説明

分布型増幅器

【課題】 設計性及び製造性に優れた高周波数帯域を有する分布型増幅器を提供する。
【解決手段】 カスコード型トランジスタを構成するゲート接地トランジスタ11のゲート端子を、伝送線路LgAと抵抗RgAからなる直列回路を介して高周波接地用キャパシタCgAに接続するとともに、伝送線路LgBと抵抗RgBからなる直列回路を介して高周波接地用キャパシタCgBに接続するようにして、伝送線路LgA、LgBの伝送線路長及び抵抗RgA、RgBの抵抗値に対する回路性能の感度を従来と比較して低下させて伝送線路長及び抵抗値の変化に対する回路特性への影響を低減し、伝送線路及び抵抗における設計マージン及び製造マージンを拡大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分布型増幅器に関し、より詳細には、カスコード型トランジスタを用いた分布型増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量光通信やUWB(Ultra Wide band:超広帯域)等の無線通信に向けた電子デバイスの開発が行われている。これらの通信システムには、高周波数帯域を有する広帯域増幅器が求められている。分布型増幅器は、伝送線路の遮断周波数で帯域が決まるため、広帯域な増幅器として注目されている。
【0003】
特に、カスコード接続したソース接地トランジスタとゲート接地トランジスタとで構成したカスコード型トランジスタを用いた分布型増幅器(例えば、特許文献1、2参照。)は、広帯域化が可能であることから注目されている。これまで、90GHzの帯域を持つ分布型増幅器が報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。当該分布型増幅器では、配線構造はコプレーナ線路を用い、回路構成はソース接地トランジスタとゲート接地トランジスタとで構成したカスコード型トランジスタを用い、ゲート接地トランジスタのゲート端子と高周波接地用キャパシタが伝送線路を介して接続されている。
【0004】
しかし、カスコード型トランジスタを用いた従来の分布型増幅器は、ゲート接地トランジスタのゲート端子と高周波接地用キャパシタを接続する伝送線路長に対する回路特性の変化量が大きく、これが回路設計を難しくしていた。
【0005】
この問題を解決するために、図7に回路構成を示す分布型増幅器が報告されている(非特許文献2参照。)。
図7は、非特許文献2に開示されている従来の分布型増幅器の構成例を示す回路図である。なお、図7において、矩形ブロックは伝送線路(より詳しくは、伝送線路のインダクタンス成分)を示し、記号▽は接地(グランドレベル)を示している。
【0006】
図7に示す分布型増幅器は、基本回路セル(単位回路)101−i(iは添え字であり、i=1〜N(Nは任意)の自然数。)を複数段並列接続して構成される。各基本回路セル101−iは、カスコード接続されたトランジスタ111、112で構成したカスコード型トランジスタをそれぞれ有する。
【0007】
各基本回路セル101−iにおいて、トランジスタ111のゲートは、直列接続された伝送線路Lgと直列抵抗Rgを介して、高周波接地用キャパシタCgの一端に接続されている。なお、高周波接地用キャパシタCgの他端は接地されている(グランドレベルに対して接続されている)。この直列抵抗Rgは、増幅器の発振を抑止するように機能する。トランジスタ111のドレインは、出力側の伝送線路115、116、117に接続され、ソースはトランジスタ112のドレインに接続されている。トランジスタ112のゲートは、入力側の伝送線路113、114に接続され、ソースは接地されている。また、直列抵抗Rgと高周波接地用キャパシタCgとの相互接続点が、バイアス供給用抵抗109を介してバイアス端子108に接続されている。
【0008】
入力端子102から入力した信号は、入力側の伝送線路(113、114等)を伝搬して、各基本回路セル101−iにより増幅される。各基本回路セル101−iで増幅された信号は、出力端子104の方向に出力側の伝送線路(115〜117等)を伝搬しながら信号の位相が合わされ合成される。そして、合成された信号が出力端子104から出力される。
【0009】
なお、図7において、103、105は、伝送線路の終端抵抗、106はバイアス端子、107は交流接地キャパシタである。したがって、入力側の伝送線路を終端抵抗103の方向に伝搬した信号は終端抵抗103において吸収され、出力側の伝送線路を終端抵抗105の方向に伝搬した信号は終端抵抗105において吸収される。
【0010】
図7に示した分布型増幅器は、図示したようにゲート接地トランジスタ111のゲート端子と高周波接地用キャパシタCgを接続する伝送線路Lgに対して直列抵抗Rgを挿入することで、伝送線路Lgの伝送線路長に対する回路性能の感度の低減を図っている。
【0011】
【特許文献1】特開平11−88079号公報
【特許文献2】特開平11−195939号公報
【非特許文献1】S.Kimura et al., “Loss-compensated distributed baseband amplifier IC's for optical transmission systems”, IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol.44, pp.1688-1693, 1996
【非特許文献2】H.Shigematsu et al., “A 49-GHz preamplifier with a transimpedance gain of 52 dBΩ using InP HEMT”, IEEE J. Solid-State Circuits, vol.36, no.9, pp.1309-1313, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、図7に示した分布型増幅器において、直列抵抗Rgの抵抗値を大きくすると、分布型増幅器の帯域低下が発生して回路特性を低下させてしまう。また、帯域が高周波になるにつれ、直列抵抗Rgの抵抗値及び伝送線路Lgの伝送線路長に対する回路性能の感度が高くなる。したがって、広帯域な分布型増幅器を実現するためには、直列抵抗Rgの抵抗値をできるだけ小さくしつつ、回路の設計精度を確保することが要求される。
【0013】
分布型増幅器における帯域を向上させるために直列抵抗Rgの抵抗値を小さくする場合、伝送線路Lgの伝送線路長に対する回路性能の感度が増大する。また、小さな抵抗値を有する抵抗を精度良く作製することも困難である。
【0014】
ここで、通常、上述したような従来の分布型増幅器はMMIC(Microwave Monolithic Integrated Circuit:モノリシックマイクロ波集積回路)として構成され、一般にMMICにおける抵抗はシート抵抗として50Ω/□〜200Ω/□のものが用いられる。仮に、シート抵抗が50Ω/□のものを用いて5Ωの抵抗を作製する場合、横幅を10μmとしたとき、長さは1μmとなる。実際の製造工程において長さ1μmのコントロールは容易ではなく、抵抗値の製造ばらつきが大きくなり、回路の歩留まり低下を招いてしまう。抵抗の横幅を大きくすることで長さを長くすることもできるが、作製される抵抗の面積が大きくなり、回路面積が増大してしまう。
【0015】
本発明の目的は、設計性及び製造性に優れた高周波数帯域を有する分布型増幅器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の分布型増幅器は、カスコード型トランジスタを用いて構成され、ゲート接地トランジスタのゲート端子が、第1の伝送線路と第1の抵抗とを有する第1の直列回路を介して第1の接地容量に接続されている。さらに、当該ゲート端子が、上記第1の直列回路とは異なる第2の伝送線路と第2の抵抗とを有する第2の直列回路を介して、上記第1の接地容量とは異なる第2の接地容量に接続されている。
【0017】
本発明によれば、ゲート接地トランジスタのゲート端子を、互いに異なる直列接続された伝送線路と抵抗を介して高周波接地用の2つの接地容量に接続することで、従来の分布型増幅器と同じ性能を実現しようとする際には、ゲート接地トランジスタのゲート端子と接地容量とを接続する伝送線路の伝送線路長及び抵抗の抵抗値をそれぞれ、従来技術を用いた場合の2倍の値にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ゲート接地トランジスタのゲート端子と接地容量とを接続する伝送線路の伝送線路長及び抵抗の抵抗値に対する回路性能の感度を従来と比較して低下させ、伝送線路長及び抵抗値の変化に対する回路特性への影響を緩和し低減することができる。したがって、当該伝送線路及び抵抗における設計マージン及び製造マージンを拡大し、設計性及び製造性に優れた高周波数帯域を有する分布型増幅器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態による分布型増幅器の構成例を示す回路図である。
図1において、矩形ブロックは伝送線路(より詳しくは、伝送線路のインダクタンス成分)を示し、記号▽は接地(グランドレベル)を示している。
【0020】
図1に示す分布型増幅器は、カスコード型トランジスタを用い、例えば100GHz以上の高周波数帯域を有するように構成したものであり、基本回路セル(単位回路)1−i(iは添え字であり、i=1〜N(Nは任意)の自然数。)を複数段並列接続して構成される。各基本回路セル1−iは、カスコード接続されたトランジスタ11、12で構成したカスコード型トランジスタをそれぞれ有している。
【0021】
各基本回路セル1−iにおいて、ゲート接地トランジスタ11のゲート端子は、直列接続された伝送線路LgAと抵抗RgAからなる直列回路を介して高周波接地用キャパシタ(接地容量)CgAに接続されているとともに、直列接続された伝送線路LgBと抵抗RgBからなる直列回路を介して高周波接地用キャパシタ(接地容量)CgBに接続されている。すなわち、ゲート接地トランジスタ11のゲート端子は、伝送線路LgAと抵抗RgA、伝送線路LgBと抵抗RgBからなるそれぞれの直列回路によって高周波接地用キャパシタCgA、CgBに接続され、当該高周波接地用キャパシタCgA、CgBを介して接地されている。
【0022】
具体的には、ゲート接地トランジスタ11のゲート端子は、伝送線路LgAを介して抵抗RgAの一端に接続されるとともに、伝送線路LgBを介して抵抗RgBの一端に接続される。抵抗RgAの他端は高周波接地用キャパシタCgAの一端に接続され、高周波接地用キャパシタCgAの他端は接地される(グランドレベルに対して接続される)。同様に、抵抗RgBの他端は高周波接地用キャパシタCgBの一端に接続され、高周波接地用キャパシタCgBの他端は接地される。
【0023】
ゲート接地トランジスタ11のドレインは、出力側の伝送線路17を介して出力側の伝送線路15、16に接続され、ソースはソース接地トランジスタ12のドレインに接続される。ソース接地トランジスタ12のゲートは入力側の伝送線路13、14に接続され、ソースは接地される。
【0024】
ここで、図1に示すように基本回路セル1−iにおいて、高周波接地用キャパシタCgA、CgBは、ゲート接地トランジスタ11(カスコード型トランジスタ11、12)の両側に配置されている。複数段接続した基本回路セルの任意の基本回路セル1−i(但し、最前段及び最後段は除く。)において、ゲート接地トランジスタ11に関して前段側に設けた高周波接地用キャパシタCgAは、前段の基本回路セルにて後段側に設け高周波接地用キャパシタCgBとして共用され、後段側に設けた高周波接地用キャパシタCgBは、後段の基本回路セルにて前段側に設ける高周波接地用キャパシタCgAとして共用される。
【0025】
また、基本回路セル1−iにおいて、伝送線路LgAと抵抗RgAと高周波接地用キャパシタCgAの組、伝送線路LgBと抵抗RgBと高周波接地用キャパシタCgBの組は、ゲート接地トランジスタ11(カスコード型トランジスタ11、12)に関して対称となるように配置されることが望ましい。
【0026】
入力端子2は入力側の伝送線路(13、14等)を介して入力線路終端抵抗3の一端に接続され、入力線路終端抵抗3の他端は接地される。また、出力端子4は出力側の伝送線路(15、16等)を介して出力線路終端抵抗5の一端に接続され、出力線路終端抵抗5の他端はバイアス端子6に接続される。バイアス端子6には交流接地用キャパシタ7が接続され、交流的に接地される。バイアス端子8は、初段の基本回路セル1−1における抵抗(RgA相当)と高周波接地用キャパシタ(CgA相当)との相互接続点に抵抗9を介して接続される。
【0027】
図1に示した本実施形態による分布型増幅器において、入力端子2から入力される信号は、入力側の伝送線路(13、14等)を伝搬して、各基本回路セル1−iにて増幅される。各基本回路セル1−iで増幅された信号は、出力端子4の方向に出力側の伝送線路(15〜17等)を伝搬しながら信号の位相が合わされ合成される。そして、合成された信号が出力端子4から出力される。なお、入力側の伝送線路を入力線路終端抵抗3の方向に伝搬した信号は入力線路終端抵抗3において吸収され、出力側の伝送線路を出力線路終端抵抗5の方向に伝搬した信号は出力線路終端抵抗5において吸収される。
【0028】
ここで、各伝送線路LgA、LgBは、図7に示した伝送線路Lgと同様の機能を有し、各抵抗RgA、RgB及び各高周波接地用キャパシタCgA、CgBは、図7に示した直列抵抗Rg及び高周波接地用キャパシタCgと同様の機能を有する。
【0029】
また、図7に示した分布型増幅器において伝送線路Lgの伝送線路長をLg0、直列抵抗Rgの抵抗値をRg0、及び高周波接地用キャパシタCgの容量値をCg0としたときに得られる回路性能(回路特性)と同じ回路性能は、各伝送線路LgA、LgBの伝送線路長を2Lg0、各抵抗RgA、RgBの抵抗値を2Rg0、及び各高周波接地用キャパシタCgA、CgBの容量値をCg0とすることで実現できる(但し、最前段の基本回路セルにて高周波接地用キャパシタCgAに相当するキャパシタ、及び最後段の基本回路セルにて高周波接地用キャパシタCgBに相当するキャパシタの容量値についてはCg0/2)。
【0030】
すなわち、本実施形態による分布型増幅器は、従来の分布型増幅器と比較して、ゲート接地トランジスタ11のゲート端子と高周波接地用キャパシタCgA、CgBとを接続する伝送線路LgA、LgBの伝送線路長及び抵抗RgA、RgBの抵抗値をそれぞれ2倍にして、従来と同じ回路性能を実現することができる。言い換えれば、伝送線路LgA、LgBの伝送線路長及び抵抗RgA、RgBの抵抗値を2倍に大きくすることができる。
【0031】
これにより、後述する図2、図3に示すように伝送線路LgA、LgBの伝送線路長及び抵抗RgA、RgBの抵抗値に対する分布型増幅器の回路性能の感度を従来と比較して1/2に低下させ、回路特性への影響を緩和して低減することができる。したがって、伝送線路LgA、LgB及び抵抗RgA、RgBにおける設計マージン及び製造マージンを拡大することができ、高周波数帯域を有する分布型増幅器の設計性及び製造性を向上させることができる。
【0032】
例えば、ゲート接地トランジスタ11のゲート端子と高周波接地用キャパシタCgA、CgBとの接続に係る伝送線路LgA、LgBの長さを、従来のものに対して2倍の長さにできるので、伝送線路長の変化に対する回路特性への影響を低減し、伝送線路LgA、LgBに係る設計マージンを拡大し確保することができる。また、例えば、ゲート接地トランジスタ11のゲート端子と高周波接地用キャパシタCgA、CgBとの接続に係る抵抗RgA、RgBの抵抗値の大きさを、従来のものに対して2倍の抵抗値にできるので、当該抵抗RgA、RgBを精度良く作製することが容易にできるようになり、回路の製造歩留まりを向上させ確保することができる。その結果、高精度な分布型増幅器の設計技術の提供を実現し、高周波数帯域を有する分布型増幅器の開発期間を短縮することができる。
【0033】
図2(A)、(B)は、本実施形態による分布型増幅器の回路特性の抵抗値依存性を説明するための図である。図2(A)は、本実施形態による分布型増幅器の回路特性を示しており、図2(B)は、比較参照のために図7に示した分布型増幅器の回路特性を示している。図2(A)、(B)において、横軸は周波数であり、縦軸は利得特性(S21)及び安定係数(K factor)である。なお、伝送線路Lg(LgA、LgBを含む。)の伝送線路長については固定している。
【0034】
図2(A)において、Sa1、Ka1は、ゲート接地トランジスタのゲート端子と高周波接地用キャパシタとを接続するための抵抗Rg(RgA又はRgBの何れかであるが、説明の便宜上、以下Rgとも称する。)の抵抗値が2Rg0(Ω)であるときの利得特性、安定係数をそれぞれ示している。また、Sa2とSa3、Ka2とKa3は、それぞれ抵抗Rgの抵抗値を2Rg0から5Ωだけ変化させた場合の利得特性と安定係数を示している。具体的には、Sa2、Ka2は、抵抗Rgの抵抗値が(2Rg0−5)(Ω)であるときの利得特性、安定係数を示し、Sa3、Ka3は、抵抗Rgの抵抗値が(2Rg0+5)(Ω)であるときの利得特性、安定係数を示している。
【0035】
また、図2(B)において、Sb1、Kb1は、抵抗Rgの抵抗値がRg0(Ω)であるときの利得特性、安定係数を示し、Sb2、Kb2は、抵抗Rgの抵抗値が(Rg0−5)(Ω)であるときの利得特性、安定係数を示し、Sb3、Kb3は、抵抗Rgの抵抗値が(Rg0+5)(Ω)であるときの利得特性、安定係数を示している。
【0036】
図2(B)に示すように図7に示した従来の分布型増幅器においては、抵抗Rgの抵抗値が5Ω変化しただけで分布型増幅器の利得特性及び安定係数は大きく変化している。例えば、抵抗Rgの抵抗値が5Ω減少すると、Sb2に示されるように周波数帯域は増大するが、Kb2に示されるように安定係数は周波数が高くなるにともない減少し、1以下となって増幅器が発振してしまう。一方、抵抗Rgの抵抗値が5Ω増加すると、Sb3、Kb3に示されるように、増幅器は安定するものの周波数帯域が低下(図2(B)に示した例では20%程度低下)してしまう。
【0037】
それに対して、図2(A)に示すように本実施形態による分布型増幅器においては、抵抗Rgの抵抗値が5Ω変化しても分布型増幅器の利得特性及び安定係数の変化は小さく、すなわち回路特性変動は小さく、抵抗Rgの抵抗値に対する感度が低減されている。本実施形態による分布型増幅器は、抵抗Rgの抵抗値変化に対して従来よりも安定した回路特性が得られる。
【0038】
図3は、本実施形態による分布型増幅器の回路特性の伝送線路長依存性を説明するための図である。図3(A)は、本実施形態による分布型増幅器の回路特性を示しており、図3(B)は、比較参照のために図7に示した分布型増幅器の回路特性を示している。図3(A)、(B)において、横軸は周波数であり、縦軸は利得特性(S21)及び安定係数(K factor)である。なお、抵抗Rg(RgA、RgBを含む。)の抵抗値については固定している。
【0039】
図3(A)において、Sa1、Ka1は、ゲート接地トランジスタのゲート端子と高周波接地用キャパシタとを接続するための伝送線路Lg(LgA又はLgBの何れかであるが、説明の便宜上、以下Lgとも称する。)の伝送線路長が2Lg0(μm)であるときの利得特性、安定係数をそれぞれ示している。また、Sa2、Ka2は、伝送線路Lgの伝送線路長が(2Lg0−10)(μm)であるときの利得特性、安定係数を示し、Sa3、Ka3は、伝送線路Lgの伝送線路長が(2Lg0+10)(μm)であるときの利得特性、安定係数を示している。
【0040】
また、図3(B)において、Sb1、Kb1は、伝送線路Lgの伝送線路長がLg0(μm)であるときの利得特性、安定係数を示し、Sb2、Kb2は、伝送線路Lgの伝送線路長が(Lg0−10)(μm)であるときの利得特性、安定係数を示し、Sb3、Kb3は、伝送線路Lgの伝送線路長が(Lg0+10)(μm)であるときの利得特性、安定係数を示している。
【0041】
図3(B)に示すように図7に示した従来の分布型増幅器においては、伝送線路Lgの伝送線路長を10μm変化させると分布型増幅器の利得特性及び安定係数は大きく変化し、特に伝送線路長を10μm長くした場合には増幅器が不安定になってしまう。
一方、図3(A)に示すように本実施形態による分布型増幅器においては、伝送線路Lgの伝送線路長を10μm変化させても回路特性の変化は小さく、伝送線路Lgの伝送線路長変化に対して従来よりも安定している。したがって、伝送線路Lgに係る設計マージンを拡大することができる。
【0042】
上記図2、図3からも明らかなように、本実施形態による分布型増幅器は、従来と比較して設計マージン及び製造マージン等を大きくでき、容易かつ高精度な回路設計を実現し、開発期間の短縮に大きく寄与することが可能である。
【0043】
ここで、一般に従来の分布型増幅器においては、図5にレイアウト模式図を示すようにコプレーナ線路が用いられていた。
図5(A)、(B)は、図7に示した従来の分布型増幅器のレイアウト模式図である。図5(A)は上面図であり、図5(B)は図5(A)におけるII−II間の断面図である。なお、図5(A)、(B)において、図7に示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0044】
図5(A)、(B)において、101は基本回路セルであり、121は接地導体(GNDパターン)である。また、122は、分布型増幅器が形成される半導体基板であり、123は伝送線路である。
【0045】
コプレーナ線路を用いた場合には、1つの配線層に伝送線路123と接地導体121とが形成されるために、伝送線路123に沿って接地導体121が配置される。したがって、例えば伝送線路Lg付近では接地導体121が島状となり、伝送線路Lgと接地導体121との距離(図5に示す矢印d1、d2参照。)が場所によって異なる。このように実際に形成される場合には伝送線路Lgと接地導体121との距離が場所によって異なるため、伝送線路Lg部分の配線特性を高精度にモデル化し、回路シミュレータに導入するなどして回路設計に反映することは困難である。特に100GHz以上の高周波では信号波長が短くなるために非常に困難であり、所望の回路特性を有する分布型増幅器を得ることが難しく、開発期間短縮の阻害要因の1つであった。
【0046】
そこで、本実施形態による分布型増幅器においては、図4にレイアウト模式図を示すような配線構造を用いる。
図4(A)、(B)は、本実施形態による分布型増幅器のレイアウト模式図である。図4(A)は上面図であり、図4(B)は図4(A)におけるI−I間の断面図である。なお、図4(A)、(B)において、図1に示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0047】
図4(A)、(B)において、1は基本回路セルであり、21は接地導体(GNDパターン)であり、22は分布型増幅器が形成される半導体基板である。23は有機系層間絶縁膜であり、24は伝送線路(配線)である。
【0048】
図4(A)、(B)に示すように、本実施形態による分布型増幅器は、分布型増幅器を構成する回路素子等が形成される半導体基板22上に複数の配線層を設け、最上層を除く配線層には当該回路素子等を接続するための伝送線路(信号配線)24を形成し、最上層の配線層には接地導体21を形成する。複数の配線層は、有機系層間絶縁膜23を用いて異なる層の配線が互いに絶縁されている。また、最上層の配線層において、外部端子(例えば、入力端子2、出力端子4、電源端子等)を設ける外部端子領域には接地導体21を形成しない。言い換えれば、最上層の配線層は、外部端子領域を除き接地導体により被覆した構造となる。
【0049】
なお、有機系層間絶縁膜23は、高周波集積回路を実現するために低誘電率、低誘電体損失の材料により形成することが望ましく、例えばポリイミドやBCB(benzocyclobutene)を用いて形成することが望ましい。また、分布型増幅器が形成される半導体基板22も高性能な高周波集積回路を実現するために、Siと比較して電子移動度の大きな能動素子を作製可能な化合物半導体を用いることが望ましく、例えばGaAs、InPを用いることが望ましい。
【0050】
このように複数の配線層を設け、最上層に被覆するように接地導体を形成することで、ゲート接地トランジスタ11のゲート端子と高周波接地用キャパシタCgA、CgBを接続するための伝送線路24(LgA、LgB)と、接地導体21との距離を回路位置によらず一定に保つことができる。これにより、伝送線路24(LgA、LgB)部分の配線特性を高精度にモデル化して容易に回路設計に反映させることができ、例えば100GHz以上の高周波であっても所望の回路特性を有する分布型増幅器を容易に作製することができる。したがって、高精度な回路設計を可能にし、さらに開発期間を短縮することができる。
【0051】
なお、上記図4(B)においては説明の便宜上、伝送線路24を形成する配線層は1層のみ図示しているが、有機系層間絶縁膜を用いて互いに絶縁し任意の数の配線層を設けて良い。すなわち、本実施形態による分布型増幅器は、有機系層間絶縁膜を用いて互いに絶縁された複数の配線層に配線を積層した多層配線構造を有し、最上層の配線が外部端子領域を除き接地導体で被覆されているように構成すれば良い。
【0052】
次に、本実施形態による分布型増幅器を実装したパッケージについて説明する。
図6(A)〜(D)は、本実施形態による分布型増幅器を半導体集積回路(例えばMMIC)として形成し、それを実装したパッケージ構成例を示す断面模式図である。
【0053】
図6(A)は、本実施形態による分布型増幅器を実装基板にフリップチップ実装した場合の断面図である。図6(A)において、31は半導体集積回路として分布型増幅器が形成されたチップ、32は実装基板、33はチップ31と実装基板32を接続するバンプである。バンプ33は、スタッドバンプやメッキバンプを適用することができ、その長さは、例えば10μm〜80μmであることが望ましい。また、フリップチップ工法は、熱圧着工法、超音波工法、樹脂を用いたNCP工法等の従来公知の任意の工法を適用することができる。
【0054】
分布型増幅器が形成されたチップ31を実装基板32にフリップチップ実装することで、チップ31を従来のワイヤボンディング法に比べて短い長さで実装基板32に接続でき、高周波信号の反射により信号が伝達されなくなる不都合が生じることを防止することができる。したがって、回路特性を劣化させることなく、より高周波まで動作するパッケージ分布型増幅器を実現することができる。また、チップ31が図4に示したような多層配線構造を有することにより、チップ31と実装基板32との間の距離に依存する近接効果が生じることを防止できるので容易に実装することができる。
【0055】
図6(B)は、図6(A)に示した構成に対して、さらにチップ31と実装基板32との間に樹脂34を充填した場合の断面図である。チップ31と実装基板32との間への樹脂34の充填は、フリップチップしたあとにアンダフィルするか、あるいはNCP工法のように実装基板32上に樹脂34を塗布した後にチップ31を押し付けてフリップチップ実装することで実現することができる。この構成によれば、チップ31を樹脂34で封止し耐湿性を向上させるとともに、チップ31と実装基板32との間の熱膨張係数の差を相殺して接続信頼性を確保することができる。
【0056】
図6(C)は、図6(B)に示した構成に対して、さらに実装基板32にスルーホール35を形成した場合の断面図である。この構成によれば、表面実装型のパッケージ分布型増幅器を実現することができ、実装基板32裏面にはんだによりマザーボードに実装したり、はんだボールを用いてBGA(Ball Grid Array)としてマザーボードに実装したりすることが可能となる。
【0057】
図6(D)は、図6(B)に示した構成に対して、さらにチップ31をモールド樹脂36により封止した場合の断面図であり、さらに信頼性を向上させることができる。
ここで、実装基板32としては、アルミナセラミックやガラスセラミックの基板を用いることができる。また、これに限らず、有機系のテフロン(登録商標)、ガラスエポキシ、BTレジン、ポリイミド、液晶ポリマーの基板を用いることができる。特に、ポリイミド及び液晶ポリマーを用いた場合には、50μm以下の薄い基板を作製することができ、スルーホール35の長さを短縮して当該部分における信号反射を低減し、より高周波で動作するパッケージ分布型増幅器を実現することができる。また、液晶ポリマーはポリイミドに比べて吸湿性が小さいので、液晶ポリマーを用いた場合には、さらに実装基板下部からの水分浸入を防止し、より耐湿性に優れたパッケージ分布型増幅器を実現することができる。
【0058】
なお、上述した説明では、電界効果トランジスタ(FET)を用いた場合を一例として説明したが、電界効果トランジスタに代えてバイポーラトランジスタを用いても良い。
また、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化のほんの一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
本発明の諸態様を付記として以下に示す。
【0059】
(付記1)カスコード型トランジスタを用いた分布型増幅器であって、
上記カスコード型トランジスタを構成するゲート接地トランジスタのゲート端子は、直列接続された第1の伝送線路と第1の抵抗とを有する第1の直列回路を介して第1の接地容量に接続されているとともに、直列接続された第2の伝送線路と第2の抵抗とを有する第2の直列回路を介して第2の接地容量に接続され、
かつ上記第1と第2の直列回路が異なり、上記第1と第2の接地容量が異なることを特徴とする分布型増幅器。
(付記2)上記接地容量は、上記カスコード型トランジスタの両側に配置されていることを特徴とする付記1記載の分布型増幅器。
(付記3)上記第1の伝送線路と上記第1の抵抗と上記第1の接地容量の組と、上記第2の伝送線路と上記第2の抵抗と上記第2の接地容量の組が、上記カスコード型トランジスタに関して対称に配置されていることを特徴とする付記1記載の分布型増幅器。
(付記4)有機系層間絶縁膜を用いて互いに絶縁された複数層に配線を積層した多層配線を有し、上記複数層のうち最上層の配線は、外部端子領域を除き接地導体で被覆されていることを特徴とする付記1〜3の何れか1項に記載の分布型増幅器。
(付記5)上記有機系層間絶縁膜は、ポリイミドあるいはBCBからなることを特徴とする付記4記載の分布型増幅器。
(付記6)上記分布型増幅器が形成される半導体基板が化合物半導体であることを特徴とする付記1〜5の何れか1項に記載の分布型増幅器。
(付記7)付記1〜6の何れか1項に記載の分布型増幅器が半導体集積回路として形成され、当該半導体集積回路が実装基板にフリップチップ実装されていることを特徴とする半導体装置。
(付記8)上記実装基板が、ポリイミドあるいは液晶ポリマーであることを特徴とする付記7記載の半導体装置。
(付記9)上記半導体集積回路と上記実装基板との間に樹脂が充填されていることを特徴とする付記7又は8記載の半導体装置。
(付記10)カスコード型トランジスタをそれぞれ有する複数段の基本回路を並列接続した分布型増幅器であって、
上記各基本回路は、上記カスコード型トランジスタに対して前段側及び後段側にそれぞれ設けられた接地容量を有し、ゲート接地トランジスタのゲート端子が、直列接続された伝送線路と抵抗からなる第1の直列回路を介して上記前段側の接地容量に接続されているとともに、上記第1の直列回路とは異なる直列接続された伝送線路と抵抗からなる第2の直列回路を介して上記後段側の接地容量に接続されていることを特徴とする分布型増幅器。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態による分布型増幅器の構成例を示す回路図である。
【図2】本実施形態による分布型増幅器の回路特性の抵抗値依存性を説明するための図である。
【図3】本実施形態による分布型増幅器の回路特性の伝送線路長依存性を説明するための図である。
【図4】本実施形態による分布型増幅器のレイアウト模式図である。
【図5】本実施形態と比較参照するための分布型増幅器のレイアウト模式図である。
【図6】本実施形態における分布型増幅器のパッケージ構成例を示す図である。
【図7】従来の分布型増幅器の構成例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0061】
1 基本回路セル
2 入力端子
4 出力端子
3、5 終端抵抗
6、8 バイアス端子
7 交流接地キャパシタ
9 バイアス供給用抵抗
11 ゲート接地トランジスタ
12 ソース接地トランジスタ
13〜17 伝送線路
LgA、LgB 伝送線路
RgA、RgB 抵抗
CgA、CgB 高周波接地用キャパシタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カスコード型トランジスタを用いた分布型増幅器であって、
上記カスコード型トランジスタを構成するゲート接地トランジスタのゲート端子は、直列接続された第1の伝送線路と第1の抵抗とを有する第1の直列回路を介して第1の接地容量に接続されているとともに、直列接続された第2の伝送線路と第2の抵抗とを有する第2の直列回路を介して第2の接地容量に接続され、
かつ上記第1と第2の直列回路が異なり、上記第1と第2の接地容量が異なることを特徴とする分布型増幅器。
【請求項2】
上記接地容量は、上記カスコード型トランジスタの両側に配置されていることを特徴とする請求項1記載の分布型増幅器。
【請求項3】
有機系層間絶縁膜を用いて互いに絶縁された複数層に配線を積層した多層配線を有し、上記複数層のうち最上層の配線は、外部端子領域を除き接地導体で被覆されていることを特徴とする請求項1又は2記載の分布型増幅器。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の分布型増幅器が半導体集積回路として形成され、当該半導体集積回路が実装基板にフリップチップ実装されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
カスコード型トランジスタをそれぞれ有する複数段の基本回路を並列接続した分布型増幅器であって、
上記各基本回路は、上記カスコード型トランジスタに対して前段側及び後段側にそれぞれ設けられた接地容量を有し、ゲート接地トランジスタのゲート端子が、直列接続された伝送線路と抵抗からなる第1の直列回路を介して上記前段側の接地容量に接続されているとともに、上記第1の直列回路とは異なる直列接続された伝送線路と抵抗からなる第2の直列回路を介して上記後段側の接地容量に接続されていることを特徴とする分布型増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−41936(P2006−41936A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219003(P2004−219003)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】