説明

半導体レーザ素子

【課題】TMモード発振が得られかつ信頼性の高い半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】半導体レーザダイオード70は、n型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層14および第1および第2p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層17,19と、n型クラッド層14とp型クラッド層17,19に挟まれたn側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層11およびp側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層12と、これらのガイド層11,12に挟まれた活性層10とを含む。活性層10は、GaAs(1−x3)x3層からなる量子井戸層221とAlx2Ga(1−x2)As層からなる障壁層222とを交互に複数周期繰り返し積層して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置(HDD;Hard disc Drive)の記憶容量を増大させるためには、ディスクの微小領域に信号を書き込む必要がある。信号の熱安定性を確保しつつ微小領域に信号を記録するためには、熱的に安定した記録媒体が必要となるが、そうすると書き換えには強い磁場が必要となるというジレンマが生じる。現行のGMR(Giant Magneto Resistance)方式では記録密度が飽和しつつある今、「熱アシスト記録」方式の実現が希求されている。「熱アシスト記録」方式は、レーザダイオード(半導体レーザ素子)を熱源とすることで、一時的に磁界を保持する力を弱めて書き込みを行う方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−111367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現行のスライダ作成工程と親和性を持たせるためには、「熱アシスト記録」方式の記録装置に用いられる半導体レーザ素子は、従来の光ピックアップ用の半導体レーザ素子とは異なり、小さいチップサイズで高い出力を得る必要がある。
また、半導体レーザ素子の実装空間には制限があるため、光学系設計によっては従来の半導体レーザ素子での一般的なTE(Tranverse Electric)偏光だけではなく、TM(Tranverse Magnetic)偏光を実現する必要が生じる場合もある。
【0005】
この発明の目的は、TMモード発振が得られかつ信頼性の高い半導体レーザ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の半導体レーザ素子は、p型クラッド層およびn型クラッド層と、 前記p型クラッド層およびn型クラッド層に挟まれたp側ガイド層およびn側ガイド層と、前記p側ガイド層およびn側ガイド層に挟まれ、少なくとも2つの量子井戸層および隣接する前記量子井戸層に挟まれた障壁層を含む活性層とを備えている。前記p型クラッド層およびn型クラッド層は、それぞれ(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層(0≦x1≦1)からなる。前記p側ガイド層およびn側ガイド層ならび前記障壁層は、それぞれAlx2Ga(1−x2)As層(0≦x2≦1)からなる。前記量子井戸層は、GaAs(1−x3)x3層(0≦x3≦1)からなる。前記(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層は、x1>0.7を満たす組成を有している。前記Alx2Ga(1−x2)As層は、0.4≦x2≦0.8を満たす組成を有している。
【0007】
この発明の構成では、p型クラッド層およびn型クラッド層が、それぞれ(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層(0≦x1≦1)からなるのに対し、p側ガイド層およびn側ガイド層は、それぞれAlx2Ga(1−x2)As層(0≦x2≦1)からなる。このため、クラッド層とガイド層との間のバンドギャップ差を大きくすることができる。また、クラッド層とガイド層に自己拡散係数が互いに異なる物質を用いることで、クラッド層に対するキャリアの拡散速度とガイド層に対するキャリアの拡散速度とを異ならせることができる。これにより、活性層にキャリアが過剰に注入されるのを防止できる。この結果、温度上昇により活性層からキャリアがクラッド層等の周囲の層に溢れ出すいわゆるキャリアオーバーフローを抑制または防止することができる。したがって、キャリアオーバーフローに起因する特性劣化を抑制または防止できる。
【0008】
また、この発明の構成では、前記(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層は、x1>0.7を満たす組成を有しており、前記Alx2Ga(1−x2)As層は、0.4≦x2≦0.8を満たす組成を有している。この理由について説明する。
クラッド層およびガイド層のバンドギャップは、Al組成が高いほど大きくなる。前述したように、活性層にキャリアが過剰に注入されるのを防止するためには、ガイド層とクラッド層との間のバンドギャップ差を所定値以上にすることが好ましい。より具体的には、クラッド層のバンドギャップを大きくし、ガイド層のバンドギャップを小さくすればよい。そこで、x1を0.7よりも大きく、x2を0.8以下とすることによって、前記バンドギャップ差を前記所定値以上にすることができる。
【0009】
前記半導体レーザ素子は、具体的には、前記量子井戸層に、格子不整合率が−0.4%以下で−0.9%以上の引っ張り歪が生じていることが好ましい。格子不整合率が−0.4%より大きい(引っ張り歪の大きさが小さい)と、TMモードでの発振が起こりにくくなり、格子不整合率が−0.9%より小さい(引っ張り歪の大きさが大きい)と、結晶欠陥が発生しやすくなるからである。
【0010】
前記半導体レーザ素子は、具体的には、発振波長が780nm以上830nm以下であり、前記量子井戸層の厚さが9nm以上12nm以下であることが好ましい。発振波長および発光量子井戸層の膜厚がこのような条件を満たしていると、TM成分光出力をTE成分光出力より大きくすることができるとともに、閾値電流を低くすることができるからである。
【0011】
前記半導体レーザ素子は、具体的には、前記GaAs(1−x3)x3層は、Asの組成(1−x3)に対するPの組成x3の比x3/(1−x3)が、1/9以上1/4以下を満たす組成を有していることが好ましい。この理由について説明する。半導体レーザ素子をTMモードで発振させるためには、量子井戸層に引っ張り歪が生じることが必要である。量子井戸層の格子定数が小さいほど、量子井戸層に大きな引っ張り歪を生じさせることができる。量子井戸層を形成しているGaAs(1−x3)x33層の格子定数は、Asの組成に対するPの組成の比x3/(1−x3)が大きいほど小さくなる。つまり、比x3/(1−x3)が大きいほど、量子井戸層に大きな引っ張り歪を生じさせることができる。
【0012】
比x3/(1−x3)が1/9以上であることが好ましい理由は、TE成分光出力よりもTM成分光出力を大きくするためである。一方、比x3/(1−x3)が1/4以下であることが好ましい理由は、その比が1/4より大きくては、P組成の増大により、量子井戸層に生じる引っ張り歪が増大し、クラックやリーク電流が発生するおそれがあるからである。
【0013】
この発明の一実施形態では、前記量子井戸層の厚さが9nm以上12nm以下であり、前記障壁層の厚さが前記量子井戸層の厚さより薄く形成されている。
前記半導体レーザ素子は、具体的には、前記量子井戸層の数が、2以上5以下であることが好ましい。量子井戸層の数が2より少ないと、1つの量子井戸層の膜厚を大きくする必要があるため、結晶欠陥が発生しやすくなるからである。一方、量子井戸層の数が5より多いと、界面が多くなるため、結晶欠陥が発生しやすくなるからである。
【0014】
前記半導体レーザ素子は、具体的には、前記p型クラッド層およびn型クラッド層のキャリア濃度が、0.7×1018cm−3以上2.0×1018cm−3以下であることが好ましい。ドーパント濃度が0.7×1018cm−3より低いと活性層にキャリアが注入されにくくなるからである。一方、ドーパント濃度が2.0×1018cm−3より高いと、活性層にキャリアが過剰に注入され、余剰分が光吸収源となって、発振効率が悪くなるからである。
【0015】
前記半導体レーザ素子は、具体的には、レーザ共振器の端面部分に、前記活性層のバンドギャップを拡大する端面窓構造が形成されていることが好ましい。レーザ共振器の端面部分に端面窓構造が形成されると、その端面部分において、活性層のバンドギャップを拡大させることができる。このため、内部で電子と正孔が再結合してできた誘導放出光がレーザ共振器の端面部分で吸収されにくくなるから、発熱を抑制できる。これにより、端面光学損傷を抑制できるので、高出力化が可能となる。
【0016】
前記端面窓構造は、前記レーザ共振器の端面部分に、Znなどの不純物を選択的に拡散することによって形成されており、前記n側ガイド層と前記n型クラッド層との界面から前記n型クラッド層側への前記不純物の拡散長が、400nm以上1300nm以下であることが好ましい。前記拡散長が400nmより短いと、端面窓構造としての効果が得られなくなるからである。一方、前記拡散長が1300nmより大きいと、不純物の拡散量が多くなるため、特性が劣化するおそれがあるからである。
【0017】
この発明の一実施形態では、n極電極が形成されたn極電極面と、p極電極が形成されたp極電極面と、レーザ共振器端面と、前記レーザ共振器端面を覆うように形成された反射膜とを含んでいる。そして、前記反射膜が、前記レーザ共振器端面を被覆する端面被覆部と、前記端面被覆部に連続し、前記p極電極面側に回り込むp極側回り込み部と、前記端面被覆部に連続し、前記p極側回り込み部の前記p極電極面側への回り込み量より少ない回り込み量で前記n極電極面側に回り込むn極側回り込み部とを含んでいる。
【0018】
n極側回り込み部のn極電極面側への回り込み量は、p極側回り込み部のp極電極面側への回り込み量より少ないので、n極側回り込み部によってn極電極面が覆われる面積を、p極側回り込み部によってp極電極面が覆われる面積よりも小さくすることができる。このため、n極電極面を外部に接続するための接続領域を確保しやすくなる。
なお、n極電極面側への回り込み量を少なくすると、レーザ共振器端面におけるn極電極面に近い部分では反射膜の膜むらが発生するおそれがある。しかしながら、n極電極面は発光部である活性層から離れた位置にあるので、レーザ共振器端面におけるn極電極面に近い部分で膜むらが発生したとしても、特性劣化は生じにくいと考えられる。
【0019】
前記n極側回り込み部の前記n極電極面側への回り込み量が10μm未満であり、前記p極側回り込み部の前記p極電極面側への回り込み量が10μm以上であることが好ましい。n極側回り込み部のn極電極面側への回り込み量が10μm未満であることが好ましい理由は、n極電極面を外部に接続するための接続領域を確保しやすくためである。当該回り込み量を10μm未満にするとレーザ共振器端面におけるn極電極面に近い部分で反射膜の膜むらが発生するおそれがあるが、前述したように特性劣化は生じにくいと考えられるからである。
【0020】
一方、p極側回り込み部のp極電極面側への回り込み量が10μm以上であることが好ましい理由は、p極電極面は発光部である活性層に近い位置にあるので、レーザ共振器端面におけるp極電極面に近い部分において反射膜の膜むらが生じるのを防止するためである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、この発明の一実施形態に係る半導体レーザダイオードの構成を説明するための平面図である。
【図2】図2は、図1のII-II線に沿う断面図である。
【図3】図3は、図1のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】図4は、前記半導体レーザダイオードの活性層の構成を説明するための図解的な断面図である。
【図5】図5は、半導体レーザダイオードの製造工程を示す断面図である。
【図6】図6は、半導体レーザダイオードの製造工程を示す断面図である。
【図7】図7は、半導体レーザダイオードの製造工程を示す断面図である。
【図8】図8は、半導体レーザダイオードの製造工程を示す断面図である。
【図9】図9は、半導体レーザダイオードの製造工程を示す断面図である。
【図10】図10は、半導体レーザダイオードの製造工程を示す平面図である。
【図11】図11は、半導体レーザダイオードの製造工程を示す平面図である。
【図12】図12Aは、レーザバーの外観を示す斜視図であり、図12Bは、スペーサの外観を示す斜視図である。
【図13】図13Aは、複数のレーザバーを整列させる工程を説明するための断面図であり、図13Bは、整列された複数のレーザバーの劈開端面に反射膜を形成する工程を説明するための断面図である。
【図14A】図14Aはレーザバーから切り出された半導体レーザ素子を示す平面図である。
【図14B】図14Bはレーザバーから切り出された半導体レーザ素子を示す底面図である。
【図14C】図14Cは図14AのC−C線に沿う一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る半導体レーザダイオードの構成を説明するための平面図であり、図2は図1のII-II線に沿う断面図であり、図3は図1のIII-III線に沿う断面図である。
この半導体レーザダイオード70は、基板1と、基板1上に結晶成長によって形成された半導体積層構造2と、基板の裏面(半導体積層構造2と反対側の表面)に接触するように形成されたn型電極3と、半導体積層構造2の表面に接触するように形成されたp型電極4を備えたファブリぺロー型のものである。基板1の厚さは50μm〜100μm程度であり、半導体積層構造2は5μm〜8μm程度である。図2および図3では、基板1の厚さは半導体積層構造2の厚さよりも薄く描かれているが、実際には、基板1の厚さは半導体積層構造2よりもはるかに大きい。
【0023】
基板1は、この実施形態では、GaAs単結晶基板で構成されている。GaAs基板1の表面の面方位は、(100)面に対して、10°のオフ角を有している。半導体積層構造2を形成する各層は、基板1に対してエピタキシャル成長されている。エピタキシャル成長とは、下地層からの格子の連続性を保った状態での結晶成長をいう。下地層との格子不整合は、結晶成長される層の格子の歪によって吸収され、下地層との界面での格子の連続性が保たれる。
【0024】
半導体積層構造2は、活性層10と、n側ガイド層11と、p側ガイド層112と、n型半導体層13と、p型半導体層14とを備えている。n型半導体層13は活性層10に対して基板1側に配置されており、p型半導体層14は活性層10に対してp型電極4側に配置されている。n側ガイド層11はn型半導体層13と活性層10との間に配置され、p側ガイド層12は活性層10とp型半導体層14との間に配置されている。こうして、ダブルヘテロ接合が形成されている。活性層10には、n型半導体層13からn側ガイド層11を介して電子が注入され、p型半導体層14からp側ガイド層12を介して正孔が注入される。これらが活性層10で再結合することにより、光が発生するようになっている。
【0025】
n型半導体層13は、基板1側から順に、n型GaAsバッファ層15(たとえば50nm〜100nm厚、この例では100nm厚)およびn型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層(0≦x1≦1)16(たとえば2000nm〜3000nm厚、この例では2500nm厚)を積層して構成されている。
一方、p型半導体層14は、p型ガイド層12上に、第1p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層(0≦x1≦1)17(たとえば250nm〜400nm厚、この例では300nm厚)、p型InGaPエッチングストップ層18(たとえば5nm〜10nm厚、この例では5nm厚)、第2p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層(0≦x1≦1)19(たとえば1000nm〜1500nm厚、この例では1000nm厚)、p型GaAsキャップ層20(たとえば50nm〜100nm厚、この例では100nm厚)およびp型GaAsコンタクト層21(たとえば1000nm〜2000nm厚、この例では1000nm厚)を積層して構成されている。
【0026】
n型GaAsバッファ層15は、GaAs基板1とn型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層16との接着性を高めるために設けられた層である。n型GaAsバッファ層15は、GaAsにたとえばn型ドーパントとしてのSiをドープすることによって、n型半導体層とされている。
p型GaAsコンタクト層21は、p型電極4とオーミックコンタクトをとるための低抵抗層である。p型GaAsコンタクト層21は、GaAsにたとえばp型ドーパントとしてのZnをドープすることによって、p型半導体層とされている。
【0027】
n型クラッド層16と、第1および第2p型クラッド層17,19とは、活性層10にキャリア(電子および正孔)を閉じ込めるキャリア閉じ込め効果と、活性層10からの光をそれらの間に閉じ込める光閉じ込め効果とを生じるものである。n型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層16は、(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pにたとえばn型ドーパントとしてのSiをドープすることによって、n型半導体層とされている。第1および第2p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層17,19は、(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pにたとえばp型ドーパントとしてのZnをドープすることによって、p型半導体層とされている。
【0028】
クラッド層16,17,19のドーパント濃度は、0.7×1018cm−3以上2.0×1018cm−3以下であることが好ましい。ドーパント濃度が0.7×1018cm−3より低いと活性層10にキャリアが注入されにくくなるからである。一方、ドーパント濃度が2.0×1018cm−3より高いと、活性層10にキャリアが過剰に注入され、余剰分が光吸収源となって、発振効率が悪くなるからである。
【0029】
n型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層16は、n側ガイド層11よりもバンドギャップが広く、第1および第2p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層17,19は、p側ガイド層12よりもバンドギャップが広い。これにより、良好なキャリア閉じ込めおよび光閉じ込めを行うことができ、高効率の半導体レーザダイオードを実現できる。
【0030】
高出力化を可能とするためには、端面光学損傷を抑制することが重要である。そこで、後述するように、レーザ共振器端面部分に亜鉛などの不純物を拡散することにより、活性層10のバンドギャップを拡大する端面窓構造40を作製することが好ましい。端面窓構造40を作製するために、亜鉛等の不純物を拡散する場合、不純物を拡散すべき領域が燐を含んでいれば拡散速度が速い。この実施形態では、n型クラッド層16および第1および第2p型クラッド層17,19は、それぞれ燐を含む(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層からなる。したがって、亜鉛等の不純物を拡散させやすいので、端面窓構造40の作製が容易である。これにより、高出力化に適した半導体レーザダイオードを実現できる。
【0031】
また、この実施形態におけるn型クラッド層16およびp型クラッド層17,19は、(Alx1Ga(1−x1))の組成に対するInの組成の比を、0.49/0.51としているので、GaAs基板1と格子整合するため、高品質の結晶を得ることができる。この結果、信頼性の高い半導体レーザ素子が得られる。
n側ガイド層11は、Alx2Ga(1−x2)As(0≦x2≦1)層(たとえば20nm〜30nm厚、この例では20nm厚)からなり、n型半導体層13上に積層されることにより構成されている。p側ガイド層12は、Alx2Ga(1−x2)As(0≦x2≦1)層(たとえば20nm〜30nm厚、この例では20nm厚)からなり、活性層10上に積層されることにより構成されている。
【0032】
n側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層11およびp側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層12は、活性層10に光閉じ込め効果を生じる半導体層であり、かつ、クラッド層16,17,19とともに、活性層10へのキャリア閉じ込め構造を形成している。これにより、活性層10における電子および正孔の再結合の効率が高められるようになっている。
【0033】
この実施形態では、クラッド層16,17,19が(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層(0≦x1≦1)から形成されているのに対し、ガイド層11,12がAlx2Ga(1−x2)As(0≦x2≦1)から形成されている。このため、クラッド層16,17,19とガイド層11,12との間のバンドギャップ差が大きくすることができる。また、クラッド層16,17,19とガイド層11,12との格子定数が異なるため、クラッド層16,17,19に対するキャリアの拡散速度とガイド層11,12に対するキャリアの拡散速度とを異ならせることができる。これにより、活性層10にキャリアが過剰に注入されるのを防止できる。この結果、温度上昇により活性層10からキャリアがクラッド層16,17,19等の周囲の層に溢れ出すいわゆるキャリアオーバーフローを抑制または防止することができる。したがって、キャリアオーバーフローに起因する特性劣化を抑制または防止できる。
【0034】
クラッド層16,17,19を形成している(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層は、x1>0.7を満たす組成を有していることが好ましい。また、ガイド層11,12を形成しているAlx2Ga(1−x2)As層は、0.4≦x2≦0.8を満たす組成を有していることが好ましい。この理由について説明する。
クラッド層16,17,19およびガイド層11,12のバンドギャップは、Al組成が多くなるほど大きくなる。前述したように、活性層10にキャリアが過剰に注入されるのを防止するためには、ガイド層11,12とクラッド層16,17,19との間のバンドギャップ差を所定値以上にすることが好ましい。そこで、x1を0.7よりも大きく、x2を0.8以下とすることによって、前記バンドギャップ差を前記所定値以上にすることができる。
【0035】
レーザ共振器端面部分に活性層10のバンドギャップを拡大する端面窓構造40を作製した場合、共振器端面部分での活性層10のバンドギャップは、共振器中央部分のバンドギャップとガイド層11,12のバンドギャップとの平均値となる。したがって、端面窓構造40を作製することによって端面部分での活性層10のバンドギャップを十分に拡大するためには、ガイド層11,12のバンドギャップが所定値(具体的には、1.8eV程度)以上であることが必要となる。そこで、x2を0.4以上とすることによって、ガイド層11,12のバンドギャップを前記所定値以上とすることができる。
【0036】
活性層10は、たとえば、AlGaAsPを含む多重量子井戸(MQW:multiple-quantum well)構造を有しており、電子と正孔とが再結合することにより光が発生し、その発生した光を増幅させるための層である。
活性層10は、この実施形態では、図4に示すように、アンドープのGaAs(1−x3)x3層(0≦x3≦1)からなる量子井戸(well)層221(たとえば9nm〜12nm厚、この例では12nm厚)とアンドープのAlx2Ga(1−x2)As層(0≦x2≦1)からなる障壁(barrier)層222とを交互に複数周期繰り返し積層して構成された多重量子井戸構造を有している。障壁層222の膜厚は、4nmより大きくかつ量子井戸層221の膜厚より小さい範囲内の大きさに形成されている。この例では、障壁層222の膜厚は、6.5nm厚である。なお、障壁層222を形成しているAlx2Ga(1−x2)As層は、ガイド層11,12と同様に、0.4≦x2≦0.8を満たす組成を有していることが好ましい。
【0037】
無歪の状態でのGaAsP層の格子定数はGaAs基板1の格子定数より小さいので、GaAs(1−x3)x3層からなる量子井戸層221には引っ張り応力(引っ張り歪)が生じている。これにより、半導体レーザダイオード70は、TMモードで発振することが可能となる。なお、TMモードの出力光は、光伝搬方向に対して磁界方向が垂直(光伝搬方向に対して電界方向が平行)となるTM波となる。
【0038】
量子井戸層221に、格子不整合率が−0.4%以下で−0.9%以上の引っ張り歪が生じていることが好ましい。格子不整合率が−0.4%より大きい(引っ張り歪の大きさが小さい)と、TMモードでの発振が起こりにくくなり、格子不整合率が−0.9%より小さい(引っ張り歪の大きさが大きい)と、結晶欠陥が発生しやすくなるからである。
また、発振波長が780nm以上830nm以下でかつ発光量子井戸層221の膜厚が、9nm以上12nm以下であることが好ましい。発振波長および発光量子井戸層221の膜厚がこのような条件を満たしていると、後述する実験結果から分かるように、TE成分光出力よりもTM成分光出力を大きくすることができるとともに、閾値電流を低くすることができるからである。
【0039】
量子井戸層221を形成しているGaAs(1−x3)x3層は、Asの組成(1−x3)に対するPの組成X3の比x3/(1−x3)が、1/9以上1/4以下を満たす組成を有していることが好ましい。この理由について説明する。半導体レーザ素子70をTMモードで発振させるためには、量子井戸層221に引っ張り歪が生じることが必要である。量子井戸層221の格子定数が小さいほど、量子井戸層221に大きな引っ張り歪を生じさせることができる。量子井戸層221を形成しているGaAs(1−x3)x33層の格子定数は、Asの組成に対するPの組成の比x3/(1−x3)が大きいほど小さくなる。つまり、比x3/(1−x3)が大きいほど、量子井戸層221に大きな引っ張り歪を生じさせることができる。
【0040】
比x3/(1−x3)が1/9以上であることが好ましい理由は、TE成分光出力に対するTM成分光出力の比率を大きくするためである。一方、比x3/(1−x3)が1/4以下であることが好ましい理由は、その比が1/4より大きくては、P組成の増大により、量子井戸層221に生じる引っ張り歪が増大し、クラックやリーク電流が発生するおそれがあるからである。
【0041】
また、量子井戸層221の数は、2以上5以下であることが好ましい。量子井戸層221の数が2より少ないと、1つの量子井戸層221の膜厚を大きくする必要があるため、結晶欠陥が発生しやすくなるからである。一方、量子井戸層221の数が5より多いと、界面が多くなるため、結晶欠陥が発生しやすくなるからである。
図3に示すように、p型半導体層14内の、第2p型クラッド層19およびp型キャップ層20は、その一部が除去されることによって、リッジストライプ30を形成している。より具体的には、第2p型クラッド層19およびp型キャップ層20の一部がエッチング除去され、横断面視が略台形形状(メサ形)のリッジストライプ30が形成されている。
【0042】
リッジストライプ30の側面には、n型AlGaInP電流狭窄層(埋め込み層)6(たとえば300nm〜450nm厚、この例では400nm厚)が形成されている。より具体的には、両端面31,32よりの両端部分を除く中間部領域においては、p型キャップ層20の側面と、第2p型クラッド層19の露出面と、p型エッチングストップ層18の露出面は、n型AlGaInP電流狭窄層6によって覆われている。一方、両端部領域においては、p型キャップ層20の上面および側面と、第2p型クラッド層19の露出面と、p型エッチングストップ層18の露出面は、n型電流狭窄層6によって覆われている。n型AlGaInP電流狭窄層6は、AlGaInPにたとえばn型ドーパントとしてのSiをドープすることによって、n型半導体層とされている。
【0043】
そして、中間部領域においては、n型電流狭窄層6およびp型キャップ層20の露出面がコンタクト層21によって覆われ、両端部領域においては、n型電流狭窄層6の露出面がコンタクト層21によって覆われている。
半導体積層構造2は、リッジストライプ30の長手方向両端における劈開面により形成された一対の端面(劈開面)31,32を有している。この一対の端面31,32は、互いに平行である。こうして、n側ガイド層11、活性層10およびp側ガイド層12によって、前記一対の端面31,32を共振器端面とするファブリペロー共振器が形成されている。すなわち、活性層10で発生した光は、共振器端面31,32の間を往復しながら、誘導放出によって増幅される。そして、増幅された光の一部が、共振器端面31,32からレーザ光として素子外に取り出される。
【0044】
n型電極3は、たとえばAuGe/Ni/Ti/Au合金からなり、そのAuGe側が基板1側に配されるように、基板1にオーミック接合されている。p型電極4は、たとえばTi/Au合金からなり、そのTi側がp型コンタクト層21に配されるように、p型コンタクト層21にオーミック接合されている。
図1および図2に示すように、共振器の端面部分には、活性層10のバンドギャップを拡大する端面窓構造40が形成されている。この端面窓構造40は、たとえば、共振器の端面部分に亜鉛(Zn)を拡散することによって形成される。n側ガイド層11とn型クラッド層16との界面からn型クラッド層16側への亜鉛の拡散長Lは、400nm以上1300nm以下であることが好ましい。前記拡散長Lが400nmより短いと、端面窓構造としての効果が得られなくなる。一方、前記拡散長Lが1300nmより大きいと、不純物(この場合は亜鉛)の拡散量が多くなるため、特性が劣化するおそれがある。
【0045】
なお、図1〜図3においては、図示が省略されているが、共振器端面には、共振器端面を保護するための反射膜60(図14A,図14B,図14C参照)が形成されている。
このような構成によって、n型電極3およびp型電極4を電源に接続し、n型半導体層13およびp型半導体層14から電子および正孔を活性層10に注入することによって、この活性層10内での電子および正孔の再結合を生じさせ、たとえば、発振波長が780nm以上830nm以下の光を発生させることができる。この光は、共振器端面31,32の間をガイド層11,12に沿って往復しながら、誘導放出によって増幅される。そして、レーザ出射端面である共振器端面31から、より多くのレーザ出力が外部に取り出されることになる。
【0046】
図5〜図11は、図1〜図3に示す半導体レーザダイオード70の製造方法を示す横断面図である。ただし、図5、図7〜図9は、図3に対応する中央部の横断面図であり、図6は端部付近の横断面図である。図10および図11は、平面図である。
まず、図5に示すように、GaAs基板1上に、有機金属化学気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によって、n型GaAsバッファ層15、n型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層16、n側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層11、活性層10、p側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層12、第1p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層17、p型InGaPエッチングストップ層18、第2p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層19およびp型GaAsキャップ層20を順に成長させる。なお、活性層10は、GaAs(1−x3)x3層からなる量子井戸層221と、Alx2Ga(1−x2)As層からなる障壁層222とを交互に複数周期繰り返し成長させることによって形成される。
【0047】
次に、図6および図10に示すように、半導体レーザダイオード70の端面近傍に相当する領域において、p型GaAsキャップ層20上にZnO(酸化亜鉛)51をパターニングする。そして、たとえば、500〜600°Cで約2時間、アニール処理を行うことにより、半導体レーザダイオード70の端面近傍に相当する領域にZnを拡散させる。この際、n側ガイド層11とn型クラッド層16との界面からn型クラッド層16側へのZnの拡散長Lが、400nm以上1300nm以下の範囲となるように、アニール処理を行う。これにより、半導体レーザダイオード70の端面近傍に相当する領域に、端面窓構造40が形成される。
【0048】
次に、ZnO層51を除去する。それから、図7および図11に示すように、ストライプ状のSiO絶縁膜をマスク層52として、エッチングにより、p型キャップ層20および第2p型クラッド層19の一部を除去する。そうすると、頂面にマスク層52が積層されたリッジストライプ30が形成される。リッジストライプ30の形成後に、マスク層52全体のうち、半導体レーザダイオード70の端面近傍に相当する領域にある部分52a(図11参照)のみを除去する。
【0049】
次に、図8に示すように、表面にn型電流狭窄層6を成膜させる。このとき、マスク層52がマスクとして機能する。そのため、半導体レーザダイオード70の両端部間の中間部分に相当する領域では、図8に示すように、リッジストライプ30の頂面(p型キャップ層20の上面)はn型電流狭窄層6によって覆われない。一方、半導体レーザダイオード70の端面近傍に相当する領域では、マスク層52が存在しないため、リッジストライプ30の頂面(p型キャップ層20の上面)はn型電流狭窄層6によって覆われる。
【0050】
この後、マスク層52を除去する。そして、図9に示すように、表面にp型コンタクト層21を成長させる。
そして、p型GaAsコンタクト層21にオーミック接触するp型電極4を形成する。また、GaAs基板1にオーミック接触するn型電極3を形成する。
図5〜図11では、1つの半導体レーザ素子に対する製造方法が図示されているが、電極3,4が形成された時点では、実際には、個々のレーザチップが切り出される前のレーザウエハが作製されることになる。レーザウエハが作製されると、リッジストライプ30の長手方向に垂直な方向(劈開方向)に沿ってレーザウエハを等間隔で劈開することにより、図12Aに示すようなレーザバー80を切り出す。
【0051】
レーザバー80において、劈開によって形成された端面81,82(図1の31,32に相当する)が共振端面となる。レーザバー80におけるn型電極(n極電極)3が形成されている面(図12Aでは下面)を「n極電極面83」といい、レーザバー80におけるp型電極(p極電極)4が形成されている面(図12Aでは上面)を「p極電極面84」ということにする。
【0052】
レーザバー80の幅(共振長)Wは、例えば350μmである。レーザバー80の厚さDは、例えば60μm〜110μm程度である。活性層10とレーザバー80のp極電極面84との距離dは、例えば2μm〜5μm程度である。したがって、活性層10は、n極電極面83とp極電極面84との間において、p極電極面84に近い位置に存在している。
【0053】
次に、複数のレーザバー80の劈開端面(共振器端面)81,82に反射膜を形成する。反射膜を形成する工程は、具体的には、複数のレーザバー80を整列させる第1工程と、整列された複数のレーザバー80の劈開端面81,82に、反射膜を形成する第2工程とからなる。
第1工程では、図13Aに示すように、図示しない整列治具を使用して、レーザバー80とスペーサ90とを交互に複数個積み重ねる。この際、複数のレーザバー80を、隣り合うレーザバー80の一方のレーザバー80のn極電極面83が他方のレーザバー80のp極電極面84と向かい合うように整列させる。
【0054】
スペーサ90は、図12Bに示すように、レーザバー80とほぼ同様な長さを有している。スペーサ90の横断面形状は、略台形である。より具体的には、スペーサ90の横断面形状は、横長矩形の下側の2つのコーナ部が湾曲状に切除された形状である。つまり、スペーサ90は、その両側部の下部に長さ方向に延びた切除部90aを有している。この切除部90aによって、スペーサ90の幅は、厚さ中央部付近から下面側にいくほど小さくなっている。スペーサ90は、例えばシリコン(Si)からなる。
【0055】
スペーサ90の上面の幅Wuは、レーザバー80の幅Wよりも若干短い長さであり、例えば340μmである。スペーサ90の下面の幅Wdは、スペーサ90の上面の幅Wuより短い長さであり、例えば310μmである。
図13Aに示すように、複数のスペーサ90と複数のレーザバー80とは、各レーザバー80のn極電極面83にそのレーザバー80に隣接する一方のスペーサ90の幅広の面が重なり合い、各レーザバー80のp極電極面84にそのレーザバー80に隣接する他方のスペーサ90の幅狭の面が重なり合うように、積み重ねられる。
【0056】
レーザバー80とスペーサ90とが交互に複数個積み重ねられた状態では、図13Aに示すように、各レーザバー80の劈開端面81,82は露出している。また、この状態では、各レーザバー80のn極電極面83およびp極電極面84の両側縁部には、スペーサ90によって覆われない露出部が存在する。n極電極面84にはスペーサ90の幅広の面が重なり合い、p極電極面84にはスペーサ90の幅狭の面が重なり合っているため、n極電極面83の露出部の幅は、p極電極面84の露出部の幅より小さい。
【0057】
第2工程では、図13Bに示すように、レーザバー80とスペーサ90とが交互に積み重ねられた状態で、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法等によって、レーザバー80の劈開端面(共振器端面)81,82に反射膜60を形成する。
反射膜60は、絶縁膜で構成されており、共振器端面81,82を保護する保護膜として機能する。反射膜60は、例えば、ZrO膜とSiO膜とを交互に複数回繰り返し積層した多重反射膜で構成される。図13Bに示すように、反射膜60は、レーザバー80の劈開端面81,82に形成されるとともに、レーザバー80におけるn極電極面83およびp極電極面84の露出部にも形成される。
【0058】
このようにして反射膜60が形成されると、レーザバー80を、リッジストライプ30が中央にくるようして切断(図12Aの破線に沿って切断)することにより、個々のレーザチップ(半導体レーザ素子)70を切り出す。
図14A,14Bおよび図14Cは、切り出された半導体レーザ素子を示している。図14Aは半導体レーザ素子を示す平面図である。図14Bは半導体レーザ素子を示す底面図である。図14Cは図14AのC−C線に沿う一部拡大断面図である。
【0059】
反射膜60は、各レーザ共振器端面31,32を被覆する端面被覆部61と、端面被覆部61に連続し、p極電極面84側に回り込むp極側回り込み部62と、端面被覆部61に連続し、n極電極面83側に回り込むn極側回り込み部63とを含んでいる。n極側回り込み部63のn極電極面83側への回り込み量Aは、p極側回り込み部62のp極電極面84側への回り込み量Bより少ない。回り込み量Aは、例えば5μmであり、回り込み量Bは例えば20μmである。
【0060】
この半導体レーザ素子70では、レーザ共振器端面31,32(81,82)に反射膜60を形成する際には、レーザ共振器端面31,32からn極電極面83側およびp極電極面84側に反射膜を回り込ませているので、レーザ共振器端面31,32に均一に反射膜60を形成することができる。これにより、反射膜の膜むらによる反射率のばらつきを防止でき、反射率のばらつきによる特性劣化を防止できる。
【0061】
また、n極側回り込み部63のn極電極面83側への回り込み量Aは、p極側回り込み部62のp極電極面84側への回り込み量Bより少ないので、n極側回り込み部63によってn極電極面83が覆われる面積を、p極側回り込み部62によってp極電極面84が覆われる面積よりも小さくすることができる。このため、n極電極面83を外部に接続するための接続領域を確保しやすくなる。たとえば、n極電極面83を外部に金ボールで接続するときには、金ボールとn極電極面83とのコンタクト領域を大きくとることができる。
【0062】
反射膜形成時において、n極電極面83側への回り込み量Aを少なくすると、レーザ共振器端面31,32におけるn極電極面83に近い部分では反射膜60の膜むらが発生するおそれがある。しかしながら、n極電極面83は発光部である活性層10から離れた位置にあるので、レーザ共振器端面31,32におけるn極電極面83に近い部分で膜むらが発生したとしても、特性劣化は生じにくいと考えられる。
【0063】
なお、回り込み量Aは10μm未満であり、回り込み量Bは10μm以上であることが好ましい。回り込み量Aが10μm未満であることが好ましい理由は、n極電極面83を外部に接続するための接続領域を確保しやすくためである。また、回り込み量Aを10μm未満にするとレーザ共振器端面31,32におけるn極電極面83に近い部分で反射膜の膜むらが発生するおそれがあるが、前述したように特性劣化は生じにくいと考えられるからである。
【0064】
一方、回り込み量Bが10μm以上であることが好ましい理由は、p極電極面84は発光部である活性層10に近い位置にあるので、レーザ共振器端面31,32におけるp極電極面84に近い部分において反射膜の膜むらが生じるのを防止するためである。 次に、量子化井戸層211の引っ張り歪量[%]と偏光比[dB]との関係について説明する。ここで、偏光比は、偏光比=10LOG(TM成分光出力/TE成分光出力)として定義される。発振波長が異なる複数の実験サンプルを用いて実験を行った。
【0065】
実験サンプルとして、次のa〜dの4種類サンプルを用意した。
a:量子井戸層211の膜厚が9nm〜12nmでかつ発振波長が820nm〜830nmとなる活性層10を有する半導体レーザ素子
b:量子井戸層211の膜厚が9nm〜12nmでかつ発振波長が800nm〜820nmとなる半導体レーザ素子
c:量子井戸層211の膜厚が9nm〜12nmでかつ発振波長が790nm〜800nmとなる活性層10を有する半導体レーザ素子
d:量子井戸層211の膜厚が9nm〜12nmでかつ発振波長が780nm〜790nmとなる活性層10を有する半導体レーザ素子
活性層10の引っ張り歪量[%]の絶対値は、a<b<c<dとなる。つまり、サンプルaの引っ張り歪の大きさが最も小さく、サンプルdの引っ張り歪の大きさが最も大きくなる。
【0066】
通電条件は、25°Cで60mWとした。
各サンプルa〜dに対する偏光比[dB]の測定結果を表1に示す。なお、量子化井戸層211の引っ張り歪量[%]が0のときの偏光比[dB]は−35程度である。
【0067】
【表1】

【0068】
全てのサンプルに対する偏光比[dB]が正となっており、全てのサンプルにおいて、TM成分光出力がTE成分光出力よりも大きくなっていることが分かる。
次に、活性層10の引っ張り歪量[%]と閾値電流[mA]との関係について説明する。前記a〜dと同様な実験サンプルを用いて実験を行った。通電条件は、25°Cとした。
【0069】
各サンプルa〜dに対する閾値電流[mA]の測定結果を表2に示す。なお、量子化井戸層211の引っ張り歪量[%]が0のときの閾値電流[mA]は、24.5[mA]程度である。
【0070】
【表2】

【0071】
全てのサンプルに対する閾値電流[mA]が、引っ張り歪量[%]が0のときの閾値電流よりも低くなっていることが分かる。
これらの実験結果から、量子井戸層211の膜厚が9nm以上12nm以下であり、発振波長が780nm以上830nm以下であれば、TM成分光出力がTE成分光出力よりも大きくなりかつ閾値電流を低い抑えることができることがわかる。
【0072】
この発明は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 基板
2 半導体積層構造
3 n型電極
4 p型電極
6 n型AlGaInP電流狭窄層
10 活性層
11 n側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層
12 p側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層
13 n型半導体層
14 p型半導体層
15 n型GaAsバッファ層
16 n型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層
17 第1p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層
18 p型エッチングストップ層
19 第2p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層
20 p型キャップ層
21 p型GaAsコンタクト層
40 端面窓構造
60 反射膜
61 端面被覆部
62 p極側回り込み部
63 n極側回り込み部
70 半導体レーザダイオード
83 n極電極面
84 p極電極面
221 量子井戸層
222 障壁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型クラッド層およびn型クラッド層と、
前記p型クラッド層およびn型クラッド層に挟まれたp側ガイド層およびn側ガイド層と、
前記p側ガイド層およびn側ガイド層に挟まれ、少なくとも2つの量子井戸層および隣接する前記量子井戸層に挟まれた障壁層を含む活性層とを備え、
前記p型クラッド層およびn型クラッド層は、それぞれ(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層(0≦x1≦1)からなり、
前記p側ガイド層およびn側ガイド層ならび前記障壁層は、それぞれAlx2Ga(1−x2)As層(0≦x2≦1)からなり、
前記量子井戸層は、GaAs(1−x3)x3層(0≦x3≦1)からなり、
前記(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層は、x1>0.7を満たす組成を有しており、
前記Alx2Ga(1−x2)As層は、0.4≦x2≦0.8を満たす組成を有している、半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記量子井戸層に、格子不整合率が−0.4%以下で−0.9%以上の引っ張り歪が生じている、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
発振波長が780nm以上830nm以下であり、前記量子井戸層の厚さが9nm以上12nm以下である、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記GaAs(1−x3)x3層は、Asの組成(1−x3)に対するPの組成x3の比x3/(1−x3)が、1/9以上1/4以下を満たす組成を有している、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記量子井戸層の厚さが9nm以上12nm以下であり、前記障壁層の厚さが前記量子井戸層の厚さより薄い、請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記量子井戸層の数が、2以上5以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記p型クラッド層およびn型クラッド層のキャリア濃度が、0.7×1018cm−3以上2.0×1018cm−3以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
レーザ共振器の端面部分に、前記活性層のバンドギャップを拡大する端面窓構造が形成されている請求項1〜7のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記端面窓構造は、前記レーザ共振器の端面部分に、不純物を選択的に拡散することによって形成されており、前記n側カイド層と前記n型クラッド層との界面から前記n型クラッド層側への前記不純物の拡散長が、400nm以上1300nm以下である請求項8に記載の半導体レーザ素子。
【請求項10】
n極電極が形成されたn極電極面と、
p極電極が形成されたp極電極面と、
レーザ共振器端面と、
前記レーザ共振器端面を覆うように形成された反射膜とを含み、
前記反射膜が、前記レーザ共振器端面を被覆する端面被覆部と、前記端面被覆部に連続し、前記p極電極面側に回り込むp極側回り込み部と、前記端面被覆部に連続し、前記p極側回り込み部の前記p極電極面側への回り込み量より少ない回り込み量で前記n極電極面側に回り込むn極側回り込み部とを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項11】
前記n極側回り込み部の前記n極電極面側への回り込み量が10μm未満であり、前記p極側回り込み部の前記p極電極面側への回り込み量が10μm以上である、請求項10に記載の半導体レーザ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【公開番号】特開2012−169582(P2012−169582A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71598(P2011−71598)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】