、92は、公知のセンサである(例えば、「直接噴射式ディーゼル機関の燃焼室壁面熱損失の測定」、海上技術安全研究所報告、第8巻、第2号(平成20年度)、89ページ〜95ページ参照)から、以下に、簡単にその構成を説明する。
【0047】
図3(a)に示すように光量検出センサ91は、表面接点911、深部接点912、第1金属913、第2金属914、透過窓915、及び、センサボディ916を備えている。第1金属913及び第2金属914は、熱電対を構成する異種の金属である。表面接点911及び深部接点912において、第1金属913及び第2金属914は、接続されて熱電対を形成し、温度を示す信号を出力する。また、透過窓915は、例えば、サファイヤ等からなり、表面接点911及び深部接点912に形成された熱電対への対流熱伝達を遮断することによって、燃焼室3の火炎からの輻射による温度変化のみを抽出するべく構成されている。
【0048】
図3(b)は、放射率の異なる2箇所の差温から燃焼室3の火炎からの輻射を検出するタイプの光量検出センサ91A、92Aの一例を示す一部破断斜視図である。なお、図3(b)に示す放射率の異なる2箇所の差温から燃焼室3の火炎からの輻射を検出するタイプの光量検出センサ91A、92Aも、公知のセンサである(例えば、CAPTEC製、輻射センサ、「RFシリーズ」参照)から、以下に、簡単にその構成を説明する。
【0049】
図3(b)に示すように光量検出センサ91Aは、透過窓911A、センサボディ912A、反射板913A、及び、吸熱板914Aを備えている。吸熱板914Aを透過した輻射熱が、吸熱板914Aの背面側(図3の右上側)に配設された温接点に入射され、反射板913Aの背面側(図3の右上側)に配設された冷接点との間で熱エネルギ差を発生させる。この熱エネルギ差に応じた起電力を、光量検出センサ91Aが検出して、起電力を示す検出信号を出力する。
【0050】
本実施形態では、光量検出センサ91、92が配設されている場合について説明するが、光量検出センサ91、92に換えて光量検出センサ91A、92Aが配設されている形態でもよい。また、光量検出センサが、燃焼室3の火炎の発光強度を検出するフォトセンサを備える形態でもよい。
【0051】
図2を参照して上述のように、光量検出センサ91によって燃焼室3の中央部近傍における火炎の光量が検出され、光量検出センサ92によって燃焼室3の側壁近傍における火炎の光量が検出されるため、燃焼室3内の火炎が燃焼室3中央部から側壁方向へ拡散しているか否かを容易に判定することができる(図4を参照して後述する拡散方向判定部104参照)。
【0052】
本実施形態では、光量検出センサ91、92が配設される場合について説明するが、燃焼室3中央部から側壁方向へ向けて適度に離間した位置に、3個以上の光量検出センサが配設される形態でもよい。この場合には、燃焼室3内の火炎が燃焼室3中央部から側壁方向へ拡散しているか否かを更に容易に判定することができる。
【0053】
また、図2を参照して上述のように、光量検出センサ92が、シリンダボア12に配設された光量検出センサ92であって、上死点におけるピストン13のトップリング131の位置よりも下側に配設されるため、光量検出センサ92の検出感度の低下を抑制することができる。
【0054】
すなわち、図3に示すように、光量検出センサ92を燃焼ガスから保護するために、光量検出センサ92と燃焼室3との間には光を透過する透過窓915が形成されているところ、光量検出センサ92が、シリンダボア12に配設された光量検出センサ92であって、上死点におけるピストン13のトップリング131の位置よりも下側に配設されるため、ピストン13のトップリング131によって透過窓915に付着した汚れが除去されるので、光量検出センサ92の検出感度の低下を抑制することができるのである。
【0055】
本実施形態では、光量検出センサ92が、上死点におけるピストン13のトップリング131の位置よりも下側のシリンダブロック11に配設される場合について説明するが、光量検出センサ92が、シリンダヘッド15の燃焼室3の側壁(シリンダボア12の内壁面)近傍に配設される形態でもよい。
【0056】
−ECU−
ここで、図4を参照して、ECU100について説明する。図4は、図1に示すエンジン1の燃料噴射制御装置の一例を示す機能構成図である。
【0057】
ECU(Electronic Control Unit)100は、CPU、ROM、RAM及びバックアップRAM等を備えている。ROM(Read Only Memory)は、各種制御プログラム、及び、各種制御プログラムを実行する際に参照されるルックアップテーブル(LUT)、マップ等を記憶するメモりである。CPU(Central Processing Unit)は、ROMに記憶された各種制御プログラム、及び、ルックアップテーブル、マップに基づいて各種の演算処理を実行するものである。RAM(Random Access Memory)は、CPUでの演算結果、各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAMは、例えばエンジン1の停止時に(又は、イグニッションOFF時に)、保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。また、CPU、ROM、RAM及びバックアップRAMは、バスを介して互いに接続される。
【0058】
ECU100には、レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、空燃比センサ44、排気温センサ45、吸気圧センサ48、吸気温センサ49が通信可能に接続されている。更に、ECU100には、エンジン1の冷却水温を示す検出信号を出力する水温センサ46、アクセルペダルの踏み込み量を示す検出信号を出力するアクセル開度センサ47、及び、エンジン1の出力軸(クランクシャフト)が一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力するクランクポジションセンサ40等が通信可能に接続されている。更に、ECU100には、インジェクタ23、スロットルバルブ62、及び、EGRバルブ81等が通信可能に接続されている。
【0059】
そして、ECU100は、上記の各種センサからの検出信号に基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。また、ECU100は、インジェクタ23の燃料噴射制御として、後述するパイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射(主噴射)、アフタ噴射を実行する。
【0060】
−ECU100の構成−
次に、図4を参照して本発明に係る「内燃機関の燃料噴射制御装置」(ECU100)の構成について説明する。ECU100は、ROM等に記憶された制御プログラムを読み出して実行することによって、温度推定部101、光量検出部102、光量判定部103、拡散方向判定部104、及び、噴射制御部105として機能する。ここで、温度推定部101、光量検出部102、光量判定部103、拡散方向判定部104、及び、噴射制御部105は、本発明に係る「内燃機関の燃料噴射制御装置」の一部に相当する。
【0061】
温度推定部101は、筒内温度Tの平均値TAを推定する機能部である。なお、温度推定部101は、特許請求の範囲に記載の「温度推定手段」に相当する。具体的には、温度推定部101は、例えば、筒内噴射が行われてから吸気バルブ16(図2参照)が閉弁されるまでの期間内における筒内圧力の変化に基づいて筒内温度の平均値TAを推定する(例えば、特開2011−58410号公報参照)。
【0062】
光量検出部102は、燃焼室3(図2参照)内の火炎の光量を検出する機能部である。なお、光量検出部102は、特許請求の範囲に記載の「光量検出手段」の一部に相当する。具体的には、アフタ噴射の開始時点から温度推定部101によって推定された筒内温度の平均値TAが自然着火温度TA0に低下するまでの期間において、光量検出センサ91、92(図2参照)を介して、燃焼室3内の火炎の光量を検出する。
【0063】
ここで、図5を参照して、光量検出部102によって燃焼室3内の火炎の光量が検出される期間について説明する。図5は、図4に示す光量検出部102の検出タイミングの一例を示すタイミングチャートである。図5(a)は、温度推定部101によって推定された筒内温度の平均値TAの推移を示すグラフG11であり、図5(b)は、インジェクタ23による燃料の噴射タイミングを示すグラフG12であり、図5(c)は、光量検出部102の検出タイミングを示すグラフG13である。なお、グラフの横軸は全てクランク角θである。
【0064】
−燃料噴射形態−
図5(b)にグラフG12で示すように、本実施形態では、パイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射、及び、アフタ噴射が、順次実行される。ここで、パイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射、及び、アフタ噴射の各動作について説明する。
【0065】
(パイロット噴射)
クランク角θが角θ1から角θ2までの間に実行されるパイロット噴射は、インジェクタ23(図1、図2参照)からのメイン噴射(主噴射)に先立ち、予め少量の燃料を噴射する噴射動作である。つまり、このパイロット噴射の実行後、燃料噴射を一旦中断し、メイン噴射が開始されるまでの間に圧縮ガス温度(気筒内温度)を充分に高めて、燃料の自着火温度に到達させるようにし、これによってメイン噴射で噴射される燃料の着火性を良好に確保するようにしている。
【0066】
(プレ噴射)
クランク角θが角θ3から角θ4までの間に実行されるプレ噴射は、インジェクタ23からのメイン噴射に先立ち、予め少量の燃料を噴射する噴射動作である。プレ噴射は、メイン噴射による燃料の着火遅れを抑制し、安定した拡散燃焼に導くための噴射動作であって、副噴射とも呼ばれる。
【0067】
(メイン噴射)
クランク角θが角θ5から角θ6までの間に実行されるメイン噴射は、エンジン1のトルク発生のための噴射動作(トルク発生のための燃料の供給動作)である。メイン噴射での燃料噴射量は、例えば、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じて決定される要求トルクを得るための総燃料噴射量からプレ噴射での噴射量を減算した噴射量として設定される。
【0068】
(アフタ噴射)
クランク角θが角θ7から角θ8までの間に実行されるアフタ噴射は、排気ガス温度を上昇させて各触媒75、76の温度を活性温度まで高める機能、NOx還元時に各触媒75,76に未燃料成分を供給する機能等を発揮する噴射動作である。なお、メイン噴射が終了するクランク角θである角θ6からアフタ噴射が噴射するクランク角θである角θ7までの期間を、以下の説明において、「アフタ噴射インターバルDT」という。
【0069】
図5(a)にグラフG11で示すように、温度推定部101によって推定された筒内温度の平均値TAは、メイン噴射の開始前に自然着火温度TA0に到達し、メイン噴射において噴射された燃料の着火によって最大値に到達し、その後、漸減する。そして、温度推定部101によって推定された筒内温度の平均値TAは、アフタ噴射後のクランク角θが角θ9であるタイミングで、自然着火温度TA0に到達し、更に、漸減する。
【0070】
図5(c)にグラフG13で示すように、光量検出部102は、アフタ噴射の開始タイミングであるクランク角θが角θ7であるタイミングから、温度推定部101によって推定された筒内温度の平均値TAが自然着火温度TA0に到達するタイミングであるクランク角θが角θ9であるタイミングまで、燃焼室3内の火炎の光量を検出する。
【0071】
このようにして、温度推定部101によって、筒内温度の平均値TAが推定され、光量検出部102によって、アフタ噴射の開始時点から、推定された筒内温度の平均値TAが自然着火温度TA0に低下するまでの期間において、燃焼室3内の火炎の光量が検出されるため、適正な期間において燃焼室3内の火炎の光量を検出することができる。
【0072】
すなわち、筒内温度の平均値TAが燃料の自然着火温度TA0以下である場合には、アフタ噴射によって噴射された燃料が燃焼に至らないため、筒内温度の平均値TAが自然着火温度TA0に低下するまでの期間において、燃焼室3内の火炎の光量を検出することによって、適正な期間において燃焼室3内の火炎の光量を検出することができるのである。
【0073】
再び、図4に戻って、ECU100の機能構成について説明する。光量判定部103は、光量検出部102によって検出されたアフタ噴射による火炎の光量が、予め設定された閾値光量以上であるか否かを判定する機能部である。なお、光量判定部103は、特許請求の範囲に記載の「光量判定手段」に相当する。具体的には、光量判定部103は、例えば、図5に示すクランク角θが角θ7であるタイミングからクランク角θが角θ9であるタイミングまでの期間において、光量検出センサ91(図2参照)によって検出された光量の最大値QLMが、閾値光量QLM0以上であるか否かを判定する。
【0074】
本実施形態では、光量判定部103が、光量検出センサ91で検出された光量の最大値QLMが閾値光量QL0以上であるか否かを判定する場合について説明するが、光量判定部103が、光量検出センサ91で検出された光量の平均値QLAが閾値光量QLA0以上であるか否かを判定する形態でもよい。
【0075】
拡散方向判定部104は、光量検出部102によって検出された火炎の光量QLに基づき、燃焼室3内の火炎が、燃焼室3の中央から外周方向へ拡散しているか否かを判定する機能部である。なお、拡散方向判定部104は、特許請求の範囲に記載の「拡散方向判定手段」に相当する。
【0076】
具体的には、拡散方向判定部104は、図5に示すクランク角θが角θ7であるタイミングからクランク角θが角θ9であるタイミングまでの期間における、光量検出センサ91及び光量検出センサ92(図2参照)によって、それぞれ、検出された光量QL1及び光量QL2に基づき、燃焼室3内の火炎が、燃焼室3の中央から外周方向へ拡散しているか否かを判定する。
【0077】
更に具体的には、拡散方向判定部104は、例えば、図5に示すクランク角θが角θ7であるタイミングからクランク角θが角θ9であるタイミングまでの期間において、光量QL1が最大値となるクランク角θ10、及び、光量QL2が最大値となるクランク角θ20を求め、クランク角θ20がクランク角θ10より遅角側である場合に、燃焼室3内の火炎が、燃焼室3の中央から外周方向へ拡散していると判定する。
【0078】
噴射制御部105は、光量判定部103によってアフタ噴射による火炎の光量の最大値QLMが閾値光量QLM0以上であると判定され、且つ、拡散方向判定部104によって燃焼室3内の火炎が燃焼室3中央部から側壁方向へ拡散していると判定された場合に、次回のアフタ噴射の噴射時期を遅角する機能部である。なお、噴射制御部105は、特許請求の範囲に記載の「噴射制御手段」に相当する。また、噴射制御部105は、排気温センサ45(図1参照)によって検出された排気ガスの温度TEが、予め設定された所定温度TE0(例えば、1100℃)以下であるか否かを判定し、温度TEが所定温度TE0より大きい場合には、アフタ噴射の実施を遅延する。
【0079】
具体的には、噴射制御部105は、例えば、光量判定部103によってアフタ噴射による火炎の光量の最大値QLMが閾値光量QLM0以上であると判定され、且つ、拡散方向判定部104によって燃焼室3内の火炎が燃焼室3中央部から側壁方向へ拡散していると判定された場合に、次回のアフタ噴射の噴射時期(図5では、クランク角θが角θ7であるタイミング)を予め設定された所定角度Δθ(例えば、5°)だけ遅角する。
【0080】
このようにして、アフタ噴射による火炎の光量の最大値QLMが閾値光量QLM0以上であると判定され、且つ、燃焼室3内の火炎が燃焼室3中央部から側壁方向へ拡散していると判定された場合に、図7を参照して後述するように、アフタ噴射の噴射時期を遅角すればアフタ噴射による黒煙の発生を減少することができるのであるが、アフタ噴射の噴射時期をどの程度遅角すればよいかを求めることは困難である。よって、次回のアフタ噴射の噴射時期を予め設定された所定角度Δθ(例えば、5°)だけ遅角することによって、簡素な構成でアフタ噴射による黒煙の発生を防止することができるのである。
【0081】
ここで、図6、図7を参照して、噴射制御部105によって行われるアフタ噴射において噴射時期を遅角する効果について説明する。図6は、メイン噴射及びアフタ噴射における火炎の発生状況の一例を示す概念図である。図6(a)は、メイン噴射における火炎の発生状況の一例を示す概念図であって、図6(b)は、アフタ噴射における火炎の発生状況の一例を示す概念図である。
【0082】
図6(a)に示すように、メイン噴射では、火炎F1は、キャビティ13bの外縁部13dよりも外周側まで拡がっている。また、火炎F1の拡がる方向V1は、図6(a)に示すように、キャビティ13bの外縁部13dに衝突するまで拡がった後、一部の火炎F1は内周側へ戻される。また、図6(b)に示すように、アフタ噴射では、火炎F2は、キャビティ13bの外縁部13dの内側まで拡がっている。また、火炎F2の拡がる方向V2は、図6(b)に示すように、キャビティ13bの外縁部13dに向けて拡がる。
【0083】
図7は、図4に示すECU100の効果の一例を示すグラフである。図7(a)は、アフタ噴射インターバルDTと、排気ガスの温度との関係を示すグラフG21、G22であり、図7(b)は、アフタ噴射インターバルDTと、排気中の黒煙量との関係を示すグラフG31、G32である。ここで、実線で示すグラフG21及びグラフG31は、アフタ噴射において噴射される燃料が多い場合(例えば、1ストローク当り3mm3である場合)であって、破線で示すグラフG22及びグラフG32は、アフタ噴射において噴射される燃料が少ない場合(例えば、1ストローク当り2mm3である場合)である。
【0084】
図7(a)のグラフG21、G22から判るように、アフタ噴射インターバルDTを大きくする程(アフタ噴射の開始時期を遅角する程)、矢印V3で示すように、排気ガスの温度は上昇する。また、図7(b)のグラフG31、G32から判るように、アフタ噴射インターバルDTが所定値DT0以上である場合には、アフタ噴射インターバルDTを大きくする程(アフタ噴射の開始時期を遅角する程)、矢印V4で示すように、排気中の黒煙量は減少する。
【0085】
すなわち、図7に示すアフタ噴射インターバルDTが所定値DT0以上である領域ARにおいては、アフタ噴射インターバルDTを大きくする程(アフタ噴射の開始時期を遅角する程)、下記2つの理由によって排気中の黒煙量は減少すると推定される。
理由1:アフタ噴射の開始時期を遅角する程、アフタ噴射時の筒内温度が低くなるために、燃料の空気導入時間(燃焼に至るまでの時間)が長くなって、燃料と空気との混合状態が改善される。
理由2:アフタ噴射の開始時期を遅角する程、燃焼室3内におけるメイン噴射による既燃ガスの拡散が進むため、既燃ガスの中へのアフタ噴射の燃料噴射による局所的な空気利用の悪化も改善される。
【0086】
−ECU100の動作−
次に、図8を参照して、ECU100の動作を説明する。図8は、図4に示すECU100の動作の一例を示すフローチャートである。まず、噴射制御部によって、排気温センサ45によって検出された排気ガスの温度TEが所定温度TE0以下であるか否かの判定が行われる(ステップS101)。ステップS101でNOの場合には、処理が待機状態とされる。ステップS101でYESの場合には、処理がステップS103へ進められる。そして、噴射制御部105によって、アフタ噴射が実施される(ステップS103)。
【0087】
次いで、光量検出部102によって、光量検出センサ91、92を介して、燃焼室3内における火炎の光量QL1、QL2の検出が開始される(ステップS105)。次に、光量検出部102によって、温度推定部101で推定された筒内温度の平均値TAが、燃料の自然着火温度TA0以下であるか否かの判定が行われる(ステップS107)。ステップS107でNOの場合には、処理が待機状態とされる。ステップS107でYESの場合には、処理がステップS109へ進められる。
【0088】
そして、光量検出部102によって、燃焼室3内における火炎の光量の検出が終了される(ステップS109)。次いで、光量判定部103によって、ステップS105からステップS109の期間内に、光量検出センサ91で検出された光量QL1の最大値QLMが、閾値光量QLM0以上であるか否かが判定される(ステップS111)。ステップS111でNOの場合には処理が終了される。ステップS111でYESの場合には処理がステップS113へ進められる。
【0089】
次に、拡散方向判定部104によって、燃焼室3内の火炎が、燃焼室3の中央から外周方向へ拡散しているか否かが判定される(ステップS113)。ステップS113でNOの場合には、処理が終了される。ステップS113でYESの場合には、処理がステップS115へ進められる。そして、噴射制御部105によって、次回のアフタ噴射の噴射時期が所定角度Δθだけ遅角されて(ステップS115)、処理が終了される。
【0090】
このようにして、光量検出部102によって、光量検出センサ91を介して、燃焼室3内の火炎の光量QL1が検出され、光量判定部103によって、アフタ噴射による火炎の光量QL1の最大値QLMが、予め設定された閾値光量QLM0以上であるか否かが判定される。また、光量検出部102によって、光量検出センサ91、92を介して、検出された火炎の光量QL1、QL2に基づき、拡散方向判定部104によって、燃焼室3内の火炎が、燃焼室3中央から外周方向へ拡散しているか否かが判定される。そして、アフタ噴射による火炎の光量QL1の最大値QLMが閾値光量QLM0以上であると判定され、且つ、燃焼室3内の火炎が燃焼室3中央部から側壁方向へ拡散していると判定された場合に、噴射制御部105によって、次回のアフタ噴射の噴射時期が遅角されるため、アフタ噴射による黒煙の発生を防止することができる(図7参照)。
【0091】
−他の実施形態−
本実施形態においては、ECU100が、温度推定部101、光量検出部102、光量判定部103、拡散方向判定部104、及び、噴射制御部105として機能する場合について説明したが、温度推定部101、光量検出部102、光量判定部103、拡散方向判定部104、及び、噴射制御部105のうち、少なくとも1つが、電子回路等のハードウェアで構成されている形態でもよい。
【0092】
本実施形態においては、パイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射、及び、アフタ噴射が、順次実行される場合について説明したが、少なくともメイン噴射、及び、アフタ噴射が、順次実行される形態であればよい。すなわち、パイロット噴射及びプレ噴射の少なくとも一方を実施しない形態でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、内燃機関(主に、ディーゼルエンジン)の1サイクル中に、燃料噴射弁から、トルクを発生する燃料噴射である主噴射と、当該主噴射の後に行われる燃料噴射であるアフタ噴射とを実行する圧縮自着火式の内燃機関の燃料噴射制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 ディーゼルエンジン
11 シリンダブロック
12 シリンダボア
13 ピストン
131 トップリング
132 セカンドリング
133 オイルリング
13b キャビティ
13d 外縁部
15 シリンダヘッド
19 グロープラグ
2 燃料供給系
23 インジェクタ
3 燃焼室
91 光量検出センサ(第1センサ:光量検出手段の一部)
915 透過窓
92 光量検出センサ(第2センサ:光量検出手段の一部)
100 ECU
101 温度推定部(温度推定手段)
102 光量検出部(光量検出手段の一部)
103 光量判定部(光量判定手段)
104 拡散方向判定部(拡散方向判定手段)
105 噴射制御部(噴射制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の1サイクル中に、燃料噴射弁から、トルクを発生する燃料噴射である主噴射と、当該主噴射の後に行われる燃料噴射であるアフタ噴射とを実行する圧縮自着火式の内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
燃焼室内の火炎の光量を検出する光量検出手段と、
前記光量検出手段によって検出された前記アフタ噴射による火炎の光量が、予め設定された閾値光量以上であるか否かを判定する光量判定手段と、
前記光量検出手段によって検出された火炎の光量に基づき、前記燃焼室内の火炎が、前記燃焼室中央から外周方向へ拡散しているか否かを判定する拡散方向判定手段と、
前記光量判定手段によって前記アフタ噴射による火炎の光量が前記閾値光量以上であると判定され、且つ、前記拡散方向判定手段によって前記燃焼室内の火炎が前記燃焼室中央部から側壁方向へ拡散していると判定された場合に、次回の前記アフタ噴射の噴射時期を遅角する噴射制御手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記光量検出手段は、前記燃焼室の中央部近傍における火炎の光量を検出する第1センサと、前記燃焼室の側壁近傍における火炎の光量を検出する第2センサと、を備えることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記第2センサは、シリンダボアに配設された光量検出センサであって、上死点におけるピストンのトップリングの位置よりも下側に配設されることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
筒内温度の平均値を推定する温度推定手段を更に備え、
前記光量検出手段は、前記アフタ噴射の開始時点から前記温度推定手段によって推定された筒内温度の平均値が自然着火温度に低下するまでの期間において、前記燃焼室内の火炎の光量を検出することを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記噴射制御手段は、前記光量判定手段によって前記アフタ噴射による火炎の光量が前記閾値光量以上であると判定され、且つ、前記拡散方向判定手段によって前記燃焼室内の火炎が前記燃焼室中央部から側壁方向へ拡散していると判定された場合に、次回の前記アフタ噴射の噴射時期を予め設定された所定角度だけ遅角することを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−87753(P2013−87753A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231936(P2011−231936)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】