説明

半導体光集積素子及びその製造方法

【課題】 半導体光集積素子及びその製造方法に関し、光導波路の伝播損失を増大させることなく、PDの暗電流を10nA以下まで低減する。
【解決手段】 n型クラッド層側から順に少なくとも光吸収層及びZnドープp型クラッド層が積層されたフォトダイオード領域の傾斜側面に対して[011]方向にバットジョイント結合した光導波路領域における光導波路層に(100)面方位での飽和濃度以下の濃度のFeをドープし、上側クラッド層に(100)面方位での飽和濃度以上の濃度のFeをドープする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光集積素子及びその製造方法に関するものであり、例えば、フォトダイオード(PD)と光導波路がバットジョイント結合でモノリシック集積された導波路型PDにおける暗電流の低減に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムの高速・大容量化に伴い、ネットワークを構成する光部品の小型化や低消費電力化が求められている。光信号を導波させる光導波路と光信号を受信するPDとをモノリシック集積した導波路型PDは、光部品の小型化に必要な半導体光集積素子の1つである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図8は、バットジョイント結合により形成された従来の導波路型PDの概念的断面図である。まず、(100)面を主面とするInP基板71上に、n型InPクラッド層72、ノンドープのi型InGaAs光吸収層73、Znドープのp型InPクラッド層74、Znドープのp型InGaAsコンタクト層75を成長させる。
【0004】
次いで、PD形成領域にSiOマスクを施し、SiOマスクで覆われていない領域をi型InGaAs光吸収層73までウエットエッチングで除去してPD領域を形成する。この時、光導波路領域には平坦な(100)面が、PD領域の側面には(100)面に対して傾斜した側面が形成される。
【0005】
次いで、SiOマスクを選択成長マスクとして、ノンドープのi型InGaAsP光導波路層76とノンドープのi型InPクラッド層77を再成長させて光導波路領域を形成する。この時、PD領域の側面にはi型InGaAsP光導波路層76が薄く這い上がった成長形状となる。なお、図における符号78,79は、それぞれ、n側電極及びp側電極である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−217446号公報
【特許文献2】特開平06−324226号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Crystal Growth,Vol.124,pp.352−357,1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者等が上述の従来技術を適用して導波路型PDを作製したところ、PD領域と光導波路領域の接合部である再成長界面を流れる暗電流が大きい(>100nA@−5V)という問題に直面した。
【0009】
本発明者が鋭意検討したところ、図9に示すように、エッチングで形成した再成長界面に、濃度が1017cm−3〜1018cm−3オーダーのSiやOなど環境雰囲気由来の不純物偏析が存在していることを付き止めた。このような再成長界面の不純物偏析によるn転層80が残留していることが暗電流の要因であると推定される。
【0010】
そこでFeとZnが相互拡散しやすい性質を利用して、PD領域から導波路領域へのZn拡散を誘発し、再成長界面のn転層をZnで補償することを試みた。なお、導波路型光集積素子において、再成長するInGaAsP光導波路層やInP上クラッド層にFeをドープした例がある(例えば、特許文献2参照)。しかし、Fe濃度に関する記載がないため、一般的にはFe濃度は飽和濃度以下である。
【0011】
なお、飽和濃度とは、Fe原子がIII族格子位置に置換して電気的に活性(深いアクセプタ準位形成)となりうる固溶限界濃度のことである。上記の非特許文献1によると、
(100)面方位InP中のFe飽和濃度:〜5×1016cm−3
(100)面方位InGaAsP中のFe飽和濃度:〜4×1016cm−3
である。また、非特許文献1には、InGaAsP層にFeを高濃度ドープすると成長表面が荒れやすいことが記載されている。
【0012】
このことからFeドープInGaAsP層を光導波路層に適用する場合には、表面荒れによる光の伝播損失増大を防止するためにInGaAsP光導波路層にドープするFe濃度は飽和濃度以下にしなければならないとの結論に至った。
【0013】
そこで、本発明者は、光導波路層と上クラッド層を、それぞれ(100)面方位で3×1016cm−3のFeドープしたInGaAsP光導波路層と、(100)面方位で5×1016cm−3のFeドープしたInP上クラッド層に置き換えて導波路型PDを作製した。
【0014】
しかしながら、暗電流は数10nA@−5Vまで低減されたものの、PD領域側面のn転領域を補償する効果は十分ではなく、暗電流をnAオーダー以下に抑制することができなかった。
【0015】
したがって、本発明は、光導波路の伝播損失を増大させることなく、PDの暗電流を10nA以下まで低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
開示する一観点からは、主面の面方位が(100)面の半導体基板上にn型クラッド層を介して形成され、(100)面に対して傾斜した側面を有するフォトダイオード領域と、前記フォトダイオード領域の前記側面に対して[011]方向にバットジョイント結合した光導波路領域とを有するIII-V族化合物半導体からなる半導体光集積素子であって、前記フォトダイオード領域が、前記n型クラッド層上に前記n型クラッド層側から順に積層された光吸収層及びZnドープp型クラッド層を少なくとも有し、前記光導波路領域が、前記n型クラッド層上に前記n型クラッド層側から順に積層された光導波路層及び上側クラッド層を少なくとも有し、前記光導波路層は前記傾斜した側面に対する這い上がり部を有するとともに、前記光導波路層にFeが(100)面方位での飽和濃度以下にドープされており、且つ、前記上側クラッド層にFeが(100)面方位での飽和濃度以上にドープされていることを特徴とする半導体光集積素子が提供される。
【0017】
また、開示する別の観点からは、主面の面方位が(100)面の半導体基板上に、前記半導体基板側から順にn型クラッド層、光吸収層、及び、Znドープp型クラッド層を少なくとも成長する工程と、前記Znドープp型クラッド層乃至前記光吸収層の一部を除去して[011]方向において(100)面に対して傾斜した側面を有するフォトダイオード領域を形成する工程と、前記Znドープp型クラッド層乃至前記光吸収層の除去部に、前記傾斜した側面に対する這い上がり部を有するノンドープの光導波路層と、Feが(100)面方位での飽和濃度以上にドープされた上側クラッド層を順次成長する工程とを有することを特徴とする半導体光集積素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
開示の半導体光集積素子及びその製造方法によれば、光導波路の伝播損失を増大させることなく、PDの暗電流を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の半導体光集積素子の概念的断面図である。
【図2】本発明の実施例1の導波路型PDの途中までの製造工程の説明図である。
【図3】本発明の実施例1の導波路型PDの図2以降の途中までの製造工程の説明図である。
【図4】本発明の実施例1の導波路型PDの図3以降の製造工程の説明図である。
【図5】本発明の実施例3の導波路型PDを備えた半導体光集積回路装置の途中までの製造工程の説明図である。
【図6】本発明の実施例3の導波路型PDを備えた半導体光集積回路装置の図5以降の途中までの製造工程の説明図である。
【図7】本発明の実施例3の導波路型PDを備えた半導体光集積回路装置の図6以降の途中までの製造工程の説明図である。
【図8】バットジョイント結合により形成された従来の導波路型PDの概念的断面図である。
【図9】従来のバットジョイント界面に発生するn転層の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ここで、図1を参照して、本発明の実施の形態の半導体光集積素子を説明する。図1は、本発明の実施の形態の半導体光集積素子の概念的断面図である。(100)面を主面とする 半導体基板11上に、n型クラッド層12、光吸収層13、Znドープp型クラッド層14及びZnドープp型コンタクト層15を順次成長させる。なお、Znドープp型コンタクト層15は必須ではない。
【0021】
次いで、PD形成領域にSiOマスクを形成し、SiOマスクに覆われない領域をウエットエッチングにより除去して、[011]方位において(100)面に対して傾斜した側面を有するフォトダイオード領域16を形成する。次いで、SiOマスクを選択成長マスクとして、エッチング除去部にノンドープの光導波路層17及びFeが(100)面方位での飽和濃度以上にドープした上側クラッド層18を成長させて、 [011]方向にバットジョイント結合された光導波路領域19とする。この時、ノンドープの光導波路層17には上側クラッド層18からFeが固相拡散するが、光導波路層17中のFeの平均濃度は(100)面方位での飽和濃度以下となる。なお、図における符号20,21はそれぞれ、n側電極及びp側電極である。
【0022】
より好ましくは、光導波路層17の下部に、n型クラッド層12と同一のIII-V族組成の材料からなるFeドープバッファ層を積層することが望ましく、このFeドープバッファ層の厚さは、
Feドープバッファ層厚さ+光導波路層17の厚さ≦光吸収層13の厚さ
なる関係を満たすことが望ましい。
【0023】
なお、これらの材料組成は、1.55μm帯或いは1.3μm帯の光通信に用いる場合には、半導体基板11、n型クラッド層12、Znドープp型クラッド層14及び上側クラッド層18をInPとする。また、光吸収層13はInGaAsとし、光導波路層17はInGaAsPとし、Znドープp型コンタクト層15はInGaAs或いはInGaAsPとすれば良い。
【0024】
本発明の実施の形態においては、光導波路層17のFeドープ量が飽和濃度以下であるために、光導波路層17の成長表面は荒れることなく平坦な表面が得られ、これにより導波路の伝播損失増大は回避される。なお、上側クラッド層18にFeを飽和濃度以上にドープしても表面が荒れることはなく、光導波路の伝播損失増大には至らない。
【0025】
また、上側クラッド層18のFeドープ量を飽和濃度以上にすることにより、III族格子位置に取り込まれないFe原子は動きやすいため、上側クラッド層18とPD領域16のZnドープp型層(14,15)との間でFeとZnの相互拡散が起こりやすくなる。
【0026】
その結果、光導波路層17の這い上がり部が介在していてもPD領域16から導波路領域19へのZn拡散がより誘発され、PD側面の再成長界面のn転層がZnで補償される。これにより、PD側面を介した暗電流をnAオーダー以下に低減できる。
【0027】
なお、光導波路層17を再成長する前にFeドープバッファ層を再成長させた場合には、バッファ層の効果で再成長した光導波路層17の品質が向上する。また、光導波路層17はノンドープで成長させることに限られるものではなく、上側クラッド層18からのFeの拡散量を見込んでも飽和濃度以下となる濃度であれば、Feをドープしても良い。
【実施例1】
【0028】
次に、図2乃至図4を参照して、本発明の実施例1の導波路型PDの製造工程を説明する。なお、結晶成長は、例えば、有機金属気相成長法にて行う。まず、図2(a)に示すように、(100)面を主面とするn型InP基板31上に厚さが1μmのn型InPクラッド層32及び厚さが0.4μmのノンドープのi型InGaAs光吸収層33を成長させる。引き続いて、厚さが1μmのp型InPクラッド層34、及び、厚さが0.3μmのp型InGaAsコンタクト層35を順次成長させてPD構造を形成する。この時、p型InPクラッド層34のZn濃度は1×1018cm−3とし、p型InGaAsコンタクト層35のZn濃度は1×1019cm−3とする。
【0029】
次いで、図2(b)に示すように、PD形成領域に厚さが0.5μmのSiOマスク36を形成し、次いで、図2(c)に示すように、SiOマスク36をマスクとして硫酸系溶液によりp型InGaAsコンタクト層35を選択エッチングする。次いで、HBrによりp型InPクラッド層34を選択エッチングし、次いで、硫酸系溶液によりi型InGaAs光吸収層33をエッチングして、光導波路領域のPD構造をエッチング除去する。この時、PD領域の側面には(100)面に対して傾斜したエッチング面が形成される。
【0030】
次いで、図3(d)に示すように、SiOマスク36を選択成長マスクとして、厚さが0.3μmで組成波長が1.3μmのノンドープのInGaAsP光導波路層37を成長させる。引き続いて、厚さが1.1μmで飽和濃度以上のFeをドープしたInP上側クラッド層38を再成長する。これによって、InGaAsP光導波路層37とi型InGaAs光吸収層33とが[011]方向にバットジョイント結合された構造が形成される。この時のInP上側クラッド層38のFe濃度は(100)面における飽和濃度以上の2×1017cm−3とすると、InGaAsP光導波路層37へFeが拡散し、InGaAsP光導波路層37のFe濃度は(100)面における飽和濃度以下の3×1016cm−3となる。なお、この再成長工程において、PD領域の傾斜した側面にはInGaAsP層39が少し這い上がって成長する。
【0031】
次いで、図3(e)及び(f)に示すように、SiOマスク36を除去したのち、新たに厚さが0.5μmで、光導波路領域における幅が2.0μmでPD領域における幅が10μmのストライプ状のSiOマスク40を形成する。次いで、このSiOマスク40をマスクとして、ICP−RIE(誘導結合型リアクティブイオンエッチング)によって、高さ2μmのストライプメサを形成する。なお、図3(f)は平面図である。
【0032】
次いで、図4(g)に示すように、SiOマスク40を選択成長マスクとして、ストライプメサの両側をFe濃度が5×1016cm−3のFeドープInP層41で埋め込み、PD領域の幅方向の側面をFeドープInP層41で保護する。
【0033】
次いで、図4(h)に示すように、SiOマスク40を除去したのち、新たなSiO膜42を形成する。次いで、PD領域のSiO膜42に開口部を形成したのち、Ti,Pt,Auを順次堆積させてp側電極43を形成する。また、n型InP基板31の裏面にAuGe及びAuを順次堆積させてn側電極44を形成することによって、本発明の実施例1の導波路型PDが完成する。
【0034】
この導波路型PDの暗電流を測定した結果、2nA@−5VとnAオーダーの低い値が得られた。また導波路領域の伝播損失も0.15dB/mmと問題ないレベルであった。このように、本発明の実施例1においては、上側クラッド層に飽和濃度以上のFeをドープしているので、PD領域からのZnの拡散を誘発して、n転層の発生を抑制しているので暗電流をnAオーダーにすることができる。また、光導波路層のFe濃度を飽和濃度以下にしているので、成長表面の荒れが少なく、導波路領域の伝播損失を少なくすることができる。
【実施例2】
【0035】
次に、本発明の実施例2の導波路型PDの製造工程を説明するが、基本的プロセスは上記の実施例1と同一であるので相違点のみを説明する。本発明の実施例2においては、上記の図3(d)の工程において、ノンドープのInGaAsP光導波路層の代わりに、Fe濃度が飽和濃度以下、例えば、3×1016cm−3になるように、意図的にFeをドープしたInGaAsP光導波路層を成長させる。
【0036】
このように、本発明の実施例2においては、光導波路層にFeを意図的にドープしているので、n転層の発生をより効果的に抑制することができる。また、Feの濃度は飽和濃度以下であるので、成長表面の荒れはそれほど大きくなることはない。
【実施例3】
【0037】
次に、図5乃至図7を参照して、本発明の実施例3の導波路型PDを備えた半導体光集積回路装置の基本的な製造工程を説明する。まず、図5(a)に示すように、(100)面を主面とするFeドープの高抵抗InP基板51上に厚さが1μmのn型InPクラッド層52及び厚さが0.4μmのノンドープのi型InGaAs光吸収層53を成長させる。引き続いて、厚さが1μmのp型InPクラッド層54、及び、厚さが0.3μmのp型InGaAsコンタクト層55を順次成長させてPD構造を形成する。この時、p型InPクラッド層54のZn濃度は1×1018cm−3とし、p型InGaAsコンタクト層55のZn濃度は1×1019cm−3とする。
【0038】
次いで、図5(b)に示すように、PD形成領域に厚さが0.5μmのSiOマスク56を形成し、次いで、図5(c)に示すように、SiOマスク56をマスクとして硫酸系溶液によりp型InGaAsコンタクト層55を選択エッチングする。次いで、HBrによりp型InPクラッド層54を選択エッチングし、次いで、硫酸系溶液によりi型InGaAs光吸収層53をエッチングして、光導波路領域のPD構造をエッチング除去する。この時、PD領域の側面には(100)面に対して傾斜したエッチング面が形成される。
【0039】
次いで、図6(d)に示すように、SiOマスク56を選択成長マスクとして、厚さが0.1μmのFeドープInPバッファ層57を成長させる。この時のFe濃度は飽和濃度以上の1×1017cm−3とする。引き続いて、厚さが0.3μmで組成波長が1.3μmのFeドープのInGaAsP光導波路層58及び厚さが1μmで飽和濃度以上のFeドープのInP上側クラッド層59を再成長する。これによって、InGaAsP光導波路層58とi型InGaAs光吸収層53とが[011]方向にバットジョイント結合された構造が形成される。この時のInGaAsP光導波路層58のFe濃度は(100)面における飽和濃度以下の3×1016cm−3とし、InP上側クラッド層59のFe濃度は(100)面における飽和濃度以上の2×1017cm−3とする。なお、この再成長工程において、PD領域の傾斜した側面にはInGaAsP層60が少し這い上がって成長する。
【0040】
次いで、図6(e)及び(f)に示すように、SiOマスク56を除去したのち、新たに厚さが0.5μmで、光導波路領域における幅が2.0μmでPD領域における幅が10μmのストライプ状のSiOマスク61を形成する。次いで、このSiOマスク61をマスクとして、ICP−RIEによって、高さ2μmのストライプメサを形成する。なお、図6(f)は平面図である。
【0041】
次いで、図7(g)に示すように、メサ底面にストライプメサに沿ったストライプ状のSiOマスク62を形成する。次いで、SiOマスク40及びSiOマスク62を選択成長マスクとして、ストライプメサの両側をFe濃度が5×1016cm−3のFeドープInP層63で埋め込み、PD領域の幅方向の側面をFeドープInP層63で保護する。
【0042】
次いで、図7(h)に示すように、SiOマスク40及びSiOマスク62を除去したのち、新たなSiO膜64を形成する。次いで、PD領域のSiO膜64にp側電極のための開口部65とn側電極のための開口部66を形成する。
【0043】
次いで、図7(i)に示すように、開口部65にTi,Pt,Auを順次堆積させてp側電極67を形成するとともに、開口部66にAuGe及びAuを順次堆積させてn側電極68を形成する。このようにして、コプレーナ構造の電極を有する本発明の実施例3の半導体光集積回路装置の基本構造が完成する。なお、図示は省略するが、高抵抗InP基板51上には半導体レーザや半導体光増幅器等の他の光デバイスがモノリシックに形成されている。
【0044】
本発明の実施例3においては、InGaAsP光導波路層58を再成長する前にFeドープInPバッファ層57を成長しているので、InGaAsP光導波路層58の結晶品質が向上し、導波路領域の伝播損失が0.1dB/mmに低減した。また飽和濃度以上のFeドープInPバッファ層57を第1層目に成長しているのでPD領域からのZn拡散を誘発する効果が大きく、PD暗電流は0.5nA@−5Vとさらに低い値が得られた。
【0045】
また、FeドープInPバッファ層57とコア層となるInGaAsP光導波路層58との厚さの和は0.4μmとなり、InGaAs光吸収層53の厚さと同じであるため、導波路中心軸の軸ズレは小さく、PD吸収効率に変化はなかった。
【0046】
以上、本発明の各実施例を説明してきたが、説明した条件に限られるものではなく、各種の変更が可能である、例えば、上記の実施例1或いは実施例2においても、n型InPクラッド層にn側電極を形成してコプレーナ構造にしても良い。
【0047】
また、上記の実施例1或いは実施例2のように、導電性基板を用いる場合にも、FeドープInPバッファ層を介在させても良い。或いは、逆に、実施例3において、FeドープInPバッファ層を介在させずに、InGaAsP光導波路層を直接成長させても良い。さらには、FeドープInPバッファ層はノンドープInPバッファ層に置き換えても良い。
【0048】
ここで、実施例1乃至実施例3を含む本発明の実施の形態に関して、以下の付記を付す。
(付記1)
主面の面方位が(100)面の半導体基板上にn型クラッド層を介して形成され、[011]方向に傾斜した側面を有するフォトダイオード領域と、
前記フォトダイオード領域の前記側面に対してバットジョイント結合した光導波路領域と
を有するIII-V族化合物半導体からなる半導体光集積素子であって、
前記フォトダイオード領域が、前記n型クラッド層上に前記n型クラッド層側から順に積層された光吸収層及びZnドープp型クラッド層を少なくとも有し、
前記光導波路領域が、前記n型クラッド層上に前記n型クラッド層側から順に積層された光導波路層及び上側クラッド層を少なくとも有し、
前記光導波路層は前記傾斜した側面に対する這い上がり部を有するとともに、前記光導波路層にFeが(100)面方位での飽和濃度以下にドープされており、且つ、前記上側クラッド層にFeが(100)面方位での飽和濃度以上にドープされていることを特徴とする半導体光集積素子。
(付記2)
前記Znドープp型クラッド層上にZnドープp型コンタクト層を有することを特徴とする付記1に記載の半導体光集積素子。
(付記3)
前記光導波路層の下部に、前記n型クラッド層と同一のIII-V族組成からなるFeドープバッファ層を有し、
前記Feドープバッファ層と前記光導波路層との界面が、前記光吸収層と前記Znドープp型クラッド層との界面より前記半導体基板側に位置し、且つ、前記光導波路層と前記上側クラッド層との界面が、前記光吸収層と前記Znドープp型クラッド層との界面より前記半導体基板から離れた側に位置することを特徴とする付記1または付記2に記載の半導体光集積素子。
(付記4)
前記Feドープバッファ層の厚さと前記光導波路層の厚さの和が、前記光吸収層の厚さより同じか或いは小さいことを特徴とする付記3に記載の半導体光集積素子。
(付記5)
前記半導体基板が、高抵抗半導体基板であることを特徴とする付記1乃至付記4のいずれか1に記載の半導体光集積素子。
(付記6)
前記半導体基板、n型クラッド層、Znドープp型クラッド層及び上側クラッド層がInPからなり、前記光吸収層がInGaAsからなり、前記光導波路層がInGaAsPからなることを特徴とする付記1乃至付記5のいずれか1に記載の半導体光集積素子。
(付記7)
主面の面方位が(100)面の半導体基板上に、前記半導体基板側から順にn型クラッド層、光吸収層、及び、Znドープp型クラッド層を少なくとも成長する工程と、
前記Znドープp型クラッド層乃至前記光吸収層の一部を除去して[011]方向に傾斜した側面を有するフォトダイオード領域を形成する工程と、
前記Znドープp型クラッド層乃至前記光吸収層の除去部に、前記[011]方向に傾斜した側面に対する這い上がり部を有するノンドープの光導波路層と、Feが(100)面方位での飽和濃度以上にドープされた上側クラッド層を順次成長する工程と
を有することを特徴とする半導体光集積素子の製造方法。
(付記8)
前記光導波路層を成長する工程の前に、
前記Znドープp型クラッド層乃至光吸収層の除去部に、前記[011]方向に傾斜した側面に対する這い上がり部を有し前記n型クラッド層と同一のIII-V族組成のFeドープバッファ層を成長する工程を
有することを特徴とする付記7に記載の半導体光集積素子の製造方法。
【符号の説明】
【0049】
11 半導体基板
12 n型クラッド層
13 光吸収層
14 Znドープp型クラッド層
15 Znドープp型コンタクト層
16 フォトダイオード領域
17 光導波路層
18 上側クラッド層
19 光導波路領域
20 n側電極
21 p側電極
31 n型InP基板
32,52 n型InPクラッド層
33,53 i型InGaAs光吸収層
34,54 p型InPクラッド層
35,55 p型InGaAsコンタクト層
36,56 SiOマスク
37,58 InGaAsP光導波路層
38,59 InP上側クラッド層
39,60 InGaAsP層
40,61 SiOマスク
41,63 FeドープInP層
42,64 SiO
43,67 p側電極
44,68 n側電極
51 高抵抗InP基板
57 FeドープInPバッファ層
62 SiOマスク
65,66 開口部
71 InP基板
72 n型InPクラッド層
73 i型InGaAs光吸収層
74 p型InPクラッド層
75 p型InGaAsコンタクト層
76 i型InGaAsP光導波路層
77 i型InPクラッド層
78 n側電極
79 p側電極
80 n転層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面の面方位が(100)面の半導体基板上にn型クラッド層を介して形成され、(100)面に対して傾斜した側面を有するフォトダイオード領域と、
前記フォトダイオード領域の前記側面に対して[011]方向にバットジョイント結合した光導波路領域と
を有するIII-V族化合物半導体からなる半導体光集積素子であって、
前記フォトダイオード領域が、前記n型クラッド層上に前記n型クラッド層側から順に積層された光吸収層及びZnドープp型クラッド層を少なくとも有し、
前記光導波路領域が、前記n型クラッド層上に前記n型クラッド層側から順に積層された光導波路層及び上側クラッド層を少なくとも有し、
前記光導波路層は前記傾斜した側面に対する這い上がり部を有するとともに、前記光導波路層にFeが(100)面方位での飽和濃度以下にドープされており、且つ、前記上側クラッド層にFeが(100)面方位での飽和濃度以上にドープされていることを特徴とする半導体光集積素子。
【請求項2】
前記光導波路層の下部に、前記n型クラッド層と同一のIII-V族組成からなるFeドープバッファ層を有し、
前記Feドープバッファ層と前記光導波路層との界面が、前記光吸収層と前記Znドープp型クラッド層との界面より前記半導体基板側に位置し、且つ、前記光導波路層と前記上側クラッド層との界面が、前記光吸収層と前記Znドープp型クラッド層との界面より前記半導体基板から離れた側に位置することを特徴とする請求項1に記載の半導体光集積素子。
【請求項3】
前記半導体基板が、高抵抗半導体基板であることを特徴とする請求項1乃または請求項2に記載の半導体光集積素子。
【請求項4】
前記半導体基板、前記n型クラッド層、前記Znドープp型クラッド層及び前記上側クラッド層がInPからなり、前記光吸収層がInGaAsからなり、前記光導波路層がInGaAsPからなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の半導体光集積素子。
【請求項5】
主面の面方位が(100)面の半導体基板上に、前記半導体基板側から順にn型クラッド層、光吸収層、及び、Znドープp型クラッド層を少なくとも成長する工程と、
前記Znドープp型クラッド層乃至前記光吸収層の一部を除去して[011]方向において(100)面に対して傾斜した側面を有するフォトダイオード領域を形成する工程と、
前記Znドープp型クラッド層乃至前記光吸収層の除去部に、前記傾斜した側面に対する這い上がり部を有するノンドープの光導波路層と、Feが(100)面方位での飽和濃度以上にドープされた上側クラッド層を順次成長する工程と
を有することを特徴とする半導体光集積素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−110207(P2013−110207A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252690(P2011−252690)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】