説明

半導体トランスデューサー及び電子供与体又は電子受容体種を検出するためのセンサーにおけるその使用

本発明は、半導体トランスデューサー、及び電子供与体又は電子受容体種を検出するためのセンサーにおけるその使用に関する。このトランスデューサーは、絶縁性基材の表面上に2つの電極及び半導体感応素子が設けられて成る。前記感応素子は、導電性がCである半導体分子材料M1の層及び導電性がCであり且つ禁止帯の幅Eg2が1eV未満である半導体分子材料M2の層から成る。材料M1の層は、電極に接続される。材料M2の層は、材料M1の層上に積層され、電極に接続されない。前記の導電性は、C/C≧1となるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体トランスデューサー、及び電子供与体又は電子受容体種を検出するためのセンサーにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス分子を検出するための様々なデバイス、特にレジスター、トランジスター又はダイオードタイプの半導体トランスデューサーを含むものが知られている。
【0003】
様々なタイプの半導体材料を有する多くのタイプのダイオードがあり、その内の数例は化学センサーとして用いられている。特に、R. Dobulans、J. Latvels、I. Muzikante、E. Fonavs、A. Tokmakov及びM. Bouvetは、 pタイプ及びnタイプの2つの異なる分子材料によって2つの半導体層が形成されたダイオードを開示している["Molecular diode for gas sensing", Proceedings of the NENAMAT Mobilization Workshop "Nanomaterials and Nanotechnologies", 30-31 March, Riga, 2005, 130]。しかしながら、このデバイスの幾何学構造及び操作は、化学センサーとしてのその使用のために最適なものとはなっておらず、そしてその操作は複雑である。
【0004】
M. Bouvet及びA. Paulyは、レジスタータイプ又は電界効果トランジスタータイプのトランスデューサーであって、感応(sensible)素子が電気活性分子材料であるものを報告している(Encyclopedia of Sensors, Editors C.A. Grimes, E.C. Dickey and M.V. Pishko, Vol. 6, pp. 227-269)。斯かる材料は特に、J. Simon、J.-J. Andre及びA. Skoulios("Molecular Materials. I: Generalities", Nouv. J. Chim., 1986, 10, 295-311)並びにJ. Simon及びP. Bassoul("Design of Molecular Materials", Wiley, Chichester, 2000)により報告されている。
【0005】
電界効果トランジスターは、次の層の連続によって構成される:導電性基板(例えばドープされたSi);絶縁層(例えばSiO2又はSi34);及び金属モノフタロシアニン(MPc)の層。MPc層はソース電極及びドレイン電極に接続され、導電性基板はゲート電極に接続される。MPc層は感応層と測定電流が流れる材料との両方を構成し、該電流はゲート電極によって加えられる電圧によって変調される。前記分子材料は、半導体ポリマー、フタロシアニン(置換又は非置換)、ポルフィリン(置換又は非置換)、オリゴチオフェン(置換又は非置換)、ペンタセン、フラーレン又はペリレン誘導体であることができる。斯かるデバイスは、分子を検出するためにうまく働く。しかしながら、その生産は複雑な技術的工程を伴う。
【0006】
レジスタータイプのガス検出器は、例えばアルミナ基板の一方の面の上に2つのインターディジタルPt電極が配置され、その頂部に銅フタロシアニン(CuPc)の薄膜が積層(付着、堆積)されて成る。前記基板のもう一方の面は、基板を加熱するためのPtレジスターを含む。CuPcの導電性は、CuPcが接触するガス混合物のO3含量又はNO2含量と共に増大する。斯かるデバイスの欠点は、まず第一に、検出されるべきガス分子に対する選択性がないこと、そして第二にその性能に限界があることにある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R. Dobulans、J. Latvels、I. Muzikante、E. Fonavs、A. Tokmakov及びM. Bouvet、"Molecular diode for gas sensing", Proceedings of the NENAMAT Mobilization Workshop "Nanomaterials and Nanotechnologies", 30-31 March, Riga, 2005, 130
【非特許文献2】M. Bouvet及びA. Pauly、Encyclopedia of Sensors, Editors C.A. Grimes, E.C. Dickey and M.V. Pishko, Vol. 6, pp. 227-269
【非特許文献3】J. Simon、J.-J. Andre及びA. Skoulios、"Molecular Materials. I: Generalities", Nouv. J. Chim., 1986, 10, 295-311
【非特許文献4】J. Simon及びP. Bassoul、"Design of Molecular Materials", Wiley, Chichester, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
驚くべきことに、本発明者らは、半導体レジスターの感応表面上に明確な基準に従って選択された異なる半導体材料の薄膜を積層して特定のヘテロ接合を作ることによって、トランスデューサーが検出されるべき分子に対して選択的になり、センサーとしてのその性能が実質的に改善されるということを見出した。
【0009】
本発明の目的は、新たな態様で且つ従来技術のセンサーより良好な態様で働く、電子供与体又は電子受容体種を検出するためのセンサーを提供することにある。このセンサーは、多くの従来のセンサーとは違って、室温において作動する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の主題は、半導体トランスデューサー及び斯かるトランスデューサーを収納した電子供与体又は電子受容体種を検出するためのセンサーにある。
【0011】
本発明に従うトランスデューサーは、絶縁性基板の表面上に2つの電極及び半導体感応素子が積層されて成り、
・前記感応素子が導電性がC1である半導体分子材料M1の層及び導電性がC2であり且つバンドギャップEg2が1eV未満である半導体分子材料M2の層から成り;
・材料M1の層が電極と接触し;
・材料M2の層が材料M1の層上に積層され、電極と接触せず;
・前記の導電性がC2/C1≧1となるものであり;そして
・前記材料M1が、
・・Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pt及びPdから選択される酸化状態IIの金属MのモノフタロシアニンMIIPc;
・・GaOH、GaCl、InCl、AlCl、AlF若しくはAlOHの形の酸化状態IIIの金属MのモノフタロシアニンMIIIPc;
・・Si(OH)2、SiCl2、SnCl2、TiO若しくはVOの形の酸化状態IVの金属MのモノフタロシアニンMIVPc;
・・繰返し単位がMPcであり、金属MがSiO、SnO、GeO、Feピラジン、Ruピラジン、AlF若しくはGaFの形にある、ポリフタロシアニン;
・・置換若しくは非置換オリゴチオフェン、テトラセン、ペンタセン、フラーレン、ナフタレンテトラカルボン酸、ナフタレン二無水物、ナフタレンジイミド、ペリレンテトラカルボン酸、ペリレン二酸無水物、ペリレンジイミド、トリアリールアミン、トリフェニレン及びテトラシアノキノジメタンから選択される有機化合物;又は
・・ポリチオフェン及びポリ−p−フェニレンビニレンから選択される半導体ポリマー:
である:
ことを特徴とする。
【0012】
材料M1の層の厚さ及び材料M2の層の厚さは、2〜1000nmの範囲、好ましくは20nm〜100nmの範囲である。電極の厚さは2nm〜1000nmの範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に従うトランスデューサーの概略図である。図中、1は基板、2及び2’は電極、M1及びM2はそれぞれ材料M1の層及びM2の層である。
【図2】図2は、インターディジタル電極の形にある電極の概略図である。
【図3】図3は、本発明に従う半導体トランスデューサーを含む電子供与体又は電子受容体種検出用センサーの一実施形態を示す概略図である。
【図4】図4のa〜cは、オゾン検出に関しての、CuF8Pc及びLu(Pc)2についてのレジスタータイプのトランスデューサーの挙動とCuF8Pc上Lu(Pc)2ヘテロ接合タイプのトランスデューサーの挙動との違いを示すグラフである。
【図5】図5のa〜cはオゾン検出に関して、d〜fはアンモニア検出に関しての、CuFxPc上Lu(Pc)2(ここで、xは0、8又は16である)ヘテロ接合タイプのトランスデューサーの挙動の違いを示すグラフである。
【図6】図6のa、bは、α,ω−ジヘキシル−6T上Lu(Pc)2ヘテロ接合タイプのトランスデューサーをオゾン検出用に用いた時に得られる応答の可逆性を示すグラフである。
【図7】図7は、PTCDI上Lu(Pc)2ヘテロ接合タイプのトランスデューサーをアンモニア検出用に用いた時に得られる応答の可逆性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前記のバンドギャップEg2が1eV未満である材料M2は、金属ビスフタロシアニン(M'Pc2)、金属ビスポルフィリン(M'Por2)及び金属ビスナフタロシアニン(M'Nc2)、並びにテトラピラジノポルフィラジン、チオフェノポルフィラジン、テトラアレーノ(tetraareno)ポルフィラジン、テトラピリド(tetrapyrido)ポルフィラジン、アントラコシアニン(anthracocyanine)、トリフェニロシアニン又はフェナントロシアニン{ここで、M'はU、Zr、Y又はLn(LnはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb若しくはLuである)である}から誘導される同様の金属化合物から選択されるのが好ましい。材料M2はさらに、金属トリスフタロシアニン(M'2Pc3)、金属トリスポルフィリン(M'2Por3)、金属トリスナフタロシアニン(M'2Nc3)並びにテトラピラジノポルフィラジン、チオフェノポルフィラジン、テトラアレーノポルフィラジン、テトラピリドポルフィラジン、アントラコシアニン、トリフェニロシアニン又はフェナントロシアニン(ここで、M'はY又はLnである)から誘導される同様の金属化合物から選択することができる。
【0015】
材料M2の特定的な例としては、ラジカルランタニドビスフタロシアニンLnPc2(LnはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuである)を挙げることができる。次式を満たす化合物LuPc2が特に好ましい。
【化1】

【0016】
前記ビスフタロシアニンは、o−ジシアノベンゼンとランタニドの塩とを強有機塩基の存在下のアルコール中の溶液状で又は溶媒なしで、特にI.S. Kirinら[Russ. J. Inorg. Chem. 1965, 10, 1065-1066];I.S. Kirinら[Russ. J. Inorg. Chem. 1967, 12, 369-372];C. Clarisseら[Inorg. Chim. Acta 1987, 130, 139-144];又はA. De Cianら[Inorg. Chem. 1985, 24, 3162-3167]によって報告された操作方法に従って反応させることから成る方法によって調製される。
【0017】
材料M1として用いることができるモノフタロシアニンMIIPcの中では、Mが銅、ニッケル又は亜鉛であるモノフタロシアニンMIIPcが特に有利である。このモノフタロシアニンは、置換基、特にF、Cl又はBrのようなハロゲンを随意に有していてもよく、Fが特に好ましい。フッ素化モノフタロシアニンの中では、次の式を満たす4個、8個又は16個のフッ素原子を有するものを特に挙げることができる。
【化2】

【0018】
モノフタロシアニンのフッ素化度はバンドギャップEgにはほとんど影響がないが、しかし、真空レベルに対して、イオン化ポテンシャルに関して5.20〜6.39eVの電子親和力のため3.16eVから4.46eVのCuF0PcからCuF16Pcへの準連続シフトで、エンプティ(空乏)電子レベル及びフル(充満)電子レベルの安定化を促進する(最大占領分子軌道及び最小非占領分子軌道)(R. Murdey, N. Sato及びM. Bouvet, Mol. Cryst. Liq. Cryst., 2006, 455, 211-218を参照されたい)。その結果として、モノフタロシアニンがフッ素化されていない化合物MIIPcはpタイプ半導体特性を有するのに対して、モノフタロシアニンがペルフッ素化された化合物MIIPc、即ちF16Pcはnタイプ半導体特性を有する。化合物MII8Pcは中間の特性を有し、その挙動は特にトランスデューサーの電極形成部に依存する。
【0019】
銅モノフタロシアニンCuPc、亜鉛モノフタロシアニンZnPc及びニッケルモノフタロシアニンNiPcは、特にSigma-Aldrich社より供給される工業製品である。
【0020】
16個のフッ素原子を有するCu、Zn又はNiモノフタロシアニンは、J.M. Birchallら[J. Chem. Soc., 1970, 2667]又はD.D. Eleyら[J. Chem. Soc., Faraday Trans., 1973, 69 1808]によって報告された操作方法に従ってテトラフルオロ−1,2−ジシアノベンゼンと金属又は金属塩とを反応させることによって、調製することができる。ペルフッ素化Cu又はZnモノフタロシアニンは、Sigma-Aldrich社より供給される工業製品である。
【0021】
8個のフッ素原子を有するCuモノフタロシアニンは、4,5−ジフルオロ−1,2−ジブロモベンゼンと過剰量のシアン化銅CuCNとを有機溶媒(例えばDMF)中で反応させ、次いでこの反応混合物を濃アンモニア水で処理することによって、調製することができる。
【0022】
4個のフッ素原子を有するCuモノフタロシアニンは、Synthec GmbH社より供給される製品である。
【0023】
材料M2として用いることができるペリレンジイミドの中では、特にN,N−ジペンチルペリレンテトラカルボン酸ジイミドを挙げることができる。
【0024】
材料M2として用いることができるオリゴチオフェンの中では、特にα,ω−ジヘキシルセキシチオフェンを挙げることができる。
【0025】
電極、材料M1の層及び材料M2の層を有する絶縁性基板は、アルミナ若しくはガラス等の本来的に絶縁性の材料、又は誘電体で被覆された材料(例えばシリカ若しくは窒化ケイ素の薄膜で被覆されたシリコン)から成ることができる。
【0026】
前記電極は、例えば金の薄膜又は酸化インジウムスズ(ITO)の薄膜から成る。これらは、特に図2に示したように、インターディジタル電極の形にあるのが好ましい。該電極は、慣用の方法、例えば真空熱蒸着やリソグラフィー技術によって、絶縁性基板上に積層される。
【0027】
本発明に従うトランスデューサーは、絶縁性基板上に電極を積層し、次いで材料M1の層及び次いで材料M2の層を積層することから成る方法によって、製造することができる。
【0028】
Au電極は、熱蒸着によって積層することができる。
【0029】
ITO電極は、真空スパッタリングによって積層することができる。
【0030】
材料M1の薄膜は、真空昇華、スピンコーティング又は溶剤キャスティングによって積層することができる。
【0031】
材料M2の薄膜は、真空昇華、スピンコーティング又は溶剤キャスティングによって積層することができる。
【0032】
本発明に従う半導体トランスデューサーを含む電子供与体又は電子受容体種検出用センサーは、本発明の別の主題である。1つの実施態様を図3に示す。図3において、次のものが見分けられる:その外被中の感応素子;電子部品(これはデバイスにバイアスをかける)、データ取得システム及びガス循環路。該デバイスの様々な構成要素は次の通りである。
3・・・半導体トランスデューサーを収納する検出セル;
4・・・検出セルのガス出口;
5、5’・・・NH3/Ar混合物又は空気/オゾン混合物の検出セルへの入口;
6、7・・・分圧器2個;
8・・・熱電対;
9・・・時間遅延によって制御される電磁弁;
10・・・安全弁;
11・・・ガス流ミキサー;
12・・・電位計;
13・・・コンピューター;
14・・・NH3源;
15・・・Ar源;
16、17・・・ガス流制御装置2個;
18・・・アナログデータ取得デバイス;
19・・・ディジタルデータ取得デバイス;
20・・・オゾン分析器/発生器(Environment S.A.社からの0341M);
21・・・活性炭フィルター;
22・・・0〜15ボルトDC電源;
23・・・−12/+12ボルトDC電源。
【0033】
各種の線は、次の意味を持つ:
実線 電気的接続
破線 ガス移動/パージ(Ar、N2
点線 NH3移動;
一点鎖線 分析すべきガス(NH3/Ar又は空気/オゾン混合物)の検出セル3への移動。
【0034】
本発明に従うトランスデューサーを含むセンサーは、ガス状種の検出、特にO3若しくはNO2等の電子受容体分子又はNH3等の電子供与体分子の検出に、特に有用である。
【0035】
本発明に従うセンサーが電子受容体(及び/又は酸化性)分子を検出するために予定される場合には、トランスデューサーの層M1が非フッ素化非ラジカル金属モノフタロシアニンMPc又はオリゴチオフェンから成り且つ層M2がランタニドビスフタロシアニン、特にLuPc2から成るのが好ましい。銅モノフタロシアニンCuPc及びα,ω−ジヘキシルセキシチオフェンは、良好な性能を与える。
【0036】
本発明に従うセンサーが電子供与体(及び/又は還元性)分子を検出するために予定される場合には、トランスデューサーの層M1がペルフッ素化非ラジカル金属モノフタロシアニン又はペリレンジイミドから成り且つ層M2がランタニドビスフタロシアニン、特にLuPc2から成るのが好ましい。モノフタロシアニンCuF16Pc及びN,N−ジペンチルペリレンテトラカルボン酸ジイミドは、良好な性能を与える。
【0037】
一部フッ素化(不完全フッ素化、非ペルフッ素化)モノフタロシアニンの使用は、全体的なトランスデューサーの構造に依存する。電極がAu又はITO電極である場合、本発明に従うトランスデューサーにおいてM1がMIIPcの化合物であり、モノフタロシアニンが一部フッ素化されたものが、電子受容体分子を検出するのに効果的である。
【0038】
従来技術のダイオード、電界効果トランジスター又はレジスタータイプの半導体トランスデューサーを本発明に従うトランスデューサーに置き換えることにより、特定ヘテロ接合の存在のために実質的に良好に働く電子供与体又は電子受容体種を検出するためのセンサーが得られる。このトランスデューサーの現実の構造がこのトランスデューサーを様々な検体に適合したものにし、特に経時的に安定な室温における選択的検出を可能にする。特定の場合のセンサーの選択性及び安定性は、層M1を構成する材料の適切な選択によって得られる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、しかし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
これらの実施例においては、上記の図3に示した仕組みをガス状種検出用に用いた。
【0041】
材料M1としては、フタロシアニン、α,ω−ジヘキシルセキシチオフェン(α,ω−ジヘキシル−6T)又はN,N−ジペンチルペリレンテトラカルボン酸ジイミド(PTCDI)を用いた。
【0042】
用いたフタロシアニンは、CuPc、CuF8Pc、CuF16Pc及びLu(Pc)2だった。
【0043】
モノフタロシアニンCuF8Pcは、4,5−ジフルオロ−1,2−ジブロモベンゼン(27.2g;0.1モル)とシアン化銅CuCN(26.9g;0.3モル)とを50ミリリットルのDMF中で150℃において2時間反応させることによって調製した。反応混合物を濃アンモニア溶液で2回処理し、次いで濾過した。こうして回収された固体状生成物をソックスレー抽出器中でCHCl3で洗浄し、次いで100℃において真空乾燥した。青色の微粉体が80%の収率で得られた。
32888Cuについての組成:
・計算値:53.38%C;1.12%H;21.11%F;8.83%Cu
・測定値:52.74%C;1.13%H;21.03%F;9.17%Cu
【0044】
ビスフタロシアニンLu(Pc)2は、三酢酸ルテチウムとo−ジシアノベンゼンとを溶媒なしで300℃において反応させることによって調製した。
【0045】
CuPc、CuF16Pc、α,ω−ジヘキシル−6T及びPTCDIは、Sigma-Aldrich社より販売されている製品である。
【0046】
例1
【0047】
この例は、CuF8Pc及びLu(Pc)2についてのレジスタータイプのトランスデューサーの挙動とCuF8Pc上Lu(Pc)2ヘテロ接合タイプのトランスデューサーの挙動との違いを示すことを目的とする。
【0048】
レジスター調製
【0049】
アルミナ基板上にスクリーンプリンティングによって白金電極を積層し、次いでモノフタロシアニン薄膜を積層した。CuF8Pcの場合には、真空昇華によって300nmの厚さの薄膜が得られた。LuPc2の場合には、溶剤キャスティングによって厚さ100nmの薄膜が得られた。
【0050】
ヘテロ接合調製
【0051】
アルミナ基板上にスクリーンプリンティングによって白金電極を積層した。次に、厚さ300nmのCuF8Pc薄膜及び次いで厚さ100nmのLu(Pc)2薄膜を真空蒸着によって順次積層した。
【0052】
これらのトランスデューサーのぞれぞれを、図3に示したデバイスを用いて、オゾンを含有しない空気流及びオゾンを約700ppb含有する空気流を交互に通すことによって試験した。
【0053】
図4a、4b及び4cは、時間(秒、x軸上のプロット)の関数として、即ちガス流中の瞬間的オゾン含量(ppb、左側のy軸上のプロット)の関数としての、電流I(ピコアンペア、右側のy軸上のプロット)の変化を示す。領域1及び3はオゾンを含有しない空気雰囲気に相当し、領域2はオゾンを含有する雰囲気に相当する。それぞれの矢印は、対応する曲線が示すスケールを示す。
【0054】
それぞれの図において、薄灰色の曲線は電流の変化を示し、黒い曲線はガス組成の変化を示す。次のことがわかる。
・CuF8Pcレジスターは非常に低い導電性を有し、オゾンと反応しない。
・Lu(Pc)2レジスターはオゾンと非常に急激に反応するが、しかしその反応は経時的に安定ではない。
・CuF8Pc上Lu(Pc)2ヘテロ接合はCuF8Pc層よりはるかに高い導電性を有し、かなり反応し、安定性はLu(Pc)2レジスターよりかなり改善されている。
【0055】
これらの結果は、従来技術のレジスタータイプのトランスデューサーと比較した時の本発明に従うトランスデューサーにおけるヘテロ接合の利用の結果としての驚くべき効果をはっきり示している。
【0056】
例2
【0057】
この例は、CuFxPc上Lu(Pc)2(ここで、xは0、8又は16である)ヘテロ接合タイプのトランスデューサーの、該トランスデューサーがO3含有ガスに曝されるかNH3含有ガスに曝されるかに応じての、挙動の違いを示すことを目的とする。
【0058】
3検出用に用いられるトランスデューサー
【0059】
シリカ被覆シリコン基板上に真空昇華によってAu電極を積層した。これらの電極は10μm間隔だった。次に、CuFxPc薄膜を真空昇華によって積層し、次いでLu(Pc)2薄膜を再び真空昇華によって積層した。これらのフタロシアニン薄膜はそれぞれ100nmの厚さを有する(圧電式水晶発振子微量天秤により制御)。両方のフタロシアニン層について、VEECO 770装置を用い、10-6トルの圧力下で2Å/秒の積層速度で積層を実施した。
【0060】
こうして得られたトランスデューサーのそれぞれを、オゾン発生器/分析器を備えた図3に示したものと同様の仕組みを用いて、1.6リットル/分の流量で90ppbオゾン含有空気流を通し、次いでオゾンを含有しないクリーンな空気(活性炭で濾過したもの)を通すことによって、試験した。
【0061】
図5a、5b及び5cは、CuPc、CuF8Pc又はCuF16Pcを含有する各トランスデューサーについて、時間(秒)の関数としての電流I(アンペア)の変化を示す。
【0062】
これらの図は、用いたトランスデューサーの利点を示し、特にデバイスの応答に対する材料M1のかなりの影響を示す。特に、M1がCuPcである場合にはオゾンの存在下で電流が増大し、M1がCuF16Pcである場合には減少する。CuPcは、オゾンについての最も安定な応答を良好な感度で与える。
【0063】
NH3検出用に用いられるトランスデューサー
【0064】
ガラス基板上にスパッタリングによって電極を構成するITO薄膜を積層した。これらの電極は75μm間隔だった。次に、O3検出用トランスデューサーの場合と同じ条件下で、VEECO 770装置を用い、10-6トルの圧力下で2Å/秒の積層速度で、CuFxPc薄膜及び次いでLu(Pc)2薄膜を積層した。各フタロシアニン薄膜は100nmの厚さを有する。
【0065】
これらのトランスデューサーのそれぞれを、NH3ボンベ及びArボンベからのNH3流を制御するための質量流量計システムを備えた図3のものと同様のデバイスを用いて、35ppmのNH3を含有するガス流及び次いでNH3を含有しないガス流を0.5リットル/分の流量で通すことによって、試験した。
【0066】
図5d、5e及び5fは、CuPc、CuF8Pc又はCuF16Pcを含有するトランスデューサーについて、時間(秒)の関数としての電流I(アンペア)の変化を示す。
【0067】
前記と同様に、これらの図は、用いたトランスデューサーの利点を示し、特にデバイスの応答に対する材料M1のかなりの影響を示す。特に、M1がCuF16Pcである場合にはNH3の存在下で電流が増大し、M1がCuPcである場合には減少する。これらの図はまた、NH3検出用にはCuF16Pcを材料M1として用いるのが好ましいことも示している。
【0068】
例3
【0069】
この例は、α,ω−ジヘキシル−6T上Lu(Pc)2ヘテロ接合タイプのトランスデューサー及びこれをオゾン検出用に用いた時に得られる応答の可逆性を例示することを目的とする。
【0070】
斯かるトランスデューサーは、例2に記載した方法に従い、オゾンを検出するために用いられるトランスデューサーの調製について記載した手順に従って、調製した;α,ω−ジヘキシル−6T及びLu(Pc)2薄膜はそれぞれ100nmの厚さを有する。
【0071】
このトランスデューサーを次いで、オゾン発生器/分析器を備えた図3に示したものと同様の仕組みを用い、下記のプロトコルに従って、1.6リットル/分の流量で400ppbオゾン含有空気流を通し、次いでオゾンを含有しないクリーンな空気(活性炭で濾過したもの)を通すことによって、試験した。
・3回のサイクル:5分間のオゾン流(暴露)/15分間の空気流(休憩);次いで
・3回のサイクル:2分間のオゾン流/8分間の空気流。
【0072】
得られた結果を添付した図6のa及びbに与える。これらの図は、以下を示す:
・図6a:時間(秒、x軸)の関数として、即ちガス流中の瞬間的オゾン含量(ppb、右側のy軸上)の関数としての、電流I(ナノアンペア、左側のy軸上)の変化を示す。それぞれの矢印は、対応する曲線が示すスケールを示す(実線:電流の強さ;破線:瞬間的オゾン含量);
・図6b:時間(分、x軸)の関数として、即ちガス流中の瞬間的オゾン含量(ppb、右側のy軸上)の関数としての、電流I(ナノアンペア、左側のy軸上)の変化を示す。
【0073】
図6aの曲線は、用いた操作方法に拘らず、応答が再現可能であり、しかも短い時間でセンサーの良好な可逆性(2分間暴露/8分間休憩)が得られることを示している。図6bの曲線は、短い時間で得られた結果のみを示している。
【0074】
例4
【0075】
この例は、PTCDI上Lu(Pc)2ヘテロ接合タイプのトランスデューサー及びこれをアンモニア検出用に用いた時に得られる応答の可逆性を例示することを目的とする。
【0076】
斯かるトランスデューサーは、例2に記載した方法に従い、アンモニアを検出するために用いられるトランスデューサーの調製について記載した手順に従って、調製した;PTCDI及びLu(Pc)2薄膜はそれぞれ100nmの厚さを有する。
【0077】
このトランスデューサーを次いで、NH3及びArボンベからのNH3流を制御するための質量流量計システムを備えた図3のものと同様のデバイスを用いて、1000ppmのNH3を含有するNH3/Arガス流及び次いでNH3を含有しないガス流を0.5リットル/分の流量で、下記のプロトコルに従って通すことによって、試験した。
・3回のサイクル:5分間のNH3/Ar流(暴露)/15分間のNH3なし流(休憩);次いで
・3回のサイクル:2分間のNH3/Ar流/8分間のNH3なし流。
【0078】
得られた結果を添付した図7に与える。この図は、時間(分、x軸上)の関数としての電流I(アンペア、y軸)の変化を示し、実線に相当する。破線はNH3/Ar暴露/休憩サイクルに相当する。
【0079】
前記センサーは、NH3/Ar暴露/休憩サイクルの期間に関係なく、非常に良好な可逆性を示す。
【符号の説明】
【0080】
1・・・基板
2、2’・・・電極
3・・・半導体トランスデューサーを収納する検出セル
4・・・検出セルのガス出口
5、5’・・・NH3/Ar混合物又は空気/オゾン混合物の検出セルへの入口
6、7・・・分圧器2個
8・・・熱電対
9・・・時間遅延によって制御される電磁弁
10・・・安全弁
11・・・ガス流ミキサー
12・・・電位計
13・・・コンピューター
14・・・NH3
15・・・Ar源
16、17・・・ガス流制御装置2個
18・・・アナログデータ取得デバイス
19・・・ディジタルデータ取得デバイス
20・・・オゾン分析器/発生器(Environment S.A.社からの0341M)
21・・・活性炭フィルター
22・・・0〜15ボルトDC電源
23・・・−12/+12ボルトDC電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板の表面に2つの電極及び半導体感応素子が積層されて成るトランスデューサーであって、
・前記感応素子が、導電性がC1である半導体分子材料M1の層及び導電性がC2であり且つバンドギャップEg2が1eV未満である半導体分子材料M2の層から成り;
・材料M1の層が電極と接触し;
・材料M2の層が材料M1の層上に積層され、電極と接続せず;
・前記の導電性がC2/C1≧1となるものであり;そして
・前記材料M1が、
・・Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pt及びPdから選択される酸化状態IIの金属MのモノフタロシアニンMIIPc;
・・GaOH、GaCl、InCl、AlCl、AlF若しくはAlOHの形の酸化状態IIIの金属MのモノフタロシアニンMIIIPc;
・・Si(OH)2、SiCl2、SnCl2、TiO若しくはVOの形の酸化状態IVの金属MのモノフタロシアニンMIVPc;
・・繰返し単位がMPcであり、金属MがSiO、SnO、GeO、Feピラジン、Ruピラジン、AlF若しくはGaFの形にある、ポリフタロシアニン;
・・置換若しくは非置換オリゴチオフェン、テトラセン、ペンタセン、フラーレン、ナフタレンテトラカルボン酸、ナフタレン二無水物、ナフタレンジイミド、ペリレンテトラカルボン酸、ペリレン二無水物、ペリレンジイミド、トリアリールアミン、トリフェニレン及びテトラシアノキノジメタンから選択される有機化合物;又は
・・ポリチオフェン及びポリ−p−フェニレンビニレンから選択される半導体ポリマー:
である:
ことを特徴とする、前記トランスデューサー。
【請求項2】
M1の層の厚さ、M2の層の厚さ及び電極の厚さが2〜1000nmの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のトランスデューサー。
【請求項3】
材料M2が
・金属ビスフタロシアニン(M'Pc2)、金属ビスポルフィリン(M'Por2)、金属ビスナフタロシアニン(M'Nc2)、並びにテトラピラジノポルフィラジン、チオフェノポルフィラジン、テトラアレーノポルフィラジン、テトラピリドポルフィラジン、アントラコシアニン、トリフェニロシアニン又はフェナントロシアニン{ここで、M’はU、Zr、Y又はLn(LnはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb若しくはLuである)である}から誘導される同様の金属化合物;
・金属トリスフタロシアニン(M'2Pc3)、金属トリスポルフィリン(M'2Por3)、金属トリスナフタロシアニン(M'2Nc3)、並びにテトラピラジノポルフィラジン、チオフェノポルフィラジン、テトラアレーノポルフィラジン、テトラピリドポルフィラジン、アントラコシアニン、トリフェニロシアニン又はフェナントロシアニン(ここで、M'はY又はLnである)から誘導される同様の金属化合物:
から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のトランスデューサー。
【請求項4】
M1がハロゲン含有モノフタロシアニンであることを特徴とする、請求項1に記載のトランスデューサー。
【請求項5】
材料M1が四フッ素化、八フッ素化又はペルフッ素化モノフタロシアニンであることを特徴とする、請求項4に記載のトランスデューサー。
【請求項6】
電極、材料M1の層及び材料M2の層を有する絶縁性基板が、本来的に絶縁性の材料又は誘電体で被覆された材料から成ることを特徴とする、請求項1に記載のトランスデューサー。
【請求項7】
前記の絶縁性の材料がアルミナ又はガラスであることを特徴とする、請求項6に記載のトランスデューサー。
【請求項8】
前記の誘電体で被覆された材料がシリカ又は窒化ケイ素の薄膜で被覆されたシリコンから成ることを特徴とする、請求項6に記載のトランスデューサー。
【請求項9】
前記電極が金の薄膜又は酸化インジウムスズ(ITO)の薄膜から成ることを特徴とする、請求項1に記載のトランスデューサー。
【請求項10】
前記電極がインターディジタル電極の形にあることを特徴とする、請求項9に記載のトランスデューサー。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のトランスデューサーを含むことを特徴とする、ガス状電子受容体又は電子供与体種を検出するためのセンサー。
【請求項12】
トランスデューサーの材料M1が非フッ素化非ラジカル金属モノフタロシアニン又はオリゴチオフェンであり且つ層M2がランタニドビスフタロシアニンであることを特徴とする、電子受容体分子を検出するための請求項11に記載のセンサー。
【請求項13】
材料M1が銅モノフタロシアニンであり且つ材料M2がルテチウムビスフタロシアニンであることを特徴とする、請求項12に記載のセンサー。
【請求項14】
トランスデューサーの材料M1がペルフッ素化非ラジカル金属モノフタロシアニン又はペリレンジイミドであり且つ材料M2がランタニドビスフタロシアニンであることを特徴とする、電子供与体分子を検出するための請求項11に記載のセンサー。
【請求項15】
材料M1がペルフッ素化銅モノフタロシアニンであり且つ材料M2がルテチウムビスフタロシアニンであることを特徴とする、請求項14に記載のセンサー。
【請求項16】
材料M1が非ペルフッ素化金属モノフタロシアニンであり且つ材料M2がルテチウムビスフタロシアニンであり、且つ電極がITO又はAuから成ることを特徴とする、請求項14に記載のセンサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−503528(P2011−503528A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529421(P2010−529421)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【国際出願番号】PCT/FR2008/001325
【国際公開番号】WO2009/071774
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(507018539)ユニベルシテ ピエール エ マリー キュリー (10)
【出願人】(506369944)サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク (45)
【Fターム(参考)】