説明

剥離液濃度測定装置

【課題】 剥離液中の剥離剤の濃度を正確に計測すること。
【解決手段】 溶媒に溶解された少なくとも剥離剤を含む複数の溶質の各濃度を測定する剥離液濃度測定装置であって、温度検出器の出力と、特定物性量検出器の出力と、速度演算部の出力から、各溶質の濃度を演算する濃度演算部と、濃度演算部の変換結果を出力する出力装置とを有してなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶生産工程等で用いられて好適な剥離液濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶生産工程では、特許文献1に記載の如く、液晶の表面に塗布したフォトレジストを、剥離剤としてのMEAとDMSOを溶解させた剥離液で剥離するための剥離装置が用いられている。
【特許文献1】特開平6-29209
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の如くの剥離装置では、経済面及び環境保全面から、剥離液をリサイクルすることが好ましいが、剥離液には使用の経過によってレジストが混入したり、MEAやDMSOが空気中の二酸化炭素と反応して炭酸塩を生成し、剥離液の劣化を生ずる。
【0004】
従って、剥離装置では、剥離液のリサイクルに際し、剥離液に混入するに至ったレジスト、炭酸塩を取除くとともに、新規MEAやDMSOを補填してMEA濃度やDMSO濃度を一定に制御する必要がある。このためには、剥離液中のMEA濃度やDMSO濃度をそれぞれ正確にリアルタイムで計測することが必要になる。
【0005】
本発明の課題は、剥離液中の剥離剤の濃度を正確に計測することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、溶媒に溶解された少なくとも剥離剤を含む複数(n)の溶質の各濃度(D1…Dn)を測定する剥離液濃度測定装置であって、被測定溶液に超音波を送波する超音波送波器と、被測定溶液中を伝播した超音波を受波する超音波受波器と、超音波の伝播時間と伝播距離から伝播速度(V)を演算する速度演算部と、被測定溶液の温度(T)を検出する温度検出器と、各溶質の濃度及び被測定溶液の温度により上記伝播速度とはそれぞれ独立に影響を受ける(n−1)種類の特定物性量(α1…αn-1)であり、且つ各溶質の濃度及び被測定溶液の温度により互いに独立に影響を受ける(n−1)種類の特定物性量(α1…αn-1)を検出する特定物性量検出器と、被測定溶液の温度(T)、上記特定物性量(α1…αn-1)と超音波の伝播速度(V)と各溶質の濃度(D1…Dn)との関係を示す関数D1=F1(V,T,α1…αn-1)…Dn=Fn(V,T,α1…αn-1)を予め記憶している記憶部と、前記温度検出器の出力(T)と特定物性量検出器の出力(α1…αn-1)と速度演算部の出力(V)から、前記関数に基づいて各溶質の濃度(D1…Dn)を演算する濃度演算部と、濃度演算部の演算結果を出力する出力装置とを有してなるようにしたものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記複数の溶質の剥離剤がMEA(Monoethylamine、モノエチルアミン)とDMSO(Dimethyl sulfoxide、ジメチルスルホキシド)である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1の発明において更に、前記複数の溶質の剥離剤がMEAとBDG(Butyldiglycol、ブチルヂグリコール)である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項2又は3の発明において更に、前記特定物性量が静電容量である。
【発明の効果】
【0010】
被測定溶液としての剥離液中の少なくとも剥離剤(例えばMEAとDMSO)を含む、各種多成分溶液毎に、該溶液の温度(T)と、静電容量(A)等の、特定物性量(α…αn-1)と、超音波の伝播速度(V)と、各溶質の濃度(D1…Dn)との関係を示す関数D1=F1(V,T,α1…αn-1)…Dn=Fn(V,T,α1…αn-1)が予め定められ記憶部に記憶される。しかして、温度検出器、特定物性量検出器にて被測定溶液の温度(T)、特定物性量(α…αn-1)を検出するとともに、速度演算部にて超音波の伝播速度(V)を演算し、それら検出結果と演算結果を前述の関数に代入処理することにより、各溶質の濃度(D1…Dn)を確実かつ容易に測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は剥離装置を示す模式図、図2は剥離液濃度測定装置を示すブロック図、図3はセンサを示す正面図、図4は超音波の送受波状態を示す波形図、図5は剥離液濃度測定装置の作動を示す流れ図、図6は剥離液濃度測定装置の演算原理を示す線図である。
【実施例】
【0012】
剥離装置100は、図1に示す如く、液晶の表面に塗布したフェノール樹脂等のレジストを、剥離剤としてのMEAとDMSOを溶解させた剥離液で剥離する。剥離装置100は、調合タンク110の剥離液をノズル101Aから液晶の表面に吐出する。剥離装置100は、剥離液中に混入した被剥離物質としてのレジストを循環タンク101内で除去し調合タンク110に供給する。循環タンク101内で除去されたレジストを含む剥離液は連続廃液111される。
【0013】
剥離装置100は、調合タンク110の剥離液のMEAの濃度D1、DMSOの濃度D2を計測するための剥離液濃度測定装置10を備える。調合タンク110では、剥離液濃度測定装置10の計測結果に応じて、補充液A121Aの新規MEA、補充液B121Bの新規DMSOを補填し、調合タンク110〜ノズル101AのTMAH濃度を一定に制御する。
【0014】
以下、剥離液濃度測定装置10の構成について説明する。
剥離液濃度測定装置10は、溶媒に少なくともMEAとDMSOを含む、複数(n)の溶質を溶解してなる多成分溶液における各溶質の濃度を測定するものであり、演算装置11(図2参照)と、センサ12(図3参照)とを有してなり、演算装置11には表示器13を付帯的に備えている。
【0015】
センサ12は被測定溶液1に投入されて用いられる。
センサ12は、超音波送波器と超音波受波器を兼ねる超音波送受波器(振動子)14と反射板15とを備える。超音波送受波器14から被測定溶液1に送出された超音波は、被測定溶液1を伝播するとともに反射板15で反射されて超音波送受波器14により受信される。
【0016】
また、センサ12は、サーミスタからなる温度検出器16を備え、被測定溶液1の温度(T)を検出する。
【0017】
更に、センサ12は、被測定溶液1に溶解されている各溶質の濃度及び被測定溶液の温度(T)により上記伝播速度(V)とはそれぞれ独立に影響を受ける(n−1)種類の特定物性量(α…αn-1)であり、かつ各溶質の濃度及び被測定溶液の温度により互いに独立に影響を受ける(n−1)種類の特定物性量(α…αn-1)を検出する特定物性量検出器を備える。被測定溶液1が例えば2つの溶質を溶解してなるもの(例えばMEAとDMSOとレジストの水溶液)であれば、センサ12は、1種類の特定物性量、例えば静電容量Aを検出する静電容量検出器17を備える。
【0018】
演算装置11はシングアラウンド部18、温度計測部19、特定物性量計測部の一例としての静電容量検出器20、入出力部21、CPU22、ROM23、RAM24を備える。
【0019】
超音波送受波器14の検出量はシングアラウンド部18、入出力部21を経てCPU22に転送され、速度演算部としてのCPU22にて超音波の伝播速度(V)が演算され、演算された速度データ(V)はRAM24に格納される。シングアラウンド方式は超音波バーストを送信し反射波を受信してからτ0秒後に再度送信し、その反射波を受信してからτ秒後に送信を行なうというくり返しを行なって超音波の伝播速度(V)を測定する方式である。図4のAは送信波、Bは受信波である。任意の送信時点から(k+1)回の送信が行なわれるまでの時間をt(図4のC参照)とし、演算によって得られたP=t/kをデータPとすれば、伝播速度Vは次式で与えられる。
【0020】
V=2L0/(P−τ0
【0021】
ここで、L0は超音波送受波器14と反射板15との距離である。τ0、L0はτ0設定部25、L0設定部26にて初期設定される。
【0022】
温度検出器16が検出した被測定溶液1の温度データ(T)は温度計測部19、A/D変換部27、入出力部21を経てRAM24に格納される。
【0023】
静電容量検出器17が検出した被測定溶液1の静電容量データ(A)は静電容量計測部20、A/D変換部28、入出力部21を経てRAM24に格納される。
【0024】
演算装置11のROM23は、本発明の記憶部を構成し、被測定溶液1の温度(T)、前述の特定物性量(α…αn-1)と超音波の伝播速度(V)と各溶質の濃度(D1…Dn)との関係を示す下記の関数を記憶している。
【0025】
1=F1(V,T,α1…αn-1) …(1)
【0026】
n=Fn(V,T,α1…αn-1) …(2)
【0027】
以下、MEAの濃度D1、DMSOの濃度D2の演算手順について説明する。
(A)MEAの濃度D1とDMSOの濃度D2
被測定溶液1が2つの溶質MEA、DMSOを溶解してなるものであり、特定物性量として静電容量Aを選定する場合には、剥離液中における炭酸塩の影響を考慮しないMEAの濃度D1と、DMSOの濃度D2は以下の如くになる。
【0028】
1=F1(V,T,A) …(3)
【0029】
2=F2(V,T,A) …(4)
【0030】
上記関数は多次多項式にて表わすことができる。多次多項式を何次の項まで利用するかは濃度測定の要求精度にて定められる。
【0031】
MEAとDMSOの2成分を溶質とする水溶液について、それぞれの溶質に対して各27の計54の未知の定数C(1)〜C(54)を含む多次多項式を設定すれば例えば以下の如くになる。
【0032】
1=F1(V,T,A) …(5)
=(C1+C2T+C3A+C4TA+C5T2+C6A2+C7T2A+C8TA2+C9T2A2
+(C10+C11T+C12A+C13TA+C14T2+C15A2+C16T2A+C17TA2+C18T2A2)V
+(C19+C20T+C21A+C22TA+C23T2+C24A2+C25T2A+C26TA2+C27T2A2)V2
【0033】
D2=F2(V,T,A) …(6)
=(C28+C29T+C30A+C31TA+C32T2+C33A2+C34T2A+C35TA2+C36T2A2
+(C37+C38T+C39A+C40TA+C41T2+C42A2+C43T2A+C44TA2+C45T2A2)V
+(C46+C47T+C48A+C49TA+C50T2+C51A2+C52T2A+C53TA2+C54T2A2)V2
【0034】
上記多次多項式の定数C(1)〜C(54)は以下の如くして決定される。即ち、MEAとDMSOの2成分を溶質とする溶液において、MEAの濃度(D1)20〜30wt%、DMSOの濃度(D2)60〜70wt%、温度(T)30〜80℃の組合せにつき、表1の如く、溶液中の超音波の伝播速度Vと静電容量Aを測定する。上記温度(T)、速度(V)、静電容量(A)の測定は後述するように、本発明の測定装置10を用いて行なうことができる。
【0035】
表1に示したD1、D2、T、V、Aの組合せを少なくとも27組(本実施例では54組)用意し、各組のデータを前記(5)、(6)式に代入して、定数C(1)〜C(54)を未知数とする27元連立方程式を解くことにより、表2に示すように各定数C(1)〜C(54)を決定することができる。この定数C(i)をROMライタにて演算装置11のROM23に記憶させることとなる。尚、ROMライタは各D1、D2、T、V、Aから各定数C(i)を算出し検算し(上記C(i)の算出に用いないD1、D2、T、V、Aによる)各C(i)が適正な場合にのみROM23に記憶させる。
【0036】
しかして、本発明の濃度演算部としてのCPU22は、2つの溶質MEAとDMSOとが溶解されてなる溶液(剥離液)の濃度を以下の如くして演算する。即ち、CPU22は、超音波送受波器14の検出量に基づいて演算された超音波の伝播速度(V)、温度検出器16が検出した温度(T)、静電容量検出器17が検出した静電容量(A)のそれぞれを、前述の(1)、(2)式具体的には例えば(5)、(6)式に代入することにより、MEAの濃度D1とDMSOの濃度D2を演算する(図6(A)参照)。
【0037】
演算装置11はファンクション設定部29を備えている。ファンクション設定部29は、演算装置11の動作を設定するものであり、(1)超音波の伝播速度Vのみを測定表示するモード、(2)温度Tのみを測定表示するモード、(3)特定物性量(α…αn-1)例えば静電容量Aを測定表示するモード、(4)濃度D1、D2を演算表示するモードを設定する。ファンクション設定部29の設定にて得られる測定結果、演算結果は、表示器13に表示され、或いは出力部30からデジタル出力又はアナログ出力として外部に取り出される。表示器13と出力部30は本発明の出力装置を構成し、これらの出力は剥離装置100の剥離剤(MEAとDMSO)濃度制御情報等として利用できる。
【0038】
以下、上記濃度測定装置10によりMEAとDMSOと2成分を溶質とする水溶液(剥離液)の濃度を測定する手順について説明する(図5参照)。演算装置11のτ設定部25、L0設定部26にて前述のτ0、L0を設定するとともに、ファンクション設定部29をいずれかの測定/演算モードに設定する。
【0039】
(1)音速演算モードにては、音速処理サブルーチンが作動し、被測定溶液1(剥離液)における超音波の伝播速度(V)が前述の如くして演算され出力される。
【0040】
(2)温度測定モードにては、温度処理サブルーチンが作動し、被測定溶液1の温度(T)が前述の如くして測定され出力される。
【0041】
(3)静電容量測定モードにては、静電容量処理サブルーチンが作動し、被測定溶液1の静電容量(A)が前述の如くして測定され出力される。
【0042】
(4)濃度演算モードにては、上記(1)〜(3)の各サブルーチンにて得られたデータが利用され、前述の如くROM23に記憶されている関数からMEAの濃度D1、DMSOの濃度D2が演算され出力される。
【0043】
尚、本発明では、剥離液における超音波の伝播速度Vと、剥離液の温度Tと、静電容量Aのそれぞれを、下記(7)〜(8)式に代入することにより、剥離液の溶質であるMEAの濃度D1、DMSOの濃度D2を演算することもできる。
【0044】
1=F1(V,T,A) …(7)
【0045】
2=F2(V,T,A) …(8)
【0046】
剥離装置100は剥離剤としてMEAとBDGを溶解させた剥離液を用いることもできる。このとき、剥離液濃度測定装置10は、前述のMEAの濃度D1とDMSOの濃度D2を演算したと同様の手順で、MEAの濃度D1とBDGの濃度D2を演算できる。
【0047】
即ち、表3に示したD1、D2、T、V、Aの組合せを少なくとも27組(本実施例では45組)用意し、各組のデータを前記(5)、(6)式に代入して、定数C(1)〜C(54)を未知数とする27元連立方程式を解くことにより、表4に示すように各定数C(1)〜C(54)を決定することができる。そして、本発明の濃度演算部としてのCPU22において、超音波送受波器14の検出量に基づいて演算された超音波の伝播速度(V)、温度検出器16が検出した温度(T)、静電容量検出器17が検出した静電容量(A)のそれぞれを、前述の(1)、(2)式、具体的には例えば(5)、(6)式に代入することにより、MEAの濃度D1とBDGの濃度D2を演算する(図6(B)参照)。
【0048】
本発明によれば、剥離液中の剥離剤の濃度を、リアルタイムで正確に計測できるので、液晶生産工程、半導体生産工程等の工業プロセスにおいて広く適用できる。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は剥離装置を示す模式図である。
【図2】図2は剥離液濃度測定装置を示すブロック図である。
【図3】図3はセンサを示す正面図である。
【図4】図4は超音波の送受波状態を示す波形図である。
【図5】図5は剥離液濃度測定装置の作動を示す流れ図である。
【図6】図6は剥離液濃度測定装置の演算原理を示す線図である。
【符号の説明】
【0054】
10 剥離液濃度測定装置
11 演算装置
13 表示器
14 超音波送受波器
16 温度検出器
17 静電容量検出器
22 CPU(速度演算部、濃度演算部)
23 ROM(記憶部)
30 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に溶解された少なくとも剥離剤を含む複数(n)の溶質の各濃度(D1…Dn)を測定する剥離液濃度測定装置であって、被測定溶液に超音波を送波する超音波送波器と、被測定溶液中を伝播した超音波を受波する超音波受波器と、超音波の伝播時間と伝播距離から伝播速度(V)を演算する速度演算部と、被測定溶液の温度(T)を検出する温度検出器と、各溶質の濃度及び被測定溶液の温度により上記伝播速度とはそれぞれ独立に影響を受ける(n−1)種類の特定物性量(α1…αn-1)であり、且つ各溶質の濃度及び被測定溶液の温度により互いに独立に影響を受ける(n−1)種類の特定物性量(α1…αn-1)を検出する特定物性量検出器と、被測定溶液の温度(T)、上記特定物性量(α1…αn-1)と超音波の伝播速度(V)と各溶質の濃度(D1…Dn)との関係を示す関数D1=F1(V,T,α1…αn-1)…Dn=Fn(V,T,α1…αn-1)を予め記憶している記憶部と、前記温度検出器の出力(T)と特定物性量検出器の出力(α1…αn-1)と速度演算部の出力(V)から、前記関数に基づいて各溶質の濃度(D1…Dn)を演算する濃度演算部と、濃度演算部の演算結果を出力する出力装置とを有してなる剥離液濃度測定装置。
【請求項2】
前記複数の溶質の剥離剤がMEAとDMSOである請求項1に記載の剥離液濃度測定装置。
【請求項3】
前記複数の溶質の剥離剤がMEAとBDGである請求項1に記載の剥離液濃度測定装置。
【請求項4】
前記特定物性量が静電容量である請求項2又は3に記載の剥離液濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−155559(P2007−155559A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352701(P2005−352701)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(591125544)山本電機インスツルメント株式会社 (6)
【出願人】(000237396)富士工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】