説明

制動制御装置

【課題】ホイールシリンダ周辺の液路に与える負荷を抑制する。
【解決手段】アキュムレータ圧を利用してブレーキペダル12の踏み込み操作力を助勢する制動制御装置10において、ブースタ室は、ブレーキペダル12が踏み込み操作されたとき、アキュムレータ48から作動液が導入されることにより増圧される。左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRは、ブースタ室とホイールシリンダとの間に介在する。レギュレータ圧センサ62は、ブースタ室の液圧を検出する。ホイールシリンダ圧制御部は、ブースタ室の液圧が基準液圧まで増圧されたときに左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRを閉弁させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制動制御装置に関し、特に、アキュムレータ圧を利用してブレーキペダルの踏み込み操作力を助勢する制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のブレーキシステムにおいて、ホイールシリンダには一般的にフレキシブルホースなどを介して作動液であるオイルが供給される。ここで、高い液圧がホイールシリンダに供給され続けると、このようなフレキシブルホースの耐久性を低下させるおそれがある。このため、例えば特許文献1では、車両の停止に要したホイールシリンダの液圧が所定値以上である場合には、車両停止後に液圧アクチュエータを制御することにより、ホイールシリンダ液圧を所定値以下とするブレーキ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、アキュムレータ圧が所定液圧レンジの上限を上回り且つアキュムレータ内の液圧とマスタシリンダの出力液圧との差が所定量を超えたときにポンプモータを停止させる車両用液圧ブレーキ装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、比例制御弁とポンプとの間の管路のブレーキ液圧がリザーバとポンプとの間の管路のブレーキ液圧より所定値以上大きくなった場合に開弁してブレーキ液を逃がす相対圧リリーフ弁17が設けられた車両用ブレーキ装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平6−305410号公報
【特許文献2】特開平7−315205号公報
【特許文献3】特開平9−309427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
たとえばハイドロブースタシステムなど、アキュムレータ圧を利用してブレーキペダルの踏み込み操作力を助勢するブレーキシステムが知られている。このような制動制御装置では、ブレーキペダルの踏み込み操作力を助勢するためにアキュムレータ圧を高圧に維持しておく必要がある。このため、増圧弁が開弁すると高圧のアキュムレータ圧を利用して増圧された液室を通じてホイールシリンダ圧が高圧に増圧されるおそれがある。一方、ホイールシリンダには一般的にフレキシブルホースを通じて作動液が供給される。このように高圧の作動液がフレキシブルホースに供給される場合、フレキシブルホースの耐久性を向上させる必要が生じる。
【0004】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ホイールシリンダ周辺の液路に与える負荷を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の制動制御装置は、アキュムレータ圧を利用してブレーキペダルの踏み込み操作力を助勢する制動制御装置において、ブレーキペダルが踏み込み操作されたとき、アキュムレータ圧を利用して踏み込み操作前よりも液圧が増圧される液室と、液室とホイールシリンダとの間に介在する増圧弁と、液室の液圧を検出する液圧センサと、増圧弁の開閉を制御するホイールシリンダ圧制御部と、を備える。ホイールシリンダ圧制御部は、液室の液圧が基準液圧まで増圧されたときに増圧弁の開度を減少させる。
【0006】
この態様によれば、基準液圧まで増圧されたときに増圧弁を閉弁させることで、ホイールシリンダ周辺における液路の液圧が高圧になることを回避することができる。このため、そのような液路に与える負荷を抑制することができる。
【0007】
液室は、ブレーキペダルが踏み込み操作されたとき、アキュムレータから作動液が導入されることにより増圧されるブースタ室を含んでもよい。増圧弁は、ブースタ室とホイールシリンダとの間に介在する第1増圧弁を含んでもよい。液圧センサは、ブースタ室の液圧を検出するレギュレータ圧センサを含んでもよい。ホイールシリンダ圧制御部は、ブースタ室の液圧が基準液圧まで増圧されたときに第1増圧弁の開度を減少させてもよい。この態様によれば、高圧となったブースタ室からの作動液の供給を抑制することができ、ホイールシリンダ周辺における液路の液圧が高圧になることを回避することができる。
【0008】
液室は、ブレーキペダルが踏み込み操作されたとき、ブレーキペダルの踏み込み操作に連動するマスタシリンダピストンがアキュムレータ圧によって助勢されて推進することによって増圧されるマスタシリンダを含んでもよい。増圧弁は、マスタシリンダとホイールシリンダとの間に介在する第2増圧弁を含んでもよい。液圧センサは、マスタシリンダの液圧を検出するマスタシリンダ圧センサを含んでもよい。ホイールシリンダ圧制御部は、マスタシリンダの液圧が基準液圧まで増圧されたときに第2増圧弁の開度を減少させてもよい。この態様によれば、高圧となったマスタシリンダからの作動液の供給を抑制することができ、ホイールシリンダ周辺における液路の液圧が高圧になることを回避することができる。
【0009】
ブレーキペダルの踏み込み操作に応じた目標ホイールシリンダ圧を算出する目標圧算出部をさらに備えてもよい。ホイールシリンダ圧制御部は、算出された目標ホイールシリンダ圧まで液室の液圧が増圧されたとき、基準液圧まで増圧されたとして増圧弁の開度を減少させてもよい。この態様によれば、目標ホイールシリンダ圧を超えた圧力の作動液がホイールシリンダの供給されることを回避することができる。このため、ホイールシリンダ周辺における液路の液圧が高圧になることを回避することができる。
【0010】
基準液圧を保持する記憶部をさらに備えてもよい。ホイールシリンダ圧制御部は、保持された基準液圧まで液室の液圧が増圧されたときに増圧弁の開度を減少させてもよい。この態様によれば、基準液圧を算出するなどの制御負荷を抑制しつつ、ホイールシリンダ周辺における液路の液圧が高圧になることを回避することができる。
【0011】
増圧弁は、閉弁と開弁とが択一的に切り替えられるよう設けられた開閉弁であってもよく、ホイールシリンダ圧制御部は、液室の液圧が基準液圧まで増圧されたときに増圧弁を閉弁させてもよい。この態様によれば、このような開閉弁が増圧弁として採用された場合においても、ホイールシリンダ周辺における液路の液圧が高圧になることを回避することができる。
【0012】
ブレーキペダルの踏み込み操作量に対するホイールシリンダ圧の値を示すブレーキの効きが低下したか否かを判定するブレーキ効き判定部をさらに備えてもよい。ホイールシリンダ圧制御部は、ブレーキの効きが低下したと判定された場合、液室の液圧が基準液圧まで増圧されたときであっても、増圧弁の開度の減少を回避してもよい。
【0013】
ブレーキの効きが低下したときには、制動時にホイールシリンダ圧を高圧にして制動力を確保する必要が生じる。この態様によれば、ブレーキの効きが低下したときに増圧弁の開度の減少を回避することで制動力を確保することができ、車両安全性が低下することを回避することができる。
【0014】
車速を検出する車速検出手段をさらに備えてもよい。ブレーキ効き判定部は、検出された車速を利用して車両の実減速度を算出すると共に、検出された液室の液圧を利用して車両の推定減速度を算出し、実減速度と推定減速度との乖離の程度に基づいてブレーキの効きが低下したか否かを判定してもよい。この態様によれば、高い精度でブレーキの効きを判定することができ、車両安全性の低下をより確実に回避することができる。
【0015】
ブレーキパッドの温度を検出する温度センサをさらに備えてもよい。ブレーキ効き判定部は、検出されたブレーキパッドの温度が基準値を超えたときにブレーキの効きが低下したと判定してもよい。この態様によれば、簡易にブレーキの効きを判定することができ、制御の複雑化を回避することができる。
【0016】
ホイールシリンダ圧制御部は、増圧弁の開度を減少させた後、液室の液圧が基準液圧まで減圧されたときは、増圧弁の開度を増加させてもよい。この態様によれば、液室の液圧が減圧されたときには、液室の液圧にホイールシリンダ圧を応答し易くすることができる。
【0017】
停車中にブレーキペダルがさらに踏み込まれる踏み増しが運転者により実施されたか否かを判定する踏み増し判定部をさらに備えてもよい。ホイールシリンダ圧制御部は、増圧弁の開度を減少させた後にブレーキペダルの踏み増しが実施されたと判定された場合、増圧弁の開度を増加させてもよい。
【0018】
踏み増しが実施されたときにおいても増圧弁の開度を減少させた状態を維持すると、踏み込んでもブレーキペダルが進みにくくなり、運転者のブレーキフィーリングに影響を与える可能性がある。この態様によれば、踏み増しが実施されたときに増圧弁の開度を増加させることでブレーキペダルを押し込むことが可能となり、運転者のブレーキフィーリングに与える影響を抑制することができる。
【0019】
踏み増し判定部は、停車中における液室の増圧勾配が基準値を超えたときに踏み増しが実施されたと判定してもよい。この態様によれば、簡易な制御によって踏み増しが実施されたか否かを適切に判定することができる。
【0020】
ホイールシリンダ圧制御部は、車輪のロックを抑制する必要があると判定した場合に、ホイールシリンダ圧を調整して車輪のロックを抑制するアンチロック制御を実行し、アンチロック制御の実行中は、液室の液圧が基準液圧まで増圧されたときであっても、増圧弁の開度の減少を回避してもよい。この態様によれば、増圧弁の開度を減少させることによるアンチロック制御への影響を抑制することができる。
【0021】
ホイールシリンダ圧制御部は、駆動輪の空転を抑制する必要があると判定した場合に、駆動輪に対応するホイールシリンダ圧を増圧させて駆動輪の空転を抑制するトラクション制御を実行し、トラクション制御の実行中は、液室の液圧が基準液圧まで増圧されたときであっても、増圧弁の開度の減少を回避してもよい。この態様によれば、増圧弁の開度を減少させることによるトラクション制御への影響を抑制することができる。
【0022】
ホイールシリンダ圧制御部は、車両の横滑りを抑制する必要があると判定した場合に、ホイールシリンダ圧を調整して車両の横滑りを抑制するスタビリティ制御を実行し、スタビリティ制御の実行中は、液室の液圧が基準液圧まで増圧されたときであっても、増圧弁の開度の減少を回避してもよい。この態様によれば、増圧弁の開度を減少させることによるスタビリティ制御への影響を抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ホイールシリンダ周辺の液路に与える負荷を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係る制動制御装置10の構成を示す図である。制動制御装置10には、アキュムレータ圧を利用してブレーキペダルの踏み込み操作力を助勢する、いわゆるハイドロブースタ式のブレーキ装置が採用されている。制動制御装置10は、ブレーキペダル12、ハイドロブースタユニット13、リザーバ40、ポンプ38、アキュムレータ48、後述する液圧アクチュエータおよびホイールシリンダを有する。
【0026】
ハイドロブースタユニット13は、マスタシリンダユニット14およびブレーキブースタユニット16を含む。マスタシリンダユニット14は、後述するように液室であるマスタシリンダを内部に有する。マスタシリンダユニット14は、ブレーキペダル12の踏み込み操作に応答して増圧されたマスタシリンダ内の作動液圧であるマスタシリンダ圧によって作動液を液圧アクチュエータに圧送する。ブレーキブースタユニット16は、アキュムレータ48に蓄積される作動液圧であるアキュムレータ圧を利用してブレーキペダル12の踏み込み操作を助勢すると共に、アキュムレータ圧を利用して増圧されるレギュレータ圧によって作動液を液圧アクチュエータに圧送する。
【0027】
液圧アクチュエータは、左前輪用切替弁22FL、右前輪用切替弁22FR(以下、これらを必要に応じて「前輪用切替弁22」と総称する)、後輪用切替弁26、およびアキュムレータ圧導入切替弁34を有する。また、液圧アクチュエータは、右前輪用増圧弁50FR、左前輪用増圧弁50FL、右後輪用増圧弁50RR、および左後輪用増圧弁50RL(以下、これらを必要に応じて「増圧弁50」と総称する)、右前輪用減圧弁56FR、左前輪用減圧弁56FL、右後輪用減圧弁56RR、および左後輪用減圧弁56RL(以下、これらを必要に応じて「減圧弁56」と総称する)を有する。
【0028】
以下、「配管」は作動液の流路として機能するものをいう。マスタシリンダユニット14には、マスタ配管18の一端が接続されている。マスタ配管18の中途部には、マスタシリンダ圧センサ60が設けられる。マスタシリンダ圧センサ60は、マスタ配管18の液圧を検出することにより、マスタシリンダ圧を検出する。マスタ配管18の他端は、左前輪用配管20FLおよび右前輪用配管20FRの各々の一端に接続されている。左前輪用配管20FLの他端には左前輪用ホイールシリンダ24FLが接続され、右前輪用配管20FRの他端には右前輪用ホイールシリンダ24FRが接続される。
【0029】
左前輪用配管20FLの中途には左前輪用切替弁22FLが設けられており、右前輪用配管20FRの中途には右前輪用切替弁22FRが設けられている。これら前輪用切替弁22の各々には、閉弁および開弁が択一的に切り替えられる、3ポート2位置切替型の常開型の電磁式開閉弁が採用されている。
【0030】
左前輪用配管20FLのうち、左前輪用切替弁22FLと左前輪用ホイールシリンダ24FLとの間の中途部に左前輪用増圧弁50FLが設けられている。また、右前輪用配管20FRのうち、右前輪用切替弁22FRと右前輪用ホイールシリンダ24FRとの間の中途部に右前輪用増圧弁50FRが設けられている。左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRには、閉弁および開弁が択一的に切り替えられる常開型の電磁式開閉弁が採用されている。
【0031】
左前輪用増圧弁50FLの周辺の左前輪用配管20FLには、マスタシリンダユニット14に向かう作動液の流動を許容し、左前輪用ホイールシリンダ24FLに向かう作動液の流動を阻止する逆止バイパス配管58FLが接続されている。右前輪用増圧弁50FRの周辺の右前輪用配管20FRには、マスタシリンダユニット14に向かう作動液の流動を許容し、右前輪用ホイールシリンダ24FRに向かう作動液の流動を阻止する逆止バイパス配管58FRが接続されている。
【0032】
リターン配管52は、リザーバ40に接続されている。接続配管54FLは、左前輪用増圧弁50FLと左前輪用ホイールシリンダ24FLとの間における左前輪用配管20FLの中途部に一端が接続され、リターン配管52に他端が接続されている。接続配管54FLの中途部には左前輪用減圧弁56FLが設けられている。接続配管54FRは、右前輪用増圧弁50FRと右前輪用ホイールシリンダ24FRとの間における右前輪用配管20FRの中途部に一端が接続され、リターン配管52に他端が接続されている。接続配管54FRの中途部には右前輪用減圧弁56FRが設けられている。左前輪用減圧弁56FLおよび右前輪用減圧弁56FRの各々には、閉弁および開弁が択一的に切り替えられる常閉型の電磁式開閉弁が採用されている。
【0033】
ブレーキブースタユニット16には、レギュレータ配管19の一端が接続されている。レギュレータ配管19の他端は、左後輪用配管29RLおよび右後輪用配管29RRの各々の一端に接続されている。レギュレータ配管19の中途部には、レギュレータ圧センサ62が設けられる。レギュレータ圧センサ62は、レギュレータ配管19の液圧を検出することによりレギュレータ圧を検出する。
【0034】
左後輪用配管29RLおよび右後輪用配管29RRとの接続部とレギュレータ圧センサ62との間におけるレギュレータ配管19の中途部には、後輪用切替弁26が設けられる。後輪用切替弁26には、閉弁および開弁が択一的に切り替えられる常閉型の電磁式開閉弁が採用されている。後輪用切替弁26の周辺のレギュレータ配管19には、左後輪用ホイールシリンダ24RLおよび右後輪用ホイールシリンダ24RRに向かう作動液の流動を許容し、ブレーキブースタユニット16に向かう作動液の流動を阻止する逆止バイパス配管32が接続されている。
【0035】
左後輪用配管29RLの他端には左後輪用ホイールシリンダ24RLが接続され、右後輪用配管29RRの他端には右後輪用ホイールシリンダ24RRが接続される。左後輪用配管29RLの中途部には、左後輪用増圧弁50RLが設けられている。また、右後輪用配管29RRの中途部には、右後輪用増圧弁50RRが設けられている。左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRには、閉弁および開弁が択一的に切り替えられる常開型の電磁式開閉弁が採用されている。以下、左前輪用増圧弁50FL、右前輪用増圧弁50FR、左後輪用増圧弁50RL、および右後輪用増圧弁50RRを必要に応じて「増圧弁50」と総称する。
【0036】
左後輪用増圧弁50RLの周辺の左後輪用配管29RLには、ブレーキブースタユニット16に向かう作動液の流動を許容し、右後輪用ホイールシリンダ24RRに向かう作動液の流動を阻止する逆止バイパス配管58RLが接続されている。右後輪用増圧弁50RRの周辺の右後輪用配管29RRには、ブレーキブースタユニット16に向かう作動液の流動を許容し、右後輪用ホイールシリンダ24RRに向かう作動液の流動を阻止する逆止バイパス配管58RRが接続されている。
【0037】
接続配管54RLは、左後輪用増圧弁50RLと左後輪用ホイールシリンダ24RLとの間における左後輪用配管29RLの中途部に一端が接続され、リターン配管52に他端が接続されている。接続配管54RLの中途部には左後輪用減圧弁56RLが設けられている。接続配管54RRは、右後輪用増圧弁50RRと右後輪用ホイールシリンダ24RRとの間における右後輪用配管29RRの中途部に一端が接続され、リターン配管52に他端が接続されている。接続配管54RRの中途部には右後輪用減圧弁56RRが設けられている。左後輪用減圧弁56RLおよび右後輪用減圧弁56RRの各々には、閉弁および開弁が択一的に切り替えられる常閉の電磁式開閉弁が採用されている。以下、左前輪用減圧弁56FL、右前輪用減圧弁56FR、左後輪用減圧弁56RL、および右後輪用減圧弁56RRを必要に応じて「減圧弁56」と総称する。
【0038】
ポンプ38はポンプモータ39によって駆動され、リザーバ40に貯められた作動液をくみ上げてアキュムレータ48に供給する。アキュムレータ48は、ポンプ38から吐出される作動液を高圧状態で蓄積する。アキュムレータ48は高圧配管36に接続されている。高圧配管36は、左後輪用配管29RLおよび右後輪用配管29RRとの接続部と後輪用切替弁26との間におけるレギュレータ配管19の中途部に接続されている。また、高圧配管36は、左前輪用切替弁22FLおよび右前輪用切替弁22FRの各々における残りの1ポートに接続されている。
【0039】
高圧配管36の中途部には、アキュムレータ圧導入切替弁34が設けられている。アキュムレータ圧導入切替弁34には、閉弁および開弁が択一的に切り替えられる常閉型の電磁式開閉弁が採用されている。高圧配管36は、配管43によりブレーキブースタユニット16に接続されている。また、高圧配管36は中途部において、リリーフ弁44が介在する配管45を介してリザーバ40に接続されている。また、リザーバ40は、配管42を介してマスタシリンダユニット14に接続されており、配管43を介してブレーキブースタユニット16に接続されている。
【0040】
図2は、本実施形態に係るハイドロブースタユニット13の構成を示す断面図である。ハイドロブースタユニット13は、マスタシリンダユニット14およびブレーキブースタユニット16が一体となって構成されている。ハイドロブースタユニット13は、ハウジング68、オペレーティングロッド70、パワーピストン72、マスタシリンダピストン74、第1リターンスプリング76、レギュレータピストン78、第2リターンスプリング80、およびスプールバルブ82を有する。
【0041】
オペレーティングロッド70はブレーキペダル12に連結されており、ブレーキペダル12の回動に伴い軸方向に推進する。以下、ブレーキペダル12が踏み込み操作されるときのオペレーティングロッド70の推進方向を「圧縮方向」といい、ブレーキペダル12の踏み込み操作が解除されたときのオペレーティングロッド70の推進方向を「伸長方向」という。
【0042】
ハウジング68は円柱状に形成され、内部にシリンダ68aが設けられている。パワーピストン72はオペレーティングロッド70に連結されており、シリンダ68aの伸長方向側に配置される。パワーピストン72の伸長方向側の端面とシリンダ68aの圧縮方向側の端面との間には、液室であるブースタ室92が形成される。
【0043】
マスタシリンダピストン74は、パワーピストン72の圧縮方向側に当接するよう配置される。マスタシリンダピストン74より圧縮方向側にはレギュレータピストン78が配置されており、マスタシリンダピストン74とレギュレータピストン78との間にはコイルスプリングである第1リターンスプリング76が配置されている。第1リターンスプリング76は、マスタシリンダピストン74およびレギュレータピストン78に対して相互に離間させる方向の付勢力を与える。マスタシリンダピストン74とレギュレータピストン78との間には、液室であるマスタシリンダ90が形成される。したがって、マスタシリンダユニット14は、ハウジング68、マスタシリンダピストン74、およびレギュレータピストン78などによって構成される。
【0044】
レギュレータピストン78の圧縮方向側には、コイルスプリングである第2リターンスプリング80が配置されている。第2リターンスプリング80は、レギュレータピストン78をシリンダ68a開口部側へと付勢する。レギュレータピストン78の圧縮方向側には、スプールバルブ82が取り付けられている。
【0045】
マスタシリンダピストン74の側面とシリンダ68aとの間に形成される隙間部は、流路68bを介して配管42に接続されている。レギュレータピストン78より圧縮方向側のシリンダ68aは、流路68cを介して配管43に接続されている。流路68cとの接続部分よりさらに圧縮方向側のシリンダ68aは、流路68dを介して配管46に接続されている。シリンダ68aのうち流路68cとの接続部分とレギュレータピストン78との間の個所は、シリンダ68aのうち流路68cとの接続部分と流路68dとの接続部分との間の個所とバイパス流路68eを介して互いに接続されている。
【0046】
ブースタ室92は、流路68fを介してレギュレータピストン78より圧縮方向側のシリンダ68aと連通している。また、ブースタ室92は、流路68gを介してレギュレータ配管19に接続されている。マスタシリンダ90は、流路68hを介してマスタ配管18に接続されている。
【0047】
ブレーキペダル12が踏み込まれていないときは、第2リターンスプリング80の付勢力によってマスタシリンダピストン74、レギュレータピストン78、およびスプールバルブ82が伸長方向側に移動される。これを初期状態とする。初期状態では、流路68cはスプールバルブ82によってシリンダ68aとの連通が阻止される。このため、アキュムレータ48とブースタ室92との連通が阻止された状態となる。
【0048】
図3は、ブレーキペダル12が踏み込み操作されたときのハイドロブースタユニット13の状態を示す断面図である。第1リターンスプリング76は、第2リターンスプリング80よりもバネ定数が大きく設定されている。このため、ブレーキペダル12が踏み込み操作されると、マスタシリンダ90が圧縮されるよりも先にレギュレータピストン78が圧縮方向に押され、これに従いスプールバルブ82も圧縮方向に推進する。これによって、流路68cとシリンダ68aとの連通阻止が解除されると共に、バイパス流路68eによる連通が阻止される。
【0049】
流路68cとシリンダ68aとの連通阻止が解除されると、高圧に維持されたアキュムレータ48とブースタ室92とが流路68cおよび流路68fを介して連通し、ブースタ室92の液圧が増圧される。これによってブースタ室92が圧縮方向に押されるため、運転者がブレーキペダル12を踏み込むときの操作力が助勢される。したがってブレーキブースタユニット16は、ハウジング68、第2リターンスプリング80、スプールバルブ82、およびパワーピストン72などによって構成される。アキュムレータ48からブースタ室92に供給された作動液は、流路68gを通じてレギュレータ配管19に供給される。
【0050】
第2リターンスプリング80は、初期状態から所定距離だけ圧縮方向に推進すると、シリンダ68aに設けられた係止部によって圧縮方向への移動が規制される。このため、マスタシリンダピストン74が圧縮方向へ移動することでレギュレータピストン78とマスタシリンダピストン74との距離が縮まり、マスタシリンダ90が圧縮されて増圧される。これにより、マスタシリンダ90から流路68hを通じてマスタ配管18に作動液が供給される。
【0051】
図4は、本実施形態に係る制動制御装置10の機能ブロック図である。制動制御装置10は、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)100を有する。ECU100は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAMを有する。図4においてECU100は、CPU、ROM、およびRAMなどのハードウェア、およびソフトウェアの連携によって実現される機能ブロックが描かれている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェアおよびソフトウェアの組合せによって様々な形で実現することができる。
【0052】
制動制御装置10は、さらに車輪速センサ110およびストロークセンサ112を有する。車輪速センサ110は、車両の各車輪に対応して設けられ、対応する車輪の回転速度に応じた信号をECU100に出力する。ストロークセンサ112はブレーキペダル12に接続され、ブレーキペダル12の踏み込み量に応じた信号をECU100に出力する。
【0053】
ECU100は、目標圧算出部102、ホイールシリンダ圧制御部104、ブレーキ効き判定部106、および踏み増し判定部108を有する。目標圧算出部102は、マスタシリンダ圧センサ60、レギュレータ圧センサ62、およびストロークセンサ112の検出結果を利用して目標ホイールシリンダ圧を算出する。このような目標ホイールシリンダ圧の算出方法は公知であるため説明を省略する。ホイールシリンダ圧制御部104は、前輪用切替弁22、後輪用切替弁26、アキュムレータ圧導入切替弁34、増圧弁50、または減圧弁56の開弁および閉弁を制御することによって、ホイールシリンダ圧を調整する。
【0054】
フェード現象やペーパーロック現象が発生した場合、ホイールシリンダ圧やレギュレータ圧によって適切にホイールシリンダ圧を増圧させることができない場合が生ずる。このような場合、運転者がブレーキペダル12を踏み込んでも通常より低い制動力が発生する、いわゆるブレーキの効きが低下した状態となる。
【0055】
ブレーキ効き判定部106は、ブレーキペダル12の踏み込み操作量に対するホイールシリンダ圧の値を示すブレーキの効きが低下したか否かを判定する。具体的には、車輪速センサ110の検出結果を利用して車速を算出し、この車速を利用して車両が減速する速度である実減速度を算出する。このときブレーキ効き判定部106は、車速を利用して減速勾配を算出し、これを車両の実減速度として利用する。
【0056】
また、ブレーキ効き判定部106は、マスタシリンダ圧センサ60によって検出されたマスタシリンダ圧、およびレギュレータ圧センサ62によって検出されたレギュレータ圧を利用して車両の推定減速度を算出する。具体的には、マスタシリンダ圧に対する減速度が実験的に取得されており、ECU100のROMには、このように取得されたマスタシリンダ圧と減速度との関係式、またはマスタシリンダ圧と減速度とが対応付けられたマップが格納されている。ブレーキ効き判定部106は、この関係式またはマップを参照することにより、検出されたマスタシリンダ圧から推定減速度を算出する。
【0057】
同様に、レギュレータ圧に対する減速度が実験的に取得されており、ECU100のROMには、このように取得されたレギュレータ圧と減速度との関係式、またはレギュレータ圧と減速度とが対応付けられたマップが格納されている。ブレーキ効き判定部106は、この関係式、またはマップを参照することにより、検出されたレギュレータ圧から推定減速度を算出する。
【0058】
ブレーキ効き判定部106は、マスタシリンダ圧を利用して算出した推定減速度とレギュレータ圧を利用して算出した推定減速度の平均値を算出するなどして、マスタシリンダ圧およびレギュレータ圧の双方を利用した推定減速度を算出する。なお、ブレーキ効き判定部106は、マスタシリンダ圧のみを利用して推定減速度を算出してもよく、またレギュレータ圧のみを利用して推定減速度を算出してもよい。
【0059】
ブレーキ効き判定部106は、算出した実減速度と推定減速度との乖離の程度に基づいてブレーキの効きが低下したか否かを判定する。具体的には、ブレーキ効き判定部106は、推定減速度から実減速度の値を差し引いた値が基準値を超える場合に、ブレーキの効きが低下したと判定する。
【0060】
なお、ブレーキパッドの温度を検出する温度センサが車両に設けられていてもよい。ブレーキ効き判定部106は、検出されたブレーキパッドの温度が基準値を超えたときにブレーキの効きが低下したと判定してもよい。フェード現象の発生とブレーキパッドの温度とは相関関係がある。このようにブレーキパッドの温度を検出することにより、フェード現象の発生を簡易に判定することができる。
【0061】
踏み増し判定部108は、停車中にブレーキペダル12がさらに踏み込まれる踏み増しが運転者により実施されたか否かを判定する。具体的には、踏み増し判定部108は、車輪速センサ110の検出結果を利用して車速を検出し、車速がゼロか否かを判定することによって車両が停止中か否かを判定する。車両が停止中の場合、踏み増し判定部108は、マスタシリンダ圧の増圧勾配が基準値を超えたときに踏み増しが実施されたと判定する。なお、このときに用いられる増圧勾配の基準値は、ECU100のROMに予め格納されている。
【0062】
ホイールシリンダ圧制御部104は、車輪のロックを抑制する必要があると判定した場合に、ホイールシリンダ圧を調整して車輪のロックを抑制するアンチロック制御を実行する。このときホイールシリンダ圧制御部104は、車輪速センサ110の検出結果などを利用してロックした車輪があるか否かを判定することにより、車輪のロックを抑制する必要があるか否かを判定する。このときの判定方法は公知であるため説明を省略する。
【0063】
車輪のロックを抑制する必要があると判定した場合、ホイールシリンダ圧制御部104は、左前輪用切替弁22FLおよび右前輪用切替弁22FRの双方をオンにして、マスタシリンダ90と左前輪用ホイールシリンダ24FLおよび右前輪用ホイールシリンダ24FRとの連通を阻止する。このとき、後輪用切替弁26、およびアキュムレータ圧導入切替弁34はオフのまま維持する。これにより、ブースタ室92は、左後輪用ホイールシリンダ24RLおよび右後輪用ホイールシリンダ24RRだけでなく、前輪用切替弁22を通じて左前輪用ホイールシリンダ24FLおよび右前輪用ホイールシリンダ24FRにも連通する。
【0064】
ホイールシリンダ圧制御部104は、例えば車輪速センサ110の検出結果を利用してロックした車輪を特定し、特定した車輪に対応するホイールシリンダ圧を減圧させるなどして車輪のロックを抑制する。ホイールシリンダ圧制御部104は、車輪速センサ110の検出結果を利用してロックした車輪がなくなったか否かを判定し、なくなった場合に左前輪用切替弁22FLおよび右前輪用切替弁22FRをオフにして通常の状態に戻す。
【0065】
ホイールシリンダ圧制御部104は、駆動輪の空転を抑制する必要があると判定した場合に、駆動輪に対応するホイールシリンダ圧を増圧させて駆動輪の空転を抑制するトラクション制御を実行する。このときホイールシリンダ圧制御部104は、車輪速センサ110の検出結果などを利用して駆動輪が空転しているか否かを判定する。このときの判定方法は公知であるため説明を省略する。
【0066】
駆動輪のいずれかが空転していると判定した場合、ホイールシリンダ圧制御部104は、後輪用切替弁26およびアキュムレータ圧導入切替弁34をオンにして、左前輪用切替弁22FLおよび右前輪用切替弁22FRをオフのまま維持する。これにより、ブースタ室92と左後輪用ホイールシリンダ24RLおよび右後輪用ホイールシリンダ24RRとの連通が阻止されると共に、アキュムレータ48と左後輪用ホイールシリンダ24RLおよび右後輪用ホイールシリンダ24RRとの連通阻止が解除される。
【0067】
本実施形態に係る制動制御装置10が搭載された車両は、後輪駆動車となっている。なお、車両が前輪駆動車であってもよいことは勿論である。ホイールシリンダ圧制御部104は、駆動輪のいずれかが空転していると判定した場合、空転している駆動輪に対応するホイールシリンダ圧を増圧させて、その駆動輪に制動力を与えることにより空転を抑制する。駆動輪の空転が解消したと判定した場合、ホイールシリンダ圧制御部104は、後輪用切替弁26およびアキュムレータ圧導入切替弁34をオフにして通常の状態に戻す。
【0068】
また、ホイールシリンダ圧制御部104は、車両の横滑りを抑制する必要があると判定した場合に、ホイールシリンダ圧を調整して車両の横滑りを抑制するスタビリティ制御を実行する。このときホイールシリンダ圧制御部104は、車輪速センサ110、舵角センサ(図示せず)、およびヨーレートセンサなどの検出結果を利用して車両の姿勢を把握し、車両に横滑り、すなわちオーバーステアまたはアンダーステアが発生しているか否かを判定する。このときの判定方法は公知であるため説明を省略する。
【0069】
ホイールシリンダ圧制御部104は、車両に横滑りが発生していると判定した場合、対象となる車輪に対応するホイールシリンダ24とアキュムレータ48とが連通するよう、前輪用切替弁22、後輪用切替弁26、およびアキュムレータ圧導入切替弁34のオンオフを切り替える。車両にオーバーステアが発生していると判定した場合、ホイールシリンダ圧制御部104は、旋回外側の前輪に制動力を与え、さらに必要に応じて後輪に制動力を与えるよう液圧アクチュエータを制御する。また、車両にアンダーステアが発生していると判定した場合、ホイールシリンダ圧制御部104は旋回内側の車輪に制動力を与えるよう液圧アクチュエータを制御する。
【0070】
例えば、左旋回中にオーバーステアが発生したと判定した場合、ホイールシリンダ圧制御部104は、アキュムレータ圧導入切替弁34をオンにすると共に、右前輪用切替弁22FRをオンにして、アキュムレータ48と右前輪用ホイールシリンダ24FRとの連通阻止を解除させる。これにより、右前輪用ホイールシリンダ24FRを増圧させることができ、旋回外側の前輪である右前輪に制動力を与えることが可能となる。
【0071】
ホイールシリンダ24の周辺においては、左前輪用配管20FL、右前輪用配管20FR、左後輪用配管29RL、および右後輪用配管29RRは、フレキシブルホースが採用されている。このようなフレキシブルホースに高圧の作動液が供給されると、耐久性が低下する可能性がある。これに対して、制動制御装置10のようにアキュムレータ圧を利用してブレーキペダル12の踏み込み操作力を助勢するハイドロブースタシステムの場合、アキュムレータ圧を通常高圧に維持している。したがって、他のブレーキシステムに比べ、フレキシブルホースに高圧の作動液が供給される可能性が高くなっている。
【0072】
このため、ホイールシリンダ圧制御部104は、レギュレータ圧が目標ホイールシリンダ圧まで増圧されたときに、左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRを閉弁させる。また、ホイールシリンダ圧制御部104は、マスタシリンダ圧が目標ホイールシリンダ圧まで増圧されたときに、左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRを閉弁させる。以下、このときの制動制御装置10の制動手順について、図5および図6に示すフローチャートに関連して詳細に説明する。
【0073】
図5は、本実施形態に係る制動制御装置10における後輪に対応するホイールシリンダ圧の制御手順を示すフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、車両のイグニッションスイッチがオンにされたときに開始し、車両のイグニッションスイッチがオフにされるまでの間所定時間毎に繰り返し実施される。
【0074】
フェード現象やペーパーロック現象が発生することによりブレーキの効きが低下している場合、運転者によってブレーキペダル12が踏み込こまれた分だけホイールシリンダ圧が増圧される状態を維持する必要がある。このためブレーキ効き判定部106は、ブレーキの効きが低下しているか否かを判定する(S10)。
【0075】
ブレーキの効きは低下していないと判定された場合(S10のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、アンチロック制御を実行中か否かを判定する(S12)。アンチロック制御が実行されていない場合(S12のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、トラクション制御が実行中か否かを判定する(S14)。トラクション制御が実行されていない場合(S14のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、スタビリティ制御を実行中か否かを判定する(S16)。
【0076】
アンチロック制御、トラクション制御、およびスタビリティ制御のすべてが実行されていない場合(S16のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRが開弁しているか否かを判定する(S18)。開弁している場合(S18のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、算出された目標ホイールシリンダ圧Pmまでレギュレータ圧Prgが増圧されたか否かを判定する(S20)。
【0077】
レギュレータ圧Prgが目標ホイールシリンダ圧Pmまで増圧された場合(S20のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRを閉弁させる(S22)。これにより、左後輪用ホイールシリンダ24RLおよび右後輪用ホイールシリンダ24RRのホイールシリンダ圧が高圧になることが回避され、フレキシブルホースの耐久性を向上させることができる。
【0078】
なお、ECU100のROMなどの記憶部に基準液圧が保持されていてもよい。ホイールシリンダ圧制御部104は、レギュレータ圧Prgが基準液圧まで増圧された場合に左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRを閉弁させてもよい。また、左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRに、開度の微調整が可能なリニア弁が採用されている場合、ホイールシリンダ圧制御部104は、レギュレータ圧Prgが目標ホイールシリンダ圧Pmまで増圧されたときに左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRの開度を減少させてもよい。
【0079】
ブレーキの効きが低下していると判定された場合(S10のN)、本フローチャートにおける処理を一旦停止する。こうしてホイールシリンダ圧制御部104は、ブレーキの効きが低下したと判定された場合に、例えばレギュレータ圧Prgが目標ホイールシリンダ圧Pmまで増圧されたときであっても、左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRの閉弁を回避する。
【0080】
アンチロック制御が実行中の場合(S12のN)、トラクション制御が実行中の場合(S14のN)、およびスタビリティ制御が実行中の場合(S16のN)、本フローチャートにおける処理を一旦停止する。このようにホイールシリンダ圧制御部104は、アンチロック制御、トラクション制御、またはスタビリティ制御の実行中は、例えばレギュレータ圧Prgが目標ホイールシリンダ圧Pmまで増圧されたときであっても、左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRの閉弁を回避する。
【0081】
レギュレータ圧Prgが目標ホイールシリンダ圧Pm以下と判定された場合(S20のN)、左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRを閉弁させることなく本フローチャートにおける処理を一旦終了する。
【0082】
左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRが閉弁している場合(S18のN)、ホイールシリンダ圧制御部104は、算出された目標ホイールシリンダ圧Pmまでレギュレータ圧Prgが減圧したか否かを判定する(S24)。レギュレータ圧Prgが目標ホイールシリンダ圧Pmまで減圧した場合(S24のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、閉弁していた左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRを再び開弁させる(S26)。
【0083】
なお、左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRにリニア弁が採用されている場合、ホイールシリンダ圧制御部104は、レギュレータ圧Prgが目標ホイールシリンダ圧Pmまで減圧されたときに左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRの開度を増加させてもよい。
【0084】
踏み増しが実施されたときにおいても増圧弁の開度を減少させた状態を維持すると、踏み込んでもブレーキペダルが進みにくくなり、運転者のブレーキフィーリングに影響を与える可能性がある。このため踏み増し判定部108は、レギュレータ圧Prgが目標ホイールシリンダ圧Pm以上と判定された場合(S24のN)、踏み増しが実施されたか否かを判定する(S28)。踏み増しが実施された場合(S28のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRを開弁させる(S26)。これによりブレーキペダル12を押し込むことが可能となり、運転者のブレーキフィーリングに与える影響を抑制することができる。踏み増しは実施されていないと判定された場合(S28のN)、本フローチャートにおける処理を一旦終了する。
【0085】
図6は、本実施形態に係る制動制御装置10における前輪に対応するホイールシリンダ圧の制御手順を示すフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、車両のイグニッションスイッチがオンにされたときに開始し、車両のイグニッションスイッチがオフにされるまでの間所定時間毎に繰り返し実施される。
【0086】
ブレーキ効き判定部106は、ブレーキの効きが低下しているか否かを判定する(S40)。ブレーキの効きは低下していないと判定された場合(S40のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、アンチロック制御を実行中か否かを判定する(S42)。アンチロック制御が実行されていない場合(S42のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、トラクション制御が実行中か否かを判定する(S44)。トラクション制御が実行されていない場合(S44のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、スタビリティ制御を実行中か否かを判定する(S46)。
【0087】
アンチロック制御、トラクション制御、およびスタビリティ制御のすべてが実行されていない場合(S46のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRが開弁しているか否かを判定する(S48)。開弁している場合(S48のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、算出された目標ホイールシリンダ圧Pmまでマスタシリンダ圧Pmsが増圧されたか否かを判定する(S50)。
【0088】
マスタシリンダ圧Pmsが目標ホイールシリンダ圧Pmまで増圧された場合(S50のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRを閉弁させる(S52)。これにより、左前輪用ホイールシリンダ24FLおよび右前輪用ホイールシリンダ24FRのホイールシリンダ圧が高圧になることが回避され、フレキシブルホースの耐久性を向上させることができる。
【0089】
なお、ECU100のROMなどの記憶部に基準液圧が保持されていてもよい。ホイールシリンダ圧制御部104は、マスタシリンダ圧Pmsが基準液圧まで増圧された場合に左後輪用増圧弁50RLおよび右後輪用増圧弁50RRを閉弁させてもよい。また、左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRに、開度の微調整が可能なリニア弁が採用されている場合、ホイールシリンダ圧制御部104は、マスタシリンダ圧Pmsが目標ホイールシリンダ圧Pmまで増圧されたときに左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRの開度を減少させてもよい。
【0090】
ブレーキの効きが低下していると判定された場合(S40のN)、本フローチャートにおける処理を一旦停止する。こうしてホイールシリンダ圧制御部104は、ブレーキの効きが低下したと判定された場合に、例えばマスタシリンダ圧Pmsが目標ホイールシリンダ圧Pmまで増圧されたときであっても、左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRの閉弁を回避する。
【0091】
アンチロック制御が実行中の場合(S42のN)、トラクション制御が実行中の場合(S44のN)、およびスタビリティ制御が実行中の場合(S46のN)、本フローチャートにおける処理を一旦停止する。このようにホイールシリンダ圧制御部104は、アンチロック制御、トラクション制御、またはスタビリティ制御の実行中は、例えばマスタシリンダ圧Pmsが目標ホイールシリンダ圧Pmまで増圧されたときであっても、左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRの閉弁を回避する。
【0092】
マスタシリンダ圧Pmsが目標ホイールシリンダ圧Pm以下と判定された場合(S50のN)、左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRを閉弁させることなく本フローチャートにおける処理を一旦終了する。
【0093】
左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRが閉弁している場合(S48のN)、ホイールシリンダ圧制御部104は、算出された目標ホイールシリンダ圧Pmまでマスタシリンダ圧Pmsが減圧したか否かを判定する(S54)。マスタシリンダ圧Pmsが目標ホイールシリンダ圧Pmまで減圧された場合(S54のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、閉弁していた左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRを再び開弁させる(S56)。
【0094】
なお、左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRにリニア弁が採用されている場合、ホイールシリンダ圧制御部104は、マスタシリンダ圧Pmsが目標ホイールシリンダ圧Pmまで減圧されたときに左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRの開度を増加させてもよい。
【0095】
踏み増し判定部108は、マスタシリンダ圧Pmsが目標ホイールシリンダ圧Pm以上と判定された場合(S54のN)、踏み増しが実施されたか否かを判定する(S58)。踏み増しが実施された場合(S58のY)、ホイールシリンダ圧制御部104は、左前輪用増圧弁50FLおよび右前輪用増圧弁50FRを開弁させる(S56)。踏み増しはないと判定された場合(S58のN)、本フローチャートにおける処理を一旦終了する。
【0096】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を本実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本実施形態に係る制動制御装置の構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係るハイドロブースタユニットの構成を示す断面図である。
【図3】ブレーキペダルが踏み込み操作されたときのハイドロブースタユニットの状態を示す断面図である。
【図4】本実施形態に係る制動制御装置の機能ブロック図である。
【図5】本実施形態に係る制動制御装置における後輪に対応するホイールシリンダ圧の制御手順を示すフローチャートである。
【図6】本実施形態に係る制動制御装置における前輪に対応するホイールシリンダ圧の制御手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0098】
10 制動制御装置、 12 ブレーキペダル、 13 ハイドロブースタユニット、 14 マスタシリンダユニット、 16 ブレーキブースタユニット、 20FL 左前輪用配管、 20FR 右前輪用配管、 22FL 左前輪用切替弁、 22FR 右前輪用切替弁、 26 後輪用切替弁、 29RR 右後輪用配管、 29RL 左後輪用配管、 34 アキュムレータ圧導入切替弁、 40 リザーバ、 48 アキュムレータ、 50FR 右前輪用増圧弁、 50FL 左前輪用増圧弁、 50RR 右後輪用増圧弁、 50RL 左後輪用増圧弁、 56FR 右前輪用減圧弁、 56FL 左前輪用減圧弁、 56RR 右後輪用減圧弁、 56RL 左後輪用減圧弁、 60 マスタシリンダ圧センサ、 62 レギュレータ圧センサ、 90 マスタシリンダ、 92 ブースタ室、 100 ECU、 102 目標圧算出部、 104 ホイールシリンダ圧制御部、 106 ブレーキ効き判定部、 108 踏み増し判定部、 110 車輪速センサ、 112 ストロークセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキュムレータ圧を利用してブレーキペダルの踏み込み操作力を助勢する制動制御装置において、
ブレーキペダルが踏み込み操作されたとき、アキュムレータ圧を利用して踏み込み操作前よりも液圧が増圧される液室と、
前記液室とホイールシリンダとの間に介在する増圧弁と、
前記液室の液圧を検出する液圧センサと、
前記増圧弁の開閉を制御するホイールシリンダ圧制御部と、
を備え、
前記ホイールシリンダ圧制御部は、前記液室の液圧が基準液圧まで増圧されたときに前記増圧弁の開度を減少させることを特徴とする制動制御装置。
【請求項2】
前記液室は、ブレーキペダルが踏み込み操作されたとき、アキュムレータから作動液が導入されることにより増圧されるブースタ室を含み、
前記増圧弁は、前記ブースタ室とホイールシリンダとの間に介在する第1増圧弁を含み、
前記液圧センサは、前記ブースタ室の液圧を検出するレギュレータ圧センサを含み、
前記ホイールシリンダ圧制御部は、前記ブースタ室の液圧が前記基準液圧まで増圧されたときに前記第1増圧弁の開度を減少させることを特徴とする請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記液室は、ブレーキペダルが踏み込み操作されたとき、ブレーキペダルの踏み込み操作に連動するマスタシリンダピストンがアキュムレータ圧によって助勢されて推進することによって増圧されるマスタシリンダを含み、
前記増圧弁は、前記マスタシリンダとホイールシリンダとの間に介在する第2増圧弁を含み、
前記液圧センサは、前記マスタシリンダの液圧を検出するマスタシリンダ圧センサを含み、
前記ホイールシリンダ圧制御部は、前記マスタシリンダの液圧が前記基準液圧まで増圧されたときに前記第2増圧弁の開度を減少させることを特徴とする請求項1または2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
ブレーキペダルの踏み込み操作に応じた目標ホイールシリンダ圧を算出する目標圧算出部をさらに備え、
前記ホイールシリンダ圧制御部は、算出された目標ホイールシリンダ圧まで前記液室の液圧が増圧されたとき、前記基準液圧まで増圧されたとして前記増圧弁の開度を減少させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の制動制御装置。
【請求項5】
前記基準液圧を保持する記憶部をさらに備え、
前記ホイールシリンダ圧制御部は、保持された基準液圧まで前記液室の液圧増圧されたときに前記増圧弁の開度を減少させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の制動制御装置。
【請求項6】
前記増圧弁は、閉弁と開弁とが択一的に切り替えられるよう設けられた開閉弁であり、
前記ホイールシリンダ圧制御部は、前記液室の液圧が前記基準液圧まで増圧されたときに前記増圧弁を閉弁させることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の制動制御装置。
【請求項7】
ブレーキペダルの踏み込み操作量に対するホイールシリンダ圧の値を示すブレーキの効きが低下したか否かを判定するブレーキ効き判定部をさらに備え、
前記ホイールシリンダ圧制御部は、ブレーキの効きが低下したと判定された場合、前記液室の液圧が前記基準液圧まで増圧されたときであっても、前記増圧弁の開度の減少を回避することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の制動制御装置。
【請求項8】
車速を検出する車速検出手段をさらに備え、
前記ブレーキ効き判定部は、検出された車速を利用して車両の実減速度を算出すると共に、検出された液室の液圧を利用して車両の推定減速度を算出し、実減速度と推定減速度との乖離の程度に基づいてブレーキの効きが低下したか否かを判定することを特徴とする請求項4に記載の制動制御装置。
【請求項9】
ブレーキパッドの温度を検出する温度センサをさらに備え、
前記ブレーキ効き判定部は、検出されたブレーキパッドの温度が基準値を超えたときにブレーキの効きが低下したと判定することを特徴とする請求項8に記載の制動制御装置。
【請求項10】
前記ホイールシリンダ圧制御部は、前記増圧弁の開度を減少させた後、前記液室の液圧が前記基準液圧まで減圧されたときは、前記増圧弁の開度を増加させることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の制動制御装置。
【請求項11】
停車中にブレーキペダルがさらに踏み込まれる踏み増しが運転者により実施されたか否かを判定する踏み増し判定部をさらに備え、
前記ホイールシリンダ圧制御部は、前記増圧弁の開度を減少させた後にブレーキペダルの踏み増しが実施されたと判定された場合、前記増圧弁の開度を増加させることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の制動制御装置。
【請求項12】
前記踏み増し判定部は、停車中における前記液室の増圧勾配が基準値を超えたときに踏み増しが実施されたと判定することを特徴とする請求項11に記載の制動制御装置。
【請求項13】
前記ホイールシリンダ圧制御部は、車輪のロックを抑制する必要があると判定した場合に、ホイールシリンダ圧を調整して車輪のロックを抑制するアンチロック制御を実行し、アンチロック制御の実行中は、前記液室の液圧が前記基準液圧まで増圧されたときであっても、前記増圧弁の開度の減少を回避することを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の制動制御装置。
【請求項14】
前記ホイールシリンダ圧制御部は、駆動輪の空転を抑制する必要があると判定した場合に、駆動輪に対応するホイールシリンダ圧を増圧させて駆動輪の空転を抑制するトラクション制御を実行し、トラクション制御の実行中は、前記液室の液圧が前記基準液圧まで増圧されたときであっても、前記増圧弁の開度の減少を回避することを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載の制動制御装置。
【請求項15】
前記ホイールシリンダ圧制御部は、車両の横滑りを抑制する必要があると判定した場合に、ホイールシリンダ圧を調整して車両の横滑りを抑制するスタビリティ制御を実行し、スタビリティ制御の実行中は、前記液室の液圧が前記基準液圧まで増圧されたときであっても、前記増圧弁の開度の減少を回避することを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載の制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−36704(P2010−36704A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201305(P2008−201305)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】