説明

動力伝達装置及び作業車両

【課題】作業車両の車輪を駆動する動力伝達装置の占めるスペース、特に動力伝達装置の車輪軸方向のスペースを縮小する。
【解決手段】フォークリフト(作業車両)16の前輪(車輪)18を駆動する動力伝達装置Pt1において、回転出力を取り出すためのロータ20、及び磁場を形成するためのコイル32が巻回されたステータ22を有するIPMモータ10と、ロータ20と一体的に回転するモータ軸26の回転を制動するブレーキ機構12と、を備え、ブレーキ機構12が、複数の摩擦板34からなる多板式制動部36を有し、且つ摩擦板34の全部(または少なくとも一部)が、コイル32のコイルエンド32Aの半径方向内側に収められている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両、及び該作業車両の車輪を駆動する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に、フォークリフト(作業車両)の車輪を駆動する動力伝達装置が開示されている。この特許文献1において開示されているフォークリフトは、車輪を駆動するための動力伝達装置として、モータ、該モータの回転を減速する減速機、及び車輪の回転を制動するブレーキ機構を備えている。減速機は、3段の平行軸減速機構によって構成されている。ブレーキ機構は、モータのロータを該モータの反負荷側に延長し、この反負荷側に延長されたロータに対してディスクブレーキ装置を組み込んだ構成とされている。
【0003】
また、特許文献2には、1段の平行軸減速機構及び単純遊星歯車減速機構からなる減速機を備える共に、前記平行軸減速機構の部分にブレーキ機構を配置した湿式ブレーキ内蔵トランスファ付きのフォークリフトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−291773号公報(図4)
【特許文献2】特開2010−159794号公報(図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フォークリフトにおいては、大型のバッテリのほか、フォークの積み荷を上げ下げするための油圧ポンプ、タンク等の付属物が多く、そのため、限られたスペースを有効に使わないと、フォークリフト全体がいたずらに大きくなってしまう。そのため、車輪を駆動する動力伝達装置も、できるだけ(車輪に近い)小さなスペース内に収めたいという要請が強い。
【0006】
一方、フォークリフトの場合、前輪の前方に積み荷を上げ下げするためのフォークがあることから、フォークリフトの重心より後側にカウンタバランス(カウンタウェイト)を配置した構造とされている。カウンタバランスの大きさを小さくするためには、フォーク及びフォークに積載される積み荷の重心をできるだけ前輪の接地位置に近づけなければならない。この観点で、フォークリフトの車輪の径は小さいほどよい。それにも拘わらず、フォークに搭載される積み荷の大重量を支えるためには、車輪のタイヤ(ゴムの部分)自体の容積は大きく確保されなければならない。そのため、車輪の半径方向内側のスペースは非常に小さいというのが実情である。そのため、フォークリフトの車輪を駆動する動力伝達装置は、前述した特許文献1、2を含め、事実上、車輪の軸方向外側に配置されており、結果として大きな収容スペースを必要としていた。
【0007】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであって、フォークリフトを含む作業車両の車輪を駆動する動力伝達装置の占めるスペース、特に動力伝達装置の車輪軸方向のスペースを縮小することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、作業車両の車輪を駆動する動力伝達装置であって、回転出力を取り出すためのロータ、及び磁場を形成するためのコイルが巻回されたステータを有するモータと、前記ロータと一体的に回転する軸の回転を制動するブレーキ機構と、を備え、前記ブレーキ機構が、複数の摩擦板からなる多板式制動部を有し、且つ少なくとも、前記摩擦板の一部が、前記コイルのコイルエンドの半径方向内側に収められている構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0009】
本発明においては、作業車両の車輪を駆動する動力伝達装置において、特にブレーキ機構の配置に着目した。ブレーキ機構を、例えばモータのロータの中に組み込むことができれば、その分、動力伝達装置の軸方向の寸法を短縮できる可能性がある。しかし、IPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)のように、ロータの内側に磁石を埋め込むタイプのモータや、誘導機のように板材を積層して形成されたロータを用いるタイプのモータでは、モータのロータの半径方向内側のスペースは使えない。また、ロータの内側では、固定側の摩擦板の配置の設計が難しく、結果として必ずしもブレーキ機構全体の占有容積の縮小に繋がらない。
【0010】
しかしながら、コイルが巻回されたステータを有するモータの場合、コイルエンドの半径方向内側は、コイルを巻くために、ステータ本体から該コイルがオーバーハングした分、「所定のスペース」が存在する。このコイルエンドの半径方向内側位置は、ステータ本体自体が固定された状態にあるため、後述するように固定部材側の摩擦板と回転部材側の摩擦板の組み込みが比較的容易なことから、摩擦板を多板とする設計が容易である。このため、(コイルエンドの半径方向内側に収めるために)摩擦板の半径方向の大きさを大きくとれないという不利な点は、摩擦板を多板とすることで解決できる。
【0011】
本発明では、この点に着目し、ブレーキ機構を、半径方向寸法を小さくすることのできる複数の摩擦板からなる多板式の制動部を有した構成とすると共に、該ブレーキ機構の少なくとも摩擦板の一部を、このコイルエンドの半径方向内側のデッドスペースに配置するようにした。
【0012】
本発明によれば、結果としてブレーキ機構全体の占める容積を最小にすることができ、且つ、コイルエンドの半径方向内側のスペースを有効利用できた分、動力伝達装置の占有スペース、特に車輪軸方向の占有スペースを小さくすることができる。
【0013】
なお、本発明は、フォークリフト特有の課題を解消するためになされたものであり、フォークリフトに適用した場合に顕著な効果が得られるが、創案された構成は、結果として、車輪周りの構成に関して同様の事情を有する「作業車両」に広く適用することができ、同様な作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、作業車両の車輪を駆動する動力伝達装置の占めるスペース、特に動力伝達装置の車輪軸方向のスペースを縮小することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の一例に係る動力伝達装置がフォークリフトの車輪の駆動に適用されている構成を示す断面図
【図2】図1の動力伝達装置のブレーキ機構付近の要部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る動力伝達装置がフォークリフトの車輪の駆動に適用されている構成を示す断面図、図2は、そのブレーキ機構付近の要部拡大断面図である。
【0018】
この動力伝達装置Pt1は、IPMモータ10、ブレーキ機構12、減速機14、を備え、フォークリフト(作業車両:全体は図示略)16の前輪(車輪:図1は片側のみ図示)18を片方ずつ独立して駆動するために用いられている。
【0019】
前記IPMモータ10は、回転出力を取り出すためのロータ20及びステータ22を有している。ロータ20は、複数の板材(プレート)20Aが積層されたものであり、ロータ20内には永久磁石21が埋め込まれている。永久磁石21がロータ20内に埋め込まれているIPMモータ10は、SPMモータ(永久磁石がロータの表面に張り付けられているタイプのモータ)に比べて効率が高く(小型で出力が高く)、フォークリフトの駆動用モータとして適している。ロータ20を構成している複数の板材20Aは、ボルト24によって一体化され、図示せぬ係合部を介してモータ軸(ロータ20と一体的に回転する軸)26と一体化されている。
【0020】
図2を合わせて参照して、前記ステータ22のステータ本体22Aは、モータケーシング30に固定されている。ステータ本体22Aには、磁場を形成するためのコイル32が巻回されている。コイル32は、巻回のための折り返しの部分が「コイルエンド32A」として、ステータ本体22Aの軸方向端部22A1から軸方向に寸法L1だけ突出している。また、この実施形態においては、コイルエンド32Aの一部(図1、2における寸法L2で示した部分)が、前輪18の半径方向内側に収まっている。
【0021】
前記ブレーキ機構12は、モータ軸(ロータ20と一体的に回転する軸)26の回転を制動する。ブレーキ機構12は、ステータ22に巻回されているコイル32のコイルエンド32Aの半径方向内側に収められており、複数の摩擦板34を有する多板式制動部36を備える。この実施形態では、該多板式制動部36の全てがコイルエンド32Aの半径方向内側に収められている。
【0022】
多板式制動部36の摩擦板34は、複数(図示の例では4枚)の固定摩擦板34Aと、複数(図示の例では3枚)の回転摩擦板34Bとで構成されている(多板構成)。固定摩擦板34Aは、IPMモータ10のモータケーシング30の一部を構成するモータカバー11の突起部11Aに組み込まれ、貫通ピン38によって円周方向に固定されると共に、該貫通ピン38に沿って軸方向に移動可能とされている。貫通ピン38は、モータカバー11のプレート部11Bと、該モータカバー11の前記突起部11Aの先端にボルト39を介して固定された制動部プレート41とによって固定・支持されている。各固定摩擦板34Aの間には、ばね40が介在されている。
【0023】
一方、回転摩擦板34Bは、ロータ20と一体的に回転するモータ軸26側に組み込まれ、該モータ軸26と一体的に回転可能である。モータ軸26の外周には軸方向に沿ってスプライン26Aが形成されており、該回転摩擦板34Bの内周端34B1が該スプライン26Aと係合している。これにより、回転摩擦板34Bは、モータ軸26と該スプライン26Aを介して円周方向に一体化されると共に(一体回転可能とされると共に)モータ軸26の軸方向に沿って移動可能である。回転摩擦板34Bの表面には、摩擦シート34B2が接着・固定されている。
【0024】
この実施形態に係るブレーキ機構12には、油圧機構42が付設されている。油圧機構42はシリンダ44及び該シリンダ44内で摺動するピストン45を備える。ピストン45は、固定摩擦板34Aの軸方向側部に位置しており、フォークリフト16の作業者が制動操作を行ったときに油路46を介してシリンダ44内に供給される圧油によって駆動され、最も軸方向負荷側に位置する固定摩擦板34Aを反負荷側に押圧可能である。
【0025】
図1に戻って、モータ軸26は、前輪18の軸方向ほぼ中央付近にまで伸在され、ここで前記減速機14の中空の入力軸52と前記スプライン26Aを介して連結されている。減速機14は、その全体が前輪18の半径方向内側に収められている。この実施形態に係る減速機14は、内歯歯車56及び該内歯歯車56に揺動しながら内接する外歯歯車54を備える「揺動内接噛合型」と称される遊星歯車減速機構53を有している。以下、減速機14の遊星歯車減速機構53について具体的に説明する。
【0026】
減速機14の入力軸52には、該入力軸52と軸心のずれた2つの偏心体58が一体に形成されている。偏心体58の外周には、それぞれころ60を介して(2枚の)前記外歯歯車54が揺動可能に組み込まれている。外歯歯車54が2枚組み込まれているのは、必要な伝達容量を確保するためである。両外歯歯車54は、それぞれ揺動の位相が180度ずれているが、入力軸52及び内歯歯車56に対しては、同一の動き(揺動)を行う。外歯歯車54は内歯歯車56の内側で揺動しながら該内歯歯車56に内接噛合している。内歯歯車56は、車輪ケーシング62と一体化された内歯歯車本体56Aと、内歯を構成する外ピン56Bとによって構成されている。外ピン56Bは、一対のニードル軸受64を介して内歯歯車本体56A(車輪ケーシング62)に回転自在に組み込まれている。内歯歯車56の内歯の歯数(外ピン56Bの数)は、外歯歯車54の外歯の歯数よりも僅かだけ(この実施形態では1だけ)多い。なお、車輪ケーシング62は、ボルト66によってモータカバー11及びモータケーシング30と一体化され、フォークリフト16の車体側(図示略)に固定されている。
【0027】
外歯歯車54には、それぞれ貫通孔68が円周方向に複数形成されている。貫通孔68には、ハブ70から軸方向に突出されたハブピン72が隙間を有して貫通(遊嵌)している。各ハブピン72は、ボルト74によってキャリヤ体76と一体化されている。
【0028】
この実施形態では、ハブ70が減速機14の出力軸に相当している。ハブ70にはスプライン80を介してハブプレート82が連結されている。前輪18は、ボルト83及び車輪プレート85を介して該ハブプレート82に連結されている。ハブプレート82、ハブ70、及びキャリヤ体76が一体化された大きなハブブロック84は、全体として前輪18の車軸を構成している。ハブブロック84は、一対のアンギュラ玉軸受86、88によって車輪ケーシング62に回転可能に支持されている。なお、符号90はハブプレート82がハブ70から抜けるのを防止するための抜け止めナットである。
【0029】
この実施形態では、IPMモータ10のロータ20、該ロータ20と一体的に回転するモータ軸26、ブレーキ機構12の摩擦板34、減速機14の入力軸52、減速機14の出力軸を構成するハブ70、更には前輪18の車軸を構成するハブブロック84が、全て同軸とされ、単一の軸線X1周りに配置されている。
【0030】
また、本実施形態においては、IPMモータ10及びブレーキ機構12は、共に湿式で構成され、且つ、IPMモータ10、ブレーキ機構12、及び減速機14の内部がオイルシール92(及びシールリング96A〜96C等)によって密閉された単一の空間P1とされている(すなわち、IPMモータ10、ブレーキ機構12、及び減速機14の内部空間が連通している)。この空間P1には、単一の(同一の)オイルが封入されている。
【0031】
次に、この動力伝達装置Pt1の作用を説明する。
【0032】
IPMモータ10のロータ20が回転すると、該ロータ20と一体化されているモータ軸26が回転する。モータ軸26が回転すると、該モータ軸26のスプライン26Aを介して連結されている減速機14の入力軸52が回転する。この結果、入力軸52の外周に一体的に形成されている偏心体58が偏心回転し、ころ60を介して外歯歯車54が揺動し、該外歯歯車54が内歯歯車56の内側で内歯歯車56と内接噛合する。
【0033】
この実施形態では、外歯歯車54の外歯の数は、内歯歯車56の内歯の歯数(外ピン56Bの数)よりも1だけ少なく、且つ、内歯歯車本体56Aが車輪ケーシング62と一体化されて固定状態を維持している。このため、外歯歯車54は(入力軸52が1回回転したことによって)1回揺動する度に、内歯歯車56に対して1歯分だけ位相がずれる(自転する)ことになる。この外歯歯車54の動きは、その揺動成分が外歯歯車54の貫通孔68とハブピン72との隙間によって吸収され、自転成分のみがハブピン72を介してハブ70(及びキャリヤ体76)から取り出される。ハブ70の回転は、スプライン80を介してハブプレート82に伝達され、ボルト83及び車輪プレート85を介して前輪18に伝達される。
【0034】
ここで、図2を参照してブレーキ機構12の作用を説明する。
【0035】
フォークリフト16の作業者が制動操作を行うと、油圧機構42の油路46を介してシリンダ44内に圧油が供給され、ピストン45がシリンダ44内を(図2の左方向)に移動する。この結果、一番負荷側に位置する固定摩擦板34Aが、該ピストン45に押されて軸方向反負荷側に移動する。すると、ばね40が圧縮され、複数の固定摩擦板34Aと回転摩擦板34Bが次々に強い力で接触する。固定摩擦板34Aは、(固定状態にある)モータカバー11に組み込まれていて貫通ピン38を介して円周方向に固定されており、回転摩擦板34Bは、モータ軸26に組み込まれていてスプライン26Aを介して該モータ軸26と円周方向に一体化されている。そのため、固定摩擦板34Aと回転摩擦板34Bが(回転摩擦板34Bに接着・固定された摩擦シート34B2を介して)強く接触することによって、モータ軸26の制動作用がなされる。
【0036】
作業者が制動操作を止めると、シリンダ44内の圧油の供給が停止されるため、ばね40の復元力により、各固定摩擦板34Aは、元の(制動操作がなされる前の)軸方向位置に復帰する。これに伴って回転摩擦板34Bも元の軸方向位置に復帰し、固定摩擦板34Aと回転摩擦板34Bの接触が解かれて制動が中止される。
【0037】
この実施形態に係る動力伝達装置Pt1によれば、ブレーキ機構12が複数の摩擦板34からなる多板式制動部36を有し、且つ、該複数の摩擦板34の全てがIPMモータ10のコイル32のコイルエンド32Aの半径方向内側に収められている。このため、多板とすることによって径の小さな摩擦板34であっても必要な制動力を確保しつつ、ブレーキ機構12をコイルエンド32A内の極めて小さなスペース内に収めることができている。この結果、前輪18の内側空間が小さいという事情を有するフォークリフト16の該前輪18の内側空間にIPMモータ10やブレーキ機構12の一部を収めることができ、フォークリフト16の車体側の空間をより広く確保することができる。すなわち、駆動源に高出力で小型のIPMモータ10が採用されていることと相まって、動力伝達装置Pt1の占有スペース、特にその軸方向寸法L5の短縮化が可能となっている。
【0038】
コイルエンド32A内のスペースは、固定部材である(モータケーシング30の一部を構成する)モータカバー11とも、制動すべき部材であるロータ20と一体的に回転するモータ軸26とも近く、固定摩擦板34A、回転摩擦板34Bの双方が配置し易いため、多板構成を容易に採りやすいという位置的メリットが得られることも大きい。何よりも、IPMモータ10のロータ20が板材20Aを積層した構成とされ、且つ、ロータ20内に永久磁石が埋め込まれていること等からロータ20内のスペースを利用できない構造でありながら、IPMモータ10内のスペースを有効利用できる効果は大きい。
【0039】
本実施形態により、動力伝達装置Pt1の占有スペースを小さくできた分、フォークリフト16に必須の他の付属機器、例えば図示せぬフォークを駆動するための油圧ポンプやタンク、あるいはバッテリ等の付属機器のためのスペースをより大きく確保することができる。付属機器のためのスペースが同一で良い場合には、フォークリフト全体の大きさをより小さくすることができる。
【0040】
また、上記実施形態においては、減速機14の減速機構として、例えば従来の特許文献1、2で採用されていたような3段の平行軸減速機構、或いは、平行軸減速機構と単純遊星減速機構を組み合わせたような多段で且つ回転軸が複数存在するような減速機構ではなく、揺動内接噛合型の遊星歯車減速機構53を1段のみ備えた構成を採用している。このため、IPMモータ10のロータ20、該ロータ20と一体的に回転するモータ軸26、ブレーキ機構12の摩擦板34、減速機14の入出力軸52、70、及び車輪18のハブブロック84(車軸)を、全て同じ軸線X1周りに配置でき、IPMモータ10、ブレーキ機構12、減速機14、及びハブブロック84の全てをIPMモータ10のモータケーシング30の外径と殆ど変わらない径方向寸法に収めることができる。この結果、前輪18の直径d1の小型化が実現されている。フォークリフト16においては、前輪18の直径d1を小型化できると、該前輪18の接地位置からフォーク上の積み荷の重心までの距離をそれだけ短くできるようになるため、同一のフォーク積載重量を確保しつつ、カウンタバランスの重量をより小さくできるようになるという大きなメリットが得られるようになる。
【0041】
また、この実施形態では、ブレーキ機構12が湿式とされており、該ブレーキ機構12の摩擦板34の全てをコイルエンド32Aの半径方向内側に収めることができているメリットも大きい。更に、ブレーキ機構12のみならず、IPMモータ10も湿式とされ、しかも、IPMモータ10、ブレーキ機構12、及び減速機14内の各空間を同一の(単一の)空間P1とした上で、この同一の空間P1に同一のオイルが封入されているため、当該各空間を仕切るための壁部材が不要であり、この点も重量軽減及び寸法の縮小に寄与している。また、オイルシール92の数(すなわちシールすべき箇所の数)も少なくなるため、部品点数が少なくなるだけでなく、オイル漏れの原因となる箇所も低減でき、それだけメンテナンスが容易となる。また、大きな空間に多量のオイルが封入されることになるため、冷却効果も高い。
【0042】
なお、上記実施形態においては、モータとして、IPMモータを採用していたが、例えば、IPMモータのほか、積層ロータのSPMモータ、誘導モータなどでも、ロータの内側を利用するのが困難という事情があり、本発明を適用することによってスペース的なメリットを得ることができる。また、本発明のモータは、ロータの内側を利用するのが困難なモータであればよく、積層ロータのモータに限らない。
【0043】
また、上記実施形態においては、減速機の減速機構として、1段の揺動内接噛合型の遊星歯車減速機構を採用していたが、本発明に係る減速機の減速機構は、特に限定されるものではなく、例えば、単純遊星歯車減速機構や平行軸歯車減速機構であってもよく、また、これらの組み合わせであってもよい。すなわち、必ずしも入力軸と出力軸が同軸の1段の減速機構である必要はなく、多軸あるいは多段の減速機構であってもよい。
【0044】
また、上記実施形態においては、摩擦板は全てモータのコイルエンドの半径方向内側に収められていたが、摩擦板の一部のみがコイルエンドに収められる構成であってもよい。逆に、摩擦板以外の部分、例えば油圧シリンダ部の一部がコイルエンド内に収められている構成であってもよい。
【0045】
また、上記実施形態においては、モータのコイルエンドの一部が車輪の半径方向内側に収められていたが、もちろん、コイルエンドの全てが車輪の半径方向内側に収められていても良い。尤も、本発明においては、モータのコイルエンドは、必ずしも車輪の内側に収められている必要はなく、その全てが車輪の外側に配置されていても良い。
【0046】
また、上記実施形態においては、モータ、ブレーキ機構及び減速機の全てにオイルが封入され、3者全てが湿式とされていたが、ブレーキ機構やモータは乾式であってもよい。更には、上記実施形態においては、モータ、ブレーキ機構及び減速機の内部空間が連通しており、同一のオイルが封入される構成とされていたが、このうちの2者、あるいは3者が、それぞれ別々の空間に収められるようにしてもよい。この場合には、それぞれの空間ごとに最適の特性を有するオイルを封入することができる。
【0047】
また、上記実施形態においては、モータのロータ、ロータと一体的に回転する軸、ブレーキ機構の摩擦板、減速機の入出力軸、及び車輪の回転軸を、全て同軸に配置するようにしていた、この同軸の配置構成も本発明においては必ずしも必須の構成ではない(各構成要素の軸心は、ずれていてもよい)。
【0048】
本発明は、フォークリフトに適用した場合に最も顕著な効果を得ることができるが、フォークリフトのほか、例えば建設用、土木用或いは運搬用の作業機械等を搭載した各種作業車両においても、車輪の外径は小さくしたいが、大重量の積荷や土砂を取り扱うためにタイヤ(ゴムの部分)の部分の容積は大きく確保したいという事情が同様に存在する。そして、これらの作業機械においても、本発明を適用することにより、径の小さな車輪の径方向内側に効率的に動力伝達装置のブレーキ機構やモータの一部を収められるようになるという、同様の作用効果を得ることができる。したがって、本発明の適用対象は、フォークリフトのみに限定されない。
【0049】
また、作業車両の中には、例えば建設機械の油圧ショベルのように、車輪の代わりにクローラを用いて走行するものも多いが、車輪駆動とクローラ駆動の相違は、本発明においては、本質的な相違ではなく、本発明は双方の駆動形態に適用可能である。したがって、本発明の「車輪を駆動する」の概念には、「クローラを駆動する」の概念が含まれる。
【符号の説明】
【0050】
Pt1…動力伝達装置
10…IPMモータ
12…ブレーキ機構
14…減速機
16…フォークリフト
18…前輪
20…ロータ
22…ステータ
26…モータ軸
30…モータケーシング
32…コイル
32A…コイルエンド
34…摩擦板
36…多板式制動部
41…制動部プレート
42…油圧機構
44…シリンダ
46…油路
52…入力軸
53…遊星歯車減速機構
54…外歯歯車
56…内歯歯車
62…車輪ケーシング
70…ハブ(減速機の出力軸)
84…ハブブロック(車軸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両の車輪を駆動する動力伝達装置であって、
回転出力を取り出すためのロータ、及び磁場を形成するためのコイルが巻回されたステータを有するモータと、
前記ロータと一体的に回転する軸の回転を制動するブレーキ機構と、を備え、
前記ブレーキ機構が、複数の摩擦板からなる多板式制動部を有し、且つ少なくとも、前記摩擦板の一部が、前記コイルのコイルエンドの半径方向内側に収められている
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ロータが、板材を積層して形成されたものである
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記ブレーキ機構が、湿式である
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記モータ、ブレーキ機構及び減速機の全てにオイルが封入されている
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記モータ、ブレーキ機構及び減速機の内部空間が連通しており、同一のオイルが封入されている
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記複数の摩擦板の全てが、前記コイルエンドの半径方向内側に収められている
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記モータの前記ロータ、該ロータと一体的に回転する前記軸、該軸を制動する前記ブレーキ機構の前記摩擦板、及び前記減速機の前記入出力軸が、全て同軸に配置されている
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、
前記ロータと一体的に回転する軸の回転を減速する減速機を備え、
該減速機の減速機構が、内歯歯車の内側で外歯歯車が揺動しながら該内歯歯車に内接噛合すると共に、入力軸と出力軸が同軸の1段の揺動内接噛合型の遊星歯車減速機構で構成される
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載された動力伝達装置を備えた作業車両であって、
前記モータの前記コイルエンドの少なくとも一部が、前記車輪の半径方向内側に収まっている
ことを特徴とする作業車両。
【請求項10】
請求項9において、
前記ロータと一体的に回転する軸の回転を減速すると共に、入力軸と出力軸が同軸の減速機を備え、
前記モータの前記ロータ、前記ロータと一体的に回転する軸、前記ブレーキ機構の前記摩擦板、前記減速機の前記入出力軸、及び前記車輪の車軸が、全て同軸に配置されている
ことを特徴とする作業車両。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−182917(P2012−182917A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44407(P2011−44407)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】