説明

半導体メモリ

【課題】Al-rich Al2O3の電荷蓄積層において、Alの組成の関数として電荷蓄積密度を解析し、電荷蓄積密度が最大となるような半導体メモリを提供する。
【解決手段】半導体基板の上面に順次、トンネル障壁層、電荷蓄積層、ブロック障壁層、ゲート電極を積層し、電荷蓄積層の局在準位に電子を蓄積することによりトランジスタのしきい値電圧を変化させる半導体メモリにおいて、電荷蓄積層をアルミニウム過剰の酸化アルミニウム(Al-rich Al23)とし、そのアルミニウムの組成を所定の範囲に設定し、電荷蓄積層の電荷蓄積密度が最大値(極大値)を含む所定値以上になる構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MIS型半導体装置において、ゲート絶縁膜中に電子を蓄積することによりメモリ機能を持たせた半導体メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電荷蓄積型メモリとして、窒化シリコン(Si34 )を電荷蓄積層として用いるSONOS(Semiconductor-Oxide-Nitride-Oxide-Semiconductor) メモリがある。SONOSメモリは、電荷蓄積の方法として、空間的に局在したトラップ準位を用いるためにトラップメモリとも呼ばれている。この電荷蓄積層の局在準位に電子を蓄積することによりトランジスタのしきい値電圧を変化させ、これにより電流が流れるか流れないかでメモリの「1」、「0」を判定する構成である。通常のSONOSメモリの場合、最近接の局在準位の距離は5nm程度であることが知られている。この場合には、10年程度のデータ保持特性が得られている。
【0003】
トラップメモリの電荷蓄積層としては、Si3N4 の他に酸化アルミニウム(Al23 )を用いる構造も、メモリとして極めて良好なデータ保持特性を持つという最近の研究報告がある(非特許文献1)。
【0004】
ここで、ECRスパッタを用いて作製したAl23 メモリについて詳しく説明する(特許文献1、特許文献2、特許文献3、非特許文献2)。
【0005】
ECRスパッタによりAl23 層を堆積する場合、堆積時の酸素流量を4sccmから5.5 sccmの範囲に設定すると、局在準位の極めて少ない良質なAl23 層を形成でき、さらに酸素流量を2sccm程度に低下させるとAl 過剰(Al-rich) のAl23 層となり、これを電荷蓄積層としたメモリが実現できる。
【0006】
図5は、従来のAl23 メモリの構成例を示す。Si 基板の上に、トンネル障壁層として 5.5sccmの酸素流量によりAl23 を 4.5nm成長させ、次に酸素流量を減らして 2.5sccmの酸素流量によりAl-rich Al23 の電荷蓄積層を 4.5nm成長させ、次にブロック障壁層として 5.5sccmの酸素流量によりAl23 を15nm成長させた。ゲート電極は、Al を蒸着する事により形成している。ソース電極およびドレイン電極は省略している。図5(b) はバンド図を示す。
【0007】
図6は、従来のAl23 メモリのC−V特性を示す。図6(a) は図5の構造のAl23 メモリのC−V特性を示す。この場合、電荷蓄積層には局在準位が数多く生成されて、C−V特性において電荷蓄積効果によるヒステリシスが生じている。±5Vの最大バイアス電圧時のC−V曲線のヒステリシス幅は、約 1.6Vである。参考のために、図6(b) に電荷蓄積層を通常のAl23 膜としたときのC−V特性を示す。ヒステリシスが生じないことがわかる。
【0008】
図7は、酸素流量 2.5sccm、4sccm、 5.5sccmで電荷蓄積層を形成した場合における印加電圧とヒステリシスウインドウ幅の関係を示す。ここで、 2.5sccmの□と○は異なるサンプルを示す。明らかに、酸素流量が小さい 2.5sccmのメモリの方が小さい印加電圧で、大きなヒステリシスウインドウ幅が得られることが分かる。
【0009】
図8は、従来のAl23 メモリのデータ保持特性を示す。図6(a) において、ゲート電圧を0Vとした時に、容量の大きい状態をA、容量の小さい状態をBとする。図8は状態Aと状態Bの時間変化を示している。状態Aおよび状態Bの容量値は、2時間経過後も殆ど値が変化しない。この結果から、10年(3×108 秒) 後にも十分大きなマージンがとれることが予想される。
【0010】
このように、障壁層に欠陥の少ない高品質Al23 膜を用いたため、良好な電荷保持特性が得られた。また、電荷蓄積層として酸素流量を減らし、Al-rich Al23 を用いることにより局在準位の数が増え、メモリとして極めて良好な動作をすることが明らかとなった。
【0011】
以上は、ECRスパッタ法を用いた作製方法による構成であるが、本構造はECRスパッタ法で堆積した膜に限定されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−183662号公報
【特許文献2】特開2005−228760号公報
【特許文献3】特開2006−324351号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】T. Sugizaki et al., Novel Multi-bit SONOS Type Flash Memory Using a High-k Charge Trapping Layer, 2003 Symposium on VLSI Thechnology Digest of Technical Papers, page 27.
【非特許文献2】Shunji Nakata, Kunio Saito and Masaru Shimada,“Non-volatile Al2O3 memory using nanoscale Al-rich Al2O3 thin film as a charge storage layer,”Jpn. J. Appl. Phys. Vol.45, no.4B, pp.3176-3178 (2006).
【非特許文献3】Shunji Nakata, Shingo Nagai, Minoru Kumeda, Takeshi Kawae,Akiharu Morimoto, and Tatsuo Shimizu, “Etching rate, optical transmittance and charge trapping characteristics of Al-rich Al2O3 thin film fabricated by RF magnetron co-sputtering,”Journal of Vacuum Science and Technology B, vol.26, no.4, pp.1373-1378 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、現在の最先端のメモリセルのサイズは45nm角であるが、今後、メモリセルのサイズを一層微細化してメモリが大容量化され、トラップメモリにおいては、10nm角程度のメモリセルも実現されると考えられる。この時、10nm角のメモリセルにおいて、少なくとも何個の局在準位を電荷蓄積層に配置すればよいかという問題は、特許文献3で解決されている。本文献では、局在準位の統計ゆらぎを考慮して、メモリセルのサイズを10×knm(k≦2)角以下とした場合に、1から9原子層程度の電荷蓄積層に平均値が、
n−5√n−10εr2/d2 =0
(εr は絶縁物の比誘電率、d2 はブロック障壁層の厚さ)
で求められる正のnの値程度以上の局在準位を持つメモリであればよいことを明らかにした。しかし、Al-rich Al23 の電荷蓄積層において、Al の組成をどこまで大きくしてよいか否かに関しては不明であった。
【0015】
本発明は、Al-rich Al23 の電荷蓄積層において、Al の組成の関数として電荷蓄積密度を解析し、電荷蓄積密度が最大となるような半導体メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、半導体基板の上面に順次、トンネル障壁層、電荷蓄積層、ブロック障壁層、ゲート電極を積層し、電荷蓄積層の局在準位に電子を蓄積することによりトランジスタのしきい値電圧を変化させる半導体メモリにおいて、電荷蓄積層をアルミニウム過剰の酸化アルミニウム(Al-rich Al23 )とし、そのアルミニウムの組成を所定の範囲に設定し、電荷蓄積層の電荷蓄積密度が最大値(極大値)を含む所定値以上になる構成とした。
【0017】
また、本発明の半導体メモリにおいて、電荷蓄積層のアルミニウムの組成を42〜70%とした構成である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、Al-rich Al23 の電荷蓄積層のAl の組成に応じて電荷蓄積密度が最大値(極大値)を有する特性に着目し、電荷蓄積層のAl の組成を所定の範囲に設定することにより、電荷蓄積密度を最大値(極大値)を含む所定値以上にすることができる。これにより、ヒステリシスウインドウの大きいメモリ、すなわち電荷保持特性の良好なメモリを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の半導体メモリの実施例構成を示す図である。
【図2】Al の組成49.1%とした試料のC−V特性の実験結果を示す図である。
【図3】印加電圧を±5Vとしたときの電荷蓄積密度NのAl 組成依存性を示す図である。
【図4】Al の組成49.1%とした試料の電荷保持特性を示す図である。
【図5】従来のAl23 メモリの構成例を示す図である。
【図6】従来のAl23 メモリのC−V特性を示す図である。
【図7】印加電圧とヒステリシスウインドウ幅の関係を示す図である。
【図8】従来のAl23 メモリのデータ保持特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の半導体メモリの実施例構成を示す。
本実施例の半導体メモリの作製方法は次の通りである。まず、HF処理したSi 基板上に熱酸化を用いて形成した2nm厚のSiO2トンネル障壁層の上に、rfマグネトロンスパッタリング法を用いて 4.7〜6.2 nm厚のAl-rich Al23 電荷蓄積層を堆積し、さらに 6.2〜8.3 nm厚のAl23 ブロック障壁層を堆積した。Al 電極は真空蒸着法で堆積した。
【0021】
電荷蓄積層の堆積は、Al23 ターゲットのエロージョン領域上にAl チップを置いたco-sputterで行った(非特許文献3)。この作製方法によりAl チップの量によって膜内のAl の組成を変化させることが可能である。以下に示す実験では、このAl の組成を40〜70%の範囲としている。ストイキオメトリックなAl23 におけるAl の組成は40%となる。Al-rich Al23 のAl 組成をEPMA(Electron Probe Micro Analysis) 、C−V特性・電荷保持特性をLCRメータ、膜厚を分光エリプソメータで評価を行った。
【0022】
図2は、Al の組成49.1%とした試料のC−V特性の実験結果を示す。
図2において、縦軸のΔVはC−V特性におけるヒステリシスウインドウ、横軸のΔCは0Vにおける容量値の差CH−CLである。印加電圧を±1,±2,±3,±4,±5Vと大きくすると、ΔVとΔCがそれに連動して増加して様子がわかる。
【0023】
図3は、印加電圧を±5Vとしたときの電荷蓄積密度NのAl 組成依存性を示す。
電荷蓄積密度Nの計算には、ポアソンの式より導出したN=ε0εrΔV/(2dbde)を用いた。ここで、ε0 =真空誘電率、εr =8.0 、db =ブロック障壁層膜厚+電荷蓄積層膜厚/2(nm)、d=電荷蓄積層膜厚(nm)、e= 1.6×10-19 Cとした。この式と図2のC−V特性のΔVを用いて電荷蓄積密度Nを算出した。
【0024】
図3において、電荷蓄積密度NはAl 原子による局在準位の増大により、Al の組成が60%になるまで増加し、その後減少していることがわかる。ここで、一般にAl の組成が大きくなるとAl の析出が生じることが知られており、電荷蓄積密度Nの減少はこのAl の析出に関連するものと考えられる。すなわち、Al-rich Al23 電荷蓄積層の電荷蓄積密度Nには、Al-rich Al23 電荷蓄積層のAl の組成の大きさに応じて最大値(極大値)が存在することから、電荷蓄積密度Nがその最大値(極大値)を含む所定値以上になるようにAl-rich Al23 電荷蓄積層のAl の組成を設定する。例えば、Al の組成を42%〜70%の範囲に設定することにより電荷蓄積密度Nは所定値以上になり、特にAl の組成を60%前後に設定することにより電荷蓄積密度Nは最大値(極大値)を示し、良好な電荷保持特性が得られることになる。
【0025】
図4は、Al の組成49.1%とした試料の電荷保持特性を示す。電荷保持特性測定時の印加電圧は5Vまたは−5V、パルス幅は1sec とし、その後に印加電圧を0Vとして電荷保持特性を調べた。トンネル障壁層が2nmと比較的薄いものの良好な電荷保持特性結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の上面に順次、トンネル障壁層、電荷蓄積層、ブロック障壁層、ゲート電極を積層し、前記電荷蓄積層の局在準位に電子を蓄積することによりトランジスタのしきい値電圧を変化させる半導体メモリにおいて、
前記電荷蓄積層をアルミニウム過剰の酸化アルミニウム(Al-rich Al23 )とし、そのアルミニウムの組成を所定の範囲に設定し、前記電荷蓄積層の電荷蓄積密度が最大値(極大値)を含む所定値以上になる構成とした
ことを特徴とする半導体メモリ。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体メモリにおいて、
前記電荷蓄積層のアルミニウムの組成を42〜70%とした構成である
ことを特徴とする半導体メモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−176168(P2011−176168A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39738(P2010−39738)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】