説明

半導体封止用樹脂組成物および半導体装置

【課題】レーザによるマーキングにより十分なコントラストが得られ、鮮明なマーキングが可能であるとともに、高精細な配線に適用しても導通不良が発生することのない半導体装置封止用樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機充填剤、(D)フラーレンおよび(E)有機溶媒に不溶であり、かつ、CuKα線を使用したX線回折測定分析における回折角が3〜30°の範囲内で最も強いピークが回折角10〜18°の範囲に存在する炭素材料を含有し、前記半導体封止用樹脂組成物全体に対して、(C)成分を70〜95重量%、(D)成分を0.01〜2.0重量%、(E)成分を0.01〜2.0重量%含有する半導体封止用樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置に係り、特に、レーザマーキング性に優れ、かつ、絶縁信頼性も良好な半導体封止用樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂封止した半導体装置においては、熱硬化型もしくはUV硬化型の特殊なインクを用いてマーキングを行っていた。しかし、このような方法では、マーキングやその硬化に時間がかかるうえ、インクの取扱いも容易ではなかった。
【0003】
このため、現在ではYAGレーザや炭酸レーザを用いてマーキングを行うことが主流となっている。YAGレーザや炭酸レーザを用いたマーキングは、インクによるマーキングに比べ、作業性に優れ、作業時間を大幅に短縮できるなど、利点が多い。
【0004】
しかし、YAGレーザや炭酸レーザを用いたマーキングでは、マーキングした部分とマーキングしていない部分とのコントラストが十分でないために、マーキングが不鮮明である。また、封止樹脂中のフェノール樹脂硬化剤の酸化による黄変などにより読み取りが困難となることもある。
【0005】
そこで、このような半導体装置の封止に用いられる封止用樹脂組成物においては、レーザマーキング性を改善するために種々研究が行われており、例えば、黒色顔料としてカーボンブラックを用い、その平均粒径や添加量の範囲を特定することなどが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0006】
しかし、カーボンブラックは導電性を有するため、近年の半導体装置の高密度化に伴う高精細な配線の封止に適用した場合に、導通不良(短絡)を起こすおそれがあった。この問題を解決するため、カーボンブラックに代えて、導通不良(短絡)のおそれの少ないフラーレンを用いることが提案されている(例えば、特許文献4参照。)が、レーザマーキング性を含め、十分な特性を備えたものは得られていない。
【特許文献1】特開平10−158479号公報
【特許文献2】特開2001−123047号公報
【特許文献3】特開2005−89645号公報
【特許文献4】特開2005−206768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した問題を解決するためになされたもので、レーザによるマーキングにより十分なコントラストが得られ、鮮明なマーキングが可能であるとともに、高精細な配線に適用しても導通不良が発生することのない半導体装置封止用樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機充填剤、(D)フラーレンおよび(E)有機溶媒に不溶であり、かつ、CuKα線を使用したX線回折測定分析における回折角が3〜30°の範囲内で最も強いピークが回折角10〜18°の範囲に存在する炭素材料を含有する半導体封止用樹脂組成物であって、前記半導体封止用樹脂組成物全体に対して、前記(C)成分を70〜95重量%、前記(D)成分を0.01〜2.0重量%、前記(E)成分を0.01〜2.0重量%含有することを特徴とする。
【0009】
本発明の半導体装置は、前記した本発明の半導体封止用樹脂組成物の硬化物により封止された半導体素子を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レーザによるマーキングにより十分なコントラストが得られ、鮮明なマーキングが可能であるとともに、高精細な配線に適用しても導通不良が発生することのない半導体装置封止用樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機充填剤、(D)フラーレンおよび(E)有機溶媒に不溶であり、かつ、CuKα線を使用したX線回折測定分析における回折角が3〜30°の範囲内で最も強いピークが回折角10〜18°の範囲に存在する炭素材料を含有している。そして、半導体封止用樹脂組成物全体に対して、(C)成分である無機充填剤を70〜95重量%、(D)成分であるフラーレンを0.01〜2.0重量%、(E)成分である特定の物性を有する炭素材料を0.01〜2.0重量%含有している。
【0013】
本発明に用いられる(A)成分のエポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、分子構造、分子量などは特に制限されるものではなく、一般に半導体装置の封止用に使用されているものを広く使用することができる。このエポキシ樹脂の具体的な例としては、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン誘導体などの脂肪族系エポキシ樹脂、ビフェニル型、ナフチル型およびビスフェノール型などの芳香族系エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
本発明に用いられる(B)成分のフェノール樹脂硬化剤としては、1分子中にフェノール性水酸基を2個以上有するものであれば、分子構造、分子量などは特に制限されるものではなく、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として使用されているものを広く使用することができる。このフェノール樹脂硬化剤の具体的な例としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン誘導体などの脂肪族系フェノール樹脂、ビフェニル型、ナフチル型およびビスフェノール型などの芳香族系フェノール樹脂などが挙げられる。これらのフェノール樹脂硬化剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分のフェノール樹脂硬化剤とは、(A)成分のエポキシ樹脂が有するエポキシ基(a)と(B)成分のフェノール樹脂硬化剤が有するフェノール性水酸基(b)との比(a)/(b)(当量比)が0.1〜2.0の範囲となるように含有させることが好ましく、0.5〜1.5の範囲となるように含有させることがより好ましい。上記当量比が0.1未満または2.0を超えると成形性、硬化物の耐熱性、耐湿性などが低下するおそれがある。
【0016】
本発明に用いられる(C)成分の無機充填剤としては、シリカ粉末、アルミナ粉末などの金属酸化物粉末、窒化珪素粉末、窒化アルミニウム粉末などの金属窒化物粉末、炭化珪素粉末などの金属炭化物粉末、炭酸カルシウム粉末、シリコーンパウダ、ガラス繊維などが挙げられる。これらの無機充填剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
本発明においては、上述した無機充填剤のなかでも、シリカ粉末を用いることが好ましい。シリカ粉末としては、具体的には、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカおよび結晶シリカが挙げられるが、膨張係数のバランス、硬化物としたときの信頼性、レーザによる印字性などの点から、特に溶融球状シリカを用いることが好ましい。
【0018】
この(C)成分の無機充填剤は、平均粒径が1〜60μm、最大粒径200μm以下であることが好ましい。平均粒径が上記範囲をはずれる場合または最大粒径が上記範囲をはずれる場合、封止用樹脂組成物の成形性、その硬化物に対するレーザによるマーキング性が低下するおそれがある。この無機充填剤の平均粒径の測定には、例えば、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置を用いることができる。
【0019】
(C)成分の無機充填剤の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して70〜95重量%であるが、好ましくは72〜90重量%である。無機充填剤の含有量が70重量%未満であると、成形性、硬化物の機械的特性、耐熱性および耐湿性が低下するおそれがあり、また、レーザによるマーキングも不鮮明となるおそれがある。逆に含有量が95重量%を超えると、かさばりが大きくなって組成物の流動性が低下し、成形性が不良となるおそれがある。
【0020】
本発明に用いられる(D)成分のフラーレンは、カーボンブラックやグラファイトと同様に、炭素原子のみからなる炭素同素体であるが、導電率は、カーボンブラックやグラファイトと異なり、同じく炭素同素体として知られるダイアモンドに近く、絶縁体の領域である。例えば、C60フラーレンの導電率は10-8〜10-14(Ω・cm)-1である。これに対し、ダイアモンドの導電率は10-8〜10-14(Ω・cm)-1であり、カーボンブラック(燃焼法)は10×10-1(Ω・cm)-1である。本成分は、黒色の着色剤として配合されるものであり、C20以上の各種のもの、例えば、C20、C24、C50、C60、C70、C76、C84などが使用される。また、これらを水素化、酸化、アルキル化、アミノ化、ハロゲン化、環化付加または包接した誘導体や、カップリング剤などで表面処理したものなども使用可能である。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。本発明においては、なかでも、C60、C70が好ましい。
【0021】
この(D)成分のフラーレンは、マーキングにおける色調や成形性などを考慮すると、重量平均粒径が100μm以下であることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましい。重量平均粒径が100μmを超えると、着色剤としての着色力が低下し、それによりマーキングのコントラストが低下し、鮮明なマーキングを行うことが困難になるおそれがある。
【0022】
(D)成分のフラーレンの含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して0.01〜2.0重量%であるが、好ましくは0.06〜0.90重量%である。フラーレンの含有量が0.01重量%未満であると、組成物の光遮蔽能力が低くなって半導体装置の誤動作を招くおそれがある。また、レーザによるマーキングのコントラストも低下するおそれがある。逆に含有量が2.0重量%を超えると、レーザによるマーキングの際にレーザ光が照射された部分のフラーレンが完全に離脱せず、コントラストが低くなるおそれがある。
【0023】
本発明に用いられる(E)成分の炭素材料は、上記(D)成分のフラーレンとともに黒色の着色剤として配合される成分であると同時に、レーザによるマーキングにおけるコントラストを向上させる目的で配合されるものである。この炭素材料も、フラーレンと同様に、炭素原子のみからなる炭素同素体であるが、カーボンブラックやグラファイトと異なり、グラファイト構造がほとんど存在しないという特徴を有する。具体的には、有機溶媒に不溶であり、かつ、CuKα線を使用したX線回折測定分析における回折角が3〜30°の範囲内で最も強いピークが回折角10〜18°の範囲に存在し、グラファイト構造の面間に相当する回折角23〜27°にピークが存在しないかまたは極めて小さい。また、この炭素材料は、励起波長514.5nmで測定したラマンスペクトルにおいて、バンドG(1590±20cm-1)およびバンドD(1340±40cm-1)にピークを有し、それらの各バンドにおけるピーク強度をそれぞれI(G)およびI(D)としたとき、ピーク強度比I(D)/I(G)が0.4〜1.0の範囲にある。このことは、本炭素材料がグラファイト構造とは異なるものの、規則性の高い構造を有することを意味している。推定される構造としては、グラファイトに見られる平面構造ではなく、フラーレンに類似した、炭素5員環に由来する湾曲した単位構造を有する特異的な内部構造であると考えられ、このような内部構造による特異的な性質の一つは電気伝導性に見ることができ、導電率が10-2〜10-8(Ω・cm)-1と、カーボンブラックに比較して小さい値を示す。
【0024】
ここで、本炭素材料の「有機溶媒に不溶である」とは、炭素材料を室温にて90重量倍の1,2,4−トリメチルベンゼンに加え、撹拌、濾過した後、150℃で10時間真空乾燥させたときの重量減少率が5%以下であることをいう。
【0025】
この(E)成分の炭素材料は、一般に燃焼法と称される方法で製造することができる。すなわち、炭素含有化合物を所定の条件で燃焼させ、生じた煤を火炎の末尾、火炎の内部、バーナチャンバの内部表面などから収集した後、煤中に含まれる有機溶媒に可溶な成分を抽出除去し、さらに、濾過、乾燥することにより、得ることができる。
【0026】
この(E)成分の炭素材料は、重量平均粒径が100μm以下の粉末であることが好ましく、重量平均粒径が1〜50μmの粉末であることがより好ましい。重量平均粒径が100μmを超えると、着色剤としての着色力が低下し、その結果、マーキングのコントラストが低下し、鮮明なマーキングを行うことが困難になるおそれがある。また、この(E)成分の炭素材料は、窒素吸着法(BET法)による比表面積が10〜200m2/gであることが好ましく、12〜180m2/gであることがより好ましい。比表面積が10m2/g未満では、分散性が不良となり、着色剤としての着色力が低下するおそれがある。逆に比表面積が200m2/gを超えると、かさ密度が極端に小さくなり、樹脂組成物の流動性が低下するおそれがある。
【0027】
(E)成分の炭素材料の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して0.01〜2.0重量%であるが、好ましくは0.06〜0.90重量%である。含有量が0.01重量%未満であると、レーザによるマーキングのコントラストを向上させることが困難になる。逆に含有量が2.0重量%を超えると、組成物の流動性などが低下し、実用に適さなくなるおそれがある。
【0028】
上述したように、本発明の半導体封止用樹脂組成物においては、黒色の着色剤として、上記のような特定の内部構造を有する炭素材料を使用しており、それらの内部構造に起因する導電性、着色性、レーザマーキング性などの特徴に着目し、最適な組成物をすることにより、従来の問題を大幅に改善している。
【0029】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、以上説明した(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機充填剤、(D)フラーレンおよび(E)炭素材料を必須成分とするものであるが、本発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて、この種の組成物に一般に配合される、硬化促進剤;天然ワックス類、合成ワックス類、エステル類、直鎖脂肪族の金属塩、酸アミド類、パラフィン類などの離型剤;ゴム系やシリコーン系ポリマーのような低応力付与剤;無機充填剤の処理剤としてカップリング剤などをさらに配合することができる。また、コバルトブルーなどの着色剤も本発明の効果を阻害しない範囲で適宜配合することができる。
【0030】
硬化促進剤としては、例えばトリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ(p‐メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2‐ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィントリフェニルボランなどの有機リン系の硬化促進剤;1,8‐ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン‐7(DBU)、1,5‐ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン‐5などのジアザビシクロアルケン化合物系の硬化促進剤;2‐ヘプタデシルイミダゾール、2‐メチルイミダゾール、2‐エチルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾール、2‐フェニル‐4‐メチルイミダゾール、4‐メチルイミダゾール、4‐エチルイミダゾール、2‐フェニル‐4‐ヒドロキシメチルイミダゾール、2‐エニル‐4‐メチルイミダゾール、1‐シアノエチル‐2‐メチルイミダゾール、2‐フェニル‐4‐メチル‐5‐ヒドロキシメチルイミダゾール、2‐フェニル‐4、5‐ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール系硬化促進剤、2‐エチル‐4‐メチルイミダゾールテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン系硬化促進剤などが挙げられる。これらの硬化促進剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
また、カップリング剤としては、γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ‐(メタクリロプロピル)トリメトキシシラン、γ‐アミノプロピルトリメトキシシラン、N‐β‐(アミノエチル)‐γ‐アミノプロピルトリメトキシシラン、N‐β‐(アミノエチル)‐γ‐アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N‐β‐(アミノエチル)‐γ‐アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N‐フェニル‐γ‐アミノプロピルトリメトキシシラン、γ‐ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ‐メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ‐メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどのシランカップリング剤が挙げられるが、その他、チタンカップリング剤やアルミニウムアルコレート類なども使用可能である。これらのカップリング剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機充填剤、(D)フラーレンおよび(E)特定炭素材料と、前記した必要に応じて配合される各種成分とを、ミキサーなどによって均一に混合し、さらに熱ロールまたはニーダなどにより加熱溶融して混練した後、冷却固化し、次いで適当な大きさに粉砕するようにすることにより調製される。
【0033】
また、(D)フラーレンおよび(E)特定炭素材料を、予め(A)エポキシ樹脂および/または(B)フェノール樹脂硬化剤の少なくとも一部、好ましくは全部と混合し、加熱溶融して混練して得た予備混練物を、他の成分と混合するようにしてもよい。このような予備混練物を使用することにより、成形性および信頼性をより向上させることができる。予備混練物には、離型剤、他の着色剤、カップリング剤などを適宜添加することができる。
【0034】
本発明の半導体装置は、上記の封止用樹脂組成物を用いて半導体素子を封止することに容易に製造することができる。半導体素子は特に限定されるものではなく、例えば集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオードなどが挙げられる。また、半導体素子を封止する方法としては、低圧トランスファー成形法が最も一般的であるが、射出成形、圧縮成形、注型などの方法による封止も可能であり、必要に応じて真空下で成形することにより、隙間への充填性をさらに向上させることができる。封止の際に封止用樹脂組成物を加熱して硬化させるが、このときの温度は150℃以上とすることが望ましい。
【0035】
このような半導体装置については、炭酸ガスレーザ、YVO4レーザ、YAGレーザ、エキシマレーザなどを用いて封止樹脂部分にマーキングを行うことができる。各種レーザによるマーキングは従来と同様の方法を用いて行うことができ、特に制限されるものではない。本発明の半導体装置は上述したような封止用樹脂組成物によって封止されているため、従来と同様の方法を用いてマーキング行っても十分なコントラストを得られ、鮮明なマーキングを行うことができる。
【実施例1】
【0036】
次に、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1〜7、比較例1〜4
C60フラーレン(フロンティアカーボン(株)製 商品名 ナノムパープル;重量平均粒径20μm)、炭素粉末(フロンティアカーボン(株)製製 商品名 ナノムブラック;重量平均粒径20μm)、カーボンブラック(三菱化学(株)製 商品名 MA−600;平均粒径20nm)と、o‐クレゾールノボラック樹脂(住友化学工業(株)製 商品名 EOCN−195XL−70;エポキシ当量198)、フェノールノボラック樹脂(昭和高分子(株)製 商品名 BRG−557;水酸基当量105)、溶融球状シリカ粉末(電気化学工業(株)製 商品名 FB−60;平均粒径23μm)、カルナバワックス(東洋ペトロライト(株)製 商品名 カルナバワックス)、カップリング剤(日本ユニカー(株)製 商品名A−187)および硬化促進剤(北興化学工業(株)製 商品名 PP−200)を、表1に示す組成でミキサーを用いて常温で混合し、加圧型ニーダにより90〜95℃の温度で加熱混練した後、冷却固化させ、さらに、適当な粒度に粉砕して封止用樹脂組成物を製造した。
【0038】
なお、実施例7においては、フラーレン(ナノムパープル)と炭素粉末(ナノムブラック)を、予めo‐クレゾールノボラック樹脂(全量)と混練して予備混練物を製造しておき、これを他の成分と混合した。すなわち、フラーレン(ナノムパープル)、炭素粉末(ナノムブラック)およびo‐クレゾールノボラック樹脂(全量)をミキサーを用いて常温で混合し、加圧型ニーダにより90〜95℃の温度で加熱混練した後、冷却固化させ、さらに、適当な粒度に粉砕して、予備混練物を得た。次いで、この予備混練物と他の成分とをミキサーを用いて常温で混合し、加圧型ニーダにより90〜95℃の温度で加熱混練した後、冷却固化させ、さらに、適当な粒度に粉砕して封止用樹脂組成物を製造した。
【0039】
上記実施例1〜7および比較例1〜4で得られた封止用樹脂組成物を、175℃×2分間の条件でトランスファー成形し、さらに175℃で8時間ポストキュアを行い、厚さ1.0mmの試験用成形品を得た。また、半導体チップに対し同様な条件で樹脂封止を行い、QFP 256ピンパッケージ(28mm×28mm×1.4mm、ワイヤ間50μm)を作製した。
【0040】
上記各試験用成形品について、以下に示す方法で、外観およびレーザマーキング性を評価するとともに光透過率の測定を行った。また、樹脂封止した半導体パッケージについて、以下に示す方法で、絶縁信頼性を評価した。さらに、上記各封止用樹脂組成物について、スパイラルフローを測定し、成形性を評価した。これらの結果を表1下欄に示す。
【0041】
[外観]
試験用成形品の外観の色を目視にて観測した。そして、次の基準で外観の評価を行った。
○:良好
△:やや良好(実用上問題のないもの)
×:不良(実用上問題のあるもの)
[レーザマーキング性]
キーエンス(株)製のYAGレーザマーキング装置を用い、出力14A、周波数5.0kHz、マーキング速度400mm/s、文字の線幅0.2mmの条件でマーキングを行い、マーキング文字のコントラストを目視により観察し、次の基準で評価した。
○:マーキング文字が白色のもの
△:マーキング文字の色が成形品外観と白色の中間色のもの
×:マーキング文字の色が成形品外観と同色のもの
また、マーキング文字の線幅を測定し、設定値(0.2mm)に対する比率(%)を求めた。そして、次の基準でレーザマーキング性の評価を行った。
○:良好
△:やや良好(実用上問題のないもの)
×:不良(実用上問題のあるもの)
[光透過率]
日本分光(株)製の分光光度計V−570を用い、波長300〜800nm領域で、厚み1mmの光透過率を測定した。
[絶縁信頼性]
導通試験を行い、パッド間のリークの有無を調べ、次の基準で評価した。
○:リークなし
×:リークあり
[成形性]
EMMI−1−66に準じたスパイラルフロー金型を用い、封止用樹脂組成物を175℃に加熱したスパイラルフロー金型にトランスファー注入し硬化させて、流動した長さを測定した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1の結果から明らかなように、実施例の封止用樹脂組成物は成形性に優れ、また、これを用いた成形品においては、外観が良好で、レーザによるマーキング性にも優れることが認められた。さらに、実施例の封止用樹脂組成物を用いて封止した半導体パッケージも、リーク不良の発生がなく、絶縁信頼性に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機充填剤、(D)フラーレンおよび(E)有機溶媒に不溶であり、かつ、CuKα線を使用したX線回折測定分析における回折角が3〜30°の範囲内で最も強いピークが回折角10〜18°の範囲に存在する炭素材料を含有する半導体封止用樹脂組成物であって、
前記半導体封止用樹脂組成物全体に対して、前記(C)成分を70〜95重量%、前記(D)成分を0.01〜2.0重量%、前記(E)成分を0.01〜2.0重量%含有することを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(D)成分のフラーレンは、C60フラーレンおよび/またはC70フラーレンを含むことを特徴とする請求項1記載の半導体封止用樹脂組成物。
【請求項3】
(E)成分の炭素材料が、励起波長514.5nmでのラマンスペクトルにおいて、バンドG(1590±20cm−1)およびバンドD(1340±40cm−1)にピークを有し、前記各バンドにおけるピーク強度をそれぞれI(G)およびI(D)としたとき、ピーク強度比I(D)/I(G)が0.4〜1.0であることを特徴とする請求項1または2記載の半導体封止用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)成分の無機充填剤は、平均粒径が1〜60μm、最大粒径が200μm以下の粒子状無機充填剤であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の半導体封止用樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)成分の無機充填剤は、シリカ粉末を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の半導体封止用樹脂組成物。
【請求項6】
前記(D)成分のフラーレンおよび前記(E)成分の炭素材料と、前記(A)成分のエポキシ樹脂および/または前記(B)フェノール樹脂硬化剤の少なくとも一部との予備混練物を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の半導体封止用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の半導体封止用樹脂組成物の硬化物により封止された半導体素子を具備することを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2008−1843(P2008−1843A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174446(P2006−174446)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】