説明

分布型光ファイバセンサ

【課題】高空間分解能で且つ高周波数分解能を有する分布型光ファイバセンサを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、空間分解能に基づく第1パルス光fと周波数分解能の逆数に基づく第2パルス光fとを位相差θを設けて合成した検査光fを光ファイバ12の一端部12aに射出する検査光生成部26,27と、一端部12aから射出されるブリルアン散乱現象に係る光からスペクトルVを検出する検出部30と、ブリルアン周波数シフト量を計測する計測部40と、を備え、検査光生成部26,27は、位相差θが異なる複数の検査光fを生成し、検出部30は、ブリルアン散乱現象に係る光から各検査光fに対応するスペクトルVをそれぞれ求める検波部31と、スペクトルV同士を合成する合成部36と、を有し、計測部40は、合成スペクトルVに基づいて前記周波数シフト量を計測することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバをセンサとして用い、その長尺方向について歪みや温度を高精度で測定し得る分布型光ファイバセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歪みや温度を測定する技術として、光ファイバ中で起こるブリルアン散乱現象に基づく方法がある。この方法において、光ファイバは、当該光ファイバの設置される環境(計測対象物)における歪み及び/又は温度を検出する媒体として利用される。
【0003】
ブリルアン散乱現象とは、光が光ファイバ内に入射した場合に光ファイバ中の音響フォノンを介してパワーが移動する現象であり、互いに周波数の異なる2つの光が光ファイバに入射され、これら2つの光の相互作用によって生じる誘導ブリルアン散乱現象と、光が光ファイバに入射され、この光と光ファイバ中の熱雑音によって生じている音響フォノンとの相互作用によって生じる自然ブリルアン散乱現象とがある。このブリルアン散乱現象の際に見られるブリルアン周波数シフトは、光ファイバ中の音速に比例し、そして、この音速が光ファイバの歪み及び温度に依存する。このため、ブリルアン周波数シフトを測定することによって歪み及び/又は温度が測定される。
【0004】
このブリルアン散乱現象を利用した歪みや温度の分布を計測する代表的な方式の一つとして、特許文献1に記載のBOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometer)がある。
【0005】
BOTDRでは、1つのレーザ光がポンプ光(検査パルス光)として光ファイバの一方端から入射され、この一方端から射出される自然ブリルアン散乱現象に係る光が検出され、この検出された自然ブリルアン散乱現象に係る光の光強度が時間領域で測定される。このBOTDRでは、熱雑音によって生じている音響フォノンが利用され、前記のポンプ光には、通常、光強度が矩形状であるパルス光が用いられる。
【0006】
そして、このような測定がポンプ光の周波数を順次に変化させながら周波数毎に行われ、即ち、周波数を走査することにより、光ファイバの長尺方向に沿った各位置のパワースペクトル(以下、単に「ブリルアンスペクトル」と称する。)がそれぞれ求められ、そのブリルアン周波数シフト量から光ファイバの長尺方向に沿った歪み分布及び/又は温度分布が測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2575794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のBOTDRにおいては、空間分解能と周波数分解能とを共に向上させるのが困難であった。即ち、空間分解能を向上させるためには、ポンプ光のパルス幅を短くしなければならないが、パルス幅を短くしたポンプ光を用いて観測されるブリルアン散乱現象に係る光のスペクトルが広がるため(即ち、周波数分解能が低下するため)にブリルアン周波数シフト量を精度よく計測することができない。
【0009】
詳しくは、周波数νを走査して得られるブリルアンスペクトルをV(t,ν)とおくと、このブリルアンスペクトルは、
【0010】
【数1】

【0011】
で表される。ここでγは、定数であり、「t,ν*」は、t,νに関しての2次元のコンボルーション(畳み込み)を表す。式(1)におけるG(t,ν)は、ローレンツスペクトルであり、光ファイバの位置zにおけるブリルアン周波数シフトをν(z)とおくと、
【0012】
【数2】

【0013】
で表される。ここで、vは、光ファイバ中の光速を表す。
【0014】
また、式(1)におけるΨ(t,ν)は点広がり関数であり、
【0015】
【数3】

【0016】
で表される。ここで、f(t)は、パルスの形状を表す関数であり、h(t)は、受信部における低域フィルタのインパルスレスポンスであり、Fτ[f(τ)h(t−τ)]は、τに関するフーリエ変換を表す。
【0017】
ローレンツスペクトルG(t,ν)は、観測に依らず光ファイバの特性だけで決まるスペクトルであり、点広がり関数Ψ(t,ν)は計測方式に依存して決まる関数である。
【0018】
ここで、求めたい理想的なブリルアンスペクトルは、ローレンツスペクトルG(t,ν)自体(図4(B)参照)が観測されることであるが、実際の観測では、式(1)に示されるように、ローレンツスペクトルG(t,ν)が点広がり関数Ψ(t,ν)とのコンボルーションでぼかされたもの(図15(B)参照)が観測される。
【0019】
従って、空間分解能を向上させるためには、点広がり関数Ψ(t,ν)は、時間と周波数との両方にできるだけ狭い幅をもつものが望ましい。
【0020】
しかしながら、点広がり関数Ψ(t,ν)を積分して時間方向と周波数方向への広がり関数をそれぞれ
【0021】
【数4】

【0022】
【数5】

【0023】
と定義し、それぞれの中心μ,μと半径Δ,Δ
【0024】
【数6】

【0025】
【数7】

【0026】
と定義すると、以下の式(8)が成立する。
【0027】
【数8】

【0028】
これは、点広がり関数Ψ(t,ν)の時間方向と周波数方向との広がりを同時に小さくすることができないという不確定性関係を表している。
【0029】
そこで、高空間分解能で且つ高周波数分解能を有する分布型光ファイバセンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
そこで、上記課題を解消すべく、本発明は、光ファイバをセンサとして用いる分布型光ファイバセンサであって、当該センサの空間分解能に基づくパルス幅の第1パルス光を生成する第1パルス光生成部と、当該センサの周波数分解能の逆数に基づくパルス幅の第2パルス光を生成する第2パルス光生成部と、前記第1パルス光と前記第2パルス光との間に所定の位相差を設けてこれら第1パルス光と第2パルス光とを合成して検査光を生成し、この検査光を前記光ファイバの特定の端部に向けて射出する検査光生成部と、前記検査光が入射した光ファイバの特定の端部から射出されるブリルアン散乱現象に係る光に基づいてブリルアンスペクトルを検出するスペクトル検出部と、前記光ファイバに生じた歪み又は/及び温度によるブリルアン周波数シフト量を計測するシフト量計測部と、を備える。そして、前記検査光生成部は、前記位相差が互いに異なる複数の検査光を生成し、前記スペクトル検出部は、前記ブリルアン散乱現象に係る光に対し、各検査光における第1パルス光と第2パルス光との位相差に対応するフィルタをそれぞれかけることにより前記複数の検査光に対応するブリルアンスペクトルをそれぞれ求める検波部と、この検波部で求められた各ブリルアンスペクトル同士を合成する合成部と、を有し、前記シフト量計測部は、前記合成部で合成されたブリルアンスペクトルである合成スペクトルに基づいて前記ブリルアン周波数シフト量を計測することを特徴とする。
【0031】
この分布型光ファイバセンサによれば、異なる複数の検査光を用いた計測によってそれぞれブリルアンスペクトルが求められ、これら複数のブリルアンスペクトルが合成されることにより、高空間分解能で且つ高周波数分解能をもつブリルアンスペクトル(合成スペクトル)を得ることができる。
【0032】
詳しくは、上記の分布型光ファイバセンサによれば、第1パルス光と第2パルス光との間の位相差が互いに異なる複数の検査光によって得られる各ブリルアンスペクトルを合成することによって、第1パルス光のパルス幅に応じた空間分解能と第2パルス光のパルス幅の逆数に応じた周波数分解能をもつ合成スペクトルが得られる。そこで、第1パルス光として目標とする空間分解能に応じたパルス幅の小さな短パルス光を用い、第2パルス光として目標とする周波数分解能の逆数に応じたパルス幅の大きな長パルス光を用いることで、高空間分解能で且つ高周波数分解能をもつ合成スペクトルを得ることができ、その結果、ブリルアン周波数シフト量を精度よく計測することが可能となる。
【0033】
具体的に、上記の分布型光ファイバセンサの合成部は、前記検波部で求められた各ブリルアンスペクトルから時間方向の広がりが小さく且つ周波数方向の広がりが小さな成分が抽出されるように前記各ブリルアンスペクトルの重み付き和をとることで、第1パルス光のパルス幅に応じた空間分解能と第2パルス光のパルス幅の逆数に応じた周波数分解能をもつ合成スペクトルを生成する。
【0034】
本発明に係る分布型光ファイバセンサにおいては、前記検波部は、信号処理によって前記フィルタの中心周波数を走査することによりブリルアンスペクトルを求めてもよい。このように、信号処理によりブリルアンスペクトルを求めることで、計測時間を短縮することができる。詳しくは、従来は、ブリルアン散乱現象に係る光を検波するときに用いられる参照光の周波数を走査しながら周波数毎にブリルアンスペクトルを求めていたが、参照光の周波数を固定して広帯域で受信したあとフィルタの中心周波数を走査する信号処理によって帯域幅内のブリルアンスペクトルをそれぞれ求めることにより、計測時間を短縮することができる。
【0035】
前記スペクトル検出部は、前記ブリルアン散乱現象に係る光を水直成分と水平成分とに偏波分離する分離部を有し、前記検波部は、前記分離部で分離されたブリルアン散乱現象に係る光の垂直成分と水平成分とに対して前記位相差に対応するフィルタをそれぞれかけたあとこれらの二乗和をとることによってブリルアンスペクトルを求めることが好ましい。
【0036】
かかる構成によれば、光ファイバ中でのブリルアン散乱現象に係る光の偏波の影響を抑え、ブリルアンスペクトルを精度よく求めることができる。即ち、光ファイバ中で偏光ベクトルの絶対値が保存されることを利用し、偏光ベクトルの2つの成分、即ち、ブリルアン散乱現象に係る光の垂直成分と水平成分とを個別に計測してその二乗和をとることにより、光ファイバ中での偏光の影響を抑えることができる。
【0037】
また、上記課題を解消すべく、本発明は、光ファイバをセンサとして用いる分布型光ファイバセンサであって、当該センサの空間分解能に相当する距離を光が往復する時間よりも大きなパルス幅の長パルス光に基づく第1パルス光を生成する第1パルス光生成部と、当該センサの周波数分解能の逆数に基づくパルス幅の第2パルス光を生成する第2パルス光生成部と、前記第1パルス光と前記第2パルス光との間に所定の位相差を設けてこれら第1パルス光と第2パルス光とを合成して検査光を生成し、この検査光を前記光ファイバの特定の端部に向けて射出する検査光生成部と、前記検査光が入射した光ファイバの特定の端部から射出されるブリルアン散乱現象に係る光に基づいてブリルアンスペクトルを検出するスペクトル検出部と、前記光ファイバに生じた歪み又は/及び温度によるブリルアン周波数シフト量を計測するシフト量計測部と、を備え、前記第1パルス光生成部は、前記長パルス光を前記空間分解能に基づく幅の複数のセルに分割し、この分割された長パルス光を所定の符号系列を用いて変調して前記第1パルス光を生成し、前記検査光生成部は、前記位相差が互いに異なる複数の検査光を生成し、前記スペクトル検出部は、前記ブリルアン散乱現象に係る光に対し、各検査光における第1パルス光と第2パルス光との位相差に対応するフィルタをそれぞれかけると共に前記第1パルス光生成部における変調に対応する復調を行った後にパルス圧縮することにより前記複数の検査光に対応するブリルアンスペクトルをそれぞれ求める検波部と、この検波部で求められた各ブリルアンスペクトル同士を合成する合成部と、を有し、前記シフト量計測部は、前記合成部で合成されたブリルアンスペクトルである合成スペクトルに基づいて前記ブリルアン周波数シフト量を計測することを特徴とする。
【0038】
この分布型光ファイバセンサによっても、互いに異なる複数の検査光を用いた計測によってそれぞれブリルアンスペクトルが求められ、これら複数のブリルアンスペクトルが合成されることにより、高空間分解能で且つ高周波数分解能をもつ合成スペクトルを得ることができる。尚、この分布型光ファイバセンサの合成部では、第1パルス光のセル幅に応じた空間分解能と第2パルス光のパルス幅の逆数に応じた周波数分解能を持つブリルアンスペクトル(合成スペクトル)が得られる。
【0039】
さらに、上記分布型光ファイバセンサによれば、第1パルス光として変調を加えた長パルス光を用いて計測を行い、受信時に第1パルス光を復調してパルス圧縮を行うことによって、第1パルス光としてパルス圧縮を行わずに短パルス光を用いる方式に比べて第1パルス光に含まれるエネルギーが多くなるため、SN比を高くすることができる。
【0040】
また、上記課題を解消すべく、本発明は、光ファイバをセンサとして用いる分布型光ファイバセンサであって、当該センサの空間分解能に基づくパルス幅の第1パルス光と当該センサの空間分解能の逆数に基づく第2パルス光との間に所定の位相差を設けてこれら第1パルス光と第2パルス光とを合成した合成パルス光を生成する複数の合成パスル光生成部と、各合成パルス光生成部で生成された合成パルス光を合流させて検査光とし、この検査光を前記光ファイバの特定の端部に向けて射出する合流部と、前記検査光が入射した光ファイバの特定の端部から射出されるブリルアン散乱現象に係る光を前記合流部での合流前の各合成パルス光と対応する分離光に分離する分離部と、前記分離した各分離光に対してフィルタをかけることによりブリルアンスペクトルをそれぞれ求める複数の検波部と、各検波部で求められたブリルアンスペクトル同士を合成する合成部と、前記合成部で合成されたブリルアンスペクトルである合成スペクトルに基づいてブリルアン周波数シフト量を計測する前記シフト量計測部と、を備える。そして、前記所定の位相差は、前記合成パルス光生成部毎に異なり、各検波部は、前記分離光に対応した合成パルス光を構成する第1パルス光と第2パルス光との位相差に応じたフィルタを用いることを特徴とする。
【0041】
この分布型光ファイバセンサによっても、互いに異なる複数の検査光を用いた計測によってそれぞれブリルアンスペクトルが求められ、これら複数のブリルアンスペクトルが合成されることにより、高空間分解能で且つ高周波数分解能をもつ合成スペクトルを得ることができる。しかも、複数の合成パルス光生成部において前記位相差の互いに異なる複数の合成パルス光を同時に生成することができると共に、複数の検波部において各合成パルス光に対応するブリルアンスペクトルを同時に求めることができるため、計測時間を短縮することができる。
【0042】
また、合成パルス光生成部毎に生成される合成パルス光の第1パルス光と第2パルス光との位相差を固定することができ、これにより、同一部位で前記位相差の異なる複数の合成パルス光を全て生成する場合に比べて位相差を形成する手段の構成を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0043】
以上より、本発明によれば、高空間分解能で且つ高周波数分解能を有する分布型光ファイバセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】第1実施形態に係る分布型光ファイバセンサの構成を示す機能ブロック図である。
【図2】前記分布型光ファイバセンサの短パルス光生成部(又は長パルス光生成部)を説明するための図である。
【図3】図3(A)は、検査パルス光を構成する短パルス光の形状関数を示し、図3(B)は、検査パルス光を構成する長パルス光の形状関数を示し、図3(C)は、低域フィルタを構成する短パルス光に対応する要素のインパルスレスポンスを示し、図3(D)は、低域フィルタを構成する長パルス光に対応する要素のインパルスレスポンスを示す。
【図4】図4(A)は、前記分布型光ファイバセンサにおける点広がり関数を示し、図4(B)は、前記分布型光ファイバセンサにおいて求められる合成スペクトルを示す。
【図5】前記分布型光ファイバセンサの光ヘテロダイン検波部を説明するための図である。
【図6】前記分布型光ファイバセンサによる歪み又は温度の計測動作を説明するためのフローチャートである。
【図7】第2実施形態に係る分布型光ファイバセンサの構成を示す機能ブロック図である。
【図8】前記分布型光ファイバセンサによる歪み又は温度の計測動作を説明するためのフローチャートである。
【図9】図9(A)は、第1パルス光の形状関数を示し、図9(B)は、第2パルス光の形状関数を示し、図9(C)は、第1パルス光に対応する低域フィルタの要素のインパルスレスポンスを示し、図9(D)は、第2パルス光に対応する低域フィルタの要素のインパルスレスポンスを示す。
【図10】他実施形態に係る分布型光ファイバセンサの構成を示す機能ブロック図である。
【図11】2段ヘテロダイン受信における光ヘテロダイン検波部及びヘテロダイン検波部を説明するための図である。
【図12】他実施形態に係る分布型光ファイバセンサにおける検波部を説明するための図である。
【図13】複数の検査パルス光射出部を備えた分布型光ファイバセンサを説明するための図である。
【図14】複数の検査パルス光射出部を備えた分布型光ファイバセンサを説明するための図である。
【図15】図15(A)は、従来の分布型光ファイバセンサにおける点広がり関数を示し、図15(B)は、従来の分布型光ファイバセンサにおいて求められるブリルアンスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照しつつ説明する。
【0046】
<第1実施形態>
本実施形態の分布型光ファイバセンサは、光ファイバ(検出用光ファイバ)をセンサとして用い、その長尺方向における各位置の歪み又は/及び温度を高精度に測定する。この分布型光ファイバセンサは、図1に示されるように、検出用光ファイバ12と、検査パルス光射出部20と、光サーキュレータ14と、スペクトル検出部30と、シフト量計測部40と、制御処理部50と、出力部16と、を備える。
【0047】
検出用光ファイバ12は、歪み又は温度を検出するセンサ用の光ファイバである。この検出用光ファイバ12は、第1端部(特定の端部)12aと、この第1端部12aと反対側の端部である第2端部12bとを有する。検出用光ファイバ12の第1端部12aは、検出用光ファイバ12内に検査パルス光(検査光)fを入射させ、この検査パルス光に起因したブリルアン散乱現象にかかる光を外部に射出する。ここで、配管、油田管、橋、トンネル、ダム、建物等の構造物や地盤等の計測対象物に生じた歪み又は/及び温度を測定する場合には、当該検出用光ファイバ12が接着剤や固定部材等によって計測対象物に固定される。
【0048】
検査パルス光射出部20は、検査パルス光fを生成し、この検査パルス光fを検出用光ファイバ12の第1端部12aに向けて射出する。具体的に、検査パルス光射出部20は、第1光源21と、光パルス発生回路22とを備える。
【0049】
第1光源21は、所定周波数の光(連続光)を射出することができ、制御処理部50による制御によって温度や駆動電流を変更することによって発振波長(発振周波数)を変えることができる。本実施形態では、第1光源21としてレーザ光源が用いられ、この第1光源21からは、例えば、1.55μmのコヒーレント光が出力される。
【0050】
光パルス発生回路22は、第1光源21が射出した連続光から短パルス光(第1パルス光)fと長パルス光(第2パルス光)fとを生成し、これらを合成することにより検査パルス光fを生成する回路である。この光パルス発生回路22は、光カプラ23と、短パルス光生成部24と長パルス光生成部25と移相器26と光合成器27とを備える。
【0051】
光カプラ23は、第1光源からの光を2つに分岐し、この分岐した光を短パルス光生成部24と長パルス光生成部25とにそれぞれ供給する。
【0052】
短パルス光生成部24は、第1光源21から供給される連続光から短パルス光fを生成する。具体的に、短パルス光生成部24は、図2にも示されるように、強度変調器241とこの強度変調器241に変調信号を入力する変調信号入力部242とを有する。本実施形態では、強度変調器241としてLN強度変調器が用いられるが、これに限定されない。また、本実施形態では、変調信号入力部242としてBias−Tが用いられ、このBias−Tには、DC電圧と目標とする短パルス光fに対応する電気信号としてのパルス信号が入力される。
【0053】
このように構成される短パルス光生成部24では、本実施形態の分布型光ファイバセンサ10の空間分解能に基づくパルス幅の短パルス光fが生成される。具体的に、例えば、本実施形態の分布型光ファイバセンサ10の空間分解能が10cmであれば、光が検出用光ファイバ12中でその区間(検出用光ファイバ12の長尺方向における10cmの区間)を往復する時間に対応する1nsのパルス幅の短パルス光fが生成される。
【0054】
長パルス光生成部25は、第1光源21から供給される連続光から長パルス光fを生成する。この長パルス光生成部25は、前記の短パルス光生成部24と同様に、強度変調器251と変調信号入力部252とを有する(図2参照)。本実施形態では、強度変調器251としてLN強度変調器が用いられるが、これに限定されない。また、本実施形態では、変調信号入力部252としてBias−Tが用いられ、このBias−Tには、DC電圧と目標とする長パルス光fに対応する電気信号としてのパルス信号が入力される。
【0055】
このように構成される長パルス光生成部25では、本実施形態の分布型光ファイバセンサ10の周波数分解能の逆数に基づくパルス幅の長パルス光fが生成される。具体的に、例えば、本実施形態の分布型光ファイバセンサ10の周波数分解能(周波数幅)が10MHzであれば、その逆数の100nsのパルス幅の長パルス光fが生成される。尚、本実施形態において、周波数幅は、ブリルアンスペクトルを以下の式(9)で表したときのローレンツスペクトルG(t,ν)を鈍らせる点広がり関数Ψ(t,ν)の周波数方向への幅を意味する。
【0056】
【数9】

【0057】
移相器26は、短パルス光fと長パルス光fとの間に所定の位相差を設ける。この移相器26は、長パルス光生成部25と光合成器27との間に設けられ、制御処理部50からの指示信号に基づいて、長パルス光fの位相を短パルス光fに対してθだけシフトさせる。即ち、移相器26は、短パルス光fに対して長パルス光fの位相を所定の範囲内で位相変調させる。本実施形態の移相器26においては、θ,j=1〜4である。
【0058】
ここで、検出用光ファイバ12に入射させる複数の検査パルス光fの求め方、即ち、検査パルス光fを構成する短パルス光fと長パルス光fとの位相差、及び検査パルス光fに対応する整合フィルタ(本実施形態では低域フィルタ)hについて以下に説明する。
【0059】
検査パルス光fを構成する要素として、以下の短パルス光f(t)と長パルス光f(t)との2つのパルス光を考える。
【0060】
【数10】

【0061】
【数11】

【0062】
ここで、rは、短パルス光fと長パルス光fとの振幅比である。
【0063】
短パルス光fのパルス幅Dは、当該分布型光ファイバセンサ10において目標とする空間分解能に基づいて設定する。また、長パルス光fのパルス幅Dは、検出用光ファイバ12中に検査パルス光fを注入したときに生じるフォノンの寿命よりも十分長くなるように設定する。これら短パルス光fと長パルス光fとにより構成される検査パルス光に対応する低域フィルタ(信号処理部35の2乗検波部351におけるフィルタ)hも2つの要素h,hにより構成され、それぞれの要素h,hは、検査パルス光fの要素f,fの整合フィルタになっているものとする。即ち、低域フィルタh,hは、以下のようになる。
【0064】
【数12】

【0065】
【数13】

【0066】
以上の各要素を用いて、検査パルス光fと低域フィルタh,hとは以下のように表される。
【0067】
【数14】

【0068】
【数15】

【0069】
ここで、θとφとは、位相を表すパラメータである。
【0070】
図3(A)〜図3(D)に、検査パルス光fの要素f,fの形状関数、及び低域フィルタhの要素のインパルス応答の例を示す。図3(A)は、検査パルス光fを構成する第1要素(短パルス光)fの形状関数を示し、図3(B)は、検査パルス光fを構成する第2要素(長パルス光)fの形状関数を示し、図3(C)は、低域フィルタhを構成する第1要素(短パルス光に対応する要素)hのインパルスレスポンスを示し、図3(D)は、低域フィルタhを構成する第2要素(長パルス光に対応する要素)hのインパルスレスポンスを示す。
【0071】
上記の式(14)及び式(15)に対応する点広がり関数は、
【0072】
【数16】

【0073】
となる。ここで、式(16)におけるR[…]は実数部を表す。
【0074】
この点広がり関数は、ブリルアンスペクトルV(t,ν)を、
【0075】
【数17】

【0076】
と表したときのΨ(t,ν)である。この式(16)のFτ{…}は、τに関するフーリエ変換を表す。尚、G(t,ν)は、ローレンツスペクトルであり、検出用光ファイバ12の長尺方向の位置z(第1端部12aからの距離z)におけるブリルアン周波数シフトをν(z)とおくと、
【0077】
【数18】

【0078】
と表される。
【0079】
また、式(16)において、
【0080】
【数19】

【0081】
とおいた。
【0082】
この関数Fkl(t,ν)は、fとfとのパルス幅の違いから、
11:時間方向への広がりは小, 周波数方向への広がりは大
12:時間方向への広がりは大, 周波数方向への広がりは大
21:時間方向への広がりは大, 周波数方向への広がりは大
22:時間方向への広がりは大, 周波数方向への広がりは小
という特性をもつ。従って、Ψ(t,ν)の成分の中ではF1122だけが、時間方向、周波数方向共に局在するという理想的な特性を持ち、これ以外の成分は時間方向及び周波数方向の少なくとも一方の方向への広がりを持つ。従って、センシングのためには、F1122だけが抽出したい望ましい成分であり、他は不要な成分となる。
【0083】
そこで、点広がり関数Ψ(t,ν)の要素R(F1122)だけを抽出するような合成方法を求めるために、以下の位相差(検査パルス光fを構成する短パルス光fと長パルス光fとの間の位相差θ、及びこれに対応する整合(低域)フィルタh,hの位相差φ)のペアを考える。
【0084】
【数20】

【0085】
即ち、
【0086】
【数21】

【0087】
これらに対する点広がり関数Ψ(t,ν)は、
【0088】
【数22】

【0089】
【数23】

【0090】
【数24】

【0091】
【数25】

【0092】
となる。これらを以下のように合成する(即ち、重み付き和をとる)ことにより、望ましい成分だけを抽出することができる。
【0093】
【数26】

【0094】
本実施形態では、4つの位相差のペア(式(20)参照)、即ち、短パルス光fと長パルス光fとの位相差が互いに異なる4つの検査パルス光fを用いて計測することにより、望ましい成分を抽出して合成スペクトルV(t,ν)を求めているが、これに限定されない。
【0095】
即ち、上記のことを一般化した以下の位相差のペア(θ,φ)により計測を行うことにより、各位相差θの検査パルス光fに対応する複数のブリルアンスペクトルV(t,ν)から、時間方向及び周波数方向共に局在する成分を抽出した合成スペクトルV(t、ν)を得ることができる。
【0096】
先ず、位相差のペア(θ,φ)を以下のようにp種類用意する。
【0097】
【数27】

【0098】
検査パルス光fとこれに対応する低域フィルタ(整合フィルタ)hとのp種類のペアを
【0099】
【数28】

【0100】
【数29】

【0101】
とする。これら式(28)及び式(29)と、合成の係数c,j=1,2,…,pとが
【0102】
【数30】

【0103】
を満足するように決められる。検査パルス光fと低域フィルタhとの各ペアに対する点広がり関数をΨ(t,ν)とすると、このとき、合成による点広がり関数は、
【0104】
【数31】

【0105】
となる。尚、本実施形態では、p=4で、
【0106】
【数32】

【0107】
である。
【0108】
図4(A)及び図4(B)には本実施形態により求めた、合成後の点広がり関数Ψ(t,ν)と合成スペクトル(合成後のブリルアンスペクトル)V(t,ν)の一例を示す。図4(A)が点広がり関数Ψ(t,ν)を示し、図4(B)は合成スペクトルV(t,ν)を示す。合成スペクトルV(t,ν)は、ノイズを除去して描いてある。また、短パルス光fのパルス幅が1ns、長パルス光fのパルス幅が40nsとする。図4(A)から分るように、点広がり関数Ψ(t,ν)は時間方向、周波数方向のいずれの方向へも広がりが小さい。また、図4(B)から分るように、合成スペクトルV(t,ν)の線幅は、ローレンツスペクトルG(t,ν)の線幅と同程度に小さくなる。
【0109】
尚、図15(A)及び図15(B)に、従来のBOTDR(単一のパルスからなる検査パルス光fを用いるBOTDR)における点広がり関数ψ(t,ν)と、計測されたブリルアンスペクトルV(t,ν)との一例を示す。図15(A)は、点広がり関数ψ(t,ν)を示し、図15(B)はブリルアンスペクトルV(t,ν)を示す。ブリルアンスペクトルV(t,ν)は、ノイズを除去して描いてある。この例においてはfのパルス幅は1nsとしてある。この図15(A)に示されるように、点広がり関数ψ(t,ν)は、式(8)に示す不確定性関係を有するため、時間方向の広がりを小さくすると周波数方向の広がりが大きくなる。そのため、観測では、図15(B)に示されるように、ローレンツスペクトルG(t,ν)が前記点広がり関数ψ(t,ν)とのコンボルーションでぼかされたものが観測される。
【0110】
光合成器27は、短パルス光生成部24で生成された短パルス光fと、長パルス光生成部25で生成され移相器26により位相シフトされた長パルス光fとを合成して検査パルス光fを生成し、この生成した検査パルス光(合成パルス光)fを検出用光ファイバ12に向けて出力(射出)する。
【0111】
以上のように構成される検査パルス光射出部20では、短パルス光fと長パルス光fとの間の位相差θが互いに異なる複数(本実施形態では4つ)の検査パルス光fが生成される。
【0112】
光サーキュレータ14は、入射光と射出光とがその端子番号に循環関係を有する非可逆性の光部品である。即ち、第1端子14aに入射した光は、第2端子14bから射出されるとともに、第3端子14cからは射出されず、第2端子14bに入射した光は、第3端子14cから射出されるとともに、第1端子14aからは射出されず、第3端子14cに入射した光は、第1端子14aから射出されるとともに、第2端子14bからは射出されない。この光サーキュレータ14の第1端子14aは、検査パルス光射出部20に接続され、第2端子14bは、検出用光ファイバ12の第1端部12aに接続され、第3端子14cは、スペクトル検出部30に接続される。
【0113】
スペクトル検出部30は、検査パルス光fが入射した検出用光ファイバ12の第1端部12aから射出されるブリルアン散乱現象に係る光(検出光)に基づいてブリルアンスペクトルV(t,ν)を検出し、検波部31と、スペクトル合成部36とを有する。本実施形態のスペクトル検出部30は、検査パルス光射出部20から検出パルス光fが光サーキュレータ14を介して検出用光ファイバ12に射出されることによりこの検出用光ファイバ12内で生じたブリルアン散乱現象に係る光が検出用光ファイバ12から光サーキュレータ14を介して入力され、この光に基づいてブリルアンスペクトルを検出する。
【0114】
検波部31は、ブリルアン散乱現象に係る光(以下、単に「検出光」とも称する。)に対し、検査パルス光射出部20で生成された各検査パルス光fにおける短パルス光fと長パルス光fとの位相差θに対応する低域(整合)フィルタhをそれぞれかけることにより各検査パルス光fに対応するブリルアンスペクトルV(t,ν)をそれぞれ求める。この検波部31は、第2光源32と、光ヘテロダイン検波部33と、AD変換部34と、信号処理部35の2乗検波部351とを有する。
【0115】
第2光源32は、検出光を光ヘテロダイン検波するときの参照光を射出する光源であり、第1光源21と同様に、制御処理部50による制御によって温度や駆動電流を変更することによって発振波長(発振周波数)を変えることができる。本実施形態では、第2光源32としてレーザ光源が用いられる。
【0116】
光ヘテロダイン検波部33は、第2光源32からの参照光を用いて検出光を検波することにより、検出光をベースバンド信号に変換する。本実施形態の光ヘテロダイン検波部33は、図5にも示されるように、検出光と第2光源32からの参照光とを合成したあと2つに分岐させて出力する光カプラ331と、光カプラ331からの分岐光がそれぞれ入力されるフォトダイオードPD1,PD2と、これらフォトダイオードPD1,PD2からの各出力を増幅するアンプ332とを備える。
【0117】
光ヘテロダイン検波部33は、ベースバンド信号をI,Qの2チャンネルの信号として出力する。本実施形態のベースバンド信号は、−1GHz〜1GHz程度の帯域の信号である。
【0118】
AD変換部34は、アナログ信号をデジタル信号に変換する。即ち、このAD変換部34は、光ヘテロダイン検波部33からのI,Qの2チャンネルの信号をデジタルサンプリングし、デジタル信号として信号処理部35に出力する。
【0119】
信号処理部35は、2乗検波部351と合成部352とを有し、上述のように2乗検波部351が、検波部31の一部を構成する。この2乗検波部351は、AD変換部34から入力されたデジタル信号に、第1パルス光fと第2パルス光fとの位相差θに対応するフィルタhをかけて2乗検波を行う。これにより、検査パルス光射出部20で生成された各検査パルス光fに対応するブリルアンスペクトルV(t,ν)が検出される。
【0120】
一方、信号処理部35の合成部352は、スペクトル検出部30のスペクトル合成部36を構成し、検波部31で求められた各ブリルアンスペクトルV(t,ν)同士を合成して合成スペクトルV(t,ν)(図4(B)参照)を生成する。
【0121】
シフト量計測部40は、スペクトル合成部36で合成された合成スペクトルV(t,ν)に基づいてブリルアン周波数シフト量を計測する。詳しくは、検出用光ファイバ12の長尺方向における各位置においてブリルアン散乱現象が生じ、散乱光は、第1端部12aからの距離に比例する遅延時間を伴って第1端部12aに戻る。この散乱光には、散乱された位置における検出用光ファイバ12の歪又は/及び温度の変化量に比例した周波数シフトが生じている(図4(b)参照)。そこで、シフト量計測部40は、合成部352において求められた合成スペクトルV(t,ν)からこの周波数シフト量を計測し、検出用光ファイバ12の長尺方向における各位置の歪み又は/及び温度を検出する。
【0122】
制御処理部50は、分布型光ファイバセンサ10の各構成を制御するための部位であり、例えば、マイクロプロセッサ、ワーキングメモリ、及び、必要なデータを記憶するメモリー等を備えている。
【0123】
出力部16は、シフト量計測部40の計測結果を受けて、検出用光ファイバ12の長尺方向の各位置における検出用光ファイバ12の温度又は/及び歪みを出力(表示する。)本実施形態の出力部16は、検出用光ファイバ12の長尺方向の各位置における温度又は/及び歪みを画面に表示するが、印字等によって出力(表示)するように構成されてもよい。また、出力部16は、検出用光ファイバ12の各位置における温度又は/及び歪みだけでなく、各位置におけるブリルアン周波数シフト量や合成スペクトルV(t,ν)を表示するように構成されてもよい。
【0124】
次に、以上のような分布型光ファイバセンサ10における歪み又は温度の計測動作について説明する。図6は、分布型光ファイバセンサ10による歪み又は温度の計測動作を説明するためのフローチャートである。
【0125】
図6において、S1は、検査パルス光fを構成する短パルス光fと長パルス光fとの位相差θを変更させて位相差毎に実行されるループであり、S2は、S1における位相差θ(即ち、移相器26における移相量)の選択機能である。本実施形態において、各移相量は、
【0126】
【数33】

【0127】
で与えられる。
【0128】
S3は、光ヘテロダイン検波部33で用いられる参照光の周波数νをシフトさせ、シフトさせた周波数毎にブリルアンスペクトルV(t,ν)の計測が実行されるループであり、S4は、S3における周波数シフト量の指定機能である。例えば、全体で2GHzの帯域を5MHz刻みで計測する場合は、k=401となる。即ち、S3のループが401回行われる。
【0129】
S5は、図1の機能ブロック図の内容を実行する。具体的に、第1光源21は、例えば、波長1.55μmのコヒーレント光を出力する。このコヒーレント光は、光パルス発生回路22において光カプラ23により2つに分岐され、一方が短パルス光生成部24に入力され、他方が長パルス光生成部25に入力される。短パルス光生成部24は、例えば、当該分布型光ファイバセンサ10の目標とする空間分解能が10cmの場合は、検出用光ファイバ12中でのその区間の往復時間に対応する1nsの短いパルス幅のパルス光(短パルス光)fを生成する。一方、長パルス光生成部25は、例えば、当該分布型光ファイバセンサ10の目標とする周波数分解能が10MHzの場合は、その逆数の100nsの長いパルス幅のパルス光(長パルス光)fを生成する。移相器26は、長パルス光fを短パルス光fに対してθだけ位相をシフトする。そして、光合成器27は、短パルス光fと位相シフトされた長パルス光fとを合成し、合成された複合パルス光である検査パルス光fを光サーキュレータ14を介して第1端部12aから検出用光ファイバ12内に注入する。
【0130】
検出用光ファイバ12では、その長尺方向の全ての位置においてブリルアン散乱現象が生じ、このブリルアン散乱現象に係る光は、第1端部12aからの距離に比例する遅延時間を伴って第1端部12aから射出される。このブリルアン散乱現象に係る光には、ブリルアン散乱が生じた位置z(即ち、第1端部12aからの距離z)における検出用光ファイバ12の歪み又は/及び温度の変化量に比例したブリルアン周波数シフトν(z)が生じている。
【0131】
このブリルアン散乱現象に係る光は、検出光として光サーキュレータ14を介してスペクトル検出部30に入力される。スペクトル検出部30では、光ヘテロダイン検波部33が第2光源32から出力されるコヒーレント光を参照光として光へテロダイン検波を行う。この光へテロダイン検波により、検出光がベースバンド信号(電気信号)に変換される。このベースバンド信号は、−1GHz〜1GHz程度の帯域のベースバンド信号である。AD変換部34は、光ヘテロダイン検波部33から出力されたI,Qの2チャンネルの信号をサンプリンしてデジタル変換し、デジタル信号として信号処理部35の2乗検波部351に向けて出力する。
【0132】
2乗検波部351は、AD変換部34から入力された信号に低域(整合)フィルタhをかけて2乗検波を行う。このとき、低域フィルタhのインパルス応答は、
【0133】
【数34】

【0134】
という形とし、式(34)の右辺の各要素は検査パルス光fの要素(短パルス光f及び長パルス光f)と、
【0135】
【数35】

【0136】
という関係にする。低域フィルタhは、信号処理部35におけるデジタル処理で用いられるため、離散化して
【0137】
【数36】

【0138】
とする。光へテロダイン検波の出力信号をサンプリングしたデジタル信号を
【0139】
【数37】

【0140】
とおくと、2乗検波部351の低域フィルタの処理は、
【0141】
【数38】

【0142】
と表される。このとき、2乗検波部351からの出力は、
【0143】
【数39】

【0144】
と表される。
【0145】
S6は、各jについてのブリルアンスペクトルV(t,ν)を合成して合成スペクトルV(t,ν)を求める。具体的に、合成部352は、以下の式(40)により、2乗検波部351から入力された各jに対応するブリルアンスペクトルV(t,ν)を合成して合成スペクトルV(t,ν)を求め、この合成スペクトルV(t,ν)をシフト量計測部40に向けて出力する。
【0146】
【数40】

【0147】
ここで、係数は、
【0148】
【数41】

【0149】
S7は、合成スペクトルV(t,ν)に基づいてブリルアン周波数シフト量の計測を行う。具体的に、シフト量計測部40は、合成部352から入力された合成スペクトルV(t,ν)に対し、tを固定する毎にV(t,ν)に放物線や適当な曲線を当てはめ、精密なピーク位置を求め、それをブリルアン周波数シフトの推定値とする(図4(B)参照)。シフト量計測部40は、求めた推定値からブリルアン周波数シフト量を計測し、これを出力部16に出力する。
【0150】
S8では、出力部16がシフト量計測部40における測定結果を出力(表示等)する。
【0151】
以上説明したように、第1実施形態の分布型光ファイバセンサ10によれば、異なる複数の検査パルス光fを用いた計測によってそれぞれブリルアンスペクトルV(t,ν)が求められ、これら複数のブリルアンスペクトルV(t,ν)が合成されることにより、高空間分解能で且つ高周波数分解能をもつブリルアンスペクトル(合成スペクトル)V(t,ν)を得ることができる。
【0152】
詳しくは、第1実施形態の分布型光ファイバセンサ10によれば、短パルス光fと長パルス光fとの間の位相差θが互いに異なる複数の検査パルス光fによって得られる各ブリルアンスペクトルV(t,ν)を合成することによって、短パルス光fのパルス幅に応じた空間分解能と長パルス光fのパルス幅の逆数に応じた周波数分解能をもつ合成スペクトルV(t,ν)が得られる。そこで、短パルス光fとして目標とする空間分解能に応じたパルス幅の小さなパルス光を用い、長パルス光fとして目標とする周波数分解能の逆数に応じたパルス幅の十分に大きなパルス光を用いることで、高空間分解能で且つ高周波数分解能をもつ合成スペクトルV(t,ν)を得ることができ、その結果、ブリルアン周波数シフト量を精度よく計測することが可能となる。
【0153】
<第2実施形態>
次に、図7及び図8を参照して、本発明の第2実施形態による分布型光ファイバセンサ10aの構成について説明するが、上記第1実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成についてのみ詳細に説明する。
【0154】
この分布型光ファイバセンサ10aは、図7に示されるように、検出用光ファイバ12と、検査パルス光射出部20と、光サーキュレータ14と、スペクトル検出部30aと、シフト量計測部40と、制御処理部50と、出力部16と、を備える。
【0155】
スペクトル検出部30aは、検波部31aとスペクトル合成部36(合成部352)とを有し、検波部31aは、光ヘテロダイン検波部33と、局部発振器37と、ヘテロダイン検波部38と、AD変換部34aと、信号処理部35aとを有する。
【0156】
光ヘテロダイン検波部33は、第1実施形態と異なり、第1光源21から出力されて光パルス発生回路22に入力する前に光カプラ28によって分岐されたコヒーレント光を参照光として用い、光へテロダイン検波を行う。これにより、光ヘテロダイン検波部33は、入力された検出光を周波数が9〜11GHz程度のマイクロ波信号に変換して出力する。
【0157】
局部発振器37は、ヘテロダイン検波部38においてヘテロダイン検波に用いられる参照信号を出力する。この局部発振器37は、制御処理部50によって制御され、参照信号として発振周波数の固定された正弦波信号を出力する。
【0158】
ヘテロダイン検波部38は、局部発振器37からの参照信号を用いて光ヘテロダイン検波部33からのマイクロ波信号をヘテロダイン検波することにより、マイクロ波信号をベースバンド信号に変換する。本実施形態のヘテロダイン検波部38は、ミキサ回路を用いてマイクロ波信号に参照信号を干渉させることにより、ベースバンド信号を生成する。
【0159】
AD変換部34aは、ヘテロダイン検波部38からのベースバンド信号をデジタルサンプリングし、このデジタルサンプリングされた信号を信号処理部35へ出力する。
【0160】
信号処理部35は、2乗検波部351aと合成部352とを有する。2乗検波部351aは、AD変換部34aによりベースバンド信号からデジタルサンプリングされたデジタル信号にνを中心周波数とする帯域フィルタをかけて2乗検波を行う。ここで、K個の周波数ν,k=1,2,…,Kとする。例えば、本実施形態の2乗検波部において、全体で2GHzの帯域を5MHz刻みで計測する場合は、K=401となる。
【0161】
このように、本実施形態の2乗検波部351a(信号処理部35)は、参照信号の周波数が固定されたヘテロダイン検波部38からの出力信号を広帯域で受信し、帯域内のブリルアンスペクトルV(t,ν)をそれぞれ求める。即ち、ヘテロダイン検波の参照光(参照信号)の周波数を走査する代わりに、参照光の周波数を固定して広帯域で受信したあと高速でデジタルサンプリングし、2乗検波部351aにおいて信号処理により帯域内のブリルアンスペクトルV(t,ν)をそれぞれ求める。これにより、ヘテロダイン検波のときに参照光の周波数を走査する場合(第1実施形態等)に比べて、計測の時間を1/Kに短縮することができる。
【0162】
具体的に、本実施形態のスペクトル検出部30aは、第1実施形態のスペクトル検出部30(図1参照)と以下のように異なる。
【0163】
第1実施形態のスペクトル検出部30は、ブリルアンスペクトルV(t,ν)を求めるために、検出光の検波の際に、参照光(参照信号)の周波数を走査しながら各周波数におけるスペクトルの強度を計測している。具体的に、第1実施形態のスペクトル検出部30は、参照光の周波数を走査しながら離散的な周波数ν,k=1,2,…,KについてブリルアンスペクトルV(t,ν)をそれぞれ計測する。例えば、計測する帯域を、−1GHz〜1GHz,離散周波数の間隔を5MHzとすると、K=401個の周波数についてそれぞれ計測、即ち、K=401個の周波数について光へテロダイン検波と2乗検波とがそれぞれ行われる。
【0164】
これに対し、本実施形態のスペクトル検波部30aでは、検出光の検波の際の参照信号(参照光)の周波数が固定され、AD変換部34aがベースバンド信号を高速でデジタルサンプリングし、これを2乗検波部351aが信号処理によって帯域内の各ブリルアンスペクトルV(t,ν)を求める。
【0165】
詳しくは、ベースバンド信号のサンプリング周期をΔtとし、サンプリング時間を
【0166】
【数42】

【0167】
とおく。ここで、tは、検出用光ファイバ12の第1端部12aから、当該光ファイバ12中における観測したい区間の開始位置までの検査パルス光fの往復時間を表し、Nは、デジタル信号の長さを表す。全時間T=NΔtは、検出用光ファイバ12における観測したい区間内を検査パルス光fが往復する時間Tと検査パルス光fの時間幅(パルス幅)Tとの和とする。また、2段階のヘテロダイン(光ヘテロダイン検波部33におけるヘテロダインと、ヘテロダイン検波部38におけるヘテロダイン)を経たベースバンド信号のサンプル値を
【0168】
【数43】

【0169】
とおく。
【0170】
低域フィルタh(t)のサポートは、[−T,0]にあるとすると、低域フィルタh(t)を通過した後の出力は、連続時間では、
【0171】
【数44】

【0172】
と表され、離散時間では、
【0173】
【数45】

【0174】
で近似できる。さらに、この出力は、絶対値が取られることになるため、最初の位相だけの項は不要となり、
【0175】
【数46】

【0176】
となる。そして、2乗検波部351aがこの出力を以下の式(47)に示すように2乗検波してブリルアンスペクトルV(ν)を求め、これを出力する。
【0177】
【数47】

【0178】
尚、式(46)に示す離散時間での出力Y(ν)は、低域フィルタhのインパルス応答が矩形、又は矩形の組み合わせの場合には再帰型のアルゴリズムが適用できる。詳しくは、まず、検査パルス光fが時間幅Tの矩形パルスで、これに対応する低域フィルタhが
【0179】
【数48】

【0180】
とすると、この低域フィルタhを通過した後の出力は、
【0181】
【数49】

【0182】
と表され、これを再帰型のアルゴリズムに書き換えると、
【0183】
【数50】

【0184】
【数51】

【0185】
となる。ここで、N=T/Δtは検出用光ファイバ12中の信号の数である。
【0186】
当該分布型光ファイバセンサ10aのように、検査パルス光fを構成する短パルス光fと長パルス光fとの位相差θに対応する複数のブリルアンスペクトルV(t,ν)を求め、これらを合成してセンシングを行う場合には、パラメータをθとした信号を
【0187】
【数52】

【0188】
とし、低域フィルタhを
【0189】
【数53】

【0190】
【数54】

【0191】
【数55】

【0192】
とすると、低域フィルタhを通過した後の出力は、
【0193】
【数56】

【0194】
となる。この式(56)を再帰型のアルゴリズムに書き換えると、
【0195】
【数57】

【0196】
【数58】

【0197】
となる。
【0198】
次に、以上のような分布型光ファイバセンサ10aにおける歪み又は温度の計測動作について説明する。図8は、分布型光ファイバセンサ10aによる歪み又は温度の計測動作を説明するためのフローチャートである。本実施形態では、第1実施形態と異なり、ヘテロダインで用いられる参照信号(参照光)の周波数をシフトさせない(参照信号の周波数を固定する)ため、図8のフローチャートにおいて、第1実施形態のフローチャート(図6参照)におけるS3に相当するループが行われない。
【0199】
以下、具体的に説明する。
【0200】
図8において、S1は、検査パルス光fを構成する短パルス光fと長パルス光fとの位相差θを変更させて位相差毎に実行されるループであり、S2は、S1における位相差θ(即ち、移相器26における移相量)の選択機能である。
【0201】
S5aは、図7の機能ブロック図の内容を実行する。具体的に、第1光源21から出力されたコヒーレント光は、光カプラ28により分岐され、一方が光パルス発生回路22に入力され、他方が光ヘテロダイン検波部33において参照光として用いられる。光パルス発生回路22に入力したコヒーレント光から、短パルス光生成部24と長パルス光生成部25とが、所定のパルス幅の短パルス光fと長パルス光fとを生成する。そして、移相器26が長パルス光fの位相を短パルス光fに対してθだけ遅らせ(位相シフトさせ)、光合成器27が短パルス光fと前記位相シフトされた長パルス光fとを合成し、複合パルス光である検査パルス光fを生成する。この検査パルス光fは、検出用光ファイバ12に注入される。
【0202】
光ヘテロダイン検波部33は、第1光源21からのコヒーレント光を参照光として用い、検出用光ファイバ12の第1端部12aから射出される検出光を光へテロダイン検波する。この光ヘテロダイン検波部33は、検出光を周波数が9〜11GHz程度のマイクロ波信号に変換する。そして、ヘテロダイン検波部38は、光ヘテロダイン検波部33から出力されたマイクロ波信号を局部発振器37からの参照信号を用いてベースバンド信号に変換する。このベースバンド信号は、−1GHz〜1GHz程度の帯域のベースバンド信号である。AD変換部34aは、このベースバンド信号をデジタルサンプリングして信号処理部35aに出力する。
【0203】
信号処理部35aの2乗検波部351aは、AD変換部34aからのベースバンド信号を、νを中心周波数とする帯域フィルタを通過させて2乗検波を行う。
【0204】
具体的に、2乗検波部351aにおける低域フィルタhのインパルス応答は、
【0205】
【数59】

【0206】
という形で表される。この式(59)の右辺の各要素は、検査パルス光fの要素と
【0207】
【数60】

【0208】
という関係とする。尚、信号を、νを中心周波数とする帯域フィルタを通過させることは、信号の周波数をνだけ下方にシフトさせてから低域フィルタhをかけることと等価である。
【0209】
低域フィルタhは、2乗検波部351aの中におけるデジタル処理で用いられるため、離散化されて
【0210】
【数61】

【0211】
とする。ヘテロダイン検波部38の出力信号をAD変換部34aでサンプリングしたデジタル信号を
【0212】
【数62】

【0213】
とおくと、2乗検波部351aにおける帯域フィルタの処理は
【0214】
【数63】

【0215】
で表される。2乗検波部351aは、フィルタ処理された信号を以下の式(64)に示すように2乗検波し、これを出力する。
【0216】
【数64】

【0217】
S6は、各jについてのブリルアンスペクトルV(t,ν)を合成して合成スペクトルV(t,ν)を求め、この合成スペクトルV(t,ν)をシフト量計測部40に出力する。S7は、合成スペクトルV(t,ν)に基づいてブリルアン周波数シフト量の計測を行い、計測結果を出力部16に出力する。S8では、出力部16がシフト量計測部40における測定結果を出力(表示等)する。
【0218】
以上説明したように、第2実施形態の分布型光ファイバセンサ10aによれば、ヘテロダイン検波の参照光(参照信号)の周波数を固定して広帯域で受信したあと高速でデジタルサンプリングし、信号処理によって帯域内のブリルアンスペクトルV(t,ν)をそれぞれ求めることで、計測時間を短縮することができる。詳しくは、従来は、ブリルアン散乱現象に係る光を検波するときに用いられる参照光の周波数を走査しながら周波数毎にブリルアンスペクトルV(t,ν)を求めていたが、参照光の周波数を固定して広帯域で受信したあとフィルタの中心周波数を走査する、即ち、AD変換部34aで高速でデジタルサンプリングを行ったあと、2乗検波部351aにおいて信号処理により帯域幅内のブリルアンスペクトルV(t,ν)をそれぞれ求めることで、計測時間を短縮することが可能となる。
【0219】
尚、本発明の分布型光ファイバセンサは、上記第1実施形態及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0220】
上記第1実施形態及び第2実施形態では、検査パルス光fとして空間分解能に基づくパルス幅の短パルス光fと周波数分解能の逆数に基づくパルス幅の長パルス光fとを合成した複合パルス光fが用いられているがこれに限定されない。例えば、符号系列を用いて変調をかけたパルス幅の大きなパルス光f1Aと、前記の周波数分解能の逆数に基づくパルス幅の長パルス光fと、を合成して検査パルス光fを生成してもよい。かかる検査パルス光fを用いることにより、高いSN比を達成することができる。
【0221】
具体的には、以下の通りである。
【0222】
上記第1実施形態及び第2実施形態での短パルス光fの代わりにパルス幅の大きなパルス光に符号系列を用いて変調をかけたものを用い、受信時に復調或いは変換を行うことにより、実質的にパルス幅の小さなパルス光で強い信号強度を持つものと同等の効果が得られるようにする。この符号を用いて変調をかける方法には、相関を用いるパルス圧縮の方法(パルス圧縮法)や相関を用いないでアダマール(Hadamard)行列を基礎とする方法(行列反転の方法)等があり、いずれの方法においても高いSN比が得られる。
【0223】
詳しくは、パルス圧縮法では、第1パルス光f1Aと第2パルス光fとにより、検査パルス光fが生成される。第2パルス光fは、上記第1実施形態及び第2実施形態と同様に、周波数分解の逆数に基づくパルス幅を有する長パルス光である。
【0224】
第1パルス光f1Aは、パルス幅Dの十分大きなパルス光であり、パルス内部がM個のセルに分割されている。各セルの幅dは等しく、d=D/Mであり、このdが第1実施形態及び第2実施形態の短パルス光fのパルス幅同様、分布型光ファイバセンサの空間分解能に基づく幅である。各セルは、
【0225】
【数65】

【0226】
で表される。そして、擬似乱数系列を±1という値を取る数列rm,m=1,2,…,Mとすると、第1パルス光f1Aの形状関数は、
【0227】
【数66】

【0228】
で表される。
【0229】
このとき、擬似乱数は、その自己相関関数が
【0230】
【数67】

【0231】
を満たすことが理想である。ここでδk,0は、クロネッカーのデルタを表す。単一の系列でこの性質を持つものは見つかっていないが、Golay符号系列のように2つの系列の自己相関関数の和でならば実現できる。
【0232】
他の構成は、上記第1実施形態及び第2実施形態と同じにする。
【0233】
図9は、パルス圧縮を行う場合の検査パルス光fの要素(第1パルス光f1A及び第2パルス光f)の形状関数と、低域フィルタhの要素(第1パルス光に対応する要素及び第2パルス光に対応する要素)のインパルス応答の例を示す。図9において、(A)は、第1パルス光f1Aの形状関数を示し、(B)は、第2パルス光の形状関数を示し、(C)は、第1パルス光に対応する低域フィルタの要素のインパルスレスポンスを示し、(D)は、第2パルス光に対応する低域フィルタの要素のインパルスレスポンスを示す。また、図9(A)及び図9(C)において、+及び−は、それぞれ+1及び−1を表す。
【0234】
パルス圧縮を行う場合にも合成的方法(第1実施形態及び第2実施形態と同様に複数の検査パルス光fに対応する各ブリルアンスペクトルV(t,ν)を合成して合成スペクトルV(t,ν)を求める方法)で得られる点広がり関数は、
【0235】
【数68】

【0236】
と表される。この式(68)うち、F22(t,ν)は、第2パルス光fのパルス幅を広くとることにより、周波数方向への広がりが小さくなる。このため、F22(t,ν)は、周波数方向へは定数を除くことによりδ(ν)で近似できる。ここでδ(ν)はDiracのδ関数である。従って、F11はν=0の近傍の特性が重要になるが、擬似乱数の性質の式(67)により、
【0237】
【数69】

【0238】
となる。この両辺をtで積分すれば、
【0239】
【数70】

【0240】
となるから、D1を固定してd→0とすると、
【0241】
【数71】

【0242】
となることに注意する。
【0243】
以上のことから、Ψ(t,ν)は、時間、周波数の2次元空間でのδ関数のような振る舞いをする。このとき、δ関数の係数は、Mに比例するため、パルス圧縮を行わない場合(M=1に相当する場合)に比べて観測されるブリルアンスペクトルの強度は、M倍になる。これを信号の振幅とみなせば、信号の強度はMに増大することとなる。一方、信号の時間がM倍になることからノイズの強度(分散)がM倍になる。その結果、SN比は、M/M=M倍に増大することなる。
【0244】
ここで、パルス圧縮法における擬似乱数の具体的な構成について、より詳細に説明する。先ず、上記のGolay符号を用いる方法について説明する。
【0245】
長さMの符号列のペアA,B,k=0,1,…,M−1のそれぞれの自己相関の和が0以外のシフトに対してすべて0となるとき、即ち
【0246】
【数72】

【0247】
が成立するとき、相補系列と呼ばれる。Golay符号系列は、±1という値をとるバイナリーな相補系列である。
【0248】
Golay符号を用いて変調をかけるために、第1パルス光は、以下の式(73)及び式(74)の2種類の系列(A系列とB系列)を用意する。
【0249】
【数73】

【0250】
【数74】

【0251】
また、これに対応する低域フィルタのインパルス応答を
【0252】
【数75】

【0253】
【数76】

【0254】
とする。
【0255】
Golay符号のA系列とB系列とのそれぞれに合成的方法を適用し、その後でスペクトルの和をとる。このときの点広がり関数は、
【0256】
【数77】

【0257】
であり、F11(t,ν)+F11(t,ν)のν=0での値は、Golay符号の性質により、
【0258】
【数78】

【0259】
となる。従って、理想的な擬似乱数を使った場合と同一の結果が得られる。
【0260】
次に、単極型のGolay符号を用いる方法について説明する。
【0261】
±1という2つの値を取る符号は双極型と呼ばれ、0,1という2つの値をとる符号は単極型と呼ばれる。双極型の符号は、0,πの2相位相変調で実現することになるが、単極型の符号は、振幅変調または光の強度変調という形で実現することができる。Golay符号系列は、双極型であるが、単極型に変形することができる。
【0262】
{Am},{Bm}をGolay符号系列として、次の4種類の符号系列を用意する。
【0263】
【数79】

【0264】
【数80】

【0265】
【数81】

【0266】
【数82】

【0267】
このとき、A−A=A,B−B=Bであるから、
【0268】
【数83】

【0269】
が成立する。従って、A,A,B,Bの4つの系列を用いて計測を行い、それぞれ、A,−A,B,−Bとの相関をとって重ね合わせればGolay符号と同一のδ関数が得られる。
【0270】
次に、パルス圧縮法と同様に、高いSN比が得られる行列反転の方法における行列の具体的な構成について詳細に説明する。先ず、アダマール行列を用いる方法について説明する。
【0271】
アダマール(Hadamard)行列とは、要素が±1のバイナリーな値を取り、且つ各行が互いに直交するような正方行列である。即ち、M次のアダマール行列は、
【0272】
【数84】

【0273】
を満たす。ここで、Iは、M次の単位行列である。これにより、逆行列は、
【0274】
【数85】

【0275】
で与えられる。例えば、
【0276】
【数86】

【0277】
は、アダマール行列になる。
【0278】
このアダマール行列を利用して、第1パルス光に次のようなM種類の系列を用意する。
【0279】
【数87】

【0280】
即ち、m番目の第1パルス光は、アダマール行列の第m行に相当する。第1パルス光に対応する低域フィルタは、
【0281】
【数88】

【0282】
とする。これは、各mについて共通である。
【0283】
各mについて、合成的方法によるBOTDRの計測を行ったときに得られるブリルアンスペクトルをV(t,ν),m=1,2,…,Mとおき、Hを掛けて以下の式(89)に示すようなM個のブリルアンスペクトルを求める。
【0284】
【数89】

【0285】
さらに、これらを時間をずらしながら足し合わせて
【0286】
【数90】

【0287】
とする。このようにして得られたブリルアンスペクトルは、パルス圧縮を行う場合と同様にSN比がM倍に増大する。尚、Mは、行列の要素の数に等しく、M個のセルを用いるパルス圧縮でSN比がM倍に増大したのと同様の効果になる。
【0288】
上記の行列を用いる方法でのSN比の増大効果を確かめるには、パルス圧縮の場合と同様に点広がり関数の要素のF11(t,0)の挙動を調べればよい。先ず、各第1パルス光に対するものは、
【0289】
【数91】

【0290】
となる。
【0291】
これに、Hを作用させると、
【0292】
【数92】

【0293】
となる。従って、時間をずらして重ね合わせたものは、
【0294】
【数93】

【0295】
となり、パルス圧縮の場合と同一の形になる。
【0296】
尚、上記のアダマール行列を用いる方法は、他の類似の行列にも拡張でき、同等の効果が得られる。例えば、アダマール行列の第1行と第1列とを除いた行列や、それを単極型に変換したS行列を用いる方法等がある。特に、単極型に変換したS行列を用いる方法は、シンプレックス法と呼ばれ、SN比の増大のための方法としてよく知られている。
【0297】
上記第1実施形態の分布型光ファイバセンサ10は、検出用光ファイバ12からの検出光を光ヘテロダイン検波し、その出力をAD変換して2乗検波する1段へテロダイン受信によってブリルアンスペクトルを計測しているが、これに限定されず、第2実施形態の分布型光ファイバセンサ10aと同様に、検出光を光へテロダイン検波した後、さらにヘテロダイン検波し、その出力をAD変換して2乗検波する2段へテロダイン受信によりブリルアンスペクトルを計測してもよい。
【0298】
例えば具体的に、図10に示されるように、スペクトル検出部30bの検波部31bが、光ヘテロダイン検波部33と、局部発振器37と、ヘテロダイン検波部(図10においてはミキサ回路)38と、AD変換部34と、信号処理部35とを有する。また、スペクトル検出部30bは、第2実施形態と異なり、参照信号の周波数を走査して各周波数でのブリルアンスペクトルの検出を行うために局部発振器37とヘテロダイン検波部38との間に周波数シフト部39を有する。この周波数シフト部39は、局部発振器37からの出力される参照信号(基準信号)の周波数を変調するための回路である。本実施形態の周波数シフト部39には、位相同期回路(PLL)が用いられる(図11参照)。この周波数シフト部(位相同期回路)39は、位相比較器391と、ローパスフィルタ(LPF)392と、増幅器393と電圧制御発振器394を有する。位相比較器391は、入力された2つの信号(本実施形態では、局部発振器37からの信号、及び電圧制御発振器394の出力信号)の位相差を電圧に変換して出力する回路である。ローパスフィルタ392は、帰還ループのフィルタであり、フィードバックを含む回路では短周期の信号変動が増幅されることで無用な発振が起きることがあるためこれを避けるために不要な短周期の変動を遮断する。電圧制御発振器394は、入力された電圧によって出力周波数を制御する回路である。本実施形態の電圧制御発振器394は、ローパスフィルタ392を通過した信号及び制御処理部50からの指示に基づく周波数シフト電圧を増幅器393が増幅したものを入力されることにより、前記周波数シフト電圧に応じた周波数の信号をヘテロダイン検波部38での参照信号として発振する。
【0299】
この分布型光ファイバセンサ10bでは、光ヘテロダイン検波部33が、第1光源21から分岐されたコヒーレント光を参照光として検出用光ファイバ12からの検出光を光へテロダイン検波し、周波数が9〜11GHz程度のマイクロ波信号に変換する。そして、ヘテロダイン検波部38は、光ヘテロダイン検波部33からのマイクロ波信号をヘテロダイン検波し、周波数が−1GHz〜1GHz程度のベースバンド信号に変換する。このヘテロダイン検波部38においてヘテロダイン検波の参照信号として用いられるのは、局部発振器37で生成され、周波数シフト部39でνだけ周波数がシフトされた正弦波信号である。ヘテロダイン検波部38から出力されたI,Qの2チャンネルの信号は、AD変換部34でサンプリングされ、デジタル信号として信号処理部35(詳しくは2乗検波部351)に入力される。尚、ヘテロダイン検波部38からの出力は、I,Qの2チャンネルの代わりに、ベースバンド信号の帯域を0GHz〜2GHzとした1チャンネルの信号であってもよい。この場合、AD変換部34におけるサンプリングレートが2倍となる。
【0300】
信号処理部35の2乗検波部351は、AD変換部34からの信号に低域フィルタhをかけて2乗検波を行う。このとき、低域フィルタhのインパルス応答は、第1実施形態同様に、式(34)という形とし、この式(34)の右辺の各要素を検査パルス光fの要素と式(35)という関係にすると、低域フィルタhの処理は、式(38)で表される。このときの2乗検波部351からの出力は、式(39)と表される。合成部352は、式(40)により、2乗検波部351から入力された各jに対応するブリルアンスペクトルV(t,ν)を合成して合成スペクトルV(t,ν)を求め、この合成スペクトルV(t,ν)をシフト量計測部40に出力する。
【0301】
分布型光ファイバセンサは、光ファイバ中で生じた偏光面の変動によるブリルアンスペクトルの値の偏りを抑えるために、検出光を2つの成分に分けて検波し、その2乗和を取ることにより、偏光の影響を抑えるように構成されてもよい。
【0302】
詳しくは、光ファイバ中を光が進むことでこの光の偏光状態が変化し(即ち、偏光面の変動が生じ)、光ファイバが長くなるとその制御や予測が困難となるため、従来のBOTDRでは、偏波スクランブラーと多数のパルスを用いてランダマイズしていた。しかし、この方法では、非常に多くのパルスを用いる必要があるため長い計測時間が必要であったり、ランダム化が十分でなければ、計測したブリルアンスペクトルの値が偏りを持ち十分な精度が確保できない場合があった。
【0303】
BOTDRでは、偏光ベクトルの絶対値は保存されるため、ベクトルの2つの成分(S波及びP波)を個別に計測してその2乗和をとるようにすれば偏光状態の変化の影響が排除され精度よく計測することができる。
【0304】
例えば具体的に、図12に示されるように、検波部31cに、検出光をS波とP波とに分離する偏波分離器(PSB)311と、参照光を2つに分離する光カプラ312とが設けられると共に、分離されたS波からブリルアンスペクトルを検出するための第1の光ヘテロダイン検波部33a、第1のヘテロダイン検波部38a、及び第1のAD変換部34aと、分離されたP波からブリルアンスペクトルを検出するための第2の光ヘテロダイン検波部33b、第2のヘテロダイン検波部38b、及び第2のAD変換部34bと、が設けられる。この検波部31cでは、S波とP波とがそれぞれ光へテロダイン検波、ヘテロダイン検波を経てAD変換部34a,34bでそれぞれI,Qの2チャンネルに分けてデジタルサンプリングされ、信号処理部35に入力される。2乗検波部351cは、偏光のそれぞれの成分(S波及びP波)に対して、K個の周波数ν、k=1,2,…,Kについて、νを中心周波数とする帯域フィルタをかけて2乗検波を行う。そして、2乗検波部351cは、各偏光成分についての2乗検波した出力の和をとり、その和をブリルアンスペクトルV(t,ν)として出力する。
【0305】
検査パルス光を構成する短パルス光f(又は内部がM個のセルに分割されているパルス光f1A)と長パルス光fとの位相差θが互いに異なる複数の検査パルス光fを生成する方法は限定されない。上記第1実施形態及び第2実施形態では、共通の光パルス発生回路22において前記複数の検査パルス光fが生成されているが、これに限定されず、例えば、図13に示されるように、複数の光パルス発生回路22d,22e,22f,…が設けられ、光パルス発生回路22d,22e,22f,…毎に短パルス光fと長パルス光fとの位相差θが異なる検査パルス光fが生成されるようにしてもよい。この場合、図14に示されるように、各光パルス発生回路22d,22e,22f,…に対応する検波部31d,31e,31f,…がそれぞれ設けられ、各検波部31d,31e,31f,…により検波されたブリルアンスペクトルV(t,ν)が共通の合成部352において合成される。
【0306】
具体的には、波長分割多重(WDM)が用いられる。詳しくは、複数(図13においては4つ)の検査パルス光射出部20d,20e,20f,20g,…と、第1の光合分波器(合流部)60と、光サーキュレータ14と、検出用光ファイバ12と、第2の光合分波器(分離部)61と、各検査パルス光射出部20d,20e,20f,20g,…に対応する(即ち、各検査パルス光fにおける短パルス光fと長パルス光fとの位相差θに対応する)複数の検波部31d,31e,31f,31g,…と、合成部352と、シフト量計測部40と、出力部16と、を備える。
【0307】
各検査パルス光射出部20d,20e,20f,20g,…は、第1光源21と光パルス発生回路22d,22e,22g,22f,…とをそれぞれ備える。各光パルス回路22d,22e,22g,22f,…は、短パルス光生成部24と、長パルス光生成部25と、移相変調部材26d,26e,26f,26g,…と、光合成器27とをそれぞれ備える。
【0308】
各移相変調部材26d,26e,26f,26g,…は、上記第1実施形態及び第2実施形態の移相器と異なり、短パルス光fに対する長パルス光fの位相シフト量が固定され、移相変調部材26d,26e,26f,26g,…毎に前記位相シフト量がそれぞれ異なる。例えば、各移相変調部材26d,26e,26f,26g,…として、目標とする短パルス光fと長パルス光fとの位相差θに応じた厚さのガラス等がそれぞれ用いられる。
【0309】
第1の光合分波器61は、例えば光信号多重回路等で構成され、各検査パルス光射出部20d,20e,20f,20g,…から射出される検査パルス光fを重ねて(合成して)検出用光ファイバ12に出力し、第2の光合分波器61は、例えば光信号分離回路等で構成され、各検査パルス光射出部20d,20e,20f,20g,…から射出される検査パルス光fに対応するように、検出用光ファイバ12からの検出光を分離する。
【0310】
各検波部31d,31e,31f,31g,…は、第2光源32と、光ヘテロダイン検波部33と、AD変換部34と、2乗検波部351とをそれぞれ備え、対応する検査パルス光fに基づく検出光からブリルアンスペクトルV(t,ν)をそれぞれ求める。
【0311】
合成部352は、各検波部31d,31e,31f,31g,…で求められたブリルアンスペクトルV(t,ν)を合成して合成スペクトルV(t,ν)を生成する。図14においては、合成部352として、位相合成フィルタが用いられている。
【0312】
この分布型光ファイバセンサによっても、複数のブリルアンスペクトルV(t,ν)が合成されることにより、高空間分解能で且つ高周波数分解能をもつ合成スペクトルV(t,ν)を得ることができる。しかも、複数の検査パルス光射出部20d,20e,20f,20g,…において前記位相差θの互いに異なる複数の検査パルス光fを同時に生成することができると共に、検出用光ファイバ12からの検出光に基づき複数の検波部31d,31e,31f,31g,…において各検査パルス光fに対応するブリルアンスペクトルV(t,ν)を同時に求めることができるため、計測時間を短縮することができる。
【0313】
また、検出パルス光射出部20d,20e,20f,20g,…毎に生成される検査パルス光fの第1パルス光f(又はf1A)と第2パルス光fとの位相差θを固定することができ、これにより、同一の回路等で前記位相差θの異なる複数の検査パルス光fを全て生成する場合に比べて位相差θを形成する部位の構成を簡略化することができる。
【0314】
上記第1実施形態及び第2実施形態では、検出用光ファイバ12の長尺方向のある点における振動は、その点におけるブリルアンスペクトルの周波数軸方向への振動という現象として現れることを利用すれば、検出用光ファイバ12の長尺方向における各位置の振動を検出することが可能となる。
【0315】
例えば、具体的に、合成スペクトルV(t,ν)をグラフ化したときの(図4(B)参照)肩の傾きの最も急峻な周波数を一つ特定し、この周波数でのスペクトル強度の振動を計測することにより、当該合成スペクトルV(t,ν)が得られた位置の検出用光ファイバ12の振動が計測される。この方法の感度は、スペクトルの傾きに比例するが、上記第1実施形態及び第2実施形態の分布型光ファイバセンサ10,10a等では、検出される合成スペクトルV(t,ν)が高い空間分解能を有し線幅を小さく保つことができるため、高空間分解能で且つ高感度な分布振動センサを構成することができる。
【符号の説明】
【0316】
10 分布型光ファイバセンサ
12 検出用光ファイバ(光ファイバ)
12a 第1端部(特定の端部)
20 検査パルス光射出部
22 光パルス発生回路
24 短パルス光生成部
25 長パルス光生成部
26 移相器
27 光合成器
30 スペクトル検出部
31 検波部
36 スペクトル合成部
40 シフト量計測部
f 検査パルス光(検査光)
短パルス光(第1パルス光)
長パルス光(第2パルス光)
h 低域(整合)フィルタ(フィルタ)
V ブリルアンスペクトル
合成スペクトル
θ 検査パルス光を構成する短パルス光と長パルス光との位相差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバをセンサとして用いる分布型光ファイバセンサであって、
当該センサの空間分解能に基づくパルス幅の第1パルス光を生成する第1パルス光生成部と、
当該センサの周波数分解能の逆数に基づくパルス幅の第2パルス光を生成する第2パルス光生成部と、
前記第1パルス光と前記第2パルス光との間に所定の位相差を設けてこれら第1パルス光と第2パルス光とを合成して検査光を生成し、この検査光を前記光ファイバの特定の端部に向けて射出する検査光生成部と、
前記検査光が入射した光ファイバの特定の端部から射出されるブリルアン散乱現象に係る光に基づいてブリルアンスペクトルを検出するスペクトル検出部と、
前記光ファイバに生じた歪み又は/及び温度によるブリルアン周波数シフト量を計測するシフト量計測部と、を備え、
前記検査光生成部は、前記位相差が互いに異なる複数の検査光を生成し、
前記スペクトル検出部は、前記ブリルアン散乱現象に係る光に対し、各検査光における第1パルス光と第2パルス光との位相差に対応するフィルタをそれぞれかけることにより前記複数の検査光に対応するブリルアンスペクトルをそれぞれ求める検波部と、この検波部で求められた各ブリルアンスペクトル同士を合成する合成部と、を有し、
前記シフト量計測部は、前記合成部で合成されたブリルアンスペクトルである合成スペクトルに基づいて前記ブリルアン周波数シフト量を計測することを特徴とする分布型光ファイバセンサ。
【請求項2】
前記合成部は、前記検波部で求められた各ブリルアンスペクトルから時間方向の広がりが小さく且つ周波数方向の広がりが小さな成分が抽出されるように前記各ブリルアンスペクトルの重み付き和をとることを特徴とする請求項1に記載の分布型光ファイバセンサ。
【請求項3】
前記検波部は、信号処理によって前記フィルタの中心周波数を走査することによりブリルアンスペクトルを求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の分布型光ファイバセンサ。
【請求項4】
前記スペクトル検出部は、前記ブリルアン散乱現象に係る光を水直成分と水平成分とに偏波分離する分離部を有し、
前記検波部は、前記分離部で分離されたブリルアン散乱現象に係る光の垂直成分と水平成分とに対して前記位相差に対応するフィルタをそれぞれかけたあとこれらの二乗和をとることによってブリルアンスペクトルを求めることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の分布型光ファイバセンサ。
【請求項5】
光ファイバをセンサとして用いる分布型光ファイバセンサであって、
当該センサの空間分解能に相当する距離を光が往復する時間よりも大きなパルス幅の長パルス光に基づく第1パルス光を生成する第1パルス光生成部と、
当該センサの周波数分解能の逆数に基づくパルス幅の第2パルス光を生成する第2パルス光生成部と、
前記第1パルス光と前記第2パルス光との間に所定の位相差を設けてこれら第1パルス光と第2パルス光とを合成して検査光を生成し、この検査光を前記光ファイバの特定の端部に向けて射出する検査光生成部と、
前記検査光が入射した光ファイバの特定の端部から射出されるブリルアン散乱現象に係る光に基づいてブリルアンスペクトルを検出するスペクトル検出部と、
前記光ファイバに生じた歪み又は/及び温度によるブリルアン周波数シフト量を計測するシフト量計測部と、を備え、
前記第1パルス光生成部は、前記長パルス光を前記空間分解能に基づく幅の複数のセルに分割し、この分割された長パルス光を所定の符号系列を用いて変調して前記第1パルス光を生成し、
前記検査光生成部は、前記位相差が互いに異なる複数の検査光を生成し、
前記スペクトル検出部は、前記ブリルアン散乱現象に係る光に対し、各検査光における第1パルス光と第2パルス光との位相差に対応するフィルタをそれぞれかけると共に前記第1パルス光生成部における変調に対応する復調を行った後にパルス圧縮することにより前記複数の検査光に対応するブリルアンスペクトルをそれぞれ求める検波部と、この検波部で求められた各ブリルアンスペクトル同士を合成する合成部と、を有し、
前記シフト量計測部は、前記合成部で合成されたブリルアンスペクトルである合成スペクトルに基づいて前記ブリルアン周波数シフト量を計測することを特徴とする分布型光ファイバセンサ。
【請求項6】
光ファイバをセンサとして用いる分布型光ファイバセンサであって、
当該センサの空間分解能に基づくパルス幅の第1パルス光と当該センサの空間分解能の逆数に基づく第2パルス光との間に所定の位相差を設けてこれら第1パルス光と第2パルス光とを合成した合成パルス光を生成する複数の合成パスル光生成部と、
各合成パルス光生成部で生成された合成パルス光を合流させて検査光とし、この検査光を前記光ファイバの特定の端部に向けて射出する合流部と、
前記検査光が入射した光ファイバの特定の端部から射出されるブリルアン散乱現象に係る光を前記合流部での合流前の各合成パルス光と対応する分離光に分離する分離部と、
前記分離した各分離光に対してフィルタをかけることによりブリルアンスペクトルをそれぞれ求める複数の検波部と、
各検波部で求められたブリルアンスペクトル同士を合成する合成部と、
前記合成部で合成されたブリルアンスペクトルである合成スペクトルに基づいてブリルアン周波数シフト量を計測する前記シフト量計測部と、を備え、
前記所定の位相差は、前記合成パルス光生成部毎に異なり、
各検波部は、前記分離光に対応した合成パルス光を構成する第1パルス光と第2パルス光との位相差に応じたフィルタを用いることを特徴とする分布型光ファイバセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図4】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−63146(P2012−63146A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205296(P2010−205296)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(303021609)ニューブレクス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】