説明

制振ユニット、建物及び建物補強工法

【課題】建物に大きな開口を確保することができる新規な建物の補強構造を提案する。
【解決手段】
制振ユニット100は、上下一対の取付部材22、24;上下一対の取付部材22、24の間に配置され、上側の取付部材22から下側の取付部材24に向けて上下方向に作用する力を支持するとともに、上下一対の取付部材22、24のせん断変位を許容する上下方向支持部材40;及び、上下一対の取付部材22、24の間に配置された制振部材60;を備えている。制振部材60は、対向するプレート61、62と、対向するプレート61、62にそれぞれ接着された粘弾性体66とを有している。対向するプレート61、62のうち一方のプレート61は上下一対の取付部材22、24のうち一方の取付部材22に連結され、他方のプレート62は他方の取付部材24に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振ユニット、特に、建物及び建物補強工法に用いることができる制振ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
建物を補強する方法は、例えば、特開2004−27832号公報(特許文献1)には、いわゆるトルグ機構が用いられた振動制御装置が開示されている。同公報に開示された振動制御装置は、短ブレース材と、長ブレース材と、短ブレース材と長ブレース材の自由端を回転可能に連結する回転支承と、減衰装置とを備えている。短ブレース材は、架構の上階梁に一端が回転可能に取付けられており、長ブレース材は、架構の下階梁に一端が回転可能に取付けられている。減衰装置は、構造物にエネルギが入力されていない状態で、短ブレース材の一端と長ブレース材の一端とを結ぶ線より下階梁側に位置する回転支承へ一端が回転可能に連結され、他端が上階梁又は下階梁に回転可能に取付けられている。同公報によれば、この場合、架構が右方向へ変位すると、短ブレース材及び長ブレース材が回転支承を中心に回転運動を行うため、上階梁の回転支承の水平変位量より、油圧ダンパーの変位量が、増幅されて大きくなる。このため、油圧ダンパーの大きな変位によって、架構の振動が減衰され、大地震は元より中小の地震や風による建物の小さな振動が効果的に制振される。
【0003】
また、特開2003−97057号公報(特許文献2)には、既存建物の鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の外周構造体に既存建物の外側から耐震のための補強を行う耐震補強構造が開示されている。当該耐震補強構造では、制震ダンパーを支持する補強構造体は、外周構造体に沿って外側に配置されるとともに、PC鋼棒によって外周構造体に固定されている。
【0004】
また、特開2005−139770号公報(特許文献3)には、フレームの構面内の支柱材間に架設されるダンパー一体型ブレースを有する制震補強架構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−27832号公報
【特許文献2】特開2003−97057号公報
【特許文献3】特開2005−139770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
建物を補強する構造は、上述のように種々提案されている。種々提案されている補強構造には、建物開口に被さるように配置せざるを得ない構造もあり、建物の居住性、採光を阻害する場合もある。本発明は、かかる建物を補強する構造について、施工が容易であり、建物に大きな開口を確保することができる新規な構造を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制振ユニットは、上下一対の取付部材;上下一対の取付部材の間に配置され、上側の取付部材から下側の取付部材に向けて上下方向に作用する力を支持するとともに、上下一対の取付部材のせん断変位を許容する上下方向支持部材;及び、上下一対の取付部材の間に配置された制振部材;を備えている。制振部材は、対向するプレートと、対向するプレートの間に配設され、各プレートにそれぞれ接着された粘弾性体とを有し、対向するプレートのうち一方のプレートは上下一対の取付部材のうち一方の取付部材に連結され、他方のプレートは他方の取付部材に連結されている。
【0008】
この制振ユニットによれば、上下一対の取付部材の上下方向に作用する力は、上下方向支持部材によって支持することができる。また、制振ユニットの上下一対の取付部材にせん断変位が生じた場合には、制振部材の粘弾性体に生じるせん断変形によって所要の抗力が生じる。また、制振ユニットは、上下方向支持部材と、制振部材とがユニット化されているので、建物本体への施工が簡単に行える。
【0009】
また、本発明に係る建物は、建物本体の側部に敷設された基礎;基礎から建物本体の側面に沿って立ち上がり建物本体に連結された下部フレーム;下部フレームに対して上部に対向する位置において建物本体に連結された上部フレーム;及び、下部フレームと上部フレームとに、上下一対の取付部材が連結された、上記の制振ユニット;を備えている。
【0010】
この建物によれば、建物本体の揺れに対しては、建物本体に連結された上部フレームと下部フレームとに、せん断変位が生じる。これに伴い、制振ユニットの上下一対の取付部材にせん断変位が生じる。この際、制振ユニットの上下方向支持部材は、上下一対の取付部材のせん断変位を許容する。また、建物本体のせん断変位に応じて、制振部材の粘弾性体にせん断変形が生じる。かかる粘弾性体のせん断変形によって、建物本体の揺れに対して、所要の減衰力が生じる。これにより、建物本体の揺れが小さく抑えられるとともに、当該揺れが早期に減衰する。
【0011】
例えば、建物本体は、上下方向に間隔を開けて配置され、水平方向の延びた一対の梁;一対の梁の間に水平方向に間隔を開けて配置され、上下方向に延びて一対の梁に連結された一対の柱;及び、一対の梁と、一対の柱で囲まれた開口;を備えている場合がある。かかる建物本体に対して、上部フレームと、下部フレームと、制振ユニットとは、建物本体の開口を囲むように配置することができる。これにより、建物に大きな開口を確保することができる。
【0012】
また、本発明に係る建物補強工法は、建物本体の側部に基礎を設ける基礎敷設工程;基礎敷設工程で設けられた基礎から建物本体の側面に沿って立ち上がるとともに、建物本体に連結された下部フレームを設ける下部フレーム設置工程;下部フレームに対して上部に対向する位置に、建物本体に連結された上部フレームを設ける上部フレーム設置工程;下部フレーム設置工程で設けられた下部フレームの上に、上記の制振ユニットを取り付ける工程;及び、上部フレーム設置工程で設けられた上部フレームと、制振ユニットとを連結する工程とを備えている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る制振ユニットを建物本体に取り付けた状態を示す側面図。
【図2】制振ユニットの正面図。
【図3】制振ユニットが変形した際の上下方向支持部材を示す図。
【図4】制振ユニットが変形した際の制振部材を示す図。
【図5】制振部材のヒステリシスループを示す図。
【図6】制振部材がせん断変形した状態を示す図。
【図7】制振ユニットが取り付けられた建物を示す斜視図。
【図8】制振ユニットが取り付けられた建物を示す側面図。
【図9】制振ユニットが建物本体に取り付けられた状態を示す正面図。
【図10】上下方向支持部材として積層ゴムを備えた制振ユニットを示す図。
【図11】上下方向支持部材として積層ゴムを備えた制振ユニットの変形例を示す図。
【図12】上下方向支持部材として滑り支承部材を備えた制振ユニットを示す図。
【図13】上下方向支持部材として転がり支承部材を備えた制振ユニットを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る制振ユニットを図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、同じ作用を奏する部材、部位には、適宜に同じ符号を付している。
【0015】
≪制振ユニット100≫
図1は、制振ユニット100を建物本体200に取り付けた状態を示す側面図である。図2は、その正面図である。なお、ここでは、建物本体200は、略直方体の建物であり、横断面の一方の長辺側を正面としている。この実施形態では、制振ユニット100は、図1に示すように、上下一対の取付部材22、24と、上下方向支持部材40と、制振部材60とを備えている。また、図1に示すように、1つの制振ユニット100に対して、1つの上下方向支持部材40と、4つの制振部材60が取り付けられている。
【0016】
≪取付部材22、24≫
上下一対の取付部材22、24は、図1に示すように、上下方向支持部材40と、制振部材60とが取り付けられる部材である。この実施形態では、取付部材22、24は、所要の剛性を有する矩形の板状の部材で構成されており、制振ユニット100の上下において対向するように配置されている。取付部材22、24の対向する面には、それぞれ上下方向支持部材40と、制振部材60とが取り付けられている。
【0017】
≪上下方向支持部材40≫
上下方向支持部材40は、図1に示すように、上下一対の取付部材22、24の間に配置され、上側の取付部材22から下側の取付部材24に向けて上下方向に作用する力を支持する部材である。また、上下方向支持部材40は、図3に示すように、上下一対の取付部材22、24のせん断変位(せん断方向の相対変位)を許容する。
【0018】
この制振ユニット100は、建物本体200に連結された上部フレーム140と、下部フレーム160とに連結されて、建物本体200に作用した振動を減衰させる機能を奏する。以下、かかる制振ユニット100を説明する。
【0019】
この実施形態では、上下方向支持部材40は、図1に示すように、上下一対の取付部材22、24に設けられた球面滑り軸受け42、44と、当該球面滑り軸受け42、44を介して取り付けられた柱材46とで構成されている。
【0020】
この実施形態では、柱材46は、上下一対の取付部材22、24の間に上下方向に延びた状態で収まる長さを有し、両端に球面滑り軸受け42、44に支持される球状の軸端部46a、46bを備えている。また、この柱材46は、中間部に接合部46cを有し、上下に分断できる。
【0021】
また、この実施形態では、球面滑り軸受け42、44は、基部42a、44aと、第1球面受け部材42b、44bと、第2球面受け部材42c、44cとを備えている。
【0022】
基部42a、44aは、図1に示すように、この実施形態では、上下一対の取付部材22、24に取り付けられる板状の部材であり、中央部に第1球面受け部材42b、44bを位置決めする突起42a1、44a1が設けられている。かかる基部42a、44aは、それぞれ上下一対の取付部材22、24に上下に対向するように取り付けられている。
【0023】
第1球面受け部材42b、44bは、略球面の窪みからなる受け面42b1、44b1を備えている。第1球面受け部材42b、44bは、上下一対の取付部材22、24に取り付けられた基部42a、44aの突起42a1、44a1に位置決めされ、かつ、当該受け面42b1、44b1が上下に対向するように、基部42a、44aに取り付けられている。
【0024】
第2球面受け部材42c、44cは、柱材46に装着されるリング状の部材であり、第1球面受け部材42b、44bの受け面42b1、44b1に応じた略球面の窪みからなる受け面42c1、44c1を備えている。また、この第2球面受け部材42c、44cは、第1球面受け部材42b、44bに外側から被せられるとともに、基部42a、44aに取り付けられる。
【0025】
この実施形態では、図1に示すように、上下一対の取付部材22、24に基部42a、44aを取り付ける。次に、基部42a、44aの突起42a1、44a1に位置決めし、かつ、当該受け面42b1、44b1が上下に対向するように、第1球面受け部材42b、44bを基部42a、44aに取り付ける。
【0026】
第2球面受け部材42c、44cは、分断された柱材46に装着される。第2球面受け部材42c、44cが装着された柱材46は、接合され、第1球面受け部材42b、44bの間に配置される。この際、柱材46の球状の軸端部46a、46bは、第1球面受け部材42b、44bの受け面42b1、44b1に嵌められる。また、柱材46に装着された第2球面受け部材42c、44cは、それぞれ基部42a、44aに取り付けられる。これにより、第1球面受け部材42b、44bの受け面42b1、44b1と、第2球面受け部材42c、44cの受け面42c1、44c1とによって、柱材46の軸端部46a、46bはそれぞれ回動自在に支持されている。
【0027】
ここで、上下方向支持部材40の基部42a、44a、第1球面受け部材42b、44b、及び、第2球面受け部材42c、44cの取り付けは、それぞれボルトナット、リベット、溶接、接着などの適当な固定手段を採用することができる。
【0028】
≪制振部材60≫
次に、制振部材60を説明する。
【0029】
制振部材60は、対向するプレート61、62と、粘弾性体66とを有している。粘弾性体66は、対向するプレート61、62の間に配設され、各プレート61、62にそれぞれ接着されている。制振部材60の対向するプレート61、62のうち一方のプレート61は上下一対の取付部材22、24のうち一方の取付部材22に連結され、他方のプレート62は他方の取付部材24に連結されている。
【0030】
この実施形態では、図1に示すように、1つの制振ユニット100に対して、4つの制振部材60が取り付けられている。
【0031】
各制振部材60は、1枚の上側プレート61と、2枚の下側プレート62と、2つの粘弾性体66とで構成されている。図2に示すように、上側プレート61と下側プレート62は、それぞれ長方形のプレートであり、例えば、所要の剛性を有する鋼板で構成されている。
【0032】
1枚の上側プレート61は、2枚の下側プレート62の間に配置されている。また、上側プレート61と、2枚の下側プレート62は、上側プレート61を上側、下側プレート62を下側に少しずらして対向させている。上側プレート61が上側にずれた部分は、上側の取付部材22に取り付けられる。また、下側プレート62が下側にずれた部分は、下側の取付部材24に取り付けられる。また、上側プレート61と、2枚の下側プレート62とが対向する部分には、それぞれ粘弾性体66が接着されている。この実施形態では、粘弾性体66は、略正方形のゴム材料であり、上側プレート61と下側プレート62に挟まれており、それぞれ加硫接着で接着されている。
【0033】
この実施形態では、粘弾性体66は、高減衰性を有する粘弾性ゴム(制振ゴム)が用いられている。かかる粘弾性ゴム(制振ゴム)には、例えば、天然ゴム,スチレンブタジエンゴム(SBR),ニトリルブタジエンゴム(NBR),ブタジエンゴム素材(BR),イソプレンゴム(IR),ブチルゴム(IIR),ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR),クロロプレンゴム(CR)のゴム素材に、高減衰性を発揮する添加剤を加えて生成された高減衰性ゴム組成物を用いることができる。高減衰性を発揮する添加剤としては、例えば、カーボンブラックなど、種々の添加剤が知られている。
【0034】
なお、上述した粘弾性体66には、種々の粘弾性体を用いることができる。すなわち、所要の性能が得られるように、基材ゴム、添加剤を選択し、また、それらの配合割合を選択するとよい。粘弾性体66を構成するゴム組成物は、基材ゴム及び添加剤の各成分を所定の割合で配合し、例えば、密閉式混練機などを用いて混練することによって得られる。そして、上記のように得られたゴム組成物を、ローラヘッド押出機などを用いてシート状に成形する。その後、成形したシートを積層した状態で、所定の型内で加熱して例えば加硫成形する。
【0035】
また、粘弾性体66は、例えば自己粘着性のものや普通の接着剤を用いて、上述した上側プレート61と下側プレート62と接合一体化してもよい。しかしながら、接着への信頼性の観点から、粘弾性体66と上側プレート61と下側プレート62とは、加硫接着して接合することが好ましい。例えば、未加硫の粘弾性体66を所定の形状を有するように押出した後、切断し、予備成形した状態で所定の型内で加熱して加硫して成形する。この実施形態では、成形型に上側プレート61と下側プレート62を配置しておき、粘弾性体66を成形するのと同時に、粘弾性体66を上側プレート61と下側プレート62とに加硫接着している。
【0036】
≪制振ユニット100の構成≫
この実施形態では、図1に示すように、制振ユニット100は、上下方向支持部材40の両側に制振部材60が2つずつ取り付けられている。
【0037】
この実施形態では、上下一対の取付部材22、24には、それぞれ制振部材60を取り付ける部位に上部スペーサ72と下部スペーサ74が設けられている。上部スペーサ72は矩形の突起で構成されている。下部スペーサ74は所定の間隔で設けられた2つの矩形の突起で構成されている。下部スペーサ74は、制振部材60の2つの粘弾性体66と、上側プレート61の厚さに相当する厚さを備えている。
【0038】
この実施形態では、図1に示すように、2つの制振部材60は一方の下側プレート62を互いに重ね合わせる。2つの制振部材60の上側プレート61はそれぞれ上部スペーサ72を挟むように取り付けられている。また、各制振部材60の2つの下側プレート62は、それぞれ下部スペーサ74を挟むように取り付けられている。この実施形態では、上側プレート61と上部スペーサ72、下側プレート62と下部スペーサ74とは、ボルトナットによって取り付けられている。かかる構成により、制振部材60は、各粘弾性体66に圧縮方向の力がほとんど作用しないように取り付けられている。
【0039】
また、この実施形態では、図1及び図2に示すように、制振ユニット100の前後、左右の側面において、上下一対の取付部材22、24の間にカバー76、78、80が設けられている。前後のカバー76、78は、図1に示すように、上下一対の取付部材22、24の間の前後に取り付けられている。この実施形態では、前後のカバー76、78は、上側の取付部材22と下側の取付部材24にそれぞれ取り付けられている。この実施形態では、前後のカバー76、78は、伸縮性を有しており、取付部材22、24のせん断方向の変位に応じて伸縮する。また、左右のカバー80は、上下一対の取付部材22、24の間の側面において、制振部材60が配置された部位を覆っている。この実施形態では、カバー80は、図2に示すように、上側の取付部材22の両側の側縁部に蝶番82を介して揺動可能に取り付けられた蓋材84で構成されている。この実施形態では、蓋材84の先端部は、制振ユニット100の内側から外側へ向けて下斜めに傾斜している。これにより、蓋材84が下側の取付部材24に引っ掛からずに揺動する。
【0040】
≪制振ユニット100の変形≫
図3及び図4は、かかる制振ユニット100が変形した状態を示している。ここで、図3は、制振ユニット100の上下方向支持部材40を示しており、図4は、制振部材60を示している。
【0041】
かかる上下方向支持部材40は、図1に示すように、上下一対の取付部材22、24の間に、上下一対の取付部材22、24に対して直交している。このため、上側の取付部材22から下側の取付部材24に向けて上下方向に作用する力を支持する。さらに、上下方向支持部材40は、上下一対の取付部材22、24のせん断変位に対して、図3に示すように、上下の球面滑り軸受け42、44が滑り、上下一対の取付部材22、24のせん断変位に応じて傾く。これにより、上下一対の取付部材22、24のせん断変位を許容することができる。
【0042】
また、上下一対の取付部材22、24のせん断変位に対しては、図4に示すように、制振部材60は、対向する上側プレート61と下側プレート62のせん断方向の相対的な変位が生じる。粘弾性体66は、かかる上側プレート61と下側プレート62のせん断方向の相対的な変位に応じて、せん断変形する。
【0043】
かかる制振部材60は、図4に示すように、せん断変形が生じると、図5に示すように、ヒステリシスループA(実測ヒステリシス曲線)を描く。図5中、横軸はせん断方向の変位を示し、縦軸はその際のせん断荷重を示している。この制振部材60は、せん断変形を伴う振動が生じると、一周期毎に、当該ヒステリシスループAで囲まれた部分のエネルギに相当する振動のエネルギを吸収することができる。なお、図5に示すヒステリシスループAは、制振部材60のヒステリシスループAを模式的に描いている。
【0044】
なお、各制振部材60は、図6に示すように、上側プレート61の両側に粘弾性体66が接着されており、さらに、2枚の下側プレート62は、粘弾性体66の外側に接着されている。このため、上側プレート61と2枚の下側プレート62がせん断変形したときに、上側プレート61の両側の粘弾性体66から、上側プレート61に作用するモーメント(上側プレート61を回転させようとする力)が互いに相殺される。上側プレート61と2枚の下側プレート62が安定した状態でせん断変形する。ここで、図6中の矢印a、bは、粘弾性体66に作用するせん断力を示している。また、同図中の矢印c、dは、粘弾性体66に作用するモーメントを示している。この場合、制振ユニット100の上下一対の取付部材22、24のせん断変位に伴って、上側プレート61と2枚の下側プレート62がせん断変形したときに、せん断力a、bが釣合い、さらにモーメントc、dが釣合う。これにより、制振部材60が安定した状態でせん断変形が生じ、粘弾性体66にも安定した状態でせん断変形が生じる。
【0045】
このように、制振ユニット100によれば、上下一対の取付部材22、24の上下方向に作用する力は、上下方向支持部材40によって支持することができる。また、制振ユニット100の上下一対の取付部材22、24にせん断変位が生じた場合には、制振部材60の粘弾性体66に生じるせん断変形によって所要の抗力が生じる。
【0046】
また、この実施形態では、一つの制振ユニット100に、粘弾性体66が8つある。各粘弾性体66は、それぞれ上下一対の取付部材22、24のせん断変位に対して同様にせん断変形する。これにより、制振ユニット100は、それぞれ上下一対の取付部材22、24のせん断変位に対して所要の抗力を生じさせる。このように、この実施形態では、制振ユニット100に配置した複数の粘弾性体66を均等に作用させることができる。また、上下方向支持部材40の両側に同数の制振部材60が同様に配置されているので、上下一対の取付部材22、24のせん断変位に対して上下方向支持部材40の両側で同様の抗力が生じる。
【0047】
≪建物400≫
かかる制振ユニット100は、建物本体200に取り付けられる。図7は、制振ユニット100が取り付けられた建物400を示す斜視図である。図8は、制振ユニット100が取り付けられた建物400の側面図。図9は、制振ユニット100が建物本体200に取り付けられた状態を示す正面図を示している。
【0048】
建物本体200は、例えば、図7に示すように、鉄骨鉄筋コンクリート製の直方体の建物を例に挙げて説明する。かかる建物本体200は、横断面の短辺方向yよりも長辺方向xに揺れやすい。
【0049】
この実施形態では、建物本体200に上下に対向するように取り付けられた上下一対のフレーム140、160の間に、上述した制振ユニット100が配置されている。上下一対のフレーム140、160に、制振ユニット100の上下一対の取付部材22、24がそれぞれ連結されている。また、この実施形態では、図8に示すように、建物本体200の側部に基礎120が敷設されている。そして、上下一対のフレーム140、160のうち下側の下部フレーム160は、基礎120に連結されている。なお、この実施形態では、上部フレーム140と下部フレーム160は、図8に示すように、それぞれ建物本体200の構造部材220(この実施形態では、建物本体200に骨組部材)に連結されている。この実施形態では、図7及び図8に示すように、建物本体200の高さ方向zに複数の制振ユニット100が取り付けられている。
【0050】
なお、図7及び図8に示すように、上下方向に複数の制振ユニット100が取り付けられている場合、一の制振ユニット100に対して上部フレームとなるフレーム140Aは、当該一の制振ユニット100の上に位置する他の制振ユニット100に対しては、下部フレーム160Bを構成する。例えば、図8に示すように、制振ユニット100Aに対しては、上部フレーム140を構成するフレームは、当該制振ユニット100Aの上に位置する他の制振ユニット100Bに対しては下部フレーム160を構成している。
【0051】
この建物400によれば、建物本体200の揺れに対しては、建物本体200に取り付けられた上下一対のフレーム140、160にせん断変位が生じる。これに伴い、上下一対のフレーム140、160に連結された、制振ユニット100の上下一対の取付部材22、24にせん断変位が生じる。この際、制振ユニット100の上下方向支持部材40は、図3に示すように、上下一対の取付部材22、24のせん断変位を許容する。また、図4に示すように、建物本体200のせん断変位に応じて、制振ユニット100の制振部材60の粘弾性体66にせん断変形が生じる。かかる粘弾性体66のせん断変形によって、建物本体200の揺れに対して、所要の減衰力が生じる。これにより、建物本体200の揺れが小さく抑えられるとともに、当該揺れが早期に減衰する。
【0052】
この実施形態では、建物本体200は、図9に示すように、上下方向に間隔を開けて配置され、水平方向に延びた一対の梁202、204を備えている。かかる一対の梁202、204の間には、複数の柱206、208が設けられている。一対の梁202、204の間に水平方向に間隔を開けて配置された一対の柱206、208は、それぞれ上下方向に延びて一対の梁202、204に連結されている。この建物本体200は、かかる一対の梁202、204と一対の柱206、208とで囲まれた開口210を備えている。上述した上下一対のフレーム140、160と、制振ユニット100とは、建物本体200の開口210を囲むように配置されている。
【0053】
このように、上下一対のフレーム140、160と、制振ユニット100が、建物本体200の開口210を囲むように配置されているので、建物の開口210を阻害しないように制振ユニット100を取り付けることができる。例えば、建物の開口210が避難経路として用いられている場合でも、制振ユニット100は、当該開口210を塞ぐことなく設置することができる。このように制振ユニット100は、当該開口210を塞ぐことなく設置することができるので、開口210からの採光や、通風を確保することができ、建物の居住性を維持できる。また、当該開口210が避難窓(避難経路)として用いられている場合でも、制振ユニット100を設けることによって開口210が塞がれることがなく避難窓としての利用を維持できる。
【0054】
また、この実施形態では、図7に示すように、上部フレーム140と、下部フレーム160とは、建物本体200の長辺方向x側の側面に沿って構築されている。また、この実施形態では、制振ユニット100は、図1に示すように、制振部材60の上側プレート61と下側プレート62及び粘弾性体66が、建物本体200の長辺側の側面200aに対して概ね平行になるように(換言すると、制振部材60の上側プレート61と下側プレート62及び粘弾性体66が、建物本体200の短辺方向yに対して概ね直行するように)、取り付けられている。
【0055】
この制振ユニット100は、図1に示すように、上下方向支持部材40の両側にそれぞれ制振部材60が2つずつ取り付けられている。
【0056】
また、かかる制振ユニット100を取り付ける建物補強工法としては、例えば、建物本体200の側部に基礎120を設ける(基礎敷設工程)。次に、基礎敷設工程で設けられた基礎120から建物本体200の側面に沿って立ち上がるとともに、建物本体200に連結された下部フレーム160を設ける(下部フレーム設置工程)。次に、下部フレーム160に対して上部に対向する位置に、建物本体200に連結された上部フレーム140を設ける(上部フレーム設置工程)。次に、下部フレーム設置工程で設けられた下部フレーム160の上に、制振ユニット100を取り付ける(制振ユニット取付工程)。そして、上部フレーム設置工程で設けられた上部フレーム140と、制振ユニット100とを連結する(制振ユニット連結工程)とよい。なお、基礎敷設工程、下部フレーム設置工程、上部フレーム設置工程、制振ユニット取付工程、制振ユニット連結工程の順番は、矛盾が生じない限りにおいて、適当に入れ替えてもよい。
【0057】
例えば、制振ユニット100を施工する方法としては、上述した下部フレーム設置工程において下部フレーム160を設置した後に、下部フレーム160の上に、制振ユニット100を取り付け、その後に、上部フレーム設置工程により上部フレーム140を設けてもよい。また、他の方法として、上述した上部フレーム設置工程と下部フレーム設置工程とにより、上部フレーム140と下部フレーム160を建物本体200に設置した後に、上部フレーム140と下部フレーム160とに制振ユニット100を取り付けてもよい。
【0058】
かかる建物補強工法によれば、建物本体200が、既存の建物である場合でも、建物本体200に制振ユニット100を取り付けることができる。また、建物本体200の揺れに応じて、上部フレーム140と下部フレーム160とを通じて、制振ユニット100に適切にせん断変形を生じさせることができる。
【0059】
≪建物本体200に取り付けられた制振ユニット100の機能≫
制振ユニット100は、図1に示すように、上下一対の取付部材22、24;上下一対の取付部材22、24の間に配置され、上側の取付部材22から下側の取付部材24に向けて上下方向に作用する力を支持するとともに、上下一対の取付部材22、24のせん断変位を許容する上下方向支持部材40;及び、上下一対の取付部材22、24の間に配置された制振部材60;を備えている。制振部材60は、対向するプレート61、62と、対向するプレート61、62の間に配設され、各プレート61、62にそれぞれ接着された粘弾性体66とを有している。また、対向するプレート61、62のうち一方のプレート61は上下一対の取付部材22、24のうち一方の取付部材22に連結され、他方のプレート62は他方の取付部材24に連結されている。
【0060】
この制振ユニット100によれば、上下一対の取付部材22、24の上下方向に作用する力は、上下方向支持部材40によって支持することができる。例えば、上部フレーム140は、制振ユニット100の上下方向支持部材40で支持することができる。
【0061】
また、建物本体200の短辺方向yの揺れに対しては、建物本体200に連結された上部フレーム140と下部フレーム160とに、せん断変位が生じる。これに伴い、図3及び図4に示すように、制振ユニット100の上下一対の取付部材22、24にせん断変位が生じる。この際、この実施形態では、上下方向支持部材40は、上下一対の取付部材22、24に球面滑り軸受け42、44を介在させて取り付けられているので、上下方向支持部材40が傾く。これにより、上下方向支持部材40は、上下一対の取付部材22、24のせん断変位を許容する。なお、図3及び図4では、制振ユニット100の動きを分かり易くするため、建物本体200に生じる揺れを誇張している。
【0062】
また、建物本体200に連結された上部フレーム140と下部フレーム160のせん断変位に応じて、制振ユニット100の上下一対の取付部材22、24にせん断変位が生じる。この際、図4に示すように、制振部材60の上側プレート61と下側プレート62とに接着された粘弾性体66にせん断変形が生じる。かかる粘弾性体66のせん断変形によって、建物本体200の揺れに対して、所要の抗力が生じる。これにより、建物本体200の揺れを小さく抑えることができるとともに、当該揺れを早期に減衰させることができる。また、この建物400は、地震などの振動が減衰すると、建物本体200の弾性復元力によって、元の姿勢に復帰する。
【0063】
また、この制振ユニット100は、図1に示すように、概ね直方体のユニットで構成することができ、適当に小さくできる。例えば、鉄骨鉄筋コンクリート製の建物の柱の大きさに合わせて、所要の幅、奥行き、高さに構成することができる。このため、図7、図8及び図9に示すように、建物の柱に嵌め込むように施工することができる。このため、従前の所謂ブレース材や、柱の梁に斜めにダンパーを配置するような補強構造に比べても、構造がコンパクトである。また、上述したように、建物の開口を塞がないように施工することもできる。
【0064】
また、この制振ユニット100は、図1に示すように、上下一対の取付部材22、24の間に上下方向支持部材40と、制振部材60とが取り付けられている。このため、建物本体200に上下に対向するように取り付けられた上下一対のフレーム140、160の間に、制振ユニット100を配置し、上下一対のフレーム140、160に、制振ユニット100の上下一対の取付部材22、24をそれぞれ連結することによって、建物本体200に施工できる。このように、上下方向支持部材40と、制振部材60とがユニット化されており、建物本体200への施工が簡単に行える。例えば、かかる補強構造を施工するのに、既存の建物に対して入居者の一時的な退去が必要となるような大規模な施工工事が必要であると、管理者及び入居者に不便を生じさせる。かかる制振ユニット100によれば、入居者の一時的な退去が必要とならない程度に施工が容易にできる。
【0065】
制振ユニット100は、上述した実施形態に限定されない。以下、制振ユニット100の変形例を説明する。
【0066】
制振ユニット100の上下方向支持部材40は、図1に示すように、上下一対の取付部材22、24にそれぞれ球面滑り軸受け42、44を介して取り付けられた柱材46で構成された形態を例示したが、これに限定されない。例えば、図10に示すように、制振ユニット100の上下方向支持部材40は、鋼板とゴム板を交互に積層した積層ゴム48を備えていてもよい。積層ゴム48は、鋼板とゴム板の積層方向の一端48aが上下一対の取付部材22、24の一方の取付部材22に取り付けられ、積層方向の他端48bが上下一対の取付部材22、24の他方の取付部材24に取り付けられている。
【0067】
この実施形態では、積層ゴム48は、図10に示すように、上下一対の取付部材22、24にそれぞれ取り付けられた支持部材22a、24aに取り付けられている。かかる積層ゴム48は、上下方向の荷重を支持することができるとともに、上下一対の取付部材22、24のせん断変位に対しては、ゴム板のせん断変形による積層ゴム48全体の変形によってこれを許容することができる。
【0068】
また、制振ユニット100の上下方向支持部材40は、図11に示すように、積層ゴム48と、上下一対の取付部材22、24のうち少なくとも何れか一方の取付部材とが滑動可能に取り付けてもよい。図11に示す例では、下側の取付部材24の支持部材24aに滑り材49を取り付けられている。積層ゴム48は、滑り材49の上に載せられている。積層ゴム48の上端は、下側の取付部材22の支持部材22aに固定されている。
【0069】
この場合、積層ゴム48と滑り材49との間に所要の摩擦力が作用する。かかる制振ユニット100の上下一対の取付部材22、24にせん断変位が生じると、積層ゴム48と滑り材49との間に作用する力が所定の静摩擦力以下の場合には、積層ゴム48にせん断変形が生じる。積層ゴム48と滑り材49との間に作用する力が大きくなり、所定の静摩擦力を超えると、積層ゴム48と滑り材49とにずれが生じる。
【0070】
このように、かかる構成によれば、積層ゴム48に作用するせん断力を所定の力以下に抑えることができる。これにより、積層ゴム48の破損を防止できる。なお、地震などの振動が減衰すると、建物本体200の弾性復元力によって、制振ユニット100は元の姿勢に復帰する。この際、積層ゴム48と滑り材49とに生じたずれも解消する。なお、図11に示す例では、下側の取付部材24の支持部材24aに取り付けられた滑り材49の幅が、積層ゴム48の下端48aよりも広い。これにより、積層ゴム48のずれをより大きく許容することができる。
【0071】
また、制振ユニット100の上下方向支持部材40は、さらに、上下一対の取付部材22、24の間に配置された滑り支承部材50(図12参照)や転がり支承部材52(図13参照)で構成してもよい。この場合でも、上下方向支持部材40は、上側の取付部材22から下側の取付部材24に向けて上下方向に作用する力を支持するとともに、上下一対の取付部材22、24のせん断変位を許容することができる。
【0072】
この実施形態では、滑り支承部材50は、図12に示すように、上下一対の滑り部材50a、50bで構成されており、上下一対の取付部材22、24にそれぞれ取り付けられた支持部材22a、24aの間に取り付けられている。一対の滑り部材50a、50bは、少なくとも互いに滑る面が、例えば、潤滑剤が塗布されていたり、フッ素系の樹脂など摩擦係数が低い材料でコーティングしたりするなど、滑りやすいように構成されているとよい。
【0073】
また、転がり支承部材52は、図13に示すように、転動体52a(ボール)を有しており、上下方向の上側の取付部材22から下側の取付部材24に向けて上下方向に作用する力を支持するとともに、上下一対の取付部材22、24のせん断変位を許容する。この実施形態では、転がり支承部材52は、転動体52aと、保持器52bと、ストッパ52cととを備えており、上下一対の取付部材22、24にそれぞれ取り付けられた支持部材22a、24aの間に取り付けられている。
【0074】
転動体52aは、上下方向の荷重に抗することができるように所要の剛性を備えた球体である。この実施形態では、転がり支承部材52は、複数の転動体52aを有している。保持器52bは、当該転動体52aを保持する部材である。この実施形態では、保持器52bの内周面は、例えば、潤滑剤が塗布されていたり、フッ素系の樹脂など摩擦係数が低い材料でコーティングしたりするなど、滑りやすいように構成されている。この実施形態では、保持器52bは、下側の支持部材24aに取り付けられている。また、ストッパ52cは、転動体52aの転動範囲を規制する部材である。この実施形態では、ストッパ52cは、上側の支持部材22aの下端に取り付けられた略板状の部材であり、周囲に転動範囲を規制する壁52c1を備えている。
【0075】
かかる転がり支承部材52は、転動体52aによって上下方向の荷重を支持することができるとともに、上下一対の取付部材22、24のせん断変位に対しては、転動体52aの転動及び保持器52bの変位によってこれを許容することができる。なお、この実施形態では、図13に示すように、ストッパ52cは、下側の支持部材24aに取り付けられた保持器52bよりも十分に広い。また、幅広のストッパ52cを上側に取り付けており、転動体52aが転動する部分に塵が入り難くなっている。
【0076】
また、上述した実施形態では、制振ユニット100は、上下一対の取付部材22、24の間の側面にカバー80が設けられているが、かかるカバー80の構成は、上記に限定されない。例えば、上下一対の取付部材22、24の間の側面に、上側の取付部材22から吊り下げたシート状のカバーを設けても良い。また、カバーは、制振ユニット100の上下方向支持部材40や、制振部材60を保護する。特に、制振部材60に用いられる粘弾性体66を保護する。所要の耐侯性を有しているとよい。また、カバーを設けることで、虫や鳥などの小動物や、塵が上下方向支持部材40や制振部材60が配置された領域に入るのを防止することができる。これにより、長期的な性能を保持することができる。
【0077】
以上、本発明の一実施形態に係る制振ユニット100、建物400及び建物補強工法を説明した。本発明に係る制振ユニット100、建物400及び建物補強工法は、上述した実施形態に限定されない。
【0078】
制振ユニット100の具体的な構造等や建物本体200への取り付け構造などは、種々の変更が可能である。
【0079】
上述した実施形態では、建物本体200は、例えば、図7に示すように、鉄骨鉄筋コンクリート製の直方体の建物を例に挙げて説明した。図7に示す例では、建物本体200は、横断面の長辺方向xよりも短辺方向yに振動が生じ易いとの前提で、制振部材60の上側プレート61と下側プレート62及び粘弾性体66が、建物本体200の長辺方向x側の側面に対して概ね直行するように、制振ユニット100が取り付けられている。このように、建物本体200が振動し易い方向の揺れに対して、制振部材60の粘弾性体66にせん断変形が生じるように、建物本体200に対して制振ユニット100を配置することができる。
【0080】
ただし、制振ユニット100の配置は、かかる配置に限定されず、種々の変更が可能である。制振ユニット100の配置は、建物本体200の構造に応じて適宜に変更するとよい。例えば、上述した直方体の建物では、構造上、横断面の長辺方向xよりも短辺方向yに振動が生じ易い。この場合、図7に示すように、制振部材60の上側プレート61と下側プレート62及び粘弾性体66が、建物本体200の短辺方向yに対して概ね平行になるように、制振ユニット100を取り付けてもよい。これに加えて、制振部材60の上側プレート61と下側プレート62及び粘弾性体66が、建物本体200の長辺方向xに対して概ね平行になるように、制振ユニット100を取り付けてもよい。
【0081】
また、制振ユニット100が取り付けられる建物本体の構造も上述した実施形態に限定されない。制振ユニット100は、建物本体の構造に応じ、建物本体に生じる揺れ(振動)に対して、制振部材60の粘弾性体66に適切にせん断変形が生じるように、建物本体に配置されるとよい。また、制振ユニット100は、既存建物の補強だけでなく、新規に建物を建築する際にも、当該建物に施工することができる。
【符号の説明】
【0082】
22、24 一対の取付部材
22a、24a 支持部材
40 上下方向支持部材
42、44 球面滑り軸受け
42a、44a 基部
42a1、44a1 突起
42b、44b 第1球面受け部材
42b1、44b1 受け面
42c、44c 第2球面受け部材
42c1、44c1 受け面
46 柱材
46a、46b 軸端部
46c 接合部
48 積層ゴム
48a 積層ゴムの上端
48b 積層ゴムの下端
50 滑り支承部材
50a、50b 一対の滑り部材
52 転がり支承部材
52a 転動体
52b 保持器
52c ストッパ
60 制振部材
61 上側プレート
62 下側プレート
66 粘弾性体
72 上部スペーサ
74 下部スペーサ
76、78、80 カバー
82 蝶番
84 蓋材
100 制振ユニット
120 基礎
140 上部フレーム
160 下部フレーム
200 建物本体
202、204 梁
206、208 柱
210 開口
400 建物
A ヒステリシスループ
x 長辺方向
y 短辺方向
z 高さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下一対の取付部材;
前記上下一対の取付部材の間に配置され、上側の取付部材から下側の取付部材に向けて上下方向に作用する力を支持するとともに、上下一対の取付部材のせん断変位を許容する上下方向支持部材;及び、
前記上下一対の取付部材の間に配置された制振部材;を備え、
前記制振部材は、対向するプレートと、前記対向するプレートの間に配設され、各プレートにそれぞれ接着された粘弾性体とを有し、
前記対向するプレートのうち一方のプレートは前記上下一対の取付部材のうち一方の取付部材に連結され、他方のプレートは他方の取付部材に連結されている、制振ユニット。
【請求項2】
前記上下方向支持部材は、上下一対の取付部材にそれぞれ球面滑り軸受けを介して取り付けられた柱材で構成された、請求項1に記載された制振ユニット。
【請求項3】
前記上下方向支持部材は、鋼板とゴム板を交互に積層した積層ゴムであって、積層方向の一端が前記上下一対の取付部材の一方に取り付けられ、積層方向の他端が前記上下一対の取付部材の他方に取り付けられた積層ゴムを備えた、請求項1に記載された制振ユニット。
【請求項4】
前記上下方向支持部材は、前記積層ゴムと、前記上下一対の取付部材のうち少なくとも何れか一方の取付部材との間に介在した滑り支障部材を備えた、請求項3に記載された制振ユニット。
【請求項5】
前記上下方向支持部材は、前記上下一対の取付部材の間に配置された滑り支承部材を備えた、請求項1に記載された制振ユニット。
【請求項6】
前記上下方向支持部材は、前記上下一対の取付部材の間に配置された転がり支承部材を備えた、請求項1に記載された制振ユニット。
【請求項7】
前記上下一対の取付部材の間の側面にカバーを設けた、請求項1から6までの何れか一項に記載された制振ユニット。
【請求項8】
前記カバーは、前記上側の取付部材の側縁部に蝶番を介して揺動可能に取り付けられた蓋材で構成された、請求項7に記載された制振ユニット。
【請求項9】
前記建物本体に上下に対向するように取り付けられた上下一対のフレームの間に、請求項1から8までの何れか一項に記載された制振ユニットが配置されており、前記上下一対のフレームに、前記制振ユニットの前記上下一対の取付部材がそれぞれ連結された、建物。
【請求項10】
前記建物本体の側部に基礎が敷設されており、
前記上下一対のフレームのうち下側の下部フレームは、前記基礎に連結されている、請求項9に記載された建物。
【請求項11】
前記建物本体は、
上下方向に間隔を開けて配置され、水平方向の延びた一対の梁;
前記一対の梁の間に水平方向に間隔を開けて配置され、上下方向に延びて前記一対の梁に連結された一対の柱;及び、
前記一対の梁と、一対の柱で囲まれた開口;を備え、
前記上下一対のフレームと、前記制振ユニットとは、前記建物本体の前記開口を囲むように配置された、請求項9又は10に記載された建物。
【請求項12】
建物本体を補強する建物補強工法であって、
前記建物本体の側部に基礎を設ける基礎敷設工程;
前記基礎敷設工程で設けられた基礎から前記建物本体の側面に沿って立ち上がるとともに、前記建物本体に連結された下部フレームを設ける下部フレーム設置工程;
前記下部フレームに対して上部に対向する位置に、前記建物本体に連結された上部フレームを設ける上部フレーム設置工程;
下部フレーム設置工程で設けられた前記下部フレームの上に、請求項1から7までの何れか一項に記載された制振ユニットを取り付ける工程;及び、
前記上部フレーム設置工程で設けられた前記上部フレームと前記制振ユニットとを連結する工程とを備えた、建物補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−144833(P2011−144833A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4247(P2010−4247)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(591280197)株式会社構造計画研究所 (59)
【Fターム(参考)】