分布特定方法及び分布特定装置
【課題】 誘電性ポリマーの表面温度だけでなく、内部の温度をリアルタイムに特定することができるようにする。
【解決手段】 キャパシタンス計測部6により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスから、誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T)を特定する誘電率又は比誘電率分布特定部7を設け、温度分布特定部8が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部7により特定された複数の位置の比誘電率εr(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、誘電性ポリマーの温度分布を求める。
【解決手段】 キャパシタンス計測部6により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスから、誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T)を特定する誘電率又は比誘電率分布特定部7を設け、温度分布特定部8が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部7により特定された複数の位置の比誘電率εr(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、誘電性ポリマーの温度分布を求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリマーの温度分布をリアルタイムに計測する分布特定方法及び分布特定装置に関するものであり、例えば、溶融しているポリマーを金型内に高圧で噴射して、プラスチック製品(射出成形品)を製造する際に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
例えば、溶融しているポリマーを金型内に高圧で噴射して、プラスチック製品を製造する射出成形は、様々な分野(例えば、家電、輸送車両、航空機、医療機器、文房具などの分野)で幅広く利用されている。
近年、製品の小型化や複合化の傾向が顕著であり、例えば、マイクロ・ナノサイズの導電性粒子であるピラーに多種多様な機能性(例えば、超強度性、超導電性、芳香性、光可塑性、蛍光性など)を持たせ、そのピラーを溶融しているポリマー内に混合させて射出成形することで、革新的な複合材料の製造が可能になりつつある。
例えば、プラスチック製品として、ブルーレイなどの電子記憶媒体が製造される際には、ピラーがポリマーに混合され、ブルーレイなどの電子記憶媒体は、高密度化や3次元化が図られている。
【0003】
ただし、製品の小型化や複合化を実現するには、より高度な射出成形が求められ、射出成形品であるプラスチック製品の「そり」を微小なオーダで制御する必要がある。
即ち、溶融しているポリマーが固化する過程で、ポリマーの温度が均一でない場合(例えば、金型の周囲に冷却流が配置されている場合、金型内でポリマーが固化する過程で、金型の外側から冷却されるため、ポリマーの中心部の温度と外側の温度との差が非常に大きくなることがある)、ポリマーの固化速度が部分的に異なり、微小なオーダの「そり」等が発生することがある。「そり」等の発生は、プラスチック製品の高密度化や3次元化の妨げとなる。
したがって、ポリマーが固化する過程で、ポリマーの温度分布を計測(ポリマーの表面温度だけでなく、内部の温度を計測)して、ポリマーの温度が均一になるように制御することが重要になる。
【0004】
また、ポリマーの固化速度が部分的に異なる場合、高機能性のピラーが破壊されてしまって、ポリマーに混入しているピラーの濃度が均一にならず、ピラーの空間的な配向が一定にならないことがある。
したがって、ポリマーが固化する過程で、ピラーの濃度分布を計測して、ピラーの濃度が均一になるように制御することも重要になる。
【0005】
しかし、現時点では、ポリマーの温度分布やピラーの濃度分布をリアルタイムに計測する方法は開発されておらず(複数の熱伝対を金型の外周に設置すれば、ポリマーの表面温度を計測することができるが、内部の温度を計測することはできない)、ポリマーの温度やピラーの濃度が均一になるように制御することは極めて困難である。
このため、一般的には、ポリマーが固化する過程では、ポリマーの温度分布やピラーの濃度分布を計測せずに、製造後のプラスチック製品に対して、力学的な試験や電気的な試験を実施して、プラスチック製品を評価しているに過ぎない。
【0006】
ただし、金型の周囲に配置する冷却流路の形状を設計して、その冷却流路内を流れる水と金型内の温度を仮定し、コンピュータシミュレーションによって、その伝熱問題から、金型内の温度分布ができるだけ一定になるように、冷却流路内の温度をコントロールする手法は存在する。
しかし、この手法は、ポリマーの温度分布やピラーの濃度分布をリアルタイムに計測するものではなく、金型の周囲に配置する冷却流路の形状が予め設計されているもの以外には適用することができない。
【0007】
なお、以下の特許文献1には、多次元多点測定によって、液体、気体、固体が混じっている混相流内において、液体や気体内の固体の濃度分布や、液体内の気体分布を可視化計測できることが示されている。
即ち、計測対象物の外周に多数の電極を配置させて、各電極間のキャパシタンスやインピーダンスを測定し、画像再構成法を利用して、その測定結果から固体や気体の濃度分布を画像化する技術が開示されている。
しかし、この特許文献1では、固体や液体の濃度分布を計測する技術を開示しているだけであり、ポリマーの温度分布やピラーの濃度分布をリアルタイムに計測する技術を開示しているものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3772237号(段落番号[0018])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の分布特定方法は以上のように構成されているので、複数の熱伝対を金型の外周に設置すれば、ポリマーの表面温度を計測することができるが、内部の温度を計測することができない課題があった。
【0010】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、ポリマーの表面温度だけでなく、内部の温度をリアルタイムに特定することができる分布特定方法及び分布特定装置を得ることを目的とする。
また、この発明は、ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布をリアルタイムに特定することができる分布特定方法及び分布特定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る分布特定方法は、計測対象である誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測ステップと、キャパシタンスと誘電率又は比誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を使用して、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の誘電率又は比誘電率を特定する誘電率又は比誘電率分布特定ステップと、誘電性材料の温度と誘電率又は比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報を使用して、誘電率又は比誘電率分布特定ステップで特定された複数の位置の誘電率又は比誘電率の各々に対応する温度を特定することで、誘電性材料の温度分布として、前記複数の位置における温度を求める温度分布特定ステップとを備えるようにしたものである。
【0012】
この発明に係る分布特定方法は、誘電性材料が誘電性のポリマーであり、複数の電極間に印加される電圧が交流電圧であり、誘電性材料の温度と誘電率又は比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報が予め用意されている温度−誘電率又は比誘電率マップであるものである。
【0013】
この発明に係る分布特定方法は、温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−複素誘電率の実数部マップ)がポリマーの温度と複素誘電率の実数部との対応関係を示している場合、キャパシタンス計測ステップが、複数の電極間に交流電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスの実数部を計測し、誘電率又は比誘電率分布特定ステップ(複素誘電率の実数部分布特定ステップ)が、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスの実数部からポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部を特定し、温度分布特定ステップが、温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−複素誘電率の実数部マップ)を参照して、誘電率又は比誘電率分布特定ステップで特定された複数の位置の複素誘電率の実数部の各々に対応する温度を特定することで、ポリマーの温度分布を求めるようにしたものである。
【0014】
この発明に係る分布特定方法は、温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−複素誘電率の虚数部マップ)がポリマーの温度と複素誘電率の虚数部との対応関係を示している場合、キャパシタンス計測ステップが、複数の電極間に交流電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスの虚数部を計測し、誘電率又は比誘電率分布特定ステップ(複素誘電率の虚数部分布特定ステップ)が、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスの虚数部からポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部を特定し、温度分布特定ステップが、温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−複素誘電率の虚数部マップ)を参照して、誘電率又は比誘電率分布特定ステップで特定された複数の位置の複素誘電率の虚数部の各々に対応する温度を特定することで、ポリマーの温度分布を求めるようにしたものである。
【0015】
この発明に係る分布特定方法は、誘電性のポリマーに導電性粒子が混入している場合、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を使用して、ポリマーにおける複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定ステップと、導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を参照して、導電率分布特定ステップで特定された複数の位置の導電率の各々に対応する濃度を特定することで、導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定ステップとを備えるようにしたものである。
【0016】
この発明に係る分布特定方法は、導電性粒子が混入されている誘電性のポリマーが射出成形用の金型内に入れられており、温度分布特定ステップにおける金型内のポリマーの温度分布の特定処理と、濃度分布特定ステップにおける金型内の導電性粒子の濃度分布の特定処理とが並行して行われるようにしたものである。
【0017】
この発明に係る分布特定方法は、計測対象である導電性粒子が混入されている誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測ステップと、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を使用して、誘電性材料における複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定ステップと、導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を使用して、導電率分布特定ステップで特定された複数の位置の導電率の各々に対応する濃度を特定することで、導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定ステップとを備えるようにしたものである。
【0018】
この発明に係る分布特定方法は、誘電率又は比誘電率分布特定ステップが、キャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報として、逆問題解決手法に関する情報を利用して、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の誘電率又は比誘電率を特定するようにしたものである。
【0019】
この発明に係る分布特定方法は、導電率分布特定ステップが、キャパシタンス−導電率情報として、逆問題解決手法に関する情報を利用して、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の導電率を特定するようにしたものである。
【0020】
この発明に係る分布特定装置は、計測対象である誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極と、誘電性材料の温度と誘電率又は比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報を記憶している温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段と、前記複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測手段と、キャパシタンスと誘電率又は比誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を使用して、キャパシタンス計測手段により計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の誘電率又は比誘電率を特定する誘電率又は比誘電率分布特定手段とを設け、温度分布特定手段が、温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率情報を使用して、誘電率又は比誘電率分布特定手段により特定された複数の位置の誘電率又は比誘電率の各々に対応する温度を特定することで、誘電性材料の温度分布として、前記複数の位置における温度を求めるようにしたものである。
【0021】
この発明に係る分布特定装置は、誘電性材料に混入している導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を記憶している濃度−導電率情報記憶手段と、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を記憶しているキャパシタンス−導電率情報記憶手段と、キャパシタンス−導電率情報記憶手段により記憶されているキャパシタンス−導電率情報を使用して、キャパシタンス計測手段により計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定手段と、濃度−導電率情報記憶手段により記憶されている濃度−導電率情報を使用して、導電率分布特定手段により特定された複数の位置の導電率に対応する濃度を特定することで、導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定手段とを備えるようにしたものである。
【0022】
この発明に係る分布特定装置は、計測対象である導電性粒子が混入されている誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極と、導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を記憶している濃度−導電率情報記憶手段と、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を記憶しているキャパシタンス−導電率情報記憶手段と、前記複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測手段と、キャパシタンス−導電率情報記憶手段により記憶されているキャパシタンス−導電率情報を使用して、キャパシタンス計測手段により計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定手段とを設け、濃度分布特定手段が、濃度−導電率情報記憶手段により記憶されている濃度−導電率情報を使用して、導電率分布特定手段により特定された複数の位置の導電率に対応する濃度を特定することで、導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求めるようにしたものである。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、ポリマーの表面温度だけでなく、内部の温度をリアルタイムに特定することができる効果がある。
また、この発明によれば、ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布をリアルタイムに特定することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態1による分布特定装置を示す構成図である。
【図2A】周囲に複数の電極が設置されている誘電性ポリマーの容器を示す側面図である。
【図2B】図2Aの誘電性ポリマーの容器におけるA−A断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【図4】誘電性ポリマーの弾性率と温度の関係を示す説明図である。
【図5】キャパシタンス及び温度計測用の実験装置を示す構成図である。
【図6】キャパシタンスの計測結果の一例を示す説明図である。
【図7】ポリカーボネートの温度変化に伴うキャパシタンスの変化を示す説明図である。
【図8】温度−誘電率又は比誘電率マップの一例を示す説明図である。
【図9】この発明の実施の形態2による分布特定装置を示す構成図である。
【図10】この発明の実施の形態2による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【図11】この発明の実施の形態3による分布特定装置を示す構成図である。
【図12】この発明の実施の形態3による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【図13】この発明の実施の形態4による分布特定装置を示す構成図である。
【図14】この発明の実施の形態4による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による分布特定装置を示す構成図である。
図2Aは周囲に複数の電極が設置されている誘電性ポリマーの容器を示す側面図であり、図2Bは図2Aの誘電性ポリマーの容器におけるA−A断面図である。
図1及び図2A,2Bにおいて、容器1は計測対象の誘電性ポリマー(誘電性材料)が入れられ、容器1の周囲(誘電性ポリマーを含む空間の周囲)には、複数の電極2が設置されている。
図2A、図2Bでは、容器1の周囲にN×3個の電極21〜2Nが設置されている例を示しているが(N個の電極21〜2Nが3段に設置されている)、電極2は少なくとも2個以上設置されていればよく、電極2の個数は何個でもよい。ただし、設置される電極2の個数が多い程、誘電性ポリマーの温度分布をきめ細かく特定することができる。
【0026】
以下、この実施の形態1では、説明の簡単化のため、N個の電極21〜2Nが1段のみに設置されており(A−A断面にのみ設置されている)、電極2の個数がN個であるものとして説明する。
図2Bでは、容器1を上部から見ると、形状が丸型である例を示しているが、容器1の形状は特に限定されるものではなく、例えば、角型でもよい。
溶融している誘電性ポリマーを固化してプラスチック製品を製造する場合、例えば、射出成形用の金型が容器1として用いられる。ただし、射出成形用の金型の形状は、図2A、図2Bの容器1の形状と異なる。
【0027】
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの誘電性ポリマーの温度Tと、誘電性ポリマーの比誘電率εrとの対応関係を、例えば、公知のDebye式を用いて、シミュレーションなどにより求め、誘電性ポリマーの温度Tと比誘電率εr(f,T)の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−誘電率又は比誘電率情報)を生成する処理を実施する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4は温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3により生成された温度−誘電率又は比誘電率マップを記憶する例えばRAM(Random Access Memory)やハードディスクなどの記録媒体である。
なお、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4は温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段を構成している。
【0028】
電極選択部5はN個の電極21〜2Nの中から、キャパシタンス計測部6による計測対象の2個の電極2を順次選択する切換スイッチである。
キャパシタンス計測部6は例えばLCRメータなどから構成されており、電極選択部5により選択された2個の電極間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、2個の電極間のキャパシタンスCi,jを計測する処理を実施する。
例えば、電極選択部5により選択された2個の電極が電極2iと電極2jである場合、Ci,jは電極2iと電極2jの間のキャパシタンスとなる。
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせが66通りになるため、66通りのキャパシタンスCi,jを計測する。
なお、電極選択部5及びキャパシタンス計測部6からキャパシタンス計測手段が構成されている。
【0029】
誘電率又は比誘電率分布特定部7は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、キャパシタンスと比誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報(例えば、逆問題解決手法に関する情報)を使用して、キャパシタンス計測部6により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスから、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける比誘電率εr(f,T)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T))を特定する処理を実施する。なお、誘電率又は比誘電率分布特定部7は誘電率又は比誘電率分布特定手段を構成している。
【0030】
温度分布特定部8は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部7により特定された複数の位置の比誘電率εr(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の温度T)を求める処理を実施する。なお、温度分布特定部8は温度分布特定手段を構成している。
【0031】
図1の例では、分布特定装置の構成要素である容器1、電極21〜2N、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4、電極選択部5、キャパシタンス計測部6、誘電率又は比誘電率分布特定部7及び温度分布特定部8のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものについて示したが、分布特定装置の構成要素の一部(例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4、電極選択部5、キャパシタンス計測部6、誘電率又は比誘電率分布特定部7及び温度分布特定部8)が1つのコンピュータで構成されていてもよい。
例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4、電極選択部5、キャパシタンス計測部6、誘電率又は比誘電率分布特定部7及び温度分布特定部8を1つのコンピュータで構成する場合、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4、電極選択部5、キャパシタンス計測部6、誘電率又は比誘電率分布特定部7及び温度分布特定部8の処理内容を記述しているプログラムを当該コンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図3はこの発明の実施の形態1による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【0032】
図1の分布特定装置の処理内容を具体的に説明する前に、温度計測対象である誘電性ポリマーについて説明する。
温度計測対象である誘電性ポリマーは、例えば、合成樹脂やプラスチックなどと総称される。
具体的には、誘電性ポリマーとしては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミドなどの鎖状ポリマーが該当する。
鎖状ポリマーにおいて、鎖状分子の長軸に対して垂直な方向への運動は、絡み合った鎖状分子同士が互いに邪魔をするために妨げられる。このため、鎖状ポリマーでは、鎖状分子の長軸に沿う方向への運動(レプテーション)のみが許される性質を有している。
【0033】
誘電性ポリマーは、例えば、分子鎖の運動が凍結されているガラス領域にあるときに、温度を上昇させて、ガラス転移温度Tgに到達すると、誘電性ポリマーの弾性率や誘電率又は比誘電率が急激に変化し、さらに温度を上昇させて、融点に到達すると、液体に変化する性質を有している。
【0034】
ここで、図4は誘電性ポリマーの弾性率と温度の関係を示す説明図である。
誘電性ポリマーは、図4に示すように、温度変化に伴って、弾性率が変化することにより、低温側から順番に、分子鎖の運動が凍結されるガラス領域、主鎖のミクロブラウン運動に由来するガラス転移領域、分子鎖の絡み合いによるゴム状平坦領域、絡み合いが解けることによるゴム状流動領域、分子鎖の相互移動による液状流動領域が現れる。
弾性率の変化が最も激しいガラス転移領域の温度がガラス転移温度Tgと呼ばれ、そのガラス転移温度Tgを境にして、誘電性ポリマーの固さや誘電率又は比誘電率が急激に変化する。
【0035】
誘電性ポリマーは、交流電圧Vが印加されると、内部に電気双極子である誘電分極(電子分極、イオン分極、配向分極、空間電荷分極)が生じることがあり、空間電荷分極と配向分極は緩和型の誘電分散を示し、イオン分極と電子分極は共鳴型の誘電分散を示すようになる。
このとき、誘電性ポリマーにおける誘電率の絶対値は、各誘電分極の分極率の和に比例するが、赤外域よりも低い周波数fでは、配向分極の分極率のみが表れる。
したがって、ガラス転移温度領域における複素誘電率εと温度Tの関係は、電界の周波数fに依存(誘電分散)するが、温度の上昇下降速度にも依存しており、非常に複雑である。
【0036】
ここで、図5はキャパシタンス及び温度計測用の実験装置を示す構成図である。
図5の実験装置では、誘電性ポリマーとして、熱可塑性プラスチックの一種であるポリカーボネートを用いている。
このポリカーボネートの物性は下記の通りである。
密度:1.20g/cm3、可用温度:−100度〜+180度、融点:約250度、
屈折率:1.585±0.001、光透過率:90%±1%、
熱伝導率:0.19W/mk、誘電率ε:25.7[pF/m]、
比誘電率εr:2.9[−]
【0037】
図5の実験装置では、12個の電極を内周に備えているビーカを赤外線ヒーターの上に置いて、12個の電極とLCRメータを同軸ケーブルで繋ぎ、LCRメータを用いて、各電極間のキャパシタンスを計測している。
具体的には、電極番号(1)の電極と電極番号(2)の電極との間に、LCRメータが20μsの時間をかけて、交流電圧を印加して、それらの電極間のキャパシタンスを計測する。
次に、電極番号(1)の電極と電極番号(3)の電極との間に、LCRメータが20μsの時間をかけて、交流電圧を印加して、それらの電極間のキャパシタンスを計測する。
この計測手順を12個の電極の全ての組み合わせに適用して、合計66通りの組み合わせの電極間のキャパシタンスを計測する。図6はキャパシタンスの計測結果の一例を示す説明図である。
【0038】
このようにして、キャパシタンスを計測する際に、赤外線ヒーターによって、例えば、ビーカを10分間熱することで、ビーカ内のポリカーボネートの温度を上げると、図7に示すように、66個のキャパシタンスの平均値が減少する実験結果が得られる。
この実験結果から、電極間のキャパシタンスは、温度依存性を有していることが明らかである。
【0039】
以下、図1の分布特定装置の処理内容を具体的に説明する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3は、誘電性ポリマーの温度分布の計測を開始する前に、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの誘電性ポリマーの温度Tと、誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)の対応関係を求め、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報として、温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する(図3のステップST1)。
【0040】
例えば、誘電体のキュリーワイスの法則により、誘電性ポリマーがキュリー点(物質が磁性を失う境界の温度)以下の場合、温度Tと比誘電率εr(f,T)の関係がDebye式で表されることに着目し、例えば、下記の式(1)に示すDebye式を用いて、シミュレーションなどにより、温度Tと比誘電率εr(f,T)の対応関係を求め、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する。
【0041】
【数1】
【0042】
式(1)〜式(3)において、εrは比誘電率、εは誘電性ポリマーの複素誘電率、ε0は真空の誘電率であり、8.854×10−12F/mである。
εRは複素誘電率εの実数部、εIは複素誘電率εの虚数部、jは虚数単位である。
ρは誘電性ポリマーの密度であり、例えば誘電性ポリマーがポリカーボネートの場合、約1220kg/m3である。
NAはアボガドロの数であり、6.022137×1023である。
Mはモル質量であり、例えば誘電性ポリマーがポリカーボネートの場合、約27.846kg/モルである。
μは永久双極子モーメントであり、例えば誘電性ポリマーがポリカーボネートの場合、3.336×10−30C/mである。
kBはボルツマン定数であり、1.38066×10−23J/Kである。
αは分極率であり、単位はF/m2である。
【0043】
ここでは、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3がDebye式を用いて、シミュレーションなどにより、温度Tと比誘電率εr(f,T)の対応関係を求めるものについて示したが、これに限るものではなく、例えば、実験によって、温度Tと比誘電率εr(f,T)の対応関係を求めるようにしてもよい。
また、Debye式を用いずに、温度Tと比誘電率εr(f,T)の関係を較正曲線によって求めるようにしてもよい。
【0044】
なお、温度Tと比誘電率εr(f,T)の対応関係を求める実験方法は特に問わないが、例えば、誘電性ポリマーを加熱する加熱装置、誘電性ポリマーの温度Tを計測する熱伝対などの温度計測器、誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)を測定する比誘電率測定装置などを用意し、その温度計測器の計測結果を見ながら、加熱装置が誘電性ポリマーを段階的に加熱する。
そして、比誘電率測定装置が、例えば、誘電性ポリマーの温度TがT1,T2,・・・,TNのときの誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)をそれぞれ測定する。
これにより、下記のように、温度Tと比誘電率εr(f,T)の対応関係が求まるので、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する。
T1 ― εr(f,T1)
T2 ― εr(f,T2)
:
TN ― εr(f,TN)
【0045】
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3は、温度−誘電率又は比誘電率マップを生成すると、その温度−誘電率又は比誘電率マップを温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4に格納する(ステップST2)。
図8は温度−誘電率又は比誘電率マップの一例を示す説明図である。
図8では、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数fが1〜4MHzの範囲内であるときの誘電性ポリマーの温度Tと比誘電率εrの対応関係を示している。
具体的には、交流電圧Vの周波数fが1MHzである場合、例えば、比誘電率εrが2.0であれば、誘電性ポリマーの温度Tが約0.2[K]、比誘電率εrが1.5であれば、誘電性ポリマーの温度Tが約0.35[K]であることを示している。
【0046】
電極選択部5は、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3による温度−誘電率又は比誘電率マップの生成が完了して、その温度−誘電率又は比誘電率マップが温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4に格納されると、例えば、キャパシタンス計測部6の指示の下、N個の電極21〜2Nの中から、キャパシタンス計測部6による計測対象の2個の電極2を順次選択し、2個の電極2をキャパシタンス計測部6と電気的に接続する(ステップST3)。
例えば、N個の電極21〜2Nの中から、下記の順番で、2個の電極2を選択して、2個の電極2をキャパシタンス計測部6と電気的に接続する。
(電極21+電極22)→(電極21+電極23)→・・・→(電極21+電極2N)
→(電極22+電極23)→(電極22+電極24)→・・・→(電極22+電極2N)
:
→(電極2N−1+電極2N)
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせは66通りになる。
【0047】
キャパシタンス計測部6は、電極選択部5が2個の電極2を選択することで(ここでは、電極2iと電極2jを選択しているものとする)、電極2i及び電極2jと電気的に接続されると、電極2iと電極2jの間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jを計測する(ステップST4)。
キャパシタンス計測部6は、例えば、N=12であれば、全部で66通りのキャパシタンスC1,2,C1,3,・・・,CN−1,Nを計測する。
【0048】
誘電率又は比誘電率分布特定部7は、キャパシタンス計測部6が全ての組み合わせの電極間のキャパシタンスCi,jを計測すると(ステップST5)、例えば、逆問題解決手法を利用して、そのキャパシタンスCi,jから、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける比誘電率εr(f,T)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T))を特定する(ステップST6)。
以下、誘電率又は比誘電率分布特定部7による比誘電率εr(f,T)の特定処理を具体的に説明する。
【0049】
まず、電極2i(以下、「基準電極2i」と称する)と、電極2j(以下、「検出電極2j」と称する)の間のキャパシタンスCi,jは、ガウスの法則より、下記の式(4)が成立する。
【0050】
【数2】
式(4)において、rは容器1のA−A断面内の位置ベクトル、ε(r)は容器1のA−A断面内の位置rにおける誘電率、ε0は真空の誘電率である。
また、Vcは基準電極2iの印加電圧、Vi(r)は容器1のA−A断面内の位置rのポテンシャル、Γjは基準電極2iと検出電極2j間の電気力線が及ぶ領域である。
なお、∇は微分演算子である。
【0051】
誘電率又は比誘電率分布特定部7は、式(4)において、位置rのポテンシャルであるVi(r)が未知であるため、下記の式(5)に示すラプラス方程式を容器1のA−A断面内で仮定し、このラプラス方程式を離散化して、有限要素法であるFEM(Finite Element Method)により、Vi(r)を求める。
【0052】
【数3】
【0053】
誘電率又は比誘電率分布特定部7は、位置rのポテンシャルVi(r)を求めると、式(4)における各定数と∇Vi(r)からなる感度行列Seを得て、式(4)を整理することにより、式(4)を下記の式(6)に示すような行列表示にする。
C=SeE (6)
式(6)において、Cはキャパシタンス計測部6の計測結果であるキャパシタンスCi,jの分布を示すキャパシタンス行列、Eは誘電率の分布を示す誘電率分布行列である。
【0054】
例えば、容器1の周囲に設置されている電極2の個数が12個の場合、電極対の組み合わせが66通りになるので、この場合には、キャパシタンス行列Cは66×1の行列になる。
また、容器1のA−A断面を32×32=1024の空間解像度で表現する場合、誘電率分布行列Eは1024×1の行列になる。
このとき、感度行列Seの誘電率係数(Seの行要素)は66要素×1024組、キャパシタンス係数(Seの列要素)は1024要素×66組存在し、感度行列Seは66×1024の行列になる。
感度行列Seにおける各要素は、電極2の印加電圧、電極2の長さ、電極2の厚さなどのCT構造によって異なる。
【0055】
誘電率又は比誘電率分布特定部7は、計測値であるキャパシタンス行列Cと既知である感度行列Seを式(6)に代入して、誘電率分布行列Eを算出する。誘電率分布行列Eが算出されれば、誘電率分布行列Eにおける各々の誘電率εを真空の誘電率ε0で除算することで、比誘電率εrの分布を求めることができる。
ただし、キャパシタンス行列Cが66×1の行列、誘電率分布行列Eが1024×1の行列である場合、式数よりも未知数の方が多く、誘電率分布行列Eの解が無限数に存在してしまう不適切逆問題になる。
したがって、このような場合には、単に、キャパシタンス行列Cと感度行列Seを式(6)に代入しても、誘電率分布行列Eを算出することができないので、例えば、バックプロジェクション法、ベクトル・サンプル・パターンマッチング法、ランドウェバー法、ニュートン・ラプソン法などの逆問題解決手法を利用して、キャパシタンス行列Cと感度行列Seから誘電率分布行列Eを算出する。
バックプロジェクション法、ベクトル・サンプル・パターンマッチング法、ランドウェバー法、ニュートン・ラプソン法自体は、公知の手法であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0056】
ここでは、誘電率又は比誘電率分布特定部7が、逆問題解決手法を利用して、キャパシタンスCi,jから、誘電性ポリマーにおける比誘電率εr(f,T)の分布を特定する例を示したが、例えば、シミュレーションや実験などによって、予め、キャパシタンスCi,jと、比誘電率εr(f,T)の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を用意し、誘電率又は比誘電率分布特定部7が、そのキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を参照して、キャパシタンスCi,jに対応する比誘電率εr(f,T)を特定するようにしてもよい。
【0057】
なお、キャパシタンスCi,jと比誘電率εr(f,T)の対応関係を求めるシミュレーションや実験などの方法は特に問わないが、例えば、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jを計測するLCRメータ、電極2iと電極2jの間に印加する交流電圧Vを変化させることで、誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)を変化させる電源装置、誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)を測定する比誘電率測定装置などを用意し、その電源装置が誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)を段階的に変化させながら、LCRメータがキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMを計測する。
そして、比誘電率測定装置が、LCRメータによりキャパシタCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMが計測されたときの誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)をそれぞれ測定する。
これにより、キャパシタンスCi,jと比誘電率εr(f,T)の対応関係が求まる。
【0058】
温度分布特定部8は、誘電率又は比誘電率分布特定部7が誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T)を特定すると、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の温度T)を求める(ステップST7)。
即ち、温度分布特定部8は、例えば、誘電性ポリマーにおける温度計測位置が1024箇所である場合、温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、1024箇所の比誘電率εr(f,T)に対応する温度Tを特定することで、1024箇所の温度を特定する。
例えば、交流電圧Vの周波数fが1MHzであるとき、誘電性ポリマーにおける或る位置の比誘電率εrが2.0であれば、誘電性ポリマーの温度Tが約0.2[K]、比誘電率εrが1.5であれば、誘電性ポリマーの温度Tが約0.35[K]であると特定する。
【0059】
ここでは、温度分布特定部8が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T)の各々に対応する温度Tを特定するものについて示したが、誘電性ポリマーの温度Tと比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報として、下記の式(7)を記憶し、誘電率又は比誘電率分布特定部7により特定された比誘電率εr(f,T)を式(7)に代入することで、複数の位置の比誘電率εr(f,T)の各々に対応する温度Tを特定するようにしてもよい。
【0060】
【数4】
【0061】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、N個の電極21〜2N間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、N個の電極21〜2N間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測部6と、キャパシタンス計測部6により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスから、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T)を特定する誘電率又は比誘電率分布特定部7とを設け、温度分布特定部8が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部7により特定された複数の位置の比誘電率εr(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、誘電性ポリマーの温度分布を求めるように構成したので、誘電性ポリマーの表面温度だけでなく、内部の温度をリアルタイムに特定することができる効果を奏する。
【0062】
なお、上記の式(2)からも明らかなように、比誘電率εrは、誘電率εと真空の誘電率ε0との比ε/ε0であり、比誘電率εrに対する誘電率εは、一義的に決定される。
そのため、上記実施の形態1において、比誘電率εrではなく、誘電率εを用いて、温度分布を特定するようにしてもよい。
即ち、キャパシタンスと誘電率(比誘電率ではない)の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を使用して、キャパシタンス計測部13により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスから、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける誘電率の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の誘電率)を特定する誘電率又は比誘電率分布特定部と、温度と誘電率(比誘電率ではない)の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、その誘電率又は比誘電率分布特定部により特定された複数の位置の誘電率の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布を求める温度分布特定部とを備えるようにしてもよい。
【0063】
実施の形態2.
図9はこの発明の実施の形態2による分布特定装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの誘電性ポリマーの温度Tと、誘電性ポリマーの複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との対応関係を、例えば、公知のDebye式を用いて、シミュレーションなどにより求め、誘電性ポリマーの温度Tと複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−誘電率又は比誘電率情報)を生成する処理を実施する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12は温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11により生成された温度−誘電率又は比誘電率マップを記憶する例えばRAMやハードディスクなどの記録媒体である。
なお、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12は温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段を構成している。
【0064】
キャパシタンス計測部13は例えばLCRメータなどから構成されており、電極選択部5により選択された2個の電極間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、2個の電極間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測する処理を実施する。
例えば、電極選択部5により選択された2個の電極が電極2iと電極2jである場合、Ci,jは電極2iと電極2jの間のキャパシタンスとなる。
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせが66通りになるため、66通りのキャパシタンスCi,jの実数部を計測する。
なお、電極選択部5及びキャパシタンス計測部13からキャパシタンス計測手段が構成されている。
【0065】
誘電率又は比誘電率分布特定部14は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、キャパシタンスと誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報(例えば、逆問題解決手法に関する情報)を使用して、キャパシタンス計測部13により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの実数部から、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複素誘電率の実数部εR(f,T)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T))を特定する処理を実施する。なお、誘電率又は比誘電率分布特定部14は誘電率又は比誘電率分布特定手段を構成している。
【0066】
温度分布特定部15は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部7により特定された複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の温度T)を求める処理を実施する。なお、温度分布特定部15は温度分布特定手段を構成している。
【0067】
図9の例では、分布特定装置の構成要素である容器1、電極21〜2N、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14及び温度分布特定部15のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものについて示したが、分布特定装置の構成要素の一部(例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14及び温度分布特定部15)が1つのコンピュータで構成されていてもよい。
例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14及び温度分布特定部15を1つのコンピュータで構成する場合、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14及び温度分布特定部15の処理内容を記述しているプログラムを当該コンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図10はこの発明の実施の形態2による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【0068】
以下、図9の分布特定装置の処理内容を具体的に説明する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11は、誘電性ポリマーの温度分布の計測を開始する前に、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの誘電性ポリマーの温度Tと、誘電性ポリマーの複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との対応関係を求め、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報として、温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する(図10のステップST1)。
【0069】
例えば、誘電体のキュリーワイスの法則により、誘電性ポリマーがキュリー点以下の場合、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の関係がDebye式で表されることに着目し、例えば、上記の式(1)に示すDebye式を用いて、シミュレーションなどにより、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との対応関係を求め、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する。
【0070】
ここでは、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11が、Debye式を用いて、シミュレーションなどにより、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との対応関係を求めるものについて示したが、これに限るものではなく、例えば、実験によって、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との対応関係を求めるようにしてもよい。
また、Debye式を用いずに、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との関係を較正曲線によって求めるようにしてもよい。
【0071】
なお、温度Tと複素誘電率の実数部εR(f,T)との対応関係を求める実験方法は特に問わないが、例えば、誘電性ポリマーを加熱する加熱装置、誘電性ポリマーの温度Tを計測する熱伝対などの温度計測器、誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)を測定する誘電率測定装置などを用意し、その温度計測器の計測結果を見ながら、加熱装置が誘電性ポリマーを段階的に加熱する。
そして、誘電率測定装置が、例えば、誘電性ポリマーの温度TがT1,T2,・・・,TNのときの誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)をそれぞれ測定する。
これにより、下記のように、温度Tと複素誘電率の実数部εR(f,T)との対応関係が求まるので、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する。
T1 ― εR(f,T1)
T2 ― εR(f,T2)
:
TN ― εR(f,TN)
【0072】
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11は、温度−誘電率又は比誘電率マップを生成すると、その温度−誘電率又は比誘電率マップを温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12に格納する(ステップST12)。
ここでは、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11により生成される温度−誘電率又は比誘電率マップを図示しないが、図8の温度−誘電率又は比誘電率マップに相当するマップである。
【0073】
電極選択部5は、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11による温度−誘電率又は比誘電率マップの生成が完了して、その温度−誘電率又は比誘電率マップが温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12に格納されると、例えば、キャパシタンス計測部13の指示の下、N個の電極21〜2Nの中から、キャパシタンス計測部13による計測対象の2個の電極2を順次選択し、2個の電極2をキャパシタンス計測部13と電気的に接続する(ステップST13)。
例えば、N個の電極21〜2Nの中から、下記の順番で、2個の電極2を選択して、2個の電極2をキャパシタンス計測部6と電気的に接続する。
(電極21+電極22)→(電極21+電極23)→・・・→(電極21+電極2N)
→(電極22+電極23)→(電極22+電極24)→・・・→(電極22+電極2N)
:
→(電極2N−1+電極2N)
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせは66通りになる。
【0074】
キャパシタンス計測部13は、電極選択部5が2個の電極2を選択することで(ここでは、電極2iと電極2jを選択しているものとする)、電極2i及び電極2jと電気的に接続されると、電極2iと電極2jの間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測する(ステップST14)。
キャパシタンス計測部6は、例えば、N=12であれば、全部で66通りのキャパシタンスC1,2,C1,3,・・・,CN−1,Nの実数部を計測する。
【0075】
誘電率又は比誘電率分布特定部14は、キャパシタンス計測部13が全ての組み合わせの電極間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測すると(ステップST15)、例えば、逆問題解決手法を利用して、そのキャパシタンスCi,jの実数部から、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複素誘電率の実数部εR(f,T)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T))を特定する(ステップST16)。
誘電率又は比誘電率分布特定部14による複素誘電率の実数部εR(f,T)の具体的な特定処理は、図1の誘電率又は比誘電率分布特定部7による比誘電率εr(f,T)の特定処理と同様であるため詳細な説明を省略する。
【0076】
ここでは、誘電率又は比誘電率分布特定部14が、逆問題解決手法を利用して、キャパシタンスCi,jの実数部から、誘電性ポリマーにおける複素誘電率の実数部εR(f,T)の分布を特定する例を示したが、例えば、シミュレーションや実験などによって、予め、キャパシタンスCi,jの実数部と、複素誘電率の実数部εR(f,T)との対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を用意し、誘電率又は比誘電率分布特定部14が、そのキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を参照して、キャパシタンスCi,jの実数部に対応する複素誘電率の実数部εR(f,T)を特定するようにしてもよい。
【0077】
なお、キャパシタンスCi,jの実数部と、複素誘電率の実数部εR(f,T)との対応関係を求めるシミュレーションや実験などの方法は特に問わないが、例えば、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測するLCRメータ、電極2iと電極2jの間に印加する交流電圧Vを変化させることで、誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)を変化させる電源装置、誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)を測定する誘電率測定装置などを用意し、その電源装置が誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)を段階的に変化させながら、LCRメータがキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMの実数部を計測する。
そして、誘電率測定装置が、LCRメータによりキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMの実数部が計測されたときの誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)をそれぞれ測定する。
これにより、キャパシタンスCi,jの実数部と、複素誘電率の実数部εR(f,T)との対応関係が求まる。
【0078】
温度分布特定部15は、誘電率又は比誘電率分布特定部14が誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)を特定すると、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の温度T)を求める(ステップST17)。
即ち、温度分布特定部15は、例えば、誘電性ポリマーにおける温度計測位置が1024箇所である場合、温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、1024箇所の複素誘電率の実数部εR(f,T)に対応する温度Tを特定することで、1024箇所の温度を特定する。
【0079】
ここでは、温度分布特定部15が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)の各々に対応する温度Tを特定するものについて示したが、誘電性ポリマーの温度Tと誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報として、上記の式(7)に相当する関係式(複数の位置の比誘電率εr(f,T)の代わりに、複素誘電率の実数部εR(f,T)を変数として含む式)を記憶し、誘電率又は比誘電率分布特定部14により特定された複素誘電率の実数部εR(f,T)を当該関係式に代入することで、複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)の各々に対応する温度Tを特定するようにしてもよい。
【0080】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、N個の電極21〜2N間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、N個の電極21〜2N間のキャパシタンスの実数部を計測するキャパシタンス計測部13と、キャパシタンス計測部13により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの実数部から、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)を特定する誘電率又は比誘電率分布特定部14とを設け、温度分布特定部15が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部14により特定された複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、誘電性ポリマーの温度分布を求めるように構成したので、誘電性ポリマーの表面温度だけでなく、内部の温度をリアルタイムに特定することができる効果を奏する。
【0081】
実施の形態3.
図11はこの発明の実施の形態3による分布特定装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの誘電性ポリマーの温度Tと、誘電性ポリマーの複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との対応関係を、例えば、公知のDebye式を用いて、シミュレーションなどにより求め、誘電性ポリマーの温度Tと複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−誘電率又は比誘電率情報)を生成する処理を実施する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17は温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16により生成された温度−誘電率又は比誘電率マップを記憶する例えばRAMやハードディスクなどの記録媒体である。
なお、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17は温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段を構成している。
【0082】
キャパシタンス計測部18は例えばLCRメータなどから構成されており、電極選択部5により選択された2個の電極間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、2個の電極間のキャパシタンスCi,jの虚数部を計測する処理を実施する。
例えば、電極選択部5により選択された2個の電極が電極2iと電極2jである場合、Ci,jは電極2iと電極2jの電極間のキャパシタンスとなる。
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせが66通りになるため、66通りのキャパシタンスCi,jの虚数部を計測する。
なお、電極選択部5及びキャパシタンス計測部18からキャパシタンス計測手段が構成されている。
【0083】
誘電率又は比誘電率分布特定部19は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、キャパシタンスと誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報(例えば、逆問題解決手法に関する情報)を使用して、キャパシタンス計測部18により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの虚数部から、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複素誘電率の虚数部εI(f,T)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T))を特定する処理を実施する。なお、誘電率又は比誘電率分布特定部19は誘電率又は比誘電率分布特定手段を構成している。
【0084】
温度分布特定部20は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部19により特定された複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の温度T)を求める処理を実施する。なお、温度分布特定部20は温度分布特定手段を構成している。
【0085】
図11の例では、分布特定装置の構成要素である容器1、電極21〜2N、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17、電極選択部5、キャパシタンス計測部18、誘電率又は比誘電率分布特定部19及び温度分布特定部20のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものについて示したが、分布特定装置の構成要素の一部(例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17、電極選択部5、キャパシタンス計測部18、誘電率又は比誘電率分布特定部19及び温度分布特定部20)が1つのコンピュータで構成されていてもよい。
例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17、電極選択部5、キャパシタンス計測部18、誘電率又は比誘電率分布特定部19及び温度分布特定部20を1つのコンピュータで構成する場合、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17、電極選択部5、キャパシタンス計測部18、誘電率又は比誘電率分布特定部19及び温度分布特定部20の処理内容を記述しているプログラムを当該コンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図12はこの発明の実施の形態3による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【0086】
以下、図11の分布特定装置の処理内容を具体的に説明する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16は、誘電性ポリマーの温度分布の計測を開始する前に、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの誘電性ポリマーの温度Tと、誘電性ポリマーの複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との対応関係を求め、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報として、温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する(図12のステップST21)。
【0087】
例えば、誘電体のキュリーワイスの法則により、誘電性ポリマーがキュリー点以下の場合、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の関係がDebye式で表されることに着目し、例えば、上記の式(1)に示すDebye式を用いて、シミュレーションなどにより、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との対応関係を求め、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する。
【0088】
ここでは、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16が、Debye式を用いて、シミュレーションなどにより、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との対応関係を求めるものについて示したが、これに限るものではなく、例えば、実験によって、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との対応関係を求めるようにしてもよい。
また、Debye式を用いずに、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との関係を較正曲線によって求めるようにしてもよい。
【0089】
なお、温度Tと複素誘電率の虚数部εI(f,T)との対応関係を求める実験方法は特に問わないが、例えば、誘電性ポリマーを加熱する加熱装置、誘電性ポリマーの温度Tを計測する熱伝対などの温度計測器、誘電性ポリマーの複素誘電率の虚数部εI(f,T)を測定する誘電率測定装置などを用意し、その温度計測器の計測結果を見ながら、加熱装置が誘電性ポリマーを段階的に加熱する。
そして、誘電率測定装置が、例えば、誘電性ポリマーの温度TがT1,T2,・・・,TNのときの誘電性ポリマーの複素誘電率の虚数部εI(f,T)をそれぞれ測定する。
これにより、下記のように、温度Tと複素誘電率の虚数部εI(f,T)との対応関係が求まるので、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する。
T1 ― εI(f,T1)
T2 ― εI(f,T2)
:
TN ― εI(f,TN)
【0090】
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16は、温度−誘電率又は比誘電率マップを生成すると、その温度−誘電率又は比誘電率マップを温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17に格納する(ステップST22)。
ここでは、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16により生成される温度−誘電率又は比誘電率マップを図示しないが、図8の温度−誘電率又は比誘電率マップに相当するマップである。
【0091】
電極選択部5は、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16による温度−誘電率又は比誘電率マップの生成が完了して、その温度−誘電率又は比誘電率マップが温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17に格納されると、例えば、キャパシタンス計測部18の指示の下、N個の電極21〜2Nの中から、キャパシタンス計測部18による計測対象の2個の電極2を順次選択し、2個の電極2をキャパシタンス計測部18と電気的に接続する(ステップST23)。
例えば、N個の電極21〜2Nの中から、下記の順番で、2個の電極2を選択して、2個の電極2をキャパシタンス計測部12と電気的に接続する。
(電極21+電極22)→(電極21+電極23)→・・・→(電極21+電極2N)
→(電極22+電極23)→(電極22+電極24)→・・・→(電極22+電極2N)
:
→(電極2N−1+電極2N)
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせは66通りになる。
【0092】
キャパシタンス計測部18は、電極選択部5が2個の電極2を選択することで(ここでは、電極2iと電極2jを選択しているものとする)、電極2i及び電極2jと電気的に接続されると、電極2iと電極2jの間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jの虚数部を計測する(ステップST24)。
キャパシタンス計測部18は、例えば、N=12であれば、全部で66通りのキャパシタンスC1,2,C1,3,・・・,CN−1,Nの虚数部を計測する。
【0093】
誘電率又は比誘電率分布特定部19は、キャパシタンス計測部18が全ての組み合わせの電極間のキャパシタンスCi,jの虚数部を計測すると(ステップST25)、例えば、逆問題解決手法を利用して、そのキャパシタンスCi,jの虚数部から、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複素誘電率の虚数部εI(f,T)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T))を特定する(ステップST26)。
誘電率又は比誘電率分布特定部19による複素誘電率の虚数部εI(f,T)の具体的な特定処理は、図1の誘電率又は比誘電率分布特定部7による比誘電率εr(f,T)の特定処理と同様であるため詳細な説明を省略する。
【0094】
ここでは、誘電率又は比誘電率分布特定部19が、逆問題解決手法を利用して、キャパシタンスCi,jの虚数部から、誘電性ポリマーにおける複素誘電率の虚数部εI(f,T)の分布を特定する例を示したが、例えば、シミュレーションや実験などによって、予め、キャパシタンスCi,jの虚数部と、複素誘電率の虚数部εI(f,T)との対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を用意し、誘電率又は比誘電率分布特定部19が、そのキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を参照して、キャパシタンスCi,jの虚数部に対応する複素誘電率の虚数部εI(f,T)を特定するようにしてもよい。
【0095】
なお、キャパシタンスCi,jの虚数部と、複素誘電率の虚数部εI(f,T)との対応関係を求めるシミュレーションや実験などの方法は特に問わないが、例えば、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jの虚数部を計測するLCRメータ、電極2iと電極2jの間に印加する交流電圧Vを変化させることで、誘電性ポリマーの複素誘電率の虚数部εI(f,T)を変化させる電源装置、誘電性ポリマーの複素誘電率の虚数部εI(f,T)を測定する誘電率測定装置などを用意し、その電源装置が誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)を段階的に変化させながら、LCRメータがキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMの虚数部を計測する。
そして、誘電率測定装置が、LCRメータによりキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMの虚数部が計測されたときの誘電性ポリマーの複素誘電率の虚数部εI(f,T)をそれぞれ測定する。
これにより、キャパシタンスCi,jの虚数部と、複素誘電率の虚数部εI(f,T)との対応関係が求まる。
【0096】
温度分布特定部20は、誘電率又は比誘電率分布特定部19が誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)を特定すると、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の温度T)を求める(ステップST27)。
即ち、温度分布特定部20は、例えば、誘電性ポリマーにおける温度計測位置が1024箇所である場合、温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、1024箇所の複素誘電率の虚数部εI(f,T)に対応する温度Tを特定することで、1024箇所の温度を特定する。
【0097】
ここでは、温度分布特定部20が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)の各々に対応する温度Tを特定するものについて示したが、誘電性ポリマーの温度Tと誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報として、上記の式(7)に相当する関係式(複数の位置の比誘電率εr(f,T)の代わりに、複素誘電率の虚数部εI(f,T)を変数として含む式)を記憶し、誘電率又は比誘電率分布特定部19により特定された複素誘電率の虚数部εI(f,T)を当該関係式に代入することで、複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)の各々に対応する温度Tを特定するようにしてもよい。
【0098】
以上で明らかなように、この実施の形態3によれば、N個の電極21〜2N間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、N個の電極21〜2N間のキャパシタンスの虚数部を計測するキャパシタンス計測部18と、キャパシタンス計測部18により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの虚数部から、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)を特定する誘電率又は比誘電率分布特定部19とを設け、温度分布特定部20が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部19により特定された複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、誘電性ポリマーの温度分布を求めるように構成したので、誘電性ポリマーの表面温度だけでなく、内部の温度をリアルタイムに特定することができる効果を奏する。
【0099】
実施の形態4.
上記実施の形態1〜3では、誘電性ポリマーの温度分布を特定するものについて示したが、例えば、導電性粒子が混入されている誘電性ポリマーを射出成形用の金型内に高圧で噴射して、プラスチック製品を製造する際には、その誘電性ポリマーの温度分布を特定する他に、その導電性粒子の濃度分布を特定するようにしてもよい。
また、誘電性ポリマーの温度分布を特定せずに、導電性粒子の濃度分布だけを特定するようにしてもよい。
以下、この実施の形態4では、容器1が射出成形用の金型であり、容器1には導電性粒子が混入されている誘電性ポリマーが入れられるものとする。
【0100】
図13はこの発明の実施の形態4による分布特定装置を示す構成図であり、図において、図9と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
図13の例では、図9の分布特定装置に対して、後述する濃度−導電率マップ生成部21、濃度−導電率マップ記憶部22、導電率分布特定部23及び濃度分布特定部24を実装しているが、図1の分布特定装置に対して、後述する濃度−導電率マップ生成部21、濃度−導電率マップ記憶部22、導電率分布特定部23及び濃度分布特定部24を実装するようにしてもよい。
【0101】
濃度−導電率マップ生成部21は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの導電性粒子の濃度Dと、複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を、例えば、公知のDebye式を用いて、シミュレーションなどにより求め、導電性粒子の濃度Dと複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を示す濃度−導電率マップ(濃度−導電率情報)を生成する処理を実施する。
濃度−導電率マップ記憶部22は濃度−導電率マップ生成部21により生成された濃度−導電率マップを記憶する例えばRAMやハードディスクなどの記録媒体である。
なお、濃度−導電率マップ記憶部22は濃度−導電率情報記憶手段を構成している。
【0102】
導電率分布特定部23は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報(例えば、逆問題解決手法に関する情報)を使用して、キャパシタンス計測部13により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの実数部から、誘電性ポリマーにおける複素導電率の実数部σR(f,D)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D))を特定する処理を実施する。なお、導電率分布特定部23は導電率分布特定手段を構成している。
【0103】
濃度分布特定部24は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、濃度−導電率マップ記憶部22により記憶されている濃度−導電率マップを参照して、導電率分布特定部23により特定された複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)の各々に対応する濃度Dを特定することで、誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の濃度D)を求める処理を実施する。なお、濃度分布特定部24は濃度分布特定手段を構成している。
【0104】
図13の例では、分布特定装置の構成要素である容器1、電極21〜2N、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14、温度分布特定部15、濃度−導電率マップ生成部21、濃度−導電率マップ記憶部22、導電率分布特定部23及び濃度分布特定部24のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものについて示したが、分布特定装置の構成要素の一部(例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14、温度分布特定部15、濃度−導電率マップ生成部21、濃度−導電率マップ記憶部22、導電率分布特定部23及び濃度分布特定部24)が1つのコンピュータで構成されていてもよい。
例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14、温度分布特定部15、濃度−導電率マップ生成部21、濃度−導電率マップ記憶部22、導電率分布特定部23及び濃度分布特定部24を1つのコンピュータで構成する場合、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14、温度分布特定部15、濃度−導電率マップ生成部21、濃度−導電率マップ記憶部22、導電率分布特定部23及び濃度分布特定部24の処理内容を記述しているプログラムを当該コンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図14はこの発明の実施の形態4による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【0105】
図13の分布特定装置の処理内容を具体的に説明する前に、濃度計測対象である導電性粒子の性質について簡単に説明する。
導電性粒子を含んでいる誘電性ポリマーに交流電圧を印加すると、誘電性ポリマーにおける複素導電率の実数部と虚数部は、温度に大きく依存するが、導電性粒子における複素導電率の実数部と虚数部は、温度に大きく依存せずに、導電性粒子の濃度に大きく依存する性質を有している。
即ち、導電性粒子における複素導電率σの実数部σRと虚数部σIは、温度依存性よりも、濃度依存性の方が支配的となる。
【0106】
なお、導電性粒子における複素導電率σは、下記の式(9)のように表され、複素誘電率の虚数部εI等と下記の関係がある。
σ=σR−jσI (9)
ΣεI(f,T)=σR(f,T)/2πf (10)
σR=ωεI (11)
σI=ωσR (12)
ω=2πf
ただし、jは虚数単位、ωは測定振動数、fは測定周波数である。
【0107】
以下、図13の分布特定装置の処理内容を具体的に説明する。
ただし、誘電性ポリマーの温度分布を求める処理は、上記実施の形態2と同様であるため説明を省略する。
濃度−導電率マップ生成部21は、導電性粒子の濃度分布の計測を開始する前に、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの導電性粒子の濃度Dと、複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を求め、導電性粒子の濃度Dと複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を示す濃度−導電率情報として、濃度−導電率マップを生成する(図14のステップST31)。
例えば、公知のDebye式を用いて、シミュレーションなどにより、導電性粒子の濃度Dと複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を求め、その対応関係を示す濃度−導電率マップを生成する。
【0108】
濃度−導電率マップ生成部21は、濃度−導電率マップを生成すると、その濃度−導電率マップを濃度−導電率マップ記憶部22に格納する(ステップST32)。
ここでは、濃度−導電率マップ生成部21により生成される濃度−導電率マップを図示しないが、図8の温度−誘電率又は比誘電率マップに相当するマップである。
【0109】
ここでは、濃度−導電率マップ生成部21が、Debye式を用いて、シミュレーションなどにより、濃度Dと複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を求めるものについて示したが、これに限るものではなく、例えば、実験によって、濃度Dと複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を求めるようにしてもよい。
また、Debye式を用いずに、濃度Dと複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との関係を較正曲線によって求めるようにしてもよい。
【0110】
なお、濃度Dと複素導電率の実数部σR(f,D)との対応関係を求める実験方法は特に問わないが、例えば、濃度D1,濃度D2,・・・又は濃度DNの導電性粒子が混入されている複数の誘電性ポリマー、複素導電率の実数部σR(f,D)を計測する導電率計測器などを用意し、複数の誘電性ポリマーの中から任意の誘電性ポリマーを選択して、その誘電性ポリマーを容器1に入れるようにする。
そして、導電率計測器が、例えば、誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度DがD1,D2,・・・,DNのときの複素導電率の実数部σR(f,D)をそれぞれ計測する。
これにより、下記のように、濃度Dと複素導電率の実数部σR(f,D)との対応関係が求まるので、その対応関係を示す濃度−導電率マップを生成する。
D1 ― σR(f,T1)
D2 ― σR(f,T2)
:
DN ― σR(f,TN)
【0111】
電極選択部5は、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11による温度−誘電率又は比誘電率マップの生成が完了して、その温度−誘電率又は比誘電率マップが温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12に格納されるとともに、濃度−導電率マップ生成部21による濃度−導電率マップの生成が完了して、その濃度−導電率マップが濃度−導電率マップ記憶部22に格納されると、例えば、キャパシタンス計測部13の指示の下、N個の電極21〜2Nの中から、キャパシタンス計測部13による計測対象の2個の電極2を順次選択し、2個の電極2をキャパシタンス計測部13と電気的に接続する(ステップST33)。
例えば、N個の電極21〜2Nの中から、下記の順番で、2個の電極2を選択して、2個の電極2をキャパシタンス計測部6と電気的に接続する。
(電極21+電極22)→(電極21+電極23)→・・・→(電極21+電極2N)
→(電極22+電極23)→(電極22+電極24)→・・・→(電極22+電極2N)
:
→(電極2N−1+電極2N)
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせは66通りになる。
【0112】
キャパシタンス計測部13は、電極選択部5が2個の電極2を選択することで(ここでは、電極2iと電極2jを選択しているものとする)、電極2i及び電極2jと電気的に接続されると、電極2iと電極2jの間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測する(ステップST34)。
キャパシタンス計測部13は、例えば、N=12であれば、全部で66通りのキャパシタンスC1,2,C1,3,・・・,CN−1,Nの実数部を計測する。
【0113】
導電率分布特定部23は、キャパシタンス計測部13が全ての組み合わせの電極間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測すると(ステップST35)、例えば、逆問題解決手法を利用して、そのキャパシタンスCi,jの実数部から、誘電性ポリマーにおける複素導電率の実数部σR(f,D)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D))を特定する(ステップST36)。
なお、導電率分布特定部23による複素導電率の実数部σR(f,D)の特定原理は、図1の誘電率又は比誘電率分布特定部7による比誘電率εr(f,T)の特定原理と同様であるため、複素導電率の実数部σR(f,D)の特定処理の詳細は省略する。
【0114】
ここでは、導電率分布特定部23が、逆問題解決手法を利用して、キャパシタンスCi,jの実数部から、誘電性ポリマーにおける複素導電率の実数部σR(f,D)の分布を特定する例を示したが、例えば、シミュレーションや実験などによって、予め、キャパシタンスCi,jの実数部と、複素導電率の実数部σR(f,D)との対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を用意し、導電率分布特定部23が、そのキャパシタンス−導電率情報を参照して、キャパシタンスCi,jの実数部に対応する複素導電率の実数部σR(f,D)を特定するようにしてもよい。
【0115】
なお、キャパシタンスCi,jの実数部と、複素導電率の実数部σR(f,D)との対応関係を求めるシミュレーションや実験などの方法は特に問わないが、例えば、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測するLCRメータ、濃度D1,濃度D2,・・・又は濃度DNの導電性粒子が混入されている複数の誘電性ポリマー、複素導電率の実数部σR(f,D)を計測する導電率計測器などを用意し、複数の誘電性ポリマーの中から任意の誘電性ポリマーを選択して、その誘電性ポリマーを容器1に入れるようにする。
そして、LCRメータが、誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度DがD1,D2,・・・,DNのときのキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jNの実数部をそれぞれ計測する。
また、導電率計測器が、LCRメータによりキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMの実数部が計測されたときの複素導電率の実数部σR(f,D)をそれぞれ計測する。
これにより、キャパシタンスCi,jの実数部と、複素導電率の実数部σR(f,D)との対応関係が求まる。
【0116】
濃度分布特定部24は、導電率分布特定部23が誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)を特定すると、濃度−導電率マップ記憶部22により記憶されている濃度−導電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)の各々に対応する濃度Dを特定することで、誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の濃度D)を求める(ステップST37)。
即ち、濃度分布特定部24は、例えば、誘電性ポリマーにおける濃度計測位置が1024箇所である場合、濃度−導電率マップを参照して、1024箇所の複素導電率の実数部σR(f,D)に対応する濃度Dを特定することで、1024箇所の濃度を特定する。
【0117】
ここでは、濃度分布特定部24が、濃度−導電率マップ記憶部22により記憶されている濃度−導電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)の各々に対応する濃度Dを特定するものについて示したが、導電性粒子の濃度Dと導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報として対応関係式を記憶し、導電率分布特定部23により特定された複素導電率の実数部σR(f,D)を当該対応関係式に代入することで、複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)の各々に対応する濃度Dを特定するようにしてもよい。
【0118】
以上で明らかなように、この実施の形態4によれば、N個の電極21〜2N間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、N個の電極21〜2N間のキャパシタンスの実数部を計測するキャパシタンス計測部13と、キャパシタンス計測部13により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの実数部から、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)を特定する導電率分布特定部23とを設け、濃度分布特定部24が、濃度−導電率マップ記憶部22により記憶されている濃度−導電率マップを参照して、導電率分布特定部23により特定された複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)の各々に対応する濃度Dを特定することで、誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布を求めるように構成したので、例えば、射出成形用の金型内の誘電性ポリマーが固化する過程で、その誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布をリアルタイムに特定することができる効果を奏する。
【0119】
また、この実施の形態4によれば、温度分布特定部15と濃度分布特定部24が並列に処理を行うことで、誘電性ポリマーの温度分布の特定処理と導電性粒子の濃度分布の特定処理とが並行に行われるので、誘電性ポリマーの温度分布と導電性粒子の濃度分布が同時に特定されるようになり、その結果、射出成形される誘電性ポリマーのリアルタイムな監視制御が可能なシステム等を実現することができる効果を奏する。
【0120】
実施の形態5.
上記実施の形態4では、図9の温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14及び温度分布特定部15が実装されている分布特定装置を示したが、図11の温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17、キャパシタンス計測部18、誘電率又は比誘電率分布特定部19及び温度分布特定部20が実装されている分布特定装置であってもよい。
【0121】
ただし、この場合、濃度−導電率マップ生成部21が、導電性粒子の濃度Dと複素導電率σ(f,D)の虚数部σI(f,D)との対応関係を示す濃度−導電率マップを生成して、その濃度−導電率マップを濃度−導電率マップ記憶部22に格納する必要がある。
また、導電率分布特定部23が、キャパシタンス計測部18により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの虚数部から、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の虚数部σI(f,D)を特定し、濃度分布特定部24が、濃度−導電率マップ記憶部22により記憶されている濃度−導電率マップを参照して、導電率分布特定部23により特定された複数の位置の複素導電率の虚数部σI(f,D)の各々に対応する濃度Dを特定することで、誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布を求める必要がある。
【符号の説明】
【0122】
1 容器、21〜2N 電極、3,11,16 温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部、4,12,17 温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部(温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段)、5 電極選択部(キャパシタンス計測手段)、6,13,18 キャパシタンス計測部(キャパシタンス計測手段)、7,14,19 誘電率又は比誘電率分布特定部(誘電率又は比誘電率分布特定手段)、8,15,20 温度分布特定部(温度分布特定手段)、21 濃度−導電率マップ生成部、22 濃度−導電率マップ記憶部(濃度−導電率情報記憶手段)、23 導電率分布特定部(導電率分布特定手段)、24 濃度分布特定部(濃度分布特定手段)。
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリマーの温度分布をリアルタイムに計測する分布特定方法及び分布特定装置に関するものであり、例えば、溶融しているポリマーを金型内に高圧で噴射して、プラスチック製品(射出成形品)を製造する際に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
例えば、溶融しているポリマーを金型内に高圧で噴射して、プラスチック製品を製造する射出成形は、様々な分野(例えば、家電、輸送車両、航空機、医療機器、文房具などの分野)で幅広く利用されている。
近年、製品の小型化や複合化の傾向が顕著であり、例えば、マイクロ・ナノサイズの導電性粒子であるピラーに多種多様な機能性(例えば、超強度性、超導電性、芳香性、光可塑性、蛍光性など)を持たせ、そのピラーを溶融しているポリマー内に混合させて射出成形することで、革新的な複合材料の製造が可能になりつつある。
例えば、プラスチック製品として、ブルーレイなどの電子記憶媒体が製造される際には、ピラーがポリマーに混合され、ブルーレイなどの電子記憶媒体は、高密度化や3次元化が図られている。
【0003】
ただし、製品の小型化や複合化を実現するには、より高度な射出成形が求められ、射出成形品であるプラスチック製品の「そり」を微小なオーダで制御する必要がある。
即ち、溶融しているポリマーが固化する過程で、ポリマーの温度が均一でない場合(例えば、金型の周囲に冷却流が配置されている場合、金型内でポリマーが固化する過程で、金型の外側から冷却されるため、ポリマーの中心部の温度と外側の温度との差が非常に大きくなることがある)、ポリマーの固化速度が部分的に異なり、微小なオーダの「そり」等が発生することがある。「そり」等の発生は、プラスチック製品の高密度化や3次元化の妨げとなる。
したがって、ポリマーが固化する過程で、ポリマーの温度分布を計測(ポリマーの表面温度だけでなく、内部の温度を計測)して、ポリマーの温度が均一になるように制御することが重要になる。
【0004】
また、ポリマーの固化速度が部分的に異なる場合、高機能性のピラーが破壊されてしまって、ポリマーに混入しているピラーの濃度が均一にならず、ピラーの空間的な配向が一定にならないことがある。
したがって、ポリマーが固化する過程で、ピラーの濃度分布を計測して、ピラーの濃度が均一になるように制御することも重要になる。
【0005】
しかし、現時点では、ポリマーの温度分布やピラーの濃度分布をリアルタイムに計測する方法は開発されておらず(複数の熱伝対を金型の外周に設置すれば、ポリマーの表面温度を計測することができるが、内部の温度を計測することはできない)、ポリマーの温度やピラーの濃度が均一になるように制御することは極めて困難である。
このため、一般的には、ポリマーが固化する過程では、ポリマーの温度分布やピラーの濃度分布を計測せずに、製造後のプラスチック製品に対して、力学的な試験や電気的な試験を実施して、プラスチック製品を評価しているに過ぎない。
【0006】
ただし、金型の周囲に配置する冷却流路の形状を設計して、その冷却流路内を流れる水と金型内の温度を仮定し、コンピュータシミュレーションによって、その伝熱問題から、金型内の温度分布ができるだけ一定になるように、冷却流路内の温度をコントロールする手法は存在する。
しかし、この手法は、ポリマーの温度分布やピラーの濃度分布をリアルタイムに計測するものではなく、金型の周囲に配置する冷却流路の形状が予め設計されているもの以外には適用することができない。
【0007】
なお、以下の特許文献1には、多次元多点測定によって、液体、気体、固体が混じっている混相流内において、液体や気体内の固体の濃度分布や、液体内の気体分布を可視化計測できることが示されている。
即ち、計測対象物の外周に多数の電極を配置させて、各電極間のキャパシタンスやインピーダンスを測定し、画像再構成法を利用して、その測定結果から固体や気体の濃度分布を画像化する技術が開示されている。
しかし、この特許文献1では、固体や液体の濃度分布を計測する技術を開示しているだけであり、ポリマーの温度分布やピラーの濃度分布をリアルタイムに計測する技術を開示しているものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3772237号(段落番号[0018])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の分布特定方法は以上のように構成されているので、複数の熱伝対を金型の外周に設置すれば、ポリマーの表面温度を計測することができるが、内部の温度を計測することができない課題があった。
【0010】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、ポリマーの表面温度だけでなく、内部の温度をリアルタイムに特定することができる分布特定方法及び分布特定装置を得ることを目的とする。
また、この発明は、ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布をリアルタイムに特定することができる分布特定方法及び分布特定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る分布特定方法は、計測対象である誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測ステップと、キャパシタンスと誘電率又は比誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を使用して、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の誘電率又は比誘電率を特定する誘電率又は比誘電率分布特定ステップと、誘電性材料の温度と誘電率又は比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報を使用して、誘電率又は比誘電率分布特定ステップで特定された複数の位置の誘電率又は比誘電率の各々に対応する温度を特定することで、誘電性材料の温度分布として、前記複数の位置における温度を求める温度分布特定ステップとを備えるようにしたものである。
【0012】
この発明に係る分布特定方法は、誘電性材料が誘電性のポリマーであり、複数の電極間に印加される電圧が交流電圧であり、誘電性材料の温度と誘電率又は比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報が予め用意されている温度−誘電率又は比誘電率マップであるものである。
【0013】
この発明に係る分布特定方法は、温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−複素誘電率の実数部マップ)がポリマーの温度と複素誘電率の実数部との対応関係を示している場合、キャパシタンス計測ステップが、複数の電極間に交流電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスの実数部を計測し、誘電率又は比誘電率分布特定ステップ(複素誘電率の実数部分布特定ステップ)が、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスの実数部からポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部を特定し、温度分布特定ステップが、温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−複素誘電率の実数部マップ)を参照して、誘電率又は比誘電率分布特定ステップで特定された複数の位置の複素誘電率の実数部の各々に対応する温度を特定することで、ポリマーの温度分布を求めるようにしたものである。
【0014】
この発明に係る分布特定方法は、温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−複素誘電率の虚数部マップ)がポリマーの温度と複素誘電率の虚数部との対応関係を示している場合、キャパシタンス計測ステップが、複数の電極間に交流電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスの虚数部を計測し、誘電率又は比誘電率分布特定ステップ(複素誘電率の虚数部分布特定ステップ)が、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスの虚数部からポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部を特定し、温度分布特定ステップが、温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−複素誘電率の虚数部マップ)を参照して、誘電率又は比誘電率分布特定ステップで特定された複数の位置の複素誘電率の虚数部の各々に対応する温度を特定することで、ポリマーの温度分布を求めるようにしたものである。
【0015】
この発明に係る分布特定方法は、誘電性のポリマーに導電性粒子が混入している場合、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を使用して、ポリマーにおける複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定ステップと、導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を参照して、導電率分布特定ステップで特定された複数の位置の導電率の各々に対応する濃度を特定することで、導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定ステップとを備えるようにしたものである。
【0016】
この発明に係る分布特定方法は、導電性粒子が混入されている誘電性のポリマーが射出成形用の金型内に入れられており、温度分布特定ステップにおける金型内のポリマーの温度分布の特定処理と、濃度分布特定ステップにおける金型内の導電性粒子の濃度分布の特定処理とが並行して行われるようにしたものである。
【0017】
この発明に係る分布特定方法は、計測対象である導電性粒子が混入されている誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測ステップと、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を使用して、誘電性材料における複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定ステップと、導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を使用して、導電率分布特定ステップで特定された複数の位置の導電率の各々に対応する濃度を特定することで、導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定ステップとを備えるようにしたものである。
【0018】
この発明に係る分布特定方法は、誘電率又は比誘電率分布特定ステップが、キャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報として、逆問題解決手法に関する情報を利用して、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の誘電率又は比誘電率を特定するようにしたものである。
【0019】
この発明に係る分布特定方法は、導電率分布特定ステップが、キャパシタンス−導電率情報として、逆問題解決手法に関する情報を利用して、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の導電率を特定するようにしたものである。
【0020】
この発明に係る分布特定装置は、計測対象である誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極と、誘電性材料の温度と誘電率又は比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報を記憶している温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段と、前記複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測手段と、キャパシタンスと誘電率又は比誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を使用して、キャパシタンス計測手段により計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の誘電率又は比誘電率を特定する誘電率又は比誘電率分布特定手段とを設け、温度分布特定手段が、温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率情報を使用して、誘電率又は比誘電率分布特定手段により特定された複数の位置の誘電率又は比誘電率の各々に対応する温度を特定することで、誘電性材料の温度分布として、前記複数の位置における温度を求めるようにしたものである。
【0021】
この発明に係る分布特定装置は、誘電性材料に混入している導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を記憶している濃度−導電率情報記憶手段と、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を記憶しているキャパシタンス−導電率情報記憶手段と、キャパシタンス−導電率情報記憶手段により記憶されているキャパシタンス−導電率情報を使用して、キャパシタンス計測手段により計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定手段と、濃度−導電率情報記憶手段により記憶されている濃度−導電率情報を使用して、導電率分布特定手段により特定された複数の位置の導電率に対応する濃度を特定することで、導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定手段とを備えるようにしたものである。
【0022】
この発明に係る分布特定装置は、計測対象である導電性粒子が混入されている誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極と、導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を記憶している濃度−導電率情報記憶手段と、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を記憶しているキャパシタンス−導電率情報記憶手段と、前記複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測手段と、キャパシタンス−導電率情報記憶手段により記憶されているキャパシタンス−導電率情報を使用して、キャパシタンス計測手段により計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定手段とを設け、濃度分布特定手段が、濃度−導電率情報記憶手段により記憶されている濃度−導電率情報を使用して、導電率分布特定手段により特定された複数の位置の導電率に対応する濃度を特定することで、導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求めるようにしたものである。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、ポリマーの表面温度だけでなく、内部の温度をリアルタイムに特定することができる効果がある。
また、この発明によれば、ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布をリアルタイムに特定することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態1による分布特定装置を示す構成図である。
【図2A】周囲に複数の電極が設置されている誘電性ポリマーの容器を示す側面図である。
【図2B】図2Aの誘電性ポリマーの容器におけるA−A断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【図4】誘電性ポリマーの弾性率と温度の関係を示す説明図である。
【図5】キャパシタンス及び温度計測用の実験装置を示す構成図である。
【図6】キャパシタンスの計測結果の一例を示す説明図である。
【図7】ポリカーボネートの温度変化に伴うキャパシタンスの変化を示す説明図である。
【図8】温度−誘電率又は比誘電率マップの一例を示す説明図である。
【図9】この発明の実施の形態2による分布特定装置を示す構成図である。
【図10】この発明の実施の形態2による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【図11】この発明の実施の形態3による分布特定装置を示す構成図である。
【図12】この発明の実施の形態3による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【図13】この発明の実施の形態4による分布特定装置を示す構成図である。
【図14】この発明の実施の形態4による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による分布特定装置を示す構成図である。
図2Aは周囲に複数の電極が設置されている誘電性ポリマーの容器を示す側面図であり、図2Bは図2Aの誘電性ポリマーの容器におけるA−A断面図である。
図1及び図2A,2Bにおいて、容器1は計測対象の誘電性ポリマー(誘電性材料)が入れられ、容器1の周囲(誘電性ポリマーを含む空間の周囲)には、複数の電極2が設置されている。
図2A、図2Bでは、容器1の周囲にN×3個の電極21〜2Nが設置されている例を示しているが(N個の電極21〜2Nが3段に設置されている)、電極2は少なくとも2個以上設置されていればよく、電極2の個数は何個でもよい。ただし、設置される電極2の個数が多い程、誘電性ポリマーの温度分布をきめ細かく特定することができる。
【0026】
以下、この実施の形態1では、説明の簡単化のため、N個の電極21〜2Nが1段のみに設置されており(A−A断面にのみ設置されている)、電極2の個数がN個であるものとして説明する。
図2Bでは、容器1を上部から見ると、形状が丸型である例を示しているが、容器1の形状は特に限定されるものではなく、例えば、角型でもよい。
溶融している誘電性ポリマーを固化してプラスチック製品を製造する場合、例えば、射出成形用の金型が容器1として用いられる。ただし、射出成形用の金型の形状は、図2A、図2Bの容器1の形状と異なる。
【0027】
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの誘電性ポリマーの温度Tと、誘電性ポリマーの比誘電率εrとの対応関係を、例えば、公知のDebye式を用いて、シミュレーションなどにより求め、誘電性ポリマーの温度Tと比誘電率εr(f,T)の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−誘電率又は比誘電率情報)を生成する処理を実施する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4は温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3により生成された温度−誘電率又は比誘電率マップを記憶する例えばRAM(Random Access Memory)やハードディスクなどの記録媒体である。
なお、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4は温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段を構成している。
【0028】
電極選択部5はN個の電極21〜2Nの中から、キャパシタンス計測部6による計測対象の2個の電極2を順次選択する切換スイッチである。
キャパシタンス計測部6は例えばLCRメータなどから構成されており、電極選択部5により選択された2個の電極間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、2個の電極間のキャパシタンスCi,jを計測する処理を実施する。
例えば、電極選択部5により選択された2個の電極が電極2iと電極2jである場合、Ci,jは電極2iと電極2jの間のキャパシタンスとなる。
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせが66通りになるため、66通りのキャパシタンスCi,jを計測する。
なお、電極選択部5及びキャパシタンス計測部6からキャパシタンス計測手段が構成されている。
【0029】
誘電率又は比誘電率分布特定部7は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、キャパシタンスと比誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報(例えば、逆問題解決手法に関する情報)を使用して、キャパシタンス計測部6により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスから、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける比誘電率εr(f,T)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T))を特定する処理を実施する。なお、誘電率又は比誘電率分布特定部7は誘電率又は比誘電率分布特定手段を構成している。
【0030】
温度分布特定部8は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部7により特定された複数の位置の比誘電率εr(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の温度T)を求める処理を実施する。なお、温度分布特定部8は温度分布特定手段を構成している。
【0031】
図1の例では、分布特定装置の構成要素である容器1、電極21〜2N、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4、電極選択部5、キャパシタンス計測部6、誘電率又は比誘電率分布特定部7及び温度分布特定部8のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものについて示したが、分布特定装置の構成要素の一部(例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4、電極選択部5、キャパシタンス計測部6、誘電率又は比誘電率分布特定部7及び温度分布特定部8)が1つのコンピュータで構成されていてもよい。
例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4、電極選択部5、キャパシタンス計測部6、誘電率又は比誘電率分布特定部7及び温度分布特定部8を1つのコンピュータで構成する場合、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4、電極選択部5、キャパシタンス計測部6、誘電率又は比誘電率分布特定部7及び温度分布特定部8の処理内容を記述しているプログラムを当該コンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図3はこの発明の実施の形態1による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【0032】
図1の分布特定装置の処理内容を具体的に説明する前に、温度計測対象である誘電性ポリマーについて説明する。
温度計測対象である誘電性ポリマーは、例えば、合成樹脂やプラスチックなどと総称される。
具体的には、誘電性ポリマーとしては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミドなどの鎖状ポリマーが該当する。
鎖状ポリマーにおいて、鎖状分子の長軸に対して垂直な方向への運動は、絡み合った鎖状分子同士が互いに邪魔をするために妨げられる。このため、鎖状ポリマーでは、鎖状分子の長軸に沿う方向への運動(レプテーション)のみが許される性質を有している。
【0033】
誘電性ポリマーは、例えば、分子鎖の運動が凍結されているガラス領域にあるときに、温度を上昇させて、ガラス転移温度Tgに到達すると、誘電性ポリマーの弾性率や誘電率又は比誘電率が急激に変化し、さらに温度を上昇させて、融点に到達すると、液体に変化する性質を有している。
【0034】
ここで、図4は誘電性ポリマーの弾性率と温度の関係を示す説明図である。
誘電性ポリマーは、図4に示すように、温度変化に伴って、弾性率が変化することにより、低温側から順番に、分子鎖の運動が凍結されるガラス領域、主鎖のミクロブラウン運動に由来するガラス転移領域、分子鎖の絡み合いによるゴム状平坦領域、絡み合いが解けることによるゴム状流動領域、分子鎖の相互移動による液状流動領域が現れる。
弾性率の変化が最も激しいガラス転移領域の温度がガラス転移温度Tgと呼ばれ、そのガラス転移温度Tgを境にして、誘電性ポリマーの固さや誘電率又は比誘電率が急激に変化する。
【0035】
誘電性ポリマーは、交流電圧Vが印加されると、内部に電気双極子である誘電分極(電子分極、イオン分極、配向分極、空間電荷分極)が生じることがあり、空間電荷分極と配向分極は緩和型の誘電分散を示し、イオン分極と電子分極は共鳴型の誘電分散を示すようになる。
このとき、誘電性ポリマーにおける誘電率の絶対値は、各誘電分極の分極率の和に比例するが、赤外域よりも低い周波数fでは、配向分極の分極率のみが表れる。
したがって、ガラス転移温度領域における複素誘電率εと温度Tの関係は、電界の周波数fに依存(誘電分散)するが、温度の上昇下降速度にも依存しており、非常に複雑である。
【0036】
ここで、図5はキャパシタンス及び温度計測用の実験装置を示す構成図である。
図5の実験装置では、誘電性ポリマーとして、熱可塑性プラスチックの一種であるポリカーボネートを用いている。
このポリカーボネートの物性は下記の通りである。
密度:1.20g/cm3、可用温度:−100度〜+180度、融点:約250度、
屈折率:1.585±0.001、光透過率:90%±1%、
熱伝導率:0.19W/mk、誘電率ε:25.7[pF/m]、
比誘電率εr:2.9[−]
【0037】
図5の実験装置では、12個の電極を内周に備えているビーカを赤外線ヒーターの上に置いて、12個の電極とLCRメータを同軸ケーブルで繋ぎ、LCRメータを用いて、各電極間のキャパシタンスを計測している。
具体的には、電極番号(1)の電極と電極番号(2)の電極との間に、LCRメータが20μsの時間をかけて、交流電圧を印加して、それらの電極間のキャパシタンスを計測する。
次に、電極番号(1)の電極と電極番号(3)の電極との間に、LCRメータが20μsの時間をかけて、交流電圧を印加して、それらの電極間のキャパシタンスを計測する。
この計測手順を12個の電極の全ての組み合わせに適用して、合計66通りの組み合わせの電極間のキャパシタンスを計測する。図6はキャパシタンスの計測結果の一例を示す説明図である。
【0038】
このようにして、キャパシタンスを計測する際に、赤外線ヒーターによって、例えば、ビーカを10分間熱することで、ビーカ内のポリカーボネートの温度を上げると、図7に示すように、66個のキャパシタンスの平均値が減少する実験結果が得られる。
この実験結果から、電極間のキャパシタンスは、温度依存性を有していることが明らかである。
【0039】
以下、図1の分布特定装置の処理内容を具体的に説明する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3は、誘電性ポリマーの温度分布の計測を開始する前に、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの誘電性ポリマーの温度Tと、誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)の対応関係を求め、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報として、温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する(図3のステップST1)。
【0040】
例えば、誘電体のキュリーワイスの法則により、誘電性ポリマーがキュリー点(物質が磁性を失う境界の温度)以下の場合、温度Tと比誘電率εr(f,T)の関係がDebye式で表されることに着目し、例えば、下記の式(1)に示すDebye式を用いて、シミュレーションなどにより、温度Tと比誘電率εr(f,T)の対応関係を求め、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する。
【0041】
【数1】
【0042】
式(1)〜式(3)において、εrは比誘電率、εは誘電性ポリマーの複素誘電率、ε0は真空の誘電率であり、8.854×10−12F/mである。
εRは複素誘電率εの実数部、εIは複素誘電率εの虚数部、jは虚数単位である。
ρは誘電性ポリマーの密度であり、例えば誘電性ポリマーがポリカーボネートの場合、約1220kg/m3である。
NAはアボガドロの数であり、6.022137×1023である。
Mはモル質量であり、例えば誘電性ポリマーがポリカーボネートの場合、約27.846kg/モルである。
μは永久双極子モーメントであり、例えば誘電性ポリマーがポリカーボネートの場合、3.336×10−30C/mである。
kBはボルツマン定数であり、1.38066×10−23J/Kである。
αは分極率であり、単位はF/m2である。
【0043】
ここでは、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3がDebye式を用いて、シミュレーションなどにより、温度Tと比誘電率εr(f,T)の対応関係を求めるものについて示したが、これに限るものではなく、例えば、実験によって、温度Tと比誘電率εr(f,T)の対応関係を求めるようにしてもよい。
また、Debye式を用いずに、温度Tと比誘電率εr(f,T)の関係を較正曲線によって求めるようにしてもよい。
【0044】
なお、温度Tと比誘電率εr(f,T)の対応関係を求める実験方法は特に問わないが、例えば、誘電性ポリマーを加熱する加熱装置、誘電性ポリマーの温度Tを計測する熱伝対などの温度計測器、誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)を測定する比誘電率測定装置などを用意し、その温度計測器の計測結果を見ながら、加熱装置が誘電性ポリマーを段階的に加熱する。
そして、比誘電率測定装置が、例えば、誘電性ポリマーの温度TがT1,T2,・・・,TNのときの誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)をそれぞれ測定する。
これにより、下記のように、温度Tと比誘電率εr(f,T)の対応関係が求まるので、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する。
T1 ― εr(f,T1)
T2 ― εr(f,T2)
:
TN ― εr(f,TN)
【0045】
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3は、温度−誘電率又は比誘電率マップを生成すると、その温度−誘電率又は比誘電率マップを温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4に格納する(ステップST2)。
図8は温度−誘電率又は比誘電率マップの一例を示す説明図である。
図8では、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数fが1〜4MHzの範囲内であるときの誘電性ポリマーの温度Tと比誘電率εrの対応関係を示している。
具体的には、交流電圧Vの周波数fが1MHzである場合、例えば、比誘電率εrが2.0であれば、誘電性ポリマーの温度Tが約0.2[K]、比誘電率εrが1.5であれば、誘電性ポリマーの温度Tが約0.35[K]であることを示している。
【0046】
電極選択部5は、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部3による温度−誘電率又は比誘電率マップの生成が完了して、その温度−誘電率又は比誘電率マップが温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4に格納されると、例えば、キャパシタンス計測部6の指示の下、N個の電極21〜2Nの中から、キャパシタンス計測部6による計測対象の2個の電極2を順次選択し、2個の電極2をキャパシタンス計測部6と電気的に接続する(ステップST3)。
例えば、N個の電極21〜2Nの中から、下記の順番で、2個の電極2を選択して、2個の電極2をキャパシタンス計測部6と電気的に接続する。
(電極21+電極22)→(電極21+電極23)→・・・→(電極21+電極2N)
→(電極22+電極23)→(電極22+電極24)→・・・→(電極22+電極2N)
:
→(電極2N−1+電極2N)
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせは66通りになる。
【0047】
キャパシタンス計測部6は、電極選択部5が2個の電極2を選択することで(ここでは、電極2iと電極2jを選択しているものとする)、電極2i及び電極2jと電気的に接続されると、電極2iと電極2jの間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jを計測する(ステップST4)。
キャパシタンス計測部6は、例えば、N=12であれば、全部で66通りのキャパシタンスC1,2,C1,3,・・・,CN−1,Nを計測する。
【0048】
誘電率又は比誘電率分布特定部7は、キャパシタンス計測部6が全ての組み合わせの電極間のキャパシタンスCi,jを計測すると(ステップST5)、例えば、逆問題解決手法を利用して、そのキャパシタンスCi,jから、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける比誘電率εr(f,T)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T))を特定する(ステップST6)。
以下、誘電率又は比誘電率分布特定部7による比誘電率εr(f,T)の特定処理を具体的に説明する。
【0049】
まず、電極2i(以下、「基準電極2i」と称する)と、電極2j(以下、「検出電極2j」と称する)の間のキャパシタンスCi,jは、ガウスの法則より、下記の式(4)が成立する。
【0050】
【数2】
式(4)において、rは容器1のA−A断面内の位置ベクトル、ε(r)は容器1のA−A断面内の位置rにおける誘電率、ε0は真空の誘電率である。
また、Vcは基準電極2iの印加電圧、Vi(r)は容器1のA−A断面内の位置rのポテンシャル、Γjは基準電極2iと検出電極2j間の電気力線が及ぶ領域である。
なお、∇は微分演算子である。
【0051】
誘電率又は比誘電率分布特定部7は、式(4)において、位置rのポテンシャルであるVi(r)が未知であるため、下記の式(5)に示すラプラス方程式を容器1のA−A断面内で仮定し、このラプラス方程式を離散化して、有限要素法であるFEM(Finite Element Method)により、Vi(r)を求める。
【0052】
【数3】
【0053】
誘電率又は比誘電率分布特定部7は、位置rのポテンシャルVi(r)を求めると、式(4)における各定数と∇Vi(r)からなる感度行列Seを得て、式(4)を整理することにより、式(4)を下記の式(6)に示すような行列表示にする。
C=SeE (6)
式(6)において、Cはキャパシタンス計測部6の計測結果であるキャパシタンスCi,jの分布を示すキャパシタンス行列、Eは誘電率の分布を示す誘電率分布行列である。
【0054】
例えば、容器1の周囲に設置されている電極2の個数が12個の場合、電極対の組み合わせが66通りになるので、この場合には、キャパシタンス行列Cは66×1の行列になる。
また、容器1のA−A断面を32×32=1024の空間解像度で表現する場合、誘電率分布行列Eは1024×1の行列になる。
このとき、感度行列Seの誘電率係数(Seの行要素)は66要素×1024組、キャパシタンス係数(Seの列要素)は1024要素×66組存在し、感度行列Seは66×1024の行列になる。
感度行列Seにおける各要素は、電極2の印加電圧、電極2の長さ、電極2の厚さなどのCT構造によって異なる。
【0055】
誘電率又は比誘電率分布特定部7は、計測値であるキャパシタンス行列Cと既知である感度行列Seを式(6)に代入して、誘電率分布行列Eを算出する。誘電率分布行列Eが算出されれば、誘電率分布行列Eにおける各々の誘電率εを真空の誘電率ε0で除算することで、比誘電率εrの分布を求めることができる。
ただし、キャパシタンス行列Cが66×1の行列、誘電率分布行列Eが1024×1の行列である場合、式数よりも未知数の方が多く、誘電率分布行列Eの解が無限数に存在してしまう不適切逆問題になる。
したがって、このような場合には、単に、キャパシタンス行列Cと感度行列Seを式(6)に代入しても、誘電率分布行列Eを算出することができないので、例えば、バックプロジェクション法、ベクトル・サンプル・パターンマッチング法、ランドウェバー法、ニュートン・ラプソン法などの逆問題解決手法を利用して、キャパシタンス行列Cと感度行列Seから誘電率分布行列Eを算出する。
バックプロジェクション法、ベクトル・サンプル・パターンマッチング法、ランドウェバー法、ニュートン・ラプソン法自体は、公知の手法であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0056】
ここでは、誘電率又は比誘電率分布特定部7が、逆問題解決手法を利用して、キャパシタンスCi,jから、誘電性ポリマーにおける比誘電率εr(f,T)の分布を特定する例を示したが、例えば、シミュレーションや実験などによって、予め、キャパシタンスCi,jと、比誘電率εr(f,T)の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を用意し、誘電率又は比誘電率分布特定部7が、そのキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を参照して、キャパシタンスCi,jに対応する比誘電率εr(f,T)を特定するようにしてもよい。
【0057】
なお、キャパシタンスCi,jと比誘電率εr(f,T)の対応関係を求めるシミュレーションや実験などの方法は特に問わないが、例えば、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jを計測するLCRメータ、電極2iと電極2jの間に印加する交流電圧Vを変化させることで、誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)を変化させる電源装置、誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)を測定する比誘電率測定装置などを用意し、その電源装置が誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)を段階的に変化させながら、LCRメータがキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMを計測する。
そして、比誘電率測定装置が、LCRメータによりキャパシタCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMが計測されたときの誘電性ポリマーの比誘電率εr(f,T)をそれぞれ測定する。
これにより、キャパシタンスCi,jと比誘電率εr(f,T)の対応関係が求まる。
【0058】
温度分布特定部8は、誘電率又は比誘電率分布特定部7が誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T)を特定すると、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の温度T)を求める(ステップST7)。
即ち、温度分布特定部8は、例えば、誘電性ポリマーにおける温度計測位置が1024箇所である場合、温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、1024箇所の比誘電率εr(f,T)に対応する温度Tを特定することで、1024箇所の温度を特定する。
例えば、交流電圧Vの周波数fが1MHzであるとき、誘電性ポリマーにおける或る位置の比誘電率εrが2.0であれば、誘電性ポリマーの温度Tが約0.2[K]、比誘電率εrが1.5であれば、誘電性ポリマーの温度Tが約0.35[K]であると特定する。
【0059】
ここでは、温度分布特定部8が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T)の各々に対応する温度Tを特定するものについて示したが、誘電性ポリマーの温度Tと比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報として、下記の式(7)を記憶し、誘電率又は比誘電率分布特定部7により特定された比誘電率εr(f,T)を式(7)に代入することで、複数の位置の比誘電率εr(f,T)の各々に対応する温度Tを特定するようにしてもよい。
【0060】
【数4】
【0061】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、N個の電極21〜2N間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、N個の電極21〜2N間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測部6と、キャパシタンス計測部6により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスから、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複数の位置の比誘電率εr(f,T)を特定する誘電率又は比誘電率分布特定部7とを設け、温度分布特定部8が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部4により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部7により特定された複数の位置の比誘電率εr(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、誘電性ポリマーの温度分布を求めるように構成したので、誘電性ポリマーの表面温度だけでなく、内部の温度をリアルタイムに特定することができる効果を奏する。
【0062】
なお、上記の式(2)からも明らかなように、比誘電率εrは、誘電率εと真空の誘電率ε0との比ε/ε0であり、比誘電率εrに対する誘電率εは、一義的に決定される。
そのため、上記実施の形態1において、比誘電率εrではなく、誘電率εを用いて、温度分布を特定するようにしてもよい。
即ち、キャパシタンスと誘電率(比誘電率ではない)の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を使用して、キャパシタンス計測部13により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスから、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける誘電率の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の誘電率)を特定する誘電率又は比誘電率分布特定部と、温度と誘電率(比誘電率ではない)の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、その誘電率又は比誘電率分布特定部により特定された複数の位置の誘電率の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布を求める温度分布特定部とを備えるようにしてもよい。
【0063】
実施の形態2.
図9はこの発明の実施の形態2による分布特定装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの誘電性ポリマーの温度Tと、誘電性ポリマーの複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との対応関係を、例えば、公知のDebye式を用いて、シミュレーションなどにより求め、誘電性ポリマーの温度Tと複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−誘電率又は比誘電率情報)を生成する処理を実施する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12は温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11により生成された温度−誘電率又は比誘電率マップを記憶する例えばRAMやハードディスクなどの記録媒体である。
なお、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12は温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段を構成している。
【0064】
キャパシタンス計測部13は例えばLCRメータなどから構成されており、電極選択部5により選択された2個の電極間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、2個の電極間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測する処理を実施する。
例えば、電極選択部5により選択された2個の電極が電極2iと電極2jである場合、Ci,jは電極2iと電極2jの間のキャパシタンスとなる。
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせが66通りになるため、66通りのキャパシタンスCi,jの実数部を計測する。
なお、電極選択部5及びキャパシタンス計測部13からキャパシタンス計測手段が構成されている。
【0065】
誘電率又は比誘電率分布特定部14は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、キャパシタンスと誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報(例えば、逆問題解決手法に関する情報)を使用して、キャパシタンス計測部13により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの実数部から、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複素誘電率の実数部εR(f,T)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T))を特定する処理を実施する。なお、誘電率又は比誘電率分布特定部14は誘電率又は比誘電率分布特定手段を構成している。
【0066】
温度分布特定部15は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部7により特定された複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の温度T)を求める処理を実施する。なお、温度分布特定部15は温度分布特定手段を構成している。
【0067】
図9の例では、分布特定装置の構成要素である容器1、電極21〜2N、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14及び温度分布特定部15のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものについて示したが、分布特定装置の構成要素の一部(例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14及び温度分布特定部15)が1つのコンピュータで構成されていてもよい。
例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14及び温度分布特定部15を1つのコンピュータで構成する場合、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14及び温度分布特定部15の処理内容を記述しているプログラムを当該コンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図10はこの発明の実施の形態2による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【0068】
以下、図9の分布特定装置の処理内容を具体的に説明する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11は、誘電性ポリマーの温度分布の計測を開始する前に、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの誘電性ポリマーの温度Tと、誘電性ポリマーの複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との対応関係を求め、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報として、温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する(図10のステップST1)。
【0069】
例えば、誘電体のキュリーワイスの法則により、誘電性ポリマーがキュリー点以下の場合、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の関係がDebye式で表されることに着目し、例えば、上記の式(1)に示すDebye式を用いて、シミュレーションなどにより、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との対応関係を求め、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する。
【0070】
ここでは、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11が、Debye式を用いて、シミュレーションなどにより、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との対応関係を求めるものについて示したが、これに限るものではなく、例えば、実験によって、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との対応関係を求めるようにしてもよい。
また、Debye式を用いずに、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の実数部εR(f,T)との関係を較正曲線によって求めるようにしてもよい。
【0071】
なお、温度Tと複素誘電率の実数部εR(f,T)との対応関係を求める実験方法は特に問わないが、例えば、誘電性ポリマーを加熱する加熱装置、誘電性ポリマーの温度Tを計測する熱伝対などの温度計測器、誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)を測定する誘電率測定装置などを用意し、その温度計測器の計測結果を見ながら、加熱装置が誘電性ポリマーを段階的に加熱する。
そして、誘電率測定装置が、例えば、誘電性ポリマーの温度TがT1,T2,・・・,TNのときの誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)をそれぞれ測定する。
これにより、下記のように、温度Tと複素誘電率の実数部εR(f,T)との対応関係が求まるので、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する。
T1 ― εR(f,T1)
T2 ― εR(f,T2)
:
TN ― εR(f,TN)
【0072】
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11は、温度−誘電率又は比誘電率マップを生成すると、その温度−誘電率又は比誘電率マップを温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12に格納する(ステップST12)。
ここでは、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11により生成される温度−誘電率又は比誘電率マップを図示しないが、図8の温度−誘電率又は比誘電率マップに相当するマップである。
【0073】
電極選択部5は、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11による温度−誘電率又は比誘電率マップの生成が完了して、その温度−誘電率又は比誘電率マップが温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12に格納されると、例えば、キャパシタンス計測部13の指示の下、N個の電極21〜2Nの中から、キャパシタンス計測部13による計測対象の2個の電極2を順次選択し、2個の電極2をキャパシタンス計測部13と電気的に接続する(ステップST13)。
例えば、N個の電極21〜2Nの中から、下記の順番で、2個の電極2を選択して、2個の電極2をキャパシタンス計測部6と電気的に接続する。
(電極21+電極22)→(電極21+電極23)→・・・→(電極21+電極2N)
→(電極22+電極23)→(電極22+電極24)→・・・→(電極22+電極2N)
:
→(電極2N−1+電極2N)
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせは66通りになる。
【0074】
キャパシタンス計測部13は、電極選択部5が2個の電極2を選択することで(ここでは、電極2iと電極2jを選択しているものとする)、電極2i及び電極2jと電気的に接続されると、電極2iと電極2jの間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測する(ステップST14)。
キャパシタンス計測部6は、例えば、N=12であれば、全部で66通りのキャパシタンスC1,2,C1,3,・・・,CN−1,Nの実数部を計測する。
【0075】
誘電率又は比誘電率分布特定部14は、キャパシタンス計測部13が全ての組み合わせの電極間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測すると(ステップST15)、例えば、逆問題解決手法を利用して、そのキャパシタンスCi,jの実数部から、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複素誘電率の実数部εR(f,T)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T))を特定する(ステップST16)。
誘電率又は比誘電率分布特定部14による複素誘電率の実数部εR(f,T)の具体的な特定処理は、図1の誘電率又は比誘電率分布特定部7による比誘電率εr(f,T)の特定処理と同様であるため詳細な説明を省略する。
【0076】
ここでは、誘電率又は比誘電率分布特定部14が、逆問題解決手法を利用して、キャパシタンスCi,jの実数部から、誘電性ポリマーにおける複素誘電率の実数部εR(f,T)の分布を特定する例を示したが、例えば、シミュレーションや実験などによって、予め、キャパシタンスCi,jの実数部と、複素誘電率の実数部εR(f,T)との対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を用意し、誘電率又は比誘電率分布特定部14が、そのキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を参照して、キャパシタンスCi,jの実数部に対応する複素誘電率の実数部εR(f,T)を特定するようにしてもよい。
【0077】
なお、キャパシタンスCi,jの実数部と、複素誘電率の実数部εR(f,T)との対応関係を求めるシミュレーションや実験などの方法は特に問わないが、例えば、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測するLCRメータ、電極2iと電極2jの間に印加する交流電圧Vを変化させることで、誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)を変化させる電源装置、誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)を測定する誘電率測定装置などを用意し、その電源装置が誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)を段階的に変化させながら、LCRメータがキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMの実数部を計測する。
そして、誘電率測定装置が、LCRメータによりキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMの実数部が計測されたときの誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)をそれぞれ測定する。
これにより、キャパシタンスCi,jの実数部と、複素誘電率の実数部εR(f,T)との対応関係が求まる。
【0078】
温度分布特定部15は、誘電率又は比誘電率分布特定部14が誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)を特定すると、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の温度T)を求める(ステップST17)。
即ち、温度分布特定部15は、例えば、誘電性ポリマーにおける温度計測位置が1024箇所である場合、温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、1024箇所の複素誘電率の実数部εR(f,T)に対応する温度Tを特定することで、1024箇所の温度を特定する。
【0079】
ここでは、温度分布特定部15が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)の各々に対応する温度Tを特定するものについて示したが、誘電性ポリマーの温度Tと誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報として、上記の式(7)に相当する関係式(複数の位置の比誘電率εr(f,T)の代わりに、複素誘電率の実数部εR(f,T)を変数として含む式)を記憶し、誘電率又は比誘電率分布特定部14により特定された複素誘電率の実数部εR(f,T)を当該関係式に代入することで、複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)の各々に対応する温度Tを特定するようにしてもよい。
【0080】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、N個の電極21〜2N間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、N個の電極21〜2N間のキャパシタンスの実数部を計測するキャパシタンス計測部13と、キャパシタンス計測部13により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの実数部から、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)を特定する誘電率又は比誘電率分布特定部14とを設け、温度分布特定部15が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部14により特定された複数の位置の複素誘電率の実数部εR(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、誘電性ポリマーの温度分布を求めるように構成したので、誘電性ポリマーの表面温度だけでなく、内部の温度をリアルタイムに特定することができる効果を奏する。
【0081】
実施の形態3.
図11はこの発明の実施の形態3による分布特定装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの誘電性ポリマーの温度Tと、誘電性ポリマーの複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との対応関係を、例えば、公知のDebye式を用いて、シミュレーションなどにより求め、誘電性ポリマーの温度Tと複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップ(温度−誘電率又は比誘電率情報)を生成する処理を実施する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17は温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16により生成された温度−誘電率又は比誘電率マップを記憶する例えばRAMやハードディスクなどの記録媒体である。
なお、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17は温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段を構成している。
【0082】
キャパシタンス計測部18は例えばLCRメータなどから構成されており、電極選択部5により選択された2個の電極間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、2個の電極間のキャパシタンスCi,jの虚数部を計測する処理を実施する。
例えば、電極選択部5により選択された2個の電極が電極2iと電極2jである場合、Ci,jは電極2iと電極2jの電極間のキャパシタンスとなる。
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせが66通りになるため、66通りのキャパシタンスCi,jの虚数部を計測する。
なお、電極選択部5及びキャパシタンス計測部18からキャパシタンス計測手段が構成されている。
【0083】
誘電率又は比誘電率分布特定部19は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、キャパシタンスと誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報(例えば、逆問題解決手法に関する情報)を使用して、キャパシタンス計測部18により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの虚数部から、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複素誘電率の虚数部εI(f,T)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T))を特定する処理を実施する。なお、誘電率又は比誘電率分布特定部19は誘電率又は比誘電率分布特定手段を構成している。
【0084】
温度分布特定部20は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部19により特定された複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の温度T)を求める処理を実施する。なお、温度分布特定部20は温度分布特定手段を構成している。
【0085】
図11の例では、分布特定装置の構成要素である容器1、電極21〜2N、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17、電極選択部5、キャパシタンス計測部18、誘電率又は比誘電率分布特定部19及び温度分布特定部20のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものについて示したが、分布特定装置の構成要素の一部(例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17、電極選択部5、キャパシタンス計測部18、誘電率又は比誘電率分布特定部19及び温度分布特定部20)が1つのコンピュータで構成されていてもよい。
例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17、電極選択部5、キャパシタンス計測部18、誘電率又は比誘電率分布特定部19及び温度分布特定部20を1つのコンピュータで構成する場合、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17、電極選択部5、キャパシタンス計測部18、誘電率又は比誘電率分布特定部19及び温度分布特定部20の処理内容を記述しているプログラムを当該コンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図12はこの発明の実施の形態3による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【0086】
以下、図11の分布特定装置の処理内容を具体的に説明する。
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16は、誘電性ポリマーの温度分布の計測を開始する前に、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの誘電性ポリマーの温度Tと、誘電性ポリマーの複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との対応関係を求め、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報として、温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する(図12のステップST21)。
【0087】
例えば、誘電体のキュリーワイスの法則により、誘電性ポリマーがキュリー点以下の場合、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の関係がDebye式で表されることに着目し、例えば、上記の式(1)に示すDebye式を用いて、シミュレーションなどにより、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との対応関係を求め、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する。
【0088】
ここでは、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16が、Debye式を用いて、シミュレーションなどにより、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との対応関係を求めるものについて示したが、これに限るものではなく、例えば、実験によって、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との対応関係を求めるようにしてもよい。
また、Debye式を用いずに、温度Tと複素誘電率ε(f,T)の虚数部εI(f,T)との関係を較正曲線によって求めるようにしてもよい。
【0089】
なお、温度Tと複素誘電率の虚数部εI(f,T)との対応関係を求める実験方法は特に問わないが、例えば、誘電性ポリマーを加熱する加熱装置、誘電性ポリマーの温度Tを計測する熱伝対などの温度計測器、誘電性ポリマーの複素誘電率の虚数部εI(f,T)を測定する誘電率測定装置などを用意し、その温度計測器の計測結果を見ながら、加熱装置が誘電性ポリマーを段階的に加熱する。
そして、誘電率測定装置が、例えば、誘電性ポリマーの温度TがT1,T2,・・・,TNのときの誘電性ポリマーの複素誘電率の虚数部εI(f,T)をそれぞれ測定する。
これにより、下記のように、温度Tと複素誘電率の虚数部εI(f,T)との対応関係が求まるので、その対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率マップを生成する。
T1 ― εI(f,T1)
T2 ― εI(f,T2)
:
TN ― εI(f,TN)
【0090】
温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16は、温度−誘電率又は比誘電率マップを生成すると、その温度−誘電率又は比誘電率マップを温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17に格納する(ステップST22)。
ここでは、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16により生成される温度−誘電率又は比誘電率マップを図示しないが、図8の温度−誘電率又は比誘電率マップに相当するマップである。
【0091】
電極選択部5は、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16による温度−誘電率又は比誘電率マップの生成が完了して、その温度−誘電率又は比誘電率マップが温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17に格納されると、例えば、キャパシタンス計測部18の指示の下、N個の電極21〜2Nの中から、キャパシタンス計測部18による計測対象の2個の電極2を順次選択し、2個の電極2をキャパシタンス計測部18と電気的に接続する(ステップST23)。
例えば、N個の電極21〜2Nの中から、下記の順番で、2個の電極2を選択して、2個の電極2をキャパシタンス計測部12と電気的に接続する。
(電極21+電極22)→(電極21+電極23)→・・・→(電極21+電極2N)
→(電極22+電極23)→(電極22+電極24)→・・・→(電極22+電極2N)
:
→(電極2N−1+電極2N)
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせは66通りになる。
【0092】
キャパシタンス計測部18は、電極選択部5が2個の電極2を選択することで(ここでは、電極2iと電極2jを選択しているものとする)、電極2i及び電極2jと電気的に接続されると、電極2iと電極2jの間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jの虚数部を計測する(ステップST24)。
キャパシタンス計測部18は、例えば、N=12であれば、全部で66通りのキャパシタンスC1,2,C1,3,・・・,CN−1,Nの虚数部を計測する。
【0093】
誘電率又は比誘電率分布特定部19は、キャパシタンス計測部18が全ての組み合わせの電極間のキャパシタンスCi,jの虚数部を計測すると(ステップST25)、例えば、逆問題解決手法を利用して、そのキャパシタンスCi,jの虚数部から、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複素誘電率の虚数部εI(f,T)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T))を特定する(ステップST26)。
誘電率又は比誘電率分布特定部19による複素誘電率の虚数部εI(f,T)の具体的な特定処理は、図1の誘電率又は比誘電率分布特定部7による比誘電率εr(f,T)の特定処理と同様であるため詳細な説明を省略する。
【0094】
ここでは、誘電率又は比誘電率分布特定部19が、逆問題解決手法を利用して、キャパシタンスCi,jの虚数部から、誘電性ポリマーにおける複素誘電率の虚数部εI(f,T)の分布を特定する例を示したが、例えば、シミュレーションや実験などによって、予め、キャパシタンスCi,jの虚数部と、複素誘電率の虚数部εI(f,T)との対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を用意し、誘電率又は比誘電率分布特定部19が、そのキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を参照して、キャパシタンスCi,jの虚数部に対応する複素誘電率の虚数部εI(f,T)を特定するようにしてもよい。
【0095】
なお、キャパシタンスCi,jの虚数部と、複素誘電率の虚数部εI(f,T)との対応関係を求めるシミュレーションや実験などの方法は特に問わないが、例えば、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jの虚数部を計測するLCRメータ、電極2iと電極2jの間に印加する交流電圧Vを変化させることで、誘電性ポリマーの複素誘電率の虚数部εI(f,T)を変化させる電源装置、誘電性ポリマーの複素誘電率の虚数部εI(f,T)を測定する誘電率測定装置などを用意し、その電源装置が誘電性ポリマーの複素誘電率の実数部εR(f,T)を段階的に変化させながら、LCRメータがキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMの虚数部を計測する。
そして、誘電率測定装置が、LCRメータによりキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMの虚数部が計測されたときの誘電性ポリマーの複素誘電率の虚数部εI(f,T)をそれぞれ測定する。
これにより、キャパシタンスCi,jの虚数部と、複素誘電率の虚数部εI(f,T)との対応関係が求まる。
【0096】
温度分布特定部20は、誘電率又は比誘電率分布特定部19が誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)を特定すると、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、容器1に入っている誘電性ポリマーの温度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の温度T)を求める(ステップST27)。
即ち、温度分布特定部20は、例えば、誘電性ポリマーにおける温度計測位置が1024箇所である場合、温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、1024箇所の複素誘電率の虚数部εI(f,T)に対応する温度Tを特定することで、1024箇所の温度を特定する。
【0097】
ここでは、温度分布特定部20が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)の各々に対応する温度Tを特定するものについて示したが、誘電性ポリマーの温度Tと誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報として、上記の式(7)に相当する関係式(複数の位置の比誘電率εr(f,T)の代わりに、複素誘電率の虚数部εI(f,T)を変数として含む式)を記憶し、誘電率又は比誘電率分布特定部19により特定された複素誘電率の虚数部εI(f,T)を当該関係式に代入することで、複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)の各々に対応する温度Tを特定するようにしてもよい。
【0098】
以上で明らかなように、この実施の形態3によれば、N個の電極21〜2N間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、N個の電極21〜2N間のキャパシタンスの虚数部を計測するキャパシタンス計測部18と、キャパシタンス計測部18により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの虚数部から、容器1に入っている誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)を特定する誘電率又は比誘電率分布特定部19とを設け、温度分布特定部20が、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、誘電率又は比誘電率分布特定部19により特定された複数の位置の複素誘電率の虚数部εI(f,T)の各々に対応する温度Tを特定することで、誘電性ポリマーの温度分布を求めるように構成したので、誘電性ポリマーの表面温度だけでなく、内部の温度をリアルタイムに特定することができる効果を奏する。
【0099】
実施の形態4.
上記実施の形態1〜3では、誘電性ポリマーの温度分布を特定するものについて示したが、例えば、導電性粒子が混入されている誘電性ポリマーを射出成形用の金型内に高圧で噴射して、プラスチック製品を製造する際には、その誘電性ポリマーの温度分布を特定する他に、その導電性粒子の濃度分布を特定するようにしてもよい。
また、誘電性ポリマーの温度分布を特定せずに、導電性粒子の濃度分布だけを特定するようにしてもよい。
以下、この実施の形態4では、容器1が射出成形用の金型であり、容器1には導電性粒子が混入されている誘電性ポリマーが入れられるものとする。
【0100】
図13はこの発明の実施の形態4による分布特定装置を示す構成図であり、図において、図9と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
図13の例では、図9の分布特定装置に対して、後述する濃度−導電率マップ生成部21、濃度−導電率マップ記憶部22、導電率分布特定部23及び濃度分布特定部24を実装しているが、図1の分布特定装置に対して、後述する濃度−導電率マップ生成部21、濃度−導電率マップ記憶部22、導電率分布特定部23及び濃度分布特定部24を実装するようにしてもよい。
【0101】
濃度−導電率マップ生成部21は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの導電性粒子の濃度Dと、複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を、例えば、公知のDebye式を用いて、シミュレーションなどにより求め、導電性粒子の濃度Dと複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を示す濃度−導電率マップ(濃度−導電率情報)を生成する処理を実施する。
濃度−導電率マップ記憶部22は濃度−導電率マップ生成部21により生成された濃度−導電率マップを記憶する例えばRAMやハードディスクなどの記録媒体である。
なお、濃度−導電率マップ記憶部22は濃度−導電率情報記憶手段を構成している。
【0102】
導電率分布特定部23は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報(例えば、逆問題解決手法に関する情報)を使用して、キャパシタンス計測部13により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの実数部から、誘電性ポリマーにおける複素導電率の実数部σR(f,D)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D))を特定する処理を実施する。なお、導電率分布特定部23は導電率分布特定手段を構成している。
【0103】
濃度分布特定部24は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、濃度−導電率マップ記憶部22により記憶されている濃度−導電率マップを参照して、導電率分布特定部23により特定された複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)の各々に対応する濃度Dを特定することで、誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の濃度D)を求める処理を実施する。なお、濃度分布特定部24は濃度分布特定手段を構成している。
【0104】
図13の例では、分布特定装置の構成要素である容器1、電極21〜2N、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14、温度分布特定部15、濃度−導電率マップ生成部21、濃度−導電率マップ記憶部22、導電率分布特定部23及び濃度分布特定部24のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものについて示したが、分布特定装置の構成要素の一部(例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14、温度分布特定部15、濃度−導電率マップ生成部21、濃度−導電率マップ記憶部22、導電率分布特定部23及び濃度分布特定部24)が1つのコンピュータで構成されていてもよい。
例えば、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14、温度分布特定部15、濃度−導電率マップ生成部21、濃度−導電率マップ記憶部22、導電率分布特定部23及び濃度分布特定部24を1つのコンピュータで構成する場合、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、電極選択部5、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14、温度分布特定部15、濃度−導電率マップ生成部21、濃度−導電率マップ記憶部22、導電率分布特定部23及び濃度分布特定部24の処理内容を記述しているプログラムを当該コンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図14はこの発明の実施の形態4による分布特定方法(分布特定装置の処理内容)を示すフローチャートである。
【0105】
図13の分布特定装置の処理内容を具体的に説明する前に、濃度計測対象である導電性粒子の性質について簡単に説明する。
導電性粒子を含んでいる誘電性ポリマーに交流電圧を印加すると、誘電性ポリマーにおける複素導電率の実数部と虚数部は、温度に大きく依存するが、導電性粒子における複素導電率の実数部と虚数部は、温度に大きく依存せずに、導電性粒子の濃度に大きく依存する性質を有している。
即ち、導電性粒子における複素導電率σの実数部σRと虚数部σIは、温度依存性よりも、濃度依存性の方が支配的となる。
【0106】
なお、導電性粒子における複素導電率σは、下記の式(9)のように表され、複素誘電率の虚数部εI等と下記の関係がある。
σ=σR−jσI (9)
ΣεI(f,T)=σR(f,T)/2πf (10)
σR=ωεI (11)
σI=ωσR (12)
ω=2πf
ただし、jは虚数単位、ωは測定振動数、fは測定周波数である。
【0107】
以下、図13の分布特定装置の処理内容を具体的に説明する。
ただし、誘電性ポリマーの温度分布を求める処理は、上記実施の形態2と同様であるため説明を省略する。
濃度−導電率マップ生成部21は、導電性粒子の濃度分布の計測を開始する前に、電極21〜2Nに印加される交流電圧Vの周波数がfであるときの導電性粒子の濃度Dと、複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を求め、導電性粒子の濃度Dと複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を示す濃度−導電率情報として、濃度−導電率マップを生成する(図14のステップST31)。
例えば、公知のDebye式を用いて、シミュレーションなどにより、導電性粒子の濃度Dと複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を求め、その対応関係を示す濃度−導電率マップを生成する。
【0108】
濃度−導電率マップ生成部21は、濃度−導電率マップを生成すると、その濃度−導電率マップを濃度−導電率マップ記憶部22に格納する(ステップST32)。
ここでは、濃度−導電率マップ生成部21により生成される濃度−導電率マップを図示しないが、図8の温度−誘電率又は比誘電率マップに相当するマップである。
【0109】
ここでは、濃度−導電率マップ生成部21が、Debye式を用いて、シミュレーションなどにより、濃度Dと複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を求めるものについて示したが、これに限るものではなく、例えば、実験によって、濃度Dと複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との対応関係を求めるようにしてもよい。
また、Debye式を用いずに、濃度Dと複素導電率σ(f,D)の実数部σR(f,D)との関係を較正曲線によって求めるようにしてもよい。
【0110】
なお、濃度Dと複素導電率の実数部σR(f,D)との対応関係を求める実験方法は特に問わないが、例えば、濃度D1,濃度D2,・・・又は濃度DNの導電性粒子が混入されている複数の誘電性ポリマー、複素導電率の実数部σR(f,D)を計測する導電率計測器などを用意し、複数の誘電性ポリマーの中から任意の誘電性ポリマーを選択して、その誘電性ポリマーを容器1に入れるようにする。
そして、導電率計測器が、例えば、誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度DがD1,D2,・・・,DNのときの複素導電率の実数部σR(f,D)をそれぞれ計測する。
これにより、下記のように、濃度Dと複素導電率の実数部σR(f,D)との対応関係が求まるので、その対応関係を示す濃度−導電率マップを生成する。
D1 ― σR(f,T1)
D2 ― σR(f,T2)
:
DN ― σR(f,TN)
【0111】
電極選択部5は、温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11による温度−誘電率又は比誘電率マップの生成が完了して、その温度−誘電率又は比誘電率マップが温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12に格納されるとともに、濃度−導電率マップ生成部21による濃度−導電率マップの生成が完了して、その濃度−導電率マップが濃度−導電率マップ記憶部22に格納されると、例えば、キャパシタンス計測部13の指示の下、N個の電極21〜2Nの中から、キャパシタンス計測部13による計測対象の2個の電極2を順次選択し、2個の電極2をキャパシタンス計測部13と電気的に接続する(ステップST33)。
例えば、N個の電極21〜2Nの中から、下記の順番で、2個の電極2を選択して、2個の電極2をキャパシタンス計測部6と電気的に接続する。
(電極21+電極22)→(電極21+電極23)→・・・→(電極21+電極2N)
→(電極22+電極23)→(電極22+電極24)→・・・→(電極22+電極2N)
:
→(電極2N−1+電極2N)
例えば、N=12であれば、2個の電極2の組み合わせは66通りになる。
【0112】
キャパシタンス計測部13は、電極選択部5が2個の電極2を選択することで(ここでは、電極2iと電極2jを選択しているものとする)、電極2i及び電極2jと電気的に接続されると、電極2iと電極2jの間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測する(ステップST34)。
キャパシタンス計測部13は、例えば、N=12であれば、全部で66通りのキャパシタンスC1,2,C1,3,・・・,CN−1,Nの実数部を計測する。
【0113】
導電率分布特定部23は、キャパシタンス計測部13が全ての組み合わせの電極間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測すると(ステップST35)、例えば、逆問題解決手法を利用して、そのキャパシタンスCi,jの実数部から、誘電性ポリマーにおける複素導電率の実数部σR(f,D)の分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D))を特定する(ステップST36)。
なお、導電率分布特定部23による複素導電率の実数部σR(f,D)の特定原理は、図1の誘電率又は比誘電率分布特定部7による比誘電率εr(f,T)の特定原理と同様であるため、複素導電率の実数部σR(f,D)の特定処理の詳細は省略する。
【0114】
ここでは、導電率分布特定部23が、逆問題解決手法を利用して、キャパシタンスCi,jの実数部から、誘電性ポリマーにおける複素導電率の実数部σR(f,D)の分布を特定する例を示したが、例えば、シミュレーションや実験などによって、予め、キャパシタンスCi,jの実数部と、複素導電率の実数部σR(f,D)との対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を用意し、導電率分布特定部23が、そのキャパシタンス−導電率情報を参照して、キャパシタンスCi,jの実数部に対応する複素導電率の実数部σR(f,D)を特定するようにしてもよい。
【0115】
なお、キャパシタンスCi,jの実数部と、複素導電率の実数部σR(f,D)との対応関係を求めるシミュレーションや実験などの方法は特に問わないが、例えば、電極2iと電極2jの間のキャパシタンスCi,jの実数部を計測するLCRメータ、濃度D1,濃度D2,・・・又は濃度DNの導電性粒子が混入されている複数の誘電性ポリマー、複素導電率の実数部σR(f,D)を計測する導電率計測器などを用意し、複数の誘電性ポリマーの中から任意の誘電性ポリマーを選択して、その誘電性ポリマーを容器1に入れるようにする。
そして、LCRメータが、誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度DがD1,D2,・・・,DNのときのキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jNの実数部をそれぞれ計測する。
また、導電率計測器が、LCRメータによりキャパシタンスCi,j1,Ci,j2,,・・・,Ci,jMの実数部が計測されたときの複素導電率の実数部σR(f,D)をそれぞれ計測する。
これにより、キャパシタンスCi,jの実数部と、複素導電率の実数部σR(f,D)との対応関係が求まる。
【0116】
濃度分布特定部24は、導電率分布特定部23が誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)を特定すると、濃度−導電率マップ記憶部22により記憶されている濃度−導電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)の各々に対応する濃度Dを特定することで、誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布(誘電性ポリマーにおける複数の位置の濃度D)を求める(ステップST37)。
即ち、濃度分布特定部24は、例えば、誘電性ポリマーにおける濃度計測位置が1024箇所である場合、濃度−導電率マップを参照して、1024箇所の複素導電率の実数部σR(f,D)に対応する濃度Dを特定することで、1024箇所の濃度を特定する。
【0117】
ここでは、濃度分布特定部24が、濃度−導電率マップ記憶部22により記憶されている濃度−導電率マップを参照して、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)の各々に対応する濃度Dを特定するものについて示したが、導電性粒子の濃度Dと導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報として対応関係式を記憶し、導電率分布特定部23により特定された複素導電率の実数部σR(f,D)を当該対応関係式に代入することで、複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)の各々に対応する濃度Dを特定するようにしてもよい。
【0118】
以上で明らかなように、この実施の形態4によれば、N個の電極21〜2N間に周波数fの交流電圧Vを印加することで、N個の電極21〜2N間のキャパシタンスの実数部を計測するキャパシタンス計測部13と、キャパシタンス計測部13により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの実数部から、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)を特定する導電率分布特定部23とを設け、濃度分布特定部24が、濃度−導電率マップ記憶部22により記憶されている濃度−導電率マップを参照して、導電率分布特定部23により特定された複数の位置の複素導電率の実数部σR(f,D)の各々に対応する濃度Dを特定することで、誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布を求めるように構成したので、例えば、射出成形用の金型内の誘電性ポリマーが固化する過程で、その誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布をリアルタイムに特定することができる効果を奏する。
【0119】
また、この実施の形態4によれば、温度分布特定部15と濃度分布特定部24が並列に処理を行うことで、誘電性ポリマーの温度分布の特定処理と導電性粒子の濃度分布の特定処理とが並行に行われるので、誘電性ポリマーの温度分布と導電性粒子の濃度分布が同時に特定されるようになり、その結果、射出成形される誘電性ポリマーのリアルタイムな監視制御が可能なシステム等を実現することができる効果を奏する。
【0120】
実施の形態5.
上記実施の形態4では、図9の温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部11、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部12、キャパシタンス計測部13、誘電率又は比誘電率分布特定部14及び温度分布特定部15が実装されている分布特定装置を示したが、図11の温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部16、温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部17、キャパシタンス計測部18、誘電率又は比誘電率分布特定部19及び温度分布特定部20が実装されている分布特定装置であってもよい。
【0121】
ただし、この場合、濃度−導電率マップ生成部21が、導電性粒子の濃度Dと複素導電率σ(f,D)の虚数部σI(f,D)との対応関係を示す濃度−導電率マップを生成して、その濃度−導電率マップを濃度−導電率マップ記憶部22に格納する必要がある。
また、導電率分布特定部23が、キャパシタンス計測部18により計測されたN個の電極21〜2N間のキャパシタンスの虚数部から、誘電性ポリマーにおける複数の位置の複素導電率の虚数部σI(f,D)を特定し、濃度分布特定部24が、濃度−導電率マップ記憶部22により記憶されている濃度−導電率マップを参照して、導電率分布特定部23により特定された複数の位置の複素導電率の虚数部σI(f,D)の各々に対応する濃度Dを特定することで、誘電性ポリマーに混入されている導電性粒子の濃度分布を求める必要がある。
【符号の説明】
【0122】
1 容器、21〜2N 電極、3,11,16 温度−誘電率又は比誘電率マップ生成部、4,12,17 温度−誘電率又は比誘電率マップ記憶部(温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段)、5 電極選択部(キャパシタンス計測手段)、6,13,18 キャパシタンス計測部(キャパシタンス計測手段)、7,14,19 誘電率又は比誘電率分布特定部(誘電率又は比誘電率分布特定手段)、8,15,20 温度分布特定部(温度分布特定手段)、21 濃度−導電率マップ生成部、22 濃度−導電率マップ記憶部(濃度−導電率情報記憶手段)、23 導電率分布特定部(導電率分布特定手段)、24 濃度分布特定部(濃度分布特定手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象である誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測ステップと、キャパシタンスと誘電率又は比誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を使用して、前記キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから前記誘電性材料における複数の位置の誘電率又は比誘電率を特定する誘電率又は比誘電率分布特定ステップと、前記誘電性材料の温度と誘電率又は比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報を使用して、前記誘電率又は比誘電率分布特定ステップで特定された前記複数の位置の誘電率又は比誘電率の各々に対応する温度を特定することで、前記誘電性材料の温度分布として、前記複数の位置における温度を求める温度分布特定ステップとを備えた分布特定方法。
【請求項2】
誘電性材料は誘電性のポリマーであり、複数の電極間に印加される電圧は交流電圧であり、前記誘電性材料の温度と誘電率又は比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報は予め用意されている温度−誘電率又は比誘電率マップであることを特徴とする請求項1記載の分布特定方法。
【請求項3】
温度−誘電率又は比誘電率マップがポリマーの温度と複素誘電率の実数部との対応関係を示している場合、
キャパシタンス計測ステップは、複数の電極間に交流電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスの実数部を計測し、
誘電率又は比誘電率分布特定ステップは、前記キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスの実数部から前記ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部を特定し、
温度分布特定ステップは、前記温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、前記誘電率又は比誘電率分布特定ステップで特定された複数の位置の複素誘電率の実数部の各々に対応する温度を特定することで、前記ポリマーの温度分布を求める
ことを特徴とする請求項2記載の分布特定方法。
【請求項4】
温度−誘電率又は比誘電率マップがポリマーの温度と複素誘電率の虚数部との対応関係を示している場合、
キャパシタンス計測ステップは、複数の電極間に交流電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスの虚数部を計測し、
誘電率又は比誘電率分布特定ステップは、前記キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスの虚数部から前記ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部を特定し、
温度分布特定ステップは、前記温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、前記誘電率又は比誘電率分布特定ステップで特定された複数の位置の複素誘電率の虚数部の各々に対応する温度を特定することで、前記ポリマーの温度分布を求める
ことを特徴とする請求項2記載の分布特定方法。
【請求項5】
誘電性のポリマーに導電性粒子が混入している場合、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を使用して、前記ポリマーにおける複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定ステップと、前記導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を参照して、前記導電率分布特定ステップで特定された複数の位置の導電率の各々に対応する濃度を特定することで、前記導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定ステップとを備えていることを特徴とする請求項2から請求項4のうちのいずれか1項記載の分布特定方法。
【請求項6】
導電性粒子が混入されている誘電性のポリマーが射出成形用の金型内に入れられており、温度分布特定ステップにおける金型内のポリマーの温度分布の特定処理と、濃度分布特定ステップにおける金型内の導電性粒子の濃度分布の特定処理とが並行して行われることを特徴とする請求項5記載の分布特定方法。
【請求項7】
計測対象である導電性粒子が混入されている誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測ステップと、前記キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を使用して、前記誘電性材料における複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定ステップと、前記導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を使用して、前記導電率分布特定ステップで特定された複数の位置の導電率の各々に対応する濃度を特定することで、前記導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定ステップとを備えた分布特定方法。
【請求項8】
誘電率又は比誘電率分布特定ステップは、キャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報として、逆問題解決手法に関する情報を利用して、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の誘電率又は比誘電率を特定することを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載の分布特定方法。
【請求項9】
導電率分布特定ステップは、キャパシタンス−導電率情報として、逆問題解決手法に関する情報を利用して、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の導電率を特定することを特徴とする請求項5から請求項7記載のうちのいずれか1項記載の分布特定方法。
【請求項10】
計測対象である誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極と、前記誘電性材料の温度と誘電率又は比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報を記憶している温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段と、前記複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測手段と、キャパシタンスと誘電率又は比誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を使用して、前記キャパシタンス計測手段により計測された複数の電極間のキャパシタンスから前記誘電性材料における複数の位置の誘電率又は比誘電率を特定する誘電率又は比誘電率分布特定手段と、前記温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率情報を使用して、前記誘電率又は比誘電率分布特定手段により特定された複数の位置の誘電率又は比誘電率の各々に対応する温度を特定することで、前記誘電性材料の温度分布として、前記複数の位置における温度を求める温度分布特定手段とを備えた分布特定装置。
【請求項11】
誘電性材料に混入している導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を記憶している濃度−導電率情報記憶手段と、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を記憶しているキャパシタンス−導電率情報記憶手段と、前記キャパシタンス−導電率情報記憶手段により記憶されているキャパシタンス−導電率情報を使用して、キャパシタンス計測手段により計測された複数の電極間のキャパシタンスから前記誘電性材料における複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定手段と、前記濃度−導電率情報記憶手段により記憶されている濃度−導電率情報を使用して、前記導電率分布特定手段により特定された複数の位置の導電率に対応する濃度を特定することで、前記導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定手段とを備えていることを特徴とする請求項10記載の分布特定装置。
【請求項12】
計測対象である導電性粒子が混入されている誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極と、前記導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を記憶している濃度−導電率情報記憶手段と、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を記憶しているキャパシタンス−導電率情報記憶手段と、前記複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測手段と、前記キャパシタンス−導電率情報記憶手段により記憶されているキャパシタンス−導電率情報を使用して、前記キャパシタンス計測手段により計測された複数の電極間のキャパシタンスから前記誘電性材料における複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定手段と、前記濃度−導電率情報記憶手段により記憶されている濃度−導電率情報を使用して、前記導電率分布特定手段により特定された複数の位置の導電率に対応する濃度を特定することで、前記導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定手段とを備えた分布特定装置。
【請求項1】
計測対象である誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測ステップと、キャパシタンスと誘電率又は比誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を使用して、前記キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから前記誘電性材料における複数の位置の誘電率又は比誘電率を特定する誘電率又は比誘電率分布特定ステップと、前記誘電性材料の温度と誘電率又は比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報を使用して、前記誘電率又は比誘電率分布特定ステップで特定された前記複数の位置の誘電率又は比誘電率の各々に対応する温度を特定することで、前記誘電性材料の温度分布として、前記複数の位置における温度を求める温度分布特定ステップとを備えた分布特定方法。
【請求項2】
誘電性材料は誘電性のポリマーであり、複数の電極間に印加される電圧は交流電圧であり、前記誘電性材料の温度と誘電率又は比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報は予め用意されている温度−誘電率又は比誘電率マップであることを特徴とする請求項1記載の分布特定方法。
【請求項3】
温度−誘電率又は比誘電率マップがポリマーの温度と複素誘電率の実数部との対応関係を示している場合、
キャパシタンス計測ステップは、複数の電極間に交流電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスの実数部を計測し、
誘電率又は比誘電率分布特定ステップは、前記キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスの実数部から前記ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の実数部を特定し、
温度分布特定ステップは、前記温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、前記誘電率又は比誘電率分布特定ステップで特定された複数の位置の複素誘電率の実数部の各々に対応する温度を特定することで、前記ポリマーの温度分布を求める
ことを特徴とする請求項2記載の分布特定方法。
【請求項4】
温度−誘電率又は比誘電率マップがポリマーの温度と複素誘電率の虚数部との対応関係を示している場合、
キャパシタンス計測ステップは、複数の電極間に交流電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスの虚数部を計測し、
誘電率又は比誘電率分布特定ステップは、前記キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスの虚数部から前記ポリマーにおける複数の位置の複素誘電率の虚数部を特定し、
温度分布特定ステップは、前記温度−誘電率又は比誘電率マップを参照して、前記誘電率又は比誘電率分布特定ステップで特定された複数の位置の複素誘電率の虚数部の各々に対応する温度を特定することで、前記ポリマーの温度分布を求める
ことを特徴とする請求項2記載の分布特定方法。
【請求項5】
誘電性のポリマーに導電性粒子が混入している場合、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を使用して、前記ポリマーにおける複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定ステップと、前記導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を参照して、前記導電率分布特定ステップで特定された複数の位置の導電率の各々に対応する濃度を特定することで、前記導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定ステップとを備えていることを特徴とする請求項2から請求項4のうちのいずれか1項記載の分布特定方法。
【請求項6】
導電性粒子が混入されている誘電性のポリマーが射出成形用の金型内に入れられており、温度分布特定ステップにおける金型内のポリマーの温度分布の特定処理と、濃度分布特定ステップにおける金型内の導電性粒子の濃度分布の特定処理とが並行して行われることを特徴とする請求項5記載の分布特定方法。
【請求項7】
計測対象である導電性粒子が混入されている誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測ステップと、前記キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を使用して、前記誘電性材料における複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定ステップと、前記導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を使用して、前記導電率分布特定ステップで特定された複数の位置の導電率の各々に対応する濃度を特定することで、前記導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定ステップとを備えた分布特定方法。
【請求項8】
誘電率又は比誘電率分布特定ステップは、キャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報として、逆問題解決手法に関する情報を利用して、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の誘電率又は比誘電率を特定することを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載の分布特定方法。
【請求項9】
導電率分布特定ステップは、キャパシタンス−導電率情報として、逆問題解決手法に関する情報を利用して、キャパシタンス計測ステップで計測された複数の電極間のキャパシタンスから誘電性材料における複数の位置の導電率を特定することを特徴とする請求項5から請求項7記載のうちのいずれか1項記載の分布特定方法。
【請求項10】
計測対象である誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極と、前記誘電性材料の温度と誘電率又は比誘電率の対応関係を示す温度−誘電率又は比誘電率情報を記憶している温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段と、前記複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測手段と、キャパシタンスと誘電率又は比誘電率の対応関係を示すキャパシタンス−誘電率又は比誘電率情報を使用して、前記キャパシタンス計測手段により計測された複数の電極間のキャパシタンスから前記誘電性材料における複数の位置の誘電率又は比誘電率を特定する誘電率又は比誘電率分布特定手段と、前記温度−誘電率又は比誘電率情報記憶手段により記憶されている温度−誘電率又は比誘電率情報を使用して、前記誘電率又は比誘電率分布特定手段により特定された複数の位置の誘電率又は比誘電率の各々に対応する温度を特定することで、前記誘電性材料の温度分布として、前記複数の位置における温度を求める温度分布特定手段とを備えた分布特定装置。
【請求項11】
誘電性材料に混入している導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を記憶している濃度−導電率情報記憶手段と、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を記憶しているキャパシタンス−導電率情報記憶手段と、前記キャパシタンス−導電率情報記憶手段により記憶されているキャパシタンス−導電率情報を使用して、キャパシタンス計測手段により計測された複数の電極間のキャパシタンスから前記誘電性材料における複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定手段と、前記濃度−導電率情報記憶手段により記憶されている濃度−導電率情報を使用して、前記導電率分布特定手段により特定された複数の位置の導電率に対応する濃度を特定することで、前記導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定手段とを備えていることを特徴とする請求項10記載の分布特定装置。
【請求項12】
計測対象である導電性粒子が混入されている誘電性材料を含む空間の周囲に設置されている複数の電極と、前記導電性粒子の濃度と導電率の対応関係を示す濃度−導電率情報を記憶している濃度−導電率情報記憶手段と、キャパシタンスと導電率の対応関係を示すキャパシタンス−導電率情報を記憶しているキャパシタンス−導電率情報記憶手段と、前記複数の電極間に電圧を印加することで、複数の電極間のキャパシタンスを計測するキャパシタンス計測手段と、前記キャパシタンス−導電率情報記憶手段により記憶されているキャパシタンス−導電率情報を使用して、前記キャパシタンス計測手段により計測された複数の電極間のキャパシタンスから前記誘電性材料における複数の位置の導電率を特定する導電率分布特定手段と、前記濃度−導電率情報記憶手段により記憶されている濃度−導電率情報を使用して、前記導電率分布特定手段により特定された複数の位置の導電率に対応する濃度を特定することで、前記導電性粒子の濃度分布として、前記複数の位置における濃度を求める濃度分布特定手段とを備えた分布特定装置。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−52941(P2012−52941A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196411(P2010−196411)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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