説明

列車制御装置

【課題】GPS受信機で検出した位置情報の信頼度を確認し、確認した信頼度により制御方式を変更して列車制御の安全性を保つ。
【解決手段】地上に固定された基準GPS受信局3でGPS受信機9の測位精度の変動を検出し、列車1に搭載した車上制御装置6は基準GPS受信局3から送信される測位精度の変動を示す偏差ベクトル情報によりGPS受信機5を利用した測位精度が劣化したか否を判定しで列車1の速度を制御し、GPS受信機5を利用した測位精度が常に保たれていることが保証できない場合でも、GPS受信機5を安全性が求められる列車制御に適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GPSシステムを用いて車両の走行位置を検出して列車の速度を制御する列車制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走行している列車の位置を検知するため、特許文献1や特許文献2にはGPSを利用して列車の走行位置を検知して速度制限を行う装置が開示されている。特許文献1に示された車両運転支援システムは、車両に搭載したGPS受信機からの緯度・経度信号に基づいて車両の現在位置を検出し、検出した車両の位置が速度検知エリア内であるか否を判定し、速度検知エリアで列車の速度が制限速度を越えないように制御している。
【0003】
特許文献2に示された列車走行情報検知装置は、複数の車両で編成された列車の先頭車両と最後尾車両にGPS受信機を搭載し、各GPS受信機からの緯度・経度信号に基づいて列車の前後の現在位置をそれぞれ検出し、検出した列車の前後の現在位置とGPSアンテナの設置位置により測位計算をして列車全体の在線位置と向きを把握している。
【0004】
特許文献1や特許文献2に示すように、GPS受信機からの緯度・経度信号に基づいて列車の現在位置を検知しても、GPS受信機に異常や故障あった場合、間違った緯度・経度信号により列車が実際に走行している位置と異なる位置を認識すると、実際に列車が走行している位置の制限速度以上で走行する可能性があり、安全性が確保できなくなる。
【0005】
このGPS受信機の異常を検出するため、特許文献3に示されたGPS装置は、2台のGPSアンテナを一定間隔で車両の前後に設け、2台のGPSアンテナが接続された2台のGPS受信機により出力する緯度・経度による車両の位置情報から2台のGPSアンテナ間の距離を算出し、算出した2台のGPSアンテナ間の距離と2台のGPSアンテナ間の設置間隔を比較して2台のGPS受信機が正常に動作しているかどうかを判定し、GPS受信機に異常が生じたと判定したとき、最低制限速度で車両を走行させている。
【0006】
また、特許文献4に示された車両位置検出装置は、GPS受信機で検出した位置情報を速度センサとジャイロセンサで検出した走行距離と進行方向により算出した車両位置により補正して位置検出精度を高めるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
GPSを利用するうえで通常に発生する誤差に対しては、例えば特許文献3に示された従来の方式で対応できる。しかしながらGPS受信機で検出する位置情報の精度はGPS衛星の運用によりコントロールすることができる。例えばGPS衛星の運用者が安全保障などを理由にノイズを混入するとGPS受信機で検出する位置情報の誤差が大きくなる。このようなGPS衛星の運用システムの挙動を把握することは困難であり、位置精度が求められる列車制御の安全性が保てなくなる。
【0008】
この発明は、このような問題を解消し、GPS受信機で検出した位置情報の信頼度を確認し、確認した信頼度により制御方式を変更して安全性を保つことができる列車制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の列車制御装置は、GPSシステムを利用した測位結果により列車の位置を把握して列車の速度を制御する列車制御装置において、地上に設けた基準GPS受信局は、GPS受信機で一定周期毎にGPSアンテナの設置位置を示す基準測位情報を算出し、算出した基準測位情報と前記GPSアンテナの設置位置を示す基準位置情報とを比較し、基準位置情報に対する基準測位情報のずれ量を偏差ベクトル値として算出し、算出した偏差ベクトル値を示す偏差ベクトル情報を、伝送媒体を介して列車に送信し、列車に搭載されたGPS受信機は、GPSアンテナからの信号を受信して列車が走行している位置を示す測位情報を車上制御装置に出力し、前記車上制御装置は、前記地上の基準GPS受信局から送信している偏差ベクトル情報を一定周期毎に受信し、受信した偏差ベクトル情報に示された偏差ベクトル値とあらかじめ定められた基準値と比較し、偏差ベクトル値が基準値を超えていないときは、前記GPS受信機から出力されている測位情報に基づいて列車の速度を制御し、偏差ベクトル値が基準値を超えているときは、前記GPS受信機の測位精度が劣化したと判断して列車の速度を安全側に制御することを特徴とする。
【0010】
この発明の他の列車制御装置は、GPSシステムを利用した測位結果により列車の位置を把握して列車の速度を制御する列車制御装置において、地上に設けた基準GPS受信局は、GPS受信機で一定周期毎にGPSアンテナの設置位置を示す基準測位情報を算出し、算出した基準測位情報と前記GPSアンテナの設置位置を示す基準位置情報とを比較し、基準位置情報に対する基準測位情報のずれ量を偏差ベクトル値として算出し、算出した偏差ベクトル値とあらかじめ定められた基準値と比較し、比較結果を示す情報を、伝送媒体を介して列車に送信し、列車に搭載されたGPS受信機は、GPSアンテナからの信号を受信して列車が走行している位置を示す測位情報を車上制御装置に出力し、前記車上制御装置は、前記地上の基準GPS受信局から送信している情報を一定周期毎に受信し、受信した情報で偏差ベクトル値が基準値を超えていないことを示すときは、前記GPS受信機から出力されている測位情報に基づいて列車の速度を制御し、受信した情報で偏差ベクトル値が基準値を超えていることを示すときは、前記GPS受信機の測位精度が劣化したと判断して列車の速度を安全側に制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、地上に設けられた基準GPS受信局でGPS受信機の測位精度の変動を検出し、このGPS受信機の測位精度が劣化したか否を列車に搭載した車上制御装置又は地上の基準GPS受信局のいずれかで判断し、GPS受信機の測位精度が劣化している場合は列車の速度を安全側に制御するから、GPS受信機を利用した測位精度が常に保たれていることが保証できない場合でも、GPS受信機を安全性が求められる列車制御に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の列車制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】列車制御装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、この発明の列車制御装置の構成を示すブロック図である。図に示すように、列車1に搭載された車上装置2と地上に設けられた基準GPS受信局3を有する。車上装置2はGPSアンテナ4が接続されたGPS受信機5と車上制御装置6を有する。GPS受信機5はGPSアンテナ4を介してGPS衛星(不図示)からの信号を受信し、緯度・経度を測位情報として車上制御装置6に出力する。車上制御装置6はGPS受信機5から入力した測位情報に基づいて列車位置を把握し、把握した列車位置の所定の時間における変化から列車1の実速度を算出し、列車位置と算出した実速度によりあらかじめ設定されている速度データテーブルや地上制御装置から送られる列車1の移動を制約する情報と照合して列車1の制限速度や停止目標等を算出して列車1の速度を制御する。
【0014】
基準GPS受信局3は、GPSアンテナ8が接続されたGPS受信機9と位置データ記憶部10と偏差ベクトル算出部11及び送信器12を有する。GPS受信機9はGPSアンテナ8を介してGPS衛星(不図示)からの信号を受信してGPSアンテナ8が設置してある位置の緯度・経度を基準測位情報として偏差ベクトル算出部11に出力する。位置データ記憶部10にはGPSアンテナ8が設置されて位置の緯度・経度を示す基準位置情報が格納されている。偏差ベクトル算出部11はGPS受信機8から入力した基準測位情報と位置データ記憶部10に格納された基準位置情報とを比較し、基準位置情報が示す緯度・経度と基準測位情報が示す緯度・経度の差を演算して偏差ベクトル値を算出し、算出した偏差ベクトル値を示す偏差ベクトル情報を送信器12に出力する。送信器12は入力した偏差ベクトル情報を列車1に送信する。この送信器12から列車1に対して送信する電送媒体はレール13を利用しても良いし、無線を利用しても良い。
【0015】
この列車制御装置の動作を図2のフローチャートを参照して説明する。
基準GPS受信局3のGPS受信機9は、あらかじめ定めた一定周期毎にGPSアンテナ8を介してGPS衛星からの信号を受信してGPSアンテナ8の設置位置を示す緯度・経度を基準測位情報として偏差ベクトル算出部10に出力している(ステップS1)。偏差ベクトル算出部10は基準測位情報が入力すると、入力した基準測位情報と位置データ記憶部10に格納された基準位置情報とを比較し、基準位置情報が示す緯度・経度と基準測位情報が示す緯度・経度の差を演算して偏差ベクトル値を算出し、算出した偏差ベクトル値を示す偏差ベクトル情報にそのときの時刻を付加して位置データ記憶部11に格納するとともに偏差ベクトル情報を送信器12に出力する(ステップS2)。送信器12は入力した偏差ベクトル情報を、伝送媒体を介して列車1に送信する(ステップS3)。この処理を一定周期毎に繰り返す(ステップS4)。
【0016】
一方、列車1に搭載した車上装置2のGPS受信機4は、常時、GPSアンテナ4を介してGPS衛星からの信号を受信して列車1が走行している位置を示す緯度・経度を測位情報として車上制御装置6に出力している(ステップS11)。車上制御装置6は、受信コイル7を介して地上の基準GPS受信局3から送信している偏差ベクトル情報を一定周期毎に受信し(ステップS12)、受信した偏差ベクトル情報に示された偏差ベクトル値とあらかじめ定められた基準値と比較し、偏差ベクトル値が基準値を超えたかどうかを判定する(ステップS13)。この判定の結果、偏差ベクトル値が基準値を超えていないときは、GPS受信機4で検出した列車1の位置が所定の誤差範囲内にあると判断して、GPS受信機4から受信から入力した測位情報に基づいて列車1の制限速度や停止目標等を算出して列車1の速度を制御する(ステップS14)。また、偏差ベクトル値が基準値を超えたときは、GPS受信機で検出している列車1の位置が所定の誤差範囲からずれて測位精度が劣化したと判断して列車1の制限速度を安全側になるように補正して列車1の速度を制御する。
【0017】
このように地上に固定された基準GPS受信局3でGPS受信機9の測位精度の変動を検出し、列車1に搭載した車上制御装置6は基準GPS受信局3から送信される測位精度の変動を示す偏差ベクトル情報によりGPS受信機5を利用した測位精度が劣化したか否を判定しで列車1の速度を制御するから、GPS受信機5を利用した測位精度が常に保たれていることが保証できない場合でも、GPS受信機5を安全性が求められる列車制御に適用することができる。
【0018】
また、基準GPS受信局3のデータ記憶部11に偏差ベクトル情報を格納するとき、偏差ベクトル情報にそのときの時刻を付加することにより、どの時点でGPSを利用した測位精度に変動が生じたかを確認することができ、GPSの利用有効期間等を設定することができる。
【0019】
また、偏差ベクトル情報は、GPSシステムが本質的に有する測位精度のばらつきの影響を除くため、測位精度の変動を統計的に処理したものであっても良い。
【0020】
前記説明では列車1に搭載された車上制御装置6で地上から送信された偏差ベクトル情報に基づいてGPS受信機6による測位精度の劣化有無を判定する場合について説明したが、地上に固定された基準GPS受信局3の偏差ベクトル算出部10で算出した偏差ベクトル値と基準値とを比較してGPSシステムを利用した場合の測位精度の劣化有無を判定して列車1に送信しても良い。
【符号の説明】
【0021】
1;列車、2;車上装置、3;基準GPS受信局、4;GPSアンテナ、
5;GPS受信機、6;車上制御装置、7;受信コイル、8;GPSアンテナ、
9;GPS受信機、10;位置データ記憶部、11;偏差ベクトル算出部、
12;送信器。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2002−335607号公報
【特許文献2】特開2004−168216号公報
【特許文献3】特開2008−253034号公報
【特許文献4】特開2006−98246号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPSシステムを利用した測位結果により列車の位置を把握して列車の速度を制御する列車制御装置において、
地上に設けた基準GPS受信局は、GPS受信機で一定周期毎にGPSアンテナの設置位置を示す基準測位情報を算出し、算出した基準測位情報と前記GPSアンテナの設置位置を示す基準位置情報とを比較し、基準位置情報に対する基準測位情報のずれ量を偏差ベクトル値として算出し、算出した偏差ベクトル値を示す偏差ベクトル情報を、伝送媒体を介して列車に送信し、
列車に搭載されたGPS受信機は、GPSアンテナからの信号を受信して列車が走行している位置を示す測位情報を車上制御装置に出力し、前記車上制御装置は、前記地上の基準GPS受信局から送信している偏差ベクトル情報を一定周期毎に受信し、受信した偏差ベクトル情報に示された偏差ベクトル値とあらかじめ定められた基準値と比較し、偏差ベクトル値が基準値を超えていないときは、前記GPS受信機から出力されている測位情報に基づいて列車の速度を制御し、偏差ベクトル値が基準値を超えているときは、前記GPS受信機の測位精度が劣化したと判断して列車の速度を安全側に制御することを特徴とする列車制御装置。
【請求項2】
GPSシステムを利用した測位結果により列車の位置を把握して列車の速度を制御する列車制御装置において、
地上に設けた基準GPS受信局は、GPS受信機で一定周期毎にGPSアンテナの設置位置を示す基準測位情報を算出し、算出した基準測位情報と前記GPSアンテナの設置位置を示す基準位置情報とを比較し、基準位置情報に対する基準測位情報のずれ量を偏差ベクトル値として算出し、算出した偏差ベクトル値とあらかじめ定められた基準値と比較し、比較結果を示す情報を、伝送媒体を介して列車に送信し、
列車に搭載されたGPS受信機は、GPSアンテナからの信号を受信して列車が走行している位置を示す測位情報を車上制御装置に出力し、前記車上制御装置は、前記地上の基準GPS受信局から送信している情報を一定周期毎に受信し、受信した情報で偏差ベクトル値が基準値を超えていないことを示すときは、前記GPS受信機から出力されている測位情報に基づいて列車の速度を制御し、受信した情報で偏差ベクトル値が基準値を超えていることを示すときは、前記GPS受信機の測位精度が劣化したと判断して列車の速度を安全側に制御することを特徴とする列車制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−24328(P2011−24328A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166611(P2009−166611)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】