説明

内燃機関用過給システム

【課題】補助空気を供給する場合に、ターボチャージャーの安定性を向上させる。
【解決手段】内燃機関用過給システムは、排気タービン(11)を備える過給器と、排気タービンに補助空気を供給する蓄圧タンク(21)と、蓄圧タンクより排気タービンへ供給される補助空気の流量を調整する調整手段(25)と、車両が加速を開始した後の所定期間は、所定期間のうちの初期及び後期における流量と比較して、所定期間のうちの中期における流量が少なくなるように調整手段を制御する制御手段(30)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジンに搭載されるターボチャージャー等の内燃用過給システムの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力向上を目的として、エンジンにターボチャージャー(過給器)を搭載する技術が知られている。更に、ターボジャージャーの応答性を改善するために、ターボチャージャーの排気タービンに、排気マニホールドから供給される排気ガスに加えて、蓄圧タンクに貯められた補助空気を供給することで、排気ガス中の未燃焼成分を燃焼させて排気ガス温度を上昇させると共に排気ガスの流量を増加させ、その結果、排気タービンの回転数を増大させる技術が知られている(特許文献1及び2参照)。補助空気は、エンジンの回転数に応じて、蓄圧タンクと排気タービンとを接続する配管に設けられるバルブを開閉することで、必要に応じて排気タービンに供給される(特許文献3及び4参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−276221号公報
【特許文献2】実開昭56−169422号公報
【特許文献3】実開昭58−152522号公報
【特許文献4】実開昭58−144030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、バルブを開いたときの径が相対的に大きい場合には、短時間に大量の補助空気が排気タービンに供給される(つまり、噴き付けられる)ため、急激に排気タービンの回転数が増大し、その結果、排気タービンの回転数が過度に大きくなってしまう。更には、補助空気の消費量が多いため、時間の経過と共に排気タービンの回転数を増大させるエネルギーが減少し、その結果、排気タービンの回転数が低下してしまう。つまり、排気タービンの回転数を安定させる或いは定常回転数まで滑らかに増大させることが困難或いは不可能となり、ターボチャージャーの過渡性能が悪化するという技術的な問題点が生ずる。他方で、バルブを開いたときの径が相対的に小さい場合には、排気タービンの回転数を増大させるエネルギーが小さいため、ターボラグが生じてしまうという技術的な問題点が生ずる。
【0005】
本発明は、例えば上述した従来の問題点に鑑みなされたものであり、例えば補助空気を供給する場合に、ターボチャージャーの安定性を向上させることを可能とならしめる内燃機関用過給システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関用過給システムは、排気タービンを備える過給器と、該排気タービンに補助空気を供給する蓄圧タンクと、前記蓄圧タンクより前記排気タービンへ供給される前記補助空気の流量を調整する調整手段と、車両が加速を開始した後の所定期間は、該所定期間の初期及び後期における流量と比較して、前記所定期間の中期における流量が少なくなるように前記調整手段を制御する制御手段とを備える。
【0007】
本発明の内燃機関用過給システムによれば、内燃機関から排出される排気ガスが排気タービンを回転させ、それに伴って排気タービンに接続されたコンプレッサーが吸入空気を圧縮する。この圧縮された吸入空気が内燃機関に供給されることで、内燃機関の出力を向上させることができる。更に、排気ガスに加えて、蓄圧タンクから補助空気(例えば、圧縮空気)が排気タービンに供給され(言い換えれば、吹き付けられ)ることで、排気タービンの回転を更に助長させることができ、その結果、内燃機関の出力の向上に加えて、出力向上のタイムラグ(つまり、ターボラグ)を改善することができる。
【0008】
本発明では特に、車両が加速を開始した後の所定期間は、所定期間のうちの初期(或いは、加速初期)及び後期(加速後期)における補助空気の流量と比較して、所定期間のうちの中期(或いは、加速中期)における補助空気の流量が少なくなる。つまり、車両が加速を開始した後の所定期間は、初めに第1の所定量の補助空気が蓄圧タンクから排気タービンへ供給され、その後第1の所定量よりも少ない第2の所定量の補助空気が蓄圧タンクから排気タービンへ供給され、その後第2の所定量よりも多い第3の所定量の補助空気が蓄圧タンクから排気タービンへ供給される。或いは、車両が加速を開始した後の所定期間は、初めに最大流量の補助空気が蓄圧タンクから排気タービンへ供給され、その後流量を抑制して補助空気が蓄圧タンクから排気タービンへ供給され、その後再度最大流量の補助空気が蓄圧タンクから排気タービンへ供給される。
【0009】
これにより、初期のおける補助空気の流量が不必要に減少することがなくなるため、車両の加速が開始された直後におけるターボラグを改善することができる。更に、車両の加速が開始されてしばらくした後には、補助空気の流量が減少するため、排気タービンの回転数が過度に増大するおそれは殆ど或いは全くなくなる。更に、補助空気の流量を減少させてからしばらくした後には、再度補助空気の流量が増大されるため、例えば加速後期における排気タービンの回転数の減少を防ぐことができる。このように、車両が加速を開始してからの所定期間を3つの段階に分けて補助空気の流量を制御することで、排気タービンの回転数を滑らかに或いは安定的に増加させることができると共に、排気タービンの回転数を安定させることができる。言い換えれば、つまり、内燃機関用過給システムの安定性を向上させることができる。
【0010】
本発明の内燃機関用過給システムの一の態様は、前記調整手段は、前記排気タービンと前記蓄圧タンクとを接続する配管中に設けられる、開口面積が可変の弁である。
【0011】
この態様によれば、弁の開閉状態及び弁が開いている場合にはその開きの度合いに応じて、蓄圧タンクより排気タービンへ供給される補助空気の流量を、比較的容易に調整することができる。
【0012】
具体的には、例えば、車両が加速を開始した後の所定期間は、所定期間のうちの初期及び後期における弁の開口面積と比較して、所定期間のうちの中期における弁の開口面積が小さくなる。つまり、車両が加速を開始した後の所定期間は、初めに弁の開口面積を第1の大きさに設定された状態で補助空気が蓄圧タンクから排気タービンへ供給され、その後弁の開口面積が第1の大きさよりも小さい第2の大きさに設定された状態で補助空気が蓄圧タンクから排気タービンへ供給され、その後弁の開口面積が第2の大きさよりも大きい第3の大きさに設定された状態で補助空気が蓄圧タンクから排気タービンへ供給される。或いは、車両が加速を開始した後の所定期間は、初めに弁の開口面積が最大に設定された状態で(つまり、弁の開口面積が配管の断面積と同一の状態であって、弁は全開の状態)補助空気が蓄圧タンクから排気タービンへ供給され、その後弁を絞った状態で補助空気が蓄圧タンクから排気タービンへ供給され、その後再度弁の開口面積が最大に設定された状態で補助空気が蓄圧タンクから排気タービンへ供給される。
【0013】
本発明の内燃機関用過給システムの他の態様は、前記制御手段は、少なくとも前記所定期間のうちの中期において前記排気タービンの回転数が所定の回転数以下となる状態を維持するように前記調整手段を制御する。
【0014】
この態様によれば、排気タービンの回転数が過度に増大することを好適に防ぐことができる。
【0015】
より具体的には、所定期間のうちの初期において排気タービンの回転数が所定の回転数を超えるような状態になり得ると判断された場合には、排気タービンの回転数が所定の回転数以下の状態を維持するように補助空気の流量を減少させる。言い換えれば、車両の加速が開始された後、排気タービンの回転数が所定の回転数を超えるような状態になり得ると判断された場合には、それ以後が所定期間のうちの中期となり得る(つまり、それまでが所定期間のうちの初期となり得る)。そして、排気タービンの回転数が所定の回転数を超えるおそれがなくなった場合には、再度補助空気の流量を増加させる。言い換えれば、補助空気の流量を一旦減少させた後、排気タービンの回転数が所定の回転数を超えるおそれがなくなった場合には、それ以後が所定期間のうちの後期となり得る(つまり、それまでが所定期間のうちの中期となり得る)。つまり、本発明における所定期間のうちの初期、中期及び後期という区別は、必ずしも「時間」という単位により直接的に定義されなくとも、例えば排気タービンの回転数に基づいて行ってもよい。
【0016】
もちろん、所定期間の中期のみならず、所定期間のうちの初期及び後期においても、排気タービンの回転数が所定の回転数以下となる状態を維持するように調整手段を制御することが好ましい。
【0017】
上述の如く排気タービンの回転数が所定の回転数以下となる状態を維持するように調整手段が制御される内燃機関用過給システムの態様では、前記所定の回転数は、前記補助空気が供給されない場合における前記排気タービンの定常回転数であるように構成してもよい。
【0018】
このように構成すれば、排気タービンの回転数が定常回転数以下となる状態を維持することができるため、排気タービンの回転数が過度に増大することを好適に防ぐことができる。その結果、内燃機関用過給システムの安定性を向上させることができる。
【0019】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施の形態から更に明らかにされよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0021】
(1)基本構成
初めに、図1を参照して、本発明の内燃機関用過給システムに係る実施形態の基本構成について説明する。ここに、図1は、本実施形態に係る内燃機関用過給システムに係る実施形態の基本構成を概念的に示すブロック図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る内燃機関用過給システムは、例えば、排気タービン11、コンプレッサー12、ローターシャフト13、エアクリーナー14、インタークーラー15、蓄圧タンク21、逆止弁22、補助圧縮エアー配管23、補助圧縮エアー供給装置24、流量調整電磁弁25、エアーアシスト配管26及びECU(Electric Control Unit)30等を含んで構成される。
【0023】
排気タービン11には、エンジン1のシリンダ2から排出される排気ガスがエギゾーストマニホールド3を介して噴き付けられる。この排気ガスにより、排気タービン11が回転する。排気タービン11の回転に伴って、排気タービン11とローターシャフト13を介して接続されるコンプレッサー12も同様に回転する。このとき、エアクリーナー14を介してコンプレッサー12に供給される吸入空気は、コンプレッサー12の回転によって圧縮された後、インタークーラー15を通過してその温度が下げられる。その後、圧縮された吸入空気は、インテークマニホールド4を介してエンジン1のシリンダ2内に供給される。
【0024】
これにより、エンジン1のシリンダ2内に多量の空気を供給することができるため、エンジン1の出力を向上させることができる。
【0025】
更に、本実施形態に係る内燃機関用過給システムでは、排気タービン11には、エンジン1のシリンダ2から排出される排気ガスに加えて、蓄圧タンク21に蓄圧されている補助圧縮エアー(補助圧縮空気)が噴き付けられる。
【0026】
具体的には、補助圧縮エアーは、例えばポンプ等を含む補助圧縮エアー供給装置24の動作により生成される。該生成された補助圧縮エアーは、補助圧縮エアー配管23を介して蓄圧タンク21内に蓄圧される。このとき、蓄圧タンク21内に蓄圧された補助圧縮エアーが補助圧縮エアー供給装置24に逆流しないように、補助圧縮エアー配管23には、補助圧縮エアー供給装置24から蓄圧タンク21の側へのみ補助圧縮エアーが流れることを許容する逆止弁22が設けられる。
【0027】
蓄圧タンク21に蓄圧された補助圧縮エアーは、エアーアシスト配管26を介して排気タービン11に噴き付けられる。このとき、本発明における「調整手段」の一具体例を構成する流量調整電磁弁25は、本発明における「制御手段」の一具体例を構成するECU30の制御の下に、排気タービン11に噴き付けられる(つまり、供給される)補助圧縮エアーの流量を調整する。例えば、流量調整電磁弁25が閉じた状態にある場合には、排気タービン11には、補助圧縮エアーは噴き付けられない。他方、流量調整電磁弁25が開いた状態にある場合には、排気タービン11には、流量調整電磁弁25の開きの度合い(つまり、開口面積)に応じた流量の補助圧縮エアーが噴き付けられる。この蓄圧タンク21から排気タービン11に噴き付けられる補助圧縮エアーの流量の調整動作については、後に詳述する(図2から図5参照)。
【0028】
これにより、排気ガス中の未燃焼成分を燃焼させて排気ガス温度を上昇させると共に排気ガスの流量を増加させ、その結果、排気タービンの回転数を増大させることができる。特に、車両の加速初期等におけるエンジンの低速回転域のように排気ガスの排出量が少ない場合であっても、排気タービン11の回転数を好適に増加させることができ、結果としていわゆるターボラグを改善することができる。
【0029】
(2)動作原理
続いて、図2を参照して、本実施形態に係る内燃機関用過給システムの動作原理(具体的には、蓄圧タンク21から排気タービン11に噴き付けられる補助圧縮エアーの流量の調整動作の原理)について説明する。ここに、図2は、本実施形態に係る内燃機関用過給システムの動作(具体的には、蓄圧タンク21から排気タービン11に噴き付けられる補助圧縮エアーの流量の調整動作の)の流れを概念的に示すフローチャートである。
【0030】
図2に示すように、車両が加速を開始したか否かが判定される(ステップS101)。例えば、エンジン1が1000から1500rpmの間の任意の低回転数で2/5負荷以下の低付加の定常運転にある状態から、アクセルペダルを踏み込むことでエンジン1が全負荷状態になる場合に、車両が加速を開始したと判定されてもよい。或いは、前後加速度をセンサ等により直接的に検出することで、車両が加速を開始したか否かが判定されてもよい。
【0031】
ステップS101における判定の結果、車両が加速を開始していない(具体的には、例えば、車両が停止している、車両が概ね等速で走行している、或いは車両が減速している)と判定された場合には(ステップS101:No)、車両が加速を開始したか否かの判定動作が継続される。
【0032】
他方、ステップS101における判定の結果、車両が加速を開始していると判定された場合には(ステップS101:Yes)、まず、ECU30の制御の下に、流量調整電磁弁25の開口面積がエアーアシスト配管26の管路面積と同一或いは概ね同一となるように、流量調整電磁弁25の開口面積が設定される(ステップS102)。言い換えれば、車両が加速を開始した初期(つまり、加速初期)には、ECU30の制御の下に、流量調整電磁弁25の開口面積が最大となるように(つまり、流量調整電磁弁25が全開状態となるように)、流量調整電磁弁25の開口面積が設定される。このため、蓄圧タンク21に蓄圧された補助圧縮エアーは、最大の流量を維持しながら排気タービン11に噴き付けられる。
【0033】
その後、所定時間経過した後、ECU30の制御の下に、流量調整電磁弁25の開口面積がエアーアシスト配管26の管路面積より小さくなるように、流量調整電磁弁25の開口面積が設定される(ステップS103)。言い換えれば、加速初期の期間を経過した加速中期には、ECU30の制御の下に、流量調整電磁弁25の開口面積が狭められるように、流量調整電磁弁25の開口面積が設定される。
【0034】
具体的に、流量調整電磁弁25の開口面積について、図3を参照しながら説明する。ここに、図3は、流量調整電磁弁25及びエアーアシスト配管26の断面を示す断面図である。
【0035】
図3(a)に示すように、流量調整電磁弁25の開口面積が最大の場合には、開口面積は、エアーアシスト配管26の管路面積と同一或いは概ね同一となる。
【0036】
他方、図3(b)に示すように、流量調整電磁弁25の開口面積が狭められた場合には、エアーアシスト配管26の管路の一部が流量調整電磁弁によりふさがれる。このため、このため、蓄圧タンク21に蓄圧された補助圧縮エアーは、最大の流量よりも小さい流量を維持しながら排気タービン11に噴き付けられる。つまり、加速初期と比較して、加速中期における補助圧縮エアーの流量は減少させられる。
【0037】
その後、更に所定時間経過した後、ECU30の制御の下に、流量調整電磁弁25の開口面積がエアーアシスト配管26の管路面積と同一或いは概ね同一となるように、流量調整電磁弁25の開口面積が設定される(ステップS104)。言い換えれば、加速初期及び加速中期の期間を経過した加速後期には、ECU30の制御の下に、流量調整電磁弁25の開口面積が最大となるように、流量調整電磁弁25の開口面積が設定される。このため、蓄圧タンク21に蓄圧された補助圧縮エアーは、最大の流量を維持しながら排気タービン11に噴き付けられる。つまり、加速中期と比較して、加速後期における補助圧縮エアーの流量は増加させられる。
【0038】
尚、加速初期、加速中期及び加速後期のタイミングや、加速中期における流量調整電磁弁25の開口面積等は、車両の特性やエンジン1の特性や内燃機関用過給システムの特性等に応じて、車両毎に個々に、テーブル等により規定されていることが好ましい。或いは、車両の特性やエンジン1の特性や内燃機関用過給システムの特性に応じて、ECU30の制御の下に、その都度最適な値が算出されてもよい。この場合、加速初期、加速中期及び加速後期のタイミングや加速中期における流量調整電磁弁25の開口面積等と、車両の特性やエンジン1の特性や内燃機関用過給システムの特性との相関関係を、例えば実験的に、経験的、数学的若しくは理論的に、又はシミュレーション等を用いて算出してもよい。このテーブルや算出された値に基づいて、ECU30は、流量調整電磁弁25の駆動信号値を設定し、駆動信号を流量調整電磁弁25に供給する。
【0039】
また、流量調整電磁弁25の開口面積をエアーアシスト配管26の管路面積よりも小さくすることで、補助圧縮エアーの流量を減少させる場合には、排気タービン11の回転数(更には、過給圧)が、オーバーシュートしない程度に、流量調整電磁弁25の開口面積を小さくすることが好ましい。言い換えれば、例えば、エンジン1が1000rpmから1500rpmの間の任意の低回転数で且つ2/5負荷以下の低負荷の定常運転状態から、アクセルペダルを強く踏み込むことでエンジン全負荷状態となる加速運転において、排気タービン11の回転数が、補助圧縮エアーを排気タービン11に噴きつけない場合における排気タービン11の定常回転数(つまり、定常ターボ回転数)を超えない程度に、流量調整電磁弁25の開口面積を小さくすることが好ましい。
【0040】
例えば、車両が加速を開始してから、排気タービン11の回転数が定常回転数を超えるような状態になり得ると判断された場合には、排気タービン11の回転数が定常回転数以下の状態を維持するように補助圧縮エアーの流量を減少させる。言い換えれば、車両の加速が開始された後、排気タービン11の回転数が定常回転数を超えるような状態になり得ると判断された場合には、それ以後が加速中期であると判定されてもよい(つまり、それまでが加速初期であると判定されてもよい)。そして、排気タービン11の回転数が定常回転数を超えるおそれがなくなった場合には、再度補助圧縮エアーの流量を増加させる。言い換えれば、補助圧縮エアーの流量を一旦減少させた後、排気タービン11の回転数が定常回転数を超えるおそれがなくなった場合には、それ以後が加速後期であると判定されてもよい(つまり、それまでが加速中期と判定されてもよい)。つまり、本発明における所定期間のうちの初期、中期及び後期という区別は、必ずしも「時間」という単位により直接的に定義されなくとも、例えば排気タービン11の回転数等に基づいて行ってもよい。
【0041】
ここで、実際の排気タービン11の回転数及び補助圧縮エアーの流量について、図4及び図5を参照しながら説明する。ここに、図4は、本実施形態に係る内燃機関用過給システムによる排気タービン11の回転数及び補助圧縮エアーの流量の時間変化を概念的に示すグラフであり、図5は、比較例に係る内燃機関用過給システム(つまり、上述の如く加速初期、加速中期及び加速後期に分けて、補助圧縮エアーの流量を調整しない内燃機関用過給システム)による排気タービン11の回転数及び補助圧縮エアーの流量の時間変化を概念的に示すグラフである。
【0042】
図4の下側に示すように、補助圧縮エアーの流量は、車両が加速を開始してからしばらくの間(つまり、加速初期の間)においては、最大流量の状態が維持されている。その後、加速中期の間においては最大流量よりも少ない流量の状態が維持されており、その後の加速後期においては最大流量の状態が維持されている。
【0043】
この補助圧縮エアーの流量に対応して、図4の上側に示すように、排気タービン11の回転数は、車両の加速が開始されると同時に滑らかに増大していく。より具体的には、排気タービン11の回転数は、排気タービン11の定常回転数以下の状態を維持したまま、滑らかに増大していく。
【0044】
他方で、図5の下側に示すように、比較例に係る内燃機関用過給システムにおいては、補助圧縮エアーの流量が常に一定であるとする。この場合、図5の上側の点線にて示すように、排気タービン11の回転数は、加速中期において、排気タービン11の定常回転数を超えた状態(つまり、オーバーシュート状態)となる。これは、エンジン1ないしは内燃機関用過給システムの安定性という面からは好ましくない。
【0045】
尚、図5の下側のグラフにおいて、加速後期においても補助圧縮エアーの流量は一定となるグラフを示しているが、実際は、加速初期から加速中期にかけて大量の補助圧縮エアーが排気タービン11に噴き付けられるため、蓄圧タンク21に蓄圧されている補助圧縮エアーの量が減少し、その結果、加速後期において補助圧縮エアーの流量が必然的に減少し得る可能性がある。
【0046】
しかしながら、本実施形態においては、まず、車両の加速が開始された直後(つまり、加速初期)のおける補助圧縮エアーの流量が最大流量となる状態を維持することができるため、車両の加速が開始された直後におけるターボラグを改善することができる。更に、車両の加速が開始されてしばらくした後(つまり、加速中期)には、補助圧縮エアーの流量を減少させるため、排気タービン11の回転数が過度に増大するおそれは殆ど或いは全くなくなる。更に、補助圧縮エアーの流量を減少させてからしばらくした後(つまり、加速後期)には、再度補助圧縮エアーの流量が増大されるため、例えば加速後期における排気タービン11の回転数を増大させることができる。特に加速中期において補助圧縮エアーの流量を一旦減少させているため、加速後期において、蓄圧タンク21に蓄圧されている補助圧縮エアーの量が減少する可能性を好適に防ぐことができる。このように、車両が加速を開始してからの所定期間を、加速初期、加速中期及び加速後期の3つの段階に分け、且つ加速中期における補助圧縮エアーの流量を、加速初期及び加速後期における補助圧縮エアーの流量よりも減少させることで、排気タービン11の回転数を滑らかに或いは安定的に増加させることができると共に、排気タービン11の回転数を安定させることができる。更には、蓄圧タンク21に蓄圧された補助圧縮エアーを効率的に且つ有効に使用することができる。これにより、つまり、内燃機関用過給システムの安定性を向上させることができる。
【0047】
尚、図5の上側のグラフにおいては、参考までに、補助圧縮エアーの供給がない場合の、排気タービン11の回転数を、一点鎖線により示している。
【0048】
尚、上述の実施形態では、流量調整電磁弁25を「調整手段」の一具体例として説明と進めたが、必ずしも電磁弁である必要はなく、補助圧縮エアーの流量を調整することができる弁であれば、流量調整電磁弁25の代わりに使用することができる。更には、弁でなくとも、エアーアシスト配管を流れる補助圧縮エアーの流量を調整できる構造物であれば、流量調整電磁弁25の代わりに使用することができる。
【0049】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関用過給システムもまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施形態に係る内燃機関用過給システムに係る実施形態の基本構成を概念的に示すブロック図である。
【図2】本実施形態に係る内燃機関用過給システムの動作(具体的には、蓄圧タンクから排気タービンに噴き付けられる補助圧縮エアーの流量の調整動作の)の流れを概念的に示すフローチャートである。
【図3】流量調整電磁弁及びエアーアシスト配管の断面を示す断面図である。
【図4】本実施形態に係る内燃機関用過給システムによる排気タービンの回転数及び補助圧縮エアーの流量の時間変化を概念的に示すグラフである。
【図5】比較例に係る内燃機関用過給システム(つまり、加速初期、加速中期及び加速後期に分けて、補助圧縮エアーの流量を調整しない内燃機関用過給システム)による排気タービンの回転数及び補助圧縮エアーの流量の時間変化を概念的に示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1 エンジン
3 エギゾーストマニホールド
4 インテークマニホールド
11 排気タービン
12 コンプレッサー
13 ロータリーシャフト
14 エアクリーナー
15 インタークーラー
21 蓄圧タンク
22 逆止弁
23 補助圧縮エアー配管
24 補助圧縮エアー供給装置
25 流量調整電磁弁
26 エアーアシスト配管
30 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気タービンを備える過給器と、
該排気タービンに補助空気を供給する蓄圧タンクと、
前記蓄圧タンクより前記排気タービンへ供給される前記補助空気の流量を調整する調整手段と、
車両が加速を開始した後の所定期間は、該所定期間のうちの初期及び後期における流量と比較して、前記所定期間のうちの中期における流量が少なくなるように前記調整手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする内燃機関用過給システム。
【請求項2】
前記調整手段は、前記排気タービンと前記蓄圧タンクとを接続する配管中に設けられる、開口面積が可変な弁であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用過給システム。
【請求項3】
前記制御手段は、少なくとも前記所定期間のうちの中期において前記排気タービンの回転数が所定の回転数以下となる状態を維持するように前記調整手段を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関用過給システム。
【請求項4】
前記所定の回転数は、前記補助空気が供給されない場合における前記排気タービンの定常回転数であることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関用過給システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−332903(P2007−332903A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167220(P2006−167220)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】