説明

冷却器

【課題】簡便且つ安価な構成により、ロウ付け工程等で発生する応力を緩和して、発熱体搭載基板の損傷や冷却器の反りを抑制することが可能な冷却器を提供することである。
【解決手段】HVインバータ用冷却器10は、天板11、底板12、フィン17を主要構成部材とし、天板11は、絶縁基板31が接合される接合表面に形成された凹部18、接合表面の周囲の少なくとも一部に形成された周囲溝19a、接合表面の間隙の一部を残して形成された間隙溝(19b)を有する。また、フィン17には、接合表面の直下に対応する位置に、波形状が繰り返される方向に沿ったスリット20が設けられる。さらに、天板11と底板12との厚さの比が、1:3〜1:10(ノコロックロウ付け)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却器に係り、特に、半導体素子を搭載した絶縁基板がロウ付けにより接合される電動車両用の冷却器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動機を駆動源として搭載したハイブリッド車両や電気自動車等の電動車両が普及してきた。このような電動車両には、電動機の他に、充放電可能なバッテリ、バッテリの直流電力を電動機駆動用の三相交流電力に変換等するインバータなどが搭載されている。インバータは、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等の半導体素子のスイッチング動作によって電力変換を行うものであり、スイッチング動作によって半導体素子が発熱する。したがって、この熱を除去して半導体素子の過熱を防止するために、冷却器が取り付けられる。
【0003】
一般的に、半導体素子は、絶縁基板上に搭載されて、その絶縁基板が冷却器の天部にロウ付けにより接合される。冷却器は、熱伝導性、加工性の観点から、アルミニウムから構成され、絶縁基板は、絶縁性、熱伝導性の観点から、窒化アルミニウム等のセラミックから構成される。アルミニウム製の冷却器とセラミック製の絶縁基板とをロウ付けするときには、両者の熱膨張率(線膨張率)の相違に起因して大きな応力(熱応力)が発生し、絶縁基板のクラックや冷却器の反り等が起こり得る。即ち、絶縁基板の熱歪みは小さいが、冷却器の熱歪みは大きいため、ロウ付け後の冷却過程において、絶縁基板に対して冷却器の収縮しようとする力が作用する。また、冷却器の天部は、絶縁基板が接合されて剛性が高くなっているので、天部よりも底部が収縮し易く、天部には底部の収縮しようとする力が作用する。
【0004】
このような状況に鑑みて、ロウ付け時や使用時において発生する応力を緩和することが求められている。本発明に関連する技術として、セラミックス基板とアルミニウム製冷却器とが、セラミックス基板に相対する側の表面に多数の互いに交差する溝が設けられているアルミニウム板材を介して接合されてなる冷却器付きセラミック基板が特許文献1に開示されている。また、特許文献1には、セラミックスとアルミニウムとの線膨張率差に起因して発生する応力を、アルミニウム板材の溝等の空間部分の変形によって緩和することができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−299798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の技術によれば、応力を幾分低減することができると想定される。しかしながら、セラミックス基板とアルミニウム製冷却器との間に、アルミニウム板材を設ける必要があるため、部品点数が増加することになり、生産性向上の観点から改良の余地がある。また、アルミニウム板材を設けることにより、アルミニウム製冷却器の天部が厚くなり剛性が高くなるため、天部に向かって湾曲するような冷却器の反りが発生し易くなることが想定される。
【0007】
本発明の目的は、簡便且つ安価な構成により、ロウ付け工程等で発生する応力を緩和して、発熱体搭載基板の損傷や冷却器の反りを抑制することが可能な冷却器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る冷却器は、天板、底板、及び天板と底板との間に形成される冷媒流通部から構成され、天板の表面に発熱体を搭載した基板がロウ付けにより接合される冷却器であって、天板は、基板が接合される接合表面に形成された凹部を有することを特徴とする。
【0009】
また、天板は、接合表面の周囲の少なくとも一部に形成された周囲溝を有することが好ましい。
【0010】
また、天板には、複数の基板が所定間隔をあけて接合され、天板は、該所定間隔に対応する接合表面の間隙に、該間隙の一部を残して形成された間隙溝を有することが好ましい。
【0011】
また、冷媒流通部に設置されて冷媒流路を規定する波板形状のフィンであって、波板形状の各頂部が天板及び底板にそれぞれ接合されたフィンを備え、当該フィンには、波形状が繰り返される方向に沿ったスリットが設けられることが好ましい。
【0012】
また、フィンのスリットは、接合表面の直下に対応する位置に設けられることが好ましい。
【0013】
また、天板と底板との厚さの比が、1:3〜1:10であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る冷却器によれば、天板は、基板が接合される接合表面に形成された凹部を有するので、ロウ付け工程等で発生する応力を緩和して、発熱体搭載基板の損傷や冷却器の反りを抑制することが可能になる。即ち、ロウ付け時や使用時に応力が発生したときには、剛性が低くなった凹部が優先的に変形することで冷却器、特に、天板の応力が緩和される。また、天板と基板との間に応力を緩和する部材を別途設置する必要がないため、部品点数を低減できると共に、基板が接合される部分の厚みを薄くして剛性を低くすることができるので、冷却器の反りが抑制し易くなる。
【0015】
また、天板は、接合表面の周囲の少なくとも一部に形成された周囲溝を有する構成とすれば、発熱体の放熱性能を低下させることなく、応力を緩和することができる。
【0016】
また、天板には、複数の基板が所定間隔をあけて接合され、天板は、該所定間隔に対応する接合表面の間隙に、該間隙の一部を残して形成された間隙溝を有する構成とすれば、特に大きな応力が発生する基板の間隙においても、十分に応力を緩和して、発熱体搭載基板の損傷や冷却器の反りを抑制できる。なお、間隙溝は、接合表面の間隙の一部を残して形成されるので、応力が加わったときの変形度合いを調整することができる。
【0017】
また、フィンに、波形状が繰り返される方向に沿ったスリットが設けられる構成とすれば、波形状が繰り返される方向に交差する方向に沿った応力を緩和することができる。即ち、このような応力が発生した場合に、スリットの幅を狭くするような変形が可能であり、この変形により応力が緩和される。
【0018】
また、フィンのスリットが、接合表面の直下に対応する位置に設けられる構成とすれば、波形状が繰り返される方向に交差する方向に沿った応力をさらに緩和し易くなる。
【0019】
また、天板と底板との厚さの比を、1:3〜1:10とすれば、応力の発生を抑制することができ、発熱体搭載基板の損傷や冷却器の反りをさらに抑制し易くなる。即ち、天板の剛性は発熱体搭載基板の接合により高くなるので、底板よりも天板の厚みを薄くすることで、天板と底板の剛性を調整して応力の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る実施の形態におけるハイブリッド車両のインバータ用冷却器を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面を示す図である。
【図3】図1のハイブリッド車両のインバータ用冷却器において、絶縁基板を取り外した状態を示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態におけるハイブリッド車両のインバータ用冷却器のフィンを示す斜視図である。
【図5】本発明に係る実施の形態におけるハイブリッド車両のインバータ用冷却器において、天板と底板との厚さの比を変更したときの応力変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を用いて、本発明に係る冷却器の実施形態につき、詳細に説明する。なお、本実施形態においては、一例として、ハイブリッド車両のインバータ用冷却器10(以下、HVインバータ用冷却器10とする)について説明する。また、冷媒としては、腐食防止性能・凍結防止性能を有するLLC(ロングライフクーラント)を使用することができる。
【0022】
図1〜図3に示すように、HVインバータ用冷却器10は、表面に半導体素子30を搭載した絶縁基板31が接合される天板11と、天板11に対向して設けられる底板12と、冷媒流通部13とから構成される所謂ヒートシンクである。天板11の端部は、曲げ加工されており、その曲げ加工された部分と底板12とがロウ付けにより接合されている。このように天板11と底板12とが接合されて、天板11と底板12との間に密閉された空間である冷媒流通部13が形成される。
【0023】
HVインバータ用冷却器10は、冷媒を冷媒流通部13に導入するための導入パイプ14と、冷媒を導出するための導出パイプ15と、図示しないハイブリッド車両にボルト等を用いて固定するための締結部16とを有する。また、図2に示すように、冷媒流通部13には、冷媒流路を規定するフィン17が設けられる。フィン17は、詳しくは後述するように、波板形状を有し、波板形状の各頂部が天板11及び底板12にそれぞれロウ付けにより接合されている。なお、HVインバータ用冷却器10は、導入パイプ14及び導出パイプ15が延出する方向に沿って長くなった矩形形状を有している。
【0024】
また、HVインバータ用冷却器10は、熱伝導性に優れた金属材料から構成される必要がある。金属材料としては、一般的に、熱伝導性に加えて、加工性にも優れ、軽量であるアルミニウムが使用される。特に、天板11は、発熱体を搭載した絶縁基板31が接合される部材であり、底板12も、発熱体であるDC/DCコンバータやリアクトル等の電子機器に接する部材であるため、熱伝導性等に優れたアルミニウムから構成されることが好ましい。フィン17についても、冷媒との接触面積を増加させて放熱性能を向上させる機能を有する部材であるから、天板11及び底板12と同様に、熱伝導性等に優れたアルミニウムから構成されることが好ましい。
【0025】
上記のように、天板11、底板12、フィン17等は、ロウ付けにより接合されるので、天板11等は、低融点のアルミニウム合金(Al−Si系合金、Al−Si−Mg系合金)からなるロウ材層を有する。具体的に、ロウ材層は、10〜200μm程度の厚みを有し、フィン17がロウ付けされる天板11の下面、底板12の上面に設けられる。さらに、天板11の少なくとも絶縁基板31が接合される部位である接合表面(図3に、2つの隣接する接合表面を網目で示している)にもロウ材層が設けられる。絶縁基板31の下面にロウ材層を設けることもできるが、後述の凹部18にロウ材が流れ込むおそれがあるので、接合表面に設けられることが好ましい。
【0026】
図1に示すように、天板11の表面には、発熱体である半導体素子30が搭載された絶縁基板31がロウ付けにより接合されている。半導体素子30としては、通常、電動機駆動用素子、発電機駆動用素子、昇圧機能用素子に別けて、複数の絶縁基板31上に搭載される。そして、各絶縁基板31には、例えば、IGBT(図1の大きい方)、ダイオード(図1の小さい方)が1個ないし2個ずつ搭載されている。
【0027】
絶縁基板31は、厚み方向に対する絶縁性及び熱伝導性を有する基板であって、例えば、セラミック基板の両面にアルミニウム層が形成された3層構造の基板が使用される。セラミック基板を構成するセラミックとしては、例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウムが好ましく、窒化アルミニウムが特に好ましい。ここで、アルミニウム層は、例えば、半導体素子30、天板11との接合性を向上させる機能を有する。半導体素子30は、絶縁基板31とHVインバータ用冷却器10とのロウ付け工程後にはんだ付けされるが、アルミニウム層によりはんだ付け性が良好なものとなる。また、もう1つのアルミニウム層は、天板11とのロウ付け性を良好にする。
【0028】
図1に示すように、半導体素子30が搭載された複数の絶縁基板31(8個の絶縁基板31)は、天板11の長手方向に沿って、2列に並んで接合されている(合計16個の絶縁基板31)。また、各絶縁基板31は、応力がかかったときに絶縁基板31同士が当たって損傷しないように、所定間隔をあけて接合されている。なお、所定間隔としては、応力による損傷防止を考慮することに加えて、放熱性能、絶縁性能、搭載スペース等も考慮して決定されることが好ましい。
【0029】
HVインバータ用冷却器10の各構成部材、及び絶縁基板31のロウ付け工程は、1つの炉の中で同時に行われる。ロウ付け工程において炉内温度は、約600℃である。応力は、絶縁基板31のセラミックとHVインバータ用冷却器10のアルミニウムとの線膨張率の相違に起因して発生する。上記のように、加熱後の冷却過程において、絶縁基板31に対して天板11・底板12等が収縮しようとする力が作用し、絶縁基板31に損傷を与えるおそれがある。また、天板11は、絶縁基板31が接合されて剛性が高くなっているので、天板11よりも底板12が収縮し易いため、反りが発生するおそれもある。
【0030】
HVインバータ用冷却器10は、ロウ付け工程(或いは使用時)において発生する上記のような応力を緩和する機能を有する。この機能を発現するための重要な構成要素として、図2、図3に示すように、天板11は、絶縁基板31の接合表面に形成された凹部18を有する。さらに、天板11は、接合表面の周囲の少なくとも一部に形成された周囲溝19a、接合表面の間隙に形成された間隙溝19bを有する。
【0031】
凹部18は、局所的に剛性を低くして(ヤング率を低くして)、応力を緩和する機能を有する。即ち、凹部18が形成された部位は、周囲よりも天板11の厚みが薄く、周囲よりも剛性が低くなっている。故に、天板11等に応力が発生したときには、凹部18が形成された部位が優先的に変形して、その応力を緩和する。また、接合表面に凹部18を形成したことにより、絶縁基板31と天板11(接合表面)との接触面積が小さくなるので、天板11等に発生する応力が絶縁基板31に伝わり難くなって、絶縁基板31のクラックを抑制する効果もある。
【0032】
また、凹部18は、図3に示すように、複数形成される。凹部18が形成される部分は、幾分放熱性能が低下することになるので、局部的な放熱性能低下の抑制、応力緩和の均一化等の観点から、個々の直径が小さな凹部18を複数形成することが好ましいといえる。一方、半導体素子30が集まって発熱量が多くなる絶縁基板31の中央部分に対応する部位には、凹部18の数を減らす、又は凹部18を形成しないことが好ましい。したがって、凹部18は、放熱性能及び応力緩和性能を両立する観点から、規則的な配列、例えば、図3に示すように等間隔で、接合表面の中央を除く部位に形成される。
【0033】
凹部18のサイズとしては、上記のように、個々の直径は小さいことが好ましく、接合表面における凹部18の開口率(凹部18の総面積/接合表面の総面積)は、5%〜30%であることが好ましく、10%〜25%であることが特に好ましい。開口率がこの範囲であれば、放熱性能及び応力緩和性能を両立し易くなる。また、凹部18の深さは、詳しくは後述するように、凹部18の底部における天板11の厚さとして、真空ロウ付けの場合0.8mm程度、ノコロックロウ付けの場合0.4mm程度であることが好ましい。なお、凹部18の周囲の天板11の厚みは、凹部18が形成される部位よりも当然に厚く、且つ1.3mm以下(真空ロウ付け)であることが好ましい。
【0034】
また、凹部18の穴形状としては、三角形柱や四角形柱等の多角形柱形状とすることもできるが、図3に示すように、円柱形状であることが好ましい。円柱形状の凹部18とすれば、応力が作用したときに、角部にその応力が集中することがないので、凹部18の全体で応力を吸収することができ、応力緩和性能が向上する。なお、断面形状(接合表面に水平な断面)が円形状である円錐形状とすることもできる。
【0035】
周囲溝19aは、凹部18と同様に、周囲よりも天板11の厚みを薄くすることで剛性を低くして、応力を緩和する機能を有する。天板11に発生する応力は、絶縁基板31の接合表面だけでなく、その周囲でも大きな応力が発生する。例えば、ロウ付け後の冷却過程において、アルミニウム製の天板11が収縮しようとする応力が絶縁基板31に作用する。周囲溝19aは、このような応力を吸収することができる所謂ダンパとして機能する。なお、周囲溝19aは、上記のように、接合表面の周囲に形成されるため、放熱性能に与える影響が少ないという利点を有する。
【0036】
周囲溝19aは、絶縁基板31に対して周囲から加わる応力を緩和するものであるため、接合表面の周囲の広範囲に亘って形成されることが好ましい。図1に示すように、絶縁基板31は、天板11の長手方向に沿って2列に並んで接合されており、周囲溝19aは、各列の全周囲に亘って形成されている。絶縁基板31は、所定間隔をあけて接合されるので、各接合表面の全周囲に亘って周囲溝19aを形成することもできるが、接合表面の間隙には、該間隙の一部を残して形成される間隙溝19bを設けることが好ましい。
【0037】
間隙溝19bは、接合表面の間隙の一部を残して形成される溝であり、天板11の長手方向に沿った応力を吸収する機能を有する。天板11の長手方向には、複数の絶縁基板31が並んで接合されて、特に剛性が高くなっているので、高い応力緩和性能が要求される。一方、各絶縁基板31の所定間隔は、放熱性能、絶縁性能、搭載スペース等も考慮して決定されるので、応力を吸収して変形し過ぎると好ましくない場合がある。そこで、応力の吸収による変形度合いを調整するために、接合表面の間隙の一部(以下、接続部と称する)を残し、周囲溝19aと独立した間隙溝19bが設けられる。なお、接続部は、複数箇所とすることもできるが、両端に1箇所ずつであることが好ましい。
【0038】
周囲溝19a、間隙溝19bのサイズとしては、深さについて、凹部18と同様に、溝底部における天板11の厚さとして、真空ロウ付けの場合0.8mm程度、ノコロックロウ付けの場合0.4mm程度であることが好ましい。周囲溝19a、間隙溝19bのサイズ、特に、深さを調整することで、応力の吸収度合いを調整することができる。また、周囲溝19aの幅としては、応力の吸収できるだけの幅があれば、ある程度任意に設定することができる。間隙溝19bの幅としては、接合表面の間隙の幅が小さいので、当該間隙の幅と同程度に設定することが好ましい。なお、間隙溝19bについては、接続部の数、幅、位置を変更することによっても、応力の吸収度合いを調整することができる。
【0039】
その他の応力緩和構造として、フィン17には、図2、図4に示すように、波形状が繰り返される方向に沿ったスリット20が設けられる。ここで、図4は、HVインバータ用冷却器10に設置されるフィン17のみを示す斜視図である。フィン17により規定される冷媒流路は、フィン17の板面に沿って、即ち波形状が繰り返される方向と直交する方向に形成されるので、スリット20は、冷媒流路と直交する方向に沿って形成されることになる。
【0040】
スリット20は、例えば、1枚のフィン17を、波形状が繰り返される方向に沿って切断加工することにより形成できる。図2に示すように、フィン17を完全に切断せず、スリット20両側のフィン17同士を接続する部分を残したスリット20を形成することができる。このような構成とすれば、部品点数が増加しないので、生産性向上の観点から好ましい。
【0041】
一方、図4に示すように、フィン17を切断、分割するスリット20を形成することもできる。この場合には、冷却性能向上の観点から、冷媒流路が直線状からずれるように、即ち冷媒流路の方向に沿ってフィン17を見たときに、隣接するフィン17の山部(天板11と接合する部分)と谷部(底板12と接合する部分)、及び谷部と山部がそれぞれ重なるように設置することが好ましい。このように、隣接するフィン17の波形状を半ピッチ分ずらして設置すると、フィン17の端面に冷媒が衝突して乱流が発生するので(冷媒の界面剥離効果)、冷却性能が向上することになる。
【0042】
また、スリット20は、冷却性能を向上させるだけでなく、波形状が繰り返される方向と交差する方向に沿った応力を緩和する機能を有する。即ち、このような応力が発生した場合には、スリット20の幅を狭くするような変形が可能になって応力が緩和される。上記のように、天板11には、セラミック製の絶縁基板31が接合されるため、その剛性が高くなっており、絶縁基板31を頂点とするように反り易い。このような反りが発生したときには、スリット20の下方(底板12側)の幅が狭くなるようにフィン17が変形して、反りの影響を天板11まで伝達しないように機能する。故に、フィン17の下方における変形を容易にすべく、フィン17同士を接続する部分を残したスリット20を採用する場合には、当該接続部分は、中央〜上方、或いは天板11に近接する位置にあることが好ましい。
【0043】
また、スリット20が設けられる位置としては、図2に示すように、絶縁基板31の接合表面の直下に対応する位置であることが好ましい。上記のような反りは、絶縁基板31の直下において起こり易いため、この位置にスリット20を設けることで、反りを抑制し易くなるからである。冷却性の観点からも、発熱体の直下にスリット20を設けて乱流を発生させることが好ましい。
【0044】
スリット20の幅としては、0.9〜1.5mm程度であることが好ましい。スリット20の幅が、この範囲内であれば、冷媒中に存在することが想定される異物によりスリット20が目詰まりすることなく、応力緩和性能、冷却性能についても良好なものとなる。スリット20の数としては、絶縁基板31のサイズ等によっても異なるが、絶縁基板31の直下に対応する位置において、1〜5個が好ましく、2個〜4個が特に好ましい。なお、スリット20を多数設けた方が、応力緩和の観点からは好ましい。しかし、スリット20が多くなりすぎると、流路抵抗が大きくなるため、スリット20の数は、応力緩和性能と流路抵抗とを考慮して決定される。故に、絶縁基板31の直下に当たらない位置においては、スリット20の数を減らす、或いはスリット20を形成しないことが好ましい。
【0045】
その他の応力緩和構造として、天板11と底板12との厚さの比が、1:3〜1:10(本明細書では、前の数字が天板11、後ろの数字が底板12を示す)に設定される。即ち、セラミック製の絶縁基板31が接合されて剛性が高くなる天板11の厚みを、少なくとも底板12の1/3まで薄くして剛性を低下させ、天板11と底板12の剛性を調整している。厚さの比が、この範囲内であれば、応力の発生を抑制することができ、絶縁基板31のクラックや天板11、底板12の反りの発生を抑制し易くなる。
【0046】
具体的に、天板11は、耐久性の観点(万一、冷媒流通部13を流通する冷媒により腐食が進んだ場合を考慮)から、少なくとも0.8mmの厚みが必要である。故に、凹部18、周囲溝19a、間隙溝19bの底部における天板11の厚みが少なくとも0.8mmであることが要求される。凹部18、周囲溝19a、間隙溝19bを除く部位の厚みは、凹部18等が形成される部位よりも厚く、且つ1.3mm以下であることが好ましい。
【0047】
なお、天板11、底板12、及びフィン17が、真空ロウ付けにより接合される場合には、少なくとも0.8mmの厚みが必要になるが、ノコロックロウ付けにより接合される場合には、フッ素系化合物等の非腐食性フラックスにより天板11がコーティングされて冷媒に対する耐久性が向上するので、天板11の厚みを0.8mmより薄くすることができる。具体的には、天板11の厚みを0.4mmまで薄くすることができ、応力緩和性能、放熱性能等の観点から好ましい。
【0048】
一方、底板12は、厚くなる方が、即ち、天板11と底板12との厚さの比が大きくなる方が、後述の図5に示すように、絶縁基板31に加わる応力が低減されるため好ましい。しかし、底板12には、発熱体である電気部品が接触するため、放熱性能を考慮すると、4.0mmよりも厚くすることは難しく、また、軽量性や材料コスト等の観点からも、4.0mm以下であることが好ましい。
【0049】
ここで、図5を用いて、応力緩和の観点から最適な天板11と底板12との厚みの比について説明する。図5は、HVインバータ用冷却器10において、天板11と底板12との厚さの比を変更したときの応力変化を示す図である。同図に示すデータは、「CFD(Computational Fluid Dynamics)」を用いて、次のような条件で算出したシミュレーションデータである。
<シミュレーション条件>
・HVインバータ用冷却器10の構成材料:アルミニウム(JIS3003)
・絶縁基板31の構成材料;窒化アルミニウム
・底板12の厚み:4.0mm(点線の比較例は、2.8mm)
・凹部18、周囲溝19a、間隙溝19b、スリット20無し
【0050】
図5は、横軸に温度(℃)、縦軸に応力(MPa)をとる。ここで、応力は、天板11に接合される絶縁基板31の上面にかかる応力である。図5の実線は、本発明に係るHVインバータ用冷却器10の実施例を示し、破線は、比較例を示す。実施例の黒丸、黒四角、黒三角は、それぞれ、1:3.3(1.2mm)、1:5(0.8mm)、1:10(0.4mm)を示し、比較例の点線、1点鎖線は、それぞれ、1:1.2(2.4mm(底板2.8mm))、1:2.5(1.6mm)を示す(括弧内は天板11の厚み)。
【0051】
図5に示すように、破線で示す比較例のHVインバータ用冷却器では、天板と底板の厚さ比に関わらず、互いに近似した応力を示している。130℃よりも低温の領域では、絶縁基板31に加わる応力は小さいが、130℃よりも高温の領域、特に、170〜180℃のときに大きな応力が発生する。なお、絶縁基板31のクラックを抑制するためには、最大応力を小さくすることが重要であるが、厚さ比が1:1.2、1:2.5の場合には、最大応力が約140MPa(170〜180℃)であり、絶縁基板31に大きな応力が作用する。
【0052】
一方、実線で示すHVインバータ用冷却器10では、図5から明らかなように、最大応力が大幅に低減している。具体的には、厚さ比が1:3.3、1:5の場合で、125〜130MPa(200℃)、1:10の場合には、約120MPaまで最大応力が低減している。上記のように、絶縁基板31のクラックを抑制するためには、最大応力を小さくすることが重要であるから、天板11を薄く、底板12を厚く設定することは、絶縁基板31のクラックの抑制に極めて効果的である。なお、図5では、厚さ比が1:2.5(1.6mm)と、1:3.3の場合を示しているが、さらに詳細な検討を行った結果、厚さ比が1:3を境に、最大応力が大きく変化することが解った。したがって、応力緩和性能を向上させるためには、天板11の厚みは底板12の1/3以下であって、真空ロウ付けの場合は、厚さ比が1:3〜1:5、ノコロックロウ付けの場合は、1:3〜1:10に設定される必要がある。
【0053】
実施例のシミュレーション結果によれば、いずれも150℃より低温の領域において、殆ど同じ応力が発生している。150℃より高温の領域では、応力に差が現れ、1:3.3、1:5の場合には、150℃を境に応力が大きくなり、1:10の場合には、逆に応力が小さくなっている。このように、天板11と底板12との厚さ比を変更すると、応力が急激に変化するポイントが存在することが解る。なお、図示しないが、厚さ比が1:5〜1:10の場合には、ちょうど間の値をとり、1:10よりも底板12が厚くなると、暫くは応力が低減する傾向を示す。
【0054】
なお、図5に示すシミュレーション結果は、凹部18、周囲溝19a、間隙溝19b、スリット20を設けない条件で算出したものであるから、これらを設けることにより、さらに、絶縁基板31にかかる応力(最大応力)は低減される。
【0055】
ここで、上記構成を備えるHVインバータ用冷却器10の作用、特に応力緩和作用について、総括して説明する。上記のように、HVインバータ用冷却器10、これに接合される絶縁基板31に作用する応力は、特に、各部材をロウ付けするときに、各部材の線膨張率の相違に起因して発生する。例えば、ロウ付け後の冷却過程において、絶縁基板31に対して天板11等が収縮しようとする力が作用する。また、天板11よりも底板12が収縮し易いので、絶縁基板31を頂点とするような反りが発生するおそれがある。
【0056】
上記の天板11等が収縮しようとする力は、絶縁基板31との接合部分(接合表面)に大きく作用する。接合部分に作用する応力は、凹部18の空間が変形することにより吸収・緩和される。また、このような応力は、絶縁基板31に対して周囲から作用するので、周囲から作用する応力は、周囲溝19a、間隙溝19bにより吸収・緩和される。なお、接合表面の間隙には、大きな応力が作用すると共に、放熱性能等の観点から絶縁基板19の所定間隔を維持することも重要である。接合表面の間隙における吸収変形量の調整を容易にするのが、接合部を有する間隙溝19bである。例えば、間隙溝19bの両端に残した接合部のつっぱり効果により、変形量を抑制して、適切な吸収変形を実現する。
【0057】
絶縁基板31を頂点とするような反りは、天板11と底板12との厚さ比を、1:3〜1:10(ノコロックロウ付け)に設定することで抑制できる。即ち、このような反りは、天板11よりも底板12の剛性(ヤング率)が低いことに起因して発生するものであるから、これを抑制するためには、底板12よりも天板11の厚みを薄くして、天板11の剛性を低くすることが重要である。また、絶縁基板31の損傷を抑制する等の観点から、底板12の収縮力が天板11に伝わらないようにすることも重要であり、これは、フィン17のスリット20により実現することができる。即ち、スリット20の下方(底板12側)の幅が狭くなるようにフィン17が変形することで、反りの影響を天板11まで伝達しないようにする。なお、フィン17は、波形状が繰り返される方向については、スリット20がなくても変形し易い。
【0058】
以上のように、HVインバータ用冷却器10は、天板11、底板12、フィン17を主要構成部材とし、天板11は、絶縁基板31が接合される接合表面に形成された凹部18、接合表面の周囲の少なくとも一部に形成された周囲溝19a、接合表面の間隙の一部を残して形成された間隙溝19bを有する。また、フィン17には、接合表面の直下に対応する位置に、波形状が繰り返される方向に沿ったスリット20が設けられる。さらに、天板11と底板12との厚さの比が、1:3〜1:10(ノコロックロウ付け)である。したがって、ロウ付け工程等で発生する応力を緩和して、絶縁基板31の損傷や天板11、底板12の反りを抑制することが可能になる。
【0059】
なお、上記では、応力緩和構造として、凹部18を形成した天板11の表面構造、周囲溝19a・間隙溝19bを形成した天板11の表面構造、フィン17にスリット20を形成した構造、天板11と底板12との厚さの比を1:3〜1:10(ノコロックロウ付け)とした構造を挙げ、各構造が結合した形態について説明したが、各構造を独立して採用した場合にも、ロウ付け工程等で発生する応力を緩和することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
HVインバータ用冷却器、11 天板、12 底板、13 冷媒流通部、14 導入用パイプ、15 導出用パイプ、16 締結部、17 フィン、18 凹部、19a 周囲溝、19b 間隙溝、20 スリット、30 半導体素子、31 絶縁基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板、底板、及び天板と底板との間に形成される冷媒流通部から構成され、天板の表面に発熱体を搭載した基板がロウ付けにより接合される冷却器であって、
天板は、基板が接合される接合表面に形成された凹部を有することを特徴とする冷却器。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却器において、
天板は、接合表面の周囲の少なくとも一部に形成された周囲溝を有することを特徴とする冷却器。
【請求項3】
請求項1に記載の冷却器において、
天板には、複数の基板が所定間隔をあけて接合され、
天板は、該所定間隔に対応する接合表面の間隙に、該間隙の一部を残して形成された間隙溝を有することを特徴とする冷却器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の冷却器において、
冷媒流通部に設置されて冷媒流路を規定する波板形状のフィンであって、波板形状の各頂部が天板及び底板にそれぞれ接合されたフィンを備え、
当該フィンには、波形状が繰り返される方向に沿ったスリットが設けられることを特徴とする冷却器。
【請求項5】
請求項4に記載の冷却器において、
フィンのスリットは、接合表面の直下に対応する位置に設けられることを特徴とする冷却器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1に記載の冷却器において、
天板と底板との厚さの比が、1:3〜1:10であることを特徴とする冷却器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−251443(P2010−251443A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97750(P2009−97750)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】