説明

内燃機関制御ユニットの検査システム、およびその検査システムに実装される自動判定モデルの自動生成ツール

【課題】 この発明は、開発段階にある内燃機関制御ユニットの状態を検査するための検査システムに関し、その検査の効率改善を目的とする。
【解決手段】 内燃機関制御用の試作ECU10をHILSシステム20に連結させる。HILSシステム20に、内燃機関モデル22と共に自動判定モデル24を実装する。自動判定モデル24は、排ガス測定試験モード(La♯4モード)で内燃機関モデル22を運転させ、その運転の進行と同期して、ECU10により実現されるべき複数の機能がそれぞれ適性に実現されているかを順次検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関制御ユニットの検査システム、およびその検査システムに実装される自動判定モデルの自動生成ツールに係り、特に、開発段階にある内燃機関制御ユニットの状態を効率的に検査するうえで好適な検査システム、およびそこに実装される自動判定モデルの自動生成ツールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特開平11−326135号公報に開示されるように、車両用内燃機関の制御ユニットを、シミュレータを用いて評価する手法が知られている。このような評価手法によれば、内燃機関の制御ユニットに対して、任意の条件を与えることが可能であり、効率的にその機能を評価することが可能である。
【0003】
【特許文献1】特開2002−41130号公報
【特許文献2】特開平11−326135号公報
【特許文献3】特開2004−27930号公報
【特許文献4】特開2004−19508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、内燃機関の制御ユニットには多数の機能が与えられている。そして、それらの機能の中には、幾つかの条件が成立した場合に限って実行されるようなものもある。このため、個々に条件を設定して機能検査を行ったのでは、制御ユニットが正常に機能するか否かを判断するのに多大な工数が必要となる。この点、上述した従来の手法は、検査の効率面において未だ改良の余地を残すものであった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、内燃機関の制御ユニットの検査を効率的に行うことのできる検査システムを提供することを第1の目的とする。
更に、この発明は、その検査システムに実装される自動判定モデルを、効率的に自動生成するための自動生成ツールを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関制御ユニットの検査システムであって、
内燃機関制御ユニットとの間で信号を授受しながら動作する内燃機関または内燃機関モデルと、
前記内燃機関または前記内燃機関モデルを、指令パターンに従って動作させる動作制御手段と、
前記内燃機関制御ユニットの生成信号が、前記内燃機関または前記内燃機関モデルの動作状態と整合しているか否かを判定する自動判定モデルとを含み、
前記自動判定モデルは、
前記指令パターンとして、排ガス測定試験モードに対応する排ガス測定パターンを生成する排ガス測定パターン生成手段と、
前記ガス測定パターンの進行と同期して、前記内燃機関制御ユニットにより実現されるべき複数の機能がそれぞれ適性に実現されているかを、順次検査する自動検査手段と、
を含むことを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記内燃機関制御ユニットとの間で信号を授受することのできるHILSシステムを備え、
前記HILSシステムには、前記内燃機関モデルと、前記自動判定モデルとが実装されていることを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第1の発明において、
前記内燃機関と、
前記内燃機関との間で信号を授受することのできるラピッドプロト電子制御ユニットとを備え、
前記ラピッドプロト電子制御ユニットには、前記内燃機関制御ユニットとしての機能を実現するためのソフトウェアと共に、前記自動判定モデルが実装されていることを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第2または第3の発明において、前記自動判定モデルは、シミュリンクにより記述されていることを特徴とする。
【0010】
また、第5の発明は、第1乃至第4の発明の何れかにおいて、
前記内燃機関または前記内燃機関モデルから出力される特定情報を受けて特定物理データを推定する推定用物理モデルを備え、
前記自動判定モデルは、前記内燃機関制御ユニットが認識している前記特定物理データと、前記推定用物理モデルにより推定された前記特定物理データとの比較に基づいて、前記内燃機関制御ユニットが正常であるか否かを判断するモデル基準判断手段を含むことを特徴とする。
【0011】
また、第6の発明は、第1乃至第4の発明の何れかにおいて、
前記内燃機関または前記内燃機関モデルから出力される特定情報を受けて特定物理データを推定する推定用物理モデルを備え、
前記自動判定モデルは、前記内燃機関制御ユニットが認識している前記特定物理データと、前記推定用物理モデルにより推定された前記特定物理データとの比較に基づいて、前記推定用物理モデルが正常であるか否かを判断するユニット基準判断手段を含むことを特徴とする。
【0012】
また、第7の発明は、第1乃至第6の発明の何れかにおいて、
前記自動検査手段による前記内燃機関制御ユニットの検査は、前記ガス測定パターンの進行と同期して、複数の工程に分けて実行され、
前記複数の工程のそれぞれでは、最大判定数を超えない範囲で少なくとも1つの判定が実行され、
前記複数の工程のそれぞれに対応する複数の表示欄を備え、個々の表示欄には、前記最大判定数以上の結果表示部を備える表示装置と、
前記検査が開始されるに先立って、個々の表示欄における結果表示部を、対応する工程において実行される判定の数だけNG表示とする初期表示手段と、
個々の工程に含まれる個々の判定と、NG表示されている結果表示部とを予め関連付ける表示部関連付け手段と、
個々の判定においてOK判定が得られた場合に、当該判定と関連付けられている結果表示部をOK表示とするOK表示手段と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
また、第8の発明は、請求項1乃至7の何れか1項記載の内燃機関制御ユニットの検査システムにおいて用いられる自動判定モデルの自動生成ツールであって、
内燃機関の仕様情報を受け付ける情報受け付け手段と、
前記ガス測定パターンの進行と同期して順次実行される複数の検査のそれぞれにつき、対応する検査モデルパーツを内燃機関の仕様毎に記憶する検査モデルパーツ記憶部と、
前記情報受け付け手段が受け付けた仕様に基づいて、前記検査モデルパーツ記憶部に記憶されている検査モデルパーツの中から、当該仕様に適合する検査モデルパーツを選択する検査モデルパーツ選択手段と、
選択された検査モデルパーツを結合して、当該仕様に適合した自動検査手段を生成するパーツ結合手段と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
また、第9の発明は、第8の発明において、
前記自動検査手段による前記内燃機関制御ユニットの検査は、前記ガス測定パターンの進行と同期して、複数の工程に分けて実行され、
前記複数の工程のそれぞれでは、最大判定数を超えない範囲で少なくとも1つの判定が実行され、
生成された自動検査手段によって実行される工程のそれぞれについて、前記最大判定数の結果表示信号が割り当てられるように割り当て規則を生成する割り当て規則手段と、
前記検査が開始されるに先立って、個々の工程に割り当てられた結果表示信号が、対応する工程において実行される判定の数だけNG信号となるように初期状態を設定する初期設定生成手段と、
個々の工程に含まれる個々の判定と、初期設定でNG信号とされた個々の結果表示信号とを関連付ける信号関連付け手段と、
個々の判定においてOK判定が得られた場合に、当該判定と関連付けられている結果表示信号がOK信号となるように信号書き換え規則を生成する信号規則生成手段と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
また、第10の発明は、第9の発明において、前記信号関連付け手段によって関連付けられた個々の判定と、個々の結果表示信号との関連を表示する早見表を生成する早見表生成手段を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、内燃機関または内燃機関モデルを、排ガス測定パターンで作動させながら、内燃機関制御ユニットが適性に機能しているか否かを自動検査させることができる。排ガス測定パターンは、内燃機関のエミッション特性を評価するために定められたパターンである。このため、排ガス測定パターンを与えて内燃機関制御ユニットを検査すれば、主たる機能については、より具体的には、少なくともエミッション特性に関わる機能については、効率的に合否を判定することができる。従って、本発明によれば、内燃機関制御ユニットの検査を効率的に実行することが可能である。
【0017】
第2の発明によれば、内燃機関モデルと自動判定モデルとが共にHILSシステムに実装される。このようなHILSシステムによれば、内燃機関制御ユニットとの間で信号を授受しながら、内燃機関モデルを排ガス測定パターンで作動させ、更に、内燃機関制御ユニットが適正な制御を実行しているか否かを自動判定することができる。このため、本発明によれば、内燃機関制御ユニットの検査を効率的に実行することができる。
【0018】
第3の発明によれば、内燃機関制御ユニットとしての機能を実現するためのソフトウェアと自動判定モデルとが共にラピッドプロト電子制御ユニットに実装される。このようなラピッドプロト電子制御ユニットによれば、内燃機関を排ガス測定パターンで作動させながら、内燃機関の制御を実行し、更に、その制御が適性に行われているか否かを自動判定することができる。このため、本発明によれば、内燃機関の実機とラピッドプロト電子制御ユニットとの組み合わせにおいて、内燃機関制御ユニットの検査を効率的に行うことができる。
【0019】
第4の発明によれば、HILSシステム或いはラピッドプロト電子制御ユニットに、シミュリンクで記述された自動判定モデルが実装される。シミュリンクで記述されたプログラムは、HILSシステムとラピッドプロト電子制御ユニットの双方において共通に用いることができる。このため、本発明によれば、HILSシステムを用いた検査からラピッドプロト電子制御ユニットを用いた検査への転用、およびその逆の転用を容易に実現することができる。
【0020】
第5の発明によれば、推定用物理モデルを用いて特定物理データを推定し、その推定の結果を基準として、内燃機関制御ユニットの状態を検査することができる。このような検査手法によれば、予め検査の基準を準備しておく必要がないことから、自動推定モデルの準備を容易化することができる。
【0021】
第6の発明によれば、内燃機関制御ユニットにより認識されている特定物理データを基準として、推定用物理モデルが正確に特定物理データを推定しているか否かを判断することができる。このため、本発明によれば、推定用物理モデルの開発を容易化することができる。
【0022】
第7の発明によれば、検査に含まれる個々の工程に対応した表示欄を準備することができる。また、個々の表示欄には、検査の開始に先立って、個々の工程において実行される判定の数だけNG表示の部分を残しておくことができる。そのうえで、正常判定がなされた判定に対応する結果表示部のみをOK表示に変化させることができる。このため、本発明によれば、全ての工程の終了後に、異常判定の有無を容易に確認することができ、また、異常と判定された判定の内容を容易に特定することができる。
【0023】
第8の発明によれば、内燃機関の仕様を与えることにより、その仕様に適合した自動検査モデルを自動生成するツールを実現することができる。
【0024】
第9の発明によれば、検査に含まれる判定毎に結果表示部をOK表示またはNG表示とする手段を、自動判定モデルと共に自動生成することができる。
【0025】
第10の発明によれば、第9の発明において設定される結果表示部と判定との関係を早見表として自動生成することができる。このため、本発明によれば、異常と判定された判定を容易に特定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。本実施形態のシステムは、図1に示すようにECU(Electronic Control Unit)10を備えている。ECU10は、車両に搭載される内燃機関の運転状態を制御するためのユニットである。ここでは、ECU10は、開発の過程にあるもの、つまり、試作段階のECUであるものとする。
【0027】
ECU10は、内燃機関に搭載される各種センサなど、様々な外部機器とのデータ交換を可能とするための入出力回路(IO回路)や、種々の演算を行うマイクロコンピュータなどを備えている。ECU10には、内燃機関の状態を制御するために必要な種々の機能(空燃比フィードバック機能、空燃比学習機能、空気量算出機能など)が与えられている。これらの機能は、具体的には、ECU10が、ECU10に実装されたソフトウェアに沿った処理を実行することにより実現される。
【0028】
図1に示すシステムは、また、HILS(Hardware In the Loop Simulation)システム20と実負荷30とを備えている。HILSシステム20は、コンピュータを用いた内燃機関のシミュレーションシステムである。HILSシステム20には、内燃機関の実機と同様の挙動を示す内燃機関モデル22が内蔵されている。また、実負荷30は、可変動弁機構(VVT)など、内燃機関の実機に組み込まれている機器のうち、内燃機関モデル22に取り込まれていない(モデル化されていない)機器である。
【0029】
HILSシステム20は、内燃機関モデル22に対して、模擬するべき運転パターンを指令する機能を有している。内燃機関モデル22は、そのような運転パターンの指令を受けると、内燃機関の実機が発するのと同じ様々な信号を生成して実負荷30およびECU10に供給する。実負荷30およびECU10は、それらの信号を受けて、内燃機関モデル14に対して、内燃機関の実機に供給するのと同じ信号を送信する。その結果、内燃機関モデル22、実負荷30、およびECU10を含む系では、内燃機関の実機が動作しているのと同様の状態が模擬される。
【0030】
本実施形態において、HILSシステム20には、内燃機関モデル22と共に自動判定モデル24が搭載されている。自動判定モデル24は、内燃機関モデル22に対して後述する排ガス測定パターンでの運転を要求し、その運転の過程において、ECU10が正常に機能するか否かを自動的に判定するためのモデル(ソフトウェア)である。
【0031】
HILS20は、シミュリンク(Simulink)で記述されたプログラムを実行することができる。このため、本実施形態では、内燃機関モデル22および自動判定モデル24を、共にシミュリンクで記述することとしている。
【0032】
HILSシステム20には、図示しない表示装置が備え付けられている。自動判定モデル24によって実行されたECU10の検査の結果は、その表示装置に、自動的に表示される。表示装置における結果表示の例については、後に詳細に説明する。
【0033】
[自動判定モデルの動作例]
次に、図2を参照して、自動判定モデル24によって実行されるECU10の自動検査の内容を説明する。自動判定モデル24は、上述した通り、内燃機関モデル22に対して排ガス測定パターンでの運転を要求する。より具体的には、自動判定モデル24は、内燃機関モデル22に対して、米国排ガス測定パターン(La♯4モード)での運転を要求する。
【0034】
図2は、La♯4モードによる車速SPDの時間的変化と、本実施形態において実行される各種判定の内容とを説明するためのタイミングチャートである。内燃機関の状態を制御するECU10に課せられた役割のうち、最も重要な役割の一つは優れたエミッション特性が得られるように内燃機関の状態を制御することである。
【0035】
La♯4モードに代表される排ガス測定パターンは、内燃機関のエミッション特性を評価するための運転パターンとして設定されている。このため、内燃機関は、排ガス測定パターンでの走行時に良好なエミッション特性が得られれば、適正なものとして判断することができ、一方、その際に良好なエミッション特性が得られなかった場合は、不適正なものとして判断することができる。
【0036】
上記の理由より、内燃機関には、La♯4モードに等の排ガス測定パターンでの走行時に良好なエミッション特性が得られるように様々な機器(パージシステム、空燃比制御機器など)が搭載され、また、様々な制御が実装されている。そして、ECU10には、それらの機器を適当な条件下で適当に作動させるための種々の機能、つまり、排ガス測定パターンでの運転中に、エミッションに関連する機器を適当に作動させるための機能が実装されている。
【0037】
上記の背景より、ECU10は、内燃機関が排ガス測定パターンで運転する場合に、主要な全ての機能が動作するように設計される。このため、内燃機関を排ガス測定パターンに沿って作動させれば、そのパターンの進行に合わせて、ECU10に搭載されている全ての機能の作動要求を順次効率的に発生させることができる。そこで、本実施形態では、La♯4モードでの運転を内燃機関モデル22に要求しつつ、その運転の進行に合わせて、以下に説明する手順でECU10の主要な機能の検査を順次実行することとした。
【0038】
図2に示すように、La♯4モードでは、先ず、内燃機関の始動が要求される。その後、様々なパターンでの加速と減速が要求される。以下、車速SPDゼロの状態から加速および減速が行われ、再び車速SPDがゼロとなる個々の波形を便宜上「山」と称して説明を進める。
【0039】
本実施形態において、自動判定モデル24は、例えば、内燃機関の始動直後にて、各種始動制御が適正に実行されているか、より具体的には、始動時噴射増量やISC(Idle Speed Controller)流量の設定が適正に開始されたかを判定する。
【0040】
それらの判定に次いで、1山目では、空燃比フィードバック(F/B)制御が適正に開始されたか、また、アイドル点火時期補正が適正に開始されたか等が判定される。
【0041】
2山目では、空燃比(A/F)学習が適正に開始されたか、蒸発燃料のパージ制御が適正に開始されたかなどが判定される。
【0042】
以後、例えば3山目では、可変動弁機構(VVT)が適正な位置に動作しているか、つまり、可変動弁機構の目標位置と現実の位置との偏差が十分に小さいか否かなどが判定される。また、5山目では、ECU10が吸入空気量Gaを正しく認識しているか否かが判定される。更に、11山目では、A/F学習が適正に終了しているか、サブF/B制御が正常に実行されているか等が判定される。そして、18山目では、イグニッションOFFの後、メインリレーの遅延制御(所定の遅延の後にメインリレーをOFFとする制御)が適正に実行されるかが判定される。
【0043】
La♯4モードによる内燃機関の運転が開始された後、どの時点で何を検査するかは、内燃機関の制御仕様書を基にして決定される。例えば、内燃機関の制御仕様によっては、冷却水温THWが60℃に満たない間はVVTの作動が禁止されることがある。La♯4モードにおける3山目の段階では、THWは確実に60℃を超えており、VVTの作動条件が成立している。このため、上記の例では、VVTの検査は3山目に実行することとしている。
【0044】
また、La♯4モードにおける5山目は、吸入空気量Gaが最も激しく変化する期間である。このため、上記の例では、ECU10が吸入空気量Gaを正しく認識しているか否かを、5山目において判定することとしている。
【0045】
また、11山目の走行に到達するまでには、内燃機関の始動後、各種の学習を収束させるに十分な時間が経過する。このため、その段階で学習値が収束していなければ、その学習が適正に行われていないと判断できる。そこで、上記の例では、11山目において、A/F学習の終了判定が実行される。
【0046】
以上の例示の他、本実施形態では、内燃機関に搭載されている様々な機器、およびECU10に実装されている様々な機能につき、排ガス測定パターン(La♯4モード)による運転の進行に合わせて、順次その作動状態が検査される。そして、このような検査の手法によれば、La♯4モードによる運転が終了するまでの間に、ECU10に実装されている主要な機能の全て或いは殆どを効率的に検査することが可能である。
【0047】
図3(A)および図3(B)は、内燃機関の始動後、1山目の動作が終わるまでの間に行われる判定の内容、およびその判定の結果をそれぞれ詳細に表した図である。また、図4(A)および図4(B)は、2山目における判定の内容および結果を詳細に表した図である。図3(A)および図4(A)に示すように、それぞれの検査区間においては、特定のパラメータを対象として、数式等を用いた厳密な判定が行われる。このため、個々の検査区間においては、検査の対象につき、精度の高い判定が実現される。
【0048】
本実施形態のシステムは、個々の検査区間において、上述した厳密な判定処理を実行することに加えて、特定のパラメータについては、明らかなレンジ外れの発生等につき、常時監視を続けることとしている。これらの処理は、HILSシステム20の演算負荷を大きく増大させるものではないため、演算負荷の問題を生じさせることなく実行することができる。
【0049】
つまり、本実施形態のシステムによれば、演算負荷が問題となるような詳細な判定は、排ガス測定パターンの進行に合わせて、時間的に分散して順次実行することで、負荷の集中を避けることができる。そして、演算負荷の問題を生じさせない程度の判定を常時実行することにより、異常発生の検知精度を高めることができる。このため、本実施形態のシステムによれば、ECU10が正常に作動しているか否かを、効率的に、かつ、精度良く検査することが可能である。
【0050】
ところで、上述した実施の形態1においては、自動判定モデル24が要求する運転パターンを、米国の排ガス測定試験モード(La♯4)としているが、その運転パターンはこれに限定されるものではない。すなわち、自動判定モデル24が要求する運転パターンは、日本或いは欧州など、米国以外の排ガス測定試験モードであってもよい。
【0051】
尚、上述した実施の形態1においては、HILSシステム20が、自動判定モデル24の要求を受けて、La♯4モードで内燃機関モデル22を運転させることにより前記第1の発明における「動作制御手段」が実現されている。また、ここでは、自動判定モデル24が、La♯4モードの運転パターンを要求することにより前記第1の発明における「排ガス測定パターン生成手段」が、その運転パターンの進行に合わせてECU10の機能を順次検査することにより前記第1の発明における「自動検査手段」が、それぞれ実現されている。
【0052】
実施の形態2.
次に、図5を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
本実施形態のシステムは、図5に示すように、内燃機関40(実機)とラピッドプロトECU50とで構成されている。内燃機関40は、実車に搭載されているものでも、或いは仮想負荷等が連結された状態で実験室に置かれたものであってもよい。
【0053】
ラピッドプロトECU50は、実施の形態1において用いられた通常の試作ECU10に比べて高い能力を有する書き換え可能なユニットである。通常の試作ECU10は、例えば、実績のあるECUの構成に対して、比較的少ない改良を加えるような状況下での使用に適している。一方、ラピッドプロトECU50は、全く新たなシステムを開発する場合など、新たに開発するべき比率が大きいような状況下での使用に適している。
【0054】
ラピッドプロトECU50は、内燃機関40のセンサなど、種々の外部機器との通信を可能とするためのIO回路に加えて、高機能のマイクロコンピュータ52を内蔵している。そして、ラピッドプロトECU50には、内燃機関40の状態を制御するためのソフトウェア、つまり、実施の形態1におけるECU10の機能を実現するためのソフトウェアが実装されている。このため、ラピッドプロトECU50は、実施の形態1におけるECU10と同様に、内燃機関40(または内燃機関モデル22)との間でデータ交換を行いつつ、内燃機関40(または内燃機関モデル22)の状態を制御するための処理を実行することができる。
【0055】
また、ラピッドプロトECU50には、HILSシステム20と同様に、シミュリンクで記述されたプログラムを実行することができる。そして、ラピッドプロトECU50には、HILSシステム20に搭載されていたのと同様の自動判定モデル24、つまり、シミュリンクで記述された自動判定モデル24が実装されている。
【0056】
自動判定モデル24は、実施の形態1の場合と同様に、内燃機関40に対して、排ガス測定パターン(La♯4モード)での運転を要求し、その運転の進行に合わせて、内燃機関40の制御が適正に実行されているか否かを自動的に判定する。つまり、ラピッドプロトECU50に実装されている内燃機関40を制御するためのソフトウェアが適正に機能しているか否かを判定する。このため、本実施形態のシステムによれば、HILSシステム20を用いることなく、実施の形態1の場合と同様の機能を実現することができる。
【0057】
ところで、上述した実施の形態2においては、ラピッドプロトECU50に自動判定モデル24を実装して、HILSシステム20を用いることなくラピッドプロトECU50の検査(内燃機関40を制御する機能に関する検査)を行うこととしているが、その検査の手法はこれに限定されるものではない。すなわち、ラピッドプロトECU50についても、通常のECU10と同様に、自動判定モデル24が実装されたHILSシステム20により検査することとしてもよい。
【0058】
また、上述した実施の形態2においては、ラピッドプロトECU50に搭載する自動判定モデル24をシミュリンクで記述することとしているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、ラピッドプロトECU50に実装する自動判定モデルは、シミュリンク以外の言語で記述されたものであってもよい。但し、開発の過程でHILSシステム20を用いた検査と、ラピッドプロトECU50を用いた検査の双方を実行する可能性がある場合は、双方の検査において同じ自動判定モデル24を許容できるように、自動判定モデル24はシミュリンクで記述しておくことが望ましい。
【0059】
尚、上述した実施の形態2においては、ラピッドプロトECU50が、自動判定モデル24の要求を受けて、La♯4モードで内燃機関40を運転させることにより前記第1の発明における「動作制御手段」が実現されている。また、ここでは、自動判定モデル24が、La♯4モードの運転パターンを要求することにより前記第1の発明における「排ガス測定パターン生成手段」が、その運転パターンの進行に合わせて、ラピッドプロトECU50の機能(内燃機関40を制御することに関する機能)を順次検査することにより前記第1の発明における「自動検査手段」が、それぞれ実現されている。
【0060】
実施の形態3.
[自動判定モデルの自動生成]
次に、図6乃至図11を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。
本実施形態は、実施の形態1または2において用いられた自動判定モデル24を、自動生成するためのツールに関する。本実施形態の自動生成ツールは、通常のコンピュータシステムに、後述する機能を実現するためのソフトウェアをインストールすることにより実現することができる。
【0061】
図6(A)は、本実施形態の自動生成ツールを起動することにより、コンピュータシステムの表示装置に表示される入力画面の一例である。図6(A)に示す入力画面には、検査の対象となる内燃機関の使用を特定するための情報が表示されている。具体的には、内燃機関の形式(直列(L)かV型か、或いは気筒数は4,6,8,10,12の何れであるかなど)、各気筒に配置される燃料噴射弁の数(1つか2つか)、直噴かポート噴射か、VVTには作用角を可変とする機能が備わっているか、などを特定するための情報が表示されている。
【0062】
オペレータは、図6(A)に示す画面中で、検査対象である内燃機関の仕様を特定した後に、画面中央下部に表示されている実行ボタン(Done)をクリックする。図6(B)は、そのクリックに反応して起動される自動生成プログラムのアイコンを示す。また、図6(C)は、その自動生成プログラムの実行過程において参照されるパーツリストの画面である。
【0063】
図6(C)に示すパーツリストには、想定される内燃機関の仕様毎に、検査するべき項目に対応するプログラムパーツが含まれている。図7は、そのパーツリストの拡大図である。図6(C)および図7に示すパーツリストには、具体的には、始動時噴射増量の判定を行うためのプログラムパーツが、L4、L6、V6、V8等の形式や燃料噴射弁の数などの別に応じて、全ての内燃機関の仕様が網羅されるように準備されている。
【0064】
自動生成プログラムが起動されると、先ず、上述したパーツリストの中から、今回の検査対象である内燃機関の仕様に対応する全てのプログラムパーツが選択される。そして、それらのパーツリストを用いて、検査を行うべき内燃機関の仕様に対応した自動判定モデルが自動生成される。
【0065】
図6(D)は、本実施形態において、L6の内燃機関に対して生成される自動判定モデル(左)と、L4の内燃機関に対して生成される自動判定モデル(右)とを対比して示した図である。それらの自動判定モデルのうち、L6に対応するものの拡大図を図8に示す。
【0066】
図8に示すように、自動生成された自動判定モデルには、ECUの検査を構成する個々の判定毎に、ECUのRAM入力の欄、ロジックの欄、および判定結果の欄が設けられている。RAM入力の欄では、個々の判定のために入力するべきECUのRAM値と、そのRAM値を与えるべきポートなどが特定されている。ロジックの欄では、個々の判定のためのロジック(どの段階で何をするか)が特定される。また、判定結果の欄では、判定の結果がどこに出力されるかが特定されている。
【0067】
以上説明した通り、本実施形態のシステムによれば、検査の対象となる内燃機関の仕様を特定するだけで、その内燃機関を制御するためのECUを検査するための自動判定モデル24を自動生成することができる。このため、本実施形態のシステムによれば、実施の形態1または2において用いられる自動判定モデル24を、極めて簡単に生成することができる。
【0068】
[検査結果の表示]
実施の形態1乃至3において想定される自動判定モデル24は、La♯4モードの進行と共に、幾つかの工程(例えば、STEP2-1、STEP2-2、STEP2-3・・・など)に区分してECUの検査を進める。また、個々の工程においては、1以上16以下の判定が実行されるものとする。
【0069】
図9(A)および図9(B)は、それらの判定の結果を表示する画面の一例である。本実施形態では、自動判定モデル24により実行された判定の結果は、HILS20またはラピッドプロトECU50に接続された表示装置(モニタ)上に、これらの画面として表示される。より具体的には、図9(A)は、検査の開始前に置ける結果表示画面であり、図9(B)は検査終了後における結果表示画面である。
【0070】
図9(A)および図9(B)に示す表示画面には、ECUの検査に含まれる個々の工程(STEP2-1、STEP2-2、STEP2-3・・・)に対応する複数の表示欄60が設けられている。個々の表示欄60には、No.0からNo.15までの番号に対応する16個の結果表示部62が含まれている。結果表示部62は、OK信号を受けることにより点灯表示、つまりOK表示となり、また、NG信号を受けることにより消灯表示、つまりNG表示となる。
【0071】
図9(A)に示す表示画面において、STEP2-1の表示欄60は、No.15の結果表示部62を除いて、消灯表示(NG表示)とされている。また、STEP2-2の表示欄60は、No.0〜No.2の結果表示部62のみがNG表示とされている。検査開始前の画面においてNG表示とされる結果表示部62の数は、個々の工程において実行される判定の数に対応している。つまり、図9(A)に示す表示画面は、STEP2-1において15個の判定が予定されており、また、STEP2-2において3個の判定が予定されていることを表している。他のSTEPについても同様である。
【0072】
個々の表示欄60においてNG表示とされている結果表示部62は、それぞれ個々の工程で実行される判定と1対1で対応している。より具体的には、No.0の結果表示部は、個々の工程で最初に実行される判定に対応しており、以下、実行される順序に従って、判定と結果表示部62とが関連付けられている。
【0073】
このため、個々の工程が実行される際には、全ての判定が正常であれば、その工程に対応する表示欄60の結果表示部62が、No.0から順に後方に向かって点灯表示(OK表示)に変化し、工程終了時には全ての結果表示部62がOK表示となった画面が表示されることになる。つまり、全ての工程において、全ての判定が正常であった場合は、検査終了時に、全ての結果表示部がOK表示とされた画面が表示されることになる。図9(B)に示す結果表示画面は、このような状況下で表示される画面である。
【0074】
一方、何れかの工程の何れかの判定が異常であった場合は、その判定に対応する結果表示部62のみがNG表示のまま残される。このため、検査の終了後に結果表示画面を見れば、異常判定が存在したか否かは、極めて容易に判断することができる。更に、NG表示とされている結果表示部62の位置から、どの工程の何番目の判定が異常であったのかも、容易に特定することができる。
【0075】
[判定ビット早見表]
本実施形態における自動生成ツールは、上述した通り、検査の対象となる内燃機関の仕様を特定することにより、その仕様に適合した自動判定モデル24を生成する。ここで、自動判定モデル24が生成されると、その段階で、個々の工程において実行される判定の内容、および順序が決定される。つまり、個々の工程において順次実行される判定が、それぞれ何を判断するものであるのかが決定される。
【0076】
そして、上記の決定がなされると、その段階で、結果表示画面(図9(A)参照)における個々の結果表示部62が、それぞれ何の正否を表すものであるかを特定することができる。そこで、本実施形態の自動生成ツールは、自動判定モデル24を生成する際に、結果表示画面に表示される個々の結果表示部62と、その結果表示部62が表す正否の対象との関係を表す判定ビット早見表を生成することとしている。
【0077】
図10は、本実施形態の自動生成ツールによって生成される判定ビット早見表の一例である。この図において、「ビット」は、個々の工程に対応する表示欄60における結果表示部62の位置(ビット)を表している。また、「変数名」は、個々の判定における正否判断の対象を表している。このような判定ビット早見表があれば、検査終了後の結果表示画面中にNG表示が存在していた場合に、そのNG表示の位置(ビット)から、異常判定された対象を即座に特定することが可能である。このため、本実施形態のシステムによれば、ECUの検査結果の解析作業をも容易化することができる。
【0078】
[自動生成ツールによる処理の流れ]
図11は、本実施形態の自動生成ツールにより実現される処理の流れをフローチャートにより表した図である。すなわち、本実施形態の自動生成ツールにより自動判定モデル24を生成するにあたっては、先ず、図11に示すように、内燃機関の仕様を特定するためのパラメータ設定が行われる(ステップ100;図6(A)参照)。
【0079】
次に、オペレータにより、自動生成の実行が指令される(ステップ102;図6(B)参照)。その結果、自動生成ツールは、検査モデルのパーツを自動選択し(ステップ104;図6(C)参照)、更に、パーツモデルのラインを自動接続して自動判定モデル24を生成する(ステップ106;図6(D)参照)。
【0080】
最後に、検査の開始前に、判定に対応しない結果表示部62を予めOK表示としておくための処理(余りビットのON処理)、検査に用いる定数の自動設定、更には判定ビット早見表の作成処理などが実行される(ステップ108;図9(A)、図10参照)。以上の処理により、自動判定モデル24を自動生成し、また、判定ビット早見表を自動生成することができる。
【0081】
ところで、上述した実施の形態3においては、自動生成ツールによって生成される検査モデルが、排ガス測定パターン(La♯4モード)に沿って検査を進める自動判定モデル24に限定されているが、その検査モデルはこれに限定されるものではない。すなわち、本実施形態における自動生成ツールは、内燃機関の仕様が与えられることにより、その仕様に応じた検査モデルを自動生成するものであれば良く、任意のパターンで検査を進める自動判定モデルの自動生成に適用することとしてもよい。
【0082】
尚、上述した実施の形態3においては、自動生成ツールが実装されたコンピュータシステムが、図6(A)に示す画面を表示して内燃機関の仕様を取得することにより前記第8の発明における「情報受け付け手段」が、図6(C)に示す検査モデルのパーツを記憶しておくことにより前記第8の発明における「検査モデルパーツ記憶部」が、図11に示すステップ104の処理を実行することにより前記第8の発明における「検査モデルパーツ選択手段」が、図11に示すステップ106の処理を実行することにより前記第8の発明における「パーツ結合手段」が、それぞれ実現されている。
【0083】
また、上述した実施の形態3においては、自動判定モデル24の実装されたコンピュータが、図9(A)に示す結果表示画面を表示装置に表示させることにより前記第7の発明における「初期表示手段」が、個々の判定とNG表示されている結果表示部62との関係を予め関連付けておくことにより前記第7の発明における「表示部関連付け手段」が、OK判定の得られた判定につき結果表示部62をOK表示とすることにより前記第7の発明における「OK表示手段」が、それぞれ実現されている。
【0084】
また、上述した実施の形態3においては、自動生成ツールの実装されたコンピュータが、図11に示すステップ108において、個々の工程につき、余りビットのON処理を実行することにより、前記第9の発明における「割り当て規則手段」および「初期設定生成手段」が、個々の判定の結果に応じて結果表示画面中の結果表示部が適当にOK表示に書き換えられるように自動判定モデル24を生成しておくことにより前記第9の発明における「信号関連付け手段」および「信号規則生成手段」が、それぞれ実現されている。
【0085】
更に、上述した実施の形態3においては、自動生成ツールの実装されたコンピュータが、図11に示すステップ108において、判定ビット早見表を自動生成することにより前記第10の発明における「早見表生成手段」が実現されている。
【0086】
実施の形態1乃至3の運用例.
次に、図12を参照して、実施の形態1乃至3において説明した検査システム、および自動生成ツールの運用例について説明する。
【0087】
図12は、上述した検査システムおよび自動生成ツールを利用して内燃機関の制御用ECUを開発する際の運用例を例示したフローチャートである。図12に示すように、制御用ECUの開発過程では、先ず、自動判定モデル24の自動生成を行う(ステップ110)。本ステップ110の処理は、実施の形態3において説明した自動生成ツールを用いて行うことができる。
【0088】
次に、自動生成した自動判定モデル24を、検査の対象であるECU10と共にHILSシステム20に追加する(ステップ112)。本ステップ112の処理が実行されることにより、図1に示す構成が実現される。
【0089】
次に、HILSシステム20によるECU10の自動検査を開始する(ステップ114)。その結果、排ガス測定パターン(La♯4モード)での内燃機関モデル22の自動走行と、自動判定モデル24によるリアルタイム自動判定とが同時に実行される(ステップ116,118)。
【0090】
検査が終了すると、HILSシステム20に組み込まれている表示装置に、検査終了後の結果表示画面(図9(B)参照)が表示される(ステップ120)。その画面上で、NG表示が認められた場合は、判定ビット早見表により異常箇所を特定し、更に、その異常を解消するために、ハードウェア或いはソフトウェアを修理する(ステップ122)。その後、再びHILSシステム20による自動検査を実行する。
【0091】
一方、上記ステップ120において表示された結果画面上に、NG表示が存在しない場合は、ECU10が、排ガス測定パターンでの検査を通過したと判断する。以上の処理により、HILSシステム20を利用したECU10の評価は終了する。
【0092】
次に、内燃機関の実機適合を行う。ここでは、先ず、適合の対象がラピッドプロトECU50であるか否かを判断する(ステップ124)。適合の対象がラピッドプロトECU50でない場合、つまり通常の試作ECU10である場合は、伝統的な手法により実機適合を行う(ステップ126)。つまり、内燃機関を所望のパターンで運転させながら、ECU10が各項目につき適正に作動しているか否かを確認し、その結果をECU10の構成にフィードバックする作業を実行する。
【0093】
一方、適合の対象がラピッドプロトECU50である場合は、ここでも自動判定モデル24を利用した検査を行うことができる。すなわち、この場合は、先ず、ラピッドプロトECU50に対して、上記ステップ110において生成された自動判定モデル24を実装する(ステップ128)。
【0094】
次に、ラピッドプロトECU50を内燃機関40に結合させ(図5参照)、自動判定モデル24による自動走行を開始させる。その結果、ラピッドプロトECU50の制御による実機適合と、リアルタイムによる自動良否判定とが同時に実行される(ステップ130,132)。
【0095】
以上に例示した運用例によれば、自動生成ツールを用いて自動判定モデル24を効率的に生成し、また、HILSシステム20、或いはラピッドプロトECU50を利用して、内燃機関を制御するためのECUの状態を効率的に検査することができる。このため、このような運用例によれば、内燃機関の制御用ECUの開発を極めて効率的に進めることができる。但し、ここで説明した運用例は、あくまで運用の一例であり、その運用の手法はこれに限定されるものではない。
【0096】
実施の形態4.
次に、図13を参照して、本発明の実施の形態4について説明する。図13は、本実施形態において用いられるラピッドプロトECU70の構成を説明するための概念図である。ラピッドプロトECU70には、外部機器とのデータ交換を可能とするためのIO回路72と、マイクロコンピュータ74とが搭載されている。
【0097】
マイクロコンピュータ74には、内燃機関を制御するための制御ロジック76と自動判定モデル78に加えて、推定用物理モデル80が実装されている。ラピッドプロトECU70は、IO回路72を介して内燃機関の実機と結合され、制御ロジック76の機能により、内燃機関の状態を制御することができる。
【0098】
自動判定モデル78は、実施の形態1または2において用いられた自動判定モデル24と同様に、排ガス測定パターン(La♯4モード)で内燃機関を運転させつつ、内燃機関が適正に作動しているか否か、つまり、制御ロジック76が適正に機能しているか否かを判断するためのモデルである。但し、実施の形態1または2において用いられた自動判定モデル24が、既定の判定値を用いて検査を進めるのに対して、本実施形態における自動判定モデル78は、推定用物理モデル80による推定値を判定値として検査を実行する。
【0099】
すなわち、推定用物理モデル80は、例えば、機関回転数NE、スロットル開度TA、および可変バルブタイミングVVTなどに基づいて、吸入空気量Gaを推定するモデルを含んでいる。推定用物理モデル80には、IO回路72を介して内燃機関の状態を表す各種データが供給されている。このため、推定用物理モデル80は、内燃機関の現実の状態に応じて、吸入空気量Ga等の物理量を推定することができる。
【0100】
自動判定モデル78は、正否を判断するべき対象が、推定用物理モデル80により推定されている物理量である場合は、ECUのRAM値を、その推定物理量と比較することにより、制御ロジック76が正常であるか否かを判断する。このような判断手法によれば、現実の内燃機関の状態に応じて、常に適切な判断を下すことが可能であると共に、判断の基準値を事前に準備する必要がなくなることから、自動判定モデル78の生成を容易化すること、つまり、自動生成ツールの開発を容易化することができる。このため、本実施形態の構成によれば、実施の形態2の場合に比して、内燃機関の制御用ECUの開発効率を更に高めることが可能である。
【0101】
ところで、上述した実施の形態4においては、自動判定モデル78および推定用物理モデル80をラピッドプロトECU70に実装する例を示しているが、これらは、HILSシステム20に実装することとしてもよい。すなわち、実施の形態1のシステムに対して、推定用物理モデル80を組み込む構成としてもよい。
【0102】
また、上述した実施の形態4においては、推定用物理モデル80による推定値を基準値としてECUの制御ロジック76を判定することとしているが、その判定の手法は、これに限定されるものではない。すなわち、実績のある制御ロジック76と、開発過程にある推定用物理モデル80とを組み合わせて、ECUのRAM値を基準として、推定用物理モデル80の適否を判定することとしてもよい。このような運用によれば、推定用物理モデル80の開発を効率化することが可能である。
【0103】
尚、上述した実施の形態4においては、自動判定モデル78が、推定物理データを基準として制御ロジック76の正否を判定することにより、前記第5の発明における「モデル基準判断手段」が実現される。また、自動判定モデル78が、制御ロジック76により生成されるRAM値を基準として推定用物理モデル80の正否を判定することにより、前記第6の発明における「ユニット基準判断手段」が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。
【図2】La♯4モードによる車速SPDの時間的変化と、実施の形態1において実行される各種判定の内容とを説明するためのタイミングチャートである。
【図3】実施の形態1において、内燃機関の始動後、1山目の動作が終わるまでの間に実行される判定の内容およびその判定の結果を表した図である。
【図4】実施の形態1において、2山目において実行される判定の内容および結果を表した図である。
【図5】本発明の実施の形態2の構成を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態3の自動生成ツールの動作を説明するための図である。
【図7】実施の形態3の自動生成ツールが有するパーツリストの拡大図である。
【図8】実施の形態3の自動生成ツールにより自動生成される検査モデルの一例の拡大図である。
【図9】実施の形態1または2における自動判定モデルにより生成される判定結果を表示する結果表示画面の一例である。
【図10】実施の形態3の自動生成ツールにより自動生成される判定ビット早見表の一例である。
【図11】実施の形態3の自動生成ツールにより実現される処理の流れを表すフローチャートである。
【図12】実施の形態1乃至3の検査システムおよび自動生成ツールを利用して内燃機関の制御用ECUを開発する際の運用例を例示したフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態4において用いられるラピッドプロトECUの構成を説明するための図である。
【符号の説明】
【0105】
10 ECU(通常の試作ECU)
20 HILSシステム
22 内燃機関モデル
24;78 自動判定モデル
40 内燃機関(実機)
50;70 ラピッドプロトECU
52 マイクロコンピュータ
60 表示欄
62 結果表示部
76 制御ロジック
80 推定用物理モデル
La♯4 米国排ガス測定試験モード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関制御ユニットとの間で信号を授受しながら動作する内燃機関または内燃機関モデルと、
前記内燃機関または前記内燃機関モデルを、指令パターンに従って動作させる動作制御手段と、
前記内燃機関制御ユニットの生成信号が、前記内燃機関または前記内燃機関モデルの動作状態と整合しているか否かを判定する自動判定モデルとを含み、
前記自動判定モデルは、
前記指令パターンとして、排ガス測定試験モードに対応する排ガス測定パターンを生成する排ガス測定パターン生成手段と、
前記ガス測定パターンの進行と同期して、前記内燃機関制御ユニットにより実現されるべき複数の機能がそれぞれ適性に実現されているかを、順次検査する自動検査手段と、
を含むことを特徴とする内燃機関制御ユニットの検査システム。
【請求項2】
前記内燃機関制御ユニットとの間で信号を授受することのできるHILSシステムを備え、
前記HILSシステムには、前記内燃機関モデルと、前記自動判定モデルとが実装されていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関制御ユニットの検査システム。
【請求項3】
前記内燃機関と、
前記内燃機関との間で信号を授受することのできるラピッドプロト電子制御ユニットとを備え、
前記ラピッドプロト電子制御ユニットには、前記内燃機関制御ユニットとしての機能を実現するためのソフトウェアと共に、前記自動判定モデルが実装されていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関制御ユニットの検査システム。
【請求項4】
前記自動判定モデルは、シミュリンクにより記述されていることを特徴とする請求項2または3記載の内燃機関制御ユニットの検査システム。
【請求項5】
前記内燃機関または前記内燃機関モデルから出力される特定情報を受けて特定物理データを推定する推定用物理モデルを備え、
前記自動判定モデルは、前記内燃機関制御ユニットが認識している前記特定物理データと、前記推定用物理モデルにより推定された前記特定物理データとの比較に基づいて、前記内燃機関制御ユニットが正常であるか否かを判断するモデル基準判断手段を含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の内燃機関制御ユニットの検査システム。
【請求項6】
前記内燃機関または前記内燃機関モデルから出力される特定情報を受けて特定物理データを推定する推定用物理モデルを備え、
前記自動判定モデルは、前記内燃機関制御ユニットが認識している前記特定物理データと、前記推定用物理モデルにより推定された前記特定物理データとの比較に基づいて、前記推定用物理モデルが正常であるか否かを判断するユニット基準判断手段を含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の内燃機関制御ユニットの検査システム。
【請求項7】
前記自動検査手段による前記内燃機関制御ユニットの検査は、前記ガス測定パターンの進行と同期して、複数の工程に分けて実行され、
前記複数の工程のそれぞれでは、最大判定数を超えない範囲で少なくとも1つの判定が実行され、
前記複数の工程のそれぞれに対応する複数の表示欄を備え、個々の表示欄には、前記最大判定数以上の結果表示部を備える表示装置と、
前記検査が開始されるに先立って、個々の表示欄における結果表示部を、対応する工程において実行される判定の数だけNG表示とする初期表示手段と、
個々の工程に含まれる個々の判定と、NG表示されている結果表示部とを予め関連付ける表示部関連付け手段と、
個々の判定においてOK判定が得られた場合に、当該判定と関連付けられている結果表示部をOK表示とするOK表示手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の内燃機関制御ユニットの検査システム。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項記載の内燃機関制御ユニットの検査システムにおいて用いられる自動判定モデルの自動生成ツールであって、
内燃機関の仕様情報を受け付ける情報受け付け手段と、
前記ガス測定パターンの進行と同期して順次実行される複数の検査のそれぞれにつき、対応する検査モデルパーツを内燃機関の仕様毎に記憶する検査モデルパーツ記憶部と、
前記情報受け付け手段が受け付けた仕様に基づいて、前記検査モデルパーツ記憶部に記憶されている検査モデルパーツの中から、当該仕様に適合する検査モデルパーツを選択する検査モデルパーツ選択手段と、
選択された検査モデルパーツを結合して、当該仕様に適合した自動検査手段を生成するパーツ結合手段と、
を備えることを特徴とする自動判定モデルの自動生成ツール。
【請求項9】
前記自動検査手段による前記内燃機関制御ユニットの検査は、前記ガス測定パターンの進行と同期して、複数の工程に分けて実行され、
前記複数の工程のそれぞれでは、最大判定数を超えない範囲で少なくとも1つの判定が実行され、
生成された自動検査手段によって実行される工程のそれぞれについて、前記最大判定数の結果表示信号が割り当てられるように割り当て規則を生成する割り当て規則手段と、
前記検査が開始されるに先立って、個々の工程に割り当てられた結果表示信号が、対応する工程において実行される判定の数だけNG信号となるように初期状態を設定する初期設定生成手段と、
個々の工程に含まれる個々の判定と、初期設定でNG信号とされた個々の結果表示信号とを関連付ける信号関連付け手段と、
個々の判定においてOK判定が得られた場合に、当該判定と関連付けられている結果表示信号がOK信号となるように信号書き換え規則を生成する信号規則生成手段と、
を備えることを特徴とする請求項8記載の自動判定モデルの自動生成ツール。
【請求項10】
前記信号関連付け手段によって関連付けられた個々の判定と、個々の結果表示信号との関連を表示する早見表を生成する早見表生成手段を更に備えることを特徴とする請求項9記載の自動判定モデルの自動生成ツール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−64411(P2006−64411A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244266(P2004−244266)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】