説明

加熱溶融炉及び加熱溶融方法

【課題】抵抗加熱ヒーターにより溶融物を加熱する溶融炉において、抵抗加熱ヒーターに流れている電流により磁場が発生し、この磁場が溶融物に作用して溶融物が回転することにより、ルツボの内面が不均一に削られることを防止できる加熱溶融炉を提供し、また、これを用いた加熱溶融方法を提供する。
【解決手段】ルツボの外壁面外側に抵抗加熱ヒーターが配設されて、前記抵抗加熱ヒーターから発生する磁場の影響を受け、ルツボ内に収容された溶融物がルツボの内壁側面に沿って回転する加熱溶融炉において、溶融物の回転方向を逆転させる手段を備えて、所望のタイミングで溶融物の回転方向を逆転させることができる加熱溶融炉であり、また、この加熱溶融炉を用いて、所望のタイミングで溶融物の回転方向を逆転させる加熱溶融方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗加熱ヒーターから発生する磁場の影響を受け、ルツボ内に収容されている溶融物が回転をする加熱溶融炉において、溶融物の回転方向を逆転できるようにしたことで、溶融物を保持しているルツボが不均一に削られることを防止し、ひいてはルツボ寿命の延長が可能となる加熱溶融炉、及び、この加熱溶融炉を用いた加熱溶融方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抵抗加熱ヒーターにより溶融物を加熱する溶融炉において、抵抗加熱ヒーターに流れている電流により磁場が発生し、この磁場が溶融物に作用して溶融物が回転する場合がある。溶融物は熱対流による流れやこれら以外の要因による流れも伴っていることから、ルツボ内で3次元的な動きをすることが一般的であるが、この溶融物の動きにより溶融物と接しているルツボ内面が削られる場合がある。
【0003】
さて、ルツボ全体が均一温度を有することは殆ど無く、温度分布を有していることが一般的であるので、ルツボにはこの温度分布による熱応力が働いている。また、ルツボ自身及び内容物の自重による応力、傾動し溶融物を排湯するタイプの炉であれば傾動時にルツボに作用する応力、特にルツボを数ヶ所で固定しているような場合はこの固定方法による由来する応力がルツボに作用する。
【0004】
前記のルツボ内面が削られる場合、ルツボの厚さが薄くなることにより上記応力が増大する場合がある。さらに、ルツボ内面が不均一に削られる場合、例えば、波打ったように削られる場合、さらに甚だしくはルツボ内面に筋状の深い凹みが発生する場合があるが、このような場合にはルツボの特定部位の応力が非常に大きくなることがある。この結果、新しいルツボを使い出して間もない初期段階でルツボが破壊されることもあるが、ルツボ内には高温の溶融物が保持されているので、この破壊は極めて危険である。さらにルツボ破壊に至らないまでも、ルツボ破壊の危険性を回避するためルツボを煩雑に新しいものと交換することが必要となり、経済性、操業性の観点から、ルツボ内面が不均一に削られることは好ましくない。しかしながら、ルツボ内面が不均一に削られることを防止する有効な手段は、今日まで見出されていなかった。
【0005】
このように本発明と関係のある従来技術は見当たらないものの、比較的近い従来技術を挙げるなら、例えば、特許文献1の明細書に記載されているように、テルル化水銀カドミウムの結晶成長において、すぐれた組成の均一性を有する結晶を成長させる目的で、結晶成長のアンプルに対して、回転機構に連結されたシリカ棒を装着し、周期的な加速ルツボ回転プログラムを適用して、アンプルの回転速度を加速したり、減速したり、逆転させたりする、テルル化水銀カドミウムの結晶の成長方法が述べられている。しかし、この特許文献1は、垂直ブリッジマン法による結晶成長に関する発明であり、加熱溶融炉において溶融物を収容したルツボの損傷を防止することを教えるものではない。また、特許文献2には、単結晶引上げ炉の結晶成長用ルツボに送り込まれる融液を調整する際に、三相交流によって生じる回転磁場を利用することにより、溶解を迅速化すると共に撹拌による溶融原料の均質化を行う方法が述べられている。しかしながら、回転磁場による融液の回転が、融液を収容しているルツボに与える悪影響については何ら触れられておらず、当然、その対策も全く考慮されていない。以上のように、一般的な加熱溶融炉に用いられているルツボの内面が不均一に削られることを防止するための有効な手段は、今日まで全く見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−16280号公報
【特許文献2】特開平10−25190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
抵抗加熱ヒーターにより溶融物を加熱する溶融炉において、抵抗加熱ヒーターに流れている電流により磁場が発生し、この磁場が溶融物に作用し溶融物が回転する加熱溶融炉において、溶融物を収容して溶融物と接しているルツボの内面が不均一に削られることを防止することが本発明の課題である。中でも、ルツボへの筋状の凹み出現の防止が重要である。これは筋状の凹みが著しく成長すると、その部分に応力が集中しルツボが破損することにもなりかねず、操業上の安全確保のため筋状の凹み成長防止は非常に重要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ルツボ内面の不均一な凹み、例えば、溶融物の回転により生じる筋状の凹みは、上述したように溶融物の回転によって生じるので、適切なタイミングで溶融物の回転方向を逆転させることにより、ルツボ内面の不均一な凹み発生を防止することが本発明の骨子である。
【0009】
本発明の特徴は以下の通りである。
(1)ルツボの外壁面外側に抵抗加熱ヒーターが配設されて、前記抵抗加熱ヒーターから発生する磁場の影響を受け、ルツボ内に収容された溶融物がルツボの内壁側面に沿って回転する加熱溶融炉において、溶融物の回転方向を逆転させる手段を備えて、所望のタイミングで溶融物の回転方向を逆転させることができることを特徴とする加熱溶融炉。
(2)前記抵抗加熱ヒーターに供給される電力が三相交流であり、前記磁場が回転磁場であることを特徴とする(1)に記載の加熱溶融炉。
(3)前記溶融物の回転方向を逆転させる手段が、前記回転磁場の回転方向の逆転であることを特徴とする(2)に記載の加熱溶融炉。
(4)前記回転磁場の回転方向の逆転を、電力ケーブルの接続切り替えにより行うことを特徴とする(3)に記載の加熱溶融炉。
(5)前記溶融物が金属、又は、半導体であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の加熱溶融炉。
(6)前記溶融物を収容するルツボが、セラミックス、耐火物、又は、黒鉛から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の加熱溶融炉。
(7)前記溶融物が微細な固形物を含有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の加熱溶融炉。
(8)ルツボの外壁面外側に抵抗加熱ヒーターが配設された加熱溶融炉を用いた加熱溶融方法において、前記抵抗加熱ヒーターから発生する磁場の影響を受け、ルツボ内に収容された溶融物がルツボの内壁側面に沿って回転する回転方向に対して、逆向きの回転を形成せしめる手段により、所望のタイミングで溶融物の回転方向を逆転させることを特徴とする加熱溶融方法。
(9)前記抵抗加熱ヒーターに供給される電力が三相交流であり、前記磁場が回転磁場であることを特徴とする(8)に記載の加熱溶融方法。
(10)前記溶融物の回転方向を逆転させる手段が、前記回転磁場の回転方向の逆転であることを特徴とする(9)に記載の加熱溶融方法。
(11)前記回転磁場の回転方向の逆転を、電力ケーブルの接続切り替えにより行うことを特徴とする(10)に記載の加熱溶融方法。
(12)前記溶融物が金属、又は、半導体であることを特徴とする(8)〜(11)のいずれか1項に記載の加熱溶融方法。
(13)前記溶融物を収容するルツボが、セラミックス、耐火物、又は、黒鉛から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする(8)〜(12)のいずれか1項に記載の加熱溶融方法。
(14)前記溶融物が微細な固形物を含有することを特徴とする(8)〜(13)のいずれか1項に記載の加熱溶融方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、抵抗加熱ヒーターにより溶融物を加熱する溶融炉において、溶融物を収容するルツボ内面が不均一に削られることが無くなり、特に、筋状の凹みの発生が抑制される。結果、高温の溶融物を保持したままルツボが破損するという危険を回避できる。また、ルツボを長期間使用できることとなり、経済性、操業効率化が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、内径約1000mmの半球状カーボンルツボ内で溶融シリコンが上から見て左回転した時に生じる典型的な筋状の凹みを模式的に示す。これらの筋状の凹みは、溶融物が接するルツボ底面に主として発生し、ルツボ底面から内壁側面にかけて凹みは浅くなり、ルツボ内壁側面にはほとんど存在しない。
【図2】図2は、内径約1000mmの半球状カーボンルツボ内で溶融シリコンが上から見て右回転した時に生じる典型的な筋状の凹みを模式的に示す。この筋状の凹みの発生は、筋の向きが反対である以外は、図1のように溶融シリコンの液面を見て左回転する場合と同様である。
【図3】図3は、ルツボと三相交流抵抗加熱ヒーターの相対的配置を上から見た典型的な一例である。三相交流の電力ケーブルはA、B、Cの端子に接続される。本図では抵抗加熱ヒーターを直線的に記載しているが、もちろん直線である必要はなく、ルツボを取り囲むように円筒状の曲面を有することが一般的である。
【図4】図4は、図3とは異なる、ルツボと三相交流抵抗加熱ヒーターの相対的配置を上から見た典型的な例である。本図でも、三相交流の電力ケーブルはA、B、Cの端子に接続される。本図では、3本の抵抗加熱ヒーターは、一例として例えば、お椀状の様な形状を有し、ルツボはお椀状のヒーターの上部に位置する様な配置が考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、溶融物と接するルツボ内面に形成される不均一な凹み、特に、筋状の凹みについて説明する。図1に、ルツボ内の溶融物がルツボ上から見て左回転している場合に、ルツボ内面に生じる典型的な筋状の凹みを模式的に示す。溶融物は、熱対流によりルツボ中央で上昇し、ルツボの内壁側面では下降すると推測され、また、全体としては、ルツボ内における液面の中心を通る垂直軸を大凡の中心軸として左回転し、溶融物はルツボの内壁側面を斜め左下方向にこするように流れながら、ルツボの内壁側面に沿って、上記中心軸を中心にして回転方向Hの向きに回転していると推測される。この結果、図1のような方向の筋状凹みが生成すると考えられるが、実際のところ詳細は不明である。ここで、ルツボ内面が均一に削り取られるのでなく筋状の凹みとなる原因は、ルツボ内面近くでは境界不安定性により溶融物に小さな渦の流れが生じているためかと推測されるが、これも詳細は不明である。
【0013】
次に、図2に、ルツボ内の溶融物がルツボ上から見て右回転している場合に、ルツボ内面に生じる典型的な筋状の凹みを模式的に示す。溶融物が、熱対流によりルツボ中央で上昇し、ルツボの内壁側面で下降すると推測されるのは、左回転の場合と同様であるが、溶融物全体は、ルツボ内における液面の中心を通る垂直軸を大凡の中心軸として右回転しているので、ルツボの内壁側面を斜め右下方向にこするように流れながら、ルツボの内壁側面に沿って、上記中心軸を中心にして回転方向Hの向きに回転していると推測される。結果、図2の様な筋状凹みが生じると考えられる。しかし、詳細が不明であるのは左回転の場合と同様である。
【0014】
さて、発明者らは、図1、図2に示す様な不均一な凹みがルツボ内面に生じないようにしようと試行錯誤を行った訳であるが、溶融物が所望のタイミングで左回転と右回転を交互にするようにすると、筋状の凹みに代表されるような不均一な凹みが生成せず、ルツボ内面が平滑となることを見出した。一般的に予想されることではあるが、当初、溶融物を逆回転させると、図1と図2の筋状凹みの交点が深く凹むのではないかと考えられたが、実際にそうはならず、ルツボ内面全体が平滑となったわけであるが、この理由は現在も判明していない。
【0015】
次に、溶融物の回転方向を逆転させるタイミングについてであるが、これは特に限定される訳ではない。しかし、一方向に回転している間は筋状の凹みが成長し続けているので、ルツボ内面の凹みがルツボ破損の危険レベルに達する前に回転方向を逆転させ、ルツボ破損に至る凹み深さよりも凹み深さを浅く保つことが肝要である。具体的な回転方向の逆転タイミングは、ルツボの材質や溶融物により大きく異なるが、例えば、黒鉛製ルツボで溶融シリコンを加熱している場合には、昼夜連続操業において2週間程度で溶融シリコンの回転方向を逆転させることが好ましい。さらに好ましくは1週間以内であり、ルツボ内面が全く平滑であることを目指すなら、3日以内、最も好ましくは1日以内である。ただ、回転方向切り替え作業を操業上多くできない場合もあるので、操業上許される短い時間間隔で、かつ、ルツボ内面の凹みもさほど成長していない時間範囲内で、回転方向を切り替えることが現実的である。
【0016】
次に、そもそも溶融物が回転する理由であるが、抵抗加熱ヒーターに供給される電力が三相交流である場合には、ヒーターに流れる電流により回転磁場が発生し、この回転磁場が溶融物に作用することにより溶融物が回転する。これは、三相交流モーターと原理的には同じ現象である。ルツボの外壁面外側に配設される抵抗加熱ヒーターは、ルツボを均一加熱する目的から、通常、ルツボ周囲に対称的に配置されることが多い。つまり、ルツボ内における液面の中心を通る中心垂直軸に対して、対称的もしくはこれに近い位置に配置されることが多い。この場合、回転磁場の回転方向は、ルツボ中心垂直軸を中心軸として回転することとなり、ルツボ内の溶融物も、大凡この方向に回転する。図3及び図4は、ルツボと三相交流抵抗加熱ヒーターの典型的な配置を上から見た概念図である。図3では抵抗加熱ヒーターを直線的に記載しているが、もちろん直線である必要はなく、ルツボを取り囲むように円筒状の曲面を有することが一般的である。図4では、3本の抵抗加熱ヒーターは、一例として例えば、お椀状の様な形状を有し、ルツボはお椀状のヒーターの上部に位置する様な配置が考えられる。ただ、本発明はこれらの配置に限定されるものではなく、抵抗加熱ヒーターが発生する磁場によりルツボ内に収容されている溶融物が回転する場合に広く適用可能である。尚、回転磁場による回転流の他に、熱対流、反転流等も存在するので実際の流れは3次元的な複雑なものを含むが、図1、図2に示すように、溶融物と接するルツボ底部(底面)を中心に発生する筋状の凹みは、大凡、回転磁場による回転流により理解することができる。
【0017】
溶融物の回転方向を逆転させるには、抵抗加熱ヒーターに供給される電力が三相交流で回転磁場が生じている場合には、この回転磁場の回転方向を逆転させればよい。このためには、例えば、抵抗加熱ヒーターへの電力供給ケーブルを切り替えればよい。具体的には、三相交流の3本のケーブルの任意の2本がクロスするように切り替えれば、3本のケーブルの回転対称性は逆回転となる。図3、図4で言うならば、A、B、Cの端子のケーブルの内、任意の2本を付け替えればよいこととなる。勿論、ケーブル切り替え以外の方法でも良く、交流電源中で何らかの切り替えを行い、ケーブルはそのままで回転磁場の回転方向を逆転させても良い。
【0018】
さて、三相交流以外の場合では、例えば、抵抗加熱ヒーターに供給される電力が二相交流である場合も回転磁場が発生するので、この磁場の影響により溶融物は回転する。従って、二相交流の場合にも三相交流と同様に回転磁場の回転方向を逆転させることにより、溶融物の回転方向を逆転させることが出来る。また、抵抗加熱ヒーターに供給される電力が単相交流である場合は、発生する磁場は交番磁場であるが、溶融物が何らかの原因で一度回転を始めると、その回転を持続する作用を与える。従って、供給電力が単相交流の場合は、溶融加熱炉に溶融物の回転開始方向を決定する機構を持たせれば、意図する方向へ溶融物を回転させることができる。この回転方向を決定する機構としては、例えば、一時的に抵抗加熱ヒーターに三相交流等を供給して回転磁場を発生させたり、別途、回転磁場発生用に抵抗部材をルツボの周囲に配設して回転磁場を形成するなどして、溶融物の回転開始を促すような機構を使用することができる。また、他にも、羽根等による一時的な撹拌等により、溶融物の回転開始を促す機械的機構を使用することもできる。
【0019】
上記のとおり、供給電力が単相交流の場合に溶融物の回転を逆転させるには、これらの回転開始方向決定機構を利用すればよい。単相交流の交番磁場が弱い場合には、単相交流の供給をそのままの状態で回転開始方向決定機構を逆方向に短時間作用させることで、溶融物の回転方向を逆転させることができる。単相交流の交番磁場が強く、つまり、溶融物の回転慣性力が強く、この方法だけでは溶融物の回転方向を逆転できない場合には、単相交流の供給を短時間停止するか、停止しないまでも供給電力量を下げ溶融物の回転慣性力を弱くした後、回転開始方向決定機構により逆転の方向への力を溶融物に加えれば良い。
【0020】
溶融物の回転方向を逆転させるタイミングとしては、操業上の問題がなければ、短い時間間隔で逆転させた方がルツボ破損防止の観点からは好ましいことは上述したとおりであるが、これは溶融物が同一方向に回転し続ける間は不均一な、例えば筋状の凹みが成長を続け、回転方向を逆転させると徐々に凹みが消失し、その後は逆方向の凹みが成長することから理解できる。しかしながら、あまりに短い時間間隔での溶融物回転方向の切り替えは操業上の効率が低下する場合もあるので、あくまでもルツボ損耗状況との兼ね合いで決められるべきものである。
【0021】
本発明において使用することができる溶融物は、回転磁場又は交番磁場により誘導電流が誘起されなくてはならないので、高温の溶融状態で電気伝導性を有することが必要である。金属、又は、半導体が該当し、半導体としては例えばシリコンを挙げることができる。勿論、これら以外の物質であっても、高温で電気伝導性を有する溶融物になるものであれば、本発明に使用することが可能である。また、溶融物を収容するルツボとしては、特に限定を受けるものではなく、通常使用される材質で良く、セラミックス、耐火物、又は、黒鉛等を使用することができる。
【0022】
本発明では、溶融物を保持しているルツボの内面が不均一に削られることを防止し、特に、ルツボへの筋状の凹み出現の防止が重要であることは先に述べた通りであるが、例えば、耐火物等から混入した酸化物セラミックスや、溶融シリコンと黒鉛が反応して生成する炭化ケイ素等、これらに限定されるわけではないが、溶融物にこのような微細な固形物が含まれている場合には、特に、ルツボ内面が不均一に削られたり、ルツボへ筋状の凹みが出現し易い。勿論、本発明は、溶融物中に微細な固形物が含まれる場合に限定される訳ではないが、微細な固形物が溶融物に含まれる場合には、ルツボの損傷を防止する観点から、本発明の加熱溶融炉及び操業方法(加熱溶融方法)は特に有効である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例等の基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例の内容に制限されるものではない。
【0024】
(実施例1)
真空加熱炉にて溶融シリコンの真空脱ガス処理を行った。
真空加熱炉の構造は次の通りである。真空排気可能なチャンバー内に内径約1000mm、肉厚65mmの半球状の黒鉛ルツボが位置し、その回りを取り囲むように、黒鉛ルツボの外壁面外側に抵抗加熱ヒーターが配設されている。黒鉛ルツボは傾動が可能であり、ルツボ内の高温溶融物を別途設けた鋳型へ排湯し、チャンバーの真空を破ることなくゲートバルブを経由して、鋳型を隣接する別のチャンバーへ移動することができる。抵抗加熱ヒーターには、真空チャンバー外の電源から電力供給ケーブルを介し三相交流が供給される。また、真空チャンバー外の電力供給ケーブルの途中には、3本の電力ケーブルの内2本のケーブルをクロスさせることができるケーブル切り替えスイッチが設けられており、三相交流の位相の切り替えが可能であって、抵抗加熱ヒーターが発生する回転磁場の方向を切り替えることができる構造となっている。さらに、真空チャンバー上部には、ゲートバルブを介して別の真空室が接続されており、ここから黒鉛ルツボ内へ真空脱ガス処理に供する原料の投入が可能である。尚、真空チャンバーは、ロータリーポンプとメカニカルブースターポンプで、真空排気可能な構造となっている。
【0025】
次に、シリコンの真空脱ガス処理の操業概要についてであるが、原料を黒鉛ルツボへ装入し、溶解後真空脱ガス処理を行い、一部の溶融シリコンを残し、大部分の処理済みシリコンを鋳型へ排湯する。この後、抵抗加熱ヒーターの三相交流の位相を切り替え、新たにシリコン原料を黒鉛ルツボへ投入し真空脱ガス処理を行う。この真空脱ガス処理の操業を、黒鉛ルツボを交換することなく、以下のようにして、35回繰り返した。
【0026】
まず、初回(1回目)の真空脱ガス処理について述べる。室温にて、黒鉛ルツボ内に約100mm以下の固体シリコン原料250kgを装入、真空チャンバーを閉鎖後真空排気し、その後、抵抗加熱ヒーターに三相交流を供給して、約20時間で黒鉛ルツボを1500℃まで加熱した。その後、固体シリコン原料200kgを真空チャンバー上部のゲートバルブを介し追装入した。約4時間でシリコン原料は全て溶解し、溶融シリコンは抵抗加熱ヒーターから発生する回転磁場の影響を受けて、図1に示した回転方向Hのように、上方から見て液面が左回転を開始した。この回転速度は大凡10秒で1回転と視認できた。また、この際のチャンバー内の真空度は約0.5Pa、黒鉛ルツボ温度は1500℃であった。この状態を12時間保持し、溶融シリコンの真空脱ガス処理を実施した。この後、黒鉛ルツボを傾動し、ルツボ内に約40kgのシリコン溶湯を残し、約400kgのシリコン溶湯を鋳型へ排出した。鋳型は、ゲートバルブを介し真空を破ることなく、別のチャンバーへ移動させた。また、400kgシリコン排湯後、黒鉛ルツボは直ちに元の水平に戻した。
【0027】
次に、新たな2回目のシリコンの真空脱ガス操業を開始した。先ず、チャンバー外のケーブル切り替えスイッチを操作し、各ケーブルの三相交流の位相を切り替え、抵抗加熱ヒーターが発生する回転磁場の回転方向を逆転させた。次に、固体シリコン原料400kgを10回程度に分けて、黒鉛ルツボへ投入した。シリコン原料は約10時間で全て溶解したが、抵抗加熱ヒーターのケーブルを切り替えたため、溶融シリコンは1回目とは逆に、図2に示した回転方向Hのように、上方から見て液面が右方向に回転した。シリコン原料の完全溶解後、12時間の真空脱ガス処理を実施したが、以上の2回目の真空脱ガス処理中も1回目と同様に、チャンバー内の真空度を0.5Pa、黒鉛ルツボ温度を1500℃に維持した。12時間の真空脱ガス処理後は、1回目と同じく黒鉛ルツボを傾動し、ルツボ内に約40kgのシリコン溶湯を残し、約400kgのシリコン溶湯を鋳型へ排出した。以降の手順も1回目と同様で、鋳型はゲートバルブを介し真空を破ることなく別のチャンバーへ移動し、また、黒鉛ルツボは直ちに元の水平に戻した。
【0028】
次に、3回目のシリコンの真空脱ガス操業を開始したが、チャンバー外のケーブル切り替えスイッチを操作し、各ケーブルの三相交流の位相を切り替え、抵抗加熱ヒーターが発生する回転磁場の回転方向を逆転させたこと、及び、固体シリコン原料400kgを10回程度に分けて投入したことは2回目と同様である。尚、各ケーブルの接続を切り替えたことにより、ケーブル接続は1回目と同じ接続となっている。シリコン原料の溶解は2回目と同じく約10時間で全て溶解したが、溶融シリコンの回転方向は、2回目とは逆で、1回目と同様に上方から見て液面は左回転であった。シリコン原料の完全溶解後12時間の真空脱ガス処理を、チャンバー真空度0.5Pa、黒鉛ルツボ温度1500℃で実施したことも2回目と同様であり、約400kgのシリコン溶湯の鋳型への排湯、鋳型の移動、及び黒鉛ルツボを水平位置に戻すことも2回目と同様である。
【0029】
以上のシリコンの真空脱ガス操業を同じ手順で繰り返し、合計35回実施した。毎回、ケーブル切り替えスイッチにより各ケーブルの三相交流の位相を切り替え、抵抗加熱ヒーターが発生する回転磁場の向きを逆転させ、溶融シリコンの回転方向を逆転させたことも上述したとおりである。
【0030】
最後の35回目のシリコンの真空脱ガス処理終了後だけは、黒鉛ルツボに溶融シリコンを残すことなく、約440kgの溶融シリコンを全て鋳型へ排湯し黒鉛ルツボを空とした。その後電源を切りルツボを冷却し、チャンバー内を大気圧へ復圧し全ての操業を終了した。
【0031】
上記操業終了後、黒鉛ルツボを取り出して、溶融シリコンと接していたルツボの内面を観察した。ルツボ内面は筋状の凹み等を含め凹凸は全く生成しておらず、非常に平滑な状態であった。また、溶融シリコンが接していた部分の平均損耗量は15mm程度であり、未だルツボ肉厚が十分あることから、さらに15回の操業を加えた、合計50回程度のシリコンの真空脱ガス処理を行える寿命があると考えられる。
【0032】
(比較例1)
実施例1と異なる点は、ケーブル切り替えスイッチによる各ケーブルの三相交流の位相切り替えを全く行わず、抵抗加熱ヒーターが発生する回転磁場は常に同一方向であり、結果、溶融シリコンは、上方から見て液面は常に左に回転していた。他の操業条件は同じであるが、合計の真空脱ガス操業は、実施例1より短い合計18回の真空脱ガス操業を行った。
【0033】
18回の操業終了後、黒鉛ルツボを取り出して、溶融シリコンと接していたルツボの内面を観察した。ルツボ内面には図1に示すような筋状の凹みが多数発生していた。各々の筋状凹みは深いところでは15mmの深さであり、凹みの開口部の幅は10〜20mm程度、筋状の凹みの全長は100〜300mm程度であった。この凹みが、大凡20〜40mm間隔で黒鉛ルツボ内面全体に多数存在した。これら凹みの状態から考えて、シリコンの真空脱ガス処理を18回よりもう少し多く行っていると、黒鉛ルツボ破損の危険性もあったと考えられる。尚、筋状凹み以外の平均損耗量は8mm程度であり、シリコンの真空脱ガス操業1回当たりの平均損耗量は実施例1と比べ大差なかった。
【符号の説明】
【0034】
1:カーボンルツボ外縁
2:筋状の凹み
H:ルツボ内における溶融物の回転方向
3:三相交流抵抗加熱ヒーター
4:ルツボ
A、B、C:三相交流抵抗加熱ヒーターの端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボの外壁面外側に抵抗加熱ヒーターが配設されて、前記抵抗加熱ヒーターから発生する磁場の影響を受け、ルツボ内に収容された溶融物がルツボの内壁側面に沿って回転する加熱溶融炉において、溶融物の回転方向を逆転させる手段を備えて、所望のタイミングで溶融物の回転方向を逆転させることができることを特徴とする加熱溶融炉。
【請求項2】
前記抵抗加熱ヒーターに供給される電力が三相交流であり、前記磁場が回転磁場であることを特徴とする請求項1に記載の加熱溶融炉。
【請求項3】
前記溶融物の回転方向を逆転させる手段が、前記回転磁場の回転方向の逆転であることを特徴とする請求項2に記載の加熱溶融炉。
【請求項4】
前記回転磁場の回転方向の逆転を、電力ケーブルの接続切り替えにより行うことを特徴とする請求項3に記載の加熱溶融炉。
【請求項5】
前記溶融物が金属、又は、半導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の加熱溶融炉。
【請求項6】
前記溶融物を収容するルツボが、セラミックス、耐火物、又は、黒鉛から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の加熱溶融炉。
【請求項7】
前記溶融物が微細な固形物を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の加熱溶融炉。
【請求項8】
ルツボの外壁面外側に抵抗加熱ヒーターが配設された加熱溶融炉を用いた加熱溶融方法において、前記抵抗加熱ヒーターから発生する磁場の影響を受け、ルツボ内に収容された溶融物がルツボの内壁側面に沿って回転する回転方向に対して、逆向きの回転を形成せしめる手段により、所望のタイミングで溶融物の回転方向を逆転させることを特徴とする加熱溶融方法。
【請求項9】
前記抵抗加熱ヒーターに供給される電力が三相交流であり、前記磁場が回転磁場であることを特徴とする請求項8に記載の加熱溶融方法。
【請求項10】
前記溶融物の回転方向を逆転させる手段が、前記回転磁場の回転方向の逆転であることを特徴とする請求項9に記載の加熱溶融方法。
【請求項11】
前記回転磁場の回転方向の逆転を、電力ケーブルの接続切り替えにより行うことを特徴とする請求項10に記載の加熱溶融方法。
【請求項12】
前記溶融物が金属、又は、半導体であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の加熱溶融方法。
【請求項13】
前記溶融物を収容するルツボが、セラミックス、耐火物、又は、黒鉛から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の加熱溶融方法。
【請求項14】
前記溶融物が微細な固形物を含有することを特徴とする請求項8〜13のいずれか1項に記載の加熱溶融方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−37195(P2012−37195A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180012(P2010−180012)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】