説明

半導体素子

【課題】窒化物膜の酸化の進行を抑制し信頼性が高く、優れた光学特性を有する誘電体多層膜を備える半導体素子を提供する。
【解決手段】本発明の半導体素子(100)は、発光又は受光素子構造を含む半導体の積層体(20)と、該積層体(20)の外面を被覆する誘電体多層膜(40)と、を備え、前記誘電体多層膜(40)は、窒化物の第1膜(41)と、該第1膜(41)に接して設けられた酸化ホウ素の第2膜(42)と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子に関し、より詳細には誘電体多層膜を備える発光素子又は受光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の外面に形成される誘電体多層膜として、例えば窒化アルミニウム膜と酸化アルミニウム膜が積層されたものが利用されている。だが、このような誘電体多層膜において、半導体素子の駆動に伴い、窒化物膜が酸化物膜との界面から酸化して、その光学特性が変化する問題がある。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には、基板上に設けられた窒化物系III−V族化合物半導体層と、化合物半導体層の側面上に設けられた窒化物からなる第1保護層と、第1保護層上に設けられ第1保護層と屈折率の異なる窒化物からなる第2保護層と、を備える半導体素子が提案されており、この第2保護層は、第1保護層よりも耐酸化性の高い材料からなることが記載されている。
【0004】
また、例えば特許文献2には、光出射端面である第1端面と、第1端面とは反対側の第2端面とを有し、第1端面と第2端面のうち少なくとも一方の端面に、窒化膜と、酸素及び窒素を含有しない半導体又は絶縁体からなる分離膜と、酸化膜と、が端面側から順に形成された半導体レーザ装置が提案されており、この分離膜により、酸化膜の形成過程における窒化膜の酸化を防止できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−027260号公報
【特許文献2】特開2010−140926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている半導体素子のように、第1保護層と第2保護層が窒化物同士である場合には、両保護層の屈折率差が小さく、所望の光学特性を持つ誘電体多層膜を設計できない場合がある。また、特許文献2に記載の半導体レーザ装置のように、分離膜をフッ化物により形成する場合には、フッ素と水分の反応によりフッ酸が生成され、電極や保護膜に悪影響を及ぼす虞がある。さらに、特許文献1に記載されているように第2保護層を窒化珪素により形成する場合や、特許文献2に記載されているように分離膜をシリコンにより形成する場合には、窒化珪素やシリコンは可視波長域においても光を吸収しやすいため、光の利用効率が低下したり、光密度の高い領域では発熱しやすく膜が変質しやすくなったりする虞がある。
【0007】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、窒化物膜の酸化の進行を抑制し信頼性が高く、優れた光学特性を有する誘電体多層膜を備える半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る半導体素子は、発光又は受光素子構造を含む半導体の積層体と、該積層体の外面を被覆する誘電体多層膜と、を備え、前記誘電体多層膜は、窒化物の第1膜と、該第1膜に接して設けられた酸化ホウ素の第2膜と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、窒化物の第1膜に接して酸化ホウ素の第2膜が設けられることにより、所望の光学特性が得られやすく、第1膜の酸化の進行を抑制して信頼性の高い誘電体多層膜とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態に係る半導体素子の概略上面図(a)と、そのA−A断面における概略断面図(b)と、そのB−B断面における概略断面図(c)である。
【図2】誘電体多層膜に含まれる窒化物膜の酸化の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る半導体素子の誘電体多層膜の別の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る半導体素子の概略上面図(a)と、そのC−C断面における概略断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態について適宜図面を参照して説明する。ただし、以下に説明する半導体素子は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、本発明を以下のものに限定しない。特に、以下に記載されている構成要素の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0012】
<実施の形態1>
図1(a)は、実施の形態1に係る半導体素子の概略上面図であり、図1(b)及び(c)はそれぞれ、図1(a)におけるA−A断面、B−B断面を拡大して示す概略断面図である。図1に示す例の半導体素子100は、スーパールミネッセントダイオード素子であって、主として、基板10と、基板10上に設けられる、発光素子構造を含む半導体の積層体20と、積層体20に電気的に接続される正負一対の電極30,35と、積層体20の外面を被覆する誘電体多層膜40,45と、により構成されている。
【0013】
以下、半導体素子100において、主として利用される光が出射される方向を「前方」とし、その逆方向を「後方」とする。また、半導体の積層体20の外面のうち、前方及び後方に面する2つの外面を「端面」とし、この端面に連続し側方に面する外面を「側面」として説明する。
【0014】
半導体素子100の構成をより詳細に説明すると、基板10は、第1導電型の導電性を有し、その下面に第1電極30が設けられている。半導体の積層体20は、基板10の上面に、第1導電型半導体層21、活性層22、第2導電型半導体層23が順に積層されてなり、第2導電型半導体層23には、素子の前方から後方に延在するストライプ状のリッジ24が設けられている。リッジ24の両側面及びリッジ24の両側の第2導電型半導体層の上面には絶縁性の埋込膜28が設けられ、リッジ24の上面と埋込膜28の一部を覆って第2電極35が設けられている。また、半導体の積層体20の2つの側面には、保護膜として絶縁膜29が設けられている。
【0015】
そして、半導体の積層体20の前方の端面には反射防止膜の誘電体多層膜40が、後方の端面には反射膜の誘電体多層膜45が、各々設けられている。この誘電体多層膜40,45はそれぞれ、窒化物の第1膜41と、この第1膜41に接して設けられた酸化ホウ素の第2膜42と、を有している。なお以下、前方及び後方の誘電体多層膜をそれぞれ、第1及び第2の誘電体多層膜と呼称することがある。また、窒化物の第1膜41の「窒化物」とは、「酸窒化物」を含む意味で用いる。
【0016】
ここで、図2は、誘電体多層膜に含まれる窒化物膜の酸化の一例を示す概略断面図である。図2に示すように、窒化物の第1膜41に接して、酸化ホウ素以外の酸化物の第3膜43が設けられている場合、素子の駆動に伴って、第1膜41が第3膜43との界面側から酸化し、第1膜41の内部側へと酸化領域41aが徐々に拡大していく。特に、第1膜41の酸化反応は光密度や発熱の高い部位で進行しやすい。本例では、第1膜41の活性層22を被覆する部位において酸化が最も進行しやすく、より詳細には発光点となる活性層22のリッジ24直下の領域を被覆する部位において酸化が最も進行しやすい。このように、第1膜41に酸化領域41aが形成されると、第1膜41の屈折率や光学膜厚が変化し、誘電体多層膜の反射又は反射防止性能が低下して、素子特性が悪化する。
【0017】
しかしながら、酸化ホウ素は、ガリウム砒素などの化合物半導体の結晶育成において砒素の蒸発を抑制するための封止剤として用いられるように安定でその膜は気密性を有し、酸素の遮断に適している。ゆえに、窒化物の第1膜41に接して酸化ホウ素の第2膜42が形成されることにより、第1膜41の第2膜42側からの酸化を抑制することができる。また、酸化ホウ素は、光学ガラスに用いられるホウケイ酸ガラスの主成分であり、可視光を吸収しにくく、光の散乱の原因となる結晶粒界が殆どないため、光を有効に利用できる。加えて、酸化ホウ素の屈折率は1.46程度であり、窒化物の屈折率(例えば窒化アルミニウムは2.05〜2.17程度、窒化珪素は2.06程度)と大きく相違しており、所望の光学特性を有する誘電体多層膜を設計しやすい。さらに、酸化ホウ素膜は、通常、非晶質で形成され、熱応力が発生しにくい。第2膜42の膜厚は、所望の光学特性の誘電体多層膜とするため適宜設計されるが、放熱性を考慮すれば50nm以下とすることが好ましい。
【0018】
特に、この半導体素子100では、第1の誘電体多層膜40は、半導体の積層体20の端面側から窒化物の第1膜41、酸化ホウ素の第2膜42、ホウ素を含まない酸化物の第3膜43がこの順に積層されて成っている。なお、窒化物の第1膜41は、窒素を共通の構成元素として含む窒化物半導体の積層体の外面を被覆する誘電体膜として好適であり、このため、半導体の積層体20は、特に窒化物半導体により構成されていることが好ましい。
【0019】
第1膜41は、半導体の積層体20の外面から離間して設けられてもよいが、このように積層体20の外面に接して設けられていることが好ましい。言い換えれば、半導体の積層体20の外面上に第1膜41、第2膜42がこの順に積層されていることが好ましい。これにより、第1膜41が半導体の積層体20と第2膜42に挟まれる構造となるため、第1膜41の酸化を両面から抑制することができる。また、半導体の積層体20の外面が窒化物の第1膜41に被覆されるため、積層体20の酸化を抑制することができる。このとき、第1膜41の膜厚は、0.25nm以上50nm以下とすることで、反射率を極小まで低下させ、光取り出し効率(受光素子においては光取り込み効率)を向上することができ、好ましい。
【0020】
また、酸化ホウ素の第2膜42は、吸湿性を有しているため、外気に晒されないように被覆され、誘電体多層膜40の内部に設けられていることが好ましい。これにより、第2膜42の水分による変質を抑制することができる。特に、その被膜は酸化物が好ましく、誘電体多層膜40は、最も外側に、ホウ素を含まない酸化物の第3膜43を有することが好ましい。
【0021】
さらに、反射防止膜として設けられる誘電体多層膜は、多くの場合、反射膜に比べて積層数が少ないため、窒化物膜の酸化によるその光学特性の変化が、素子特性に影響しやすい。したがって、本発明の誘電体多層膜は、反射防止膜において特に効果を奏する。特に、外部共振器型半導体レーザ装置では、素子外部に設けられる反射鏡からの反射光を、反射防止膜を介して素子端面に帰還させ光導波路に精度良く結合させる必要があり、本例のようなスーパールミネッセントダイオード素子の反射防止膜において、更に好適である。なお、反射防止膜は、半導体素子の発光又は受光波長に対する反射率が1%以下、好ましくは0.5%以下のものとする。
【0022】
図3は、実施の形態1に係る半導体素子の誘電体多層膜の別の一例を示す概略断面図である。半導体素子100において、第2の誘電体多層膜45は、図3に示すように、半導体の積層体20の端面側から、窒化物の第1膜41、酸化ホウ素の第2膜42、及び高屈折率膜46aと低屈折率膜46bが交互に積層された高反射膜46、がこの順に積層されて成っている。このように、第2膜42の第1膜41と反対側の面には、単層、多層を問わず任意の誘電体膜が設けられてよい。単層の誘電体膜とする場合の一例としては、ホウ素を含まない酸化物膜とするとよい。これにより、前述のように、第2膜42の水分による変質を抑制できる。加えて、半導体の積層体20の外面側から第1膜41、第2膜42、第3膜43がこの順に積層されてなる、簡素ながら信頼性の高い3層構造の誘電体多層膜を形成できる。また、第2膜42が半導体の積層体20の外面に接して設けられてもよい。これにより、半導体の積層体20の外面にホウ素を含まない酸化物膜が接して設けられる場合に比して、積層体20の酸化を抑制しやすくすることができる。さらに、高屈折率膜46aを第1膜41、低屈折率膜46bを第2膜42により形成することもできる。その場合には、前述のように第2膜42の水分による変質を抑制するため、高反射膜46が第2膜42で終端し、これを覆ってホウ素を含まない酸化物の第3膜43が最も外側に形成されることが好ましい。窒化物の第1膜41を酸化ホウ素の第2膜42により挟むことで、第1膜41の酸化を両面から抑制する構成としてもよい。このほか、第1及び第2の誘電体多層膜40,45の両方を反射防止膜としてもよい。
【0023】
<実施の形態2>
図4(a)は、実施の形態2に係る半導体素子の概略上面図であり、図4(b)は図4(a)におけるC−C断面を示す概略断面図である。図4に示す例の半導体素子200は、PINフォトダイオード素子であって、主として、基板15と、基板15上に設けられる、受光素子構造を含む半導体の積層体25と、積層体25に電気的に接続される正負一対の電極30,35と、積層体25の外面を被覆する誘電体多層膜40と、により構成されている。
【0024】
より詳細には、基板15は絶縁性基板であって、半導体の積層体25は、基板15の上面に、第1導電型半導体層21、受光層26、第2導電型半導体層23が順に積層されて成っている。半導体の積層体25の一部は、第2導電型半導体層23側から第1導電型半導体層21に達する深さで除去され、第1電極30及び第2電極35は、積層体25の同一面側に各々設けられている。そして、誘電体多層膜40は、反射防止膜であって、第1電極30及び第2電極35から露出される積層体25の上面、及び積層体25の側面を被覆するように設けられている。この誘電体多層膜40は、実施の形態1の第1の誘電体多層膜40と同様の構成を有しており、絶縁保護膜として機能すると共に、光を効率良く透過させ、受光効率を高めることができる。特に、レンズ等による集束光を受光させる場合には、受光面における光密度が高くなり第1膜41の酸化が進行しやすくなるが、第2膜42の存在により第1膜41の酸化を抑制できるので、受光面を小さくでき、小型で信頼性の高い受光素子が得られる。
【0025】
このように、本発明の誘電体多層膜は、半導体の積層体の外面であれば、端面に限られず、半導体の積層体の上面や下面に設けられてもよい。このほか、半導体の積層体の積層方向に共振する面発光レーザ素子の反射鏡を構成する誘電体多層膜としても好適に用いることができる。
【0026】
以下、本発明の半導体素子の各構成要素について詳述する。
(基板10,15)
基板は、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)等の窒化物半導体基板のほか、例えば、サファイア(Al)、スピネル(MgAl)、炭化珪素(SiC)、シリコン(Si)、セレン化亜鉛(ZnSe)、酸化亜鉛(ZnO)、ガリウム砒素(GaAs)、インジウム燐(InP)、ダイヤモンド等の基板を用いることができる。基板の厚さは、例えば50μm以上2mm以下程度が挙げられる。基板は、下記半導体の成長方法のほか、例えば超臨界流体中で結晶育成させる水熱合成法、高圧法、フラックス法、溶融法などで作製できる。なお、基板が半導体により形成される場合、半導体の積層体に基板を含めて考えてよいものとする。また、基板は、半導体の積層体が形成された後、除去されてもよい。
【0027】
(半導体の積層体20,25)
半導体は、例えばGaN、AlGaN、InGaNなど、一般式AlInGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)で表される窒化物半導体を用いることができる。これに加えて、III族元素として一部がホウ素(B)に置換されたものでもよいし、V族元素として窒素(N)の一部が燐(P)、砒素(As)に置換されたものでもよい。また、n型不純物としてはシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、硫黄(S)、酸素(O)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、カドミウム(Cd)等、p型不純物としてはマグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等の不純物を適宜ドープできる。これら不純物の濃度は、例えば5×1016/cm以上1×1021/cm以下程度が好ましい。このほか、ガリウム砒素系半導体、ガリウム燐系半導体、セレン化亜鉛系半導体でもよい。半導体の結晶成長方法は、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、HVPE(ハイドライド気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)等の方法を用いることができる。
【0028】
半導体素子構造は、少なくとも第1及び第2導電型半導体層からなり、好ましくはその間に活性層や受光層(i層)を有する構造とする。第1及び第2導電型半導体層は各々、単層、多層又は超格子構造のクラッド層、光ガイド層、キャップ層、コンタクト層、クラック防止層等の各機能を有する層で構成することができる。上述の実施の形態では、第1導電型半導体層をn型半導体層、第2導電型半導体層をp型半導体層とするが、その積層順序は変更可能であり、この逆であってもよい。活性層は、単一量子井戸構造(SQW)又は多重量子井戸構造(MQW)のいずれかの量子井戸構造で形成されることにより、発光効率を向上させることができる。特に、スーパールミネッセントダイオード素子や半導体レーザ素子の場合、活性層が光ガイド層により挟まれた分離光閉じ込め型構造(SCH:Separate Confinement Hetero-structure)とすることが好ましい。また、分布屈折率 (GRIN:Graded Index)構造を採用してもよい。なお、半導体素子の実装形態については、フェイスアップ実装及びフェイスダウン実装のいずれでもよく、基板の下面(裏面)に誘電体多層膜が設けられてもよい。
【0029】
スーパールミネッセントダイオード素子や半導体レーザ素子において、光導波路は、発光素子構造内で光を閉じ込めながら伝搬させる領域であり、例えば第2導電型半導体層にストライプ状のリッジが設けられることにより形成される。その幅は、0.5μm以上30μm以下であることが好ましく、単一横モードを得るためには1.0μm以上3.0μm以下であることがより好ましい。リッジの高さ(エッチングの深さ)は、例えば0.1μm以上2μm以下程度である。光導波路は、上述のような埋め込みリッジ構造等の屈折率導波型(インデックスガイド型)のほか、埋め込みヘテロ構造等の利得導波型(ゲインガイド型)の構造により形成されてもよく、その場合の幅や高さ(厚さ)の好ましい態様も上記と同様でよい。
【0030】
(埋込膜28、絶縁膜29)
スーパールミネッセントダイオード素子や半導体レーザ素子において、埋込膜は、リッジの側面を被覆する絶縁性の保護膜であり、半導体層より屈折率の小さい材料によって形成できる。具体的には、埋込膜は、ジルコニウム(Zr)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)等の酸化物、窒化物等の単層又は多層膜で形成できる。絶縁膜は、少なくとも半導体の積層体の側面を被覆し、各半導体層の短絡や損傷を抑制する絶縁性保護膜であり、埋込膜と同様の材料により形成することができる。なお、埋込膜や絶縁膜を多層膜とする場合には、窒化物膜と、これに接する酸化ホウ素膜と、を有する構成にしてもよい。埋込膜及び絶縁膜、並びに後述の電極、誘電体多層膜は、スパッタ法(電子サイクロトロン共鳴(ECR;Electron Cyclotron Resonance)スパッタ法)、化学気相成長法(CVD;Chemical Vapor Deposition)、蒸着法などにより形成でき、特にスパッタ法が好ましい。
【0031】
(電極30,35)
第1電極及び第2電極は、例えば、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、金(Au)、タングステン(W)、銅(Cu)、銀(Ag)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ランタン(La)、イットリウム(Y)から成る群より選ばれる少なくとも1つの金属又はこれらの合金、ITO、ZnO、SnO等の導電性酸化物、の単層膜又は多層膜より形成することができる。なお、このような導電性酸化物上に窒化物膜が設けられる場合においても、その間に酸化ホウ素膜を介することで窒化物膜の酸化を抑制できる。電極の膜厚は、使用する材料により適宜調整することができ、例えば5nm以上1μm以下、好ましくは10nm以上500nm以下であることが好ましい。なお、第1電極上にもメタライズ電極(パッド電極)を別途設けてもよい。
【0032】
(誘電体多層膜40,45)
誘電体多層膜は、熱安定性に優れ、半導体素子の発光又は受光波長域において光吸収が殆どない材料を用いることが好ましい。誘電体多層膜を構成する酸化物膜としては、例えば、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、イットリウム(Y)のいずれかの酸化物が挙げられる。より詳細には、Al、SiO、TiO、ZrO、Nb等である。窒化物膜としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、シリコン(Si)のいずれかの窒化物が挙げられる。より詳細には、AlN、GaN、AlGaN、SiN、SiAlN等である。そして、これらの材料から低屈折率材料と高屈折率材料を選択し、2層に積層又はこれらの膜を交互に積層すればよい。なお特に、半導体の積層体の外面に接して設けられる誘電体膜は、半導体との界面に非発光準位を形成して熱を発生させたり、pn接合をショートさせたりしないことが、高出力動作や長期信頼性確保のために要求される。このような条件を満たす材料として、窒化アルミニウムを挙げることができる。また、誘電体多層膜が高反射膜を含む場合、その低屈折率膜/高屈折率膜の組み合わせとして、例えばSiO/ZrO又はSiO/TiOが好ましい。
【実施例】
【0033】
<実施例1>
以下、本発明に係る実施例について詳述する。なお、本発明は以下に示す実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0034】
実施例1の半導体素子は、図1に示す例の構造を有する、発光中心波長405nmのスーパールミネッセントダイオード素子であり、C面(0001)を成長面とするn型GaN基板10上に、以下のような窒化物半導体の積層体20が形成されている。n型半導体層21は、SiドープAlGaNのn型クラッド層と、アンドープGaNのn側光ガイド層と、が順に積層されている。活性層22は、SiドープInGaNの障壁層及びアンドープInGaNの井戸層が2回交互に積層され、更にその上にアンドープInGaNの障壁層が積層された多重量子井戸構造を有する。p型半導体層23は、MgドープAlGaNのp型キャップ層、アンドープGaNのp側光ガイド層、アンドープAlGaNとMgドープGaNの超格子構造のp型クラッド層、MgドープGaNのp型コンタクト層、が順に積層されている。p型半導体層23には、前方端面から後方端面まで延在するストライプ状のリッジ24が形成され、リッジ24の両側面とその両側に連続して設けられるp側光ガイド層の上面は、ZrOの埋込膜28により被覆されている。p側オーミック電極36は、リッジ24の上面と埋込膜28の一部を覆って、Ni/Au/Ptが順に積層されて成っている。また、SiOの絶縁膜29が埋込膜28の端部から積層体20の側面を被覆するように形成されている。そして、更にp側オーミック電極36上には、Ni/Pd/Auが順に積層されてなるp側パッド電極37が形成されている。一方、n側電極30は、基板10の下面に、Ti/Au/Pt/Auが順に積層されて成っている。
【0035】
この半導体素子の前方端面と後方端面は、劈開により形成されており、前方端面には反射防止膜となる誘電体多層膜40が設けられ、後方端面には高反射膜46を含む誘電体多層膜45が設けられている。前方端面の誘電体多層膜40は、波長405nmの光に対する設計膜厚27.1nmのAlNの第1膜41と、同設計膜厚136.6nmのSiOの第3膜43と、の間に、同設計膜厚58.1nmのBの第2膜42が設けられた構成であり、波長405nmの光に対し0.1%未満の反射率とすることができる。なお、同設計膜厚27.3nmのAlNの第1膜41と、同設計膜厚59.5nmのBの第2膜42と、の2層により反射防止膜を構成することもできるが、Bの水分による変質を抑制するため、上記3層構造の反射防止膜とすることが好ましい。
【0036】
他方、後方端面の誘電体多層膜45は、同設計膜厚12nmのAlNの第1膜41と、同設計膜厚69.4nmのBの第2膜と、が設けられた後、更に高反射膜46として、同設計膜厚45.1nmのZrOの高屈折率膜46aと、同設計膜厚67.6nmのSiOの低屈折率膜46bと、が5ペア積層され、最後に同設計膜厚45.1nmのZrOの高屈折率膜46aが設けられて構成されている。このような誘電体多層膜45の反射率は、98%以上となる。なお、同設計膜厚47.6nmのAlNの高屈折率膜46aと、同設計膜厚69.4nmのBの低屈折率膜46bと、が5ペア積層され、最後に同設計膜厚45.1nmのZrOの第3膜43が設けられることで、反射率97%以上の誘電体多層膜45とすることもできる。
【0037】
<比較例1>
比較例1の半導体素子は、誘電体多層膜を除き、他の構成は実施例1の半導体素子と同様である。比較例1の半導体素子の前方端面の誘電体多層膜は、波長405nmの光に対する設計膜厚23nmのAlN膜と、同設計膜厚58.5nmのSiO膜と、の2層からなる反射防止膜である。また、後方端面の誘電体多層膜は、同設計膜厚45.1nmのZrO膜が設けられた後、同設計膜厚67.6nmのSiOの低屈折率膜と、同設計膜厚45.1nmのZrOの高屈折率膜と、が5ペア積層されて構成される反射膜である。
【0038】
比較例1の半導体素子では、素子の駆動に伴って、第1膜41の酸化の進行が顕著に見られ、前方端面の反射率が上昇し、定電流駆動の場合は光出力が上昇し発光スペクトルが狭くなり、定光出力駆動の場合は駆動電流が低下し発光スペクトルが狭くなる。これに対して、実施例1の半導体素子は、第2膜42の存在により、第1膜41の酸化の進行が抑えられ、比較例1の半導体素子に比べ安定して駆動させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の半導体素子は、半導体レーザ,スーパールミネッセントダイオード,発光ダイオード等の発光素子、及びフォトダイオード,フォトトランジスタ等の受光素子、さらにこれらの素子を備えた光ピックアップ装置、光源モジュール、画像センサ等に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
10,15…基板
20,25…半導体の積層体、21…第1導電型半導体層、22…活性層、23…第2導電型半導体層、24…リッジ、26…受光層、28…埋込膜、29…絶縁膜
30…第1電極、35…第2電極、36…オーミック電極、37…パッド電極
40…誘電体多層膜(第1)、41…第1膜、41a…酸化領域、42…第2膜、43…第3膜、45…誘電体多層膜(第2)、46…高反射膜(46a…高屈折率膜、46b…低屈折率膜)
100,200…半導体素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光又は受光素子構造を含む半導体の積層体と、該積層体の外面を被覆する誘電体多層膜と、を備え、
前記誘電体多層膜は、窒化物の第1膜と、該第1膜に接して設けられた酸化ホウ素の第2膜と、を有する半導体素子。
【請求項2】
前記第1膜は、前記積層体の外面に接して設けられている請求項1に記載の半導体素子。
【請求項3】
前記誘電体多層膜は、最も外側に、ホウ素を含まない酸化物の第3膜を有する請求項1又は2に記載の半導体素子。
【請求項4】
前記誘電体多層膜は、反射防止膜である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−142339(P2012−142339A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292203(P2010−292203)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】