説明

加飾表面を備えた加工品の製造方法

【課題】本発明の目的は、写真等の転写技術や特殊な塗料を必要とせず、フィルム等の貼り合わせを不要とした加飾表面を備えた加工品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、加飾表面を備えた加工品の製造方法であり、基材に絞を形成する絞付き基材の形成工程10と、絞付き基材の形成工程で形成された基材を脱脂する脱脂工程と20、脱脂工程の後で、第1の塗料を塗布する第1中塗り工程30と、第1中塗り工程の後で、半乾燥した状態で、第2の塗料を塗布する第2中塗り工程50と、第2中塗り工程の後で、乾燥させる乾燥工程60と、乾燥工程の後で、塗布面を研磨する研磨工程70と、研磨工程の後で、漆により仕上げ層を形成する仕上げ塗布工程80と、仕上げ塗布工程の後で、漆に紫外線を照射する工程90と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾表面を備えた加工品の製造方法に係り、特にドア・インパネ等のオーナメントに好適な加飾表面を備えた加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加飾表面を備えた加工品の製造方法については、写真等による水転写技術、特殊な塗料を用いる技術や、フィルム等を用いる技術などが知られている。
【0003】
特殊な塗料を用いる技術としては、例えば、被処理材の表面に着色剤を含有する放射線硬化性樹脂塗料を塗布して第1塗膜を形成する工程と、第1塗膜の未硬化状態において第1塗膜の表面に、透明な放射線硬化性樹脂塗料を塗布して第2塗膜を形成する工程と、放射線を照射して第1・第2塗膜を硬化させる工程を備えた技術が知られている(特許文献1)。
【0004】
上記特許文献1に提案の技術は、この発明方法によれば、高硬度で耐摩耗性に優れる放射線硬化性樹脂塗料による樹脂塗膜を被処理材の表面に強固に密着させることができ、第1塗膜を着色して第2塗膜を透明にしてあるので、深みのある着色効果が得られ、また色むらの防止を期待する技術である。
【0005】
また、フィルム等を用いる技術としては、例えば、剥離基材の表面に、重合性オリゴマー45〜100質量%および重合性モノマー0〜55質量%を含有する放射線硬化塗料を塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、塗膜に放射線を照射し、塗膜を硬化させて厚さ30〜300μmの基材層とする硬化工程と、剥離基材を剥離する剥離工程とを有する技術が提案されている(特許文献2)。
【0006】
上記特許文献2の技術は、本発明の化粧シートは、重合性オリゴマー45〜100質量%および重合性モノマー0〜55質量%を含有する放射線硬化塗料を硬化させてなる厚さ30〜300μmの基材層を有するので、金属板との密着性に優れ、これを貼り合わせた化粧金属板は、深絞り加工、曲げ加工、ロールフォーミング加工時、特に低温時に白化、割れが生じることがないという効果を期待するものである。
【特許文献1】特開平7−313925号公報(特許請求の範囲、段落0011)
【特許文献2】特開2005−81764号公報(特許請求の範囲、段落0012)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1は、特殊な塗料を用いる技術であり、特許文献2の技術は、化粧シート(或いはシート又はフィルム)を基材に貼り合わせる技術である。
【0008】
このように、写真等の転写技術、特殊な塗料を用いる技術や化粧シート(或いはシート又はフィルム)を貼り合わせる技術は、それなりに有効であるが、製造工程において、特別な材料や、貼り合せ工程などが必要であるという不都合があった。
【0009】
上記課題に鑑み、本発明の目的は、写真等の転写技術や特殊な塗料を必要とせず、フィルム等の貼り合わせを不要とした加飾表面を備えた加工品の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、加飾表面として、所望の柄を再現でき、かつ再現性が高く、深み感と上質な触り心地のある加飾表面を備えた加工品の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、基材上に形成した絞に塗装するだけで、加飾表面の柄を形成することのできる加飾表面を備えた加工品の製造方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、加飾表面を備えた加工品の最終仕上げに磨きを不要とした加飾表面を備えた加工品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、請求項1の加飾表面を備えた加工品の製造方法によれば、基材に絞を形成する絞付き基材の形成工程と、該絞付き基材の形成工程で形成された基材を脱脂する脱脂工程と、該脱脂工程の後で、第1の塗料を塗布する第1中塗り工程と、該第1中塗り工程の後で、半乾燥した状態で、第2の塗料を塗布する第2中塗り工程と、該第2中塗り工程の後で、乾燥させる乾燥工程と、該乾燥工程の後で、塗布面を研磨する研磨工程と、該研磨工程の後で、漆により仕上げ層を形成する仕上げ塗布工程と、該仕上げ塗布工程の後で、漆に紫外線を照射する工程と、を備えたこと、により解決される。
【0011】
本発明によれば、絞付き基材の形成工程と第1中塗り工程の後で、半乾燥した状態で、第2の塗料を塗布する第2中塗り工程と、第2中塗り工程の後で、乾燥させる乾燥工程と、該乾燥工程の後で、塗布面を研磨する研磨工程と、該研磨工程の後で、漆により仕上げ層を形成する仕上げ塗布工程と、該仕上げ塗布工程の後で、漆に紫外線を照射する工程というだけで、特殊な塗料やフィルムなどを使用することなく、加飾表面を備えた加工品を製造することが可能となる。
【0012】
より詳しくは、前記絞付き基材の形成工程は、ABS樹脂を射出成形することで、基材に絞を形成させると好適である。
【0013】
また、前記絞の深度が30μm〜50μmの範囲であると好適である。さらに、前記第1の塗料と第2の塗料の粒子が直径20μm〜30μmの範囲であると好適である。
【0014】
このように、絞の深度が30μm〜50μmの範囲であり、第1の塗料と第2の塗料の粒子が直径20μm〜30μmの範囲であるので、二度塗りで、絞の深度内を塗料が覆うと共に、基材全体を塗布でき、塗料の濃度が絞の深度部分ごとに異なることになり、可視光の反射が異なり、加飾表面を形成することが可能となる。
【0015】
また、漆に紫外線を照射する工程の後で、少なくとも2日以上養生をする工程を行なうとよい。さらに前記第1中塗り工程から前記第2の塗料を塗布する第2中塗り工程との間は、60分以内の半乾燥した状態とする半乾燥工程を行なうとよい。また第2中塗り工程の後で、乾燥させる乾燥工程は、1時間〜3時間の間で強制的に乾燥させると好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の加飾表面を備えた加工品の製造方法によれば、絞深度を調整することで木目柄など表面加飾を、特殊な塗料を用いることなく、基材の絞の隠蔽度を調整した一般的な塗料で色の濃淡を調整(塗料の濃度が絞の深度部分ごとに異なる)することが可能となり、深み感(視覚)と上質な触り心地(触覚)を融合した加飾表面である柄を表現することが可能である。特に、絞の深度が30μm〜50μmの範囲として、塗料の粒子が直径が20μm−30μmとすることで、2回塗りで表現でき、最終仕上げのときに磨きをしなくても済む。
【0017】
このように、本発明の加飾表面を備えた加工品の製造方法によれば、写真等の転写技術や特殊な塗料を必要とせず、フィルム等の貼り合わせを不要とし、基材上に形成した絞に塗装するだけで、再現性が高く、深み感と上質な触り心地のある加工品を製造できる。
また本発明によれば、加飾表面を備えた加工品の最終仕上げに磨きを不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることはもちろんである。
図1及び図2は本発明の加飾表面を備えた加工品の製造方法を示すものであり、それぞれ工程を示す説明図である(なお、図2は模式的に示した)。
【0019】
本発明に係る加飾表面を備えた加工品として、車両用ドアに用いられる木目調の部分を例として説明するが、車両用インパネを含む各種部材、家具類などで加飾表面があるものであれば、加工品の種類は特に限定されないものであり、木目調も、玉杢柄、イチイ柄、ガルーシャ柄(エイ革柄)、異なる絞の複合などであってもよいものである。
【0020】
本実施形態における加飾表面を備えた加工品の製造方法は、絞付き基材Kの形成工程10と、脱脂工程20と、第1中塗り工程30と、半乾燥工程40と、第2中塗り工程50と、乾燥工程60と、研磨工程70と、仕上げ塗布工程80と、漆に紫外線を照射する工程90と、養生をする工程100と、を備えている。
【0021】
本実施形態の絞付き基材Kの形成工程10は、ABS樹脂を射出成形することで、基材Kに絞Cを形成させるものであり、絞Cの深度が30μm〜50μmの範囲になるように形成する。なお、絞Cの形成としての射出成形は公知の技術で行なうことができる。
【0022】
本実施形態の脱脂工程20は、上記絞付き基材Kの形成工程10で形成された基材Kを脱脂するものである。これによって、次の工程である第1中塗り工程30で塗布された第1の塗料F1が基材Kの絞Cと密着して接合できるようにしている。なお、図示はされていないが、脱脂工程20の後で、一時間以下の乾燥を行なう。
【0023】
本実施形態の第1中塗り工程30は、上記脱脂工程20の後で行なうものであり、脱脂が行なわれ、乾燥した絞Cが形成された基材Kに、スプレーガンGで、第1の塗料(層)F1を均等に塗布するものである。この第1中塗り工程30では、本実施形態では春慶色の通常使用される公知の塗料を塗布するもので、木目(凹凸)が表現できるように、絞深度の途中の位置まで、塗布するように構成している。特に、隠蔽度を調整した塗料で、色の濃淡を調整して、絞Cの深度内に入り込み柄を表現できるようにしている。
【0024】
つまり、第1中塗り工程30では、第1の塗料(層)F1と後述する第2の塗料(層)F2の粒子が直径20μm〜30μmの範囲としている。つまり、基材Kに形成された絞Cの深度が30μm〜50μmの範囲であるため、第1の塗料(層)F1が絞Cの深度内に入り、表面には、絞Cの溝が残存している状態となる。
【0025】
本実施形態の第2中塗り工程50は、上記第1中塗り工程30の後で、第2の塗料(層)F2を、第1の塗料(層)F1の上に、スプレーガンGで塗布するものである。
このとき、第1中塗り工程30と第2中塗り工程50の間に、半乾燥工程40によって、第1中塗り工程が半乾燥した状態となるようにする。
この第1中塗り工程30から第2の塗料(層)F2を塗布する第2中塗り工程50との間は、60分以内、好ましくは20分程度の半乾燥した状態としている。本実施形態の第2中塗り工程50は、半乾燥工程40の後で、行なうものであり、第1の塗料(層)F1の上層に塗布するものである。
【0026】
次に、第2中塗り工程50の後で、本実施形態では乾燥工程60を行なう。この第2中塗り工程50の後で行なう乾燥させる乾燥工程60は、1時間〜3時間の間で強制的に乾燥させるものである。ここでの乾燥は、次の研磨工程70で、表面研磨を行なうときに耐えられるまで強制乾燥を行なうものである。
【0027】
上記乾燥工程60の後で、研磨工程70を行なうが、本実施形態の研磨工程70は、第2の塗料F2の塗布面を研磨するものである。研磨は公知のサンダーSによって行なうものであり、この研磨により次の仕上げ塗布工程80で行なう漆を塗布する塗布面の平滑化と同時に密着性を上げるために行なうものである。
【0028】
本実施形態の仕上げ塗布工程80は、上記研磨工程70の後で、漆により仕上げ層F3を形成するものである。漆は、天然漆、合成漆の何れでもよいが、本実施形態では、紫外線で乾燥硬化する合成漆を用いている。この仕上げ塗布工程80では合成のUV漆を1回だけスプレーガンGで塗布するものであり、その厚さ100μmの厚さとしている。なお、本実施形態では、次の漆に紫外線を照射する工程90の前に、アニール処理を行なっている。
【0029】
本実施形態の漆に紫外線を照射する工程90は、上記仕上げ塗布工程80の後で、漆に紫外線を照射するものである。
【0030】
そして、最後に、本実施形態の養生をする工程100は、漆に紫外線を照射する工程90の後で、少なくとも2日以上、好ましくは3日間養生をするものである。
【0031】
以上のようにして形成した加飾表面を備えた加工品としての車両用ドアに用いられる木目調の部分では、深み感(高い屈折率)とソフトな触感(保湿性)の両立を漆で達成することができたものである。つまり、絞Cに塗装するだけで柄を再現することができたものであり、多様なデザイン柄にも対応することができたものである。
【0032】
以上のように、加飾表面を備えた加工品の製造方法によれば、絞Cの深度を調整することで、二度塗りと、仕上げ塗布だけで、木目表現ができ、作業量、材料ロスなどが少なく、コストが低減化する。
【0033】
次に、絞Cの深さ、25μm(エッチング絞限界深度)、30μm、40μm、50μm、60μm、80μmについて、塗料を塗装するだけで柄を再現するために、見栄えの良さを評価し、絞深度限界を試験した(表1参照)。見栄えは、表面段差、絞鮮明度、塗料使用量、適した絞柄について観察した。
なお、塗料の粒子が直径20μm〜30μmの範囲であり、絞Cの深さに応じて、塗料が絞Cを埋めて表面に被覆するように塗布した。このため、絞Cの深さに応じて、塗布回数を変更している。
【0034】
【表1】

【0035】
備考:◎:最も適している、○:適している、×:適していない
注1:模様が見えにくくなったので色を変えて確認
注2:玉杢柄−イチイ柄−ガルーシャ柄は、ファジーな表現〜絞感くっきりに至るもので、イチイ柄が絞鮮明度が高かった。
上記表1で判明するように、40±10μで適宜な塗料使用で絞の明暗や細部の微妙なグラデーションも表現できかつ段差なく仕上げることができた。このように、触感の良さを定量値で表現できた。
【0036】
本発明の加飾表面を備えた加工品の製造方法は、車両用ドア、インパネ等のオーナメントを製造するときに好適に用いられるものであり、より広くは、車両用内装全般、家具類、家電製品の加飾表面、建物の内装の加飾表面など、様々な用途に用いられる加飾表面を備えた加工品に広く展開可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の加飾表面を備えた加工品の製造方法の工程を示す説明図である。
【図2】本発明の加飾表面を備えた加工品の製造方法の工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
10 絞付き基材の形成工程
20 脱脂工程
30 第1中塗り工程
40 半乾燥工程
50 第2中塗り工程
60 乾燥工程
70 研磨工程
80 仕上げ塗布工程
90 漆に紫外線を照射する工程
100 養生をする工程
K 基材
C 絞
G スプレーガン
S サンダー
F1 第1の塗料(層)
F2 第2の塗料(層)
F3 仕上げ層(仕上げ塗料:漆)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に絞を形成する絞付き基材の形成工程と、
該絞付き基材の形成工程で形成された基材を脱脂する脱脂工程と、
該脱脂工程の後で、第1の塗料を塗布する第1中塗り工程と、
該第1中塗り工程の後で、半乾燥した状態で、第2の塗料を塗布する第2中塗り工程と、
該第2中塗り工程の後で、乾燥させる乾燥工程と、
該乾燥工程の後で、塗布面を研磨する研磨工程と、
該研磨工程の後で、漆により仕上げ層を形成する仕上げ塗布工程と、
該仕上げ塗布工程の後で、漆に紫外線を照射する工程と、
を備えたことを特徴とする加飾表面を備えた加工品の製造方法。
【請求項2】
前記絞付き基材の形成工程は、ABS樹脂を射出成形することで、基材に絞を形成させてなることを特徴とする請求項1に記載の加飾表面を備えた加工品の製造方法。
【請求項3】
前記絞の深度が30μm〜50μmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の加飾表面を備えた加工品の製造方法。
【請求項4】
前記第1の塗料と第2の塗料の粒子が直径20μm〜30μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の加飾表面を備えた加工品の製造方法。
【請求項5】
前記漆に紫外線を照射する工程の後で、少なくとも2日以上養生をする工程を含むことを特徴とする請求項1記載の加飾表面を備えた加工品の製造方法。
【請求項6】
前記第1中塗り工程から前記第2の塗料を塗布する第2中塗り工程との間は、60分以内の半乾燥した状態とする半乾燥工程を含むことを特徴とする請求項1記載の加飾表面を備えた加工品の製造方法。
【請求項7】
前記第2中塗り工程の後で、乾燥させる乾燥工程は、1時間〜3時間の間で強制的に乾燥させてなることを特徴とする請求項1記載の加飾表面を備えた加工品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−240991(P2009−240991A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92845(P2008−92845)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000220066)テイ・エス テック株式会社 (625)
【Fターム(参考)】