説明

内燃機関排ガスの粒状物質検出方法および内燃機関の燃焼制御方法ならびに装置

【課題】内燃機関燃焼室から排出される排ガスに含まれる粒状物質(PM)量を容易に測定する方法と、この方法で検出された粒状物質の検出値に基づき、内燃機関の燃焼室の燃焼制御方法と装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ディーゼルエンジンの排ガス管に配置された酸化触媒コンバータの排ガス入口に入口温度検出器を配置するとともに排ガス出口に出口温度検出器を配置して、排ガス温度をそれぞれ検出し、排ガス入口の排ガス温度と排ガス出口の排ガスの温度差の変動により、排ガス中に含まれる粒状物質の増減を検出する。前記の方法で粒状物質の増減を検出し、前記粒状物質の増加量が設定値を越えた時に、内燃機関の燃焼空気量の増加と燃料の噴射特性の改善の少なくとも一方を行い、燃焼状態を改善するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスに同伴して排出される粒状物質(未燃粒子)を検出する内燃機関排ガスの粒状物質検出方法と、この方法により検出された粒状物質の検出値に基いて内燃機関の運転状態を良好に制御する内燃機関の燃焼制御方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばディーゼルエンジン機関において、排ガスに含まれる粒状物質を検出するものとして、特許文献1が提案されている。この特許文献1では、排ガス中のPM(粒状物質)を測定する要件として、燃料流量、吸気流量およびスモーク濃度からISF(非溶融性有機物質)量を算出し、エンジン回転数、燃料流量、吸気流量、CO排出量およびHC排出量からSOF(可融性有機物質)量を算出し、ISF量とSOF量の和をPM量として算出している。
【特許文献1】特許第3617261号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1では、複数のパラメータによりPM量を算出するため、複雑な構成になるという問題があった。
本発明は上記問題点を解決して、より簡易的にPM量を測定できる内燃機関排ガスの粒状物質検出方法と、その検出方法を利用した内燃機関の燃焼制御方法と装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1記載の内燃機関排ガスの粒状物質検出方法は、内燃機関の排ガス通路に配置された酸化触媒コンバータの排ガス入口と排ガス出口の排ガス温度をそれぞれ検出し、前記排ガス入口と排ガス出口の排ガスの温度差の変動により、排ガス中に含まれる粒状物質の増減を検出するものである。
【0005】
請求項2記載の発明は、排ガス通路の排ガス流量を検出して、粒状物質の増減量を補正するものである。
請求項3記載の内燃機関の燃焼制御方法は、請求項1または2記載の内燃機関排ガスの粒状物質検出方法により、継続的に排ガス中の粒状物質の増減を検出し、前記粒状物質の増加量が設定値を越えた時に、内燃機関の燃焼空気量の増加と燃料の噴射特性の改善の少なくとも一方を行い、燃焼状態を改善するものである。
【0006】
請求項4記載の内燃機関の燃焼制御装置は、内燃機関の排ガス通路に配置された酸化触媒コンバータの排ガス入口に配置された入口温度検出器および排ガス出口に配置された出口温度検出器と、前記入口温度検出器と出口温度検出器の温度差の変動により、排ガス中に含まれる粒状物質の増減を検出する粒状物質増減検出部とを有する粒状物質検出部を設け、前記粒状物質増減検出部の検出値からエンジンの燃焼状態を判断する燃焼状態判断部と、前記燃焼状態判断部の操作信号に基いて粒状物質の増加量が設定値を越えた時に、燃焼空気量の増加と燃料の噴射特性の改善の少なくとも一方を行う運転制御指令部とを有する燃焼制御部を設けたものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明によれば、酸化触媒コンバータの排ガス入口と排ガス出口の排ガス温度をそれぞれ検出し、その排ガス温度の差の変動に基いて排ガスに含まれる粒状物質(未燃粒子)の増減を検出することができ、従来に比較してきわめて簡単な構成で容易に実施することができる。
【0008】
請求項2記載の発明によれば、排ガス流量により粒状物質の増減量を補正することにより、より正確に粒状物質の増減量を判断することができる。
請求項3記載の発明によれば、粒状物質の増減により、内燃機関の燃焼状態を判断することで、簡単な構成で燃焼状態を改善することができて内燃機関を最適な運転状態に保持することができる。
【0009】
請求項4記載の発明によれば、粒状物質検出部において、入口温度検出器および出口温度検出器により酸化触媒コンバータの排ガス入口と排ガス出口の排ガス温度をそれぞれ測定し、粒状物質増減検出部により前記排ガス温度差の変動により、排ガス中に含まれる粒状物質の増減を検出する。さらに燃焼制御部において、燃焼状態判断部では、前記粒状物質増減検出部の検出値に基いて、酸化触媒コンバータの排ガス入口と排ガス出口の排ガス温度差が大きくなった場合、燃焼不良により内燃機関の燃焼状態が悪化し粒状物質が増加したと判断して制御指令を運転制御指令部に出力する。運転制御指令部では燃焼空気量の増加および燃料の噴射特性の改善の少なくとも一方を行って燃焼状態を改善し、最適な運転状態に保持することができる。したがって、簡単な構成で、内燃機関を容易に最適な運転状態に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[実施の形態1]
図1は、本発明に係るエンジン(内燃機関)の燃焼制御装置11を具備したたとえば舶用の4サイクルディーゼルエンジンの構成図で、吸気管2および排気管(排ガス通路)3には、同一軸上で回転される過給羽根を有する出力側過給機4Aおよび入力側過給機4Bがそれぞれ設置されている。そして、吸気管2から出力側過給機4Aにより加圧された燃焼空気が、冷却装置6により冷却された後に、マニホールドから吸入弁5Aを有する吸気口を介してエンジンの各シリンダ1の燃焼室1aにそれぞれ供給される。シリンダ1の燃焼室1aには、燃料が燃料ポンプ7から燃料噴射ノズル8を介して噴射供給されることにより、4サイクルで運転される。燃焼後の排ガスは、燃焼室1aから排気弁5Bを有する排気口を介して排気管3に排出され、入力側過給機4Bを駆動して排気筒9から排出される。またこの排気管3には、排ガス中の粒状物質検出する酸化触媒コンバータ10が所定位置に設置される。ここで、小排気量(たとえば排ガス流量2Nm/秒以下)のエンジンの場合で、全排ガスを通過させて浄化するために設置される酸化触媒コンバータ10を粒状物質検出用として利用することもできるが、大排気量(たとえば排ガス流量2Nm/秒を超える)のエンジンの場合には、粒状物質を検出するために一部の排ガスを通過させる酸化触媒コンバータ10が設置される。
【0011】
この酸化触媒コンバータ10は、たとえば筒状体内にハニカム構造の酸化触媒が設置され、酸化触媒により排ガス中のPM(粒状物質)のうち、特に未燃の燃料分やオイル分を含むSOF(可溶融性有機物質)を中心に燃焼させるものであるが、温度条件により煤などのISF(非溶融性有機物質)も燃焼される。またこの酸化触媒コンバータ10は、前記排気管3で最適な効果を奏する排ガス温度位置に設置されており、回転数が50〜180rpmの低速2サイクルエンジンの場合には、排ガス温度が約550℃前後となる入力側過給機4Bの入口近傍に設置され、また回転数が250〜1800rpmの中速4サイクルエンジンの場合には、排ガス温度が約450℃前後となる入力側過給機4Bの出口近傍に設置される。
【0012】
図2に示すように、本発明に係るエンジンの燃焼制御装置11は、PM検出部(粒状物質検出部)12と燃焼制御部21とを具備しており、前記PM検出部12は、酸化触媒コンバータ10の排ガス入口と排ガス出口の排ガス温度をそれぞれ検出する入口温度検出器14Aおよび出口温度検出器14Bと、前記排ガスの温度差の変動に基いて排ガス中のPM量の増減を検出するPM増減検出部13とを有している。また燃焼制御部21は、前記PM増減検出部13のPM量の増減に基いてエンジンの燃焼状態を判断する燃焼状態判断部23と、この燃焼状態判断部23の制御指令によりエンジンの燃焼状態を制御する運転制御指令部22とを有している。
【0013】
すなわち、PM検出部12は、図2,図3(a)に示すように、酸化触媒コンバータ10の排ガス入口に配置された入口温度検出器14Aと、排ガス出口に配置された出口温度検出器14Bと、排ガス量を検出する排ガス検出部15と、酸化触媒コンバータ10の酸化触媒の劣化データを記録する劣化データ記録部16と、前記PM増減検出部13とで構成されている。なお、図4に示すように、酸化触媒コンバータ10の排ガス出口に縮流ダクト10aが設けられた場合には、縮流ダクト10aの排ガス出口に出口温度検出器14Bが設置される。
【0014】
前記排ガス中のPMは、図3(b)に示すように、酸化触媒コンバータ10を通過することにより、SOFを中心に煤なども含めて酸化燃焼され、入口の排ガス温度T0に、酸化触媒の加熱による基礎上昇温度T1と、PMの燃焼による酸化上昇温度ΔT分を加えた排ガス温度となる。そして前記酸化上昇温度ΔTは、酸化触媒コンバータ10により酸化燃焼されるPM量に比例することから、排ガス中のPM量が増加すると酸化上昇温度ΔTが増加され、反対に排ガス中のPM量が減少すると酸化上昇温度ΔTが減少される。したがって、PM増減検出部13により酸化触媒コンバータ10の排ガス入口と排ガス出口の排ガス温度を検出し、継続的に温度差を比較することにより、排ガス中のPMの増減を検出することができる。
【0015】
ここで、エンジンの回転数が変動すると排ガス量が変化してPM量も変化するため、排ガス検出部15では、A)エンジンの回転検出器15a、B)出力側過給機4Aの回転検出器15b、C)出力側過給機4A出口のエア圧検出器15cのうち、A)およびB)の一方の検出値と、C)の検出値とに基いて排ガス流量を求め、この前記排ガス流量に基いてPM増減検出部13でPMの増減量を補正している。
【0016】
また酸化触媒コンバータ10の酸化触媒は使用時間に従って劣化し、酸化燃焼されるPM量が減少することから、PM増減検出部13では劣化データを記録する劣化データ記録部16の劣化データに基いてPMの増減量を補正している。
【0017】
前記燃焼室1aで燃焼性が悪化するとPM量が増加するため、燃焼制御部21の燃焼状態判断部23では、PM検出部12におけるPMの増減量を継続的に記録して比較し燃焼状態が最適か、悪化しているかどうかを判断し、また運転制御指令部22では、エンジンを最適な状態で運転するように燃焼制御する。
【0018】
すなわち、前記燃焼状態判断部23では、所定時間の間でPMの増加量が所定の設定値を越えると、エンジンの燃焼状態が悪いと判断して、運転制御指令部22によりエンジンを制御する。前記運転制御指令部22は、燃焼状態判断部23からの制御指令により、a)吸入排気弁5A,5Bの弁調整装置5Cを作動して燃焼空気量を増加させる、b)燃料ポンプ7を操作して燃料の噴射圧を上げ噴射特性を改善する、の一方または両方を行うことにより、燃焼室1a内の燃焼性を改善し最適な運転状態を保持するように構成される。
【0019】
なお、b)の燃料の噴射特性を改善に関しては、燃料噴射圧の増大以外に、燃料噴射ノズル8の噴射回数(多段噴射)を制御することで噴射特性を改善することもできる。
上記構成において、燃焼室1aから排気管3に排出された排ガスが、酸化触媒コンバータ10に導入されて排ガスに同伴されたSOFを中心に煤なども含めて酸化燃焼される。これにより排ガス出口の排ガス温度は、排ガス入口と比較して、基礎上昇温度T1に加えて酸化上昇温度ΔT分が上昇される。PM増減検出部13では、この酸化上昇温度ΔTに基いて排ガス中のPM量の増減を容易に検出することができる。
【0020】
またエンジンの燃焼状態が悪化してPMの発生量が増加すると、PM検出部12では、入口温度検出器14Aの検出値に比較して出口温度検出器14Bの検出温度が高く検出され、PMの増加量が多く検出される。そして燃焼状態判断部23では、PMの増加量が多い状態で所定時間継続した場合、エンジンの燃焼状態が悪化したと判断し、運転制御指令部22に制御指令が出力される。運転制御指令部22では、弁調整装置5Cに操作指令を出力して燃焼空気量を増加させたり、または燃料ポンプ7に操作指令を出力して燃料の噴射圧が上昇させて燃焼室1a内での噴射特性を改善させることにより、燃焼室1a内の燃焼性を改善し最適な運転状態が保持される。もちろん両方の操作を同時に行ってもよい。
【0021】
上記実施の形態によれば、PM検出部12において、酸化触媒コンバータ10の排ガス入口の排ガス温度を検出する入口温度検出器14Aと、排ガス出口の排ガス温度を検出する出口温度検出器14Bとにより排ガスの温度をそれぞれ検出し、PM増減検出部13により排ガス入口と排ガス出口での排ガス温度差の変動からPM量の増減を検出することができ、従来に比較して簡単な構成で容易にPM量の増減を検出することができる。
【0022】
また排ガス検出部15において、エンジンの回転検出器15aおよび出力側過給機4Aの回転検出器15bの一方の検出信号と、出力側過給機4A出口のエア圧検出器15cの検出信号とに基いて排ガス流量を求め、この排ガス流量に基いてPM増減検出部13によりPMの増減量を補正するので、より正確なPMの増減量を得ることができる。
【0023】
さらにPM増減検出部13では、劣化データ記録部16のデータに基いてPMの増減量を補正することにより、さらに正確なPMの増減量を得ることができる。
さらにまた、PM増減検出部13でPMの増加量が多いと、燃焼状態判断部23でエンジンの燃焼状態が悪化したと判断され、これに基いて運転制御指令部22により弁調整装置5Cを制御して燃焼空気量を増加したり、または燃料ポンプ7を制御して燃料の噴射圧を上げ噴射特性を向上させることで、燃焼室1a内の燃焼性を改善することができる。これにより、簡易な構成で舶用ディーゼルエンジンを常に最適な状態で運転することができる。
【0024】
図5は、2サイクルのディーゼルエンジンに本発明に係る燃焼制御装置を適用した説明図である。ここで、上記実施の形態と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。上記構成によれば、2サイクルのディーゼルエンジンであっても同様の作用効果を奏することができる。
【0025】
なお、上記実施の形態では、4サイクルおよび2サイクルのディーゼルエンジンについて説明したが、ガスエンジンやガソリンエンジンなどの他の内燃機関にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るエンジンの燃焼制御装置を具備した4サイクルディーゼルエンジンの実施の形態を示す説明図である。
【図2】同エンジンの燃焼制御装置の構成図である。
【図3】同排気管に設置された酸化触媒コンバータを示し、(a)は温度検出器の設置状態を示す配置図、(b)は排ガス温度分布を示すグラフである。
【図4】他の酸化触媒コンバータと温度検出器の設置状態を示す配置図である。
【図5】本発明に係るエンジンの燃焼制御装置を具備した2サイクルディーゼルエンジンの実施の形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 シリンダ
1a 燃焼室
2 吸気管
3 排気管
4A 出力側過給機
4B 入力側過給機
5A 吸入弁
5B 排気弁
5C 弁調整装置
6 冷却装置
7 燃料ポンプ
8 燃料噴射ノズル
9 排気筒
10 酸化触媒コンバータ
11 燃焼制御装置
12 PM検出部
13 PM増減検出部
14A 入口温度検出器
14B 出口温度検出器
15 排ガス検出部
15a エンジンの回転検出器
15b 出力側過給機の回転検出器
15c 出力側過給機出口のエア圧検出器
16 劣化データ記録部
21 燃焼制御部
22 運転制御指令部
23 燃焼状態判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排ガス通路に配置された酸化触媒コンバータの排ガス入口と排ガス出口の排ガス温度をそれぞれ検出し、
前記排ガス入口と排ガス出口の排ガスの温度差の変動により、排ガス中に含まれる粒状物質の増減を検出する
内燃機関排ガスの粒状物質検出方法。
【請求項2】
排ガス通路の排ガス流量を検出して、粒状物質の増減量を補正する
請求項1記載の内燃機関排ガスの粒状物質検出方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の内燃機関排ガスの粒状物質検出方法により、継続的に排ガス中の粒状物質の増減を検出し、
前記粒状物質の増加量が設定値を越えた時に、内燃機関の燃焼空気量の増加と燃料の噴射特性の改善の少なくとも一方を行い、燃焼状態を改善する
内燃機関の燃焼制御方法。
【請求項4】
内燃機関の排ガス通路に配置された酸化触媒コンバータの排ガス入口に配置された入口温度検出器および排ガス出口に配置された出口温度検出器と、前記入口温度検出器と出口温度検出器の温度差の変動により、排ガス中に含まれる粒状物質の増減を検出する粒状物質増減検出部とを有する粒状物質検出部を設け、
前記粒状物質増減検出部の検出値からエンジンの燃焼状態を判断する燃焼状態判断部と、前記燃焼状態判断部の操作信号に基いて粒状物質の増加量が設定値を越えた時に、燃焼空気量の増加と燃料の噴射特性の改善の少なくとも一方を行う運転制御指令部とを有する燃焼制御部を設けた
内燃機関の燃焼制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−268137(P2008−268137A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114911(P2007−114911)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(593196838)日正汽船株式会社 (4)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【出願人】(000147903)株式会社赤阪鉄工所 (6)
【Fターム(参考)】