説明

内燃機関の空燃比制御装置及び空燃比制御方法

【課題】 フィードバック制御の開始時やフィードバック制御に要求される補正量が急変したときに、空燃比が理論空燃比付近となるまでに要する時間を短くし、それにより排気ガスやエンジンの出力特性の悪化を抑制する。
【解決手段】燃料量決定手段61が、記憶手段63に予め記憶されている第1対応関係71及び第2対応関係73に基づいて運転状態に応じた運転状態基準係数TBASE及び運転状態補正係数FO2RAMを決定し、且つ、空燃比センサ56の出力に基づいて空燃比を理論空燃比に近づけるためのフィードバック補正係数FAF,FRLAF,FLLAFを決定し、当該決定された運転状態基準係数TBASEと運転状態補正係数FO2RAMとフィードバック補正係数FAF,FRLAF,FLLAFとを含む演算式を用いて、燃料指令値を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の空燃比制御装置及び方法に関する。特に、空燃比センサを用いて混合気の空燃比をフィードバック制御する内燃機関の空燃比制御装置及び空燃比制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気ガス中のHC量及びNOx量の低減と出力特性の確保の観点から、空燃比を運転領域毎に所望の値に制御することが求められている。これを実現する制御技術として、排気系に配置されたO2センサを利用し、インジェクタを操作することによって混合気の空燃比をフィードバック制御する技術(O2フィードバック制御)が知られている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0003】
O2センサは、理論空燃比近傍で出力特性が変化するものであるので、O2センサの出力を監視しても、混合気がリーン状態であるかリッチ状態であるかを検出することしかできず、空燃比の値を検出することができない。このため、従来のO2フィードバック制御では、O2センサの出力がリーン状態とリッチ状態のどちらを示しているのかを監視しながら、燃料供給量を補正するためのフィードバック補正係数を徐変させる方法が採られており、通常のフィードバック制御のように、フィードバック補正係数を偏差に応じて変わるように設定することができない。したがって、O2フィードバック制御を実施している間に成し得る空燃比は、O2センサの出力特性が変化する理論空燃比近傍に限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−105530号公報
【特許文献2】特開2006−226234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ある運転領域の空燃比が理論空燃比以外に設定される場合がある。特に、自動二輪車などの鞍乗型乗物では、出力特性の確保やエンジンの保護のために、運転領域に応じて様々な目標空燃比が設定されるので、O2フィードバック制御を実施可能な運転領域が特に限定的となる。そのような場合に、フィードバック補正係数を徐変させるという制御方法が採られていると、O2フィードバック制御の開始時や運転領域の急変時などのようにO2フィードバック制御に要求される補正量が急変するような場合、実際の空燃比が要求される空燃比に良好に追従させることができず、排気ガスやエンジンの出力特性の悪化を招くおそれがあるという第1の課題がある。
【0006】
また、制御による実現可能な空燃比が理論空燃比に限定されると、出力特性の確保やエンジン保護等の面で理論空燃比以外の空燃比が要求される運転領域では、空燃比のフィードバック制御が可能な運転領域が限定され、例えば、エンジンの劣化等によって空燃比が所望の値からずれた場合において、燃料量を補正することができず、非O2フィードバック制御モードにおける排出ガスの悪化や出力特性の悪化を招くおそれがある。
【0007】
これに対し、特許文献2においては、O2フィードバック制御によりO2センサの出力を監視しながらフィードバック補正係数を変化させてベース燃料量を補正していくことによって空燃比が理論空燃比付近となるようエンジンの運転制御を行い、空燃比が理論空燃比付近となったときのフィードバック補正係数を学習し、非O2フィードバック制御モードにおいて、学習したフィードバック補正係数でベース燃料量を補正する、という技術が開示されている。
【0008】
しかし、従来技術のように、O2フィードバック制御中のフィードバック補正係数を学習する方式では、鞍乗型乗物のように運転状態に応じて目標とする空燃比が様々な設定となるエンジンにおいては、運転状態に応じて目標空燃比が時々刻々と変化するため、フィードバック補正係数は劣化等による空燃比ずれ分に加えて、目標空燃比と理論空燃比の偏差分の影響を受ける。したがって、フィードバック補正係数からエンジンの劣化等による空燃比ずれのみを正確に検出することができず、非O2フィードバック制御モードにおける排気ガスや出力特性の悪化を防ぎきれないおそれがあるという第2の課題がある。
【0009】
そこで本発明は、O2フィードバック制御の開始時やO2フィードバック制御に要求される補正量が急変したときに、空燃比が理論空燃比付近となるまでに要する時間を短くし、それにより排気ガスやエンジンの出力特性の悪化を抑制することを第1の目的としている。さらに、本発明は、非O2フィードバック制御モードにおいて、O2フィードバック制御モードの実施中に得られたO2フィードバック補正係数から正確に目標空燃比と実際の空燃比との偏差を検出して非O2フィードバック制御モードを実施しているときの空燃比を補正し、それにより排出ガスやエンジンの出力特性の悪化を低減することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る内燃機関の空燃比制御装置は、内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、排気ガス中の空燃比が理論空燃比付近であるときに出力特性が変化する空燃比センサと、内燃機関に燃料を供給し、燃料供給量を調整可能な燃料供給手段と、前記燃料供給手段が供給すべき燃料供給量を示す燃料指令値を決定する燃料量決定手段と、運転状態毎の基準となる燃料供給量を示す運転状態基準係数を運転状態毎に決めた第1対応関係と、前記空燃比センサが示す空燃比が理論空燃比となるように燃料供給量を運転状態毎に補正するための運転状態補正係数を運転状態毎に求めた第2対応関係と、を予め記憶した記憶手段と、を備え、前記燃料量決定手段は、前記記憶手段に記憶されている前記第1対応関係及び前記第2対応関係に基づいて前記運転状態検出手段により検出される運転状態に応じた前記運転状態基準係数及び前記運転状態補正係数を決定し、且つ、前記空燃比センサの出力に基づいて空燃比を理論空燃比に近づけるためのフィードバック補正係数を決定し、当該決定された運転状態基準係数と運転状態補正係数とフィードバック補正係数とを含む演算式を用いて、前記燃料指令値を決定するフィードバック制御モードを有する。
【0011】
前記構成によれば、記憶手段に、空燃比が理論空燃比となる燃料供給量に関する運転状態補正係数を運転状態毎に求めた第2対応関係が予め記憶されている。フィードバック制御モードにおいて燃料指令値を決定するときには、運転状態基準係数が、当該運転状態補正係数と、空燃比を理論空燃比に近づけるためのフィードバック補正係数とにより補正される。このように運転状態補正係数で運転状態基準係数が補正されると、運転状態に関わらず、フィードバック制御モードの開始後速やかに、空燃比を理論空燃比付近にまで変化させることができる。これにより、フィードバック制御モードが開始してから、空燃比が理論空燃比付近になるまでに要する時間の運転状態によるバラツキを抑制することができ、且つその時間を短くすることができる。すなわち、運転状態で影響する係数と、フィードバック補正係数とを分離することで、運転状態に影響する部分をフィードバックによって収束させる必要がなく、理論空燃比に近づくまでの時間を短縮することができ、第1の課題を解決することができる。
【0012】
前記フィードバック制御モード時に決定される前記フィードバック補正係数に応じて前記内燃機関の経年劣化の影響を抑えるための劣化学習補正係数を算出する学習値算出手段を更に備え、前記記憶手段は、前記劣化学習補正係数を更新記憶し、前記燃料量決定手段は、前記記憶手段に記憶されている前記第1対応関係に基づいて前記運転状態検出手段により検出される運転状態に応じた前記運転状態基準係数を決定し、前記記憶手段に記憶されている前記劣化学習補正係数を読み出し、前記運転状態基準係数と前記劣化学習補正係数とを含む演算式を用いて、前記空燃比センサの出力に基づかずに前記燃料指令値を決定する非フィードバック制御モードを有していてもよい。
【0013】
本発明において、フィードバック補正係数は、運転状態基準係数を運転状態補正係数で補正してもなお空燃比を理論空燃比に近づけるために追加的に必要となった補正係数であると言え、例えば経年劣化等を要因にして発生する。非フィードバック制御モード時には、燃料指令値を決定するにあたって、フィードバック補正係数に応じて算出される劣化学習補正係数で運転状態基準係数が補正されるので、経年劣化に関わらず、空燃比を運転状態に適したもので維持することができる。すなわち、劣化の影響を補正する補正係数を用いることで、経年劣化に起因する排気ガス中の空燃比の変化を抑えることができる。
【0014】
前記学習値算出手段は、前記劣化学習補正係数を運転状態毎に算出し、前記記憶手段は運転状態と前記劣化学習補正係数との関係を示す第3対応関係を運転状態毎に記憶していてもよい。
【0015】
前記構成によれば、運転状態に応じてフィードバック補正係数が異なるような状況において、これに対応して劣化学習補正係数を用いた運転状態基準係数の補正を行うことが可能となる。
【0016】
前記学習値算出手段は、前記記憶手段に運転状態に対応して記憶されている複数の劣化学習補正係数を運転領域に応じて重み付けした重み付け平均値を算出し、前記重み付け平均値に基づき前記劣化学習補正係数の代表値を算出し、前記記憶手段は、前記学習値算出手段により算出された前記代表値を更新記憶し、前記燃料量決定手段は、前記非フィードバック制御モード時に、前記劣化学習補正係数を含む前記演算式に前記代表値を適用して前記燃料指令値を算出してもよい。
【0017】
前記構成によれば、非フィードバック制御モード時に、フィードバック制御モードが実施されにくい運転状態となっても、他の運転状態に応じた取得された新規な劣化学習補正係数を反映した代表値を適用して燃料指令値を決定することができる。
【0018】
前記フィードバック補正係数は、閉ループ補正値、実時学習値及び長期学習値を有し、前記閉ループ補正値は、空燃比を理論空燃比に近づけるように変化し、前記空燃比センサの出力が反転すると当該変化の正負を反転させるよう設定されており、前記実時学習値は、前記閉ループ補正値が反転時に所定の基準値を跨がない間は、空燃比を理論空燃比に近づける傾向に変化し、かつ、前記閉ループ補正値が反転時に所定の基準値を跨ぐと、その時点の値が保持されるよう設定されており、前記長期学習値は、前記実時学習値が所定の閾値に達すると、所定値が加算されるよう設定されており、かつ、前記実時学習値は、当該加算時に前記所定値が引き算されるよう設定されていてもよい。このとき、前記学習値算出手段は、前記長期学習値に基づいて前記劣化学習補正係数を算出してもよい。
【0019】
前記構成によれば、フィードバック補正係数の一部のみが劣化学習補正係数の算出のために用いられるので、フィードバック補正係数に突発的な変動が生じても、この変動が劣化学習補正係数に不所望に反映されるのを良好に抑制することができる。
【0020】
前記記憶手段は、内燃機関のイグニションスイッチがオフとされている間も前記劣化学習補正係数を記憶し続けるように構成されていてもよい。
【0021】
前記構成によれば、イグニションスイッチがオンとされた直後から、学習劣化補正係数による補正を行うことができる。
【0022】
前記内燃機関の燃焼が不安定であるか否かを検出する燃焼状態検出手段を備え、前記燃料量決定手段は、前記燃焼状態検出手段により燃焼が不安定であると検出された場合には、前記劣化学習補正係数を縮小補正してもよい。
【0023】
前記構成によれば、劣化学習補正係数による過補正で燃焼状態が不安定になるという事態を良好に回避するこことができる。
【0024】
前記内燃機関の燃焼が不安定であるか否かを検出する燃焼状態検出手段を備え、前記燃料量決定手段は、前記運転状態検出手段により検出される運転状態がアイドル運転域にあるときに、当該アイドル運転域に対応する前記運転状態基準係数と、前記空燃比センサの出力がリーン状態を示す値とするためのアイドル補正係数とを決定し、当該決定された運転状態基準係数とアイドル補正係数とを含む演算式を用いて、前記燃料指令値を決定するアイドルモードを有し、前記燃料量決定手段は、前記アイドルモード時において、前記燃焼状態検出手段により燃焼が不安定であると判定される場合に、前記アイドル補正係数を縮小補正してもよい。
【0025】
前記構成によれば、燃焼状態が特に安定しにくいアイドル運転域においては、その他の運転状態と差別化した空燃比制御を行うことができる。このアイドルモード時において、燃焼状態が不安定であるか否かを考慮して、アイドル補正係数を縮小することができ、アイドル補正係数による過補正で燃焼状態が不安定になるという事態を良好に回避することができる。
【0026】
前記燃料量決定手段は、前記フィードバック制御モードが開始すると、前記運転状態検出手段により検出される運転状態に応じて前記運転状態補正係数を求め、前記運転状態補正係数を求められた値まで徐変させてもよい。
【0027】
前記構成によれば、モードの移行や切り替えに伴って燃料供給量が急変して内燃機関の出力が急変するおそれを良好に抑制することができる。
【0028】
本発明に係る内燃機関の空燃比制御方法は、内燃機関に燃料を供給し、燃料供給量を調整可能な燃料供給手段を備える内燃機関の空燃比制御方法であって、運転状態毎の基準となる燃料供給量を示す運転状態基準係数を運転状態毎に決めた第1対応関係と、前記空燃比センサが示す空燃比が理論空燃比となるように燃料供給量を運転状態毎に補正するための運転状態補正係数を運転状態毎に求めた第2対応関係と、を予め記憶し、予め記憶されている前記第1対応関係に基づいて前記運転状態検出手段により検出される運転状態に応じた前記運転状態基準係数を決定し、予め記憶されている前記第2対応関係に基づいて前記運転状態検出手段により検出される運転状態に応じた前記運転状態補正係数を決定し、排気ガス中の空燃比が理論空燃比付近であるときに出力特性が変化する空燃比センサの出力に基づいて、空燃比を理論空燃比に近づけるためのフィードバック補正係数を決定し、決定された運転状態基準係数と運転状態補正係数とフィードバック補正係数とを含む演算式を用いて、前記燃料供給手段が供給すべき燃料供給量を示す燃料指令値を決定する。
【0029】
前記方法によっても、空燃比センサの出力に基づき決定されるフィードバック補正係数を含む演算式を用いて燃料指令値を決定するにあたり、前記制御装置と同様にして運転状態補正係数による補正を行うことができるので、空燃比を速やかに理論空燃比に近づけることができるようになる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、フィードバック制御の開始時や、フィードバック制御に要求される補正量が急変したときに、空燃比が理論空燃比付近と成るまでに要する時間を短くすることができ、それにより排気ガスやエンジンの出力特性が悪化するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る空燃比制御装置を搭載した自動二輪車を右側から見て示す側面図である。
【図2】図1に示すエンジンの吸気系及び排気系の構成を模式的に示す概念図である。
【図3】図1に示す自動二輪車に搭載された空燃比制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図3に示す空燃比制御装置により実行される空燃比制御方法のメイン処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】図3に示す記憶部に記憶された係数マップの模式図である。
【図6】図4に示すO2フィードバック制御モードが実施されているとき及び非O2フィードバック制御モードが実施されているときの燃料指令値の決定手法の一例を示すタイミングチャートである。
【図7】図3に示す記憶部に記憶される実時学習値マップの模式図である。
【図8】図4に示すO2フィードバック制御モードが実施されているとき及び非O2フィードバック制御モードが実施されているときの燃料指令値の決定手法の一例を示すタイミングチャートである。
【図9】図3に示す記憶部に記憶される長期学習値マップの模式図である。
【図10】図3に示す燃焼状態判定部の第1判定部により行われる燃焼状態が安定しているか否かの判断処理を説明するための説明図である。
【図11】図3に示す燃焼状態判定部の第2判定部により行われる燃焼状態が安定しているか否かの判断処理を説明するための説明図である。
【図12】図4に示すアイドルモードを実施しているときの燃料指令値の決定手法の一例を示すタイミングチャートである。
【図13】図4に示すO2フィードバック制御モードの開始直後における運転状態補正係数の設定手法についての変形例を示すタイミングチャートである。
【図14】図4に示すO2フィードバック制御モードを実施しているときの燃料指令値の決定手法の変形例を示すタイミングチャートである。
【図15】運転状態補正量マップの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について、鞍乗型乗物の一つである自動二輪車に適用したものを例にして説明する。方向は、自動二輪車に騎乗した運転者が見る方向を基準としており、全ての図を通じて同一の又は対応する要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0033】
図1は、本発明の実施形態に係る空燃比制御装置を搭載した自動二輪車1を右側から見て示す側面図である。自動二輪車1は、前輪2と後輪3とを備える。前輪2は、フロントフォーク4に回転可能に支持されており、フロントフォーク4は、ヘッドパイプ6に回転可能に支持されたステアリングシャフト(不図示)を介し、ハンドル5と連結されている。ハンドル5の右側のグリップは、スロットルグリップ5aを成している。ヘッドパイプ6からは、左右一対のメインフレーム7が後下がりに延び、メインフレーム7の後部からは、ピボットフレーム8が下方へ延びている。ピボットフレーム8には、スイングアーム9の前端部が枢支され、後輪3が、スイングアーム9の後端部に回転可能に支持されている。メインフレーム7の上方且つハンドル5の後方には、燃料タンク10が設けられ、燃料タンク10の後方には、運転者騎乗用のシート11が設けられている。メインフレーム7の下方には、多気筒4サイクルエンジン12が搭載されている。エンジン12の出力は、図示しない変速機及びチェーンを介し、後輪3に伝えられる。
【0034】
図2は、図1に示すエンジン12の吸気系及び排気系の構成を模式的に示す概念図である。図2は1つの気筒のみを示すが、他の気筒も同様に構成される。図2に示すように、エンジン12は、シリンダブロック21及びシリンダヘッド22を備え、シリンダブロック21は、複数のシリンダ23を有する。各シリンダ23にはピストン24が摺動可能に収容され、各ピストン24の上側に内燃機関の燃焼部分としての燃焼室25が形成される。シリンダヘッド22は、各燃焼室25に吸気を供給するための吸気ポート26と、燃焼室25から排気を排出するための排気ポート27とを有する。吸気ポート26は吸気弁28で開閉され、排気ポート27は排気弁29で開閉される。エンジン12は水冷式であり、シリンダブロック21及びシリンダヘッド22は、冷却水が通流するウォータージャケット30を有する。
【0035】
吸気ポート26には、吸気管31、スロットル装置32及びエアクリーナ33がこの順で接続されている。エアクリーナ33は、外部から取り込んだエアを内蔵したフィルタ34で浄化する。スロットル装置32は、メインスロットル弁35及びサブスロットル弁36を備えており、エアクリーナ33から燃焼室25へと供給される新気量を開度に応じて調整する。メインスロットル弁35は、ケーブルを介してスロットルグリップ5aと接続されている。運転者がスロットルグリップ5aを回転操作することにより、メインスロットル弁35の開度が機械的に変更される。サブスロットル弁36は、電気モータ等の弁アクチュエータ37により駆動される。弁アクチュエータ37の動作は、エンジン制御ユニット60(以下、「ECU」と称す)により制御される。
【0036】
スロットル装置32又は吸気管31には、燃料タンク10内に貯留されている燃料を噴射する燃料噴射装置38が設けられる。よって、吸気弁28が吸気ポート26を開放しているときに、スロットル装置32を通過する新気に燃料噴射装置38より噴射された燃料が混合された混合気が、吸気ポート26を介して燃焼室25に供給される。シリンダヘッド22には、燃焼室25内で火花を発生する点火プラグ39が気筒毎に取り付けられ、点火プラグ39は、燃焼室25内で圧縮された混合気を点火して燃焼させる。これによりピストン24が下動し、ピストン24にコンロッド40を介して連結されたクランク軸(図示せず)が回転駆動される。燃料噴射装置38及び点火プラグ39の動作もECU60により制御される。このエンジン12では、合計4つの燃料噴射装置38が各気筒に対応して設けられ且つ互いに独立して制御されるので、燃焼室25に供給される混合気の空燃比を気筒毎に調整することができる。なお、各気筒に個別に2以上の燃料噴射装置38が設けられていてもよく、また、燃料噴射装置38は、燃焼室25内に直接燃料を噴射するように配置されていてもよい。
【0037】
排気ポート27には、排気管41、三元触媒管42及びマフラ43がこの順で接続されている。排気弁29が排気ポート27を開放しているときに、点火燃焼後のシリンダ23及び燃焼室25内のガスが、排気ポート27、排気管41、三元触媒管42及びマフラ43を介して車外に排出される。
【0038】
エアクリーナ33は、二次エア供給管46を介して排気ポート27に接続されており、新気をスロットル装置32及び燃焼室25を迂回して排気ポート27に供給することができる(以下、排気ポート27に供給される新気を「二次エア」と称す)。排気ポート27に二次エアを供給することにより、排気ガスを再燃焼させ排気ガス中のCO及びHCを低減させることができる。二次エア供給管46には、二次エア供給管46を開閉する二次エア供給弁47と、排気ポート27からの排気ガスの逆流を阻止する逆止弁48とが設けられている。この二次エア供給弁47の動作も、ECU60により制御される。
【0039】
排気管41にはO2センサ56(空燃比センサ)が設けられている。O2センサ56は、三元触媒管42で触媒作用を受ける前段階の排気ガスの酸素濃度に応じた信号をECU60に出力する。排気ガスの酸素濃度は、燃焼室25に供給される混合気の空燃比に応じて変化する。他方、O2センサ56の出力特性(例えば出力電圧)は、二次エア供給弁47が閉である場合、燃焼室25に供給されている混合気の空燃比が理論空燃比付近であるときに急激に変化する。このため、ECU60は、O2センサ56の出力が高値であるか低値であるかに基づき、燃焼室25に供給されている混合気の空燃比が、リッチ状態であるかリーン状態であるかを判断することができる。なお、二次エア供給弁47が開である場合、二次エアの供給込みで空燃比がリッチ状態であるかリーン状態であるかを判断することができる。
【0040】
図3は、図1に示す自動二輪車1に搭載された空燃比制御装置100の全体構成を示すブロック図である。図3に示すように、空燃比制御装置100は、前述のECU60、弁アクチュエータ37、燃料噴射装置38、二次エア供給弁47及びO2センサ56を備える。また、空燃比制御装置100は、イグニションスイッチ51、クランク角センサ52、スロットル位置センサ53、水温センサ54及び吸気圧センサ55を備える。
【0041】
イグニションスイッチ51は、運転者により操作される。イグニションスイッチ51がオンであるときに、ECU60が給電されて動作可能となり、エンジン12が動作可能となる。クランク角センサ52は、クランク軸の回転角度を検出する。ECU60は、クランク角センサ52の出力に基づきエンジン回転数(すなわち、クランク軸の回転速度)を測定可能であり、クランク角センサ52は、エンジン回転数を検知するためのセンサとして機能し得る。スロットル位置センサ53は、メインスロットル弁35の開度(以下、単に「スロットル開度」と称す)を検出する。水温センサ54は冷却水の温度を検出し、吸気圧センサ55は吸気圧を検出する。
【0042】
ECU60は、これらセンサ及びスイッチ51〜56の出力に基づいて、運転状態に応じて燃料噴射装置38及び二次エア供給弁47の動作を制御し、それにより空燃比を制御する。なお、空燃比を制御するため、サブスロットル弁32の弁アクチュエータ37の動作を制御して空気供給量を燃料供給量と共に制御することもできる。
【0043】
ECU60は、空燃比を制御する機能部分として、燃料量決定部61、燃料制御部62、記憶部63、学習値算出部64、燃焼状態判定部65、二次エア制御部91及びスロットル制御部92を有している。
【0044】
燃料量決定部61は、燃料噴射装置38により供給されるべき燃料供給量を示す燃料指令値TAUを決定する。なお、燃料指令値TAUは、燃料噴射量であってもよいし、燃料噴射装置38が燃料噴射動作する時間であってもよい。燃料制御部62は、燃料量決定部61により決定された燃料指令値TAUで示される燃料供給量が燃焼室25に供給されるように、燃料噴射装置39の動作を制御する。記憶部63は、燃料量決定部61が燃料指令値TAUを決定するために用いる係数やデータを記憶する。学習値算出部64は、劣化学習補正係数及びその代表値を算出する。燃焼状態判定部65は、燃焼状態が安定しているか否かを判断する。燃焼状態判定部65は、第1判定部81及び第2判定部82を有し、これら第1及び第2判定部81,82は、後述するように互いに異なる方法で燃焼状態が安定しているか否かを判断する。二次エア制御部91は、二次エア供給管46が開放され又は閉鎖されるように、二次エア制御弁47の動作を制御する。運転状態がアイドル運転域にあるとき、運転状態がアイドル運転域になくとも走行状況が未燃燃料と二次エアによる排気系での爆発が懸念されないようなとき(非減速運転時など)に、二次エア制御弁47は二次エア供給管46を開放するよう動作する。スロットル制御部92は、サブスロットル弁32の開度が目標の開度となるように、弁アクチュエータ37の動作を制御する。
【0045】
図4に示すように、燃料量決定部61は、運転状態がアイドル運転領域にあるか否かを判断し(ステップS1)、運転状態がアイドル運転領域でなければ(S1:NO)、所定のフィードバック開始条件が成立しているか否かを判断する(ステップS2)。フィードバック開始条件が成立していなければ(S2:NO)、非O2フィードバック制御モード(以下、「非FBモード」と称す)に従って燃料指令値TAUを決定する(ステップS3)。フィードバック開始条件が成立していれば(S2:YES)、O2フィードバック制御モード(以下、「FBモード」と称す)に移行し、所定のフィードバック終了条件が成立するまでの間、FBモードに従って燃料指令値TAUを決定する(ステップS4)。運転状態がアイドル運転領域であれば(S1:YES)、アイドルモードに従って燃料指令値TAUを決定する(ステップS5)。
【0046】
燃料量決定部61は、エンジン回転数が所定回転数未満であるとの条件を満たしたときに、運転状態がアイドル運転領域であると判断する。スロットル開度が所定開度未満であるとの条件も同時に満たしたときに、運転状態がアイドル運転領域であると判断されてもよい。フィードバック開始条件は、有害排出物質の低減が優先される運転状態を満足しているとの条件を含む。したがって、FBモードは、エンジン出力の増加要求よりも有害排出物質の低減が優先される運転状態、例えば、定速走行状態又は緩加減速状態などで実行される。また、非FBモードは、有害排出物質の低減よりもエンジン出力の増加要求が優先される運転状態、例えば、急加減速時などで実行される。エンジンの要求出力は、スロットル開度、吸気管圧力及びエンジン回転数などから推定可能である。また、フィードバック開始条件には、所謂蒸散ガスパージを行っていないなどの条件が含まれていてもよい。
【0047】
FBモードでは、燃料量決定部61は、空燃比が理論空燃比に近づくように、O2センサ56の出力に基づく閉ループ制御を実施して燃料指令値TAUを決定する。ここで、非FBモードにおける予め想定された空燃比は、理論空燃比と異なる値に設定され、運転状態毎にそれぞれ個別に設定される。非FBモードでは、燃料量決定部61は、空燃比が予め想定された空燃比となるように、O2センサ56の出力を用いずに行われる開ループ制御を実施して燃料指令値TAUを決定する。アイドルモードでは、二次エア制御部91が、二次エア供給管46が開放されるように二次エア供給弁47の動作を制御する。そして、燃料量決定部61は、O2センサ56により検出される二次エア供給後の排ガス空燃比がリーン状態となるように燃料指令値TAUを決定する。燃料指令値TAUは、次式(1)を用いて決定される。
【0048】
TAU=TBASE×(1+FKI+FFB)×FO2RAM×FBLAF …(1)
ここで、TBASEは運転状態基準係数、FKIは環境補正係数、FO2RAMは運転状態補正係数、FFBはフィードバック補正係数、FBLAFは劣化係数である。本実施形態に係るFBモードにおいては、劣化係数FBLAFによる補正が無効とされる。よって、上記式(1)を用いる限りにおいては、劣化係数FBLAFが1に設定される。非FBモードを実施するときには、運転状態補正係数FO2RAM及びフィードバック補正係数FFBによる補正が無効とされ、劣化係数FBLAFに劣化学習補正係数又はその代表値FDLAFが代入される。よって、上記式(1)を用いる限りにおいては、FO2RAMが1に設定され、フィードバック補正係数FFBがゼロに設定され、劣化係数FBLAFが劣化学習補正係数又はその代表値FDLAFに設定される。アイドルモードを実施するときには、運転状態補正係数FO2RAM及びフィードバック補正係数FFBによる補正が無効とされ、劣化係数FBLAFにアイドル補正係数FILAFが代入される。よって、上記式(1)を用いる限りにおいては、運転状態補正係数FO2RAMの値が1に設定され、フィードバック補正係数FFBがゼロに設定され、劣化係数FBLAFがアイドル補正係数FILAFに設定される。
【0049】
結果として、FBモードにおける燃料指令値TAUを決定するための演算式は、次式(2)で表わされ、非FBモードにおける演算式は次式(3)で表され、アイドルモードにおける演算式は次式(4)で表される。次式(2)に示すように、FBモードにおいて、燃料指令値TAUは、運転状態基準係数TBASEと、運転状態補正係数FO2RAMと、フィードバック係数FFBとを含む演算式を用いて求められる。
【0050】
TAU=TBASE×(1+FKI+FFB)×FO2RAM …(2)
TAU=TBASE×(1+FKI)×FDLAF …(3)
TAU=TBASE×(1+FKI)×FILAF …(4)
まず、何れのモードにも関係する運転状態基準係数TBASE及び環境補正係数FKIについて説明する。運転状態基準係数TBASEは、運転状態毎に適した燃料供給量であって運転状態毎の基準となる燃料供給量を示すものである。運転状態基準係数TBASEは、例えばエンジンの出力特性の確保、エンジン保護の必要性、出力増加要求、有害排気物質の低減、など様々な要求におけるバランスを考慮し、運転状態毎に目標とする空燃比が理論空燃比よりもリッチ領域に属するような範囲内で様々に設定される。本実施形態では、運転状態基準係数TBASEは、運転状態毎に目標とする空燃比を得るために必要な燃料供給量、又は当該燃料供給量の燃料を噴射するために必要な燃料噴射装置の動作時間を示す値となる。
【0051】
記憶部63は、運転状態基準係数TBASEを運転状態毎に予め求めておくことによって作成された運転状態基準係数マップ71(図5(a)参照)を予め記憶している。図5(a)に示すように、運転状態基準係数マップ71により、エンジン回転数及びスロットル開度により規定される複数の運転領域の一つ一つに、運転状態基準係数TBASEが関連付けされる。図5(a)において、「####」とあるのは運転状態基準係数TBASEを表し、実際に運転状態基準係数マップ71に記憶される値である。図では便宜的に同じ記号が羅列されているが、運転領域毎に個別の数値が記憶される。括弧内の数値は、運転状態基準係数TBASEの燃料を供給した場合の空燃比の値を便宜的に併記したものである。このように、自動二輪車1では、運転状態毎に様々な空燃比が目標となり、例えば目標となる空燃比はリッチ状態である。
【0052】
なお、記憶部63には、運転状態に応じた運転状態基準係数TBASEの対応関係が記憶されていれば十分であるので、その対応関係を表す形式はマップに限定されず、演算式などその他の形式で対応関係が記憶されていてもよい。下記環境補正係数マップ72及び運転状態補正係数マップ73も同様である。また、運転状態として、エンジン回転数およびスロットル開度のほか、走行速度、変速比、および吸気圧のいずれかを用いてもよい。またそれらの変化率を用いてもよい。
【0053】
環境補正係数FKIは、冷却水温や吸気圧などの走行環境に応じて運転状態基準係数TBASEを補正するための係数である。燃料量決定部61は、水温センサ54や吸気圧センサ55の出力に応じて、記憶部63に予め記憶された環境補正係数マップ72を用いて、運転状態毎に環境補正係数FKIを求めることができる。環境補正係数FKIは、基準環境に対する環境変化量に応じた補正係数であり、基準環境下においてはゼロとなる。環境補正係数FKIは、基準環境から環境変化が生じた場合に、基準環境における運転状態基準係数TBASEで設定される空燃比と同等とするために、運転状態基準係数TBASEに対して燃料増量補正が必要な場合は正の補正量が設定され、運転状態基準係数TBASEに対して燃料減量補正が必要な場合は負の補正量が設定される。
【0054】
(O2フィードバック制御モード)
次に、3つの制御モードのうち、FBモードを実施するときの空燃比の制御方法について説明する。運転状態補正係数FO2RAMは、空燃比が理論空燃比となるように燃料供給量を運転状態毎に補正するための補正係数である。より詳しくは、製品の個体差や経年劣化が存在しない理想的な或る運転状態において、当該運転状態に応じた運転状態基準係数TBASEにより示される量の燃料が供給された場合の空燃比が理論空燃比となるようにするため、当該運転状態基準係数TBASEを補正するために用いる補正係数である。
【0055】
記憶部63は、運転状態補正係数FO2RAMを基準環境での運転状態毎に予め求めておくことによって作成された運転状態補正係数マップ73を予め記憶している。図5(b)に示すように、運転状態補正マップ73は、運転状態基準係数TBASEを決定するのと同様のパラメータ、具体的にはエンジン回転数及びスロットル開度に応じた運転状態補正係数FO2RAMを規定する。図5(b)中に示す数値と図5(a)中の括弧内の数値を比較すれば分かるように、運転状態補正係数FO2RAMは、運転状態基準係数TBASEで示される量の燃料が供給されたときの空燃比を理論空燃比(14.7)で除算した値、すなわち、運転状態基準係数TBASEで示される量の燃料が供給されたときの空気過剰率である。
【0056】
フィードバック補正係数FFBは、製品の個体差や経年劣化が存在する場合に、O2センサ56の出力に基づいて空燃比を理論空燃比に徐々に近づけるための補正係数である。次式(5)で表わされるように、フィードバック補正係数FFBは、閉ループ補正値FAF及び学習値FLAFを有し、そのうち学習値FLAFは、実時学習値FRLAF及び長期学習値FLLAFに分離される。結果として、フィードバック補正係数FFBは、閉ループ補正値FAF、実時学習値FRLAF及び長期学習値FLLAFから成る。フィードバック補正係数FFBを成す3つの値FAF,FRLAF,FLLAFは、FBモードを実施している間に可変的に設定される。
【0057】
FFB=FAF+FLAF=FAF+FRLAF+FLLAF …(5)
図6は、自動二輪車1が使用されて間が無く経年劣化は生じていないものの製品に個体差があるような場合に、FBモードが初めて実施されるような状況を例示している。なお、環境補正係数FKIは一定としている(図8、図13及び図14においても同様)。FBモードを実施するときには、二次エア供給弁47は、二次エア供給管46を閉鎖するよう動作する。非FBモードからFBモードに移行すると、その時の運転状態に応じた運転状態基準係数TBASE及び運転状態補正係数FO2RAMが求められ、運転状態基準係数TBASEが、求められた運転状態補正係数FO2RAMを乗算して補正される。運転状態補正係数FO2RAMは空気過剰率であるため、空燃比は、非FBモードで目標とされていた空燃比から理論空燃比付近にまで即座に変化する。
【0058】
この運転状態補正係数FO2RAMによる補正が行われた直後、学習値FRLAF,FLLAFの学習機会が未だない状況下にあるので、フィードバック補正係数FFBを成す3つの値はゼロとされる。その後、閉ループ補正値FAFが、O2センサ56の出力が反転するたび増減傾向を反転させるようにして可変的に設定され、実時学習値FRLAFの値が徐変される。図6の例示では、運転状態補正係数FO2RAMによる補正が行われた直後において、空燃比が理論空燃比付近まで変化させることができたものの、燃料噴射装置38の個体差及びO2センサ56のヒステリシス特性等に起因してO2センサの出力がリーン状態を示すものに変化しなかった場合を例示している。このため、実時学習値FRLAFの値は、O2センサ56の出力がリーン状態を示すものとなるように、徐々に減少される。
【0059】
閉ループ補正値FAFは、O2センサ56の出力がリッチ状態を示すものからリーン状態を示すものに変化した時点で、当該時点の値から所定のスキップ値だけ増加する。次に、O2センサ56の出力がリッチ状態を示すものに変化するまで、閉ループ補正値FAFは一定の増加率で徐々に増加する。次に、O2センサ56の出力がリーン状態を示すものからリッチ状態に示すものに変化した時点で、閉ループ補正値FAFは当該時点の値から所定のスキップ値だけ減少する。次に、O2センサ56の出力がリーン状態を示すものに変化するまで、閉ループ補正値FAFは一定の減少率で徐々に減少する。閉ループ補正値FAFの減少率及び増加率は、実時学習値FRLAFの変化率よりも大きい値に設定されることが好ましい。そうでなければ、閉ループ補正値FAFと実時学習値FRLAFとの増減が反対となったときに、O2センサ56の出力を変化させることができなくなるためである(図8も参照)。
【0060】
このように変化させると、閉ループ補正値FAFを減少させるときには、実時学習値FRLAFの減少分が加味されるので、比較的早くO2センサ56の出力が反転し、閉ループ補正値FAFを増加させるときには、実時学習値FRLAFの減少分が差し引かれるので、O2センサ56の出力が反転するまでに時間を要する(図8も参照)。このようにして閉ループ補正値FAFの増減が反転していくので、閉ループ補正値FAFが、FBモード移行時点の値であるゼロに近づいていく。
【0061】
閉ループ補正値FAFがスキップ値だけ変化したときに、FBモード移行時点の値(すなわち、ゼロ)を跨ぐと、その後、実時学習値FRLAF及び長期学習値FLLAFがその時の値に保たれ、閉ループ補正値FAFは、上記同様にしてO2センサ56の出力を監視しながら変動させる。なお、図6の例示では、実時学習値FRLAFが閾値±F1に達する前にO2センサ56の出力が変化しているので、長期学習値FLLAFは変化していない(すなわち、FBモード移行時点の値であるゼロに保たれる)。実時学習値FRLAFが閾値±F1を超える変化をした場合については、後に図8を参照しながら説明する。
【0062】
このように、本実施形態では、FBモード及び非FBモードの何れにおいても、運転状態に適した燃料供給量を示す運転状態基準係数TBASEが、運転状態基準係数マップ71から求められる。FBモードでは、その開始時点で、運転状態基準係数TBASEにより示される量の燃料が供給された場合の空燃比の空気過剰率を示す運転状態補正係数FO2RAMにより、運転状態基準係数TBASEが補正される。すなわち、ある運転状態において非FBモードで目標とされる空燃比に対応する燃料供給量と、当該運転状態における理論空燃比に対応する燃料供給量との偏差分の補正を、運転状態補正係数FO2RAMが担うことになる。言い換えれば、この空燃比の相違による燃料供給量の偏差分の補正を、フィードバック補正係数FAFは担わない。この偏差分に相当する補正量は、運転状態基準係数マップ71を作成する段階で予め想定され得るものであるから、当該補正量の補正を担う運転状態補正係数FO2RAMを運転状態基準係数マップ71と同様にして予め記憶させておくことにより、FBモードの開始時に空燃比の相違による偏差分の補正を即座に行うことができ、それにより、制御モードの変化を反映して、空燃比を理論空燃比近くまで即座に変化させることができる。
【0063】
図6に示すように、閉ループ制御を実施している間に運転状態が急変したとき、これに応じて運転状態基準係数TBASEが急変することがある。従来、運転状態基準係数TBASEが急変すると、フィードバック補正係数の徐変により空燃比を理論空燃比近くまで回復しようとするので、回復までに長い時間を要する。これに対し、本実施形態では、運転状態基準係数TBASEと共に運転状態補正係数FO2RAMが運転状態の変化に追従して変化する。このため、運転状態の急変により運転状態基準係数TBASEが急変し、それにより空燃比が理論空燃比から外れるおそれがあっても、これに即座に対応して運転状態基準係数TBASEが補正され、空燃比を理論空燃比付近に保ち続けることが可能となる。なお、運転状態補正係数FO2RAMを運転状態の変化に追従して変化させたときには、その変化直後に当該運転状態に対応した実時学習値FRLAF及び長期学習値FLLAFを記憶部63から読み出され、実時学習値FRLAF及び長期学習値FLLAFが読み出された値へと急変又は徐変する。読み出された値に変化した後、個体差による補正の必要に応じて、上記と同様にして実時学習値FRLAFを変化させる。
【0064】
制御モードがFBモードから非FBモードに移行すると、記憶部63に、実時学習値FRLAF及び長期学習値FLLAFが記憶部63に更新記憶される。図示するようにFBモードの実施中における運転状態の変化により、運転状態基準係数TBASE及び運転状態補正係数FO2RAMが変化したような場合には、運転状態が変化する直前に設定されていた値がこの変化直前の運転状態に関連付けされて記憶され、また、FBモードが終了する直前に設定されていた値が運転状態に関連付けされて記憶される。長期学習値FLLAFの更新記憶については後述する。
【0065】
図7は、記憶部63に記憶される実時学習値マップ74である。前述のとおり、実時学習値FRLAFは、運転状態毎に個別に更新記憶される。記憶部63は、具体的には、エンジン回転数及び吸気負圧(又はスロットル開度)により規定された運転領域毎の実時学習値FRLAFの対応関係を実時学習値マップ74として記憶する。なお、運転領域の個数は、図示するものに限定されず、適宜変更可能である。記憶部63は、イグニションスイッチ51がオフになっても、実時学習値マップ74を保存し続けるよう構成されている。
【0066】
図6に戻ると、一旦イグニションスイッチ51がオフとされてからイグニションスイッチ51がオンとなり、その後にFBモードが開始した場合において、燃料量決定部61は、運転状態補正係数FO2RAMによる補正が行われた直後、長期学習値FLLAFの学習機会は未だないので、閉ループ補正値FAFと共に長期学習値FLLAFをゼロとする。一方、燃料量決定部61は、実時学習値FRLAFを、前回のFBモード実施後に更新記憶された実時学習値マップ74から、そのときの運転状態に応じた実時学習値FRLAFを読み出し、読み出された値に設定する。実時学習値マップ74は、今回のFBモードの以前にイグニションスイッチ51のオンオフがあるか否かに関わらず、実時学習値マップ74から値を読み出すことができる。このように、前回以前のFBモードで更新記憶された実時学習値FRLAFを運転状態補正係数FO2RAMによる補正直後に設定することにより、製品の個体差を反映して前回のFBモードを実施したときよりも速やかに、空燃比を理論空燃比に近づけることができるようになる。
【0067】
このように、フィードバック補正係数FFBを成す3つの値FAF,FRLAF,FLLAFのうち、閉ループ補正値FAF以外の値FRLAF,FLLAF(すなわち、学習値FLAF)は、FBモードの開始時点からO2センサ56の出力が最初に変化するまでの補正を担う。言い換えると、これら2つの値は、運転状態補正係数FO2RAMによる補正の後に、O2センサ56の出力変化に至らせる分を埋め合わせるような補正を担う。この埋め合わせの補正は、スロットル装置32や燃料供給装置38などの個体差及び劣化によって行う必要が生ずるものと考えられる。以下、フィードバック補正係数FFB、特に学習値FLAF(すなわち、実時学習値FRLAF及び長期学習値FLLAF)が担う補正の特性に着眼した燃料供給量の決定手法について、図8及び図9を参照して説明する。
【0068】
図8は、自動二輪車1が使用されてから長期間が経過して経年劣化が生じている場合(併せて製品の個体差もある場合)に、FBモード及び非FBモードが実施されるような状況を例示している。このように自動二輪車1が長期に使用されると、吸気弁28、スロットル装置32又は燃料噴射装置38の劣化が現れる場合がある。すると、運転状態基準係数マップ71に従って運転状態に応じた運転状態基準係数TBASEに基づき燃料指令値TAUを決定しても、燃料指令値TAUにより示される量の燃料を供給し得なくなったり、スロットル開度に応じて予め想定された吸気量を得られなくなったりして、運転状態基準係数マップ71の作成段階で予め想定された目標空燃比を得られない場合がある。このようなときには、安定的に走行するうえでは支障がないものの、エンジン12の出力特性が予め想定されていたものよりも若干高く又は低くなったり、排気ガス中のHC量及びNOx量が予め想定されていたものよりも若干悪化したりするおそれがある。排気ガス中のHC量及びNOx量が悪化すると、三元触媒管42内の触媒の劣化を早めることにも繋がる。他方、フィードバック補正係数FFBは、空燃比を理論空燃比に近づけるにあたって、個体差や経年劣化により必要となった補正を担う。この点に着眼し、本実施形態に係る非FBモードでは、劣化により当初想定されていた目標空燃比が得られなくなるおそれがあっても、FBモードを実施している間に設定されるフィードバック補正係数FFBの値に基づく劣化学習補正係数で運転状態基準係数TBASEを補正し、劣化によるずれ分を埋め合わせる補正を行うようにしている。
【0069】
なお、説明の便宜上、図8に例示する運転領域については、タイミングチャートの始点にて、未だ実時学習値FRLAF及長期学習値FLLAFを学習する機会がなかったために、実時学習値マップ74及び劣化学習補正係数マップ75において当該運転状態に対応する値としてゼロが入力されているものとしている。
【0070】
このような状況下でFBモードが開始すると、前述同様、運転状態基準係数TBASEが、運転状態補正係数FO2RAMを乗算されることによって補正される。図8は、この運転状態補正係数FO2RAMによる補正が行われても、劣化により空燃比が理論空燃比の近くまで変化させることができないような状況を例示している。
【0071】
運転状態補正係数FO2RAMによる補正の直後、実時学習値マップ74及び長期学習値マップ75を参照しても読み出される値がゼロであるため、フィードバック補正係数FFBを成す3つの値がゼロとなる。その後、閉ループ補正値FAFが上記同様にしてO2センサの出力の反転時に増減を反転させるようにして変化する。また、図示例では、運転状態補正係数FO2RAMによる補正直後にO2センサ56の出力がリッチ状態を示すものとなっているので、実時学習値FRLAFが、閉ループ補正値FAFのスキップ値が基準値を跨ぐようになるまで、徐々に減少される。
【0072】
実時学習値FRLAFが、減少を続けて閾値−F1に達すると、実時学習値FRLAFの値が所定値だけ加算される一方、長期学習値FLLAFが現在値(すなわち、ゼロ)から当該所定値を減算した値に変化する。このように、実時学習値FRLAFが閾値に達したときには、実時学習値FRLAFと長期学習値FLLAFとの和を変化させることなく、長期学習値FLLAFが所定値だけ減算され、実時学習値FRLAFが当該減算時に所定値だけ加算される(図8中の実時学習値FRLAF及び長期学習値FLLAFの傾向を参照)。このように、閉ループ補正値FAFがスキップ時に基準値を跨ぐようになるまで、実時学習値FRLAFが閾値に達するたびに学習値FLAF全体としての値を実時学習値FRLAFと長期学習値FLLAFとの間で振り分けつつ、実時学習値FRLAFが継続して徐変していく。閉ループ補正値FAFがスキップ時に基準値を跨ぐと、その後は前述同様にして、O2センサ56の出力を監視しながら閉ループ補正値FAFを増減させることにより、空燃比を理論空燃比付近で安定的に推移させることとなる。
【0073】
FBモードが終了すると、前述同様、記憶部63に、実時学習値FRLAFが更新記憶される。長期学習値FLLAFは、学習値算出部64によりそのまま劣化学習補正係数として取り扱われ、劣化学習補正係数としての長期学習値FLLAFが記憶部63に更新記憶される。FBモードの実施中に運転状態が変化した場合には、運転状態が変化する直前に設定されていた値が運転状態毎に記憶され、FBモードが終了する直前に設定されていた値が運転状態毎に記憶される。
【0074】
そして、次回以降のFBモードが開始したときには、実時学習値FRLAF及び長期学習値FLLAFが記憶部63から読み出される。これにより、次回以降のFBモードの開始時において、劣化による補正を開始直後から加味した形でO2センサ56の出力を監視した閉ループ制御を実施することができる。
【0075】
図9は、記憶部63に記憶される長期学習値マップ75である。前述のとおり、劣化学習補正係数としての長期学習値FLLAFは、運転状態毎に個別に更新記憶される。記憶部63は、具体的には、エンジン回転数及び吸気負圧(又はスロットル開度)により規定された運転領域毎の長期学習値FLLAFの対応関係を、長期学習値マップ75という形式で記憶する。なお、運転領域の個数は、図示するものに限定されず、適宜変更可能であり、記憶部63は、イグニションスイッチ51がオフになっても、長期学習値マップ75を保存し続けるよう構成されている。
【0076】
このように、FBモードが終了して長期学習値マップ75が更新記憶されると、学習値算出部64が、次式(6)を用いて、劣化学習補正係数としての長期学習値に基づき、劣化学習補正係数の代表値を算出し、記憶部63に記憶させる。
【0077】
FDLAF=1+{FLLAF(00)×w(00)+FLLAF(01)×w(01)+…+FLLAF(35)×w(35)}/
{w(00)+w(01)+…+w(35)} …(6)
ここで、FDLAFは、劣化学習補正係数の代表値、FLLAF(i)は、領域i(図9の例示によれば、i=00〜35)に関連付けされた長期学習値(劣化学習補正係数)、w(i)は、領域iに関連付けされた重み付け係数である。
【0078】
このように、劣化学習補正係数の代表値FDLAFは、1に、運転領域毎に関連付けされた複数の長期学習値FLLAF(01),FLLAF(02),…の重み付け平均値を加算した値となる。自動二輪車1が使用されてから間がなく、長期学習値FLLAFが何れの運転領域においても更新記憶されていないときには、上記式(6)の重み付け平均値の項がゼロとなるので、代表値FDLAFは1となる。すると、上記式(3)に示すとおり、非FBモードであっても、劣化学習補正係数に基づく補正が無効となる。他方、自動二輪車1の使用期間が長くなり、図9に例示するように、様々な運転領域において長期学習値FLLAFが入力されていると、代表値FDLAFが、1と異なる値に設定され得る。この場合、非FBモードにおいて、劣化学習補正係数に基づく補正が有効になる。
【0079】
なお、重み付け係数w(i)は、エンジン回転数が小さいときほど大きい値に設定し、また、吸気負圧又はスロットル開度が小さいときほど大きい値に設定してもよい。これにより、空気量が少ないときほど、燃料補正の感度が上がり、劣化に対処した補正をより正確に行うことができる。
【0080】
また、重み付け係数は、劣化補正が反映される非FBモードの運転領域に近いFBモード内の運転域の重み付け係数w(i)を大きくすることにより、類似した運転領域の劣化情報を効果的に用いた制御が可能となる。例えば、低負荷域で非O2モードとなる車両においては、FBモード内の低負荷域の重み付け係数w(i)を大きく設定すればよい。
【0081】
代表値の算出は、FBモードが終了するたびに行われる。また、イグニションスイッチ51がオフになっても長期学習値マップ75が保存され続ける構成であれば、代表値はイグニションスイッチ51のオフ時に記憶部63から消去されてもよく、その場合、イグニションスイッチ51がオンとされた直後に、保存されていた長期学習値マップ75を参照して代表値が算出される。
【0082】
なお、図8では、劣化により空燃比がリッチ側にシフトする場合を例示し、それにより劣化学習補正係数が1よりも小さい値となる場合を例示したが、劣化により空燃比がリーン側にシフトする場合には、長期学習値が正の値をとるようになり、それにより劣化学習補正係数の代表値が1よりも大きい値となる。このように、本実施形態に係る空燃比制御装置によれば、劣化により空燃比がリッチ側及びリーン側に何れにシフトしても、これに対応して空燃比を目標とするものに維持することが可能となる。
【0083】
(非O2フィードバック制御モード)
図8に示すように、FBモードから非FBモードに移行すると、その時の運転状態に応じた運転状態基準係数TBASE及び環境補正係数FKIが求められるとともに、記憶部63から劣化学習補正係数が読み出され、上記式(3)を用いて、燃料指令値TAUが、運転状態基準係数TBASEを環境補正係数FKI及び代表値で補正することにより決定される。
【0084】
上記のとおり、劣化学習補正係数は長期学習値FLLAFをそのまま適用したものであり、長期学習値FLLAFは、FBモードにおいて、空燃比を理論空燃比に近づけるにあたって、劣化のため必要となった補正を担っている。このため、劣化のため、運転状態基準係数マップ71を用いて求めた運転状態基準係数TBASEに基づき燃料指令値TAUを決定しても、運転状態基準係数マップ71の作成段階で予め想定された目標とする空燃比を得られないような状況下においても、劣化学習補正係数で運転状態基準係数TBASEを補正して燃料指令値TAUを決定することにより、劣化に対処して予め想定された目標空燃比を得ることができる。これにより、自動二輪車1の使用期間が長期に亘っても、エンジン12の出力特性が予め想定されたものからズレるのを良好に防止することができる。また、排気ガス中のHC量及びNOX量が予め想定されたものからズレるのを良好に防止することができ、それにより三元触媒管42内の触媒の寿命を長くすることができる。
【0085】
劣化学習補正係数の代表値は、運転領域毎に関連付けされた複数の劣化学習補正係数の重み付け平均値に基づき算出される。このように運転領域毎に劣化学習補正係数を求めているので、運転領域毎に劣化による影響の程度に差があるような状況が生じても、そのような状況に対処することができる。そのうえで、重み付け平均を採用しているので、FBモードが実施されにくい運転領域が非FBモードで選択されても、非FBモードにおける当該運転領域での燃料指令値の決定に他の運転領域で取得された新規な長期学習値を反映した劣化学習補正係数を適用することができる。
【0086】
また、劣化学習補正係数は、フィードバック補正係数FFBを成す学習値FLAFのうちの一部の値のみに基づき算出されるようになっている。言い換えると、劣化学習補正係数を算出するにあたり、不感帯が設けられている。このような不感帯を設けているので、FBモードを実施しているときの突発的なフィードバック補正係数FFBの変動が劣化学習補正係数に反映されるのを良好に抑制することができる。なお、図示するように、非フィードバック制御モードにおいても、運転状態が高負荷領域にあるときには、劣化学習補正係数による補正が有効とされないようにしてもよい。
【0087】
不感帯を設けるためだけであれば、フィードバック補正係数FFBを、閉ループ補正係数FAFと学習値FLAFとの2つの値のみで構成しておき、FBモード実施時の学習値FLAFに1未満の比率を乗算した値、又は学習値FLAFから所定値を減算した値を劣化学習補正係数として更新記憶することもできる。
【0088】
本実施形態では、このような手法を採らず、学習値FLAFを、制御上、実時学習値FRLAFと長期学習値FLLAFとの2つの値に分離し、実時学習値FRLAF及び長期学習値FLLAFの和を変更させずにこれら2つの合算値の振り分けを行うようにしている。このため、不感帯として機能する部分をデータとして記憶部63に記憶させることができる。これにより、前述したように、次回以降のFBモードの実施時に当該データ(実時学習値FRLAF)を読み出し、そのデータを用いて燃料指令値TAUを決定することができるので、空燃比を理論空燃比に速やかに近づけることができる。
【0089】
そして、イグニションスイッチ51がオフになっても長期学習値マップ75が保存され続けるので、イグニションスイッチ51がオンとなった直後に非FBモードが実施されるときから、劣化学習補正係数又は代表値による補正を有効とすることができる。
【0090】
(アイドルモード)
次に、アイドルモードを実施するときの燃料供給量の決定手法について説明する。本実施形態に係るアイドルモードを実施するときには、燃焼状態判定部65の第1判定部81及び第2判定部82が、燃焼状態が安定しているか否かをそれぞれ別の方法で判断する。
【0091】
図10は、第1判定部81により行われる燃焼状態が安定しているか否かの判断方法を説明するための説明図である。図10の横軸は時間、縦軸はエンジン回転数をそれぞれ表わしている。第1判定部81は、アイドルモードの実施時に、所定時間Δt1が経過する間、エンジン回転数の瞬時値を取得し続け、所定時間Δt1が経過した時点で取得した値のうち最小値と最大値とを抽出し、当該最大値と最小値の偏差Δωを算出する。そして、当該偏差Δωが閾値以上であるか否かを判断する。この所定時間Δt1は、運転状態がアイドル運転領域にあると判断されるような状況において、4ストロークエンジン12が1以上のサイクルの運転を行うのに十分に長い時間、つまり、多気筒エンジンの挙動を巨視的に監視するのに十分に長い時間に設定される。
【0092】
偏差Δωが閾値未満であるとき、すなわち、エンジン回転数の挙動が安定的に推移しているときには、第1判定部81は燃焼状態が安定しているものと判断する。偏差Δωが閾値以上であるとき、すなわち、エンジン回転数の挙動に大きな振幅がある場合には、第1判定部81は燃焼状態が不安定であるものと判断する。
【0093】
図11(a)及び(b)は、第2判定部82により行われる燃焼状態が安定しているか否かの判断方法を説明するための説明図であり、図11(a)は、燃焼状態が安定しているときの典型例、図11(b)は、燃焼状態が不安定であるときの典型例をそれぞれ示している。図11(a)及び(b)において、横軸はクランク角、縦軸はエンジン回転数をそれぞれ表わしている。
【0094】
第2判定部82は、各気筒の膨張行程の開始時付近(例えば15度)で取得した第1回転数ωAと、膨張行程の終了時付近(例えば135度)で取得された第2回転数ωBとの差分値を算出する。この差分値の算出に際しては、第2回転数ωBから第1回転数ωAを減算する。差分値の算出を所定サイクル数が経過するまでサイクル毎に行う。次いで、当該所定数の差分値から最大値と最小値とを抽出する。そして、抽出された最大値と最小値との偏差をフィルタ係数で除算する鈍し処理を行うことによって偏差変化係数を算出する。
【0095】
図11(a)を参照すると、正常な燃焼が行われていると、膨張行程が開始してから終了付近に至るまでの間、エンジン回転数が上に凸の上昇傾向で推移するので、上記差分値が比較的大きい正の値をとることになる。このような燃焼が継続して行われると、偏差変化係数が比較的大きい正の値をとることになる。他方、図11(b)を参照すると、弱火や失火が生ずると、膨張行程が開始してから終了するまでの間、エンジン回転数が顕著な上昇傾向を見せることはなく、極端な場合には、図示するように、エンジン回転数が低下傾向で推移する。この場合、上記差分値は正の値であってもゼロに近い値、極端な場合には負の値となる。このような燃焼が継続して行われると、偏差変化係数は、ゼロ付近の正の値又はゼロ以下の値をとることになる。
【0096】
そこで、第2判定部82は、ある気筒についての偏差変化係数が閾値以上であるか否かを判断する。閾値は正の値に設定される。偏差変化係数が閾値以上であれば、第2判定部82は、当該気筒の燃焼が安定的に推移しているものと判断する。偏差変化係数が閾値未満であれば、第2判定部82は、当該気筒の燃焼が不安定であるものと判断する。
【0097】
図12は、アイドルモードを実施しているときの燃料指令値TAUの決定手法の一例を示すタイミングチャートである。図12に示すように、運転状態がアイドル運転領域になると、二次エア供給部91が、二次エア供給管46を開放するよう、二次エア供給弁47の動作を制御するとともに、第1判定部81及び第2判定部82が、燃焼状態が安定しているか否かを判断し始める。
【0098】
燃料量決定部61は、運転状態基準係数マップ71からアイドル運転領域に対応する運転状態基準係数TBASEを求め且つ記憶部63からアイドル補正係数FILAFを読み出し、上記式(4)を用いて運転状態基準係数TBASEをアイドル補正係数FILAFで補正するようにして燃料指令値TAUを決定する。なお、図12の例示では、記憶部63には、当初、アイドル補正係数FILAFの値として、1が記憶されているものとしている。
【0099】
そして、O2センサ56の出力が二次エア込みでリッチ状態を示すものからリーン状態に示すものであるか否かを監視する。つまり、アイドルモードに移行してから所定時間Δt2が経過したか否かを判断し、所定時間Δt2が経過するまでにO2センサ56の出力がリーン状態を示すものに変化すると、アイドル補正係数FILAFが補正されることなく、アイドルモードが継続して実施される。アイドルモードが実施されている間であっても、O2センサ56の出力がリーン状態を示すものに変化した後に再びリッチ状態を示すものに変化した場合には、上記同様にして、当該リッチ状態を示すものに変化してから所定時間Δt2が経過するまでの間にO2センサ56の出力がリーン状態を示すものに変化するか否かが判断される。
【0100】
所定時間Δt2内にO2センサ56の出力がリーン状態を示すものに変化しなかった場合には、燃料量決定部61は、アイドル補正係数FILAFを所定の減少量だけ減少補正する。燃料量決定部61は、この減少補正を行うと、再び、所定時間Δt2が経過するまでにO2センサ56の出力がリーン状態を示すものに変化するか否かを判断する。O2センサ56の出力を監視しながらこのような処理を行い、O2センサ56の出力がリーン状態を示すものに変化するまで、所定時間Δt2おきに上記減少量ずつ減少補正し続ける。これにより、アイドル運転領域においても、劣化のため二次エア込みの空燃比が過リッチとなるのを良好に抑制することができる。なお、この減少補正は、燃焼状態が安定と判定されている気筒のみを対象にして実施される。
【0101】
この減少補正は、弱火や失火の遠因となるおそれもある。そこで、燃焼状態判定部65により、燃焼状態が不安定であると判断されたときには、安定すると判断されるまでの間、所定時間Δt3が経過するたびにアイドル補正係数FILAFを所定の増加量ずつ増加させることにより、劣化係数FBLAF(アイドル補正係数FILAF)の縮小補正を行う。第1判定部81により燃焼状態が不安定であると判断された場合には、第1判定部81はエンジン12の燃焼状態が安定であるか否かを巨視的に判断しているので、縮小補正が、各気筒のアイドル補正係数FILAFについて一律に行われる。第2判定部82により燃焼状態が不安定であると判断された場合には、第2判定部82は各気筒の膨張行程に着目して燃焼状態が安定であるか否かを判断しているので、縮小補正が、不安定であると判定された気筒のアイドル補正係数FILAFについてのみ行われる。このような縮小補正を行うことにより、劣化係数FBLAF(アイドル補正係数FILAF)による過補正を良好に防止することができる。ただし、これらの縮小補正は、アイドル補正係数FILAFの値として当初に設定されていた初期値(図示例では1)に達すると、それ以上アイドル補正係数FILAFの値を増加させないようにする。これにより、二次エア込みの空燃比がリッチ化するのを良好に抑制することができる。
【0102】
(変形例)
図13は、FBモードの開始直後における運転状態補正係数FO2RAMを求める手法についての変形例を示すタイミングチャートである。図13に示すように、非FBモードからFBモードに移行したときに、そのときの運転状態に応じて運転状態基準係数マップ71から運転状態基準係数TBASEを求め、運転状態補正係数マップ73から運転状態補正係数FO2RAMを求めた後、運転状態補正係数FO2RAMを、非FBモードの実施時に設定されていた値(図示例では1)から求められた値まで徐変させるようにしてもよい。この徐変は、所定変化率を超える変化を許容しないフィルタ処理によるものでもよいし、一次遅れ処理によるものでもよく、その手法は特に限定されない。そして、運転状態補正係数FO2RAMが求められた値になるまで変化するまでの間は、フィードバック補正係数FFBを非FBモードの実施時に設定されていた値に保持しておき、運転状態補正係数FO2RAMが求められた値になった時点で、実時学習値FRLAF及び長期学習値FLLAFを記憶部63から読み出した値に設定するようにしてもよい。
【0103】
これにより、モード移行時に燃料供給量が急激に変化してエンジン12の出力が急変するのを抑制することができる。このとき、運転状態補正係数FO2RAMの変化率は、実時学習値FRLAFの変化率よりも大きいことが好ましい。これにより、エンジン12の出力急変の抑制と、空燃比を理論空燃比近くまで速やかに変化させることとを両立することができる。
【0104】
図14は、非FBモードを実施しているときの燃料指令値の決定手法の変形例を示すタイミングチャートである。図14に示すように、燃焼状態が不安定であるときの劣化係数の縮小補正は、アイドルモードを実施しているときだけでなく、非FBモードの実施時に実行されてもよい。非FBモードにおいては、劣化係数FBLAFに代入される劣化学習補正係数又はその代表値FDLAFを初期値(すなわち、1)に近づけるよう所定の増加量ずつ増加させることにより、劣化係数FBLAF(すなわち、劣化学習補正係数又はその代表値FDLAF)の縮小補正が行われる。なお、非FBモードにおいては、劣化により空燃比がリーン側にシフトした場合には、劣化学習補正係数又はその代表値FDLAFが初期値よりも大きい値に設定される。このような場合に燃焼状態が不安定であると判定されると、劣化学習補正係数又はその代表値FDLAFを初期値に近づけるよう所定の減少量ずつ減少させることにより、劣化学習補正係数又はその代表値FDLAFの縮小補正が行われる。これにより、非FBモードにおいても、劣化係数FBLAFによる過補正を良好に防止することができる。
【0105】
図15は、運転状態補正燃料量マップ173の変形例の模式図である。図15と、図5(a)及び(b)とを比較すると分かるように、この運転状態補正燃料量マップ173は、運転状態基準係数TBASEに図4(b)に示される運転状態補正係数FO2RAMを乗算したものを運転状態毎に関連付けしたものである。このような運転状態補正燃料量マップ173が運転状態補正係数マップ73に替えて記憶されている場合、燃料量決定部61は、FBモードを実施しているときに、上記式(1)及び(2)に替えて、次式(7)を用いて燃料指令値TAUを決定する。
【0106】
TAU=TO2RAM×(1+FKI+FFB) …(7)
ここで、TO2RAMは、運転状態補正燃料量であり、図5(a)に示す運転状態基準係数TBASEと、図5(b)に示す運転状態補正係数FO2RAMとの乗算値である。このように、非FBモードからFBモードに移行すると、燃料量決定部61が、参照するマップを、運転状態基準係数マップ71から、運転状態補正係数FO2RAM(すなわち空気過剰率)による補正を加味した運転状態補正燃料量を求めるための運転状態補正燃料量マップ173に切り替えるようにしてもよい。
【0107】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記構成及び制御方法は一例に過ぎず、本発明の範囲内で適宜変更可能である。
【0108】
上記実施形態においては、長期学習値をそのまま劣化学習補正係数としたが、長期学習値に基づき運転状態毎に長期学習値とは異なる値の劣化学習補正係数を算出するようにしてもよい。また、学習値算出部により、劣化学習補正係数の代表値を算出し、非フィードバック制御モードにおいて、高負荷領域を除く運転領域に一律に当該代表値を適用して燃料指令値を算出するようにしているが、運転状態毎に求めた学習補正係数を、運転状態に応じて上記式(3)に適用して燃料指令値を算出するようにしてもよい。また、非FBモードで用いられる劣化学習補正係数又はその代表値を、アイドルモードにも適用してもよい。
【0109】
また、上記実施形態では、FBモードを実施するときの燃料指令値TAUを上記式(2)を用いて決定するとしたが、本発明はこれに限定されず、予め記憶される運転状態基準係数および運転状態補正係数と、順次変化するフィードバック補正係数とを実質的に含む演算式が用いられればよい。
【0110】
例えば各係数を乗算するほか、運転状態補正係数FO2RAMとフィードバック補正係数FFBとを加算した算出値を、運転状態基準係数TBASEに乗算してもよい。また各係数をそれぞれ加算するような場合も含む。また、上記実施形態では、運転状態基準係数TBASEと環境補正係数FKIとを分けて用いたが、これらを含む係数を運転状態基準係数として用いてもよい。また環境補正係数FKIを用いない場合も本発明に含まれる。
【0111】
また、本実施形態に示したフィードバック補正係数FFBの時間経過に応じた変化は一例であって、時間変化に応じて理想空燃比に近づく方向に補正係数が変化する構成であればよく、他の時間変化を行なってもよい。たとえば実時学習値FRLAFと長期学習値FLLAFとを合わせた一つの値が用いられてもよく、閉ループ補正値FAFと実時学習値FRLAFと長期学習値FLLAFとを合わせた一つの値を用いてもよい。また、本実施形態では、FBモードで用いた学習値を非FBモードで反映させるようにしたが、本発明はこれに限らず、FBモードでの動作のみについても権利範囲に含まれる。
【0112】
また、本実施形態では、運転状態基準係数TBASE、環境補正係数FKI、運転状態補正係数FO2RAMを予めマップとして記憶されるとしたが、運転状態から各係数を求めるための演算式を記憶してもよい。また、燃料量決定部61は、記憶部63に記憶されるプログラムを実行することでソフトウェアとして実現されてもよい。また、電気回路を用いてハードウェアとして実現されてもよい。
【0113】
また、上記実施形態では、空燃比を調整する手段として燃料噴射装置38を用いたが、フィードバック制御可能な空燃比調整手段が存在すれば、その空燃比調整手段を用いて内燃機関の空燃比制御をおこなってもよい。たとえば燃料供給量のほか、空気供給量を制御することが考えられる。例えば、スロットル制御部によるサブスロットル弁の開度の制御を併せて行うことにより空燃比の制御が行われてもよい。また本実施形態では、経年劣化を判断し、判断した経年劣化を反映させた空燃比制御を行ったが、空燃比制御に限らず、単に経年劣化量判定装置として用いてもよい。たとえば経年劣化量を表示することで、車両検査時などに部品の交換時期を知らせることができる。
【0114】
また、本発明は、内燃機関を有する車両のうち、自動二輪車のように、高回転型車両、低負荷型車両に好適に適用され、また、鞍乗型車両に代表される小型軽量車両に好適に適用することができ、自動二輪車の他にも不整地走行車などの同様の車両に好適に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、フィードバック制御の開始時や、フィードバック制御に要求される補正量が急変したときに、空燃比が理論空燃比付近と成るまでに要する時間を短くすることができ、それにより排気ガスやエンジンの出力特性が悪化するのを抑制することができるという作用効果を奏し、自動二輪車等の鞍乗型車両に適用すると有益である。
【符号の説明】
【0116】
1 自動二輪車
12 エンジン
32 スロットル装置
38 燃料噴射装置
47 二次エア供給弁
60 エンジン制御ユニット
61 燃料量決定部
62 燃料制御部
63 記憶部
64 学習値算出部
65 燃焼状態判定部
71 運転状態基準係数マップ
73 運転状態補正係数マップ
74 実時学習値マップ
75 長期学習値マップ
100 空燃比制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、
排気ガス中の空燃比が理論空燃比付近であるときに出力特性が変化する空燃比センサと、
内燃機関に燃料を供給し、燃料供給量を調整可能な燃料供給手段と、
前記燃料供給手段が供給すべき燃料供給量を示す燃料指令値を決定する燃料量決定手段と、
運転状態毎の基準となる燃料供給量を示す運転状態基準係数を運転状態毎に決めた第1対応関係と、前記空燃比センサが示す空燃比が理論空燃比となるように燃料供給量を運転状態毎に補正するための運転状態補正係数を運転状態毎に求めた第2対応関係と、を予め記憶した記憶手段と、を備え、
前記燃料量決定手段は、前記記憶手段に記憶されている前記第1対応関係及び前記第2対応関係に基づいて前記運転状態検出手段により検出される運転状態に応じた前記運転状態基準係数及び前記運転状態補正係数を決定し、且つ、前記空燃比センサの出力に基づいて空燃比を理論空燃比に近づけるためのフィードバック補正係数を決定し、当該決定された運転状態基準係数と運転状態補正係数とフィードバック補正係数とを含む演算式を用いて、前記燃料指令値を決定するフィードバック制御モードを有する、内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項2】
前記フィードバック制御モード時に決定される前記フィードバック補正係数に応じて前記内燃機関の経年劣化の影響を抑えるための劣化学習補正係数を算出する学習値算出手段を更に備え、
前記記憶手段は、前記劣化学習補正係数を更新記憶し、
前記燃料量決定手段は、前記記憶手段に記憶されている前記第1対応関係に基づいて前記運転状態検出手段により検出される運転状態に応じた前記運転状態基準係数を決定し、前記記憶手段に記憶されている前記劣化学習補正係数を読み出し、前記運転状態基準係数と前記劣化学習補正係数とを含む演算式を用いて、前記空燃比センサの出力に基づかずに前記燃料指令値を決定する非フィードバック制御モードを有する、請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項3】
前記学習値算出手段は、前記劣化学習補正係数を運転状態毎に算出し、前記記憶手段は運転状態と前記劣化学習補正係数との関係を示す第3対応関係を運転状態毎に記憶する、請求項2に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項4】
前記学習値算出手段は、前記記憶手段に運転状態に対応して記憶されている複数の劣化学習補正係数を運転領域に応じて重み付けした重み付け平均値を算出し、前記重み付け平均値に基づき前記劣化学習補正係数の代表値を算出し、
前記記憶手段は、前記学習値算出手段により算出された前記代表値を更新記憶し、
前記燃料量決定手段は、前記非フィードバック制御モード時に、前記劣化学習補正係数を含む前記演算式に前記代表値を適用して前記燃料指令値を算出する、請求項3に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項5】
前記フィードバック補正係数は、閉ループ補正値、実時学習値及び長期学習値を有し、
前記閉ループ補正値は、空燃比を理論空燃比に近づけるように変化し、前記空燃比センサの出力が反転すると当該変化の正負を反転させるよう設定されており、
前記実時学習値は、前記閉ループ補正値が反転時に所定の基準値を跨がない間は、空燃比を理論空燃比に近づける傾向に変化し、かつ、前記閉ループ補正値が反転時に所定の基準値を跨ぐと、その時点の値が保持されるよう設定されており、
前記長期学習値は、前記実時学習値が所定の閾値に達すると、所定値が加算されるよう設定されており、かつ、前記実時学習値は、当該加算時に前記所定値が引き算されるよう設定されている、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項6】
前記学習値算出手段は、前記長期学習値に基づいて前記劣化学習補正係数を算出する、請求項5に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項7】
前記記憶手段は、内燃機関のイグニションスイッチがオフとされている間も前記劣化学習補正係数を記憶し続けるように構成されている、請求項2乃至6のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項8】
前記内燃機関の燃焼が不安定であるか否かを検出する燃焼状態検出手段を備え、
前記燃料量決定手段は、前記燃焼状態検出手段により燃焼が不安定であると検出された場合には、前記劣化学習補正係数を縮小補正する、請求項2乃至7のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項9】
前記内燃機関の燃焼が不安定であるか否かを検出する燃焼状態検出手段を備え、
前記燃料量決定手段は、前記運転状態検出手段により検出される運転状態がアイドル運転域にあるときに、当該アイドル運転域に対応する前記運転状態基準係数と、前記空燃比センサの出力がリーン状態を示す値とするためのアイドル補正係数とを決定し、当該決定された運転状態基準係数とアイドル補正係数とを含む演算式を用いて、前記燃料指令値を決定するアイドルモードを有し、
前記燃料量決定手段は、前記アイドルモード時において、前記燃焼状態検出手段により燃焼が不安定であると判定される場合に、前記アイドル補正係数を縮小補正する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項10】
前記燃料量決定手段は、前記フィードバック制御モードが開始すると、前記運転状態検出手段により検出される運転状態に応じて前記運転状態補正係数を求め、前記運転状態補正係数を求められた値まで徐変させる、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項11】
内燃機関に燃料を供給し、燃料供給量を調整可能な燃料供給手段を備える内燃機関の空燃比制御方法であって、
運転状態毎の基準となる燃料供給量を示す運転状態基準係数を運転状態毎に決めた第1対応関係と、前記空燃比センサが示す空燃比が理論空燃比となるように燃料供給量を運転状態毎に補正するための運転状態補正係数を運転状態毎に求めた第2対応関係と、を予め記憶し、
予め記憶されている前記第1対応関係に基づいて前記運転状態検出手段により検出される運転状態に応じた前記運転状態基準係数を決定し、
予め記憶されている前記第2対応関係に基づいて前記運転状態検出手段により検出される運転状態に応じた前記運転状態補正係数を決定し、
排気ガス中の空燃比が理論空燃比付近であるときに出力特性が変化する空燃比センサの出力に基づいて、空燃比を理論空燃比に近づけるためのフィードバック補正係数を決定し、
決定された運転状態基準係数と運転状態補正係数とフィードバック補正係数とを含む演算式を用いて、前記燃料供給手段が供給すべき燃料供給量を示す燃料指令値を決定する、内燃機関の空燃比制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−136970(P2012−136970A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288532(P2010−288532)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】