説明

加工装置、および、加工具と被加工物の距離補正方法

【課題】回転刃の刃先と被加工物の高さ方向の距離を正確に補正する。
【解決手段】ルータビット43と、多軸ロボット3と、接触式変位計7と、レーザ変位計8と、高さ補正部とを有する。多軸ロボット3は、ルータビット43を軸回転させ、被加工物100に対して移動させる。接触式変位計7は、多軸ロボット3がルータビット43の刃先を変位計測面7Aに上から押し当てたときに生じる変位を計測する。レーザ変位計8、変位計測面7Aと被加工物100の相対的な高さを計測する。高さ補正部は、接触式変位計7とレーザ変位計8の計測結果に基づいて、ルータビット43の刃先と被加工物100との高さを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状の回転刃によって被加工物の穴あけ、切削が可能な加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
棒状の回転刃を用いた加工装置が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1に記載の加工装置は、ドリル等の回転刃を用いてプリント基板に穴あけを行う装置である。この穴あけに際して、ドリル等の回転刃を当てる基板面の裏面に予めマークを形成しておき、そのマークをカメラで撮像して基板を、刃先に対してX−Y平面内に動かすことで、刃先が当たる位置を基板面内で制御する。
【0004】
特許文献2に記載の加工装置は、複数の径の工具(回転刃)を自動で交換し、プリント基板の穴あけを行う装置である。このとき現在の工具の径を光学的に測定する。具体的には、光ファイバーからの光を工具に当てて工具を1回転したときに受光センサから得られる出力から、工具の径を確認する。
【0005】
特許文献3に記載の加工装置は、プリント基板を、スピンドル(回転刃)を用いて分割する装置である。
特許文献3の加工装置は、種々の板厚のプリント基板に対応するため基板の厚さを測定するセンサを有している。図から推測すると、このセンサは、プリント基板の厚さ方向両側からレーザ変位計等で光学測定を行って板厚を測定する。また、特許文献3に記載の加工装置は、片面からレーザ変位計でレーザを照射し、分割した基板の大きさも測定するようになっている。
【特許文献1】特開平06−79698号公報
【特許文献2】特開2001−87992号公報
【特許文献3】特開平11−114894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1〜3に記載の加工装置は、その何れも、回転刃を用いているが、板状の被加工物に貫通穴を連続して形成し、あるいは形成した貫通穴を広げることによって、貫通穴を広げて被加工物を分割する装置である。
【0007】
一方、穴あけに用いる回転刃より径が小さい回転刃を用いて、プリント基板に実装された部品を削り取る作業を行いたい場合がある。
以下、加工対象物に貫通する穴をあけ、あるいは分割するなど、回転刃の刃先で粉砕しながら加工対象物自体を加工することを、特に“エンドミル加工”と呼ぶ。
一方、加工対象物に実装された部品を削りとる作業や、加工対象物の表面層を削り取る作業は、加工対象物に対し何らかの加工を施すという意味ではエンドミル加工と大差ない。しかし、これらの作業は、エンドミル加工と異なり、加工対象物の形状を大きく変化させるものではなく、トリミングに近いデリケートな作業である。この作業は、農作業の根起し機(ルータ)を連想させるため、以下、特に“ルータ加工”と呼ぶ。
【0008】
ルータ加工の場合、基板平面と平行なX−Y座標における刃先位置のみならず、刃先先端がプリント基板の表面に対してどのように動くかの高さ方向(Z軸方向)の刃先制御が重要である。また、どの方向の刃先制御でも非常に精密な刃先移動の精度を要求される。
しかし、上記特許文献1〜3などのエンドミル加工は知られているが、ルータ加工において、被加工物に対する高さ方向の刃先制御の校正手法やその校正のための手段は殆ど知られていない。
【0009】
本発明は、回転刃の刃先と被加工物の高さ方向の距離を正確に補正できる加工装置を提供するものである。また、本発明は、加工具と被加工物との正確な距離補正方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に関わる加工装置は、棒状の回転刃と、機構部と、接触変位計と、高さ計測計と、高さ補正部とを有する。
前記機構部は、前記回転刃を軸回転させ、被加工物と前記回転刃との相対位置を移動させる。
前記接触変位計は、変位計測面を有し、前記機構部によって前記回転刃の刃先を前記変位計測面に上から押し当てたときに生じる変位を計測する。
前記高さ計測計は、前記接触変位計の前記変位計測面と前記被加工物の位置との相対的な高さを計測する。
前記高さ補正部は、前記接触変位計と前記高さ計測計の計測結果に基づいて、前記回転刃の刃先と前記被加工物との高さを補正する。
【0011】
上記構成によれば、接触変位計によって、回転刃の刃先が機構部の移動において位置計測される。また、刃先が接触する接触変位計の面(変位計測面)と被加工物の相対的な高さが、高さ計測計により計測される。したがって、この2つの計測計による計測結果から、刃先と被加工物との距離(高さ)は容易に求まる。この計測では、刃先の実際の位置を、接触という物理的手法で計測している。
【0012】
本発明では、好ましくは、前記高さ計測計は、前記変位計測面に対するレーザ照射により第1の高さを測定する。また、前記高さ測定計は、前記被加工物の位置の基準となる所定の基準面に対するレーザ照射により第2の高さを測定する。当該高さ計測計は、差分が前記相対的な高さとなる前記第1および第2の高さを前記高さ補正部に出力する。
【0013】
この好ましい構成によれば、差分が前記相対的な高さとなる第1の高さと第2の高さを、レーザを用いる同一の非接触測定計(高さ測定計)によって測定する。よって、当該高さ測定計では、測定誤差がほとんど発生しない。
【0014】
本発明に関わる他の加工装置は、前記棒状の回転刃と、前記機構部と、前記接触変位計と、前記高さ計測計とを有する。また、当該加工装置は、前記接触変位計と前記高さ計測計の計測結果に基づいて、与えられる個々の高さ方向の加工データに対して、前記回転刃の刃先と前記被加工物の被加工部位との高さに関するオフセット補正を行うデータ補正部を有する。
【0015】
この他の加工装置によれば、回転刃の刃先と被加工物との相対的な高さを補正する代わりに、この相対的な高さに関するオフセット補正を、加工時に入力される個々の加工データに対して行う。
【0016】
本発明に関わる、加工具と被加工物の距離補正方法は、加工具を、ゲージに刃先から押し当てて被加工物に近づく方向に移動させたときの刃先の変位を前記ゲージで計測する第1計測のステップと、前記加工具の刃先を押し当てた前記ゲージの面と、前記被加工物の基準面との距離を測定する第2計測のステップと、前記第1計測と前記第2計測との計測結果に基づいて、前記加工具の刃先と前記被加工物の基準面との距離を補正する補正ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、回転刃(加工具)の刃先と被加工物の高さ方向の距離を正確に補正できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、プリント基板のルータ加工装置を例として図面を参照して説明する。
【0019】
<ワーク部構成>
図1に、装置のワーク部分の簡略化された斜視図を示す。
図1に図解する加工装置1は、基台(ベース)としての装置本体2と、多軸ロボット3と、多軸ロボット3によって装置本体2に対し3軸移動されるルータ4とを有する。
装置本体2には、Y軸に沿って長い2つのY軸レール21が、装置本体2の上面の対向する辺に沿って配置されている。2つのY軸レール21の対向間隔内に位置する装置本体2の上面部分に、基板ステージ22が設けられている。基板ステージ22上に“被加工物100”としてのプリント基板が固定されている。
【0020】
多軸ロボット3は、ロボット本体31と、ロボット本体31に設けられX軸に沿って長い1つのX軸レール32と、X軸レール32に沿ってX軸方向に移動するルータベース33とを有する。
ルータベース33にルータ4が取り付けられている。本例の場合、ルータ4は、3連のヘッド4A,4B,4Cを有する。各ヘッドは、筒状のヘッド胴体41の下面にチャック42が形成され、チャック42に、“回転刃”としてのルータビット43が取り付けられている。各ヘッドのヘッド胴体41内に、ルータビット43を高速回転させる動力としてモータが内蔵されている。
また、ルータベース33は、3連のヘッド4A〜4Cを独立にZ軸方向に移動させる機構を有している。
【0021】
ルータビット43として、ヘッドごとに径や硬度などが異なるものを装着できる。また、ヘッド胴体41内のモータは、ヘッドごとに独立に回転数制御ができる。この独立した回転数制御が可能となっている理由は、ルータビット43の径や硬度が異なれば、その径や硬度のルータビット43に適した回転数範囲が存在するからである。
図1に示す加工装置1は、所定のアルゴリズムに沿って、用いるヘッドを自動で切り替えながらの連続作業が可能である。そのときルータビット43の径や硬度がヘッドごとに異なっており、対応するルータビット43に適した回転数範囲でヘッドが回転制御を行う。
【0022】
ルータビット43は、加工作業の種類に応じて変更可能である。
例えば図2(A)に示すルータ加工用、図2(B)に示すエンドミル加工用の何れもルータビット43として用いることができる。特にルータ加工用のルータビット43は、その刃先が、尖って破損しやすい形状となっている。この刃先でプリント基板の部品、または、その部品の半田接合部等を狙って削り取る。このため、刃先位置を、加工対象の半田接合部などに適度に当てる制御が必要である。したがって、少しでも破損していたら部品の削り取りが十分にできない。そうかといって、削り取りが十分にできるようにルータビット43の刃先を部品の接合部等に過度に当てると、破壊してはならない基板自体や配線、配線の保護レジストなどを破損する可能性が高くなる。よって、刃先の破損状況が加工精度や仕上がり具合に直接影響するため、ルータ加工では刃先管理の重要性がエンドミル加工に比べて極めて高い。
【0023】
図1に示す加工装置1は、3つのヘッド4A〜4Cの1つが実際の作業に用いられる。図1は、ヘッド4Cが作業に用いられるときの校正時の様子を示している。
図1には特に図示していないが、ルータビット43の刃先周辺の作業スペースはケースなどのカバーで覆われる。これは、作業により粉塵が発生するが、粉塵が作業者側に飛散しないようにするためである。
図1に符号10により示すダクトホースは、このケース内を吸引するために設けられている。また、図1には特に図示していないが、ダクトホース10を介してケース内を吸引して粉塵を集める集塵機が設置されている。
【0024】
このほか、装置本体2上には様々な計測、校正あるいは刃先状態検出のための機器、器具が配置されている。
加工装置1は、計測・校正のための構成として、水平校正時に用いられるカメラユニット5と照明ユニット6、ならびに、垂直校正時に用いられる接触式変位計7とレーザ変位計8を有している。レーザ変位計8は、「高さ計測計」の実施例に該当する。
加工装置1は、刃先状態検出のための構成として、画像センサ9、および、接触式変位計7とレーザ変位計8を有している。
以下、これらの機器、器具と、その作用(校正動作等)を、水平校正、垂直校正、刃先状態検出の順に説明する。
【0025】
<水平校正>
最初に、水平校正時に用いられるカメラユニット5と照明ユニット6を説明する。
図1は、作業に供せられるヘッド4Cのルータビット43を用いてX−Y座標上のルータビット43と被加工物100との相対位置を補正している様子を示す。この補正を“水平校正”と呼ぶ。水平校正は、図示のように、互いに連結されたカメラユニット5と照明ユニット6のうち、照明ユニット6のほぼ中心に対して、ルータビット43と被加工物100を上下に位置させる。
【0026】
図3は、照明ユニット6の詳細な断面を、ヘッド4Cおよび被加工物100とともに示す図である。
図3において、被加工物100または所定の校正標準器には、ターゲットマークTMが形成されている。通常は、“レチクル”と呼ばれる校正標準ガラス板が用いられる。レチクルには周囲のガラス材と撮影時の濃淡がはっきりとするような反射率のターゲットマークTMが形成されている。ターゲットマークYMは、描画によりパターンニングされたもの、あるいは、ルータで溝加工して形成したものを用いる。
【0027】
レチクルは、図1に示す基板ステージ22に対して固定される。この状態でレチクルとルータビット43との相対位置をX−Y平面内で補正すれば、被加工物100が基板ステージ22に保持されたときにも、ルータビット43との相対位置が維持される。つまり、基板ステージ22の保持機構による誤差はほとんど導入されない。
【0028】
照明ユニット6は、ユニット本体61の厚さ方向(上下の方向)を貫き、かつ、カメラユニット5側に連通する空間が、ユニット本体61に形成されている。
ユニット本体61の上部開口の周囲にリング照明62Aが配置され、ユニット本体61の下部開口の周囲にリング照明62Bが配置されている。
また、ユニット本体61の内部空間には、幾つかの反射部品(ミラーやハーフミラー)63が配置されている。
【0029】
ユニット本体61の内部空間がカメラユニット5と連通する先には、カメラユニット5が有するレンズ52とカメラ51とが配置されている。
図3の場合、ルータビット43側の画像(光)は、ミラーで1回曲げられてレンズ52を介してカメラ51で撮像される。一方、ターゲットマークTM側の画像(光)は、ミラーやハーフミラーで3回曲げられてレンズ52を介してカメラ51で撮像される。
この2つの画像はカメラ51の撮像面で重ねられて1つの撮影像を形成する。
【0030】
この撮影像は、画像認識により自動で、または、モニタを通した作業者によって、ルータビット43とターゲットマークTMの2つの像について、その重なり具合が確認され、修正される。手動の場合、作業者がモニタを見ながら、移動量と移動方向を入力すると、ヘッド4Cかレチクルの一方または双方が移動する。重なり具合の確認と移動量および移動方向の入力との繰り返しによって、2つの像が重ねられる。
【0031】
このときレンズ52は、ルータビット43の刃先に正確にフォーカッシングする必要がある。しかし、人が刃先かどうかを画像を見て確認するのは手間がかかり、精度も低い。本実施形態では、詳細は後述するが、高さ補正時の計測値を用いて、この刃先への自動フォーカス合わせを行うことが望ましい。
【0032】
<垂直校正>
図1に示す接触式変位計7は、装置本体2の上面(ベース面)に対して位置が固定され、高さ(Z軸)方向の変位が絶対値で測定できるゲージの一種である。接触式変位計7のヘッド頂上面が、「変位計測面7A」となっており、この変位計測面7Aを有するヘッドを下方に押し込むことが可能になっている。このとき接触式変位計7は変位を計測する。接触式変位計7は、外部からの力が開放されると元に戻るように上方に向けた力でヘッド等が付勢されている。
接触式変位計7は、ルータビット43の刃先の変位を計測する。
【0033】
たとえば、ルータビット43の刃先を接触式変位計7の変位計測面7Aに当ててから押し込むとする。このときルータビット43は多軸ロボット3等の「機構部」で移動されているため、移動量自体は、ある移動データに基づいて決められる。そして、高さ(Z軸)方向の移動量(座標変位)に対して、実際に刃先が移動した物理的な変位が接触式変位計7によって計測される。この両者の関係がわかると、加工データが与えられたときに、その加工データに基づいて所定量だけZ軸方向へ移動したときの刃先の正確な位置や移動量がわかる。
しかし、この時点では、接触式変位計7のゲージ面(変位計測面7A)という、被加工物100に対しては未知の位置にある面を用いた補正であるため、刃先の被加工物100に対する位置までは分からない。
【0034】
レーザ変位計8は、変位計測面7Aと被加工物100との相対的な高さを求める計器である。
ここでレーザ変位計8は、たとえばルータベース33に下向きに固定され、多軸ロボット3(機構部)によって自由に測定箇所が変えられるようになっている。
レーザ変位計8は、接触式変位計7までの高さ方向の距離を求める。また、レーザ変位計8は、被加工物100までの距離を求める。なお、被加工物100が有する面を直接測定すると、基準としては一定でない場合があるので、ここではレーザ変位計8が、「被加工物の位置」を代表する面として望ましい基板ステージ22の上面までの距離を計測する。
この2回の計測で得た計測値の差が、変位計測面7Aと被加工物100との「相対的な高さ」に相当する。
【0035】
なお、後述するように、この接触式変位計7とレーザ変位計8を用いた「相対的な高さ」の測定でも誤差が完全にゼロでない場合がある。その場合、「相対的な高さ」の補正後に行った加工によって形成された加工面から、「相対的な高さ」の補正にフィードバックをかけてもよい。
【0036】
<刃先磨耗検出>
刃先の磨耗具合の検出は、種々の方法で可能である。
まず、カメラユニット5の画像でも磨耗具合は視認できる。
また、接触式変位計7とレーザ変位計8を用いた「相対的な高さ」の測定で誤差が大きい場合、つまり、「相対的な高さ」の補正にフィードバックが大きくかかるような場合は「磨耗」と判断できる。
さらに、加工装置1は、ルータビット43の刃先の径方向磨耗を観測するために画像センサ9を有する。画像センサ9は、凹部の一方壁面から他方壁面にビームが出射され、他方壁面内の受光部でビームの受光と非受光が検出される。ルータビット43を動かしながら、この受光状態の変化を観測すると、ルータビット43の径が正確に測定できる。
【0037】
<ブロック構成>
つぎに、ワーク部を含めた装置全体のブロック構成を説明する。
図4は、図1に示し既に説明した構成も含む、加工装置1のブロック図である。
【0038】
加工装置1は、機構部を有する。機構部には、既に説明した多軸ロボット3を含む。多軸ロボット3は、ヘッド胴体41内に収容されているルータ回転のためのモータ等を含む。
機構部は、その他に、図1のカメラユニット5および照明ユニット6を3軸移動させ、あるいは、実作業時には退避させるためのカメラ移動部11を有する。カメラ移動部11の近くには、リング照明62A,62Bが設けられている。
機構部は、さらに、その他のセンサやスイッチなどの機械的制御のための部分12を含む。
【0039】
加工装置1は、図1のダクトホース10に接続される集塵機13を有する。
【0040】
図1では図示しないパーソナルコンピュータ(PC)等を用いた制御処理部1Aを有している。制御部内には、モータコントロール部14、画像処理部15、調光器16、入出力部17などを有する。これらが実際の回路であってもよいし、プログラムに基づくPCの実行タスクやルーチンとして実現してもよい。
モータコントロール部14は、多軸ロボット3やカメラ移動部11に対して制御と動力を供給する。
画像処理部15は、カメラ移動部11に近いカメラユニット5からの画像を処理する。
調光器16は、リング照明62A,62Bをオン、オフし、その照度を調整する。
入出力部17は、PCへの入出力を扱うため、他の機器すべてに接続されている。この接続バスには、レーザ変位計8、接触式変位計7、画像センサ9も接続され、PC内へ計測値等を取り込むことができる。
【0041】
<高さ補正部>
制御処理部1Aは、特に図示しないが、「高さ補正」の機能を有する。この機能は、プログラムに基づくPCの実行タスクやルーチンとして実行される。したがって、制御処理部1Aは「高さ補正部」を実質的に有する。
【0042】
高さ補正部は、接触式変位計7とレーザ変位計8との計測結果に基づいて、ルータビット43の刃先と被加工物100との高さを補正する部分である。このとき、高さ補正部は、多軸ロボット3からの座標変位を監視して、また、多軸ロボット3の座標原点や初期位置などに対して、求めた補正結果を付与する。
【0043】
たとえば、高さ補正部は、以下の処理を実行する。
(1)接触式変位計7の変位計測面7Aに、ルータビット43の刃先を押し当てたときに生じる多軸ロボット3の高さ方向の座標変位を監視する。
(2)変位計測面7Aが実際に高さ方向に移動するときの物理的な変位を接触式変位計7から取得する。
(3)入力した物理的な変位と座標変位とのずれを求める。
(4)求めたずれと、レーザ変位計8から入力する、変位計測面7Aと被加工物100(正確には、基板ステージ22の基準面)の相対的な高さとに基づいて、ルータビット43の刃先と被加工物100の高さ方向の距離補正量を求める。
(5)求めた補正量を多軸ロボット3に出力し、Z座標原点または初期位置(待機位置等)を補正する。
【0044】
<加工時処理フロー>
図5に、加工時処理フロー全体を示す。図6に、自動校正処理の詳細を示す。以下の処理は、主に、制御処理部1Aが、必要な各部を制御することにより実行する。
以下、ステップごとに説明する。
【0045】
図5のステップST0で初期化後に、図6に示す自動校正を行う。
自動校正では、ステップSTA0で初期化後のステップSTA1にて、レーザ変位計8が基板ステージ22の高さを測定する。また、レーザ変位計8が接触式変位計7の変位計測面7Aの高さを測定する。
ステップSTA2では、接触式変位計7によりルータビット43の刃先(ルータ底)の高さを測定する。
ステップSTA1とSTA2の順序は、この逆でもよい。
【0046】
ステップSTA3では、カメラフォーカス高さ補正(刃先のフォーカッシング)を行う。このとき、レーザ変位計8が計測した、刃先と基板ステージ22との高さを用い、さらに基板ステージ22からカメラユニット5までの相対位置から、目標となるフォーカス高さを自動で設定し、その設定した高さにまで一挙にフォーカス制御を遂行するする。このため、刃先に対するフォーカッシングが正確で非常に迅速である。
【0047】
また、ステップSTA3では、「高さ補正部」が、刃先と基板ステージ22との高さを計算し、その高さに応じて多軸ロボット3のZ軸移動原点や待機位置の補正を行う。この補正は「ルータフォーカス高さ補正」とも呼ばれる。
【0048】
ステップSTA4では、画像センサ9がルータビット43の径を測定する。
ステップSTA5では、カメラユニット5および照明ユニット6を用いて、ルータビット43とレチクルのターゲットマークTMとの像を撮像する。また、ステップSTA6では、撮像した2つの像が重なるように、多軸ロボット3のX−Y座標のオフセット補正を実行する。
以上で、自動校正が終了し、フローが図5のステップST2に進む。
【0049】
ステップST2では、ワーク対象物(被加工物100)を装着する。
次のステップST3で切削範囲が教示される。この切削範囲の教示は、例えば、オペーレータによる外部からの指示入力、外部の記憶装置等からの入力、または、PC内に予め保存されていたデータの読み出し等によって実行される。
また、カメラユニット5やレーザ変位計8によって、被加工物100(プリント基板)における、配線保護のためのレジスト高さを計測し、指示された加工部の高さを測定する。
ステップST4では、これらの測定データをもとに、制御処理部1Aが加工データを作成し、加工データを実行する。加工データの実行は、制御処理部1Aが機構部、特に多軸ロボット3を制御して、被加工物100に対して所望の加工を行う。このとき、必要に応じてヘッドを切り替え、回転数を制御し、時間を制御する。これにより、1つの加工物に対する加工処理が終了する。
【0050】
ステップST5では、レーザ変位計8によって、被加工物100の加工表面の高さを測定する。また、ステップST6では、その測定結果に基づいて、図6のステップSTA3で行った刃先と基板ステージ22との相対的な高さ補正に、再校正をかける。ステップST7では、この再校正時の補正量が所定の値より小さいかを判断する。補正量が小さいなら、刃先の破損ではないと判断し、ステップST9で目標とする加工形状が得られているかを目視やカメラにより確認する。ルータ加工の場合、所望の部品が削り取られて、その削り取った基板部分に大きな破損がないかを確認する。まだ、加工の途中の場合、このステップST9の判断がNGとなるので、ステップST4に戻りデータ実行、場合によってはデータ作成から履行する。
【0051】
所望の形状(部品の削り取り)が終了すると、ステップST9の判断がOKとなり、フローがステップST10に進む。
ステップST10で、その切削面をカメラユニット5により撮影する。制御処理部1Aは、ステップST11において、撮影画面を取り込み、予め撮っておいた理想的な切削面画像とパターンマッチングにより照合する。
ステップST12で照合率が高ければ処理を終了し、ある基準より低ければ、ステップST13で、ルータビットの交換警告を出してから処理を終了する。
【0052】
<変形例1>
上記説明では、ステップSTA3等で、多軸ロボット3のZ軸座標原点補正や待機位置補正を行うとした。これは、加工データに対して実際に行われる高さ方向の加工量が、所望の加工量とならないことを防止するためである。
ルータビットの刃先と基板ステージの高さ補正時の補正量に基づいて、各加工データそのものに対してオフセット補正を行っても、これと同じ効果が得られる。
よって、ステップSTA3で「ルータフォーカス高さ補正」を行わないで、その代わり、ステップST4でデータのオフセット補正を行ってもよい。
【0053】
以上の実施形態によれば、今までの説明で述べた効果に加えて、以下の効果を有する。
画像センサ9でルータビット43の外径を側面から計測し、カメラユニット5で撮影加工範囲を実際の画像位置で教示できる。このため、加工データ作成の自動化が可能である。また、切削対象物の形状に大きなバラツキがある場合、カメラ画像による特徴点教示によって柔軟な加工データ修正が可能である。
装置の要素部品に磨耗や腐食などの影響で再校正が必要な場合、自動校正時に相対位置関係が修正されるので、部品位置を精度調整する必要がない。
レーザ変位計8による基板のレジスト表面高さ計測(ST3)を複数点にすると、X−Y座標平面に対する被加工物100と基板ステージ22の平面平行度が計測できる。このため、高さ方向の勾配補正が可能である。
【0054】
さらに、加工装置1は、部品を実装したプリント基板の製作プロセスなどで、一部修正を行う用途に利用することができる。
加工装置1は、塗装や厚膜コーティング、接着剤の除去加工に利用できる。
加工装置1は、多面取り基板におけるNG基板差し替え用加工に利用できる。
加工装置1は、切削面の出来ばえをカメラで撮像した拡大画像やレーザ変位計で確認できるので、確認のためのワークの取り外しが不要である。
加工装置1は、レンズや照明が高倍率用や低倍率用のものを追加して視野切り替えすることが可能で視認性や操作性がよい。
加工装置1は、被加工物100の画像と加工プロセスデータを組み合わせるなど加工後のイメージを使用者に伝え易いシステムが実現可能である。
加工装置1は、ルータビットの変位変化から刃先の破損判定をして、作業者に交換案内を表示することが可能である。
さらに、加工装置1は、一般NC加工機への転用、3D造型機への転用が可能である。
【0055】
加工装置1は、従来のエンドミル加工に対するルータ加工の不利益(以下に列挙する5つの点)が、解消されている。
【0056】
第1に、特にルータビット先端がフィッシュテール形状刃の場合(図2(A))、レーザセンサや画像センサで先端高さを計測すると、反射や回折光の影響で測定誤差が大きくなる。このため、この測定値を利用して精度良い加工高さに仕上げることは難しい。またこのとき、加工途中でルータビットを交換した場合に、加工すべき残り高さを精度良く知ることができない。
【0057】
第2に、一般的なルータビット先端の高さを知る手法としては、被加工物上面に当たり加工をした後に高さ計測することでルータビットの先端高さを予測する方法が採られる。しかしこの手法では、残り加工高さが少ない場合には採用できない。また、特に一部破損したフィッシュテール形状刃のルータビットを破損に気づかず使用した場合などに表面粗さが増大するが、これを検出できずに削り過ぎてしまう場合があった。
【0058】
第3に、ルータビットの先端高さとこれを用いて加工した時の仕上り面高さの間には、加工条件や磨耗に起因するズレが発生するが、そのズレ量を精度良く補間することができない。
【0059】
第4に、ルータビットの半径方向の磨耗が高さ方向の加工品質に影響する場合がある。
【0060】
第5に、加工対象部の近くに「加工してもよいが硬い」という部分がある場合、この硬い部分を正確に避けて通らないとルータビットが磨耗・破損する。ルータビット中心と被加工部との位置関係を精度良く知ることができずにルータビットが急激に磨耗・破損して仕上り面品質が悪化する場合があった。
【0061】
本実施形態では、これらの点を解消して、ルータビット先端や基板の状態を計測・撮像して校正することで、加工品質や操作性を向上することを目的とした校正機能をもつ加工装置を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施形態に関わる加工装置のワーク部分の簡略化された斜視図である。
【図2】(A)はルータ加工用のフィッシュテール形状刃を示す図である。(B)はエンドミル加工用の回転刃を示す図である。
【図3】実施形態に関わる加工装置の照明ユニットの詳細な断面構造図である。
【図4】実施形態に関わる加工装置のブロック図である。
【図5】実施形態に関わる加工時処理の全体フロー図である。
【図6】実施形態に関わる自動校正処理の詳細フロー図である。
【符号の説明】
【0063】
1…加工装置、1A…制御処理部、1B…機構部、2…装置本体、22…基板ステージ、3…多軸ロボット、4…ルータ、41…ヘッド胴体、43…ルータビット、5…カメラユニット、6…照明ユニット、7…接触式変位計、7A…変位計測面、8…レーザ変位計、9…画像センサ、TM…ターゲットマーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の回転刃と、
前記回転刃を軸回転させ、被加工物と前記回転刃との相対位置を移動させる機構部と、
変位計測面を有し、前記機構部によって前記回転刃の刃先を前記変位計測面に上から押し当てたときに生じる変位を計測する接触変位計と、
前記接触変位計の前記変位計測面と前記被加工物の位置との相対的な高さを計測する高さ計測計と、
前記接触変位計と前記高さ計測計の計測結果に基づいて、前記回転刃の刃先と前記被加工物との高さを補正する高さ補正部と、
を有する加工装置。
【請求項2】
前記高さ計測計は、前記変位計測面に対するレーザ照射により第1の高さを測定し、前記被加工物の位置の基準となる所定の基準面に対するレーザ照射により第2の高さを測定し、差分が前記相対的な高さとなる前記第1および第2の高さを前記高さ補正部に出力する
請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記高さ補正部は、
前記機構部によって前記回転刃の刃先を前記変位計測面に上から押し当てたときに生じる当該機構部の高さ方向の座標変位を監視し、
前記変位計測面が実際に高さ方向に移動するときの物理的な変位を、前記接触変位計から入力し、
入力した前記物理的な変位と前記座標変位とのずれを求め、
前記高さ計測計から入力する、前記変位計測面と前記被加工物の位置との相対的な高さと、求めた前記ずれに基づいて、前記回転刃の刃先と前記被加工物の高さ方向の距離を、前記機構部の座標上で補正する
請求項1に記載の加工装置。
【請求項4】
前記被加工物はステージに固定され、
前記高さ計測計が、前記接触変位計の前記変位計測面と前記ステージの相対的な高さを計測する
請求項1に記載の加工装置。
【請求項5】
前記被加工物または校正基準に形成されたターゲットマークに対して、前記回転刃の刃先の位置を画像合成により重ねて表示するための撮像部を有し、
前記撮像部は、前記刃先に対するフォーカス補正を、前記高さ計測計の計測結果に基づいて行う
請求項4に記載の加工装置。
【請求項6】
棒状の回転刃と、
前記回転刃を軸回転させ、被加工物と前記回転刃との相対位置を移動させる機構部と、
変位計測面を有し、前記機構部によって前記回転刃の刃先を前記変位計測面に上から押し当てたときに生じる変位を計測する接触変位計と、
前記接触変位計の前記変位計測面と前記被加工物の位置との相対的な高さを計測する高さ計測計と、
前記接触変位計と前記高さ計測計の計測結果に基づいて、与えられる個々の高さ方向の加工データに対して、前記回転刃の刃先と前記被加工物の被加工部位との高さに関するオフセット補正を行うデータ補正部と、
を有する加工装置。
【請求項7】
加工具を、ゲージに刃先から押し当てて被加工物に近づく方向に移動させたときの刃先の変位を前記ゲージで計測する第1計測のステップと、
前記加工具の刃先を押し当てた前記ゲージの面と、前記被加工物の基準面との距離を測定する第2計測のステップと、
前記第1計測と前記第2計測との計測結果に基づいて、前記加工具の刃先と前記被加工物の基準面との距離を補正する補正ステップと、
を含む、加工具と被加工物の距離補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−64203(P2010−64203A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233772(P2008−233772)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】