説明

分注装置および自動分析装置

【課題】分注動作のモニタリングの精度を適正に保つことができる分注装置および当該分注装置を備えた自動分析装置を提供する。
【解決手段】中空のプローブと、液体を吸引または吐出するために前記プローブに加えられる圧力であって所定の圧力伝達用液体を介して加えられる圧力を発生する圧力発生手段と、前記プローブの基端部付近に設けられ、前記圧力伝達用液体を介して前記プローブに加えられる圧力を検出する圧力センサと、前記圧力伝達用液体の液温を前記圧力センサの近傍の温度と略同一にする液温調整手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の吸引および吐出を行う分注装置、および当該分注装置を備えて試料の分析を行う自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液や体液等の検体を生化学的または免疫学的に分析する自動分析装置では、検体を含む試料や試薬を分注するために、プローブやシリンジ等の部品を用いて実現される分注機構を備えている。この分注機構では、配管内に注入される所定の液体が圧力を伝達することによって試料や試薬の吸引または吐出を行う。
【0003】
従来、上述した分注機構における試料や試薬の分注動作が確実に行われたかどうかをモニタリングするために、分注機構における配管内流路に圧力センサを設け、その配管内の圧力変動によって吸引や吐出が適正に行われたかどうかを判定する技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
【特許文献1】特表2000−513109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、自動分析装置は、室温がコントロールされているような場所に設置され、一定の室温環境下において使用されることが多い。しかしながら、自動分析装置の分注機構で用いられる圧力伝達用液体の液温までは制御していないため、例えば寒い季節などにおいて、圧力伝達用液体を外部から新たに導入すると、その新たに導入した圧力伝達用液体の液温が室温と大きく異なる場合があった。この場合には、圧力センサが温度特性を有することに起因して、その圧力センサの測定値が実際の値から変動してしまい、分注動作のモニタリングの精度に影響を及ぼす恐れがあった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、分注動作のモニタリングの精度を適正に保つことができる分注装置および自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1記載の発明に係る分注装置は、中空のプローブと、液体を吸引または吐出するために前記プローブに加えられる圧力であって所定の圧力伝達用液体を介して加えられる圧力を発生する圧力発生手段と、前記プローブの基端部付近に設けられ、前記圧力伝達用液体を介して前記プローブに加えられる圧力を検出する圧力センサと、前記圧力伝達用液体の液温を前記圧力センサの近傍の温度と略同一にする液温調整手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この発明における液体には、例えば血液や体液等の分析用の試料のように、微量の固体成分が混合した液体も含まれるものとする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記液温調整手段は、前記プローブおよび前記圧力センサに到達する前の前記圧力伝達用液体の液温を調整することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記圧力センサの近傍の温度を測定する温度測定手段と、液体の吸引および吐出を含む当該分注装置の動作制御を行う制御手段と、をさらに備え、前記制御手段は、前記温度測定手段の測定結果に基づいて前記液温調整手段で調整する前記圧力伝達用液体の液温の設定を行うことを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項記載の発明において、前記液温調整手段は、アルミブロックまたはヒータを含むことを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、所定の反応容器に試料を分注する試料分注機構と、前記反応容器に試薬を分注する試薬分注機構とを備え、前記試料の分析を行う自動分析装置において、前記試料分注機構および前記試薬分注機構は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の分注装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中空のプローブと、液体を吸引または吐出するために前記プローブに加えられる圧力であって所定の圧力伝達用液体を介して加えられる圧力を発生する圧力発生手段と、前記プローブの基端部付近に設けられ、前記圧力伝達用液体を介して前記プローブに加えられる圧力を検出する圧力センサと、前記圧力伝達用液体の液温を前記圧力センサの近傍の温度と略同一にする液温調整手段と、を備えることにより、分注動作のモニタリングの精度を適正に保つことができる分注装置および自動分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る分注装置を具備する自動分析装置要部の構成を示す上面図である。同図に示す自動分析装置1は、検体を含む試料の成分を生化学的に分析するものであり、試料および試薬を所定の反応容器に分注し、その反応容器内で生じる反応を光学的に測定することによって試料の分析を自動的に行う。
【0015】
この自動分析装置1は、血液や体液等の検体を収容する検体容器111を搭載した複数のラック112を収納して順次移送する検体移送部11、緊急用の検体や各種試料を収容する試料容器121を保持する試料テーブル12、試料と試薬が分注される反応容器131を保持する反応テーブル13、および各種試薬を収容する試薬容器141を保持する試薬テーブル14を備える。
【0016】
試料テーブル12、反応テーブル13、および試薬テーブル14は、ステッピングモータを駆動することによって各テーブルの中心を通る鉛直線を回転軸としてそれぞれ回動自在である。各テーブルの上方には開閉自在なカバーが具備される一方、各テーブルの下方には恒温槽が具備される(図示せず)。この結果、カバーを閉じたときにそのカバー内部にくる容器を恒温状態に保ち、そのカバー内部の容器に収容される試料または試薬の蒸発や変性を抑えることができる。
【0017】
また、自動分析装置1は、上記各種テーブルに加えて、反応容器131の内部を攪拌して反応容器131内の試料と試薬の反応を促進する攪拌部15、反応容器131に対して所定の光を照射し、この照射した光が反応容器131内を通過した光を受光してその光の強度等を測定する測光部16、および測光部16での測定が終了した反応容器131の洗浄を行う洗浄部17を備える。このうち測光部16は、白色光を照射する光源と、この光源から照射され、反応容器131を透過してきた白色光を分光する分光光学系と、分光光学系で分光した光を成分ごとに受光して電気信号に変換する受光素子とを備える。
【0018】
さらに、自動分析装置1は、試料または試薬を反応容器131に分注する分注装置として、検体容器111または試料容器121が収容する試料を反応容器131に分注する試料分注機構18と、試薬容器141が収容する試薬を反応容器131に分注する試薬分注機構19とを備える。以後の説明においては、この実施の形態に係る分注装置として試料分注機構18を詳述するが、試薬分注機構19も試料分注機構18と同様の構成および作用を有することは勿論である。
【0019】
図2は、この実施の形態に係る分注装置である試料分注機構18の概略構成を模式的に示す説明図である。同図に示す試料分注機構18は、試料の吸引および吐出を行うために先細の先端部181aを有する中空のプローブ181と、このプローブ181の鉛直方向の昇降や所定の鉛直軸を中心とする回動を行うプローブ駆動部182と、プローブ181に圧力を伝達するための圧力伝達用液体である洗浄液30の流路をなすチューブ31と、プローブ181の基端部付近に設けられ、洗浄液30を介してプローブ181に加わる圧力を検出し、その検出結果に対応する電気信号(アナログ信号)を生成する圧力センサ183と、この圧力センサ183から送られてくる電気信号を増幅してA/D変換を行う信号処理部184と、を備える。このうち洗浄液30は、イオン交換水、蒸留水、脱気水、洗剤液、または緩衝液などの非圧縮性流体から成る。
【0020】
また、試料分注機構18は、試料を吸引または吐出するためにプローブ181に加えられる圧力であって洗浄液30を介して加えられる圧力を発生する圧力発生手段であるシリンジ185を備える。このシリンジ185はシリンダ185aとピストン185bとを有し、ピストン駆動部186によってピストン185bが適宜移動することにより、シリンダ185a内部の洗浄液30に対して加える圧力を変化させる。シリンジ185とプローブ181とはチューブ31を介して接続しており、シリンジ185で発生した圧力は、洗浄液30によってプローブ181まで伝達される。
【0021】
さらに、試料分注機構18は、シリンジ185に端部が接続される別の流路であるチューブ32を備える。このチューブ32には、洗浄液30の液温調整を行う液温調整部187、洗浄液30の流れを制御する注入弁188、およびポンプ189が順次介在している。チューブ32のシリンジ185に接続される側と異なる端部は、洗浄液30を収容する液体容器190内に到達している。
【0022】
液温調整部187は、比熱が高く熱伝導性のよいアルミブロックを用いて実現される。かかるアルミブロックはその周囲の温度(室温)とほぼ等しいので、その液温調整部187を通過するチューブ32の内部を流れる洗浄液30の液温を圧力センサ183の近傍の温度(室温)と略同一にすることができる。この意味で、洗浄液30の液温を迅速に室温に近づけるためには、アルミブロックとチューブ32との接触面積をできるだけ大きくすればよい。なお、アルミブロック以外にも、比熱が高く熱伝導性のよい材質から成るブロックを用いることも勿論可能である。
【0023】
この試料分注機構18における試料の吸引および吐出を含む動作は、自動分析装置1全体の動作を制御するとともに、測光部16の測定結果に基づいた分析演算を含む各種演算を実行する制御部21によって制御される。この制御部21は、制御および演算機能を有するCPU(Central Processing Unit)等によって実現される。
【0024】
以上の構成を有する試料分注機構18は、試料の吸引または吐出を行う前に、注入弁188を開いてポンプ189によって洗浄液30を吸引し、プローブ181、シリンジ185、チューブ31および32をその洗浄液30で満たした後、注入弁188を閉じてポンプ189の動作を終了する。その後、試料の吸引または吐出を行う際には、制御部21の制御のもと、シリンジ185のピストン185bが移動することにより、洗浄液30を介してプローブ181の先端部181aに適当な吸引圧または吐出圧を印加する。なお、プローブ181の先端部181aでは、洗浄液30と吸引または吐出すべき試料との間に空気層が介在する。このため、試料を吸引または吐出したときにその試料が洗浄液30と混合することはない。
【0025】
図3は、試料分注機構18で試料を吐出する際に圧力センサ183で検出する圧力波形の特徴を模式的に示す説明図である。同図において、横軸は時間、縦軸は圧力を表す。この図3に示す曲線41は、洗浄液30の液温が室温と同程度であり、正常な吐出動作が行われた場合を示している。図中のP0は圧力の閾値を与えるものであり、この閾値P0よりも大きい圧力を検出したとき、制御部21では正常な吐出動作が行われたと判定する。
【0026】
これに対し、図4は、洗浄液30の液温は室温と比較して顕著に低いが、試料分注機構18の吐出動作自体は正常である場合に圧力センサ183が検出する圧力波形を模式的に示す説明図である。同図に示す曲線51は、試料を吐出する際の圧力値が閾値P0よりも小さい上、その値が徐々に減少する傾向にある。この場合、制御部21は吐出動作を異常と判定する。すなわち、洗浄液30の液温の影響により、圧力センサ183は試料分注機構18の吐出動作の際にプローブ181に加わる圧力を正確に検出することができない。
【0027】
この実施の形態においては、試料分注機構18が試料を吐出するときの圧力波形が曲線51のような波形を示す場合、すなわち洗浄液30の液温が室温に比べて顕著に低温であるような場合でも、液温調整部187が洗浄液30の液温を室温と同程度になるまで上昇させるので、圧力センサ183の内部を流れる洗浄液30の液温は室温と略同一となる。したがって、試料分注機構18の吐出動作が正常である限り、圧力センサ183で検出する圧力波形は正常時の曲線41となり、分注動作のモニタリングの精度を適正に保つことが可能となる。
【0028】
なお、圧力センサ183では試料を吸引動作のモニタリングも行うが、この場合にも上述した試料吐出時と同様、吸引動作のモニタリングの精度を適正な範囲で維持することができる。
【0029】
以上説明した本発明の一実施の形態によれば、中空のプローブと、液体を吸引または吐出するために前記プローブに加えられる圧力であって所定の洗浄液を介して加えられる圧力を発生するシリンジと、前記プローブの基端部付近に設けられ、前記洗浄液を介して前記プローブに加えられる圧力を検出する圧力センサと、前記洗浄液の液温を前記圧力センサの近傍の温度と略同一にする液温調整部と、を備えることにより、分注動作のモニタリングの精度を適正に保つことができる分注装置および当該分注装置を備えた自動分析装置を提供することができる。
【0030】
ここまで、本発明を実施するために最良と思われる一実施の形態を詳述してきたが、本発明はその一実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、液温調整部187を、アルミブロックとベルチェ素子とを備えたアルミブロック恒温層によって実現してもよいし、加熱用のヒータによって実現してもよい。また、アルミブロック恒温層とヒータをチューブの適当な位置に複数個介在させることによって液温調整部187を構成してもよい。
【0031】
図5は、本発明の別な実施の形態に係る分注装置としての試料分注機構の概略構成を模式的に示す説明図である。同図に示す試料分注機構18−2は、液温調整部187がアルミブロック恒温層またはヒータによって実現され、試料分注機構18と比較して、圧力センサ183の近傍の温度を測定する温度測定部191が新たに設けられている。この試料分注機構18−2では、温度測定部191で測定した温度に基づいて、制御部21が液温調整部187の動作制御を行い、洗浄液30の液温を最適化するための設定を行う。これにより、上記一実施の形態と同様、分注動作のモニタリングの精度を適正に保つことが可能となる。
【0032】
なお、以上の説明においては、試料の成分の生化学的な分析を行う自動分析装置に適用する場合を取り上げたが、本発明は、試料の成分の免疫学的な分析を行う自動分析装置にも適用することができる。
【0033】
このように、本発明は、ここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自動分析装置要部の構成を示す平面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る分注装置の概略構成を示す説明図である。
【図3】圧力センサが検出する液体吐出時の圧力波形(正常時)を模式的に示す説明図である。
【図4】圧力センサが検出する液体吐出時の圧力波形(異常時)を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明の別な実施の形態に係る分注装置の概略構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 自動分析装置
11 検体移送部
12 試料テーブル
13 反応テーブル
14 試薬テーブル
15 攪拌部
16 測光部
17 洗浄部
18、18−2 試料分注機構(分注装置)
19 試薬分注機構(分注装置)
21 制御部
30 洗浄液(圧力伝達用液体)
31、32 チューブ
41、51 曲線
111 検体容器
112 ラック
121 試料容器
131 反応容器
141 試薬容器
181、191 プローブ
181a 先端部
182 プローブ駆動部
183 圧力センサ
184 信号処理部
185 シリンジ
185a シリンダ
185b ピストン
186 ピストン駆動部
187 液温調整部
188 注入弁
189 ポンプ
190 液体容器
191 温度測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空のプローブと、
液体を吸引または吐出するために前記プローブに加えられる圧力であって所定の圧力伝達用液体を介して加えられる圧力を発生する圧力発生手段と、
前記プローブの基端部付近に設けられ、前記圧力伝達用液体を介して前記プローブに加えられる圧力を検出する圧力センサと、
前記圧力伝達用液体の液温を前記圧力センサの近傍の温度と略同一にする液温調整手段と、
を備えたことを特徴とする分注装置。
【請求項2】
前記液温調整手段は、前記プローブおよび前記圧力センサに到達する前の前記圧力伝達用液体の液温を調整することを特徴とする請求項1記載の分注装置。
【請求項3】
前記圧力センサの近傍の温度を測定する温度測定手段と、
液体の吸引および吐出を含む当該分注装置の動作制御を行う制御手段と、
をさらに備え、
前記制御手段は、前記温度測定手段の測定結果に基づいて前記液温調整手段で調整する前記圧力伝達用液体の液温の設定を行うことを特徴とする請求項1または2記載の分注装置。
【請求項4】
前記液温調整手段は、アルミブロックまたはヒータを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の分注装置。
【請求項5】
所定の反応容器に試料を分注する試料分注機構と、前記反応容器に試薬を分注する試薬分注機構とを備え、前記試料の分析を行う自動分析装置において、
前記試料分注機構および前記試薬分注機構は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の分注装置であることを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−322327(P2007−322327A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154876(P2006−154876)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】