説明

冷却装置

【課題】オイルポンプから吐出されたオイルを冷却液で冷却するにあたり、冷却液の温度が過剰に低下することを抑制できる冷却装置を提供する。
【解決手段】オイルが溜められる第1オイル貯溜部3と、第1オイル貯溜部3のオイルを吸入・吐出するオイルポンプ2と、オイルポンプ2から吐出されたオイルの熱を冷却液に伝達してオイルを冷却するオイルクーラ19とを有する冷却装置において、オイルポンプ2の吐出オイルをオイルクーラに導く経路に、オイルポンプ2の吐出オイルが通る第1油路12と、第1油路12のオイルが噴射孔15を通過して高圧で噴射される第2油路16と、第2油路16に接続され、かつ、第2油路16との圧力差により第1オイル貯溜部3から第2油路に吸入されるオイルが通過する副油路13とを有するジェットポンプ11が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オイルポンプから吐出されたオイルをオイルクーラにより冷却する冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オイルポンプから吐出されたオイルをオイル必要部に供給した後、オイルクーラにより冷却してからタンクに戻す冷却装置が知られており、その一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1においては、オイル冷却装置が自動車用空調装置に用いられている。この特許文献1に記載された自動車用空調装置は、走行用エンジンの動力により油圧ポンプが駆動されるように構成されている。また、油圧ポンプの吸い込み側油路はリザーバタンクに連通され、吐出側油路は流量制御弁を介して油圧モータの上流側に接続されている。この油圧モータは空調装置のファンを駆動するものであり、油圧モータの下流側油路はオイルクーラを通じてリザーバタンクに連通されている。特許文献1に記載された冷却装置においては、上記の油圧モータ、流量制御弁、オイルクーラ、リザーバタンク、油圧ポンプを結ぶ油路により、作動油が循環する油圧回路が構成されている。
【0003】
そして、特許文献1に記載されたオイル冷却装置においては、走行用エンジンの動力で油圧ポンプが運転されると、リザーバタンクから油圧ポンプが吸い上げた作動油が、流量制御弁を介して油圧モータに送られ、油圧モータはファンを駆動する。この油圧モータを通過した作動油はオイルクーラにより冷却された後、リザーバタンクに戻される。さらに、特許文献1には、流量制御弁の開度を制御すると、油圧モータへ送られる作動油の量が制御されて油圧モータの回転数が変化するので、空調装置の空調性能を制御することができると記載されている。なお、オイルポンプから吐出されたオイルをオイル必要部に供給する油圧回路は特許文献2、3にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−118276号公報
【特許文献2】特開平11−5238号公報
【特許文献3】特開平8−219267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載された自動車用空調装置において、エンジンの冷却水をオイルクーラの冷却液として用いて、オイルを冷却することも可能であるが、油圧回路を通る作動油の温度が冷却水よりも低温になると、冷却水の熱がオイルクーラでオイルに奪われてしまう問題があった。
【0006】
この発明は、オイルポンプから吐出されたオイルを冷却液で冷却できるとともに、オイルの温度の方が冷却液の温度よりも低温であるときに、冷却液の熱がオイルに伝達されることを抑制できる冷却装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために請求項1の発明は、オイルが溜められる第1オイル貯溜部と、この第1オイル貯溜部に溜められたオイルを吸入して吐出するオイルポンプと、このオイルポンプから吐出されたオイルの熱を冷却液に伝達することにより、そのオイルを冷却するオイルクーラとを有する冷却装置において、前記オイルポンプから吐出されたオイルを前記オイルクーラに導く経路に、前記オイルポンプから吐出されたオイルが通る第1油路と、この第1油路のオイルが噴射孔を通過して噴射される第2油路と、この第2油路に接続され、かつ、前記第2油路との圧力差により前記第1オイル貯溜部から前記第2油路に吸入されるオイルが通過する副油路とを有するジェットポンプが設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記オイルクーラにより冷却されたオイルが供給されて潤滑または冷却される被潤滑部が設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成に加えて、前記冷却液が、車両の駆動輪に伝達するトルクを発生する動力源を冷却する冷却水であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項2または3の構成に加えて、前記被潤滑部の熱を奪った後のオイルが溜まる第2オイル貯溜部と、前記第1オイル貯溜部の油温が予め定められた所定温度以下である場合は、前記第2オイル貯溜部と前記副油路とを接続する一方、前記第1オイル貯溜部の油温が予め定められた所定温度を超えている場合は、前記第1オイル貯溜部と前記副油路とを接続する切替弁とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、副油路を通るオイルは、相対的に低温であるほど相対的に粘度が高くなり、第1オイル貯溜部から副油路を経由して第2油路に供給される油量が増加することを抑制できる。したがって、ジェットポンプを経由してオイルクーラに供給されるオイルの総吐出量の増加を抑制でき、冷却液の温度よりも油温が低いときに、オイルクーラで冷却液からオイルに伝達される熱量の増加を抑制できる。
【0012】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、オイルクーラにより冷却されたオイルが被潤滑部に供給される。
【0013】
請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られる他に、冷却液の温度低下を抑制でき、動力源の暖機を促進することができる。
【0014】
請求項4の発明によれば、請求項2または3の発明と同様の効果を得られる他に、被潤滑部を潤滑して温度が上昇したオイルが第2オイル貯溜部に保持されており、第1オイル貯溜部の油温が予め定められた所定温度以下である場合は、その第2オイル貯溜部のオイルが、ジェットポンプを経由して再度被潤滑部に供給される。したがって、被潤滑部に供給されるオイルの油温の上昇を促進できる。これに対して、第1オイル貯溜部の油温が予め定められた所定温度を超えている場合は、第2オイル貯溜部よりも油温の低い第1オイル貯溜部のオイルが、ジェットポンプを経由して被潤滑部に供給され、第2オイル貯溜部のオイルは被潤滑部に供給されない。したがって、第2オイル貯溜部の油温が更に上昇することが抑制され、オイルの劣化を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の冷却装置の具体例を示す模式図である。
【図2】この発明の冷却装置のジェットポンプを示す部分的な断面図である。
【図3】図2に示されたジェットポンプの拡大断面図である。
【図4】この発明の冷却装置の他の具体例を示す模式図である。
【図5】この発明の冷却装置のさらに他の具体例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明において、オイル貯溜部はケーシングまたはハウジングなどの内部に設けられ、かつ、オイルを保持あるいは溜める部位(機構)であり、窪みまたは収容室などを有している。また、オイル貯溜部は、ケーシングまたはハウジングの一部によりオイル貯溜部が形成されていてもよいし、ケーシングまたはハウジングの内部に、タンクまたはトレイを設けてオイル貯溜部を形成してもよい。この発明における被潤滑部には、オイルが供給されて潤滑または冷却される部品または機構が含まれる。この被潤滑部は、動力伝達あるいは動力の発生にともない、部品または機構の焼き付き、発熱、摩耗などが発生する部位であり、これらを抑制するためにオイルが供給される。この被潤滑部には、変速機、歯車伝動装置、軸受、摩擦係合装置、電動機などが含まれる。つぎに、この発明の具体例を図面に基づいて説明する。またこの発明における油路はオイルが通る経路であり、この油路には、切欠部、貫通孔、ポート、バルブの流路などが含まれる。
【0017】
(第1具体例)
被潤滑部にオイルを供給する冷却装置の第1具体例を、図1に基づいて説明する。この第1具体例では、冷却装置1を車両に用いており、冷却装置1はオイルポンプ2を有する。このオイルポンプ2はオイルパン3に溜められたオイルを吸入して吐出する油圧源である。また、オイルポンプ2は、動力源4の動力により駆動されるように構成されている。この動力源4は、エンジンまたは電動モータ(図示せず)のいずれか一方でもよいし、両方でもよい。ここでは動力源4としてエンジンが用いられている場合について説明し、以下、動力源4を便宜上「エンジン4」と記す。オイルパン3は、ケーシング30の内部、または外部に設けられている。前記ケーシング30の内部には、エンジン4から駆動輪に至る動力伝達経路の一部を構成する機構、例えば、変速機、回転軸、歯車機構、回転軸を支持する軸受などが設けられている。上記変速機には、無段変速機および有段変速機が含まれる。また、無段変速機にはベルト型無段変速機およびトロイダル型無段変速機が含まれる。さらに、オイルポンプ2は回転式または往復動式のいずれでもよく、この第1具体例ではエンジン4の動力によりオイルポンプ2が駆動されるように構成されている。
【0018】
このオイルポンプ2は吸入口5および吐出口6を有しており、その吸入口5とオイルパン3とが油路7により接続されている。吐出口6には油路8を介在させて油圧制御回路9が接続されている。この油圧制御回路9は、変速機の変速比およびトルク容量を制御するための油圧室(図示せず)に供給されるオイルの流量、油圧などを制御する機構であり、油圧制御回路9は流量制御弁(図示せず)、圧力制御弁(図示せず)、切替弁(図示せず)などを有している。この油圧制御回路9には油路10を介在させてジェットポンプ11が接続されている。
【0019】
このジェットポンプ11は、図2および図3に示すように、1本の供給油路12および2本の吸入油路13を有しており、前記油路10は供給油路12に接続されている。また、2本の吸入油路13は油路14を介してオイルパン3に接続されている。そして、供給油路12は噴射孔15を経由して、狭窄部であるスロート16に連通されているとともに、前記吸入油路13もスロート16に連通されている。つまり、供給油路12および吸入油路13はスロート16で合流している。このスロート16は中心線に直交する平面内の断面形状が円形に構成された通路であり、そのスロート16の内径は中心線A1に沿った方向で同一に設定されている。
【0020】
さらに、スロート16にはデフューザ17が接続されている。このデフューザ17は、スロート16から離れるにしたがい内径が大きくなるようなテーパが付与された通路である。さらに、デフューザ17の出口18はオイルクーラ19の入口20に接続されている。そして、ジェットポンプ11は中心線A1に沿った方向にオイルが流れて吐出される。このオイルクーラ19は、ジェットポンプ11のデフューザ17から吐出されたオイルを冷却する機構である。このオイルクーラ19は、オイルと冷却水との間で熱交換をおこなわせる熱交換器であり、オイルが通る通路21と、エンジン4を冷却する冷却水が通る通路22とを有している。この通路21,22は熱伝導性に優れた金属材料の配管により形成することができる。また、金属材料により形成されたブロックに孔を2本設けて、通路21,22を形成してもよい。オイルクーラ19の入口20は通路21の一端に形成されている。なお、通路22は、エンジン4により駆動されるウォーターポンプ(図示せず)、エンジンブロック(図示せず)に形成されたウォータージャケット(図示せず)等と共に、冷却水の循環経路を構成している。
【0021】
一方、通路21の他端がオイルクーラ19の出口23となっており、その出口23には油路24を介在させて被潤滑部25が接続されている。この被潤滑部25には、無段変速機、歯車列、歯車列が形成された回転軸を支持する軸受などが含まれる。前記変速機がベルト型無段変速機であれば、ベルトとプーリとの接触部分がオイルにより潤滑および冷却される。変速機が、遊星歯車機構および摩擦係合装置により構成されている場合は、各ギヤ同士の噛み合い部分、摩擦係合装置などがオイルにより潤滑および冷却される。また、被潤滑部25が電動機であると、その電動機がオイルにより冷却される。
【0022】
上記のように構成されたオイルクーラ19を車両に搭載する一例を、図2および図3に基づいて説明する。図2に示すように、ケーシングの下部にアッパーバルブボディ27が取り付けられており、そのアッパーバルブボディ27の下方にはプレート28を介在させてロアバルブボディ29が取り付けられている。アッパーバルブボディ27およびロアバルブボディ29は、油圧制御回路9の油路を構成し、かつ、各バルブが取り付けられるブロック体であり、アッパーバルブボディ27およびロアバルブボディ29に形成された穴によりジェットポンプ11が構成されている。つまり、ジェットポンプ11は、アッパーバルブボディ27およびロアバルブボディ29と一体化されている。
【0023】
さらに、被潤滑部25に供給されたオイルは、ケーシングの壁面(内面)を伝わり自重でオイルパン3に戻されるように、壁面の形状が構成されている。このように、第1具体例においては、オイルポンプ2から吐出されたオイルがオイルパン3に戻るまでのオイルの供給経路に、オイルクーラ19および被潤滑部25が直列に配置されている、なお、前記油圧制御回路9のバルブ、エンジン出力、無段変速機の変速比およびトルクなどを制御する電子制御装置26が設けられている。この電子制御装置26には、車速、アクセル開度、エンジン回転数、冷却水温度などの信号が入力される。
【0024】
つぎに、冷却装置1の作用を説明する。エンジン4の動力によりオイルポンプ2が駆動されると、オイルパン3のオイルがオイルポンプ2により吸入され、かつ、油路8に吐出される。油路8に吐出された圧油は、油圧制御回路9に供給される。この油圧制御回路9に供給されたオイルの一部は油路10からジェットポンプ11の供給油路12に供給される。ここで、噴射孔15の内径は、供給油路12の内径よりも小さく構成されており、圧油が噴射孔15を通過する過程で流速が上昇し、圧油が高圧でスロート16に噴射される。
【0025】
すると、狭窄部であるスロート16に圧油を噴射すると、ベンチュリー効果によりスロート16が負圧となり、オイルパン3のオイルが油路14および吸入油路13を経由してスロート16に吸引される。このようにして、スロート16で合流された圧油が、デフューザ17および出口18を経由して噴射され、オイルクーラ19の通路21に供給される。ここで、通路21を流れるオイルの温度の方が、通路22を通る冷却水の温度を超えている場合は、オイルの熱が冷却水に伝達されて、オイルが冷却される。このようにして、オイルクーラ19で冷却されたオイルが、油路24を経由して被潤滑部25に供給されると、被潤滑部25がオイルにより潤滑および冷却される。さらに、被潤滑部25の熱が伝達されて温度が上昇したオイルは、オイルパン3に戻される。一方、エンジン4が運転されてその温度が上昇すると、通路22を流れる冷却水によりエンジン4が冷却される。
【0026】
ところで、車両が高速で走行する場合のように、歯車、ベルトの回転数が相対的に高まる状況、あるいは、高負荷走行時(坂道を登坂する場合)のように、伝達トルクが増加して、摩擦材の発熱が促進されるような状況においては、被潤滑部25における必要潤滑油量Qlubが相対的に多くなり、かつ、オイルクーラ19における必要冷却油量Qcool も相対的に多くなる。また、被潤滑部25に供給されたオイルの温度の上昇が促進される。
【0027】
この第1具体例において、オイルポンプ2から吐出され、かつ、油圧制御回路9を経由してジェットポンプ11に供給されるオイルの流量、つまり、供給油量Q1は、オイルポンプ2の吐出圧が一定であれば、オイルパン3におけるオイルの温度に関わらず略一定量である。これに対して、オイルポンプ2から、油路14および吸入油路13を経由してジェットポンプ11に供給される吸入油量Q2は、オイルの温度により変化する。これを具体的に説明すると、吸入油路13を経由してスロート16に吸入されるオイルは、スロート16の油圧とオイルパン3の油圧との差により吸入される。ここで、油温が相対的に高くなるほどオイルの粘度が相対的に低くなり、負圧によるオイルの撹拌が促進されて、吸入流量Q2が相対的に多くなる。
【0028】
このように、高速走行時、または高負荷走行時のように、オイルパン3のオイルの温度が相対的に高くなるほど、ジェットポンプ11を経由してオイルクーラ19に供給される総吐出量(供給油量Q1と吸入流量Q2との合計)は、温度が相対的に高いほど多くなる。したがって、被潤滑部25における冷却性能および潤滑性能を向上させることができる。
【0029】
一方、エンジン4を始動した直後などにおいては、車両が走行していないか、または車両が走行しても走行距離が短く、被潤滑部25の発熱量が少ないため、被潤滑部25に供給されたオイルがオイルパン3に戻されても、オイルパン3の油温は相対的に低い。このようにオイルパン3のオイルの温度が相対的に低い場合は、オイルの粘度が相対的に高い傾向にあり、吸入流量Q2が相対的に減少し、総吐出量が相対的に減少する。このため、オイルパン3の油温が冷却水の温度よりも低温であるときに、オイルクーラ19において、冷却水の熱がオイルに伝達されることを抑制でき、エンジン4の暖機性を向上することができる。
【0030】
したがって、エンジン4を制御するために、フューエルカット制御または連続可変バルブタイミング制御(VVT制御)などを早期から実施することが可能となる。このフューエルカット制御は、車両の走行中に、車両の運動エネルギをエンジン4に伝達して回転させるとともに、エンジン4への燃料の供給を停止して空転させる制御である。これに対して、連続可変バルブタイミング制御は、エンジン4の吸気・排気バルブの開閉タイミングを連続的に変更する制御である。また、第1具体例において、ジェットポンプ11は、オイルの温度が相対的に高くなるほど総吐出量が相対的に多くなる機能を有しているため、オイルの温度変化に応じてオイルの流量を制御する切り替え制御弁、あるいは流量制御弁などを設けずに済み、低コストで供給オイルの流量を変更できる。
【0031】
さらに、第1具体例においては、オイルクーラ19における必要冷却油量Qcool または、被潤滑部25における必要潤滑油量Qlubのうち、いずれか多い方の油量よりも、総吐出量の方が常に多くなるように、ジェットポンプ11の諸元を決定することもできる。ここで、必要冷却油量Qcool は被潤滑部25で発生する熱量から求めることができる。この熱量は回転要素の回転数、歯車の回転数、無段変速機におけるベルトの回転数、無段変速機の変速比、伝達トルクなどから求めることができる。より具体的に説明すると、無段変速機の負荷が最大の時、オイルの劣化が開始される温度に到達しないようにオイルクーラ19でオイルを冷却するにあたり、そのオイルクーラ19を通過させるべきオイルの流量である。
【0032】
これに対して、必要潤滑油量Qlubとは、無段変速機の負荷が最大の時に焼き付きなどを発生させないために必要な潤滑油の流量である。そして、オイルクーラ19における必要冷却油量Qcool または、被潤滑部25における必要潤滑油量Qlubのうち、いずれが多くなるかを、実験またはシミュレーションによって確認し、ジェットポンプ11の諸元を決定(設計)すればよい。ジェットポンプ11の諸元には、スロート16の中心線方向の長さ、スロート16の内径、噴射孔15の内径などが含まれる。これらの諸元の長さまたは内径を相対的に大きくするほど、ジェットポンプ11の総吐出量が相対的に多くなる。
【0033】
(第2具体例)
つぎに、冷却装置1の第2具体例を図4に基づいて説明する。この図4において、図1と同じ構成部分については図1と同じ符号を付してある。この第2具体例においては、ジェットポンプ11の出口18に油路31が接続されており、その油路31が2方向に分岐されてオイルクーラ19および被潤滑部25に接続されている。つまり、オイルポンプ2から吐出されたオイルの供給経路において、オイルクーラ19と被潤滑部25とが並列に配置されている。この第2具体例においては、オイルクーラ19の出口23はオイルパン3に接続されている。また、被潤滑部25に供給されたオイルは、ケーシング30の壁面を伝わってオイルパン3に戻されるように構成されている。
【0034】
この第2具体例においては、ジェットポンプ11から油路31に供給されたオイルの一部が、被潤滑部25に供給されて被潤滑部25を潤滑および冷却する。また、ジェットポンプ11から油路31に供給されたオイルの一部が、オイルクーラ19に供給されてそのオイルが冷却されてオイルパン3に戻る。この他、第2具体例において第1具体例と同様の構成部分については、第1具体例と同様の作用効果を得られる。また、第2具体例においては、総吐出量が、必要冷却油量Qcool および必要潤滑油量Qlubの合計よりも常に多くなるように、ジェットポンプ11の諸元を設計することもできる。ここで、ジェットポンプ11の諸元は、第1具体例におけるジェットポンプ11の諸元と同じ意味である。
【0035】
(第3具体例)
つぎに、冷却装置1の第3具体例を図5に基づいて説明する。この図5において、図1と同じ構成部分については図1と同じ符号を付してある。この第3具体例においては、ケーシング30の内部において、ジェットポンプ11よりも上方(高い位置)に被潤滑部25が配置されている。このため、ジェットポンプ11から噴射されたオイルは、その噴射圧により重力に抗してオイルクーラ19を経由して被潤滑部25に供給される。また、第3具体例においては、ケーシング30の内部において、被潤滑部25よりも下方であり、かつ、ジェットポンプ11よりも上方に油溜め32が設けられている。また、油溜め32はオイルパン3よりも上方に配置されている。この油溜め32は、被潤滑部25を潤滑および冷却した後のオイルが空中を飛散して重力により落下した際、または被潤滑部25を潤滑および冷却した後のオイルが、ケーシング30の壁面を伝わって下方に移動した際に、それらのオイルをケーシング30の内部で一旦保持するキャッチタンクである。
【0036】
さらに、第3具体例においては、オイルパン3または油溜め32からオイルをジェットポンプ11の吸入油路13に供給することができるように、切替弁33が設けられている。この切替弁33は、2つの入力ポート34,35と、出力ポート36と、図示しないスプールとを有している。この入力ポート34と油溜め32とを接続する油路37が設けられ、入力ポート35とオイルパン3とを接続する油路38が設けられている。また、出力ポート36と吸入油路13とを接続する油路39が設けられている。
【0037】
さらに、この切替弁33のスプールを動作させるアクチュエータ40が設けられている。このアクチュエータ40により切替弁33のスプールが動作されて、入力ポート34または入力ポート35のいずれか一方が出力ポート36に接続される。このアクチュエータ40は、オイルパン3の油温変化に応じて切替弁33のスプールが動作するように構成されている。このアクチュエータ40としては、例えば、熱膨張率が異なる2枚の金属板を貼り合わせて構成したバイメタルを用いることができる。このバイメタルは、オイルパン3の油温変化に基づいて、形状もしくは長さが変化して、切替弁33のスプールが動作する。なお、アクチュエータ40は、オイルパン3の油温変化に基づいて、切替弁33のスプールを動作させる機構であればよく、アクチュエータ40として、形状記憶合金、または形状記憶樹脂を用いることも可能である。
【0038】
さらに、アクチュエータ40の構成と、切替弁33のスプールの動作との関係を具体的に説明する。まず、オイルパン3の油温が、予め定められた所定温度以下(低温)である場合は、アクチュエータ40の機能により切替弁33が動作して、入力ポート34と出力ポート36とが接続され、かつ、入力ポート35が遮断されるように、アクチュエータ40が構成されている。一方、オイルパン3の油温が、予め定められた所定温度を超えた(高温)場合は、アクチュエータ40の機能により切替弁33が動作して、入力ポート35と出力ポート36とが接続され、かつ、入力ポート34が遮断されるように、アクチュエータ40が構成されている。なお、図5の構成において、図1と同じ構成部分については、図1と同じ符号を付してある。ここで、「予め定められた所定温度」は、油溜め32の油温がこれ以上高まると、オイルが劣化する可能性が生じることを、オイルパン3の油温から間接的に求めた値である。
【0039】
この第3具体例において、第1具体例と同じ構成部分については第1具体例と同じ作用効果を得られる。また、第3具体例において、ジェットポンプ11の供給油路12にオイルパン3のオイルが供給される作用は、第1具体例と同じである。さらに、第3具体例において、ジェットポンプ11から吐出されたオイルは、オイルクーラ19を経由して被潤滑部25に供給され、被潤滑部25がオイルにより潤滑および冷却される。被潤滑部25を潤滑および冷却したオイルは、空中またはケーシング30の壁面を伝わって油溜め32に至る。この油溜め32の容量を超えたオイルは、空中を落下してオイルパン3に至るか、またはケーシング30の壁面を伝わってオイルパン3に至る。
【0040】
つぎに、ジェットポンプ11の吸入油路13に吸入されるオイルの吸入経路を説明する。この第3具体例においては、オイルパン3の油温が、予め定められた温度以下(低温)である場合は、アクチュエータ40の機能により切替弁33が動作して、入力ポート34と出力ポート36とが接続され、かつ、入力ポート35が遮断される。
【0041】
すると、油溜め32のオイルが油路37、切替弁33、油路39を経由して、ジェットポンプ11の吸入油路13に吸入される。つまり、被潤滑部25の熱を奪って温度が上昇したオイルが油溜め32に溜まっており、油溜め32の油温はオイルパン3の油温よりも高温である。その油溜め32のオイルが、オイルパン3にある冷えたオイルと混ざることなく、ジェットポンプ11を経由して再度、被潤滑部25に供給される。このため、被潤滑部25に供給されるオイルの温度上昇が促進されて、そのオイルの粘度が高まることを抑制できる。したがって、被潤滑部25に含まれる歯車列、回転軸などによるオイルの撹拌損失の増加、または引き摺り損失の増加を抑制することができる。
【0042】
ところで、油溜め32に溜まるオイル量が増加して、油溜め32からオーバーフローしたオイルがオイルパン3に移動すると、オイルパン3の油温が上昇する。そして、オイルパン3の油温が予め定められた温度を超えた(高温)場合、この第3具体例では、アクチュエータ40の機能により切替弁33が動作して、入力ポート35と出力ポート36とが接続され、かつ、入力ポート34が遮断される。すると、オイルパン3のオイルが油路37、切替弁33、油路39を経由して、ジェットポンプ11の吸入油路13に吸入される。このように、オイルパン3の油温が予め定められた温度を超えると、第3具体例では、切替弁33の入力ポート34を遮断して、被潤滑部25に供給するオイルを、全てオイルパン3のオイルで賄うことができる。したがって、油溜め32にある高温のオイルが、再度被潤滑部25に供給されて更に温度上昇することを回避でき、オイルの劣化を防止できる。
【0043】
なお、この第3具体例において、ジェットポンプ11の吸入油路13に吸入されるオイルが、オイルパン3のオイル、または油溜め32のオイルのいずれであっても、吸入油路13に吸入されるオイルの吸入油量Q2は、第1具体例と同様の原理により決定される。したがって、第3具体例においても第1具体例と同様の作用効果を得られる。
【0044】
さらに、上記の各具体例においては、動力源としてエンジンが挙げられているが、電動モータを動力源として有する車両においても、この実施例を用いることができる。この場合、電動モータを冷却する冷却水が前記通路22を通り、その冷却水とオイルとの間で熱交換がおこなわれる。また、各具体例において、オイルポンプ2は、駆動輪にトルクを伝達するエンジン4または電動モータにより駆動される構成の他、駆動輪との動力伝達をおこなえない電動モータにより駆動される構成でもよい。さらに、前記アクチュエータ40を、オイルパン3の油温を検知する温度センサと、その温度センサにより検知される油温に基づいて、切替弁33のスプールを動作させるソレノイドとにより構成することも可能である。
【0045】
ここで、各具体例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、オイルパン3が、この発明の第1オイル貯溜部に相当し、供給油路12が、この発明の第1油路に相当し、スロート16が、この発明の第2油路に相当し、吸入油路13が、この発明の副油路に相当し、エンジン4および電動モータが、この発明の動力源に相当し、オイル溜め32が、この発明の第2オイル貯溜部に相当する。
【符号の説明】
【0046】
2…オイルポンプ、 3…オイルパン、 4…エンジン、 11…ジェットポンプ、 12…供給油路、 13…吸入油路、 15…噴射孔、 16…スロート、 19…オイルクーラ、 25…被潤滑部、 32…オイル溜め、 33…切替弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルが溜められる第1オイル貯溜部と、この第1オイル貯溜部に溜められたオイルを吸入して吐出するオイルポンプと、このオイルポンプから吐出されたオイルと冷却液との間で熱交換をおこなわせることにより、そのオイルを冷却するオイルクーラとを有する冷却装置において、
前記オイルポンプから吐出されたオイルを前記オイルクーラに導く経路に、前記オイルポンプから吐出されたオイルが通る第1油路と、この第1油路のオイルが噴射孔を通過して噴射される第2油路と、この第2油路に接続され、かつ、前記第2油路との圧力差により前記第1オイル貯溜部から前記第2油路に吸入されるオイルが通過する副油路とを有するジェットポンプが設けられていることを特徴とする冷却装置。
【請求項2】
前記オイルクーラにより冷却されたオイルが供給されて潤滑または冷却される被潤滑部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記冷却液が、車両の駆動輪に伝達するトルクを発生する動力源を冷却する冷却水であることを特徴とする請求項1または2に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記被潤滑部の熱を奪った後のオイルが溜まる第2オイル貯溜部と、
前記第1オイル貯溜部の油温が予め定められた所定温度以下である場合は、前記第2オイル貯溜部と前記副油路とを接続する一方、前記第1オイル貯溜部の油温が予め定められた所定温度を超えている場合は、前記第1オイル貯溜部と前記副油路とを接続する切替弁と
を備えていることを特徴とする請求項2または3に記載の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−58544(P2011−58544A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207470(P2009−207470)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】