説明

冗長PLL回路

【課題】本線系と冗長系との間に生じる出力位相の偏差を抑圧し、出力切替時に出力位相の変化を抑える。
【解決手段】基準クロックによるリファレンス信号から1/n(nは任意の自然数)倍の第1の周波数信号を生成する1/n分周器11と、それぞれVCXO121,131の出力信号から1/m(mは任意の自然数)倍の第2の周波数信号を生成して1/n分周器11で生成される第1の周波数信号と位相比較し、その位相比較結果に基づいてVCXO121,131の出力周波数を制御するPLL回路部11,12と、PLL回路部11,12の出力を選択的に導出する出力選択スイッチ14とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振出力周波数を基準クロックによるリファレンス信号のn/m(n,mは任意の数)倍の周波数でロックするPLL(Phase Locked Loop:位相同期ループ)回路に係り、特に冗長構成とするものに関する。
【背景技術】
【0002】
通信機器等の電子機器にあっては、発振出力周波数を基準クロックによるリファレンス信号のn/m倍の周波数にロックするPLL回路がよく用いられる。このようなPLL回路では、リファレンス信号を1/n分周器で1/n倍し、発振器出力信号を1/m分周器で1/m倍して両者が同期するように発振器を制御する。
【0003】
ところで、上記のような電子機器では、運用断を回避すべく、PLL回路の冗長構成がとられる(例えば特許文献1参照)が、上記PLL回路を2個用いて冗長構成とした場合、出力位相がリファレンス周波数を分周する1/n分周器の位相と同期するため、それぞれの1/n分周器の性能差から各発振器の出力位相に偏差が生じてしまう。このように冗長構成で出力位相に偏差が生じていると、PLL回路の出力切替時に出力位相が急激に変化してしまい、供給先の回路に多大な悪影響を及ぼしてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−060864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように従来の冗長構成によるPLL回路では、本線系と冗長系との間で出力位相に偏差が生じ、PLL回路の出力切替時に出力位相が急激に変化してしまう。
【0006】
本発明の目的は、上記の問題を解決し、比較的簡易な回路構成で、本線系と冗長系との間に生じる出力位相の偏差を抑圧し、出力切替時に出力位相の変化を抑えることのできる冗長PLL回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明に係る冗長PLL回路は、基準クロックによるリファレンス信号から1/n(nは任意の自然数)倍の第1の周波数信号を生成する分周器と、それぞれ発振器の出力信号から1/m(mは任意の自然数)倍の第2の周波数信号を生成して前記分周器で生成される第1の周波数信号と位相比較し、その位相比較結果に基づいて前記発振器の出力周波数を制御する複数のPLL回路部と、前記複数のPLL回路部の出力を選択的に導出する出力選択部とを具備することを特徴とする。
【0008】
上記構成による冗長PLL回路では、リファレンス信号を1/n倍した上で複数のPLL回路部に与えるようにしているので、個々のPLL回路部の出力位相に偏差が生じなくなる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように構成したことにより、本発明によれば、比較的簡易な回路構成で、本線系と冗長系との間に生じる出力位相の偏差を抑圧し、出力切替時に出力位相の変化を抑えることのできる冗長PLL回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る冗長PLL回路の一実施形態を示すブロック回路図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明に係る冗長構成のPLL回路の一実施形態の具体的な構成を示すブロック図である。図1に示す冗長PLL回路は、リファレンス信号(基準クロックCKref)から1/n倍の周波数信号を生成する1/n分周器11を備える。この1/n分周器11は冗長構成の2つのPLL回路部12,13で共有されるもので、その1/n倍された周波数信号は第1及び第2のPLL回路部12,13に供給される。
【0013】
上記第1のPLL回路部12は、内部の電圧制御水晶発振器(VCXO:Voltage Controlled Xtal Oscillator)121で発生されるPLL出力クロックCKout1の1/m倍クロックを外部から与えられる基準クロックCKrefの1/n倍クロックに同期させるようにした速度変化機能を備えるものである。
【0014】
具体的には、上記1/n分周器11で基準クロックCKrefを1/n倍された信号S1を取り込む。一方、VCXO121で発生される発振クロックCKout1を1/m分周器122で1/m倍し(信号S2)、基準クロックCKrefを1/n倍した信号S1と共に位相比較器123に送る。この位相比較器123では、基準クロックCKrefを1/n分周した信号S1及び出力クロックCKout1を1/m分周した信号S2の位相差δ1 を一定周期で求めるもので、ここで得られた位相差δ1 は信号処理部124に送られる。この信号処理部124は入力位相差δ1 を一定間隔でサンプリングし、デジタル処理により位相差相当の制御電圧値を求めるもので、その出力はD/A(デジタル/アナログ)変換部125でアナログ電圧に変換され、発振周波数の制御電圧としてVCXO121に与えられる。
【0015】
上記第2のPLL回路部13は、内部のVCXO131で発生されるPLL出力クロックCKout2の1/m倍クロックを外部から与えられる基準クロックCKrefの1/n倍クロックに同期させるようにした速度変化機能を備えるものである。
【0016】
具体的には、上記1/n分周器11で基準クロックCKrefを1/n倍された信号S1を取り込む。一方、VCXO131で発生される発振クロックCKout2を1/m分周器132で1/m倍し(信号S2′)、基準クロックCKrefを1/n倍した信号S1と共に位相比較器133に送る。この位相比較器133では、基準クロックCKrefを1/n分周した信号S1及び出力クロックCKout2を1/m分周した信号S2′の位相差δ2 を一定周期で求めるもので、ここで得られた位相差δ2 は信号処理部134に送られる。この信号処理部134は入力位相差δ2 を一定間隔でサンプリングし、デジタル処理により位相差相当の制御電圧値を求めるもので、その出力はD/A(デジタル/アナログ)変換部135でアナログ電圧に変換され、発振周波数の制御電圧としてVCXO131に与えられる。
【0017】
上記第1、第2のPLL回路部12,13のVCXO出力は出力選択スイッチ14により任意のタイミングで選択出力することが可能となっている。
【0018】
上記構成による冗長PLL回路の動作を説明する。
【0019】
まず、従来のPLL回路における冗長構成では、個々のPLL回路部内で個別に基準クロックCKrefの1/n倍信号を生成していたため、各PLL回路部間で1/n分周出力の周期位置がずれてしまい、PLL回路出力を切り替えると、最大でPLL出力周波数の±πラジアンの位相差が発生してしまう。
【0020】
これに対し、図1に示す冗長PLL回路では、1/n分周器11を共有化して冗長構成の外側に配置する。この場合、1/n分周器は回路規模が小さいので、共通要素としても信頼性は維持できる。この構成によれば、第1のPLL回路部12及び第2のPLL回路部13の両方が1/n分周器11の出力にロックするので、1/m分周器122,132の分周位相によらず出力位相が一致する。このため、冗長切替を行っても、切替による位相変動を防止することができる。
【0021】
したがって、上記構成による冗長PLL回路によれば、比較的簡易な回路構成で、本線系と冗長系との間に生じる出力位相の偏差を抑圧し、出力切替時に出力位相の変化を抑えることができる。
【0022】
本発明は、特に、ルビジューム信号源のような高精度なリファレンス信号をn/m倍に速度変換するPLL回路を用いる電子機器では、冗長構成を実現する上で冗長切替による位相変動を抑圧することができるので、利用価値が非常に高い。原理的には、1/n分周器11と各PLL回路部12,13との伝送路長が影響するため、実装位置を考慮するとよい。
【0023】
尚、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0024】
11…1/n分周器、12…第1のPLL回路部、121…電圧制御水晶発振器(VCXO)、122…1/m分周器、123…位相比較器、124…信号処理部、125…D/A変換器、13…第2のPLL回路部、131…電圧制御水晶発振器(VCXO)、132…1/m分周器、133…位相比較器、134…信号処理部、135…D/A変換器、14…出力選択スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準クロックによるリファレンス信号から1/n(nは任意の自然数)倍の第1の周波数信号を生成する分周器と、それぞれ発振器の出力信号から1/m(mは任意の自然数)倍の第2の周波数信号を生成して前記分周器で生成される第1の周波数信号と位相比較し、その位相比較結果に基づいて前記発振器の出力周波数を制御する複数のPLL回路部と、前記複数のPLL回路部の出力を選択的に導出する出力選択部とを具備することを特徴とする冗長PLL回路。

【図1】
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【公開番号】特開2011−109535(P2011−109535A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264227(P2009−264227)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】