説明

制御装置

【課題】可変バルブリフト装置をPI制御等のI項(積分項)を用いた制御方式で制御する場合に、可変バルブリフト装置の定常時のエネルギ消費量を低減できるようにする。
【解決手段】可変バルブリフト装置が定常状態のときに、目標リフト量を揺らぎ幅Wだけ上り時間Tupで増加させた後に上り時間Tupよりも長い下り時間Tdownで減少させて元の値に戻す処理を周期的に繰り返す揺らぎ制御を実行する。この揺らぎ制御では、目標リフト量の上り時間Tupよりも下り時間Tdownを長くすることで積分項の増加量よりも減少量を多くして積分項を元の値よりも減少させる処理を繰り返すことで積分項を徐々に減少させることができるため、ヒステリシス特性によって制御デューティがエネルギ消費量の大きい方の値になった場合でも、ヒステリシス特性による積分項の増加分を徐々に減少させて、制御デューティをエネルギ消費量の小さい方の値に収束させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御対象の制御量を目標値に一致させるように少なくとも積分項を用いた制御方式で該制御対象の操作量を制御する制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載される内燃機関においては、出力向上、燃費節減、排気エミッション低減等を目的として、吸気バルブや排気バルブのバルブ開閉特性(バルブタイミング、リフト量、作用角等)を変化させる可変バルブ装置を採用したものが増加しつつある。例えば、吸気バルブのリフト量を変化させるモータ駆動式の可変バルブリフト装置を備えたシステムでは、吸気バルブの実リフト量を目標リフト量に一致させるようにPI制御やPID制御等によりモータの制御デューティ(電流値)を制御して、可変バルブリフト装置をフィードバック制御するようにしたものがある。
【0003】
また、特許文献1(特開平10−220619号公報)に記載されているように、内燃機関のEGR量(排出ガス還流量)を調整するモータ駆動式のEGRバルブをPID制御によりフィードバック制御するシステムにおいては、EGRバルブの目標開閉位置と実開閉位置との偏差が所定の許容範囲内に収まったときに、Iゲイン(積分ゲイン)をクリアすることでI動作(積分動作)による定常偏差の積算を回避して、EGRバルブの開閉振動を防止するようにしたものがある。
【特許文献1】特開平10−220619号公報(第4頁等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図2に示すように、前述したモータ駆動式の可変バルブリフト装置は、吸気バルブを駆動するカムから受ける反力等によって制御デューティとリフト量との関係にヒステリシス特性が生じることがあり、このヒステリシス特性によって同一リフト量に対する制御デューティがリフト量の増加時と減少時とで異なってくる。このため、可変バルブリフト装置が定常状態(リフト量をほぼ一定に維持する状態)になったときに、直前のリフト量の制御方向によっては制御デューティが大きい方の値になることがあるが、この場合は、制御デューティが小さい方の値でも定常状態を維持できるにも拘らず、制御デューティを大きい方の値に制御することになってしまい、エネルギ消費量が増加するという問題がある。
【0005】
一般に、PI制御やPID制御により制御デューティを制御する場合、ヒステリシス特性による制御デューティの差は、主に目標リフト量と実リフト量との偏差の時間積分に比例した出力を出すI動作(積分動作)によって調整されるため、I項(積分項)の増加分がヒステリシス特性による制御デューティの増加分に相当する。
【0006】
しかし、上記特許文献1の技術を利用して、目標リフト量と実リフト量との偏差が許容範囲内に収まった定常状態のときに、IゲインをクリアすることでI動作による定常偏差の積算を回避してI項の増加を防止するようにしても、定常状態になってからI項が更に増加することを防止できるだけであり、定常状態になるまでのI項の増加分は引き続き残されるため、可変バルブリフト装置が定常状態になったときに、ヒステリシス特性によって制御デューティが大きい方の値になった場合に、その大きい方の制御デューティがそのまま維持されることになり、エネルギ消費量が増加するという問題は解決されない。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、従って本発明の目的は、制御対象が定常状態のときのエネルギ消費量を低減することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、制御対象の制御量を目標値に一致させるように少なくとも積分項を用いた制御方式で該制御対象の操作量を制御する制御装置において、制御対象が定常状態のときに制御量の目標値を所定方向に所定幅だけ所定時間で変化させた後に所定方向と反対方向に所定幅だけ所定時間よりも長い時間で変化させて元の値に戻す処理を周期的に繰り返す揺らぎ制御を揺らぎ制御手段により実行するようにしたものである。
【0009】
この揺らぎ制御では、目標値を所定方向に所定幅だけ変化させた後に反対方向に所定幅だけ変化させて元の値に戻すことで、積分項(積分項がマイナス値の場合は、積分項の絶対値)を増加させた後に減少させることができる。その際、目標値を所定方向に変化させる時間よりも反対方向に変化させて元の値に戻す時間を長くすることで、積分項の増加量よりも減少量を多くすることができ、結果的に積分項を元の値よりも減少させることができる。このような処理を周期的に繰り返すことによって、目標値を増減させて元の値付近に維持しながら、積分項を徐々に減少させていくことができる。
【0010】
従って、制御対象が定常状態になったときに、ヒステリシス特性によって操作量がエネルギ消費量の大きい方の値になった場合でも、揺らぎ制御を実行することで、ヒステリシス特性による積分項の増加分を徐々に減少させて、操作量をエネルギ消費量の小さい方の値に収束させることができ、制御対象が定常状態のときのエネルギ消費量を低減することができる。
【0011】
また、揺らぎ制御によって制御対象の制御量を適度に増減させることができるため、制御対象の可動部の特定部位のみを使用し続けることがなくなり、可動部の偏摩耗を抑制することができる。更に、揺らぎ制御によって制御対象の操作量をエネルギ消費量の小さい方の値に収束させることができるため、制御対象のアクチュエータ(DCモータ等)が発生する磁気音を低減することができる。
【0012】
本発明は、請求項2のように、制御対象が内燃機関の制御に用いられる装置の場合には、内燃機関の油温、冷却水温、回転速度、負荷、外気温のうちの少なくとも1つに応じて揺らぎ制御の制御条件(揺らぎ幅、揺らぎ周期等)を変化させるようにしても良い。
【0013】
内燃機関の温度や外気温や運転状態によって制御対象の可動部のフリクションや制御対象に作用する反力等が変化してヒステリシス特性が変化し、それに伴ってヒステリシス特性による積分項の増加分が変化する。従って、内燃機関の温度の情報(油温、冷却水温)や外気温や運転状態の情報(回転速度、負荷)に応じて揺らぎ制御の制御条件(揺らぎ幅、揺らぎ周期等)を変化させれば、内燃機関の温度や外気温や運転状態によって制御対象のヒステリシス特性が変化して積分項の増加分が変化するのに対応して、揺らぎ制御の制御条件を変化させて適正値に設定することができ、揺らぎ制御によって積分項の増加分を速やかに減少させることができる。
【0014】
また、請求項3のように、揺らぎ制御の実行中に積分項が下限値(制御対象を定常状態に維持するのに必要な下限値)に収束したか否かを収束判定手段により判定し、積分項が下限値に収束したと判定されたときに揺らぎ制御を終了するようにすると良い。このようにすれば、積分項が下限値に収束したと判定されたときに、操作量がエネルギ消費量の小さい方の値に収束したと判断して、揺らぎ制御を終了することができる。これにより、揺らぎ制御の実行時間を必要最小限に抑えることができ、制御対象を速やかに通常の定常状態(揺らぎ制御を停止した安定状態)に戻すことができる。
【0015】
この場合、請求項4のように、揺らぎ制御の開始からの経過時間が所定の収束判定時間を越えたときに積分項が下限値に収束したと判定するようにしても良い。このようにすれば、揺らぎ制御の開始からの経過時間が、揺らぎ制御によって積分項が下限値に収束するのに必要な時間を考慮して設定した所定の収束判定時間を越えたか否かで、積分項の収束判定を行うことが可能となり、制御ロジックを簡単化することができる。
【0016】
更に、請求項5のように、揺らぎ制御の制御条件に応じて収束判定時間を変化させるようにしても良い。このようにすれば、揺らぎ制御の制御条件(揺らぎ幅、揺らぎ周期等)によって積分項が下限値に収束するのに必要な時間が変化するのに対応して、収束判定時間を変化させて適正値に設定することができ、積分項の収束判定精度を向上させることができる。
【0017】
本発明は、積分項を用いた制御方式で制御対象の操作量を制御する種々のシステムに適用可能であり、例えば、請求項6のように、内燃機関の吸気バルブ及び/又は排気バルブのバルブ開閉特性を変化させる可変バルブ装置を制御対象とするシステムに適用しても良い。このようにすれば、可変バルブ装置が定常状態のときに、ヒステリシス特性によって操作量がエネルギ消費量の大きい方の値になった場合でも、揺らぎ制御によってヒステリシス特性による積分項の増加分を徐々に減少させて、操作量をエネルギ消費量の小さい方の値に収束させることができ、エネルギ消費量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体化した一実施例を説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。
内燃機関であるエンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ14が設けられている。このエアフローメータ14の下流側には、モータ15によって開度調節されるスロットルバルブ16と、このスロットルバルブ16の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ17とが設けられている。
【0019】
更に、スロットルバルブ16の下流側には、サージタンク18が設けられ、このサージタンク18に、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ19が設けられている。また、サージタンク18には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド20が設けられ、各気筒の吸気マニホールド20の吸気ポート近傍に、それぞれ燃料を噴射する燃料噴射弁21が取り付けられている。また、エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ22が取り付けられ、各点火プラグ22の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
【0020】
また、エンジン11には、吸気バルブ31のリフト量を変化させるモータ駆動式の可変バルブリフト装置32(制御対象)が設けられている。
一方、エンジン11の排気管23には、排出ガスの空燃比又はリッチ/リーン等を検出する排出ガスセンサ24(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられ、この排出ガスセンサ24の下流側に、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒25が設けられている。
【0021】
また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ26や、ノッキングを検出するノックセンサ29が取り付けられている。また、クランク軸27の外周側には、クランク軸27が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ28が取り付けられ、このクランク角センサ28の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0022】
これら各種センサの出力は、制御回路(以下「ECU」と表記する)30に入力される。このECU30は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて燃料噴射弁21の燃料噴射量や点火プラグ22の点火時期を制御する。
【0023】
その際、ECU30は、図示しない可変バルブリフト制御ルーチンを実行することで、吸気バルブ31の実リフト量を検出すると共に、エンジン運転状態等に基づいて吸気バルブ31の目標リフト量を算出し、吸気バルブ31の実リフト量を目標リフト量に一致させるようにPI制御やPID制御等のI項(積分項)を含むフィードバック制御により可変バルブリフト装置32のモータ(図示せず)の制御デューティ(電流値)を制御して、可変バルブリフト装置32の実リフト量をフィードバック制御するようにしている。
【0024】
尚、リフト量を変化させると共に作用角を変化させるシステムの場合には、実リフト量の代用情報として実作用角を検出し、目標リフト量の代用情報として目標作用角を算出するようにしても良い。
【0025】
例えば、PI制御の場合には、次式により制御デューティを演算する。
制御デューティ=(P項+I項+オフセット項)×デューティ換算係数×電圧補正
ここで、P項(比例項)は、目標リフト量と実リフト量との偏差に比例した項であり、I項(積分項)は、目標リフト量と実リフト量との偏差を時間で積分した項である。
【0026】
ところで、図2に示すように、モータ駆動式の可変バルブリフト装置32は、吸気バルブ31を駆動するカムから受ける反力等によって制御デューティとリフト量との関係にヒステリシス特性が生じることがあり、このヒステリシス特性によって同一リフト量に対する制御デューティがリフト量の増加時と減少時とで異なってくる。このため、可変バルブリフト装置32が定常状態(リフト量をほぼ一定に保持する状態)になったときに、直前のリフト量の制御方向によっては制御デューティが大きい方の値になることがあり、このような場合、リフト量が同一の定常状態でも、制御デューティが小さい方の値になった場合に比べてエネルギ消費量が増加するという問題がある。
【0027】
一般に、PI制御やPID制御により制御デューティを演算する場合、ヒステリシス特性による制御デューティの差は、主に目標リフト量と実リフト量との偏差の時間積分に比例した出力を出すI動作(積分動作)によって調整されるため、I項(積分項)の増加分がヒステリシス特性による制御デューティの増加分に相当する。
【0028】
そこで、ECU30は後述する図5の揺らぎ制御ルーチンを実行することで、図3に示すように、可変バルブリフト装置32が定常状態のときに、目標リフト量を増加方向に所定の揺らぎ幅Wだけ所定の上り時間Tup(例えば0.0082sec)で変化させた後に、目標リフト量を減少方向に揺らぎ幅Wだけ上り時間Tupよりも長い所定の下り時間Tdown(例えば0.2sec)で変化させて元の値に戻した後、目標リフト量を所定のボトム時間Tbottom(例えば0.5sec)だけ一定に保持する処理を周期的に繰り返す揺らぎ制御を実行するようにしている。この場合、上り時間Tupと下り時間Tdownとボトム時間Tbottomとを足し合わせた時間が揺らぎ制御の揺らぎ周期T(=Tup+Tdown+Tbottom)となる。
【0029】
この揺らぎ制御では、図4に示すように、目標リフト量を揺らぎ幅Wだけ増加させた後に揺らぎ幅Wだけ減少させて元の値に戻すことで、積分項を増加させた後に減少させることができる。その際、目標リフト量を増加させる上り時間Tupよりも減少させて元の値に戻す下り時間Tdownを長くすることで、積分項の増加量よりも減少量を多くすることができ、結果的に積分項を元の値よりも減少させることができる。このような処理を周期的に繰り返すことによって、目標リフトを増減させて元の値付近に維持しながら、積分項を徐々に減少させていくことができる。
【0030】
従って、可変バルブリフト装置32が定常状態になったときに、ヒステリシス特性によって制御デューティがエネルギ消費量の大きい方の値になった場合でも、揺らぎ制御を実行することで、ヒステリシス特性による積分項の増加分を徐々に減少させて、制御デューティをエネルギ消費量の小さい方の値に収束させることができる。
【0031】
以上説明した揺らぎ制御は、ECU30によって図5の揺らぎ制御ルーチンに従って実行される。以下、この揺らぎ制御ルーチンの処理内容を説明する。
【0032】
図5に示す揺らぎ制御ルーチンは、ECU30の電源オン中に所定周期で実行され、特許請求の範囲でいう揺らぎ制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、可変バルブリフト装置32が定常状態であるか否かを、例えば、次の(1) 〜(3) の条件によって判定する。
【0033】
(1) 目標リフト量がほぼ一定(例えば、目標リフト量の前回値と今回値との差の絶対値が所定値以下)であること
(2) 実リフト量がほぼ一定(例えば、実リフト量の前回値と今回値との差の絶対値が所定値以下)であること
(3) 目標リフト量と実リフト量との偏差の絶対値が所定値以下であること
【0034】
これら(1) 〜(3) の条件を全て満たせば、可変バルブリフト装置32が定常状態であると判定するが、上記(1) 〜(3) の条件のうちのいずれか1つでも満たさない条件があれば、可変バルブリフト装置32が定常状態ではないと判定する。
このステップ101で、定常状態ではないと判定された場合には、ステップ107に進み、後述する揺らぎ制御を実行することなく、本ルーチンを終了する。
【0035】
一方、上記ステップ101で、定常状態であると判定された場合には、ステップ102に進み、定常状態であると判定されてからの経過時間が所定時間を越えたか否かを判定し、定常状態であると判定されてからの経過時間が所定時間を越えたときに、ステップ103以降の揺らぎ制御に関する処理を次のようにして実行する。
【0036】
まず、ステップ103で、揺らぎ制御の各制御条件(揺らぎ幅W、揺らぎ周期T、上り時間Tup、下り時間Tdown)を、それぞれエンジン11の油温、冷却水温、回転速度、負荷、外気温のうちの少なくとも1つに応じてマップ又は数式等により算出する。
【0037】
一般に、エンジン温度や外気温やエンジン運転状態によって可変バルブリフト装置32の可動部のフリクションや可変バルブリフト装置32に作用する反力等が変化してヒステリシス特性が変化し、それに伴ってヒステリシス特性による積分項の増加分が変化する。
【0038】
このような事情を考慮して、揺らぎ制御の各制御条件のマップ又は数式等は、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、エンジン温度の情報(油温、冷却水温)や外気温やエンジン運転状態の情報(回転速度、負荷)に応じて揺らぎ制御の各制御条件を変化させることで、エンジン温度や外気温やエンジン運転状態によって可変バルブリフト装置32のヒステリシス特性が変化して積分項の増加分が変化するのに対応して、揺らぎ制御の各制御条件を適正値に変化させるように設定されている。この際、揺らぎ幅Wは、定常状態におけるリフト量の許容変動範囲内になるように設定される。
【0039】
この後、ステップ104に進み、揺らぎ制御の制御条件(揺らぎ幅W、揺らぎ周期T、上り時間Tup、下り時間Tdown)のうちの少なくとも1つに応じて収束判定時間をマップ又は数式等により算出する。ここで、収束判定時間は、揺らぎ制御の開始から積分項が下限値(可変バルブリフト装置32を定常状態に維持するのに必要な下限値)に収束するのに必要な時間に設定される。
【0040】
収束判定時間のマップ又は数式等は、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、揺らぎ制御の制御条件によって積分項が下限値に収束するのに必要な時間が変化するのに対応して、収束判定時間を適正値に変化させるように設定されている。
【0041】
この後、ステップ105に進み、揺らぎ制御の開始からの経過時間が収束判定時間を越えたか否かを判定し、揺らぎ制御の開始からの経過時間が収束判定時間を越えていないと判定されれば、ステップ106に進み、上記ステップ103で設定した制御条件(揺らぎ幅W、揺らぎ周期T、上り時間Tup、下り時間Tdown)で揺らぎ制御を実行して、目標リフト量を揺らぎ幅Wだけ上り時間Tupで増加させた後に上り時間Tupよりも長い下り時間Tdownで減少させて元の値に戻した後、ボトム時間Tbottomだけ一定に保持する処理を周期的に繰り返す。これにより、目標リフトを増減させて元の値付近に維持しながら、積分項を徐々に減少させる。
【0042】
この後、上記ステップ105で、揺らぎ制御の開始からの経過時間が収束判定時間を越えたと判定されたときに、積分項が下限値に収束して、制御デューティがエネルギ消費量の小さい方の値に収束したと判断して、ステップ107に進み、揺らぎ制御を終了する。この場合、ステップ104、105の処理が特許請求の範囲でいう収束判定手段としての役割を果たす。
【0043】
以上説明した本実施例では、可変バルブリフト装置32が定常状態になったときに、揺らぎ制御を実行して、目標リフト量を揺らぎ幅Wだけ上り時間Tupで増加させた後に上り時間Tupよりも長い下り時間Tdownで減少させて元の値に戻す処理を周期的に繰り返すようにしたので、ヒステリシス特性によって制御デューティがエネルギ消費量の大きい方の値(ヒステリシス上限側の制御デューティ)になった場合でも、揺らぎ制御によってヒステリシス特性による積分項の増加分を徐々に減少させて下限値(可変バルブリフト装置32を定常状態に維持するのに必要な下限値)に収束させて、制御デューティをエネルギ消費量の小さい方の値(ヒステリシス下限側の制御デューティ)に収束させることができ、定常状態のときのエネルギ消費量を低減することができる。
【0044】
しかも、図6に示すように、揺らぎ制御開始時の積分項の値に拘らず、揺らぎ制御によって積分項を下限値に収束させて、制御デューティをエネルギ消費量の小さい方の値(ヒステリシス下限側の制御デューティ)に収束させることができる。
【0045】
また、揺らぎ制御によってリフト量を適度に増減させることができるため、可変バルブリフト装置32のモータとギヤとの嵌合部の特定部位に荷重が掛かり続けることがなくなり、モータとギヤとの嵌合部の偏摩耗を抑制することができる。更に、揺らぎ制御によって制御デューティをエネルギ消費量の小さい方の値に収束させることができるため、可変バルブリフト装置32のアクチュエータ(DCモータ等)が発生する磁気音を低減することができる。
【0046】
また、本実施例では、エンジン温度の情報(油温、冷却水温)や外気温やエンジン運転状態の情報(回転速度、負荷)に応じて揺らぎ制御の各制御条件(揺らぎ幅W、揺らぎ周期T、上り時間Tup、下り時間Tdown)を変化させるようにしたので、エンジン温度や外気温やエンジン運転状態によって可変バルブリフト装置32のヒステリシス特性が変化して積分項の増加分が変化するのに対応して、揺らぎ制御の各制御条件を変化させて適正値に設定することができ、揺らぎ制御によって積分項の増加分を速やかに減少させることができる。
【0047】
しかしながら、本発明は、揺らぎ制御の制御条件(揺らぎ幅W、揺らぎ周期T、上り時間Tup、下り時間Tdown)のうちの少なくとも1つを予め設定した固定値として、演算処理を簡略化するようにしても良い。
【0048】
また、本実施例では、揺らぎ制御の開始からの経過時間が収束判定時間を越えたときに、積分項が下限値に収束して、制御デューティがエネルギ消費量の小さい方の値に収束したと判断して、揺らぎ制御を終了するようにしたので、揺らぎ制御の実行時間を必要最小限に抑えることができ、可変バルブリフト装置32を速やかに通常の定常状態(揺らぎ制御を停止した安定状態)に戻すことができる。
【0049】
更に、本実施例では、揺らぎ制御の制御条件(揺らぎ幅W、揺らぎ周期T、上り時間Tup、下り時間Tdown)に応じて収束判定時間を変化させるようにしたので、揺らぎ制御の制御条件によって積分項が下限値に収束するのに必要な時間が変化するのに対応して、収束判定時間を変化させて適正値に設定することができ、積分項の収束判定精度を向上させることができる。
しかしながら、本発明は、収束判定値を予め設定した固定値として、演算処理を簡略化するようにしても良い。
【0050】
また、上記実施例では、揺らぎ制御の開始からの経過時間が収束判定時間を越えたか否かによって積分項が下限値に収束したか否かを判定するようにしたが、積分項が下限値に収束したか否かを判定する方法は適宜変更しても良く、例えば、積分項の挙動(変化速度、変化量等)に基づいて積分項が下限値に収束したか否かを判定するようにしても良い。
【0051】
また、上記実施例では、吸気バルブのリフト量を変化させる可変バルブリフト装置に本発明の揺らぎ制御を適用したが、排気バルブのリフト量を変化させる可変バルブリフト装置に本発明の揺らぎ制御を適用しても良いことは言うまでもない。また、吸気バルブや排気バルブのバルブタイミング、作用角等を変化させる可変バルブ装置に本発明の揺らぎ制御を適用しても良い。
【0052】
更に、本発明の揺らぎ制御は、内燃機関の可変バルブ装置に限定されず、内燃機関の制御に用いる他の装置(例えば、電子スロットル装置、EGR装置等)や内燃機関以外に用いる様々な装置等、制御対象の制御量を目標値に一致させるように少なくとも積分項を含むフィードバック制御(PI制御やPID制御等)により該制御対象の操作量を制御するシステムに広く適用して実施できる。
【0053】
また、揺らぎ制御は、制御量の目標値を増加させた後に減少させて元の値に戻す制御方法に限定されず、制御量の増加方向がエネルギ消費量の減少方向となる場合には、制御量の目標値を減少させた後に増加させて元の値に戻すようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施例におけるエンジン制御システム全体の概略構成図である。
【図2】可変バルブリフト装置の制御デューティとリフト量との関係を示す図である。
【図3】揺らぎ制御を説明するタイムチャートである。
【図4】揺らぎ制御による目標リフト量と積分項の挙動を説明するタイムチャートである。
【図5】揺らぎ制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図6】揺らぎ制御開始後の積分項の挙動を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0055】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管、16…スロットルバルブ、21…燃料噴射弁、22…点火プラグ、23…排気管、30…ECU(揺らぎ制御手段,収束判定手段)、31…吸気バルブ、32…可変バルブリフト装置(制御対象)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象の制御量を目標値に一致させるように少なくとも積分項を用いた制御方式で該制御対象の操作量を制御する制御装置において、
前記制御対象が定常状態のときに前記制御量の目標値を所定方向に所定幅だけ所定時間で変化させた後に前記所定方向と反対方向に前記所定幅だけ前記所定時間よりも長い時間で変化させて元の値に戻す処理を周期的に繰り返す揺らぎ制御を実行する揺らぎ制御手段を備えていることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記制御対象は、内燃機関の制御に用いられる装置であり、
前記揺らぎ制御手段は、前記内燃機関の油温、冷却水温、回転速度、負荷、外気温のうちの少なくとも1つに応じて前記揺らぎ制御の制御条件を変化させることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記揺らぎ制御の実行中に前記積分項が下限値に収束したか否かを判定する収束判定手段を備え、
前記揺らぎ制御手段は、前記収束判定手段により前記積分項が下限値に収束したと判定されたときに前記揺らぎ制御を終了することを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記収束判定手段は、前記揺らぎ制御の開始からの経過時間が所定の収束判定時間を越えたときに前記積分項が下限値に収束したと判定することを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記収束判定手段は、前記揺らぎ制御の制御条件に応じて前記収束判定時間を変化させることを特徴とする請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御対象は、内燃機関の吸気バルブ及び/又は排気バルブのバルブ開閉特性を変化させる可変バルブ装置であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−62899(P2009−62899A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232096(P2007−232096)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】