説明

制御装置、加熱装置制御システム、制御方法、プログラムおよび記録媒体

【課題】加熱装置において昇温時間が変動するような要因が発生したとしても、無駄な電力消費の発生を小さくする。
【解決手段】複数の加熱ゾーンを有する加熱装置を制御する制御装置20は、複数の加熱ゾーンのうちの少なくとも1つの参照ゾーンの温度を監視する計測温度取得部23と、参照ゾーンの温度に基づいて、複数の加熱ゾーンのうちの少なくとも1つの昇温対象ゾーンの昇温を開始させる温調機制御部24とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の加熱ゾーンを有する加熱装置の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品をプリント回路基板表面上に実装する際のはんだ付け等に用いられるリフロー装置は、プリント回路基板を所定の温度プロファイルで加熱するために、直列に並べた複数の異なる温度に設定された加熱ゾーンをコンベアで搬送している。各加熱ゾーンの温度は、加熱ゾーン毎に設けられたヒータを温調機によりオン/オフ制御することにより調節されている。
【0003】
このようなリフロー装置では、一般に、各加熱ゾーンのヒータおよび温調機の電源を一斉にオンにし、各加熱ゾーンを別々に異なる設定温度まで昇温させる。そのため、設定温度が高い加熱ゾーンの温度が安定するまでの間、他の加熱ゾーンの電力が温調のために無駄に消費されるという問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、特許文献1には、各加熱ゾーン内のヒータの昇温を開始するタイミングをずらすことにより、昇温過程における各ヒータの合計電流を少なくする技術が開示されている。この技術では、各ヒータにおける一定時間内に昇温できる温度をあらかじめ測定しておき、その測定値により各ヒータの昇温開始タイミングを設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2885047号明細書(発行日:1999年4月19日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、昇温時間の変動が少ないことを前提としている。しかしながら、実際には昇温時間は様々な要因により変動する可能性がある。例えば、前回の使用時の余熱が残っている場合、昇温時間が短縮する。また、季節の違いによって周囲環境の温度が変わると、昇温時間も変動する。さらに、ヒータが劣化してきた場合、昇温時間が長くなる。このような昇温時間が変動する要因が発生した場合であっても、特許文献1に記載の技術では、変動前の昇温時間に応じて設定された立上げ開始タイミングで立上げが開始される。そのため、第1の加熱ゾーンの温度が安定したとしても、第2の加熱ゾーンがまだ安定していないこととなり、第2の加熱ゾーンが安定するまでの間、第1の加熱ゾーンにおいて無駄な電力量を消費することとなる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、昇温開始のタイミングが加熱ゾーンごとに設定される加熱装置において昇温時間が変動するような要因が発生したとしても、無駄な電力消費の発生を小さくすることの可能な制御装置、加熱装置制御システム、制御方法、プログラムおよび記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の制御装置は、複数の加熱ゾーンを有する加熱装置を制御する制御装置において、前記複数の加熱ゾーンのうちの少なくとも第1加熱ゾーンの温度を監視する監視部と、前記第1加熱ゾーンの温度に基づいて、前記複数の加熱ゾーンのうちの少なくとも第2加熱ゾーンの昇温を開始させる昇温開始制御を行う制御部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の制御方法は、複数の加熱ゾーンを有する加熱装置を制御する制御方法において、前記複数の加熱ゾーンのうちの少なくとも第1加熱ゾーンの温度を監視するステップと、前記第1加熱ゾーンの温度に基づいて、前記複数の加熱ゾーンのうちの少なくとも第2加熱ゾーンの昇温を開始させる昇温開始制御を行うステップとを含むことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、第1加熱ゾーンの温度に基づいて、前記複数の加熱ゾーンのうちの少なくとも第2加熱ゾーンの昇温を開始させる。そのため、第1加熱ゾーンで昇温時間が変動するような要因が発生したとしても、第1加熱ゾーンの温度も変動するため、当該変動に応じて第2加熱ゾーンの昇温開始制御を行うことができる。その結果、無駄な電力消費の発生を小さくすることができる。
【0011】
本発明の制御装置において、前記制御部は、前記昇温開始制御として、前記第1加熱ゾーンの温度が閾値に到達した場合、前記第2加熱ゾーンの昇温を開始させてもよい。
【0012】
上記の構成によれば、第1加熱ゾーンの温度が閾値に到達したか否かの簡易な判断を行うだけで、第2加熱ゾーンの昇温を開始させることができる。なお、制御部は、例えば、前記第1加熱ゾーンの温度が前記閾値以上になった場合、もしくは、前記第1加熱ゾーンの温度が前記閾値を含む所定範囲内を示した場合に、前記第1加熱ゾーンの温度が前記閾値に到達したと判断してもよい。
【0013】
本発明の制御装置は、前記閾値を設定する閾値設定部を備えており、前記第1加熱ゾーンは、第1設定温度になるように温度調整され、前記第2加熱ゾーンは、第2設定温度になるように温度調整され、前記閾値設定部は、前記制御部による前回の昇温開始制御における、前記第1加熱ゾーンが前記第1設定温度に到達したときの前記第2加熱ゾーンの温度と前記第2設定温度との温度差である第1温度差、もしくは、前記第2加熱ゾーンが前記第2設定温度に到達したときの前記第1加熱ゾーンの温度と前記第1設定温度との温度差である第2温度差に基づいて、前記閾値を更新してもよい。
【0014】
例えば、前記閾値設定部は、前記制御部による前回の昇温開始制御において、(1)前記第1加熱ゾーンが前記第1設定温度に到達した時点が、前記第2加熱ゾーンが前記第2設定温度に到達した時点よりも早い場合、前記閾値から前記第1温度差を減算した値を新たな閾値として更新し、(2)前記第2加熱ゾーンが前記第2設定温度に到達した時点が、前記第1加熱ゾーンが前記第1設定温度に到達した時点よりも早い場合、前記閾値に前記第2温度差を加算した値を新たな閾値として更新してもよい。
【0015】
上記の構成によれば、第1加熱ゾーンが第1設定温度に到達した時点が、第2加熱ゾーンが第2設定温度に到達した時点よりも早い場合、閾値から第1温度差を減算した値を新たな閾値として更新する。そのため、更新後においては、第1加熱ゾーンの温度が閾値に到達するタイミングが早くなる。その結果、第1加熱ゾーンが第1設定温度に到達する時点が、第2加熱ゾーンが第2設定温度に到達する時点に近づき、第2加熱ゾーンが第2設定温度に到達するまでに間に第1加熱ゾーンで消費される無駄な電力量を減らすことができる。同様に、第2加熱ゾーンが第2設定温度に到達した時点が、第1加熱ゾーンが第1設定温度に到達した時点よりも早い場合、閾値に第2温度差を加算した値を新たな閾値として更新する。そのため、更新後においては、第1加熱ゾーンの温度が閾値に到達するタイミングが遅くなる。その結果、第2加熱ゾーンが第2設定温度に到達する時点が、第1加熱ゾーンが第1設定温度に到達する時点に近づき、第1加熱ゾーンが第1設定温度に到達するまでに間に第2加熱ゾーンで消費される無駄な電力量を減らすことができる。
【0016】
また、本発明の制御装置は、前記閾値を設定する閾値設定部を備えており、前記第1加熱ゾーンは、第1設定温度になるように温度調整され、前記第2加熱ゾーンは、第2設定温度になるように温度調整され、前記閾値設定部は、前記制御部による前回の昇温開始制御における、前記第1加熱ゾーンが前記第1設定温度に到達したときと、前記第2加熱ゾーンが前記第2設定温度に到達したときとの時間差に基づいて、前記閾値を更新してもよい。
【0017】
例えば、前記閾値設定部は、前記制御部による前回の昇温開始制御における、第1加熱ゾーンの温度の時間変化を示す昇温カーブ情報を記憶しており、前記制御部による前回の昇温開始制御において、(1)前記第1加熱ゾーンが前記第1設定温度に到達した時点が、前記第2加熱ゾーンが前記第2設定温度に到達した時点よりも早い場合、前記第1加熱ゾーンの温度が閾値に到達したときから前記時間差だけ前の時点における第1加熱ゾーンの温度を前記昇温カーブから特定し、特定した温度を新たな閾値として更新し、(2)前記第2加熱ゾーンが前記第2設定温度に到達した時点が、前記第1加熱ゾーンが前記第1設定温度に到達した時点よりも早い場合、前記第1加熱ゾーンの温度が閾値に到達したときから前記時間差だけ後の時点における第1加熱ゾーンの温度を前記昇温カーブから特定し、特定した温度を新たな閾値として更新してもよい。
【0018】
上記の構成によれば、第1加熱ゾーンが第1設定温度に到達した時点が、第2加熱ゾーンが第2設定温度に到達した時点よりも早い場合、第1加熱ゾーンの温度が閾値に到達したときから前記時間差だけ前の時点における第1加熱ゾーンの温度を新たな閾値とする。そのため、更新後においては、第1加熱ゾーンの温度が閾値に到達するタイミングが前記時間差だけ早くなる。その結果、第1加熱ゾーンが第1設定温度に到達する時点と、第2加熱ゾーンが第2設定温度に到達する時点とがほぼ同じとなり、第2加熱ゾーンが第2設定温度に到達するまでに間に第1加熱ゾーンで消費される無駄な電力量を減らすことができる。同様に、第2加熱ゾーンが第2設定温度に到達した時点が、第1加熱ゾーンが第1設定温度に到達した時点よりも早い場合、第1加熱ゾーンの温度が閾値に到達したときから前記時間差だけ後の時点における第1加熱ゾーンの温度を新たな閾値とする。そのため、更新後においては、第1加熱ゾーンの温度が閾値に到達するタイミングが前記時間差だけ遅くなる。その結果、第2加熱ゾーンが第2設定温度に到達する時点と、第1加熱ゾーンが第1設定温度に到達する時点とがほぼ同じとなり、第1加熱ゾーンが第1設定温度に到達するまでに間に第2加熱ゾーンで消費される無駄な電力量を減らすことができる。
【0019】
また、本発明の制御装置において、前記閾値設定部は、前記制御部が前記昇温開始制御を行うごとに、前記閾値を更新してもよい。これにより、常に閾値を最適な値に更新することができる。
【0020】
もしくは、本発明の制御装置において、前記閾値設定部は、前記制御部による前回の昇温開始制御における前記第1温度差または第2温度差が所定値以上である場合にのみ、前記閾値を更新してもよい。または、前記閾値設定部は、前記制御部による前回の昇温開始制御における前記時間差が所定値以上である場合にのみ、前記閾値を更新してもよい。これにより、設定温度に到達するタイミングのずれが大きい場合にのみ、閾値を更新できる。その結果、閾値更新に要する処理を無駄に行うことがなくなる。
【0021】
なお、前記制御部は、前記昇温開始制御として、前記第2加熱ゾーンに設置されたヒータへの電力供給をオフからオンにすることにより前記第2加熱ゾーンの昇温を開始させてもよい。
【0022】
もしくは、前記制御部は、前記昇温開始制御として、前記第2加熱ゾーンに設置されたヒータへの電力供給が制御されることにより前記第2加熱ゾーンが第2設定温度になるように温度調整されている状態において、前記第2設定温度を上げることにより前記第2加熱ゾーンの昇温を開始させてもよい。この構成によれば、第2加熱ゾーンを多段階で昇温させることができる。
【0023】
なお、前記加熱装置は、プリント回路基板に電子部品を実装するためのリフロー装置であってもよい。
【0024】
また、本発明の加熱装置制御システムは、複数の加熱ゾーンを有する加熱装置と、当該加熱装置を制御する上記の制御装置とを備える。これにより、昇温開始のタイミングが加熱ゾーンごとに設定される加熱装置において昇温時間が変動するような要因が発生したとしても、無駄な電力消費の発生を小さくすることができる。
【0025】
さらに、前記制御装置は、コンピュータによって実現されてもよく、この場合には、コンピュータを前記制御装置の各部として機能させるプログラム、および、このプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明の制御装置によれば、昇温開始のタイミングが加熱ゾーンごとに設定される加熱装置において昇温時間が変動するような要因が発生したとしても、無駄な電力消費の発生を小さくすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る加熱装置制御システムの概略構成を示す模式図である。
【図2】図1に示す加熱装置が備える温調機の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す加熱装置の温度プロファイルを示す図である。
【図4】実施形態1に係る制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図5】図4に示す制御装置が備える昇温開始条件記憶部が記憶する情報の一例を示す図である。
【図6】実施形態1における加熱ゾーンA〜Cの温度変化を示したグラフである。
【図7】昇温時間が変化したときの加熱ゾーンA〜Cの温度変化を示したグラフである。
【図8】実施形態2に係る制御装置が備える昇温開始条件記憶部が記憶する情報の一例を示す図である。
【図9】実施形態2における加熱ゾーンA〜Cの温度変化を示したグラフである。
【図10】実施形態3に係る制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図11】実施形態3に係る制御装置が備える補正情報記憶部が記憶する情報の一例を示す図である。
【図12】実施形態3における閾値の更新処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】実施形態3における、閾値の更新処理前後の加熱ゾーンA,Bの温度変化を示したグラフである。
【図14】実施形態3における、閾値の更新処理前後の加熱ゾーンB,Cの温度変化を示したグラフである。
【図15】実施形態3の変形形態における、閾値の更新処理前後の加熱ゾーンA,Bの温度変化を示したグラフである。
【図16】実施形態3の変形形態における、閾値の更新処理前後の加熱ゾーンB,Cの温度変化を示したグラフである。
【図17】実施形態3の変形形態に係る制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<実施形態1>
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る加熱装置制御システムの概略構成を示す模式図である。
【0029】
(加熱装置制御システムの構成)
本実施形態の加熱装置制御システム1は、対象物を加熱する加熱装置10と、加熱装置の昇温開始のタイミングを制御する制御装置20とを備えている。加熱装置10と制御装置20とは、互いに通信可能なように結線されている。なお、図1では、加熱装置10と制御装置20とが別体として構成されているが、制御装置20が加熱装置10に組み込まれていてもよい。
【0030】
加熱装置10は、直列に連続して配置された加熱ゾーンA〜Cと、加熱ゾーンA〜Cを順に通過するように対象物であるワーク12を搬送するためのコンベヤー11とを有している。
【0031】
ここでは、プリント回路基板をワーク12とし、加熱装置10が、電子部品をプリント回路基板上に半田付けするためのリフロー装置である場合について説明する。しかしながら、本発明に係る加熱装置は、リフロー装置に限定されるものではなく、対象物に対して加熱を行うための複数の加熱ゾーンを有する装置であればよい。例えば、セラミックスを焼結させるための焼結用装置や、電極を焼き付けるための焼付け用装置なども本発明の加熱装置に含まれる。また、本発明において、順に配置された複数の加熱ゾーンは必ずしも連続して配置されていなくてもよい。すなわち、ある加熱ゾーンとその後段の加熱ゾーンとの間に、非加熱ゾーンが配置されていてもよい。
【0032】
各加熱ゾーンには、ヒータと、当該加熱ゾーンの温度を調整するための温調機とが備えられている。すなわち、加熱ゾーンAは、ヒータ13Aと温調機14Aとを備え、加熱ゾーンBは、ヒータ13B1・13B2と温調機14Bとを備え、加熱ゾーンCは、ヒータ13Cと温調機14Cとを備えている。
【0033】
図2は、温調機14Aの構成を示すブロック図である。なお、温調機14B・14Cも温調機14Aと同様の構成である。温調機14A〜14Cは、目標温度設定部141と、温度計測部142と、計測温度送信部143と、ヒータ制御部144とを備えている。
【0034】
目標温度設定部141は、設置されている加熱ゾーンの目標温度(設定温度)を設定するものである。目標温度設定部141は、作業者から温度の入力を受け付け、受け付けた温度を目標温度として設定する。また、目標温度設定部141は、制御装置20からの指示により目標温度を更新してもよい。
【0035】
温度計測部142は、加熱ゾーンにおけるワーク12の通路付近の温度を所定時間間隔(例えば、1秒間隔)で計測するものである。計測温度送信部143は、温度計測部142により温度が計測されるごとに計測温度を制御装置20に送信するものである。なお、計測温度送信部143は、計測温度とともに計測時刻を制御装置20に送信してもよい。
【0036】
ヒータ制御部144は、温度計測部142により計測された計測温度が目標温度設定部141により設定された目標温度になるように、電源からヒータ13Aへ供給する電力を制御するものである。
【0037】
具体的には、ヒータ制御部144は、起動指示を受け付けるとヒータ13Aへの電力供給をオフからオンとし、加熱ゾーンAの昇温を開始させる。ヒータ制御部144は、温度計測部142による計測温度が目標温度設定部141により設定された目標温度に到達するまで加熱ゾーンAを昇温させ、その後、計測温度が目標温度付近で安定するようにヒータ13Aに電力を供給する。
【0038】
また、ヒータ制御部144は、計測温度が目標温度付近で安定している状態において目標温度設定部141により目標温度が更に高い温度に更新された場合、ヒータ13Aへの電力供給量を増やし、加熱ゾーンAの昇温を開始させる。そして、計測温度が新たな目標温度に到達するまで加熱ゾーンAを昇温させ、計測温度が新たな目標温度付近で安定するようにヒータ13Aに電力を供給する。
【0039】
例えば、加熱ゾーンA,B,Cの目標温度がそれぞれTa,Tb,Tc(Tc<Ta<Tb(Tbは半田が溶融する温度))に設定され、各温調機14A〜14Cにより各加熱ゾーンA〜Cの計測温度が目標温度付近で安定している場合、図3に示されるような温度プロファイルとなる。この場合、ワーク12が加熱装置10内で搬送されると、最初に加熱ゾーンAにて温度Taでプリント回路基板が予熱され、次に加熱ゾーンBにて温度Tbによりプリント回路基板上の半田が溶融する。最後に加熱ゾーンCにて温度Tcまで下げられることにより、半田によって電子部品がプリント回路基板上に実装される。
【0040】
(制御装置の構成)
以下、図4を参照して制御装置について説明する。図4は、制御装置20の概略構成を示すブロック図である。
【0041】
制御装置20は、加熱装置10の加熱ゾーンA〜Cが有する温調機14A〜14Cの各々を制御するための情報処理装置であり、表示装置30および入力装置40に接続されている。
【0042】
制御装置20は、例えばPC(Personal Computer)ベースのコンピュータによって構成される。そして、制御装置20における制御処理は、プログラムをコンピュータに実行させることによって実現される。このプログラムは例えばCD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)などのリムーバブルメディアに記録される。そして、制御装置20が前記リムーバブルメディア(コンピュータ読み取り可能な記録媒体)から前記プログラムを読み込んで使用する形態であってもよい。また、ハードディスク(コンピュータ読み取り可能な記録媒体)などにインストールされたプログラムを制御装置20が読み込んで使用する形態であってもよい。なお、制御装置20が実行する制御処理の詳細については後述する。
【0043】
表示装置30は、LCD(液晶ディスプレイ)、PDP(プラズマディスプレィ)、有機EL(electroluminescence)ディスプレイ等の表示手段であり、制御装置20から受信した表示データに基づいて文字や画像などの各種の情報を表示出力する。
【0044】
入力装置40は、加熱装置10の作業員から各種の入力を受け付けるものであり、入力用ボタン、キーボード、マウスなどのポインティングデバイス、その他の入力デバイスによって構成されている。入力装置40は、オペレータから入力された情報を入力データに変換して制御装置20に送信する。
【0045】
次に、制御装置20が実行する制御処理の詳細について説明する。制御装置20は、図4に示すように、昇温開始条件設定部21、昇温開始条件記憶部22、計測温度取得部(監視部)23および温調機制御部(制御部)24を備えている。
【0046】
昇温開始条件設定部21は、入力装置40への作業者からの入力に応じて、少なくとも1つの加熱ゾーンの昇温を開始する条件(昇温開始条件)を設定し、設定した昇温開始条件を示す情報を昇温開始条件記憶部22に格納するものである。
【0047】
昇温開始条件は、参照対象となる加熱ゾーン(以下、参照ゾーン(第1加熱ゾーン))と、閾値と、昇温対象となる加熱ゾーン(以下、昇温対象ゾーン(第2加熱ゾーン))とを含む。そして、昇温開始条件を示す情報とは、参照ゾーンを示す情報と、閾値と、昇温対象ゾーンを示す情報とが対応付けられた条件情報である。
【0048】
図5は、昇温開始条件記憶部22が記憶する情報の一例を示す図である。図5に示されるように、昇温開始条件記憶部22は、識別番号「1」、参照ゾーン「加熱ゾーンB」、閾値「T1」および昇温対象ゾーン「加熱ゾーンA」が対応付けられた条件情報と、識別番号「2」、参照ゾーン「加熱ゾーンB」、閾値「T2」および昇温対象ゾーン「加熱ゾーンC」が対応付けられた条件情報とを記憶している。ここで、識別番号は、条件情報を識別するための情報である。
【0049】
計測温度取得部23は、加熱ゾーンA〜Cの温度を監視するものであり、各加熱ゾーンに設置された温度計測部142により温度が計測されるごとに計測温度を温調機14A〜14Cから受け付ける。このとき、計測温度取得部23は、計測温度とともに計測時刻を取得してもよい。
【0050】
温調機制御部24は、昇温開始条件記憶部22に格納される条件情報と計測温度取得部23により取得された計測温度とに基づいて、少なくとも一つの温調機の昇温開始制御を行うものである。
【0051】
具体的には、温調機制御部24は、昇温開始条件記憶部22から全ての条件情報を読み出し、各条件情報で示される参照ゾーン及び閾値を特定する。温調機制御部24は、特定した参照ゾーンに設置された温調機の計測温度送信部143から計測温度取得部23が取得した計測温度と、特定した閾値とを比較し、参照ゾーンの温度が閾値に到達したか否かを判断する到達判断処理を行う。そして、温調機制御部24は、参照ゾーンの計測温度が閾値に到達したと判断すると、当該閾値に対応する昇温対象ゾーンを条件情報から特定し、特定した昇温対象ゾーンの温調機に対して起動指示を出力する。
【0052】
温調機制御部24が行う到達判断処理の方法としては、例えば、以下の(a)〜(c)の方法が考えられる。
【0053】
方法(a):参照ゾーンに設置された計測温度送信部143から計測温度取得部23が取得した計測温度が閾値以上を示したときに、参照ゾーンの温度が閾値に到達したと判断する。
【0054】
方法(b):参照ゾーンに設置された計測温度送信部143から計測温度取得部23が取得した温度が、閾値を含む所定温度範囲(例えば、閾値±1℃の範囲)内を示したときに、参照ゾーンの温度が閾値に到達したと判断する。
【0055】
方法(c):参照ゾーンに設置された計測温度送信部143から計測温度取得部23が所定回数(例えば10回)連続して取得した計測温度の全てが、閾値を含む所定温度範囲(例えば、閾値±1℃の範囲)内を示したときに、参照ゾーンの温度が閾値に到達したと判断する。
【0056】
温調機による温度の調整性能は機種によって様々である。目標温度を一旦超えた後、しばらく経過してから目標温度付近で安定させるようなオーバーシュートの程度が大きい温調機もあれば、このようなオーバーシュートを発生させることなく、目標温度付近で安定させる温調機もある。オーバーシュートの発生の程度が大きい温調機であれば、方法(c)を選択することが好ましく、オーバーシュートの発生の程度が小さい温調機であれば、方法(a)または(b)でもよい。このように、温調機制御部24が行う到達判断処理は特に限定されるものではなく、温調機の性能等を考慮して適宜変更が可能である。
【0057】
次に、図6を用いて、加熱ゾーンの昇温開始のタイミングを説明する。図6は、実施形態1の加熱ゾーンA〜Cの各々における温度変化を示したグラフである。図6の各グラフは、横軸が時間を示し、縦軸が各加熱ゾーンの温度を示している。
【0058】
なお、ここでは、加熱ゾーンA,B,Cの目標温度がそれぞれTa,Tb,Tc(Tc<Ta<Tb)に設定されているものとする。また、室温の状態から目標温度まで昇温させるのに要する時間は、加熱ゾーンBが最も長いものとする。さらに、昇温開始条件記憶部22が図5に示すような条件情報を記憶しているものとする。図5に示すT1、T2は、T1<T2<Tbであるとする。
【0059】
まず、室温の状態から目標温度まで昇温させるのに要する時間の最も長い加熱ゾーンBの温調機14Bを起動させる。作業者は、温調機14B自体を直接操作することにより起動させてもよし、表示装置30を見ながら入力装置40に加熱ゾーンBの起動指示を作業者が入力し、温調機制御部24から加熱ゾーンBの温調機14Bに起動指示を示す信号を出力させてもよい。
【0060】
温調機14Bでは、ヒータ制御部144が、ヒータ13B1・13B2に電力を供給し、昇温を開始させる。また、所定時間(例えば1秒)間隔で、計測温度取得部23は、温度計測部142により計測された加熱ゾーンBの温度を取得する。
【0061】
温調機制御部24は、図5に示す条件情報に従って、全ての条件情報の参照ゾーンが加熱ゾーンBであると認識し、計測温度取得部23が受け付けた加熱ゾーンBの計測温度が条件情報で示される閾値に到達したか否かを判断する。
【0062】
ここで、時点t1において加熱ゾーンBの計測温度が閾値T1に到達したものとする。温調機制御部24は、時点t1において、識別番号「1」の条件情報を参照して、参照対象ゾーン「加熱ゾーンB」及び閾値「T1」に対応する昇温対象ゾーンが「加熱ゾーンA」であると特定し、加熱ゾーンAの温調機14Aに対して起動指示を示す信号を出力する。起動指示を受けた温調機14Aのヒータ制御部144は、ヒータ13Aに電力を供給し、加熱ゾーンAの昇温を開始させる。
【0063】
また、時点t2において加熱ゾーンBの計測温度が閾値T2に到達したものとする。温調機制御部24は、時点t2において、識別番号「2」の条件情報を参照して、参照対象ゾーン「加熱ゾーンB」及び閾値「T2」に対応する昇温対象ゾーンが「加熱ゾーンC」であると特定し、加熱ゾーンCの温調機14Cに対して起動指示を示す信号を出力する。起動指示を受けた温調機14Cのヒータ制御部144は、ヒータ13Cに電力を供給し、加熱ゾーンCの昇温を開始させる。
【0064】
その後、各加熱ゾーンでは、ヒータ制御部144が、温度計測部142による計測温度が目標温度に到達するまで昇温させ、計測温度が目標温度付近で安定するようにヒータに電力を供給する。
【0065】
ここで、昇温開始条件記憶部22が記憶する条件情報は、予め以下のようにして設定されている。すなわち、加熱ゾーンBを通常の昇温動作(例えば、室温の状態から昇温を開始させる動作)で昇温させる場合の、昇温開始からの経過時間と温度との関係を示す昇温グラフを作成しておく。一方、加熱ゾーンAを通常の昇温動作(例えば、室温の状態から昇温を開始させる動作)で昇温させる場合の、昇温開始から目標温度で安定するまでに要する時間(ゾーンA用の昇温時間)を計測する。そして、加熱ゾーンBに対して作成した昇温グラフを参照して、加熱ゾーンBが目標温度で安定した時点から加熱ゾーンA用の昇温時間だけ遡った時点の加熱ゾーンBの温度を、昇温対象ゾーン「加熱ゾーンA」に対応する閾値として設定すればよい。加熱ゾーンCについても同様に閾値が設定されている。
【0066】
その結果、加熱ゾーンBの計測温度が閾値に到達した時点で加熱ゾーンA・Cの昇温を開始しているため、図6で示されるように、加熱ゾーンA〜Cの全てが目標温度で安定するタイミングta〜tcがほぼ同一となり、他の加熱ゾーンの昇温を待つための無駄な電力消費を抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態によれば、周囲環境(外部の温度など)の変化や、ヒータ性能の劣化などにより昇温時間が変動するような要因が発生したとしても、無駄な電力消費の発生を小さくすることができる。以下、この点について図7を参照しながら説明する。
【0068】
図7は、昇温時間が異なる2つの状態における、加熱ゾーンA〜Cの昇温開始のタイミングと、温度変化とを示す図である。図7において、一点鎖線のカーブは、通常の昇温時間の状態を示し、実線のカーブは、周囲環境(外部の温度など)の変化や、ヒータ性能の劣化などの要因により、一点鎖線のカーブと比べて昇温時間が長く変化した後の状態を示している。
【0069】
本実施形態では、参照ゾーンである加熱ゾーンBの温度が閾値に達したときに、昇温対象ゾーンである加熱ゾーンA,Cの昇温を開始している。そのため、参照ゾーンである加熱ゾーンBの昇温カーブが、一点鎖線の状態から実線の状態に変化したとしても、その変化に応じて、昇温対象ゾーンである加熱ゾーンA,Cの昇温開始タイミングも変化する。
【0070】
すなわち、図7に示されるように、参照ゾーンである加熱ゾーンBの昇温カーブが一点鎖線から実線のように昇温時間が長くなるように変化した場合、加熱ゾーンAの昇温開始タイミングもt1からt1’へ符号Xで示される時間だけ遅れることとなる。同様に、加熱ゾーンCの昇温開始タイミングもt3からt3’へ符号Yで示される時間だけ遅れることとなる。そのため、昇温対象ゾーンである加熱ゾーンA、Cが目標温度に到達するタイミングを遅らせることとなる。その結果、各加熱ゾーンA〜Cが目標温度に到達するタイミングta’,tb’,tc’のずれを小さくすることができる。
【0071】
一方、特許文献1のような昇温開始タイミングが時間で決定されている場合、加熱ゾーンBの昇温カーブが変化したとしても、加熱ゾーンA,Cの昇温開始タイミングは、加熱ゾーンBの昇温開始時から所定時間ずれたタイミングで一定である。そのため、各加熱ゾーンA〜Cが目標温度に到達するタイミングのずれが大きくなる。
【0072】
以上から、本実施形態によれば、周囲環境(外部の温度など)の変化や、ヒータ性能の劣化などにより昇温時間が変動するような要因が発生したとしても、無駄な電力消費の発生を小さくすることができる。
【0073】
<実施形態2>
実施形態1では、参照ゾーンの温度が閾値に到達したとき、温調機制御部24が昇温対象ゾーンの温調機に対して起動指示を出力することにより、昇温を開始させる形態について説明した。本実施形態では、目標温度(設定温度)を上げることにより昇温を開始させる形態について説明する。すなわち、温調機制御部24が昇温対象ゾーンの温調機に対して目標温度の変更指示を出力することにより、昇温を開始させるものである。
【0074】
本実施形態は、加熱ゾーンの温度を多段階で上昇させる場合に最適な形態である。例えば、隣接する加熱ゾーンの最終的な目標温度が異なり、先に目標温度の高い加熱ゾーン(高温側加熱ゾーン)を昇温させ、その後、高温側加熱ゾーンが目標温度に近づいたタイミングで目標温度の低い加熱ゾーン(低温側加熱ゾーン)を昇温させるケースを考える。この場合、高温側加熱ゾーンの昇温過程において、低温側加熱ゾーンとの温度差が大きいため、高温側加熱ゾーンから低温側加熱ゾーンへ熱が逃げ、高温側加熱ゾーンの昇温を効率的に行えない。そこで、高温側加熱ゾーンについて、低温側加熱ゾーンの最終的な目標温度に近い中間目標温度を設定する。そして、高温側加熱ゾーンを最初の段階で中間目標温度まで昇温させるとともに、低温側加熱ゾーンを最終的な目標温度まで昇温させる。その後、低温側加熱ゾーンが目標温度に近づいたときに、高温側加熱ゾーンを最終的な目標温度まで昇温させる。これにより、最初の段階において高温側加熱ゾーンから低温側加熱ゾーンへ逃げる熱量を抑えることができ、高温側加熱ゾーンを効率的に昇温させることができる。
【0075】
また、ワーク搬送の上流側に位置する加熱ゾーンをワークが通過する時間が長いような場合、次のような処理を行うことがある。すなわち、上流側の加熱ゾーンが目標温度で安定させるとともに、下流側に位置する加熱ゾーンについては中間目標温度まで昇温させておき、ワークを加熱装置に投入させる。そして、ワークが上流側の加熱ゾーンを通過している間に、下流側の加熱ゾーンを最終的な目標温度まで昇温させる。これにより、下流側の加熱ゾーンでの消費電力を低減させることができる。
【0076】
本実施形態では、昇温開始条件設定部21は、昇温開始条件として、参照ゾーンと、閾値と、昇温対象ゾーンとを含む起動指示条件の他に、参照ゾーンと、閾値と、昇温対象ゾーンと、変更後の目標温度とを含む目標温度変更指示条件を示す情報を記憶する。
【0077】
図8は、本実施形態における昇温開始条件記憶部22が記憶する情報の一例を示す図である。図8に示されるように、昇温開始条件記憶部22は、図5と同様の識別番号「1」「2」の条件情報の他に、参照ゾーン「加熱ゾーンA」、閾値「T3」、昇温対象ゾーン「加熱ゾーンB」および目標温度「Tb2」が対応付けられた識別番号「3」の条件情報を記憶している。識別番号「1」「2」の条件情報が起動指示条件を示し、識別番号「3」の条件情報が目標温度変更指示条件を示している。
【0078】
また、本実施形態の温調機制御部24は、実施形態1の機能に加えて、以下の機能を備えている。すなわち、温調機制御部24は、条件情報が変更後の目標温度を含む目標温度変更指示条件を示している場合、当該条件情報で示される参照ゾーンの計測温度が閾値に到達したときに、当該条件情報で示される昇温対象ゾーンの温調機に対して、条件情報で示される目標温度に変更する変更指示を出力する。
【0079】
次に、図9を用いて、本実施形態における加熱ゾーンの昇温開始のタイミングを説明する。図9は、実施形態2の加熱ゾーンA〜Cの各々における温度変化を示したグラフである。図9の各グラフは、横軸が時間を示し、縦軸が各加熱ゾーンの温度を示している。
【0080】
なお、ここでは、最初に加熱ゾーンA,B,Cの目標温度がそれぞれTa,Tb1,Tc(Tc<Ta<Tb1)に設定されているものとする。なお、ここで設定されるTb1は、加熱ゾーンBの中間目標温度であり、最終的な目標温度はTb2であるとする。また、室温の状態から最終的な目標温度Tb2まで昇温させるのに要する時間は、加熱ゾーンBが最も高いものとする。さらに、昇温開始条件記憶部22が図8に示すような条件情報を記憶しているものとする。図8に示すT1,T2、T3は、T1<T3<T2であるとする。
【0081】
まず、室温の状態から目標温度まで昇温させるのに要する時間の最も長い加熱ゾーンBの温調機14Bを起動させる。
【0082】
温調機14Bでは、ヒータ制御部144が、ヒータ13B1・13B2に電力を供給し、目標温度として設定されている温度Tb1までの昇温を開始させる。また、所定時間(例えば1秒)間隔で、計測温度取得部23は、温度計測部142により計測された加熱ゾーンの温度を受け付ける。
【0083】
温調機制御部24は、図8に示す条件情報に従って、参照ゾーンとして加熱ゾーンAおよびBが存在すると認識し、計測温度取得部23が受け付けた加熱ゾーンAおよびBの計測温度が参照ゾーンに対応する閾値に到達したか否かを判断する。
【0084】
ここで、時点t1において加熱ゾーンBの計測温度が閾値T1に到達したものとする。温調機制御部24は、時点t1において、条件情報を参照して、参照対象ゾーン「加熱ゾーンB」及び閾値「T1」に対応する昇温対象ゾーンが「加熱ゾーンA」であると特定し、加熱ゾーンAの温調機14Aに対して起動指示を示す信号を出力する。起動指示を受けた温調機14Aのヒータ制御部144は、ヒータ13Aに電力を供給し、加熱ゾーンAの昇温を開始させる。
【0085】
その後も温調機14Bのヒータ制御部144は、加熱ゾーンBの昇温を続け、中間目標温度Tb1で安定させる。
【0086】
次に、時点t3において加熱ゾーンAの計測温度が閾値T3に到達したものとする。温調機制御部24は、時点t3において、条件情報を参照して、参照ゾーン「加熱ゾーンA」及び閾値「T3」に対応する昇温対象ゾーンが「加熱ゾーンB」であり、目標温度「Tb2」が含まれていることを特定する。そして、温調機制御部24は、特定した昇温対象ゾーンである加熱ゾーンBの温調機14Bに対して、特定した目標温度「Tb2」に目標温度を変更する変更指示を示す信号を出力する。変更指示を受けた温調機14Bの目標温度設定部141は、目標温度を更新する。これにより、温調機14Bのヒータ制御部144は、新たな目標温度になるように、ヒータ13B1・13B2への電力供給量を増やし、加熱ゾーンBの昇温を開始させる。
【0087】
その後、時点t2において加熱ゾーンBの計測温度が閾値T2に到達したものとする。温調機制御部24は、時点t2において、条件情報を参照して、参照対象ゾーン「加熱ゾーンB」及び閾値「T2」に対応する昇温対象ゾーンが「加熱ゾーンC」であると特定し、加熱ゾーンCの温調機14Cに対して起動指示を示す信号を出力する。起動指示を受けた温調機14Cのヒータ制御部144は、ヒータ13Cに電力を供給し、加熱ゾーンCの昇温を開始させる。
【0088】
その後、各加熱ゾーンA〜Cでは、ヒータ制御部144は、温度計測部142による計測温度が目標温度に到達するまで昇温させ、計測温度が目標温度付近で安定するようにヒータに電力を供給する。
【0089】
本実施形態によれば、加熱ゾーンBを多段階で昇温させる際の、中間段階からの昇温開始のタイミングを、加熱ゾーンAの温度が閾値に到達したときとしている。そのため、加熱ゾーンAの昇温時間が何らかの要因により変動したとしても、その変動量に応じて、加熱ゾーンBにおける最終的な目標温度までの昇温開始のタイミングも変動させることができる。その結果、昇温開始のタイミングを固定する従来と比べて、無駄な電力消費の発生を小さくすることができる。
【0090】
<実施の形態3>
実施形態1,2では、作業者からの指示がない限り、閾値が一定である形態について説明した。本実施形態では、昇温時間の変動に応じて、閾値を自動的に更新し、より、無駄な消費電力の発生を抑制させるものである。
【0091】
本実施形態の温調機14A〜14Cは、図2に示す構成と同じである。ただし、本実施形態では、各温調機14A〜14Cの計測温度送信部143は、温度計測部142により温度が計測されるごとに、計測温度とともにその計測時刻を制御装置20’に送信する。
【0092】
図10は、本実施形態に係る制御装置20’の構成を示す図である。図10に示されるように、制御装置20’は、図4に示す制御装置20と比較して、補正情報記憶部25および閾値更新部(閾値設定部)26を備えている点で異なる。なお、計測温度取得部23は、計測温度とともに計測時刻も取得する。
【0093】
補正情報記憶部25は、閾値を更新する際に必要な情報である補正情報を記憶するものである。具体的には、補正情報記憶部25は、昇温開始条件記憶部が記憶する各条件情報について、当該条件情報を識別する識別番号と、当該条件情報と同じ参照ゾーンと、当該条件情報と同じ昇温対象ゾーンと、参照ゾーンで設定されている目標温度(第1設定温度)と、昇温対象ゾーンで設定されている目標温度(第2設定温度)とを示す補正情報を記憶する。図11は、補正情報記憶部25が記憶する情報の一例を示す図である。
【0094】
閾値更新部26は、計測温度取得部23が取得した計測温度および計測時刻、ならびに、補正情報記憶部25が記憶する補正情報に基づいて、昇温開始条件記憶部22が記憶する条件情報の閾値を更新する更新処理を行うものである。閾値更新部26は、加熱装置10が起動されるごとに、更新処理を実行する。
【0095】
閾値更新部26は、計測温度取得部23が取得した計測温度および計測時刻に基づいて、補正情報ごとに、当該補正情報で示される参照ゾーンが参照ゾーンの目標温度に到達した時点を参照ゾーン到達時点として特定する。また、閾値更新部26は、補正情報ごとに、当該補正情報で示される昇温対象ゾーンが昇温対象ゾーンの目標温度に到達した時点を昇温対象ゾーン到達時点として特定する。そして、閾値更新部26は、参照ゾーン到達時点が昇温対象ゾーン到達時点の以前か後かを確認する。なお、閾値更新部26は、参照ゾーン到達時点および昇温対象ゾーン到達時点を時刻や所定の基準時からの経過時間で特定すればよい。所定の基準時としては、例えば、加熱装置の電源をオンにした時点や、いずれかの加熱ゾーンのヒータに最初に電力を供給した時点などが考えられる。
【0096】
参照ゾーン到達時点が昇温対象ゾーン到達時点の後である場合、閾値更新部26は、計測温度取得部23が取得した計測温度および計測時刻に基づいて、昇温対象ゾーン到達時点における参照ゾーンの計測温度を特定する。そして、閾値更新部26は、特定した計測温度と参照ゾーンの目標温度との差分温度ΔTを求める。閾値更新部26は、対応する条件情報の閾値にΔTを加算した値を新たな閾値として、昇温開始条件記憶部22を更新する。
【0097】
一方、参照ゾーン到達時点が昇温対象ゾーン到達時点の以前である場合、閾値更新部26は、計測温度取得部23が取得した計測温度および計測時刻に基づいて、参照ゾーン到達時点における昇温対象ゾーンの計測温度を特定する。そして、閾値更新部26は、特定した計測温度と昇温対象ゾーンの目標温度との差分温度ΔTを求める。閾値更新部26は、対応する条件情報の閾値からΔTを減算した値を新たな閾値として、昇温開始条件記憶部22を更新する。
【0098】
次に、閾値更新部による更新処理の流れについて、図12を参照しながら説明する。図12は、更新処理の流れを示すフローチャートである。
【0099】
まず、閾値更新部26は、補正情報記憶部25から補正情報の1つを読み出し、当該補正情報における、参照ゾーンとその目標温度、および、昇温対象ゾーンとその目標温度を抽出する(S1)。
【0100】
次に、閾値更新部26は、計測温度取得部23が取得した各加熱ゾーンA〜Cの計測温度およびその計測時刻を確認し、参照ゾーンである加熱ゾーンの計測温度が参照ゾーンの目標温度に到達したか否かを判断する(S2)。なお、閾値更新部26におけるこの判断処理は、上述した温調機制御部24が行う到達判断処理と同様であるため説明を省略する。参照ゾーンの計測温度が参照ゾーンの目標温度に到達していない場合(S2でNo)、参照ゾーンの計測温度が参照ゾーンの目標温度に到達するまで待機する。
【0101】
参照ゾーンの計測温度が参照ゾーンの目標温度に到達した場合(S2でYes)、閾値更新部26は、当該計測温度に対応する計測時刻を参照ゾーン到達時点とする(S3)。このとき、閾値更新部26は、計測温度取得部23が取得した昇温対象ゾーンの計測温度およびその計測時刻を基に、参照ゾーン到達時点(または参照ゾーン到達時点から所定範囲(例えば±1秒)以内の期間)に昇温対象ゾーンで計測された温度を特定する。そして、特定した温度を参照ゾーン到達時点における昇温対象ゾーンの計測温度Tmとする(S4)。
【0102】
また、S2からS4と並行して、下記のS5からS7の処理も実行する。S5では、閾値更新部26は、計測温度取得部23が取得した各加熱ゾーンの計測温度およびその計測時刻を確認し、昇温対象ゾーンの計測温度が昇温対象ゾーンの目標温度に到達したか否かを判断する。なお、閾値更新部26におけるこの判断処理は、上述した温調機制御部24が行う到達判断処理と同様である。昇温対象ゾーンの計測温度が昇温対象ゾーンの目標温度に到達していない場合(S5でNo)、昇温対象ゾーンの計測温度が昇温対象ゾーンの目標温度に到達するまで待機する。
【0103】
昇温対象ゾーンの計測温度が昇温対象ゾーンの目標温度に到達した場合(S5でYes)、閾値更新部26は、当該計測温度に対応する計測時刻を昇温対象ゾーン到達時点とする(S6)。このとき、閾値更新部26は、計測温度取得部23が取得した参照ゾーンの計測温度およびその計測時刻を基に、昇温対象ゾーン到達時点(または昇温対象ゾーン到達時点から所定範囲(例えば±1秒)以内の期間)に参照ゾーンで計測された温度を特定し、特定した温度を昇温対象ゾーン到達時点における参照ゾーンの計測温度Tnとする(S7)。
【0104】
次に、閾値更新部26は、参照ゾーン到達時点が昇温対象ゾーン到達時点の後か否かを確認する(S8)。
【0105】
参照ゾーン到達時点が昇温対象ゾーン到達時点の後である場合(S8でYes)、閾値更新部26は、S7で特定した昇温対象ゾーン到達時点における参照ゾーンの計測温度Tnと参照ゾーンの目標温度との差分温度(第2温度差)ΔTを求める(S9)。
【0106】
そして、閾値更新部は、対応する条件情報の閾値にΔTを加算した値を新たな閾値として、昇温開始条件記憶部22を更新する(S10)。
【0107】
一方、参照ゾーン到達時点が昇温対象ゾーン到達時点の以前である場合(S8でNo)、閾値更新部26は、S4で特定した参照ゾーン到達時点における昇温対象ゾーンの計測温度Tmと昇温対象ゾーンの目標温度との差分温度(第1温度差)ΔTを求める(S11)。
【0108】
閾値更新部26は、対応する条件情報の閾値からΔTを減算した値を新たな閾値として、昇温開始条件記憶部22を更新する(S12)。
【0109】
閾値更新部26は、各識別情報に対応する補正情報ごとに、図12に示す更新処理を行う。
【0110】
次に、具体的な補正例を説明する。図13および図14は、閾値更新部26による更新処理の前後での各加熱ゾーンの昇温カーブを示す図である。(a)は、更新処理前の昇温カーブを示し、(b)は、更新処理後の昇温カーブを示している。
【0111】
なお、ここでは、更新処理前において、昇温開始条件記憶部22が図5に示す条件情報を記憶していたとする。また、補正情報記憶部25が図11に示す補正情報を記憶していたとする。
【0112】
図13の(a)に示されるように、識別番号「1」に対応する条件情報に従って、参照ゾーンである加熱ゾーンBの計測温度が閾値T1に到達した時点t1において、温調機制御部24は、昇温対象ゾーンである加熱ゾーンAの昇温を開始させている。ただし、加熱ゾーンAが目標温度に到達した時点である昇温対象ゾーン到達時点taは、加熱ゾーンBが目標温度に到達した時点である参照ゾーン到達時点tbよりも早い。
【0113】
そのため、昇温対象ゾーン到達時点taにおける加熱ゾーンB(参照ゾーン)の計測温度Tnと加熱ゾーンBの目標温度Tbとの差分温度ΔTが求められる。そして、閾値T1にΔTを加算することで新たな閾値T1’が設定される。これにより、更新前よりも高い閾値T1’が設定されるため、加熱ゾーンAの昇温開始のタイミングt1’が更新前のタイミングt1よりも遅くなる。その結果、図13の(b)に示されるように、更新処理後では、加熱ゾーンAが目標温度Taに到達する時点ta’と、加熱ゾーンBが目標温度Tbに到達する時点tbとのズレが小さくなる。つまり、他の加熱ゾーンが目標温度に到達するのを待機するための無駄な電力消費量を抑えることができる。
【0114】
また、図14の(a)に示されるように、識別番号「2」に対応する条件情報に従って、参照ゾーンである加熱ゾーンBの計測温度が閾値T2に到達した時点t2において、温調機制御部24は、昇温対象ゾーンである加熱ゾーンCの昇温を開始させている。ただし、加熱ゾーンCが目標温度に到達した時点である昇温対象ゾーン到達時点tcは、加熱ゾーンBが目標温度に到達した時点である参照ゾーン到達点tbよりも遅い。
【0115】
そのため、参照ゾーン到達時点tbにおける加熱ゾーンC(昇温対象ゾーン)の計測温度Tmと加熱ゾーンCの目標温度Tcとの差分温度ΔTが求められる。そして、閾値T2からΔTだけ減算することで新たな閾値T2’が設定される。これにより、更新前よりも低い閾値T2’が設定されるため、加熱ゾーンCの昇温開始のタイミングt2’が更新前のタイミングt2よりも早くなる。その結果、図14の(b)に示されるように、更新処理後では、加熱ゾーンCが目標温度Tcに到達する時点tc’と、加熱ゾーンBが目標温度Tbに到達する時点tbとのズレが小さくなる。つまり、他の加熱ゾーンが目標温度に到達するのを待機するための無駄な電力消費量を抑えることができる。
【0116】
本実施形態によれば、最初に作業者が閾値を設定する際、ある程度の経験値から仮設定するだけでよい。なぜなら、閾値更新部26により、加熱装置10が起動されるごとに、前回の温調機制御部24による昇温開始制御による昇温の状態に基づいて自動的に更新されるからである。この自動的な更新処理を2〜3回繰り返して行うことにより、各加熱ゾーンが目標温度に到達するタイミングがほぼ同じになるような閾値が設定されることとなる。その結果、他の加熱ゾーンが目標温度に到達するのを待機するための無駄な電力消費量を抑えることができる。
【0117】
<実施形態3の変形形態>
上記実施形態3では、閾値更新部26は、昇温対象ゾーン到達時点における参照ゾーンの計測温度と参照ゾーンの目標温度との差分温度ΔT、または、参照ゾーン到達時点における昇温対象ゾーンの計測温度と昇温対象ゾーンの目標温度との差分温度ΔTを閾値に加減算することで新たな閾値を求めるものとした。この更新処理では、参照ゾーン到達時点における昇温対象ゾーンの計測温度、または、昇温対象ゾーン到達時点における参照ゾーンの計測温度のみを記憶しておけば、比較的簡易な演算で新たな閾値を求めることができる。すなわち、閾値の更新処理に関する煩雑なプログラムや大容量のメモリを必要としない点でメリットがある。ただし、一回の更新処理だけで、各加熱ゾーンが目標温度に到達するタイミングを必ずしも同じにできるわけではない。
【0118】
そこで、閾値更新部26は、実施の形態3に記載した補正方法の代わりに、以下のような更新処理を行ってもよい。
【0119】
閾値更新部26は、加熱装置10が起動されると、計測温度取得部23が取得した参照ゾーンの計測温度およびその計測時刻のデータの全てを参照ゾーンの昇温カーブ情報として一時的に記憶する。
【0120】
閾値更新部26は、実施形態3と同様に、参照ゾーン到達時点および昇温対象ゾーン到達時点を特定する。そして、閾値更新部26は、参照ゾーン到達時点と昇温対象ゾーン到達時点との時間差Δt(>0)を求めるとともに、参照ゾーン到達時点が昇温対象ゾーン到達時点の以前か後かを確認する。
【0121】
また、閾値更新部26は、参照ゾーンの昇温カーブ情報に基づいて、参照ゾーンの計測データが閾値に到達した計測時刻を閾値到達時点として特定する。
【0122】
そして、参照ゾーン到達時点が昇温対象ゾーン到達時点の後である場合、閾値更新部26は、参照ゾーンの昇温カーブ情報の中から、閾値到達時点から時間差Δtだけ経過した計測時刻に対応する計測温度を抽出する。そして、閾値更新部26は、抽出した計測温度を新たな閾値と設定する。
【0123】
また、参照ゾーン到達時点が昇温対象ゾーン到達時点より以前である場合、閾値更新部26は、参照ゾーンの昇温カーブ情報の中から、閾値到達時点から時間差Δtだけ前の計測時刻に対応する計測温度を抽出する。そして、閾値更新部26は、抽出した計測温度を新たな閾値と設定する。
【0124】
次に、本変形形態における具体的な補正例を説明する。図15は、閾値更新部26により更新処理の前後での各加熱ゾーンの昇温カーブを示す図である。(a)は、更新処理前の昇温カーブを示し、(b)は、更新処理後の昇温カーブを示している。
【0125】
なお、ここでは、更新処理前において、昇温開始条件記憶部22が図5に示す条件情報を記憶していたとする。また、補正情報記憶部25が図11に示す補正情報を記憶していたとする。
【0126】
図15の(a)に示されるように、識別番号「1」に対応する条件情報に従って、参照ゾーンである加熱ゾーンBの計測温度が閾値T1に到達した閾値到達時点のタイミングで、温調機制御部24は、昇温対象ゾーンである加熱ゾーンAの昇温を開始させている。ただし、加熱ゾーンAが目標温度Taに到達した時刻である昇温対象ゾーン到達時点は、加熱ゾーンBが目標温度に到達した時刻である参照ゾーン到達時点よりも早い。
【0127】
そのため、昇温対象ゾーン到達時点と参照ゾーン到達時点との時間差Δtだけ閾値到達時点から経過した計測時刻に対応する計測温度が新たな閾値として設定される。これにより、図15の(b)に示されるように、更新処理後では、加熱ゾーンAが目標温度に到達するタイミングが更新処理前に比べ遅くなり、加熱ゾーンBが目標温度に到達するタイミングとをほぼ同じにすることができる。つまり、他の加熱ゾーンが目標温度に到達するのを待機するための無駄な電力消費量を抑えることができる。
【0128】
また、図16の(a)に示されるように、識別番号「2」に対応する条件情報に従って、参照ゾーンである加熱ゾーンBの計測温度が閾値に到達した閾値到達時刻のタイミングで、温調機制御部24は、昇温対象ゾーンである加熱ゾーンCの昇温を開始させている。ただし、加熱ゾーンCが目標温度に到達した時刻である昇温対象ゾーン到達時点は、加熱ゾーンBが目標温度に到達した時刻である参照ゾーン到達時点よりも遅い。
【0129】
そのため、閾値到達時点から昇温対象ゾーン到達時点と参照ゾーン到達時点との時間差Δtだけ前の計測時刻に対応する計測温度が新たな閾値として設定される。これにより、図16の(b)に示されるように、更新処理後では、加熱ゾーンCが目標温度に到達するタイミングが更新処理前に比べ早くなりと、加熱ゾーンBが目標温度に到達するタイミングとをほぼ同じにすることができる。つまり、他の加熱ゾーンが目標温度に到達するのを待機するための無駄な電力消費量を抑えることができる。
【0130】
本変形形態によれば、参照ゾーンの昇温カーブ情報を一時的に記憶するメモリが必要となるが、一回の更新処理により、各加熱ゾーンが目標温度に到達するタイミングをほぼ同じにするような閾値を自動的に設定することができる。
【0131】
また、上記の実施形態3および実施形態3の変形形態では、閾値更新部26は、加熱装置10が起動されるごとに更新処理を行うものとした。しかしながら、これに限定されるものではない。例えば、図17に示されるように、制御装置20は、閾値更新部26の機能を有効か無効のいずれかに切り換える切換処理を行う切換部27を備えていてもよい。これにより、閾値更新部26による更新処理を必要なときにのみ行うことができ、閾値更新部26により消費される電力を省くことができる。
【0132】
なお、切換部27は、作業者からの入力指示に応じて切換処理を行ってもよい。この場合、作業者は、更新処理が必要であると判断したときに、更新処理を開始させることができる。
【0133】
また、切換部27は、予め定められた一定期間ごと(例えば、一週間ごと)に有効に切り換え、一回の更新処理の終了後に無効に切り換えても良い。
【0134】
その他、切換部27は、閾値更新部26と同様に、上記の差分温度ΔTまたは時間差Δtを求め、差分温度ΔTまたは時間差Δtが所定値以上である場合に、閾値更新部26の機能を有効にしてもよい。この場合、目標温度に到達するタイミングのずれが大きくなってきた適切なタイミングで閾値を補正することができる。
【0135】
以上にて説明した実施形態1〜3および変形形態の構成によれば、下記の(1)〜(4)に示すメリットを有している。
【0136】
(1)全ての加熱ゾーンA〜Cを同時に昇温開始させる場合に比べて、昇温時間の短い加熱ゾーンが、他の加熱ゾーンの昇温を待つことによる消費電力の無駄が抑制できる。
【0137】
(2)参照ゾーンの計測温度が閾値に到達する時点は、参照ゾーンの昇温状態に追従して変化する。
(a)そのため、参照ゾーンに余熱があり、参照ゾーンの昇温時間が短くなった場合でも、昇温対象ゾーンの昇温開始のタイミングを早めることができる。
(b)また、夏期、冬期等で周囲温度に変化があって、各加熱ゾーンの昇温時間に変化がある場合も、これを反映して昇温開始のタイミングを変化させることができる。
(c)さらに、参照ゾーンのヒータが劣化して昇温時間が延びた場合、これを反映して昇温対象ゾーンの昇温開始のタイミングを遅らせることができる。
(d) また、一部のヒータが破損する等で参照ゾーンの温度が閾値に達しない場合、昇温対象ゾーンを無駄に昇温開始させることがない。
上記の(a)から(d)のように、昇温時間が変動するような要因が発生したとしても、その変動に応じて昇温対象ゾーンの昇温開始のタイミングも変化させる。そのため、無駄な電力消費の発生を小さくすることができる。
【0138】
(3)実施形態3によれば、各加熱ゾーンの目標温度への到達時点にズレが発生した場合、昇温対象ゾーン到達時点または参照ゾーン到達時点における目標温度との差分温度ΔTを次回の閾値に反映させる。これにより、昇温対象ゾーンの昇温開始のタイミングを自動的に調整し、各加熱ゾーンの目標温度の到達時点を小さな差の範囲におさめることができる。その結果、無駄な消費電力の発生を最小限に抑えられる。また、初期の閾値設定において、加熱装置10の起動を数回実施することで、最適な閾値を自動的に設定することでき、簡易的に閾値を設定できる。
【0139】
さらに、参照ゾーン到達時点における昇温対象ゾーンの計測温度、または、昇温対象ゾーン到達時点における参照ゾーンの計測温度のみを記憶しておけば、比較的簡易な演算で新たな閾値を求めることができる。すなわち、閾値の更新処理に関する煩雑なプログラムや大容量のメモリを必要としない。
【0140】
(4)実施形態3の変形形態によれば、参照ゾーン到達時点と昇温対象ゾーン到達時点との時間差Δtに基づいて、参照ゾーン到達時点と昇温対象ゾーン到達時点とがほぼ同じになるように閾値を変更させる。これにより、最適な閾値を自動的に設定することできる。
【0141】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0142】
なお、上記した各実施形態における制御装置20・20’の各部は、CPU(Central Processing Unit)などの演算手段が、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶手段に記憶されたプログラムを実行し、キーボードなどの入力手段、ディスプレイなどの出力手段、あるいは、インターフェース回路などの通信手段を制御することにより実現することができる。したがって、これらの手段を有するコンピュータが、上記プログラムを記録した記録媒体を読み取り、当該プログラムを実行するだけで、本実施形態の生産ライン管理装置の各種機能および各種処理を実現することができる。また、上記プログラムをリムーバブルな記録媒体に記録することにより、任意のコンピュータ上で上記の各種機能および各種処理を実現することができる。
【0143】
この記録媒体としては、マイクロコンピュータで処理を行うために図示しないメモリ、例えばROMのようなものがプログラムメディアであっても良いし、また、図示していないが外部記憶装置としてプログラム読み取り装置が設けられ、そこに記録媒体を挿入することにより読み取り可能なプログラムメディアであっても良い。
【0144】
また、何れの場合でも、格納されているプログラムは、マイクロプロセッサがアクセスして実行される構成であることが好ましい。さらに、プログラムを読み出し、読み出されたプログラムは、マイクロコンピュータのプログラム記憶エリアにダウンロードされて、そのプログラムが実行される方式であることが好ましい。なお、このダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納されているものとする。
【0145】
また、上記プログラムメディアとしては、本体と分離可能に構成される記録媒体であり、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクやCD/MO/MD/DVD等のディスクのディスク系、ICカード(メモリカードを含む)等のカード系、あるいはマスクROM、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュROM等による半導体メモリを含めた固定的にプログラムを担持する記録媒体等がある。
【0146】
また、インターネットを含む通信ネットワークを接続可能なシステム構成であれば、通信ネットワークからプログラムをダウンロードするように流動的にプログラムを担持する記録媒体であることが好ましい。
【0147】
さらに、このように通信ネットワークからプログラムをダウンロードする場合には、そのダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納しておくか、あるいは別な記録媒体からインストールされるものであることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明は、複数の加熱ゾーンを備えた加熱装置を制御する装置に対して利用可能である。当該加熱装置としては、製造ラインに設置されたリフロー装置や焼成装置、乾燥装置などがある。
【符号の説明】
【0149】
1 加熱装置制御システム
10 加熱装置
13A,13B1,13B2,13C ヒータ
14A,14B,14C 温調機
20,20’ 制御装置
21 昇温開始条件設定部(閾値設定部)
22 昇温開始条件記憶部
23 計測温度取得部(監視部)
24 温調機制御部(制御部)
25 補正情報記憶部
26 閾値更新部(閾値設定部)
A,B,C 加熱ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の加熱ゾーンを有する加熱装置を制御する制御装置において、
前記複数の加熱ゾーンのうちの少なくとも第1加熱ゾーンの温度を監視する監視部と、
前記第1加熱ゾーンの温度に基づいて、前記複数の加熱ゾーンのうちの少なくとも第2加熱ゾーンの昇温を開始させる昇温開始制御を行う制御部とを備えたことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記昇温開始制御として、前記第1加熱ゾーンの温度が閾値に到達した場合、前記第2加熱ゾーンの昇温を開始させることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記閾値を設定する閾値設定部を備えており、
前記第1加熱ゾーンは、第1設定温度になるように温度調整され、
前記第2加熱ゾーンは、第2設定温度になるように温度調整され、
前記閾値設定部は、前記制御部による前回の昇温開始制御における、前記第1加熱ゾーンが前記第1設定温度に到達したときの前記第2加熱ゾーンの温度と前記第2設定温度との温度差である第1温度差、もしくは、前記第2加熱ゾーンが前記第2設定温度に到達したときの前記第1加熱ゾーンの温度と前記第1設定温度との温度差である第2温度差に基づいて、前記閾値を更新することを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記閾値設定部は、前記制御部による前回の昇温開始制御において、(1)前記第1加熱ゾーンが前記第1設定温度に到達した時点が、前記第2加熱ゾーンが前記第2設定温度に到達した時点よりも早い場合、前記閾値から前記第1温度差を減算した値を新たな閾値として更新し、(2)前記第2加熱ゾーンが前記第2設定温度に到達した時点が、前記第1加熱ゾーンが前記第1設定温度に到達した時点よりも早い場合、前記閾値に前記第2温度差を加算した値を新たな閾値として更新することを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記閾値を設定する閾値設定部を備えており、
前記第1加熱ゾーンは、第1設定温度になるように温度調整され、
前記第2加熱ゾーンは、第2設定温度になるように温度調整され、
前記閾値設定部は、前記制御部による前回の昇温開始制御における、前記第1加熱ゾーンが前記第1設定温度に到達したときと、前記第2加熱ゾーンが前記第2設定温度に到達したときとの時間差に基づいて、前記閾値を更新することを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項6】
前記閾値設定部は、前記制御部による前回の昇温開始制御における、第1加熱ゾーンの温度の時間変化を示す昇温カーブ情報を記憶しており、前記制御部による前回の昇温開始制御において、(1)前記第1加熱ゾーンが前記第1設定温度に到達した時点が、前記第2加熱ゾーンが前記第2設定温度に到達した時点よりも早い場合、前記第1加熱ゾーンの温度が閾値に到達したときから前記時間差だけ前の時点における第1加熱ゾーンの温度を前記昇温カーブから特定し、特定した温度を新たな閾値として更新し、(2)前記第2加熱ゾーンが前記第2設定温度に到達した時点が、前記第1加熱ゾーンが前記第1設定温度に到達した時点よりも早い場合、前記第1加熱ゾーンの温度が閾値に到達したときから前記時間差だけ後の時点における第1加熱ゾーンの温度を前記昇温カーブから特定し、特定した温度を新たな閾値として更新することを特徴とする請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記閾値設定部は、前記制御部が前記昇温開始制御を行うごとに、前記閾値を更新することを特徴とする請求項3から6の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記閾値設定部は、前記制御部による前回の昇温開始制御における前記第1温度差または第2温度差が所定値以上である場合にのみ、前記閾値を更新することを特徴とする請求項3または4に記載の制御装置。
【請求項9】
前記閾値設定部は、前記制御部による前回の昇温開始制御における前記時間差が所定値以上である場合にのみ、前記閾値を更新することを特徴とする請求項5または6に記載の制御装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記昇温開始制御として、前記第2加熱ゾーンに設置されたヒータへの電力供給をオフからオンにすることにより前記第2加熱ゾーンの昇温を開始させることを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記昇温開始制御として、前記第2加熱ゾーンに設置されたヒータへの電力供給が制御されることにより前記第2加熱ゾーンが第2設定温度になるように温度調整されている状態において、前記第2設定温度を上げることにより前記第2加熱ゾーンの昇温を開始させることを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記第1加熱ゾーンの温度が前記閾値以上になった場合、もしくは、前記第1加熱ゾーンの温度が前記閾値を含む所定範囲内を示した場合に、前記第1加熱ゾーンの温度が前記閾値に到達したと判断することを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項13】
前記加熱装置が、プリント回路基板に電子部品を実装するためのリフロー装置であることを特徴とする請求項1から11の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項14】
複数の加熱ゾーンを有する加熱装置と、当該加熱装置を制御する請求項1から13の何れか1項に記載の制御装置とを備える加熱装置制御システム。
【請求項15】
複数の加熱ゾーンを有する加熱装置を制御する制御方法において、
前記複数の加熱ゾーンのうちの少なくとも第1加熱ゾーンの温度を監視するステップと、
前記第1加熱ゾーンの温度に基づいて、前記複数の加熱ゾーンのうちの少なくとも第2加熱ゾーンの昇温を開始させる昇温開始制御を行うステップとを含むことを特徴とする制御方法。
【請求項16】
複数の加熱ゾーンを有する加熱装置を制御するコンピュータで実行されるプログラムであって、
前記複数の加熱ゾーンのうちの少なくとも第1加熱ゾーンの温度を監視するステップと、
前記第1加熱ゾーンの温度に基づいて、前記複数の加熱ゾーンのうちの少なくとも第2加熱ゾーンの昇温を開始させる昇温開始制御を行うステップとを、前記コンピュータに実行させるプログラム。
【請求項17】
請求項16に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−11379(P2013−11379A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143497(P2011−143497)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】