説明

加工豆類およびその製造方法

【課題】十分に均質に細胞化させた加工豆類を得ることができる新規な加工豆類の製造方法、当該方法により得られる加工豆類、および当該加工豆類の用途を提供する。
【解決手段】本発明にかかる加工豆類の製造方法は、酵素処理および/または熱処理された豆類を均質化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素処理や熱処理を施す加工豆類の製造方法、および加工豆類に関する。
【背景技術】
【0002】
豆類は、天然イソフラボン、サポニン、レシチンおよびペプチド等の成分に加えて、良質のタンパク質やビタミン成分をも含む、優れた食品素材である。例えば、天然イソフラボンは、女性ホルモンに似た作用(代替機能)を有しており、体内のカルシウムの溶出損失を抑制し、急増する骨粗しょう症の予防に有効であることが注目されており、さらに、更年期障害や癌に対しても改善効果や予防効果があると考えられている。また、サポニン、レシチンおよびペプチドは、コレステロールの低減効果や抗酸化作用等を有し、生活習慣病(成人病)の予防に効果があるとして注目されている。このような豆類の中でも、特に大豆は、ミラクルクロップと称され、タンパク質、脂質(リノール酸およびリノレン酸等)および糖質をバランス良く含むと共に、ビタミン類を豊富に含む、極めて優れた素材として知られている。
【0003】
一方、豆類は、その表皮組織が硬いため、これまで食品分野への利用に当たっては、消化吸収効率を高める等のため、機械的にすり潰したり粉砕したりして用いられるのが一般的であった。ところが、このような方法では、利用効率(歩留まり)が低いことや、細胞破壊によりリポキシゲナーゼ等が豆類独特の不快臭(ヘキサナールやヘキサノール等)を発生させること、あるいは、前述した各種成分が変質・溶出してしまい、得られる食品において当該成分の含有量が減少すること等が問題となっていた。そこで、本発明者は、これら問題を一挙に解決し得る方法として、ペクチナーゼやセルラーゼ等の特定の酵素を用いた酵素処理を施すことで豆類(大豆)を分解し細胞化するという、今までとは大きく異なる方法によって、従来の機械的粉砕等を行わずに、液状(スラリー状)または粉状の加工豆類を得る有用な方法を見出し、すでに提案している(特許文献1,2参照。)。
【特許文献1】国際公開第WO01/10242号パンフレット
【特許文献2】特許第3256534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記方法は、いずれもまだ、近年の食品業界における技術水準の高度化および産業界や需要者側からの要請等を考慮すると、豆類を十分に均質に(均一な粒径となるように)細胞化できる方法とは言えず、より一層均質に細胞化させ得る加工豆類の製法の開発が強く望まれていた。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、十分に均質に細胞化させた加工豆類を得ることができる新規な加工豆類の製造方法、当該方法により得られる加工豆類、および当該加工豆類の用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、酵素処理、熱処理、またはこれらを組み合わせた処理を施した豆類に対し、均質機を用いて均質化処理を施すようにすれば、驚くべきことに、従来の方法では達成し得なかった高水準の均質さで豆類を細胞化することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1) 酵素処理および/または熱処理された豆類を均質化することを特徴とする、加工豆類の製造方法。
【0008】
上記(1)の製造方法においては、上記均質化は、例えば、ホモゲナイザー、マスコロイダー、コロイドミルおよびマイクロ粉砕機からなる群より選ばれる少なくとも1種の均質機により処理されるものである。
【0009】
また、上記酵素として、例えば、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、フィターゼおよびガラクトシダーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができ、さらには、少なくともガラクトシダーゼを含むものを用いることができる。
【0010】
本発明においては、上記熱処理を、例えば、60〜150℃の温度下で行うことができ、上記均質化後に、例えば、当該均質化後の豆類を乾燥する工程を含むことができる。
(2) 上記(1)の製造方法により得られる、加工豆類。
【0011】
上記(2)の加工豆類としては、例えば、細胞化されたものが挙げられる。
(3) 上記(1)の製造方法(ただし、乾燥工程は含まない)により得られる、スラリー状の加工豆類。
【0012】
上記(3)のスラリー状の加工豆類としては、例えば、20℃での粘度が5ポイズ以上であるものが挙げられる。
(4) 細胞化された加工豆類であって、細胞の内部および/またはその表面にオリゴ糖を有することを特徴とする、前記加工豆類。
【0013】
上記(4)の加工豆類としては、例えば、細胞が均質化されたものが挙げられる。
【0014】
上記(2)〜(4)の加工豆類としては、例えば、1cm3中に含まれる細胞数が1万個以上であるものや、臭気(例えば、豆類に含まれるヘキサナールおよび/またはヘキサノールに由来する臭気)が低減されたものや、豆類に含まれる油分の酸化が低減されたものや、消化効率が高められたものを挙げることができる。
(5) 上記(2)〜(4)の加工豆類を含む、食品、飲料、飼料または化粧料。
(6) 上記(2)〜(4)の加工豆類からなる、保湿材、給水材、弾力性付与材、油切れ向上材または臭い低減材。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、十分に均質に細胞化した加工豆類を得ることができるとともに、当該加工豆類におけるアレルゲン物質を低減することができる加工豆類の製造方法を提供することができる。また、酵素処理と均質機での均質化とを組み合わせて行う場合は、熱処理前に必須の浸漬工程を省略しても、十分に所望の加工豆類を得ることができ、製造工程の簡略化、製造時間の短縮、コストダウン等といった非常に生産性に優れた加工豆類の製造方法を提供することもできる。さらに、本発明の製造方法であれば、豆類の加工に際し、排水や原料豆類由来の廃棄物をほとんど出さない、いわゆるゼロエミッションを実現できる。よって、原料豆類の利用効率が極めて高く、しかも環境保全・環境浄化の点に関しても非常に優れた製法と言える。
【0016】
本発明によれば、当該製造方法により得られる加工豆類、および当該加工豆類の用途を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。

1.加工豆類の製造方法
本発明にかかる加工豆類の製造方法は、酵素処理および/または熱処理された豆類を均質化することを特徴とする方法である。当該酵素処理および/または熱処理と、均質機を使用して均質化する処理とを組み合わせて行うことによって、前述した課題を容易に解決することができる。
(1) 豆類
本発明の製造方法に用い得る、原料(加工対象)となる豆類としては、限定はされないが、例えば、大豆(丸大豆、黒大豆等)、小豆、枝豆、そら豆、れんず豆、うぐいす豆、えんどう豆等が挙げられる。また、ナッツ類(ピーナッツ、カシューナッツ等)、油糧種子(大豆かす等)等を用いることも可能である。なかでも、前述したように、各種成分がバランス良く豊富に含まれ食品素材としての需要が高い点で、大豆、大豆かすが好ましく、より好ましくは大豆であり、さらに好ましくは大豆の中でも黒大豆である。
【0018】
ところで、大豆は脂質を多く含むため、大豆を細胞化して得られる液状の加工大豆を、後述する乾燥工程により直接乾燥する場合、大豆に多く含まれる油分が粉体化を妨げて均質な粉末を得ることができないおそれがある。そこで、これを解消する手段として、脂質の少ない大豆以外の豆類(例えば、えんどう豆等)も併用することが好ましい。この場合、初めから原料として併用してもよいし、液状の加工大豆を乾燥する際に、予め粉体化しておいた大豆以外の豆類を添加することで併用してもよいが、後者の併用形態が好ましい。
(2) 酵素処理、熱処理
本発明の製造方法では、均質機による均質化の前に、豆類に、(a)酵素処理のみを施しておくか、(b)熱処理のみを施しておくか、あるいは、(c) 上記(a)及び(b)の両処理を組み合わせて施しておくようにする。以下に、(a)〜(c)それぞれの処理について詳しく説明する。
【0019】
(a) 酵素処理のみ
酵素処理は、豆類を酵素と反応させ、その表皮や細胞同士を結合させている細胞間物質を分解することにより、原料豆類を機械的に粉砕することなく、個々の細胞を健全な状態で分離したり、または分離し易くするために行う処理である。また、必要に応じ、さらに(再度)、酵素処理を1回または2回以上行うこともできる。
【0020】
酵素処理に用い得る酵素としては、限定はされないが、例えば、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、フィターゼおよびガラクトシダーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。少なくともペクチナーゼを含めると、効果的に細胞単位に分解できる点で好ましい。少なくともセルラーゼまたはヘミセルラーゼを含めると、酵素処理時間が大幅に短縮され、処理中に雑菌が発生・増殖する可能性を低減し、コストダウン・生産性向上を図ることができる等の効果が得られる点で好ましい。少なくともガラクトシダーゼを含めると、豆類オリゴ糖(大豆オリゴ糖等)の遊離、細胞分散性の改善、細胞の形態保持等の効果が得られる点で好ましい。
【0021】
上記ペクチナーゼは、例えば、豆類の細胞同士を結合させているペクチン質であるプロトペクチンに対して効果的に作用し、細胞壁を破壊することなく細胞同士を分離することができる。上記ペクチナーゼとしては、例えば、リゾプス(Rhizopus)属に属する微生物により産生されるもの等が挙げられる。
【0022】
上記セルラーゼおよびヘミセルラーゼは、例えば、前述した酵素処理時間をより一層短縮することができる。上記セルラーゼおよびヘミセルラーゼとしては、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属やトリコデルマ(Trichoderma)属に属する微生物により産生されるもの等が挙げられる。なかでも、トリコデルマ属に属する微生物により産生されるものは、酵素処理を中性域で行うことができるため、pH調整剤等を使用する必要が無く、味および品質ともに良好な加工豆類を安定して得ることができる。
【0023】
上記フィターゼおよび上記ガラクトシダーゼとしては、いずれも、例えば、アスペルギルス属に属する微生物により産生されるもの等が挙げられる。
【0024】
酵素処理反応は、原料とする豆類に水を加えた状態で行う。当該水の添加量は、限定はされないが、原料とする豆類に対して、0.01〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1重量%である。
【0025】
酵素処理における酵素の添加量は、限定はされないが、原料とする豆類に対して、0.005〜1.0重量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.2重量%である。なお、2種以上の酵素を用いる場合は、それらの合計添加量が上記範囲を満たすようにすればよい。上記酵素添加量が少なすぎる場合は、豆類を十分均質に細胞化することができず、また酵素処理に長時間を要するおそれがあり、逆に多すぎる場合は、添加量に見合う処理効果が得られず、生産性低下やコストアップを招くおそれがある。なかでも、酵素として、少なくともガラクトシダーゼを含むものを用いる場合、ガラクトシダーゼのみの添加量は、原料とする豆類に対して、0.01〜1.0重量%であることが好ましい。上記範囲内であれば、ガラクトシダーゼの酵素活性をより高め、極めて優れた酵素処理効果を発揮させることができる。
【0026】
酵素処理における反応温度(反応系の温度)は、用いる酵素の種類・組み合わせに応じ、公知の最適温度に適宜設定すればよく、限定はされないが、一般に、20〜60℃であることが好ましく、より好ましくは40〜55℃である。上記範囲内であれば、酵素活性をより高め、優れた酵素処理効果を発揮させることができる。なお、酵素処理に際し、上記反応温度への調整は、一般には、豆類に水を加えた後、酵素を添加する前に、加熱または冷却等により行っておくことが好ましい。
【0027】
酵素処理における反応時間は、用いる酵素の種類・組み合わせに応じ、公知の最適温度に適宜設定すればよく、限定はされないが、一般に、酵素を添加してから失活させるまでの時間が、3時間以内であることが好ましく、より好ましくは1時間以内であり、さらに好ましくは0.5〜1時間である。
【0028】
酵素処理反応は、攪拌下で行うことが好ましいが、豆類の細胞を破壊してしまう程の強力な条件を採用することは好ましくない。上記攪拌は、具体的には、公知の攪拌装置を搭載した反応容器内で、攪拌速度10〜100回転/分といったソフトな条件下で行うことが好ましい。このような条件であれば、分離された豆類の細胞を攪拌によってほぐしながら、豆類の細胞に対して均一に酵素を作用させることができるので、酵素処理反応をより一層スムーズかつ効率的に実施することができる。
【0029】
酵素処理反応を所定の時間行った後、酵素をより一層緻密かつ均一に作用させるために、熟成を行うこともできる。例えば、反応液を、50℃で15〜60分間保持して熟成させればよい。熟成時に攪拌する場合は、例えば、酵素処理反応時と同様の反応容器内で、攪拌速度20〜30回転/分程度で行えばよく(例えば15分間程度)、これにより熟成時間を短縮できる。
【0030】
酵素処理反応後は、一般には、酵素作用を失活させるための熱処理を施すようにする。例えば、反応液を、約90〜100℃で5〜15分間加熱することが好ましい。
【0031】
本発明の製造方法においては、上記酵素処理を行う場合、当該酵素処理に先立ち、豆類を浸漬する工程や蒸煮する工程を行っておくこともできるが、後述する均質機での均質化処理を組み合わせて行うことにより十分に均質に細胞化された加工豆類を得ることができる。したがって、これらの工程(浸漬、蒸煮)を除いて行うことも、好ましい実施形態として挙げることができる。浸漬、蒸煮を省略しても十分に所望の加工豆類を得ることができることは、上記酵素処理と均質機での均質化処理とを組み合わせて本発明を実施する場合の大きなメリットであり、具体的には、製造時間の短縮、製造工程の簡略化・連続化、コストダウン、ひいては生産性の向上等が挙げられ、特に、量産体制にある工場等では極めて大きな作用効果が得られることになる。
【0032】
なお、上記浸漬する工程とは、実質的に豆類の組織を変質させる処理(酵素処理等)を伴わずに、水に比較的長時間浸しておくことを言う(以下においても同様)。この場合の浸漬工程は、例えば、豆類の体積に対して2〜8倍の、30〜60℃の水または温水に、30分〜18時間(好ましくは12〜15時間)浸しておくというものである。従って、酵素処理反応を行う際、酵素添加前に、豆類を当該反応に必要な水に浸して温度(反応温度)調整を行う行為は、上記浸漬とは異なる。
【0033】
また、上記蒸煮する工程とは、酵素処理を行い易くするために、高温で比較的短時間蒸し、または煮ることを言う。具体的には、例えば、圧力鍋等を用いて、100〜150℃(好ましくは120℃)で、2〜20分(好ましくは5〜10分間)蒸煮する。
【0034】
(b) 熱処理のみ
熱処理は、豆類を加熱して、その表皮や細胞同士を結合させている細胞間物質を軟化させたり分解したりすることにより、機械的に粉砕することなく、個々の細胞を健全な状態で分離したり、または分離し易くするために行う処理である。また、必要に応じ、さらに(再度)、熱処理を1回または2回以上行うこともできる。
【0035】
上記熱処理の方法としては、限定はされないが、蒸煮等が好ましい。
【0036】
上記熱処理を行う際の温度は、限定はされないが、60〜150℃であることが好ましく、より好ましくは100〜120℃である。
【0037】
上記熱処理の時間は、限定はされないが、5分〜1時間であることが好ましく、より好ましくは10〜30分である。
【0038】
上記熱処理時の圧力は、加圧下、常圧下および減圧下のいずれでもよい。
【0039】
上記熱処理を行う手段としては、上記温度条件や圧力条件等を実現し得る公知の各種加熱手段であればよく、限定はされないが、例えば、公知の加圧釜等が好ましく挙げられる。
【0040】
本発明の製造方法においては、上記熱処理を行う場合は、当該熱処理による前述した効果を発揮させるため、当該熱処理に先立ち、豆類を浸漬する工程を行うことが望ましい。
【0041】
(c) 酵素処理および熱処理
上述した酵素処理および熱処理をいずれも行う場合、両処理の順序は限定はされず、酵素処理をした後に熱処理を行ってもよいし、その逆でもよい。また、必要に応じ、さらに(再度)、酵素処理または熱処理を1回または2回以上行うこともできる。なお、酵素処理および熱処理に関する各種手段や条件等は、すべて先の(a),(b)で説明した内容を同様に適用することができる。
【0042】
酵素処理をした後に熱処理を行う場合は、酵素処理反応後における酵素作用の失活のための加熱処理を、上記熱処理で代行することができる。また、熱処理前に酵素処理を行うため、熱処理のみを行う場合に必須とされる豆類の浸漬工程は、必ずしも実施する必要はなく、酵素処理条件や熱処理条件、および豆類の分解の程度等を勘案し、実施の必要性を適宜判断すればよい。
【0043】
一方、熱処理をした後に酵素処理を行う場合は、酵素処理反応前に行い得る豆類の蒸煮工程を、上記熱処理で代行することができる。また、熱処理後に酵素処理も行うため、熱処理のみを行う場合に必須とされる豆類の浸漬工程は、必ずしも実施する必要はなく、酵素処理条件や熱処理条件、および豆類の分解の程度等を勘案し、実施の必要性を適宜判断すればよい。
(3) 均質機による均質化
上記酵素処理や熱処理後の豆類を、均質機を使用するという特定の条件下で均質化することにより、前述した本発明の課題を容易に且つ効果的に解決できる。
【0044】
本発明の製造方法においては、「均質化する」とは、豆類の細胞集団又は細胞の粒径を均一にすることを意味する。
【0045】
本発明の製造方法では、上記酵素処理や熱処理後の豆類は、例えば、直接任意の大きさの細胞集団にまで分解されたもの、あるいは、一旦単細胞や比較的小さい細胞集団にまで分解されたものが互いに凝集して任意の大きさの細胞集団を形成したものが存在する。従って、このままでは、種々の大きさの細胞集団が存在し、粒径のばらつきが大きい。このような加工豆類を食品や飲料等に用いると、舌触りや喉越し等の食感に劣るほか、当該食品や飲料等の品質が不安定になる等のおそれがある。そこで、上記酵素処理や熱処理により細胞同士を分離する作用は受けたものの、粒径のばらつきが大きい不均質な細胞集団に対し、均質機を使用した均質化処理を施すようにすれば、細胞そのものを破壊等してしまうことなくその健全な状態を保ったまま、得られる細胞集団又は細胞の粒径を十分に均一化して均質なものとすることができる。
【0046】
上記均質機としては、例えば、ホモゲナイザー、マスコロイダー、コロイドミルおよびマイクロ粉砕機などを用いることができ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて使用すればよい。なかでも、ホモゲナイザーを用いる場合は、プランジャーポンプとバルブとの組み合わせにより、液状の加工豆類内にせん断、衝突およびキャビテーション等の複合作用を瞬間的に発生させて均質な乳化状態を作り、浮遊や沈殿を防ぐようにすることが好ましい。
【0047】
上記均質機による均質化処理の条件は、所望の粒径に均一化された細胞集団が得られるよう、使用する機器に応じて適宜設定条件を調整すればよく、限定はされないが、例えば、均質化処理時の圧力条件を低圧にすることが好ましい。低圧下で均質化処理を行うようにすると、細胞同士を分離しやすくなり、ひいては均質機による粒径調整(粒度調整)をより一層容易にすることができる。
【0048】
上記「低圧」とは、具体的には、50Pa以下であることが好ましく、より好ましくは20Pa以下、さらに好ましくは5Pa以下である。当該低圧条件が、上記圧力範囲内であると、上述した低圧下での均質化処理の効果をより一層高めることができる。なお、当該圧力の値は、前記酵素処理や熱処理後の豆類の細胞集団を含む液を前記均質機で処理したときに、当該細胞集団を含む液にかかる圧力の最大値であるとする。
(4) その他の工程
本発明の製造方法は、上述した処理工程以外に、他の工程を含んでいてもよく、限定はされない。例えば、前記均質化処理の後に、当該処理後の豆類を乾燥する工程を含むことができる。一般に、上記乾燥工程を行わなければ、スラリー状(液状、ピューレ状とも言う)の加工豆類を得ることができ、この乾燥工程を行えば、粉状(粉体状)の加工豆類を得ることができる。また、前記均質化処理後の未乾燥の液状の豆類を、保存等のために冷凍する工程や、レトルト殺菌(例えば120℃で20分)する工程を含むこともできる。
【0049】
上記乾燥する工程は、例えば、気流乾燥、噴霧乾燥あるいは凍結乾燥により行うことが好ましく、十分に且つ均質な粉状のものが得られる点で、気流乾燥がより好ましい。
【0050】
気流乾燥とは、乾燥製品が粉粒体となる材料で、湿潤時に糊泥状、あるいは粉粒状のものを急速に流れる熱気流中に分散させ、熱気流と並流に送りながら迅速に乾燥することを意味し、例えば、フラッシュドライヤーとして知られる装置を用いて行うことができる。

2.加工豆類
本発明にかかる第1の態様の加工豆類は、前述した本発明の加工豆類の製造方法により得られるものであり、なかでも、スラリー状(液状、ピューレ状とも言う)の加工豆類は、当該製造方法のうち前述した乾燥工程を含まない方法により得られるものである。
【0051】
第1の加工豆類は、細胞化されたものであることが好ましい。本発明において、細胞化とは、具体的には、表皮や細胞間物質等の存在によって各細胞どうしが結合してなる多細胞体としての豆類を、細胞そのものを破壊等してしまうことなくその健全な状態を保ったまま、所望の大きさの細胞集団に分解することを意味し、前述した本発明の製造方法における酵素処理や熱処理、および均質機での均質化処理等によって実現されるものである。
【0052】
殊に、スラリー状の加工豆類としては、20℃での粘度が5ポイズ以上であることが好ましく、より好ましくは8ポイズ以上、さらに好ましくは20ポイズ以上、特に好ましくは20〜80ポイズ、最も好ましくは40〜50ポイズである(また、50℃での粘度は、3ポイズ以上であることが好ましく、より好ましくは5ポイズ以上、さらに好ましくは10ポイズ以上、特に好ましくは10〜50ポイズ、最も好ましくは15〜25ポイズである。)。上記粘度がこの範囲を満たす場合は、なめらかな舌触りや喉越しを有する加工豆類となる等の効果が得られる。なお、当該粘度は、TV-20形粘度計((株)トキメック製、測定レンジ:H、容器:300mLビーカー、ローター:No.7、スピード:100rpm)により測定した値である。また、前述のごとく、スラリー状の加工豆類は細胞化されたものであることが好ましい。
【0053】
本発明にかかる第2の態様の加工豆類は、細胞化された加工豆類であって、前記細胞化された豆類の細胞の内部および/またはその表面にオリゴ糖を有することを特徴とするものである。なお、第2の加工豆類でいう細胞化も、第1の加工豆類でいう細胞化の定義が同様に適用され得る。
【0054】
近年、豆類(特に大豆)に含まれるイソフラボンは、骨粗しょう症の予防や更年期障害の緩和等といった健康面に関わる重要な化合物であるとして注目されているが、このイソフラボンは、オリゴ糖と共に摂取することによってその吸収効果が非常に高められる。よって、例えばこのような点で、第2の加工豆類は非常に機能性・有用性に優れたものであると言える。
【0055】
第2の加工豆類は、粉状であってもスラリー状であってもよく、その性状は限定はされない。スラリー状である場合は、例えば、第1の加工豆類のスラリー状のものと同様の粘度範囲を満たすものであることが好ましい。
【0056】
前記オリゴ糖とは、その種類は限定はされないが、例えば、ラフィノース、レルバスコース、スタキオース等が挙げられる。
【0057】
第2の加工豆類を得る方法としては、限定はされず、種々の方法を採用できるが、例えば、前述した本発明の加工豆類の製造方法が好ましい。
【0058】
第1および第2の加工豆類は、いずれも、細胞化されたものであるが、細胞集団1つあたり、その細胞集団を構成する単細胞の数は20個以下であることが好ましく、より好ましくは3個以下である。なお、本発明においては、細胞集団と言う場合であっても、単細胞の場合も含むことができ、単細胞であることが特に好ましい形態の一つである。
【0059】
第1および第2の加工豆類は、いずれも、その1cm3中に含まれる細胞数が1万個以上であることが好ましく、より好ましくは10万個以上、さらに好ましくは50万個以上である。
【0060】
本発明では、細胞集団を構成する個々の細胞において部分的に細胞壁の破損が生じていたとしても、豆類の蛋白球(プロテインボディ)が健全な状態に保たれていればよい。
【0061】
第1および第2の加工豆類は、臭気が低減されたものであることが好ましい。当該臭気としては、例えば、豆類に含まれるヘキサナールやヘキサノールに由来するものが挙げられ、豆類独特の不快な臭いを生じさせる原因となる。一般に、当該ヘキサナールやヘキサノール等の豆類独特の臭気の原因となる物質は、個々の細胞内に存在しているが、第1および第2の加工豆類は、いずれも、細胞化された状態で得られたものであるため、粉砕等で細胞が破砕された加工豆類に比べ、上記臭気の発生が極めて低いレベルで抑えられたものとなる。
【0062】
第1および第2の加工豆類は、豆類に含まれる油分の酸化が低減されたものであることが好ましい。第1および第2の加工豆類は、いずれも、細胞化された状態で得られたものであるため、粉砕等で細胞が破砕された加工豆類のように、細胞壁や細胞内等に存在する油分(脂質)が露出してしまう状態を極力回避することができる。よって、豆類に含まれる油分の酸化度合いが極めて低く抑えられ、ひいては、加工豆類そのものの保存性(特に長期保存性)が飛躍的に高められたものとなる。
【0063】
第1および第2の加工豆類は、消化効率が高められたものである。前述したように、酵素処理や熱処理によって分解され細胞化されているため、従来の豆類(大豆等)食品に比べ、消化吸収される効率に非常に優れている。
【0064】
第1および第2の加工豆類が、前記本発明の製造方法により得られたものである場合は、さらに、当該加工豆類におけるアレルゲン物質を低減することができる。近年においては、アレルゲン物質が人体等に与える影響について非常に関心が高まっており、そのような物質を含む食品、飲料、化粧品などの取り扱いについては、需要者は相当敏感になっているという現状がある。実際のところ、大豆等の豆類にもアレルゲン物質となり得るタンパク質が存在し、将来的には、今以上に、需要者にとっての安全性・安心感を求める声がより一層高まってくるものと考えられている。豆類の細胞と細胞との間の細胞間物質中にアレルゲンが存在しても、本発明の方法により豆類を加工すると、細胞間物質が分解されることにより、当該アレルゲンを低減することができると考えられる。また、本発明の方法により、加工豆類は細胞を健全な状態を保ったまま得ることができるので、細胞内にアレルゲン物質が含まれる場合は、その露出を防ぐことができ、この点は、特に化粧料などの用途に用いる場合に大きな効果をもたらすと考えられる。

3.加工豆類の用途
本発明にかかる食品、飲料、飼料および化粧料は、いずれも、前述した本発明の加工豆類(第1および/または第2の加工豆類)を含むことを特徴とするものである。
【0065】
本発明の食品、飲料、飼料および化粧料において、本発明の加工豆類の含有割合は、限定はされず、各種用途(さらにはその種類)に応じて、適宜設定することができる。また、本発明の食品、飲料、飼料および化粧料を得る方法についても、限定はされず、各種用途(さらにはその種類)に応じた公知の製造方法において、任意の手法・タイミングで本発明の加工豆類を含有させるようにすればよい。当該含有させる際の加工豆類の形態は、限定はされず、スラリー状であっても粉状であってもよく、各種用途(さらにはその種類)またはその製造方法に応じて適宜選択すればよい。
【0066】
本発明の食品としては、限定はされないが、例えば、小麦粉利用食品、加工肉食品、大豆食品や大豆タンパク含有食品、およびその他の食品が挙げられる。
【0067】
小麦粉利用食品としては、例えば、食パン、ロールパン、ハンガーガーハンズおよびイングリッシュマフィン等のパン類や、シリアル、クラッカー、ビスケット、ホットケーキ、カステラおよびスポンジ等の菓子類や、うどん、そば、中華そば、素麺、各種パスタ(スパゲッティ、マカロニ、ペンネ、フィットチーネ等)およびビーフン等の麺類や、その他、ピザ生地、ナンなどが挙げられる。
【0068】
加工肉食品としては、例えば、ハンバーグ、ミートボール、ハムおよびウインナー等が挙げられる。
【0069】
大豆食品や大豆タンパク含有食品としては、例えば、豆腐および豆乳ヨーグルト等が挙げられる。
【0070】
その他の食品としては、例えば、こんにゃくゼリー等のダイエット食品、クリーム、味噌、動物性チーズ、植物性チーズ、マヨネーズ、ドレッシング、健康食品、タブレット、錠剤、餡、プリン、ゼリー、ジャム、カレー、アイスクリーム、シャーベットおよびジェラート等が挙げられる。
【0071】
消費者は、これらのような食品を食することにより、栄養価の高い豆類の成分を、豆類独特の匂いを気にすることなく且つ異なる味覚や食感を楽しみながら摂取することができる。
【0072】
本発明の飲料としては、限定はされないが、例えば、野菜ジュース、果物ジュース、お茶、清涼飲料、スープ、およびその他の飲料が挙げられる。
【0073】
野菜ジュースとしては、例えば、トマトジュース、ほうれん草ジュース、モロヘイヤジュース、人参ジュースおよび各種野菜のミックスジュース等が挙げられる。
【0074】
果物ジュースとしては、例えば、オレンジジュース、レモンジュース、りんごジュースおよび各種果物のミックスジュース等が挙げられる。
【0075】
お茶としては、例えば、紅茶、緑茶、ウーロン茶および麦茶等が挙げられる。
【0076】
清涼飲料としては、例えば、スポーツドリンクや無果汁ドリンク等が挙げられる。
【0077】
スープとしては、例えば、各種ポタージュスープ、コンソメスープ、中華風スープ、根菜の冷製スープ、とんこつスープ、鶏がらスープおよび味噌汁等が挙げられる。
【0078】
その他の飲料としては、例えば、ミネラルウォーター等の水、コーヒー、乳飲料、豆乳、滋養強壮ドリンク等が挙げられる。
【0079】
消費者は、前記食品と同様に、栄養価の高い豆類の成分を、豆類独特の匂いを気にすることなく摂取することができる。
【0080】
本発明の飼料としては、限定はされないが、例えば、家畜用の餌、ペットフードおよびその他飼料等が挙げられる。
【0081】
家畜用の餌としては、例えば、牛、豚、馬および鳥等の餌が挙げられる。
【0082】
ペットフードとしては、例えば、犬、猫および鳥等のペットフードが挙げられる。
【0083】
家畜やペット等に、このような飼料を与えることにより、栄養価の高い豆類の成分を容易に摂取させることができる。
【0084】
本発明の化粧料としては、限定はされないが、例えば、エッセンス、化粧水、乳液、ファンデーションおよび日焼け止めローション等が好ましく挙げられる。
【0085】
消費者は、このような化粧料を使用することにより、肌に潤いを与え、しかも保湿することができる。
【0086】
本発明にかかる保湿材、給水材、弾力性付与材、油切れ向上材および臭い低減材は、いずれも、前述した本発明の加工豆類(第1および/または第2の加工豆類)からなることを特徴とするものであり、いわゆる改質材料として使用される。その改質効果は、一般には、他の素材や材料中に含有させることで、それぞれ目的とする物性の付与・向上等を成し得るというものである。
【0087】
また、本発明の保湿材、給水材、弾力性付与材、油切れ向上材および臭い低減材としての、加工豆類の形態は、限定はされず、スラリー状であっても粉状であってもよく、各種用途に応じて適宜選択すればよい。
【0088】
本発明の保湿材、給水材、弾力性付与材、油切れ向上材および臭い低減材においては、本発明の加工豆類以外にも、当該加工豆類による作用効果が著しく損なわれない範囲において、他の成分を含んでいてよく、限定はされない。他の成分を含む場合の調製方法についても、限定はされず、各種用途に応じ、任意の手法・タイミングで本発明の加工豆類に含有させるようにすればよい。
【0089】
本発明の保湿材としては、限定はされないが、例えば、パン等の素材・材料に好ましく用いることができる。例えば、ソフトでジューシーになるといった優れた効果を得ることができる。
【0090】
本発明の給水材としては、限定はされないが、例えば、小麦粉等の素材・材料に好ましく用いることができる。例えば、麺類に用いた場合は、互いに付着し合うことが極めて少なくなるといった優れた効果を得ることができる。
【0091】
本発明の弾力性付与材としては、限定はされないが、例えば、パンやハンバーグ等の素材・材料に好ましく用いることができる。例えば、食感が良くなるといった優れた効果を得ることができる。
【0092】
本発明の油切れ向上材としては、限定はされないが、例えば、てんぷら粉やパン粉等の素材・材料に好ましく用いることができる。例えば、てんぷら、トンカツ、から揚げ、フライドポテト等に用いた場合は、揚げたての状態を長く保つことができるといった優れた効果を得ることができる。
【0093】
本発明の臭い低減材としては、限定はされないが、例えば、チーズや納豆等の素材・材料に好ましく用いることができる。
【0094】
上記保湿材、給水材、弾力性付与材、油切れ向上材および臭い低減材において、加工豆類の配合量は、目的の用途に応じて適宜設定することができる。

以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、便宜上、「重量%」を「wt%」と記す。
【実施例1】
【0095】
水洗後の原料大豆100kgを、攪拌翼を搭載したヒーター付タンクに仕込み、これに水1600kgを加え、酵素反応の最適温度である50℃まで昇温した。次いで、ヘミセルラーゼ(シグマ社製)、フィターゼ(シグマ社製)およびガラクトシダーゼ(シグマ社製)の酵素液を、それぞれ、各酵素が乾燥原料大豆に対して0.2wt%となるように加え、攪拌下(40回転/分)で、酵素処理を30分間行った。
【0096】
その後、タンク内の内容物を95℃で15分間処理することにより酵素を失活させた。
【0097】
50℃まで冷却後、当該内容物を、ホモゲナイザーを用いて処理する(操作条件:50Pa)ことにより、スラリー状の加工大豆を得た。
【0098】
これを冷却後、その半分量をタンクから取り出し、噴霧乾燥機で乾燥処理して、粉状の加工大豆を得た。
【0099】
得られた加工大豆の収量は、スラリー状の加工大豆として740kg、粉状の加工大豆として43kgであった。
【0100】
得られた加工大豆(スラリー状、粉状)をサンプルとして、細胞の様子を顕微鏡により観察した(図1参照)ところ、従来の方法により得られたものに比べ、より一層均質に細胞化されていることが確認できた。
【0101】
スラリー状の加工大豆について、1cm3中に含まれる細胞数を血球計測板を用いて測定した結果、85万個であった。
【0102】
また、スラリー状の加工大豆の粘度を、粘度計((株)トキメック製、製品名:TV-20形、測定レンジ:H、容器:300mLビーカー、ローター:No.7、スピード:100rpm)を用いて測定した結果、20℃での粘度は43.8ポイズ、50℃での粘度は20ポイズであった。
【0103】
粉状の加工大豆について、その5wt%懸濁液を調製し、1cm3中に含まれる細胞数を血球計測板を用いて測定した結果、55万個であった。
【0104】
従来の製法(特許第3256534号公報)により得られた加工大豆、および、本実施例で得られた加工大豆(スラリー状、粉状)のオリゴ糖(ラフィノース)値を、それぞれ、HPLCにより測定したところ、前者の加工大豆では検出限界以下であり、後者の加工大豆では0.16g/100gであった。本実施例で得られた加工大豆の方が、明らかにオリゴ糖が増加していることが分かった。
【0105】
スラリー状の加工大豆について、ガスクロマトグラフィー(試験装置:Hewlett Packard 7694HS-5890II GC、カラム:CP-WAX 52CB, 0.25mm×60mm、温度条件:50℃で5分保持した後 3℃/分で150℃まで昇温)により、ヘキサナールおよびヘキサノール(大豆特有の臭気の原因)の検出を行った。なお、スラリー状の加工大豆のサンプルは、水分含有率76.7wt%に調整しておいたものを用いた。また、原料大豆を機械的に粉砕して得られた粉(比較加工大豆)を水に懸濁したもの(上記水分含有率と同様)を、比較サンプルとして用意した。具体的には、5gのサンプルと1gのNaClを20mLのサンプルボトルに入れて密封し、80℃で湯浴させながら15分間攪拌(vibrate)した後、ボトル内上部のガスを分析した。その結果、本実施例の加工大豆のサンプルでは、ヘキサナール(Hexanal)およびヘキサノール(Hexanol)はいずれも検出限界以下であったが(図2参照)、比較サンプルでは、ヘキサナールおよびヘキサノールはいずれも臭気を生じさせ得るレベルで明確に検出された(図3参照)。
【0106】
本実施例では、均質機による均質化処理を行うことにより、酵素処理前に浸漬処理を行わなくても、上述のごとく十分に所望の加工大豆を得ることができ、製造時間の短縮・簡略化やコストダウン等、生産性を大きく向上させることができた。
【実施例2】
【0107】
水洗後の原料大豆200kgを、攪拌翼を搭載したヒーター付タンクに仕込み、これに水1600kgを加え、酵素反応の最適温度である50℃まで昇温した。次いで、セルラーゼ(シグマ社製)およびペクチナーゼ(シグマ社製)の酵素液を、それぞれ、各酵素が乾燥原料大豆に対して%となるように加え、攪拌下(40回転/分)で、酵素処理を30分間行った。
【0108】
その後、タンク内の内容物を95℃で15分間処理することにより酵素を失活させ、さらに、130℃で20分熱処理をした。
【0109】
50℃まで冷却後、当該内容物を、ホモゲナイザーを用いて処理する(操作条件:10Pa)ことにより、スラリー状の加工大豆を得た。
【0110】
これを冷却後、その半分量をタンクから取り出し、噴霧乾燥機で乾燥処理して、粉状の加工大豆を得た。
【0111】
得られた加工大豆の収量は、スラリー状の加工大豆として1420kg、粉状の加工大豆として90kgであった。
【0112】
得られた加工大豆(スラリー状、粉状)をサンプルとして、細胞の様子を顕微鏡により観察したところ、従来の方法により得られたものに比べ、より一層均質に細胞化されていることが確認できた。
【0113】
スラリー状の加工大豆について、1cm3中に含まれる細胞数を血球計測板を用いて測定した結果、125万個であった。
【0114】
また、スラリー状の加工大豆の粘度を、実施例1と同様の粘度計を用いて測定した結果、20℃での粘度は10ポイズ、50℃での粘度は5ポイズであった。
【0115】
粉状の加工大豆について、その5wt%懸濁液を調製し、1cm3中に含まれる細胞数を血球計測板を用いて測定した結果、85万個であった。
【0116】
本実施例でも、実施例1と同様、均質機による均質化処理を行うことにより、酵素処理前に浸漬処理を行わなくても、上述のごとく十分に所望の加工大豆を得ることができ、製造時間の短縮・簡略化やコストダウン等、生産性を大きく向上させることができた。
【0117】
また、本実施例で得られた加工大豆を一年間常温で保存し、当該加工大豆の油分の酸化度を測定したところ、市販のきな粉を常温で一年間保存したものに比べ、酸化度が極めて低いことがわかった。このことから、本実施例の加工大豆は、大豆に含まれる油分の酸化を飛躍的に抑え得るものであることが分かった。
【実施例3】
【0118】
水洗後の原料大豆100kgを、攪拌翼を搭載したヒーター付タンクに仕込み、これに水1600kgを加え、酵素反応の最適温度である50℃まで昇温した。次いで、セルラーゼ(シグマ社製)、フィターゼ(シグマ社製)およびガラクトシダーゼ(シグマ社製)の酵素液を、それぞれ、各酵素が乾燥原料大豆に対して0.02wt%となるように加え、攪拌下(40回転/分)で、酵素処理を60分間行った。
【0119】
その後、タンク内の内容物を95℃で15分間処理することにより酵素を失活させた。
【0120】
40℃まで冷却後、当該内容物を、ホモゲナイザーを用いて処理する(操作条件:50Pa)ことにより、スラリー状の加工大豆を得た。
【0121】
これを冷却後、その半分量をタンクから取り出し、噴霧乾燥機で乾燥処理して、粉状の加工大豆を得た。
【0122】
得られた加工大豆の収量は、スラリー状の加工大豆として760kg、粉状の加工大豆として43kgであった。
【0123】
得られた加工大豆(スラリー状、粉状)をサンプルとして、細胞の様子を顕微鏡により観察したところ、従来の方法により得られたものに比べ、より一層均質に細胞化されていることが確認できた。
【0124】
スラリー状の加工大豆について、1cm3中に含まれる細胞数を血球計測板を用いて測定した結果、160万個であった。
【0125】
また、スラリー状の加工大豆の粘度を、実施例1と同様の粘度計を用いて測定した結果、20℃での粘度は8ポイズ、50℃での粘度は7ポイズであった。
【0126】
粉状の加工大豆について、その5wt%懸濁液を調製し、1cm3中に含まれる細胞数を血球計測板を用いて測定した結果、50万個であった。
【0127】
本実施例でも、実施例1と同様、均質機による均質化処理を行うことにより、酵素処理前に浸漬処理を行わなくても、上述のごとく十分に所望の加工大豆を得ることができ、製造時間の短縮・簡略化やコストダウン等、生産性を大きく向上させることができた。
【実施例4】
【0128】
水洗後の原料ピーナツ100kgを、攪拌翼を搭載したヒーター付タンクに仕込み、これに水800kgを加え、酵素反応の最適温度である50℃まで昇温した。次いで、ヘミセルラーゼ(シグマ社製)、ペクチナーゼ(シグマ社製)の酵素液を、それぞれ、各酵素が乾燥原料ピーナッツに対して0.2wt%となるように加え、攪拌下(40回転/分)で、酵素処理を30分間行った。
【0129】
その後、タンク内の内容物を95℃で15分間処理することにより酵素を失活させた。
【0130】
50℃まで冷却後、当該内容物を、ホモゲナイザーを用いて処理する(操作条件:30Pa)ことにより、スラリー状の加工ピーナッツを得た。
【0131】
これを冷却後、その半分量をタンクから取り出し、噴霧乾燥機で乾燥処理して、粉状の加工ピーナッツを得た。
【0132】
得られた加工ピーナッツの収量は、スラリー状の加工ピーナッツとして435kg、粉状の加工ピーナッツとして41kgであった。
【0133】
得られた加工ピーナッツ(スラリー状、粉状)をサンプルとして、細胞の様子を顕微鏡により観察したところ、従来の方法により得られたものに比べ、より一層均質に細胞化されていることが確認できた。
【0134】
スラリー状の加工ピーナッツについて、1cm3中に含まれる細胞数を血球計測板を用いて測定した結果、30万個であった。
【0135】
また、スラリー状の加工ピーナッツの粘度を、実施例1と同様の粘度計を用いて測定した結果、20℃での粘度は5ポイズ、50℃での粘度は3ポイズであった。
【0136】
粉状の加工ピーナッツについて、その5wt%懸濁液を調製し、1cm3中に含まれる細胞数を血球計測板を用いて測定した結果、1万個であった。
【0137】
本実施例でも、実施例1と同様、均質機による均質化処理を行うことにより、酵素処理前に浸漬処理を行わなくても、上述のごとく十分に所望の加工ピーナッツを得ることができ、製造時間の短縮・簡略化やコストダウン等、生産性を大きく向上させることができた。
【実施例5】
【0138】
実施例1で得られた粉状の加工大豆を使用して、食パンを作製した。
【0139】
まず、下記表に示す配合割合となるように秤量した各原材料を、攪拌装置を搭載した容器(関東ミキサー社製、製品名:CS-30)に仕込み、捏上温度29℃でミキシングして、パン生地を得た。
【0140】
原材料名 配合割合(wt%)
小麦粉カメリヤ 100
(日清製粉(株)製)
加工大豆(粉状) 3
砂糖 6
(台糖(株)製)
食塩 1.8
(ダイヤソルト(株)製)
イースト 3
(鐘淵化学工業(株)製、イースト赤)
植物性マーガリン 6
(日本リーバ(株)製、製品名:油脂マイスターゴールド)
水 72
得られたパン生地を70分間発酵させた後、生地を6つに分割した。ベンチタイムを15分とし、パンケースへの型詰めをした(3分)後、38℃、相対湿度80%のホイロ内で40分間保持した。次いで、オーブン((株)ベーカーズプロダクション製、15kW)内で、下火は210℃、上火は始めの15分が160℃でその後30分が210℃となるようにして、パン生地を焼成し、食パン(1)を得た。
【0141】
一方、上記食パン(1)の作製において、加工大豆を使用しない点と、イーストの配合量を3.5wt%にし(発酵速度を食パン(1)の場合と合わせるため)、水の配合量を66wt%にし、捏上温度を28℃にし、発酵時間を80分にした点以外は同様にし、比較用の食パン(c1)を得た。
<焼成時の食パン中心温度の経時変化>
上記パン生地の焼成時、パンケース最上部にサーミスタ電極を挿入する穴を加工し、サーミスタの温度測定部分がパン生地の中心部に位置するように固定してオーブン内に入れ、サーミスタからの測定コードを外部に取り出してデジタル温度計((株)ベーカーズプロダクション製)につなぎ、焼成開始から終了まで1分ごとの温度を測定した。
【0142】
一般に、小麦粉デンプンのα化は62〜63℃から始まり、高い温度で維持するほどそれは促進され、火通りが良く旨みや弾力性のある良質なパンにすることができる。
【0143】
測定の結果、中心温度60℃には食パン(c1)の方が早く達した(30分経過時)が、中心温度93℃には食パン(c1)の方が早く達した(38分経過時)。最終的には、中心温度は、食パン(1)の方では97.3℃、食パン(c1)の方では96.4℃であり、前者の方が0.9℃高くなった。また、経時変化に着目してみると、驚くべきことに、食パン(c1)の方では終点温度の96.4℃に達するまでに50分要したのに対し、食パン(1)の方では44分で同温度まで達し、その後7分間上昇し続け、51分で終点温度97.3℃まで達していた。
【0144】
実際にも、当然食パン(1)の方が、火通りが良く旨みや弾力性のある良質なパンに仕上がっていた。
<給水性の評価>
本実施例では、食パン(1)の作製時に加工大豆粉を使用しており、食パン(c1)の作製時よりも、水を多く使用しているが、この水分増加率を差し引いても、食パン(1)では食パン(c1)に比べ、小麦粉に対する水分の割合が6wt%高かった。これは、使用した加工大豆の細胞内に蓄えられた細胞内水分(いわゆるセルウォーター)に起因するものと考えられる。
【0145】
この結果から、実施例1で得られた加工大豆は、給水材として優れた効果を発揮し得るものと言える。
<保湿性の評価>
所定加熱温度下での水分蒸散率を経時的に測定し、保湿性を評価した。水分蒸散率の値が小さい方が、より保湿性に優れていると言える。
【0146】
まず、焼成後の食パンを、スライスしないで放熱後、ビニール袋に入れ、室温28℃下に放置して保管した。水分蒸散率の測定は、当該放置してから2日後、および3日後の2回行った。測定サンプルは、測定直前に、スライサーで食パンを厚さ10mmにスライスし、その中央部(ほぼ同一箇所)を直径55mmの円形の抜き型でくり抜いたものを使用した。測定は、赤外線水分計(Kett社製、型番:FD-600)を85℃に設定し、1分毎の水分蒸散率(%)(デジタル表示の数値)を記録した。
【0147】
2日後の測定結果では、最終的に、食パン(1)では46.3%(35分経過時)、食パン(c1)では45.4%(32分経過時)であり、3日後の測定結果では、最終的に、食パン(1)では45.5%(36分経過時)、食パン(c1)では45.3%(25分経過時)であった。
【0148】
いずれの測定でも、最終的には、食パン(1)も食パン(c1)も同程度の水分蒸散率となっているが、注目すべきは、蒸散に要した時間である。特に、3日後の測定では、食パン(c1)は25分で45.3%の蒸散率に達したのに対し、食パン(1)は同じ蒸散率に達するまでに約10分長い35分をも要し、最終的に36分で45.5%の蒸散率に達している。
【0149】
以上のことから、加工大豆を用いた食パン(1)の方が、より保湿性に優れているものであることは明らかであるが、おそらくこれは、使用した加工大豆の細胞が、自身の細胞内水分(いわゆるセルウォーター)とともに通常食パン中に含まれる水分(遊離水や結合水)をも吸収して閉じ込めることによって、全体として水分を蒸散させにくくし、食パンの保湿性を高めていると考えられる。
【0150】
この結果から、実施例1で得られた加工大豆は、保湿材として優れた効果を発揮し得るものと言える。
<食パン中における大豆細胞の確認>
食パン(1)を水に浸して吸水させ、バラバラにほぐした後、水相部分を光学顕微鏡(倍率:200倍)で観察したところ、大豆細胞が確認された。
<弾力性(やわらかさ)の評価>
食パンの中央付近の軟らかい部分を、厚み約13mmにスライスしてサンプルとした。このサンプルを50%の厚さまで加圧するために要する荷重の値をもって、当該食パンの弾力性(やわらかさ)を評価した(破断強度試験)。荷重の値が小さい方が、弾力性に優れていると言える。
【0151】
食パン(1)および食パン(c1)について、上記条件による破断強度試験を行い、弾力性(やわらかさ)を比較した。その結果、食パン(c1)の荷重値が412kgfであったのに対し、食パン(1)の荷重値は438kgfであり、食パン(1)の方が、食パン(c1)に比べて弾力性に優れていることが確認された。
【0152】
また、食パン(1)と食パン(c1)のやわらかさを、被験者100人による試食により試験した。その結果、100人中96人が、食パン(1)の方が、食パン(c1)に比べて「ふんわりとした食感の良いもの」であると判定し、食パン(1)が弾力性に優れていることが官能評価(パネルテスト)によっても実証された。
【0153】
これらの結果から、実施例1で得られた加工大豆は、弾力性付与材として優れた効果を発揮し得るものと言える。
<外観・臭気の評価>
食パン(1)と食パン(c1)における、外観、大豆特有の臭気について、被験者100人による試見・試食(試嗅)により試験した。その結果、100人中89人が、「食パン(1)および食パン(c1)は、外観(焼き色、表面性状、全体の形等)において差異は無く、いずれにおいても大豆臭はほとんど感じない」と判定し、食パン(1)が、通常の食パンである食パン(c1)と、その外観・香りにおいて実質的に何ら変わりのないものであることが官能評価(パネルテスト)によって実証された。
【実施例6】
【0154】
実施例1で得られた粉状の加工大豆を使用して、中華麺を作製した。
【0155】
まず、下記表に示す配合割合となるように秤量した各原材料を混ぜ合わせて、製麺した中華麺(2a)を得た。
【0156】
原材料名 配合割合(wt%)
小麦粉 100
粉状加工大豆 5.0
食塩 1.0
ボーメ 5〜5.5
水 30〜34
その後、製麺した麺を、約100℃の熱湯中で5分間ゆで上げ、試食用の中華麺(2b)を得た。
【0157】
一方、上記中華麺の作製において、加工大豆を使用しない点以外は同様にし、比較用の製麺した中華麺(c2a)および試食用の中華麺(c2b)を得た。
【0158】
製麺した中華麺(2a)および試食用の中華麺(2b)は、いずれも、製麺した中華麺(c2a)および試食用の中華麺(c2b)に比べて、原材料とした小麦粉の重量に対し、保有水分量を約5wt%増加させることができた。
【0159】
製麺した中華麺(2a)および試食用の中華麺(2b)は、いずれも、ほとんど大豆臭の感じられないものであった。また、試食用の中華麺(2b)は、試食用の中華麺(c2b)と実質的に同じ味であった。
【実施例7】
【0160】
実施例4で得られた粉状の加工ピーナッツを使用して、ハンバーグを作製した。
【0161】
下記表に示す配合割合となるよう各原材料を用意した。
【0162】
原材料名 配合量
牛ひき肉 500g
玉ねぎ 150g
生パン粉 30g
卵 40g
牛乳 45g
バター 15g
食塩 1g
粉状加工ピーナッツ 35g
牛ひき肉に、玉ねぎ、生パン粉、卵、牛乳、粉状加工ピーナッツを入れ、さらに塩、バターを加え、手でよく混合した。
【0163】
混合後のものを所定の形状に整えて、油を敷いたフライパン上に置き、弱火で3〜4分間焼き、その後裏返して蓋をし、さらに弱火で15分間焼くことにより、ハンバーグ(3)を得た。
【0164】
一方、上記ハンバーグの作製において、加工ピーナッツを使用しない点と、牛乳の配合量を1/2にした点以外は同様にし、比較用のハンバーグ(c3)を得た。
【0165】
ハンバーグ(3)は、ハンバーグ(c3)に比べてドリップが少なく、ジューシーでまろやかな味を有し、しかも、冷めても硬くなりにくいものであった。
【実施例8】
【0166】
実施例1で得られた粉状の加工大豆を使用して、マヨネーズを作製した。
【0167】
下記表に示す配合量となるよう各原材料を用意した。
【0168】
原材料名 配合量
粉状加工大豆 80g
サラダ油 200cc
酢 200cc
レモン汁 大さじ0.5
食塩・胡椒・砂糖 各少々
粉からし 大さじ1.5
ブイヨン 100cc
卵黄(Mサイズ) 3個
乾いたボウルに、卵黄、粉からしを入れ、ミキサーでよく泡立てる。卵黄に角が立ってきたら、酢を全量入れる。サラダ油を半量、そっと注ぐ。粉状加工大豆、レモン汁、食塩、胡椒、砂糖を全量入れる。残りのサラダ油を注ぐ。沸騰したブイヨンを加える。なお、マヨネーズの固さは酢またはレモン汁の量で調整する。
【0169】
このようにしてマヨネーズ(4)を得た。
【0170】
マヨネーズ(4)は、調理時および試食時のいずれにおいても、大豆臭がほとんど感じられないものであった。
【0171】
マヨネーズ(4)は、大豆の栄養素を豊富に含み、栄養強化がなされた健康食品である。
【実施例9】
【0172】
実施例1で得られた粉状の加工大豆を使用して、ドレッシングを作製した。
【0173】
下記表に示す配合量となるよう各原材料を用意した。
【0174】
原材料名 配合量
サラダ油 120cc
ゴマ油 200cc
酢 600cc
しょう油 150cc
粉状加工大豆 10g
予め、玉ねぎ100g、にんにく1カケ、人参150g、セロリ50g、塩・胡椒・砂糖を各少々を、フードプロセッサーに入れてペースト状にしておいた。
【0175】
次いで、残りの材料を混ぜ合わせて、ドレッシング(5)を得た。
【0176】
一方、上記ドレッシングの作製において、加工大豆を使用しない点点以外は同様にし、比較用のドレッシング(c5)を得た。
【0177】
ドレッシング(5)は、調理時および試食時のいずれにおいても、大豆臭がほとんど感じられないものであった。また、ドレッシング(5)は、ドレッシング(c5)に比べて、味がまろやかで旨味のあるものであった。
【0178】
ドレッシング(5)は、大豆の栄養素を豊富に含み、栄養強化がなされた健康食品である。
【実施例10】
【0179】
実施例1で得られた粉状の加工大豆を使用して、錠剤を調製した。
【0180】
下記表に示す配合割合となるように秤量した各原材料を、均一となるように良く混合し、当該混合物を加圧成型して、錠剤(6)を得た。
【0181】
原材料名 配合割合(wt%)
含水結晶ブドウ糖 73.5
加工大豆 20.0
カルシウム 5.0
シュガーエステル 1.5
錠剤(6)は、大豆臭がほとんど感じられないものであった。錠剤(6)は、大豆の栄養素を豊富に含む健康食品であり、サプリメントとして有用性のあるものである。
【実施例11】
【0182】
実施例2で得られた粉状の加工大豆を使用して、食用ゼリーを作製した。
【0183】
下記表に示す配合割合となるように秤量した各原材料を、均一となるように加熱混合した。
【0184】
原材料名 配合割合(wt%)
果糖 20.0
グラニュー糖 15.0
水飴 5.0
寒天 1.0
加工大豆 0.5
カルシウム 0.1
水 58.4
当該混合物を加熱滅菌した後、所定のカップ(型)に流し込んで、冷却し、食用ゼリー(7)を得た。
【0185】
一方、上記食用ゼリーの作製において、加工大豆を使用しない点以外は同様にし、比較用の食用ゼリー(c7)を得た。
【0186】
食用ゼリー(7)は、大豆臭がほとんど感じられないものであった。
【0187】
食用ゼリー(7)は、食用ゼリー(c7)に比べて、みずみずしい食感を有するゼリーであった。
【実施例12】
【0188】
実施例3で得られた粉状の加工大豆を使用して、プロセスチーズを作製した。
【0189】
下記表に示す配合割合となるように秤量した各原材料を、均一となるように混合し、当該混合物を85℃に昇温して乳化し、プロセスチーズ(8)を得た。
【0190】
原材料名 配合割合(wt%)
ゴーダチーズ 43.0
チェダーチーズ 43.0
クエン酸ナトリウム 2.0
加工大豆粉 0.5
水 11.5
一方、上記プロセスチーズの作製において、加工大豆を使用しない点と、水の配合割合を12.0wt%にした点以外は同様にし、比較用のプロセスチーズ(c8)を得た。
<食感・臭気の評価>
プロセスチーズ(8)とプロセスチーズ(c8)における、食感や臭いについて、被験者100人による官能評価(パネルテスト)を行った。その結果、100人中81人が「プロセスチーズ(8)の方が弾力性のある心地よい食感である」と判定し、また、100人中86人が「プロセスチーズ(8)の方がチーズ特有の強い発酵臭が少なく食べやすい」と判定した。
【0191】
この結果から、実施例3で得られた加工大豆は、弾力性を向上させる素材として優れた効果を発揮し得るものと言え、また、臭いを低減させる効果も発揮し得るものとも言える。
【実施例13】
【0192】
実施例3で得られた粉状の加工大豆を使用して、ビスケットを作製した。
【0193】
下記表に示す配合割合となるように秤量した各原材料を混合した。
【0194】
原材料名 配合割合(wt%)
小麦粉 50.0
砂糖 20.0
食塩 0.5
マーガリン 12.5
卵 12.1
水 2.5
炭酸水素ナトリウム 0.1
重炭酸アンモニウム 0.2
炭酸カルシウム 0.5
加工大豆 1.2
上記混合物を、所定の形にして、180℃で15分間焙焼し、ビスケット(9)を得た。
【0195】
一方、上記ビスケットの作製において、加工大豆を使用しない点と、水の配合量を3.7wt%にした点以外は同様にし、比較用のビスケット(c9)を得た。
【0196】
ビスケット(9)は、大豆臭がほとんど感じられないものであった。
【0197】
ビスケット(9)は、ビスケット(c9)に比べて、さくっとした軽い食感を有するビスケットであり、また、長時間経っても湿気りにくいもの(上記食感を保持しているもの)であった。
【実施例14】
【0198】
実施例1で得られた粉状の加工大豆を使用して、天ぷらを作製した。
【0199】
小麦粉100gに対し、粉状大豆5g、水を適量混合し、天ぷら用の衣とした。その後、各種野菜や魚・えび等に、この衣を付け、180℃程度のてんぷら油できつね色になるまで揚げた(天ぷら(10))。一方、加工大豆を使用しない天ぷら用の衣も用意し、同様に各種野菜や魚・えび等を揚げた(天ぷら(c10))。
<油切れ向上性等の評価>
天ぷら(10)と天ぷら(c10)における、食感や味覚について、被験者100人による官能評価(パネルテスト)を行った。その結果、100人中92人が「天ぷら(10)の方が油っこくなく、さくっとした心地よい食感である」と判定し、また、100人中88人が「天ぷら(10)の方が旨みが濃く、濃厚な味がする」と判定した。
【0200】
この結果から、実施例1で得られた加工大豆は、油切れ向上材として優れた効果を発揮し得るものと言え、また濃厚な旨みを引き出す効果も発揮し得るものとも言える。
【実施例15】
【0201】
実施例1で得られたスラリー状の加工大豆を使用して、清涼飲料を作製した。
【0202】
下記表に示す配合割合となるように秤量した各原材料を混合し、当該混合物を、所定の容器に充填して、加熱滅菌(125℃、10秒間)し、清涼飲料(11)を得た。
【0203】
原材料名 配合割合(wt%)
混合異性化糖 15.0
りんご果汁 10.0
クエン酸 0.5
スラリー状加工大豆 0.5
水 73.9
清涼飲料(11)は、大豆臭がほとんど感じられないものであった。
【0204】
清涼飲料(11)は、大豆の栄養素を豊富に含み、栄養強化がなされた健康飲料である。
【実施例16】
【0205】
実施例3で得られたスラリー状の加工大豆を使用して、ポタージュスープを作製した。
【0206】
下記表に示す配合量となるように各原材料を用意した。
【0207】
原材料名 配合量
スラリー状加工大豆 500g
ジャガイモ 300g
玉ねぎ 200g
ブイヨン 500cc
水 500cc
生クリーム 150cc
牛乳 300cc
食塩 1g
薄切り玉ねぎをバターでよく炒める。その後、ジャガイモを加え、バターを吸い込んでふちが透き通るまで炒める。ブイヨン、水を加え、沸騰するまで強火で煮、その後は弱火で20分間煮る。あら熱を取り、ミキサーにかける。これに生クリーム、牛乳、食塩、胡椒を加え、味を調える。このようにして、ポタージュスープ(12)を得た。
【0208】
ポタージュスープ(12)は、大豆臭がほとんど感じられないものであった。
【0209】
ポタージュスープ(12)は、大豆の栄養素を豊富に含み、栄養強化がなされた健康飲料である。
【実施例17】
【0210】
実施例1で得られた粉状の加工大豆を使用して、イヌ飼育用の飼料を調製した。
【0211】
下記表に示す配合割合となるように秤量した各原材料を混合し、当該混合物を、80℃で10分間加熱処理して、イヌ飼育用飼料(13)を得た。
【0212】
原材料名 配合割合(wt%)
大豆粕 12.0
脱脂粉乳 14.0
大豆油 4.0
コーン油 2.0
パーム油 28.0
トウモロコシ澱粉 15.0
小麦粉 8.0
ふすま 2.0
ビタミン混合物 9.0
ミネラル混合物 2.0
セルロース 3.0
加工大豆 1.0
イヌ飼育用飼料(13)は、大豆の栄養素を豊富に含み、栄養強化がなされたペットフードである。
【実施例18】
【0213】
市販の乳液(c14)100gに対し、実施例1で得られた粉状の加工大豆を2g混合して、乳液(14)を得た。
<保湿性等の評価>
乳液(14)と乳液(c14)に関し、使用後の保湿性やなめらかさについて、被験者100人による官能評価(パネルテスト)を行った。その結果、100人中93人が「乳液(14)の方が保湿性が高く、より長い時間しっとり感を保つことができた」と判定し、また、100人中91人が「乳液(14)の方がよりなめらかな肌触りになった」と判定した。
【0214】
この結果から、実施例1で得られた加工大豆は、乳液等の各種化粧料においても、保湿性等を高める効果を発揮し得るものと言える。
【0215】
また、市販の化粧クリームに実施例1で得られた粉状の加工大豆を2g添加してよく混ぜたものについても、上記乳液(14)と同様に、保湿性、しっとり感、肌触りのすべてにおいて良好な結果が得られた。
【実施例19】
【0216】
予め、AIN-76組成の餌に大豆粉(きな粉)を5wt%の配合割合で混ぜた試験飼料(c15)と、同組成の餌に実施例2の加工大豆粉を同配合割合で混ぜた試験飼料(15)とを調製しておいた。
【0217】
4週齢SD系雄ラットを8匹ずつ2つの対称群に分け、1週間予備飼育した後、一方の対象群には試験飼料(c15)のみを、他方の対称群には試験飼料(15)のみを、それぞれ2週間投与した。その間の、個々のラットの、体重増加と平均飼料摂取量の結果を下記表に示した。
【0218】
飼料(c15)群 飼料(15)群
初期体重 103.2±3.2g 102.9±2.9g
最終体重 179.2±3.2g 187.3±3.5g
平均飼料摂取量 18.2±1.4g 18.0±2.1g
以上の結果、飼料(c15)群に比べ、飼料(15)群の方が体重増加量が多く吸収効率が良いという結果が得られた。なお、大豆粉(きな粉)と実施例2の加工大豆粉との組成は、実質的に同じであった。
【図面の簡単な説明】
【0219】
【図1】実施例1で得られた加工大豆の光学顕微鏡写真(×600)である。
【図2】実施例1で得られた加工大豆をサンプルとしたガスクロマトグラフィーのチャートである。
【図3】比較加工大豆をサンプルとしたガスクロマトグラフィーのチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素処理および/または熱処理された豆類を均質化することを特徴とする、加工豆類の製造方法。
【請求項2】
前記均質化が、ホモゲナイザー、マスコロイダー、コロイドミルおよびマイクロ粉砕機からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いて処理されるものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記酵素が、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、フィターゼおよびガラクトシダーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記酵素が少なくともガラクトシダーゼを含むものである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理が60〜150℃の温度下で行われるものである、請求項1から4までのいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記均質化後の豆類を乾燥する工程を含む、請求項1から5までのいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれかに記載の製造方法により得られる、加工豆類。
【請求項8】
細胞化されたものである、請求項7に記載の加工豆類。
【請求項9】
請求項1から5までのいずれかに記載の製造方法により得られる、スラリー状の加工豆類。
【請求項10】
20℃での粘度が5ポイズ以上である、請求項9に記載の加工豆類。
【請求項11】
細胞化された加工豆類であって、細胞の内部および/またはその表面にオリゴ糖を有することを特徴とする、前記加工豆類。
【請求項12】
細胞が均質化されたものである、請求項11に記載の加工豆類。
【請求項13】
1cm3中に含まれる細胞数が1万個以上である、請求項7から12までのいずれかに記載の加工豆類。
【請求項14】
臭気が低減されたものである、請求項7から13までのいずれかに記載の加工豆類。
【請求項15】
前記臭気が、豆類に含まれるヘキサナールおよび/またはヘキサノールに由来するものである、請求項14に記載の加工豆類。
【請求項16】
豆類に含まれる油分の酸化が低減されたものである、請求項7から15までのいずれかに記載の加工豆類。
【請求項17】
消化効率が高められたものである、請求項7から16までのいずれかに記載の加工豆類。
【請求項18】
請求項7から17までのいずれかに記載の加工豆類を含む、食品。
【請求項19】
請求項7から17までのいずれかに記載の加工豆類を含む、飲料。
【請求項20】
請求項7から17までのいずれかに記載の加工豆類を含む、飼料。
【請求項21】
請求項7から17までのいずれかに記載の加工豆類を含む、化粧料。
【請求項22】
請求項7から17までのいずれかに記載の加工豆類からなる、保湿材。
【請求項23】
請求項7から17までのいずれかに記載の加工豆類からなる、給水材。
【請求項24】
請求項7から17までのいずれかに記載の加工豆類からなる、弾力性付与材。
【請求項25】
請求項7から17までのいずれかに記載の加工豆類からなる、油切れ向上材。
【請求項26】
請求項7から17までのいずれかに記載の加工豆類からなる、臭い低減材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−109801(P2006−109801A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303137(P2004−303137)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(500147562)
【Fターム(参考)】