説明

半導体レーザ装置

【課題】良化現象を抑え、歩留よくかつ生産性の高い自励発振型レーザや高出力レーザの構造を提供する。
【解決手段】n型のGaN基板(301)上にn型クラッド層(308、302)と活性層(309、303)とp型クラッド層(310、304)を含む自励発振型又は高出力半導体レーザであって、GaN基板のキャリア濃度が2×1018cm-3以下であり、AlGaInN系化合物から成る。あるいは、Si、またはO、またはSe、またはGeをドーピングしたGaN基板上にn型クラッド層と活性層とp型クラッド層を含む自励発振型青/青紫色半導体レーザ又は高出力青/青紫色半導体レーザであって、ドーパント濃度が2×1018cm-3以下であり、AlGaInN系化合物から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク装置、あるいは光情報処理、光通信、光計測などに使用する半導体レーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DVDやBlu-ray Discなどの相変化型光ディスクおよび光磁気ディスクのピックアップ光源には波長650nm帯のAlGaInP系赤色レーザや波長400nm帯の青色レーザが用いられる。データの読み込み時に光源がディスクからの反射戻り光の影響を受けないために、500MHz〜2GHz程度の高周波パルスでの駆動を行う必要がある。そのためにはシングルモードレーザを高周波重畳により動作させる方法と、自励発振型レーザを用いる方法がある。後者はDC駆動でのパルス動作が可能なため高周波重畳が不要で、部品の小型化、低コスト化、不要輻射対策の簡素化を図り易い。
【0003】
このような自励発振型AlGaInP系赤色レーザの従来例として特許文献1が挙げられる。この例では、高濃度p型ドーピングを施した可飽和吸収層を備えることにより、安定した自励発振動作を可能とすることを提案している。
【特許文献1】特表平10−505960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高濃度p型ドーピングを施した可飽和吸収層を有する自励発振型AlGaInP赤色レーザにおいて、通算の通電時間に対して発振しきい値電流および動作電流が変動するという現象が起こる場合がある。通常、これらは小さい値へと変動する。今後この現象をここでは「良化」と呼ぶ。良化現象は半導体レーザ装置の特性を損なう要因となり、歩留などに著しい悪影響を与える。
【0005】
通電を行うことにより良化現象は飽和し、発振しきい値電流および動作電流は安定するが、半導体レーザ装置毎に飽和までの積算通電量が異なるので、正常な検査を阻害する原因となる。
【0006】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、良化現象を抑え、歩留よくかつ生産性の高い自励発振型レーザや高出力レーザの構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1番目の半導体レーザは、第一伝導型のGaAs基板上に第一伝導型クラッド層と、活性層と、第二伝導型クラッド層と可飽和吸収層を含む自励発振型赤色半導体レーザであって、前記GaAs基板のキャリア濃度が1×1018cm-3以下であり、かつ発振波長が630nm以上690nm以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明の第2番目の半導体レーザは、第一伝導型のGaAs基板上に第一伝導型クラッド層と、活性層と、第二伝導型クラッド層を含む赤色レーザであって、前記GaAs基板のキャリア濃度が1×1018cm-3以下であり、かつ発振波長が630nm以上690nm以下であり、片端面からの光出力が30mW以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明の第3番目の半導体レーザは、第一伝導型のGaAs基板上に、第一伝導型クラッド層と活性層と第二伝導型クラッド層を含む発振波長が630nm以上690nm以下であるレーザと、発振波長が760nm以上810nm以下であるレーザとが形成されている二波長半導体レーザであって、前記GaAs基板のキャリア濃度が1×1018cm-3以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第4番目の半導体レーザは、第一伝導型のGaN基板上に第一伝導型クラッド層と活性層と第二伝導型クラッド層を含む自励発振型又は高出力半導体レーザであって、前記GaN基板のキャリア濃度が2×1018cm-3以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第5番目の半導体レーザは、Si、またはO、またはSe、またはGeをドーピングしたGaN基板上に第一伝導型クラッド層と活性層と第二伝導型クラッド層を含む自励発振型青/青紫色半導体レーザ又は高出力青/青紫色半導体レーザであって、前記ドーパント濃度が2×1018cm-3以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基板のキャリア濃度もしくは不純物濃度の上限を限定することで、自励発振型赤色レーザをはじめとした種々のレーザに対して、良化現象のない安定した発振しきい値電流、動作電流特性を有する半導体レーザが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の自励発振型赤色半導体レーザにおいては、GaAs基板のキャリア濃度が1×1018cm-3以下であり、かつ発振波長が630nm以上690nm以下である。GaAs基板の好ましいキャリア濃度は0.4×1018cm-3以上1.0×1018cm-3以下である。また、可飽和吸収層のキャリア濃度は1×1018cm-3以上が好ましく、さらに好ましくは1.5×1018cm-3以上3.0×1018cm-3以下である。
【0014】
前記可飽和吸収層は歪量子井戸構造であることが好ましい。これにより安定した自励発振を得るための可飽和吸収層において吸収するための光閉じ込め効率および活性層とのバンドギャップ差を確保できる。
【0015】
本発明の高出力赤色レーザにおいては、GaAs基板のキャリア濃度が1×1018cm-3以下であり、かつ発振波長が630nm以上690nm以下であり、片端面からの光出力が30mW以上である。GaAs基板の好ましいキャリア濃度は0.4×1018cm-3以上1.0×1018cm-3以下である。また、片端面からの光出力は50mW以上300mW以下であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明においては、活性層のバンドギャップより大きいバンドギャップを持つ埋込再成長層を有し、かつ埋込再成長のため650℃以上の基板加熱を伴う埋込再成長により作製されていることが好ましい。これにより発振光に対して透明な層を良好な結晶性にて積層でき、導波損失の小さい導波路が形成され、低動作電流化が実現できる。
【0017】
また本発明の二波長半導体レーザにおいて、GaAs基板のキャリア濃度が1×1018cm-3以下としてもよい。エピタキシャル成長のために650℃以上の熱履歴工程を3回以上含む工程により作製されていてもよい。
【0018】
また前記GaAs基板のドーピング不純物としてSiを用い、第一伝導型クラッド層のドーピング不純物としてSi、Se、Te、Sのいずれかを用い、第二伝導型クラッド層のドーピング不純物としてZn、Mg、C、Beのいずれかを用い、前記GaAs基板のSi濃度が1×1018cm-3以下であるのが好ましい。
【0019】
前記GaAs基板のキャリア濃度が7×1017cm-3以下であることが好ましい。
【0020】
また、自励発振型又は高出力半導体レーザにおいて、GaN基板のキャリア濃度が2×1018cm-3以下であってもよい。
【0021】
Si、またはO、またはSe、またはGeをドーピングしたGaN基板上に第一伝導型クラッド層と活性層と第二伝導型クラッド層を含む自励発振型青/青紫色半導体レーザ又は高出力青/青紫色半導体レーザであって、前記ドーパント濃度が2×1018cm-3以下としてもよい。
【0022】
本発明による自励発振型半導体レーザは、基板のキャリア濃度(もしくは不純物濃度)を特定化するものである。本発明の構成により、従来のような良化現象を著しく低減でき、通電初期から安定した発振しきい値電流、動作電流特性を有する自励発振型レーザを実現することが可能となる。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。
【0024】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における半導体レーザの断面構造図である。
【0025】
本実施の形態では、Siのドーピングを施したn型GaAs基板101上に、n型クラッド層102、活性層103、第一p型クラッド層104、可飽和吸収層105、第二p型クラッド層106、電流ブロック層107、コンタクト層108が積層されている構造である。可飽和吸収層105は歪量子井戸により構成されており、2×1018cm-3に高濃度ドーピングされている。p型クラッド層106はメサ状ストライプに形成されており、その幅は上部で約1μm、下部で約3μmである。電流ブロック層107は第二p型クラッド層106上に形成されており、ストライプ上面の電流注入領域で除去されている。コンタクト層108上面および基板101裏面にそれぞれ電極109、110が形成されている。
【0026】
各層の材料、伝導型、膜厚、キャリア濃度は以下の表1のとおりである。
【0027】
【表1】

【0028】
上記の表1において、電流ブロック層107の膜厚は、基板の主面に垂直な方向に成長した領域の膜厚である。
【0029】
本発明における特徴は、基板のキャリア濃度の上限を1×1018cm-3以下に保持していることにある。一般的にAlGaInP系化合物半導体からなる赤色レーザにおいてはキャリア濃度が1×1018cm-3〜4×1018cm-3となるようにSiをドーピングしたGaAsが用いられる。しかし、このような基板を用いた半導体レーザでは、通電初期から通電時間を経るにつれ、発振しきい値電流および動作電流が変動する。
【0030】
良化のメカニズムは現在のところ解明されていないが、以下の二つの推測が挙げられる。
(1)高濃度にZnがドーピングされた可飽和吸収層、もしくはその他のZnのドーピングされた層から、通電によりZnの意図しない活性層への拡散が起こり、この結果、活性層を構成するGaInP量子井戸における利得のキャリア注入依存性が変化する。
(2)水素により終端化されている不活性なZnが、通電により活性化され、活性層とpクラッド層とのバリアハイトが変化し、発光効率が変化する。
【0031】
いずれにせよ、この良化現象の影響を除去し、検査を正しく行うためにはエージングによる動作電流安定化を行わなければならない。これは本来不要な検査時間を要するため、生産上の課題である。
【0032】
図2には通電初期と飽和後の動作電流の差の基板キャリア濃度依存性を示す。基板キャリア濃度が1.1×1018cm-3付近を越えると通電初期と飽和後の動作電流の差の大きいデバイスが出現し、デバイス毎のバラツキが大きくなり、その傾向は基板キャリア濃度の増加に従って顕著となる。一方、基板キャリア濃度が1×1018cm-3以下の場合はデバイスの間の差の大きさおよびバラツキは小さく、安定している。
【0033】
この効果の原因については、以下のように推測される。Siのドーピングされた基板上エピタキシャル成長層における結晶性とりわけ積層欠陥密度は、基板のSi濃度に依存することが知られている。Siの濃度が高いほど基板におけるGaの空孔などの欠陥が多く、その情報がエピタキシャル成長層にまで伝達されるためである。そして、欠陥密度の大きいエピタキシャル成長層中においては、比較的Znの拡散などの挙動が起こりやすいと考えられる。
【0034】
自励発振レーザは高濃度Znドープ、高歪の可飽和吸収層を有するため、このような結晶性劣化に対して敏感に依存し、良化を誘発するものと考えられる。そしてSi濃度を1×1018cm-3以下にすることにより、エピタキシャル成長層中の欠陥密度を減じることができ、良化を抑制できるものと考えられる。
【0035】
以上のように、基板キャリア濃度が1×1018cm-3以下のデバイスにおいては通電後の動作電流の変動が非常に小さく、通電初期の検査において精度良く検査を行うことが可能であるため、生産上の課題である検査時間の短縮化に大きく貢献できるものと考えられる。
【0036】
(実施の形態2)
図3は本発明の実施の形態2における高出力赤色レーザの断面構造図である。
【0037】
本実施の形態では、Siのドーピングを施したn型GaAs基板201上に、n型クラッド層202、活性層203、第一p型クラッド層204、電流ブロック層205、コンタクト層206が積層されている構造である。可飽和吸収層105は歪量子井戸により構成されており、2×1018cm-3に高濃度ドーピングされている。p型クラッド層204はメサ状ストライプに形成されており、その幅は上部で約1μm、下部で約3μmである。電流ブロック層205は第二p型クラッド層204上に形成されており、ストライプ上面の電流注入領域で除去されている。コンタクト層206上面および基板201裏面にそれぞれ電極207、208が形成されている。
【0038】
片端面からの光出力が30mW以上である高出力赤色レーザにおいても良化現象の発生が見られる場合がある。埋込リッジ構造による高出力赤色レーザの場合、導波損失を低減するため、埋込層(電流ブロック層)としてはAl0.5In0.5Pなど活性層よりバンドギャップの大きい層を積層することにより作製する実屈折率型導波構造が得られる。この埋込再成長を行うために650℃以上の基板加熱を伴う結晶成長工程を用いる必要がある。これは高い結晶性のAlInPを成長するためである。650℃以上の基板加熱を伴う工程が(最初の結晶成長を含め)二回以上行われると、熱履歴によりZnの拡散が促進される。このような素子においては、通電時の良化現象が顕著であることが、本発明者の実験により明らかとなっている。しかし、このような素子においても、基板のキャリア濃度もしくは不純物濃度の上限を1×1018cm-3以下、望ましくは基板キャリア濃度を7×1017cm-3以下限定することで、良化現象のない安定した発振しきい値電流、動作電流特性を有する素子を実現することが可能となる。なお、基板キャリア濃度が低くなるほど素子抵抗の上昇による弊害が問題となる可能性がある。しかし、高出力レーザにおいてはチップ面積が比較的大きいため、基板のキャリア濃度低減による影響は素子特性上問題のないレベルであると考えられる。
【0039】
(実施の形態3)
図4は本発明の実施の形態3における半導体レーザの断面構造図である。
【0040】
図4に示すような、基板301上に赤色レーザおよび赤外レーザをモノリシックに集積した二波長レーザにおいても良化現象の発生が見られる場合がある。二波長レーザはダブルヘテロ構造の成長回数が少なくとも一回以上増えるため、熱履歴工程増加の影響により、良化が顕著になるものと考えられる。このような素子においても、基板のキャリア濃度もしくは不純物濃度の上限を限定することで、良化現象の抑制効果が得られる。
【0041】
(実施の形態4)
図5は本発明の実施の形態4における半導体レーザの断面構造図である。
【0042】
図5に示す半導体レーザは、GaN基板401上に作製されたAlGaInN系化合物半導体から成る自励発振型半導体レーザもしくは高出力半導体レーザである。約1000℃の高い温度で結晶成長を行い、結晶欠陥密度が従来の材料系に比べ大きいため、良化現象がより顕著に発生する場合がある。前期GaN基板のキャリア濃度もしくは不純物濃度の上限を限定することで、良化現象のない安定した発振しきい値電流、動作電流特性を有する自励発振型レーザが実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の半導体レーザ装置は、安定した発振しきい値電流、動作電流特性を有し、DVDを中心とした光ディスクのピックアップ用光源およびその他の光情報処理、光通信、光計測の光源として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態における自励発振赤色レーザの断面構造図
【図2】通電初期における動作電流の基板キャリア濃度依存性
【図3】高出力赤色レーザの断面構造図
【図4】二波長レーザの断面構造図
【図5】青色レーザの断面構造図
【符号の説明】
【0045】
101,201,301,401 n型GaAs基板
102,202,403 n型クラッド層
103,203,404 活性層
104 第一p型クラッド層
105 可飽和吸収層
106 第二p型クラッド層
107,205 電流ブロック層
108,206 コンタクト層
109,207,406 p側電極
110,208,314,407 n側電極
204,405 p型クラッド層
302,308 赤外レーザn型クラッド層
303,309 赤外レーザ活性層
304,310 赤外レーザp型クラッド層
305,311 赤外レーザ電流ブロック層
306,312 赤外レーザコンタクト層
307,313 赤外レーザp側電極
402 n型バッファ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型のGaN基板上にn型クラッド層と活性層とp型クラッド層を含む自励発振型又は高出力半導体レーザであって、
前記GaN基板のキャリア濃度が2×1018cm-3以下であり、
AlGaInN系化合物から成ることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項2】
Si、またはO、またはSe、またはGeをドーピングしたGaN基板上にn型クラッド層と活性層とp型クラッド層を含む自励発振型青/青紫色半導体レーザ又は高出力青/青紫色半導体レーザであって、
前記ドーパント濃度が2×1018cm-3以下であり、
AlGaInN系化合物から成ることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項3】
約1000℃の温度で結晶成長を行うことにより作製されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体レーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−103772(P2008−103772A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8268(P2008−8268)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【分割の表示】特願2007−311988(P2007−311988)の分割
【原出願日】平成15年11月13日(2003.11.13)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】