説明

内燃機関

【課題】排気浄化装置24内における燃料成分の燃焼によって変化するEGRガスの成分の変化によって燃焼状態が不安定とならない内燃機関10を提供することである。
【解決手段】排気通路16に設けられた排気浄化装置24と、排気浄化装置24下流の排気通路16と吸気通路14とを連通するLPL−EGR装置29と、を有する内燃機関10であって、気筒11内の温度を調整する筒内温度調整手段としてのLPL−EGR弁33と、LPL−EGR弁33を制御する制御手段40と、排気浄化装置24の上流を流れる排気ガス中の成分を推定する第1空燃比センサ35と、排気浄化装置24の下流を流れる排気ガス中の成分を推定する第2空燃比センサ36とをさらに備え、制御手段40は第1空燃比センサ35と第2空燃比センサ36の変化量に基づいてLPL−EGR弁33を制御することを特徴とする内燃機関。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、排気浄化装置下流の排気通路より排気の一部をEGRガスとして吸気通路に還流する排気還流装置が備えられた内燃機関の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気中にはススや未燃燃料を主成分とする微粒子状物質(以下PM)が含まれる。そのため、排出されるPMを捕集するフィルタ(以下DPF)やさらにNOx吸蔵還元触媒を備えるDPNR装置を排気通路に備えた排気浄化装置が知られている。
これらの排気浄化装置は、長時間利用するとその捕集機能が低下するため、定期的に機能を回復させる必要がある。DPFの場合、PM捕集機能を回復させるために、DPFの温度を上昇させることで、捕集されているPMを燃焼除去する再生処理が行われる。このときのDPFの温度を上昇させる手段として、排気中に燃料を供給し、DPFの上流に設けられる酸化触媒等で排気温度を上昇させることが行われる。また、DPNR装置の場合、排気中に燃料を供給し、排気の空燃比をリッチとすることで、吸蔵されたNOxを還元する処理が行われ、NOxの吸蔵機能を再生させることが行われる。
【0003】
また、内燃機関から排出されるNOx量を低減させる技術として、燃焼室より排出される排気の一部をEGRガスとして排気通路から吸気通路に還流し、内燃機関に再度流入させる排気還流装置(EGR装置)が知られている。EGR装置では、EGR通路内にEGRガス流量を調整するためのEGR弁を設け、内燃機関の燃焼室に流入する吸入空気のEGR率が内燃機関の運転状況によって求められる最適な値となるようにEGR弁の開度を制御している。また、EGR装置として、排気浄化装置の下流の排気通路から吸気通路へEGRガスを還流させる装置が提供されている。
【0004】
排気浄化装置と、排気浄化装置の下流の排気通路から吸気通路へEGRガスを還流するEGR装置とを備えた内燃機関では、EGRガスを吸気通路へ還流している間に排気浄化装置の捕集機能回復のために排気中に燃料が供給される(再生処理)と、排気浄化装置内で燃料が燃焼することによって排気ガス中の二酸化炭素濃度及び酸素濃度が変化する。それに伴い、還流されるEGRガス中の二酸化炭素濃度及び酸素濃度も変化する。これによって、排気浄化装置の捕集機能回復のための燃料供給の前後において内燃機関に流入するEGR率が目標とするEGR率からずれ、内燃機関の燃焼状態が不安定となる。
【0005】
この問題に対し、特許文献1では、EGRガス流入後の吸気通路において、酸素濃度に相関のある空気流量を算出し、排気浄化装置の再生処理の前後で吸気通路内の空気流量が変化しないようにEGRバルブ開度を制御する内燃機関の排気システムが開示されている。この内燃機関の排気浄化装置では、EGRガス還流中における排気浄化装置の再生処理の実行時に、排気ガス中に供給される燃料が触媒において燃焼することにより排気浄化装置下流から吸気通路へ還流するEGRガス中の酸素濃度が変化することに対し、内燃機関の燃焼状態の不安定化を防止することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2008−208723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、内燃機関では運転状態の変化に伴い燃焼室より排出される排気ガス中の未燃成分(THCやCO)の量が変化する。例えば、車両の加速時などで、アクセルを急激に踏み込んだときには、内燃機関の出力を上げるために、燃焼室内に吸入される空気量及び噴射される噴射量が増量される。ここで、燃焼室に燃料を噴射するインジェクタは、目標指令値の変化に対し、噴射量を素早く変更することが可能であるが、燃焼室に吸入される空気量は、過給圧の遅れや、スロットル弁の開度の変化に対する燃焼室に吸入される空気の遅れなどから、目標とする吸入空気量に対し、少ない空気量が供給されることがある。これらの応答遅れに起因して、燃焼室から排出される排気ガス中に含まれる未燃成分が増加する場合がある。
【0008】
これらの排気ガス中に排出される未燃成分は、排気通路に設けられた排気浄化装置内において酸化される。このとき、排気ガス中の酸素濃度及び二酸化炭素濃度が変化する。特許文献1に記載の内燃機関の排気システムでは、排気ガス中に燃料を供給する再生処理の前後における吸気通路内の空気流量を算出し、EGR弁開度の補正を行うが、再生処理を行わないEGR制御中の酸素濃度及び二酸化炭素濃度の変化に対応した制御となっていない。そのため、内燃機関の運転状態の変化など再生処理以外の要因による排気ガス中の燃料成分の増加に伴う排気ガス中の酸素濃度および二酸化炭素濃度の変化が起こった場合には、内燃機関の燃焼状態が不安定となる。
【0009】
本件の目的は、排気浄化装置内における燃料成分の燃焼によってEGRガスの成分比が変化しても内燃機関の燃焼状態が不安定とならない内燃機関を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、請求項1に記載の本発明では、排気通路に設けられた酸化触媒を有する排気浄化装置と、排気浄化装置の下流の排気通路と吸気通路とを連通するLPL−EGR通路と、を有する内燃機関であって、燃焼室内の温度を調整する筒内温度調整手段と、筒内温度調整手段を制御する制御手段と、排気浄化装置の上流を流れる排気ガス中の成分比を推定する第1推定手段と、排気浄化装置の下流を流れる排気ガス中の成分比を推定する第2推定手段とをさらに備え、制御手段は第1推定手段と第2推定手段との差分量に基づいて筒内温度調整手段を制御することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、排気浄化装置内を流れる間に排気ガス中の成分比が変化した場合であっても、その成分比の差分に基づいて筒内温度調整手段によって筒内温度を調整することができる。そのため、排気ガス中の成分比の差分量に対応して内燃機関の燃焼が安定するように筒内温度を制御することが可能となる。なお、筒内温度を調整することで、内燃機関の燃焼状態を変化させ、安定した燃焼状態とすることができる。
【0011】
請求項2に記載の本発明では、第1推定手段は排気浄化装置の上流の排気通路に配置される第1空燃比検出手段であり、第2推定手段は排気浄化装置の下流の排気通路に配置される第2空燃比検出手段であり、排気ガス中の成分比は空燃比であることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明では、内燃機関の燃焼に寄与する空燃比を用いて筒内温度調整手段を制御するため、内燃機関の燃焼状態を安定させる精度を高めることができる。
【0012】
請求項3に記載の本発明では、LPL−EGR通路内を流れるEGRガス量を調整するLPL−EGR量調整手段とをさらに備え、筒内温度調整手段はLPL−EGR量調整手段であることを特徴とする。
請求項3に記載の本発明では、制御手段は、LPL−EGR量調整手段によってLPL−EGR量を制御することで排気ガス中の成分比に基づいてLPL−EGRガス量を調整することができる。これによって、燃焼室内へ流入する吸入空気内のEGR率を調整することで筒内温度を調整でき、内燃機関の燃焼状態が不安定となることを防止できる。
【0013】
請求項4に記載の本発明では、内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段とをさらに備え、制御手段は、運転状態検出手段の検出値より目標差分量を算出し、差分量が目標差分量に一致するように筒内温度調整手段を制御することを特徴とする。
請求項4に記載の本発明では、運転状態より目標差分量を算出し、差分量が目標変化量となるように筒内温度調整手段を制御するので、筒内温度調整手段の最良となる制御量が特定でき、内燃機関の燃焼状態を安定させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本願発明は、排気浄化装置内における燃料成分の燃焼によって変化するEGRガスの成分の変化によって内燃機関の燃焼状態が不安定とならない内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る内燃機関の概略図である。
【図2】運転状態に応じてEGRガスの導入モードを決定するマップの一例を示す概念図である。
【図3】本実施形態に係る基本EGR弁開度算出の一例を示すフローチャートである。
【図4】第1の実施形態に係るEGR弁フィードバック制御の一例を示すフローチャートである。
【図5】同じく内燃機関を動作させたときの態様の一例を示すタイムチャートのイメージ図である。
【図6】第2の実施形態に係るEGR弁フィードバック制御の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る内燃機関10を図1ないし図5に基づいて説明する。
図1には第1の実施形態に係る内燃機関10の概念図を示す。なお、図1に示される内燃機関10は4つの気筒を有し、直接燃料が気筒内に噴射される直噴タイプのディーゼルエンジンであるが、本件発明の内容はこの形式の内燃機関に限定されることはない。
【0017】
内燃機関10の各気筒11(燃焼室)には、吸気バルブ(図示しない)、排気バルブ(図示しない)、燃料噴射装置12がそれぞれ設けられている。内燃機関10の各気筒11は吸気マニホールド13を介して吸気通路14に、また、排気マニホールド15を介して排気通路16に連通されている。
【0018】
吸気通路14には、上流からエアクリーナー17、吸気を圧縮するターボチャージャー18のコンプレッサ19、圧縮された吸気を冷却するインタークーラー20、気筒に流入する吸入空気量を調整するスロットル弁21が設けられる。一方、排気通路には、上流から排気中に燃料を添加する燃料添加弁22、排気の圧力によって駆動されるターボチャージャー18のタービン23、排気浄化装置24が設けられる。排気浄化装置は、排気通路の一部をなすケーシング25と、ケーシング内に配置される酸化触媒26、フィルタであるDPF27より構成されている。また、ターボチャージャー18のタービン23入り口には、タービン23へ流入する排気の流速を変化させることが可能である可変ノズルベーン(図示しない)が設けられている。
【0019】
また、図1に示すように、内燃機関10には気筒11より排出された排気通路16内の排気ガスをEGRガスとして吸気通路14へ還流させるEGR装置である、HPL−EGR装置28とLPL−EGR装置29が設けられる。HPL−EGR装置28は、燃料添加弁22の上流である排気マニホールド15とスロットル弁21の下流の吸気通路14とを連通するHPL−EGR通路30と、HPL−EGR通路30に配置されるHPL−EGR弁31とから構成される。LPL−HPL装置29は、排気浄化装置24下流の排気通路16とターボチャージャー18のコンプレッサ19上流の吸気通路14とを連通するLPL−EGR通路32と、LPL−EGR通路32に配置されるLPL−EGR量調整手段としてのLPL−EGR弁33と、LPL−EGR弁33の上流のLPL−EGR通路32に配置されるEGRクーラー34とから構成される。なお、HPL−EGR弁31及びLPL−EGR弁33は各EGR通路内を流れるEGRガスの流量を開度変化によって調整可能とする。
【0020】
また、燃料添加弁22上流の排気通路16には、第1推定手段および第1空燃比検出手段としての第1空燃比センサ35が、また、排気浄化装置24下流には、第2推定手段および第2空燃比検出手段としての第2空燃比センサ36が設置されている。本実施例では、各空燃比センサとしてA/Fセンサが取り付けられており、排気ガス中の成分比である酸素濃度を連続的に検出することができる。さらに、排気浄化装置24下流には、排気温度を検出する排気温度センサ37が取り付けられている。また、内燃機関10には、内燃機関10の回転数を検出する回転数センサ38、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ39が取り付けられている。
【0021】
内燃機関10には、周知の電子制御装置としてのECU40が設けられており、第1空燃比センサ35、第2空燃比センサ36、排気温度センサ37、回転数センサ38、アクセル開度センサ39にて検出された信号が入力される。また、ECU40は入力される各種信号より燃料噴射装置12、スロットル弁21、ターボチャージャー18の可変ノズルベーン、燃料添加弁22、HPL−EGR弁31、LPL−EGR弁33の動作に関する出力値を算出し、それぞれの動作の制御を行う。
【0022】
ECU40は、記憶装置41を備える。記憶装置41には、運転状態に基づいて目標EGR率を求める目標EGRマップと、運転状態に基づいて使用するEGRのモードを求めるEGRモードマップと、運転状態に基づいてHPL−EGR弁31の開度およびLPL−EGR弁33の開度およびスロットル弁21の開度を求める基本EGR弁開度マップと、運転状態に基づいて排気浄化装置前後の空燃比の差分量であるΔA/Fの基準値を求める基準ΔA/Fマップと、運転状態に基づいて排気浄化装置前後の空燃比差の差分量であるΔA/Fの目標値(目標差分量)を求める目標ΔA/Fマップが記憶されている。なお、本実施の形態における運転状態とは、基本的にはエンジン回転数および燃料噴射量とから求まる値であり、場合によっては、周知の他のパラメータにて補正されてもよい。たとえば、エアフロメータにて求まる吸入空気量、吸気温度、冷却水温度に基づく機関温度、大気圧等によって補正することができる。
【0023】
上記マップは2次元の表形式となっており、たとえば目標EGRマップにおいて、エンジン回転数の値および噴射量の値が特定されれば、これらの値に対応する目標EGR率が決定される。なお、燃料噴射量はアクセル開度およびエンジン回転数より求めることができ、この場合、回転数センサ38およびアクセル開度センサ39は運転状態検出手段に該当する。
【0024】
ECU40が行う制御は多岐に渡るがここでは本発明に関する制御を主に説明する。
<排気浄化装置PM再生制御>
排気浄化装置24に配置されるDPF27は、多孔質の基材より構成されており、排気ガス中のPMを捕集する機能がある。しかし、捕集可能な量には限界があり、PMを捕集し続けると、DPF27が目詰まりを生じる。よって、DPF27にPMがある程度堆積されたときには除去する制御を行う必要がある。この処理をPM再生処理と呼ぶ。本実施形態では、PM再生処理を行う場合は、燃料添加弁22より排気中に燃料を添加する。排気ガス中に添加された燃料は、酸化触媒26にて燃焼することで、排気ガスの温度を上昇させる。DPF27に堆積されたPMは、温度上昇された排気ガスによって燃焼除去される。ECU40は、排気浄化装置24の上流側と下流側に配置された図示しない差圧センサによって排気浄化装置24の前後差圧を検知することで、DPF27のPM体積量を推定し、あらかじめ設定された前後差圧となった場合、燃料添加弁22より燃料を添加させる。あらかじめ設定された所定時間燃料添加弁から燃料が噴射されると、ECU40は捕集されたPMが除去されたと判断し、燃料添加を終了する。
【0025】
<基本EGR制御>
ECU40はエンジン回転数や燃料噴射量から算出される運転状態に応じて排気ガスを吸気通路14に流入させる基本EGR制御を実施する。基本EGR制御は、例えば、不活性ガスである排気ガスを吸気通路14に流入させ、気筒内における燃焼温度を抑えることで、排気ガス中のNOxの発生量を低減するために行われる。ECU40は、運転状態に応じて、最適となる目標EGR率を算出し、エンジン回転数、燃料噴射量、スロットル開度、過給圧などに基づいて流入されるEGR量が目標EGR率となるようにHPL−EGR弁31およびLPL−EGR弁33の開度を制御する。なお、EGR率は、各気筒11に流入される吸入ガスに占めるEGRガスの割合として定義される。最適なEGR率は、運転状態に応じて変化する。例えば、吸入空気に対しEGR量が少なすぎるとNOx低減等のEGRの目的を達成することができず、EGR量が多すぎると酸素濃度の減少によってスモークや炭化水素の排出量が増加される。このため、EGR制御においては、EGR率を精度よく制御することが必要である。
【0026】
本実施形態では、排気ガスを吸気通路に還流するための装置としてHPL−EGR装置28とLPL−EGR装置29とが設けられており、基本EGR制御は運転状態に応じてEGRガスを導入する経路を切り替える。基本EGR制御は、図2に示されるように、エンジン回転数と燃料噴射量にて表わされるエンジン負荷に応じて、効率よく実行可能なEGR経路が決定される。比較的低回転、低負荷領域では、HPL−EGR装置28のみが動作される。低回転、低負荷領域では、気筒内の燃焼温度が比較的低く必要となるEGRガス量も少ないため、応答性のよいHPL−EGR装置28が用いられる。本記載では、HPL−EGR装置28のみが動作する状態をHPLモードとする。
【0027】
高回転、高負荷領域では、LPL−EGR装置29のみが動作される。高回転、高負荷領域では、気筒内での燃焼温度が高温となるので、低温のEGRガスが大量に必要となる。LPL−EGR装置29では、排気ガスが全てターボチャージャー18のタービン23を通過するため、吸気ガスの過給圧を上げやすく、過給される前の低圧の吸気通路14に排気ガスが流入するため、大量のEGRガスを流入させることができる。また、EGRクーラー34が備えられているため、低温のEGRガスを流入させることができる。本記載では、LPL−EGR装置29のみが動作する状態をLPLモードとする。
【0028】
それらの中間である中回転、中負荷領域では、HPL−EGR装置28とLPL−EGR装置29の両方が動作される。本記載では、HPL−EGR装置28とLPL−EGR装置29の両方が動作する状態をMPLモードする。
【0029】
ここで、基本EGR制御がHPLモードで動作されている状態では、排気マニホールド15と吸気通路14とが連通されており、排気ガスがEGRガスとして吸気通路14に流入する間に燃料を燃焼させる酸化触媒等が存在しない。そのため、EGRガス中の酸素濃度および二酸化炭素濃度は変化しない。また、上述のようにHPLモードを利用するときは、低回転、低負荷領域であるため、排気ガス中に未燃成分が増加する恐れが少ない。よって、この場合は、通常のHPL−EGR弁開度制御を行うことで燃焼室に流入する吸気のEGR率を目標EGR率とすることができる。
【0030】
一方、EGR制御がLPLモードで動作されている状態では、排気浄化装置24の下流と吸気通路14が連通されており、排気ガスがEGRガスとして吸気通路14に流入する経路内に酸化触媒26が配置されている。そのため、車両の加速時の過給遅れなどが原因で、排気ガス中に未燃成分が増加すると、その未燃成分が酸化触媒26によって酸化(燃焼)される。排気ガス中の未燃成分が酸化触媒26によって酸化されると、排気ガス中の酸素濃度が減少し、二酸化炭素濃度が増加する。これによって、吸気通路14に還流されるEGRガス中の酸素濃度および二酸化炭素濃度が変化するため、通常のLPL−EGR弁開度制御を行うと、気筒11内に流入する吸気ガスのEGR率が目標EGR率と異なり、出力不足、トルク変動等を引きこす場合がある。
また。LPL−EGR装置28を利用するMPLモードで動作される状態でも同様の問題が起こる。
【0031】
そこで、本実施形態では、上記のような問題を回避するようにEGR弁の制御が行われる。
図3は本実施形態の基本EGR弁開度の算出手順の一例を示すフローチャートである。この制御ルーチンのプログラムは所定の演算周期で繰り返し実行される。まずS101において、ECU40は回転数センサ38の出力信号に基づいてエンジン回転数を、回転数センサ38およびアクセル開度センサ39の出力信号に基づいてエンジン負荷としての燃料噴射量を算出する。なお、ECU40はたとえば周知の方法によって燃料噴射量を随時決定しており、単にその値を参照することによってこれを取得することができる。
【0032】
次にECU40は、運転状態に基づいて上述の目標EGRマップを参照することで目標EGR率を取得する(S102)。次にECU40は、運転状態に基づいて上述のEGRモードマップを参照することでEGRモードを決定する(S103)。S104ではECU40は基本EGR弁開度マップに基づきHPL−EGR弁31の開度、LPL−EGR弁33の開度、スロットル弁21の開度を算出し、このフローを終了する。
【0033】
基本EGR弁開度算出手順にて算出されたEGR弁開度は、排気ガス中の酸素濃度がエンジン回転数および燃料噴射量に応じた値であると仮定した場合の開度である。そのため、上述のように排気ガス中の未燃成分の増加などによる酸素濃度の変化に対応した弁開度となっていない。そのため、次に図4に示されるEGR弁開度フィードバック制御を行う。
【0034】
<EGR弁フィードバック制御>
まずECU40は現在のEGRモードがLPLモード又はMPLモードであるか否かを判断する(S201)これは、S102で算出した値を判定する。S201でNoつまりHPLモードで動作されている場合は、排気ガス中に未燃成分が増加しても、排気ガスが吸気通路14に還流する間に酸化触媒26および未燃成分が酸化する要因がないため、EGRガス中の酸素濃度および二酸化炭素濃度が変化することがない。そのため、S211に進み、基本EGR弁開度算出手段にて算出した値でHPL−EGR弁31、LPL−EGR弁33、スロットル弁21を制御し、このフローを終了する。なお、この場合LPL−EGR弁は開度0、つまり閉弁された状態に制御される。
【0035】
一方、S201でYesつまりEGRモードがLPLモードまたはMPLモードの場合は、排気ガス中の未燃成分が酸化触媒26によって酸化され、酸化された排気ガスがEGRガスとして吸気通路4へ還流されることがある。その場合、S202へ進む。S202では、ECU40は第1空燃比センサ35の出力信号に基づいて排気浄化装置24上流の空燃比である第1空燃比を、第2空燃比センサ36の出力信号に基づいて排気浄化装置24下流の空燃比である第2空燃比をそれぞれ取得する。次にECU40は、排気浄化装置24前後の空燃比偏差であるΔA/Fを算出する(S203)。ΔA/Fはたとえば第1空燃比と第2空燃比との差分量によって求められる。
【0036】
次にS204でECU40は、運転状態に基づいて基準ΔA/Fマップより求まる基準ΔA/F値を算出する。その後ECU40は、S203で算出されたΔA/Fの値が、S204で算出された基準ΔA/Fマップより求まる基準ΔA/F値を超えるか否かを判定する(S205)。S205でNoの場合つまりΔA/Fの値が基準ΔA/F値を超えない場合は、酸化触媒26にて酸素が消費されていないと考えられる。そのため、S211に進み、基本EGR弁開度算出手段にて算出した値でHPL−EGR弁31、LPL−EGR弁33、スロットル弁21を制御し、このフローを終了する。
【0037】
S205でYesの場合つまりΔA/Fの値が基準ΔA/F値を超えた場合は、酸化触媒26にて酸素が消費されていると考えられ、次のS206に進む。S206でECU40は運転状態に基づいて目標ΔA/Fマップより求まる目標ΔA/Fの値を算出する。次にS207では、ΔA/Fと目標ΔA/Fが一致するか否かを判断する。S207でNoつまりΔA/Fと目標ΔA/Fが一致しない場合、ECU40はΔA/Fと目標A/Fの差分量に基づきLPL−EGR弁33の弁開度をフィードバック制御する(S208)。
【0038】
その後、S209において、エンジン回転数、燃料噴射量、第1空燃比および第2空燃比を取得し(S209)、ΔA/Fを算出する(S210)。その後、S206に戻り目標ΔA/Fを算出し、S207にてΔA/Fが目標A/Fと一致するまでLPL−EGR弁33のフィードバック制御を繰り返す。S207において、ΔA/Fが目標A/Fと一致した場合は、EGR率が目標EGR率となっている、または近い状態にあるとしてこのフローを終了する。なお、第1の実施形態においては、吸気通路14に還流するEGRガス量を調整することで、気筒11内の燃焼温度を変更させることが可能となる。このため、LPL−EGR弁33が筒内温度調整手段となる。
【0039】
図5は第1の実施形態にて内燃機関10を動作させたときと、従来の制御内容で内燃機関10を動作させたときの各態様を示すタイムチャートのイメージ図の一例である。図5に示されるように、エンジン回転数が定常状態1から急加速などでアクセル開度を急激に開き、高回転な状態となる間の過渡状態では、燃料噴射量の応答速度に対して過給圧は遅れて目標過給圧に達するため、燃焼室から排出される排気ガス中の未燃成分が増加する。未燃成分が増加した状態で排気が排気浄化装置24に流入すると未燃成分が酸化触媒26で酸化されるため、排気浄化装置24前後における空燃比差であるΔA/Fが大きくなる。この状態は、排気浄化装置24下流の酸素濃度が低下していることを表す。この状態でLPL−EGR装置29を利用して排気ガスを吸気通路14へ還流する場合、従来のEGR弁開度制御のようにエンジン回転数および燃料噴射量にてLPL−EGR弁開度を制御すると、還流される排気ガス中の酸素濃度が低いため、燃焼室内に流入する吸気ガスのEGR率が目標EGR率より高くなる。そのため、エンジン回転数が定常状態2となった後もEGR率が目標EGR率とずれることがあり、内燃機関10の燃焼状態が不安定となる。
【0040】
それに対し、第1の実施形態によるEGR弁開度の制御によると、排気ガス中の未燃成分の増加よって排気浄化装置24前後の空燃比差であるΔA/Fが大きくなっても、ΔA/Fが基準ΔA/Fと一致するようにLPL−EGR弁33の開度をフィードバック制御する。そのため、気筒11内に流入する吸気ガスのEGR率が目標EGR率に対しずれる量を抑えることができ、内燃機関10の燃焼状態が不安定となることを防止できる。
【0041】
以上に説明されるように、第1の実施形態の内容によれば、排気浄化装置24下流から吸気通路14へ還流されるLPL−EG装置29路が設けられた内燃機関10であり、急加速時のように排気ガス中に未燃成分が増加した状態でLPL−EGR装置29によって排気還流が行われた場合であっても気筒11内に吸入される吸気ガス内の酸素濃度を一定に保つことができ、内燃機関10の燃焼状態が不安定となることを防止できる。
(第2の実施形態)
【0042】
次に第2の実施形態に係るEGR弁の制御を図6にしたがって説明する。この実施形態では、EGRモードがLPLモード又はMPLモードの場合に、さらに排気浄化装置24の温度に基づいて酸化触媒26における未燃成分の酸化の判断を行うものである。
【0043】
第2の実施形態では、ECU40の記憶装置41には、第1の実施形態に加えて、排気温度センサ37の出力値に基づいて排気浄化装置24の温度を求める触媒温度マップと、運転状態に基づいて排気浄化装置24の基準温度(基準触媒温度)を求める基準触媒温度マップとを備える。なお、排気浄化装置24の基準温度とは、エンジン回転数と噴射量とから求まる運転状態において、排気ガス中に未燃成分がある一定量存在する場合に排気浄化装置24が達する温度である。また、各温度マップは機関温度、冷却水温度、オイル温度、大気温度、大気圧などによって補正してもよい。
【0044】
図6は、第2の実施形態に係るECU40のEGR弁開度フィードバック制御の流れを示すフローチャートである。なお、基本EGR弁開度制御に関するフローは第1の実施形態と同様のため省略する。また、S301〜S305はそれぞれ実施の形態1のS201〜S205に対応する。S305でYesつまりΔA/Fの値が基準ΔA/F値を超えた場合は、排気浄化装置24の酸化触媒26にて酸素が消費される可能性があるとして次のS306に進む。ECU40は触媒温度マップより求まる排気浄化装置24の温度の算出(S306)と、基準触媒温度マップより求まる基準触媒温度を算出する(S307)。
【0045】
次にECU40はS308でS306で求めた排気浄化装置24の温度がS307で求めた基準触媒温度を超えるか否かを判定する。酸化触媒26で排気ガス中の未燃成分が酸化される状態では、酸素濃度が変化するとともに排気浄化装置24の温度が上昇する。よって、S308でNoの場合つまり排気浄化装置24の温度が基準触媒温度を超えない場合は、空燃比センサの誤検出などでΔA/Fがずれている可能性がある。そのため、S314に進み、基本EGR弁開度算出手段にて算出した値でHPL−EGR弁31、LPL−EGR弁33、スロットル弁21を制御し、このフローを終了する。なお、EGRモードがLPLモードの場合、HPL−EGR弁の開度は0、つまり閉弁された状態に制御される。
【0046】
一方S308でYesの場合つまり排気浄化装置24の温度が基準触媒温度を超える場合は、排気浄化装置24にて酸素が消費されていると判断できる。そのため、第1の実施形態のS206〜S209に対応するS309〜S312に沿ってLPL−EGR弁33の開度をフィードバック制御する。
【0047】
第2の実施形態によれば、排気浄化装置24前後の酸素濃度に変化があり、かつ排気浄化装置24の温度が上昇した場合にLPL−EGR弁33の開度をフィードバック制御する。通常、排気浄化装置24内で未燃成分が燃焼される状態では、排気浄化装置前後の空燃比が変化することに加え、排気浄化装置の温度も上昇する。よって、未燃成分の燃焼を検出する条件に排気浄化装置の温度を加えることで、排気浄化装置24における未燃成分の酸化をより精度よく検出することができる。
【0048】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○気筒11内の燃焼温度を調整するための筒内温度調整手段として、ECU40を用いてLPL−EGR弁33の開度を調整したが、筒内調整手段はこれに限らない。例えば、燃焼室内に燃料を供給する燃料噴射の噴射時期を進角および遅角する、メイン噴射前に燃料を噴射するパイロット噴射量を増減させるなど、燃焼噴射タイミング、燃料噴射量を調整することで筒内温度を調整してもよいし、スロットル弁21を開閉することでEGR率を目標EGR率に近づけ筒内温度を調整してもよいし、可変ノズルベーンの開度を調整し過給圧を増減することで筒内温度を調整してもよい。この場合、ECU40によって制御される燃料噴射装置12、スロットル弁21、ターボチャージャー18のノズルベーンのいずれかが筒内温度調整手段となる。

○排気ガス中の未燃成分の酸化の有無を排気浄化装置24の温度を利用して判断したが、これに限らず、酸化触媒26の温度やDPF27の温度を用いて未燃成分の酸化の有無の判断を行ってもよい。
○基準触媒温度の算出をエンジン回転数および噴射量よりもとまる可変の値としたが、常に一定となる固定値により定めてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10…内燃機関、 14…吸気通路、 16…排気通路、 24…排気浄化装置、 26…酸化触媒、 29…LPL−EGR装置、 32…LPL−EGR通路、 33…LPL−EGR弁(筒内温度調整手段)、 35…第1空燃比センサ(第1推定手段、第1空燃比検出手段)、 36…第2空燃比センサ(第2推定手段、第2空燃比検出手段)、 38…回転数センサ(運手状態検出手段)、 39…アクセル開度センサ(運転状態検出手段)、 40…ECU(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に設けられた酸化触媒を有する排気浄化装置と、
前記排気浄化装置の下流の排気通路と吸気通路とを連通するLPL−EGR通路と
を有する内燃機関であって、
燃焼室内の温度を調整する筒内温度調整手段と、
前記筒内温度調整手段を制御する制御手段と、
前記排気浄化装置の上流を流れる排気ガス中の成分比を推定する第1推定手段と、
前記排気浄化装置の下流を流れる排気ガス中の成分比を推定する第2推定手段と
をさらに備え、
前記制御手段は、前記第1推定手段と前記第2推定手段との差分量に基づいて前記筒内温度調整手段を制御することを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記第1推定手段は前記排気浄化装置の上流の排気通路に設置される第1空燃比検出手段であり、
前記第2推定手段は前記排気浄化装置の下流の排気通路に設置される第2空燃比検出手段であり、
前記排気ガス中の成分比は空燃比であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記LPL−EGR通路内を流れるEGRガス量を調整するLPL−EGR量調整手段と
をさらに備え、
前記筒内温度調整手段は前記LPL−EGR量調整手段であることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関。
【請求項4】
内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と
をさらに備え、
前記制御手段は、
前記運転状態検出手段の検出値より目標差分量を算出し、前記差分量が前記目標差分量に一致するように前記筒内温度調整手段を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−122435(P2012−122435A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275488(P2010−275488)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】