説明

半導体装置およびその製造方法

【課題】 Cu配線を有し信頼性の高い半導体装置を提供する。
【解決手段】 半導体基板(20)と、前記半導体基板上に形成された第1の絶縁膜(21,22)と、前記第1の絶縁膜に埋め込まれたCu配線(25)と、前記Cu配線上に形成された第2の絶縁膜(27)を具備する半導体装置である。前記Cu配線と前記第2の絶縁膜との界面には、Ti、Al、W、Pd、Sn、Ni、Mg、およびZnからなる群から選択される少なくとも1種の金属またはその酸化物(28)が不連続に存在することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造方法に係り、特にCu配線を用いた半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Cu配線の実用化に当たって、Cuの拡散や酸化を防止して信頼性を確保するために配線表面に選択的にバリア層を成膜する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。窒化Ti膜あるいは酸化Al膜をバリア層として形成することによって、配線間容量を低減するとともに配線抵抗の上昇も防止することができるものの、その形成プロセスが煩雑である。
【0003】
これにおいては、Cu配線上にバリア層を形成するには、絶縁膜の溝加工に用いたエッチングマスクを残存しなければならない。エッチングマスクを残存した状態で絶縁膜の溝内にCu配線を形成し、エッチングマスクおよびCu配線上にTi膜等のバリア部材を形成する。このバリア部材を窒素雰囲気あるいは酸素雰囲気中で熱処理することによって、エッチングマスクとバリア部材を共晶反応させるとともに、Cu配線上のバリア部材を窒化あるいは酸化する。最後に、エッチングマスクと共晶反応したバリア部材を選択的に除去することにより、Cu配線上に選択的にバリア層が形成される。
【0004】
このように工程が煩雑であり、より簡便なプロセスが求められている。また、Cu配線の表面は、バリア部材との反応によって消費されることから、抵抗上昇の防止には限界があった。
【特許文献1】特開2000−260769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、Cu配線を備えた信頼性の高い半導体装置を提供することを目的とする。また本発明は、Cu配線を備え高い信頼性を有する半導体装置を、簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様にかかる半導体装置は、半導体基板と、
前記半導体基板上に形成された第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜に埋め込まれたCu配線と、
前記Cu配線上に形成された第2の絶縁膜を具備し、
前記Cu配線と前記第2の絶縁膜との界面には、Ti、Al、W、Pd、Sn、Ni、Mg、およびZnからなる群から選択される少なくとも1種の金属またはその酸化物が不連続に存在することを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様にかかる半導体装置の製造方法は、半導体基板上に設けられた第1の絶縁膜に凹部を形成する工程と、
前記第1の絶縁膜の前記凹部内に、バリアメタルを介してCu配線を埋め込む工程と、
前記Cu配線が形成された前記半導体基板を、Ti、Al、W、Pd、Sn、Ni、Mg、およびZnからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有する金属せっけん水溶液で処理し、乾燥させて前記Cu配線上に前記金属の酸化物および有機化合物を含む連続膜を形成する工程と、
前記Cu配線上に、前記連続膜中から前記有機化合物を除去して前記連続膜を不連続膜に変化させつつ第2の絶縁膜を形成する工程と
を具備することを特徴とする。
【0008】
本発明の他の態様にかかる半導体装置の製造方法は、半導体基板上に設けられた第1の絶縁膜に凹部を形成する工程と、
前記第1の絶縁膜の前記凹部内に、バリアメタルを介してCu配線を埋め込む工程と、
前記Cu配線が形成された前記半導体基板を、Ti、Al、W、Pd、Sn、Ni、Mg、およびZnからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有する金属せっけん水溶液で処理し、乾燥させて前記Cu配線上に前記金属の酸化物および有機化合物を含む連続膜を形成する工程と、
前記連続膜中から前記有機化合物を除去して前記連続膜を不連続膜に変化させる工程と、
前記不連続膜が形成された前記Cu配線上に、第2の絶縁膜を形成する工程とを具備してなり、
前記連続膜中からの前記有機化合物の除去および前記第2の絶縁膜の形成は、還元雰囲気または真空を維持した状態で行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、Cu配線を備えた信頼性の高い半導体装置が提供される。本発明の他の態様によれば、Cu配線を備え高い信頼性を有する半導体装置を、簡便に製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0011】
本発明の実施形態にかかる半導体装置においては、Ti、Al、W、Pd、Sn、Ni、Mg、およびZnからなる群から選択される少なくとも1種の金属またはその酸化物が、Cu配線の表面に不連続に存在する。具体的には、Cu配線表面をESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)で調べた際、金属は最大でもCuと金属との総量に対して10at%程度の量で存在する。
【0012】
Cu配線上の金属は、金属せっけんを用いた処理により形成することができる。金属せっけんとは、一般に有機酸の非アルカリ金属塩であり、有機酸としては、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、ぺラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、およびステアリン酸などの脂肪酸が好ましい。その他、乳酸や有機キレート等が挙げられる。具体的には、Tiを含有する金属せっけんとしては、酪酸Ti、カプロン酸Ti、乳酸Ti、ぺラルゴン酸Ti、カプリン酸Ti、ウンデカン酸Ti、ラウリン酸Ti、ミリスチン酸Ti、パルミチン酸Ti、ステアリン酸Ti、乳酸Ti、Tiエタノールアミン等が挙げられる。Al、W、Pd、Sn、Ni、Mg、あるいはZnを含有する金属せっけんも同様である。
【0013】
こうした金属せっけんにおいては、有機酸や有機キレートの部分が疎水部として作用して、疎水性の表面に吸着する。Cu膜表面は疎水性であるので、有機酸や有機キレート部分が吸着することによって、LB(ラングミュア・ブロジェット)膜状の膜が形成されることになる。LB膜状の膜を基板に形成するには、例えば、水に溶解しない金属せっけんを液表層に集め、これを基板に吸着させるといった方法が挙げられる。あるいは、基板を気液界面で出し入れして、液中に存在している金属せっけんと、表層に集まっている金属せっけんとを基板に吸着させて、LB膜状の膜を形成することもできる。
【0014】
より多くの金属をCu表面に吸着させて緻密な膜を形成するためには、金属せっけん中の金属含有率は高いことが望まれる。したがって、金属せっけんとしては、脂肪酸が低分子であって金属比率の高いものが好ましい。緻密な膜(金属比率の高い膜)を形成するためには、前述した方法のうち後者のものが好ましく用いられる。
【0015】
金属せっけんは、水等の溶媒に溶解し、0.005〜0.5wt%程度の濃度の水溶液として用いられる。0.005wt%未満の場合には、金属せっけんの効果を充分に得ることができず、一方、0.5wt%を越えると、水溶液中で必要以上のミセルが形成されて、疎水性の表面に緻密に吸着することが困難となる。好ましくは、金属せっけん水溶液の濃度は、0.01〜0.1wt%程度である。
【0016】
本発明の実施形態にかかる半導体装置の製造方法においては、まず、常法により半導体基板上に絶縁膜を形成し、凹部としての配線溝を設ける。絶縁膜の材質は特に限定されず、例えば、SiN、SiCN、SiOおよびSiOC等が用いられる。配線溝が形成された絶縁膜上には、バリアメタル膜を介してCu層を堆積し、CMPを行なって配線溝内にCu配線を埋め込む。
【0017】
金属せっけん水溶液をCu配線表面に接触させ、2000rpm程度のスピン乾燥等により乾燥することによって、金属せっけん由来の物質をCu配線上に残置することができる。例えば、Cu配線が形成された基板を金属せっけん水溶液に浸漬する。Cu配線の表面は、予め有機酸水溶液で洗浄しておくことが好ましい。有機酸としては、例えば、クエン酸およびシュウ酸が挙げられ、その濃度は、0.005〜1wt%程度とすることができる。こうした有機酸で洗浄することによって、吸着性が向上する。有機酸は、金属せっけん水溶液中に含有させてもよく、この場合も同様の効果が得られる。
【0018】
なお、絶縁膜の表面を親水性とすることによって、Cu配線表面に選択的に金属せっけんを吸着させることができる。絶縁膜のなかでも、SiO2は親水性であるが、SiOCなどの有機系膜は疎水性を示す。この場合には、酸素プラズマ処理を施すことによりCを除去してSiO2化する。あるいは、界面活性剤を用いた処理を施すことによって、有機系膜を親水化することができる。界面活性剤としては、Siと相性のよいシリコーン系ノニオン界面活性剤が特に好適である。
【0019】
Cu配線上に残置された金属せっけん由来の金属成分は、酸化Tiや酸化Alのような酸化物で存在することは、ESCAにより確認することができ、金属せっけん中の有機成分が、有機化合物としてCu配線上に存在することもまた、同様の分析法により確認され得る。なお、Cu配線の表面状態は、AES(Auger Electron Spectroscopy)により確認することも可能である。金属酸化物と有機化合物との連続膜は、酸化防止膜ということができ、これによって、Cu配線の耐酸化性は著しく高められる。
【0020】
金属酸化物と有機化合物とを含む連続膜は、次の工程までの間、Cuの酸化を防止する酸化防止膜として作用することができる。こうした連続膜が設けられたCu配線の上に、常法により絶縁膜を形成して、本発明の実施形態にかかる半導体装置が得られる。例えばCVD法により絶縁膜を形成する際には、250〜400℃程度の熱処理が、真空中、アンモニアなどのプラズマ雰囲気中、あるいは水素含有雰囲気中で施される。この熱処理によって、連続膜中の有機化合物が分解除去され、Cu配線上の連続膜は金属酸化物を含む不連続膜に変化する。得られた不連続膜は、Cu配線と、この上に形成された絶縁膜との密着性を高める作用を有する。密着性向上の効果は、絶縁膜がSiN、SiOCまたはSiCNといった材質からなる場合に、特に発揮される。また、不連続ではあるものの、Cu配線と絶縁膜との間に金属酸化物が配置されることによって、Cu原子が絶縁膜中に拡散するのを抑制するといった効果も期待できる。
【0021】
有機化合物は、絶縁膜を形成する前に連続膜中から除去することもできる。200〜400℃、例えば250℃の熱処理を施すことによって、有機化合物は連続膜中から除去され、金属の酸化物と有機化合物とを含む連続膜は金属の酸化物を含む不連続膜に変化する。絶縁膜は、こうして形成された不連続膜を有するCu配線上に形成される。このように絶縁膜の形成に先立って有機化合物を除去する場合には、Cu配線表面が再度酸化するのを避けるために、有機化合物の除去および絶縁膜の形成は、還元雰囲気または真空を維持した状態で行なわれる。
【0022】
必要に応じて、不連続膜中に含まれる金属酸化物を還元して酸素を除去し、金属状態としてもよい。金属酸化物の還元には、例えば、真空雰囲気中での電子線照射といった手法を採用することができ、その結果、金属が不連続に配置された状態の密着性膜が得られる。金属が不連続に配置されてなる密着性膜は、Cuの結晶粒界を強化することができ、絶縁膜との密着力をよりいっそう高めることができる。その結果、配線信頼性をさらに向上できる点で、金属酸化物の場合よりも優れていると考えられる。
【0023】
上述したように、金属の不連続膜は、金属の酸化物と有機化合物とを含む連続膜中から酸素と有機化合物とを除去することによって、Cu配線と絶縁膜との間に配置される。酸素および有機化合物を除去する順番は特に限定されず、例えば、酸素を除去する際に有機化合物を同時に除去することもできる。Cu配線上に絶縁膜を形成する前に、金属の酸化物と有機化合物とを含む連続膜に対して、上述したような電子線照射を行なった場合には、酸素と有機化合物とが除去される。こうして、金属の酸化物と有機化合物とを含む連続膜は、金属を含む不連続膜に変化し、引き続いてCu配線上に絶縁膜を形成することによって、Cu配線と絶縁膜との界面には金属の不連続膜が配置される。絶縁膜を形成する前に有機化合物が除去されるので、Cu配線表面の酸化を避けるために、この場合も、電子線照射および絶縁膜の形成は、還元雰囲気または真空を維持した状態で行なわれる。なお、絶縁膜を形成する際に熱処理を施すことによって、有機化合物を確実に除去することができる。
【0024】
また、電子線照射機能を具備したCVD装置により絶縁膜が堆積される場合には、有機化合物および酸素は、その成膜チャンバー内での絶縁膜の形成時に連続膜中から除去され得る。還元または真空雰囲気の成膜チャンバー内においては、例えば、ホットプレート上に半導体基板を載置して、200〜400℃程度、例えば250℃に加熱する。基板の加熱は、酸化Cuの還元能力を高めるため、および成膜の前処理のために行なわれ、この加熱によって連続膜中から有機化合物が除去される。さらに、上述したような電子線照射を行なうことにより金属酸化物が還元されて酸素が除去され、金属の酸化物を含む不連続膜は、金属を含む不連続膜に変化する。引き続いてCu配線上に絶縁膜を堆積させることによって、Cu配線と絶縁膜との間には、金属が不連続に配置された密着性膜が得られる。
【0025】
Cu配線の全面に金属膜や金属酸化膜を設けた場合と比較して、金属または金属酸化物が不連続に配置された密着性膜は、Cuと反応する金属が少ない。したがって、Cu配線抵抗の上昇を抑制できる点で有利である。特に、金属は、Cuと金属との総量に対して10at%以下でCu配線上に存在するとき、Cu配線の抵抗上昇を顕著に抑えることができる。さらに、還元によって形成される金属が不連続に配置された密着性膜は、基本的には金属せっけん中の成分である金属から構成されるが、Cuが過剰に消費されなければ合金であってもよい。この場合、Cu配線表面には、少なくとも90at%程度の量で純Cuが存在していることが好ましい。純Cuは、ESCAなどにより合金化Cuと区別することができる。
【0026】
次に、金属せっけん処理によりCu配線上に連続膜を形成して、その酸化防止効果を調べた実験例について説明する。図1および図2は、本実験例における金属せっけん処理の工程を示す断面図である。
【0027】
図1に示すように、半導体素子(図示せず)が形成された半導体基板10上に絶縁膜11を形成し、溝12を設ける。ここでは、絶縁膜11は、SiO2を堆積することにより形成した。絶縁膜11の全面に常法によりバリアメタル膜13としてのTa膜およびCu膜14を堆積し、余分な金属をCMPにより除去して溝12内にCu配線14を埋め込む。
【0028】
露出したCu配線の耐酸化性を評価するために種々の処理を施して、サンプルを準備した。
(サンプル1)
まず、基板表面を0.5wt%のクエン酸水溶液で1分間洗浄した。金属せっけん水溶液としては0.1wt%の乳酸Ti水溶液を用意し、ここに洗浄後の基板を3秒間浸漬した後、純水に3秒間浸漬した。こうした交互の浸漬を速やかに10回繰り返した後、2000rpm程度で回転させることによりスピン乾燥した。
【0029】
(サンプル2)
クエン酸水溶液で洗浄後の基板を、金属せっけん水溶液に30秒間浸漬した後、純水で洗浄した以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0030】
(サンプル3)
金属せっけん水溶液として、5wt%の乳酸Ti水溶液を用いた以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0031】
(サンプル4)
金属せっけん水溶液として、0.1wt%のステアリン酸Ti水溶液を用いた以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0032】
(サンプル5)
金属せっけん水溶液として、0.1wt%の乳酸Al水溶液を用いた以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0033】
(サンプル6)
金属せっけん水溶液として、0.1wt%の乳酸W水溶液を用いた以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0034】
(サンプル7)
金属せっけん水溶液として、0.1wt%の乳酸Pd水溶液を用いた以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0035】
(サンプル8)
金属せっけん水溶液として、0.1wt%の乳酸Sn水溶液を用いた以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0036】
(サンプル9)
金属せっけん水溶液として、0.1wt%の乳酸Ni水溶液を用いた以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0037】
(サンプル10)
金属せっけん水溶液として、0.1wt%の乳酸Mg水溶液を用いた以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0038】
(サンプル11)
金属せっけん水溶液として、0.1wt%の乳酸Zn水溶液を用いた以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0039】
(サンプル12)
金属せっけん水溶液として、0.05wt%の乳酸Ti及び0.05wt%の乳酸Alの混合水溶液を用いた以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0040】
(サンプル13)
クエン酸水溶液での洗浄を行なわず、金属せっけん水溶液に0.5wt%のクエン酸を加えた以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0041】
(サンプル14)
クエン酸水溶液での洗浄を行なわず、金属せっけん水溶液に0.5wt%のシュウ酸を加えた以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0042】
(サンプル15)
クエン酸水溶液での洗浄を行なわない以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0043】
比較のため、何等処理を施さずにサンプル16を準備し、また、金属せっけん水溶液を0.1wt%のBTA(ベンゾトリアゾール)水溶液に変更した以外は、サンプル1と同様の処理によりサンプル17を得た。さらに、金属せっけん水溶液を0.1wt%のBTA(ベンゾトリアゾール)水溶液に変更した以外は、サンプル2と同様の処理によりサンプル18を得た。
【0044】
サンプル1乃至15におけるCu配線の表面を、ESCAにより観察したところ、金属せっけんに含有される金属が酸化物として存在し、さらに有機化合物が吸着していることが確認された。すなわち、図2に示されるように、Cu配線14上の金属酸化物および有機化合物は、酸化防止膜16として作用する。ESCAにより分析した金属量は、Cuとの総量に対してサンプル1,5〜14では5〜9at%程度であり、特にサンプル13および14では、7〜9at%程度であった。また、サンプル2、3、4、15では金属量はCuとの総量に対して3at%程度であった。一方、比較例のサンプル16乃至18では、いずれもCu配線14上に金属酸化物の存在は認められなかった。
【0045】
得られたサンプルを、それぞれ大気中、200℃で10分間ベーキングした後、Cuシート抵抗を四端子法により測定した。ベーキング前のCuシート抵抗からの増加率を求めて以下のように評価した。Cuシート抵抗の増加率は、30%未満であれば許容される。
【0046】
その結果、サンプル1乃至15は、いずれもCuシート抵抗値の増加は30%未満であり、耐酸化性が良好であることが確認された。特に、サンプル1,5および12は、Cuシート抵抗の増加率は20%未満と極めて良好であった。この結果から、金属としてはTiおよびAlが好ましく、その濃度は0.1wt%が好ましいことがわかる。なお、サンプル16乃至18では、Cuシート抵抗の増加率は30%以上であった。これは、Cu配線上に酸化防止膜が存在しないために、酸化が進行したことを意味している。
【0047】
サンプル1とサンプル2との比較から、総浸漬時間が同一の場合には、金属せっけん水溶液と純水とに交互に浸漬するのが好ましいことがわかる。金属せっけん水溶液と純水とに交互に浸漬することによって、Cu配線表面に金属せっけんが良好に吸着して、LB膜状にその表面が覆われるものと推測される。また、サンプル1において疎水部として作用する乳酸は、サンプル4におけるステアリン酸より低分子である。このため、単分子で良好にCu配線表面に吸着して良好な結果が得られたことが、サンプル1とサンプル4との比較からわかる。
【0048】
以上の結果が示すとおり、図2に示すような酸化防止膜16をCu配線14上に形成することによって、Cu配線14の酸化を効果的に防止することができる。こうした手法は、パッド開口時に露出したCu表面の耐酸化性が要求されるCuのボンディング工程や、Cuヒューズ溶断後の酸化防止などに適用することも可能である。
【0049】
その一例を、図3の断面図に示す。図3に示した半導体装置は、リダンダンシ回路のCuヒューズ電極を切断した後に、上述の手法を適用したものであり、以下のような手法により製造される。半導体基板10には、素子分離絶縁膜30で囲まれた領域内にソース・ドレイン領域37を設け、基板10上には、ゲート絶縁膜38を介してゲート電極39を配置する。これらによって、半導体素子31が構成される。この素子31を覆って1層目の層間絶縁膜11を形成し、この1層目の層間絶縁膜11には、バリアメタル膜13を介してCu配線14を埋め込み形成する。
【0050】
Cu配線14上に第1のトップバリア32を形成する前には、すでに説明したような手法により金属せっけん処理を施して、Cu配線14の表面に、金属酸化物と有機化合物とを含む連続膜からなる酸化防止膜(図示せず)を設ける。例えばシリコン窒化物からなる第1のトップバリア32を堆積する際に、この酸化防止膜から有機化合物が分解除去して、金属酸化物が不連続に配置された状態となり、密着性膜(図示せず)として作用する。
【0051】
第1のトップバリア32上にはn層目(n≧2)の層間絶縁膜11を形成し、このn層目の層間絶縁膜11には、バリアメタル膜13を介してCuヒューズ電極33を埋め込み形成する。Cu配線14の場合と同様、Cuヒューズ電極33上に第2のトップバリア34を形成する前にも同様の金属せっけん処理を施して、酸化防止膜(図示せず)を形成する。ここで形成された酸化防止膜も前述の場合と同様に、第2のトップバリア34を堆積する際、有機化合物が分解除去されて金属酸化物の不連続膜(図示せず)となる。
【0052】
第2のトップバリア34上には、SiO2からなる第1のパッシベーション層35およびSiNからなる第2のパッシベーション層36を順次堆積する。これらのパッシベーション層35,36には、RIE加工によりリダンダンシ窓を設け、レーザーを照射してヒューズの切断を行なう。レーザーの熱により、パッシベーション層35,36、第2のトップバリア34、Cuヒューズ電極33、バリアメタル13膜が溶融して飛散し、ヒューズが切断される。
【0053】
こうしてCuヒューズを切断することによって、ピュアCuが側面に露出する。この領域に、上述したような手法で金属せっけん処理を施して酸化防止膜16を形成することによって、Cuヒューズ電極33の酸化を防止することができる。
【0054】
以下、金属せっけん処理により連続膜が形成されたCu配線上に絶縁膜を形成することで、Cu配線上の連続膜を不連続化した本発明の実施形態の半導体装置について、具体的に説明する。
【0055】
(実施形態1)
図4乃至図6は、実施形態1にかかる半導体装置の製造方法を示す工程断面図である。
【0056】
まず、図4に示すように、半導体素子(図示せず)が形成された半導体基板20上に、1層目の低誘電率絶縁膜21および2層目の低誘電率絶縁膜22を順次形成して、積層絶縁膜を形成する。1層目の低誘電率絶縁膜21は、比誘電率が2.5未満の低誘電率絶縁材料により構成することができ、例えば、ポリシロキサン、ハイドロジェンシロセスキオキサン、ポリメチルシロキサン、メチルシロセスキオキサンなどのシロキサン骨格を有する膜、ポリアリーレンエーテル、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾシクロブテンなどの有機樹脂を主成分とする膜、および多孔質シリカ膜などのポーラス膜からなる群から選択される少なくとも一種を用いて形成することができる。ここでは、JSR社製LKDを用いて1層目の絶縁膜21を形成した。
【0057】
この上に形成される2層目の絶縁膜22はキャップ絶縁膜として作用し、1層目の絶縁膜21より大きな比誘電率を有する絶縁材料により形成することができる。例えば、TEOS(テトラエトキシシラン)、SiC、SiCH、SiCN、SiOC、およびSiOCHからなる群から選択される少なくとも一種の比誘電率2.5以上の絶縁材料を用いて形成することができる。ここでは、SiOCを用いて2層目の絶縁膜22を形成した。
【0058】
積層絶縁膜に溝23を設け、全面に常法によりバリアメタル膜およびCu膜を堆積した。余分な金属をCMPにより除去して、溝23内にCu配線25を埋め込む。ここでは、バリアメタル膜24としては、Ti膜を用いた。
次いで、金属せっけん水溶液による処理を施して、図5に示すように、Cu配線25の表面に選択的に密着性膜26を形成し、サンプルを準備した。すでに説明したように、SiOCは疎水性であるので、親水化処理を施してから、金属せっけん水溶液に浸漬して実施例のサンプルを作製した。
【0059】
(実施例1)
まず、シリコーン系界面活性剤:0.05wt%の水溶液に30秒浸漬して、絶縁膜表面を親水化した。その後、前述のサンプル1と同様の処理を行なった。
【0060】
(実施例2)
まず、シリコーン系界面活性剤:0.05wt%の水溶液に30秒浸漬して、絶縁膜表面を親水化した。その後、金属せっけん水溶液として、0.1wt%のAlトリエタノールアミン水溶液を用いた以外は、サンプル1と同様に処理した。
【0061】
さらに、金属せっけん処理を行なわずに比較例1を得た。
実施例1,2および比較例1のサンプルの上には、それぞれSiOCを堆積して、図6に示すように絶縁膜27を形成した。SiOCを堆積する際には、250〜400℃程度、例えば350℃程度の熱処理が、通常、真空中、アンモニアなどのプラズマ雰囲気中、あるいは水素含有雰囲気中で行なわれる。この際、有機化合物が分解除去され、その結果、金属酸化物が不連続に配置された状態の不連続膜28が得られる。
【0062】
その後、常法によりCMPを行なって、絶縁膜27に機械的なストレスを加えた後、剥がれ試験を行なった。100μm2のCuパターン10万個を調査して、剥がれが生じない場合に“OK”とした。1ヶ所でも剥がれが生じた場合は、“NG”である。
【0063】
実施例1および2は、いずれもOKであったのに対し、比較例1はNGであった。このことから、金属せっけんを用いて不連続膜を界面に配置することによって、Cu配線と絶縁膜との密着性が著しく向上することが確認された。
【0064】
SiOC堆積後、SiOCとCuとの界面がでるように斜め方向にスライスし、その界面をESCAにより分析したところ、金属の量は、Cuとの総量に対して5〜10at%程度であった。また、ESCA分析の結果、有機化合物の存在は認められず、有機化合物は分解除去されたことが確認された。
【0065】
以上の例では、密着性を評価するために、絶縁膜27のCMPを行なったが、実際には、図6に示した配線を約10層積層して、半導体装置が完成する。このためには、少なくとも10回以上のCMPストレスを受けることから、約10層分の膜ストレスおよび熱ストレスを受けることになる。したがって、Cu配線と絶縁膜との密着力が十分に高いことが要求される。
【0066】
(実施形態2)
前述の実施形態1と同様の手法により図4に示す構造を得た。Cu配線25の表面には、実施例1,2と同様の処理を施した後、それぞれ図6に示すようにSiOCを堆積して絶縁膜27を形成した。実施形態1の場合と同様、絶縁膜27を形成する際に有機化合物が分解除去されて、Cu配線25と絶縁膜27との間には不連続膜28が形成される。
【0067】
絶縁膜27が形成された基板を350℃に保持したホットプレート上に載置し、10Torrの減圧条件下で電子線を照射した。電子線の条件は、加速電圧25keV、照射線量が500μC/cm2とした。電子線は、30°、60°および90°の3種類の照射角度θで照射して、それぞれ3種類のサンプルを得た。
【0068】
電子線照射によって、Cu配線25と絶縁膜27との間に形成された不連続膜28に含まれる金属酸化物は還元されて金属状態となる。すなわち、絶縁膜27を介して電子線照射を行なうことによって、金属せっけん処理により形成された酸化物を還元することができる。
【0069】
絶縁膜27を研磨して、Cu配線25と絶縁膜27との界面を露出し、この部分をESCA、AESにより観察した。その結果、不連続膜28は金属の状態であり、Cu配線表面に点在していることが確認された。具体的には、いずれのサンプルもCu配線表面の金属の量は、Cuと金属との総量に対して5〜7at%であった。
【0070】
なお、実施形態1の場合と同様の手法により密着性を評価したところ、剥がれは全く生じなかった。この結果から、優れた密着性を有することが確認された。
【0071】
金属化後に熱処理を施して、合金化を促進することもできる。この場合には、結晶粒界が強化されたり、Cuと金属せっけんの金属とSiとの反応などが生じる可能性もあり、絶縁膜との密着力が増すために、信頼性がさらに向上する。すでに説明したように、Cu配線と絶縁膜との間に不連続膜を設けることによって、Cu原子が絶縁膜中に拡散するのを抑制するといった効果も期待できる。同時に金属原子の結晶粒界の強化も期待でき、配線の信頼性をよりいっそう高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】金属せっけん処理の工程を表わす断面図。
【図2】図1に続く工程を表わす断面図。
【図3】金属せっけん処理を適用した半導体装置の一例を表わす断面図。
【図4】実施形態1にかかる半導体装置の製造方法を表わす工程断面図。
【図5】図4に続く工程を表わす断面図。
【図6】図5に続く工程を表わす断面図。
【符号の説明】
【0073】
10…半導体基板; 11…絶縁膜; 12…溝; 13…バリアメタル膜
14…Cu配線; 16…酸化防止膜; 20…半導体基板; 21…1層目の絶縁膜
22…2層目の絶縁膜; 23…溝; 24…バリアメタル膜; 25…Cu配線
26…密着性膜; 27…絶縁膜; 28…不連続膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に形成された第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜に埋め込まれたCu配線と、
前記Cu配線上に形成された第2の絶縁膜を具備し、
前記Cu配線と前記第2の絶縁膜との界面には、Ti、Al、W、Pd、Sn、Ni、Mg、およびZnからなる群から選択される少なくとも1種の金属またはその酸化物が不連続に存在することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記Cu配線と前記第2の絶縁膜との界面に存在する前記金属の量は、前記Cu配線表面でのCuと金属との総量に対して10at%以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
半導体基板上に設けられた第1の絶縁膜に凹部を形成する工程と、
前記第1の絶縁膜の前記凹部内に、バリアメタルを介してCu配線を埋め込む工程と、
前記Cu配線が形成された前記半導体基板を、Ti、Al、W、Pd、Sn、Ni、Mg、およびZnからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有する金属せっけん水溶液で処理し、乾燥させて前記Cu配線上に前記金属の酸化物および有機化合物を含む連続膜を形成する工程と、
前記Cu配線上に、前記連続膜中から前記有機化合物を除去して前記連続膜を不連続膜に変化させつつ第2の絶縁膜を形成する工程と
を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
半導体基板上に設けられた第1の絶縁膜に凹部を形成する工程と、
前記第1の絶縁膜の前記凹部内に、バリアメタルを介してCu配線を埋め込む工程と、
前記Cu配線が形成された前記半導体基板を、Ti、Al、W、Pd、Sn、Ni、Mg、およびZnからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有する金属せっけん水溶液で処理し、乾燥させて前記Cu配線上に前記金属の酸化物および有機化合物を含む連続膜を形成する工程と、
前記連続膜中から前記有機化合物を除去して前記連続膜を不連続膜に変化させる工程と、
前記不連続膜が形成された前記Cu配線上に、第2の絶縁膜を形成する工程とを具備してなり、
前記連続膜中からの前記有機化合物の除去および前記第2の絶縁膜の形成は、還元雰囲気または真空を維持した状態で行なうことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第2の絶縁膜の形成時またはその前後に、前記金属の酸化物を還元することを特徴とする請求項3または4に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−179599(P2006−179599A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369726(P2004−369726)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】