説明

切削工具のための高耐酸化性ハードコート

発明の工作物は、その表面の少なくとも部分上に、All-a-b-c-dCrabSicdZの組成を含む耐摩耗性ハードコートを特徴として有し、ここで、XはNb、Mo、W、またはTaからの少なくとも1つの元素であり、ZはN、C、CN、NO、CO、CNOからの1つの元素または化合物であり、かつ、0.2≦a≦0.5、0.01≦b≦0.2、0≦c≦0.1、0≦d≦0.1である。このような耐摩耗性コーティングを堆積させるためのPVDプロセスがさらに開示され、少なくとも1つの工作物が真空コーティングシステムに設置され、前記システムは低圧アルゴン雰囲気中で動作し、少なくとも1つの反応ガスの少なくとも一時的な添加とともに、少なくとも2つの金属または合金のターゲットを利用し、基材に負の電圧を加える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野
本発明は、特に摩耗保護を必要とする本体のための、非常に高い耐酸化性を有するハードコートに関する。本発明はさらに、コーティングされた工具、特に高速度鋼、超硬合金または立方晶窒化硼素(CBN)でコーティングされたエンドミルなどの切削工具、ドリルビット、切削インサート、歯切り盤、およびホブに関する。したがって、本発明はさらに、コーティングされた耐摩耗性機械部品、特にポンプ、歯車、ピストンリング、燃料噴射器などの機械的構成部品に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術
「ハードコートでコーティングされた工具(hard coating coated tool)」と題された文書A(JP2002−337007)は、切削工具に高い耐酸化性を与える、CrAlNコーティングにおける細かいアモルファスのCrAlSiN粒子の存在について記載する。EP 1 422 311 A2である文書Bは、NaCl型結晶構造を有するAlに富んだCrAlSi(NBCO)コーティングに言及する。JP 2002−337005である文書Cは、少なくとも1つの層がCrAlNでできており、別の層が一種のCrSiBNでできている、耐摩耗性のコーティングを備えた工具について記載する。JP
2002−160129である文書Dは、Ti、Cr、SiまたはAlベースの材料でできた中間層を備え、次いでそれがAlCrNベースの硬質膜でコーティングされた工具について記載する。JP 10−025566である文書Eは、高温での耐酸化性の特性を有するCrAlNコーティングに言及する。「表面およびコーティング技術(Surface & Coating Technology)」(2003)のv.174−175、681−686ページにおけるルグシェイダ(Lugscheider)らによる科学記事である文書Fは、切削工具に堆積されるCrAlN+C薄膜コーティングの機械的、摩擦学的特性の研究、特に、切削および穿孔の適用例について有益な効果を有することが報告されている、低摩擦性の摩擦学的性能を有するCrAlN+Cコーティングに言及する。ウールマン(Uhlmann)らによる、第4回の国際会議議事録「製造エンジニアリングにおけるコーティング」(2004)の111−120ページは、高機能切削工具のための新しい展開について報告する(文書G)。この論文は、多層になったCrN/TiAlN、CrMoTiAlNおよびCrAlVNハードコートの堆積に言及する。
【0003】
[A]、[B]および[C]では、硬質陽極コーティングは、ケイ素または酸素の少なくとも1つを含むCrAlベースのシステム層からなり、それは硬さの程度の増大および高温での耐酸化性の増大をもたらし、切削工具の研削摩耗および酸化摩耗の速度を減じる。[D]では、基材はまずTi、Cr、SiまたはAlの層でコーティングされ、AlCrN硬質層がその上に形成される。バッファ変形吸収層として金属中間層が用いられ、コーティングと工具との熱膨張差によるいかなる変形も均等にする。[E]では、硬質AlCrNコーティングが、反応性窒素雰囲気中でAlおよびCrターゲットから物理蒸着法によって形成され、AlCrNシステムの耐熱度は最大1000℃と報告される。[F]では、著者は、CrAlNコーティングを硬質炭素表面と組合せることにより、機械的特性(硬度およびヤング率の上昇)ならびに摩擦特性の向上を報告する。このような組合わせは穿孔およびフライス切削の適用例において成功し得ると主張される。[G]では、著者は、イオンプレーティングプロセスによってクロム、アルミニウムおよびバナジウム金属源を組合せた層として堆積した多層CrAlVNコーティングに言及する。その結果、堆積したコーティングの加工性能は、標準的なTiAlNコーティングによって得られるレベルに達しなかった。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概要
本発明は、特に高温になる高速切削の適用例、機械加工が困難な材料の適用例(例えば、工具鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウムおよびチタン合金の機械加工)における、TiCN、TiAlN、AlTiNの低耐摩耗性の層および類似のハードコートを対象とする。高温の適用例において公知のCrAlNコーティングは有益な効果を有するが、特に切断および成形の工具または構成部品、特に内燃機関に用いられる構成部品における、工具を用いる一定の適用例のためのさらに優れた性能を与える代替物を見つける必要がある。
【0005】
ニオブ、タンタル、モリブデンおよび/またはタングステンなどの遷移金属の添加によって、CrAlNコーティングの性能が最適化され得る。任意に、ケイ素および/またはホウ素などのメタロイドがさらに添加されて、硬度を増大させ、かつ上述の極端な条件下で動く工具および機械的構成部品の摩耗を減少させることができる。したがって新しい一群のコーティングは、切り屑生成プロセスに影響を与えることにより、工具の耐用年数を延ばし、機械的構成部品を交換するコスト、および/または、高額な切削工具を研ぎ直すコストを減じ、結果として、可能な切削速度が増すことで生産性の増大をもたらすであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
発明の詳細な説明
合金AlCrNコーティングは、工業用のバルザース(Balzers)(登録商標)高速コーティングシステム(RCS)機を用いて得られた。この機械は、高い接着強度を促進する、基材の迅速な加熱およびエッチングを可能にする低圧アーク放電構成を含む。この装置はまた、スパッタリング、陰極アークおよびナノ分散アークジェット源から選択し得る6つの堆積源を備える。堆積中、固定バイアス電源またはパルスバイアス電源を用いることにより、基材工具または構成部品に負バイアス電圧を加えることができる。RCS設備の全体的な説明および図面は、米国出願番号US2002/0053322号で見ることができる。
【0007】
様々な工作物上で発明のコーティングを堆積させるために、前もって洗浄された工作物が、その直径に合わせて、2回転基材キャリヤ、または直径50mm未満であれば3回転基材キャリヤに取付けられた。コーティングシステムに設置された放射暖房器が工作物を約500℃の温度にまで加熱し、−100Vから−200Vのバイアス電圧が0.2Paの圧力でアルゴン雰囲気において加えられると、工作物表面はArイオンでエッチング研磨を受けた。コーティングシステムは低圧アルゴン雰囲気中で動作し、少なくとも1つの反応ガスの少なくとも一時的な添加とともに、少なくとも2つの金属または合金のターゲットを利用し、基材に負の電圧を加える。
【0008】
本発明の目的のために、工作物は、鋼、高速度鋼、ハードメタル、超硬合金または他の適切な金属またはセラミックスからできた本体を有するように規定される。工作物の例は、高温および/または乾燥したツーリング動作のための工具であってもよい。工具の例は、切削工具、ドリル、リーマ、ブローチ、インサート、ホブ、ミル、エンドミル、ボールノーズミル(ball nose mill)、総形バイト、ダイカスト型、射出型、絞り加工工具、深絞り工具、鍛造型(forging die)である。本発明は、工具に加えて、例えば過酷な条件、高温条件、潤滑が不十分かつ/または乾燥した運転条件のための構成部品に適用することができる。このような構成部品は、タペット、弁機構の構成部品、バケットタペット、弁レバー、ロッカアーム、ピン、ピストンピン、ローラ従動子ピン、ボルト、燃料噴射シ
ステムの構成部品、射出ニードル、歯車、ピニオンギヤ、プランジャ、ピストンリングを含む。このリストは終了するわけではなく、本発明のさらなる実施例および適用例が可能であり、当業者はこれらを規定することができる。
【0009】
本発明に関連した実験では6つの堆積源のうち2つが用いられ、延性のTiN接着層(厚み約0.3μm)が含まれた。実験のうちのいくつかは、Ti、CrおよびCrNなどの種々の接着層を用いて繰り返され、類似した性能が得られた。残り4つの源は、カスタマイズされた焼結されたアルミニウム−クロム−遷移金属ターゲットおよびイオンプレーティング堆積プロセスを用いて主要な機能層を堆積させるために利用された。さらに、いくつかの実験では、主要な機能層は、遷移金属と合金になったAlCr、および、ケイ素またはホウ素を含むAlCrを組合せることにより共析された。堆積中、源は3.5kWの電力で動く一方、窒素ガスの分圧は約3.5Paに維持された。さらに、基材上のイオンボンバードメント処理を強化するため、堆積中、−100Vの基材バイアスが与えられた。堆積時間は、すべての異なるコーティング組成について機能層の厚みが約4μmであるように常に調整された。焼結されたターゲットのために合計10のカスタマイズされた組成が準備された。すべての組成のすべてのターゲットについてアルミニウム原子含有率は70%で固定した。1つのカスタマイズされた組成は30原子%のCrから、8つのカスタマイズされた組成は25原子%のCrとそれぞれ5原子%のTi、Y、V、Nb、Mo、W、SiおよびBとから、ならびに1つの組成は20原子%のCrと10原子%のMoとから構成される。コーティングの組成は、(実施例1から4において示されるように)用いられたターゲットの組成分析に比例して相関した。
【0010】
少量の合金元素を包含するAlCrNコーティング用の望ましい立方結晶構造が図1に表わされる。純粋なAlCrNコーティングでは、NaCl(B1)結晶構造は、利用可能な陽イオン位置を争う、陰イオン窒素原子1ならびにアルミニウム原子2およびクロム原子3からなる。理論上は、少量の異なる遷移金属(TM)4を添加すると、格子構造は、原子サイズおよび電気陰性度の差によってわずかに歪むはずである。さらに、ほとんどの遷移金属は、大量のアルミニウム原子が存在する状態でB1構造を安定化する能力がクロムよりもはるかに低いので、固溶体の固溶量は限定される。溶質TM原子の溶解度に影響する別の要因はTMおよびアルミニウムおよびクロムの原子半径差であって、これは真の固溶体の強化を達成するには15%を超えてはならない。実際、利用される遷移金属合金の性質に依存して、溶質原子は、結果として生じる格子のひずみ効果による転位運動を制限したりしなかったりする。
【0011】
様々なAlCr−TM−NコーティングのX線回折パターンおよび測定された格子定数が図2に示される。AlCrYNを除き、コーティングは立方晶AlCrNについて予期されたものに類似した明瞭なB1構造を示した。この事実は、溶質TM原子の溶解度のみならず結晶構造全体の構造的位相安定性についての、合金元素の原子半径および電気陰性度の重要性を強調する。したがって、測定された格子定数の差は、遷移金属ドーピングの構造的効果について確かに一意の情報をもたらし得る。XRD実験は、AlCrTiNおよびAlCrVNの場合には、格子定数はわずかに大きいが純粋なAlCrNに類似することを示す。しかしながら、AlCrNbNおよびAlCrMoNの場合には、B1結晶構造を維持しつつ格子がわずかに(約0.02オングストロ−ム)拡大した。しかしながら、AlCrYN、AlCrHfNおよびAlCrZrNの場合には、TMは、その原子サイズが比較的大きいため、極めて小さな溶解度を有すると予想される。この場合、AlCrYNについて図2に示されるように、結果として微細構造が非晶質化される。
【0012】
AlCrN B1構造への遷移金属ドーピングの別の効果は、膜成長中に(200)テクスチャが生成されることであり得る。これは例えば、純粋なAlCrNが示すさらに多結晶性の構造と比較して(200)の好ましい配向を示すAlCrNbNのXRDパター
ン(図2)とともに生じたものである。図3では、((111)面の回折強度に対する(200)面の回折強度の比として規定される)回折比QIが、AlCrNおよび2つのAlCrMoN組成について示される。B1構造を有するAlCrN中のモリブデン含有量を増加させることで、結果としてより高いQI比を生じた。応力場の形状は適用例によって著しく異なるので、技術的には、保護硬質膜のテクスチャおよび構造の制御が極めて望ましい。さらに、参照文献[B]とは異なり、ここでは好ましい配向は主にコーティングの化学量論によって制御される。本発明で請求される組成によって達成し得る主要な構造構成が、図4に概略的に表わされる。図4(a)では、任意に配向されたクリスタライト6からなる多結晶膜は、超硬合金または鋼基材5の上に成長する。第2の可能性は、テクスチャフィルムが基材5上で成長し、特定の平面8に配向されたクリスタライトの一部であり、配向されないクリスタライト9よりも数因子分大きいことである。第3のあり得る微細構造の構成(図4(c))は、メタロイド(SiまたはBのいずれか)を共析させることにより達成することができ、共有結合した窒化物の形成と、結果としてさらに硬度が増大したクリスタライト11を囲む別個のアモルファスまたは半晶質位相12の生成とをもたらす。
【0013】
堆積した硬質層の硬度試験は、深さ感知式微小硬度機器フィッシャスコープ(Fisherscope)H100で50mNの試験荷重を用いて行われた。さらに残留応力は、堆積の前後の三点曲げ試験によって薄い平面鋼基材の曲率を測定することにより計算された。図5のプロットは、様々なAlCrXN組成について得られた値を示す。図5の結果は、低量のNb、MoおよびWが、コーティングの残留応力がそれ以上増加しない状態でAlCrNと合金になるときの有益な強化効果を示す。この驚異的な機械挙動は、固溶体硬化の機構と、上述の我々の実験で観察された、これらの元素のB1−AlCrNへの溶解度とによって部分的に説明される。
【0014】
高速切削または高速送り切削の適用例ならびにオーステナイト系ステンレス鋼およびチタンニッケル合金の機械加工における、コーティングの別の重要な特性は、高温での酸化に対するコーティングの抵抗と切削中にコーティングと工作物材料との間に成形する第3の本体層の性質とであって、切り屑生成プロセスに影響を及ぼし得る。合金AlCrNコーティングの酸化挙動を調査するために、900℃で1時間、気流において焼なまし実験が行なわれた。これらの実験に続き、酸化した表面層の2次イオン質量分析計の深さプロファイル分析が行われた。図6(a)は、酸化クロムおよび酸化アルミニウムの両方の形成を伴う標準的なAlCrNコーティングの、典型的な酸化挙動の深さプロファイルを示す。非合金AlCrNコーティングのみならず、AlCrTiNコーティングも同様にこの典型的な挙動を示した。しかしながら、合金AlCrXNコーティングのうちのいくつかは、図6(b)から推論し得るように、ほぼ酸化クロムのみを形成する傾向を有していた。一般に酸化クロムは酸化アルミニウムよりも侵食に弱く抵抗力がないので、これは不十分な耐酸化挙動を示し、そのため、それらは切断および/または成形過程で容易に除去することができる。この酸化挙動はAlCrYNコーティングおよびAlCrVNコーティングで観察された。他方、AlCrNbN、AlCrMoNおよびAlCrWNコーティングはより最適な酸化挙動(図6(c)に示される)を示し、外側の酸化層中のアルミニウムの量は、酸化していない部分のアルミニウム含有量と同様であった。これは、多くの切削の適用例において非常に望ましくなり得る、硬質の受動的な酸化アルミニウムの形成を示す。
【0015】
新しい向上したAlCrXNコーティングを適用する際の温度が高いことが意図されるので、堆積した層の耐摩耗性は、高温で硬質アルミナボールの対向面を用いたボールオンディスクテストを利用し、所定のサイクル数終了後にコーティングの摩耗を測定することにより調査された。図7では、TiAlN、AlTiNおよびAlCrNとの比較において様々なAlCrXNコーティングの摩耗率が示される。この結果もまた、AlCrWN
が集合中で最小の摩耗を有し、それは純粋なAlCrNコーティングに対応するものよりさらに小さいことを示す。
【0016】
先ほど示された機械テスト結果に基づいて、AlCrベースのコーティングの挙動はさらに、Nb、Mo、WまたはTaを合金化することによって向上することができる。換言すれば、クロムより重いVbおよびVIbのグループからの遷移金属を含むことによる。これらの元素の原子濃度が金属部分の2パーセントから10パーセントである場合に最良の結果に到達することができるが、原子濃度は1パーセントにまで低く、20パーセントにまで高くなり得るであろう。これらの合金元素の存在により、究極的には、溶解度が優れ、硬度が向上し、かつ高温での酸化挙動が最適となるのが確実である。これにより、コーティングされた機械的構成部品および切削工具の高温での研磨、拡散および酸化による摩耗を減じる。同様の結果は、ケイ素および/またはホウ素などのメタロイドを少量添加することによっても達成された。また類似の合金炭化物および炭窒化物、酸化炭素などによっても達成されるはずである。したがって、実際の本発明は、下記の全体的な組成:
Al1-a-b-c-dCrabSicd
のコーティングを有する、新規なコーティングおよび対応するコーティングされた工具および構成部品に言及し、
ここで、
Xは、Nb、Mo、W、またはTaからの少なくとも1つの元素であり、
Zは、N、C、CN、NO、CO、CNOを意味し、
0.2≦a≦0.5
0.01≦b≦0.2
0≦c≦0.1
0≦d≦0.1
である。
【0017】
異なるAl/Cr比を有する2種類のターゲットを用いることにより、または、CrおよびCrおよびまたはCr/N接着層から始め、CrおよびAlCrターゲットの両方を備えたコーティングチャンバの対応するターゲット出力を例えば連続的にまたは段階的に調整することで層組成に漸進的変化をもたらすことにより、例えば表面に向かってAl容量が増大するような傾斜コーティングを堆積することがさらに可能である。この種のコーティングを産業上適用する際の重要な要因は、実質的にコーティングプロセスの全進行および膜厚全体にわたって、再生産可能なようにプロセスパラメータを調整する能力である。層の厚さの部分または全部にわたってナノ構造を生成するため、すなわちナノまたはマイクロメートル範囲の積層のために、例えば1回転または複数回転する回転基材キャリヤ上で生じる小さな組成変動をさらに利用することができる。
【0018】
実施例1:工具鋼のフライス切削−荒仕上げ
切削工具:エンドミルHSS荒削り、直径D=10mm、歯数z=4
工作物:工具鋼、X 40 CrMoV 5 1、DIN 1.2344(36HRC)切削パラメータ:
切削速度vc=60m/分(S=1592 1/分)
送り速度fz=0.05mm/U(f=318.4mm/分)
径方向切込み深さae=3mm
軸方向切込み深さap=5mm
冷却:乳濁液5%
プロセス:下向き削り
工具寿命基準:運動量の遮断(フランク摩耗ランド幅VB>0.3mmと相関)
【0019】
【表1】

【0020】
実施例1は、産業上用いられるTiCN、TiAlNおよびAlTiNコーティングと比較して増大したAlCrNベースのコーティングの工具寿命をメートルで示す。AlCrNbN、AlCrWNおよびAlCrMoNは高い硬度および適切な接着を有する表面を与えるので、これらが高速度鋼などの延性型の基材に適用されると極めて有益になり得る。
【0021】
実施例2:穿孔工具鋼
切削工具:ドリルHSS(S 6−5−2)、直径D=6mm
工作物:工具鋼 X 210 Cr 12、DIN 1.2080(230HB)
切削パラメータ:
切削速度vc=35m/分
送り速度f=0.12mm
ドリル穴深さz=15mm、盲穴
冷却:乳濁液5%
工具寿命規準:運動量の遮断(エッジ摩耗幅VBc>0.3mmと相関)
【0022】
【表2】

【0023】
実施例2は、HSSコーティングドリルにおける様々なAlCrXNコーティングの比較を示す。主要な工具寿命の規準は、予め定められた最大運動量に達するまでに、コーティング厚さにわたって穿設された孔の基準の個数である。Nb、WおよびMo合金のAlCrベースのコーティングが最良の性能の係数を示した。
【0024】
実施例3:−低合金鋼のフライス切削−中仕上げ
切削工具:エンドミルカーバイド、直径D=8mm、歯数z=3
工作物:炭素鋼Ck45、DIN 1.1191
切削パラメータ:
切削速度vc=400m/分
送り速度vf=4776mm/分
径方向切込み深さae=0.5mm
軸方向切込み深さap=10mm
冷却:乳濁液5%
プロセス:下向き削り
工具寿命基準:フランク摩耗ランド幅VB=0.12mm
【0025】
【表3】

【0026】
実施例3は、平坦な炭素鋼の仕上げ中のコーティングされた超硬合金エンドミルの工具寿命の比較を示す。TiCN、TiAlNおよびAlTiNコーティングなどの標準的な産業上用いられる層システムが、lf=150mの工具寿命の後に高いフランク摩耗を示す一方で、Al1−a−b−c−d Cra Xb SicZの公式に基づくコーティングの組合わせでコーティングされた工具は著しく低い摩耗を示した。これらの結果は、Al1-a-b-c-dCrabSicZコーティングが高速機械加工プロセスで引起こされた高い熱衝撃に十分に抵抗できることを示す。
【0027】
実施例4:−オーステナイト系ステンレス鋼のフライス切削−荒仕上げ
切削工具:エンドミルカーバイド、直径D=10mm、歯数z=4
工作物:オーステナイト系ステンレス鋼 X 6 CrNiMoTi 17 12 2、DIN 1.4571
切削パラメータ:
切削速度vc=67m/分
送り速度fz=0.033mm
径方向切込み深さae=6mm
軸方向切込み深さap=9mm
冷却:乳濁液5%
プロセス:下向き削り
工具寿命基準:フランク摩耗ランド幅VB=0.2mm
【0028】
【表4】

【0029】
実施例4では、産業上用いられる4つの硬質層システムのステンレス鋼に対する、コーティングされた超硬合金エンドミルの工具寿命の比較を示す。ステンレス鋼の機械加工は、この材料の靭性が高く、作業中に硬化し工具に付着する傾向のために、非常に困難なプロセスである。工具寿命の面からは、AlCrNbN、AlCrMoNおよびAlCrWNコーティングを用いると最良の結果に達した。この工具寿命の増大は、Nb、MoまたはWを合金したAlCrNシステムを用いることで示された、高温での硬度の増大および良好な酸化挙動の両方に関連し得、それが結果として耐摩耗性を向上させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】アルミニウム−クロム−遷移金属窒化物の結晶構造の図である。
【図2】アルミニウム−クロム−遷移金属窒化物のX線回折パターンおよび格子定数の図である。
【図3】アルミニウム−クロム−モリブデン窒化物のX線回折パターンおよびテクスチャ係数の図である。
【図4】アルミニウム−クロム−遷移金属窒化物によって達成可能な微細構造の図である:(a)多結晶(b)テクスチャ化されている(c)ナノ合成物。
【図5】アルミニウム−クロム−遷移金属窒化物の硬度および残留応力の測定値の図である。
【図6】2次イオン質量分析計の深さプロファイル:(a)典型的な酸化した表面(b)酸化が不十分な表面(c)最適に酸化した表面。
【図7】アルミニウム−クロム−遷移金属窒化物に対する高温での耐摩耗性のボールオンフラットテストの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有する工作物であって、前記表面の少なくとも部分が、
Al1-a-b-c-dCrabSicdZの組成のコーティングを含む耐摩耗性のハードコートでコーティングされ、ここで、
Xは、Nb、Mo、W、またはTaからの少なくとも1つの元素であり、
Zは、N、C、CN、NO、CO、CNOからの1つの元素または化合物であり、かつ、
0.2≦a≦0.5、
0.01≦b≦0.2、
0≦c≦0.1、
0≦d≦0.1、
である工作物。
【請求項2】
鋼、高速度鋼、ハードメタル、超硬合金、または他の金属もしくはセラミックスでできた本体を有する、請求項1に記載の工作物。
【請求項3】
工作物は、高温および/または乾燥したツーリング動作用工具である、請求項1に記載の工作物。
【請求項4】
工作物は、工具、切削工具、ドリル、リーマ、ブローチ、インサート、ホブ、ミル、エンドミル、ボールノーズミル、総形バイト、ダイカスト型、射出型、絞り加工工具、深絞り工具、鍛造型である、請求項1に記載の工作物。
【請求項5】
工作物は、過酷な、高温の、潤滑が不十分な、かつ/または乾燥した運転条件のための構成部品である、請求項1に記載の工作物。
【請求項6】
工作物は、構成部品、タペット、弁機構の構成部品、タペット、バケットタペット、弁レバー、ロッカアーム、ピン、ピストンピン、ローラ従動子ピン、ボルト、燃料噴射装置の構成部品、射出ニードル、歯車、ピニオンギヤ、プランジャ、ピストンリングである、請求項1に記載の工作物。
【請求項7】
工作物上に少なくとも1つのAl1-a-b-c-dCrabSicdZ膜を堆積させるためのPVDプロセスであって、ここでXはNb、Mo、WまたはTaからの少なくとも1つの元素であり、ZはN、C、CN、NO、CO、CNOからの1つの元素または化合物であり、かつ、0.2≦a≦0.5、0.01≦b≦0.2、0≦c≦0.1、0≦d≦0.1であって、少なくとも1つの工作物は真空コーティングシステムに設置され、前記システムは低圧アルゴン雰囲気中で動作し、少なくとも1つの反応ガスの少なくとも一時的な添加とともに、少なくとも2つの金属または合金のターゲットを利用し、基材に負の電圧を加える、PVDプロセス。
【請求項8】
反応ガスは、分圧が約3.5Paの窒素である、請求項7に記載のPVDプロセス。
【請求項9】
基材電圧は−100Vである、請求項7または8のいずれかに記載のPVDプロセス。
【請求項10】
少なくとも2つのターゲットはAlおよびCrを含む、請求項7から9のいずれかに記載のPVDプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−505771(P2008−505771A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520643(P2007−520643)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【国際出願番号】PCT/CH2005/000404
【国際公開番号】WO2006/005217
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(596013501)オー・ツェー・エリコン・バルザース・アクチェンゲゼルシャフト (55)
【氏名又は名称原語表記】OC Oerlikon Balzers AG
【Fターム(参考)】